本発明においては下記の化学式(II)で示されるラジカル重合開始剤(以下「開始剤II」という)を用いて重合を行い、メチルメタクリレート系(共)重合体を製造する場合は下記の化学式(III)で示されるラジカル重合開始剤(以下「開始剤III」という)を用いて重合を行うことが好ましい。なお、以下「ラジカル重合開始剤」は単に「開始剤」という。
(式中、Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)
開始剤IIIは、下記反応式に従って分解し、ラジカル種IVを発生する。
ラジカル種IVはメチルメタクリレート構造単位と同じ構造を有しているので、例えばメチルメタクリレート(以下「MMA」という)の重合において開始剤IIIを用いると分子末端まで全く同じ構造単位から形成されたポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」という)が得られる。MMAと他の単量体との混合物の重合を行う場合も、得られる共重合体の分子末端は、一方の共重合成分であるMMAと同様の構造単位から形成される。すなわち、開始剤IIIを用いて製造された重合体は、分子構造が均一である。さらに、MMA以外のメタクリレート系単量体の重合を行う際にも、その単量体の構造単位と分子末端の構造単位は類似する。このため、開始剤IIIを用いて製造されたメタクリレート系重合体は光学特性に優れ、光ファイバに用いた場合は光ファイバの伝送性能が向上する。
ラジカル種IVを発生する開始剤は、有機過酸化物では知られておらず、またアゾ゛系開始剤でも開始剤IIIが知られるのみであるため、本発明においては開始剤IIIを用いている。なお、開始剤IIIの重合温度毎の分解速度は和光純薬technical bulletin等に掲載されている。
他のメタクリレート系単量体の構造単位を主成分とする重合体を製造する場合は、その単量体の構造単位と、開始剤から発生するラジカル種とが同じ構造となるように開始剤を選択することも好ましい。例えば、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート系重合体を製造する場合、化学式(II)のRとして2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基を用いた開始剤IIを使用することが好ましい。
また本発明においては、重合体の分子量を調整する目的で連鎖移動剤好ましくは炭素数が3〜6個のアルキルメルカプタンを使用することができる。メルカプタン化合物が重合体中に残存すると、メタクリル系重合体においては成形加工時の熱履歴における着色原因となるため、揮発物除去工程で十分に除去することが望ましい。炭素数が3〜6個のメルカプタンは、常温で液体でありハンドリングが簡単な上、また比較的蒸気圧が高いために揮発物除去工程においてそのほとんどを除去することができる。その結果として、工業的に有利な、非常に不純分の少ない透明性に優れたメチルメタクリレート系重合体の製造が可能となる。
また本発明においては、塊状重合法または溶液重合法を用いて重合を行うことが好ましい。また、これらの重合は連続的に行うことが好ましい。さらに、溶剤を除去する工程を必要とせず、不純物の少ない重合体を製造できる塊状重合法を連続的に行うことが最も好ましい。
以下、本発明の構成を詳細に説明する。以下開始剤IIとして開始剤IIIを使用した場合について説明するが、Rがメチル基以外の開始剤IIも同様に使用可能である。
本発明に好ましく用いる開始剤IIIは、異物を除去してから用いることが好ましい。異物を除去するためには、例えば公知のフィルタを用いて開始剤IIIを濾過する。この開始剤IIIは、常温で液体であることから異物除去が容易である。また、一般に市販の開始剤IIIを用いた場合、通常製品中に開始剤III以外のものが含まれている。この場合、開始剤の純度、すなわち製品中に含まれる開始剤IIIの濃度は95重量%以上であることが好ましく、97重量%以上であることが更に好ましい。ここで、「異物」とは、ゴミや粉塵などをいい、特に0.02μm以上のものをフィルタで濾過することが好ましい。また、「開始剤III以外のもの」とは、開始剤IIIの製品中に含まれる合成原料や副生成物などの残留化合物をいう。
本発明に用いる単量体(混合物)としては、メタクリレート系単量体を90重量%以上含む単量体(混合物)が使用され、好ましくはMMA、またはMMAを50重量%以上より好ましくは80重量%以上含むMMAと他の単量体との混合物を用いる。なお、メタクリル系単量体は1種類使用することも複数種類使用することも可能であり、複数種類使用する場合はその合計量をメタクリル系単量体の含有量とする。MMAと混合する他の単量体は特に限定されないが、フルオロアルキルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メチルアクリレートなどの各種(メタ)アクリレート系単量体などが好ましく用いられる。
本発明において連鎖移動剤を使用する場合は、前述の炭素数3〜6個のアルキルメルカプタンを用いることが好ましい。このようなアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−プロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等が挙げられる。中でもn−ブチルメルカプタンが好ましい。
このような開始剤、メルカプタン及び単量体を反応槽内に供給して重合を開始する。その際、予め窒素等の不活性ガスを導入したり、減圧下に一定時間保持したりすることにより十分に溶存酸素を取り除いた後、反応槽内に供給することが好ましい。また、これらが反応槽内に供給される前に重合が開始することを防ぐため、開始剤は通常、反応槽の直前で混合されて供給される。
反応槽に供給された開始剤、メルカプタン及び単量体は反応槽内で攪拌混合される。その際、反応槽内に窒素などの不活性ガスを導入し、反応液の蒸気圧以上に加圧することが好ましい。
本発明において反応槽は公知のものが用いられるが、その内部を加熱および冷却できるようにジャケットを有しているものを使用することが好ましい。攪拌装置は公知のものが使用可能であり、例えばダブルヘリカルリボン翼、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)等が好ましい。また、攪拌動力を、1kW/m3〜5kW/m3の範囲として運転を行うことが好ましい。
反応槽内に供給される開始剤IIIの濃度は経済的にかつ安定した状態で重合を行うため、下記の式(1)〜式(4)を満足する範囲から選択することが好ましい。
ln(A)≦105.4−45126/B (1)
ln(A)≦2545.2/B−15.82 (2)
ln(A)≧225.9−102168.8/B (3)
ln(A)≧1300.0/B−15.74 (4)
ただし、
A:重合開始剤濃度(重合開始剤量(mol)/単量体量(mol))
B:重合温度(°K)
ln:自然対数記号
反応槽内にさらに不活性溶媒を供給して溶液重合を行う際には開始剤IIIの濃度を下記式(5)〜式(8)を満たす範囲から選択することが好ましい。
ln{A×(1−C)5}≦105.4−45126/B (5)
ln{A×(1−C)5}≦2545.2/B−15.82 (6)
ln{A×(1−C)5}≧225.9−102168.8/B (7)
ln{A×(1−C)5}≧1300.0/B−15.74 (8)
ただし、
C:不活性溶媒濃度(不活性溶媒量(g)/反応槽に供給される単量体、重合開始剤、連鎖移動剤及び不活性溶媒の総量(g))
A、B、及びlnは上記の式(1)〜式(4)の場合と同じ
開始剤IIIの濃度が式(1)又は式(5)で規定された濃度を上回ると、反応槽へ反応混合物が付着したり、反応混合物が反応槽以外において後重合したりする。そのため、重合体の分子量が不均一となり、またゲル状物などの異物が発生しやすくなるので、得られる重合体の光学特性が劣化する。
また、開始剤IIIの濃度が式(2)又は式(6)で規定された範囲を上回ると、反応槽内において開始剤と単量体を均一に混合することが難しくなり、操業安定性が悪化する。その結果、重合体の分子量が不均一となり、ゲル状物などの異物が発生しやすくなり、やはり重合体の光学特性が悪化する。
さらに、開始剤IIIの濃度が式(3)又は式(7)で規定された範囲を下回ると、二量体を主成分とするオリゴマーの生成量が増大するため、例えば得られた重合体をプラスチック光ファイバ(以下「光ファイバ」という)に用いた場合、光ファイバの吸収損失が増大する。
そして開始剤IIIの濃度が式(4)又は式(8)で規定された範囲を下回ると、二量体を主成分とするオリゴマーの生成量が増大すると共に、重合体の収率が悪化して経済性が損なわれる。
式(1)〜式(4)の条件をグラフに示したのが図1である。開始剤濃度、および重合温度すなわち重合進行中の反応混合物の温度は、グラフ中4本の曲線で囲まれる斜線で示す領域の中から選択される。
また重合温度は110℃〜160℃の範囲から適宜選択される。重合温度が160℃を超えると二量体の生成量が多くなる。この二量体は通常の揮発物の除去方法では完全に分離しにくく、重合体に残存して密度ゆらぎの原因となり、重合体の光学特性の劣化を招く。これを防ぐため、二量体を除去しようとした場合、揮発物を除去する際に反応混合物を高い温度まで加熱しなければならず、その高温での加熱が重合体の着色原因となる。光学特性がより優れた重合体をより安定に製造するためには重合温度を150℃以下とすることが好ましく、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは130℃以下である。
一方、重合温度が110℃を下回ると、重合体の分子量が不均一となり重合体の収率が悪化するおそれがある。
なお、重合温度は、所望の温度が一定に維持されるように、反応槽のジャケット温度、及び単量体の供給温度を調節すること等により制御される。
また、重合方法として連続塊状重合法を用いる場合、重合反応域における反応混合物の重合体含有率は、反応混合物中の二量体の生成量を低減するため30重量%以上が好ましい。また、反応混合物中の重合体の分子量を均一にし、反応混合物の重合温度を制御しやすくするため、反応混合物中の重合体含有率は70重量%以下とすることが好ましく、60重量%以下とすることがより好ましい。さらに安定に重合を行うために、140℃以下の重合温度における重合体含有率は、50重量%以下であることが好ましい。ここで重合反応域とは、反応槽内に供給された開始剤IIIと単量体が実質的に均一に撹拌混合され、重合が進行して反応混合物となっている領域をいう。
