JP4541621B2 - 液体濃縮方法及びそれに使用する浸透蒸留装置 - Google Patents
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Description
発明の属する技術分野
本発明は、液体を濃縮する浸透蒸留法に関する。より詳細には、自由体積の大きな重合体組成を持つ非孔性膜を利用して、液体から揮発成分をストリップ溶液(strip solution)に移行する浸透蒸留法に関する。
【0002】
発明の背景及び要約
浸透蒸留は一種の膜分離方法であり、その場合は多孔性膜かまたは微孔性膜の一面に接する液体の成分を膜を通してその膜の反対の面のもう1つの液体に移送する。これは、膜が二種の液体の内のいずれによっても湿潤されなく、揮発性成分が蒸気の状態で膜を通過する点で、逆浸透、限外濾過及び透析蒸発(pervaporation)のようなもっと広く知られている別のタイプの膜分離方法とは異なる。従って、揮発性成分を移送する推進力は「送る」側の液体上の揮発性の成分の蒸気圧と、「受取る側の」液体上の成分のそれより低い蒸気圧との間の差である。
【0003】
浸透蒸留の重要な特徴は、揮発性成分を移送するのに、膜の両面間に相当高いシステム圧力あるいは温度勾配が存在する必要がないということである。従って、この方法の有利な点は、常温、常圧で操作できることである。そのような低温プロセス条件や低圧プロセス条件のために、温度及び/または圧力に敏感な成分からなる当初希薄な液相中の濃度を増加させるのには浸透蒸留が理想的である。これらのものは高温やせん断応力に対し安定性が低い物質である。そのような成分は、他の方法で必要とされる高温度下あるいは高圧力下で濃縮すると悪影響を受けるか破壊され易いようなものである。この重要な特徴のために、浸透蒸留は、最近、特に液体状の食料品、化粧品(例えば香料)、薬剤製品及び熱に弱い生体物質を濃縮できる可能性があるものとして有望視され、多くの注目を浴びている。浸透蒸留技術に関しては、はホーガン、ポールA(Hogan, Paul A)による優れた解説がある。新しいオプション:浸透蒸留、化学工学の進歩(Chemical Engineering Progress)1998年7月、pp.49〜61。これは参照によりその全文をここに編入。
【0004】
果物や果汁及びアルコール飲料等の飲料の濃縮が浸透蒸留の主な用途である。飲料を濃縮する最も顕著な理由は、濃縮物が大量の溶剤を含まず、稀薄状態の場合よりもはるかに長期間安定であるからである。濃縮物は、稀薄状態の場合よりも長距離をより廉価で運送でき、はるかに長期間鮮度を保てる。
【0005】
果汁、特に柑橘類の中には、油分や表面張力を減少させる他の成分(例えば界面活性剤)を含有しているものがある。これらの油分や表面張力を減少させる他の成分を以下総称して「油分」または「油成分」と呼ぶ。例えば、オレンジ・ジュースには相当な量の溶存したリモネン油が含まれている。油成分は膜表面を濡らし、気孔を塞ぎ、揮発性成分の望ましい移送を減少あるいは完全に停止する傾向があり、このために原料を更に濃縮するのを妨害するので、主に水性である果汁溶液中に溶存した油があると浸透蒸留上の問題となることがある。また、油分は最終的には膜の中に浸入し、膜の両方の側に存在する流体が混合してしまう可能性があり、これは望ましくない。
【0006】
果汁も他の液体もパルプのようになっていることがある。すなわち、これらの液体中には懸濁した固形物が含まれている。果汁が濃縮されるに従って固体の濃度は増加する。固形物は、更に膜表面の相当な部分をさえぎることがあり、それにより気孔を塞ぎ、揮発性成分の移送速度が非常に低下するという程度までも浸透蒸留を妨害することになる。
【0007】
加工する対象の液体の中の油分、及び/または固体成分によって膜が濡れたり妨害されることを防止できる浸透蒸留法で液体が濃縮できれば望ましいことであろう。従って、本発明によれば、液体の原料混合物の濃縮方法が提供されているが、この方法は、
初期の濃度にある諸成分の原料混合物であって、該混合物に可溶で、該混合物の上にあるときは第1の蒸気圧を持つ揮発性成分を含む原料混合物と、ストリップ溶液(strip solution)であって、該ストリップ溶液の上にあるときには該揮発性成分が第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を持つストリップ溶液とを用意し、二面を有する膜構造物であって、その一面が揮発性成分に透過性で、かつ、前記原料混合物あるいは前記ストリップ溶液のいずれによっても湿潤されない組成の非孔性膜より成り、第2の面が微孔性基質と同延であることを特徴とする二面を有する膜構造物を用意し、
