JP3989707B2 - ロボットシステム、それに用いられる羽ばたき装置および羽ばたき飛行制御装置 - Google Patents
ロボットシステム、それに用いられる羽ばたき装置および羽ばたき飛行制御装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロボットシステムに関し、特に、羽の打ち上げ動作と打ち下ろし動作によって流体中を羽ばたき飛行する羽ばたき装置を用いたロボットシステム、それに用いられる羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、人間の生活環境において活動するロボットが求められている。たとえば、ロボットシステムの一例として、第14回日本ロボット学会学術講演会、予稿集、講演番号1M1−5−7においては、赤外線による火災もしくは侵入者検出センサをはじめ、種々の警備目的のセンサを搭載した、オフィス警備のロボットが発表されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、家庭内やオフィスなどにおいて、従来のロボットでは、車輪を用いて移動するものは障害物を避けて自由に移動することができず、十分な機動性を有していなかったため、警備できる範囲が限られていた。以下その例を説明する。
【0004】
たとえば、上述の警備ロボットは、移動機構として直径約40cmの車輪を用いている。このため、ロボット本体の幅、奥行ともに60cm程度のサイズであり、回転にはおおむね直径1mのスペースが必要である。しかし、これだけのサイズのロボットであっても、実際に乗り越えられる段差は10cm程度である。すなわち、半径50cm以内に10cm以上の段差が存在しない領域しか警備できず、用途はオフィスの廊下に限定されるという欠点があった。当然、オフィスの廊下のみしか警備ができないために、窓などからオフィスの居室に入り込んだ侵入者を発見できないという問題を伴う。
【0005】
また、重力が100kgを超えるために、衝突、転倒などの際の安全上の制約等から、最大速度が0.5m/sec止まりであり、機動性に乏しく、巡回効率が非常に悪いという問題もあった。しかし、軽量化と小回りの良さを目的として車輪を小さくすると、電気のコードや、部屋と部屋、部屋と廊下の間の数cm程度の段差が乗り越えられなくなってしまう。すなわち、従来のロボットでは、段差を乗り越えられる程度の大きさの車輪を有するロボットは大型で小回りのきかないものにならざるを得ず、障害物を避けてオフィスの居室を警備することは、こういった従来のロボットには不可能であった。
【0006】
また、この警備ロボットは車輪を用いた移動のため、異なる階を警備するための移動にはエレベータが必要で、かつ、ロボットがエレベータを操作できる機構をエレベータに付加する必要があった。さらに、オフィスの居室までを警備させようとすると、ロボットがオフィスのドアロックを操作できる機構をドアに付加する必要があった。このため、安価に簡便に導入することは不可能であった。
【0007】
すなわち、従来提案されてきた警備ロボットは、導入に非常にコストがかかる上に、多大なコストを払って導入したとしても、ロボットが警備可能な範囲が、たとえば、オフィスの廊下といった領域に限られてしまい、結局、コストに見合ったメリットが得られないというのが実情であった。
【0008】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、障害物の多い環境においても障害物に制約されることなく移動させることができる装置を用いたロボットシステム、それに用いられる羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置を提供することである。
【0009】
また、上記の羽ばたき装置においては、動作音が大きく、筐体も大きいため、侵入者から発見されやすく、侵入者の情報をロボットがカメラなどを用いて得ることができる範囲に侵入者が入らないうちに侵入者がロボットを認識してしまうため、ロボットの警備範囲を避けながら、侵入者がその目的を果たすことを可能にしてしまうという問題があることが分かった。
【0010】
本発明は、さらに前述の問題を解決するためになされたものであり、他の目的は、静かに浮上することができる羽ばたき装置を備えたロボットシステム、それに用いられる羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のロボットシステム(ロボットの制御方法)は、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行する(ステップ1)ための羽ばたき装置と、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得する(ステップ2)ための羽ばたき関連物理量取得手段と、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様を制御する(ステップ3)羽ばたき飛行制御装置とを備え、羽ばたき飛行制御装置が、羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報を利用して、羽ばたき飛行の態様を制御する(ステップ4)。
【0012】
上記のような構成によれば、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置をロボットに用いれば、ロボットを障害物の多い環境においても障害物に制約されることなく移動させることができる。
本発明のロボットシステムは、羽音によって羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における羽ばたき装置と人体と間の距離をL、羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数をf、羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L) 2 となる範囲の周波数fで、羽ばたき装置が羽ばたき運動を行なうように設定されている。このように構成することにより、羽ばたき音によって、人に気づかれてしまうことを抑制することができる。
【0013】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき飛行制御装置が、羽ばたき装置の外部に設けられ、羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置であってもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置の重量を軽減することができる。
【0014】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき関連物理量取得手段が羽ばたき装置に設けられていてもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置がいかなる場所にある場合も羽ばたき関連物理量を取得することができる。
【0015】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき関連物理量取得手段が羽ばたき装置および羽ばたき飛行制御装置の外部に設けられていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、羽ばたき装置の重量を軽減できるとともに、羽ばたき制御装置では羽ばたき装置を監視できないような位置においても羽ばたき関連物理量を取得することができる。
【0017】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき関連物量取得手段が羽ばたき飛行制御装置に設けられていてもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置の重量を軽減できるとともに、羽ばたき飛行制御装置および羽ばたき装置のみでシステムを構成することが可能となる。
【0018】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき飛行制御装置が羽ばたき関連物理量が変更されるように羽ばたき装置を制御するための物理量変更手段を含んでいる。このような構成にすることにより、羽ばたき飛行制御装置で直接羽ばたき関連物理量を制御することができる。
【0019】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき関連物理量以外に、羽ばたき装置の周辺における物理量を取得するための周辺物理量取得手段をさらに備え、羽ばたき飛行制御装置が、周辺物理量取得手段により得られた物理量の情報を利用して、羽ばたき装置を制御する。このような構成にすることにより、羽ばたき装置の飛行経路の周辺の物理量を取得して、それに基づいた対処を行なうことができる。
【0020】
本発明のロボットシステムは、周辺物理量取得手段が羽ばたき装置に設けられていてもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置がいかなる場所にある場合も周辺物理量を取得することができる。
【0021】
本発明のロボットシステムは、周辺物理量取得手段が羽ばたき装置および羽ばたき飛行制御装置の外部に設けられていてもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置の重量を軽減できるとともに、羽ばたき制御装置では羽ばたき装置を監視できないような位置においても羽ばたき関連物理量を取得することができる。
【0022】
本発明のロボットシステムは、周辺物理量取得手段が羽ばたき飛行制御装置に設けられていてもよい。このような構成によれば、羽ばたき装置の重量を軽減できるとともに、羽ばたき飛行制御装置および羽ばたき装置のみで周辺物理量を取得することが可能となる。
【0023】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、周辺物理量検出手段が人体の検出が可能な人体検出手段を含み、人体検出手段が羽ばたき飛行中において人体の検出を行なうように設定されている。このような構成にすることにより、飛行した空間のすべてにおいて人体検出を行なうことができる。
【0024】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、人体検出手段が床面近傍の人体検出が可能に構成されている。このような構成にすることにより、より確実に人体検出を行なうことができる。
【0025】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、人体に対して警告をすることが可能な警告手段を含み、羽ばたき装置自身が人体検出手段を用いて人体を検出可能な位置に存在するように、人体検出手段により検出された人体の移動に伴って羽ばたき飛行しながら、対人警告手段により対人警告を行なうように設定されている。このような構成にすることにより、対人警告をより効果的に行なうことができる。
【0027】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、羽ばたき運動をする羽部を含み、羽部の少なくとも一部が保護色または透明である。このように構成することにより、極力人に発見され難いようにすることができる。
【0028】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、羽ばたき運動をする羽部を含み、羽部の膜面に垂直に羽を動かすことで浮上力を得るように構成されている。これにより、羽部の先端に発生するカルマン渦の発生を抑制することができるため、風切音が小さくなるので、人に気づかれないように静かに羽ばたくことが可能となる。
【0029】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、所定の作業空間における羽ばたき装置の位置情報を算出するための位置情報算出手段を備え、羽ばたき飛行制御装置が、位置情報算出手段により算出された羽ばたき装置の位置情報を利用して、羽ばたき装置の実際の位置を変更する位置変更制御を行なう。このような構成にすることにより、作業空間をより確実に決められた経路を飛行することができる。
【0030】
本発明のロボットシステムは、特定の空間における障害物に関する情報を記憶する障害物記情報憶手段を備え、羽ばたき飛行制御装置が、障害物情報記憶手段に記憶された障害物に関する情報を利用して、羽ばたき装置を、障害物を回避可能な位置に移動させる回避制御が可能である。このような構成にすることにより、予め分かっている特定の空間における障害物をより確実に回避することができる。
【0031】
本発明のロボットシステムは、物理量取得手段が物理量を取得可能である物理量取得領域が、羽ばたき装置の鉛直方向下側に位置する。このような構成にすることにより、床面近傍に障害物が多数ある領域においては、上空から物理量を取得することができる。
【0032】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき関連物理量取得手段が羽ばたき飛行しながら羽ばたき関連物理量を取得するように設定されている。このような構成にすることにより、飛行した空間のすべてにおいて羽ばたき関連物理量を取得することができる。
【0033】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、羽ばたき飛行のモデル動作の情報を予め記憶する飛行モデル動作情報記憶手段を含み、羽ばたき飛行制御手段による制御が不能となった場合に、飛行モデル動作情報記憶手段に記憶されたモデル動作の情報を利用して羽ばたき飛行を継続する。このような構成にすることにより、羽ばたき飛行制御手段による制御が不能となった場合においても、落下することなく飛行することができる。
【0034】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、羽ばたき飛行制御装置による羽ばたき飛行の制御が不能となった制御不能状態において、制御不能状態における羽ばたき関連物理量を記憶する羽ばたき関連物理量記憶手段を含み、制御不能状態から羽ばたき飛行制御装置による制御が可能な制御可能状態に戻った場合に、羽ばたき関連物理量記憶手段に記憶された羽ばたき関連物理量を羽ばたき飛行制御装置に送信する。このような構成にすることにより、制御不能状態中の羽ばたき関連物理量についても羽ばたき飛行制御装置で把握することができる。
【0035】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が、羽ばたき飛行制御装置による羽ばたき飛行の制御が不能となった制御不能状態において、制御不能状態における周辺物理量を記憶する周辺物理量記憶手段を含み、制御不能状態から羽ばたき飛行制御装置による制御が可能な制御可能状態に戻った場合に、周辺物理量記憶手段に記憶された周辺物理量を羽ばたき飛行制御装置に送信する。このような構成にすることにより、制御不能状態中の周辺物理量についても羽ばたき飛行制御装置で把握することができる。
【0036】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき飛行制御装置が、羽ばたき装置の位置および姿勢のうち少なくともいずれか一方を決定する位置姿勢決定手段と、位置姿勢決定手段により決定された羽ばたき装置の位置の情報および姿勢の情報のうち少なくともいずれか一方を羽ばたき装置に送信する位置姿勢情報送信手段とを含み、羽ばたき装置が、位置姿勢情報送信手段から送信されてきた羽ばたき装置の位置の情報および姿勢の情報のうち少なくともいずれか一方に基づいて、決定された位置および決定された姿勢のうち少なくともいずれか一方を実現するための羽ばたき飛行の動作を決定する羽ばたき飛行動作決定手段を含んでいる。このような構成によれば、羽ばたき装置は羽ばたき飛行の動作を決定するだけでよいため、羽ばたき装置の制御負担を軽減することができる。
【0037】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき飛行を行なう作業空間における対象物に関するマップデータを予め記憶しておくマップデータ記憶手段をさらに備えている。このような構成によれば、羽ばたき飛行を行なう作業空間における対象物に関するマップデータに対応して羽ばたき飛行を行なうことが可能となる。
【0038】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置の外部にマップデータ記憶手段を備えている。このような構成にすることにより、羽ばたき装置の重量を軽減することができる。
【0039】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき飛行している作業空間における対象物のマッピングを行うためのマッピング手段と、マッピング手段によりマッピングされたマッピングデータを記憶するためのマッピングデータ記憶手段とを含み、予めマップデータ記憶手段に記憶されたマップデータと、羽ばたき飛行中にマッピングデータ記憶手段に記憶されたマッピングデータと比較することにより、対象物の検出を行なう。このような構成にすることにより、簡単に対象物を検出することができる。
【0040】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が人体が通過不可能であると予め定められた隙間を通過可能なサイズに構成されている。このような構成にすることにより、人体が通過不可能であると思われる隙間を通過して羽ばたき飛行する必要がある場合に、システムを有効に機能させることができる。
【0041】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が人が通路としないと予め定められた経路を羽ばたき飛行するように設定されている。このような構成にすることにより、人が通路としないと思われる経路を羽ばたき飛行する必要がある場合に、システムを有効に機能させることができる。
【0042】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が予め定められた基準値より高い空間において羽ばたき飛行するように設定されている。このような構成にすることにより、作業空間内において、障害物が多いと考えられる高さ以下の低い位置を羽ばたき飛行しないようにすれば、障害物に接触するおそれを低減することができる。
【0043】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置が複数設けられ、複数の羽ばたき装置それぞれは、予め定められた作業空間を分担して作業を行なうように設定されている。このような構成にすることにより、作業空間全体を効率的に羽ばたき飛行させることができる。
【0044】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき飛行制御装置が複数設けられ、複数の羽ばたき飛行制御装置それぞれは、羽ばたき装置が作業する作業空間を予め分割して、分割されたそれぞれの作業空間において羽ばたき装置を制御するように設定されている。このような構成にすることにより、羽ばたき飛行制御装置と羽ばたき装置との最大通信距離が短い場合にも、広い範囲の作業空間を羽ばたき飛行することができる。
【0045】
本発明のロボットシステムは、より好ましくは、羽ばたき装置の外部に、羽ばたき装置の駆動に必要なエネルギを補充可能なエネルギ補充手段をさらに備えている。このような構成にすることにより、羽ばたき装置はエネルギ蓄積手段を小さくすることができるため、羽ばたき装置の重量を軽減することができる。
【0046】
本発明の羽ばたき装置は、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置であって、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得するための羽ばたき関連物理量取得手段と、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様を制御する羽ばたき飛行制御を実行する羽ばたき飛行制御装置とを備えたロボットシステムにおいて用いられ、羽ばたき飛行制御装置が、羽ばたき装置の外部に設けられ、羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置であり、遠隔制御装置によって、羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報が利用されて、羽ばたき飛行の態様が制御される。また、羽ばたき装置は、羽音によって前記羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における前記羽ばたき装置と人体と間の距離をL、前記羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、前記羽ばたき装置の羽ばたき周波数をf、前記羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L) 2 となる範囲の周波数fで、前記羽ばたき運動を行なうように設定されている。
【0047】
上記のような構成によれば、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置をロボットに用いれば、ロボットを障害物の多い環境においても障害物に制約されることなく移動させることができる。
【0048】
本発明の羽ばたき飛行制御装置は、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様を制御する羽ばたき飛行制御装置であって、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得するための羽ばたき関連物理量取得手段を備えたロボットシステムにおいて用いられ、羽ばたき装置の外部に設けられ、羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置として機能し、羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報を利用して、羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様を制御する。また、羽ばたき飛行制御装置は、羽音によって羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における羽ばたき装置と人体と間の距離をL、羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、羽ばたき装置の羽ばたき周波数をf、羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L) 2 となる範囲の周波数fで、羽ばたき装置に羽ばたき運動を行なわせるように設定されている。
