(実施の形態1)
本実施の形態においては、電磁石を用いて、鉛直方向軸を回転軸とする回転以外の回転を拘束して、離着陸を安定させる離着陸補助機構について説明する。
(主要な構成)
まず、本実施の形態の離着陸補助機構における主要な構成を、図1を用いて説明する。本実施の形態の離着陸補助機構は、浮上移動が可能な羽ばたき浮上装置90が床面にほぼ固定された離着陸台120に離着陸するための補助機構である。
羽ばたき浮上装置90は離着陸台120の上面部に配されている。羽ばたき浮上装置90はその下部に磁性体111を有している。また、離着陸台120はその上面部に電磁石121を有している。電磁石121は制御装置122によってその動作状態が切換えられる。電磁石121には力センサ123が配されており、この力センサ123は羽ばたき浮上装置90よりかかる重力を検出する。このセンサ23は検出された重力を用いて浮上力などの力を算出する。その算出結果は制御装置122に出力される。
また、磁性体111の形状に合わせ、力センサ123には嵌合部としての円錐状の凹部が設けられており、電磁石121の吸引力を利用して磁性体111はこの嵌合部に嵌め込まれて拘束される。ここでは、磁性体111は円錐状の凸部を示しており、円錐の底面は羽ばたき浮上装置90側に配されている。離着陸台120はその上面に距離センサ124を有する。距離センサ124は羽ばたき浮上装置90までの距離を計測し、その結果を制御装置122に出力する。
(離着陸時の動作)
続いて、離着陸時における主要な構成の動作を、図2を用いて説明する。
まず、図2における時刻t0において、離着陸台120における制御装置122は電磁石121を動作させ、羽ばたき浮上装置90における磁性体111を力センサ123の凹部に吸着させることで、羽ばたき浮上装置90を離着陸台120に拘束する。この拘束は、羽ばたき浮上装置90の羽ばたき開始時における最も大きな流体力、たとえば、羽ばたき浮上装置90の重量の5倍以上の力で行なわれることが望ましい。
また、羽ばたき浮上装置90の羽ばたき開始時刻t1以前のt0に、力センサ123を起動させ、羽ばたき浮上装置90よりかかる力の計測を開始する。そして、羽ばたき浮上装置90は、時刻t1にて羽ばたき運動を開始する。羽ばたき運動の開始により、羽ばたき浮上装置90の周辺に非定常流が発生するが、これに比べ電磁石121の吸着力が大きいため、羽ばたき浮上装置90はその位置に保持される。
力センサ123により、羽ばたき開始によって生じた気流が定常状態に達したと判断されれば、この時刻t2以後において、制御装置122は電磁石121の吸着力を低下させる。これが羽ばたき浮上装置90の浮力とこれにかかる重力の差より小さくなる時刻t3において、羽ばたき浮上装置90は離着陸台120より脱離する。また、時刻t3以後は、電磁石121の電流を遮断してよい。
以上のプロセスにより、羽ばたき浮上装置90は、転倒することなく離着陸台120より浮上することが可能になる。
(着陸時の動作)
続いて、着陸時における主要な構成の動作を、図2を用いて説明する。
まず、羽ばたき浮上装置90は離着陸台120の上方より降下する。制御装置122は、離着陸台120における距離センサ124によって得られる羽ばたき浮上装置90と離着陸台120との間の距離が所定値以下になった時刻tにおいて、電磁石121を動作させ、羽ばたき浮上装置90の吸着を開始する。
時刻t4以後、電磁石121と磁性体111と間の距離が縮まることによって急速に両者間の吸引力が増大するので、急激な衝突による羽ばたき浮上装置90への機械的悪影響を避けるために、距離センサ124を継続的に動作させ、羽ばたき浮上装置90の接近する速度を測定し、この速度を電磁石121に流れる電流を制御することによって、羽ばたき浮上装置90の離着陸台120への接触時には、羽ばたき浮上装置90が離着陸台120に接近する速度を一定値以下になるように制御することが望ましい。
羽ばたき浮上装置90が離着陸台120に接触する時刻t5以後、かつ、羽ばたき浮上装置90が羽ばたき動作の停止を開始する時刻t6以前に、制御装置122は、羽ばたき停止時の非定常流によっても羽ばたき浮上装置90が転倒しないだけの吸引力が磁性体111と電磁石121との間に働くだけの電流値となるように、電磁石121に流れる電流を設定する。
羽ばたき浮上装置90は、時刻t6に羽ばたき動作の停止を開始する。これにより、非定常流が発生するが、羽ばたき浮上装置90は電磁石121によって離着陸台120に固定されているので、転倒などすることなく、安定して羽ばたきを停止させることができる。羽ばたき浮上装置90の羽ばたきが停止する時刻t7以後、制御装置122は電磁石121に流れる電流を遮断してよい。
(その他)
一般的に、十分広い空間でほぼ平板である羽根が羽ばたいてできる流速は、最大でも羽根の速度v程度である。また、その羽根の受ける抗力は、概ね、羽根に対する流体の流速の二乗に比例する。したがって、たとえば、羽ばたき開示時の1回目の打ち上げ動作時には、羽根の打ち上げ速度をv、係数をkとすると、kv2の流体力が発生する。また、非定常流の流体力の最も大きな定常流の流体力からのずれは、羽根が動作する方向と反対方向の流体力が発生している場合に生じる。つまり、たとえば、羽根の速度をvとすると、流体の速度が−2vで羽根の動作と反対方向に働いているとき、たとえば、打ち上げ動作の後の打ち下げ動作の最中に、定常流と非定常流との差が最も大きくなると考えられ、この際の非定常流が発生している場合の流体力と、定常流が発生している場合の流体力との差は、最大で、kv2+k・(−2v)2=5kv2となる。
つまり、離陸時には、想定している流体力の最大5倍の流体力が羽根に生じる可能性がある。ところで、想定している流体力は離陸のための流体力であるので、概ね羽ばたき浮上装置90の自重程度(すなわち、kv2≒自重程度あれば、羽ばたき浮上可能)である。すなわち、電磁石121は、羽ばたき浮上装置90の重量の概ね5倍以上の力で羽ばたき浮上装置90を拘束しておけば、離着陸時における羽ばたき浮上装置90の転倒をより確実に防ぐことが可能になる。
また、逆に、羽ばたき開始時には、羽根の速度が0から自重を浮上させられる流体力が得られるだけの速度に変化するため、離陸時には、最低でも羽ばたき浮上装置90の重量程度の定常状態との流体力のずれが生じる。つまり、この流体力のずれに対抗するために、離着陸時には、電磁石121は、最低でも羽ばたき浮上装置90の重量以上の力で羽ばたき浮上装置90を拘束する必要がある。
なお、本実施の形態においては、羽ばたき浮上装置90の軽量化を優先して、離着陸台120に電磁石121を、羽ばたき浮上装置90に軟磁性体111を配する構成を用いたが、羽ばたき浮上装置90が電磁石を有する構成であってもよい。この場合は、羽ばたき浮上装置90は離着陸台120以外であっても磁性体からなる部位に対して離着陸を行なうことが可能になる。
また、羽ばたき浮上装置90の部位に対して引力を働かせることができるのであれば、電磁石121を設けなくてもよい。たとえば、静電気力を用いる手法や、空気を吸引する手法が考えられる。
また、離着陸台120の床面への固定は、特に限られたものではない。たとえば、離着陸台120の質量を羽ばたき浮上装置90の質量に比べて十分大きくとることによって、羽ばたき浮上装置90を床面に対して固定してもよい。
また、本実施の形態においては、離着陸時の羽ばたき気流の定常状態への移行を、力センサ123によって検出したが、この手法に限定されるものではない。たとえば、制御装置122に時間計測装置を内包し、羽ばたき浮上装置90の羽ばたきを開始して以後、定常状態に移行する時間だけ電磁石121の吸着を維持した後、この吸着を解除する手法によっても実現可能である。
また、本実施の形態においては、力センサ123に磁性体111の嵌合部を設け、ロボット1を離着陸台120に拘束するものとしたが、ロボット1の離着陸台120への拘束手法は、それに限定されるものではない。たとえば、磁性体111の底面と力センサ123の上面との双方が平面であってもよい。
また、本実施の形態においては距離センサ124によって羽ばたき浮上装置90の離着陸時の位置(浮上装置90までの距離)を検出したが、同様の目的が果たされるのであれば、他の構成であってもよい。たとえば、カメラなどの映像取得手段を用いて羽ばたき浮上装置90の離着陸時の位置を認識する手法も可能である。また、音声取得手段により得られた音声により浮上装置90の位置を認識するようにしてもよい。
なお、本実施の形態においては、より安定した浮上を望んで、ほぼ羽ばたき浮上装置90の自重に等しい浮力で羽ばたき浮上装置が浮上できるよう、その磁力が可変である電磁石を用いたが、これは必須ではない。たとえば、電磁石121に代わる拘束手段として永久磁石を用い、離陸時には、羽ばたき浮上装置90の浮力を増大させることによって、永久磁石と磁性体111との間の距離を広げ、永久磁石と磁性体111との間に働く磁力を弱めることで、拘束を自動的に解除するようにしてもよい。この際、永久磁石の磁性体111に対する引力は、前述の非定常流による転倒を防止するだけの引力が必要になる。また、羽ばたき浮上装置901に要求される、拘束を解除するための浮力は、前述の永久磁石の引力に自重を加えたものになる。また、離着陸時には、永久磁石の上部より永久磁石に向けて降下すれば、永久磁石の磁性体111に対する引力が急速に増大するので、羽ばたき浮上装置90は離着陸台120に自動的に吸着される。
上記のような離着陸補助機構によれば、羽ばたき浮上装置90が、離着陸台120を離着陸するときに、転倒することを防止するために、羽ばたき浮上装置90に磁性体111を設け、離着陸台120に電磁石121および力センサ123を設けた。この磁性体111と電磁石121とは互いに引き寄せられて、磁性体111の円錐状の凸部とそれに対応する力センサ123の円錐状の凹部とが嵌合する構造となっているため、気流が非定常状態となる期間において、羽ばたき浮上装置90が、鉛直方向軸を回転軸とする回転以外の回転をしないように拘束される。
(実施の形態2)
本実施の形態においては、ガイドとガイドレールを用いて、羽ばたき浮上装置のすべての回転を拘束して離着陸を安定させる離着陸補助装置について説明する。
(主要な構成)
まず、本実施の形態における浮上装置の離着陸を補助する離着陸補助装置の主な構成を図3および図4を用いて説明する。
本実施の形態の主要な構成は、浮上移動が可能な羽ばたき浮上装置90と、床面にほぼ固定されたガイドレール140とからなる。羽ばたき浮上装置90にはガイド131が設けられており、ガイド131はガイドレール140に挿入されるように構成されている。ガイド131はガイドレール140に挿入された状態では、ガイドレール140における拘束部141においては鉛直方向1自由度の移動のみが可能となるように構成されている。
また、ガイドレール140にはテーパ部142が設けられており、このテーパ部142の内側においては、ガイド131が挿入されるガイドレール140の挿入口に向かって除々断面積が広くなるような構造となっており、ガイド131の挿入を容易にしている。図3はこの構成の正面図である。また図4はこの構成の側面図である。
(離陸時の動作)
羽ばたき浮上装置90は、離陸時には上方に浮上する羽ばたきを行なう。羽ばたきが安定し、一定の浮上力が得られる状況になると、羽ばたき浮上装置90のガイド131は、ガイドレール140を軌道として上昇する。
さらに、羽ばたき浮上装置90が浮上し、ガイドレール140の上端をガイド131が通過することによって、ガイドレール140のガイド131に対する拘束は解除され、羽ばたき浮上装置90は自由に飛行することが可能となる。
(着陸時の動作)
羽ばたき浮上装置90は、まず、ガイドレール140の直上にガイド131が位置する姿勢および位置に浮上した状態で移動する。そして、羽ばたき浮上装置90がその位置からほぼ鉛直下方向に降下することにより、ガイド131がガイドレール140に挿入される。羽ばたき浮上装置90がさらに降下するときに、ガイドレール140の内面にテーパが設けられていることによって、ガイド131がガイドレール31に挿入されるにつれて除々にガイド131の平面的な移動および回転が拘束される。それに伴って、羽ばたき浮上装置90の平面的な移動および回転も除々拘束される。すなわち、除々に鉛直方向の移動以外の姿勢の変化が拘束されていく。
上記のようにガイドレール140を構成することにより、羽ばたき浮上装置90の回転が拘束されるので、非定常流の影響を受けても転倒することがなく羽ばたき動作を停止させることができる。
(その他)
羽ばたき浮上装置90は、羽ばたきによる気流が定常状態に移行するまでに、n回羽ばたき運動を行なうとともに、1回のストロークの平均長さlとすると、n×lの距離以上には浮上しないと考えられる。すなわち、羽ばたき浮上装置90は、羽ばたきによる気流が定常状態に移行するまで、ガイドレール140から離れないように構成する場合には、ガイドレール140における拘束部141の長さはn×lよりも長ければよいことになる。
また、羽ばたきによる流れが非定常流になるのは複数回の羽ばたきによるものであるので、拘束部141の長さは、少なくとも2回の羽ばたきで羽ばたき浮上装置90が浮上する距離よりも長い必要がある。すなわち、本実施の形態の離着陸補助装置は、より好ましくは、羽ばたき浮上装置90が羽ばたき動作を複数回(2回より多い=3回以上)行なった場合に拘束を解除するようにすればよい。このようにすることにより、必ず非定常状態となる少なくとも2回の羽ばたき動作では姿勢の保持が解除されないため、浮上装置が転倒してしまう不都合をより確実に回避することができる。
なお、ガイドおよびガイドレールの形状は、鉛直方向軸を回転軸とする回転以外の回転を拘束できるものであれば特に本実施の形態に示したものに限らない。また、鉛直方向に延びる回転軸まわりの回転は拘束されても、されなくてもよい。また、ガイドおよびガイドレールの嵌合は、本実施の形態においては、ガイドが凸部を有し、ガイドレールが凹部を有する場合の嵌合の例を示したが、ガイドが凹部を有し、ガイドレールが凸部を有する場合の嵌合であってもよい。さらに、ガイドとガイドレールとを用いる機構に限らず、離着陸を案内する部材と案内される部材との関係が成立する機構であればいかなるものであってもよい。
(実施の形態全般に係る補足)
(仕様態様について)
本実施の形態では、浮上装置は羽ばたき浮上機構により浮上する羽ばたき浮上装置を例にして説明したが、本実施の形態の離着陸補助機構を離着陸時の姿勢安定手法として用いることは、他の浮上機構を用いた浮上装置も同様に適用可能である。
(拘束される回転の種別について)
なお、上記の実施の形態においては、転倒を伴う回転を拘束する例を示したが、これは主に鉛直方向以外の回転を拘束すること、たとえば、水平方向にのびる回転軸を有する回転を拘束することの例である。しかしながら、ガイドおよびガイドレールが円弧状をしており、羽ばたき開始時には水平方向に移動し、ガイドレールからの離着陸時には垂直方向に移動するといったような特殊な場合には、羽ばたき浮上装置本体の姿勢を保持するために、ガイドと羽ばたき浮上装置本体との間に鉛直方向軸以外の回転軸が必要になる。
本実施の形態において、拘束する必要があるのは羽ばたき浮上装置の転倒を誘発する鉛直方向軸を回転軸とする改定以外の回転であるが、必ずしも鉛直方向軸を回転軸とする回転を直接拘束する必要はない。たとえば、羽ばたき浮上装置において、姿勢を変えないで移動する並進移動と姿勢を変化させるための回転とが何らかの機構で関連付けられており、並進移動の拘束を行なうことで、副次的に鉛直方向軸を回転軸する回転以外の回転を拘束する手法であってよい。
以下、本実施の形態の羽ばたき浮上装置90を、警備ロボットシステムにおいて用いられる羽ばたき浮上装置90を例にしてより具体的に説明する。この警備ロボットシステムにおいては、ベーススーション91および羽ばたき浮上装置90に上記の離着陸補助機構が設けられているものを例にして説明する。
(システム構成)
まず、本実施の形態におけるシステムの構成を図5を用いて説明する。
