JP2014158437A - リグノセルロース系バイオマスの糖化液、及びその製造方法と使用方法 - Google Patents

リグノセルロース系バイオマスの糖化液、及びその製造方法と使用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】発酵特性の優れた糖化液を提供する。
【解決手段】リグノセルロース系バイオマスを前処理することにより生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物が、糖化液中の全糖成分に対して、0.5〜30質量%含まれることを特徴とする糖化液。該糖化液は高い生成物濃度や高い対糖収率等の優れた発酵特性を有し、微生物による各種化学品の発酵生産に好適に利用することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、リグノセルロース系バイオマスの糖化液に関するものであり、より詳細には、リグノセルロース系バイオマスを酵素で糖化して得られる糖化液、及びその製造方法と使用方法に関するものである。
リグノセルロース系バイオマスを糖化し、発酵原料となる糖類を得る技術は、食料と競合しない非可食性のバイオマスの資源・エネルギー利用という観点から、極めて重要な技術である。リグノセルロース系バイオマスを糖化する方法は、硫酸等の酸を用いて加水分解する酸糖化法と、酵素を用いて加水分解する酵素糖化法に大別される。酸糖化法は反応速度が高いという利点があるが、過分解物の生成や耐酸性の反応器が必要であること、あるいは使用後の酸を中和・回収する工程が必要となる等の課題を有する。一方、酵素糖化法は、比較的マイルドな反応条件で分解反応が進行するので、酸糖化法と比較してユーティリティー、設備コストが低い、あるいは反応選択性が高いという利点を有する。
酵素糖化において高い糖収率を達成するには、バイオマスを酵素糖化され易くする(酵素糖化性を高める)ための前処理工程が必須であり、前処理工程の効率化、低コスト化が求められている。酵素糖化の前処理方法として一般的なものは、酸前処理法、アルカリ前処理法、水熱前処理法である。
酸前処理法は、希硫酸等の酸でバイオマスを前処理し、酵素糖化性を高めるもので、酸によりヘミセルロースが分解されるという特徴があるが、過分解反応により発酵阻害物質(アルデヒド類等)が生成するという点が課題となっている。また水熱前処理法は、酸やアルカリを用いず、高温高圧の水存在下で前処理を行うものであるが、この方法でも発酵阻害物質の生成が課題となっている。
アルカリ前処理法は、水酸化ナトリウム等のアルカリでバイオマスを前処理するもので、リグニンをアルカリ分解することでバイオマスの構造を壊し、酵素糖化性を高めるものである(特許文献1〜3)。酸前処理法や水熱前処理法と比べて、比較的マイルドな条件で前処理を行うことができ、かつ、リグニン含量の高いバイオマスにも有効である点で優れている。しかし、アルカリ前処理で生成するリグニン分解物等は、糖化酵素の阻害や発酵阻害を起こすことがあるといわれており、一般的には水洗浄によって除去し、酵素糖化に供される。
このように、アルデヒド類やリグニン分解物等の、前処理で生成するバイオマスの分解物(前処理分解物)は、糖化酵素阻害や発酵阻害を起こすことがあるため、前処理後に水洗浄等の方法で除去することが好ましい。しかしながら、前処理分解物を十分に除去するためには、大量の洗浄水が必要となり、経済的、環境的に好ましくない。したがって、前処理分解物除去の負荷(洗浄水等)を削減しつつ、効率的に糖化を行い、かつ、発酵特性の優れた(発酵阻害を起こさない)糖化液を得ることが、実用上極めて重要な課題となっていた。
特開昭57−29293号公報 特開昭58−98093号公報 特開2011−83238号公報
本発明は、発酵特性の優れたリグノセルロース系バイオマスの糖化液を提供することを目的とする。またその糖化液の製造方法、及び使用方法を提供することも目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は以下の内容で構成される。
[1]リグノセルロース系バイオマスを前処理することにより生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物が、糖化液中の全糖成分に対して、0.5〜30質量%含まれることを特徴とする糖化液。
[2]糖化液が、リグノセルロース系バイオマスに前処理を行った後、酵素糖化を行って得られた糖化液であることを特徴とする[1]に記載の糖化液
[3]前処理が、アルカリ前処理であることを特徴とする[1]または[2]に記載の糖化液
[4]前処理を行った後、該前処理で生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物の一部を除去してから、酵素糖化を行うことを特徴とする[2]または[3]に記載の糖化液の製造方法
[5]糖化液を原料として微生物の発酵を行い、化学品を製造することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の糖化液の使用方法
[6]微生物が5炭糖及び6炭糖を資化可能な微生物であることを特徴とする[5]に記載の糖化液の使用方法
本発明によれば、前処理で生成する前処理分解物除去の負荷を削減しつつ、発酵阻害を起こさず、むしろ、発酵特性が向上した糖化液を得ることができる。したがって、本発明で得られる糖化液は、発酵原料として好適に使用でき、アルコール類や有機酸類等の各種化学品を経済的に製造することが可能となる。
