JP4531882B2 - 水溶性金属加工油剤 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、切削加工、研削加工、転造加工、プレス加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤に関し、特に、切削性能、研削性能の向上に優れた効果を発揮する水溶性金属加工油剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
切削、研削加工分野に広く使用される金属加工油剤には、鉱油をベ−スにした、不水溶性油剤と、鉱油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水溶性油剤とがある。これらの油剤には、通常、油剤の切削性能、研削性能を向上させるために、極圧添加剤と呼ばれる化合物を添加することが必要不可欠と考えられている。このような極圧添加剤を含有した油剤は、日本工業規格(JIS K 2241切削油剤 参照)で特別に分類されている(不水溶性油剤 2種1〜6号及び、11〜16号、水溶性油剤 W2種)。
一方、近年の地球資源の節約、地球環境悪化防止の観点から、従来と比較し、一層地球環境に優しい金属加工油剤、更にはできるだけ長期間使用に耐えうる金属加工油剤の開発が求められている。この観点より、金属加工油剤に使用する主要成分(原料)の見直しを行った結果、切削性能、研削性能等に効果を発揮する極圧添加剤に、以下のような問題のあることが判明した。
【0003】
極圧添加剤の代表的化合物としては、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン系化合物が挙げられる。金属加工油剤は、使用後には廃油が発生する。
この塩素系化合物を含有する廃油を、例えば、燃焼処理した場合には、塩素ガス、塩化水素ガス等が発生し、焼却炉の損傷、焼却炉の寿命低下につながる。又、一部の塩素系極圧添加剤含有廃油を燃焼処理するとダイオキシンが発生することも知られている。
【0004】
また、硫黄系化合物を含有する油剤は、塩素系化合物を含有する油剤と同様、長期間使用し、廃却する場合、例えば燃焼処理した場合、SOXガスが発生し、焼却炉の寿命低下の他、大気汚染の原因にもなる。更に、これら硫黄化合物を含有する水溶性切削油剤をクーラントとして使用すると、硫黄化合物はクーラント中に生存するバクテリアの栄養源となり、バクテリアの増殖を促進し、更には化合物自身が微生物還元され、硫化水素を発生し、クーラントの腐敗劣化などで、クーラントの寿命を非常に短くし、廃却する廃液量を増大させ、省資源を遂行する上で非常に問題である。
【0005】
さらに、リン系化合物を含有する水溶性切削油剤をクーラントとして使用すると、硫黄化合物含有油剤と同様に、クーラント中に生存するバクテリアの栄養源となり、バクテリアの異常発生を促進し、クーラントの腐敗が生じ、短期間でクーラントを廃却せざるを得ず、廃液処理上問題となる。
【0006】
従来、塩素系化合物等の極圧添加剤を含有しない水溶性金属加工油剤として、例えば、ポリヒドロキシ脂肪酸の塩を用いた水溶性切削油剤(特開昭60−88096号)、リシノール酸重縮合物の塩を用いた水溶性切削研削油剤(特公平2−5795号)、ジヒドロキシ脂肪酸および/またはモノヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合脂肪酸の塩を用いた水溶性切削油剤(特開平4−202298号)、ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、脂肪族カルボン酸、脂環族脂肪酸、あるいは芳香族脂肪酸との反応により得られるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩を用いた水溶性加工油剤(特開平7−286192号)、(A)炭素原子数18のモノおよび/またはジヒドロキシ脂肪酸、(B)2〜6価のポリオール、(C)炭素原子数4〜36の脂肪族二塩基酸とするとき、Aの重縮合物、AおよびBのエステル化物とAの重縮合物、AとCの重縮合物、A及びBのエステル化物とAとCとの重縮合物のいずれかのアルカリ金属塩又はアミン塩を用いた水溶性切削研削油剤(特開平7−97590号)などが知られている。
しかしながら、従来公知のこれらの水溶性金属加工油剤は、塩素系添加剤を含有する水溶性金属加工油剤と比較して、特に重切削加工、重研削加工においては十分な効果が得られない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に着目し、切削加工、研削加工をはじめとする、金属加工油剤として用いた場合に、優れた加工性能を示し、かつ、環境にも悪影響を及ぼしにくい金属加工油剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討の結果、これら極圧添加剤の代替として、特定の重縮合カルボン酸と特定のエステルを含有させることにより、塩素系極圧添加剤を含有した切削油剤と同等またはそれ以上の効果を有する水溶性金属加工油剤が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記の成分を含有する水溶性金属加工油剤である。
(A) ヒドロキシ脂肪酸と脂肪酸の脱水縮合物およびヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物なる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)ヒドロキシ脂肪酸重縮合物およびひまし油誘導体なる群から選ばれる少なくとも1種、および
