JP4544384B2 - 車両の液圧ブレーキ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用の車輪のホイールシリンダにブレーキ液圧を供給する液圧ブレーキ装置に関し、特に、マスタシリンダに加え補助液圧源と調圧手段を備え、マスタピストンとパワーピストンとの間に密閉室を形成する車両の液圧ブレーキ装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車用の液圧ブレーキ装置に関しては種々の形態の装置が知られているが、例えば特開平9−315288号公報に、マスタシリンダに加え補助液圧源と調圧弁手段を備えた液圧ブレーキ装置が開示されている。同公報においては、マスタシリンダピストンが、ブレーキ操作部材に連結する第1のピストンと、第1のピストンに対し相対的に摺動可能な第2のピストンを備えると共に、第2のピストンの前進時に第1のピストンに係合する係合部材を備え、第1及び第2のピストンの各々の後端部をパワー室に露呈し、各々の前端部を圧力室に露呈するように配置することとしている。而して、補助液圧源の出力液圧が十分のときにはブレーキ操作部材の操作に応じて調圧弁手段の出力液圧によりマスタシリンダを倍力駆動し、補助液圧源の出力液圧が不十分のときにはブレーキ操作部材の操作に応じてマスタシリンダを直接駆動することができ、十分なパワー液圧が得られないときにも、マスタシリンダのみによって適切な制動作動を行なうことができる。このように、補助液圧源の出力液圧が不十分のときには第1のピストンのみが作動するので、出力液圧が十分のときに比べてマスタシリンダピストンの有効面積を小さくできる。従って、補助液圧源の出力液圧が不十分のときでも、圧力室の圧力を十分に増圧することができる。
【0003】
また、上記特開平9−315288号公報においては、第2のピストンを、前端部を圧力室に収容し後端部をパワー室に収容する筒体で構成し、この筒体の中空部に第1のピストンを摺動自在に収容して、二重ピストン構造とし、第1のピストンと第2のピストンとの間に閉空間を形成すると共に、この閉空間を圧力室又はパワー室に連通する連通路を設けた構成が開示されている。このように閉空間を圧力室又はパワー室に連通することにより、ブレーキ操作部材の急激な操作に伴う第1及び第2のピストンの離脱と係合によるショックを低減することとしている。
【0004】
上記公報の調圧弁手段は所謂レギュレータであるが、調圧弁手段を備えた液圧ブレーキ装置として液圧ブースタを具備したものも知られている。例えば、特開平2−95966号公報には、パワー液圧源(補助液圧源)の出力液圧を倍力源としてブレーキペダルに応動してマスタシリンダを倍力駆動する液圧ブースタを具備した液圧ブレーキ装置が開示されている。この液圧ブレーキ装置においては、径が異なるパワーピストン及びマスタシリンダ並びにこれらを流体的に連結する密閉室を設け、ブレーキペダルのストロークを短縮することとしている。そして、液圧ブースタの倍圧力消失時にはブレーキペダルによってマスタシリンダを直接駆動し得るように構成されている。
【0005】
更に、上記特開平2−95966号公報においては、液圧ブースタの倍圧室と密閉室との間に一方向弁手段を介装し、液圧ブースタの倍圧力消失時にはパワーピストンとマスタピストンが機械的に結合するように構成したもの開示されている。そして、一方向弁手段として、チェックバルブあるいはカップシールを用いることができる旨記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特開平2−95966号公報に記載の液圧ブレーキ装置においては、液圧差に応じて密閉室から倍圧室側への連通を許容する一方向弁手段が設けられているが、液圧ブレーキ装置が非作動時の静止状態での状態が明らかでない。例えば、一方向弁手段としてカップシールを用いた場合には静止状態では密閉室と倍圧室との連通は遮断され、また、一般的なチェックバルブを用いた場合には静止状態で密閉室と倍圧室との連通は遮断される。
【0007】
液圧ブレーキ装置が非作動時においては、密閉室をパワー室(倍圧室)に連通するように構成し、密閉室がパワー室を介してリザーバに連通する状態とすることが望ましい。このように構成すれば、ブレーキ液充填時において、リザーバ口から真空引きして液圧ブレーキ装置内を高真空状態に維持し、加圧ブレーキ液を圧送することにより、確実にエア抜きを行なうことができる。しかし、上記公報に記載のように密閉室とパワー室との間に開弁圧を有するチェックバルブが存在すると、エア抜き時に所謂ペダリング操作が必須となる。