本実施の形態におけるシステムは、作業空間92と、作業空間92に配置され、この空間内を浮上移動することができ、この空間内における物理量を取得もしくは変更できる羽ばたき浮上装置90と、この羽ばたき浮上装置90と情報を交換できるベースステーション91とからなる。
より具体的には、羽ばたき浮上装置90とベースステーション91とにより、羽ばたき浮上装置90に搭載された赤外線センサによって赤外線量を取得することによって、侵入者93を検出し、検出された侵入者93に対して発光ダイオード8を用いて可視光を照射することによって侵入者93に警告を発する。
(ロボットの説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、羽ばたき浮上装置90の主要な構成について図6を用いて説明する。
図6に示すように、羽ばたき浮上装置90は支持構造1を主構造とし、これに各構成部品が配されている。支持行動1の上部には、右アクチュエータ21と左アクチュエータ22とが固定されている。右アクチュエータ21には右羽根31が取付けられ、左アクチュエータ22には左羽根32が取付けられている。また、羽ばたき浮上装置90の下部にはエネルギ補充用の電極と兼用される磁性体111が配されている。図6では、磁性体111が2つ設けられた例を示しているが、羽ばたき浮上装置90の下部の、同一直線上にない3点にそれぞれ設けられていてもよい。また、離着陸を安定されるために、3点よりも多くの複数の位置に設けられていてもよい。
各アクチュエータ21,22はそれぞれ取付けられた羽31,32をアクチュエータの支点をほぼ中心として3自由度をもって回転させることができる。各アクチュエータ21,22の回転は、支持構造1に搭載された制御回路4によって制御される。各アクチュエータの詳細な構造については後述する。
なお、図6の状態における羽ばたき浮上装置90の重心Oは、左右アクチュエータ21,22の回転中心の中点A0よりも鉛直下方にある。
また、支持構造1には、加速度センサ51、角加速度センサ52、および、焦電型赤外線センサ53が搭載されている。また、支持構造1には通信装置7が配されている。通信装置7はベースステーション91との情報の送受信を行なう。
制御装置4では、加速度センサ51および角加速度センサ52から送られてくる情報によって羽ばたき浮上装置の浮上の状態が検知されるとともに、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報によって、焦電型赤外線センサ検出領域531内における発熱源の情報が取得される。そして、これらの情報が、通信装置7を介してベースステーション91に送信される。
また、制御装置4は支持構造1に配された発光ダイオード8のON/OFFを制御する。また、通信装置7はベースステーション91からの指示信号を受信する。制御装置4は、この指示信号に応じて各アクチュエータ21,22や発光ダイオード8の動作を算出し、それぞれの駆動を決定する。左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、通信装置7、発光ダイオード8などの駆動動力は電源6により供給される。
電源6は、2次電池であり、電極としての磁性体111を経由して供給される電力によって充電される。また、電極としての磁性体111は、位置決めピンの役割も兼ねており、ベースステーション91における位置決め穴に決まった姿勢で定位が可能である。
なお、図6においては、電極としての磁性体111は、正極、負極の2本のピンからなっているが、充電状態検出用ピンなどを含む3本以上のピンからなる構成も可能である。
(支持構造)
次に、支持構造1について図6を用いてより詳細に説明する。
支持構造1は、機械的強度を確保した上で十分軽量であることが好ましい。この羽ばたき浮上装置の支持構造1では、ほぼ球殻状に整列したポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。支持構造1下部には、着地の際に転倒せぬよう、支持脚11が配されている。この支持脚11は、着地時の安定性が確保されるか、もしくは、着地時の安定性が機能的に問題にならないのであればこれは必須ではない。
また、支持構造1の材料や形状は飛行に性能を損なわないならば、図6に示すものに限られるものではない。支持構造1の材料は特に、軽量で剛性が高いことが望ましい。
たとえば、カニやエビなどの生物に使われているキトサンなどの有機物と、シリカゲルなどの無機物とを分子レベルでハイブリッド化した複合材料を用いることにより、カニやエビの外骨格が持っている軽くて丈夫な性質を持ってはいるが、形状加工が容易で、生物が本来持っている最適な組成値をそのまま転用することができる。また、環境に対しても害が少ない。
また、貝殻の材料である炭酸カルシウムを前述のキトサンの代わりに用いることでも、剛性の高い支持構造を構築することができる。
また、アクチュエータや羽根の配置形状についても、本実施の形態に示した態様に限られるものではない。
特に、本実施の形態では、浮上の安定性を重視して、自然に図6に示した姿勢となるように、重心の位置を羽根の力学的作用中心点よりも下に位置させたが、重心と力学的作用点の位置とを一致させる方が姿勢制御に必要な左右の羽根の流体力の差が最も小さくて済むので、羽ばたき浮上装置の姿勢を容易に変更することができる。よって、アプリケーションによってはこのような姿勢制御の容易さを優先した設計も考えられる。
(浮上機構)
(羽根とその動作)
次に、羽根とその動作について図6〜図13を用いて説明する。
説明の簡便のため、図6における座標系を定義する。まず、支持構造1のほぼ中央を原点とする。また、重力加速度の方向を下方向、その逆を上方向とする。原点から上方向に向かってz軸を定義する。次に、右アクチュエータ21の形状中心と左アクチュエータ22の形状中心とを結ぶ方向を左右方向とし、原点から左羽根に向かってy軸を定義する。また、原点からy軸とz軸との右手系における外積方向にx軸を定義し、以後これを前方、その反対方向を後方と称する。
また、図6は、右羽根31の右アクチュエータ21に対する力学的作用点A1と、左羽根32の左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2の中点A0から重力加速度方向に下ろした線上に本羽ばたき浮上装置の重心Oが位置する状態である。本実施の形態においては、左アクチュエータ22のロータ229はほぼ球状であり、主軸321の延長線上にこのロータ229の球心が位置するように左羽根32が配置されている。左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2および主軸321の回転運動の支点はこの球心に位置している。右アクチュエータ21についても同様である。
以後、前述したx軸、y軸、z軸は図6の状態において支持構造1に対して固定された、本羽ばたき浮上装置固有の座標系であるとする。
一方、羽ばたき浮上装置の固定された座標系に対して、空間に固定された任意の点を原点とする空間座標としてx′軸、y′軸およびz′軸を定義する。これにより、羽ばたき浮上装置90が移動する作業空間92の座標はx′軸、y′軸およびz′軸のそれぞれの座標を用いて表わされ、羽ばたき浮上装置90における固有の座標はx軸、y軸およびz軸のそれぞれの座標を用いて表わされる。
次に、羽根の構造について説明する。たとえば、左羽根32は主軸321の枝322が生えた支持部材に、膜323を張ることで形成されている。主軸321は左羽根322において前方寄りの位置に配されている。また、枝322は先に行くほど下方に向いている。
左羽根32は上に凸状の断面形状を有する。これによって、特に打ち下ろしの際に流体から受ける力に対して高い剛性が得られる。主軸321と枝322は軽量化のため、それぞれカーボングラファイトの中空構造となっている。膜323はその内面において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽根全体の剛性を高める働きをしている。
本発明者らが実験に用いた羽根の主軸321の直径は、支持構造1に支持された根元の部分では100μm、先端部では50μmであり、主軸321は根元から先端部へ向かって細くなったテーパ形状である。また、膜323はポリイミドであり、大きさは前後方向約1cm、左右方向約4cm、厚さは約2μmである。
なお、図7に示された左羽根32では、説明のために主軸321はその太さが拡大されている。図示されていない右羽根31はxz平面を挟んで左羽根32と鏡面対称になるように支持構造に取付けられている。
次に、羽根の動作の表現について左羽根32を例に挙げて説明する。
左アクチュエータ22は、左羽根32を回転3自由度で動かすことが可能である。つまり、左羽根32の駆動状態は、その姿勢で表わすことができる。以後説明の簡便のため、左羽根32の姿勢を、図6の状態に基づき以下のように定義する。
まず、図8に示すように、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、x軸およびy軸にそれぞれ平行な軸(//x、//y)を含むxy平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽根32の主軸321の根元を結ぶ線分がその平面となす角度を、羽ばたきのストローク角θとする。また、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、y軸およびz軸それぞれに平行な軸(//y、//z)を含むyz平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽根32の主軸321の根元とを結ぶ線分がその平面となす角度を偏角αとする。
このとき、ストローク角θはxy平面に平行に平面より上方では正とし、下方では負とする。また、偏角αはyz平面に平行な平面よりも前方では正とし、後方では負とする。
そして、図9に示すように、左羽根32の主軸321の根元における膜323の接平面p1が、点A2を通りx軸と平行な軸(//x)と主軸321を含む平面p0とをなす角度をねじり角βとする。このときねじり角βは主軸321の根元から先端に向かって見たときの時計回りを正とする。
(アクチュエータ)
次に、アクチュエータについて図10および図11を用いて説明する。
本実施の形態においてアクチュエータについては、トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことから、圧電素子(ピエゾ)を用いて発生した信号波によって駆動する。一般的に超音波モータと呼ばれるアクチュエータを用いる。
図10に示すのは市販の超音波モータ23である。これは、図10(a)に示す、下面に圧電素子230を貼付けてあるアルミニウムの円板231上に突起232〜突起237が、円板の中心を重心とする正六角形をなすように6ヵ所配置され、さらにこの圧電素子230の下面には円周方向に12分割された電極238が配置されている構造をしている。この構造の概略を図10(b)に示す。各電極は1つおきに電気的に短絡されており、それぞれ、円板231を基準に電圧が印加される。すなわち、圧電素子230は位相の異なる電圧が加えられる。この様子を図10(c)に、ハッチングとの黒塗りつぶしに分けて示す。このそれぞれに異なる時間的パターンで電圧を加えることによって円板231上に信号波が発生し、突起232〜突起237先端が円周方向に沿って楕円運動を行なう。以上でステータが構成され、このステータはステータ上に接触して配置されたロータ239を上述の突起232〜突起237先端の楕円運動より円周方向に沿って搬送することができる。
この超音波23のトルクは1.0gf・cmで、無負荷回転速度は800rpmである。また、最大消費電流は20mAである。また、円板231の直径は8mm、突起232〜突起237の配されている間隔は2mmである。円板231の厚さは0.4mm、突起232〜突起237の高さは約0.4mmである。また、圧電素子230の駆動周波数は341kHzであった。
本実施の形態では、このステータの部分を利用したアクチュエータを用いる。右アクチュエータ31は、図11(b)に示すごとく、球殻状のロータ219を、上述のステータと同様のステータ210とベアリング211で挟み込んで保持する構造をしている。ただし、ステータ210のロータ219との接触部分はロータ表面と一致する形状に加工されている。ロータ219は外形3.1mm、内径2.9mmの球殻で、表面に右羽根主軸311が配されている。ステータ突起のある面に向かって見て時計回り(以後、これを正回転、この逆の回転を逆回転と呼ぶ)にロータを搬送させる操作を行なうと、右羽根主軸311は図11(b)に示すθの方向に移動する。
さらにこのロータ219を3自由度で駆動するために、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をベアリング214,215とともにステータ210、ベアリング211と同様に図11(a)に示すように配する。各補助ステータの大きさはステータ210の0.7倍である。
各ステータの駆動方向は必ずしも直交していないが、それぞれ独立した要素への回転を与えるため、これらの運動の組合せによってロータ219を3自由度で駆動することができる。
たとえば、ロータ219に対して、上部補助ステータ212によって正回転を、下部補助ステータ213によって同じく正回転を与えれば、ロータ219がこの構成であるβ方向に、上部補助ステータ212によって逆回転を、下部補助ステータ213によって正回転を与えればα方向に回転する。
実際の駆動に際しては、回転中心の異なる2つの回転を行なわせることは摩擦によって効率を低下させてしまうので、たとえば、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をごく短時間周期で交互に動作させ、その間、動作していないステータの突起はロータ219に接触しない、などの駆動方法が望ましい。これは、ステータの電極すべてに圧電素子の収縮方向に電圧を印加することで、特別に構成要素を付加することなく実現できる。
また、圧電素子の周波数が300kHz以上と、せいぜい100Hz程度である羽ばたき周波数に比べて十分高速であるので、交互にアクチュエータを動作させても実質上滑らかな動きを右羽根主軸311に与えることができる。
以上により、本発明者らが検討に用いた市販の超音波モータと同等の特性を有する3自由度アクチュエータが構成される。
ステータの発生中信号波の振幅がサブミクロンオーダであり、このロータはこのオーダの真球度であることが要求される。民生用の光学製品に用いられている放物面鏡の加工精度は数十nmであり、また、光学干渉計に用いられている光学部品の加工精度は数nm程度であることからこのようなロータは現在の加工方法技術で作製することが可能である。
なお、上記の構成は、本発明における3自由度の運動を羽根に与えるアクチュエータを超音波モータで構成した例の1つに過ぎず、各構成要素の配置、サイズ、材質、駆動方法などは、羽ばたき飛行に要求される物理的機能たとえばトルクなどが実現できるならこの限りではない。
また、当然、羽根の駆動機構やそれに用いるアクチュエータの種類についても、特に本実施の形態に示したものにはよらない。たとえば、特開平5−169567号公報に見られるような、外骨格構造とリニアアクチュエータを組合せて用いた羽ばたき飛行も、本実施の形態に示すアクチュエータと等価な羽根の動作を実現できるため可能である。
また、駆動エネルギとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。さらに、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応により、化学的エネルギを運動エネルギに変換するアクチュエータを用いることも可能である。たとえば、昆虫から採取した筋肉をリニアアクチュエータとして用いる方法や、虫の筋肉のタンパク質のアミノ酸と無機物とを材料として分子レベルでこれを複合化させて作った複合材料の人工筋肉をリニアアクチュエータとして用いるなどの方法がある。