重合体の分子量を調節する場合は、通常メルカプタン類等の連鎖移動剤を反応槽内に添加する。しかしながら、透明性に優れたメタクリル系重合体を得るためには、未反応のメルカプタンのほとんどを揮発物除去工程で除去する必要があるが、炭素数の多いメルカプタンは蒸気圧が低いために、揮発物除去工程の負担が大きくなると言う問題があった。そのため本発明では、比較的蒸気圧の高いメルカプタンとして炭素数が3〜6個のアルキルメルカプタンを使用することが好ましい。炭素数が3より少ないと常温で簡単に気化するため、ハンドリングが難しい。また、6より多いと蒸気圧が低いため、揮発物除去工程の負担が大きくなる。また、炭素数が3〜6個のメルカプタンの使用量は限定されず、分子量の調整に見合う量を使用すればよい。連鎖移動剤としては特にn−ブチルメルカプタンを使用することが好ましい。n−ブチルメルカプタンは、沸点がメチルメタクリレートとほぼ等しいので、揮発物除去工程で回収した揮発物を重合反応域に再利用するために蒸留精製により揮発物から高沸物や低沸物を分離除去した後も、n−ブチルメルカプタンはメチルメタクリレート単量体と分離されず、単量体に溶解した状態で回収できる。そのため、アルキルメルカプタンとしてn−ブチルメルカプタンを使用すると再利用することができる。
ところが、現在一般的に使用されている揮発物除去法により回収された揮発物中には、単量体やメルカプタン以外に原因不明の着色物質が含有されていることがある。そこで、揮発物を再利用する場合は、後述する方法により揮発物を精製し、後述する揮発物除去工程において除去された揮発物中から単量体(混合物)を抽出して再利用することが好ましい。なお、この揮発物精製工程において抽出された単量体(混合物)は、再び反応槽内に戻入することも可能であり、通常の単量体(混合物)として他の用途に利用することも可能である。
本発明において重合体の生産性を良好にし、かつ粉塵や重合体のゲル化物の混入を極力低減するためには、重合を連続で行うこと、すなわち開始剤IIIと単量体と好ましくはさらに炭素数3〜6個のアルキルメルカプタンから選ばれるメルカプタン化合物とを反応槽に連続的に供給し重合を進行させ、反応槽から反応混合物を連続的に取り出すことが好ましい。このとき、反応混合物の重合反応域における平均滞留時間は、1時間〜6時間であることが好ましく、2時間〜6時間程度であることがより好ましい。
重合の後、反応槽から取り出された反応混合物は、公知のポンプ等を用いて好ましくは連続的に揮発物除去工程に送られる。
揮発物を除去する方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよい。例えばベントエクストルーダ型押し出し機などに反応混合物を供給することにより揮発物を除去することができる。その際、押出機内の温度を高くすると揮発物はより効果的に除去されるが、揮発物除去後に得られる重合体が着色するなど劣化するおそれがあるので、押出機内の温度は揮発物を除去できる範囲でできるだけ低くすることが好ましい。具体的には押出機内の温度は190℃〜260℃程度とすることが好ましい。なお、揮発物とは、未反応単量体、二量体、未反応のメルカプタン等をいう。
生産性を良くするためには、揮発物の除去装置に反応混合物を連続的に供給することが好ましい。
本発明において揮発物を精製する際の精製方法は、微量のメルカプタン系化合物を含有する単量体を分子状酸素の存在下、銅、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む触媒を用いて、少なくとも塩素を含む化合物を存在させて行う、単量体の精製法であることが好ましい。
この精製方法において、精製時に存在させる分子状酸素源としては、空気、酸素冨化した空気、酸素等を用いる。
この精製方法は、液相、気相のいずれで行ってもよい。
液相で精製を行う方法としては、例えば微量のメルカプタン系化合物を含有する単量体に分子状酸素の存在下、触媒を添加し、必要に応じ攪拌下に一定時間保持する方法がある。分子状酸素は、反応液100mlに対して0.1〜50ml/分の範囲で供給することが好ましい。触媒としての金属化合物の使用量は、単量体中の不純物として含まれているメルカプタン系化合物1重量部あたり金属として0.01〜1重量部とすることが好ましい。精製は、好ましくは0〜80℃の温度範囲、より好ましくは20〜60℃の範囲で行う。
一方、気相で精製を行う方法としては、気化させた微量のメルカプタン系化合物を含有する単量体を加熱下で触媒と接触させる方法がある。触媒は通常固定床で使用されるが、移動床や流動床で使用してもよい。この際の接触時間は0.1〜10秒が好ましい。メルカプタン系化合物を含有する単量体の気化方法としては、常圧で単量体の沸点以上に加熱する方法、または減圧下で気化する方法などがあり、特に限定はない。その際、窒素、アルゴン、水蒸気などの不活性気体によって希釈してもよい。
分子状酸素の供給量は、気化した被精製液の体積に対して0.01〜0.5倍容、すなわち、メルカプタン系化合物を含有する単量体の0.01〜0.5倍モルである。精製は、通常、温度が100〜200℃で、圧力が数10kPaの減圧から数100kPaの加圧までの所望の条件が採用される。触媒と接触させた気体状の単量体は、冷却下液体として捕集する方法、溶媒によって吸収捕集する方法など通常の方法によって液体状で捕集することが好ましい。
この精製方法において触媒として使用される銅、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む触媒としては、精製を液相で行う際には、これら金属元素の塩化物を除く化合物で、例えば、蟻酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、オレイン酸塩、ナフテン酸塩等のカルボン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、アセチルアセトナート等の錯化合物、酸化物およびこれらの混合物が挙げられる。これら化合物は市販のものが使用できる。
また、精製を気相で行う際の触媒としては、前記金属元素を含む酸化物触媒等を用いることができ、特に一般式XaSibAlcOd(ここでSi、AlおよびOはそれぞれケイ素、アルミニウムおよび酸素を示し、Xは銅、コバルト、ニッケルおよびマンガンよりなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。a,b,cおよびdは各元素の原子比を表し、a=1のときb=0〜50、c=0〜50でdは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比である。)で表される触媒が好ましい。
一般式XaSibAlcOdで表される化合物の製法としては、特殊な方法に限定されるものではなく、成分の著しい偏在を伴わない限り、例えば従来よりよく知られている蒸発乾固法、沈殿法、酸化物混合法等により得られる触媒前駆体を、打錠するなどして適宜所望の形状に成形した後、熱処理する方法が挙げられる。熱処理は、通常200〜700℃の範囲の温度で、処理時間30分以上行うことが好ましい。これらの触媒の製造に当たり、触媒成分の原料としては各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物等を組み合わせて使用することができる。
精製に際して存在させる少なくとも塩素を含む化合物としては、分子状塩素、塩酸、塩化ナトリウム、塩素酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化銅、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化マンガン等いずれの形態の塩素原子含有化合物でもよく、これらは触媒の製造時に加えて触媒中に固定化しても、精製時に被精製液や気体中に存在させてもよい。少なくとも塩素を含む化合物の量は使用する触媒に対して微量でよく、触媒100重量部に対して塩素原子として0.001〜10重量部の範囲が好ましい。少なくとも塩素を含む化合物の量が0.001重量部未満では顕著な反応促進効果が認められず、また10重量部を超えて存在させると反応装置等への影響が懸念される。
以上のようにして捕集された単量体は、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合防止剤を適宜添加して蒸留処理を行うことによりメルカプタン系化合物から転化したジスルフィド等の少ない、高純度の単量体を取得することができる。蒸留の条件としては特に限定はないが、減圧下、数10℃の温度に加熱して行うことが好ましい。
本発明において溶液重合法を採用する場合は、単量体、開始剤IIIに加えて溶媒を反応槽内に供給する。溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、酢酸n−ブチルなど公知の溶剤が使用可能である。メタノール、メチルエチルケトン、エチルベンゼン、酢酸n−ブチルなどが特に好ましい。単量体、開始剤III、連鎖移動剤及び溶媒の合計量に対する溶媒の含有量は40重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
重合反応域における反応混合物の重合体含有率は工業的に優位に生産するために40〜70重量%であることが好ましい。また、溶媒は揮発物除去工程において揮発物と一緒に回収することが好ましい。その際の方法は特に限定されず、例えばベントエクストルーダ型押出機などに反応混合物を供給する方法が用いられる。押出機内の温度は190℃〜260℃程度とすることが好ましい。
本発明の方法により得られた重合体を用いて光ファイバを製造すると伝送性能に優れた光ファイバを得ることができる。
光ファイバの構造は特に限定されず、例えば芯鞘が同心円状に積層され、その界面で屈折率が急激に変化するSI型光ファイバ、中心から外周に向かって屈折率が連続的に変化するGI型光ファイバ、中心から外周に向かって屈折率が段階的に変化する光ファイバなどが挙げられる。本発明により製造された重合体は光学特性に優れているので、光ファイバに光を透過させた際に光が主に通過する部分、例えばSI型光ファイバにおいては芯を構成する成分に用いることが好ましい。
