JP4535592B2 - 積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、マイクロ波やミリ波などの高周波領域において使用される種々の共振器用磁器やMIC用誘電体基板、誘電体導波路や積層型セラミックコンデンサ等に用いることができる積層体に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、誘電体磁器は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器、MIC用誘電体基板や導波路等に広く利用されている。そして、近年においては、携帯電話をはじめとする移動体通信等の発達および普及に伴い、電子回路基板や電子部品の材料として誘電体セラミックスの需要が増大しつつある。
【0003】
電子回路基板や電子部品において、誘電体セラミックスと内部導体を同時焼成するに際しては、従来の誘電体セラミックスの焼成温度が1100℃以上という高温であったため、導体材料としては、比較的高融点であるPt、Pd、W、Mo等が使用されていた。これら高融点の導体材料は導通抵抗が大きいため、従来の電子回路基板において、共振回路やインダクタンスのQ値が小さくなってしまい、導体線路の伝送損失が大きくなる等の問題があった。
【0004】
そこで、係る問題点を解決すべく、導通抵抗の小さいAg、Cu等と同時焼成可能な低温焼成の誘電体セラミックスが提案されている。例えば、本出願人が先に出願した特開平8−208330号公報に開示された誘電体磁器組成物は、MgO、CaO、TiO2とB2O3、Li2CO3からなるものであり、900〜1050℃の比較的低温でAg、Cu等の内部導体と同時に焼成でき、誘電体磁器の比誘電率εrが18以上、測定周波数7GHzでのQ値が2000以上の優れた特性を有し、高周波電子部品の小型化と高性能化を実現できるものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら特開平8−208330号公報に開示された誘電体磁器組成物は、焼結温度がまだ高く、さらに焼結における収縮開始温度が845〜960℃と高温であるため、導体材料との収縮挙動のマッチングが悪く、焼成された基板や電子部品が反る、歪む等の問題があった。
【0006】
即ち、導体としては、Agおよび/またはCuを主成分とするもの、例えば、Ag、Cu、あるいはAg、Cuに対してガラス成分やセラミック成分、Pt、Pd等の金属を添加したものがあるが、これらの導体は、焼成時における収縮開始温度が高くとも650℃程度であるため、上記誘電体磁器組成物の収縮開始温度との差が大きく、これにより、基板等が変形する等の問題があった。
【0007】
また、上記公報に開示された誘電体磁器組成物では、比誘電率εrが18以上と高いため、この誘電体磁器組成物を用いて高周波用のモジュール基板を作製すると、例えば、容量を必要としない配線間、線路間、配線と線路間等に浮遊容量(寄生容量)が発生し、高周波特性が劣化したり、回路上の制約が生じるという問題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、焼成温度を従来よりもさらに低下させることができ、収縮開始温度を低くして、導体層の収縮開始温度に近づけることができ、AgやCuを主成分とする導体と同時焼成した場合でも反りや歪みを抑制できるとともに、比誘電率が低く、誘電損失の小さい誘電体磁器を用いた積層体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の積層体は、誘電体層を複数積層してなる誘電体基板の内部および/または表面に、Agおよび/またはCuを主成分とする導体層を被着形成してなる積層体であって、前記誘電体基板が、Mg、Si、Tiによるモル比による組成式を
(1−x)Mg2SiO4・xMgTiO3
と表した時、前記xが、0<x≦0.5を満足する主成分と、該主成分100重量部に対して、AlをAl2O3換算で0.1〜12重量部、BをB2O3換算で3〜20重量部、LiをLi2CO3換算で1〜10重量部、Mg以外のアルカリ土類金属を酸化物換算で1〜5重量部、SiをSiO2換算で0〜30重量部含有する誘電体磁器からなる第1の誘電体層と、MgTiO 3 −CaTiO 3 系の誘電体磁器からなる第2の誘電体層とを積層してなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、第1の誘電体層が、比誘電率が4.9〜15で、測定周波数14GHzでのQ値が1000以上であり、かつ、焼成温度を870〜920℃、収縮開始温度を760〜860℃とすることが可能となる。