JP4547481B2 - ポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、屈曲摩耗性および屈曲耐久性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維の効率的な製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSという)は、耐熱性と耐薬品性に優れたポリマであることから、これらの優れた特性を生かした工業用部品、繊維、工業用織物、フィルム、シートおよびプレートなどの各種成形品として広く用いられてきた。
【0003】
しかし、PPSからなる繊維、特にモノフィラメントは、繰り返し屈曲と擦過を受けた時の耐摩耗性(以下、屈曲摩耗性という)に劣るばかりか、工業用織物に製織する時に経糸が繊維軸方向に割れやすいなど屈曲耐久性にも劣るという問題があり、従来よりこれらの問題点の改善が求められていた。
【0004】
PPS繊維、特にモノフィラメントの各種特性の改善技術については、従来から種々の検討が行われており、例えば、特開平62−299513号公報には、メルトフローレート(以下、MFRという)が200以下の直鎖状PPSを溶融押出し、60℃以上の温水中で冷却することにより得られた未延伸モノフィラメントを、引き続いて一次延伸倍率/全延伸倍率の比が0.88より小さい一次延伸倍率で一次延伸した後、全延伸倍率が4倍以上になるように多段延伸し、さらに200〜280℃の空気浴中で弛緩熱処理することにより、引張強度および結節強度の向上したPPSモノフィラメントを製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特公昭64−3961号公報には、PPS未延伸糸を自然延伸比以上の倍率で一段延伸した後、150〜260℃でかつ一段目の延伸温度以上で定長熱処理するか、または同様の温度領域で全延伸倍率が一段目の延伸倍率の1〜2倍になるように二段延伸することにより、PPS繊維の機械的特性、耐熱性および耐薬品性を向上させる方法が開示されている。
【0006】
さらに、特開平2−53913号公報には、MFR160のPPSにアイオノマーを配合した組成物を溶融紡糸し、85℃の温水浴で急冷した後、100℃の蒸気浴中4.7倍に一次延伸し、さらに160℃の空気浴中で1.269倍に二次延伸し、引き続き180℃の空気浴中で0.97倍の引き取り比で弛緩熱処理することにより、PPSモノフィラメントの屈曲摩耗性、屈曲疲労性および機械的特性を向上させる方法が開示されている。
【0007】
さらにまた、特開平4−222217号公報には、PPSモノフィラメントの製糸時における延伸や熱セット工程で、PPSの融点以上を含む高温で短時間熱処理することにより、PPSモノフィラメントの屈曲摩耗性、屈曲疲労性および機械的特性を向上させる方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記の従来法、特に特開平2−53913号公報および特開平4−222217号公報に記載の方法により得られるPPSモノフィラメントは、屈曲摩耗性、つまり屈曲摩耗試験における切断までの往復摩耗回数が高々4500回程度であり、さらなる改善が要求されていた。
【0009】
また、上記特開平2−53913号公報に記載の方法により得られるPPSモノフィラメントは、アイオノマの含有を必須としていることから、実質的に100%PPSからなるモノフィラメントであって、かつ屈曲摩耗性および屈曲疲労性が一層改善されたPPSモノフィラメントの実現がしきりに望まれていた。
【0010】
さらに、上記特開平4−222217号公報に記載の方法は、延伸や熱セット工程においてPPSの融点以上を含む高温を必要とすることから、適性な条件が取りにくく、生産性が低いという問題を有しており、屈曲摩耗性および屈曲疲労性が一層改善されたPPSモノフィラメントを、さらに効率的な方法によって製造することが、当該分野における大きな課題となっていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するために検討した結果なされたものであり、引張強度、引張伸度および引掛強度などの機械的特性に優れると共に、屈曲摩耗性および屈曲耐久性が従来よりも一層優れたPPS繊維の効率的な製造方法の提供を目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意研究した結果、PPSを溶融紡糸し冷却した後、加圧飽和水蒸気雰囲気下の特定の条件で一次延伸を行うことにより、驚くべきことに、屈曲摩耗性および屈曲耐久性が顕著に改善され、かつ機械的特性も十分に高度に維持されたPPS繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