当然、基本的な駆動力の上述の内燃機関などのエネルギ効率が高いアクチュエータを得て、これらの制御もしくは補助として電力で駆動するアクチュエータを用いる手法も可能である。
(浮上方法)
次に、浮上方法について図12〜図18を用いて説明する。
なお、ここでは、羽根が流体から受ける力を流体力と呼ぶ。また、説明の簡便のため空気の流れを羽ばたきによってのみ起こる状態、すなわち、無風状態を仮定して説明する。
説明の簡便のため、羽ばたき浮上装置90に及ぼされる外力は羽根に流体から作用する力すなわち流体力と重力のみであるとする。
羽ばたき浮上装置90が恒常的に浮上するには、1回の羽ばたき動作の間で平均して、(羽根にかかる上方向の流体力の総和)>(羽ばたき浮上装置90にかかる重力)であることが必要である。
ここでは、昆虫の羽ばたきを単純化した羽ばたき方により、打ち下ろし時の流体力を、打ち上げ時の流体力よりも大きくする方法について説明する。説明の簡便のため、流体の挙動もしくはそれが羽根に及ぼす力については、その主用成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方により羽ばたき浮上装置90に作用する浮上力と重力との大小については後述する。
羽根には、羽根が運動する方向と逆方向の流体力が作用するので、羽根の打ち下ろし時には羽根の上向きに流体力が作用し、打ち上げ時には羽根の下向きに流体力が作用する。そこで、打ち下ろし時に流体力を大きくし、打ち上げ時には流体力を小さくすることで、1回の羽ばたき動作(打ち下ろし動作と打ち上げ動作)の間で時間平均すると上方向の流体力が得られることになる。
そのためには、まず、打ち下ろし時には羽根が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせば、羽根にはほぼ最大の流体力が作用する。これは、羽根の接する平面とほぼ垂直に羽根を打ち下ろすことに相当する。
一方、打ち上げ時には羽根が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げれば、羽根に及ぼされる流体力がほぼ最小となる。これは羽根の断面の曲線にほぼ沿って羽根を打ち上げることに相当する。
このような羽根の動作について羽根の主軸321に垂直な断面を用いて説明する。まず、図12の羽根は移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろした場合、図13が羽根の移動する空間の体積が最小になるように打ち上げた場合を示す。
図12および図13では、移動前の羽根の位置が破線で示され、移動後の羽根の位置は実線で示されている。また、羽根の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。同図に示すように、流体力は羽根の移動方向とは逆向きに羽根に作用する。
このように、打ち上げ時における羽根が移動する空間の体積が打ち下ろし時における羽根が移動する空間の体積よりも大きくなるように羽根の姿勢を羽根の移動方向に対して変化させて、1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、羽根に作用する上方向の流体力を羽ばたき浮上装置に作用する重力よりも大きくすることができる。
本実施の形態においては、羽根のねじり角βが制御可能であり、これを時間的に変化させることによって上述の羽根の運動が実現される。
具体的には、以下のステップS1〜S4が繰返される。まず、ステップS1では、図14に示すように羽根の打ち下ろし(ストローク角θ=+θ0→−θ0)が行なわれる。ステップS2では、図15に示すように羽根の回転1(羽根のねじり角β=β0→β1)動作が行なわれる。ステップ3では、図16に示すように羽根の打ち上げ(ストローク角θ=−θ0→+θ0、ねじり角β=β1→β2(羽根の曲面に沿った運動により、流体力を最小限にとどめる運動))が行なわれる。ステップS4では、図17に示すように、羽根の回転2(羽根のねじり角β=β2→β0)動作が行なわれる。
ステップS1およびステップS3における羽根に作用する流体力を時間平均すると、上述のように羽根の移動する空間の体積の違いから、上向きの流体力となる。この上向きの流体力の鉛直成分と重力との大小関係については後述する。
当然、ステップS2,ステップS4においても、羽根に作用する流体力の時間平均が上向きの流体力であることが望ましい。
羽ばたき浮上装置90の羽根においては、図14〜図17に示すように、羽根の前縁近傍に羽根の回転中心(主軸321部分)が位置している。つまり、主軸321から羽根の後縁までの長さの方が主軸321から羽根の前縁までの長さよりも長くなっている。このため、図15および図17に示すように、羽根の回転動作においては羽根の回転方向に沿って生じる流体の流れに加えて、主軸321から羽根の後縁に向かう方向に沿って流体の流れが生じることになる。
そして、羽根にはこのような流体の流れの反作用としてそれぞれの流れの向きとは逆向きの力が作用することになり、図15に示すステップS2では、実質的に上向きの流体力が羽根に与えられ、図17に示すステップS4では、主に下向きの流体力が羽根に与えられることになる。
図16に示すステップS3では、羽根の断面の曲線に沿うように羽根のねじり角βをβ1からβ2に変化させながら打ち上げ動作が行なわれる。また、図15に示すステップS2における羽根の回転角は図17に示すステップS4における羽根の回転角よりも大きい。これによりステップS2およびステップS4においても羽根に上向きに作用する流体力が下向きに作用する流体力に勝って、時間平均すると上向きの流体力が羽根に作用することになる。
なお、図14〜図17では、それぞれのステップS1〜S4における羽根の移動前の姿勢が波線で示され、移動後の姿勢が実線で示されている。各ステップS1〜S4における羽根の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。また、各ステップS1〜S4において主に発生する流体の流れが実線の矢印によって示されている。
次に、ストローク角θおよびねじり角βの値を時間の関数として表わしたグラフを図18に示す。ただし、図18では、ストローク角θおよびねじり角βのそれぞれの縦軸の比率が異なっている。
本発明者らの行なった実験においては、θ0は、たとえば60°である。β0は、たとえば0°である。β1は、たとえば−120°である。β2は、たとえば−70°である。
上述した説明では、説明の簡便のためステップS1〜S4は独立した動作として記述したがたとえばステップS1において羽根を打ち下ろしながら羽根のねじり角を大きくしていくような動作も可能である。
また、上述した例は第1近似的な考察から説明されるものであり、実際に浮上可能な羽ばたき方法はこれに限定されるものではない。
また、ここでは左羽根について説明したが、右羽根についてもxz平面に関して鏡面対称に左手系に基づくストローク角θ、偏角αおよびねじり角βを定義すれば同一の議論が成り立つ。以下、羽根に作用する上向きの流体力を浮上力とし、羽根に作用する前向きの流体力を推進力とする。
(制御方法)
次に、羽ばたき装置に任意の運動を行なわせる制御手法について説明する。ここでは、本羽ばたき装置の左羽については右手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用い、そして、右羽についてはxz平面に対して鏡面対称の左手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用いて羽の姿勢を示す。
(制御フロー)
羽ばたきによる浮上移動は羽にかかる流体力によって行なわれるので、羽の運動により直接制御されるのは、本羽ばたき装置に与えられる加速度と角加速度である。
まず、Sを目標とする浮上状態と現在の浮上状態との差異、T(S)を浮上状態から加速度、角加速度への変換を表わす関数、sを加速度、角加速度Fα(s)を、加速度センサ51、角加速度センサ53のセンサ応答を含めた制御アルゴリズムを表す関数、sαをアクチュエータ制御量、GW(sα)をアクチュエータと羽の応答を表す関数、sWを羽の運動、GfS(sW)を羽の運動により本羽ばたき装置に及ぼされる加速度もしくは角加速度seを表す関数、Seがこの一連のプロセスにより行なわれる浮上状態の変更とすると、入力Sより出力Seが得られるプロセスは図43に示すようなものとなる。
また、実際には、羽と流体の慣性力により、現在までの羽の運動、流体の運動の時刻歴に依存する影響RWとRfSがGWとGfSに加わることになる。
(動作分割)
当然、Fα以外のすべての関数を正確に求め、これによりS=Seとなる制御アルゴリズムFαを算出する手法もあり得るが、本羽ばたき装置周囲の流体の流れと羽の運動の時刻歴が必要であり、膨大なデータ量と演算速度を必要とする。また、流体と行動の連成した挙動は複雑で、多くの場合カオティックな応答になってしまうため、実用的でない。
そこで、予め基本的な動作パターンを用意しておき、目標とする浮上状態を分割してこれらの基本動作パターンを時系列にて組合わせて実現する手法が簡便で望ましい。
物体の運動にはx方向、y方向、z方向の3自由度の並進自由度と、θx方向、θy方向、θz方向の3自由度の回転自由度、つまり6自由度が存在する。すなわち、前後、左右、上下、そしてこれらの方向を軸とする回転である。
このうち、左右への移動は、θz方向の回転と前後方向への移動を組合わせて行なうことができる。そこで、ここでは、前後方向、すなわちx軸方向への並進移動、上下方向、すなわちz軸方向への並進動作、また、x軸、y軸、z軸回りの回転動作についてそれぞれの実現方法を説明する。
(動作)
(1) 上下方向(z軸方向)の動作
羽が移動することで、羽が流体から受ける力は羽の移動速度に依存するので、羽に及ぼされる上向きの流体力を大きく(小さく)するには、
A:ストローク角θの振幅を大きく(小さく)する
B:羽ばたき周波数を大きく(小さく)する
などの方法がある。これらによって本羽ばたき装置は上昇(下降)することができる。ただし、流体力には負の値も含まれる。
なお、これらの手法によれば、羽が流体から受ける流体力そのものが大きくなるので、羽が流体力を上下方向以外から受けることによって、羽の力学的支点に羽から上下方向以外の力が及ぼされている際には、上昇とともにその方向へこの支点にかかる力の増加も伴う。たとえば、前方にほぼ等速直線運動を行なっている際に、羽ばたき周波数を大きくすると、本羽ばたき装置は速度増加を伴って上昇する。このように、現時点での羽ばたき方によって、副次的にこういった他の運動を伴うが、以後特に断らない限り、停空状態からの制御について説明する。
また、羽の捻り角βを変えて、羽が移動する空間の体積を変化させることによっても浮上力は変化する。たとえば、打ち上げ時における羽が移動する空間の体積がより大きく、もしくは、打ち下ろし時における羽が移動する空間の体積がより小さくなるようなβを与えることで、羽に作用する上向きの流体力の時間平均は小さくなる。
実際には、羽は剛体ではなく変形を伴うため、同一のβによっても羽が移動する空間の体積は変化するが、第1原理的には、羽の移動する方向に垂直なβが最も大きな羽が移動する空間の体積を与える。また、羽が移動する方向に平行なβが最も小さな羽が移動する空間の体積を与える。
なお、この場合、副次的に、羽ばたきと垂直方向にも流体力が作用するため、これが制御上支障を生じるレベルである場合はこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。最も単純には偏角αの変更により実現できる。
また、前記のステップS2もしくはステップS4において羽の回転角速度を変化させることによってもz軸方向の動作を行なうことは可能である。たとえば、ステップS2において羽の回転角速度(−dβ/dt)を大きくすると、この回転によって生じる流体の下方向への流速が大きくなるため、この反作用によって羽に作用する上向きの流体力が大きくなる。
なお、この場合、本羽ばたき装置に及ぼされる、羽の主軸を回転軸とするトルクが副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障ない範囲に収まる範囲内でこの回転角速度変化を行なうことが望ましい。
また、この場合、本羽ばたき装置に及ぼされる、前後方向への力も副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障をきたす場合は、(2)として後述する前後方向への力の制御も同時に行なうことが望ましい。
(2) 前後方向(x軸方向)の動作
前述した羽ばたき方法では、主にステップS2とステップS4にて、x方向の向きへの流体力が羽に作用する。したがって、この羽の動かし方においては前進を伴い浮上する。
また、打ち下ろしの際に偏角αを増加し羽を前方に移動させることで、羽には後向きの流体力が作用することになる。したがって、打ち下ろしの際の、すなわち、ステップS1における偏角αを制御して、ステップS1における羽に作用する後向きの流体力を、他の主にステップS2とステップS4における前向きの流体力よりも大きくすれば後退し、小さくすれば前進することができる。また、この2力がほぼ釣り合えば前後方向に静止することができる。
特に、本羽ばたき装置が前後方向に静止しており、左右の羽がほぼ対称な運動を行ない、重力と本羽ばたき装置における浮上力が釣り合っているならば、ホバリング状態が実現できる。
なお、偏角αの変更に伴い副次的に、羽に及ぼされる流体力の鉛直方向成分が変化するので、これが制御上支障を生じるレベルにある場合にはこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。これは、主に、前述の(1)の上下方向の動作によって行なうのが簡便である。
さらに、前述したステップS2とステップS4において羽の回転動作の角速度を大きくすると前向きの流体力が増加し、小さくすると減少する。これによっても前後方向の動作を変化させることができる。
また、(1)に述べた羽の捻り角βの変更に伴う副次的な流体力のうち、x軸方向成分を利用する手法も可能である。つまり、打ち下ろし時にβ>0なら前方向への、β<0なら後方向への力が働く。
なお、打ち上げ時のβ、α、θの関係はある程度拘束されているが、以上の流体力の制御はステップS3においても可能である。
(3) z軸を回転軸とする回転動作
(2)において述べた前後方向への制御を、左羽と右羽について個別に行ない、これを異ならせることで本羽ばたき装置にトルクを与えることができる。
すなわち、右羽の前向きの流体力を左羽のそれに対して高くすれば本羽ばたき装置はx軸正の向きに向かって左方向を向き、低くすれば同じく右方向を向く。
(4) x軸を回転軸とする回転動作
(3)と同様に、右羽の上向きの流体力を左羽のそれに対して大きくすれば右側が持ち上がり、小さくすれば左側が持ち上がる。これによって、x軸を回転軸とする回転動作を行なわせることができる。
(5) y軸を回転軸とする回転動作
(2)に述べた、羽の捻り角βの角速度変更によって、本羽ばたき装置にかかるy軸周りのトルクを変化させることができる。これにより、y軸を回転軸とする回転動作を行なうことができる。たとえば、ステップS1における捻り角βの回転角速度を大きくすると本羽ばたき装置は機首を下げ、逆に小さくすると機首を上げる。
(6) ホバリング(停空飛翔)
羽ばたき装置を停空させる際のストローク角θおよび偏角αならびに捻り角βの値を時間の関数として表したグラフを図19に示す。ただし、図19ではそれぞれの角度の縦軸の比率と異なっている。
本発明者らが行なった実験においては、θ0はたとえば60°である。β0はたとえば−10°である。α1はたとえば30°である。β1はたとえば−100°である。β2はたとえば−60°である。
