JP2012085544A - 草本系バイオマスの糖化方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】草本系バイオマスを利用し、エタノール生産コストを低減し、且つエタノール生産性を向上する。
【解決手段】草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理し、当該アルカリ処理した後の固形分を酵素により糖化する。草本系バイオマスをペレット化することで、草本系バイオマスに含まれるセルロース成分の結晶化度を減じさせる。
【選択図】図1

Description

本発明は、草本系バイオマス中のセルロース又はヘミセルロースを原料として、安価かつ効率よく糖を製造するための糖化方法、並びに該セルロース又はヘミセルロースに由来する糖からエタノールを製造する方法に関する。
化石資源に依存しないカーボンニュートラルな液体燃料としてバイオエタノールが注目されており、現在まで様々なバイオマスを対象とした製造技術が実証されつつある。バイオマスの中でも、セルロース系バイオマスは、食料と競合しないエネルギー資源として注目されている。特に、コメを主食とする我が国では、稲わらの賦存量が多く、稲わらからのバイオエタノール製造が国産バイオエタノールの量産に重要な原料と考えられている。
バイオエタノールの原料として稲わらを利用する際、稲わらを農地から刈り取り、エタノール製造プラントまで搬送する必要がある。効率的な稲わらの収集方法と運搬方法が、バイオエタノールの製造コストとCO2排出量の削減に重要である。一般に、圃場から刈り取った稲わらはロール化され、ロール状の稲わらをエタノール製造プラントへ搬送する。しかし、ロール化しても見掛け比重を十分高めることができないため、エタノール製造プラントまでの運搬回数の十分な削減は期待できない。
一方、稲わらを始めとするセルロース系バイオマスからエタノールを製造する際には、バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースを単糖やオリゴ糖まで加水分解(糖化)する必要がある。この糖化方法としては、硫酸法及び酵素法がある。酵素法では、バイオマスのセルロースやヘミセルロースに対して酵素が効果的に作用する必要がある。これを促進させるために、バイオマスを粉砕または裁断した後、アルカリ処理や熱水処理等の前処理を行う。これらの前処理を経た後、酵素により糖化し、その後、エタノール発酵に供される。
一般に、これらの各工程は、各々独立した設備を直列で組んだシステムで実施される。そのため、各工程に要する設備機器を繋ぐ配管、ポンプ、固液分離機等の付帯設備が必要であり、製造プラントの建設費及び維持費、運転エネルギーが過大となる。また、工程間の移送段階や固液分離段階で原料ロスが生じるため、その分、エタノール製造量が低下する。さらには、移送段階で配管やポンプへのバイオマスの詰まり等のよるハンドリング上の問題もあった。
一方、セルロース系バイオマスを糖化する前に破砕処理等の手段で微細化する技術として特許文献1〜3が知られている。
特許文献1には、樹皮原料から糖類を製造する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法は、樹皮原料を温水で湿潤処理する温水処理工程、温水処理後の樹皮を機械的に破砕処理する機械的破砕処理工程、その後、樹皮をアルカリ化合物水溶液に浸漬処理するアルカリ処理工程、その後、樹皮を酵素で糖化処理する酵素糖化工程を含んでいる。
また、特許文献2には、樹皮原料から糖類を製造する方法であって、樹皮原料をアルカリ化合物水溶液に浸漬するアルカリ処理工程、アルカリ処理された樹皮を機械的に微細化する微細化処理工程、及び微細化処理樹皮を酵素で糖化する酵素糖化工程を有する糖類を製造する方法が開示されている。なお、特許文献2に開示された方法では、前記微細化処理としてレファイナー、グラインダーから選択される装置による磨砕処理が例示されている。
さらに、特許文献3には、稲わらの糖化方法が開示されている。特許文献3に開示された方法では、稲茎葉部を重量比で全体の7割以上の断片が10cm以下の長さになるように裁断した後、稲茎葉部から桿とそれ以外の茎葉部とを分離した後に桿が濃縮された画部をセルロース分解酵素、澱粉分解酵素、β―(1→3)、(1→4)グルカン分解酵素及びヘミセルロース分解酵素からなる群より選ばれた少なくとも一種類の酵素を含む条件において酵素糖化している。
特開2010−115171号公報 特開2010−131004号公報 特開2010−35431号公報