本発明のPPS繊維の製造方法は、メルトフローレートが180g/10分以下であり実質的に直鎖分子構造のポリフェニレンサルファイドを溶融押出し、空気層もしくは不活性気体層を介し70℃以上の温水中で冷却することにより得られた未延伸糸を、引き続いてゲージ圧0.98〜98kPaの飽和水蒸気雰囲気下で、0.1〜20.0秒の間に3.0〜4.1倍の範囲に1次延伸し、さらに110〜160℃の雰囲気下で1.0〜1.8倍の範囲でその全延伸倍率が4.0倍〜7.0倍となるよう多段延伸した後、次いで110〜175℃の雰囲気下で0.75〜1.00倍の範囲で弛緩熱処理することを特徴とする。
【0016】
なお、本発明のPPS繊維の製造方法においては、前記1次延伸を、ゲージ圧0.98〜49kPaの飽和水蒸気雰囲気下で、0.5〜10.0秒の間に行うことがより好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の製造方法で得られたPPS繊維は、JIS L1013の規定に準じて測定した引張強度が2.65cN/dtex以上、同じく引張伸度が30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、同じく引掛強度が3.53cN/dtex以上、好ましくは3.97cN/dtex以上であり、かつ、JIS L−1095−7.10.2Bの規定に準じ後述する条件にて測定した屈曲摩耗試験における切断までの往復摩耗回数が7000回以上、好ましくは7500回以上、より好ましくは8500回以上、JIS P−8115の規定に準じ後述する条件にて測定した屈曲疲労試験における切断するまでの往復折り曲げ回数が150回以上、好ましくは200回以上という、従来にない優れた特性を有するものである。
【0020】
本発明のPPS繊維を構成するPPSとは、ポリマの繰り返し単位の90%以上がp−フェニレンサルファイドからなるポリマであり、工業的には、p−ジクロルベンゼンに硫化ナトリウムを重縮合反応させて得ることができる。また、p−ジクロルベンゼンの10モル%未満のトリクロルベンゼンを分岐成分として共重縮合させたポリマであってもよい。
【0021】
なお、原料PPSとしては、MFRが180g/10分以下、特に150g/10分以下で、実質的に直鎖分子構造のものが好ましく使用される。
【0022】
ここで、MFRとは、ASTM D1238−86に準拠して、316℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.00mm、荷重5Kgの条件で測定した値であり、10分あたりの流出ポリマ量(g)で表される。
【0023】
PPSは、重縮合後のPPSを水洗しただけのものの場合は、末端に主としてカルボン酸ナトリウム末端基を有している。また、重縮合後のPPSを酢酸水溶液で洗浄した後に水洗したものは、末端にカルボン酸末端基を有している。さらに、重縮合後のPPSを酢酸カルシウム水溶液で洗浄した後に水洗したものは、末端にカルボン酸カルシウム末端基を有している。ただし、カルボン酸末端基を有するPPSが少量の−COONa末端基を有していてもよく、カルボン酸金属末端基を有するPPSが少量のカルボン酸末端基を有していてもよい。
【0024】
本発明のPPS繊維を構成するPPSは、市販品を入手してこれを使用することができる。PPSの市販品としては、例えばカルボン酸金属末端基を有するPPSである東レ社製品のE1880(MFR:70g/10分)、E2080(MFR:100g/10分)、E2280(MFR:170g/10分)およびM2588(MFR:300g/10分)などを挙げることができる。
【0025】
PPSは通常、粉末で得られるポリマであるが、溶融紡糸に供する前にエクストルダーなどで粉末PPSを融点以上の温度に加熱して溶融・混練した後に、必要に応じてフィルター類でろ過して異物を取り除き、ガット状に押し出して冷却後カッティングするなどの方法により、ペレット状に加工して用いることができる。
【0026】
また、PPS粉体あるいはPPSペレットからオリゴマー類を除去する目的で、溶融紡糸などの成形に供する前に、PPS粉体あるいはPPSペレットを概ね100〜180℃で1〜24時間、減圧下で乾燥して用いることが好ましい。
【0027】
本発明で使用する原料PPSは、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子などの粒子類のほか、従来公知の抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種強化繊維類、フッ素樹脂類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類およびポリスチレン類などが添加されたものあってもよい。
【0028】