各ステップにおける左羽の運動と、それにより左羽の力学的支点A2に生じる加速度、角加速度を図44に示す。ただし、(3)(4)のx軸、z軸を回転軸とする回転動作については略してある。これらは、前述のとおり、左右の羽の運動の非対称によって起こされる。
(制御方法決定手法)
現在の浮上状態は、羽ばたき装置に搭載された加速度センサ51や角加速度センサ52が取得した値を適宜変更した値を用いて求められる。たとえば、速度は、加速度を時間積分した値に速度の初期値を与えることで求められる。また、位置は、速度を時間積分した値に位置の初期値を与えることで求められる。なお、浮上状態に、浮上状態の時刻歴を含む手法も可能である。
制御装置4は、加速度センサ51および角加速度センサ52から得られる現在の浮上状態と、目的とする浮上状態から、本羽ばたき装置の動作を決定する。この制御は、三次元で行なわれる点以外は従来から行なわれている制御手法を適用することができる。
本羽ばたき装置の動作は、制御装置4にて、アクチュエータの駆動に変換される。この変換には、テーブル参照、もしくはその補完を用いるのが高速である。たとえば、図45に示すように、基本となる動作と、それを実現するアクチュエータの駆動の組合せを予め用意しておく。なお、図45の左端列は目的とする動作、羽ばたきにおけるAとBは、Aは前進時の羽ばたき方、Bは停空時の羽ばたき方であり、より具体的にはそれぞれ図18、図19にグラフで示されるα、β、θの時刻歴を時間的に離散化したものである。制御装置4は、本羽ばたき装置の動作から、この駆動もしくはその補完した駆動をこのテーブルより算出する。
ここでは、説明のため一旦本羽ばたき装置の動作を算出し、これをアクチュエータの駆動に変換するという手法を用いたが、浮上状態から直接アクチュエータの駆動を選択する手法も可能である。
たとえば、定位制御を行なう場合、現在位置と目標位置との差によって、上述したアクチュエータの駆動のいずれか、もしくはそれを補完した駆動を直接算出する手法も可能である。
また、当然、羽ばたき装置の浮上状態を表す物理量はここに示した位置、速度、加速度などに限らない。
また、当然、アクチュエータの駆動を決定する手法はこの態様に限らない。
(浮上可能重量)
次に、本実施の形態における羽ばたき浮上装置90の構成で浮上が可能な条件を、図20を用いて示す。
本発明者の実験環境ではアクチュエータとして進行波アクチュエータを用いた。この進行波アクチュエータによれば、ステータ210が超音波モータ23と同等であるので、θ方向の羽ばたきに関してはトルク1.0gf・cmである。
そこで、本発明者らはシミュレーションによりこのトルクで羽ばたいた際の流体力を算出した。
羽根はアクチュエータから離れる方向が長辺で、長辺4cm、短辺1cmの矩形で、羽根の変形は無視する。また、幅8mm、長さ33mmのとんぼの羽根が約2mgであったので、これに倣い、羽根の質量は3mgとした。
さらに、超音波モータは、突起先端の微小な楕円運動の累積によってロータの円板を円周方向に駆動するため、実際の駆動トルクの立上がり立下がりはダイヤモンドの周期オーダ、すなわち105ヘルツオーダであるが、計算の安定性から制約上±250gf・c/secであるとした。すなわちトルクは0.004秒に1gf・cm上昇する。
この羽根を、一方の短辺をこの辺を回転軸とする回転自由度のみ残して固定し、この回転自由度にトルクを与え、この回転軸にかかる反力を算出した結果が図20である。ただし、前に定義するところの偏角α=0(度)、2次角β=0(度)である。
時刻0においては、羽根は水平すなわちストローク角θ=0(度)である。ここから時刻0.004秒までの間にトルクを1gf・cmまで直線的に向上させ、0.004秒から0.01秒まで、1gf・cmを保つ。そして時刻0.01秒から0.018秒までの間にトルク1gf・cmから−1gf・cmまで直線的に変化させ、同0.018秒から0.03秒までは−1gf・cmを保ち、同0.03秒から0.038秒までの間に再び1gf・cmへと直線的に変化する。
これにより得られた接点反力を、打ち下ろしの間すなわちトルクが負である時間である時刻0.014秒から0.034秒までの間で平均すると約0.29gfであった。
以上のシミュレーションは、1自由端羽ばたきの結果であるため、打ちが上げ時の流体力の作用は不明である。しかし、断面積に比して流体の抵抗が減少するので、打上げ時に働く下向きの始点反力は小さいこと、かつ、打下ろし時と同じトルクで打上げることが可能なため、打上げに要する時間は打下ろしに要する時間よりもはるかに短い。すなわち、打上げの際の力が作用する時間は短いこと、また、打下ろし以外にも羽根の回転などを用いて浮上力がさらに得られることから、トルク1gf・cmのアクチュエータを用いて、0.29g程度の質量を浮上させることは可能であるといえる。すなわち、実施の形態における羽ばたき浮上装置全体の質量が0.58g以下であれば浮上が可能である。以下、羽ばたき浮上装置全体の重量について検討する。
まず、ステータ210の質量は、電極と圧電素子が薄いため、比重2.7、厚さ0.4mm、半径4mmの円板と同等であるので、0.054gである。また、補助ステータの重量は、ステータの直径が0.7倍であることから0.019gである。
3つのベアリングはいずれも外径4.2mm、内径3.8mm、厚さ0.4mmのドーナツ状のボールベアリングである。材質は比重4.8のチタンで、約30%の空隙があるため、ベアリングの質量は約0.013gである。また、ロータ219は材質がアルミで壁中央半径3mm、厚さが0.2mmであるため、約0.061gである。
これらの総和から、アクチュエータ21の質量は0.192gである。また、羽根31は前述のとおり0.003gである。以上の構成が左右系2つあるので、0.390gである。
また、本発明者らが採用した図6に示す支持構造1は、直径1cm、比重0.9、厚さ0.1mmの球体であるので質量が約0.028gである。
また、本発明者らが採用した制御装置4、通信装置7、加速度センサ51、角加速度センサ52、焦電型赤外線センサ53はそれぞれ5mm×4mmの半導体ベアチップで、各約0.008gである。すなわちこれらの質量の総和は0.04gである。また、本発明者らが採用した電源6の重量は0.13gである。
以上、すべての構成要素の重量の合計は0.579gとなる。1対の羽根で浮上力0.58gfを得ているので、この構成で浮上することが可能である。
(通信装置)
次に、通信装置7について説明する。
通信装置7は送信機能を備え、各種センサの測定値を送信する。これにより、ベースステーション91が、羽ばたき浮上装置90の情報を得ることができる。
ベースステーション91が得る情報は、羽ばたき浮上装置90もしくはその周囲の物理量である。より具体的には、前者の一例としては、加速度センサから得られた羽ばたき浮上装置90の加速度情報、または、角加速度センサ52が得られた羽ばたき浮上装置90の角加速度情報、後者の一例としては、焦電型赤外線センサ53より得られた赤外線量情報である。
また、通信装置7は、受信機能を備え、制御信号を受信する。これによりベースステーション91が羽ばたき浮上装置90に対して制御を行なうことができる。
ベースステーション91より送信される制御信号を、羽ばたき浮上装置90の浮上状態に対する制御信号と、羽ばたき浮上装置90の周囲に与える物理量変更における制御信号とである。より具体的には、前者の一例としては、羽ばたき浮上装置90に与えられるべき加速度と角加速度とを指定する信号、後者の一例としては、発光ダイオード8の光量を指定する信号である。
なお、本実施の形態においては、ここに例示した情報を送受信するものとして以後の説明を行なう。
もちろん、送受信すべき情報はここに示した限りではない。たとえば、ベースステーション91より発せられた制御信号を、羽ばたき浮上装置90が正しく受信したか否か確認する応答信号なども送受信可能な情報である。
(制御装置)
次に、制御装置4について、図6および図22を用いて説明する。
図6に示すとおり、制御装置4は、演算装置41とメモリ42とからなる。
演算装置41は、通信装置7を経て、羽ばたき浮上装置90における各種センサによって得られた情報を送信する機能を有する。また、演算装置41は、通信装置7を経て得られた制御信号に基づき、各構成要素の動作を制御する機能を有する。また、メモリ42はこれら送受信されたデータを保持する機能を有する。
本実施の形態においてより具体的には、演算装置41は加速度センサ51および角加速度センサ52からの情報により羽ばたき浮上装置90の加速度および角加速度を算出し、通信装置7を経由してベースステーション91にこの情報を送信する。また、ベースステーション91からは現在羽ばたき浮上装置90に与えられるべき加速度の情報と、角加速度の情報とが送信される。これらの情報を、通信装置7を経て受信し、演算装置41はこの受信された加速度と角加速度とにより各アクチュエータの動作パラメータを決定する機能を有する。
さらにより具体的には、演算装置41は、羽ばたき浮上装置90に与えられるべき代表的な加速度と角加速度との組合せに対応したα、β、θの時系列値をテーブルとして有しており、これらの値、もしくはその補間値を各アクチュエータの動作のパラメータとする。なお、α、β、θの時系列値とは、たとえば、加速度、角加速度ともに0であるホバリングの場合は図19にグラフで示される値を離散化したものである。
当然、ここで挙げるα、β、θは制御パラメータの一例であり、説明の簡便のためこれらのパラメータを指定することでアクチュエータが駆動されることを前提に記述したが、たとえば、より直線的にこれらを実現する各アクチュエータへの駆動電圧や制御電圧に変換したものを用いることが効率的である。しかし、これらが既存のアクチュエータ制御方式と特に異なるものではないので、代表的なパラメータとしてα、β、θを挙げているにすぎず、このパラメータのみに限るものではない。
また、別なる機能を具体例として、演算装置41は、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報を、通信装置7を介して送信する機能を有する。
これによりベースステーション91が羽ばたき浮上装置90に搭載された焦電型赤外線センサ53における赤外線情報検出領域531における赤外線情報を取得することが可能になる。
また、演算装置41は、ベースステーション91から送信された発光ダイオード8の発光制御信号を、通信装置7を介して受信して、この制御信号に従い発光ダイオード8に流れる電流を制御する機能を有する。これにより、ベースステーション91が発光ダイオード8の発光を制御することが可能になる。なお、制御装置4の機能はここに示したものに限らない。
飛行制御は時間的に連携するものであるので、羽根の動作時刻歴を、制御装置4におけるメモリ42に記憶させておき、ベースステーション91からの制御信号をこの時刻歴情報によって補正する手段も可能である。
また、羽ばたき浮上装置90の浮上移動を優先する場合、通信の帯域からの送信不可能なデータが発生することも考えられる。また、通信が途絶する場合も考えられる。これらをはじめとして、重量の増加が浮上移動に障害をもたらさない範囲内ならば、メモリ42を搭載することは有効である。また、逆に、演算装置41におけるレジスタの類を除き、羽ばたき浮上装置90の機能によっては明示的に必須ではない。
(駆動エネルギ源)
次に、駆動エネルギ源、すなわち、電源6について説明する。
左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、を駆動する電力は電源6により供給される。
電源6はリチウムイオンポリマを電解質としているので支持構造1により封入しておけばよい。これにより液漏れを防ぐための余分な構造が不用であり、実質的なエネルギ密度を高めることができる。
なお、現在市販されているリチウムイオン2次電池の一般的な質量エネルギ密度は150Wh/kgであり、本実施の形態においてはアクチュエータにおける消費電流は最大40mAであるので、電源6の電解質重量を約0.1gとすると、本実施の形態においては約7.5分の飛行が可能である。また、本実施の形態におけるアクチュエータの最大消費電流は左右合計40mAである。
また、電源電圧3Vである。電解質重量が0.1gであるので、0.12W/g、つまり、1200W/kgの重量パワー密度を持つ電源6の実現が求められる。市販品で実現されているリチウムイオンポリマ2次電池の重量パワー密度は約600W/kgであるが、これは携帯電話などの情報機器に用いられている10g以上の製品などである。一般に、電解質の質量に対する電極面積の比は正負に反比例するので、実施の形態における電源6は、前述の情報機器用に用いられている2次電池の10倍以上の電極面積比を持つので、10倍程度の質量パワー密度が達成可能であり、冒頭の出力パワー密度は十分達成可能である。
アクチュエータの駆動エネルギを外部から供給する方法も可能である。たとえば、電力エネルギを外部から供給する媒体については温度差、電磁波などが挙げられ、これを駆動エネルギに変換する機構としてはそれぞれ熱電素子およびコイルなどが挙げられる。また、電源として燃料電池などを使用してもよい。
当然、異なる種類のエネルギ源を混載する手法も可能である。電力以外のエネルギ源を用いる場合、基本的には制御は制御装置4からの電気的信号を用いることになると考えられている。
(センサ類(物理量入力部))
次にセンサについて説明する。
加速度センサ51は支持構造1の3自由度並進加速度を、角加速度センサ52の支持構造1の3自由度回転加速度、焦電型赤外線センサ53は焦電型赤外線センサ検出領域531における赤外線量を検出する。これらのセンサ51〜センサ53の検出結果は制御装置4に送られる。
本発明者が用いた加速度センサは帯域40Hzである。なお、加速度センサ51や角加速度センサ52は帯域が高いほど時間的に緻密な制御が可能であるが、羽ばたき浮上装置90の浮上状態の変更は1回以上の羽ばたきの結果起きるものであると考えられるので、現在市販されている帯域が数10Hz程度のセンサでも実用可能になる。
本実施の形態では加速度センサと角加速度センサとに羽ばたき浮上装置90の位置および姿勢を検出するものとしたが、羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢が計測可能な手段であるかどうかは上記センサには限らない。たとえば、互いに直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサを少なくとも2つそれぞれ支持構造1の異なる位置に配置させ、角加速度センサから得られる加速度情報に基づいて羽ばたき浮上装置90の姿勢を算出することも可能である。
また、作業空間92内に地上波を明示的に組込んでおき、これを羽ばたき浮上装置90が検出して位置および姿勢を算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92内に磁場分布を設けておき、磁気センサによりこの磁場分布を検知することで、羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を算出する手法も可能である。また、GPSセンサ等を用いる手法も考えられる。
また、後述するベースステーション91など、羽ばたき浮上装置90以外において羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢とを直接検出する手法も考えられる。たとえば、ベースステーション91がカメラを有し、画像処理によって羽ばたき浮上装置90の位置を算出する手法も可能である。また、先の地上波による位置検出法とは逆に、浮上装置90の発する電波の強度などから浮上装置90の位置を、ベースステーション91が算出する手法を用いてもよい。なお、この場合羽ばたき浮上装置90における加速度センサ51などは必須ではない。
また、加速度センサ51、角加速度センサ52をはじめとするセンサ類は、制御装置4とは別部品として表現されたが、軽量化の観点から、マイクロマシニング技術によって制御装置4と一体で同一のシリコン基板上に形成してもよい。