【0049】
上記のような構成によれば、羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置をロボットに用いれば、ロボットを障害物の多い環境においても障害物に制約されることなく移動させることができる。
【0052】
また、浮上移動装置は、より好ましくは、空間内の所定の位置および高度に停位することが可能である。
【0053】
また、浮上移動制御装置は、浮上移動装置の外部に設けられ、人為的に浮上移動装置の浮上移動を制御することが可能に構成されていることが望ましい。
【0054】
なお、コンピュータに、前述のロボットシステム、羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置それぞれを動作させるためのプログラムそれぞれが実行されて、ロボットシステム、羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置それぞれが機能する。なお、このプログラムは、CD−ROMなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録されていているものがロボットシステム、羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置それぞれに読込まれてもよいとともに、インターネットなどの情報伝達網からインストールされてロボットシステム、羽ばたき装置、および、羽ばたき飛行制御装置それぞれに読込まれてもよい。
【0055】
【発明の実施の形態】
以下、本実施の形態の実施の形態に係るロボットシステムを、警備ロボットシステムを例にして説明する。
【0056】
(システム構成)
まず、本実施の形態におけるシステムの構成を、図1を用いて説明する。
【0057】
本実施の形態におけるシステムは、作業空間92と、作業空間92に配置され、この空間内を浮上移動することができ、この空間内における物理量を取得もしくは変更できるロボット90と、このロボット90と情報を交換できるベースステーション91とからなる。
【0058】
より具体的には、ロボット90とベースステーション91とにより、ロボット90に搭載された赤外線センサによって赤外線量を取得することによって、侵入者93を検出し、検出された侵入者93に対して発光ダイオード8を用いて可視光を照射することによって侵入者93に警告を発する。
【0059】
(ロボットの説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、ロボット90の主要な構成について図2を用いて説明する。
【0060】
図2に示すように、ロボット90は支持構造1を主構造とし、これに各構成部品が配されている。支持行動1の上部には、右アクチュエータ21と左アクチュエータ22とが固定されている。右アクチュエータ21には右羽31が取付けられ、左アクチュエータ22には左羽32が取付けられている。また、下部に電極61が配されている。
【0061】
各アクチュエータ21,22はそれぞれ取付けられた羽31,32をアクチュエータの支点をほぼ中心として3自由度をもって回転させることができる。各アクチュエータ21,22の回転は、支持構造1に搭載された制御回路4によって制御される。各アクチュエータの詳細な構造については後述する。
【0062】
なお、図2の状態におけるロボット90の重心Oは、左右アクチュエータ21,22の回転中心の中点A0よりも鉛直下方にある。
【0063】
また、支持構造1には、加速度センサ51、角加速度センサ52、および、焦電型赤外線センサ53が搭載されている。
【0064】
また、支持構造1には通信装置7が配されている。通信装置7はベースステーション91との情報の送受信を行なう。
【0065】
制御装置4では、加速度センサ51および角加速度センサ52から送られてくる情報によって羽ばたき装置の浮上の状態が検知されるとともに、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報によって、焦電型赤外線センサ検出領域531内における発熱源の情報が取得される。そして、これらの情報が、通信装置7を介してベースステーション91に送信される。
【0066】
また、制御装置4は支持構造1に配された発光ダイオード8のON/OFFを制御する。
【0067】
また、通信装置7はベースステーション91からの指示信号を受信する。制御装置4は、この指示信号に応じて各アクチュエータ21,22や発光ダイオード8の動作を算出し、それぞれの駆動を決定する。左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、通信装置7、発光ダイオード8などの駆動動力は電源6により供給される。
【0068】
電源6は、2次電池であり、電極61を経由して供給される電力によって充電される。また、電極61は、位置決めピンの役割も兼ねており、ベースステーション91における位置決め穴に決まった姿勢で定位が可能である。
【0069】
なお、図2においては、電極61は、正極、負極の2本のピンからなっているが、充電状態検出用ピンなどを含む3本以上のピンからなる構成も可能である。
【0070】
(支持構造)
次に、支持構造1について図2を用いてより詳細に説明する。
【0071】
支持構造1は、機械的強度を確保した上で十分軽量であることが好ましい。この羽ばたき装置の支持構造1では、ほぼ球殻状に整列したポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられている。支持構造1下部には、着地の際に転倒せぬよう、支持脚11が配されている。この支持脚11は、着地時の安定性が確保されるか、もしくは、着地時の安定性が機能的に問題にならないのであればこれは必須ではない。
【0072】
また、支持構造1の材料や形状は飛行に性能を損なわないならば、図2に示すものに限られるものではない。支持構造1の材料は特に、軽量で剛性が高いことが望ましい。
【0073】
たとえば、カニやエビなどの生物に使われているキトサンなどの有機物と、シリカゲルなどの無機物とを分子レベルでハイブリッド化した複合材料を用いることにより、カニやエビの外骨格が持っている軽くて丈夫な性質を持ってはいるが、形状加工が容易で、生物が本来持っている最適な組成値をそのまま転用することができる。また、環境に対しても害が少ない。
【0074】
また、貝殻の材料である炭酸カルシウムを前述のキトサンの代わりに用いることでも、剛性の高い支持構造を構築することができる。
【0075】
また、アクチュエータや羽の配置形状についても、本実施の形態に示した態様に限られるものではない。
【0076】
特に、本実施の形態では、浮上の安定性を重視して、自然に図2に示した姿勢となるように、重心の位置を羽の力学的作用中心点よりも下に位置させたが、重心と力学的作用点の位置とを一致させる方が姿勢制御に必要な左右の羽の流体力の差が最も小さくて済むので、羽ばたき装置の姿勢を容易に変更することができる。よって、アプリケーションによってはこのような姿勢制御の容易さを優先した設計も考えられる。
【0077】
(浮上機構)
(羽とその動作)
次に、羽とその動作について図2〜図5を用いて説明する。
【0078】
説明の簡便のため、図2における座標系を定義する。まず、支持構造1のほぼ中央を原点とする。また、重力加速度の方向を下方向、その逆を上方向とする。原点から上方向に向かってz軸を定義する。次に、右アクチュエータ21の形状中心と左アクチュエータ22の形状中心とを結ぶ方向を左右方向とし、原点から左羽に向かってy軸を定義する。また、原点からy軸とz軸との右手系における外積方向にx軸を定義し、以後これを前方、その反対方向を後方と称する。
【0079】
また、図2は、右羽31の右アクチュエータ21に対する力学的作用点A1と、左羽32の左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2の中点A0から重力加速度方向に下ろした線上に本羽ばたき装置の重心Oが位置する状態である。本実施の形態においては、左アクチュエータ22のロータ229はほぼ球状であり、主軸321の延長線上にこのロータ229の球心が位置するように左羽32が配置されている。左アクチュエータ22に対する力学的作用点A2および主軸321の回転運動の支点はこの球心に位置している。右アクチュエータ21についても同様である。
【0080】
以後、前述したx軸、y軸、z軸は図2の状態において支持構造1に対して固定された、本羽ばたき装置固有の座標系であるとする。
【0081】
一方、羽ばたき装置の固定された座標系に対して、空間に固定された任意の点を原点とする空間座標としてx′軸、y′軸およびz′軸を定義する。これにより、ロボット90が移動する作業空間92の座標はx′軸、y′軸およびz′軸のそれぞれの座標を用いて表わされ、ロボット90における固有の座標はx軸、y軸およびz軸のそれぞれの座標を用いて表わされる。
【0082】
次に、羽の構造について説明する。たとえば、左羽32は主軸321の枝322が生えた支持部材に、膜323を張ることで形成されている。主軸321は左羽322において前方寄りの位置に配されている。また、枝322は先に行くほど下方に向いている。また、膜323は、人に気づかれ難いように保護色になっている。なお、膜323が透明であっても同等の効果が得られる。
【0083】
左羽32は上に凸状の断面形状を有する。これによって、特に打ち下ろしの際に流体から受ける力に対して高い剛性が得られる。主軸321と枝322は軽量化のため、それぞれカーボングラファイトの中空構造となっている。膜323はその内面において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽全体の剛性を高める働きをしている。
【0084】
本発明者らが実験に用いた羽の主軸321の直径は、支持構造1に支持された根元の部分では100μm、先端部では50μmであり、主軸321は根元から先端部へ向かって細くなったテーパ形状である。また、膜323はポリイミドであり、大きさは前後方向約1cm、左右方向約4cm、厚さは約2μmである。
【0085】
なお、図3に示された左羽32では、説明のために主軸321はその太さが拡大されている。図示されていない右羽31はxz平面を挟んで左羽32と鏡面対称になるように支持構造に取付けられている。
【0086】
次に、羽の動作の表現について左羽32を例に挙げて説明する。
左アクチュエータ22は、左羽32を回転3自由度で動かすことが可能である。つまり、左羽32の駆動状態は、その姿勢で表わすことができる。以後説明の簡便のため、左羽32の姿勢を、図2の状態に基づき以下のように定義する。
【0087】
まず、図4に示すように、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、x軸およびy軸にそれぞれ平行な軸(//x、//y)を含むxy平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽32の主軸321の根元を結ぶ線分がその平面となす角度を、羽ばたきのストローク角θとする。また、軸の回転運動の支点(力学的作用点A2)と、y軸およびz軸それぞれに平行な軸(//y、//z)を含むyz平面に平行な平面を基準として、点A2と左羽32の主軸321の根元とを結ぶ線分がその平面となす角度を偏角αとする。
【0088】
このとき、ストローク角θはxy平面に平行に平面より上方では正とし、下方では負とする。また、偏角αはyz平面に平行な平面よりも前方では正とし、後方では負とする。
【0089】
そして、図5に示すように、左羽32の主軸321の根元における膜323の接平面p1が、点A2を通りx軸と平行な軸(//x)と主軸321を含む平面p0とをなす角度をねじり角βとする。このときねじり角βは主軸321の根元から先端に向かって見たときの時計回りを正とする。
【0090】
(アクチュエータ)
次に、アクチュエータについて図6および図7を用いて説明する。
【0091】
本実施の形態においてアクチュエータについては、トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことから、圧電素子(ピエゾ)を用いて発生した信号波によって駆動する。一般的に超音波モータと呼ばれるアクチュエータを用いる。
【0092】
図6に示すのは市販の超音波モータ23である。これは、図6(a)に示す、下面に圧電素子230を貼付けてあるアルミニウムの円板231上に突起232〜突起237が、円板の中心を重心とする正六角形をなすように6ヵ所配置され、さらにこの圧電素子230の下面には円周方向に12分割された電極238が配置されている構造をしている。この構造の概略を図6(b)に示す。各電極は1つおきに電気的に短絡されており、それぞれ、円板231を基準に電圧が印加される。すなわち、圧電素子230は位相の異なる電圧が加えられる。この様子を図6(c)に、ハッチングとの黒塗りつぶしに分けて示す。このそれぞれに異なる時間的パターンで電圧を加えることによって円板231上に信号波が発生し、突起232〜突起237先端が円周方向に沿って楕円運動を行なう。以上でステータが構成され、このステータはステータ上に接触して配置されたロータ239を上述の突起232〜突起237先端の楕円運動より円周方向に沿って搬送することができる。
【0093】
この超音波23のトルクは1.0gf・cmで、無負荷回転速度は800rpmである。また、最大消費電流は20mAである。また、円板231の直径は8mm、突起232〜突起237の配されている間隔は2mmである。円板231の厚さは0.4mm、突起232〜突起237の高さは約0.4mmである。また、圧電素子230の駆動周波数は341kHzであった。
【0094】
本実施の形態では、このステータの部分を利用したアクチュエータを用いる。右アクチュエータ31は、図7(b)に示すごとく、球殻状のロータ219を、上述のステータと同様のステータ210とベアリング211で挟み込んで保持する構造をしている。ただし、ステータ210のロータ219との接触部分はロータ表面と一致する形状に加工されている。ロータ219は外形3.1mm、内径2.9mmの球殻で、表面に右羽主軸311が配されている。ステータ突起のある面に向かって見て時計回り(以後、これを正回転、この逆の回転を逆回転と呼ぶ)にロータを搬送させる操作を行なうと、右羽主軸311は図7(b)に示すθの方向に移動する。
【0095】
さらにこのロータ219を3自由度で駆動するために、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をベアリング214,215とともにステータ210、ベアリング211と同様に図7(a)に示すように配する。各補助ステータの大きさはステータ210の0.7倍である。
【0096】
各ステータの駆動方向は必ずしも直交していないが、それぞれ独立した要素への回転を与えるため、これらの運動の組合せによってロータ219を3自由度で駆動することができる。
【0097】
たとえば、ロータ219に対して、上部補助ステータ212によって正回転を、下部補助ステータ213によって同じく正回転を与えれば、ロータ219がこの構成であるβ方向に、上部補助ステータ212によって逆回転を、下部補助ステータ213によって正回転を与えればα方向に回転する。
【0098】
実際の駆動に際しては、回転中心の異なる2つの回転を行わせることは摩擦によって効率を低下させてしまうので、たとえば、上部補助ステータ212と下部補助ステータ213をごく短時間周期で交互に動作させ、その間、動作していないステータの突起はロータ219に接触しない、などの駆動方法が望ましい。これは、ステータの電極すべてに圧電素子の収縮方向に電圧を印加することで、特別に構成要素を付加することなく実現できる。
【0099】
また、圧電素子の周波数が300kHz以上と、せいぜい100Hz程度である羽ばたき周波数に比べて十分高速であるので、交互にアクチュエータを動作させても実質上滑らかな動きを右羽主軸311に与えることができる。
【0100】
以上により、本発明者らが検討に用いた市販の超音波モータと同等の特性を有する3自由度アクチュエータが構成される。
【0101】
ステータの発生中信号波の振幅がサブミクロンオーダであり、このロータはこのオーダの真球度であることが要求される。民生用の光学製品に用いられている放物面鏡の加工精度は数十nmであり、また、光学干渉計に用いられている光学部品の加工精度は数nm程度であることからこのようなロータは現在の加工方法技術で作製することが可能である。
【0102】
なお、上記の構成は、本発明における3自由度の運動を羽に与えるアクチュエータを超音波モータで構成した例の1つに過ぎず、各構成要素の配置、サイズ、材質、駆動方法などは、羽ばたき飛行に要求される物理的機能たとえばトルクなどが実現できるならこの限りではない。
【0103】
また、当然、羽の駆動機構やそれに用いるアクチュエータの種類についても、特に本実施の形態に示したものにはよらない。たとえば、特開平5−169567号公報に見られるような、外骨格構造とリニアアクチュエータを組合せて用いた羽ばたき飛行も、本実施の形態に示すアクチュエータと等価な羽の動作を実現できるため可能である。
【0104】
また、駆動エネルギとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。さらに、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応により、化学的エネルギを運動エネルギに変換するアクチュエータを用いることも可能である。たとえば、昆虫から採取した筋肉をリニアアクチュエータとして用いる方法や、虫の筋肉のタンパク質のアミノ酸と無機物とを材料として分子レベルでこれを複合化させて作った複合材料の人工筋肉をリニアアクチュエータとして用いるなどの方法がある。
【0105】
当然、基本的な駆動力の上述の内燃機関などのエネルギ効率が高いアクチュエータを得て、これらの制御もしくは補助として電力で駆動するアクチュエータを用いる手法も可能である。
【0106】
(浮上方法)
次に、浮上方法について図8〜図14を用いて説明する。
【0107】
なお、ここでは、羽が流体から受ける力を流体力と呼ぶ。また、説明の簡便のため空気の流れを羽ばたきによってのみ起こる状態、すなわち、無風状態を仮定して説明する。
【0108】
説明の簡便のため、ロボット90に及ぼされる外力は羽に流体から作用する力すなわち流体力と重力のみであるとする。
【0109】
ロボット90が恒常的に浮上するには、1回の羽ばたき動作の間で平均して、(羽にかかる上方向の流体力の総和)>(ロボット90にかかる重力)であることが必要である。
【0110】
ここでは、昆虫の羽ばたきを単純化した羽ばたき方により、打ち下ろし時の流体力を、打ち上げ時の流体力よりも大きくする方法について説明する。説明の簡便のため、流体の挙動もしくはそれが羽に及ぼす力については、その主用成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方によりロボット90に作用する浮上力と重力との大小については後述する。
【0111】
羽には、羽が運動する方向と逆方向の流体力が作用するので、羽の打ち下ろし時には羽の上向きに流体力が作用し、打ち上げ時には羽の下向きに流体力が作用する。そこで、打ち下ろし時に流体力を大きくし、打ち上げ時には流体力を小さくすることで、1回の羽ばたき動作(打ち下ろし動作と打ち上げ動作)の間で時間平均すると上方向の流体力が得られることになる。
【0112】
そのためには、まず、打ち下ろし時には羽が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせば、羽にはほぼ最大の流体力が作用する。これは、羽の接する平面とほぼ垂直に羽を打ち下ろすことに相当する。
【0113】
一方、打ち上げ時には羽が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げれば、羽に及ぼされる流体力がほぼ最小となる。これは羽の断面の曲線にほぼ沿って羽を打ち上げることに相当する。
【0114】
このような羽の動作について羽の主軸321に垂直な断面を用いて説明する。まず、図8の羽は移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろした場合、図9が羽の移動する空間の体積が最小になるように打ち上げた場合を示す。
【0115】
図8および図9では、移動前の羽の位置が破線で示され、移動後の羽の位置は実線で示されている。また、羽の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。同図に示すように、流体力は羽の移動方向とは逆向きに羽に作用する。
【0116】
このように、打ち上げ時における羽が移動する空間の体積が打ち下ろし時における羽が移動する空間の体積よりも大きくなるように羽の姿勢を羽の移動方向に対して変化させて、1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、羽に作用する上方向の流体力を羽ばたき装置に作用する重力よりも大きくすることができる。
【0117】
本実施の形態においては、羽のねじり角βが制御可能であり、これを時間的に変化させることによって上述の羽の運動が実現される。
【0118】
