以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るスイッチング電源装置の構成を表すものである。このスイッチング電源装置は、高圧バッテリ10から供給される高圧の直流入力電圧Vinを、より低い直流出力電圧Voutに変換して、図示しない低圧バッテリに供給して負荷7を駆動するDC−DCコンバータとして機能するものである。
このスイッチング電源装置は、1次側高圧ラインL1Hと1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられた入力平滑コンデンサ11、ブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2と、共振用のインダクタLrと、1次側巻線31および2次側巻線32A,32Bを有するトランス3と、このトランス3の2次側に設けられた整流回路4と、この整流回路4に接続された平滑回路5と、ブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2を駆動する駆動回路6とを備えている。そして1次側高圧ラインL1Hの入力端子T1と1次側低圧ラインL1Lの入力端子T2との間には、高圧バッテリ10から出力される直流入力電圧Vinが印加されるようになっている。
このスイッチング電源装置はまた、トランス3の1次側に配置され、直流入力電圧Vinまたは入力電流Iinをそれぞれ検出する入力電圧検出回路61および入力電流検出回路62と、駆動回路6を介してブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2におけるスイッチング動作を制御する制御部63とを備えている。
入力平滑コンデンサ11は、入力端子T1,T2から入力された直流入力電圧Vinを平滑化するためのものである。
ブリッジ回路1は、4つのスイッチング素子S1〜S4と、これらスイッチング素子S1〜S4に対してそれぞれ並列接続するコンデンサC1〜C4および逆方向接続のダイオードD1〜D4とからなる素子対を有しており、フルブリッジ型の回路構成となっている。具体的には、スイッチング素子S1,S2の一端同士が互いに接続されると共に、スイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続されている。また、スイッチング素子S1,S3の他端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S2,S4の他端同士が互いに接続され、これらの他端同士は、それぞれ入力端子T1,T2に接続されている。ブリッジ回路1はこのような構成により、後述するようにサージ電圧抑止回路2内のスイッチング素子S5,S6がオフ状態となっている場合に、駆動回路6から供給される駆動信号SG1〜SG4に応じて、入力端子T1,T2間に印加される直流入力電圧Vinを入力交流電圧に変換するようになっている。
ここで、このブリッジ回路1が本発明における「第1ブリッジ回路」の一具体例に対応する。また、スイッチング素子S1、ダイオードD1およびコンデンサC1からなる素子対と、スイッチング素子S2、ダイオードD2およびコンデンサC2からなる素子対とが、本発明における「第1素子対群」の一具体例に対応し、スイッチング素子S3、ダイオードD3およびコンデンサC3からなる素子対と、スイッチング素子S4、ダイオードD4およびコンデンサC4からなる素子対とが、本発明における「第2素子対群」の一具体例に対応する。
なお、スイッチング素子S1〜S4は、例えば電界効果型トランジスタ(MOS−FET;Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)などのスイッチ素子から構成される。また、これらスイッチ素子としてMOS―FETを用いた場合には、上記コンデンサC1〜C4およびダイオードD1〜D4をそれぞれ、このMOS―FETの寄生容量または寄生ダイオードから構成することが可能である。また、上記コンデンサC1〜C4をそれぞれ、ダイオードD1〜D4の接合容量で構成することも可能である。このように構成した場合、スイッチ素子とは別個にコンデンサC1〜C4やダイオードD1〜D4を設ける必要がなくなり、回路構成を簡素化することができる。
サージ電圧抑止回路2は、2つのスイッチング素子S5,S6と、これらスイッチング素子S5,S6に対してそれぞれ並列接続するコンデンサC5,C6および逆方向接続のダイオードD5,D6とからなる素子対を有しており、これらの2つの素子対が互いに直列接続されている。具体的には、ダイオードD5のアノードは接続点P3に接続され、カソードは1次側高圧ラインL1Hに接続されている。また、ダイオードD6のアノードは1次側低圧ラインL1Lに接続され、カソードは接続点P3に接続されている。このような構成によりサージ電圧抑止回路2は、後述するようにスイッチング素子S5,S6がオフ状態となっている場合に、コンデンサC5,C6と後述するインダクタLrとの間でLC直列共振回路(第2共振回路)を構成し、このLC直列共振回路による共振特性を利用することで、後述する整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わるサージ電圧を抑制するようになっている。
また、本実施の形態のスイッチング電源装置では、上記第2共振回路の共振時間と整流ダイオード4A,4Bのリカバリ時間とが、以下の条件式(1)を満たすように設定され、これにより後述するように、スイッチング電源装置の構成によらず、整流ダイオード4A,4Bに加わるサージ電圧がより効果的に抑制されるようになっている。
1/4×{2π×(L×C)1/2}>Trr1 ……(1)