光ファイバを製造する際には、複数の材料を同心円状に積層して吐出する複合紡糸ノズルを用いて紡糸することが好ましい。このとき、重合体中への粉塵の混入の可能性をできるだけ小さくし、重合体の熱履歴を少なくするためには、揮発物を除去された重合体を直接複合紡糸ノズルに供給することが好ましい。複合紡糸ノズルとしては二層以上のものが適宜用いられる。例えば中心から外周に向かって屈折率が段階的に変化する光ファイバを製造する際には三層以上の複合紡糸ノズルを用いる。またSI型光ファイバを製造する際には二層の複合紡糸ノズルの内層に芯成分を外層に鞘成分をそれぞれ供給して紡糸する。なお、光ファイバの製造方法は複合紡糸ノズルを用いる方法に限定されるものではなく、SI型光ファイバを製造する場合、例えば芯成分のみを紡糸し、その外層に鞘成分を溶融塗布する方法などが用いられる。
SI型光ファイバを製造する際の鞘成分としては、例えばフッ化ビニリデンとフルオロアルキルビニルエーテル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、または酢酸ビニルなどとの共重合体などが使用できる。また、フッ化アルキルメタクリレート、フッ化アルキルアクリレート等とメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等との共重合体等も使用できる。好ましいものとして、フッ化ビニリデンを主成分とする重合体が挙げられる。この重合体としては、例えばフッ化ビニリデンを75〜99重量%含有するフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、フッ化ビニリデン75〜95重量%とテトラフルオロエチレン4〜20重量%とヘキサフルオロプロペン1〜10重量%とからなる共重合体、フッ化ビニリデン75〜95重量%とテトラフルオロエチレン4〜20重量%とフッ化ビニル1〜5重量%とからなる共重合体などが挙げられる。
ところで、 プラスチック光ファイバは、無機ガラスを芯材とする光ファイバに比べて大口径かつ軽量で、加工性や施工性に優れていることから、短距離光伝送分野において急速に使用され始めた。しかしながら、その光透過性に関しては、未だ十分に満足しうる性能は得られておらず、そのためプラスチック光ファイバはせいぜい数十m程度の光伝送に使用されているのが現状である。
このプラスチック光ファイバの光伝送損失(透光損失)の原因は、芯材の重合体に依存するところが大であり、重合体固有の光吸収やレーリー散乱、及び重合体の製造中に発生する重合体中の不純物や熱履歴による着色などが原因となる光吸収や光散乱による損失が相当大きい。したがって、より光学的に透明な重合体を芯材に用いてプラスチック光ファイバを製造することが性能向上の鍵である。
芯材に特定の重合体を用いることにより透光性能を高めた光ファイバが、特開平2−158702号公報、特開昭63−94203号公報および特開昭63−95402号公報に開示されている。特開平2−158702号公報には、メチルメタクリレートの単独重合体、あるいはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体からなる重量平均分子量が8万〜20万の重合体を芯とし、該芯よりも屈折率の低い重合体を鞘とするプラスチック光ファイバで、芯の中に酢酸ブチルが存在しその濃度が1000ppm以下であるプラ スチック光ファイバが開示されている。
しかしながら、そもそもこの光ファイバの芯の中に酢酸ブチルが存在するのは、酢酸ブチルを溶媒とした溶液重合によって重合体を製造しているためであり、このような透光損失を増大させる酢酸ブチルが残存する光ファイバは十分な性能が発現できない。
特開昭63−94203号公報には、芯成分がポリメチルメタクリレート単位を少なくとも80重量%以上有する重合体であり、鞘成分が該芯成分重合体よりも2%以上屈折率の小さい重合体からなる芯鞘型プラスチック光ファイバーにおいて、400nm波長の光線の透光損失が400dB/km以下であり、かつ芯成分重合体に含有される重合体単位の二量体が、該重合体に対して200ppm以下であることを特徴とするプラスチック光ファイバが開示されており、二量体含有量を200ppm以下にすることにより透光損失を低減化することができるとされている。
特開昭63−95402号公報には、芯成分がポリメチルメタクリレート単位を少なくとも80重量%以上有する重合体であり、鞘成分が該芯成分重合体よりも2%以上屈折率の小さい重合体からなる芯鞘型プラスチック光ファイバーにおいて、芯成分重合体に含有される残存メチルメタクリレートと残存メチルメタクリレート二量体とが、
300≧0.025×A+B (V)
A:残存メチルメタクリレート量[ppm]
B:残存メチルメタクリレート二量体量[ppm]
の関係式を満足し、かつ芯成分重合体に含有される残存メチルメタクリレート量が、芯成分重合体中のメチルメタクリレート単位からなる重合体に対して4000ppm以下であることを特徴とする芯鞘型プラスチック光ファイバが開示されており、メチルメタクリレート単量体とメチルメタクリレート二量体の残存量を適正量に規制することにより透光性能(光伝送性能)に優れたプラスチック光ファイバが得られるとされている。
しかしながら、以上に列挙した光ファイバは何れも、メルカプタン系連鎖移動剤の存在下で重合した重合体を芯成分としているため、連鎖移動剤に含まれる硫黄原子に起因してプラスチック光ファイバの光伝送性能が低下するという大きな問題があった。
そこで、特開平2−43506号公報には、メチルメタクリレートを生成分とする重合体を芯とし、該芯よりも屈折率の低い重合体を鞘とするプラスチック光ファイバにおいて、芯成分として、メチルメタクリレートを主成分とする単量体をメルカプタン系連載移動剤の非存在下に重合したメチルメタクリレートを主成分とする重合体を用いて構成したことを特徴とするプラスチック光ファイバが開示されている。
しかしながら、メルカプタン系連鎖移動剤の非存在下で塊状重合を行うと、重合体が必要以上に高分子量になるため、紡糸加工性に優れた重合体を得ることが困難となる。すなわち、紡糸加工時に光学ゆがみが増大し透光性能に優れたプラスチック光ファイバが安定に得られない。そのため、実際には不活性溶媒を使用する溶液重合法により重合を行うが、不活性溶媒を使用すると、芯材の重合体中に不活性溶媒が残存することとなり、このことが透光性能を低下させる原因となる。また、不活性溶媒を使用すると溶媒の分離回収工程が必要となり工程が複雑化する。
我々は、透光性能に優れたプラスチック光ファイバを提供すべく、鋭意研究を重ねた結果、次に記す形態を有することにより極めて透光性能に優れたプラスチック光ファイバを完成することができた。
すなわち本発明は、芯材中の、(共)重合体に結合している硫黄原子の含有量が200ppm以上1000ppm以下であり、かつ該芯材中の、(共)重合体に結合していない硫黄原子の含有量が5ppm以下である光ファイバを提供するものである。上記光ファイバの発明に於いて、(共)重合体に結合していない硫黄原子の含有量が1ppm以下であるものが好ましい。
また本発明では、上記芯材の(共)重合体が、ラジカル開始剤に起因する分子末端構造が下記の式(VI)で示される光ファイバが好ましい。
(式中Rはアルキル基又はフルオロアルキル基)
また、前記光ファイバの発明に於いて、芯材がメチルメタクリレートの単独重合体、あるいはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体から構成されてなる光ファイバが好ましい。
また上記発明では、上記芯材の(共)重合体が、ラジカル開始剤に起因する分子末端構造が下記の式(VII)で示される光ファイバが好ましい。
また、前記光ファイバの発明に於いて、芯材として互いに共重合組成と屈折率が異なる(共)重合体から構成される2種類以上の芯材を用い、これら2種類以上の芯材が中心から外周部に向かって屈折率が順次低下するように同心円状に積層されてなる光ファイバが好ましい。また、この場合、芯材が、メチルメタクリレートの単独重合体、メチルメタクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとからなる共重合体、及びメチルメタクリレートとベンジルメタクリレートからなる共重合体から構成される群から選択される光ファイバが好ましい。
また前記光ファイバの発明に於いて、芯部をそれぞれ備えた複数個の島部を有し、これら複数個の島部が他の(共)重合体により互いに隔てられた状態で集束されてなる光ファイバが好ましい。
また本発明は、上記光ファイバの外周部に被覆層が形成されてなる光ファイバーケーブルである。
また本発明は、上記光ファイバケーブルの先端にプラグが配置されてなるプラグ付き光ファイバケーブルである。
また本発明は、重合開始剤と、炭素数3〜6のアルキルメルカプタンと、1種類の単量体又は2種類以上の単量体混合物を反応槽に供給して、(共)重合体を含有する反応混合物を得、
該反応混合物を、細孔又はスリットを通して減圧下にあるベント型脱揮押出機の供給部のスクリューに直接吹き付けることによってベント型脱揮押出機に供給し、揮発物を除去して(共)重合体を得、該(共)重合体を芯材として光ファイバを製造する方法であって、
ベント型脱揮押出機への反応混合物の供給量、並びにベント型脱揮押出機のスクリュー径及びスクリュー回転数が下記式(9)の関係を満足することを特徴とする光ファイバの製造方法である。
Q≦0.002×φ2×√N (9)
ただし、
Q:反応混合物供給量[リットル/hr]
φ:スクリュー径[mm]
N:スクリュー回転数[rpm]
上記製造方法に於いて、反応槽に供給される単量体の1種類がメチルメタクリレートであるのが好ましい。