本発明は、リグノセルロース系バイオマスを前処理することにより生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物が、糖化液中の全糖成分に対して、0.5〜30質量%含まれる糖化液である。ここで前処理は、バイオマスの構造を崩壊させ、糖化し易くするための処理である。前処理分解物は、前処理で生成する可溶化されたバイオマスの分解物を意味し、アルデヒド類、有機酸類、リグニン分解物等の有機化合物類、及び、金属成分等の無機化合物類を含む。糖化液は、前処理後のバイオマスを糖化(多糖類の加水分解)して得られる液体である。糖化液中の前処理分解物の含有率は、以下の式で表される。

糖化液中の前処理分解物の含有率(%)=前処理分解物の固形分質量(g)/全糖成分の固形分質量(g)×100

前処理分解物の固形分質量は、糖化液を分析し(クロマトグラフ等の方法)、含まれる前処理分解物を定量する方法等で求めることができる。定量の際には、単離した前処理分解物を標品として使用し、定量することが好ましい。全糖成分の固形分質量も同様に、糖化液をクロマトグラフ等の方法で分析して求めることができる。
糖化液中の前処理分解物の含有率としては、0.5〜30%が好ましく、1〜20%がより好ましく、4〜15%が特に好ましい。糖化液中の前処理分解物の含有率を上記範囲とすることで、発酵阻害の影響を受けず、かつ、発酵生成物の増加、対糖収率の向上、発酵速度の向上等のメリットを有する糖化液とすることができる。これは、前処理分解物中に含まれる、後述する有機化合物や無機化合物の働きによるものと思われる。また、上記糖化液を調製する際には、一定範囲の前処理分解物の残存が許容されるため、前処理分解物除去の負荷が低減し、洗浄水の削減が可能になるといる利点もある。さらに、糖化反応での反応効率の向上、酵素使用量の削減等も可能である。前処理分解物を糖化液中に含有させる方法としては、前処理分解物を残存させた前処理バイオマスを調製し糖化する方法、または、前処理分解物を糖化反応の際に添加する方法、または、糖化液に添加する方法等があげられる。
糖化液中に得られる糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類が挙げられ、具体的には、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、セロビオース、キシロビオース、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖等である。糖化液はこれらの多種糖類を含むが、糖化液中の全ての糖類を「全糖成分」と称する。
また糖化液として好ましくは、C5糖(5炭糖)及びC6糖(6炭糖)を混合する混合糖液である。C5/C6混合糖液とすることで、糖化液の糖濃度を高め、発酵を効率的に行うことができる。すなわち、C5/C6糖を同時に発酵させることができるため、発酵時間や、発酵槽の削減等が可能である。糖化液中のC5糖の割合としては、全糖成分に対して20〜50%であることが好ましく、25〜45%であることがより好ましく、30〜45%であることが特に好ましい。C5糖の割合を上記範囲とすることで、発酵におけるC5糖の利用効率が向上する等の利点がある。なおC5糖はキシロース、アラビノース、及びそれらのオリゴ糖類等を意味する。C6糖はグルコース、マンノース、ガラクトース、及びそれらのオリゴ糖類を意味する。
糖化液としては、全糖濃度が、5〜20%であることが好ましく、7〜15%であることがより好ましい。ここで全糖濃度とは、上記全糖成分の糖化液中の濃度である。全糖濃度を上記範囲とすることで、発酵における糖の利用効率が向上し、かつ、効率的に糖化反応及び発酵を行うことが可能である。
本発明におけるリグノセルロース系バイオマス(以降、単にバイオマスと称する。)としては、特に限定されないが、木本系植物、草本系植物、それらの加工品、それらの廃棄物等があげられ、好ましくは草本系植物である。バイオマスの具体例としては、木材、間伐材、製材残材、建築廃材、樹皮、果房、果実殻、茎葉、わら、バガス、古紙等が挙げられる。好ましくは、アブラヤシ、ナツメヤシ、サゴヤシ、ココヤシ等のヤシ類(幹、茎葉、空果房、果実繊維)、サトウキビ(バガス、葉)、トウモロコシ(穂軸、茎葉)、ユーカリ、ポプラ、スギ等の木材(樹皮、木部)、稲わら、麦わら、スウィッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ミスカンサス、ススキである。より好ましくはヤシ類の空果房、サトウキビバガス、トウモロコシ穂軸、稲わら、麦わら、ユーカリ、スギであり、さらに好ましくはアブラヤシの空果房である。バイオマスの大きさ、形状等は特に限定されないが、裁断、粉砕等により粉体状、チップ状、細片状にしたものや、解繊を行って繊維状にしたものが好ましい。また、バイオマスの水分含有率(含水率)は特に限定されないが、好ましくは含水率が0〜90%であり、より好ましくは30〜90%、さらに好ましくは40〜80%であり、特に好ましくは50〜80%である。ここで、「%」とは、質量%であり、以降も特に断りがない限り、質量%を表すものとする。