原料混合物を非孔性膜と接触させると同時にストリップ溶液を微孔性基質と接触させ、第2の蒸気圧を第1の蒸気圧より低くに維持し、それによって揮発性成分を原料混合物から膜を透過させてストリップ溶液に移送して、前記非揮発性成分以外の成分が初期濃度より高濃度で含まれた濃縮液体混合物を生成し、
次いで、濃縮液体混合物を取り出す工程からなることを特徴とする濃縮方法である。
【0008】
更に、浸透蒸留装置が提供されているが、この装置は、
初期濃度にある諸成分の液体原料混合物を濃縮するための浸透蒸留装置であって、
前記原料混合物が、前記原料混合物に可溶で、前記混合物の上にあるときは第1の蒸気圧を持つ揮発性の成分を含み、前記装置が、前記揮発性成分を透過させる非孔性膜と、該非孔性膜に隣接し同延する微孔性基質とを有することを特徴とする二面を有する膜構造物と、前記原料混合物を前記非孔性膜と接触させる手段と、
第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧にある前記揮発性成分を含むストリップ溶液を前記微孔性基質と接触させる手段と、
第2の蒸気圧を第1の蒸気圧より低く維持し、それによって揮発性成分を原料混合物から膜を透過させてストリップ溶液に移送する手段とから成り、
該装置においては、前記非孔性膜組成が前記原料混合物あるいはストリップ溶液のいずれによっても湿潤されないことを特徴とする蒸留装置である。
【0009】
詳細な説明
この新規な浸透蒸留法は、基本的には第1の液体から揮発性の成分を非孔性膜を通して第2の液体へ移送することから成り、それにより、第1の液体に残る残渣成分を濃縮し、第2の液体は、移送されてくる揮発性成分の追加によって希釈される。多くの場合、この方法の主要製品は希釈した第2の液体ではなく、残渣成分が富化された第1の液体である。
【0010】
用語の意味上、揮発性成分が取り除かれる液体である第1の液体、つまり濃縮する液体を「原料」と呼び、第2あるいは揮発性の成分によって希釈される液体を「ストリップ溶液」と呼ぶことにした。後者の用語は、原料から揮発性成分をストリッピングする(抜き取る)その機能に由来したものと考えることもできる。
【0011】
原料は、少なくとも1つの揮発性成分、及び、揮発性の成分を幾分除去することにより濃縮されるようになる少なくとも1つの他の成分を含む液状混合物である。固形物は、原料混合物中に存在できるが、その場合にはスラリーや懸濁物になる。原料混合物が自由に流動性を維持する流体である限り、液体と固形物の比率は重要ではない。固形物が存在する場合には、原料混合物中に通常は一様にあるいは少なくとも十分に分散されている。果肉入り、つまり果物片を含む果汁は、典型的な固形物を含む原料の例である。
【0012】
原料混合物は、浸透蒸留法の操作によって濃縮される一種以上の残渣成分を含有してもよい。特に断らない限りは、この濃縮成分の数としては、単数で表しても、ここでは複数の場合も含むものとする。濃縮成分は、液体あるいは固形物でもよい。好ましくは、液体の場合、濃縮される成分は揮発性の成分と相互に溶存し合える関係であるべきである。更に、濃縮成分の蒸気圧は、揮発性成分のそれと比較して低くなければならないが、これは、ストリップ溶液へ濃縮成分が相当量移送するのを防ぐためである。濃縮成分が固形物である場合、その成分が揮発性成分に完全にあるいは部分的に可溶であってもよい。
【0013】
浸透蒸留では、膜を通して揮発性の成分が移送するための駆動力は、原料混合物とストリップ溶液との間の揮発性成分の蒸気圧の勾配である。従って、大きな蒸気圧の勾配が得られるように、揮発性成分は、濃縮する溶液の上にあるときは高い蒸気圧を示すべきである。この新規な浸透蒸留法は、砂糖、多糖類、カルボン酸塩類、タンパク質等のような中・高分子量で、低度の揮発性を示すか不揮発性の溶質が当初希薄な状態で存在する溶液を濃縮するのに最適である。産業上重要な多くの溶剤は大抵水か有機溶剤であって、典型的にはアルコール(例えばエチルアルコール)のような極性を有する有機溶剤である。実際使用される溶剤は、対象とする原料混合物により決まる。好ましくは、原料混合物は、スープ及び果物を含む液体食料品、アルコールまたはカフェイン入り飲料、化粧品(例えば香料)、薬剤製品、栄養剤、ラテックス、及び、血液、尿、脳脊髄液等を含む動物体液のような熱に敏感な生体物質のような組成から選ばれる。
【0014】