【0008】
一方、前掲の特開平9−315288号公報に記載の液圧ブレーキ装置においては、マスタシリンダピストンを二重ピストン構造とし、両ピストン間に閉空間を形成することとしているが、この閉空間はブレーキ操作部材の急激な操作に伴う両ピストンの離脱と係合によるショックを低減することを目的としたもので、上記特開平2−95966号公報に記載における密閉室とは異なる。そして、特開平9−315288号公報における閉空間に関しては、ブレーキ液充填時におけるエア抜きが困難となることはない。
【0009】
そこで、本発明は、マスタシリンダに加え補助液圧源と調圧手段を備え、マスタピストンとパワーピストンとの間に密閉室を形成する車両の液圧ブレーキ装置において、ブレーキ非作動時には密閉室をリザーバに連通し、ブレーキ作動開始時には確実に密閉室を形成し得る液圧ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は請求項1に記載のように、ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンを前進駆動しリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、前記マスタピストンの後方に、前記マスタピストン後方の受圧面全体を収容する密閉室を介して配置すると共に、後方にパワー室を形成するパワーピストンと、前記リザーバのブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源に接続すると共に前記リザーバに接続し前記補助液圧源の出力パワー液圧を所定の圧力に調圧して前記パワー室に供給する調圧手段とを備え、該調圧手段による助勢時には前記密閉室にブレーキ液が充填されて前記マスタピストンと前記パワーピストンとが流体的に結合され得る車両の液圧ブレーキ装置において、前記密閉室と前記リザーバとを、前記パワーピストンの作動開始に応じて閉成する弁手段を介して接続し、前記パワーピストンの非作動時には、前記弁手段、前記パワー室及び前記調圧手段のうち前記弁手段のみを介して前記密閉室が前記リザーバに連通するように構成したものである。尚、前記調圧手段としては、レギュレータ、液圧ブースタ、液圧サーボ等と称呼される手段の何れでもよい。また、前記調圧手段は前記パワーピストン内に形成することができる。
【0011】
前記液圧ブレーキ装置において、請求項2に記載のように、前記弁手段を、前記パワーピストン内に配置し、前記パワーピストンの前進作動に応じて閉成する常開の弁機構で構成し、該弁機構と前記調圧手段との間に介装し、前記調圧手段の作動限界を超えたとき及び前記調圧手段が非作動状態であるときに前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記弁機構を開放する駆動手段を具備したものとするとよい。尚、前記弁機構及び前記駆動手段も前記パワーピストン内に形成することができる。
【0012】
前記弁機構は、請求項3に記載のように、前記駆動手段を介して前記弁機構に付与される押圧力が所定値を超えたときに開放し、当該押圧力が前記所定値以下のときには閉成状態を維持するように構成するとよい。
【0013】
前記液圧ブレーキ装置において、請求項4に記載のように、前記パワー室を前記補助液圧源に連通接続する液圧路に介装する常閉の電磁開閉弁と、前記調圧手段を前記リザーバに連通接続する液圧路に介装する常開の電磁開閉弁と、前記密閉室と前記弁機構との間に配置し前記常閉の電磁開閉弁及び前記常開の電磁開閉弁が作動状態にあるときには前記密閉室と前記リザーバとの連通を遮断する第2の弁機構とを備え、自動ブレーキ時には前記補助液圧源を駆動すると共に、前記常閉の電磁開閉弁及び前記常開の電磁開閉弁を作動状態として夫々開位置及び閉位置に切り換え、前記第2の弁機構が前記密閉室と前記リザーバとの連通を遮断するように構成するとよい。前記第2の弁機構としては、前記密閉室側と前記弁機構側の圧力差に応じて開閉する逆止弁で構成することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明の一実施形態の液圧ブレーキ装置を示すもので、ブレーキペダル3に加えられた踏力が入力ロッド3bを介してブレーキ作動力として伝えられ、これに応じて液圧助勢装置20によって助勢されてマスタシリンダ10からブレーキ液圧が出力され、車両の各車輪に装着されたホイールシリンダ(図示せず)に供給されるように構成されている。尚、図1に全体構成を示し、図2に液圧助勢装置20部分を拡大して示す。
