JP4560607B2 - 海苔酸処理剤 - Google Patents

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Description

本発明は、養殖海苔に混生する雑藻類や、細菌等による病害の防除を図る海苔酸処理剤に関し、特に、海水の混入によるpH変化が非常に少なく、且つリン分を含まず海洋の過剰な富栄養化とこれに起因する海苔生育環境悪化を招かない海苔酸処理剤に関する。
海苔の養殖にあたっては、雑藻類の混生や、細菌等が原因の病害といった問題があり、こうした雑藻類や病害の防除法としては、雑藻類及び細菌と海苔の酸に対する抵抗性の差を利用する酸処理が、従来から一般的に利用されている。この酸処理に用いられる酸処理剤は、海苔の食品としての安全性、養殖作業者の安全性を確保しつつ、酸処理剤としての十分な効果、作業における取扱い易さ等を求められており、常に改良を加えられている。近年用いられている海苔処理剤の一例として、海水に無機塩類と酸とを加えたものが、特許第3296174号公報に示されている。
この従来の海苔酸処理剤は、海水と無機塩類と酸とを含み、比重を1.03〜1.13に調整され、且つpHを0.5〜5.0に調整されてなる構成である。この海苔酸処理剤においては、それ以前の処理剤と比べて海苔以外の藻類や病害の防除効果が上回り、且つ比重が高すぎて正常な海苔を傷めることもない適切な比重範囲とされており、それ以前の酸処理剤で得られる効果をより短時間で得ることができるものとなっている。
また、他の海苔処理剤として、特許第3369544号公報に示されるものがある。この従来の他の海苔酸処理剤は、有機カルボン酸および塩化第二鉄を含有する溶液であり、且つ溶液比重を1.03未満とされるものである。この海苔酸処理剤においては、有機酸と塩化第二鉄の相乗効果で、それ以前のものよりも低濃度ながら、より短時間で効果的に海苔の雑藻や病害を防除することができ、且つ海苔葉体に対する傷害もなく、作業効率を向上させられると共に、養殖漁場の栄養塩不足を補って海苔の退色による品質低下を防止する効果も期待されるものとなっている。
ただし、養殖海苔の生育環境をなす海水は、それ自体の緩衝能によりpH8程度を維持しており、海苔に対し酸処理剤を用いる際に海水が多く混入すると、pHの値が増える、すなわち酸性度が弱まる状態に移行しやすいことから、酸処理による効果を維持するために、従来の酸処理剤には一般にリン酸やクエン酸等の化合物からなる緩衝液が加えられており、海水等が混入しても緩衝液の緩衝作用でそのpHの値があまり変化しない仕組みとされていた。
特許第3296174号公報 特許第3369544号公報
従来の酸処理剤は以上のように構成されており、酸処理剤の主体となる酸や緩衝液、又は栄養分として、リン酸化合物が含まれている場合が多いことから、酸処理に伴って海苔に付着したリン分が海水中に流出することとなり、自然に存在する量に比べて過剰なリン分が海水の富栄養化、すなわちプランクトンの大量発生を招き、これに伴う海中の窒素分の減少で、海苔原藻の成長不良や色落ちにつながってしまう危険性が極めて高いという課題を有していた。
また、海苔の酸処理はpH2程度の酸で行うのが最適であり、従来から酸と共にリン酸緩衝液やクエン酸緩衝液を用い、その緩衝能によりpHの値がなるべく変化しないように工夫されていたが、本来リン酸緩衝液やクエン酸緩衝液等の最大緩衝作用を持つpH領域は、この酸処理を効果的に行えるpH2付近から大きく離れており、その分緩衝能が劣り、作業中の海水混入による希釈がさほど進んでいない時点でも酸処理に適したpHを維持できなくなるという課題を有していた。
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、リンが含まれない配合として海苔生育環境への悪影響を防ぎ、且つ緩衝能に優れpH変化が極めて少なく、酸処理効果を最大限に発揮して海苔から雑藻類や細菌等を確実に防除できる海苔酸処理剤を提供することを目的とする。
本発明に係る海苔酸処理剤は、有機酸を含有する海苔酸処理剤において、リンを含まず且つ少なくとも水との混合で緩衝液をなす共役な酸及び塩基の各化合物と、海水とを前記有機酸と混合され、有機酸の酸性度と緩衝液成分の緩衝能でpH1ないし4となり、且つ全体の比重が1.03未満となるものである。