当然本実施の形態におけるセンサは、アプリケーションすなわち警備の目的を達成する最低限の構成要素であって、センサの種類、個数、構成についてはここに示す限りではない。
たとえば、羽ばたき浮上装置90における羽根の駆動には、フィードバックのない制御を用いているが、羽根のつけ根に羽根の角度センサを設け、ここから得られる角度情報によりフィードバックを行ない、より正確に羽根を駆動する方法も可能である。
また、逆に、浮上する領域における気流が既知であり、予め定められた羽ばたき方のみによって目的位置に定位することが可能ならば、羽ばたき浮上装置90の浮上状態を検出することは不用となるので加速度センサ51や角加速度センサ52は必須ではない。
人体検出については、焦電型赤外線センサ53を用いて、従来のロボットに採用されている手法と同様に行なえる。
侵入者93も羽ばたき浮上装置90に対して移動の障害となるが、焦電型赤外線センサ検出領域531を羽ばたき浮上装置90の下方に配することで、羽ばたき浮上装置90が侵入者の情報を飛行しても侵入者を検出することが可能であるため、侵入者93を障害とせず、かつ、侵入者93を検出することが可能である。
また、人体検出センサとして、現在広く安価に用いられている焦電型赤外線センサを例として挙げたが、当然これも人体を検出するという機能が達成されるならばこの限りではない。
(発光ダイオード(物理量出力部))
次に、発光ダイオード8について説明する。
発光ダイオード8は、焦電型赤外線センサ53における焦電型赤外線センサ検出領域531を概ね包含する可視光照射領域を有する。また、発光ダイオード8の動作は制御装置4によって制御される。この制御は後述の手法により侵入者を検出した際に行なわれる。
以上の構成より、焦電型赤外線センサ検出領域531内に検出された赤外線放射源を侵入者93であると判断すれば、これに対して可視光を照射することで警告動作を行なうことができる。
当然、発光ダイオード8として示した警備装置というアプリケーションにおける警告装置としての機能を満たす構成要素の一例である。すなわち、具体的なアプリケーションによって変更すべき物理量とその変更をもたらす構成要素が決定される。なお、この構成要素は本実施の形態に示された限りではない。
上述の構成要素の決定の際、羽ばたき浮上装置90の機動性を損なわないためには、当該構成要素の機能を損なわない範囲内で軽量であることが望ましい。
たとえば、上述の警備ロボットにおいては、一般に住居等に窃盗などの目的で侵入する者は光や音に最も警戒心を抱くため、小型軽量化である発光ダイオード8は羽ばたき浮上装置90の機動性を損なわず、かつ、効果的に警告を行なえる警告装置である。なお、より警告効果を高めるには点滅させる等の方法も可能である。
また、これとは別に、羽ばたき浮上装置90の行動自体も、周囲の物理量に変更を及ぼすので、アプリケーションの求める機能を満たすならば、羽ばたき浮上装置90のもたらす物理量の変更を、アプリケーションの目的に用いることも可能である。たとえば、本実施の形態における侵入者に対する警告方法として、侵入者を中心とする円を描くもしくは侵入者に接近衝突するなどの行動様式を用いることで、侵入者に対して警告を行なう手法も可能である。この他、羽ばたきにより発生する音、風圧などを用いることもできる。
(ベースステーションの説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、図21を用いて、上記の離着陸補助機構を有するベースステーション91の主要な構成と機能とを説明する。ただし、ベースステーションの主要な目的は羽ばたき浮上装置90からの情報取得とこれに基づく羽ばたき浮上装置90の制御であるので、図21はこれを具体化した一例にすぎず、外観、形状、また付帯的な構成要素の有無については上述の目的を害しない限りここに記す限りではない。なお、本実施の形態においては、ベースステーションの他の機能としては、羽ばたき浮上装置90の離着陸補助機構としての機能がある。
図21に示すように、ベースステーション91は、演算装置911、メモリ912および通信装置917を備えている。通信装置917は、羽ばたき浮上装置90より送信された信号を受信する機能を有する。また、羽ばたき浮上装置90に信号を送信する機能を有する。
ベースステーション91は、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータなどと、羽ばたき浮上装置90より通信装置917を介して受信した羽ばたき浮上装置90の加速度情報を初めとする各種情報から、羽ばたき浮上装置90の行動を決定する機能を有する。また、この行動を通信装置917を介して羽ばたき浮上装置90に送信する機能を有する。
前述の受信機能と行動決定機能と送信機能によってベースステーション91は羽ばたき浮上装置90自身もしくはその周辺環境情報に基づき通信機能を介して羽ばたき浮上装置90を制御することができる。
ベースステーション91は、その上面を羽ばたき浮上装置90の離発着台2として用いている。すなわち、ベースステーション91上面には充電器913が備わっており、充電孔914に羽ばたき浮上装置90における電極と兼用される磁性体111が結合することで電気的に電源6に接続され、充電が可能な状態になる。本実施の形態においては節電のため、充電器913は演算装置911により制御され、羽ばたき浮上装置90がベースステーション91に結合している際も動作して充電を行なう。
また、この充電孔914は位置決め孔の役割も兼ねている。さらに、ベースステーション91には電磁石915が備えられており、必要に応じて羽ばたき浮上装置90を吸着している。すなわち、離陸前の羽ばたき浮上装置90におけるベースステーション91に対する相対位置は、電磁石915を動作させることにより固定されており、また相対速度は0である。
(動作指示)
本実施の形態においてはベースステーション91は、演算装置911とメモリ912および通信装置917を備えており、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータと、予め設定された目的を達成する羽ばたき浮上装置90の作業空間92における予定経路に対して、羽ばたき浮上装置90より受信した羽ばたき浮上装置90の加速度情報をはじめとする各種情報から羽ばたき浮上装置90に与えるべき加速度、角加速度を、通信装置917を介して羽ばたき浮上装置90に送信する機能を有する。
たとえば、羽ばたき浮上装置90の角加速度情報を2回積分することで羽ばたき浮上装置90の姿勢を算出することができる。また、これと羽ばたき浮上装置90の加速度情報を前出るの姿勢で回転変換して得た絶対座標系における加速度情報を2回積分することで羽ばたき浮上装置90の位置を算出することができる。なお、これらの積分定数は、離陸前の速度、角速度がともに0であり、位置、姿勢はベースステーション91に対して充電孔914に固定されているためいつでも既知である。このようにして演算装置911は羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を算出し、上述の羽ばたき浮上装置90への制御指示を行なうことができる。
以上の機能により、ベースステーション91が、羽ばたき浮上装置90に作業空間92内を巡回させるように制御することが可能になる。
また、ベースステーション91は、羽ばたき浮上装置90より受信した羽ばたき浮上装置90搭載の焦電型赤外線センサ53における赤外線量情報等の情報をもとに侵入者の有無を判断し、侵入者ありと判断した場合、侵入者93に対する警告行動となる発光ダイオード8の制御信号を、通信装置917を介して羽ばたき浮上装置90に送信する。
以上の機能により、ベースステーション91が、羽ばたき浮上装置90の検出した赤外線情報より、侵入者に警告を発するよう羽ばたき浮上装置90を制御することが可能になる。
また、これらの機能は互いに相関することも可能である。たとえば、前述の羽ばたき浮上装置90における加速度情報と角加速度情報より焦電型赤外線センサ53における赤外線検出領域531の作業空間92における位置を算出することができる。この位置と赤外線量をマッピングすることで赤外線放射源の位置、形状、動作などを算出し、赤外線放射源の重心付近に向けて警告を発するといった手法も可能である。なお、これらのバリエーションは多岐にわたり、アプリケーションによって最適なものをデザインするものであって、ここに示した形態に限るものではない。
(巡回手法)
羽ばたき浮上装置90における巡回手法は、従来から提案されている車輪などで床面を移動するロボットに用いられてきた巡回手法に、高さ方向の自由度を加えて構築することが可能である。
たとえば、まず概ね一定の高さでの巡回を行ない、これが終了した後、羽ばたき浮上装置90の高度を変更してまた別の高さで巡回を行なうといった手法で、2次元平面上での巡回の高さ方向の自由度を加え、3次元空間を巡回する手法が実現される。
また、焦電型赤外線センサ53の検出距離によっては、ある高さで巡回すれば作業空間92の全域において侵入者を検出することが実質的に可能な場合も考えられる。この場合は、従来から提案されている2次元平面での巡回を行なうアルゴリズムのみで巡回が可能である。
これら巡回経路は、ある定まった経路をメモリ912内に予め用意していてもよいし、メモリ912におけるマップデータからある情報を基準に演算装置911が算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92における監視上の重要度などを指定し、この重要度に応じて巡回頻度を高く設定するなどの手法が考えられる。
なお、巡回中においても経路の変更は可能である。たとえば、侵入者検出時などに、侵入者を検出した位置でホバリングするなどの変更が考えられる。
以上に示したのは羽ばたき浮上装置90の作業空間92の巡回手法の単純な一例であり、この限りではない。ベースステーション91の質量は羽ばたき浮上装置90の浮上には影響しないため、これらの巡回経路や手法の策定を高度に複雑に行なうことは容易である。
(離着陸補助)
上述した離着陸補助機構の概要を警備ロボットシステムとして用いた場合における態様で説明する。
羽ばたきの開始もしくは終了時、すなわち、羽ばたき浮上装置90の離着陸の際は、羽ばたきによって起こる気流が急激に増加もしくは減少し不安定であるため、羽ばたき浮上装置90の位置および姿勢を制御することは難しい。本実施の形態では、離陸前の段階において、ベースステーション91に備えられた電磁石915が羽ばたき浮上装置90を吸着している。離陸の際は羽ばたきによる気流が安定するまで電磁石915を作動させ、気流が安定した時点で電磁石915による吸着を停止するなどの手法で安定した離陸が可能である。
着陸においては、大まかに電極としての磁性体111が充電孔914の上部に位置するよう羽ばたき浮上装置90を移動させ、この状態で電磁石915を作動させ、羽ばたき浮上装置90をベースステーション91に吸着する。しかる後に羽ばたきを停止させれば、気流が不安定である状態で着陸時の位置と姿勢を安定させることができる。なお、定位を容易にするため、電極としての磁性体111もしくは充電孔914の少なくとも一方がテーパ状をしていることが望ましい。
なお、重量が許すなら、羽ばたき浮上装置90が電磁石915を有する構成も可能である。また、この構成により、羽ばたき浮上装置90はベースステーション91に限らず、強磁性もしくは軟磁性材料で構成される物質すべてに対して安定した離着陸が可能になる。
より加速度の小さい離陸を行なうために、電磁石915に力覚センサを配し、この力覚センサにかかる力によって電磁石915の吸引力を制御する手法も可能である。
また、ここに示したのは離着陸時の気流不安定性に伴う羽ばたき浮上装置90の不安定浮上を防ぐ手法の一例にすぎず、離着陸時に羽ばたき浮上装置90を一時的に保持する機構であれば他の手段も可能である。たとえば、電磁石915の代わりに空気を用いて吸引する手法も可能である。また、レールなどのガイド機構に沿って離着陸を行なう等の手法も可能である。
(システムの動作)
羽ばたき浮上装置90はベースステーション91からの指示により作業空間92を巡回し、侵入者を検出する。これをより具体的に一例として記述したものを例として図22および図23を用いて説明する。なお、以下の記述は一例であり、本願の権利請求の範囲を絞るものではない。
(静止状態)
羽ばたき浮上装置90の動作開始前においては、羽ばたき浮上装置90はベースステーション91における充電孔914に電極としての磁性体111が接続され固定されている。また、必要に応じて電源6に対して充電が行なわれている。ベースステーション91における演算装置911、メモリ912は既に動作しているものとする。また、羽ばたき浮上装置90の巡回経路は既に演算装置911によって算出されているものとする。また、侵入者を検出した際の羽ばたき浮上装置90の警告動作は既に演算装置911によって算出されているものとする。上記巡回経路、警告動作をメモリ912に格納しておくことが望ましい。
(離陸、上昇)
ベースステーション91における電磁石915が動作し、羽ばたき浮上装置90はベースステーション91に吸着される。この状態で羽ばたき浮上装置90は垂直方向への上昇のための羽ばたき動作を開始する。遅くとも電磁石915が吸着を解除するまでには、羽ばたき浮上装置90における加速度センサ51、角加速度センサ52、制御装置4、および通信装置7は動作を開始している。また、この際には、ベースステーション91においても通信装置917が動作を開始しており、演算装置911が羽ばたき浮上装置90の浮上状態を検出できる状態に達している必要がある。
羽ばたきによる気流が安定した時点で、電磁石915は羽ばたき浮上装置90の吸着を止めていく。電磁石915の吸着力と羽ばたき浮上装置90の浮力がバランスする点よりさらに電磁石915の吸着力を弱めた時点で羽ばたき浮上装置90が浮上を開始する。
また、少なくとも羽ばたき浮上装置90が浮上を開始するまでに、ベースステーション91における演算装置911は、羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を求める演算を開始している必要がある。
羽ばたき浮上装置90はベースステーション91に加速度情報、角加速度情報を送信しつつ上昇する。ベースステーション91はこの情報と目的とする経路より算出される羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢により羽ばたき浮上装置90に現在与えられるべき加速度を算出し、羽ばたき浮上装置90に指示する。予め指定された位置に羽ばたき浮上装置90が到達すると、ベースステーション91の指示により羽ばたき浮上装置90はこの高さで巡回を開始する。
(巡回)
巡回開始以前に焦電型赤外線センサ53を動作させる。この赤外線情報が通信によって演算装置911に送られる。巡回は、ベースステーション91は羽ばたき浮上装置90の移動を指示しつつ、赤外線情報を監視し、赤外線発信源すなわち発熱源の有無を判定することで行なわれる。ロボットは、障害物を避けるために、一般的な侵入者の身長以上の高さ、たとえば、概ね2m程度の高さを巡回する。また、羽ばたき浮上装置90は、たとえば、赤外線情報検出領域531の幅の60%程度の幅ずつずらしながら往復するなどの手法を用いて、作業領域92をくまなく巡回する。
(侵入検出、判定)
仮に、発熱源が検出された場合、演算装置911はメモリ912のマップ情報を参照する。マップ情報には予め知られている作業空間92における赤外線放射源すなわち発熱源の情報が含まれており、演算装置911はこれを参照することで、検出された発熱源が既知のものであるか否かを判定する。より具体的には、羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢により赤外線情報検出領域531の作業空間92における位置を算出し、算出された位置に既知発熱源が存在すれば侵入者でないと判断することができる。