次に、上記の優れた特性を有するPPS繊維の製造方法について説明する。
【0029】
本発明のPPS繊維の製造方法においては、PPSを溶融紡糸するが、使用する原料PPSのMFRは、上記したように180g/10分以下、特に150g/10分以下のものが好ましい。
【0030】
まず、押出機により溶融温度約285〜350℃で溶融したPPSをノズルから押出し、空気層もしくは不活性気体層を介し70℃以上の温水中で冷却する。
次に、得られた未延伸糸を、引き続いてゲージ圧0.98〜98kPa、好ましくはゲージ圧0.98〜49kPa、の加圧飽和水蒸気雰囲気下、かつ0.1〜20.0秒間、好ましくは0.5〜10.0秒間の間で、3.0〜4.1倍に1次延伸する。次いで、110〜160℃、好ましくは110〜150℃の雰囲気下で、1.0〜1.8倍の範囲でその全延伸倍率が4.0倍〜7.0倍になるよう多段延伸し、引き続いて110〜175℃、好ましくは110〜160℃の雰囲気下で0.75以上1.00未満で弛緩熱処理することにより、屈曲耐久性と強靱な機械的特性とを兼備したPPS繊維を得ることができる。
【0031】
本発明のPPS繊維の製造方法における最大の特徴は、未延伸糸を加圧飽和水蒸気雰囲気下で一次延伸することであり、具体的にはゲージ圧0.98〜98kPa、好ましくはゲージ圧0.98〜49kPaの加圧飽和水蒸気雰囲気下、かつ0.1〜20.0秒間、好ましくは0.5〜10.0秒間の間で、3.0〜4.1倍に一次延伸することにある。
【0032】
一次延伸における加圧飽和水蒸気圧のゲージ圧が上記の範囲未満の場合には、屈曲耐久性の低下を招き、また上記の範囲を越える場合には、スーパードローが発生して安定した延伸の遂行が実施し得なくなる。
【0033】
一次延伸における延伸時間上記の範囲未満では、屈曲耐久性の低下を招き、上記の範囲を越えると、スーパードローが発生し、上記と同様に安定した延伸の遂行が実施し得なくなる。
【0034】
したがって、一次延伸における上記加圧飽和水蒸気圧のゲージ圧および延伸時間の各条件は、安定した延伸を実施可能で、かつ優れた屈曲耐久性と強靱な機械的特性を兼備したPPS繊維を得る上での重要な条件である。
【0035】
さらに、多段延伸するにあたっては、二次延伸以降を110〜160℃、好ましくは110〜150℃の雰囲気下で行う必要があり、延伸温度が上記の範囲未満では、糸切れが発生し安定した製糸性を得ることができず、また上記の範囲を越えると、屈曲耐久性の低下を招くことになる。この原因については現時点では定かではないが、高い熱歴により非晶部の結晶化が促進され、柔軟性が損なわれるために起こる現象であると推察される。この温度雰囲気下において、1.0〜1.8倍の範囲で、その全延伸倍率が4.0倍〜7.0倍になるよう多段延伸することにより、屈曲耐久性と強靱な機械的特性とを兼備したPPS繊維が得られる。
【0036】
次いで、弛緩熱処理をするにあたっては、110〜175℃、好ましくは110〜160℃の雰囲気下で行う必要があり、熱処理温度が上記の範囲未満では、十分な熱処理が行われず、上記の範囲を越えると、屈曲耐久性の低下を招くため好ましくない。この原因については現時点では定かではないが、高い熱歴により非晶部の結晶化が促進され、柔軟性が損なわれるために起こる現象であると推察される。この雰囲気下において、0.75以上1.00未満の条件下で弛緩熱処理することにより、屈曲耐久性と強靱な機械的特性とを兼備したPPS繊維が得られる。
【0037】
かくして、本発明の製造方法により得られるPPS繊維は、上記したような優れた物性を有する新規な繊維である。
【0038】
上記した製造方法によりPPS繊維の屈曲耐久性が顕著に改善される理由については未だ定かではないが、非常に低結晶、無配向の未延伸糸を加圧飽和水蒸気雰囲気下のような熱量が豊富な条件で延伸することにより、非晶部は低配向の非晶らしく、また結晶部は配向した結晶として形成されるため、柔軟な屈曲耐久性と強靱な機械的特性を兼備した繊維が形成されることに起因するものと推定される。
【0039】
本発明の製造方法で得られるPPS繊維は、直径が0.050mmから4.00mmのモノフィラメントであるばあに特に優れた効果を発現するが、モノフィラメント以外のマルチフィラメントなどの形態のものをも包含する。また、繊維の形態としては、単一構造の他に、芯鞘複合糸、海島型複合糸、バイメタル複合糸および多層複合糸などの種々の形態を含むものである。
【0040】
本発明でいうPPSモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸である。
【0041】