このように本発明においては、酸処理剤の主体をなす有機酸に、溶液中で共役な酸と塩基を生じさせる化合物と海水を混合し、酸性の溶液中に緩衝液が含まれる状態を得ることにより、酸処理作業中の海水での希釈をはじめ、酸や塩基が加わることに伴うpH変化を非常に小さくすることができ、酸処理に必要な酸性度を維持でき、能率良く海苔に対する酸処理作業が行えると共に、海水の富栄養化を促すリンを含むリン酸緩衝液を用いずに済み、海苔養殖場周囲の環境への悪影響をなくせる。
また、本発明に係る海苔酸処理剤は必要に応じて、前記共役な酸及び塩基の各化合物が、所定量の海水との混合でpH2付近に最大緩衝作用を有する緩衝液となる物質とされるものである。
このように本発明においては、pH2付近に最大緩衝作用を有する緩衝液をなす化合物を用い、酸処理剤中に酸性領域での緩衝液成分を生じさせることにより、海苔の酸処理に必要なpH2領域で高い緩衝能を有し、海水での希釈等を経ても酸処理剤がpH2付近を維持でき、酸処理の能力を確実に発揮させて海苔への雑藻付着や病害を確実に防止できる。
また、本発明に係る海苔酸処理剤は必要に応じて、前記共役な酸及び塩基の各化合物が、硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムとされるものである。
このように本発明においては、緩衝液の最大緩衝作用がpH1.82で得られる緩衝剤である硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムを用い、海苔の酸処理に適したpH2付近で最大の緩衝能を発揮させられることにより、酸処理剤に海水での希釈をはじめとする変化が生じても、酸処理剤はほぼpH2という一定の値に保持されることとなり、酸処理作業を効率良く進められる。さらに、食品添加物等として一般的に用いられ安全性の高い硫酸ナトリウムと硫酸水素ナトリウムを用いていることで、海苔やその周囲の環境に悪影響を与えず、雑藻類や細菌等の防除のみを確実に実行できる。
また、本発明に係る海苔酸処理剤は必要に応じて、前記硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムが、固体結晶状態から海水に溶け込ませて前記有機酸及び海水と混合されるものである。
このように本発明においては、緩衝剤としての硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムを固体の状態で海水に溶かして酸処理剤に混合し、緩衝液成分となすことにより、硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムを溶かす直前まで必要最小限の体積のまま取扱うことができ、作業者の作業負担を減らせ、酸処理作業の能率を大きく向上させられる。
また、本発明に係る海苔酸処理剤は必要に応じて、前記硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムとの配合モル比が、10:1ないし1:10の範囲とされるものである。
このように本発明においては、あらかじめ所定配合割合とした硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムを有機酸及び海水と混合して酸処理剤とすることにより、pH2付近に最大の緩衝能を持つ緩衝液成分が含まれる状態を容易且つ確実に得られ、面倒な調製作業を経なくても、pH変化を起さずに良好な酸処理性能を発揮可能な状態を実現できる。
以下、本発明の一実施の形態に係る海苔酸処理剤について説明する。本実施の形態に係る海苔酸処理剤は、所定量の海水との混合でpH2付近に最大緩衝能を有する緩衝液をなす共役な酸及び塩基の各化合物、具体的には硫酸水素ナトリウム及び硫酸ナトリウムと、海水とを所定の有機酸に混合され、有機酸の酸性度と緩衝液成分の緩衝能でpH1ないし4となり、且つ全体の比重が1.03未満となるものである。
前記有機酸は、酸処理剤の主体としてそのpHを所定値(pH2)付近まで引下げるものであり、具体的な例としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、グルコン酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、蟻酸、酒石酸、アクリル酸、クロトン酸、コハク酸、シュウ酸、グルタル酸等のリンを一切含まない有機カルボン酸が挙げられる。この有機酸の実際に酸処理作業に用いる状態における酸処理剤中での濃度は、0.05〜0.5%、好ましくは0.1〜0.4%である。この有機酸としてクエン酸を用いる場合、固体(粉末、粒剤、錠剤)状態から海水等に溶かして用いることができる。