水が溶剤である場合、ストリップ溶液は、好ましくは、高い浸透力のある不揮発性溶質が揮発性の成分に溶解した溶液であるべきである。すなわち、不揮発性の溶質は、当量が小さく、揮発性の成分中に高い溶解度を持つものであるべきである。ストリップ溶液は、膜のストリップ溶液側の揮発性成分の蒸気圧を低下させるように、不揮発性の溶質を比較的高濃度に保つべきである。こうすることによって、揮発性の成分がストリップ溶液に迅速に移送するよう促進される。
【0015】
ストリップ溶液中の揮発性成分の蒸気圧は、膜を通っての移送が進むにつれ、増加することになる。この移送速度を高く維持するためには、ストリップ溶液中の揮発性成分の濃度は低く維持すべきである。これは、ストリップ溶液に未使用の、揮発性成分濃度の低いストリップ溶液を再仕込みすることで達成できる。経済的により優れた操作としては、ストリップ溶液は余分の揮発成分を除去して再濃縮し再使用する。従って、不揮発性溶質は、好ましくは、再濃縮を促進するのに使用でき、高温で、安定でなければならない。ストリップ溶液も、塩水井戸あるいは塩濃度の高い水源から再仕込みしてもよい。更に、ストリップ溶液の不揮発性の溶媒は、無毒、非腐食性で廉価であることが望ましい。好ましくは、ストリップ溶液の不揮発性溶質はアルカリ水酸化物;ハロゲン化アルカリ塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩、またはこれらの混合物から成る群から選ばれた水溶塩である。代表的な水溶性塩類は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸モノカリウム塩、正リン酸二カリウム塩、硫酸マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びこれらの混合物を含む。
【0016】
重要な点として、従来の浸透蒸留で以前使用されていた多孔性の膜とは異なり、本発明による浸透蒸留法は、非孔性の気体透過性の膜より成る膜構造物を利用することである。この特徴のため、油成分及び/または懸濁した固形物を含む液体混合物を濃縮するのに特に有用な新規な方法が可能になっている。膜の中の気孔は、特に混合物が濃厚になるにつれて、原料混合物中の油分で湿潤され得る。多孔性の膜が「完全に濡れる」つまり、油成分で飽和すると、油分は、膜の中に進入し気孔を閉塞及び/または被覆することとなる。そのような閉塞が起こると、揮発性成分の移送が低下し、また、そのような被覆があると、ストリップ溶液及び/または原料混合物が膜を「突破」し、他方を汚染してしまうことがある。同様に、濃縮すべき溶液中の固形物は気孔を閉塞し得る。非孔性の膜がこれらの悪影響を遅らせるか、防ぐことができるので、次に洗浄するまでの期間がはるかに伸び、その間より高い移送速度で非孔性の膜が利用できることが見出された。従って、この新規な浸透蒸留法の非孔性膜が、原料あるいはストリップ溶液のいずれかによっても濡れない組成であることが好ましい。「濡(湿潤さ)れない」と言う意味は、原料またはストリップ溶液を浸透蒸留法を実施するときの圧力下及び所定の期間の間使用して、非孔性膜に米国特許No.5,876,604の実施例14〜16に記述されているような突破試験を実施した時に、突破が起こらないということであり、その開示内容全体が参照によってここに編入される。広い意味では、突破試験の期間が1日から1か月までの範囲以内であって、圧力が通常約1〜5ポンド/平方インチ(psi)(7〜35KPa)の範囲にあるのが典型的である。所定の実験をしなくても、当業者は、液体と膜組成の特定の組み合わせによって試験継続期間を決められるはずである。
【0017】
これまでは、非孔性膜は浸透蒸留での使用に適しているとは見なされていなかった。上述の通り、浸透蒸留では、揮発性成分の移送は、膜を通して起こる気体の透過によって生ずるのが特徴である。従来の非孔性膜の材料では、一般に気体の透過率が高くない。従って、従来技術では、非孔性膜による揮発性の成分の移送は遅すぎて浸透蒸留には実用性がないと思われてきた。浸透蒸留が満足できる移送速度で実施可能な非孔性膜がある種の物質から生成できることとなり、その結果、浸透蒸留で非孔性膜を使用することで濡れが減少するメリットが得られることを今回見出したのである。
【0018】
この発明の重要な点は、たとえ膜が非孔性でも、自由体積の大きな気体透過性膜が浸透蒸留による商業ベースに乗る程度に揮発性成分の分離に適する透過率で使えることが見出されたことである。従って、自由体積の大きな非孔性気体透過性の膜を使用することで、従来浸透蒸留による濃縮が困難であった液体混合物の濃縮が、高い透過率の安定濃縮法で可能になった。