また本発明は、芯材がメチルメタクリレートの単独重合体、あるいはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体から構成されてなる前記光ファイバの製造方法であって、重合開始剤と、炭素数3〜6のアルキルメルカプタンと、メチルメタクリレート単量体もしくはメチルメタクリレート単量体と他の共重合可能な単量体との混合物とを反応槽に供給して、メチルメタクリレート(共)重合体を30〜60重量%含有する反応混合物を得、該反応混合物を、予熱温度170〜205℃に加熱し、かつ該予熱温度におけるメチルメタクリレートの蒸気圧以上に加圧してベント型脱揮押出機に供給し、揮発物を除去してメチルメタクリレート(共)重合体を得、該(共)重合体を芯材として光ファイバを製造する方法であって、前記反応混合物は、細孔または狭いスリットを通して減圧下にあるベント型脱揮押出機の供給部のスクリューに直接吹き付けることによってベント型脱揮押出機に供給され、前記ベント型脱揮押出機は、少なくとも最下流に設けられたベント部の温度が230〜270℃で且つ圧力が50Torr以下である光ファイバの製造方法である。
以下、本発明の構成を詳しく説明する。
本発明の光ファイバの芯材を構成する重合体は、特に限定されないが、(メタ)アクリレート系単量体からなる(共)重合体であることが好ましい。メチルメタクリレート単量体の単独重合体、あるいはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体であることがさらに好ましい。メチルメタクリレートと共重合可能な単量体としては特に限定されないが、フルオロアルキルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メチルアクリレートなどの各種(メタ)アクリレート系単量体などが好ましく用いられる。フルオロアルキルメタクリレートとしては、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレートがメチルメタクリレートとの共重合性に優れているので好ましい。メチルメタクリレート系共重合体の場合は、メチルメタクリレート単位が50重量%以上含有されていることが好ましく、60重量%以上含有されていることがより好ましい。特に好ましくは80重量%以上である。
通常、芯材を構成する重合体は、単量体(混合物)、例えばメチルメタクリレート系(共)重合体を製造する場合はメチルメタクリレート単量体、またはメチルメタクリレート単量体と他の共重合体可能な単量体との混合物を、ラジカル重合開始剤およびメルカプタン系連鎖移動剤の存在下において、回分的あるいは連続的に一定時間加熱して重合反応を行った後、得られた反応混合物から未反応単量体などの揮発物を除去する工程を経て製造される。また、場合によっては適当な不活性溶媒が透光性能を阻害しない程度に少量、好ましくは20重量%以下より好ましくは10重量%以下の範囲で使用される。
重合体の製造は、好ましくは次のようにして行う。完全混合型反応器1器を用い、重合温度110〜160℃の範囲で、実質的に均一に攪拌混合を行いながら、平均滞在時間2〜6hrで重合を行い、重合体含有率が好ましくは30〜70重量%より好ましくは30〜60重量%の反応混合物を連続的に製造する。
揮発物を除去する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることが可能であるが、本発明では反応混合物から揮発物を除去した後において重合体中の重合体に結合していない硫黄成分(硫黄原子として)の含有量が5ppm以下であることが重要である。そのためには、揮発物除去工程の処理能力および揮発物除去工程に供給される反応混合物の量を調整することが好ましい。
効率的に揮発物を除去するには、例えば、特公昭52−17555号公報に記載のベント型押し出し機を用いることにより良好に揮発物の除去が達成できる。この場合、重合体を好ましくは30〜70重量%の割合で含む反応混合物を予め170℃以上に加熱昇温した後、細孔またはスリット等の狭い間隙を通して、ベント押し出し機の供給部のスクリュに直接吹き付け、揮発物の大部分を500torr以下の圧力条件下にある第一ベント部で分離回収し、さらに残揮発物を該第一ベント部の下流に設けた第二ベント部で、200℃〜270℃好ましくは230℃〜270℃、圧力50torr以下において除去することが好ましい。更に下流に、230℃〜270℃、圧力50torr以下の条件下にある第三ベント部を設けて揮発物を除去してもよい。なお、揮発物とは、未反応単量体、二量体、未反応のメルカプタン等をいう。
上記方法において、重合体含有率を70重量%より大きくすると、重合反応を安定に行うことが困難となる。また、重合体含有率が30重量%未満では揮発物除去の負担が大きくなり、工業的に利点がない。
また、予熱温度が170℃未満では、揮発物を除去するのに必要な熱量が不足するため揮発物が多くなり、本発明の組成を有する重合体を製造することが困難である。予熱温度を205℃より高くすると、揮発物の除去は有利であるが、予熱部接液面において硫黄成分に起因すると考えられる着色物の付着生成がみられ、この着色物が同伴することにより光伝送損失が増大する傾向がある。予熱温度の好ましい範囲は185〜205℃である。
また、ベント押出機として単軸のベント押出機を使用した場合、重合体に結合していない硫黄成分の含有量を5ppm以下にするための、反応混合物の供給量とベント押し出し機の大きさの関係は、
Q≦0.002×φ2×√N (9)
Q:反応混合物供給量[リットル/hr]
φ:スクリュ径[mm]
N:スクリュ回転数[rpm]
を満足するように選択することが好ましい。
特にこの条件を満たすとともに、ベント押出機に供給される反応混合物の予熱温度を170℃以上とすると、硫黄成分の除去効果が格段に向上する。
本発明における重合体の製造方法は、揮発物を除去した後の重合体中の重合体に結合していない硫黄成分の含有量が5ppm以下にできれば、回分式、連続式のいずれであってもよい。
本発明における重合体の製造には、光ファイバとして賦形する際に溶融時の粘度を調整すること、及び賦形時における構造形成による散乱因子増大を防ぐことを目的として、重合体の分子量を調整するためにメルカプタン系連鎖移動剤を使用する。その連鎖移動剤のうち、連鎖移動反応によって重合体と結合した硫黄成分は、加熱した場合の光吸収損失や加湿した場合の散乱損失を大きくすることはなく、かえって耐熱分解性を高める。一方、結合しない状態で重合体中に残存しているメルカプタン及びジスルフィド化合物は加熱により容易に着色する。そのため、紡糸加工工程における熱履歴により着色が起こりやすくなり、特に、600nm以下の波長域で吸収損失が大きくなる。また、紡糸加工された光ファイバにおいても、メルカプタン及びジスルフィド化合物が、高温下における吸収損失の増大や高湿下における散乱損失を誘起する。このようなメルカプタン及びジスルフィド化合物の残存が、光伝送性能に優れた光ファイバを構成し、長期間にわたって光伝送特性を維持する上で非常に大きな障害となっている。
そのため本発明においては、重合体の分子量を適正範囲に制御するためにメルカプタン系連鎖移動剤を使用し、かつ重合体の耐熱分解性を良好にするために芯材中の重合体に結合している硫黄原子の含有量が200ppm以上1000ppm以下であるとともに、着色を防ぐために重合体に結合していない硫黄原子の含有率が5ppm以下であることが必要である。
重合体に結合している硫黄原子の含有量は400ppm以上800ppm以下が好ましい。重合体に結合している硫黄原子の含有量が少なすぎると、重合体の耐熱分解性が不十分となり、例えば溶融紡糸法により光ファイバを製造する場合、重合体の溶融粘度が高くなりすぎて紡糸が困難となる。逆に硫黄原子の含有量が多すぎると溶融粘度が低くなりすぎて紡糸が困難になる。
重合体に結合していない硫黄原子、すなわち着色成分である未反応のメルカプタン、及びこのメルカプタンの反応により生成するジスルフィド化合物は、前述の揮発物除去工程において硫黄原子としての総含有量が5ppm以下になるように取り除く必要がある。好ましくは3ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下であり、理想的には、検出できない範囲にまで取り除くことがよい。
本発明を満足するために使用するメルカプタンとしては、例えばn−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンを使用することができる。蒸気圧の低いメルカプタンを使用すると揮発物除去工程の負担が大きくなるため、比較的蒸気圧の高いメルカプタンを使用することが好ましい。この点でn−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン等の炭素数が3〜6個のアルキルメルカプタンが好ましい。さらに、連鎖移動定数の大きいメルカプタンの方が使用量を少なくできるためn−ブチルメルカプタンが最も好ましい。
本発明において芯材としてメタクリレート系重合体を使用する場合、重合体は、上記硫黄原子の含有条件に加えて、開始剤に起因する分子末端構造が、下記式(VI)、特にメチルメタクリレート系重合体を使用する場合に式(VII)であることにより、さらに透光性能を向上させることができる。なお、式中の「n」は1以上の自然数である。
(式中Rはアルキル基又はフルオロアルキル基)
すなわち、ラジカル開始剤に起因する分子末端構造が式(VII)に示す構造であるということは、その分子末端がメチルメタクリレート単量体の構造と同じであることを意味している。そのため、開始剤による異なる分子構造に起因する光吸収および光散乱の影響を受けることなくメチルメタクリレートの優れた透光性能を十分に発揮させることが可能である。
そもそも重合体を製造する際の開始剤の使用量はわずか数十ppmであるため、従来技術では開始剤に起因する重合体の末端構造にまで注意が払われることがなかった。しかしながら、光ファイバのような究極的に透明性が要求される分野においてはわずかの透光損失の増加も性能上致命的になる場合がある。我々は、真に透光性能に優れた材料を追求した結果、重合開始剤に起因する重合体の末端構造という従来にない全く新しい着眼点のもと鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
式(VII)で表現される末端基構造を有する重合体を製造できる開始剤としては、例えばジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を挙げることができる。
ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を使用する効用としては、開始剤末端構造がメチルメタクリレート構造と同じになるということ以外にも存在する。通常、開始剤は分解してラジカルを発生し重合反応を開始するとともにその一部のラジカルは再結合して重合反応を開始しない安定な化合物を生じる。ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)は、分解して生じたラジカルが再結合した場合、そのほとんどは本発明で使用するメチルメタクリレート単量体を生成する。従って、単量体以外の不純物が極めて少ない重合体が製造できるということになる。
本発明においてはさらに、芯材を構成する重合体の重量平均分子量が、7万以上10万以下であることを満足することにより、さらに透光性能を向上することができる。
重量平均分子量が7万以上10万以下であることは、紡糸加工時に比較的低温で良好な流動性を発現させるために重要である。すなわち、光ファイバを製造する際には、芯材の重合体と、別途製造した、芯材の重合体より屈折率の低い重合体とを溶融状態で別々に複合紡糸ノズルに供給して紡糸する方法が好ましく用いられる。その際に重合体を高温で加熱することは、成分の分解等により着色を起こすため透光損失を大きくする。そのため、できるだけ低温で溶融し、かつ熱を受けている時間が短いことが求められる。また、比較的低温であっても溶融粘度が高い状態で紡糸加工を行うと、光学ひずみが残り光伝送性能が低下する。そのため、比較的低温で良好な流動性を有することが必要である。
こうした理由により、メチルメタクリレート系重合体においては、比較的低温で溶融紡糸できるように重量平均分子量を10万以下とすることが好ましい。10万以下であれば、加熱温度をそれほど高くする必要がないため着色に起因する光吸収損失の増大が抑えられ、また溶融粘度がそれほど高くないため光学ひずみも起きにくく、十分な透光性能を発現させることができる。また、重量平均分子量が7万以上であれば、伝送性能に優れるとともに、折れ等に対する機械的強度を十分に有するため光ファイバとしての使用に耐えることができる。
本発明の光ファイバの構造は、特に限定されず、例えば芯と鞘の同心円二層構造で、その界面で屈折率が急激に変化するSI型光ファイバ、芯の屈折率が中心から外周に向かって連続的に変化するGI型光ファイバ、芯が中心から外周に向かって屈折率が段階的に減少するように多層で構成される多層光ファイバなどが挙げられる。
多層光ファイバは、芯が、屈折率が異なる(共)重合体からなる非混合層が積層された構造を有することが好ましい。このとき隣接する層間には隣接する層を構成する(共)重合体の混合層を形成することも可能である。本発明においては、芯を構成する(共)重合体の一部または全部が以上に説明した重合体好ましくはメチルメタクリレート系重合体にて構成される。多層光ファイバの芯を構成する(共)重合体としては同じ単量体から製造され、共重合組成比が異なる(共)重合体を隣接する非混合層として用いると、非混合層間の界面における散乱損失が小さくなるので好ましい。
なお、GI型光ファイバ及び多層光ファイバは、芯のみから構成することも、芯の外周部に芯の外周部よりも屈折率が低い重合体からなる鞘を設けることも可能である。鞘は複数層から構成することも可能である。
また、本発明の光ファイバは、複数の島部が互いに隔てられた状態で共通の海部により一体化されてなる海島型の光ファイバとすることもできる。海島型の光ファイバにおいては、島部全体を芯とすることも島部を芯と鞘から構成することも可能である。各島部を前述した多層光ファイバと同様の構造とすることも可能である。又、光ファイバを曲げた際に光ファイバ外部に漏れる光(曲げ損失)を少なくするためには、各島部の直径は250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。又、この海島型光ファイバは、各島部に異なる光信号を入射させ、多重通信用として使用することも可能である。
また、本発明において、芯鞘構造または海島型の光ファイバの外周部に保護層を形成することもできる。
鞘材および保護層材としては、例えばフッ化ビニリデンとフルオロアルキルビニルエーテル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン又は酢酸ビニル等との共重合体等が使用できる。また、フッ化アルキルメタクリレート、フッ化アルキルアクリレート等とメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等との共重合体等も使用できる。
好ましいものとして、フッ化ビニリデンを主成分とする重合体、及びフッ化アルキルメタクリレートを主成分とする重合体が挙げられる。このフッ化ビニリデンを主成分とする重合体としては、例えばフッ化ビニリデンを75〜99重量%含有するフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとの共重合体、フッ化ビニリデン75〜95重量%とテトラフルオロエチレン4〜20重量%とヘキサフルオロプロペン1〜10重量%とからなる共重合体、フッ化ビニリデン75〜95重量%とテトラフルオロエチレン4〜20重量%とフッ化ビニル1〜5重量%とからなる共重合体等が挙げられる。また、フッ化アルキルメタクリレートを主成分とする重合体としては、短鎖フルオロアルキルメタクリレート、長鎖フルオロアルキルメタクリレート、メチルメタクリレート(及びメタクリル酸)の共重合体や、メチルメタクリレートと長鎖フルオロアルキルメタクリレート及びメタクリル酸の共重合体等が挙げられる。
海島型光ファイバの海部を構成する材料としては、前記の鞘材および保護層として例示した重合体などが使用可能である。
本発明の光ファイバは、その外周に被覆層を配置して光ファイバケーブルとして使用することができる。被覆層としては、従来使用されているナイロン12、ポリ塩化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリエチレン、ポリウレタン、ペルプレン等を用いることができる。
また、光ファイバケーブルの先端にプラグを配置したプラグ付き光ファイバケーブルとして使用することができる。プラグとしては公知のものが使用可能である。
本発明の光ファイバを製造する際には、公知の方法が使用可能である。SI型、GI型、及び多層光ファイバを製造するには、複数の材料を同心円上に積層して吐出する複合紡糸ノズルを用いて紡糸することが好ましい。複合紡糸ノズルとしては二層以上のものが適宜用いられる。例えば、中心から外周に向かって屈折率が段階的に変化する光ファイバを製造する際には三層以上の複合紡糸ノズルを用いる。また、SI型光ファイバを製造する際には、二層の複合紡糸ノズルの内層に芯材を外層に鞘材をそれぞれ供給して紡糸する。なお、光ファイバの製造方法は、複合紡糸ノズルを用いる方法に限定されるものではなく、SI型光ファイバを製造する場合、例えば芯材のみを紡糸し、その外層に鞘材を溶融塗布する方法などが用いられる。また、海島型光ファイバを製造する場合は、公知の複合紡糸ノズルを使用して紡糸することが好ましい。
以下、実施例によりさらに本発明を詳細に説明する。
なお、芯材に用いた重合体の各性質は次のようにして求めた。
(1)重合体中の硫黄成分含有量の測定
(i)重合体に結合している硫黄原子の含有量の測定
ドーマン微量電量滴定装置MCTS−130を用いて測定した。あらかじめ硫黄原子濃度既知の標準試料を測定して検量線を作成した。次に、芯材に用いた重合体をその10倍量のアセトンに溶解させ、その溶液をメタノール中に滴下して重合体を沈殿させ、重合体のみを分離回収して乾燥させて重合体試料とした。その重合体試料を測定し、検量線から読みとった値を重合体単位量当たりに換算した数値を重合体に結合している硫黄原子量とした。
(ii)重合体に結合していない硫黄原子の含有量の測定
装置はHP社製ガスクロマトグラフ5890SERIES IIを用い、カラムはジーエルサイエンス(株)製TC−WAX長さ30m、内径0.53mm、膜厚1.0μmのものを用いた。検出器は、硫黄に高い感度を有する炎光光度検出器を使用し、重合体中に残存するn−ブチルメルカプタンあるいはn−オクチルメルカプタン、及びこれらのメルカプタン同士の反応により生成するジスルフィド化合物の定量分析を行った。定量分析は、溶媒をアセトンとし、あらかじめ濃度既知の標準液を測定して検量線を作成した後、重合体濃度約13wt/vol%で溶解した試料溶液を測定し、検量線から得られた定量値を硫黄原子換算した値を重合体に結合していない硫黄原子の含有量とした。
なお、n−ブチルメルカプタンを用いた場合はn−ブチルメルカプタンとジ−n−ブチル−ジスルフィドの硫黄原子換算した値の合計値、n−オクチルメルカプタンを用いた場合はn−オクチルメルカプタンとジ−n−オクチル−ジスルフィドの硫黄原子換算した値の合計値とした。
(2)GPCによる分子量の測定
装置はTOSOH製HLC−8020を使用し、カラムとしてGMHXL(TOSOH製)2本を用いた。溶媒はTHFとし、TOSOH製TSK標準ポリスチレンを用いて検量線を作り、試料は静置溶解した濃度0.1g/dlの溶液を用いた。
重量平均分子量Mw、および重量平均分子量Mwと数平均分子量の比Mw/Mnは市販のGPCデータ処理装置(TOSOH製データ装置SC−8010)によって求めた。
(3)繰り返し屈曲試験
曲げ半径15mmで180度屈曲を繰り返し行い、光ファイバの芯材が折れるに至った回数で規定する。
(4)残存モノマー、残存二量体量の測定 光ファイバに紡糸した後、ファイバの芯成分のみを取り出して測定サンプルとし、ガスクロマトグラフィにより測定した。
(実施例1)
精製したMMAに、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製V−601、純度99重量%)を1.5×10-5(mol)/単量体1(mol)の割合で、n−ブチルメルカプタン(ELF ATOCHEM NORTH AMERICA INC製、純度99.5重量%)を1.75×10-3(mol)/単量体1(mol)の割合でそれぞれ添加した混合物を反応槽に連続的に供給した。その際、重合温度は135℃に制御し、反応槽内に供給された混合物は攪拌翼により撹拌混合した。重合反応域における反応混合物の平均滞留時間を4時間として、重合を実施した。
重合反応後、反応槽から反応混合物を連続的に取り出し、ポンプを用いて送液し、連続的にベントエクストルーダ型押し出し機に供給して揮発物を分離除去して重合体を得た。