(C)ポリオールエステルおよび(D)二塩基酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる水溶性金属加工油剤は、成分(A)として、ヒドロキシ脂肪酸と脂肪酸の脱水縮合物およびヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物なる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0010】
このヒドロキシ脂肪酸モノマーとしては、たとえば脂肪族オキシ脂肪酸ではモノオキシ脂肪酸として、ヒドロキシペラルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸;モノオキシジカルボン酸として、ヒドロキシセバシン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸;モノオキシトリカルボン酸として、ノルカペラート酸、アガリチン酸;ジオキシモノカルボン酸として、イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸;ジヒドロキシジカルボン酸として、ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン二酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸などがあげられる。
【0011】
また、天然油脂より採取したひまし油脂肪酸や、硬化ひまし油脂肪酸もあげられる。
これらのヒドロキシ脂肪酸のうち、モノヒドロキシ脂肪酸が好ましく、重縮合物としては、2〜6量体が好ましい。特に好ましいものは、ヒドロキシオクタデセン酸(リシノレイン酸)またはヒドロキシオクタデカン酸(12ヒドロキシステアリン酸)の2〜6量体である。
【0012】
また、上記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脱水縮合する脂肪酸としては、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などに代表される一塩基酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸、リノール酸メタアクリル酸縮合物(商品名:ハリマ化成製 DA-1550)などに代表される二塩基酸があげられる。また、不飽和結合を持つ脂肪酸に対してメタアクリル酸に代表される不飽和脂肪酸を付加させた脂肪酸などもあげられる。
【0013】
また、脱水縮合の相手となる脂肪酸としては、二塩基酸が好ましく、特に、炭素原子数10から44のものがさらに好ましく、とりわけ、炭素原子数16から36のものが好ましい。
【0014】
重縮合物は、上記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と上記脂肪酸とを通常の重縮合反応に従って、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下で反応させることにより得られる。副生する水、アルコールは、適宜系外へ流出させる。反応の終了はヒドロキシル価がほぼなくなったところで決定する。
尚、重縮合物の製造方法は上記方法に限定されるものではない。
【0015】
本発明の水溶性金属加工油剤は、成分(B)として、ヒドロキシ脂肪酸重縮合物および/またはひまし油誘導体を含有する。
ヒドロキシ脂肪酸重縮合物の構成モノマーとしては、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸、ノルカペラート酸、アガリチン酸、イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸、ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸、ひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸などがあげられる。
【0016】
本発明の成分(B)のヒドロキシ脂肪酸重縮合物は、上記ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも1種を重縮合反応させることにより得られるものであり、分子中に少なくとも1つのカルボン酸基と、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する。このヒドロキシ脂肪酸の重縮合物は、一般的な重縮合反応、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下に反応させることにより得られる。副生する水、アルコールは、適宜系外へ流出させる。重縮合の度合いは反応物の酸価、水酸基価、粘度、または副生する水またはアルコールの量を測定することにより判断できる。
【0017】
反応時、溶媒は使用してもしなくても良く、好ましくはキシレンなどの環流条件で水、アルコールなどを共沸させて系外へ除去するのがよい。あるいは、高級脂肪酸の一部としてハライド型の物を用い、クロロホルムなどの溶媒中で反応させてもよい。この場合、反応温度は室温程度の低温条件下で充分である。
尚、重縮合物の製造方法は上記方法に限定されるものではない。
【0018】
ここにあげた成分(B)のヒドロキシ脂肪酸の重縮合物のうち好ましいものは、ひまし油脂肪酸重縮合物、硬化ひまし油脂肪酸重縮合物であり、特に、ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体が好ましい。