本発明は、糖化液に関するものであり、上記糖類を含有していればどのような糖化液でもかまわないが、リグノセルロース系バイオマスを原料として、前処理を行った後、酵素糖化を行って製造される(それぞれ前処理工程、糖化工程と称する)糖化液であることが好ましい。また本発明の糖化液は、前処理を行った後、前処理分解物の一部を除去してから(この工程を除去工程と称する)、酵素糖化を行うことで製造する方法が好ましい。その際糖化液中に存在する前処理分解物(前処理工程で生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの分解物)が、糖化液中の全糖成分に対して、0.5〜30質量%含まれることが特徴である。更に本発明の糖化液は、発酵原料として好適に使用することが出来るため、微生物を用いた発酵によって、各種化学品を製造することが可能である(発酵工程と称する)。以下、詳細を説明する。
本発明においてバイオマス前処理分解物は前処理工程を行うことにより得られる。前処理の目的はバイオマスの構造を崩壊させ、酵素糖化性を高めることにある。前処理方法としては特に限定されず、公知の前処理方法を用いることができる。具体的には、酸前処理、アルカリ前処理、水熱前処理、有機溶媒前処理、爆砕前処理、イオン液体前処理、微粉砕前処理等があげられ、好ましくは酸前処理、アルカリ前処理、水熱前処理であり、より好ましくはアルカリ前処理である。酸前処理は、バイオマスに酸性化合物を添加して熱処理を行う前処理方法であり、硫酸、酢酸、塩酸、硝酸、リン酸等を使用することが好ましい。水熱前処理は、バイオマスに酸やアルカリを特に添加せず、水蒸気や加圧熱水で処理する前処理方法である。アルカリ前処理は、バイオマスにアルカリ化合物を添加して熱処理を行う前処理方法である。中でもC5糖は前処理工程で分解しやすく、高い収率を得ることが難しいが、アルカリ前処理では、C5糖、C6糖の両方を高い収率で得ることが可能であるため好ましい。以下、好ましい形態であるアルカリ前処理方法について詳述する。
アルカリ前処理ではまず、バイオマスにアルカリ化合物を添加する。アルカリ化合物としては特に限定されず、ナトリウム、カルシウム、カリウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の水酸化物、酸化物、硫化物、炭酸塩及び炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物等が使用できる。またアンモニアを使用することもできる。好ましくは水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムまたは水酸化カリウムである。アルカリ化合物の添加量としては、バイオマス固形分質量(原料バイオマスから水分を除いた時の質量)に対して、0.1〜30%が好ましく、0.5〜20%がより好ましく、1〜10%が特に好ましい。アルカリ化合物は水溶液としてバイオマスに添加することが好ましい。この場合、アルカリ水溶液のアルカリ化合物濃度としては、0.1〜30%が好ましく、0.5〜20%がより好ましく、1〜10%が特に好ましい。アルカリ水溶液のpHとしては、pH11〜15が好ましく、pH12〜14.5がより好ましく、pH12.5〜14が特に好ましい。また、アルカリ化合物添加後の固液比(=液体成分の質量/バイオマス固形分の質量)が重要であり、固液比が1〜10であることが好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4が特に好ましい。固液比をこの範囲とすることで、添加するアルカリを効果的に作用させることができる。固液比は、前処理工程の途中で変化させてもよい。最初に高い固液比でバイオマス内部にアルカリ化合物を含浸させ、固液分離等の方法で液体成分を分離して、上記範囲に固液比を低下させた後、熱処理を行う方法は、好ましい前処理方法の実施形態である。
続いて、アルカリ化合物を添加したバイオマスに熱処理を施す。熱処理の温度は、20〜250℃が好ましく、100〜200℃がより好ましく、150〜200℃が特に好ましい。熱処理の時間は、0.1〜100時間が好ましく、0.1〜24時間がより好ましく、0.1〜1時間が特に好ましい。この温度および時間の範囲で熱処理を行うことで、高い糖収率、及び反応速度を得ることができる。熱処理時の気相部の雰囲気は、特に限定されず、酸素ガス、窒素ガス、酸素/窒素混合ガス、空気等用いることができる。好ましくは、酸素ガスや空気等を用い、酸素存在下で熱処理を行う方法である。酸素存在下で熱処理を行うと、親水性の高い前処理分解物が得られ、前処理分解物の除去工程や糖化工程を効率的に行うことができる。また発酵阻害が起きにくくなるというメリットも得られる。具体的には、酸素濃度が1〜100体積%であることが好ましく、10〜95体積%であることがより好ましく、15〜80体積%であることが特に好ましい。熱処理時の圧力は特に限定されないが、5MPaG以下が好ましく、3MPaG以下がより好ましく、1MPaG以下が特に好ましい。
以上のような前処理工程によって、バイオマスは分解を受け、前処理分解物が生成される。前処理分解物は、前処理で生成する可溶化されたバイオマスの分解物を意味し、前処理後の液体成分中に溶解している固形分のことである。多種成分で構成される混合物であり、具体的には、アルデヒド類(フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール等)、有機酸類(酢酸、ギ酸等)、リグニン分解物(フェノール性高分子及び低分子化合物。例えば、バニリン、バニリン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、シリングアルデヒド、コニフェリルアルデヒド、クマリルアルデヒド等、及びそれらの重合物)、及び、タンパク質分解物(アミノ酸類)等を含み、更に、アルカリ成分、微量金属成分、リン化合物等の無機化合物類も含む。ただし、多糖分解物は糖成分として考えられるため、前処理分解物には含まない。