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は44重量%であり、二量体含有率は0.05重量%であった。また、反応混合物から揮発物を分離して得た重合体の残存モノマー率は0.1重量%であり、二量体の含有量は0.03重量%以下であった。さらにこの重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC法)により測定した重量平均分子量(Mw)は95000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であり、この重合体は極めて分子量分布の狭いものであった。また、熱天秤により測定した加熱減量温度は286℃、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。また、360時間の連続運転においても、操業が極めて安定しており、運転終了後に反応槽内を観察しても装置への重合体の付着及び異物の生成等は認められなかった。
引き続き、二層の複合紡糸ノズルを用い、この重合体を芯材として二層の複合紡糸ノズルの内層に供給し、別途製造した2、2、2−トリフルオロエチルメタクリレートの重合体を鞘材として複合紡糸ノズルの外層に供給して、複合紡糸ノズルの温度を210℃として溶融複合紡糸を行うことにより芯鞘構造を有する光ファイバを得た。
この光ファイバの透光性能を評価した。波長520nm,570nm,650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ70dB/km、62dB/km、133dB/kmと伝送損失が小さく極めて光学特性に優れたものであった。
(実施例2)
単量体としてMMA98重量%、メチルアクリレート2重量%の単量体混合物を用い、開始剤濃度を1.3×10-5(mol)/単量体1(mol)とし、重合温度を150℃とした他は実施例1と同様に光ファイバーを得た。
なお、反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は52重量%であり、この反応混合物から揮発物を分離除去して得た重合体の残存モノマー率は0.09重量%であった。
また、光ファイバの透光損失は520nm、570nm、650nmの各波長でそれぞれ82dB/km、78dB/km、138dB/kmであり、この光ファイバは極めて光学特性に優れたものであった。
(実施例3〜8)
実施例1と同様の方法により実施した。表1に製造条件を実施例1、2と合わせて記す。記載以外の条件は実施例1と同様である。
(実施例9)
実施例1において、n−ブチルメルカプタンをn−オクチルメルカプタンにした以外は全く同様の方法で光ファイバを製造した。透光損失は、波長520nm、570nm、650nmにおいてそれぞれ、120dB/km,87dB/km、135dB/kmであった。メルカプタンが十分に除去されていないため、短波長領域における伝送損失は若干大きかったが開始剤に起因して特に長波長領域における伝送損失が改善された。結果を表1に示す。
(比較例1)
開始剤として2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)を用い、開始剤量を1.2×10-5(mol)/MMA1(mol)とした以外は実施例1と同様に光ファイバを得た。
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は46重量%であり、この反応混合物から揮発物を分離除去して得た重合体の残存モノマー含有率は0.1重量%、二量体の含有率は0.03重量%であった。また、光ファイバの透光損失は570nm、650nmの各波長でそれぞれ80dB/km、140dB/kmであり、その光学特性は十分なものではなかった。
(比較例2)
表2に示す単量体混合組成および重合条件で48時間、重合を行った。その他の条件は実施例1と同様である。
しかし、表に示すように反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は42重量%から50重量%の範囲で大きく変動し、また重合温度も安定せず、安定操業が困難であった。運転終了後、反応槽内を観察したところ、槽内にはゲル状の重合体付着物が多量に発生していた。
また、得られた重合体を用いて実施例1と同様に製造した光ファイバは、ファイバ径が均一でなく部分的に太くなっている箇所が多数発生しており、工業的に使用できるレベルではなかった。
(比較例3)
表2に示す単量体混合組成および重合条件で24時間、重合を行った。その他の条件は実施例1と同様である。
しかし、表2に示すように重合温度は130℃から140℃の範囲で安定せず、反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は40重量%から55重量%の範囲で大きく変動し、安定操業が困難であった。運転終了後、反応槽内を観察したところ、槽内にはゲル状の重合体付着物が多量に発生していた。
また、得られた重合体を用いて実施例1と同様に製造した光ファイバは、分子量の高い重合体塊(ゲル状物)が不均一に分散しており、ファイバ径が均一でなく太い領域と細い領域が繰り返されており、工業的に使用できるレベルではなかった。
(比較例4)
表2に示す単量体混合組成および重合条件で100時間、重合を行った。その他の条件は実施例1と同様である。
反応混合物から揮発物を分離除去して得た重合体の残存モノマー率は0.1重量%、二量体含有率は0.5重量%であり、二量体含有率の非常に高い重合体であった。
この重合体を用いて実施例1と同様に製造した光ファイバの透光損失は、波長520nm、570nm、650nmにおいてそれぞれ、140dB/km、95dB/km、140dB/kmと短波長領域において特に伝送損失が大きかった。
(比較例5)
表2に示す単量体混合組成および重合条件で100時間、重合を行った。その他の条件は実施例1と同様である。
反応混合物から揮発物を分離除去して得た重合体の残存モノマー率は0.2重量%、二量体含有率は0.6重量%であり、二量体含有率の非常に高い重合体であった。また、重合反応域における重合体含有率が低く、重合体の生産性は低かった。
この重合体を用いて実施例1と同様に製造した光ファイバの透光損失は、波長520nm、570nm、650nmにおいてそれぞれ、142dB/km、95dB/km、140dB/kmと短波長領域において特に伝送損失が大きかった。
(実施例10)
精製したMMAにジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製V−601,純度99重量%)を1.8×10-5モル/単量体1モルの割合で、n−ブチルメルカプタン(ELF ATOCHEM NORTH AMERICA INC製、純度99.5重量%)を1.8×10-3モル/単量体1モルの割合でそれぞれ添加した混合物を完全混合型反応器に連続的に供給した。重合温度は130℃に制御されており、反応槽内に供給された混合物は攪拌翼により攪拌混合されていた。重合反応域における反応混合物の平均滞在時間を3.6hrとして、重合を実施した。
反応混合物を反応槽から連続的に取り出し、ポンプを用いて15リットル/hrで送液しながら190℃まで加熱昇温し、連続的にスクリュ径40mmのリアベント式3ベント単軸脱揮押し出し機に供給して揮発物を分離除去して重合体を得た。供給部の圧力(リアベント(第一ベント))は100torr、第二ベント及び第三ベント部の圧力は50torrであり、供給部押し出し機温度は220℃、第二ベント及び第三ベント部の押し出し機温度は240℃に設定した。スクリュ回転数は60rpmである。反応混合物の供給量と揮発物除去後の重合体回収量から計算される反応槽から取り出した直後の反応混合物の重合体含有率は45重量%であった。 押し出し機先端から押し出された重合体を密閉状態のまま連続的に直接、二層の複合紡糸ノズルに導いた。二層の複合紡糸ノズルの内層にこの重合体を芯材として供給し、外層に鞘材として別途製造した2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート51重量部、1,1,2,2−テトラヒドロパーフルオロデシルメタクリレート30重量部、メチルメタクリレート18重量部およびメタクリル酸1重量部からなる重合体を供給して溶融複合紡糸を行い、芯鞘構造を有するファイバ径1000μmの光ファイバを得た。この時、複合紡糸ノズルのノズル圧は30kg/cm2で一定に管理し、その時のノズル温度は220℃であった。
このようにして得られた光ファイバの透光性能と芯材中の残存揮発分を評価した。
この光ファイバの芯材を構成する重合体のみを取り出して測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.24重量%であり、二量体(ダイマー)の含有量は0.05重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分(硫黄原子として)の含有量(結合硫黄量)は600ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分(硫黄原子として)の含有量(残存硫黄量)は0.7ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は90000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ70dB/km、62dB/km、125dB/kmと小さく、極めて光学性能に優れたものであった。
また、この光ファイバをポリエチレンで外径2.2mmに被覆した後に繰り返し屈曲試験を行ったところ2万回と優れた機械強度を示した。
(実施例11)
n−ブチルメルカプタン濃度を2.0×10-3モル/単量体1モルとした以外は、実施例10と同様な方法で重合体を得た。引き続き、ノズル温度を210℃とした点を除いて実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.20重量%であり、二量体の含有量は0.06重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は670ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分含有量は1.0ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は80000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ68dB/km、60dB/km、121dB/kmと小さく、極めて光学性能に優れたものであった。また、実施例10と同様にして行った繰り返し屈曲試験結果も1.5万回と優れた機械強度を示した。