従って、基板や電子部品において、Ag、Cuを主成分とする導体層と同時焼成した場合でも反りや歪み等の発生を抑制することができる。また、このような構成を採用することにより、主成分が(1−x)Mg 2 SiO 4 ・xMgTiO 3 と表した時、xが0<x≦0.5を満足する第1の誘電体層とMgTiO 3 −CaTiO 3 系の誘電体磁器からなる第2の誘電体層との焼成収縮挙動を近くすることができるとともに、Agおよび/またはCuを主成分とする導体を使用しても積層体の変形がなく、高い高周波特性を有するとともに、低温焼成ができ、さらに、誘電体層が低誘電率であるため、容量を必要としない配線間、線路間、配線と線路間等における浮遊容量の発生を抑制できる。
【0011】
また、主成分100重量部に対して、さらにMnをMnO2換算で0.1〜5重量部含有することが望ましい。これにより、誘電体磁器の焼結性をさらに向上できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の積層体は、誘電体層を複数積層してなる誘電体基板の内部および/または表面に、Agおよび/またはCuを主成分とする導体層を被着形成してなる積層体であって、誘電体基板が、Mg、Si、Tiによるモル比による組成式を
(1−x)Mg 2 SiO 4 ・xMgTiO 3 と表した時、前記xが、0<x≦0.5を満足する主成分と、該主成分100重量部に対して、AlをAl 2 O 3 換算で0.1〜12重量部、BをB 2 O 3 換算で3〜20重量部、LiをLi 2 CO 3 換算で1〜10重量部、Mg以外のアルカリ土類金属を酸化物換算で1〜5重量部、SiをSiO 2 換算で0〜30重量部含有する誘電体磁器からなる第1の誘電体層と、MgTiO 3 −CaTiO 3 系の誘電体磁器からなる第2の誘電体層とを積層してなるものである。本発明の積層体の第1の誘電体層を構成する誘電体磁器(以下、本発明の誘電体磁器ということがある)は、フォルステライト結晶粒子、または該フォルステライト結晶粒子と、金属元素として少なくともMgとTiを含有する複合酸化物からなる結晶粒子とを含むとともに、粒界に、元素としてAl、B、Liおよびアルカリ土類金属が存在するものである。
【0016】
ここで、Mg2SiO4とMgTiO3 とのモル比xを、0<x≦0.5としたのは、xが0.5を超える場合には、高誘電率のMgTiO3の割合が増加するため、比誘電率が大きくなるからである。さらに、0<xであるため、本発明の第1の誘電体層とMgTiO3−CaTiO3系の誘電体磁器からなる第2の誘電体層との積層体を作製する場合には、第1誘電体層と第2の誘電体層との焼成収縮挙動を近くすることができる。
【0017】
Al量を上記範囲に限定したのは、Al2O3換算量が0.1重量部未満の場合にはQ値の向上及び耐水性の改善には効果が無く、逆に12重量部を越える場合には、焼結性が低下すると共に、Q値が低下するからである。よって焼結性を維持し、高いQ値と耐水性を得るという観点からAlはAl2O3換算で0.5〜5重量部含有することが望ましい。
【0018】
また、B量を上記範囲に限定したのは、B2O3換算量が3重量部未満の場合には1100℃でも焼結せず、AgまたはCuを主成分とする導体と同時焼成ができなくなり、逆に20重量部を越える場合には、焼結体中のガラス相の割合が増加して、Q値が低下するからである。よって、焼結性を維持し、高いQ値を得るという観点からBはB2O3換算で5〜15重量部含有することが望ましい。硼素含有化合物としては、金属硼素(B)、B2O3、コレマイト、CaB2O4、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸アルカリガラス、ホウケイ酸アルカリ土類ガラス等がある。
【0019】
また、Li量を上記範囲に限定したのは、Li2CO3換算量が1重量部未満の場合には1100℃でも焼結せず、AgまたはCuを主成分とする導体と同時焼成ができなくなり、逆に10重量部を越える場合には、Q値が低下するからである。焼結性と誘電体磁器のQ値の観点からLiのLi2CO3換算量は4〜9重量部が望ましい。
【0020】
また、主成分100重量部に対して、Mg以外のアルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)の少なくとも一種を酸化物換算で1〜5重量部含有したのは、これらが酸化物換算で1重量部未満の場合には、誘電体磁器の焼結過程における収縮開始温度が約870℃と高く、添加効果が得られない。一方、5重量部を越えると、誘電体磁器のQ値が低下する。とりわけ誘電体磁器の焼結性とQ値の観点からはアルカリ土類金属は酸化物(CaO,SrO,BaO)換算で合計1.5〜3.5重量部含有することが好ましい。アルカリ土類金属はBa、Caが高Q値となるという点から望ましい。
