JP4544382B2 - 車両の液圧ブレーキ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用の車輪のホイールシリンダにブレーキ液圧を供給する液圧ブレーキ装置に関し、特に、マスタシリンダに加え補助液圧源と調圧手段を備え、マスタピストンとパワーピストンとの間に密閉室を形成する車両の液圧ブレーキ装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の液圧ブレーキ装置に関しては種々の形態の装置が知られているが、例えば特開平2−95966号公報には、パワー液圧源(補助液圧源)の出力液圧を倍力源としてブレーキペダルに応動してマスタシリンダを倍力駆動する液圧ブースタを具備した液圧ブレーキ装置が開示されている。この液圧ブレーキ装置においては、径が異なるパワーピストン及びマスタシリンダ並びにこれらを流体的に連結する密閉室を設け、ブレーキペダルのストロークを短縮することとしている。そして、液圧ブースタの倍圧力消失時にはブレーキペダルによってマスタシリンダを直接駆動し得るように構成されている。
【0003】
上記特開平2−95966号公報においては、更に、液圧ブースタの倍圧室と密閉室との間に一方向弁手段を介装し、液圧ブースタの倍圧力消失時にはパワーピストンとマスタピストンが機械的に結合するように構成したものも開示されている。そして、一方向弁手段として、チェックバルブあるいはカップシールを用いることができる旨記載されている。
【0004】
一方、助勢装置(ブースタ)を備えた液圧ブレーキ装置において、ブースタ特性、所謂ジャンピング特性とサーボ比の設定自由度を得るため反力部材が用いられることが知られている。例えば、特開昭58−71249号公報には、液圧ブースタに供する反力部材のゴムブロックが開示されている。具体的には、図面にゴムブロック43として示され、マスタシリンダに付与された負荷の反作用は出力部材41と部分47を通してゴムブロック43へ伝達され、これによりゴムブロック43がスラスト部材42に対して変形する旨記載されている。
【0005】
また、特開平7−108920号公報においては、ブレーキ操作時に反力ディスクが圧縮されて弾性変形する際、反力ロッドと、これを摺動自在に収容する案内孔との間の間隙に、反力ディスクの構成部材が侵入し、反力ディスクの表面を損傷するおそれがあるとして、反力ディスクに対し特段の加工、接着等を行なうことなく、反力ロッドと案内孔との間の間隙への反力ディスクの侵入を阻止し、安定した反力伝達性能を確保することを目的としたブレーキ反力伝達装置が提案されている。
【0006】
具体的には、ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタシリンダを駆動するブレーキブースタに装着し、マスタシリンダ側に配置する弾性体の反力ディスクと、ブレーキ操作部材側に配置しブレーキブースタ内の案内孔に摺動自在に収容する反力ロッドを介して、ブレーキ操作部材に対しブレーキ反力を伝達するブレーキ反力伝達装置において、反力ディスクに対向する側の反力ロッドの端部に樹脂部材を設け、樹脂部材及び反力ロッドを案内孔に摺動自在に収容することとしたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前掲の特開平2−95966号公報に記載の液圧ブレーキ装置においては、大径のパワーピストンと小径のマスタピストンを密閉室を介して流体的に結合する構成とされているが、パワーピストンとマスタピストンとの間に弾性体の反力部材は存在しない。
【0008】
一方、前掲の特開昭58−71249号公報及び特開平7−108920号公報には、夫々ゴムブロック及び反力ディスクが開示されているが、何れの反力部材も前端面がロッド等に機械的に当接し、常時、反力部材に力が加えられる構造となっている。このため、反力部材を構成するゴム等の劣化が懸念され、特に液圧ブースタへの採用時には、耐久性を確保するため反力部材は大きな径に形成されるのが一般的であり、装置全体の大型化が不可避であった。
【0009】