但し、{2π×(L×C)1/2}は第2共振回路における1周期分の共振時間であり、LはインダクタLrのインダクタンスであり、CはコンデンサC5,C6の並列合成容量値(C=(C5+C6))であり、Trr1は整流ダイオード4A,4Bのリカバリ時間である。ここで、このリカバリ時間とは、以下に説明する時間を意味する。すなわち、これら整流ダイオード4A,4BがPN接合ダイオードの場合、P層からN層へ注入される正孔によってダイオードが導通状態となっているが、順方向電流が減少して逆電圧が印加される過程では、このN層内に蓄積された正孔はP層に戻るかあるいは再結合することにより消滅し、その結果、整流ダイオード4A,4Bでは、空乏層が広がるまで逆方向に電流が流れる。これをリカバリ電流といい、リカバリ電流が流れている時間を、リカバリ時間という。なお、これら整流ダイオード4A,4Bが金属−半導体接合のショットキーバリアダイオードの場合、原理的にはリカバリ電流は発生しない。しかしながら、この場合でも接合容量は存在するので、逆電圧が印加される過程において、この接合容量を充電する間は、逆方向に電流が流れる。よって、ショットキーバリアダイオードの場合には、このように逆方向電流が流れる時間を、上記リカバリ時間に相当するものとして考えることができる。
ここで、このサージ電圧抑止回路2が、本発明における「第3素子対群」の一具体例に対応する。
なお、スイッチング素子S5,S6も、例えばMOS−FETやIGBTなどのスイッチ素子から構成される。また、これらスイッチ素子としてMOS―FETを用いた場合には、上記コンデンサC5,C6およびダイオードD5,D6をそれぞれ、このMOS―FETの寄生容量または寄生ダイオードから構成することが可能である。また、上記コンデンサC5,C6をそれぞれ、ダイオードD5,D6の接合容量で構成することも可能である。このように構成した場合、スイッチ素子とは別個にコンデンサC5,C6やダイオードD5,D6を設ける必要がなくなり、回路構成を簡素化することができる。
インダクタLrは、その一端が上記第1素子対群における素子対同士の接続点P1に接続され、その他端が上記第3素子対群における素子対同士の接続点P3に接続されている。このような構成によりインダクタLrは、ブリッジ回路1内のコンデンサC1〜C4と共にLC直列共振回路(第1共振回路)を構成し、このLC直列共振回路による共振特性を利用することで、後述するようにスイッチング素子S5,S6がオフ状態となっている場合に、スイッチング素子S1〜S4における短絡損失を抑制するようになっている。また、同じくスイッチング素子S5,S6がオフ状態となっている場合に、サージ電圧抑止回路2内のコンデンサC5,C6と共にLC直列共振回路(第2共振回路)を構成し、整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わるサージ電圧を抑制するようになっている。なお、このインダクタLrのインダクタンスは、後述するトランス3の1次側巻線31のインダクタンスと比べ、非常に小さくなるように設定される。
トランス3は、1次側巻線31と、一対の2次側巻線32A,32Bとを有している。このうち、1次側巻線31は、その一端が上記第3素子対群における素子対同士の接続点P3に接続され、その他端が上記第2素子対群における素子対同士の接続点P2に接続されている。一方、2次側巻線32A,32Bの一端同士はセンタタップCTで互いに接続され、このセンタタップCTは、出力ラインLO上を平滑回路5を介して出力端子T3に導かれている。つまり、後述する整流回路4は、センタタップ型のものである。このような構成によりトランス3は、詳細は後述するが、ブリッジ回路1もしくはブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2によって生成された入力交流電圧を降圧し、2次側巻線32A,32Bの各端部から、互いに180度位相が異なる出力交流電圧を出力するようになっている。なお、この場合の降圧の度合いは、1次側巻線31と2次側巻線32A,32Bとの巻数比によって定まる。
整流回路4は、一対の整流ダイオード4A,4Bからなる単相全波整流型のものである。整流ダイオード4Aのカソードはトランス3の2次側巻線32Aの他端に接続され、整流ダイオード4Bのカソードはトランス3の2次側巻線32Bの他端に接続されている。また、これら整流ダイオード4A,4Bのアノード同士は互いに接続され、接地ラインLGに接続されている。つまり、この整流回路4はセンタタップ型のアノードコモン接続の構成となっており、トランス3からの出力交流電圧の各半波期間を、それぞれ整流ダイオード4A,4Bによって個別に整流して直流電圧を得るようになっている。
なお、整流ダイオード4A,4Bをそれぞれ、MOS―FETの寄生ダイオードから構成するようにしてもよい。また、このように整流ダイオード4A,4BをそれぞれMOS―FETの寄生ダイオードから構成するようにした場合、これらMOS−FETの寄生ダイオードが導通する期間と同期して、MOS−FET自身もオン状態とすることが好ましい。より少ない電圧降下で整流することができるからである。
平滑回路5は、チョークコイル51と出力平滑コンデンサ52とを含んで構成されている。チョークコイル51は出力ラインLOに挿入配置されており、その一端はセンタタップCTに接続され、その他端は出力ラインLOの出力端子T3に接続されている。また、平滑コンデンサ52は、出力ラインLO(具体的には、チョークコイル51の他端)と接地ラインLGとの間に接続されている。また、接地ラインLGの端部には、出力端子T4が設けられている。このような構成により平滑回路5は、整流回路4で整流された直流電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、これを出力端子T3,T4から低圧バッテリ(図示せず)に給電するようになっている。
入力電圧検出回路61は、1次側高圧ラインL1H上の接続点P0と、後述する制御部63との間に挿入配置されている。入力電圧検出回路61はこのような構成により、スイッチング電源装置へ供給される直流入力電圧(入力電圧)Vinを検出すると共に、この直流入力電圧Vinの大きさに対応する電圧を制御部63へ出力するようになっている。なお、この入力電圧検出回路61の具体的な回路構成としては、例えば、接続点P0と1次側低圧ラインL1L上の接続点(図示せず)との間に配置された分圧抵抗(図示せず)によって、直流入力電圧Vinを検出すると共にこれに応じた電圧を生成するものや、トランス3の2次側の電圧(センタタップCTにおける電圧や、整流ダイオード4A,4Bにおける逆電圧など)を検出すると共にこの電圧に基づいてトランス3の1次側巻線31と2次側巻線32A,32Bとの巻数比を用いることにより、直流入力電圧Vinに対応する電圧を算出するものなどが挙げられる。