前処理後のバイオマスはそのまま次の糖化工程に供してもよいが、前処理分解物が多量に生成する場合は、除去工程にて前処理分解物の一部を除去してから、酵素糖化を行うことが好ましい。これは、前処理分解物が多量に存在すると、後の糖化及び発酵工程に悪影響を及ぼす可能性があるためである。一方、本発明者らは、前処理分解物がバイオマスへの酵素の非特異的吸着を低減させ、糖収率の向上や、酵素量低減等のメリットをもたらすことを見出した。更に、発酵の際に一定の範囲内で前処理分解物が存在する場合には、発酵阻害を起こさず、むしろ発酵において良い効果(生成物の増加、発酵速度の向上等)を与えることを見出した。したがって除去工程では前処理分解物を完全に除去せず、意図的に残存するように除去条件を設定することが好ましい。この場合、前処理分解物の残存率としては、好ましくは0.5〜30%であり、より好ましくは1〜20%であり、特に好ましくは4〜15%である。なお前処理分解物の残存率は、次式により算出する。

前処理分解物の残存率(%)=残存する前処理分解物の固形分質量(g)/前処理バイオマスの固形分質量(g)×100

ここで前処理バイオマスとは、前処理工程後のバイオマス、又は除去工程後のバイオマスを意味する。
残存する前処理分解物の固形分質量は、前処理バイオマスを一部サンプリングして十分に洗浄し(前処理分解物を十分に除去し)、得られる洗浄液中の固形分量(すなわち前処理分解物量)を測定する等の方法で知ることができる。また前処理バイオマスの固形分質量は、前処理分解物を含まないものであり、十分に洗浄した後の前処理バイオマスの固形分質量である。上記残存率の範囲にすることで、残存する前処理分解物が糖化工程、または発酵工程においてポジティブな効果を示し、糖収率の向上、酵素回収率の向上、発酵生成物の増加等の利点が得られる。また比較的高い前処理分解物の残存率でも許容されるため、除去工程での負荷が低下し、洗浄水削減等のメリットも得られる。
前処理分解物を除去する方法としては、水等の洗浄溶媒によるバイオマスの洗浄や、圧搾、遠心分離等による固液分離が上げられ、好ましくは、水を用いた洗浄による方法である。水洗浄によって除去する場合は、水以外の溶媒等を混合して用いてもよい。具体的には、アルコール、ケトン等の有機溶媒、あるいはpH調整のための酸類を添加してもよい。水を含む洗浄溶媒の使用量は、原料バイオマスの固形分質量に対して、0.1〜100倍量であることが好ましく、0.5〜30倍量であることがより好ましく、1〜10倍量であることが特に好ましい。洗浄溶媒を前処理後のバイオマスに添加して前処理分解物を溶出させた後、固液分離を行って、バイオマスと洗浄液(前処理分解物含有)とに分離する。洗浄の条件は特に限定されないが、温度は20〜120℃が好ましく、20〜100℃がより好ましく、20〜80℃が特に好ましい。洗浄操作は1回でもよく、複数回行ってもよい。回分式、半回分式、連続式でも行うことができるが、効率を高めるために半回分式、または連続式で行うことが好ましい。また洗浄後に乾燥させてもよいが、乾燥させるとバイオマスの構造が強固になる場合があるため、乾燥させずに含水状態のまま次の糖化工程に供することが好ましい。圧搾や遠心分離等の固液分離によって除去する方法は、水の使用量を削減できる点で有利である。前処理後のバイオマスを圧搾や遠心分離で処理し、バイオマスが含んでいる液体成分を除去することで、一部の前処理分解物を除去できる。水を用いた洗浄と、圧搾や遠心分離等の固液分離を組み合せてもよい。
続く糖化工程では、前処理バイオマスを酵素で分解して糖化液を得る。すなわち、前処理バイオマスに酵素と、必要に応じて水、及びpH調整剤を添加した混合物(以降、反応混合物と称する)を調製し、糖化反応を行う。水、及びpH調整剤を添加する場合は、酵素とともに添加してもよく、別々に添加してもよい。またpH調整剤を前記除去工程の際に添加し、pH調整を先に行ってもよい。pH調整を行った後、酵素を添加することが好ましい。用いる酵素は、セルロースを単糖(グルコース)に加水分解できる酵素、又はヘミセルロースを単糖(キシロース、マンノース、アラビノース等)に加水分解できる酵素を含むものであればよい。このような酵素は、一般にセルラーゼ、ヘミセルラーゼと称され、複数の酵素で構成される。本発明の糖化方法に用いる酵素は、セルラーゼ又はヘミセルラーゼを含むものであればよいが、糖化効率を向上させるために、両者を含むものを用いることが好ましい。セルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素を使用して、セルロースとヘミセルロースを同時に酵素分解する方法は、本発明の好適な実施形態である。
セルラーゼとしては、セロビオヒドロラーゼ、β−グルカナーゼ及びβ−グルコシダーゼを含むものであることが好ましい。ヘミセルラーゼとしては、キシラナーゼ及びβ−キシロシダーゼを含むものであることが好ましい。他のヘミセルラーゼとしては、アセチルキシランエステラーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンナナーゼ、α−ガラクトシダーゼ、キシログルカナーゼ、ペクトリアーゼ、ペクチナーゼ等が挙げられる。また、植物細胞壁分解に関わる他の酵素、例えば、フェルラ酸エステラーゼ、クマル酸エステラーゼ、プロテアーゼ等を含んでいてもよい。これらの酵素を含有しているか否かは、各酵素の基質を用いて酵素活性を調べることにより、確認することができる。