また、成分(B)のひまし油誘導体としては、ひまし油の重縮合物、ひまし油アルキレンオキサイド付加物、例えば、ひまし油エチレンオキサイド付加物、ひまし油プロピレンオキサイド付加物などがあげられるが、ひまし油に1〜20モルのエチレンオキサイドを付加したものが好ましい。
【0019】
上記ひまし油の重縮合物は、一般的な重縮合反応、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下に反応させることにより製造できる。また、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの付加は、ひまし油に、加熱加圧条件下で、酸化エチレン、酸化プロピレンを吹き込むことで達成できる。
【0020】
本発明の水溶性金属加工油剤は、成分(C)のポリオールエステルおよび成分(D)の二塩基酸エステルの少なくとも1種を含有する。
成分(C)のポリオールエステルの原料となる脂肪酸としては、炭素原子数6〜36の脂肪酸が好ましく、炭素原子数6〜22の脂肪酸がさらに好ましい。特に好ましいものは、炭素原子数18の直鎖または分鎖の脂肪酸である。
【0021】
成分(C)のポリオールエステルの脂肪酸成分の具体例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、などがあげられる。
【0022】
成分(C)のポリオールエステルのポリオール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリエタノールアミンなどがあげられる。
ポリオールエステルの例としては、エチレングリコールジエステル、ジエチレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールジエステル、トリグリセライド、トリメチロールプロパントリエステル、ペンタエリスリトールテトラエステル、ジペンタエリスリトールテトラエステル、トリエタノールアミントリエステルなどがあげられる。また、天然油脂や、硬化ひまし油、ひまし油もあげられる。
【0023】
成分(D)の二塩基酸エステルの二塩基酸成分としては、炭素原子数10から44のものが好ましく、16から36のものがさらに好ましい。
具体的には、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸などがあげられる。
【0024】
また、成分(D)の二塩基酸エステルのアルコール成分としては、炭素原子数が8から22で、飽和または不飽和の、直鎖または分鎖のアルコールが好ましい。原液の安定性を考慮すると、分鎖アルコール、あるいは不飽和で直鎖のアルコールがさらに好ましい。
具体的には、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソステアリルアルコールなどがあげられる。
【0025】
二塩基酸とアルコールのエステルは、例えば、両者を、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下で反応させることにより製造できる。副生する水は、適宜系外へ流出させる。エステル合成反応の進行程度は、反応物の酸価、水酸基価、または副生する水の量を測定することにより判断できる。通常は、酸価、ヒドロキシル価がほぼなくなったところで反応を終了する。
反応時、溶媒は使用してもしなくても良く、好ましくはキシレンなどの環流条件で水を共沸させて系外へ除去するのがよい。
尚、二塩基酸エステルの合成方法は上記方法に限定されるものではない。
【0026】
本発明の水溶性金属加工油剤は、上記成分(A)、(B)、および(C)および/または(D)を特定比率で含有することが好ましく、その比率は、(A):2.5〜50重量%、(B):2〜30重量%、(C):5〜50重量%、(D):2〜20重量%が好ましい。
成分(A)が2.5重量%に満たない場合、成分(B)が2重量%に満たない場合、成分(C)が5重量%に満たない場合または成分(D)が2重量%に満たない場合には、期待する潤滑性能が得られない場合がある。
【0027】
また、成分(A)が50重量%を超えた場合には、二次性能に不具合を生じることがある。具体的には、水溶性金属加工油剤の原液を希釈した場合、希釈液が泡立ちやすくなる。
また、成分(B)が30重量%を超えた場合、成分(C)が50重量%を超えた場合または成分(D)が20重量%を超えた場合には、本発明の水溶性金属加工油剤原液を水に希釈するのが困難になり、本発明に用いる化合物が浮上してしまうという現象を生じ易くなる。
【0028】
従って、本発明の水溶性金属加工油剤は、さらに好ましくは、成分(A)を2.5〜30重量%、成分(B)を5〜15重量%、成分(C)を10〜40重量%、または成分(D)を2〜10重量%含有するのが良い。
さらに、上記成分(A)、(B)、(C)、(D)は、それぞれが、単一成分でも、2種類以上の混合物でもかまわない。
【0029】
【作用】
本発明の水溶性金属加工油剤の成分(A)、(B)、(C)、(D)は、いずれも分子量が約1000〜約2000の高分子であり、また、いずれも分子内にエステル結合を持つ化合物であり、潤滑面への吸着性にも優れると考えられる。実際に、金属加工に適用した場合、例えば切削加工において、切削工具−被切削材の界面で、優れた潤滑作用を及ぼし、潤滑部分に入り込んで、切削工具の寿命を延長し、切削性を向上させる。
また、成分(A)、(B)、(C)、(D)のエステル結合は、分子の中ほどに位置するため、アルカリ雰囲気下においても優れた耐加水分解性を有する。従って、pH9から11程度の水溶性切削油剤として使用しても加水分解することなく安定して使用できる。
【0030】