入力電流検出回路62は、カレントトランス620と、ダイオード62Dと、抵抗器62Rとから構成されている。カレントトランス620の1次側巻線621は、1次側低圧ラインL1Lに挿入配置(具体的には、入力端子T2とスイッチング素子S2,S4の他端同士との間に配置)されており、2次側巻線622の一端は接地される一方、他端はダイオード62Dのアノードに接続されている。また、ダイオード62Dのカソードは抵抗器62Rの一端に接続され、これらダイオード62Dのカソードおよび抵抗器62Rの一端は互いに、後述する制御部63に接続されている。なお、抵抗器62Rの他端は、2次側巻線622の一端と共に接地されている。入力電流検出回路62はこのような構成(半波整流回路の構成)により、カレントトランス620の1次側巻線621を流れる入力電流Iinを検出すると共に、この入力電流Iinの大きさに対応する電圧を制御部63へ出力するようになっている。なお、この入力電流検出回路62の配置は図1に示したものには限られず、例えば1次側高圧ラインL1Hに挿入配置(具体的には、入力端子T1とスイッチング素子S1,S3の他端同士との間に配置)するようにしてもよく、また、スイッチング素子S1,S2の一端同士から1次側巻線31を介してスイッチング素子S3,S4の一端同士に至る経路内に挿入配置するようにしてもよい。後者の場合、入力電流検出回路62を、いわゆる全波整流回路により構成すればよい。
制御部63は、入力電圧検出回路61によって検出された直流入力電圧Vin(具体的には、この直流入力電圧Vinの大きさに対応する電圧)と、入力電流検出回路62によって検出された入力電流Iin(具体的には、この入力電流Iinの大きさに対応する電圧)とに応じて、ブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2におけるスイッチング動作を制御するものである。具体的には、検出された直流入力電圧Vinおよび入力電流Iinに応じて、ブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)、またはスイッチング素子S5、ダイオードD5およびコンデンサC5からなる素子対と、スイッチング素子S6、ダイオードD6およびコンデンサC6からなる素子対とから構成される第3素子対群、ならびにスイッチング素子S3、ダイオードD3およびコンデンサC3からなる素子対と、スイッチング素子S4、ダイオードD4およびコンデンサC4からなる素子対とから構成される第2素子対群からなるブリッジ回路(第2ブリッジ回路)の一方が選択的にスイッチング動作を行うように制御するようになっている。なお、実際には検出された入力電流Iinに基づいて、以下の(2)式を用いることにより、出力電流Ioutが算出されるようになっている。
Vin/Vout=Iout/Iin=n …(2)
(n;トランス3の1次側巻線31と2次側巻線32A,32Bとの巻数比)
より具体的には、制御部63は、例えば図2に示したような直流入力電圧(入力電圧)Vinと出力電流Ioutとの関係を表す特性図において、このスイッチング電源装置によって一定の出力電圧Voutを維持することが可能な入力電圧範囲の下限値が、グラフG1Hのような正の傾きをもつ直線である場合に、(出力電流値,入力電圧値)の大きさに応じて、スイッチング電源装置が現在、図2に示したような領域A0〜A3のうちのどの領域にあるかを判断し、これら領域A0〜A3に応じて、ブリッジ回路1およびサージ電圧抑止回路2におけるスイッチング動作を制御するようになっている。ここで、A0領域は、入力電圧範囲の下限値を表すグラフG1H上の値と比べ、入力電圧Vinが低いと共に出力電流Ioutが大きい領域であり、一定の出力電圧Voutを維持することができない領域である。また、A1領域は、入力電圧Vinが所定のしきい値電圧Vthよりも高い領域であり、A2領域は、入力電圧Vinがしきい値電圧Vth以下であると共に出力電流Ioutが所定のしきい値電流Ithよりも小さい領域であり、A3領域は、しきい値電流Vinがしきい値電圧Vth以下であると共に出力電流Ioutがしきい値電流Ith以上でかつグラフG1H上の値以下となっている領域であり、これらA1〜A3領域はいずれも一定の出力電圧Voutを維持することが可能な(有効な)領域である。
また、図3は、これらA0〜A3領域とスイッチング素子S1〜S6の動作制御との関係を表したものである(スイッチング素子S3,S4は常にオン・オフ動作するようになっているので、省略する。)。具体的には、制御部63は、スイッチング電源装置がA1,A2領域にあると判断した場合には、スイッチング素子S5,S6をオフ状態に設定すると共にスイッチング素子S1,S2をオン・オフ動作させることにより、ブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)を選択的にスイッチング動作させる一方、スイッチング電源装置がA3(A0)領域にあると判断した場合には、スイッチング素子S5,S6をオン・オフ動作させると共にスイッチング素子S1,S2をオフ状態に設定することにより、上記第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させるようになっている。このようにして、図中の矢印X1で示したように、スイッチング素子S1〜S6の動作制御がなされるようになっている。なお、スイッチング電源装置がA3(A0)領域にあると判断した場合に、図中の矢印X2で示したように制御し、スイッチング素子S1〜S6のいずれもがオン・オフ動作するようにすることも可能であるが、この設定については後述する。また、スイッチング素子S1,S2およびスイッチング素子S5,S6を両者ともオフ状態とした場合には、ブリッジ回路によるフルブリッジ動作ができなくなることから、図中では「−」と表している。