【0021】
またさらにSiを上記範囲に限定したのは、SiO2換算量が30重量部を越えると、ガラス相の割合が減少してQ値が低下するからである。誘電体磁器のQ値の観点からは、SiのSiO2換算量は10重量部以下含有することが望ましい。
【0022】
さらに、本発明の誘電体磁器では、焼結性を改善する点から、主成分100重量部に対して、さらにMnをMnO2換算で0.1〜5重量部含有することが望ましい。MnをMnO2換算で0.1〜5重量部含有せしめたのは、0.1重量部よりも少ない場合にはその添加効果が小さく、さらに5重量部よりも多い場合には誘電特性が悪化するからである。MnはMnO2換算で1.2〜1.8重量部含有することが望ましい。
【0023】
本発明の誘電体磁器は、原料粉末として、例えば、Mg2SiO4粉末と、MgTiO3粉末と、Al2O3粉末、B2O3粉末、Li2CO3粉末、SiO2粉末、アルカリ土類酸化物粉末(CaO,SrO,BaO)を準備し、これらを上記した組成比となるように秤量し、ZrO2ボールにより粉砕混合し、この混合粉末を650〜850℃で仮焼した後、再度ZrO2ボールにより粉砕粒径が2.5μm以下になるまで粉砕、混合する。
【0024】
この仮焼粉末をプレス成形やドクターブレード法等の公知の方法により所定形状に成形し、大気中、酸素雰囲気中または窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気において870〜920℃で0.5〜2時間焼成することにより得られる。原料粉末は、焼成により酸化物を生成する水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。本発明の誘電体磁器中には、不可避不純物として、Fe、Hf、Sn等が含まれることもある。
【0025】
Al2O3とアルカリ土類金属は、ガラスフリットとして添加することが焼結性向上の点から望ましい。例えば、Al2O3粉末、B2O3粉末、Li2CO3粉末、SiO2粉末、アルカリ土類金属酸化物粉末を用いてガラスフリットを作製して添加する。この際、Al2O3粉末、B2O3粉末、Li2CO3粉末、SiO2粉末、アルカリ土類酸化物粉末として添加される量は、上記ガラスフリットで用いられた量を差し引いた量であることは言うまでもない。
【0026】
本発明の誘電体磁器では、フォルステライト結晶粒子を主結晶粒子とし、これに必要に応じて金属元素として少なくともMgとTiを含有する複合酸化物からなる結晶粒子、主には(Mg,Ti)2(BO3)Oが析出し、組成によってはMgTiO3が析出する場合もある。
【0027】
尚、アルカリ土類金属は、MgTiO3のAサイトに固溶したり、あるいはガラスとなって、焼結性を向上させることになる。本発明の誘電体磁器では平均結晶粒径が1〜5μmのものである。
【0028】
本発明の積層体は、誘電体層を複数積層してなる誘電体基板の内部および/または表面に、Agおよび/またはCuを主成分とする導体層を有する積層体であって、上記低誘電率の第1の誘電体層と高誘電率のMgTiO3−CaTiO3系の第2の誘電体層とを積層して積層体を作製すると、高誘電率が要求されるコンデンサ、フィルタ等を高誘電率のMgTiO3−CaTiO3系の第2の誘電体層で形成し、配線間等の浮遊容量を発生させたくない配線等については、本発明の低誘電率の第1の誘電体層で形成することができる。
【0029】
このような積層体では、内部導体としてAgおよび/またはCuを主成分とする導体層を使用しても積層体の変形がなく、高い高周波特性を有するとともに、低温焼成ができ、さらに、誘電体層のうち少なくとも一層が低誘電率の第1の誘電体磁器からなるため、この第1の誘電体層を利用して電極、線路等を形成することにより、容量を必要としない配線間、線路間、配線と線路間等における浮遊容量の発生を抑制できる。
【0030】
【実施例】
Al2O3粉末、B2O3粉末、Li2CO3粉末、SiO2粉末、アルカリ土類酸化物(CaO,SrO,BaO)粉末、MnO2粉末を表1に示すような組成で添加し、これを用いて作製されたガラスフリットと、原料として純度99%以上のMg2SiO4、MgTiO3粉末を表1に示す割合となるように秤量し、純水を媒体とし、ZrO2ボールを用いたボールミルにて20時間湿式混合した。
【0031】
次に、この混合物を乾燥(脱水)し、800℃で1時間仮焼した。この仮焼物を粉砕粒径が1.4μm以下になるように粉砕し、誘電特性評価用の試料として直径0.01m、高さ0.008mの円柱状に10000ton/m2の圧力でプレス成形し、これを表1に示す温度で2時間焼成し、直径0.008m、高さ0.006mの円柱状の試料を得た。なお、各組成物について、TMA分析における熱収縮曲線から、収縮がはじまる時の温度(収縮開始温度)を測定した。