具体的には、以下のステップS1〜S4が繰返される。まず、ステップS1では、図10に示すように羽の打ち下ろし(ストローク角θ=+θ0→−θ0)が行なわれる。ステップS2では、図11に示すように羽の回転1(羽のねじり角β=β0→β1)動作が行なわれる。ステップ3では、図12に示すように羽の打ち上げ(ストローク角θ=−θ0→+θ0、ねじり角β=β1→β2(羽の曲面に沿った運動により、流体力を最小限にとどめる運動))が行なわれる。ステップS4では、図13に示すように、羽の回転2(羽のねじり角β=β2→β0)動作が行なわれる。
【0119】
ステップS1およびステップS3における羽に作用する流体力を時間平均すると、上述のように羽の移動する空間の体積の違いから、上向きの流体力となる。この上向きの流体力の鉛直成分と重力との大小関係については後述する。
【0120】
当然、ステップS2,ステップS4においても、羽に作用する流体力の時間平均が上向きの流体力であることが望ましい。
【0121】
ロボット90の羽においては、図10〜図13に示すように、羽の前縁近傍に羽の回転中心(主軸321部分)が位置している。つまり、主軸321から羽の後縁までの長さの方が主軸321から羽の前縁までの長さよりも長くなっている。このため、図11および図13に示すように、羽の回転動作においては羽の回転方向に沿って生じる流体の流れに加えて、主軸321から羽の後縁に向かう方向に沿って流体の流れが生じることになる。
【0122】
そして、羽にはこのような流体の流れの反作用としてそれぞれの流れの向きとは逆向きの力が作用することになり、図11に示すステップS2では、実質的に上向きの流体力が羽に与えられ、図13に示すステップS4では、主に下向きの流体力が羽に与えられることになる。
【0123】
図12に示すステップS3では、羽の断面の曲線に沿うように羽のねじり角βをβ1からβ2に変化させながら打ち上げ動作が行なわれる。また、図11に示すステップS2における羽の回転角は図13に示すステップS4における羽の回転角よりも大きい。これによりステップS2およびステップS4においても羽に上向きに作用する流体力が下向きに作用する流体力に勝って、時間平均すると上向きの流体力が羽に作用することになる。
【0124】
なお、図10〜図13では、それぞれのステップS1〜S4における羽の移動前の姿勢が波線で示され、移動後の姿勢が実線で示されている。各ステップS1〜S4における羽の移動方向が一点鎖線の矢印によって示されている。また、各ステップS1〜S4において主に発生する流体の流れが実線の矢印によって示されている。
【0125】
次に、ストローク角θおよびねじり角βの値を時間の関数として表わしたグラフを図14に示す。ただし、図14では、ストローク角θおよびねじり角βのそれぞれの縦軸の比率が異なっている。
【0126】
本発明者らの行なった実験においては、θ0は、たとえば60°である。β0は、たとえば0°である。β1は、たとえば−120°である。β2は、たとえば−70°である。
【0127】
上述した説明では、説明の簡便のためステップS1〜S4は独立した動作として記述したがたとえばステップS1において羽を打ち下ろしながら羽のねじり角を大きくしていくような動作も可能である。
【0128】
また、上述した例は第1近似的な考察から説明されるものであり、実際に浮上可能な羽ばたき方法はこれに限定されるものではない。
【0129】
また、ここでは左羽について説明したが、右羽についてもxz平面に関して鏡面対称に左手系に基づくストローク角θ、偏角αおよびねじり角βを定義すれば同一の議論が成り立つ。以下、羽に作用する上向きの流体力を浮上力とし、羽に作用する前向きの流体力を推進力とする。
【0130】
(制御方法)
次に、羽ばたき装置に任意の運動を行なわせる制御方法について説明する。ここでは、本羽ばたき装置の左羽については右手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用い、そして、右羽についてはxz平面に対して鏡面対称の左手形に基づくストローク角θ、偏角αおよび捻り角βを用いて羽の姿勢を示す。
【0131】
(制御フロー)
羽ばたきによる浮上移動は羽にかかる流体力によって行なわれるので、羽の運動により直接制御されるのは、本羽ばたき装置に与えられる加速度と角加速度である。
【0132】
まず、Sを目標とする浮上状態と現在の浮上状態との差異、T(S)を浮上状態から加速度、角加速度への変換を表わす関数、sを加速度、角加速度Fα(s)を、加速度センサ51、角加速度センサ53のセンサ応答を含めた制御アルゴリズムを表わす関数、sαをアクチュエータ制御量、GW(sα)をアクチュエータと羽の応答を表わす関数、sWを羽の運動、GfS(sW)を羽の運動により本羽ばたき装置に及ぼされる加速度もしくは角加速度seを表わす関数、Seがこの一連のプロセスにより行なわれる浮上状態の変更とすると、入力Sより出力Seが得られるプロセスは図40に示すようなものとなる。
【0133】
また、実際には、羽と流体の慣性力により、現在までの羽の運動、流体の運動の時刻歴に依存する影響RWとRfSがGWとGfSに加わることになる。
【0134】
(動作分割)
当然、Fα以外のすべての関数を正確に求め、これによりS=Seとなる制御アルゴリズムFαを算出する手法もあり得るが、本羽ばたき装置周囲の流体の流れと羽の運動の時刻歴が必要であり、膨大なデータ量と演算速度を必要とする。また、流体と行動の連成した挙動は複雑で、多くの場合カオティックな応答になってしまうため、実用的でない。
【0135】
そこで、予め基本的な動作パターンを用意しておき、目標とする浮上状態を分割してこれらの基本動作パターンを時系列にて組合わせて実現する手法が簡便で望ましい。
【0136】
物体の運動にはx方向、y方向、z方向の3自由度の並進自由度と、θx方向、θy方向、θz方向の3自由度の回転自由度、つまり6自由度が存在する。すなわち、前後、左右、上下、そしてこれらの方向を軸とする回転である。
【0137】
このうち、左右への移動は、θz方向の回転と前後方向への移動を組合わせて行なうことができる。そこで、ここでは、前後方向、すなわちx軸方向への並進移動、上下方向、すなわちz軸方向への並進動作、また、x軸、y軸、z軸回りの回転動作についてそれぞれ実現方法を説明する。
【0138】
(動作)
(1) 上下方向(z軸方向)の動作
羽が移動することで、羽が流体から受ける力は羽の移動速度に依存するので、羽に及ぼされる上向きの流体力を大きく(小さく)するには、
A:ストローク角θの振幅を大きく(小さく)する
B:羽ばたき周波数を大きく(小さく)する
などの方法がある。これらによって本羽ばたき装置は上昇(下降)することができる。ただし、流体力には負の値も含まれる。
【0139】
なお、これらの手法によれば、羽が流体から受ける流体力そのものが大きくなるので、羽が流体力を上下方向以外から受けることによって、羽の力学的支点に羽から上下方向以外の力が及ぼされている際には、上昇とともにその方向へこの支点にかかる力の増加も伴う。たとえば、前方にほぼ等速直線運動を行なっている際に、羽ばたき周波数を大きくすると、本羽ばたき装置は速度増加を伴って上昇する。このように、現時点での羽ばたき方によって、副次的にこういった他の運動を伴うが、以後特に断らない限り、停空状態からの制御について説明する。
【0140】
また、羽の捻り角βを変えて、羽が移動する空間の体積を変化させることによっても浮上力は変化する。たとえば、打ち上げ時における羽が移動する空間の体積がより大きく、もしくは、打ち下ろし時における羽が移動する空間の体積がより小さくなるようなβを与えることで、羽に作用する上向きの流体力の時間平均は小さくなる。
【0141】
実際には、羽は剛体ではなく変形を伴うため、同一のβによっても羽が移動する空間の体積は変化するが、第1原理的には、羽の移動する方向に垂直なβが最も大きな羽が移動する空間の体積を与える。また、羽が移動する方向に平行なβが最も小さな羽が移動する空間の体積を与える。
【0142】
なお、この場合、副次的に、羽ばたきと垂直方向にも流体力が作用するため、これが制御上昇を生じるレベルである場合はこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。最も単純には偏角αの変更により実現できる。
【0143】
また、前記のステップS2もしくはステップS4において羽の回転角速度を変化させることによってもz軸方向の動作を行なうことは可能である。たとえば、ステップS2において羽の回転角速度(−dβ/dt)を大きくすると、この回転によって生じる流体の下方向への流速が大きくなるため、この反作用によって羽に作用する上向きの流体力が大きくなる。
【0144】
なお、この場合、本羽ばたき装置に及ぼされる、羽の主軸を回転軸とするトルクが副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障ない範囲に収まる範囲内でこの回転角速度変化を行なうことが望ましい。
【0145】
また、この場合、本羽ばたき装置に及ぼされる、前後方向への力も副次的に変化する。よって、この変化が制御上支障きたす場合は、(2)として後述する前後方向への力の制御も同時に行なうことが望ましい。
【0146】
(2) 前後方向(x軸方向)の動作
前述した羽ばたき方法では、主にステップS2とステップS4にて、x方向の向きへの流体力が羽に作用する。したがって、この羽の動かし方においては前進を伴い浮上する。
【0147】
また、打ち下ろしの際に偏角αを増加し羽を前方に移動させることで、羽には後向きの流体力が作用することになる。したがって、打ち下ろしの際の、すなわち、ステップS1における偏角αを制御して、ステップS1における羽に作用する後向きの流体力を他の主にステップS2とステップS4における前向きの流体力よりも大きくすれば後退し、小さくすれば前進することができる。また、この2脚がほぼ釣り合えば前後方向に静止することができる。
【0148】
特に、本羽ばたき装置が前後方向に静止しており、左右の羽がほぼ対称な運動を行ない、重力と本羽ばたき装置における浮上力が釣り合っているならば、ホバリング状態が実現できる。
【0149】
なお、偏角αの変更に伴い副次的に、羽に及ぼされる流体力の鉛直方向成分が変化するので、これが制御上支障を生じるレベルにある場合にはこれを打ち消す羽の動きを付加する必要がある。これは、主に、前述の(1)の上下方向の動作によって行なうのが簡便である。
【0150】
さらに、前述したステップS2とステップS4において羽の回転動作の角速度を大きくすると前向きの流体力が増加し、小さくすると減少する。これによっても前後方向の動作を変化させることができる。
【0151】
また、(1)に述べた羽の捻り角βの変更に伴う副次的な流体力のうち、x軸方向成分を利用する手法も可能である。つまり、打ち下ろし時にβ>0なら前方向への、β<0なら後方向への力が働く。
【0152】
なお、打ち上げ時のβ、α、θの関係はある程度拘束されているが、以上の流体力の制御はステップS3においても可能である。
【0153】
(3) z軸を回転軸とする回転動作
(2)において述べた前後方向への制御を、左羽と右羽について個別に行ない、これを異ならせることで本羽ばたき装置にトルクを与えることができる。
【0154】
すなわち、右羽の前向きの流体力を左羽のそれに対して高くすれば本羽ばたき装置はx軸正の向きに向かって左方向を向き、低くすれば同じく右方向を向く。
【0155】
(4) x軸を回転軸とする回転動作
(3)と同様に、右羽の上向きの流体力を左羽のそれに対して大きくすれば右側が持ち上がり、小さくすれば左側が持ち上がる。これによって、x軸を回転軸とする回転動作を行なわせることができる。
【0156】
(5) y軸を回転軸とする回転動作
(2)に述べた、羽の捻り角βの角速度変更によって、本羽ばたき装置にかかるy軸回りのトルクを変化させることができる。これにより、y軸を回転軸とする回転動作を行なうことができる。たとえば、ステップS1における捻り角βの回転角速度を大きくすると本羽ばたき装置は機首を下げ、逆に小さくすると機首を上げる。
【0157】
(6) ホバリング(停空飛翔)
羽ばたき装置を停空させる際のストローク角θおよび偏角αならびに捻り角βの値を時間の関数として表わしたグラフを図15に示す。ただし、図15ではそれぞれの角度の縦軸の比率と異なっている。
【0158】
本発明者らが行なった実験においては、θ0はたとえば60°である。β0はたとえば−10°である。α1はたとえば30°である。β1はたとえば−100°である。β2はたとえば−60°である。
【0159】
各ステップにおける左羽の運動とそれにより左羽の力学的支点A2に生じる加速度、角加速度を図41に示す。ただし、(3)(4)のx軸、z軸を回転軸とする回転動作については略してある。これらは、前述のとおり、左右の羽の運動の非対称によって起こされる。
【0160】
(制御方法決定手法)
現在の浮上状態は、羽ばたき装置に搭載された加速度センサ51や角加速度センサ52が取得した値を適宜変更した値を用いて求められる。たとえば、速度は、加速度を時間積分した値に速度の初期値を与えることで求められる。また、位置は、速度を時間積分した値に位置の初期値を与えることで求められる。なお、浮上状態に、浮上状態の時刻歴を含む手法も可能である。
【0161】
制御装置4は、加速度センサ51および角加速度センサ52から得られる現在の浮上状態と目的とする浮上状態から、本羽ばたき装置の動作を決定する。この制御は、三次元で行なわれる点以外は従来から行なわれている制御手法を適用することができる。
【0162】
本羽ばたき装置の動作は、制御装置4にて、アクチュエータの駆動に変換される。この変換には、テーブル参照、もしくはその補完を用いるのが高速である。たとえば、図39に示すように、基本となる動作と、それを実現するアクチュエータの駆動の組合せを予め用意しておく。なお、図42の左端列は目的とする動作、羽ばたきにおけるAとBは、Aは前進時の羽ばたき方、Bは停空時の羽ばたき方であり、より具体的にはそれぞれ図14、図15にグラフで示されるα、β、θの時刻歴を時間的に離散化したものである。制御装置4は、本羽ばたき装置の動作から、この駆動もしくはその補完した駆動をこのテーブルより算出する。
【0163】
ここでは、説明のため一旦本羽ばたき装置の動作を算出し、これをアクチュエータの駆動に変換するという手法を用いたが、浮上状態から直接アクチュエータの駆動を選択する手法も可能である。
【0164】
たとえば、定位制御を行なう場合、現在位置と目標位置との差によって、上述したアクチュエータの駆動のいずれかもしくはそれを補完した駆動を直接算出する手法も可能である。
【0165】
また、当然、羽ばたき装置の浮上状態を表わす物理量はここに示した位置、速度、加速度などに限らない。
【0166】
また、当然、アクチュエータの駆動を決定する手法はこの態様に限らない。
(浮上可能重量)
次に、本実施の形態におけるロボット90の構成で浮上が可能な条件を、図16を用いて示す。
【0167】
本発明者の実験環境ではアクチュエータとして進行波アクチュエータを用いた。この進行波アクチュエータによれば、ステータ210が超音波モータ23と同等であるので、θ方向の羽ばたきに関してはトルク1.0gf・cmである。
【0168】
そこで、本発明者らはシミュレーションによりこのトルクで羽ばたいた際の流体力を算出した。
【0169】
羽はアクチュエータから離れる方向が長辺で、長辺4cm、短辺1cmの矩形で、羽の変形は無視する。また、幅8mm、長さ33mmのとんぼの羽が約2mgであったので、これに倣い、羽の質量は3mgとした。
【0170】
さらに、超音波モータは、突起先端の微小な楕円運動の累積によってロータの円板を円周方向に駆動するため、実際の駆動トルクの立上がり立下がりはダイヤモンドの周期オーダ、すなわち105ヘルツオーダであるが、計算の安定性から制約上±250gf・c/secであるとした。すなわちトルクは0.004秒に1gf・cm上昇する。
【0171】
この羽を、一方の短辺をこの辺を回転軸とする回転自由度のみ残して固定し、この回転自由度にトルクを与え、この回転軸にかかる反力を算出した結果が図16である。ただし、前に定義するところの偏角α=0(度)、2次角β=0(度)である。
【0172】
時刻0においては、羽は水平すなわちストローク角θ=0(度)である。ここから時刻0.004秒までの間にトルクを1gf・cmまで直線的に向上させ、0.004秒から0.01秒まで、1gf・cmを保つ。そして時刻0.01秒から0.018秒までの間にトルク1gf・cmから−1gf・cmまで直線的に変化させ、同0.018秒から0.03秒までは−1gf・cmを保ち、同0.03秒から0.038秒までの間に再び1gf・cmへと直線的に変化する。
【0173】
これにより得られた接点反力を、打ち下ろしの間すなわちトルクが負である時間である時刻0.014秒から0.034秒までの間で平均すると約0.29gfであった。
【0174】
以上のシミュレーションは、1自由端羽ばたきの結果であるため、打ちが上げ時の流体力の作用は不明である。しかし、断面積に比して流体の抵抗が減少するので、打上げ時に働く下向きの始点反力は小さいこと、かつ、打下ろし時と同じトルクで打上げることが可能なため、打上げに要する時間は打下ろしに要する時間よりもはるかに短い。すなわち、打上げの際の力が作用する時間は短いこと、また、打下ろし以外にも羽の回転などを用いて浮上力がさらに得られることから、トルク1gf・cmのアクチュエータを用いて、0.29g程度の質量を浮上させることは可能であるといえる。すなわち、実施の形態における羽ばたき装置全体の質量が0.58g以下であれば浮上が可能である。以下、羽ばたき装置全体の重量について検討する。
【0175】
まず、ステータ210の質量は、電極と圧電素子が薄いため、比重2.7、厚さ0.4mm、半径4mmの円板と同等であるので、0.054gである。また、補助ステータの重量は、ステータの直径が0.7倍であることから0.019gである。
【0176】
3つのベアリングはいずれも外径4.2mm、内径3.8mm、厚さ0.4mmのドーナツ状のボールベアリングである。材質は比重4.8のチタンで、約30%の空隙があるため、ベアリングの質量は約0.013gである。また、ロータ219は材質がアルミで壁中央半径3mm、厚さが0.2mmであるため、約0.061gである。
【0177】
これらの総和から、アクチュエータ21の質量は0.192gである。また、羽31は前述のとおり0.003gである。以上の構成が左右系2つあるので、0.390gである。
【0178】
また、本発明者らが採用した図1に示す支持構造1は、直径1cm、比重0.9、厚さ0.1mmの球体であるので質量が約0.028gである。
【0179】
また、本発明者らが採用した制御装置4、通信装置7、加速度センサ51、角加速度センサ52、焦電型赤外線センサ53はそれぞれ5mm×4mmの半導体ベアチップで、各約0.008gである。すなわちこれらの質量の総和は0.04gである。また、本発明者らが採用した電源6の重量は0.13gである。
【0180】
以上、すべての構成要素の重量の合計は0.579gとなる。1対の羽で浮上力0.58gfを得ているので、この構成で浮上することが可能である。
【0181】
(通信装置)
次に、通信装置7について説明する。
【0182】
通信装置7は送信機能を備え、各種センサの測定値を送信する。これにより、ベースステーション91が、ロボット90の情報を得ることができる。
【0183】
ベースステーション91が得る情報は、ロボット90もしくはその周囲の物理量である。より具体的には、前者の一例としては、加速度センサから得られたロボット90の加速度情報、または、角加速度センサ52が得られたロボット90の角加速度情報、後者の一例としては、焦電型赤外線センサ53より得られた赤外線量情報である。
【0184】
また、通信装置7は、受信機能を備え、制御信号を受信する。これによりベースステーション91がロボット90に対して制御を行なうことができる。
【0185】
ベースステーション91より送信される制御信号を、ロボット90の浮上状態に対する制御信号と、ロボット90の周囲に与える物理量変更における制御信号とである。より具体的には、前者の一例としては、ロボット90に与えられるべき加速度と角加速度とを指定する信号、後者の一例としては、発光ダイオード8の光量を指定する信号である。
【0186】
なお、本実施の形態においては、ここに例示した情報を送受信するものとして以後の説明を行なう。
【0187】
もちろん、送受信すべき情報はここに示した限りではない。たとえば、ベースステーション91より発せられた制御信号を、ロボット90が正しく受信したか否か確認する応答信号なども送受信可能な情報である。
【0188】
(制御装置)
次に、制御装置4について、図2および図17を用いて説明する。
【0189】
図1に示すとおり、制御装置4は、演算装置41とメモリ42とからなる。
演算装置41は、通信装置7を経て、ロボット90における各種センサによって得られた情報を送信する機能を有する。また、演算装置41は、通信装置7を経て得られた制御信号に基づき、各構成要素の動作を制御する機能を有する。また、メモリ42はこれら送受信されたデータを保持する機能を有する。
【0190】
本実施の形態においてより具体的には、演算装置41は加速度センサ51および角加速度センサ52からの情報によりロボット90の加速度および角加速度を算出し、通信装置7を経由してベースステーション91にこの情報を送信する。また、ベースステーション91からは現在ロボット90に与えられるべき加速度の情報と、角加速度の情報とが送信される。これらの情報を、通信装置7を経て受信し、演算装置41はこの受信された加速度と角加速度とにより各アクチュエータの動作パラメータを決定する機能を有する。
【0191】
さらにより具体的には、演算装置41は、ロボット90に与えられるべき代表的な加速度と角加速度との組合せに対応したα、β、θの時系列値をテーブルとして有しており、これらの値、もしくはその補間値を各アクチュエータの動作のパラメータとする。なお、α、β、θの時系列値とは、たとえば、加速度、角加速度ともに0であるホバリングの場合は図15にグラフで示される値を離散化したものである。
【0192】
当然、ここで挙げるα、β、θは制御パラメータの一例であり、説明の簡便のためこれらのパラメータを指定することでアクチュエータが駆動されることを前提に記述したが、たとえば、より直線的にこれらを実現する各アクチュエータへの駆動電圧や制御電圧に変換したものを用いることが効率的である。しかし、これらが既存のアクチュエータ制御方式と特に異なるものではないので、代表的なパラメータとしてα、β、θを挙げているにすぎず、このパラメータのみに限るものではない。