【0015】
本実施形態のマスタシリンダ10は、図1に示すように、第1のシリンダ1aと、これに収容する第2のシリンダ1b及び第3のシリンダ1cから成るシリンダボデーのマスタシリンダハウジング1内に、マスタピストン11及び12が直列に収容されて成るタンデムマスタシリンダである。第1のシリンダ1aは有底筒体で、シリンダボア1dから開口部に向かって順次内径が増加するように段付孔が形成されている。第1のシリンダ1aには給液ポート1i,1j及び出力ポート1m,1nが形成されている。
【0016】
第2のシリンダ1bは略円筒体で、シリンダボア1dと同径のシリンダボア1eが形成されている。第2のシリンダ1bの前端には、第1のシリンダ1a内を給液ポート1iに連通する流路1hが形成されており、その前方にカップ状のシール部材S1が前方に拡開するように配置されている。また、流路1hの後方内側にもカップ状のシール部材S2が後方に拡開するように配置されている。第3のシリンダ1cは第2のシリンダ1bの後部に重合される筒体で、両者間に環状の流路1fが形成され、第1のシリンダ1aと第2のシリンダ1bとの間に形成される環状の流路1gに連通するように構成されている。この流路1gには出力ポート1nが開口している。第3のシリンダ1cの側面には給液ポート1jに連通する流路1kが形成されており、流路1kの開口部には環状部材17が配設されている。
【0017】
環状部材17の両側には前方に拡開するカップ状のシール部材S3と後方に拡開するカップ状のシール部材S4が配設され、シール部材S3の前方に流路1fの開口部が位置し、シール部材S4の上方に流路1kの開口部が位置するように配置されている。そして、シリンダボア1d内には有底筒体のマスタピストン11が液密的摺動自在に収容されており、第1のシリンダ1aとマスタピストン11との間に第1の圧力室R1が郭成されている。また、シリンダボア1e内にはマスタピストン12が収容され、環状部材17及びシール部材S3,S4に液密的摺動自在に支持されており、マスタピストン11とマスタピストン12の間に第2の圧力室R2が郭成されている。
【0018】
マスタピストン11は、非作動時の後端位置で、そのスカート部に形成された連通孔11aが流路1hと対向し、給液ポート1iを介して第1の圧力室R1がリザーバ4に連通するように構成されている。また、マスタピストン12は、非作動時の後端位置で、そのスカート部に形成された連通孔12aがシール部材S3と対向し、流路1k及び給液ポート1jを介して第2の圧力室R2がリザーバ4に連通するように構成されている。而して、シール部材S3は図1の位置で流路1k側から圧力室R2側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向への流れを阻止し得るように構成されている。また、シール部材S4は流路1k側から後述の密閉室R3側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向への流れを阻止し得るように構成されている。
【0019】
第1のシリンダ1a内の先端面とマスタピストン11の凹部底面との間にはスプリング13が張架され、マスタピストン11が後方に付勢されている。そして、マスタピストン11の凹部底面にはロッド14aの一端が固着され、その他端側の頭部がリテーナ14bの先端部に係止し得るように配設されており、これらによってマスタピストン11の後端位置が規制されている。同様に、マスタピストン11の後端面とマスタピストン12の凹部底面との間にはスプリング15が張架され、両者が離隔する方向に付勢されている。そして、マスタピストン12の凹部底面にはロッド16aの一端が固着され、その他端側の頭部がリテーナ16bの先端部に係止し得るように配設されており、これらによってマスタピストン12の後端位置が規制されている。
【0020】