上述した特許文献1〜3のように、セルロース系バイオマスを糖化する前に破砕処理等の手段で微細化する技術は知られているものの、実際のエタノール製造プラントに応用してエタノールの生産コストを低減し、且つエタノール生産性を向上させるには不十分であった。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、セルロース系バイオマスの中でも草本系バイオマスを利用するエタノール製造方法に適用することができ、エタノール生産コストを低減し、且つエタノール生産性を向上できる糖化方法、及び当該糖化方法を適用したエタノール製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、草本系バイオマスをペレット化することで、エタノール生産コストを低減できるとともにエタノール生産性を向上できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理し、当該アルカリ処理した後の固形分を酵素により糖化する(糖化処理)、草本系バイオマスの糖化方法。
(2)草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理し、当該アルカリ処理した後の固形分を酵素により糖化するとともに糖化により得られた糖成分を酵母によりエタノールとする(エタノール発酵処理)、草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法。
上記(1)の草本系バイオマスの糖化方法及び上記(2)の草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法において、草本系バイオマスとしては稲わらを使用することが好ましい。また、上記(1)の草本系バイオマスの糖化方法及び上記(2)の草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法において、アルカリ処理とは、ペレット化した草本系バイオマスをアルカリ溶液に浸漬させる工程を含む処理である。アルカリ溶液としては、例えば、乾燥した草本系バイオマス重量当たり5〜30w/w%の苛性ソーダを使用することができる。
さらに、上記(1)の草本系バイオマスの糖化方法及び上記(2)の草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法において、アルカリ処理後に中和し、その後、固液分離することなく糖化処理やエタノール発酵処理に供することが好ましい。
なお、上記(1)の草本系バイオマスの糖化方法及び上記(2)の草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法において、糖化処理とは、セルラーゼ等の酵素又は当該酵素を産生する微生物により草本系バイオマスに含まれる多糖成分(セルロースやヘミセルロース)を単糖に変換する処理を意味する。また、上記(2)の草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法において、エタノール発酵処理とは、グルコース等の糖成分を基質としてエタノールを合成する能力のある微生物又はグルコース等の糖成分を基質としたエタノール合成経路に関与する酵素群により糖化処理によって得られた糖成分からエタノールを合成する処理を意味する。
本発明により、安価かつ効率的な草本系バイオマスの糖化方法及びエタノールの製造方法が提供される。本糖化方法によれば、草本系バイオマスの輸送コストなどを大幅に低減できるだけでなく、草本系バイオマスに含まれるヘミセルロース、セルロースの糖化収率を大幅に向上させることができる。
本発明に係る糖化方法を適用したエタノールの製造の基本フローを示す特性図である。 図1に示す基本フローにおける処理手順と温度との関係を示す特性図である。 稲わらペレットと裁断した稲わらをアルカリ水溶液へ浸漬した場合の分散性を試験した結果を示す写真であり、左から順に「アルカリ溶液添加前の状態」、「アルカリ溶液添加直後の状態」、「アルカリ溶液添加1分後の状態」及び「その後、軽度に撹拌した状態」の写真である。 裁断稲わらを使用した同時糖化発酵処理とペレット化稲わらを使用した同時糖化発酵処理におけるエタノール収率を算出した結果を示す特性図である。 ペレット化した稲わらに対するアルカリ処理及びその後の同時糖化発酵処理を単一の反応槽にて実施する系における手順と処理温度との関係を示す特性図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る草本系バイオマスの糖化方法(以下、「本糖化方法」ともいう)では、草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理する。草本系バイオマスをペレット化することで、草本系バイオマスに含まれるセルロースの結晶性が摩擦等の作用により低下すると考えられ、糖化効率及びその後のエタノール生産性が向上することとなる。また、草本系バイオマスをペレット化することにより、草本系バイオマスをロール状に加工した場合と比較して見掛け比重を高めることができ、輸送コスト等のコストを低減することができる。