モノフィラメントに代表される本発明のPPS繊維の繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、円、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドッグボーン状、繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。本発明のモノフィラメントに代表されるPPS繊維を工業用織物の構成素材として用いる場合には、繊維の断面形状が円もしくは扁平の形状であることが好ましい。特に、PPSモノフィラメントを抄紙用ドライヤーキャンバスの経糸として用いる場合には、防汚性を有効に発現させることとキャンバスの平坦性という観点から、モノフィラメントの断面形状が扁平なものが好ましく用いられる。本発明における扁平とは、楕円、正方形もしくは長方形のことであるが、数学的に定義される正確な楕円、正方形もしくは長方形以外に、概ね楕円、正方形もしくは長方形に類似した形状、例えば正方形および長方形の4角を丸くした形状を含むものである。また、楕円の場合は、この楕円の中心で直角に交わる長軸の長さ(LD)と短軸の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあり、正方形もしくは長方形の場合は、長方形の長辺の長さ(LD)と短辺の長さ(SD)とが、それぞれ式1.0≦LD/SD≦10の関係を満足することが好ましい。
【0042】
なお、上記PPSモノフィラメント断面の重心を通る線分の長さは、用途によって適宜選択することができるが、0.05〜4.0mmの範囲であることが好ましい。
【0043】
なお、工業用織物とは、モノフィラメントに代表されるPPS繊維を、織物の緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した抄紙ドライヤーキャンバス、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトもしくは各種フィルターのことであり、これらの工業用織物は、屈曲耐久性、耐熱性および耐薬品性が優れるという有用な特性を発揮するものである。
【0044】
ここで、抄紙ドライヤーキャンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後するスパイラル状の糸モノフィラメントをかみ合わせ、かみ合わせ部分をほぼ直線上のモノフィラメントによって織継がれた繰り返し構造のスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。また、不織布の熱接着工程用ベルト布とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。さらに、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトとは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理のなどのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。さらにまた、各種フィルターとは、高温の液体、気体、粉体などをろ過するために使用する織物のことである。
【0045】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明の繊維の好ましい形態の一つであるモノフィラメントに代表されるPPS繊維、このPPS繊維を使用した工業用織物およびPPS繊維の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0046】
なお、実施例におけるPPS繊維の屈曲耐久性の尺度となる屈曲切断回数および屈曲摩耗切断回数の測定は次の方法で行なったものである。
1.屈曲切断回数の測定
JIS P−8115に準じ、屈曲疲労試験機(東洋精機製;MIT屈曲疲労試験機)により、荷重:0.25g/d、振れ回数:175回/分、振れ角度:約270度(左右に各約135度)、繊維を挟む折り曲げコマにおける左右の折り曲げ面の曲率半径:各々0.38≦0.03mmの条件で、同一試料につき各10本の繊維について夫々切断するまでの往復折り曲げ回数を測定して平均値を求めた。この平均値が大きいほど屈曲疲労性が良好なことを表す。
2.屈曲摩耗切断回数の測定
JIS L−1095−7.10.2Bに準じて、固定されたφ3.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−SF))の上に接触させた繊維を、前記摩擦子の左右各55度角度で斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離:70mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して繊維の一端に0.2g/dの荷重をかけてセットする。繊維試料を往復回数:105回/分、往復ストローク:25mmの条件で摩擦子に接触往復させて、同一試料につき各10本のモノフィラメントについて夫々切断するまでの往復折り曲げ回数を室温にて測定して平均値を求めた。この平均値が大きいほど耐屈曲摩耗性が良好なことを表す。