マスタピストン12の後方には密閉室R3を介して液圧助勢装置20が構成されている。図2に示すように、マスタシリンダハウジング1にはブースタハウジング2が接合されており、このブースタハウジング2は、第1のシリンダ1aに接合され段付孔を有するシリンダ2aと、このシリンダ2a内に収容されるシリンダ2b及びシリンダ2cから成る。シリンダ2aの中空部で形成されるシリンダボア2gはマスタシリンダのシリンダボア1eより大径で、これにパワーピストン21が液密的摺動自在に収容されている。本実施形態のパワーピストン21は、組付けの便宜上複数の部品に分割され、ピストン部材21x及び21y等が重合されている。
【0021】
ピストン部材21xは筒状に形成され、大径の中空部21a及び小径の中空部21bによって段付孔が形成されている。ピストン部材21xの前方にはランド部が形成され、これに環状のシール部材S5が嵌合されている。一方、ピストン部材21yも筒状に形成され、その後方にランド部が形成され、これに環状のシール部材S7が嵌合されている。更に、シール部材S5とシール部材S7の間のシリンダ2bの内面に環状のシール部材S6が配設され、シリンダ2cの底部開口回りにシール部材S8が配設されている。而して、シール部材S4とシール部材S5の間に密閉室R3、シール部材S5とシール部材S6の間に環状のドレイン室R4、シール部材S6とシール部材S7の間に環状の給液室R5、更にシール部材S7とシール部材S8の間にパワー室R6が形成されている。尚、本願のシール部材S5乃至S7と同様、ゴムを表す太いハッチングで示した部材もシール部材であるが、符合は省略した。
【0022】
上記のように構成されたピストン部材21x及び21yを備えたパワーピストン21には、図2に示すように前方から順に大径の中空部21a、小径の中空部21b及び中径の中空部21cが形成されており、中空部21aをドレイン室R4に連通する軸方向の長穴21d、中空部21bをドレイン室R4に連通する連通孔21e、この連通孔21eに連通し後方に開口してピストン部材21xとピストン部材21yとの間の空間に連通する連通孔21fが形成されている。
【0023】
ピストン部材21y内の中空部21cには調圧手段を構成する調圧ピストン23が収容されている。ピストン部材21yの後方の開口部には筒状の入力部材22が収容され、入力部材22の中空部内には入力ロッド3bが摺動自在に収容され、その後方にブレーキペダル3(図1)が接続されている。調圧ピストン23には大径の中空部23aと小径の中空部23bが形成されており、中空部23bにはスプール23pが液密的摺動自在に収容されている。一方、ピストン部材21x内の中空部21aには反力伝達用の弾性部材として反力ゴムディスク25が収容され、その前方に制御ピストン26が反力ゴムディスク25に密着するように配置され、制御ピストン26の前端面がピストン部材21xの前端面と面一となる位置で前進移動が規制されている。また、ピストン部材21x内の中空部21bには伝達部材24xが摺動自在に収容されている。そして、伝達部材24xの後端面に当接するように伝達部材24yが配置され、スプール23pに支持されている。図1及び図2に示すように、非作動時の初期位置では反力ゴムディスク25と伝達部材24xの先端面との間に若干の空隙が形成されている。
【0024】
上記制御ピストン26には前方に開口する軸方向の凹部26aと、これに小径の連通孔26bを介して連通する径方向の連通孔26cが形成されており、凹部26aには二つの弁機構27及び28が収容されている。弁機構27は、連通孔26bを挿通する軸部を有し連通孔26bを開閉する弁部材27vと、これを連通孔26b方向(即ち、閉方向)に付勢するスプリング27sから成る。径方向の連通孔26cにはロッド27rが挿通され、その両端に支持部材27pが設けられ、長穴21d内を移動可能に支持されている。図2に示すように、弁部材27vは、その軸部がロッド27rに当接するようにスプリング27sによって押圧されている。弁部材27vは、スプリング27sの付勢力より大の力で前方に押圧されると弁部材27vが連通孔26bから離座し、連通孔26bは連通状態となる。
【0025】
一方、弁機構28は、密閉室R3内の圧力と凹部26a内の圧力(ひいては、連通孔26b、連通孔26c、ドレイン室R4内の圧力)の差圧に応じて開閉する逆止弁であり、本発明の第2の弁機構を構成する。この弁機構28により、密閉室R3側の圧力の方が大であれば、密閉室R3は凹部26aと連通するが、凹部26a側の圧力の方が大であれば、連通が遮断される。また、弁機構28は、液圧ブレーキ装置の非作動時には圧力差が存在しないので開位置にある。従って、ブレーキ液を充填する際には、ドレイン室R4側から真空引きをすることにより、容易且つ確実に密閉室R3内のエア抜きを行なうことができる。