駆動回路6は、制御部63による制御に従って、ブリッジ回路1内のスイッチング素子S1〜S4、およびサージ電圧抑止回路2内のスイッチング素子S5,S6を駆動するためのものである。具体的には、スイッチング素子S1〜S6に対してそれぞれ駆動信号SG1〜SG6を供給し、これらスイッチング素子S1〜S6をそれぞれオン・オフ制御するようになっている。また、この駆動回路6は、後述するようにこれらスイッチング素子S1〜S6に対してスイッチング位相制御を行い、スイッチング位相差を適切に設定することで、直流入力電圧Vinが図2に示した有効な入力電圧範囲内にある場合に、直流出力電圧Voutを一定に維持し安定化させるようになっている。
ここで、インダクタLrが本発明における「共振用インダクタ」の一具体例に対応し、整流回路4および平滑回路5が、本発明における「出力回路」の一具体例に対応する。また、整流ダイオード4A,4Bが、本発明における「出力回路に含まれる整流素子」の一具体例に対応する。
次に、以上のような構成のスイッチング電源装置の動作について説明する。まず、スイッチング電源装置の基本動作について説明する。
高圧バッテリ10から入力端子T1,T2を介して供給される直流入力電圧Vinは、後述するように、ブリッジ回路1もしくはこのブリッジ回路1とサージ電圧抑止回路2とのスイッチング動作によって入力交流電圧となり、トランス3の1次側巻線31に供給される。トランス3の2次側巻線32A,32Bからは、変圧(ここでは、降圧)された出力交流電圧が取り出される。
整流回路4は、この出力交流電圧を整流ダイオード4A,4Bによって整流する。これにより、センタタップCT(出力ラインLO)と整流ダイオード4A,4Bの接続点(接地ラインLG)との間に整流出力が発生する。
平滑回路5は、このセンタタップCTと整流ダイオード4A,4Bのとの間に生じる整流出力を平滑化し、出力端子T3,T4から直流出力電圧Voutを出力する。そしてこの直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷7が駆動される。
ここで、本実施の形態のスイッチング電源装置では、直流入力電圧Vinおよび入力電流Iinが、それぞれ入力電圧検出回路61および入力電流検出回路62によって随時検出され、これらに基づく電圧が制御部63へ出力される。そして制御部63では、これらの電圧に基づいて、スイッチング素子S1〜S6の動作制御がなされる。
図4は、この制御部63によるスイッチング素子S1〜S6の動作制御を、流れ図で表したものである。
まず、上記のように入力電圧検出回路61によって直流入力電圧Vinが検出され、これに基づく電圧が制御部63へ入力されると(ステップS101)、制御部63は、この直流入力電圧Vinがしきい値電圧Vthよりも大きいか否かを判断する(ステップS102)。
しきい値電圧Vthよりも大きいと判断された場合(ステップS102:Y)、制御部63は、スイッチング電源装置が例えば図2に示したA1領域にあると判断し(ステップS103)、スイッチング素子S5,S6をオフ状態に設定すると共に、スイッチング素子S1〜S4をオン・オフ動作させる(ステップS104)。これにより、ブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)が選択的にスイッチング動作し、このブリッジ回路1によって、直流入力電圧Vinから入力交流電圧が生成される。また、詳細は後述するが、ブリッジ回路1内のコンデンサC1〜C4とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)として機能することで、スイッチング素子S1〜S4での短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。さらに、これも詳細は後述するが、サージ電圧抑止回路2内のコンデンサC5,C6とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第2共振回路)として機能すると共にサージ電圧抑止回路2の作用により、整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりが緩やかになる。
一方、直流入力電圧Vinがしきい値電圧Vth以下であると判断された場合(ステップS102:N)、次に制御部63は、入力電流検出回路62によって検出された入力電流Iinに基づいて、前述の(2)式を用いることにより、出力電流Ioutを算出する(ステップS105)。そして制御部63は、この出力電流Ioutがしきい値電流Ithよりも小さいか否かを判断する(ステップS106)。
しきい値電流Ithよりも小さいと判断された場合(ステップS106:Y)、制御部63は、スイッチング電源装置が例えば図2に示したA2領域にあると判断し(ステップS107)、ステップS104へと進む。これにより、上記のようにブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)が選択的にスイッチング動作し、このブリッジ回路1によって、直流入力電圧Vinから入力交流電圧が生成される。また、スイッチング素子S1〜S4での短絡損失が抑制されて装置の効率が向上すると共に、整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりが緩やかになる。
一方、出力電流Ioutがしきい値電流Ith以上であると判断された場合(ステップS106:N)、制御部63は、スイッチング電源装置が例えば図2に示したA3(A0)領域にあると判断し(ステップS108)、スイッチング素子S1,S2をオフ状態に設定すると共に、スイッチング素子S3〜S6をオン・オフ動作させる(ステップS109)。これにより、上記第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作し、この第2ブリッジ回路によって、直流入力電圧Vinから入力交流電圧が生成される。また、詳細は後述するが、インダクタLrがバイパスされることにより、一定の出力電圧Voutを維持可能な入力電圧範囲が広くなる。このようにして、制御部63によるスイッチング素子S1〜S6の動作制御が終了となる。
次に、図5〜図24を参照して、本発明において特徴的なスイッチング電源装置の回路動作を、ブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)が選択的にスイッチング動作する場合と、上記第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合とに分けて説明する。