また、焦電型赤外線センサは一般的に45度程度の指向性を持つもので、よりこの位置特定を正確に行なうために、移動を伴い連続してもしくは複数回の赤外線情報検出を行なうなどの手法で、1ヵ所以上の測定結果より得られたデータを総合して発熱源の位置と大きさをより正確に算出することが望ましい。
より具体的には、ベースステーション91は羽ばたき浮上装置90の前述の巡回動作を中断させ、発熱源が検出された位置付近をより細かく移動しながら赤外線量を減少させる。たとえば、赤外線量が最大値の1/2になる領域をマッピングするなどの手法で、発熱源の位置と大きさをより正確に算出することができる。場合によっては高度を変更し、高さ方向の大きさと位置を算出することも考えられる。このようにして、特定された赤外線放射源について、マップデータ上に位置と大きさについて該当する既知の赤外線放射源が存在しない場合、ベースステーションはこの赤外線放射源を侵入者と判断し、羽ばたき浮上装置90に警告動作を指示する。
(警告動作)
警告動作に入る場合は、ベースステーション91は、羽ばたき浮上装置90の前述の巡回動作もしくは赤外線放射源特定のための動作を中断させ、侵入者93に対して警告を発する行動を羽ばたき浮上装置90が実行するように行動決定する。
より具体的には、発光ダイオード8を点滅させながら侵入者93の周囲を囲むように移動することで、侵入者93が検出されていることを侵入者93に知らしめることで警告を行なう。
(着陸)
巡回終了時以後、羽ばたき浮上装置90における焦電型赤外線センサ53は動作を停止する。巡回終了時には、羽ばたき浮上装置90における電極としての磁性体111がベースステーション91における充電孔914の鉛直上方に位置するように位置および姿勢を保ちながら羽ばたき浮上装置90が下降するようにベースステーション91が羽ばたき浮上装置90を制御する。電磁石915が羽ばたき浮上装置90の吸着可能な位置に羽ばたき浮上装置90が位置したと判断した時点で、電磁石915を作動させ、羽ばたき浮上装置90をベースステーション91に固定する。
ベースステーション91に羽ばたき浮上装置90が固定された以後、羽ばたき浮上装置90における加速度センサ51、角加速度センサ52は動作を停止する。ベースステーション91に羽ばたき浮上装置90が固定されて以後、ベースステーション91は羽ばたき浮上装置90へ羽ばたきの停止を指示する。これ以後、通信装置7、制御装置4などは停止させてもよい。
(フローチャート)
本実施の形態における各情報の流れを図22に示す。また、上記動作のフローチャートを図23に示す。当然これらは一例であり、本実施の形態における警備ロボットというアプリケーションを満足する羽ばたき浮上装置90の動作はこの限りではなく、また、これまでアプリケーションに用いられる場合、当然この動作は異なったものとなり得る。
(通信)
本実施の形態における通信手法について、図24〜図26を用いて説明する。
なお、ここでは通信されるデータに対する解説を主に行なう。たとえば、通信のプロトコル、ハンドシェイクのタイミングといった通信の手法の細部についてはさまざまな手法があるが、ここで説明するデータのやり取りが行なえるものであればよい。
(静止状態、離陸)
まず、静止状態〜離陸時の通信動作について図24を用いて説明する。
まず、ベースステーション91の演算装置911、通信装置917と羽ばたき浮上装置90の制御装置4、通信装置7を動作させ、羽ばたき浮上装置90とベースステーション91のコネクションを確立させる。そしてベースステーション91における電磁石915を動作させ、羽ばたき浮上装置90を吸着し、離陸時の不安定な気流による羽ばたき浮上装置90の転倒を防止する。
羽ばたき浮上装置90における加速度センサ51、角加速度センサ52は羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を正しく把握するために、ロボットが浮上、すなわち加速度もしくは角加速度が0でなくなる以前に動作している必要があるので、羽ばたき開始以前にセンシングを開始しておく。
ベースステーション91は、羽ばたき浮上装置90に浮上用の羽ばたきを指示する。本実施の形態では鉛直上向きに浮上するような羽ばたきを行なうように羽ばたき浮上装置90に加速度、角加速度の指示を行なう。
羽ばたき浮上装置90においては、予め用意された制御テーブルから、鉛直上向きに上昇するためのα、β、θの時系列のパターンを選び、これに従った羽ばたきを開始するため、左右アクチュエータ21,22を駆動する。
ベースステーション91は、タイマで一定時間経過を検出するなどの手法で、ロボットの羽ばたきによる気流が安定するまで待機し、その後、電磁石915の吸着力を低下させていく。
その間、羽ばたき浮上装置90は自身の加速度情報と角加速度情報とを通信によってベースステーション91に送信する。電磁石915の吸着力が浮力を下回った時点でロボットは浮上する。これは羽ばたき浮上装置90の速度が0でなくなることによって検出される。浮上が完了すれば、ベースステーション91より羽ばたき浮上装置90に浮上完了信号が送信され、巡回モードに入る。
(巡回、警告動作)
続いて、巡回時における通信動作を図25を用いて説明する。
まず、巡回モードに移行するまでに、羽ばたき浮上装置90は赤外線センサを動作させる(図示なし)。
次に、羽ばたき浮上装置90は各種センサの情報取得を行なう。そして、取得したセンサ情報を、通信を介してベースステーションに送信する。
ベースステーション91は受信した羽ばたき浮上装置90のセンサ情報のうち、赤外線情報をマッピングし、作業領域92内での赤外線放射分布を求める。また、加速度情報、角加速度情報から、羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を算出する。これらの位置、姿勢算出処理、赤外線マッピング処理は巡回行動中継続的に行なわれているものとする。
得られた赤外線マッピングの結果、メモリ912におけるマップデータに存在しない赤外線放射源が確認されれば侵入者とみなし警告動作を行なう。そうでない場合は巡回を継続する。これら次の行動をベースステーション91は決定し、羽ばたき浮上装置90に与えるべき加速度、角加速度を羽ばたき浮上装置90に指示情報として送信する。
羽ばたき浮上装置90は受信した指示情報のうちの加速度指示と角加速度指示より、予め用意された制御テーブルより左右アクチュエータの駆動を算出し、これを駆動する。また、警告動作指示が行なわれている場合は、これに従ってLEDの駆動を行なう。警告動作においても、通信態様は、LED駆動を除いて巡回動作と同様である。
ベースステーション91が、羽ばたき浮上装置90が巡回終了に達したと判断した場合、羽ばたき浮上装置90に巡回終了信号を送信し、着陸モードに移行する。
(着陸)
続いて、図26を用いて着陸における通信について説明する。
羽ばたき浮上装置90は、巡回終了後、焦電型赤外線センサ53の動作を停止させる。
ベースステーション91は、着陸地点直上、より具体的には、電磁石915によって羽ばたき浮上装置90を初期位置に吸着可能な領域に羽ばたき浮上装置90を誘導する。この誘導は巡回時の制御と同様に、羽ばたき浮上装置90より受信した加速度情報、角加速度情報より算出した羽ばたき浮上装置90の位置と姿勢を用いて行なわれる。すなわち、巡回動作と同様の通信態様によって行なわれる。
羽ばたき浮上装置90が着陸地点直上に来たら、電磁石915を動作させ、羽ばたき浮上装置90をベースステーション91に吸着する。その後、継続して動作させる必要がなければ、ベースステーション91は羽ばたき浮上装置90に対し動作終了を指示する。これにより羽ばたき浮上装置90は羽ばたき動作、通信動作、センシングを終了させる。
なお、通信形態は1例であり、羽ばたき浮上装置90のセンサ情報によりベースステーション91が羽ばたき浮上装置90の行動指示を行なうのであればここで挙げたものに限られない。
また、実施の形態では、センサは連続して動作するものとしたが、ベースステーション91によりセンサ情報要求信号を受信したときのみセンサを動作させるといったように、センサの動作を、ベースステーション91からの指示により間欠的に行なう手法も可能である。
(機能分担)
本実施の形態における羽ばたき浮上装置90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担について以下に示す。
羽ばたき浮上装置90とベースステーション91は通信路を通じて情報交換可能なので、各々の機能分担はさまざまな形が可能である。たとえば、上記実施の形態のごとく、ベースステーション91の機能をすべて羽ばたき浮上装置90に収め、ベースステーション91を廃した、いわゆる、スタンドアロンタイプも可能である。しかし、羽ばたき浮上装置90に過剰な質量を搭載すると浮上が困難になる。また、羽ばたき浮上装置90が軽量である方が機敏な動きが可能になり、システム動作効率を上げることができる。つまり、一般に、情報処理の大部分はベースステーション91にて行ない、羽ばたき浮上装置90を軽量に設計することが望ましい。特に、作業空間92におけるマップデータはその作業空間の大きさ、障害物の多さに依存して大きくなる。このため、羽ばたき浮上装置90の搭載重量の増加に繋がらないメモリ912が用意されていることが望ましい。先の項で示した、赤外線放射源の位置特定なども、ベースステーション91における演算装置911にて行なえば、羽ばたき浮上装置90における制御装置4には簡素なデバイスを用いることができるため、軽量化が可能である。
上述の議論に加え、羽ばたき浮上装置90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担については、通信速度の向上が重量増加に繋がる点を考慮する必要がある。
たとえば電波を用いた通信の場合、通信速度が高速になると、キャリアとしてのエネルギの高い、高周波数の電波を用いなくてはならないため消費電力が大きくなる。このため、電源6の重量増加に繋がる。また、補償回路などを用いて信号品質を向上させなくてはならず、構成要素が増えるため、通信機能の重量増加に繋がる。総合的にはこれらのトレードオフを考慮して、実際の機能分担をデザインする必要がある。
たとえば、羽ばたきの細部、すなわち、羽根の角度α、β、θをもベースステーション91が指示する場合を考えると、一般に羽ばたき以降の周波数は数10Hz以上であるため、α、β、θの制御周波数帯域はkHzオーダである。この場合、α、β、θのデータがそれぞれ8ビットであるとして、各々1kHzで制御するには、単一の通信路で8(bit)×1(kHz)×3×2(アクチュエータの個数)=48(kbps)の通信速度が必要である。これは送信のみの速度であり、実際には受信のための帯域も必要となる。これに通信のオーバーヘッド、また、焦電型赤外線センサ53などのセンサからのデータも加わるため、100kbps程度の通信速度を持った通信方法が必要となる。
ところで、羽ばたき浮上装置90における前進や後退、左右への旋回といった基本的な動作については、各々の動作に対応した一定のパターンの羽ばたき方を用意することができる。よってこれら基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンを羽ばたき浮上装置90に内包しておき、ベースステーション91が予定経路にふさわしい基本動作を算出し、羽ばたき浮上装置90に指示し、羽ばたき浮上装置90は指示された基本動作から内包された羽ばたき方のパターンを選択するなどの手法を用いても、羽ばたき浮上装置90に所望の経路を飛行させることができる。
このように、羽ばたき浮上装置90は羽ばたき方そのものの制御に代表される高い周波数帯域の制御、ベースステーション91は経路制御に代表される低い周波数帯域での制御を受け持つ形態が、制御装置の演算量の軽減、通信経路のトラフィックス軽減の観点から望ましい。なお、これらの基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンは、テーブルとして制御装置4に用意しておくのが、処理速度、制御装置4における演算量の低減の観点から望ましい。
なお、特に制御装置4に代表される演算装置の演算能力や通信速度は今後大きく向上することが期待されるので、ここで記した羽ばたき浮上装置90とベースステーション91における情報処理の態様は、現状をもとに基本となる考えを例示したものであり、具体的な機能分担については、今後ここに記した限りではない。
(高度制御)
本実施の形態においては、高度制御により容易に異なる階への移動が行なえる。すなわち、マップデータに高さ情報を含めれば、従来の床面移動ロボット制御手法に、高さ方向の制御を加えるだけで、巡回経路の高さ変更を行なうことが可能である。すなわち、階段のマップデータに従って、たとえば、階段における鉛直下方面よりほぼ一定の鉛直方向距離を保つなどのアルゴリズムによって高さを変更しながら浮上移動することで、階段の上り下りが容易に実現できる。
当然、先に示した異なる階の移動に階段を用いるのは、異なる階を移動する手法の一例であり、これに限らない。たとえば、通風口や吹きぬけなどを用いることも可能である。
(複数の巡回について)
本実施の形態においては、単一の巡回のみを例示したが、巡回の態様についてはこれに限らない。本実施の形態に例示したような巡回行動を繰返し行なうことも可能である。
また、このような巡回方法で新たに巡回を行なうことも可能である。
また、本実施の形態においては巡回終了後、ベースステーションに帰還する行動形式を例として示したが、これは一例であり、この限りではない。たとえば、作業空間92に複数のベースステーションを配し、この間を巡回していく手法も可能である。
(エネルギ補充機構について)
当然、電源6の充電方法や形態は、軽量化と継続使用を両立させるために一般的に用いられるエネルギ補充の一形態を例示したのみで、電源として機能を満たすものであれば電源6とその充電機構の態様はここに例示した限りではない。
たとえば、羽根に金属薄膜スパッタリングによってコイルを構成し、外部から電波を与え、これをそのコイルで電力に変換、整流して電源6を充電する方法も可能である。
また、たとえば、ベースステーション91以外に充電のみを目的とする充電ステーションが存在し、そこで充電を行なうことも可能である。
また、電力以外のエネルギを用いる場合、これに適したエネルギ補充方法が必要となる。もちろん、電極としての磁性体111と充電孔914の形状は本実施の形態に示したものとは限らない。また、本実施の形態に示したように位置決めの役割を兼用していることは必須ではない。
(通信について)
本実施の形態においては、ベースステーション91は常に羽ばたき浮上装置90の情報を得てこれを制御するものとしたが、羽ばたき浮上装置90に自律的動作が可能である場合など、常にベースステーション91が羽ばたき浮上装置90を制御することは必ずしも必要ではない。
また、メモリ42に情報を一時的に保存しておくことで、ベースステーション91と羽ばたき浮上装置90の通信の頻度を下げることができる。これは後述するロボットやベースステーションが複数存在する場合など、通信路のトラフィック低減が求められる場合などに有効である。
羽ばたき浮上装置90とベースステーション91とのコネクションは、途絶する可能性を前提として設計することが望ましい。ここで、羽ばたき浮上装置90に通信路が途絶した場合の行動形式を予め組込んでおけば、コネクションが再開された際通信途絶に起因する悪影響を最小限に抑えることができる。
一例として通信路が途絶した場合、羽ばたき浮上装置90はホバリングを行なうことで浮上状態を一定に保つ機能を備えておけば、ホバリングせずに移動し続ける場合に比べて障害物に衝突する可能性が小さくなる。
また、メモリ42にある程度先の動作モデルをバッファリングしておくことで、通信路が途絶した場合でも羽ばたき浮上装置90が飛行を続けることができ、逆に、メモリ42にセンサの検出した情報をバッファリングしておき、通信路が回復した際にこれをベースステーション91がやることで、通信路が途絶している間のセンサ情報をベースステーションが得ることができる。