【0026】
次に、スプール23pの外周面には環状溝23s,23tが形成されると共に、前方で開口する軸方向の穴23jが形成され、この穴23jに伝達部材24yの後端部が挿入され、伝達部材24yがスプール23pに支持されている。パワー室R6は連通孔21h、連通孔23d,23c、及び連通孔21f,21eを介してドレン室R4に連通する。これに対し、スプール23pが前進して図3に示す状態になると、連通孔23cがスプール23pによって遮蔽され、パワー室R6とドレン室R4との連通が遮断される。代わって、環状溝23tが連通孔23eの開口部及び環状溝23gと対向し、環状溝23sが環状溝23gと対向すると共に入力部材22前端の凹部22aに開口するので、連通孔21hを介して凹部22aに連通するパワー室R6は、これら環状溝23s,23t,23g及び連通孔23e、並びに連通孔21gを介して給液室R5と連通する。
【0027】
一方、伝達部材24yとピストン部材21xとの間にスプリング24tが配設され、後方に付勢されている。また、前方の伝達部材24xには、後方に開口する軸方向の穴24dが形成され、前方に延出するプランジャ24pと、これを所定の付勢力で前方に付勢するスプリング24sが、穴24d内に収容されている。プランジャ24pは、更に反力ゴムディスク25を貫通すると共に、制御ピストン26の一部を貫通し、伝達部材24xが前進駆動されたときに、プランジャ24pの先端がロッド27rに当接し、これを前方に押動するように配設されている。尚、密閉室R3内の圧力がマスタシリンダ液圧と同圧に維持されているときには(このとき弁部材27vは閉位置にある)、プランジャ24pがロッド27rに押接されても弁部材27vを開弁することなくスプリング24sが圧縮されるように、スプリング24sの荷重が設定されている。而して、スプール23p、伝達部材24x,24y、プランジャ24p等によって本発明の駆動手段が構成されている。
【0028】
更に、ブースタハウジング2には、ドレイン室R4に連通するドレインポート2d、給液室R5に連通する入力ポート2e、及びパワー室R6に連通する入力ポート2fが形成されており、ドレインポート2dは常開の開閉弁6を介してリザーバ4に連通接続されている。尚、この開閉弁6はきめ細かい制御を行なうためリニアソレノイドバルブで構成されている。補助液圧源40は、図1に示すように電動モータ41によって駆動される液圧ポンプ42を備え、入力側がリザーバ4に連通接続され、出力側が逆止弁43を介してアキュムレータ44に連通接続され、入力ポート2eに直接連通接続されると共に、常閉の開閉弁5を介して入力ポート2fに連通接続されている。尚、この開閉弁5もリニアソレノイドバルブで構成すれば一層きめ細かい制御が可能となる。本実施形態では、補助液圧源40が所定の出力液圧に維持されるように、アキュムレータ44に圧力センサPが接続されている。
【0029】
次に、上記の構成になる液圧ブレーキ装置の全体作動を図1乃至図6を参照して説明する。図3乃至図6は液圧助勢装置20部分の作動状態を拡大して示すもので、先ず、ブレーキペダル3が非操作状態にあるときには各構成部品は図1及び図2に示す状態にあり、開閉弁5は閉位置、開閉弁6は開位置とされている。マスタピストン12の後端面は制御ピストン26の前端に当接し、液圧助勢装置20は非作動の状態にある。このとき、圧力室R2は連通孔1k及び給液ポート1jを介してリザーバ4に連通しているので大気圧下にある。また、密閉室R3も開位置の弁機構28,27、連通孔26c、連通孔21d、ドレインポート2d及び開位置の開閉弁6を介してリザーバ4に連通している。
【0030】
一方、給液室R5は入力ポート2eを介して補助液圧源40に連通接続されているが、連通孔23eはスプール23pによって遮断されている。また、パワー室R6は開閉弁5が閉位置にあり、補助液圧源40との連通が遮断されている。そして、連通孔23d,23c、中空部23b、連通孔21f,21e、ドレインポート2d及び開位置の開閉弁6を介してリザーバ4に連通している。同時に、パワー室R6は連通孔23d,23c、連通孔21f,21e、連通孔21d、連通孔26c及び開位置の弁機構27,28を介して密閉室R3に連通している。而して、この状態で補助液圧源40が駆動されてもパワーピストン21には給液室R5内の液圧による後方への押圧力が付与されるのみであるので、図1及び図2に示す停止位置に維持される。