<第1ブリッジ回路による動作>
まず、図5〜図21を参照して、第1ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合の回路動作について、詳細に説明する。
ここで、図5は、図1のスイッチング電源装置における各部の電圧波形または電流波形をタイミング波形図(タイミングt0〜t10)で表したものであり、図中の(A)〜(F)は駆動信号SG1〜SG6の電圧波形を、(G)〜(I)は接続点P1〜P3の電位VP1〜VP3を、(J)は接続点P3の電位VP3を基準とした接続点P1,P3間の電位差VP1-P3を、(K)は接続点P2の電位VP2を基準とした接続点P3,P2間の電位差VP3-P2を、(L)はインダクタLrを流れる電流Irを、(M)はトランス3の1次側巻線31を流れる電流I31を、(N),(O)はそれぞれサージ電圧抑止回路2におけるダイオードD5,D6とコンデンサC5,C6との並列接続部分を流れる電流I5,I6を、(P),(Q)はそれぞれ整流ダイオード4A,4Bのアノード・カソード間に加わる逆電圧V4A,V4Bを、(R),(S)はそれぞれ整流ダイオード4A,4Bを流れる電流I4A,I4Bを、(T)はチョークコイル51を流れる電流I51を、それぞれ表している。なお、各電圧の方向は図1に矢印で示したとおりであり、「−」から「+」の方向を正方向としている。また、各電流の方向も、図1に矢印で示した方向を正方向としている。
また、図6〜図17は、図5の各タイミング(タイミングt0〜t10)におけるスイッチング電源装置の動作状態を表したものであり、図18は、図5で示したタイミング以降(タイミングt10〜t20(t0))の各部の電圧波形または電流波形を表したものである。なお、図5,図18でそれぞれ示したタイミングは、それぞれスイッチング電源装置の動作の半周期分のものを表しており、これらの動作を合わせて一周期分の動作となっている。
まず、図5〜図17を参照して、最初の半周期分の動作について説明する。
スイッチング素子S1〜S4の駆動信号SG1〜SG4(図5(A)〜(D))についてみると、これらのスイッチング素子は、2つのスイッチング素子対に区分されることが分かる。具体的には、スイッチング素子S1,S2はいずれも時間軸上における固定タイミングでオンするように制御され、「固定側スイッチング素子」と称される。また、スイッチング素子S3,S4はいずれも時間軸上における可変タイミングでオンするように制御され、「シフト側スイッチング素子」と称される。
また、これらスイッチング素子S1〜S4は、スイッチング動作のいかなる状態においても、直流入力電圧Vinが印加された入力端子T1,T2が電気的に短絡されない組み合わせおよびタイミングで駆動される。具体的には、スイッチング素子S3,4(固定側スイッチング素子)は、同時にオンとなることはなく、また、スイッチング素子S1,S2(シフト側スイッチング素子)も、同時にオンとなることはない。これらが同時にオンとなるのを回避するためにとられる時間的間隔は、デッドタイムTdと称される(図5(A),(D))。
また、スイッチング素子S1,S4は同時にオンとなる期間を有し、この同時にオンとなる期間において、トランス3の1次側巻線31が励磁される。そしてこれらスイッチング素子S1,S4は、スイッチング素子S1(固定側スイッチング素子)を基準としてスイッチング位相差φをなすように動作する(図5(A),(D))。また同様に、スイッチング素子S2,S3は同時にオンとなる期間を有し、この同時にオンとなる期間において、トランス3の1次側巻線31が、上記の場合とは逆方向に励磁される。そしてこれらスイッチング素子S2,S3は、スイッチング素子S2(固定側スイッチング素子)を基準としてスイッチング位相差φをなすように動作する(図5(B),(C))。さらに、スイッチング素子S1とスイッチング素子S4とのスイッチング位相差φ、およびスイッチング素子S2とスイッチング素子S3とのスイッチング位相差φがそれぞれ制御されると、スイッチング素子S1およびスイッチング素子S4が同時にオンになっている時間、ならびにスイッチング素子S2およびスイッチング素子S3が同時にオンになっている時間がそれぞれ変化する。これにより、トランス3の1次側巻線31に印加される入力交流電圧のデューティ比が変化し、直流出力電圧Voutが安定化されるようになっている。
まず、図6に示したタイミングt0〜t1までの期間では、スイッチング素子S1,S4がオン状態となっており(図5(A),(D))、スイッチング素子S2,S3はオフ状態となっている(図5(B),(C))。一方、スイッチング素子S5,S6は、前述のように、タイミングt0〜t10の全期間において、オフ状態となっている(図5(E),(F))。また、接続点P1の電位VP1=Vin(図5(G))、および接続点P2の電位VP2=0V(図5(H))であり、前述のようにインダクタLrのインダクタンスはトランス3の1次側巻線31のインダクタンスと比べて非常に小さいことから、接続点P3の電位VP3≒Vinとなり(図5(I))、VP2を基準とした接続点P3,P2間の電位差VP3-P2もほぼVinと等しくなっている(図5(I))。したがって、ブリッジ回路1には図6に示したようなループ電流Iaが流れ、インダクタLrが励磁されると共に、トランス3の1次側から2次側へ電力伝送が行われる。よって、トランス3の2次側には、整流ダイオード4Aおよびチョークコイル51を介するループ電流Ixaが流れ、負荷7が駆動される。なお、この期間では、整流ダイオード4Aには順方向電圧が印加され、逆電圧V4A=0V(図5(P))となる一方、整流ダイオード41Bには、逆電圧V4Bが印加されている(図5(R))。
次に、図7で示したタイミングt1〜t2までの期間では、タイミングt1でスイッチング素子S4がオフ状態となる(図5(D))。すると、コンデンサC3,C4とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)が構成され、第1共振動作が行われる。したがって、図7に示したようなループ電流Ib,Icが流れ、コンデンサC3が放電される一方、コンデンサC4は充電されるので、接続点P2の電位VP2が徐々に上昇していき、タイミングt2でVP2=Vinとなる(図5(H))。また、このとき整流ダイオード4Bの逆電圧V4Bが徐々に下降していき、タイミングt2で0Vとなる(図5(R))。