3.引張強度、引張伸度、引掛強度の測定
JIS L1013に準じて、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定した。引掛強度は、測定試料のデシテックス単位に当たりに換算して得た値である。
[実施例1〜4、比較例1]
MFRが70g/10分、100g/10分、140g/10分、180g/10分、225g/10分のPPSペレット(東レ(株)社製)を、それぞれ135℃で8時間減圧で乾燥して用意した。
【0047】
この各PPSペレットを、φ40mm(L/D=25)の1軸エクストルダーに連続供給し、330℃で溶融した溶融ポリマをギアポンプを経て紡糸パック内の濾過層を通した後、円形断面糸用紡糸口金から繊維状に押出し、80℃の温水で冷却した。
【0048】
次いで、冷却糸条をゲージ圧4.9kPaの加圧飽和水蒸気雰囲気下かつ4.1秒間で3.8倍に一次延伸を行ない、150℃の熱風中で1.2倍に二次延伸し、次いで、140℃、0.98倍の条件で弛緩熱処理することにより、直径0.45mmの円形断面を有するモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントの強伸度、屈曲耐久性の試験結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
表1の結果から明らかなように、MFR180g/10分以下のPPSから得られたモノフィラメント(実施例1〜4)は、屈曲摩耗回数が7000回以上、屈曲疲労回数が150回以上の極めて優れた耐屈曲性を有すると共に、引張強伸度および引掛強度が良好なものであった。これに対して、MFRの高いPPSから得られたモノフィラメント(比較例1)は耐屈曲性が不十分なものであった。
[実施例2、5〜7、比較例2〜6]
MFRが100g/10分のPPSペレット(東レ(株)社製)を135℃で8時間減圧で乾燥して用意した。
【0050】
このPPSペレットをφ40mm(L/D=25)の1軸エクストルダーに連続供給し、330℃で溶融した溶融ポリマをギアポンプを経て紡糸パック内の濾過層を通して円形断面糸用紡糸口金から繊維状に押出し、80℃の温水で冷却した。
【0051】
次いで、一次延伸雰囲気を、ゲージ圧0.98kPa、4.9kPa、49kPa、98kPa、117.6kPaの各加圧飽和水蒸気雰囲気下として4.1秒間の条件および熱水浴100℃、ポリエチレングリコール浴110℃、140℃、乾熱浴105℃として、それぞれ4.1秒間の各条件に設定し、これらの各延伸雰囲気に冷却糸条を通して、それぞれ3.8倍に第1段延伸を行なった。
【0052】
そして、上記各一次延伸糸条を、次いで150℃の熱風中で1.2倍に二次延伸し、さらに、140℃、0.98倍の条件で弛緩熱処理することにより、直径0.45mmの円形断面を有するモノフィラメントを得た。得られた各モノフィラメントの強伸度、屈曲耐久性の試験結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
表2の結果から明らかなように、第1延伸浴がゲージ圧0.98kPa〜98kPaの加圧飽和水蒸気雰囲気下で1段延伸したPPSモノフィラメント(実施例2、5〜7)は、いずれも屈曲摩耗回数が7000回以上、屈曲疲労回数が150回以上の極めて優れた耐屈曲性を有すると共に、引張強伸度および引掛強度が良好なものであった。これに対して、第1延伸浴がゲージ圧117.6kPaと高い加圧飽和水蒸気雰囲気下とした場合(比較例2)や、第1延伸浴を加圧飽和水蒸気雰囲気下以外に雰囲気下とした場合(比較例3〜6)には、製糸性が劣るか、あるいは耐屈曲性が不十分であり、本発明が目的とするPPS繊維を得ることができない。
[実施例2、8〜13、比較例7、8]
実施例2における1次延伸の加圧飽和水蒸気滞浴時間を0.05秒、0.1秒、0.5秒、1.0秒、4.1秒、8.0秒、10.0秒、20.0秒、40.0秒に変更した以外は、実施例2と同様の条件にて得たPPSモノフィラメントの物性評価結果を表3に併示する。
【0054】
【表3】
表3の結果から明らかなように、1次延伸の加圧飽和水蒸気滞浴時間が0.1秒〜20秒で得られたPPSモノフィラメント(実施例8〜13)は、極めて優れた耐屈曲性を有すると共に、引張強伸度および引掛強度が良好である。
[実施例2、14〜18]
実施例2における一次延伸倍率を3.0倍、4.1倍に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を、実施例14、15として表4に併示する。
【0055】