本糖化方法を利用することにより、草本系バイオマスより得られる糖を原料としてエタノール発酵によりエタノールを製造する方法を提供できる。なお、本発明に係るエタノールの製造方法は、酵素糖化処理とエタノール発酵処理とを同時に行う形態でも良いし、酵素糖化処理の後、エタノール発酵処理を行う形態であっても良い。特に、エタノールの製造方法としては、ペレット化した草本系バイオマスのアルカリ処理の後、糖化処理とエタノール発酵処理とを同一の系(反応槽)で行う、所謂、同時糖化発酵処理を行う形態を採用することが好ましい。
本発明に係る糖化方法を適用したエタノールの製造の基本フローを図1に示し、当該フローにおける処理手順と温度との関係を図2に示す。
1.糖化方法
本糖化方法は、具体的には以下の工程:
(a)草本系バイオマスをペレット化する工程(ペレット化工程)、
(b)ペレット化された草本系バイオマスをアルカリ水溶液を用いて処理する工程(アルカリ処理工程)、
(c)該固形分にセルラーゼ等を加えて酵素処理を行う工程(酵素処理工程)
を含む。本発明において「糖化」とは、草本系バイオマスに含まれるヘミセルロース及びセルロースから単糖又は二糖に分解することを意味する。上記(a)のペレット化により草本系バイオマスに含まれるセルロース成分の結晶化度が低下する。
(a)ペレット化工程
本発明において原料となる草本系バイオマスは、所謂、セルロース系バイオマスの中で原料として草本類を主成分とするものを意味する。草本系バイオマスとしては、特に限定されるものではなく、例えば、草本自体、草本の一部、草本の処理物、又は草本由来の生成物等を挙げることができる。より具体的に、草本系バイオマスとしては、稲わら、麦わら、バガス、竹、コーンストーバー、スイッチグラス、芝、籾殻、各種雑草、大豆皮等を挙げることができる。草本系バイオマスは、1種類の草本類からなるものであってもよいし、複数種の草本類からなるものであってもよい。
本工程において、草本系バイオマスは、ペレット化される。ペレット化とは、原料に対して所望の圧力を付加することで所定の形状に成形することを意味する。草本系バイオマスをペレット化する際には、いわゆるペレタイザー〈ペレット成形機〉を使用することができる。本方法において、草本系バイオマスのペレット形状は特に限定されないが、例えば径寸法を5〜30mm、長手寸法を10〜50mmとした柱状とすることができる。
特に、草本系バイオマスをペレット化する際には、見掛け比重を0.3〜0.8g/m3程度にすることが好ましい。見掛け比重をこの範囲とすることによって、草本系バイオマスの運搬コストを大幅に低減できるとともに、エタノール生産性を大幅に向上することができる。なお、草本系バイオマスは一般的にロール状にして保管・運搬されるが、見掛け比重をこの範囲としたペレットは、ロール状の草本系バイオマスと比較して見掛け比重が2〜5倍高まることとなる。
また、草本系バイオマスをペレット化することによって、草本系バイオマスに含まれるセルロースの結晶化度を減させることができる。このため、ペレット化した草本系バイオマスは、単に破砕や微粉砕された草本系バイオマスと比較して、糖化効率やエタノール発酵効率が向上することとなる。ここで、結晶化度は、例えばX線回折装置により測定することができる。
(b)アルカリ処理工程(図1及び2の手順(1)、(2))
次に、ペレット化された草本系バイオマスに対してアルカリ処理を行う。具体的には、ペレット化した草本系バイオマスをアルカリ水溶液と混合する。アルカリ水溶液としては、任意のアルカリに基づく水溶液を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、消石灰及び生石灰(水酸化カルシウム水溶液)などを用いることができる。また、使用するアルカリ水溶液は、pH9.5〜13.5、好ましくはpH10〜13、より好ましくはpH11〜12.5とすることができる。
また、アルカリ溶液量に対する草本系バイオマスのペレット量(仕込量)は、特に限定されないが、例えば、草本系バイオマスのペレットの乾燥重量ベースで5〜20%、望ましくは10〜15%である。