【0031】
次に、助勢作動について説明すると、開閉弁5及び開閉弁6は非作動時と同様、夫々閉位置及び開位置にある。ブレーキ操作が行なわれ、入力ロッド3bが前進駆動されてスプール23pが前進し図3に示す状態となると、連通孔23cがスプール23pによって遮断されるので、パワー室R6とドレインポート2dとの連通が遮断されるのに対し、環状溝23tが連通孔23eの開口部及び環状溝23gと対向し、環状溝23sが環状溝23gと対向すると共に入力部材22の凹部22aに開口するので、入力ポート2e、給液室R5、連通孔21g,23e、環状溝23t,23g,23s、凹部22a及び連通孔21hを介してパワー室R6にパワー液圧が導入される。
【0032】
特に、助勢作動開始時には、補助液圧源40のパワー液圧によるピストン部材21yを後方に押圧する方向に付与されるピストン部材21yのランド部(後方への受圧面を構成)の断面積及び調圧ピストン23の断面積分の押圧力と、ブレーキ操作に応じてパワー室R6に導入される液圧によるピストン部材21yの環状断面積分の押圧力及びブレーキ操作力とがバランスするように作動し、パワーピストン21が前進駆動されると(従って、ピストン部材21x及び21yが前進すると)、弁機構27の弁部材27vがロッド27rから離隔しスプリング27sの付勢力によって閉成されるので、密閉室R3はブレーキ液が充填された密閉空間となる。
【0033】
このようにして、密閉室R3が密閉空間とされた後の助勢作動中は、ブレーキ操作力並びに制御液圧によってピストン部材21y及び制御ピストン26の後端面に付与される押圧力に対し、パワー液圧によってピストン部材21yを後方に押圧する方向に付与される押圧力と、圧力室R2の圧力によってマスタピストン12に付与され、制御ピストン26の前端面に伝達される押圧力がバランスするように制御される。そして、密閉室R3は、ピストン部材21xの断面積及び制御ピストン26の断面積の合計がマスタピストン12の断面積より大であるので、パワーピストン21の前進移動に伴いマスタピストン12が前進してマスタピストン12とパワーピストン21との間隙が拡大して図3に示すようになり、この状態でマスタピストン12とパワーピストン21が流体的に結合され一体的に移動することとなる。
【0034】
以上のように、液圧助勢装置20による助勢時には、パワーピストン21とマスタピストン12が密閉室R3に充填されたブレーキ液を介して流体的に結合され、図3に示すようにパワーピストン21とマスタピストン12との間隙分、マスタピストン12が前進した状態でパワーピストン21及びマスタピストン12が一体となって前進するので、ブレーキペダル3のストロークが短縮される。この間、密閉室R3内のブレーキ液圧が制御ピストン26、反力ゴムディスク25、伝達部材24x,24y、プランジャ23p、入力ロッド3b及びブレーキペダル3に伝達され、反力が付与される。
【0035】
更に、液圧助勢装置20による助勢が限界に達した時には、図3の状態から、ブレーキペダル操作量に応じて入力ロッド3b、スプール23p、伝達部材24y,24xが前進し、図4に示すようにプランジャ24pがロッド27rに当接し、これを押圧する。このとき、弁機構27は閉位置にあり密閉室R3内の圧力がマスタシリンダ液圧と同圧に維持されているので、プランジャ24pによってロッド27rが押圧されても所定圧を超えるとスプリング24sが圧縮される。即ち、プランジャ24pはロッド27rに当接した状態に維持されるが、弁部材27vは開弁しない。而して、液圧助勢装置20の助勢限界後も、ブレーキペダル操作量に応じてパワーピストン21(ピストン部材21x)が前進し、マスタシリンダ液圧が更に増圧される。
【0036】
一方、液圧助勢装置20が失陥した場合には、給液室R5及びパワー室R6にパワー液圧が供給されず、ドレイン室R4はドレインポート2dを介してリザーバ4に連通し、また密閉室R3内は弁機構27及び28を介してリザーバ4に連通するので、何れも大気圧のままとなる。従って、ブレーキペダル3の操作に応じて入力ロッド3bが前進駆動されると、スプール23p及び伝達部材24y,24xを介してプランジャ24pの先端がロッド27rに押接され、このロッド27rを介してピストン部材21xが押圧されて前進し、図1及び図2の状態から、図5に示す状態となる。而して、パワーピストン21とマスタピストン12が一体となって前進するが、この場合に出力されるブレーキ液圧は、ピストン部材21xの断面積及び制御ピストン26の断面積の合計ではなく、マスタピストン12の断面積によって決まるので、前者と後者の断面積が同じ場合の特性に比べて、液圧助勢装置20の失陥時の増圧勾配が大となる。尚、液圧助勢装置20が失陥していないときには、プランジャ24pがロッド27rに押接されても、スプリング24sが圧縮され、弁部材27vは開弁しない。