そこで、本発明は、マスタシリンダに加え補助液圧源と調圧手段を備え、マスタピストンとパワーピストンとの間に密閉室を形成すると共に、両者間に反力部材を介装する車両の液圧ブレーキ装置において、反力部材を大型とすることなく、反力部材に対し適切に反力が伝達されるように構成して、反力部材の耐久性の向上を図ることを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は請求項1に記載のように、ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンを前進駆動しリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、前記マスタピストンの後方に密閉室を介して配置すると共に、後方にパワー室を形成するパワーピストンと、前記リザーバのブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源に接続すると共に前記リザーバに接続し前記補助液圧源の出力パワー液圧を所定の圧力に調圧して前記パワー室に供給する調圧手段とを備え、該調圧手段による助勢時には前記密閉室にブレーキ液が充填されて前記マスタピストンと前記パワーピストンとが流体的に結合され得る車両の液圧ブレーキ装置において、前記密閉室に露呈するように配置し前記パワーピストンの前端部に装着する弾性体の反力部材と、前記マスタピストン及び前記パワーピストンの少くとも何れか一方に設け、前記反力部材が前記密閉室に露呈した状態を維持しつつ、前記密閉室内の圧力が所定圧以下(例えば大気圧)であるときには前記マスタピストンの後方への反力を前記反力部材を介することなく前記パワーピストンの前端部に直接伝達可能とする保持手段とを備えることとしたものである。尚、前記調圧手段としては、レギュレータ、液圧ブースタ、液圧サーボ等と称呼される手段の何れでもよい。
【0011】
前記保持手段は、請求項2に記載のように、前記パワーピストンの前端部に、前記マスタピストンの後端部と当接可能に支持する環状の中間部材を備え、該中間部材が前記マスタピストンの後端部に当接したとき、前記マスタピストンの後端部と前記反力部材との間に空隙を形成するように構成することができる。
【0012】
あるいは、前記保持手段は、請求項3に記載のように、前記マスタピストンの後端部に、前記パワーピストンの前端部と当接可能に形成する鍔部を備え、該鍔部が前記パワーピストンの前端部に当接したとき、前記マスタピストンの後端部と前記反力部材との間に空隙を形成するように構成することもできる。
【0013】
更に、請求項4に記載のように、前記反力部材が前記密閉室に露呈する側の全面に密着するように配置する金属板を設けるとよい。
【0014】
また、請求項5に記載のように、前記調圧手段を、前記パワーピストン内に構成すると共に、前記反力部材に対して所定の間隙を隔てて配置するとよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明の一実施形態の液圧ブレーキ装置を示すもので、ブレーキペダル3に加えられた踏力が入力ロッド3aを介してブレーキ作動力として伝えられ、これに応じて液圧助勢装置20によって助勢されてマスタシリンダ10からブレーキ液圧が出力され、車両の各車輪に装着されたホイールシリンダ(図示せず)に供給されるように構成されている。尚、図1に全体構成を示し、図2に液圧助勢装置20部分を拡大して示す。
【0016】
本実施形態のマスタシリンダ10は、図1に示すように、第1のシリンダ1aと、これに収容する第2のシリンダ1b及び第3のシリンダ1cから成るシリンダボデーのマスタシリンダハウジング1内に、マスタピストン11及び12が直列に収容されて成るタンデムマスタシリンダである。第1のシリンダ1aは有底筒体で、シリンダボア1dから開口部に向かって順次内径が増加するように段付孔が形成されている。第1のシリンダ1aには給液ポート1i,1j及び出力ポート1m,1nが形成されている。
【0017】
第2のシリンダ1bは略円筒体で、シリンダボア1dと同径のシリンダボア1eが形成されている。第2のシリンダ1bの前端には、第1のシリンダ1a内を給液ポート1iに連通する流路1hが形成されており、その前方にカップ状のシール部材S1が前方に拡開するように配置されている。また、流路1hの後方内側にもカップ状のシール部材S2が後方に拡開するように配置されている。第3のシリンダ1cは第2のシリンダ1bの後部に重合される筒体で、両者間に環状の流路1fが形成され、第1のシリンダ1aと第2のシリンダ1bとの間に形成される環状の流路1gに連通するように構成されている。この流路1gには出力ポート1nが開口している。第3のシリンダ1cの側面には給液ポート1jに連通する流路1kが形成されており、流路1kの開口部には環状部材17が配設されている。