(実施例12)
ジメチル2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を2.0×10-5モル/単量体1モルの割合で、n−ブチルメルカプタンを2.0×10-3モル/単量体1モルの割合でそれぞれ添加し、重合温度は126℃で、平均滞在時間を3.0hrとして、その他は実施例10と同様に重合を実施した。引き続き、ノズル温度を210℃とした点を除いて実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.16重量%であり、二量体の含有量は0.018重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は640ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分含有量は0.9ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は82000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ71dB/km、62dB/km、124dB/kmと小さく、極めて光学性能に優れたものであった。また、繰り返し屈曲試験結果も1.5万回と実施例11と比べて同じ結果を示した。
本実施例の重合体は、二量体含有率が低いこと以外は実施例11とほぼ同等の性質を有する。本実施例では、実施例11に比べて重合体中のモノマー含有率および二量体含有率が低いににも関わらず、透光損失は大きく変わらなかった。
(実施例13)
開始剤として、1.3×10-5モル/単量体1モルの2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)を用いた以外は実施例10と同様にして重合体を得た。なお、反応混合物の供給量と揮発物除去後の重合体生産量から計算される反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率も実施例10と同じ45重量%であった。引き続き、実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー含有率は0.23重量%、二量体の含有率は0.05重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は610ppmで重合体に結合していない硫黄成分含有量は0.7ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は90000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ82dB/km、72dB/km、130dB/kmであった。また、繰り返し屈曲試験結果は実施例10と同じく2.0万回と優れた機械強度を示した。
本実施例は、開始剤の種類が違うのみでその他はほぼ実施例10と同様である。本実施例は残存モノマー率、二量体含有量、分子量、熱履歴を実施例10とほぼ同じにしているにも関わらず透光損失はやや大きいものであった。しかしながら、重合体中の重合体に結合していない硫黄成分が少ないため、既存の製造技術で作製した光ファイバよりも伝送性能に優れていた。
(実施例14)
n−ブチルメルカプタン濃度を1.4×10-3モル/単量体1モルとした以外は、実施例10と同様な方法で重合体を得た。引き続き、ノズル温度を235℃とした点を除いて実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.24重量%であり、二量体の含有量は0.06重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は490ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分含有量は1.2ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は110000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ81dB/km、70dB/km、132dB/kmであった。実施例10よりも透光損失が大きくなったが、既存の製造技術で作製した光ファイバと比較して透光性能は良好なものであった。また、繰り返し屈曲試験結果は2.2万回と優れた機械強度を示した。
(実施例15)
n−ブチルメルカプタン濃度を2.5×10-3モル/単量体1モルとした以外は、実施例10と同様な方法で重合体を得た。引き続き、ノズル温度を205℃とした点を除いて実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.17重量%であり、二量体の含有量は0.02重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は720ppmで重合体に結合していない硫黄成分含有量は1.0ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は64000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は117℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
繰り返し屈曲試験結果は8千回と機械強度は比較的低い結果となったが、波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ68dB/km、60dB/km、120dB/kmと小さく、極めて光学性能に優れたものであった。
(比較例6)
実施例10において、n−ブチルメルカプタンの代わりにn−オクチルメルカプタン1.8×10-3モル/単量体1モルを使用して重合体を得た。引き続き、実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.24重量%であり、二量体の含有量は0.06重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は590ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分含有量は27ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は90000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は120℃と高く、この重合体は熱特性的には良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ92dB/km、85dB/km、136dB/kmであり、残存モノマー率、二量体含有量、分子量、熱履歴を実施例10とほぼ同じにしているにも関わらず透光損失が大きいものであった。
(比較例7)
実施例10において、揮発物除去工程の運転条件を、反応混合物を加熱昇温せず、重合温度と同じ130℃のまま押し出し機に供給し、供給部の圧力(リアベント)を600torr、第二ベント及び第三ベント部の圧力を50torrとして揮発物を除去して重合体を得た。引き続き、実施例10と同様にしてファイバ径1000μmの光ファイバを得た。
実施例10と同様にこの光ファイバの芯材の重合体のみを取り出し測定した結果、この重合体の残存モノマー率は0.41重量%であり、二量体の含有量は0.09重量%であった。
また、この重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は600ppmであり、重合体に結合していない硫黄成分含有量は8ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は90000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であった。また、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は117℃と高く、この重合体は熱特性的には良好であった。
波長520nm、570nm、650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ90dB/km、83dB/km、135dB/kmと、透光損失が大きいものであった。
以上の結果を表3にまとめた。
(実施例16)
MMAにジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬V−601、純度99重量%)を1.8×10-5モル/単量体1モルの割合で、n−ブチルメルカプタン(ELF ATOCHEM NORTH AMERICA INC製、純度99.5重量%)を1.8×10-3モル/単量体1モルの割合でそれぞれ添加した調製液1を反応槽1に連続的に供給した。これとは別にMMAと2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート(4FM)との混合物(80/20重量%)にジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬V−601、純度99重量%)を1.8×10-5モル/単量体1モルの割合で、n−ブチルメルカプタン(ELF ATOCHEM NORTH AMERICA INC製、純度99.5重量%)を1.8×10-3モル/単量体1モルの割合でそれぞれ添加した調製液2を反応槽2に連続的に供給した。重合温度は反応槽1、2とも130°Cに制御されており、反応槽内に供給された調製液は攪拌翼により攪拌混合されていた。重合反応域における反応混合物の平均滞在時間を3.6hrとして、重合を実施した。反応混合物を反応槽1、2からそれぞれ連続的に取り出し、ポンプを用いて15リットル/hrで送液しながら190°Cまで加熱昇温し、連続的にスクリュ径40mmのリアベント式3ベント単軸脱揮押し出し機1、2にそれぞれ供給して揮発物を分離除去して重合体を得た。供給部の圧力(リアベント(第1ベント))は100torr、第二ベント及び第三ベント部の圧力は50torrであり、供給部押し出し機温度は220°C、第二ベント及び第三ベント部の押し出し機温度は240°Cに設定した。スクリュ回転数は60rpmである。