アルカリ溶液に浸漬されたペレットは、ペレットをアルカリ溶液に投入した後、約1分程度で膨潤し、その後、軽度の撹拌により均一に分散する。これに対して、ペレット化していない草本系バイオマス、例えば、ロール状の草本系バイオマスでは、アルカリ溶液に浸漬したとしても、十分に撹拌しなければ膨潤しない。したがって、草本系バイオマスをペレット化することによって、アルカリ溶液に対する草本系バイオマスの仕込量を大幅に増加することができ、また、撹拌に要するエネルギーを低減できる。このようにペレット化した草本系バイオマスを使用することで、省エネルギー及び低コスト化を達成することができる。
また、アルカリ処理の温度条件としては、例えば常温以上160℃以下、望ましくは常温以上121℃以下、一例として80℃とすることができる。保持時間は、温度により設定することができるが、ペレット中にアルカリ溶液が十分浸透すれば良く、概ね15分から24時間の範囲であり、例えば80℃のアルカリ溶液であれば6時間程度とする。
なお、アルカリ処理工程では、上述したアルカリ溶液を草本系バイオマスに浸透させた後、酸化剤として過酸化水素を注入しても良い。なお、酸化剤として、過酸化水素を例示したが、これに限定されず、活性酸素を生成する酸化剤であれば、当技術分野で公知の任意の酸化剤を用いることができる。酸化剤として具体的には、過酸化水素の他に、例えば過硫酸塩、過炭酸塩、過酢酸塩、オゾン、過酸化ナトリウムなどを使用することができる。
また、草本系バイオマスのペレットにアルカリ溶液を浸透させた後、硫酸等の酸を添加することで中和する。アルカリ溶液に酸を添加した後のpHは、後述する酵素処理に適したpHとすることが好ましい。なお、酸による中和の前に固液分離処理によって、固体成分を回収し、その後、固体成分を酸性溶液に浸漬して、草本系バイオマスに含浸したアルカリを中和しても良い。
(c)酵素処理工程(図1及び2の手順(3))
本工程では、アルカリ処理後に中和した草本系バイオマスにセルラーゼ酵素処理を行うことにより、草本系バイオマス中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解する。使用するセルラーゼは、セルロースを効率的に六炭糖まで糖化できるものであれば特に限定されない。例えば、セルラーゼは、植物及び動物由来のいずれでもよく、化学修飾されたものであっても、遺伝子組換えにより生成されたものであってもよい。なお、セルラーゼを反応させる温度、時間及び量は、セルラーゼの種類によって異なるが、当業者であれば、使用するセルラーゼの種類に応じて適宜選択することができる。
あるいは、アルカリ処理後に中和した草本系バイオマスを原料としてセルラーゼ生成菌を発酵させることにより、草本系バイオマス中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解し、二次糖液を得ることも可能である。そのようなセルラーゼ生成菌は、当技術分野で公知であり、例えばAspergillus niger、A. foetidus、Alternaria alternata、Chaetomium thermophile、C. globosus、Fusarium solani、Irpex lacteus、Neurospora crassa、Cellulomonas fimi、C. uda、Erwinia chrysanthemi、Pseudomonas fluorescence、Streptmyces flavogriseusなどが挙げられ、例えば「セルロース資源−高度利用のための技術開発とその基礎」、越島哲夫編、(株)学会出版センター、1991年に記載されている。
なお、上述のようにアルカリ処理後の草本系バイオマスをセルラーゼ酵素処理する以外に、アルカリ処理後の草本系バイオマスを原料としてセルラーゼ生成菌とエタノール発酵菌の同時発酵を行い、エタノールを生成することも可能である。
本発明では、草本系バイオマスをペレット化しているため、草本系バイオマスに含まれるヘミセルロース、セルロースから高い収率で単糖を得ることができる。生成した単糖は、エタノール生成可能な微生物の発酵原料として利用する。
2.エタノールの製造(図1及び2の手順(4))