【0018】
環状部材17の両側には前方に拡開するカップ状のシール部材S3と後方に拡開するカップ状のシール部材S4が配設され、シール部材S3の前方に流路1fの開口部が位置し、シール部材S4の上方に流路1kの開口部が位置するように配置されている。そして、シリンダボア1d内には有底筒体のマスタピストン11が液密的摺動自在に収容されており、第1のシリンダ1aとマスタピストン11との間に第1の圧力室R1が郭成されている。また、シリンダボア1e内にはマスタピストン12が収容され、環状部材17及びシール部材S3,S4に液密的摺動自在に支持されており、マスタピストン11とマスタピストン12の間に第2の圧力室R2が郭成されている。
【0019】
マスタピストン11は、非作動時の後端位置で、そのスカート部に形成された連通孔11aが流路1hと対向し、給液ポート1iを介して第1の圧力室R1がリザーバ4に連通するように構成されている。また、マスタピストン12は、非作動時の後端位置で、そのスカート部に形成された連通孔12aがシール部材S3と対向し、流路1k及び給液ポート1jを介して第2の圧力室R2がリザーバ4に連通するように構成されている。而して、シール部材S3は図1の位置で流路1k側から第2の圧力室R2側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向への流れを阻止し得るように構成されている。また、シール部材S4は流路1k側から後述の密閉室R3側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向への流れを阻止し得るように構成されている。
【0020】
第1のシリンダ1a内の先端面とマスタピストン11の凹部底面との間にはスプリング13が張架され、マスタピストン11が後方に付勢されている。そして、マスタピストン11の凹部底面にはロッド14aの一端が固着され、その他端側の頭部がリテーナ14bの先端部に係止し得るように配設されており、これらによってマスタピストン11の後端位置が規制されている。同様に、マスタピストン11の後端面とマスタピストン12の凹部底面との間にはスプリング15が張架され、両者が離隔する方向に付勢されている。そして、マスタピストン12の凹部底面にはロッド16aの一端が固着され、その他端側の頭部がリテーナ16bの先端部に係止し得るように配設されており、これらによってマスタピストン12の後端位置が規制されている。
【0021】
マスタピストン12の後方には密閉室R3を介して液圧助勢装置20が構成されている。マスタシリンダハウジング1を構成する第1のシリンダ1aには、ブースタハウジング2を構成する有底筒体の第4のシリンダ2aが接合されており、そのシリンダボア2bはマスタシリンダのシリンダボア1d,1eより大径で、これにパワーピストン21が液密的摺動自在に収容されている。図2に示すように、パワーピストン21には前方と後方にランド部21x,21yが形成され、夫々にシール部材S5,S7が嵌合されている。更に、これらの間のシリンダボア2b内面にシール部材S6が配設され、第4のシリンダ2aの底部開口2c回りにシール部材S8が配設されている。尚、実際にシール部材S5乃至S7を図2に示すように配置するには、パワーピストン21を2分割する等の対応が必要となるが、設計的事項であるので一部品として説明する。
【0022】
而して、シール部材S4とシール部材S5の間に密閉室R3、シール部材S5とシール部材S6の間に環状のドレイン室R4、シール部材S6とシール部材S7の間に環状の給液室R5、そしてシール部材S7とシール部材S8の間に環状のパワー室R6が形成されている。パワーピストン21には、図2に拡大して示すように、前方から順に凹部21a、大径のシリンダボア21b、小径のシリンダボア21c及び大径のシリンダボア21dが形成されており、シリンダボア21bをドレイン室R4に連通する連通孔21h、シリンダボア21cを給液室R5に連通する連通孔21g、更にシリンダボア21cをパワー室R6に連通する連通孔21e,21fが形成されている。
【0023】