【0037】
図6はアクティブブレーキ(自動ブレーキ)時の作動状態を示すもので、ブレーキペダル3は非操作の状態で、開閉弁5が開位置の状態で開閉弁6が閉位置とされ、補助液圧源40が駆動される。初期位置には、スプール23pは図2と同様の位置関係にあるので、連通孔23eはスプール23pによって遮断され、給液室R5には補助液圧源40の出力パワー液圧が付与される。一方、パワー室R6は連通孔23d及び23c、並びに連通孔21f及び21eを介してドレインポート2dに連通しているが、開閉弁6が閉位置とされているので、この間の空間はパワー室R6内のブレーキ液圧、即ちパワー液圧となる。これにより、弁機構28の前後に差圧が生じ、弁機構28は図6に示すように閉成され、密閉室R3はブレーキ液が充填された密閉空間となる。
【0038】
また、弁機構27も、図3の状態と同様、閉位置とされる。この結果、パワー室R6に導入されるブレーキ液圧によるパワーピストン21の有効断面積分の押圧力によってマスタピストン11,12が前進駆動される。而して、自動ブレーキ時(ブレーキペダル3は非操作状態)には、補助液圧源40及び開閉弁5,6を適宜制御することによって所望のブレーキ液圧を出力することができる。
【0039】
尚、ブレーキアシスト制御時の作動状態は図3と同様であるので図示を省略したが、例えばブレーキペダル3が所定速度以上の速度で操作され、あるいは所定量以上の操作量操作されると、開閉弁6が閉位置とされた後、開閉弁5が開閉制御される。これにより、補助液圧源40の出力パワー液圧が給液室R5及びパワー室R6に供給され、開閉弁5の開閉制御に応じてスプール23pとパワーピストン21との相対移動が制御される。而して、この場合には通常の液圧助勢時の液圧以上のブレーキ液圧が出力され、ブレーキペダル3に対する踏力不足に影響されることなく、適切な制動力を確保することができる。
【0040】
以上のように、上記の構成になる本実施形態の液圧ブレーキ装置においては、簡単な構成で、液圧助勢時のブレーキペダル3のストロークを短縮することができ、万一液圧助勢装置20が失陥したときにも大きなブレーキ液圧が出力されるので、失陥時においても適切な制動力を付与することができる。また、本実施形態においてはパワーピストン21内に弁機構及び駆動手段、更には調圧手段が構成されているので、容易に製造、組付けを行なうことができる。尚、上記の実施形態における液圧助勢装置20としては、液圧ブースタ、レギュレータ等、種々の名称のものが用いられるが、何れのものを用いてもよい。
【0041】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の液圧ブレーキ装置によれば、密閉室とリザーバとを、パワーピストンの作動開始に応じて閉成する弁手段を介して接続し、パワーピストンの非作動時には、弁手段を介して密閉室がリザーバに連通するように構成されているので、ブレーキ非作動時には密閉室をリザーバに連通し、ブレーキ作動開始時には確実に密閉室を形成することができ、例えば助勢時には短いストロークで円滑に制動力を増大させることができる。
【0042】
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置においては、弁手段を、パワーピストン内に配置し、パワーピストンの前進作動に応じて閉成する常開の弁機構で構成し、該弁機構と調圧手段との間に介装し、調圧手段の作動限界を超えたとき及び調圧手段が非作動状態であるときにブレーキ操作部材の操作に応じて弁機構を開放する駆動手段を具備するように構成されているので、簡単な構造で、ブレーキ非作動時には密閉室をリザーバに連通し、ブレーキ作動開始時には確実に密閉室を形成することができる。
【0043】
前記弁機構は、請求項3に記載のように駆動手段を介して弁機構に付与される押圧力が所定値を超えたときに開放し、当該押圧力が所定値以下のときには閉成状態を維持する構成とすれば、助勢眼界後もブレーキ操作に応じて適切に制動力を付与することができる。