【0193】
また、別なる機能を具体例として、演算装置41は、焦電型赤外線センサ53から送られてくる情報を、通信装置7を介して送信する機能を有する。
【0194】
これによりベースステーション91がロボット90に搭載された焦電型赤外線センサ53における赤外線情報検出領域531における赤外線情報を取得することが可能になる。
【0195】
また、演算装置41は、ベースステーション91から送信された発光ダイオード8の発光制御信号を、通信装置7を介して受信して、この制御信号に従い発光ダイオード8に流れる電流を制御する機能を有する。これにより、ベースステーション91が発光ダイオード8の発光を制御することが可能になる。なお、制御装置4の機能はここに示したものに限らない。
【0196】
飛行制御は時間的に連携するものであるので、羽の動作時刻歴を、制御装置4におけるメモリ42に記憶させておき、ベースステーション91からの制御信号をこの時刻歴情報によって補正する手段も可能である。
【0197】
また、ロボット90の浮上移動を優先する場合、通信の帯域からの送信不可能なデータが発生することも考えられる。また、通信が途絶する場合も考えられる。これらをはじめとして、重量の増加が浮上移動に障害をもたらさない範囲内ならば、メモリ42を搭載することは有効である。また、逆に、演算装置41におけるレジスタの類を除き、ロボット90の機能によっては明示的に必須ではない。
【0198】
(駆動エネルギ源)
次に、駆動エネルギ源、すなわち、電源6について説明する。
【0199】
左右アクチュエータ21,22、制御装置4、センサ51〜センサ53、を駆動する電力は電源6により供給される。
【0200】
電源6はリチウムイオンポリマを電解質としているので支持構造1により封入しておけばよい。これにより液漏れを防ぐための余分な構造が不用であり、実質的なエネルギ密度を高めることができる。
【0201】
なお、現在市販されているリチウムイオン2次電池の一般的な質量エネルギ密度は150Wh/kgであり、本実施の形態においてはアクチュエータにおける消費電流は最大40mAであるので、電源6の電解質重量を約0.1gとすると、本実施の形態においては約7.5分の飛行が可能である。また、本実施の形態におけるアクチュエータの最大消費電流は左右合計40mAである。
【0202】
また、電源電圧3Vである。電解質重量が0.1gであるので、0.12W/g、つまり、1200W/kgの重量パワー密度を持つ電源6の実現が求められる。市販品で実現されているリチウムイオンポリマ2次電池の重量パワー密度は約600W/kgであるが、これは携帯電話などの情報機器に用いられている10g以上の製品などである。一般に、電解質の質量に対する電極面積の比は正負に反比例するので、実施の形態における電源6は、前述の情報機器用に用いられている2次電池の10倍以上の電極面積比を持つので、10倍程度の質量パワー密度が達成可能であり、冒頭の出力パワー密度は十分達成可能である。
【0203】
アクチュエータの駆動エネルギを外部から供給する方法も可能である。たとえば、電力エネルギを外部から供給する媒体については温度差、電磁波などが挙げられ、これを駆動エネルギに変換する機構としてはそれぞれ熱電素子およびコイルなどが挙げられる。また、電源として燃料電池などを使用してもよい。
【0204】
当然、異なる種類のエネルギ源を混載する手法も可能である。電力以外のエネルギ源を用いる場合、基本的には制御は制御装置4からの電気的信号を用いることになると考えられている。
【0205】
センサ類(物理量入力部)
次にセンサについて説明する。
【0206】
加速度センサ51は支持構造1の3自由度並進加速度を、角加速度センサ52の支持構造1の3自由度回転加速度、焦電型赤外線センサ53は焦電型赤外線センサ検出領域531における赤外線量を検出する。これらのセンサ51〜センサ53の検出結果は制御装置4に送られる。
【0207】
本発明者が用いた加速度センサは帯域40Hzである。なお、加速度センサ51や角加速度センサ52は帯域が高いほど時間的に緻密な制御が可能であるが、ロボット90の浮上状態の変更は1回以上の羽ばたきの結果起きるものであると考えられるので、現在市販されている帯域が数10Hz程度のセンサでも実用可能になる。
【0208】
本実施の形態では加速度センサと角加速度センサとにロボット90の位置および姿勢を検出するものとしたが、ロボット90の位置と姿勢が計測可能な手段であるかどうかは上記センサには限らない。たとえば、互いに直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサを少なくとも2つそれぞれ支持構造1の異なる位置に配置させ、角加速度センサから得られる加速度情報に基づいてロボット90の姿勢を算出することも可能である。
【0209】
また、作業空間92内に地上波を明示的に組込んでおき、これをロボット90が検出して位置および姿勢を算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92内に磁場分布を設けておき、磁気センサによりこの磁場分布を検知することで、ロボット90の位置と姿勢を算出する手法も可能である。また、GPSセンサ等を用いる手法も考えられる。
【0210】
また、後述するベースステーション91など、ロボット90以外においてロボット90の位置と姿勢とを直接検出する手法も考えられる。たとえば、ベースステーション91がカメラを有し、画像処理によってロボット90の位置を算出する手法も可能である。また、先の地上波による検出法とは逆に、ロボット90の発する電波の強度などからロボット90の位置を、ベースステーション91等が算出する手法を用いてもよい。なお、この場合ロボット90における加速度センサ51などは必須ではない。
【0211】
また、加速度センサ51、角加速度センサ52をはじめとするセンサ類は、制御装置4とは別部品として表現されたが、軽量化の観点から、マイクロマシニング技術によって制御装置4と一体で同一のシリコン基板上に形成してもよい。
【0212】
当然本実施の形態におけるセンサは、アプリケーションすなわち警備の目的を達成する最低限の構成要素であって、センサの種類、個数、構成についてはここに示す限りではない。
【0213】
たとえば、ロボット90における羽の駆動には、フィードバックのない制御を用いているが、羽のつけ根に羽の角度センサを設け、ここから得られる角度情報によりフィードバックを行ない、より正確に羽を駆動する方法も可能である。
【0214】
また、逆に、浮上する領域における気流が既知であり、予め定められた羽ばたき方のみによって目的位置に定位することが可能ならば、ロボット90の浮上状態を検出することは不用となるので加速度センサ51や角加速度センサ52は必須ではない。
【0215】
人体検出については、焦電型赤外線センサ53を用いて、従来のロボットに採用されている手法と同様に行なえる。
【0216】
侵入者93もロボット90に対して移動の障害となるが、焦電型赤外線センサ検出領域531をロボット90の下方に配することで、ロボット90が侵入者の情報を飛行しても侵入者を検出することが可能であるため、侵入者93を障害とせず、かつ、侵入者93を検出することが可能である。
【0217】
また、人体検出センサとして、現在広く安価に用いられている焦電型赤外線センサを例として挙げたが、当然これも人体を検出するという機能が達成されるならばこの限りではない。
【0218】
発光ダイオード(物理量出力部)
次に、発光ダイオード8について説明する。
【0219】
発光ダイオード8は、焦電型赤外線センサ53における焦電型赤外線センサ検出領域531を概ね包含する可視光照射領域を有する。また、発光ダイオード8の動作は制御装置4によって制御される。この制御は後述の手法により侵入者を検出した祭に行なわれる。
【0220】
以上の構成より、焦電型赤外線センサ検出領域531内に検出された赤外線放射源を侵入者93であると判断すれば、これに対して可視光を照射することで警告動作を行なうことができる。
【0221】
当然、発光ダイオード8として示した警備装置というアプリケーションにおける警告装置としての機能を満たす構成要素の一例である。すなわち、具体的なアプリケーションによって変更すべき物理量とその変更をもたらす構成要素が決定される。なお、この構成要素は本実施の形態に示された限りではない。
【0222】
上述の構成要素の決定の際、ロボット90の機動性を損なわないためには、当該構成要素の機能を損なわない範囲内で軽量であることが望ましい。
【0223】
たとえば、上述の警備ロボットにおいては、一般に住居等に窃盗などの目的で侵入する者は光や音に最も警戒心を抱くため、小型軽量化である発光ダイオード8はロボット90の機動性を損なわず、かつ、効果的に警告を行なえる警告装置である。なお、より警告効果を高めるには点滅させる等の方法も可能である。
【0224】
また、これとは別に、ロボット90の行動自体も、周囲の物理量に変更を及ぼすので、アプリケーションの求める機能を満たすならば、ロボット90のもたらす物理量の変更を、アプリケーションの目的に用いることも可能である。たとえば、本実施の形態における侵入者に対する警告方法として、侵入者を中心とする円を描くもしくは侵入者に接近衝突するなどの行動様式を用いることで、侵入者に対して警告を行なう手法も可能である。この他、羽ばたきにより発生する音、風圧などを用いることもできる。
【0225】
(ベースステーションの説明)
(主要な構成と主要な機能)
まず、図17を用いてベースステーション91の主要な構成と機能とを説明する。ただし、ベースステーションの主要な目的はロボット90からの情報取得とこれに基づくロボット90の制御であるので、図17はこれを具体化した一例にすぎず、外観、形状、また付帯的な構成要素の有無については上述の目的を害しない限りここに記す限りではない。
【0226】
図17に示すように、ベースステーション91は、演算装置911とメモリ912および通信装置917を備えている。
【0227】
通信装置917は、ロボット90より送信された信号を受信する機能を有する。また、ロボット90に信号を送信する機能を有する。
【0228】
ベースステーション91は、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータなどと、ロボット90より通信装置917を介して受信したロボット90の加速度情報を初めとする各種情報から、ロボット90の行動を決定する機能を有する。また、この行動を通信装置917を介してロボット90に送信する機能を有する。
【0229】
前述の受信機能と行動決定機能と送信機能によってベースステーション91はロボット90自身もしくはその周辺環境情報に基づき通信機能を介してロボット90を制御することができる。
【0230】
ベースステーション91は、その上面をロボット90の離発着台として用いている。すなわち、ベースステーション91上面には充電器913が備わっており、充電孔914にロボット90における電極61が結合することで電気的に電源6に接続され、充電が可能な状態になる。本実施の形態においては節電のため、充電器913は演算装置911により制御され、ロボット90がベースステーション91に結合している際も動作して充電を行なう。
【0231】
また、この充電孔914は位置決め孔の役割も兼ねている。さらに、ベースステーション91には電磁石915が備えられており、必要に応じてロボット90を吸着している。すなわち、離陸前のロボット90におけるベースステーション91に対する相対位置は、電磁石915を動作させることにより固定されており、また相対速度は0である。
【0232】
(動作指示)
本実施の形態においてはベースステーション91は、演算装置911とメモリ912および通信装置917を備えており、メモリ912に格納された作業空間92のマップデータと、予め設定された目的を達成するロボット90の作業空間92における予定経路に対して、ロボット90より受信したロボット90の加速度情報をはじめとする各種情報からロボット90に与えるべき加速度、角加速度を、通信装置917を介してロボット90に送信する機能を有する。
【0233】
たとえば、ロボット90の角加速度情報を2回積分することでロボット90の姿勢を算出することができる。また、これとロボット90の加速度情報を前出るの姿勢で回転変換して得た絶対座標系における加速度情報を2回積分することでロボット90の位置を算出することができる。なお、これらの積分定数は、離陸前の速度、角速度がともに0であり、位置、姿勢はベースステーション91に対して充電孔914に固定されているためいつでも既知である。このようにして演算装置911はロボット90の位置と姿勢を算出し、上述のロボット90への制御指示を行なうことができる。
【0234】
以上の機能により、ベースステーション91が、ロボット90に作業空間92内を巡回させるように制御することが可能になる。
【0235】
また、ベースステーション91は、ロボット90より受信したロボット90搭載の焦電型赤外線センサ53における赤外線量情報等の情報をもとに侵入者の有無を判断し、侵入者ありと判断した場合、侵入者93に対する警告行動となる発光ダイオード8の制御信号を、通信装置917を介してロボット90に送信する。
【0236】
以上の機能により、ベースステーション91が、ロボット90の検出した赤外線情報より、侵入者に警告を発するようロボット90を制御することが可能になる。
【0237】
また、これらの機能は互いに相関することも可能である。たとえば、前述のロボット90における加速度情報と角加速度情報より焦電型赤外線センサ53における赤外線検出領域531の作業空間92における位置を算出することができる。この位置と赤外線量をマッピングすることで赤外線放射源の位置、形状、動作などを算出し、赤外線放射源の重心付近に向けて警告を発するといった手法も可能である。なお、これらのバリエーションは多岐にわたり、アプリケーションによって最適なものをデザインするものであって、ここに示した形態に限るものではない。
【0238】
(巡回手法)
ロボット90における巡回手法は、従来から提案されている車輪などで床面を移動するロボットに用いられてきた巡回手法に、高さ方向の自由度を加えて構築することが可能である。
【0239】
たとえば、まず概ね一定の高さでの巡回を行ない、これが終了した後、ロボット90の高度を変更してまた別の高さで巡回を行なうといった手法で、2次元平面上での巡回の高さ方向の自由度を加え、3次元空間を巡回する手法が実現される。
【0240】
また、焦電型赤外線センサ53の検出距離によっては、ある高さで巡回すれば作業空間92の全域において侵入者を検出することが実質的に可能な場合も考えられる。この場合は、従来から提案されている2次元平面での巡回を行なうアルゴリズムのみで巡回が可能である。
【0241】
これら巡回経路は、ある定まった経路をメモリ912内に予め用意していてもよいし、メモリ912におけるマップデータからある情報を基準に演算装置911が算出する方法も可能である。たとえば、作業空間92における監視上の重要度などを指定し、この重要度に応じて巡回頻度を高く設定するなどの手法が考えられる。
【0242】
なお、巡回中においても経路の変更は可能である。たとえば、侵入者検出時などに、侵入者を検出した位置でホバリングするなどの変更が考えられる。
【0243】
以上に示したのはロボット90の作業空間92の巡回手法の単純な一例であり、この限りではない。ベースステーション91の質量はロボット90の浮上には影響しないため、これらの巡回経路や手法の策定を高度に複雑に行なうことは容易である。
【0244】
(離着陸補助)
羽ばたきの開始もしくは終了時、すなわち、ロボット90の離着陸の際は、羽ばたきによって起こる気流が急激に増加もしくは減少し不安定であるため、ロボット90の位置および姿勢を制御することは難しい。本実施の形態では、離陸前の段階において、ベースステーション91に備えられた電磁石915がロボット90を吸着している。離陸の際は羽ばたきによる気流が安定するまで電磁石915を作動させ、気流が安定した時点で電磁石915による吸着を停止するなどの手法で安定した離陸が可能である。
【0245】
着陸においては、大まかに電極61が充電孔914の上部に位置するようロボット90を移動させ、この状態で電磁石915を作動させ、ロボット90をベースステーション91に吸着する。しかる後に羽ばたきを停止させれば、気流が不安定である状態で着陸時の位置と姿勢を安定させることができる。なお、定位を容易にするため、電極61もしくは充電孔914の少なくとも一方がテーパ状をしていることが望ましい。
【0246】
なお、重量が許すなら、ロボット90が電磁石915を有する構成も可能である。また、この構成により、ロボット90はベースステーション91に限らず、強磁性もしくは軟磁性材料で構成される物質すべてに対して安定した離着陸が可能になる。
【0247】
より加速度の小さい離陸を行なうために、電磁石915に力覚センサを配し、この力覚センサにかかる力によって電磁石915の吸引力を制御する手法も可能である。
【0248】
また、ここに示したのは離着陸時の気流不安定性に伴うロボット90の不安定浮上を防ぐ手法の一例にすぎず、離着陸時にロボット90を一時的に保持する機構であれば他の手段も可能である。たとえば、電磁石915の代わりに空気を用いて吸引する手法も可能である。また、レールなどのガイド機構に沿って離着陸を行なう等の手法も可能である。
【0249】
(システムの動作)
ロボット90はベースステーション91からの指示により作業空間92を巡回し、侵入者を検出する。これをより具体的に一例として記述したものを例として図18および図19を用いて説明する。なお、以下の記述は一例であり、本願の権利請求の範囲を絞るものではない。
【0250】
(静止状態)
ロボット90の動作開始前においては、ロボット90はベースステーション91における充電孔914に電極61が接続され固定されている。また、必要に応じて電源6に対して充電が行なわれている。ベースステーション91における演算装置911、メモリ912は既に動作しているものとする。また、ロボット90の巡回経路は既に演算装置911によって算出されているものとする。また、侵入者を検出した際のロボット90の警告動作は既に演算装置911によって算出されているものとする。上記巡回経路、警告動作をメモリ912に格納しておくことが望ましい。
【0251】
(離陸、上昇)
ベースステーション91における電磁石915が動作し、ロボット90はベースステーション91に吸着される。この状態でロボット90は垂直方向への上昇のための羽ばたき動作を開始する。遅くとも電磁石915が吸着を解除するまでには、ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52、制御装置4、および通信装置7は動作を開始している。また、この際には、ベースステーション91においても通信装置917が動作を開始しており、演算装置911がロボット90の浮上状態を検出できる状態に達している必要がある。
【0252】
羽ばたきによる気流が安定した時点で、電磁石915はロボット90の吸着を止めていく。電磁石915の吸着力とロボット90の浮力がバランスする点よりさらに電磁石915の吸着力を弱めた時点でロボット90が浮上を開始する。
【0253】
また、少なくともロボット90が浮上を開始するまでに、ベースステーション91における演算装置911は、ロボット90の位置と姿勢を求める演算を開始している必要がある。
【0254】
ロボット90はベースステーション91に加速度情報、角加速度情報を送信しつつ上昇する。ベースステーション91はこの情報と目的とする経路より算出されるロボット90の位置と姿勢によりロボット90に現在与えられるべき加速度を算出し、ロボット90に指示する。予め指定された位置にロボット90が到達すると、ベースステーション91の指示によりロボット90はこの高さで巡回を開始する。
【0255】
(巡回)
巡回開始以前に省電型赤外線センサ53を動作させる。この赤外線情報が通信によって演算装置911に送られる。巡回は、ベースステーション91はロボット90の移動を指示しつつ、赤外線情報を監視し、赤外線発信源すなわち発熱源の有無を判定することで行なわれる。ロボットは、障害物を避けるために、一般的な侵入者の身長以上の高さ、たとえば、概ね2m程度の高さを巡回する。また、ロボット90は、たとえば、赤外線情報検出領域531の幅の60%程度の幅ずつずらしながら往復するなどの手法を用いて、作業領域92をくまなく巡回する。
【0256】
(侵入検出、判定)
仮に、発熱源が検出された場合、演算装置911はメモリ912のマップ情報を参照する。マップ情報には予め知られている作業空間92における赤外線放射源すなわち発熱源の情報が含まれており、演算装置911はこれを参照することで、検出された発熱源が既知のものであるか否かを判定する。より具体的には、ロボット90の位置と姿勢により赤外線情報検出領域531の作業空間92における位置を算出し、算出された位置に既知発熱源が存在すれば侵入者でないと判断することができる。
【0257】
また、焦電型赤外線センサは一般的に45度程度の指向性を持つもので、よりこの位置特定を正確に行なうために、移動を伴い連続してもしくは複数回の赤外線情報検出を行なうなどの手法で、1ヵ所以上の測定結果より得られたデータを総合して発熱源の位置と大きさをより正確に算出することが望ましい。
【0258】
より具体的には、ベースステーション91はロボット90の前述の巡回動作を中断させ、発熱源が検出された位置付近をより細かく移動しながら赤外線量を減少させる。たとえば、赤外線量が最大値の1/2になる領域をマッピングするなどの手法で、発熱源の位置と大きさをより正確に算出することができる。場合によっては高度を変更し、高さ方向の大きさと位置を算出することも考えられる。このようにして、特定された赤外線放射源について、マップデータ上に位置と大きさについて該当する既知の赤外線放射源が存在しない場合、ベースステーションはこの赤外線放射源を侵入者と判断し、ロボット90に警告動作を指示する。
【0259】
(警告動作)
警告動作に入る場合は、ベースステーション91は、ロボット90の前述の巡回動作もしくは赤外線放射源特定のための動作を中断させ、侵入者93に対して警告を発する行動をロボット90が実行するように行動決定する。
【0260】