【0019】
自由体積は重合体の特性で、図1で示すように、比容V対温度Tをプロットしたグラフを見れば理解できる。自由体積という用語は、分子によって実際には占められていない重合体の体積を意味する。図1では、分子が占める重合体の体積は、重合体製品を構成する分子の体積對温度関係を定義する線7より下の領域8で表わされる。線4は、重合体から生成した製品の体積温度関係を定義する。従って、線4と線7間の領域は、重合体製品の物理的な大きさ内の分子間の空間を表わす。更に、線4より上の領域は、製品の境界外の空間体積を表わす。この最上部の地域は、多孔性の重合体製品全体にわたる気孔群の体積を含むことになる。
【0020】
多くの物質で、V対Tのプロットで線形の関係4が定義される。しかしながら、ある重合体については、V對Tプロットの不連続点1はガラス転移温度、Tgで見られる。即ち、重合体がガラス質であるTg未満では、比容積は温度の上昇につれて線4に沿って直線的に増加する。ガラス転移温度に到達し超過する場合、比容積は線2に沿って温度と共に直線的に増加し続けるが、上昇率はより高くなる。すなわち、Tg以上での比容積対温度直線2の勾配は、Tg未満の線4より険しい。Tg以下の任意の温度で、実際の比容積と、比容積対温度直線6をTg以上からTg以下に外挿することにより得られる推定比容積との間の差を定めることができる。領域5として示されるこの差異は、「超過自由体積」と名付けられている。従って、Tgより下の温度のガラス質の重合体は、大きな超過自由体積を持つことができ、直線6及び7の間で予期される自由体積より全面的に大きな、特に高い自由体積を与える。
【0021】
自由体積の大きな重合体は浸透蒸留用の非孔性膜として使用するのに好ましい。「自由体積が大きい」という用語は、使用温度での重合体の自由体積が少なくとも約15%であり、好ましくは、少なくとも約28%であることを意味する。使用温度は浸透蒸留を実施する温度になる。高自由体積重合体は、ガラス転移温度が通常の室温以上、好ましくは約30℃より上、更により好ましくは約115℃より上であることが望ましい。
【0022】
浸透蒸留を行なうために特に好まれる自由体積の大きな重合体は、ポリトリメチルシリルプロピン、シリコーンゴム、及びある種の過フロロ−2,2−ジメチル−1、3−ジオキソールの無定形共重合体で、特に後者が好ましい。
【0023】
膜は、ある種の過フロロ−ジオキソール単量体、すなわち過フロロ−2、2−ジメチル−1、3−ジオキソール(「PDD」)の無定形共重合体から形成することができる。若干の好ましい実施態様では、共重合体は、PDDとテトラフロオルエチレン(「TFE」)、過フロロメチル ビニルエーテル、フッ化ビニリデン及びクロロトリフロロエチレンから成る群から選ばれた少なくとも1種の単量体との共重合体である。他の好ましい態様では、共重合体は、PDDと補足的な量のTFEの2元共重合体、特にPDDを50〜95モル%を含む重合体である。2元共重合体の例は、E.N.Squireの米国特許第4,754,009号、1988年6月28日公告、及び、E.N.Squireの米国特許第4,530,569号、1985年7月23日公告に一層詳細に記述されている。過フロロ−ジオキソール単量体は、B.C.Anderson、D.C.England、P.R.Resnickらの米国特許第4,565,855号、1986年1月21日公告に開示されている。これらの米国特許の開示内容は全て参照によってここに編入する。
【0024】
この無定形の共重合体は、膜の特定の共重合体組成、特にTFE、あるいは存在する他のコモノマーの量に依存するガラス転移温度でその特性を示すことができる。Tgの例は、前述のE.N.Squireの米国特許第4,754,009号の図1に示されており、15%のテトラフロオルエチレン・コモノマーを含む2元重合体の約260℃から少なくとも60モル%のテトラフロオルエチレンを含む2元重合体の100℃未満まで低下する範囲にある。本発明による過フロロ−2、2−ジメチル−1、3−ジオキソール共重合体は、蒸気(スチーム)温度に耐え得るような組成の膜が、十分に高いTgを持つように調整できることが、容易に理解できるはずである。従って、本発明の膜は蒸気滅菌可能にでき、それにより特に生体物質を含む無菌物を必要とする様々な用途に適するようにできる。
【0025】