酵素の由来としては特に限定されないが、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム属(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属等の微生物に由来する酵素が挙げられ、好ましくはトリコデルマ属、アクレモニウム属、アスペルギルス属由来の酵素であり、さらに好ましくはトリコデルマ属由来の酵素である。
これらの酵素は市販されており、本発明の製造方法に好適に用いることができる。市販の酵素製剤(商品名)としては、ノボザイムズ社製のセリックシリーズ(シーテック、エイチテック等)、ノボザイム188、セルクラスト、パルプザイム、ジェネンコア社製のアクセルラーゼシリーズ(トリオ、デュエット等)、マルチフェクトシリーズ、明治製菓社製のメイセラーゼ、ヤクルト社製のオノズカ、アマノエンザイム社製のセルラーゼ(A、T)などが挙げられる。好ましくはセリックシリーズおよびアクセルラーゼシリーズである。これらの酵素製剤はセロビオヒドロラーゼ、β−グルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、キシラナーゼ、β−キシロシダーゼを含んでおり、原料バイオマスの組成や含有酵素活性を考慮して、単独、あるいは複数を組み合わせて用いることができる。セルラーゼ活性の高い酵素製剤とヘミセルラーゼ活性の高い酵素製剤を組み合わせて用いることが好ましく、例えば、セリックシーテックシリーズ(セルラーゼが主成分)とセリックエイチテックシリーズ(ヘミセルラーゼが主成分)を組み合わせて用いることが好ましい。
酵素の使用量としては、特に限定されないが、好ましくは前処理バイオマスの固形分質量に対して、酵素活性成分の固形分質量(タンパク質質量)として、0.01〜10%、より好ましくは0.05〜5%添加する。水の添加量としては特に限定されず、前処理バイオマスが十分な水量を含んでいれば水を添加しなくてもよい。好ましくは前処理バイオマスの固形分質量に対して0〜20倍量、さらに好ましくは0〜10倍量添加する。また、反応混合物中の前処理バイオマスの固形分濃度としては、1〜50%が好ましく、3〜30%がより好ましく、5〜25%が特に好ましい。
pH調整剤としては、酸、アルカリを適宜選択して用いることができる。前処理工程としてアルカリ処理を行った場合には、前処理バイオマスがアルカリ性になっているため、酸を使用して糖化に適したpHに調整する。この場合、使用する酸としては特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、二酸化炭素等が挙げられ、好ましくは硫酸、塩酸、酢酸、二酸化炭素である。糖化工程における反応条件は、酵素による加水分解が進行する条件であれば特に限定されない。反応温度は、通常20〜80℃、好ましくは30〜60℃、より好ましくは40〜55℃である。反応時間は、通常1〜300時間、好ましくは10〜150時間、より好ましくは20〜100時間である。反応pHは、酵素の至適pHに従って設定すればよいが、通常pH3〜7、好ましくはpH4〜6、より好ましくはpH4.5〜5.5である。pHコントロールのために、前記pH調整剤を追加したり、バッファー成分を添加してもよい。バッファー成分として具体的には、各種有機酸等が使用でき、酢酸、クエン酸、コハク酸が好ましい。
また酵素の作用効率を高めるために、各種化合物の存在下で糖化工程を実施してもよい。このような化合物としては、タンパク質、界面活性剤、リグニン分解物等が挙げられるが、これらの化合物は酵素のバイオマスへの非特異的吸着を低減する効果を有しており、糖化反応速度や酵素使用量の低減等のメリットが得られる。好ましくはリグニン分解物であり、より好ましくは、前処理で生成する前処理分解物である。糖化工程で前処理分解物を存在させる方法は、前記のように調製した(前処理分解物を残存させた)前処理バイオマスを使用することによって行ってもよいが、前処理分解物を別途添加してもよい。前処理分解物の濃度としては、前処理バイオマスの固形分質量に対して、好ましくは0.5〜30%であり、より好ましくは1〜20%であり、特に好ましくは4〜15%である。糖化反応の方法としては特に限定されず、反応混合物を攪拌や液循環をしながら、または静置状態で糖化反応を行ってもよい。糖化反応促進のため、攪拌、又は液循環をすることが好ましい。
上記糖化工程により、糖化液を含む反応混合物が得られる。この反応混合物は、糖化液(バイオマスの加水分解によって生成した可溶性の低分子糖類を含む液体)と残渣(未分解のバイオマス)との混合物である。糖化液は、反応混合物の状態のまま(残渣との混合物として)利用してもよいが、固液分離等の方法で残渣と分離してから利用してもよい。
糖化液の使用方法(用途)は特に限定されないが、発酵原料、化学品原料、飼料、肥料等に用いることができる。好ましくは、糖化液を原料として微生物の発酵を行い、化学品を製造する使用方法であり、これは本発明の好適な実施形態の一つである。本発明の糖化液は、発酵阻害を受けず、かつ、高い発酵生成物や発酵速度が得られるため、発酵原料として好適に用いることが可能である。以下、糖化液を原料として微生物の発酵を行い、化学品を製造する場合について詳細を説明する。