前記共役な酸及び塩基の各化合物としての硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムは、それぞれ海水に溶けて電離した状態で緩衝液をなすものである。これらは固体(粉末、粒剤、錠剤)の状態から海水等の溶媒に溶かして用いられる他、当初から溶液の状態とされて使用前の混合、希釈を経て用いられる場合もある。硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムとの配合モル比は、約10:1ないし1:10の範囲が望ましく、酸処理剤のpHの値を適切な範囲となるように調製できる。1モル濃度の硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムの各配合割合におけるpHの値を表1に示す。実際に酸処理作業に用いる状態の酸処理剤におけるこれら硫酸水素ナトリウム及び硫酸ナトリウムの濃度は、硫酸水素ナトリウムが0.03〜0.2%、硫酸ナトリウムが0.05〜0.3%である。
Figure 0004560607
海水は、有機酸や各化合物の希釈、溶解用として海苔養殖場付近の海水がそのまま用いられるものである。この海水で実際に使用する酸処理剤の比重が1.03未満となるように各材料を混合した溶液を希釈して調整する。酸処理剤の比重を1.03未満とするのは、最終的に製品として得られる海苔の性質を良好とするためであり、酸処理剤の比重が1.03以上になると、酸処理を経た海苔が柔らかくなりすぎ、製品が割れやすいといった不良につながる。また、比重1.03以上になると酸処理剤のpH値が下がりすぎ、海苔に対する他の悪影響も大きくなる。
次に、本実施形態に係る海苔酸処理剤の調製について説明する。まず、船上等の酸処理作業現場に設けられた所定容量の処理槽内に、所定割合で有機酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、及び海水を投入して混合撹拌することにより、酸性の水溶液としての酸処理剤を得る。この場合、海水の混合量を少なくして一旦高濃度の原液を得、さらにこれを酸処理箇所等の海水で適切な濃度まで希釈して、酸処理剤を得るようにしてもよい。前記有機酸、硫酸水素ナトリウム、及び硫酸ナトリウムは、それぞれ固体を用いる他、あらかじめ水溶液とされたものを用いることもできる。
この処理槽内における酸処理剤において、硫酸水素ナトリウムは、以下の式のように完全に電離している。
NaHSO4→Na++HSO4 - ・・・・(1)
さらに、硫酸水素イオンは、一部が電離して、(ただし、平衡を表す記号は本来の上→下←の二段重ねを⇔で代用)
HSO4 -⇔H++SO42- ・・・・・・(2)
となり、溶液は酸性を示す。
一方、硫酸ナトリウムは、以下の式のように溶液中で完全に電離し、
Na2SO4→2Na++SO42- ・・・(3)
となる。
一方、溶液中では、以下の式のような平衡が得られている。
2O⇔H++OH- ・・・・・・・・・・(4)
ここで、溶液中には硫酸水素イオンと硫酸イオンが多量存在している。酸を加える(H+が増加する)と、H+が溶液中に多量に存在するSO42-と反応し、HSO4 -に変化するため、(2)式の平衡が左に動き、H+が減少して酸の影響を弱める。一方、塩基を加える(OH-が増加する)と、H+が中和で失われ、(4)式の平衡が左に動くと共に、このH+の減少を補うように(2)式の平衡が右へ移動することで、結果的に塩基の影響を弱めることとなる。また、水で希釈しても、硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムは同様に希釈され、濃度比は変らないため、pHの変化はほとんどない。
硫酸水素イオン(HSO4 -)の酸解離平衡定数、Ka2(mol/l) は、Ka2=1.50x10-2 (pKa2=1.82) であり、これに基づき、pH=1.82、すなわちpH=pKa2となるような酸性領域における最大緩衝能を有する緩衝液が得られることとなる。