【0044】
更に、電磁開閉弁等を設け、請求項4に記載のように構成すれば、容易に自動ブレーキを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る液圧ブレーキ装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態においてブレーキ操作が行なわれていない状態の液圧助勢装置部分の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における液圧助勢時の作動状態を示す液圧助勢装置部分の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における液圧助勢限界後の作動状態を示す液圧助勢装置部分の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態における液圧助勢失陥時の作動状態を示す液圧助勢装置部分の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における自動ブレーキ時の作動状態を示す液圧助勢装置部分の断面図である。
【符号の説明】
10 マスタシリンダ, 20 液圧助勢装置, 3 ブレーキペダル,
4 リザーバ, 5,6 開閉弁, 11,12 マスタピストン,
21 パワーピストン, 27,28 弁機構, S1〜S9シール部材,
R1,R2 圧力室, R3 密閉室, R4 ドレイン室,
R5 給液室, R6 パワー室

Claims (4)

  1. ブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンを前進駆動しリザーバのブレーキ液を昇圧してブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、前記マスタピストンの後方に、前記マスタピストン後方の受圧面全体を収容する密閉室を介して配置すると共に、後方にパワー室を形成するパワーピストンと、前記リザーバのブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源に接続すると共に前記リザーバに接続し前記補助液圧源の出力パワー液圧を所定の圧力に調圧して前記パワー室に供給する調圧手段とを備え、該調圧手段による助勢時には前記密閉室にブレーキ液が充填されて前記マスタピストンと前記パワーピストンとが流体的に結合され得る車両の液圧ブレーキ装置において、前記密閉室と前記リザーバとを、前記パワーピストンの作動開始に応じて閉成する弁手段を介して接続し、前記パワーピストンの非作動時には、前記弁手段、前記パワー室及び前記調圧手段のうち前記弁手段のみを介して前記密閉室が前記リザーバに連通するように構成したことを特徴とする車両の液圧ブレーキ装置。
  2. 前記弁手段を、前記パワーピストン内に配置し、前記パワーピストンの前進作動に応じて閉成する常開の弁機構で構成し、該弁機構と前記調圧手段との間に介装し、前記調圧手段の作動限界を超えたとき及び前記調圧手段が非作動状態であるときに前記ブレーキ操作部材の操作に応じて前記弁機構を開放する駆動手段を具備したことを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
  3. 前記弁機構は、前記駆動手段を介して前記弁機構に付与される押圧力が所定値を超えたときに開放し、当該押圧力が前記所定値以下のときには閉成状態を維持するように構成することを特徴とする請求項2記載の車両の液圧ブレーキ装置。
  4. 前記パワー室を前記補助液圧源に連通接続する液圧路に介装する常閉の電磁開閉弁と、前記調圧手段を前記リザーバに連通接続する液圧路に介装する常開の電磁開閉弁と、前記密閉室と前記弁機構との間に配置し前記常閉の電磁開閉弁及び前記常開の電磁開閉弁が作動状態にあるときには前記密閉室と前記リザーバとの連通を遮断する第2の弁機構とを備え、自動ブレーキ時には前記補助液圧源を駆動すると共に、前記常閉の電磁開閉弁及び前記常開の電磁開閉弁を作動状態として夫々開位置及び閉位置に切り換え、前記第2の弁機構が前記密閉室と前記リザーバとの連通を遮断するように構成することを特徴とする請求項1記載の車両の液圧ブレーキ装置。
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