より具体的には、発光ダイオード8を点滅させながら侵入者93の周囲を囲むように移動することで、侵入者93が検出されていることを侵入者93に知らしめることで警告を行なう。
【0261】
(着陸)
巡回終了時以後、ロボット90における焦電型赤外線センサ53は動作を停止する。巡回終了時には、ロボット90における電極61がベースステーション91における充電孔914の鉛直上方に位置するように位置および姿勢を保ちながらロボット90が下降するようにベースステーション91がロボット90を制御する。電磁石915がロボット90の吸着可能な位置にロボット90が位置したと判断した時点で、電磁石915を作動させ、ロボット90をベースステーション91に固定する。
【0262】
ベースステーション91にロボット90が固定された以後、ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52は動作を停止する。ベースステーション91にロボット90が固定されて以後、ベースステーション91はロボット90へ羽ばたきの停止を指示する。これ以後、通信装置7、制御装置4などは停止させてもよい。
【0263】
(フローチャート)
本実施の形態における各情報の流れを図18に示す。また、上記動作のフローチャートを図19に示す。当然これらは一例であり、本実施の形態における警備ロボットというアプリケーションを満足するロボット90の動作はこの限りではなく、また、これまでアプリケーションに用いられる場合、当然この動作は異なったものとなり得る。
【0264】
(巡回時の被認識回避について)
次に、本実施の形態のロボットシステムの巡回時の被認識回避の手法について説明する。
【0265】
実際の警備活動においては、侵入者93がロボット90の存在を認識し、ロボット90における焦電型赤外線センサ53の焦電型赤外線センサ検出領域531を避けて行動するため、本ロボットシステムが侵入者93を検出できなくなる危険がある。このため、ロボット90を侵入者93に認識されにくくする構成が必要になる。
【0266】
被認識回避の手法については、まず、羽ばたきにより生ずる羽音を小さく抑えることが考えられる。羽音を人間の耳の可聴範囲に達しない程度に抑えるには、羽ばたき周波数を低くすることが最も簡単な手法である。本実施の形態における羽ばたきの基本周波数は約32Hzである。これは、一般的なラジコンヘリコプターの100Hzと比べて低い。図20に示すラウドレス曲線によれば、32Hzの音は、100Hzの音と比較して、約30dBすなわち30倍以上も人間の耳の感度が低いため、浮上に伴い発生する音の周波数が低いことは、侵入者から認識されることを避けるのに非常に有利である。なお、人間の耳の感度が20000Hzを超える周波数に対してもやはり極端に低いので、この帯域の周波数で羽ばたく手法によっても、上記と同等の条件を果たすことができる。
【0267】
本実施の形態の羽ばたき装置は、抗力を活用しながら羽ばたき飛行は低い羽ばたき周波数でも浮上が可能である。たとえば、トンボは、約30Hz程度の羽ばたきにて浮上が可能である。この際、羽ばたきにより発生する音の主成分は当然30Hz程度である。これに対して、揚力を用いて飛行するヘリコプターの場合、メインロータにある程度以上の速度が必要なため、一般的な小型ラジコンヘリコプターで100rpm以上、つまり、100Hz以上の周波数を主成分とする音が発生してしまう。
【0268】
図20に示すロビンソンとダドソンのラウドレス曲線によれば、100Hzでの最小可聴音圧は約26dBであるのに対し、50Hzで約43dB、30Hzでは約58dBと、周波数が低ければ人間の耳の感度が著しく低下する。このため、羽ばたきによって発生する音は、侵入者93などによってより聞こえ難く、警備ロボットの存在を認識することが困難である。これは警備目的にとって非常に有利である。
【0269】
また、サイズが小さいと、揚力に対して抗力の比が大きくなってくるため、揚力にて飛行するヘリコプターなどと比較して、羽ばたき飛行は小型化に有利である。すなわち、警備目的に適した、侵入者93に気づかれ難い小さなロボット90を構築しやすい。
【0270】
このような特性を有する羽ばたき装置によれば、具体的に次のように構成することにより被認識を回避することができる。
【0271】
本実施の形態のロボット90は、巡回行動時における、ロボット90がロボット90自身の羽音によって侵入者に認識されることを回避すべき祭における侵入者との間の距離をL、ロボットから距離L0における音圧をP0、ロボット90の羽ばたき周波数をf、ロボットの動作環境における、周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L)2となる範囲の周波数fにて羽ばたくように設定されている。これにより、音によって侵入者93がロボット90を認識してしまうことを避けることができる。
【0272】
また、本実施の形態のロボット90が、羽31,32の膜面に垂直に羽を動かすことで浮上力を得るように設定されている。これにより、羽31,32の端におけるカルマン渦の発生を抑えることができるため、風切り音が小さくなるので、羽ばたき音によって侵入者93にロボット90が認識されてしまうことを抑制することができる。
【0273】
また、羽31,32の膜に平行方向の流速が大きいと、羽の終端にてカルマン渦が発生し、高い風切り音を出してしまうので、本実施の形態に示されるように、羽の膜のなす面に対してなるべく直交方向の羽ばたき、揚力ではなく抗力によって浮上する手法が望ましい。
【0274】
なお、人間の耳の可聴領域は、作業空間92によっても、侵入者93およびその精神状態によっても異なるので、図20は絶対的な手法ではなく、可聴領域を示す一例であるので、これらのデザインはここに示した限りではなく、アプリケーションによって変更されるものである。
【0275】
また、本実施の形態の羽ばたき装置は、少なくとも一部の羽が保護色もしくは透明色である。これにより、より侵入者93が警備する羽ばたき装置(ロボット90)を発見しづらくなるため、侵入者が警備するロボット90を避けることが難しくなる。よって、警備するロボット90が侵入者を検出し損なう頻度を低くすることができる。なお、保護色に適した色は、警備が望む環境によって異なる。たとえば、全体が電灯の灯っていない夜間のオフィスを警備するものであれば、暗い灰色などが望ましい。また、逆に、羽31,32が透明であることも有効である。
【0276】
(通信)
本実施の形態における通信手法について、図21〜図23を用いて説明する。
【0277】
なお、ここでは通信されるデータに対する解説を主に行なう。たとえば、通信のプロトコル、ハンドシェイクのタイミングといった通信の手法の細部についてはさまざまな手法があるが、ここで説明するデータのやり取りが行なえるものであればよい。
【0278】
(静止状態、離陸)
まず、静止状態〜離陸時の通信動作について図21を用いて説明する。
【0279】
まず、ベースステーション91の演算装置911、通信装置917とロボット90の制御装置4、通信装置7を動作させ、ロボット90とベースステーション91のコネクションを確立させる。そしてベースステーション91における電磁石915を動作させ、ロボット90を吸着し、離陸時の不安定な気流によるロボット90の転倒を防止する。
【0280】
ロボット90における加速度センサ51、角加速度センサ52はロボット90の位置と姿勢を正しく把握するために、ロボットが浮上、すなわち加速度もしくは角加速度が0でなくなる以前に動作している必要があるので、羽ばたき開始以前にセンシングを開始しておく。
【0281】
ベースステーション91は、ロボット90に浮上用の羽ばたきを指示する。本実施の形態では鉛直上向きに浮上するような羽ばたきを行なうようにロボット90に加速度、角加速度の指示を行なう。
【0282】
ロボット90においては、予め用意された制御テーブルから、鉛直上向きに上昇するためのα、β、θの時系列のパターンを選び、これに従った羽ばたきを開始するため、左右アクチュエータ21,22を駆動する。
【0283】
ベースステーション91は、タイマで一定時間経過を検出するなどの手法で、ロボットの羽ばたきによる気流が安定するまで待機し、その後、電磁石915の吸着力を低下させていく。
【0284】
その間、ロボット90は自身の加速度情報と角加速度情報とを通信によってベースステーション91に送信する。電磁石915の吸着力が浮力を下回った時点でロボットは浮上する。これはロボット90の速度が0でなくなることによって検出される。浮上が完了すれば、ベースステーション91よりロボット90に浮上完了信号が送信され、巡回モードに入る。
【0285】
(巡回、警告動作)
続いて、巡回時における通信動作を図22を用いて説明する。
【0286】
まず、巡回モードに移行するまでに、ロボット90は赤外線センサを動作させる(図示なし)。
【0287】
次に、ロボット90は各種センサの情報取得を行なう。そして、取得したセンサ情報を、通信を介してベースステーションに送信する。
【0288】
ベースステーション91は受信したロボット90のセンサ情報のうち、加速度情報、角加速度情報から、ロボット90の位置と姿勢を算出する。また、前述のセンサによる赤外線情報を、前述のロボット90の位置と姿勢に対応してマッピングすることで、作業領域92内での赤外線放射分布を求める。これらの位置、姿勢算出処理、赤外線マッピング処理は巡回行動中継続的に行なわれているものとする。
【0289】
得られた赤外線マッピングの結果、メモリ912におけるマップデータに存在しない赤外線放射源が確認されれば侵入者とみなし警告動作を行なう。そうでない場合は巡回を継続する。これら次の行動をベースステーション91は決定し、ロボット90に与えるべき加速度、角加速度をロボット90に指示情報として送信する。
【0290】
ロボット90は受信した指示情報のうちの加速度指示と角加速度指示より、予め用意された制御テーブルより左右アクチュエータの駆動を算出し、これを駆動する。また、警告動作指示が行なわれている場合は、これに従ってLEDの駆動を行なう。警告動作においても、通信態様は、LED駆動を除いて巡回動作と同様である。
【0291】
ベースステーション91が、ロボット90が巡回終了に達したと判断した場合、ロボット90に巡回終了信号を送信し、着陸モードに移行する。
【0292】
(着陸)
続いて、図23を用いて着陸における通信について説明する。
【0293】
ロボット90は、巡回終了後、焦電型赤外線センサ53の動作を停止させる。ベースステーション91は、着陸地点直上、より具体的には、電磁石915によってロボット90を初期位置に吸着可能な領域にロボット90を誘導する。この誘導は巡回時の制御と同様に、ロボット90より受信した加速度情報、角加速度情報より算出したロボット90の位置と姿勢を用いて行なわれる。すなわち、巡回動作と同様の通信態様によって行なわれる。
【0294】
ロボット90が着陸地点直上に来たら、電磁石915を動作させ、ロボット90をベースステーション91に吸着する。その後、継続して動作させる必要がなければ、ベースステーション91はロボット90に対し動作終了を指示する。これによりロボット90は羽ばたき動作、通信動作、センシングを終了させる。
【0295】
なお、通信形態は1例であり、ロボット90のセンサ情報によりベースステーション91がロボット90の行動指示を行なうのであればここで挙げたものに限られない。
【0296】
また、実施の形態では、センサは連続して動作するものとしたが、ベースステーション91によりセンサ情報要求信号を受信したときのみセンサを動作させるといったように、センサの動作を、ベースステーション91からの指示により間欠的に行なう手法も可能である。
【0297】
(機能分担)
本実施の形態におけるロボット90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担について以下に示す。
【0298】
ロボット90とベースステーション91は通信路を通じて情報交換可能なので、各々の機能分担はさまざまな形が可能である。たとえば、上記実施の形態のごとく、ベースステーション91の機能をすべてロボット90に収め、ベースステーション91を廃した、いわゆる、スタンドアロンタイプも可能である。しかし、ロボット90に過剰な質量を搭載すると浮上が困難になる。また、ロボット90が軽量である方が機敏な動きが可能になり、システム動作効率を上げることができる。つまり、一般に、情報処理の大部分はベースステーション91にて行ない、ロボット90を軽量に設計することが望ましい。特に、作業空間92におけるマップデータはその作業空間の大きさ、障害物の多さに依存して大きくなる。このため、ロボット90の搭載重量の増加に繋がらないメモリ912が用意されていることが望ましい。先の項で示した、赤外線放射源の位置特定なども、ベースステーション91における演算装置911にて行なえば、ロボット90における制御装置4には簡素なデバイスを用いることができるため、軽量化が可能である。
【0299】
上述の議論に加え、ロボット90における制御装置4と、ベースステーション91における情報処理の機能分担については、通信速度の向上が重量増加に繋がる点を考慮する必要がある。
【0300】
たとえば電波を用いた通信の場合、通信速度が高速になると、キャリアとしてのエネルギの高い、高周波数の電波を用いなくてはならないため消費電力が大きくなる。このため、電源6の重量増加に繋がる。また、補償回路などを用いて信号品質を向上させなくてはならず、構成要素が増えるため、通信機能の重量増加に繋がる。総合的にはこれらのトレードオフを考慮して、実際の機能分担をデザインする必要がある。
【0301】
たとえば、羽ばたきの細部、すなわち、羽の角度α、β、θをもベースステーション91が指示する場合を考えると、一般に羽ばたき以降の周波数は数10Hz以上であるため、α、β、θの制御周波数帯域はkHzオーダである。この場合、α、β、θのデータがそれぞれ8ビットであるとして、各々1kHzで制御するには、単一の通信路で8(bit)×1(kHz)×3×2(アクチュエータの個数)=48(kbps)の通信速度が必要である。これは送信のみの速度であり、実際には受信のための帯域も必要となる。これに通信のオーバーヘッド、また、省電型赤外線センサ53などのセンサからのデータも加わるため、100kbps程度の通信速度を持った通信方法が必要となる。
【0302】
ところで、ロボット90における前進や後退、左右への旋回といった基本的な動作については、各々の動作に対応した一定のパターンの羽ばたき方を用意することができる。よってこれら基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンをロボット90に内包しておき、ベースステーション91が予定経路にふさわしい基本動作を算出し、ロボット90に指示し、ロボット90は指示された基本動作から内包された羽ばたき方のパターンを選択するなどの手法を用いても、ロボット90に所望の経路を飛行させることができる。
【0303】
このように、ロボット90は羽ばたき方そのものの制御に代表される高い周波数帯域の制御、ベースステーション91は経路制御に代表される低い周波数帯域での制御を受け持つ形態が、制御装置の演算量の軽減、通信経路のトラフィックス軽減の観点から望ましい。なお、これらの基本動作とそれをもたらす羽ばたき方のパターンは、テーブルとして制御装置4に用意しておくのが、処理速度、制御装置4における演算量の低減の観点から望ましい。
【0304】
なお、特に制御装置4に代表される演算装置の演算能力や通信速度は今後大きく向上することが期待されるので、ここで記したロボット90とベースステーション91における情報処理の態様は、現状をもとに基本となる考えを例示したものであり、具体的な機能分担については、今後ここに記した限りではない。
【0305】
(高度制御)
本実施の形態においては、高度制御により容易に異なる階への移動が行なえる。すなわち、マップデータに高さ情報を含めれば、従来の床面移動ロボット制御手法に、高さ方向の制御を加えるだけで、巡回経路の高さ変更を行なうことが可能である。すなわち、階段のマップデータに従って、たとえば、階段における鉛直下方面よりほぼ一定の鉛直方向距離を保つなどのアルゴリズムによって高さを変更しながら浮上移動することで、階段の上り下りが容易に実現できる。
【0306】
当然、先に示した異なる階の移動に階段を用いるのは、異なる階を移動する手法の一例であり、これに限らない。たとえば、通風口や吹きぬけなどを用いることも可能である。
【0307】
(複数の巡回について)
本実施の形態においては、単一の巡回のみを例示したが、巡回の態様についてはこれに限らない。本実施の形態に例示したような巡回行動を繰返し行なうことも可能である。
【0308】
また、このような巡回方法で新たに巡回を行なうことも可能である。
また、本実施の形態においては巡回終了後、ベースステーションに帰還する行動形式を例として示したが、これは一例であり、この限りではない。たとえば、作業空間92に複数のベースステーションを配し、この間を巡回していく手法も可能である。
【0309】
(エネルギ補充機構について)
当然、電源6の充電方法や形態は、軽量化と継続使用を両立させるために一般的に用いられるエネルギ補充の一形態を例示したのみで、電源として機能を満たすものであれば電源6とその充電機構の態様はここに例示した限りではない。
【0310】
たとえば、羽に金属薄膜スパッタリングによってコイルを構成し、外部から電波を与え、これをそのコイルで電力に変換、整流して電源6を充電する方法も可能である。
【0311】
また、たとえば、ベースステーション91以外に充電のみを目的とする充電ステーションが存在し、そこで充電を行なうことも可能である。
【0312】
また、電力以外のエネルギを用いる場合、これに適したエネルギ補充方法が必要となる。もちろん、電極61と充電孔914の形状は本実施の形態に示したものとは限らない。また、本実施の形態に示したように位置決めの役割を兼用していることは必須ではない。
【0313】
(通信について)
本実施の形態においては、ベースステーション91は常にロボット90の情報を得てこれを制御するものとしたが、ロボット90に自律的動作が可能である場合など、常にベースステーション91がロボット90を制御することは必ずしも必要ではない。
【0314】
また、メモリ42に情報を一時的に保存しておくことで、ベースステーション91とロボット90の通信の頻度を下げることができる。これは後述するロボットやベースステーションが複数存在する場合など、通信路のトラフィック低減が求められる場合などに有効である。
【0315】
ロボット90とベースステーション91とのコネクションは、途絶する可能性を前提として設計することが望ましい。ここで、ロボット90に通信路が途絶した場合の行動形式を予め組込んでおけば、コネクションが再開された際通信途絶に起因する悪影響を最小限に抑えることができる。
【0316】
一例として通信路が途絶した場合、ロボット90はホバリングを行なうことで浮上状態を一定に保つ機能を備えておけば、ホバリングせずに移動し続ける場合に比べて障害物に衝突する可能性が小さくなる。
【0317】
また、メモリ42にある程度先の動作モデルをバッファリングしておくことで、通信路が途絶した場合でもロボット90が飛行を続けることができ、逆に、メモリ42にセンサの検出した情報をバッファリングしておき、通信路が回復した際にこれをベースステーション91がやることで、通信路が途絶している間のセンサ情報をベースステーションが得ることができる。
【0318】
また、逆にこういったバッファリングを用いることで、障害物が多く電波がさえぎられやすい環境においてもより微弱な電波でロボットシステムの機能を達成することができるため、省電力化が可能であり、電源6の軽量化に繋がるため、ロボット90の機動性を高めることができる。
【0319】
(環境変化について)
本実施の形態においては説明の簡便のため、作業空間92における環境は変化しないものとしたが、実際の使用においては環境は変化する。主要な環境変化としての気流の発生と障害物の変化が挙げられる。なお、これらの環境変化が存在する場合はその補正手段を用意する必要がある。
【0320】
気流については、羽ばたき飛行であっても一般の航空機と同様の影響を受けるため、この補正は一般的な航空機の経路計画に用いられる手法がそのまま応用可能である。
【0321】
障害物の変化についても、その対処方法は従来の遠隔操作ロボットのシステムに採用されている手法がそのまま適用可能である。たとえば、光センサなどの障害物検出手段をロボット90に設け、その障害物検出データベースをベースステーション91に送信し、ベースステーション91はその情報からマップデータを更新するなどの手法が考えられる。
【0322】
(作業空間とアプリケーションについて)
なお、作業空間92が複数の領域に分かれていることが考えられるが、本実施の形態におけるロボットは概ね差し渡し10cmであるため、直径10cm以上の孔があれば十分通過可能である。ところで侵入者はこの大きさの孔を通ることは不可能であるため、たとえば、オフィスのパーテーションを切りなおした場合などでも、ほとんどシステムを変更する必要がなく新たに警備を行なう領域を追加、もしくは変更することが可能である。
【0323】
また、本実施の形態には屋内での侵入者検出を想定したが、これに限るものではなく、屋外での賃貸検出にも使用可能である。また、センサの調整によって屋内屋外での火災検出など、赤外線放射検出、すなわち温度検出を伴うアプリケーション一般に応用可能である。
【0324】
(システム構成(台数について))
本実施の形態においては説明の簡便のためベースステーションは1台としたが、複数のベースステーションによってロボット90を制御することも可能である。一例として、ベースステーション91とロボット90の通信可能範囲よりも作業空間92が広い場合、作業空間92をカバーするように複数のベースステーションを設け、ロボット90の制御を空間的に分担する手法が挙げられる。また、本実施の形態においては、ベースステーション91に、ロボット90の制御機能と離着陸補助機能とエネルギ補充機能すなわち充電機能を統合したが、これらの機能がベースステーション91に統合されていることは必須ではない。たとえば、通信可能範囲に比べ、航続飛行距離、すなわち、外部から駆動エネルギを補充することなく飛び続けることができる距離が短い場合、1台のベースステーションがカバーする通信範囲内に、他のエネルギ補充ステーションが存在するといった形態が考えられる。