シリンダボア21dにはプランジャ22が液密的摺動自在に収容され、その後方に入力ロッド3aが接続されている。プランジャ22の前方のシリンダボア21cには第1のスプール23が液密的摺動自在に収容され、更にその前方のシリンダボア21bには第2のスプール24が摺動自在に収容されている。尚、第1のスプール23及び第2のスプール24は一体的に形成してもよい。そして、凹部21aには反力伝達用の弾性体の反力部材として反力ゴムディスク25が配設され、その前方に金属板26が反力ゴムディスク25の全面に密着して前後移動可能に収容されている。図1及び図2に示す非作動時には反力ゴムディスク25と第2のスプール24の先端面との間に若干の間隙が形成されており、この間隙を調整することにより所望のジャンピング特性に設定することができる。
【0024】
また、パワーピストン21の先端には環状の中間部材27が固着されており、この中間部材27の環状部を介してマスタピストン12とパワーピストン21との間で力伝達を行なうこともできる。図2に示すように、中間部材27の一部には切欠27aが形成されている。また、マスタピストン12の後端部が中間部材27の環状部に当接した際にもマスタピストン12の後端部と金属板26との間に空隙SPが形成されるように構成されており、この空隙SPは切欠27aを介して密閉室R3と連通するように構成されている。
【0025】
図2に拡大して示すように、第1のスプール23の外周面には環状溝23a,23bが形成されると共に、前方で開口する軸方向の穴23dが形成され、径方向の連通孔23cを介して環状溝23aに連通している。第1のスプール23は、非作動時には図2に示すように、環状溝23a,23bが夫々連通孔21e,21fの開口と対向しており、パワー室R6は連通孔21e、環状溝23a及び連通孔23cを介して穴23dに連通する。第1のスプール23が前進し、図3に示す状態になると、パワー室R6と穴23dとの連通が遮断され、環状溝23bが連通孔21f及び連通孔21gの開口部と対向し、パワー室R6が連通孔21gと連通する。
【0026】
一方、第2のスプール24は、その後方の外周面に環状溝24aが形成されると共に、後方で開口し第1のスプール23の穴23dの開口部と対向する軸方向の穴24cが形成され、径方向の連通孔24bを介して環状溝24aに連通し、更に連通孔21hを介してドレイン室R4に連通している。尚、第1のスプール23と第2のスプール24は、図2及び図3に示す状態では当接し一体となって移動するが、後述するように、分離して両者間に空間が形成される場合もある。
【0027】
ブースタハウジング2には、常にドレイン室R4に連通するドレインポート2d並びに入力ポート2e,2fが形成されており、ドレインポート2dは図1に示すように常開の開閉弁6を介してリザーバ4に連通接続されている。尚、この開閉弁6はきめ細かい制御を行なうためプロポーショニングバルブで構成されている。一方、入力ポート2e,2fは図1に示す補助液圧源40に連通接続されている。補助液圧源40は電動モータ41によって駆動される液圧ポンプ42を備え、入力側がリザーバ4に連通接続され、出力側が逆止弁43を介してアキュムレータ44に連通接続されると共に入力ポート2eに連通接続され、常閉の開閉弁5を介して入力ポート2fに連通接続されている。尚、この開閉弁5もプロポーショニングバルブで構成すれば一層きめ細かい制御が可能となる。本実施形態では、補助液圧源40が所定の出力液圧に維持されるように、アキュムレータ44に圧力センサPが接続されている。以上のように、本実施形態では、パワーピストン21内に本発明の調圧手段が構成されている。
【0028】
更に、本実施形態においては、ブースタハウジング2に、密閉室R3とパワー室R6とを連通する流路2gが形成されており、この流路2gに常開の差圧応動逆止弁30(以下、単に逆止弁30という)が介装されている。即ち、常時は連通状態に維持され、パワー室R6と密閉室R3の圧力差に応じて閉成され、パワー室R6が密閉室R3内の圧力より大で圧力差が所定値以上であるときには、逆止弁30が閉成され、両者間が遮断される。これに対し、液圧ブレーキ装置の非作動時には、両者間に圧力が存在せず逆止弁30が開位置にあるので、ブレーキ液の充填時には、パワー室R6側から真空引きをすることにより、容易且つ確実に密閉室R3内のエア抜きを行なうことができる。
【0029】