微生物としては特に限定されないが、好ましくは5炭糖(C5糖)及び6炭糖(C6糖)を資化可能なものであり、より好ましくはC5糖とC6糖を同時資化可能なものである。具体的には、C5糖とC6糖の消費速度比(=C5糖の消費速度/C6糖の消費速度)として、0.1〜10であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましく、0.3〜2であることが特に好ましい。微生物として具体的には、細菌類、真菌類、粘菌類、藻類等を用いることができ、好ましくは、大腸菌、クロストリジウム属細菌、コリネバクテリウム属細菌、バシラス属細菌、アスペルギルス属細菌、ザイモモナス属細菌、乳酸菌、放線菌、シアノバクテリア類、酵母類、カビ類であり、より好ましくは、大腸菌、クロストリジウム属細菌、コリネバクテリウム属細菌、バシラス属細菌、酵母類であり、特に好ましくは、クロストリジウム属細菌である。突然変異、遺伝子操作等を行って、5炭糖の資化能を獲得した微生物や、発酵性能、生成物選択性等を向上させた微生物を用いてもよい。
糖化液の発酵にて製造する化学品としては特に限定されないが、具体的には、エタノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、乳酸、コハク酸、酢酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、ピルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、各種アミノ酸、イソプレン、プロピレン、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、及び、1,4−ブタンジオール等があげられ、好ましくは、エタノール、1−ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、乳酸、コハク酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、イタコン酸、及び、フマル酸であり、より好ましくは、1−ブタノール、イソプロパノール、乳酸、コハク酸、及び、3−ヒドロキシプロピオン酸であり、特に好ましくは、1−ブタノール及びイソプロパノールである。特に、クロストリジウム属細菌を用いて、1−ブタノール、及び/又は、イソプロパノールを発酵生産する方法は、本発明の好適な実施形態である。
糖化液の発酵方法としては特に限定されず、培地としては、本発明の糖化液をベースとして、必要に応じて窒素源、炭素源、無機イオン、有機微量栄養素等の補助原料を添加して用いる。本発明の糖化液は、前処理分解物を含むため、補助原料を削減できることもメリットである。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。炭素源としては、スクロースやデンプン分解物等を用いることができる。無機イオンとしては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が添加される。有機微量栄養素としては、チアミン、p−アミノ安息香酸、ビタミンB1、ビオチンなどの要求物質または酵母エキス等を必要に応じ適量含有させることが望ましい。また補助原料として、コーンスティープリカーや、パームオイル搾油廃水(POME)等を用いてもよい。
発酵は、用いる微生物の特性に合わせて、pH、温度、攪拌速度、酸素濃度等を適宜制御して実施することが好ましい。クロストリジウム属細菌を用いる場合には、pHは、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、好ましくは7以下、より好ましくは6以下になるように制御する。pH調整には、無機または有機の酸性またはアルカリ性物質、例えば、炭酸カルシウム、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用できる。その他の培養条件は、特に制限されず、当技術分野で慣用の条件を採用することができる。例えば、バッチ培養を行う場合、培養時間は通常5〜100時間、好ましくは12〜48時間である。連続培養を行う場合には、培養時間は通常200時間以上、好ましくは500時間以上、より好ましくは1000時間以上である。培養温度は通常20〜55℃、好ましくは25〜40℃、例えば約30℃に調整する。
発酵中、又は発酵終了後の発酵液からの発酵生成物の回収方法としては特に限定されず、公知の方法で回収できる。当技術分野で周知のイオン交換樹脂法、蒸留、ガスストリッピング、溶媒抽出、パーベーパレーション、晶析、その他の方法を組み合わせることにより、発酵中又は発酵終了後に実施できる。
各工程で用いる装置は特に限定されないが、前処理工程、及び糖化工程で用いる反応器は、例えばバッチ式、連続式、半連続式の装置等を用いることができる。具体的には、フィルター(ストレーナー)を備えたバッチ式反応槽、スクリューフィーダー式の連続反応器、原料バイオマス添加と反応液抜き出しを連続的、もしくは逐次的に行う半連続式反応槽、カラム式の充填反応槽等が挙げられる。前処理工程では、スクリューフィーダー式の連続反応装置を使用することが好ましい。糖化工程では、原料バイオマスを反応器に充填し、固液分離を行いながら、糖化液を循環させて糖化反応を進める形式が好ましい。また前処理工程、除去工程、糖化工程を一つの反応器で行うこと(ワンポット反応)も可能である。更には発酵工程を同一の反応器で行うことも可能である。発酵装置としては、通気型発酵槽、嫌気型発酵槽等、公知の発酵槽を用いることができる。固液分離装置としては、フィルタープレス、スクリュープレス、遠心分離、遠心ろ過、サイクロン、デカンター等を用いることができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