最適の浸透蒸留の成果を得るのには、使用する気体透過性の膜が非孔性であることを判別することが望ましい。例えば膜表面の顕微鏡検査のような既知の様々な方法で、気孔が無い事をが測定できる。PDD共重合体は、本質的に選択的気体透過性を持つので、特にこの点に関して有利である。具体的には、PDD共重合体の非孔性膜の示す酸素/窒素気体選択性は約1.4より大きい。従って、2種の気体、例えば酸素と窒素のPDD共重合体膜透過率の差異を測定し、膜が気体透過に関して選択性があることによって膜表面が完全で非孔性であることを証明できる。
【0026】
非孔性膜は支持のない単一体の気体透過性の膜構造物でもよい。但し、多孔性か微孔性の基質層上に支持され、非孔性膜が支持多孔性基質に隣接し、同延している非孔性気体透過性の層の多層複合物を用いるのが好ましい。多孔性の担体はその構造によって非孔性膜を保持する。更に、原料混合物、揮発性成分、あるいはストリップ溶液にも犯されず、非孔性膜を経る揮発性成分の移送を妨害しない限り、ストリップ溶液及び原料によって濡らされず(以下、湿潤されず)にそのような支持を与えるようなものであればどんな多孔性の基質物質でも適切である。更に、元々ストリップ溶液か原料で湿潤される物質も加工して非湿潤性にすることができる。液体に対して非湿潤性にするような物質及び方法の例は、米国特許第5,116,650号及び第5,156,780号に記載されているが、これらの開示内容を参照によってここに編入する。代表的な多孔性の基質物質は、ポリエチレンとポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルフォン及びポリフッ化ビニリデンを含む。
【0027】
膜の形は種々に様々な形式でよく、典型的には穿孔されたシートのようなシート形式、多孔性の織・不織布の織物、及び微孔性重合体フィルムでよい。シートは、平面シートとし使用でき、あるいは分離ユニットの表面と体積との比率を増大させるためにひだを付けたり、螺旋状に巻いてもよい。膜は、更に管や管状のリボン(帯状)形式でもよい。管及び管状リボン膜は米国特許第5,565,166号に開示されており、その内容は参照によってここに編入する。
【0028】
特に好ましい態様では、浸透蒸留で使用される非孔性気体透過性の膜を微孔性中空繊維担体上に薄い層として付着させる。そのような複合式の中空繊維の長所は、膜構造物体積の1単位当たり非常に大きな表面積をもたらし、小さな占有空間に非常に高い気体透過率を生み出すことができる。このようにして得られる表面対体積比の長所は、いわゆる繊維モジュール中に複数の複合式の中空繊維を設置することで更に拡大できる。そのようなモジュールは典型的には、実質的に並列した多くの中空繊維の束を含んでいる。繊維の両端は、例えばエポキシ樹脂のような固定媒体で封止する。その後、束は封止両端で輪切りにし(スライス)、束をケーシング内に収めれば、胴管(シェル及びチューブ)モジュール装置が形成できる。非孔性膜は、モジュールを束ねて組み立てる前に中空繊維上に成形してもよいが、モジュール内に束を設置してから中空繊維上に膜を成形する方が好ましい。Stuart M.Nemserの米国特許第5,914,154号にそのような複合式の中空繊維モジュールを製造するのに特に有効な方法が開示されているが、この開示内容は参照によってその全文をここに編入する。
【0029】
本発明を、ある代表的な実施態様を用いてここに説明するが、他に断りがなければ、すべての部、割合、及び百分率はすべて重量に基づく。当初SI国際単位以外の単位で表した重量及び寸法はすべてSI国際単位に変換した。
【0030】
実施例
比較例1及び例1〜3
浸透蒸留装置を図2に示す通りに設置した。塩化カルシウムを含むストリップ水溶液を塩水循環系(以下、塩水ループ)20の中を、塩水原料タンク22から、コールーパーマー(Cole−Parmer Model)7144−05型変速式塩水給水ポンプ24により膜モジュール30を経て循環させた。塩水原料・タンクに磁気攪拌機23を装備して、このタンクの中の溶液濃度を均一に維持した。このときの塩水は25℃に維持したVWR1140型恒温槽25の熱交換器及びアベコール・アフィニティ(Avecor AffinityTM)型血液酸素供給器(メドトロニック社、ミネソタ州ミネアポリス)(Medtronic, Inc., Minneapolis, Minnesota)26を通して送り込み、ストリップ溶液中の余分の気体を除去した。気体抜きの工程は、ウェルチ・デュオ−シール(Welch Duo−SealTM)を備えた真空ポンプで、通常は気体を受け取る酸素供給器側を約25インチのHg真空度になるように排気する傍ら、ストリップ溶液を、通常は血液を受け取る酸素供給器の側を通して通過させることにより遂行した。循環するストリップ溶液の温度は、膜モジュール30へ入る前に熱電対27で測定した。循環するストリップ溶液の圧力計28の圧力は、原料・タンクへの溶液の帰路にある絞り弁29を手動で調節することによりコントロールした。