また、逆にこういったバッファリングを用いることで、障害物が多く電波がさえぎられやすい環境においてもより微弱な電波でロボットシステムの機能を達成することができるため、省電力化が可能であり、電源6の軽量化に繋がるため、羽ばたき浮上装置90の機動性を高めることができる。
(環境変化について)
本実施の形態においては説明の簡便のため、作業空間92における環境は変化しないものとしたが、実際の使用においては環境は変化する。主要な環境変化としての気流の発生と障害物の変化が挙げられる。なお、これらの環境変化が存在する場合はその補正手段を用意する必要がある。
気流については、羽ばたき飛行であっても一般の航空機と同様の影響を受けるため、この補正は一般的な航空機の経路計画に用いられる手法がそのまま応用可能である。
障害物の変化についても、その対処方法は従来の遠隔操作ロボットのシステムに採用されている手法がそのまま適用可能である。たとえば、光センサなどの障害物検出手段を羽ばたき浮上装置90に設け、その障害物検出データベースをベースステーション91に送信し、ベースステーション91はその情報からマップデータを更新するなどの手法が考えられる。
(作業空間とアプリケーションについて)
なお、作業空間92が複数の領域に分かれていることが考えられるが、本実施の形態におけるロボットは概ね差し渡し10cmであるため、直径10cm以上の孔があれば十分通過可能である。ところで侵入者はこの大きさの孔を通ることは不可能であるため、たとえば、オフィスのパーテーションを切りなおした場合などでも、ほとんどシステムを変更する必要がなく新たに警備を行なう領域を追加、もしくは変更することが可能である。
また、本実施の形態には屋内での侵入者検出を想定したが、これに限るものではなく、屋外での人体検出にも使用可能である。また、センサの調整によって屋内屋外での火災検出など、赤外線放射検出、すなわち温度検出を伴うアプリケーション一般に応用可能である。
(システム構成(台数について))
本実施の形態においては説明の簡便のためベースステーションは1台としたが、複数のベースステーションによって羽ばたき浮上装置90を制御することも可能である。一例として、ベースステーション91と羽ばたき浮上装置90の通信可能範囲よりも作業空間92が広い場合、作業空間92をカバーするように複数のベースステーションを設け、羽ばたき浮上装置90の制御を空間的に分担する手法が挙げられる。また、本実施の形態においては、ベースステーション91に、羽ばたき浮上装置90の制御機能と離着陸補助機能とエネルギ補充機能すなわち充電機能を統合したが、これらの機能がベースステーション91に統合されていることは必須ではない。たとえば、通信可能範囲に比べ、航続飛行距離、すなわち、外部から駆動エネルギを補充することなく飛び続けることができる距離が短い場合、1台のベースステーションがカバーする通信範囲内に、他のエネルギ補充ステーションが存在するといった形態が考えられる。
逆に、羽ばたき浮上装置90も単一である必要はなく、複数のロボットを用いた方が作業空間92の検索効率を高めることができる。たとえば、本実施の形態に示す警備目的の場合、作業空間92を羽ばたき浮上装置90Aが1回検索するのにかかる時間T1(秒)とすると、羽ばたき浮上装置90Aが検索を開始してからT1/2(秒)後に羽ばたき浮上装置90Bに検索を開始させれば作業空間92におけるある位置の検索頻度は毎秒2/T1(回)となり、2倍の頻度で検索されるため、侵入者を発見する確率が上がる。
また、羽ばたき浮上装置90同士に通信を行なわせ、複数のロボットでより広い作業範囲を確保する手法も可能である。また、ロボット同士で情報処理を分担する手法も可能である。たとえば、ベースステーション91からの情報処理を仲介するようなロボットも考えられる。
また魚群の回遊をモデルとした群行動によって、集団で巡回を行なうなど、ロボット同士、または、これにベースステーション91を含んだ形でのシステム全体としての行動を組込むことも可能である。
また、警告動作は羽ばたき浮上装置90が行なうことは必須ではなく、たとえば、ベースステーション91がこのシステムに示されていない他の警備装置を動作させてもよい。たとえば、一般的なビルにもともと火災報知が備わっているので、ベースステーション91がリレーなどを介してこれを作動させることは容易である。
また、当然、ベースステーション91の機能すべてを羽ばたき浮上装置90に内包でき、かつ、浮上が可能な重量であるならばスタンドアロンタイプとして羽ばたき浮上装置90単独での使用形態も可能である。逆に、ほとんどの情報処理をベースステーション91が担い、羽ばたき浮上装置90が制御する部位はアクチュエータのみである形態も可能である。
次に、上記ロボットの別の形態の羽ばたき浮上装置90としてのロボットについて説明する。図27(a)および図27(b)は、羽部として2本の羽軸を有する羽ばたき浮上装置を示す図である。図27(a)では、羽ばたき浮上装置の前方正面部分が示され、図27(b)では、羽ばたき浮上装置の前方正面に向かって左側面部分が示されている。
なお、図27(a)および図27(b)では羽ばたき浮上装置の前方正面に向かって左羽しか示されていないが、実際には、胴体部105の中心軸を挟んで左右対称に右羽も形成されている。また、説明を簡単にするため、胴体部105が延びる方向に沿った軸(胴体軸801)は水平面内にあり、重心を通る中心軸802は鉛直方向に保たれているとする。
図27(a)および図27(b)に示すように、羽ばたき浮上装置の胴体部105には、前羽軸103および後羽軸104と、その前羽軸103と後羽軸104との間を渡すように設けられた羽の膜106とを有する羽(左羽)が形成されている。
また、胴体部105には、前羽軸103を駆動するための回転型アクチュエータ101と後羽軸104を駆動するための回転型アクチュエータ102とが搭載されている。このようなアクチュエータ101、102の配置や前羽軸103、後羽軸104および羽の膜106を含む羽の形状は、飛行の性能が損なわれないならばこれに限られるものではない。
さらに、この羽ばたき浮上装置の場合、羽の断面形状を鉛直上方に凸となるようにしておけば、水平方向への飛行に際して抗力だけでなく揚力も発生して、より大きな浮上力が得られることになる。
また、この羽ばたき浮上装置の重心の位置は、羽ばたき浮上装置の安定性を重視するために羽が周囲の流体により受ける力のアクチュエータに対する作用点の位置よりも下方になるように設定されている。一方、羽ばたき浮上装置の姿勢を容易に変更する観点からは重心とその作用点を略一致させておくことが望ましく、この場合には、姿勢制御に必要な左右の羽が流体から受ける力の差が小さくなって、羽ばたき浮上装置の姿勢変更を容易に行なうことができる。
2つの回転型アクチュエータ101、102は互いに回転軸800を共有している。この回転軸800は胴体軸とは所定の角度(90°−θ)をなしている。前(後)羽軸103、104はアクチュエータ101、102を支点として回転軸800と直交する平面内を往復運動する。この回転軸800と直交する平面と胴体軸801とのなす角度が仰角θとなる。
胴体部105としては、機械的強度を確保するとともに、十分な軽量化を図るために、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを円筒状に成形したものが望ましいが、このような材料や形状に限定されるものではない。
アクチュエータ101、102としては、起動トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことなどから、圧電素子(ピエゾ)を用いた超音波進行波アクチュエータを用いるのが望ましい。これには、回転型アクチュエータとリニア型アクチュエータとの2つの種類がある。図27(a)および図27(b)では、回転型アクチュエータが用いられている。
ここでは、進行波を用いた超音波素子によって羽を直接駆動する方法を中心に説明するが、この羽を駆動するための機構や、それに用いるアクチュエータの種類については特に本実施の形態に示したものに限られない。
回転型アクチュエータとしては、図27(a)(b)に示された回転型アクチュエータ101、102の他に、たとえば図37に示される回転型アクチュエータ401を用いてもよい。
図37に示された羽ばたき浮上装置では、胴体部404に搭載された回転型アクチュエータ401に羽403が取付けられている。羽403は回転型アクチュエータ401の回転軸402を中心として往復運動をする。
また、羽を駆動するための機構としては、特開平5−1695675号公報に記載されているような外骨格構造とリニアアクチュエータを組合わせた機構を適用して、たとえば図38または図39に示すような羽ばたき浮上装置を構成してもよい。
図38に示された羽ばたき浮上装置では、リニアアクチュエータ501の一端に、前羽軸または後羽軸503が接続されている。胴体部504に装着されたヒンジ502を介してリニアアクチュエータ501の運動が前羽軸または後羽軸503に伝えられることで羽ばたき運動が行なわれる。この羽ばたき運動は、羽を直接筋肉で駆動するトンボの羽ばたき運動にヒントを得たものである。
図39に示された羽ばたき浮上装置では、胴体部は上面胴体部603と下面胴体部604に分けられている。下面胴体部604に固定されたリニアアクチュエータ601の運動が上面胴体部603に伝えられる。そして、その上面胴体部603の運動がヒンジ602を介して前羽軸または後羽軸603に伝えられることで羽ばたき運動が行なわれる。この羽ばたき運動は、トンボ以外のハチなどが用いている羽ばたき運動にヒントを得たものである。
図39に示す羽ばたき浮上装置の場合、1つのアクチュエータ601によって左右の羽軸603が同時に駆動されるため、左右の羽軸を別々に駆動することができず、細かな飛行制御を行なうことはできないが、アクチュエータの数を減らすことができて、軽量化および消費電力の低減を図ることが可能である。
さて、図27(a)および図27(b)に示された羽ばたき浮上装置では、回転型アクチュエータ101、102には前羽軸103と後羽軸104とがそれぞれ接続されている。前羽軸103と後羽軸104と間には羽の膜106が張られている。羽の膜106はその面内において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽全体の剛性を高める働きをしている。
軽量化のため前羽軸103と後羽軸104は中空構造であり、それぞれカーボングラファイトから形成されている。このため、前羽軸103と後羽軸104には弾力性があり、前羽軸103と後羽軸104とは羽の膜106の張力により変形可能である。
図40は本羽ばたき浮上装置の全体の構造を示す図である。なお、前方方向(紙面に向かって上)に向かって左側の羽は省略されている。
胴体部700には、超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703および角加速度センサ704が配されている。これらのセンサによる検出結果は羽ばたき制御部705に送られる。羽ばたき制御部705では、超音波センサ701や赤外線センサ702によって検出された結果から羽ばたき浮上装置と周囲の障害物や人間との距離などが情報が処理される。また、加速度センサ703や角加速度センサ704によって検知された結果から、羽ばたき浮上装置の浮上状態、目的位置または姿勢などの情報が処理処理されて、左右のアクチュエータ706および重心制御部707の駆動制御が決定される。
なお、ここでは、本羽ばたき浮上装置の周囲に存在する障害物を検出する手段として超音波センサ701および赤外線センサ702を用い、本羽ばたき浮上装置の位置および姿勢を検出する手段として加速度センサ703および角加速度センサ704を用いたが、本羽ばたき浮上装置の周囲環境や位置と姿勢が計測可能なセンサであれば、上記センサに限られない。
たとえば、直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサ2つをそれぞれ胴体部700の異なる位置に配して得られる加速度情報からも、本羽ばたき浮上装置の姿勢を算出することは可能である。また、本羽ばたき浮上装置が移動する空間内に磁場分布を設けておき、磁気センサによってこの磁場分布を検知することで本羽ばたき浮上装置の位置と姿勢を算出することも可能である。
また、図40では、加速度センサ703および角加速度センサ704をはじめとするセンサ類は、羽ばたき制御部705とは別部品として示されているが、軽量化の観点から、たとえばマイクロマシニング技術により羽ばたき制御部705と一体で同一基板上に形成してもよい。
また、本羽ばたき浮上装置では羽の駆動をオープンループ制御としているが、羽の付け根に羽の角度センサを設け、この角度センサから得られる角度情報によりクローズドループ制御を行なうことも可能である。
なお、浮上する空間における流体の流れが既知であり、予め定められた羽ばたき方法によって浮上することが可能ならば、ここに挙げたセンサ類は必須ではない。
羽ばたき制御部705はメモリ部708と接続されており、羽ばたき制御に必要な既存のデータをメモリ部708から読出すことができる。また、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に送込み、必要に応じてメモリ部708の情報を書換えることもでき、羽ばたき浮上装置として学習機能を持たせることができる。
なお、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に蓄積するだけであれば、羽ばたき制御部705を介さずにメモリ部708と各センサ701〜704とが直接接続されていてもよい。また、羽ばたき制御部705は通信制御部709と接続されて、通信制御部709とデータの入出力を行なうことができる。通信制御部709は、アンテナ部710を介して外部の装置(他の羽ばたき浮上装置やベースステーションなど)とのデータの送受信を行なう。
このような通信機能により、羽ばたき浮上装置が取得してメモリ部708に蓄えられたデータを速やかに外部の装置に転送することができる。また、羽ばたき浮上装置では入手できない情報を外部の装置から受取り、そのような情報をメモリ部708に蓄積することで、羽ばたきの制御に利用することもできる。たとえば、大きなマップ情報のすべてを羽ばたき浮上装置に記憶さなくても、随時、必要な範囲のマップ情報をベースステーションなどから入手することなどが可能となる。
なお、図40では、アンテナ部710は胴体部700の端から突き出た棒状のものとして示されているが、アンテナの機能を有するものであれば、形状、配置などこれに限られない。たとえば、前羽軸712や後羽軸713を利用して、羽の上にループ状のアンテナを形成してもよい。また、胴体部700にアンテナを内蔵した形態でも、あるいは、アンテナと通信制御部709とを一体化させた形態でもよい。
超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703、角加速度センサ704、羽ばたき制御部705、左右のアクチュエータ706、重心制御部707、メモリ部708、通信制御部709およびアンテナ部710などは、電源部711により供給される電流によって駆動される。
ここでは、駆動エネルギーとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。また、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応を用いたアクチュエータを用いることも可能である。あるいは、アクチュエータの駆動エネルギーを外部から取得する方法も採用できる。たとえば、電力については熱電素子、電磁波などが挙げられる。
(浮上方法)
説明の簡便のため、本羽ばたき浮上装置に作用する外力は、羽が流体から受ける流体力と羽ばたき浮上装置に作用する重力(羽ばたき浮上装置の質量と重力加速度との積)のみであるとする。本羽ばたき浮上装置が恒常的に浮上するためには1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、次の関係、