上述の糖化工程において得られる糖を原料として用いてエタノール発酵を行い、エタノールを製造することができる。上述の糖化工程にて得られた糖成分はセルロース由来の糖及びヘミセルロース由来の糖の両者を含んでいても良い。ヘミセルロース由来の糖としては、キシロース、アラビノースなどの五炭糖と、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの六炭糖を挙げることができる。セルロース由来の糖はグルコースの六炭糖である。特に、六炭糖は酵母などによって容易にエタノールに変換することができ、五炭糖は、当技術分野で公知のエタノール生成方法に従ってエタノールに変換することができる。
六炭糖のエタノール発酵は、当技術分野で公知のエタノール製造方法に従って、酵母、又は遺伝子組換えによりエタノール生成に必要な遺伝子を有する細菌を用いて行うことができる。五炭糖のエタノール発酵は、例えば五炭糖及び六炭糖の両方を資化するが、エタノールを生成しない大腸菌に、エタノールを生成する微生物由来の遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌や、エタノール発酵性のザイモモナス属(Zymomonas)細菌に五炭糖の代謝遺伝子を導入した遺伝子組換え細菌などを用いて行うことができる(例えば、特表平5−502366号公報及び特表平6−504436号公報)。あるいは、五炭糖及び六炭糖をエタノール発酵させてエタノール及び二酸化炭素を回収する方法を利用してもよい(特開2006−111593号公報)。
エタノール発酵の条件は、当業者であれば、原料となる糖の種類、使用するエタノール発酵菌の種類などに応じて、適宜設定することができる。エタノール発酵は、一次糖液及び二次糖液の各々に対して別々に行ってもよいし、あるいは両者を混合して行ってもよい。
以上のように、本発明によれば、圃場から収集した稲わら等の草本系バイオマスをペレット化することにより、ロール状にした草本系バイオマスと比較して見掛け比重を3〜4倍高めることができる。この結果、エタノール製造プラントまでの運搬回数を低減することが可能となり、運搬時に発生するCO2排出量を削減することができる。また、ペレット化した稲わら等の草本系バイオマスは、摩擦により結晶性が低下していると予測され、裁断された草本系バイオマスと比較してエタノール収率を高めることができる。
また、本発明を適用した場合、ペレット化した稲わら等の草本系バイオマスは、アルカリ溶液と混合した段階で速やかに分散するため、草本系バイオマスを裁断又は粉砕工程を必要としない。これにより、本発明に係るエタノールの製造方法は、裁断又は粉砕工程時の原料ロスを回避でき、また処理プロセスを簡略化できるため、エタノール製造コストの大幅な低減が可能となる。
さらに、ペレット化した草本系バイオマスは分散性に優れるため、アルカリ処理及び同時糖化発酵における固形分率を高めることができる。したがって、本発明に係るエタノールの製造方法では、最終的に発酵液中のエタノール濃度を高濃度化することができる。
さらにまた、アルカリ処理及び同時糖化発酵処理を単一の反応槽で行う場合には、さらに原料ロスを回避でき、より効率良くエタノールを製造することができる。さらに、この場合には、すべての反応を一槽のみで行うため、配管、ポンプ、固液分離等の付帯設備数が少なくなる。その結果、製造プラントの簡略化、低コスト化を実現することができ、且つ、各種設備における詰まり等のハンドリング上の問題を低減することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、北海道で実際にロール化された稲わらを用いた。このロールの大きさは直径1.2m、高さ1.2mの円筒形であり、湿重量は200kgであった(含水率15%)。別途、同様の稲わらを北川鉄工所製ペレタイザ(PKS-75)にて直径7mm、長さ2cmのペレットに加工した。ペレットを1Lガラスメスシリンダーに入れ見かけ比重を求めるとともに、105℃×2時間の加熱処理により含水率を求めた。その結果を表1に示す。
Figure 2012085544
表1から判るように、ロール状稲わらに対してペレット状稲わらの見かけ比重は3.76倍となり、ロール状と比較して圧密が可能であることがわかった。また、ロール状稲わらの含水率15%に対してペレット状では10%まで低下していた。これは、ペレット化の段階で発生する摩擦熱により稲わらの含水率が低下したものと考えられる。この結果、ペレット化による圧密とともに含水率の低減も期待できるため、稲わらの運搬効率を大幅に高めることができることが判った。
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で作製した稲わらペレットと、2cm以下に裁断した稲わらを用いてのアルカリ水溶液(1% NaOH)への分散性を試験した。なお、アルカリ水溶液量に対する稲わらの仕込み量は各々乾燥重量ベースで10%に統一した。結果を図3に示す。なお、図3は、左から順に「アルカリ溶液添加前の状態」、「アルカリ溶液添加直後の状態」、「アルカリ溶液添加1分後の状態」及び「その後、軽度に撹拌した状態」の写真を示している。各写真において、左側のボトルが裁断した稲わらを使用した場合、右側のボトルが稲わらペレットを使用した場合である。