【0325】
逆に、ロボット90も単一である必要はなく、複数のロボットを用いた方が作業空間92の検索効率を高めることができる。たとえば、本実施の形態に示す警備目的の場合、作業空間92をロボット90Aが1回検索するのにかかる時間T1(秒)とすると、ロボット90Aが検索を開始してからT1/2(秒)後にロボット90Bに検索を開始させれば作業空間92におけるある位置の検索頻度は毎秒2/T1(回)となり、2倍の頻度で検索されるため、侵入者を発見する確率が上がる。
【0326】
また、ロボット90同士に通信を行なわせ、複数のロボットでより広い作業範囲を確保する手法も可能である。また、ロボット同士で情報処理を分担する手法も可能である。たとえば、ベースステーション91からの情報処理を仲介するようなロボットも考えられる。
【0327】
また魚群の回遊をモデルとした群行動によって、集団で巡回を行なうなど、ロボット同士、または、これにベースステーション91を含んだ形でのシステム全体としての行動を組込むことも可能である。
【0328】
また、警告動作はロボット90が行なうことは必須ではなく、たとえば、ベースステーション91がこのシステムに示されていない他の警備装置を動作させてもよい。たとえば、一般的なビルにもともと火災報知が備わっているので、ベースステーション91がリレーなどを介してこれを作動させることは容易である。
【0329】
また、当然、ベースステーション91の機能すべてをロボット90に内包でき、かつ、浮上が可能な重量であるならばスタンドアロンタイプとしてロボット90単独での使用形態も可能である。逆に、ほとんどの情報処理をベースステーション91が担い、ロボット90が制御する部位ははアクチュエータのみである形態も可能である。
【0330】
本実施の形態のロボットシステムによれば、ロボットは浮力を得て地面を離れて移動することができるので、たとえば家具などのさまざまな物体が置かれ、そしてそのような物体の位置が時間的に変化する屋内において、そのような障害物を避けて移動することができて、各部屋の状態把握などの所定の作業を行なうことができる。また、屋外においては、たとえば、災害地における障害物や一般のフィールドなどにおける地形などに左右されることなく移動することができて情報収集などの作業を容易に行なうことができる。また、既存作業空間への導入を安価に、簡便に実現できる。
【0331】
本実施の形態のロボットシステムによれば、物理量取得手段と通信手段とを有する上記ロボットと、このロボットと通信によりロボットからの情報を得る、もしくはロボットを制御することが可能なベースステーションとの構成により、ロボットにおける情報処理を浮上に影響しない構成要素にて行なうことができるため、ロボットの起動力を損なうことなく情報処理量を増やすことができる。
【0332】
また、本実施の形態の警備ロボットシステムによれば、小型軽量であるため機動性に優れ、小回りが利き、かつ、小型軽量でありながら大きな段差を越えることができる警備ロボットシステムが、既存のオフィスにほとんど手を加えることなく実現できる。また、階段や通風口、吹きぬけなどを通じて容易に異なる階へ移動することが可能なので、従来施設の改造を行なうことなく、異なる階への警備が容易に行なえる。また、椅子などのように、機能変化する障害物の存在しない高度を飛行させ、侵入者検出を行なうことができるため、従来不可能であった、オフィスの居室などの環境においてそのような障害物に制約されることなく移動できる警備ロボットが実現される。
【0333】
(本実施の形態のロボットシステムの特徴と効果)
本実施の形態におけるロボットシステムは、流体が存在する空間を羽ばたくための羽部と、この羽を羽ばたき運動させるための駆動部と、駆動部を制御するための制御部とを備えたロボットを含み、このロボットを外部の物理量取得機構より得られた情報によりこのロボットの羽ばたき運動の制御を行なう。
【0334】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、好ましくは、物理量取得機構と、流体が存在する空間を羽ばたくための羽部と、この羽を羽ばたき運動させるための駆動部と、駆動部を制御するための制御部とを備え、前記物流取得機構より得られた情報により羽ばたき運動の制御を行なうロボットを含むようにする。
【0335】
このようにすることにより、ロボットが浮上機能を有することによって、床面に何ら接地点を持たず障害物を乗り越えることができるため、段差を乗り越える能力と隙間を通り抜ける能力とのトレードオフが解消される。また、羽ばたき飛行は、希望する方向に独立した加速度を、時間的応答が速く与えられることが可能である。また、停空も可能である。これによって、たとえば、直角に曲がっている隙間でも落下することなく通り抜けることができる。同様に、停空可能であるヘリコプターにおけるこれらの制御は、回転慣性を有するメインロータの仰角制御による前後方向への付加速度制御と、メインロータのトルクを打ち消す補助ロータによる左右方向への姿勢制御のみであり、羽ばたき方の変更によって直接流体から羽の受ける力の向きを変更できる羽ばたき飛行はヘリコプターよりも機動力、すなわち、ロボットが達成可能な加速度と角加速度が大きい。
【0336】
また、同様に、停空可能である飛行船の場合、浮上力が浮力に頼っているので小型化が困難であるため羽ばたき飛行は前述の隙間を通り抜ける能力がこれら飛行船よりも高い。なお、本実施の形態におけるロボットとは、何らかの目的のためにそれ自身またはその周辺における物理量を変更もしくは取得する作業を行なうものを指す。より一般的には、人間の指定する目的のために何らかの作業を行なう。
【0337】
また、物理量とは、たとえば、温度、湿度、電磁波、気圧、流体の速度、電位、流体の濃度等の物理的に測定可能な量のことである。また、物理量取得機構とは、これらのセンサ、たとえば、温度センサや省電型赤外線センサなどを指す。また、物量変更機構とは、上述の物理量を出力する機構で、たとえば、アクチュエータや発光ダイオードまたは発信装置などがある。
【0338】
また、ロボットシステムとはロボットにこれらの目的を行なわせるもの全般を指す。ロボット単独で作業を行なう場合もこのロボット自身をロボットシステムと称する。すなわち、これらの物理量取得機構と物理量変更機構とを有することで、ロボットシステムとして動作することが可能となる。
【0339】
なお、本実施の形態に述べる停空とは、実質上略停止している状態を指す。たとえば、あるセンシングを停空状態で行なう場合、ロボットがある程度以上の速度で飛行しているとセンシングの精度に影響を及ぼすおそれがある。この場合、センサの精度x、センサのセンシング領域半径D[m]とすると、位置がずれおおむねx′D[m]以上になると、位置ずれによるセンシングの誤差がセンサの精度を上回ってセンシングの結果に影響を及ぼすことになる。
【0340】
すなわち、センシングに要する時間をT[sec]として、ロボットの速度がx′D/T[m/sec]以上でのセンシング結果は、位置ずれに起因する誤差をそのセンサの誤差以上に含んでおり、位置ずれに起因してセンシング結果が異なることになる。この場合のように、センシング精度からすればロボットの速度がx′D/T[m/sec]以上である場合、ロボットは停空していない状態である。すなわち、停空しているのにはこの速度以下である必要がある。
【0341】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ロボットにおける、重力加速度の位置計測機構を有し、重力加速度方向の位置を変更可能である浮上機構をロボットが有し、ロボットの重力加速度方向の位置を制御可能である。これにより、ロボットの浮上の高さを変更しつつ移動することが可能になる。
【0342】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、作業空間における障害物の配置の情報を予め有し、ロボットの高度制御を行なうことで、該ロボットにこれら障害物を回避可能な高度を浮上移動させる。ロボットが障害物を回避可能な高度を選択しつつ浮上移動することで、段差を乗り越える機能が実現される。
【0343】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、物理量取得機構における物理量取得領域が、ロボット下部に位置し、物理量取得の際には、該ロボットが物理量取得対象の上方に位置することになる。これにより、ロボットの物理量取得対象そのものが障害物になる場合においてもロボットはその上方を移動するため障害物の少ない領域を飛行することが可能になる。
【0344】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ロボットに対するエネルギ補充機構を含んでいてもよい。これにより、ロボット本体に搭載するエネルギの質量を減らすことができ、ロボット本体を小型軽量化することができる。これは、慣性質量と慣性モーメントとの低減につながり、よりロボットの機動力を高めることができる。
【0345】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、羽ばたき飛行に伴って、複数回もしくは連続した物理量取得を行なう。これにより、物理量をより広範に取得することができる。たとえば、2次元センサを羽ばたき飛行に伴い操作することで2次元や3次元での物理量分布を取得できる。
【0346】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、羽ばたき飛行に伴って、複数回もしくは連続した物量変更を行なうように設定されている。これにより、物量をより迅速に変更することができる。たとえば、LEDのようなほぼ点光源を、羽ばたき飛行に伴い操作することで2次元や3次元でのLED光照射が可能になる。
【0347】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは通信装置を備えたロボットと、この通信装置と通信を行なうことで情報処理の一部を行なう機能を有するベースステーション(もしくは他のロボット)とを含んでいる。
【0348】
浮上するロボットと行動的に連続しない装置に作業の一部を行わせることで、同一の作業を行なう場合にも、浮上するロボットを小型軽量化することができるため、よりロボットの機動力を高めることができる。また、作業量を増やしてもロボット本体の重力増にはつながらない。
【0349】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、バッファリング機能を有している。これにより、ロボットとベースステーションとの通信が途絶した場合にも作業を行なうことができる。このため常に通信が確立するだけの強度の電波での通信を行なう必要がなく、これに用いる電力を減らすことができるため、ロボット本体に搭載する電源の質量を小さくすることができ、よりロボットの機動力を高めることができる。
【0350】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ロボットの位置もしくは姿勢をベースステーション(または他のロボット)で決定し、この決定された位置もしくは姿勢を実現する羽ばたき方をロボット内で決定するようにしている。
【0351】
これは次の理由によるものである。たとえば、ロボットに要求される位置や姿勢は大局的に判断する必要がある。大局的なロボットの運動を算出するには多くのデータが必要であり、このデータをロボットに搭載する質量の増大を招き、ロボットの機動性を低下する。また、より遠距離の情報を収集する必要があるため、情報処理量が増大し、これに応じて演算回路やメモリのサイズも大きくなり、やはりロボットの質量の増大を招き、ロボットの機動性を低下させる。このため、ロボットの経路や姿勢はベースステーションが決定することが望ましい。
【0352】
また、上述の位置や姿勢を実現するためのロボットの羽ばたき方の決定は高速で行なう必要があるが、この決定は高度の知能を要求しない。そのため、これをロボット内部で行なうことにより、通信におけるトラフィックスを削減することができる。それにより、通信に用いる電力を減らすことができるため、ロボット本体に搭載する電源の質量を小さくすることができ、よりロボットの機動力を高めることができる。
【0353】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、人体検出手段および対人警告手段を有するロボットを含むロボットシステムを用い、ロボットが人体検出を行ない、そして、ロボットが対人警告を行なう。これにより、障害物の多い空間でもこれを乗り越えて容易に移動し、警備を行なうことができる警備ロボットシステムが実現される。
【0354】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは作業空間のマップデータをベースステーション(または他のロボット)が有している。大局的なマップデータを有することで、マップデータを反映したより効率的な警備を行なうことができる。
【0355】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、羽ばたき飛行に伴って、複数回もしくは連続した人体検出を行なうように設定されている。このように、ロボットの移動を伴いながらセンシングを行なうことで、センサのセンシング領域よりも広い領域をセンシングすることができる。このため、あえてセンシング領域の広いセンサを使う必要がなくなるため、簡便に安価に、警備ロボットシステムを実現することができる。また、ロボットの小型化軽量化にもつながり、ロボットの機動性を高めることができる。
【0356】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、人体検出手段による人体の検出値のマッピングを用いて人体検出を行なう。これにより、人体検出の判断を容易に行なうことができる。
【0357】
本実施の形態におけるロボットシステムは、羽ばたき飛行に伴って、複数回もしくは連続した対人警告を行なう。これにより、ロボット静止状態で警告動作を行なうよりも広がりを持った警告を行なうことができ、警告動作の効果を高めることができる。
【0358】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、侵入者における認識可能範囲内を含んで移動しつつ対人警告を行なうように設定されている。たとえば、光を発しながら移動するといったような形で、他の対人警告手段とロボットとの浮上態様を併用することで、より効果的に警告を行なうことができる。また、ロボットは、羽ばたきにより風圧や音を出すので、これにより何ら特別な手法を用いることなく侵入者に対する警告を行なうことができる。
【0359】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、侵入者が通過不可能な隙間を通過可能なサイズのロボットを含んでいてもよい。これにより、存在空間への導入が容易になる。たとえば、ロボットのサイズが10cm程度であるならば、ドアにこの程度の穴をあけておけばロボットはドアが閉まっていてもこの穴を通じてそれぞれの空間を巡回可能である。また、侵入者は、10cmの穴からは出入りできないので安全は保たれる。
【0360】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ロボットが通風口もしくはそれに類する部屋の雰囲気通路を介して移動するようにしてもよい。通風口などは既存のオフィスなどに建築段階から配置されているので、これを用いることで何ら既存の空間を加工することなく本警備ロボットシステムが導入できる。
【0361】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、椅子より高い領域をロボットが浮上移動するように設定さえている。多くの場合、オフィスにおける最も高い移動体は椅子であるので、これより高い領域を浮上すれば既知障害物以外の障害物のほとんど存在しない空間を移動でき効率的である。
【0362】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、人体検出手段における人体検出領域に床面を含んでいる。侵入者は床面より上に存在するので、これにより、空間の全てにおいて人体を検出することができる。
【0363】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ロボットが2台以上存在してもよい。これにより、作業を複数のロボットで行なうことができるため作業効率が向上する。
【0364】
また、本実施の形態におけるロボットシステムは、ベースステーションが2台以上存在してもよい。これにより、ロボットの通信範囲が狭くても、広い作業領域においてロボットが作業を行なうことが可能になる。
【0365】
なお、本実施の形態のロボットシステムは、次のようなものであってもよい。本発明のロボットシステムは、羽ばたきロボットが、羽ばたき運動するための左羽部および右羽部と、左羽部を駆動するための左駆動部と、右羽を駆動する右羽部とを有し、羽ばたき飛行制御装置が、左駆動部と右駆動とをそれぞれ独立して制御することが可能に構成されていてもよい。
【0366】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき飛行制御装置が、左羽部と右羽部との羽ばたき周波数、ストローク角、偏角および捻り角のうち少なくともいずれかを制御することにより、羽ばたき態様を変更するようにしてもよい。
【0367】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき飛行装置は、左羽部の羽ばたき態様と右羽部の羽ばたき態様と異ならせることにより、羽ばたきロボットの左右方向の移動を制御するようにしてもよい。
【0368】
本発明のロボットシステムは、羽ばたき飛行装置が、左羽部の偏角と右羽部の偏角を変更することにより、羽ばたきロボットの前後方向の移動を制御するようにしてもよい。
【0369】
本実施の形態のロボットシステムは、羽ばたき装置が、羽部と右羽部のストローク角および羽ばたき周波数を変化させることにより、羽ばたきロボットの上下方向の移動を制御するようにしてもよい。
【0370】
また、羽ばたき飛行制御装置が、羽部の予め定められたストローク角、偏角および捻り角の時系列値を記憶する羽ばたき飛行時系列態様記憶手段を含み、羽ばたき飛行時系列態様記憶手段に記憶されたストローク角、偏角および捻り角を参照して、羽ばたきロボットの羽ばたき態様を決定するように設定されているようにしてもよい。
【0371】
また、羽ばたきロボットが、羽の動作を記憶する羽動作時系列記憶手段を含み、羽ばたき飛行制御手段が、羽動作時系列記憶手段に記憶された羽の動作の時系列記憶を用いて、羽ばたきロボットの羽ばたき態様制御指令を補正するようにしてもよい。
【0372】
次に、上記ロボットの別実施の形態を説明する。
(別実施の形態)
本実施の形態のロボットシステムは、前述の実施の形態と略同様であるが、羽ばたき装置としての羽ばたきロボットの構造のみが異なる。すなわち、本実施の形態の羽ばたきロボットは、前述の実施の形態のロボットシステムにおいて用いられ、ベースステーションと通信制御の関係は同様の関係で用いられる。さらに、本実施の形態では、羽ばたきロボットの羽ばたき飛行に関してのみ説明するが、羽ばたきロボットには人体を検出するためのセンサとして前述の実施の形態と同様のセンサが設けられており、警告するための手段として前述の実施の形態と同様の発光ダイオードなどの警告手段が設けられているものとする。
【0373】
別実施の形態に係る羽ばたき装置について説明する。図24(a)および図24(b)は、羽部として2本の羽軸を有する羽ばたき装置を示す図である。図24(a)では、羽ばたき装置の前方正面部分が示され、図24(b)では、羽ばたき装置の前方正面に向かって左側面部分が示されている。
【0374】
なお、図24(a)および図24(b)では羽ばたき装置の前方正面に向かって左羽しか示されていないが、実際には、胴体部105の中心軸を挟んで左右対称に右羽も形成されている。また、説明を簡単にするため、胴体部105が延びる方向に沿った軸(胴体軸801)は水平面内にあり、重心を通る中心軸802は鉛直方向に保たれているとする。
【0375】
図24(a)および図24(b)に示すように、羽ばたき装置の胴体部105には、前羽軸103および後羽軸104と、その前羽軸103と後羽軸104との間を渡すように設けられた羽の膜106とを有する羽(左羽)が形成されている。
【0376】
また、胴体部105には、前羽軸103を駆動するための回転型アクチュエータ101と後羽軸104を駆動するための回転型アクチュエータ102とが搭載されている。このようなアクチュエータ101、102の配置や前羽軸103、後羽軸104および羽の膜106を含む羽の形状は、飛行の性能が損なわれないならばこれに限られるものではない。
【0377】
さらに、この羽ばたき装置の場合、羽の断面形状を鉛直上方に凸となるようにしておけば、水平方向への飛行に際して抗力だけでなく揚力も発生して、より大きな浮上力が得られることになる。
【0378】
また、この羽ばたき装置の重心の位置は、羽ばたき装置の安定性を重視するために羽が周囲の流体により受ける力のアクチュエータに対する作用点の位置よりも下方になるように設定されている。一方、羽ばたき装置の姿勢を容易に変更する観点からは重心とその作用点を略一致させておくことが望ましく、この場合には、姿勢制御に必要な左右の羽が流体から受ける力の差が小さくなって、羽ばたき装置の姿勢変更を容易に行うことができる。
【0379】
2つの回転型アクチュエータ101、102は互いに回転軸800を共有している。この回転軸800は胴体軸とは所定の角度(90°−θ)をなしている。前(後)羽軸103、104はアクチュエータ101、102を支点として回転軸800と直交する平面内を往復運動する。この回転軸800と直交する平面と胴体軸801とのなす角度が仰角θとなる。
【0380】
胴体部105としては、機械的強度を確保するとともに、十分な軽量化を図るために、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを円筒状に成形したものが望ましいが、このような材料や形状に限定されるものではない。
【0381】