ここで、図8で示したように、タイミングt2でVP2=Vinとなると(図5(H))、ダイオードD3が導通するようになる。また、このようにVP2=VinとなってダイオードD3が導通した後に、図9に示したように、タイミングt3でスイッチング素子S3がオン状態となることで(図5(C))、ゼロボルトスイッチング(ZVS;Zero Volt Switching)動作がなされ、その結果、スイッチング素子S3における短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。
また、このタイミングt2〜t4の期間では、タイミングt0〜t1の期間で励磁されることによりインダクタLrに蓄えられたエネルギーが、このインダクタLrの両端に接続された回路において、電流として循環しようとする。具体的には、図9に示したように、インダクタLrの一端(接続点P3)からスイッチング素子S1の他端(1次側高圧ラインL1H側)までの間の電位差が互いに等しくなるように、ループ電流Id,Ieがそれぞれ流れる。ここで、ループ電流Idの経路においては、この電位差は、トランス3の1次側巻線31の両端間の電圧V31と、スイッチング素子S3の両端間の電圧VS3との和になる。V31は、トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比をnとすると、整流ダイオード4Aの順方向電圧降下をこの巻数比nで割ったものとなり、V31は、スイッチング素子S3がオフ状態のとき(タイミングt2〜t3の期間)はダイオードD3の順方向電圧降下となり、スイッチング素子S3がオン状態のとき(タイミングt3〜t4の期間)は、スイッチング素子S3のオン抵抗と流れる電流との積になる。一方、ループ電流Ieの経路においては、上記電位差は、ダイオードD5の順方向電圧降下となる。
ここで、これらダイオード4A,D3,D5の順方向電圧降下の値は、流れている順方向電流値や周囲の温度によって変化するが、ループ電流Id,Ieはそれぞれ、上記電位差が互いに等しくなるように流れる。また、このように電流が2つのループ電流Id,Ieに分流することにより、トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値が減少する(図5(M))。さらに、このトランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。
次に、図10で示したように、タイミングt4になると、スイッチング素子S1がオフ状態となる(図5(A))。すると、コンデンサC1,C2とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)が構成され、第1共振動作が行われる。したがって、図10に示したようなループ電流If,Ig,Ih,Iiが流れる。よって、コンデンサC2が放電される一方、コンデンサC1は充電されるので、接続点P1の電位VP1が徐々に下降していき、タイミングt5でVP1=0Vとなる(図5(G))。
ここで、図11で示したように、タイミングt5でVP1=0Vとなると(図5(G))、このときVP3=Vin(図5(I))およびVP1-P3=−Vin(図5(J))であることから、ダイオードD2が導通するようになる。また、このようにVP1=0VとなってダイオードD2が導通した後に、図12に示したように、タイミングt6でスイッチング素子S2がオン状態となることで(図5(B))ZVS動作がなされ、その結果、スイッチング素子S2における短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。
次に、図12に示したタイミングt6〜t7までの期間では、インダクタLrに蓄えられたエネルギーは、コンデンサC1,C2における充放電が終了した後も、図12に示したようなループ電流Im,Ilによって、入力平滑コンデンサ11に回生される。そしてこの入力平滑コンデンサ11へ回生されるに従ってインダクタLrに蓄えられたエネルギーは減少し、それに伴ってインダクタLrを流れる電流Irの絶対値、およびトランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値も減少していく(図5(L),(M))。このため、トランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。
また、この期間では、インダクタLrの一端(接続点P3)からダイオードD5のカソードまでの間の電位差が互いに等しくなるように、上記ループ電流Im,Ilがそれぞれ流れているが、次第にループ電流Imの経路での電位差のほうがループ電流Ilの経路での電位差よりも大きくなり、ダイオードD5が非導通となることで、インダクタLrを流れる電流Irの絶対値とトランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値とが等しくなる(図5(L),(M))。なお、前述したように、ループ電流Ilの経路での電位差は、トランス3の1次側巻線31の両端間の電圧V31(整流ダイオード4Aの順方向電圧降下を、トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比nで割ったもの)と、スイッチング素子S3の両端間の電圧VS3(この期間では、スイッチング素子S3がオン状態であるので、スイッチング素子S3のオン抵抗と流れる電流との積になる)との和となり、ループ電流Imの経路での電位差は、ダイオードD5の順方向電圧降下となる。