反応混合物の供給量と揮発物除去後の重合体回収量から計算される反応槽1、2から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率はそれぞれ45重量%、47%であった。
また、脱揮押し出し機1から得られた重合体1の残存モノマー率はMMAが0.24重量%であり、脱揮押し出し機2から得られた重合体2の残存モノマー率はMMAが0.14重量%、4FMが0.11重量%であった。この重合体1及び2に化学結合している硫黄成分の含有量はそれぞれ600ppm及び560ppmであり、化学結合していない硫黄成分含有量はそれぞれ0.7ppm及び1ppmであった。
引き続き、脱揮押し出し機1、2の先端から押し出された重合体1、2を密閉状態のまま連続的に3層の複合紡糸ノズルに供給し、重合体1を第1コア(芯の内層)、重合体2を第2コア(芯の外層)、別途製造した1,1,2,2−テトラヒドロパーフルオロデシルメタクリレート(17FM)28重量部、MMA71重量部及びメタクリル酸(MAA)1重量部の重合体を鞘材として溶融複合紡糸を行うことにより多層構造を有するファイバ径750μmの光ファイバーを得、その透光性能を評価した。第1コアの直径は450μm、第2コアの厚みは135μm、鞘厚15μmとした。この時複合紡糸ノズルのノズル圧は30kg/cm2で一定で管理し、その時のノズル温度は220°Cであった。
この光ファイバの波長520nm、570nm、650nmにおける伝送損失はそれぞれ70dB/km、62dB/km、119dB/kmと伝送損失が小さく極めて光学性能に優れたものであった。
また、ファイバー長50mにおける伝送帯域は550MHzであった。
85℃及び70℃・相対湿度95%での耐久性試験を10,000hr行なったが、伝送損失の増加は30dB/km以下であり、伝送帯域もほとんど変化が見られなかった。
(実施例17)
製造条件を表Aに示すようにした点を除いて実施例16と同様に、4種類の芯材を製造し、これらの芯材と表Aに示す鞘材及び保護層材を6層の複合紡糸ノズルに供給して表Aに示す光ファイバを得た。評価結果を表Bに示す。
(実施例18)
製造条件を表Aに示すようにした点を除いて実施例16と同様に、3種類の芯材を製造し、これらの芯材と表Aに示す海材及び保護層材を多芯用複合紡糸ノズルに供給して、それぞれ3種類の芯材が同心円状に積層されてなる37個の島部が海部により集束され、その外周に保護層が形成されてなる表Aに示す海島構造の光ファイバを得た。この光ファイバの外周に塩化ビニルとエチレン/酢酸ビニル共重合体のブレンド品(東洋インキ社製:314)の被覆層を施し、外径φ2.2mmの多芯光ファイバケーブルを得たが、外周部の芯部にダメージは無かった。評価結果を表Bに示す。また、この光ファイバを5mに切断し、両端面を研磨して一端から光を入射して他端で各島部の明るさを観察した所、全体がほぼ均一な明るさであった。
(実施例19、20)
製造条件を表Aに示すようにした点を除いて実施例16と同様にして表Aに示す光ファイバを得た。評価結果を表Bに示す。
(比較例8)
製造条件を表Aに示すようにした点を除いて実施例16と同様にして表Aに示す光ファイバを得た。
しかし、反応槽1及び2において、反応混合物の重合体含有率は42重量%から50重量%の範囲で大きく変動し、また重合温度も安定せず、安定操業が困難であった。運転終了後、反応槽内を観察したところ、反応槽1及び2の槽内にはゲル状の重合体付着物が多量に発生していた。また、得られた重合体を用いて実施例16と同様に製造した光ファイバは、ファイバ径が均一でなく部分的に太くなっている箇所が多数発生しており、工業的に使用できるレベルでなかった。
(比較例9)
製造条件を表Aに示すようにした点を除いて実施例16と同様にして表Aに示す光ファイバを得た。
重合温度は反応槽1、2とも130°Cとなるように反応槽のジャケット温度によって調整するようにしたが、重合温度は130°C〜140°Cの範囲で安定せず、反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は40重量%から55重量%の範囲で大きく変動し、安定操業が困難であった。運転終了後、反応槽1、2の内部を観察したところ、槽内にはゲル状の重合体付着物が多量に発生していた。
また、得られた重合体を用いて実施例16と同様に製造した光ファイバは、分子量の高い重合体塊(ゲル状物)が不均一に分散しており、ファイバ径が均一でなく太い部分と細い部分が繰り返されており、工業的に使用できるレベルではなかった。
(実施例21)
実施例10と同様に重合反応を実施し,反応混合物を反応槽から連続的に取り出し,ポンプを用いて30リットル/hrで送液しながら190°Cまで加熱昇温し,実施例10と同じ単軸脱揮押し出し機に供給して揮発物を分離除去して重合体を得た。単軸脱揮押し出し機の運転条件は実施例10と同じである。
引き続き押し出し機先端から押し出された重合体を用いて実施例10と同様の方法で芯鞘構造を有するファイバ径1000μmの光ファイバを得,その透光性能と芯材中の残存揮発分を評価した。
芯材の残存モノマー率は,0.78重量%,二量体の含有量は0.12重量%,芯材の重合体中の重合体に結合している硫黄成分の含有量は600ppmで重合体に結合していない硫黄成分含有量は8.9ppmであった。
GPC法により測定した重量平均分子量(Mw)は90000であり,またMw/Mnは2.0で実施例10と同じであった。
波長520nm,570nm,650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ93,87,136dB/kmと伝送損失が大きいものであった。
(実施例22)
実施例1において、揮発物除去工程で分離除去した揮発物を、コンデンサで冷却し液化させたのち、タンクに1000kg回収した。回収液中のn−ブチルメルカプタンを水素炎型ガスクロマトグラフ法で定量した結果、1500ppmであった。また回収液の外観は極薄い淡黄色を呈していた。この回収液1000kgに対して、触媒として酸化第二銅(酸化銅(II))を250g、および塩化物として塩化第二銅(塩化銅(II))を10g加え、液温を60℃に保持し、タンク底部より空気を10リットル/分で供給しながら二段のプロペラ翼200rpmで攪拌した。4時間後、該処理液を20℃まで冷却し、n−ブチルメルカプタンの残存量を定量した結果、定量限界(1ppm)以下であった。
さらに、該処理液をろ過した後、重合防止剤としてハイドロキノンを500ppm添加し、40℃、100torr下で蒸留精製した。約98%留出した留出液について、n−ブチルメルカプタン、及びジ−n−ブチル−ジスルフィドを定量した結果、定量限界(1ppm)以下であった。
該留出液を、原料として実施例1の反応槽に供給し、同様の反応条件下で重合体を得るとともに同様の方法により芯鞘構造を有するプラスチック光ファイバを製造した。
波長520nm,570nm,650nmにおける光ファイバの透光損失はそれぞれ71dB/km、62dB/km、132dB/kmと実施例1と同等の伝送損失を示し、伝送損失が小さく極めて光学特性に優れたものであった。
(実施例23)
実施例22の留出液と、メチルアクリレート(MA)を重量比98:2の割合で混合した単量体混合物を反応原料として、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製V−601、純度99重量%)を1.5×10-5(mol)/単量体1(mol)の割合で、n−オクチルメルカプタン(ELF ATOCHEM NORTH AMERICA INC製、純度99.5重量%)を1.75×10-3(mol)/単量体1(mol)の割合でそれぞれ添加した混合物を反応槽に連続的に供給し、実施例1と同様の方法で重合温度135℃、平均滞留時間4時間として、重合を実施した。引き続きベントエクストルーダ型押し出し機に供給して揮発物を分離除去してペレット状の重合体を得た。反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率は44重量%であり、二量体含有率は0.05重量%であった。また、反応混合物から揮発物を分離して得た重合体の残存モノマー率は0.1重量%であり、二量体の含有量は0.03重量%以下であった。
さらにこの重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC法)により測定した重量平均分子量(Mw)は95000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は2.0であり、この重合体は極めて分子量分布の狭いものであった。
また、熱天秤により測定した加熱減量温度は295℃、走査型示差熱量計により測定したガラス転移点は117℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。また、重合体中のn−ブチルメルカプタンを定量した結果、検出されなかった。
更に該重合体を原料として射出成形機の原料供給口に供給し、シリンダ温度250°C、成形サイクル30秒で110mm×110mm×5mmの平板を100枚成形した。成形期間中、異臭の発生は確認されず作業環境上問題はなかった。平板の帯色は目視により行ったが、市販のメタクリル樹脂成形材料(三菱レイヨン(株):アクリペットVH)と比較して帯色は認められなかった。
本発明の方法により、光学特性が十分に優れたメチルメタクリレート系重合体、及び伝送性能に優れたプラスチック光ファイバを製造することができる。
また、本発明により、従来技術では達成することのできなかった極めて透光損失の少ない光ファイバ、光ファイバケーブル、及びプラグ付き光ファイバケーブルを提供することができる。更に、本発明により、このような光ファイバを容易に製造する方法を提供することができる。