図3から判るように、裁断稲わらの場合にはアルカリ水溶液を混合しても水没することはなかった。一方、ペレット化した稲わらの場合にはアルカリ水溶液と混合後1分程度で膨潤し始め、軽く攪拌するだけでほぼ一様に分散した。この分散性の向上は、今回の条件以上に稲わらの仕込み率を上げることに繋がる。
〔実施例3〕
本実施例では、実施例2と同様に、裁断した稲わらとペレット化した稲わらを用いて、エタノール収率を比較検討した。なお、本実施例では、アルカリ処理を行う場合と、アルカリ処理を行わない場合のそれぞれについてエタノール収率を算出した。アルカリ処理及びエタノール発酵処理の条件を表2に示す。なお、本実施例では、エタノール発酵処理として所謂、同時糖化発酵処理を採用した。また、酵素としてはジェネンコア社製セルラーゼ(アクセレラーゼDuet)を使用し、酵母はエタノール発酵酵母として一般に使用されているSaccharomyces cerevisiaeを用いた。
Figure 2012085544
上記条件にて同時糖化発酵処理が終了した後、裁断稲わらを使用した場合とペレット化稲わらを使用した場合におけるエタノール収率を算出した。その結果を図4に示す。なお、図4には、アルカリ処理を行わずに同時糖化発酵処理を行った場合のエタノール収率も併せて示した。なお、エタノール収率は原料に含まれるグルカンが全てエタノールに転換された場合を100%としている。
図4から判るように、アルカリ処理の有無に拘わらず、裁断稲わらよりもペレット化した稲わらの方が高いエタノール収率が得られた。これは、ぺレット化の段階で稲わら中のセルロースの結晶化度が摩擦により低下したものと考えられる。このように稲わらのペレット化は、エタノール製造収率の向上にも効果があることが明らかとなった。
〔実施例4〕
本実施例では、ペレット化した稲わらに対するアルカリ処理及びその後の同時糖化発酵処理を単一の反応槽にて実施する系を構築し、その場合のエタノール生産量を評価した。具体的には、1Lのジャーファメンターにアルカリ水溶液とペレット化した稲わらを添加し、6時間反応させた。その後、栄養源と加えるとともに、硫酸によってpHを4.4に調製した。次に、ジェネンコア社製セルラーゼ(アクセレラーゼDuet)を添加して2時間糖化反応を行った。糖化反応後は、前培養した酵母液(Saccaromyces cerevisiae)を加えて同時糖化発酵を実施した。本実験の手順と処理温度との関係を図5に示す。本実験では図5に示すとおり、一連の処理を35℃で行う常温系と、アルカリ処理を80℃、糖化反応を45℃、発酵を35℃で行う高温系の二つの実験系を設定した。また、温度以外の諸条件は共通であり、表3に示すとおりである。
Figure 2012085544
なお、同時糖化発酵の工程では適宜サンプリングを行い、溶液中の糖濃度及びエタノール濃度をHPLCにて測定した。糖化開始から16時間後及び24時間後のエタノール濃度を測定し、その値から乾燥わら1t当たりのエタノール収率を算出した結果を表4に示す。
Figure 2012085544
表4から判るように、ペレット化した稲わらでは、アルカリ処理から同時糖化発酵までを一つの反応槽で行うことができることがわかった。高温系の方が常温系よりも若干エタノール収量が高いものの、いずれの条件とも糖化発酵24時間後には乾燥稲わら重量1トン当たり200Lを超過する生産量となった。

Claims (3)

  1. 草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理し、当該アルカリ処理した後の固形分を酵素により糖化する、草本系バイオマスの糖化方法。
  2. 草本系バイオマスをペレット化し、得られたペレットをアルカリ処理し、当該アルカリ処理した後の固形分を酵素により糖化するとともに糖化により得られた糖成分を酵母によりエタノールとする、草本系バイオマスを用いたエタノールの製造方法。
  3. 上記草本系バイオマスをペレット化することで、草本系バイオマスに含まれるセルロース成分の結晶化度を減じさせることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
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