【0031】
原料は、供給タンク40から、原料ループ41の中を、別のコールーパーマー(Cole−Parmer)型7144−05ポンプ42により、膜モジュール30及び同じVWR型1140恒温槽43の第2の熱交換器を通して循環させた。温度44及び圧力45はモジュールへ入る前に測定した。これらすべての実施例において、モジュールに入る塩水と原料の温度は、互いに約2℃、典型的には約0.5℃を越えない狭い範囲内に維持した。原料の伝導度は、連続的にイエロー・スプリングス機器型(Yellow Springs Instrument Model 32)伝導計46によって測定した。従って、電気伝導性のストリップ溶液が突破したときには、原料の伝導率の増加によって検知可能であった。供給タンク中の濃縮すべき溶液の質量は、供給タンクの下に設置したAcculabR V−4800型電子天秤(0.1gの感度)47を使用して得られた重量測定に基づく物質収支計算から決定した。原料・タンクに入る原料流の流れで攪拌できた。
【0032】
膜モジュール30もAvecor AffinityTM血液酸素供給器であった。この装置は、円筒状のケース33内に、移送膜面積を合計約25平方メートル(約25平方フィート)持つ、複数の微孔性ポリプロピレン中空繊維を収めていたが、これはまとめて概略要素32で示す。気孔サイズは約0.04μmであると推定され、また、この中空繊維は、内径約230μmで外径約300μmであった。装置は、ストリップ溶液がこの中空繊維の管内を通り、原料がこの中空繊維の外面を通るようになっており、モジュール内ではこれらの流体を膜の両面側に対になって存在する個別の帯域34及び36を通るようにした。
【0033】
装置を操作するときは、タンクの中にある固体の塩を維持して、ストリップ溶液の濃度を飽和状態またはその近傍に保持するために、固体の塩化カルシウムを必要に応じて塩水原料・タンクに断続的に加えた。ストリップ溶液の圧力は、原料流より少なくとも0.5ポンド/平方インチ、”psi”(3.5KPa)高くなるように調節した。これは、膜が破断したときにはストリップ溶液そのものが原料を汚染し、それによって前述のように伝導率で検知できることを保証するためにした。
【0034】
浸透蒸留は膜を4種類交換しながら使用して行なわれた。コーティングされていない微孔性ポリプロピレン中空繊維を備えた普通の酸素供給器モジュールを比較例1で使用した。実施例1〜3においては同一型の酸素供給器モジュールを使用し、その場合の同モジュール内の中空繊維は、過フロロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(「PDD」)/テトラフルオロエチレンの共重合体(TeflonR AF 2400、E.I.du Pont de Nemours & de Nemours Co.デュポン社)の非孔性層を中空繊維の外側に厚さを変えて重ね合わせたが、ここで用いた方法は、米国特許第5,914,154号に記載されており、その開示内容を参照によってここに編入する。中空繊維上の有効膜厚は、実施例1〜3ではそれぞれ1.3μm、2.5μm及び3.7μmであった。この膜厚は気体透過率の測定値から計算した。
【0035】
表1は、2種の原料各々、即ち蒸留水及び10重量%の蔗糖水溶液について得られた浸透蒸留による原料からストリップ溶液に到る水蒸気移送速度を示す。ストリップ溶液の流れ及び原料の流れの循環速度は、それぞれ7.8cm3/秒及び38cm3/秒であった。どの試験でも原料流の伝導率の変化は検出できず、大量のストリップ溶液が膜を突破して原料流を汚染しなかったことを示す。
【0036】
【表1】
【0037】
これらの例は、コーティングされていない微孔性膜構造物と比較して、水蒸気透過率が僅かに低下するものの、本発明によって浸透蒸留が実施できることを示す。
【0038】
実施例4及び比較例2
実施例1の浸透蒸留法を繰り返したが、但し、原料流は、10重量%蔗糖水溶液4リットルに20mlのr−リモネン(r−limonen)を加えたものから成るものであった(実施例4)。比較として、この方法も、比較例1の膜モジュールを使用して繰り返した(比較例2)。
【0039】