次に、上記の構成になる液圧ブレーキ装置の全体作動を図1乃至図7を参照して説明する。図3乃至図7は液圧ブレーキ装置における液圧助勢装置20部分の作動状態を拡大して示すもので、ブレーキペダル3が非操作状態にあるときには各構成部品は図1及び図2に示す状態にあり、開閉弁5は閉位置、開閉弁6は開位置とされている。このとき、液圧助勢装置20も非作動の状態にあり、マスタピストン12の後端部は金属板26に当接していない。また、密閉室R3は連通孔1k及び給液ポート1jを介してリザーバ4に連通しているので大気圧下にある。
【0030】
一方、給液室R5は補助液圧源40のアキュムレータ44に連通接続されているが、連通孔21gは第1のスプール23によって遮断されている。また、パワー室R6は開閉弁5が閉位置にあり、連通孔21e、これと対向する第1のスプール23の溝23a、連通孔23c及び穴23d、第2のスプール24の穴24c、連通孔24b及び溝24a、パワーピストン21の連通孔21h、そしてポート2dを介してリザーバ4に連通している。更に、パワー室R6は流路2g及び逆止弁30を介して密閉室R3に連通している。而して、補助液圧源40が駆動されてもパワーピストン21には給液室R5内の液圧による後方への押圧力が付与されるのみであるので、図1及び図2に示す停止位置に維持される。
【0031】
ブレーキ操作が行なわれ、プランジャ22が前進駆動されて第1のスプール23が前進し図3に示す状態となると、連通孔21eが第1のスプール23によって遮断されるので、パワー室R6と穴23dとの連通が遮断されるのに対し、環状溝23bが連通孔21f及び連通孔21gの開口部と対向するので、入力ポート2e、連通孔21g、環状溝23b及び連通孔21f,21eを介してパワー室R6にパワー液圧が導入される。このとき、給液室R5には補助液圧源40からのパワー液圧が導入されているので、そのパワー液圧によるパワーピストン21を後方に押圧する方向に付与されるランド部21y(後方への受圧面を構成)の環状面積分の押圧力と、ブレーキ操作に応じてパワー室R6に導入される液圧によるパワーピストン21の有効断面積分の押圧力及びブレーキ操作力とがバランスするように作動し、このときのパワー室R6と密閉室R3の圧力差が所定値以上となると逆止弁30が閉成され、流路2gは逆止弁30によって遮断されるので、密閉室R3はブレーキ液が充填された密閉空間となる。換言すれば、後方への受圧面を構成するランド部21yの面積は、ブレーキ作動開始時にパワーピストン21を前進駆動するのに必要な圧力が、逆止弁30を閉成するのに十分な圧力以上となる面積に設定されており、これにより、マスタシリンダ液圧が発生する前に確実に逆止弁30を閉成することができる。
【0032】
このようにして密閉室R3が密閉空間とされた後の助勢作動中は、ブレーキ操作力及びパワーピストン21の後端面に付与される押圧力に対し、ランド部21yの環状面積分の押圧力及び密閉室R3の圧力によるパワーピストン21の前端面に付与される押圧力がバランスするように制御される。そして、密閉室R3は、パワーピストン21のランド部21xの有効断面積がマスタピストン12の有効断面積より大であるので、パワーピストン21の前進移動に伴いマスタピストン12が前進してマスタピストン12とパワーピストン21との間隙が拡大して図3に示すようになり、この状態でマスタピストン12とパワーピストン21が流体的に結合され一体的に移動することとなる。このように、液圧助勢装置20による助勢時には、パワーピストン21とマスタピストン12が密閉室R3に充填されたブレーキ液を介して流体的に結合され、図3に示すようにパワーピストン21とマスタピストン12との間隙分、マスタピストン12が前進した状態でパワーピストン21及びマスタピストン12が一体となって前進するので、ブレーキペダル3のストロークが短縮される。
【0033】
この場合において、パワーピストン21によってマスタピストン12に伝達されたブースト圧を受けてマスタシリンダ10に発生した出力の反作用の結果として、反力が密閉室R3に充填されたブレーキ液、そして金属板26を介して反力ゴムディスク25に伝達される。これにより、反力ゴムディスク25が圧縮されて変形し、その構成材料がシリンダボア21b内に侵入し第2のスプール24が押圧され、第1のスプール23、プランジャ22及び入力ロッド3aを介してブレーキペダル3に反力が伝達される。
【0034】