アクチュエータ101、102としては、起動トルクが大きいこと、往復運動が簡単に実現できること、構造が単純なことなどから、圧電素子(ピエゾ)を用いた超音波進行波アクチュエータを用いるのが望ましい。これには、回転型アクチュエータとリニア型アクチュエータとの2つの種類がある。図24(a)および図24(b)では、回転型アクチュエータが用いられている。
【0382】
ここでは、進行波を用いた超音波素子によって羽を直接駆動する方法を中心に説明するが、この羽を駆動するための機構や、それに用いるアクチュエータの種類については特に本実施の形態に示したものに限られない。
【0383】
回転型アクチュエータとしては、図24(a)(b)に示された回転型アクチュエータ101、102の他に、たとえば図34に示される回転型アクチュエータ401を用いてもよい。
【0384】
図34に示された羽ばたき装置では、胴体部404に搭載された回転型アクチュエータ401に羽403が取付けられている。羽403は回転型アクチュエータ401の回転軸402を中心として往復運動をする。
【0385】
また、羽を駆動するための機構としては、特開平5−1695675号公報に記載されているような外骨格構造とリニアアクチュエータを組合わせた機構を適用して、たとえば図35または図36に示すような羽ばたき装置を構成してもよい。
【0386】
図35に示された羽ばたき装置では、リニアアクチュエータ501の一端に、前羽軸または後羽軸503が接続されている。胴体部504に装着されたヒンジ502を介してリニアアクチュエータ501の運動が前羽軸または後羽軸503に伝えられることで羽ばたき運動が行われる。この羽ばたき運動は、羽を直接筋肉で駆動するトンボの羽ばたき運動にヒントを得たものである。
【0387】
図36に示された羽ばたき装置では、胴体部は上面胴体部603と下面胴体部604に分けられている。下面胴体部604に固定されたリニアアクチュエータ601の運動が上面胴体部603に伝えられる。そして、その上面胴体部603の運動がヒンジ602を介して前羽軸または後羽軸603に伝えられることで羽ばたき運動が行われる。この羽ばたき運動は、トンボ以外のハチなどが用いている羽ばたき運動にヒントを得たものである。
【0388】
図36に示す羽ばたき装置の場合、1つのアクチュエータ601によって左右の羽軸603が同時に駆動されるため、左右の羽軸を別々に駆動することができず、細かな飛行制御を行うことはできないが、アクチュエータの数を減らすことができて、軽量化および消費電力の低減を図ることが可能である。
【0389】
さて、図24(a)および図24(b)に示された羽ばたき装置では、回転型アクチュエータ101、102には前羽軸103と後羽軸104とがそれぞれ接続されている。前羽軸103と後羽軸104と間には羽の膜106が張られている。羽の膜106はその面内において収縮する方向に自発的な張力を有しており、羽全体の剛性を高める働きをしている。
【0390】
軽量化のため前羽軸103と後羽軸104は中空構造であり、それぞれカーボングラファイトから形成されている。このため、前羽軸103と後羽軸104には弾力性があり、前羽軸103と後羽軸104とは羽の膜106の張力により変形可能である。
【0391】
図37は本羽ばたき装置の全体の構造を示す図である。なお、前方方向(紙面に向かって上)に向かって左側の羽は省略されている。
【0392】
胴体部700には、超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703および角加速度センサ704が配されている。これらのセンサによる検出結果は羽ばたき制御部705に送られる。羽ばたき制御部705では、超音波センサ701や赤外線センサ702によって検出された結果から羽ばたき装置と周囲の障害物や人間との距離などが情報が処理される。また、加速度センサ703や角加速度センサ704によって検知された結果から、羽ばたき装置の浮上状態、目的位置または姿勢などの情報が処理処理されて、左右のアクチュエータ706および重心制御部707の駆動制御が決定される。
【0393】
なお、ここでは、本羽ばたき装置の周囲に存在する障害物を検出する手段として超音波センサ701および赤外線センサ702を用い、本羽ばたき装置の位置および姿勢を検出する手段として加速度センサ703および角加速度センサ704を用いたが、本羽ばたき装置の周囲環境や位置と姿勢が計測可能なセンサであれば、上記センサに限られない。
【0394】
たとえば、直交する3軸方向の加速度を測定可能な加速度センサ2つをそれぞれ胴体部700の異なる位置に配して得られる加速度情報からも、本羽ばたき装置の姿勢を算出することは可能である。また、本羽ばたき装置が移動する空間内に磁場分布を設けておき、磁気センサによってこの磁場分布を検知することで本羽ばたき装置の位置と姿勢を算出することも可能である。
【0395】
また、図37では、加速度センサ703および角加速度センサ704をはじめとするセンサ類は、羽ばたき制御部705とは別部品として示されているが、軽量化の観点から、たとえばマイクロマシニング技術により羽ばたき制御部705と一体で同一基板上に形成してもよい。
【0396】
また、本羽ばたき装置では羽の駆動をオープンループ制御としているが、羽の付け根に羽の角度センサを設け、この角度センサから得られる角度情報によりクローズドループ制御を行なうことも可能である。
【0397】
なお、浮上する空間における流体の流れが既知であり、予め定められた羽ばたき方法によって浮上することが可能ならば、ここに挙げたセンサ類は必須ではない。
【0398】
羽ばたき制御部705はメモリ部708と接続されており、羽ばたき制御に必要な既存のデータをメモリ部708から読出すことができる。また、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に送込み、必要に応じてメモリ部708の情報を書換えることもでき、羽ばたき装置として学習機能を持たせることができる。
【0399】
なお、各センサ701〜704によって得られた情報をメモリ部708に蓄積するだけであれば、羽ばたき制御部705を介さずにメモリ部708と各センサ701〜704とが直接接続されていてもよい。また、羽ばたき制御部705は通信制御部709と接続されて、通信制御部709とデータの入出力を行うことができる。通信制御部709は、アンテナ部710を介して外部の装置(他の羽ばたき装置やベースステーションなど)とのデータの送受信を行う。
【0400】
このような通信機能により、羽ばたき装置が取得してメモリ部708に蓄えられたデータを速やかに外部の装置に転送することができる。また、羽ばたき装置では入手できない情報を外部の装置から受取り、そのような情報をメモリ部708に蓄積することで、羽ばたきの制御に利用することもできる。たとえば、大きなマップ情報のすべてを羽ばたき装置に記憶さなくても、随時、必要な範囲のマップ情報をベースステーションなどから入手することなどが可能となる。
【0401】
なお、図37では、アンテナ部710は胴体部700の端から突き出た棒状のものとして示されているが、アンテナの機能を有するものであれば、形状、配置などこれに限られない。たとえば、前羽軸712や後羽軸713を利用して、羽の上にループ状のアンテナを形成してもよい。また、胴体部700にアンテナを内蔵した形態でも、あるいは、アンテナと通信制御部709とを一体化させた形態でもよい。
【0402】
超音波センサ701、赤外線センサ702、加速度センサ703、角加速度センサ704、羽ばたき制御部705、左右のアクチュエータ706、重心制御部707、メモリ部708、通信制御部709およびアンテナ部710などは、電源部711により供給される電流によって駆動される。
【0403】
ここでは、駆動エネルギーとして電力を用いたが、内燃機関を用いることも可能である。また、昆虫の筋肉に見られるような、生理的酸化還元反応を用いたアクチュエータを用いることも可能である。あるいは、アクチュエータの駆動エネルギーを外部から取得する方法も採用できる。たとえば、電力については熱電素子、電磁波などが挙げられる。
【0404】
(浮上方法)
説明の簡便のため、本羽ばたき装置に作用する外力は、羽が流体から受ける流体力と羽ばたき装置に作用する重力(羽ばたき装置の質量と重力加速度との積)のみであるとする。本羽ばたき装置が恒常的に浮上するためには1回の羽ばたき動作の間の時間平均において、次の関係、
(羽に作用する鉛直上方向の流体力)>(本羽ばたき装置に作用する重力)
を満たすことが必要とされる。1回の羽ばたき動作とは、羽を打ち下ろし次に羽を打ち上げる動作をいう。
【0405】
さらに、鉛直上向きの流体力を卓越させて上昇させるためには、
(打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力)>(打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力)
となる必要がある。
【0406】
ここでは、昆虫の羽ばたき方を単純化した羽ばたき方法により、打ち下ろし動作において羽に作用する鉛直上向きの流体力(以下「打ち下ろし時の流体力」と記す。)を、打ち上げ動作において羽に作用する鉛直下向きの流体力(以下「打ち上げ時の流体力」と記す。)より大きくする方法について説明する。
【0407】
説明の簡便のため、流体の挙動もしくは流体が羽に及ぼす力については、その主要成分を挙げて説明する。また、この羽ばたき方法により得られる浮上力と、本羽ばたき装置に作用する重力(以下「重量」と記す。)の大小については後述する。
【0408】
打ち下ろし時の流体力を打ち上げ時の流体力よりも大きくするためには、打ち下ろし時に羽の膜106が移動する空間の体積が最大になるように打ち下ろせばよい。そのためには、羽の膜106を水平面と略平行に打ち下ろせばよく、これにより、ほぼ最大の流体力を得ることができる。
【0409】
反対に、打ち上げ時には羽の膜106が移動する空間の体積が最小になるように打ち上げればよい。そのためには、羽の膜106を水平面に対して略直角に近い角度で打ち上げればよく、これにより、羽に及ぼされる流体力はほぼ最小となる。
【0410】
そこで、回転型アクチュエータ101、102により回転軸800の周りに両羽軸103、104を往復運動させる際に、各羽軸103、104が水平面と略一致する位置を中心として上方と下方とにそれぞれ角度γだけ往復運動させるとする。さらに、図25に示すように、前羽軸103の往復運動に対して後羽軸104の往復運動を適当な位相φだけ遅れさせる。
【0411】
これにより、図26〜図33(ここではφ=20°として描いた)に示す一連の羽の往復運動のうち、図26〜図30に示された打ち下ろし時においては、より高い位置にある回転型アクチュエータ301の前羽軸303が先に打ち下ろされるため、前羽軸303および後羽軸304の先端と羽の膜306が水平に近づく。
【0412】
一方、図30〜図33に示された打ち上げ時においては、両羽軸103、104の先端の高さの差が拡大されて、羽の膜306も垂直に近づく。この結果、前羽軸303と後羽軸304に張られた羽の膜106が流体を押し下げ、あるいは、押し上げる量に差異が生じ、この羽ばたき装置の場合には、打ち下ろし時の流体力の方が打ち上げ時の流体力よりも大きくなって浮上力が得られることになる。
【0413】
この浮上力のベクトルは、位相差φを変化させることにより前後に傾く。前方に傾けば推進運動、後方に傾けば後退運動、真上に向けば停空飛翔(ホバリング)状態となる。なお、実際の飛行では、位相差φ以外にも、羽ばたき周波数fや羽ばたき角γを制御することが可能である。また、この羽ばたき装置では、羽ばたき仰角θを固定しているが、これを変化させる機能を追加して、自由度を増やしても構わない。
【0414】
(羽ばたき制御)
実際の羽ばたき制御についてさらに詳細に説明する。上述した羽ばたき装置では、打ち下ろし動作または打ち上げ動作の際に、羽の先端部がなす捻り角αは、羽の長さ(羽の膜の前羽軸および後羽軸に沿った長さ)をl、羽の幅(前羽軸と後羽軸の間隔)をw、羽ばたき角をγ、羽ばたき運動の位相をτ(最も打ち上げた瞬間を0°、最も打ち下ろした瞬間を180°とする)、前羽軸と後羽軸の位相差をφとすれば(図26、31、32を参照)、およそ以下の式で表わされる。
【0415】
tanα=(w/l)・〔sin(γ・cosτ)−sin{γ・cos(τ+φ)}〕
実際には、前羽軸や後羽軸には弾性があり変形可能であるので、この捻り角αは多少違った値をとる。また、羽軸の根元ほどこの角度は小さい。しかし、以下の議論では簡便のため、上の式のαを用いて説明する。
【0416】
捻りを加えていない羽に作用する流体力の鉛直方向成分Fは、流体の密度をρ、羽ばたき角度をγ、羽ばたき周波数をfとして、およそ
F=(4/3)・π2ρwγ2f2l3・sin2τ・cos(γ・cosτ)
となる。なお、羽に作用する流体力の水平方向成分は、左右の羽が同じ運動をすれば互いに打ち消し合うことになる。
【0417】
羽に捻り角αをもたせると、上記成分Fの羽ばたき運動平面に垂直な成分Lと、水平な成分Dはそれぞれ次のようになる。
【0418】
L=F・cosα・sinα
D=F・cos2α
これに、羽ばたき仰角θを考慮すると、重量と釣り合うべき鉛直方向の成分Aと、前後運動の推力となる水平方向成分Jは、打ち下ろし時では、
A↓=−L・cosθ+D・sinθ
J↓=−L・sinθ−D・cosθ
打ち上げ時では、
A↑=L・cosθ−D・sinθ
J↑=L・sinθ+D・cosθ
となる。実際の浮力や推進力は、羽ばたき運動の1周期分を積分したものとなる。
【0419】
以上より、この飛行制御の一例として、羽ばたき装置の羽の長さl=4cm、羽の幅w=1cm、羽ばたき仰角θ=30°、羽ばたき角γ=60°、羽ばたき周波数f=50Hz、打ち下ろし時の位相差φ↓=4°、打ち上げ時の位相差φ↑=16°とした場合における鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図38に示す。
【0420】
横軸は1周期分の時間が位相τとして表わされている。前半が打ち下ろし、後半が打ち上げを示している。各グラフの曲線は前羽軸の羽ばたき角γf、後羽軸の羽ばたき角γb、水平面からの羽の捻り角(α+θ)、流体力の鉛直方向成分Aおよび水平方向成分Jの時間変化をそれぞれ示している。
【0421】
この例では、単位時間当りの流体力の鉛直方向成分Aにおいては打ち下ろし時の方が打ち上げ時よりも大きいため、1周期の平均で約500dynの鉛直上向きの流体力が1枚の羽で得られる。したがって、2枚の羽では羽ばたき装置の重量が約1g以下であれば浮上することができることになる。また、単位時間当りの流体力の水平方向成分Jは、1周期の間にほぼ打ち消されるため、重量1g程度の羽ばたき装置であればホバリング可能となる。
【0422】
ここで、打ち下ろし時の位相差φ↓を大きく、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を小さくすれば、前進することができる。このとき、水平に前進させるためには、周波数fを少し小さくするのが望ましい。逆に、打ち下ろし時の位相差φ↓を小さくし、もしくは、打ち上げ時の位相差φ↑を大きくすれば後退することができる。このとき、水平に後退させるためには、周波数fを少し大きくすることが望ましい。
【0423】
この羽ばたき装置では、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を7°と大きくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を11°と小さくし、そして、羽ばたき周波数f=48Hzに下げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に前進することができる。
【0424】
また、たとえば、打ち上げ時の位相差φ↑を16°に保ったまま打ち下ろし時の位相差φ↓を1°と小さくするか、打ち下ろし時の位相差φ↓を4°に保ったまま打ち上げ時の位相差φ↑を24°と大きくし、そして、羽ばたき周波数f=54Hzに上げることで、最初の1秒間におよそ1mの速度で水平に後退することができる。
【0425】
ホバリング状態のまま、羽ばたき装置を上昇または下降させるためには、周波数fを上げるかまたは下げるかすればよい。水平飛行中でも、上昇と下降については、主に周波数fによって制御が可能である。周波数fを上げることで羽ばたき装置は上昇し、周波数を下げることで羽ばたき装置は下降する。
【0426】
この例では、打ち上げ動作中もしくは打ち下ろし動作中にも、羽の捻り角αをゆっくり変化させているが、これは、アクチュエータへの負荷を減らすためである。浮力を得るための羽ばたき運動としては、打ち上げ動作中や打ち下ろし動作中は羽の捻り角αを一定の値に設定して、打ち下ろし動作から打ち上げ動作、もしくは、打ち上げ動作から打ち下ろし動作への変化点において捻り角αを急激に変化させるようにしてもよい。
【0427】
羽ばたき仰角θ=0°とした場合の鉛直方向成分Aと水平方向成分Bの時間変化を各角度の時間変化とともに図39に示す。この場合は、ハチドリのホバリングにヒントを得た羽ばたき運動である。なお、左右への舵取りは、左右の羽の羽ばたき運動を別々に制御できる場合、それぞれの羽による推力に差を持たせればよい。たとえば、前方へ飛行中に右方向へ旋回するには、右羽の羽ばたき角γを左羽よりも小さくする、または、右羽の前羽軸と後羽軸の位相差を、左羽より大きくする、あるいは、羽ばたき仰角θが制御できるような場合には、右羽のθを左羽よりも小さくするといった制御を行なう。これにより、右羽の推進力が左羽の推進力に比べて相対的に下がり右に旋回することができる。羽ばたき装置を左へ旋回させる場合には、その逆の制御を行なえばよい。
【0428】
一方、図36に示された羽ばたき装置のように、左右の羽を別々に制御することができないような場合には、図37に示された羽ばたき装置に搭載されているような重心制御部707をこの羽ばたき装置に搭載して、羽ばたき装置の重心を左右にずらすことで左右への旋回を行うことができる。
【0429】
たとえば、重心を右にずらして右羽を下方へ左羽を上方へ傾け、そして、周波数fを大きくすることで、羽ばたき装置を右へ旋回させることができる。重心を左にずらして、同様に、周波数fを大きくすることで、羽ばたき装置を左に旋回させることができる。なお、この方法は2つの羽を別々に制御することができる場合にも適用することができる。また、いずれの羽ばたき装置においても、姿勢の安定を保つために、左右のそれぞれの羽ばたきの周波数fを同じ値に設定しておくことが望ましい。
【0430】
最後に、本実施の形態のロボットシステムに用いられる羽ばたき装置の構成およびその効果をまとめて記載しておく。
【0431】
本実施の形態の羽ばたき装置は、流体が存在する空間を羽ばたくための羽部と駆動部と胴体部とを含む浮上本体部を備えている。駆動部は、羽部を上方から下方に向かって打ち下ろす打ち下ろし動作と、羽部を下方から上方に向かって打ち上げる打ち上げ動作とを行う。胴体部には羽部が取付けられ、駆動部が搭載される。そして、一連の打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなる。
【0432】
この構造によれば、羽部の羽ばたき動作において打ち下ろし動作および打ち上げ動作の間の時間平均では、羽部が流体から受ける力のうち鉛直上向きの力が浮上本体部に作用する重力よりも大きくなることで、浮上本体部に浮力が与えられることになる。その結果、浮上本体部は地面に接することなく移動することができる。
【0433】
浮上本体部に浮力を与えるためには、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積は打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きいことが望ましく、たとえば、浮力と浮上本体部に作用する重力とを釣り合わせることで地面から離れた状態で空間に留まる停空飛翔(ホバリング)も可能になる。
【0434】
このような浮上本体部は、屋内において所定の作業を行うための移動手段として用いられること、または、屋外において所定の作業を行うための移動手段として用いられることが望ましい。
【0435】
浮上本体部は浮力を得て地面を離れて移動することができるので、たとえば家具等のさまざまな物体が置かれ、そして、そのような物体の位置が時間的に変化する屋内において、そのような障害物を避けて移動することができて各部屋の状況把握等の所定の作業を容易に行うことができる。また、屋外においては、たとえば災害地における障害物や一般のフィールドなどにおける地形等に左右されることなくに移動することができて、情報収集等の所定の作業を容易に行うことができる。
【0436】
具体的に、羽部は羽本体部と羽本体部を支持する羽軸部とを有し、駆動部は、羽軸部を駆動させることにより羽本体部の先端部と仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
【0437】
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
【0438】
また、打ち下ろしの動作の際に羽部が移動する空間の体積を打ち上げの動作の際に羽部が移動する空間の体積よりも大きくするために、駆動部は打ち下ろし動作における捻り角と打ち上げ動作における捻り角とを異ならせる必要がある。
【0439】
さらに、駆動部は捻り角を時間的に変化させることが望ましい。
この場合には、羽部の姿勢を滑らかに変化させることができて、羽部に急激に流体力が作用するのを抑制することができる。
【0440】
また、羽軸部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを含み、羽本体部は一方側羽軸部と他方側羽軸部との間を渡すように形成された膜部を含み、駆動部は一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることが望ましい。
【0441】
この場合、一方側羽軸部と他方側羽軸部とを個々に駆動させることで、捻り角を容易に変えることができる。
【0442】
そして、羽軸部は駆動部を支点として仮想の一平面上を往復運動し、胴体部は一方向に向かって延び、胴体部が延びる方向と仮想の一平面とがなす仰角が変えられることが望ましい。
【0443】