図3は、実施例4(データ「A」)及び比較例2(データ「B」)について、原料タンク内容物の伝導率(Q)をミリシーメンス(millisiemens)で表したものに対して、重量W(g)をプロットしたグラフを示す。非孔性膜をコーティングした繊維の場合には、伝導率が僅かに増加し、その後、水蒸気がストリップ溶液に移送し、原料タンク中の原料の質量が減少するにつれて徐々に減少したことが図からわかる。これは、蔗糖のようなわずかに伝導性を有する溶液の浸透蒸留による正常な濃縮時に起こる予期した挙動である。これとは対照的に、図中のデータBは、伝導率が急速に上昇したことを示し、これは塩水によって原料流が汚染されたことが判る。比較例2は、原料タンクにかなりの量の原料が残っている状態で中止したが、これは相当量のストリップ溶液が原料流に混入したためである。
【0040】
図4のデータ「C」(実施例4)及び「D」(比較例2)は、供給タンク在庫測定時の減量から計算した浸透蒸留時の膜通過流量、FX、L/(m2・h)を示す。実施4のほとんど定常的な透過率は、正常な浸透蒸留の結果水蒸気移送が起こることを証明している。これとは対照的に、比較例2の大きく不安定な透過率は、浸透蒸留とは相反して膜を通して液体の水が移送したことを示唆する。
【0041】
従って、比較例は、原料中にr−リモネン油分が初期に低濃度で存在すると、微孔性中空繊維の疎水性が悪影響を受けるために、液体の水が膜を通過して移動し、ストリップ溶液及び原料がお互いに汚染し合う事を示している。しかしながら、実施例4は、微孔性ポリプロピレン繊維上に非孔性膜が存在すると、r−リモネン油分が膜を「完全に濡らす」ことを防ぐことができ、そのため有効な浸透蒸留が行え、原料が濃縮できることを示す。リモネンは、多くの天然果汁、特に柑橘類の果汁に存在する油分である。従って、これらの例は、油成分を含み、多孔性の膜を完全に濡らすことにより、極短時間に従来の浸透蒸留系を操業不能にするような果汁を濃縮する浸透蒸留過程において、塗布した膜が有用になり得ることを示している。
【0042】
実施例5
実施例2の装置及び方法を次のように変更すること以外は同じようにして繰り返し実施した。4000グラムの新たに淹れたコーヒーを、原料流循環ループと原料タンクを通して循環させて系を満たした。供給タンクの初期在庫は3586gで、残りの414gが循環ループの中の空間内に存在していたことを意味した。浸透蒸留は、淹れたコーヒーの供給タンク中に残る量が295gに濃縮されるまで実行した。
【0043】
図5は、浸透蒸留中の時間の関数として、原料流の供給タンクの減量から計算した膜通過水蒸気の透過率(データ「E」)と伝導率(データ「F」)とのプロットである。水蒸気透過率は急速に上昇し、約90分で定常状態速度に達し、約10時間の蒸留の終わるまでは非常に徐々に減少したが、その時移送速度が急に落ち始めた。この方法の終わりに、原料・タンク中の在庫量は原料・ループ仕込み量に非常に近くなるまでに低下した。これで原料へ空気が入り込み、最後の記録2点で見られた透過率低下を引き起こしたと考えられる。コーヒーは電解液を含んでいるので、原料が更に濃縮されると伝導率が上昇すると予想されていた。これは、図5で見られ、浸透蒸留が非孔性膜をコーティングした微孔性の中空繊維基質で有効に行なわれたことを確認するものである。
【0044】
発明の特定の形式を図面中の説明用に選び、前記の記述が、当業者向けに発明のこれらの形式について完全に十分に記述する目的で特定の用語でなされたが、実質的に等価か、あるいは、より優れた結果及び/または実積をもたらす様々な置き換え及び変形タイプは、下記の特許請求の範囲▲2▼記載の範囲と精神の枠内に入るものであると見なされることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、余分の自由体積を示す重合体の単位容積対温度をプロットしたグラフである。
【図2】 図2は、本発明の実施態様によって浸透蒸留を実行するのに利用する装置の略図である。
【図3】 図3は、リモネン含有蔗糖溶液を濃縮する浸透蒸留時の、原料タンク内容物の伝導率(ミリシーメンス(millisiemens))対重量(g)をプロットしたグラフである。
【図4】 図4は、リモネン含有蔗糖溶液を濃縮する浸透蒸留時の膜通過透過率をプロットしたグラフである。
【図5】 図5は、この発明の実施態様によるコーヒーの浸透蒸留時の膜通過水蒸気透過率と原料流の伝導率をプロットしたグラフである。
Claims (10)
- 液体原料混合物の濃縮方法であって、
初期の濃度にある諸成分の原料混合物であって、前記原料混合物に可溶で、前記原料混合物の上にあるときは第1の蒸気圧を持つ揮発性成分を含む原料混合物と、ストリップ溶液であって、前記ストリップ溶液の上にあるときは前記揮発性成分が前記第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を持つストリップ溶液とを用意し、