【0032】
尚、本発明者等は、X線回折測定およびX線マイクロアナライザー(EPMA)により、本発明の試料では主結晶粒子がフォルステライト結晶粒子であり、場合によって、(Mg,Ti)2(BO3)Oで表される結晶粒子が存在し、粒界に、元素としてB、アルカリ土類金属が存在することを確認した。
【0033】
誘電特性の評価は、前記試料を用いて誘電体円柱共振器法にて周波数14GHzにおける比誘電率とQ値を測定し、表1に記載した。なお、試料No.5、9、10、19は参考試料である。
【0034】
【表1】
【0035】
この表1から、本発明の誘電体磁器では、モル比による組成式(1−x)Mg2SiO4・xMgTiO3においてxが、0≦x≦0.8を満足し、AlをAl2O3換算で0.1〜12重量部、BをB2O3換算で3〜20重量部、LiをLi2CO3換算で1〜10重量部、SiをSiO2換算で0〜30重量部、アルカリ土類金属を酸化物換算で1〜5重量部含有する場合には、比誘電率が4.9〜15で、測定周波数14GHzでのQ値が1000以上であり、かつ、焼成温度を870〜920℃、収縮開始温度を760〜860℃とできることが判る。これにより、基板や電子部品において、Ag、Cuを主成分とする導体と同時焼成した場合でも反りや歪み等の発生を抑制することができる。
【0036】
一方、Liを含有しない場合には、試料No.7に示すように、焼成温度が1150℃、収縮開始温度が950℃と高くなり、Ag、Cuを主成分とする導体と同時焼成できないことが判る。さらに、Mg以外のアルカリ土類金属を含有しない場合には、試料No.11に示すように、焼成温度が880℃、収縮開始温度が870℃と高くなることが判る。
【0037】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、第1の誘電体層が、フォルステライト本来のQ値をそれほど劣化させることなく、920℃以下の低温焼成が可能となるとともに、フォルステライト自体が低誘電率であるため、比誘電率を15以下にできる。そして、主成分が(1−x)Mg 2 SiO 4 ・xMgTiO 3 と表した時、xが0<x≦0.5を満足する第1の誘電体層とMgTiO 3 −CaTiO 3 系の第2の誘電体層との焼成収縮挙動を近くすることができるとともに、Agおよび/またはCuを主成分とする導体を使用しても積層体の変形がなく、高い高周波特性を有するとともに、低温焼成ができ、さらに、第1の誘電体層が低誘電率であるため、この第1の誘電体層を利用することにより、容量を必要としない配線間、線路間、配線と線路間等における浮遊容量の発生を抑制できる。
【0038】
特に、モル比による組成式を、(1−x)Mg2SiO4・xMgTiO3と表した時、xが、0≦x≦0.8を満足する主成分と、該主成分100重量部に対して、AlをAl2O3換算で0.1〜12重量部、BをB2O3換算で3〜20重量部、LiをLi2CO3換算で1〜10重量部、SiをSiO2換算で0〜30重量部、Mg以外のアルカリ土類金属を酸化物換算で1〜5重量部含有する誘電体磁器では、比誘電率が4.9〜15で、測定周波数14GHzでのQ値が1000以上であり、かつ、焼成温度を870〜920℃、収縮開始温度を760〜860℃とすることができ、基板や電子部品において、Ag、Cuを主成分とする導体と同時焼成した場合でも反りや歪み等の発生を抑制することができる。
Claims (2)
- 誘電体層を複数積層してなる誘電体基板の内部および/または表面に、Agおよび/またはCuを主成分とする導体層を被着形成してなる積層体であって、前記誘電体基板が、Mg、Si、Tiによるモル比による組成式を
(1−x)Mg2SiO4・xMgTiO3
と表した時、前記xが、0<x≦0.5を満足する主成分と、該主成分100重量部に対して、AlをAl2O3換算で0.1〜12重量部、BをB2O3換算で3〜20重量部、LiをLi2CO3換算で1〜10重量部、Mg以外のアルカリ土類金属を酸化物換算で1〜5重量部、SiをSiO2換算で0〜30重量部含有する誘電体磁器からなる第1の誘電体層と、MgTiO 3 −CaTiO 3 系の誘電体磁器からなる第2の誘電体層とを積層してなることを特徴とする積層体。 - 前記第1の誘電体層は、前記主成分100重量部に対して、さらにMnをMnO2換算で0.1〜5重量部含有することを特徴とする請求項1記載の積層体。
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