さらに、実施例2における2次延伸温度を120℃に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を、実施例16として、実施例2における熱処理温度を165℃および125℃に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を実施例17、18として表4に併示する。
【0056】
【表4】
[比較例9〜17]
実施例2における一次延伸倍率を2.8倍、5.0倍に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を比較例9、10として表5に併示する。
【0057】
さらに、実施例2における2次延伸温度を103℃、180℃に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を比較例11、12として、また、実施例2における熱処理温度を190℃、102℃に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を比較例13、14として表5に併示する。
【0058】
さらに、実施例2における全延伸倍率を3.8倍、7.6倍に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を比較例15、16として表5に併示する。
【0059】
さらに、実施例2における熱処理倍率を0.68倍に変更した以外は、実施例2と同様にして得られたPPSモノフィラメントの物性評価結果を比較例17として表5に併示する。
【0060】
【表5】
[比較例18]
実施例2における熱処理倍率を1.02倍に変更した以外は、実施例2と同様にして比較例18を行ったが、得られたPPSモノフィラメントは延伸歪みが取れておらず、捲縮し使用に耐えるものではなかった。
【0061】
表4、5の結果からは、1次延伸倍率は3.0倍〜4.1倍、全延伸倍率は4.0倍〜7.0倍、2次延伸温度は110℃〜160℃の範囲の条件とすることが重要であり、次いで110℃〜175℃、0.75〜1.00倍の条件で弛緩熱処理することにより、極めて優れた耐屈曲性を有すると共に、引張強伸度および引掛強度が良好なPPSモノフィラメントが得られることがわかる。
[実施例19]
工業用織物の例として、実施例2で得たPPSモノフィラメントを緯糸および経糸に使用して2重織りの抄紙用ドライヤーキャンバスを作成した。このドライヤーキャンバス中の経糸の縦割れをチェックしたところ、経糸割れは認められなかった。
[比較例19]
比較のために、比較実施例1で得たPPSモノフィラメントを緯糸および経糸に使用して2重織りの抄紙用ドライヤーキャンバスを作成した。このドライヤーキャンバス中の経糸の縦割れをチェックしたところ、緯糸と重なった稜部の経糸割れがキャンバス100m2 あたり19ケ所存在した。
【0062】
実施例19と比較例19の結果からは、本発明のPPSモノフィラメントを使用したドライヤーキャンバスは屈曲耐久性に優れたものであることがわかる。
【0063】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のモノフィラメントに代表されるPPS繊維は、繰り返し屈曲を受けた時に割れ難く摩耗し難い優れた屈曲耐久性を有すると共に、引張強度、引張伸度および引掛強度などの機械的特性に優れるものであるため、抄紙ドライヤーキャンバスなどの工業用織物として産業上の利用価値が高いものである。
【0064】
また、本発明のPPS繊維の製造方法によれば、延伸や熱セット工程においてPPSの融点以上を含む高温を必要としないことから、適性な条件が取りやすく、優れた生産性のもとに、屈曲耐久性の優れたPPS繊維を効率的に製造することができる。
Claims (2)
- メルトフローレートが180g/10分以下であり実質的に直鎖分子構造のポリフェニレンサルファイドを溶融押出し、空気層もしくは不活性気体層を介し70℃以上の温水中で冷却することにより得られた未延伸糸を、引き続いてゲージ圧0.98〜98kPaの飽和水蒸気雰囲気下で、0.1〜20.0秒の間に3.0〜4.1倍の範囲に1次延伸し、さらに110〜160℃の雰囲気下で1.0〜1.8倍の範囲でその全延伸倍率が4.0倍〜7.0倍となるよう多段延伸した後、次いで110〜175℃の雰囲気下で0.75〜1.00倍の範囲で弛緩熱処理することを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
- 前記1次延伸を、ゲージ圧0.98〜49kPaの飽和水蒸気雰囲気下で、0.5〜10.0秒の間に行うことを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
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