一方、液圧助勢装置20が失陥した場合には、給液室R5及びパワー室R6にパワー液圧が供給されず、ドレイン室R4はポート2dを介してリザーバ4に連通し、また密閉室R3内は流路1k及びポート1jを介してリザーバ4に連通するので、何れも大気圧のままとなる。従って、ブレーキペダル3の操作に応じて入力ロッド3aが前進駆動されると、プランジャ22、第1のスプール23を介して第2のスプール24が反力ゴムディスク25に当接し、この反力ゴムディスク25、金属板26及び中間部材27を介してマスタピストン12が押圧され、これらが一体となって前進し、図1及び図2の状態から、図4に示す状態となる。
【0035】
而して、パワーピストン21とマスタピストン12が一体となって前進するが、この場合に出力されるブレーキ液圧は、パワーピストン21のランド部21xの有効断面積ではなく、マスタピストン12の有効断面積によって決まるので、両ピストンの有効断面積が同じ場合の特性に比べて、液圧助勢装置20の失陥時の増圧勾配が大となる。そして、このときには、密閉室R3内は大気圧(所定圧以下)であり、マスタピストン12の後方への反力は反力ゴムディスク25を介することなくパワーピストン21の前端部に直接伝達される。
【0036】
上記のように、液圧助勢装置20の失陥時には、第2のスプール24の押圧力によって反力ゴムディスク25が押圧され、金属板26及び中間部材27を介してマスタピストン12の後端部に力伝達が行なわれることになる。このような失陥時の対応は頻繁に行なわれるものではないので、反力ゴムディスク25の耐久性に対する影響を然程懸念する必要はないが、失陥時の反力ゴムディスク25とマスタピストン12の後端部との間の力伝達に対しても対策を講ずるとすれば、図7又は図8を参照して後述するように構成すればよい。
【0037】
次に、図5はアクティブブレーキ(自動ブレーキ)時の作動状態を示すもので、ブレーキペダル3は非操作の状態で、図1に示す開閉弁5が開位置の状態で開閉弁6が閉位置とされ、補助液圧源40が駆動される。初期位置には、第1及び第2のスプール23,24は図2と同様の位置関係にあるので、連通孔21gは第1のスプール23によって遮断され、給液室R5には補助液圧源40の出力パワー液圧が付与される。一方、パワー室R6は連通孔21e、これと対向する第1のスプール23の溝23a、連通孔23c及び穴23d、第2のスプール24の穴24c、連通孔24b及び溝24a、パワーピストン21の連通孔21h、そしてポート2dに連通しているが、開閉弁6が閉位置とされているので、この間の空間はパワー室R6内のブレーキ液圧、即ちパワー液圧となる。これにより、第1のスプール23に対しては両端に等しい圧力が付与されるので、その状態が維持されるのに対し、第2のスプール24はパワー液圧の作用によって前進して反力ゴムディスク25を押圧する状態となり、図5に示すように第1及び第2のスプール23,24間に空隙が形成される。
【0038】
この場合も、逆止弁30はパワー室R6と密閉室R3の圧力差によって閉位置とされ、流路2gは逆止弁30によって遮断される。そして、密閉室R3内が増圧されると、密閉室R3は流路1kとの連通が遮断されるので、密閉室R3はブレーキ液が充填された密閉空間となる。従って、パワー室R6に導入されるブレーキ液圧によるパワーピストン21の有効断面積分の押圧力によってマスタピストン11,12が前進駆動される。而して、ブレーキペダル3が非操作時に、補助液圧源40及び開閉弁5,6を適宜制御することによって所望のブレーキ液圧を出力することができる。この間、密閉室R3内のブレーキ液圧が金属板26及び反力ゴムディスク25を介してブレーキペダル3に伝達され、反力が付与される。
【0039】
次に、図6はブレーキアシスト制御時の作動状態を示すもので、ブレーキ操作が行なわれ、プランジャ22が前進駆動されて第1のスプール23が前進し図3と同様の状態となると、パワー室R6と穴23dとの連通が遮断されるのに対し、環状溝23bが連通孔21f及び連通孔21gの開口部と対向するので、入力ポート2e、連通孔21g、環状溝23b及び連通孔21e,21fを介してパワー室R6にパワー液圧が導入される。尚、このときの作動は図3の態様と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