〔実験材料〕
原料のリグノセルロース系バイオマスとして、パーム油を生産する際に排出されるアブラヤシの空果房(以下「EFB」という。)を原料に用いた(産地インドネシア)。EFBの形状としては、シュレッダー処理が施された繊維状のEFBを用いた。
〔分析方法〕
糖化反応における生成糖類の定量分析は、HPLC(高速液体クロマトグラフ)を使用して行った。カラムはShodex(登録商標)、Sugar KS−801(商品名、昭和電工社製)を用い、示差屈折計(RI)にて検出を行った。移動相としては純水を用い、カラム温度は60℃にて分析を行った。
発酵生成物の定量分析は、同様にHPLCを使用し、カラムにはAminex HPX−87H Column(商品名、Bio−Rad社製)を用い、RIにて検出を行った。移動相としては5mM硫酸水溶液を用い、カラム温度は20℃にて分析を行った。
〔アルカリ前処理工程〕
2Lのガラス製容器に、含水率8.9%のEFBを109.8g(固形分として100g)を入れ、アルカリ水溶液として3.0%のNaOH水溶液を1500g添加して、15分間室温で静置し、十分にEFB中に含浸させた。続いて、ろ過により、アルカリ水溶液を含浸したEFB(アルカリ含浸EFB)と、含浸されないアルカリ水溶液とを固液分離した。アルカリ含浸EFBの質量は327gであった(固液比は2.3)。また、アルカリ含浸EFB中に含まれるNaOHの固形分質量は、6.8gと見積もられた(対原料EFBでのアルカリ含浸量としては6.8%)。
次に、アルカリ含浸EFBを温度計と圧力計を備えたジャケット加熱式の1Lの耐圧反応器に入れ、密閉した。続いて、200℃のオイルを循環させて昇温し、内温が175℃に達した後、175〜185℃の範囲に約15分保持し、熱処理を行った。オイルを冷却し、内温が50℃に達した時点で反応器を開け、熱処理後のEFBを取出した。
〔前処理分解物の除去工程(洗浄工程)〕
続いて、水による洗浄操作を行った。熱処理後のEFBに1000gの純水を添加して10分間攪拌混合し、前処理にて生成した前処理分解物を溶出させた。次に、ろ過により固液分離を行い、前処理EFB−1(洗浄1回)と、ろ液(前処理液−1と称する)を得た。更に同様の洗浄操作を繰り返し、前処理EFB−2(洗浄2回)とろ液の前処理液−2を得た。更に同様の洗浄操作を繰り返し、前処理EFB−3(洗浄3回)とろ液の前処理液−3を得た。前処理EFB−3を一部サンプリングして更に洗浄し、洗浄液中に固形分が存在しないことを確かめた。すなわち、前処理EFB−3中には前処理分解物が含まれないことを確認した(含有率としては、0.1%以下)。また、前処理液−1を一部サンプリングし、固形分濃度を測定して前処理分解物濃度を見積もったところ、前処理液−1の前処理分解物の濃度は3.3%であった。前処理EFB−3は乾燥せずに、そのまま次の糖化工程へ供した。
〔糖化液の調製〕
比較例1
1Lステンレス製反応器(底抜きの液循環ライン付属、底部メッシュ付属、ジャケット加熱方式)を用い、以下のように糖化反応を行った。
前処理EFB−3(256g、水ウェット体)を反応器に充填し、水を約250g添加した。底部から液体をポンプで抜出し(メッシュで固形分は分離)、上部に循環させながら、10%クエン酸水溶液を添加して、液体のpHを5.0に調整した。続いて、酵素液(ノボザイムズ社製、セリックシーテック2とエイチテック2の1:1混合液)6.0gを反応器に添加し、更に水を添加して、総質量を540gに調整した。反応器を密閉し、ポンプで液体循環させながらジャケット加熱を行い、内温45〜50℃で72時間、糖化反応を行った。反応終了後、反応混合物を取出し、ろ過により未分解残渣を固液分離し、糖化液を取得した(糖化液−1)。糖化液−1中の糖成分をHPLCで分析した結果、グルコース、キシロース、アラビノース、キシロビオースが検出され、C6糖(グルコース)濃度は6.8%であり、C5糖(キシロース、アラビノース、キシロビオースの合計)濃度は4.2%であり、全糖濃度は11.0%であった(全糖成分に対するC5糖の割合は38%)。また、前処理分解物に由来するピークは認められず、糖化液−1には前処理分解物は含まれていないと考えられた。
実施例1〜3
比較例1で得られた糖化液−1と、除去工程で得られた前処理液−1を表1に示す割合で混合し、前処理分解物を種々の含有率で含む糖化液−2〜4を約30gずつ調製した。これらは種々の洗浄条件から得られる糖化液を模擬的に再現したものであり、前処理分解物含有率が高い方が、除去工程での負荷(洗浄水量)が低い糖化液である。
Figure 2014158437
実施例4〜6、比較例2〜4〔ブタノールの発酵試験〕
比較例1および実施例1〜3で調製した糖化液−1〜4を炭素源として用いて、クロストリジウム属細菌によるブタノール発酵試験を行った。クロストリジウムサッカロパーブチルアセトニカムの発酵に一般的に用いられるTYA培地をベースとした。TYA培地の組成を表2に示す。
Figure 2014158437