(羽に作用する鉛直上方向の流体力)>(本羽ばたき浮上装置に作用する重力)
を満たすことが必要とされる。1回の羽ばたき動作とは、羽を打ち下ろし次に羽を打ち上げる動作をいう。
さらに、鉛直上向きの流体力を卓越させて上昇させるためには、
(打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力)>(打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力)
となる必要がある。
ここでは、昆虫の羽ばたき方を単純化した羽ばたき方法により、打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力(以下「打ち下ろし時の流体力」と記す。)を、打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力(以下「打ち上げ時の流体力」と記す。)より大きくする方法について説明する。
説明の簡便のため、流体の挙動もしくは流体が羽に及ぼす力については、その主要成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方法により得られる浮上力と、本羽ばたき浮上装置に作用する重力(以下「重量」と記す。)の大小については後述する。
打ち下ろし時の流体力を打ち上げ時の流体力よりも大きくするためには、打ち下ろし時に羽の膜106が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせばよい。そのためには、羽の膜106を水平面と略平行に打ち下ろせばよく、これにより、ほぼ最大の流体力を得ることができる。
反対に、打ち上げ時には羽の膜106が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げればよい。そのためには、羽の膜106を水平面に対して略直角に近い角度で打ち上げればよく、これにより、羽に及ぼされる流体力はほぼ最小となる。
そこで、回転型アクチュエータ101、102により回転軸800の周りに両羽軸103、104を往復運動させる際に、各羽軸103、104が水平面と略一致する位置を中心として上方と下方とにそれぞれ角度γだけ往復運動させるとする。さらに、図28に示すように、前羽軸103の往復運動に対して後羽軸104の往復運動を適当な位相φだけ遅れさせる。
これにより、図29〜図36(ここではφ=20°として描いた)に示す一連の羽の往復運動のうち、図29〜図33に示された打ち下ろし時においては、より高い位置にある回転型アクチュエータ301の前羽軸303が先に打ち下ろされるため、前羽軸303および後羽軸304の先端と羽の膜306が水平に近づく。
一方、図33〜図36に示された打ち上げ時においては、両羽軸103、104の先端の高さの差が拡大されて、羽の膜306も垂直に近づく。この結果、前羽軸303と後羽軸304に張られた羽の膜106が流体を押し下げ、あるいは、押し上げる量に差異が生じ、この羽ばたき浮上装置の場合には、打ち下ろし時の流体力の方が打ち上げ時の流体力よりも大きくなって浮上力が得られることになる。
この浮上力のベクトルは、位相差φを変化させることにより前後に傾く。前方に傾けば推進運動、後方に傾けば後退運動、真上に向けば停空飛翔(ホバリング)状態となる。なお、実際の飛行では、位相差φ以外にも、羽ばたき周波数fや羽ばたき角γを制御することが可能である。また、この羽ばたき浮上装置では、羽ばたき仰角θを固定しているが、これを変化させる機能を追加して、自由度を増やしても構わない。
(羽ばたき制御)
実際の羽ばたき制御についてさらに詳細に説明する。上述した羽ばたき浮上装置では、打ち下ろし動作または打ち上げ動作の際に、羽の先端部がなす捻り角αは、羽の長さ(羽の膜の前羽軸および後羽軸に沿った長さ)をl、羽の幅(前羽軸と後羽軸の間隔)をw、羽ばたき角をγ、羽ばたき運動の位相をτ(最も打ち上げた瞬間を0°、最も打ち下ろした瞬間を180°とする)、前羽軸と後羽軸の位相差をφとすれば(図29、31、32を参照)、およそ以下の式で表わされる。
tanα=(w/l)・〔sin(γ・cosτ)−sin{γ・cos(τ+φ)}〕
実際には、前羽軸や後羽軸には弾性があり変形可能であるので、この捻り角αは多少違った値をとる。また、羽軸の根元ほどこの角度は小さい。しかし、以下の議論では簡便のため、上の式のαを用いて説明する。
捻りを加えていない羽に作用する流体力の鉛直方向成分Fは、流体の密度をρ、羽ばたき角度をγ、羽ばたき周波数をfとして、およそ
F=(4/3)・π2ρwγ2f2l3・sin2τ・cos(γ・cosτ)
となる。なお、羽に作用する流体力の水平方向成分は、左右の羽が同じ運動をすれば互いに打ち消し合うことになる。
羽に捻り角αをもたせると、上記成分Fの羽ばたき運動平面に垂直な成分Lと、水平な成分Dはそれぞれ次のようになる。
L=F・cosα・sinα
D=F・cos2α
これに、羽ばたき仰角θを考慮すると、重量と釣り合うべき鉛直方向の成分Aと、前後運動の推力となる水平方向成分Jは、打ち下ろし時では、
A↓=−L・cosθ+D・sinθ
J↓=−L・sinθ−D・cosθ
打ち上げ時では、
A↑=L・cosθ−D・sinθ
J↑=L・sinθ+D・cosθ
となる。実際の浮力や推進力は、羽ばたき運動の1周期分を積分したものとなる。
以上より、この飛行制御の一例として、羽ばたき浮上装置の羽の長さl=4cm、羽の幅w=1cm、羽ばたき仰角θ=30°、羽ばたき角γ=60°、羽ばたき周波数f=50Hz、打ち下ろし時の位相差φ↓=4°、打ち上げ時の位相差φ↑=16°とした場合における鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図41に示す。
横軸は1周期分の時間が位相τとして表わされている。前半が打ち下ろし、後半が打ち上げを示している。各グラフの曲線は前羽軸の羽ばたき角γf、後羽軸の羽ばたき角γb、水平面からの羽の捻り角(α+θ)、流体力の鉛直方向成分Aおよび水平方向成分Jの時間変化をそれぞれ示している。
この例では、単位時間当りの流体力の鉛直方向成分Aにおいては打ち下ろし時の方が打ち上げ時よりも大きいため、1周期の平均で約500dynの鉛直上向きの流体力が1枚の羽で得られる。したがって、2枚の羽では羽ばたき浮上装置の重量が約1g以下であれば浮上することができることになる。また、単位時間当りの流体力の水平方向成分Jは、1周期の間にほぼ打ち消されるため、重量1g程度の羽ばたき浮上装置であればホバリング可能となる。
ここで、打ち下ろし時の位相差φ↓を大きく、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を小さくすれば、前進することができる。このとき、水平に前進させるためには、周波数fを少し小さくするのが望ましい。逆に、打ち下ろし時の位相差φ↓を小さくし、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を大きくすれば後退することができる。このとき、水平に後退させるためには、周波数fを少し大きくすることが望ましい。
この羽ばたき浮上装置では、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を7°と大きくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を11°と小さくし、そして、羽ばたき周波数f=48Hzに下げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に前進することができる。
また、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を1°と小さくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を24°と大きくし、そして、羽ばたき周波数f=54Hzに上げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に後退することができる。
ホバリング状態のまま、羽ばたき浮上装置を上昇または下降させるためには、周波数fを上げるかまたは下げるかすればよい。水平飛行中でも、上昇と下降については、主に周波数fによって制御が可能である。周波数fを上げることで羽ばたき浮上装置は上昇し、周波数を下げることで羽ばたき浮上装置は下降する。
この例では、打ち上げ動作中もしくは打ち下ろし動作中にも、羽の捻り角αをゆっくり変化させているが、これは、アクチュエータへの負荷を減らすためである。浮力を得るための羽ばたき運動としては、打ち上げ動作中や打ち下ろし動作中は羽の捻り角αを一定の値に設定して、打ち下ろし動作から打ち上げ動作、もしくは、打ち上げ動作から打ち下ろし動作への変化点において捻り角αを急激に変化させるようにしてもよい。
羽ばたき仰角θ=0°とした場合の鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図42に示す。この場合は、ハチドリのホバリングにヒントを得た羽ばたき運動である。なお、左右への舵取りは、左右の羽の羽ばたき運動を別々に制御できる場合、それぞれの羽による推力に差を持たせればよい。たとえば、前方へ飛行中に右方向へ旋回するには、右羽の羽ばたき角γを左羽よりも小さくする、または、右羽の前羽軸と後羽軸の位相差を、左羽より大きくする、あるいは、羽ばたき仰角θが制御できるような場合には、右羽のθを左羽よりも小さくするといった制御を行なう。これにより、右羽の推進力が左羽の推進力に比べて相対的に下がり右に旋回することができる。羽ばたき浮上装置を左へ旋回させる場合には、その逆の制御を行なえばよい。
一方、図39に示された羽ばたき浮上装置のように、左右の羽を別々に制御することができないような場合には、図40に示された羽ばたき浮上装置に搭載されているような重心制御部707をこの羽ばたき浮上装置に搭載して、羽ばたき浮上装置の重心を左右にずらすことで左右への旋回を行なうことができる。
たとえば、重心を右にずらして右羽を下方へ左羽を上方へ傾け、そして、周波数fを大きくすることで、羽ばたき浮上装置を右へ旋回させることができる。重心を左にずらして、同様に、周波数fを大きくすることで、羽ばたき浮上装置を左に旋回させることができる。なお、この方法は2つの羽を別々に制御することができる場合にも適用することができる。また、いずれの羽ばたき浮上装置においても、姿勢の安定を保つために、左右のそれぞれの羽ばたきの周波数fを同じ値に設定しておくことが望ましい。
最後に、本実施の形態のロボットシステムに用いられる羽ばたき浮上装置の構成およびその効果をまとめて記載しておく。
本実施の形態の羽ばたき浮上装置は、流体が存在する空間を羽ばたくための羽部と駆動部と胴体部とを含む浮上本体部を備えている。駆動部は、羽部を上方から下方に向かって打ち下ろす打ち下ろし動作と、羽部を下方から上方に向かって打ち上げる打ち上げ動作とを行なう。胴体部には羽部が取付けられ、駆動部が搭載される。そして、一連の打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなる。
この構造によれば、羽部の羽ばたき動作において打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなることで、浮上本体部に浮力が与えられることになる。その結果、浮上本体部は地面に接することなく移動することができる。
浮上本体部に浮力を与えるためには、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積は打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きいことが望ましく、たとえば、浮力と浮上本体部に作用する重力とを釣り合わせることで地面から離れた状態で空間に留まる停空飛翔(ホバリング)も可能になる。
具体的に、羽部は羽本体部と羽本体部を支持する羽軸部とを有し、駆動部は、羽軸部を駆動させることにより羽本体部の先端部と仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
また、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積を打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きくするために、駆動部は打ち下ろし動作における捻り角と打ち上げ動作における捻り角とを異ならせる必要がある。
さらに、駆動部は捻り角を時間的に変化させることが望ましい。
この場合には、羽部の姿勢を滑らかに変化させることができて、羽部に急激に流体力が作用するのを抑制することができる。
また、羽軸部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを含み、羽本体部は一方側羽軸部と他方側羽軸部との間を渡すように形成された膜部を含み、駆動部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることが望ましい。
この場合、一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることで、捻り角を容易に変えることができる。
そして、羽軸部は駆動部を支点として仮想の一平面上を往復運動し、胴体部は一方向に向かって延び、胴体部が延びる方向と仮想の一平面とがなす仰角が変えられることが望ましい。
この場合には、羽ばたき運動の自由度が増えて、より複雑な羽ばたき運動を実現することができる。また、この仰角をより大きくし捻り角を制御することで、より高速な飛行を行なうことができる。さらに、この仰角を実質的に0°にすることで、機動性に優れハチドリのようなホバリングを行なうことができる。
また具体的に、羽部は主軸部とその主軸部から主軸部が延びる方向と略直交する方向に形成された羽本体部とを有し、駆動部は主軸部を駆動させることにより羽本体部に接する仮想の一平面と主軸部を含む仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
このような主軸部にて羽部の姿勢を変えるためには、駆動部は少なくとも3自由度を有するアクチュエータを含んでいることが望ましい。
また、羽部は胴体部の略中心を挟んで一方側と他方側とにそれぞれ形成され、駆動部は一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部とを個々に駆動させることが望ましい。
この場合には、一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部の姿勢を個々に変化させることができて、容易に浮上本体部の向きを変えることができる。
さらに、周囲の状況を把握するためのセンサ部、情報を記憶するためのメモリ部、あるいは、情報を送受信するための通信部を備えていることが望ましい。
センサ部を備えることで、浮上本体部の位置や姿勢、速度、周囲の障害物の位置や移動速度、温度や明るさなどの環境情報を入手し、より適切な羽ばたき制御を行なうことができる。また、メモリ部を備えることで、得られた環境情報を蓄積することができて、浮上本体部に学習機能をもたせることができる。さらに、通信部を備えていることで、複数の浮上本体部とベースステーションとの間で情報のやり取りを行なうことができ、取得した情報を交換することで複数の浮上本体部間で協調行動などを容易に行なうことができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
90 羽ばたき浮上装置、111 磁性体、120 離着陸台、121 電磁石、122 制御装置、123 力センサ、124 距離センサ、131 ガイド、140 ガイドレール、141 拘束部、142 テーパ部。