また、この場合も、密閉室R3はパワーピストン21のランド部21xの有効断面積がマスタピストン12の有効断面積より大であるので、パワーピストン21の前進移動に伴いマスタピストン12が前進してマスタピストン12とパワーピストン21との間隙が拡大して図6に示すようになり、この状態でマスタピストン12とパワーピストン21が流体的に結合され一体的に移動することとなる。このように、パワーピストン21とマスタピストン12が密閉室R3に充填されたブレーキ液を介して流体的に結合され、パワーピストン21及びマスタピストン12が一体となって前進し、マスタピストン11及び12の前進に応じてブレーキ液圧が出力される。この間、密閉室R3内のブレーキ液圧が金属板26及び反力ゴムディスク25を介してブレーキペダル3に伝達され、反力が付与される。
【0041】
上記の状態で、例えばブレーキペダル3が所定速度以上の速度で操作され、あるいは所定量以上の操作量操作されると、図1に示す開閉弁6が閉位置とされた後、開閉弁5が開閉制御される。これにより、補助液圧源40の出力パワー液圧が給液室R5及びパワー室R6に供給され、開閉弁5の開閉制御に応じて第1のスプール23とパワーピストン21との相対移動が制御される。而して、この場合には通常の液圧助勢時の液圧以上のブレーキ液圧が出力され、ブレーキペダル3に対する踏力不足に影響されることなく、適切な制動力を確保することができる。
【0042】
図7は本発明の他の実施形態を示すもので、液圧助勢装置20の失陥時に反力ゴムディスク25から金属板26を介してマスタピストン12の後端部にブレーキ操作力が伝達される際に、金属板26とマスタピストン12の後端部が面接触するように構成したものである。即ち、マスタピストン12の後端部に、中間部材27の中空部に嵌合する突出部12xを形成したものである。これにより、液圧助勢装置20の失陥時には金属板26とマスタピストン12の突出部12x及び中間部材27の内縁部が面接触することになる。尚、マスタピストン12の後端部がパワーピストン21の前端部に当接したときには中間部材27の切欠27aを介して空隙SPと密閉室R3の連通状態が維持される。
【0043】
また、図8は、本発明の更に他の実施形態を示すもので、マスタピストン12の後端部に、径方向に延出する鍔部12yを形成すると共に、パワーピストン21の前端部周縁に切欠21zを形成し、金属板26の前端位置を規制するため環状部材27を嵌合したものである。従って、マスタピストン12の鍔部12yがパワーピストン21の前端部に当接したときには切欠21zを介して空隙SPと密閉室R3の連通状態が維持される。
【0044】
以上のように、上記の構成になる本実施形態の液圧ブレーキ装置においては、簡単な構成で、液圧助勢時のブレーキペダル3のストロークを短縮することができ、万一液圧助勢装置20が失陥したときにも大きなブレーキ液圧が出力されるので、失陥時においても適切な制動力を付与することができる。この場合において、密閉室R3内のブレーキ液圧そして金属板26を介して反力ゴムディスク25に対し適切に反力が伝達され、液圧助勢装置20の失陥時には反力ゴムディスク25を介することなくパワーピストン21に直接反力が伝達されるので、反力ゴムディスク25の耐久性が増大する。尚、上記の実施形態における液圧助勢装置20としては、液圧ブースタ、レギュレータ等、種々の名称が用いられるが、何れのものを用いてもよい。
【0045】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の液圧ブレーキ装置においては、弾性体の反力部材を、密閉室に露呈するように配置してパワーピストンの前端部に装着すると共に、マスタピストン及びパワーピストンの少くとも一方に保持手段を設け、反力部材が密閉室に露呈した状態を維持しつつ、密閉室内の圧力が所定圧以下であるときには、マスタピストンの後方への反力を反力部材を介することなくパワーピストンの前端部に直接伝達可能となるように構成されているので、反力部材に対し適切に反力が伝達され、反力部材の耐久性が向上する。
【0046】
前記保持手段は、請求項2に記載のように、パワーピストンの前端部に支持した環状の中間部材、あるいは請求項3に記載のように、マスタピストン後端部に形成した鍔部を備えたものとすれば、簡単な構造で、確実に、マスタピストンの後方への反力を反力部材を介することなくパワーピストンの前端部に直接伝達可能とすることができる。
【0047】
更に、請求項4に記載のように、反力部材が密着するように金属板を配置すれば、密閉室内のブレーキ液を介して伝達される反力を適切に反力部材に伝達することができ、反力部材の耐久性が一層向上する。
【0048】