この場合には、羽ばたき運動の自由度が増えて、より複雑な羽ばたき運動を実現することができる。また、この仰角をより大きくし捻り角を制御することで、より高速な飛行を行うことができる。さらに、この仰角を実質的に0°にすることで、機動性に優れハチドリのようなホバリングを行うことができる。
【0444】
また具体的に、羽部は主軸部とその主軸部から主軸部が延びる方向と略直交する方向に形成された羽本体部とを有し、駆動部は主軸部を駆動させることにより羽本体部に接する仮想の一平面と主軸部を含む仮想の所定の基準面とのなす捻り角を変化させることが望ましい。
【0445】
これにより、羽部が流体から浮ける流体力の大きさや向きが変化して、浮上本体部を上昇、下降、前進または後退させることができる。
【0446】
このような主軸部にて羽部の姿勢を変えるためには、駆動部は少なくとも3自由度を有するアクチュエータを含んでいることが望ましい。
【0447】
また、羽部は胴体部の略中心を挟んで一方側と他方側とにそれぞれ形成され、駆動部は一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部とを個々に駆動させることが望ましい。
【0448】
この場合には、一方側に形成された羽部と他方側に形成された羽部の姿勢を個々に変化させることができて、容易に浮上本体部の向きを変えることができる。
【0449】
さらに、周囲の状況を把握するためのセンサ部、情報を記憶するためのメモリ部、あるいは、情報を送受信するための通信部を備えていることが望ましい。
【0450】
センサ部を備えることで、浮上本体部の位置や姿勢、速度、周囲の障害物の位置や移動速度、温度や明るさなどの環境情報を入手し、より適切な羽ばたき制御を行うことができる。また、メモリ部を備えることで、得られた環境情報を蓄積することができて、浮上本体部に学習機能をもたせることができる。さらに、通信部を備えていることで、複数の浮上本体部とベースステーションとの間で情報のやり取りを行なうことができ、取得した情報を交換することで複数の浮上本体部間で協調行動などを容易に行なうことができる。
【0451】
(権利請求範囲について)
また、本実施の形態に示したアプリケーションは一例であり、本願においての権利請求範囲は特許請求の範囲の項に示されるものである。たとえば、赤外線センサの検出温度範囲を変更すれば火災検出してコンピュータの異常感熱を検出するアプリケーションが考えられる。また、屋外で本システムを用い、人体捜査などを行なうアプリケーションも考えられる。また、上記の実施の形態においては、羽ばたき装置を中心に説明したが、ロボットシステムによる警備は、羽ばたき装置以外にラジコンヘリコブターや気球等の浮上移動装置を用いても実現可能である。
【0452】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0453】
【発明の効果】
本発明のロボットシステム、羽ばたき装置、または、羽ばたき飛行制御装置によれば、ロボットを障害物の多い環境においても障害物に制約されることなく移動させことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態のロボットのシステムの構成を示す概略図である。
【図2】 実施の形態のロボットの構造を示す正面図である。
【図3】 実施の形態のロボットの羽を示す拡大斜視図である。
【図4】 実施の形態のロボットの羽のストローク角θと偏角αを示す図である。
【図5】 実施の形態のロボットの羽のねじり角βを示す図である。
【図6】 実施の形態のロボットの羽ばたきに用いるアクチュエータのステータ部分を解説するための図である。
【図7】 実施の形態のロボットの羽ばたきに用いるステータを用いて構成したアクチュエータを解説するための図である。
【図8】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における打下ろし動作を示す図である。
【図9】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における打上げ動作を示す図である。
【図10】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における第1の状態を示す図である。
【図11】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における第2の状態を示す図である。
【図12】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における第3の状態を示す図である。
【図13】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における第4の状態を示す図である。
【図14】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における羽の駆動の時間依存を示す第1のグラフである。
【図15】 実施の形態のロボットの羽ばたき動作における羽の駆動の時間依存を示す第2のグラフである。
【図16】 実施の形態のロボットの羽を駆動する際のアクチュエータのトルクと始点反力とのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図17】 実施の形態のロボットシステムのベースステーションの構成を示す概念図である。
【図18】 実施の形態のロボットシステムの各構成要素の関連を示す説明図である。
【図19】 実施の形態のロボットシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
【図20】 ロビンソンとダドソンのラウドレス曲線を示す図である。
【図21】 実施の形態のロボットの離陸過程における情報処理を表わすフローチャートである。
【図22】 実施の形態のロボットの巡回過程における情報処理を表わすフローチャートである。
【図23】 実施の形態のロボットの着陸過程における情報処理を示すフローチャートである。
【図24】 別実施の形態に係る羽ばたき装置を示す図であり、(a)はその部分正面図であり、(b)はその部分側面図である。
【図25】 別実施の形態において、羽ばたき運動と羽ばたき運動の位相との関係を示すグラフである。
【図26】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第1の状態を示す図である。
【図27】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第2の状態を示す図である。
【図28】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第3の状態を示す図である。
【図29】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第4の状態を示す図である。
【図30】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第5の状態を示す図である。
【図31】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第6の状態を示す図である。
【図32】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第7の状態を示す図である。
【図33】 別実施の形態において、羽ばたき装置における羽ばたき動作の第8の状態を示す図である。
【図34】 別実施の形態において、一変形例に係る羽ばたき装置を示す正面模式図である。
【図35】 別実施の形態において、他の変形例に係る羽ばたき装置を示す正面模式図である。
【図36】 別実施の形態において、さらに他の変形例に係る羽ばたき装置を示す正面模式図である。
【図37】 別実施の形態において、図24に示す羽ばたき装置の構造を示す平面模式図である。
【図38】 別実施の形態において、羽に作用する力および各角度のそれぞれの羽ばたき運動の位相に対する変化を示す第1のグラフである。
【図39】 別実施の形態において、羽に作用する力および各角度のそれぞれの羽ばたき運動の位相に対する変化を示す第2のグラフである。
【図40】 羽ばたき浮上制御の制御関数を説明するための説明図である。
【図41】 左羽の羽ばたかせ方の変化と、それに伴って起きる浮上状態の変化とを対応づけた対応を示す図である。
【図42】 羽ばたき浮上の基本動作を実現するための羽ばたかせ方のパターンを示した対応を示す図である。
【符号の説明】
1 支持構造、21 右アクチュエータ、22 左アクチュエータ、31 右羽、32 左羽、4 制御装置、51 加速度センサ、52 角加速度センサ、53 焦電型赤外線センサ、531 焦電型赤外線センサ検出領域、6 電源、61 電極、7 通信装置、8 発光ダイオード、90 ロボット、91 ベースステーション、911 演算装置、912 メモリ、913 充電装置、914 充電孔、915 電磁石、917 通信装置、92 作業空間、93 侵入者。
Claims (34)
- 羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置と、
前記羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得するための羽ばたき関連物理量取得手段と、
前記羽ばたき装置の前記羽ばたき飛行の態様を制御する羽ばたき飛行制御装置とを備え、
該羽ばたき飛行制御装置は、前記羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報を利用して、前記羽ばたき飛行の態様を制御し、
羽音によって前記羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における前記羽ばたき装置と人体と間の距離をL、前記羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、前記羽ばたき装置の羽ばたき周波数をf、前記羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L)2となる範囲の周波数fで、前記羽ばたき装置が前記羽ばたき運動を行なうように設定された、ロボットシステム。 - 前記羽ばたき飛行制御装置は、前記羽ばたき装置の外部に設けられ、前記羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置である、請求項1に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき関連物理量取得手段が前記羽ばたき装置に設けられた、請求項1または請求項2に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき関連物理量取得手段が前記羽ばたき装置および前記羽ばたき飛行制御装置の外部に設けられた、請求項1または請求項2に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき関連物量取得手段が前記羽ばたき飛行制御装置に設けられた、請求項1または請求項2に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき飛行制御装置は、前記羽ばたき関連物理量が変更されるように前記羽ばたき装置を制御するための物理量変更手段を含む、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき関連物理量以外に、前記羽ばたき装置の周辺における物理量を取得するための周辺物理量取得手段をさらに備え、
前記羽ばたき飛行制御装置は、前記周辺物理量取得手段により得られた物理量の情報を利用して、前記羽ばたき装置を制御する、請求項1〜請求項6のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記周辺物理量取得手段は、前記羽ばたき装置に設けられた、請求項7に記載のロボットシステム。
- 前記周辺物理量取得手段は、前記羽ばたき装置および前記羽ばたき飛行制御装置の外部に設けられた、請求項7に記載のロボットシステム。
- 前記周辺物理量取得手段は、前記羽ばたき飛行制御装置に設けられた、請求項7に記載のロボットシステム。
- 前記周辺物理量検出手段は、人体の検出が可能な人体検出手段を含み、
該人体検出手段は、前記羽ばたき飛行中において前記人体の検出を行なうように設定された、請求項8に記載のロボットシステム。 - 前記人体検出手段は、床面近傍の人体検出が可能に構成された、請求項11に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置は、
人体に対して警告をすることが可能な警告手段を含み、
前記羽ばたき装置自身が前記人体検出手段を用いて人体を検出可能な位置に存在するように、前記人体検出手段により検出された人体の移動に伴って前記羽ばたき飛行しながら、前記対人警告手段により対人警告を行なうように設定された、請求項11または請求項12に記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき装置は、前記羽ばたき運動をする羽部を含み、該羽部の少なくとも一部が保護色または透明である、請求項1〜請求項13のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置が、前記羽ばたき運動をする羽部を含み、該羽部の膜面に垂直に前記羽を動かすことで浮上力を得るように構成された、請求項1〜請求項14のいずれかに記載のロボットシステム。
- 所定の作業空間における前記羽ばたき装置の位置情報を算出するための位置情報算出手段を備え、
前記羽ばたき飛行制御装置は、前記位置情報算出手段により算出された羽ばたき装置の位置情報を利用して、前記羽ばたき装置の実際の位置を変更する位置変更制御を行なう、請求項1〜請求項15のいずれかに記載のロボットシステム。 - 特定の空間における障害物に関する情報を記憶する障害物情報記憶手段を備え、
前記羽ばたき飛行制御装置は、前記障害物情報記憶手段に記憶された前記障害物に関する情報を利用して、前記羽ばたき装置を、前記障害物を回避可能な位置に移動させる回避制御が可能である、請求項1〜請求項16のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記物理量取得手段が物理量を取得可能である物理量取得領域が、前記羽ばたき装置の鉛直方向下側に位置する、請求項1〜請求項17のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき関連物理量取得手段は、前記羽ばたき飛行しながら前記羽ばたき関連物理量を取得するように設定された、請求項1〜請求項18のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置は、
前記羽ばたき飛行のモデル動作の情報を予め記憶する飛行モデル動作情報記憶手段を含み、
前記羽ばたき飛行制御手段による制御が不能となった場合に、前記飛行モデル動作情報記憶手段に記憶された前記モデル動作の情報を利用して前記羽ばたき飛行を継続する、請求項1〜請求項19のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき装置は、
前記羽ばたき飛行制御装置による前記羽ばたき飛行の制御が不能となった制御不能状態において、該制御不能状態における前記羽ばたき関連物理量を記憶する羽ばたき関連物理量記憶手段を含み、
前記制御不能状態から前記羽ばたき飛行制御装置による制御が可能な制御可能状態に戻った場合に、前記羽ばたき関連物理量記憶手段に記憶された前記羽ばたき関連物理量を前記羽ばたき飛行制御装置に送信する、請求項1に記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき装置は、
前記羽ばたき飛行制御装置による前記羽ばたき飛行の制御が不能となった制御不能状態において、該制御不能状態における前記周辺物理量を記憶する周辺物理量記憶手段を含み、
前記制御不能状態から前記羽ばたき飛行制御装置による制御が可能な制御可能状態に戻った場合に、前記周辺物理量記憶手段に記憶された前記周辺物理量を前記羽ばたき飛行制御装置に送信する、請求項7に記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき飛行制御装置は、
前記羽ばたき装置の位置および姿勢のうち少なくともいずれか一方を決定する位置姿勢決定手段と、
該位置姿勢決定手段により決定された前記羽ばたき装置の位置の情報および姿勢の情報のうち少なくともいずれか一方を前記羽ばたき装置に送信する位置姿勢情報送信手段とを含み、
前記羽ばたき装置は、前記位置姿勢情報送信手段から送信されてきた前記羽ばたき装置の位置の情報および姿勢の情報のうち少なくともいずれか一方に基づいて、前記決定された位置および前記決定された姿勢のうち少なくともいずれか一方を実現するための前記羽ばたき飛行の動作を決定する羽ばたき飛行動作決定手段を含む、請求項1〜請求項22のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき飛行を行なう作業空間における対象物に関するマップデータを予め記憶しておくマップデータ記憶手段をさらに備えた、請求項1〜請求項23のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置の外部に前記マップデータ記憶手段を備えている、請求項24に記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき飛行している作業空間における対象物のマッピングを行うためのマッピング手段と、
該マッピング手段によりマッピングされたマッピングデータを記憶するためのマッピングデータ記憶手段とを備え、
予め前記マップデータ記憶手段に記憶されたマップデータと、羽ばたき飛行中に前記マッピングデータ記憶手段に記憶されたマッピングデータと比較することにより、前記対象物の検出を行なう、請求項24または請求項25に記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき装置は、人体が通過不可能であると予め定められた隙間を通過可能なサイズに構成された、請求項1〜請求項26のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置は、人が通路としないと予め定められた経路を前記羽ばたき飛行するように設定された、請求項1〜請求項27のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置は、予め定められた基準値より高い空間において前記羽ばたき飛行するように設定された、請求項1〜請求項28のいずれかに記載のロボットシステム。
- 前記羽ばたき装置が複数設けられ、
該複数の羽ばたき装置それぞれは、予め定められた作業空間を分担して作業を行なうように設定された、請求項1〜請求項29のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき飛行制御装置が複数設けられ、
該複数の羽ばたき飛行制御装置それぞれは、前記羽ばたき装置が作業する作業空間を予め分割して、該分割されたそれぞれの作業空間において前記羽ばたき装置を制御するように設定された、請求項1〜請求項30のいずれかに記載のロボットシステム。 - 前記羽ばたき装置の外部に、前記羽ばたき装置の駆動に必要なエネルギを補充可能なエネルギ補充手段をさらに備えた、請求項1〜請求項31のいずれかに記載のロボットシステム。
- 羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置であって、
前記羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得するための羽ばたき関連物理量取得手段と、前記羽ばたき装置の前記羽ばたき飛行の態様を制御する羽ばたき飛行制御を実行する羽ばたき飛行制御装置とを備えたロボットシステムにおいて用いられ、
前記羽ばたき飛行制御装置が、前記羽ばたき装置の外部に設けられ、前記羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置であり、
該遠隔制御装置によって、前記羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報が利用されて、前記羽ばたき飛行の態様が制御され、
羽音によって前記羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における前記羽ばたき装置と人体と間の距離をL、前記羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、前記羽ばたき装置の羽ばたき周波数をf、前記羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L)2となる範囲の周波数fで、前記羽ばたき運動を行なうように設定された、羽ばたき装置。 - 羽ばたき運動により流体が存在する空間を羽ばたき飛行するための羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様を制御する羽ばたき飛行制御装置であって、
前記羽ばたき装置の羽ばたき飛行の態様に関する羽ばたき関連物理量を取得するための羽ばたき関連物理量取得手段を備えたロボットシステムにおいて用いられ、
前記羽ばたき装置の外部に設けられ、前記羽ばたき装置を遠隔制御するための遠隔制御装置として機能し、
前記羽ばたき関連物理量取得手段により得られた羽ばたき関連物理量の情報を利用して、前記羽ばたき装置の前記羽ばたき飛行の態様を制御し、
羽音によって前記羽ばたき装置が人体に認識されることを回避すべき際における前記羽ばたき装置と人体と間の距離をL、前記羽ばたき装置からの距離L0における音圧をP0、前記羽ばたき装置の羽ばたき周波数をf、前記羽ばたき装置の羽ばたき運動の周波数による人間の最低可聴音圧をPc(f)とするときに、Pc(f)>P0×(L0/L)2となる範囲の周波数fで、前記羽ばたき装置に前記羽ばたき運動を行なわせるように設定された、羽ばたき飛行制御装置。
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