本発明の水溶性金属加工油剤には、必要に応じてモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2−アミノ2−メチルエタノールアミンなどに代表されるアルカノールアミン、KOH、NaOHなどに代表される無機アルカリ、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタキシレンジアミン、モルホリンなどの脂環式アミンまたは芳香族アミン、ラウリルアミン、オレイルアミンなどに代表されるアルキルアミンおよびそれらのオキシエチレン付加物を防腐剤あるいは菌抑制剤として含有させても良い。これらの添加量は、油剤全体の重量に対して、5〜10重量%が適当である。
【0031】
また、本発明の水溶性金属加工油剤には、必要に応じてペラルゴン酸、カプリル酸、ラウリル酸、オレイン酸、リシノレイン酸、エルカ酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸などの脂肪酸、石油スルホンサンナトリウムなどのスルホン酸塩、カルボン酸アミドなどを防錆剤として含有させても良い。これらの添加量は、油剤全体の重量に対して、5〜30重量%が適当である。
【0032】
さらに、本発明の水溶性金属加工油剤には、必要に応じてシリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤、トリアジン系金属防腐剤、ベンゾチアゾール系金属防食剤などを含有させても良い。これらの添加量は、油剤全体の重量に対して、0.05〜5重量%が適当である。
本発明の水溶性金属加工用油剤は、成分(A)、(B)、(C)、(D)をそれぞれ規定量配合することにより容易に製造できる。
【0033】
また、切削性、研削性を一段と向上させるため鉱油、合成油等の基油、エステルや動植物油脂、高級アルコール等の油性剤、有機金属塩(モリブデン酸塩、リン酸塩等)の摩擦調整剤、場合によっては、塩素化合物、硫黄化合物、リン化合物等の極圧添加剤、種々のタイプのポリオキシアルキレングリコールを添加含有することも可能である。しかし、塩素化合物、硫黄化合物、リン化合物等の極圧添加剤は含まない方が好ましい。
【0034】
【実施例および比較例】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。
本発明に使用した成分(A)、(B)、(C)、(D)の内容と、以下の実施例、比較例において使用する記号について表1に記す。
表2及び3に示した組成を有する水溶性金属加工油剤を調製した。これらの油剤について以下の実験を行い、それぞれの性能評価を行った。尚、表2にはエマルションタイプの水溶性金属加工油剤の組成を、表3にはソリュブルタイプの水溶性金属加工油剤の組成をそれぞれ示す。また、各表中の組成に関する数値の単位は、重量%である。
【0035】
試料の調製
表2及び3に示した組成の水溶性金属加工油剤(原液)をそれぞれ水道水で希釈して10重量%水溶液として試料とした。
硬水希釈安定性試験
調整した硬水(塩化カルシウム2水塩0.757gを蒸留水で希釈し1Lとした水:ドイツ硬度30°,Ca硬度540ppm、JIS K 2221切削油剤 乳化安定性試験参照)を用い、水溶性金属加工油剤(原液)の2重量%希釈液を作り、希釈直後及び、24時間後の状態を確認する。
判定 ○:合 格 透明あるいは白濁状で、クリーム層、油層がない。
×:不合格 クリーム層、油層等、分離が認められる。
【0036】
切削性試験
当該組成物を含有する水溶性金属加工油剤(原液)の10重量%希釈液200Lをマシニングセンターのクーラントタンクに張り込み、下記切削条件で実際と同様、切削実験を行い、タッピングトルクおよび工具の摩耗状態を調べる。そのときの工具の摩耗状態により油剤の良否を判定する。
【0037】
【0038】
肌あれ性
水溶性金属加工油剤(原液)を2倍に希釈した液を、パッチテストユニット(epitest社製 フィンチャンバー)に1滴滴下し、上腕部にテープで貼り付け、24時間後の皮膚の状態を観察する。以下の判定基準で判定する。
判定基準
3点 : 水泡、丘疹を伴う赤変
2点 : 赤変し、腫れ上がる
1点 : 少し赤変
0.5点 : 疑わしい
0点 : 反応なし
被験者(男子10名)の判定結果を合計する。点数が低いほど皮膚に対する刺激が少なく、肌あれ性が少ないことを示す。5点未満を合格(○)、5点以上を不合格(×)とする。
【0039】
表2及び3の実施例および比較例の結果から、本発明の成分を含有した水溶性金属加工油剤(原液)の実施例1〜14は、切削性の向上に充分寄与していることが判る。また、肌あれ性も良好な結果を示している。さらに、本発明の水溶性金属加工油剤は、硬水で希釈しても優れた安定性(耐硬水性)を有し、潤滑性が優れている。従って、切削性、研削性の向上に充分寄与できる。
【0040】
【発明の効果】
本発明の水溶性金属加工油剤は、従来の金属加工油剤に含まれる塩素系極圧添加剤、硫黄系極圧添加剤、リン系極圧添加剤などの代替品として、特定の重縮合カルボン酸と特定のエステルを含有することにより、塩素系極圧添加剤、硫黄系極圧添加剤、リン系極圧添加剤などを含有した金属加工油剤と同等あるいはそれ以上の切削研削性能を有する。よって、この水溶性金属加工油剤は、切削、研削加工をはじめとする金属加工において、極めて有用である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
エマルション
(-)は原液が製造できなかったことを示す。
【0043】
【表3】
ソリュブル
(-)は原液が製造できなかったことを示す。
Claims (8)
- 下記の成分を含有する水溶性金属加工油剤。