糖化液−1〜4と、炭素源(D−グルコース)を除いて4倍濃縮したTYA培地成分を表3に示した割合で混合し、4種の培地を調製した(比較例2および実施例4〜6)。また、対照実験として、糖化液の代わりに炭素源として試薬のグルコースを使用した培地も調製した(比較例3)。更に、試薬のグルコースとキシロースを糖化液の組成に合わせて配合した培地も調製した(比較例4)。これら培地中の全糖濃度は、約40g/Lになるように設定されている。また培地のpHは6〜7の範囲に調整した。これらの培地は、フィルターでろ過滅菌してから用いた。
Figure 2014158437
続いて、前培養として、クロストリジウムサッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株のグリセロールストック0.5mLをTYA培地5mLに接種し、嫌気装置内(窒素95%、水素5%雰囲気下)で30℃、16時間培養した。この前培養液を、表3の培地にそれぞれOD660が0.05となるように植菌し、ふたを緩めて30℃で48時間静置条件で発酵を実施した。発酵はそれぞれについて2本ずつ実施し、結果はその平均値を示す。サンプリングは発酵開始時、発酵33時間、及び発酵48時間で実施し、OD660(菌体生育の指標)とHPLCによる発酵液組成の分析(糖濃度、ブタノール濃度の測定)を行った。また発酵液組成より、C5糖、及びC6糖の各糖消費率(初発糖濃度に対する消費糖濃度の割合)と、ブタノールの対糖収率(消費した全糖成分に対する生成ブタノールの質量収率)を求めた。結果を表4に示す。
Figure 2014158437
表4の結果から、前処理分解物を含有する実施例4〜6は、前処理分解物を含有しない比較例2、もしくは対照実験の比較例3および4と比較して、高いブタノール生成濃度や高い対糖収率、あるいは良好な生育を示すことが判明した。前処理分解物を12%含有する実施例6においても、生育の遅延は見られるが発酵は十分可能であり、高い対糖収率が得られた。更に高い前処理分解物含有率においても発酵可能であると推測される。また本実施例で用いた菌株は、C6糖(グルコース)だけを先に消費してしまうのではなく、C6糖と共にC5糖も同時に資化することが分かった。
実施例7
除去工程で取得した前処理液−2及び3を一部サンプリングし、固形分濃度を測定して前処理分解物濃度を見積もったところ、前処理液−2の前処理分解物濃度は0.4%であり、前処理液−3は0.1%であった。また、一部サンプリングして十分に洗浄した前処理EFB−3を乾燥させ、固形分質量を求めた。これらの結果より、除去工程における水洗各段階での前処理分解物の残存率を計算すると、前処理EFB−1(水洗1回)では残存率5.9%、前処理EFB−2(水洗2回)では0.9%、前処理EFB−3(水洗3回)では<0.3%であることが分かった。このように洗浄条件を変えることで、種々の残存率で前処理分解物を含む前処理バイオマスを調製することができ、更にそれらを糖化することで、種々濃度で前処理分解物を含む糖化液を調製することも可能である。なお、前処理分解物の残存率を1%以下にするには、水洗2回(洗浄水2kg)程度必要であり、残存率を6%程度にするには、水洗1回(洗浄水1kg)で良いことが分かった。つまり洗浄水を半減できることを示している。
続いて、比較例1の前処理EFB−3の代わりに前処理EFB−1(水洗1回、前処理分解物残存率5.9%)を用いた以外は同様に糖化液を調製した。得られた糖化液の前処理分解物含有率は6.3%であった。また、得られた糖化液を分析したところ、グルコース濃度は7.2%であり、C5糖濃度は4.5%であり、全糖濃度は11.7%であった(全糖成分に対するC5糖の割合は38%)。比較例1よりも高い糖濃度であり、これは前処理分解物が存在することによる効果と思われた。
本発明は、上述した各実施形態及び実施例に加えて、本明細書に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明で得られる糖化液は、発酵特性が優れ、かつ、効率的に製造できるため、発酵原料として有用であり、微生物による各種化学品の発酵生産に好適に利用することが出来る。

Claims (6)

  1. リグノセルロース系バイオマスを前処理することにより生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物が、糖化液中の全糖成分に対して、0.5〜30質量%含まれることを特徴とする糖化液。
  2. 糖化液が、リグノセルロース系バイオマスに前処理を行った後、酵素糖化を行って得られた糖化液であることを特徴とする請求項1に記載の糖化液
  3. 前処理が、アルカリ前処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の糖化液
  4. 前処理を行った後、該前処理で生成する可溶化されたリグノセルロース系バイオマスの前処理分解物の一部を除去してから、酵素糖化を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の糖化液の製造方法
  5. 糖化液を原料として微生物の発酵を行い、化学品を製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の糖化液の使用方法
  6. 微生物が5炭糖及び6炭糖を資化可能な微生物であることを特徴とする請求項5に記載の糖化液の使用方法
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