次に、図13で示したように、タイミングt7になると、インダクタLrに蓄えられたエネルギーがすべて回生され、インダクタLrを流れる電流Ir=トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31=0A(図5(L),(M))、および整流ダイオード4Aを流れる電流I4A=整流ダイオード4Bを流れる電流I4B(図5(Q),(S))となる。そしてこのタイミングt7から、インダクタLrはこれまでと逆方向のエネルギーを蓄えるようになり、インダクタLrおよびトランス3の1次側巻線31には、図14に示したようにこれまでと反対方向のループ電流Inが流れるようになると共に、電流IrはVin/L(L;インダクタLrのインダクタンス)の割合で増加していく(図5(L),(M))。このため、トランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。ただし、整流ダイオード4Aを流れる電流I4Aは徐々に減少していく一方、整流ダイオード4Bを流れる電流I4Bは徐々に増加していく(図5(Q),(S))。そしてI4A=0Aとなり、トランス3の2次側巻線32Bを流れる電流がチョークコイル51を流れる電流I51と等しくなったとき、このトランス3でのアンペア・ターンはこれ以上増加しないことからI31の増加が妨げられようとするが、サージ電圧抑止回路2のコンデンサC5,C6とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第2共振回路)が構成され、第2共振動作が開始される。このときが、タイミングt8に相当する。
次に、図15に示したタイミングt8〜t9までの期間では、上記第2共振動作によって、ループ電流Io,Ipが流れる。よって、コンデンサC6が放電される一方、コンデンサC5は充電されるので、この第2共振動作に伴って、接続点P3の電位VP3が緩やかに下降していく(図5(I))。これに伴い、トランス3の1次側巻線31の両端間の電圧V31の絶対値が増加すると共に、2次側巻線32A,32Bにもそれぞれ電圧V32A,V32Bが発生し、V32A=V32B=V31/n(n;トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比)、(整流ダイオード4Bのカソードの電位)<(センタタップCTの電位)<(整流ダイオード4Aのカソードの電位)、(インダクタLrを流れる電流Ir)=(トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31)+(ダイオードD5とコンデンサC5との並列接続部分を流れる電流I5)+(ダイオードD6とコンデンサC6との並列接続部分を流れる電流I6)となる。上記のようにVP3が緩やかに下降していき、VP3=0VおよびVP3-P2=−Vin(図5(I),(K))となったときが、タイミングt9に相当する。
ここで、本実施の形態のスイッチング電源装置では、このタイミングt8〜t9までの期間において、第2共振回路の共振時間と整流ダイオード4A,4Bのリカバリ時間とが前述の条件式(1)を満たすように設定されているので、装置の構成によらず、これら整流ダイオード4A,4Bでのリカバリ電流の発生が抑制される。したがって、コンデンサC5,C6とインダクタLrとによる第2共振動作は継続されようとするが、VP3=0V(図5(I))であることから、コンデンサC6およびダイオードD6の両端の電圧は0Vとなり、コンデンサC6を流れる電流IC6=0Aになると共に、ダイオードD6が導通する。
よって、図16に示したタイミングt9〜t10までの期間では、ダイオードD6が導通すること、およびスイッチング素子S3がオン状態(図5(C))であることから、トランス3の1次側巻線31の両端の電圧V31(およびVP3-P2の絶対値(図5(K)))がVinにクランプされ、これによりトランスの2次側巻線32Bの両端の電圧V32Bが、Vin/n(n;トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比)にクランプされる。このため、整流ダイオード4Aに加わる逆電圧V4Aは、整流回路4がセンタタップ型の構成であることから、2×Vin/nよりも大きくなることはない(図5(P))。言い換えると、この整流ダイオード4Aに加わる逆電圧V4Aは、最大でも2×Vin/n以下となり、サージ電圧の上昇が抑制される。
また、このタイミングt9〜t10までの期間では、上記のようにダイオードD6が導通することから、(インダクタLrを流れる電流Ir)=(トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31)+(ダイオードD6を流れる電流ID6)となり、第2共振動作による共振電流が、図16に示したようにループ電流Iqで表される一方、Irは一定となる(図5(L))。また、トランス3の2次側巻線32Bの両端の電圧V32Bによってチョークコイル51が励磁されるのに伴い、このチョークコイル51を流れる電流I51が増加し、I31=(2次側巻線32Aを流れる電流I32A)+(2次側巻線32Bを流れる電流I32B)=I32B=I51であることから、I31も増加していく(図5(M))。さらに、Ir=I31+ID6、およびIrが一定であることから、I31の増加によりID6が減少する。ID6=I6=0Vとなったとき(図5(P))が、図17に示したタイミングt10に相当する。以上で、最初の半周期分の動作が終了する。
次に、図18を参照して、図5で示したタイミングt0〜t10以降の半周期分(タイミングt10〜t20(t0))の動作について説明する。
この半周期分の動作も、基本的には図5〜図17で説明した半周期分の動作と同様である。すなわち、タイミングt10〜t11までの期間では、スイッチング素子S2,S3がオン状態となっており(図18(B),(C))、スイッチング素子S1,S4はオフ状態となっている(図18(A),(D))。一方、スイッチング素子S5,S6は、やはりタイミングt10〜t20(t0)の全期間において、オフ状態となっている(図18(E),(F))。また、接続点P1の電位VP1=0V(図18(G))、および接続点P2の電位VP2=Vin(図18(H))であり、インダクタLrのインダクタンスはトランス3の1次側巻線31のインダクタンスと比べて非常に小さいことから、接続点P3の電位VP3≒0Vとなり(図18(I))、VP2を基準とした接続点P3,P2間の電位差VP3-P2もほぼ0Vと等しくなっている(図18(K))。したがって、ブリッジ回路1にはループ電流が流れ、インダクタLrが励磁されると共に、トランス3の1次側から2次側へ電力伝送が行われる。よって、トランス3の2次側には、整流ダイオード4Bおよびチョークコイル51を介するループ電流が流れ、負荷7が駆動される。なお、この期間では、整流ダイオード4Bには順方向電圧が印加され、逆電圧V4B=0V(図18(R))となる一方、整流ダイオード41Aには、逆電圧V4Aが印加されている(図18(P))。