二面を有する膜構造物であって、その一面が非孔性膜であって、前記原料混合物を濃縮する温度において少なくとも15%の自由体積を持つ重合体組成から成り、前記揮発性成分に透過性で、かつ、前記原料混合物あるいは前記ストリップ溶液のいずれによっても湿潤されない組成の非孔性膜より成り、第2の面が前記非孔性膜と同延する微孔性基質であることを特徴とする二面を有する膜構造物を用意し、
前記原料混合物を前記非孔性膜と接触させると同時に前記ストリップ溶液を前記微孔性基質と接触させ、
前記原料混合物と前記ストリップ溶液を実質的に同じ温度と圧力にしつつ前記第2の蒸気圧を前記第1の蒸気圧より低く維持し、それによって、前記揮発性成分を前記原料混合物から膜を透過させて前記ストリップ溶液に移送して、前記非揮発性成分以外の成分が初期濃度より高濃度で含む濃縮液体混合物を生成し、 次いで、
前記濃縮液体混合物を取り出す工程からなることを特徴とする濃縮方法。 - 前記非孔性膜が、平面シート、ひだ付きシート、螺旋状巻きシート、管、管状リボン、及び中空繊維から成る群から選ばれた1つの形態であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記揮発性成分が水又はアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記原料混合物物が糖類、多糖類、カルボン酸塩類、蛋白質、果汁、野菜汁、スープ・ブロース、コーヒー、茶、栄養剤、ラテックス、生体物質、ワクチン、ペプチド、ホルモン、組替え蛋白質、酵素、核酸、抗生物質、抗黴剤、及びオリゴペプチドから成る醗酵生成物、動物体液、及びこれらの混合物から成る群から選ばれた温度敏感な物質より成ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記果汁がオレンジ・ジュース、ブドウ・ジュース、パイナップル・ジュース、りんごジュース、西洋ナシ・ジュース、クランベリー・ジュース及びこれらの混合物から成る群から選ばれることを特徴とする請求項4に記載の方法。
- 前記果汁がオレンジ・ジュースであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
- 前記ストリップ溶液がハロゲン化アルカリ塩、ハロゲン化アルカリ土類塩、水酸化アルカリ、及びこれらの混合物から成る群から選ばれた成分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記成分が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸モノカリウム塩、正リン酸二カリウム塩、硫酸マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及び混合物から成る群から選ばれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
- 重合体組成がポリトリメチルシリルプロピン及び過フロロ−2,2−ジメチル−1、3−ジオキソール無定形共重合体から成る群から選ばれる高自由体積の重合体から成ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 初期濃度にある諸成分の液体原料混合物を濃縮するための装置であって、 前記原料混合物が、前記原料混合物に可溶で、前記混合物の上にあるときは第1の蒸気圧を持つ揮発性の成分を含み、前記装置が、前記揮発性成分を透過させる非孔性膜と、前記非孔性膜に隣接し同延する微孔性基質とを有することを特徴とする二面を有する膜構造物と、前記原料混合物を前記非孔性膜と接触させる手段と、 第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧にある前記揮発性成分を含むストリップ溶液を前記微孔性基質と接触させる手段と、前記原料混合物と前記ストリップ溶液を実質的に同じ温度と圧力にしつつ第2の蒸気圧を第1の蒸気圧より低く維持し、それによって、揮発性成分を原料混合物から膜を透過させてストリップ溶液に移送する手段とから成り、 該装置においては、前記非孔性膜組成が前記原料混合物あるいはストリップ溶液のいずれによっても湿潤されなく、前記原料混合物を濃縮する温度において前記非孔性膜が自由体積を少なくとも15%持つ重合体から成ることを特徴とする装置。
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