また、請求項5に記載のように、調圧手段を、パワーピストン内に構成すると共に、反力部材に対して所定の間隙を隔てて配置することにより、容易にジャンピング特性を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る液圧ブレーキ装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態においてブレーキ操作が行なわれていない状態の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における液圧助勢時の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における液圧助勢失陥時の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態における自動ブレーキ時の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるブレーキアシスト制御時の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態においてブレーキ操作が行なわれていない状態の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態においてブレーキ操作が行なわれていない状態の液圧助勢装置部分の断面図である。
【符号の説明】
10 マスタシリンダ, 20 液圧助勢装置, 3 ブレーキペダル,
4 リザーバ, 5,6 開閉弁, 11,12 マスタピストン,
21 パワーピストン, 25 反力ゴムディスク, 26 金属板,
27 中間部材, S1〜S8シール部材, R1,R2 圧力室,
R3 密閉室, R4 ドレイン室, R5 給液室, R6 パワー室
Claims (5)
- ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンを前進駆動しリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、前記マスタピストンの後方に密閉室を介して配置すると共に、後方にパワー室を形成するパワーピストンと、前記リザーバのブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源に接続すると共に前記リザーバに接続し前記補助液圧源の出力パワー液圧を所定の圧力に調圧して前記パワー室に供給する調圧手段とを備え、該調圧手段による助勢時には前記密閉室にブレーキ液が充填されて前記マスタピストンと前記パワーピストンとが流体的に結合され得る車両の液圧ブレーキ装置において、前記密閉室に露呈するように配置し前記パワーピストンの前端部に装着する弾性体の反力部材と、前記マスタピストン及び前記パワーピストンの少くとも何れか一方に設け、前記反力部材が前記密閉室に露呈した状態を維持しつつ、前記密閉室内の圧力が所定圧以下であるときには前記マスタピストンの後方への反力を前記反力部材を介することなく前記パワーピストンの前端部に直接伝達可能とする保持手段とを備えたことを特徴とする車両の液圧ブレーキ装置。
- 前記保持手段が、前記パワーピストンの前端部に、前記マスタピストンの後端部と当接可能に支持する環状の中間部材を備え、該中間部材が前記マスタピストンの後端部に当接したとき、前記マスタピストンの後端部と前記反力部材との間に空隙を形成するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
- 前記保持手段が、前記マスタピストンの後端部に、前記パワーピストンの前端部と当接可能に形成する鍔部を備え、該鍔部が前記パワーピストンの前端部に当接したとき、前記マスタピストンの後端部と前記反力部材との間に空隙を形成するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
- 前記反力部材が前記密閉室に露呈する側の全面に密着するように配置する金属板を備えたことを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
- 前記調圧手段を、前記パワーピストン内に構成すると共に、前記反力部材に対して所定の間隙を隔てて配置することを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
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