こうして、処理槽内で調製された緩衝液成分を含む酸処理剤は、pHを所定値に維持可能な緩衝能を有し、この酸処理剤を用いて海苔網上の海苔に対し酸処理作業を実施することができる。
続いて、本実施形態に係る海苔酸処理剤を適用する酸処理作業について説明する。まず、船上の処理槽内に調製済の酸処理剤が十分存在している状態で、海苔原藻の付着している海苔網を海上に引上げてその下側に船を位置させるようにして船上に海苔網を上げ、船上の処理槽内に入れて数十秒から数分間浸漬して酸処理を行った後、処理槽から出して海中に戻す。作業者は適宜船を動かしながら海苔網の各位置に対して同様に作業を行う。酸処理作業を経て酸処理剤に海水が混入しても、緩衝能により酸処理に最適なpH2付近が維持され、酸処理をそのまま継続できる仕組みである。万が一、酸処理作業における酸処理剤の過度の使用により、そのpH値が最適範囲から著しく変化しても、処理現場でこの酸処理剤に有機酸及び硫酸水素ナトリウムの固体や溶液を追加するだけで、容易に元のpH値に戻せ、緩衝能も回復させることができる。
なお、酸処理作業は海苔網の酸処理剤への浸漬の他、海苔網の干出時に酸処理剤を海苔網に散布する方法などもある。
このように、本実施の形態に係る海苔酸処理剤においては、酸処理剤の主体をなす有機酸に、溶液中で共役な酸及び塩基を生じさせる化合物としての硫酸水素ナトリウム及び硫酸ナトリウムと海水を混合し、酸性の溶液中にpH2付近で最大緩衝作用を有する緩衝液が含まれる状態を得ることから、酸処理作業中の海水での希釈をはじめ、酸や塩基が加わることに伴うpH変化を非常に小さくすることができ、酸処理に最適なpH値を維持でき、能率良く海苔に対する酸処理作業が行えると共に、海水の富栄養化を促すリンを含むリン酸緩衝液を用いずに済み、海苔養殖場周囲の環境への悪影響をなくせる。
本発明に係る海苔酸処理剤を、有機酸や緩衝剤となる化合物等の配合条件を変えて複数種類生成し、得られた処理剤のpH値及び海苔に対する影響度について比較した評価結果を説明する。
(試験1)水100mlに対し、クエン酸一水和物を15g、硫酸ナトリウムを11.2g、硫酸水素ナトリウムを5.2gそれぞれ加えた原液(第1実施例)、クエン酸一水和物を15g、硫酸ナトリウムを5.6g、硫酸水素ナトリウムを2.6gそれぞれ加えた原液(第2実施例)、及び、クエン酸一水和物を加えず、硫酸ナトリウムを11.2g、硫酸水素ナトリウムを5.2g加えた原液(第3実施例)をそれぞれ調製した。また、第1比較例として、従来の酸処理剤同様、水100mlに対し、クエン酸一水和物15gと第一リン酸ナトリウム15gを加えた原液を調製した。これらの各原液を海水で50倍、100倍に希釈した希釈溶液をそれぞれ調製した。各希釈溶液の比重はいずれも1.030未満であった。各原液及び希釈溶液における各成分の濃度及び各液のpHの値を表2に示す。
Figure 0004560607
いずれの希釈溶液も希釈量の違いによるpHの差異は小さく、酸処理剤として要求される範囲に保たれている。本発明の配合で、酸処理剤として実際に使用する濃度において酸処理に最適となる所望のpH値が得られていることが確認できた。
(試験2)水100mlに対し、クエン酸一水和物を15g、硫酸ナトリウムを11.2g、硫酸水素ナトリウムを5.2gそれぞれ加えた原液(第4実施例)を調製すると共に、第2比較例として、クエン酸一水和物15gと第一リン酸ナトリウム15gを加えた原液を調製した。そして、各原液を海水で50倍、100倍、150倍、200倍に希釈した希釈溶液をそれぞれ調製した。各希釈溶液の比重はいずれも1.030未満であった。各原液及び希釈溶液のpHの値を表3に示す。
Figure 0004560607
第4実施例の配合のものは希釈により濃度が低下してもpHの値が急変することはなく、比較例としたリン酸緩衝液のものと比べてもほとんど変らない緩衝能を有していると言え、海水による希釈でも酸処理性能に変化が小さい実用的な酸処理剤としての有効性が確認できた。