(A)ヒドロキシ脂肪酸と脂肪酸の脱水縮合物およびヒドロキシ脂肪酸重縮合物と脂肪酸の脱水縮合物なる群から選ばれる少なくとも1種、
(B)ヒドロキシ脂肪酸重縮合物およびひまし油誘導体なる群から選ばれる少なくとも1種、および
(C)ポリオールエステルおよび(D)二塩基酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種。
ただし、
成分(A)の含有量は、2.5〜50重量%、
成分(B)の含有量は、2〜30重量%、
成分(C)の含有量は、5〜50重量%および/または成分(D)の含有量は、2〜20重量%であり、
成分(A)の脱水縮合物を構成するヒドロキシ脂肪酸およびヒドロキシ脂肪酸重縮合物が、ヒドロキシペラルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸;ヒドロキシセバシン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸;ノルカペラート酸、アガリチン酸;イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸;ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン二酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸、ひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸、およびこれらの2〜6量体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
成分(A)の脱水縮合物を構成する脂肪酸が、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸、およびリノール酸メタアクリル酸縮合物
からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
成分(B)のヒドロキシ脂肪酸重縮合物が、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸、ノルカペラート酸、アガリチン酸、イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸、ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸、ひまし油脂肪酸、および硬化ひまし油脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重縮合物であり、
成分(B)のひまし油誘導体が、ひまし油アルキレンオキサイド付加物であり、
成分(C)のポリオールエステルを構成する脂肪酸が、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ひまし油脂肪酸、および硬化ひまし油脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
成分(C)のポリオールエステルを構成するポリオールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、およびトリエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
成分(D)の二塩基酸エステルを構成する二塩基酸が、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
成分(D)の二塩基酸エステルを構成するアルコールが、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、およびイソステアリルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である。 - 成分(A)のヒドロキシ脂肪酸重縮合物が、ヒドロキシオクタデカン酸またはヒドロキシオクタデセン酸の2〜6量体である請求項1記載の水溶性金属加工油剤。
- 成分(B)のヒドロキシ脂肪酸重縮合物が、ヒドロキシオクタデカン酸および/またはヒドロキシオクタデセン酸の2〜6量体である請求項1または2記載の水溶性金属加工油剤。
- 成分(B)のひまし油アルキレンオキサイド付加物が、ひまし油エチレンオキサイド付加物である請求項1〜3のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
- 成分(B)のひまし油エチレンオキサイド付加物のエチレンオキサイド付加モル数が1〜20モルである請求項4記載の水溶性金属加工油剤。
- 成分(C)のポリオールエステルが、エチレングリコールジエステル、ジエチレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールジエステル、トリグリセライド、トリメチロールプロパントリエステル、ペンタエリスリトールテトラエステル、ジペンタエリスリトールテトラエステル、およびトリエタノールアミントリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
- 切削加工油剤である請求項1〜6のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
- 研削加工油剤である請求項1〜6のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
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