(試験3)水100mlに対し、クエン酸一水和物を15g、硫酸ナトリウムを11.2g、硫酸水素ナトリウムを5.2gそれぞれ加えた原液(第5実施例)を調製し、このうちの2mlを50mlの海水に加えてpH1.8とした溶液を得た。また、第3比較例として、水100mlに対し1N塩酸を約0.7ml加えてpH1.8とした溶液、及び第4比較例として海水20mlにクエン酸一水和物3.18gと第一リン酸ナトリウム3.27gを加え、pHを2.04とした溶液をそれぞれ調製した。そして、各溶液に海苔葉体を浸漬し、0.5、1、5、10、15、20分経過毎に海苔葉体の健全度、すなわち海苔葉体自体の変化の有無を調べた。各経過時間毎に海苔葉体に変化が現れた割合を表4に示す。
Figure 0004560607
海苔葉体は、第4比較例で15分後に10%に変化が見られ、20分後には第5実施例及び第3比較例<第4比較例の順で変化度合が大きくなっており、硫酸ナトリウムと硫酸水素ナトリウムを用いている第5実施例について、海苔に対する短時間の使用では従来製品以上に海苔への影響が少ないことが確認できた。
(試験4)実際の使用に近い状態を得るため、海水200lに対し、硫酸ナトリウムを440g、硫酸水素ナトリウム一水和物を200g、クエン酸一水和物を578gそれぞれ加えた酸処理液(第6実施例)、硫酸ナトリウムを224g、硫酸水素ナトリウム一水和物を106g、クエン酸一水和物を288gそれぞれ加えた酸処理液(第7実施例)、硫酸ナトリウムを222g、硫酸水素ナトリウム一水和物を98g、クエン酸一水和物を592gそれぞれ加えた酸処理液(第8実施例)、及び、硫酸ナトリウムを440g、硫酸水素ナトリウムを440g、クエン酸一水和物を578gそれぞれ加えた酸処理液(第9実施例)をそれぞれ調製した。また、第5比較例として、従来の酸処理剤同様に、海水200lに対し、クエン酸一水和物458gと第一リン酸ナトリウム二水和物598gを加えた酸処理液を調製した。さらに、これらの各酸処理液に海水50l(酸処理作業時に混入する海水量を想定)を加えて希釈した希釈液をそれぞれ調製した。使用した海水はpH8.17、比重1.021(水温17℃)であり、各酸処理液及び希釈液の比重はいずれも1.030未満であった。各酸処理液及び希釈後のpHの値を表5に示す。
Figure 0004560607
基準となる第6実施例に対して、濃度を約半分とした第7実施例、硫酸ナトリウムと硫酸水素ナトリウムの割合を約半分とした第8実施例、及び硫酸ナトリウムの割合を2倍強とした第9実施例のいずれにおいても、希釈後のpH変化は小さく、酸処理剤として要求される範囲に保たれている。本発明の配合で、十分な緩衝能を備え、海水による希釈でも酸処理性能がほとんど変化せず、比較例としたリン含有酸処理液と比べても遜色なく、酸処理剤として有効に利用できることが確認できた。
これらにより、本発明の有機酸及び硫酸ナトリウムと硫酸水素ナトリウムを用いた海苔酸処理剤を用いて酸処理作業を行うと、酸処理に必要となる十分な酸性度が維持されて確実に雑藻類や細菌等の防除を実行できると共に、従来同様の短時間の酸処理作業では海苔葉体に与える悪影響は小さく、海苔の品質が損なわれることもなく、本発明の海苔酸処理剤が海苔の酸処理に非常に有効であることが確認できた。

Claims (3)

  1. 有機酸を含有する海苔酸処理剤において、
    リンを含まず且つ少なくとも水との混合で緩衝液をなす共役な酸及び塩基の各化合物と、海水とを前記有機酸と混合されてなり、有機酸の酸性度と緩衝液成分の緩衝能でpH1ないし4であり、且つ全体の比重が1.03未満であり、かつ海水との混合でpH2付近に最大緩衝作用を有する緩衝液となる物質からなる海苔酸処理剤であって、
    前記共役な酸及び塩基の各化合物が、硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムであることを
    特徴とする海苔酸処理剤。
  2. 前記請求項1に記載の海苔酸処理剤において、
    前記硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムが、固体結晶状態から海水に溶け込ませて前記有機酸及び海水と混合されることを
    特徴とする海苔酸処理剤。
  3. 前記請求項1又は2に記載の海苔酸処理剤において、
    前記硫酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムとの配合モル比が、10:1ないし1:10の範囲であることを
    特徴とする海苔酸処理剤。
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