次に、タイミングt11〜t12までの期間では、タイミングt11でスイッチング素子S3がオフ状態となる(図18(C))。すると、コンデンサC3,C4とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)が構成され、第1共振動作が行われる。したがって、2つのループ電流によって、コンデンサC3が充電される一方、コンデンサC4は放電されるので、接続点P2の電位VP2が徐々に下降していき、タイミングt12でVP2=0Vとなる(図18(H))。また、このとき整流ダイオード4Aの逆電圧V4Aが徐々に下降していき、タイミングt12で0Vとなる(図18(P))。
ここで、タイミングt12でVP2=0Vとなると(図18(H))、ダイオードD4が導通するようになる。また、このようにVP2=0VとなってダイオードD4が導通した後に、タイミングt13でスイッチング素子S4がオン状態となることで(図18(D))、ZVS動作がなされ、その結果、スイッチング素子S4における短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。
また、このタイミングt12〜t14の期間では、前述のように、タイミングt10〜t11の期間で励磁されることによりインダクタLrに蓄えられたエネルギーがインダクタLrの両端に接続された回路において電流として循環しようとし、電流が2つのループ電流に分流するため、トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値が減少する(図18(M))。また、このトランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。
次に、タイミングt14になると、スイッチング素子S2がオフ状態となる(図18(B))。すると、コンデンサC1,C2とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)が構成され、第1共振動作が行われる。したがって、4つのループ電流が流れ、コンデンサC2が充電される一方、コンデンサC1は放電されるので、接続点P1の電位VP1が徐々に上昇していき、タイミングt15でVP1=Vinとなる(図18(G))。
ここで、タイミングt15でVP1=Vinとなると(図18(G))、このときVP3=0V(図18(I))およびVP1-P3=Vin(図18(J))であることから、ダイオードD1が導通するようになる。また、このようにVP1=VinとなってダイオードD1が導通した後に、タイミングt16でスイッチング素子S1がオン状態となることで(図18(A))ZVS動作がなされ、その結果、スイッチング素子S1における短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。
次に、タイミングt16〜t17までの期間では、インダクタLrに蓄えられたエネルギーは、コンデンサC1,C2における充放電が終了した後も、2つのループ電流によって入力平滑コンデンサ11に回生される。そしてこの入力平滑コンデンサ11へ回生されるに従ってインダクタLrに蓄えられたエネルギーは減少し、それに伴ってインダクタLrを流れる電流Irの絶対値、およびトランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値も減少していく(図18(L),(M))。このため、トランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。また、この期間では、ダイオードD6が非導通となることで、インダクタLrを流れる電流Irの絶対値とトランス3の1次側巻線31を流れる電流I31の絶対値とが等しくなる(図18(L),(M))。
次に、タイミングt17になると、インダクタLrに蓄えられたエネルギーがすべて回生され、インダクタLrを流れる電流Ir=トランス3の1次側巻線31を流れる電流I31=0A(図18(L),(M))、および整流ダイオード4Aを流れる電流I4A=整流ダイオード4Bを流れる電流I4B(図18(Q),(S))となる。そしてこのタイミングt17から、インダクタLrはこれまでと逆方向のエネルギーを蓄えるようになり、インダクタLrおよびトランス3の1次側巻線31には、これまでと反対方向のループ電流が流れるようになると共に、電流IrはVin/L(L;インダクタLrのインダクタンス)の割合で増加していく(図18(L),(M))。このため、トランス3でのアンペア・ターンが等しくなると共に、トランス3の2次側巻線32A,32Bをそれぞれ流れる電流の和がチョークコイル51を流れる電流I51に等しくなるように、この電流I51が、整流ダイオード4Aを流れるループ電流Ixaと、整流ダイオード4Bを流れるループ電流Ixbとに分流する。ただし、整流ダイオード4Bを流れる電流I4Bは徐々に減少していく一方、整流ダイオード4Aを流れる電流I4Aは徐々に増加していく(図18(Q),(S))。そしてI4B=0Aとなり、トランス3の2次側巻線32Aを流れる電流がチョークコイル51を流れる電流I51と等しくなったとき、このトランス3でのアンペア・ターンはこれ以上増加しないことからI31の増加が妨げられようとするが、サージ電圧抑止回路2のコンデンサC5,C6とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第2共振回路)が構成され、第2共振動作が開始される。このときが、タイミングt18に相当する。
次に、タイミングt18〜t19までの期間では、上記第2共振動作によって2つのループ電流が流れ、コンデンサC6が充電される一方、コンデンサC5は放電されるので、この第2共振動作に伴って、接続点P3の電位VP3が緩やかに上昇していく(図18(I))。これに伴い、トランス3の1次側巻線31の両端間の電圧V31が増加すると共に、2次側巻線32A,32Bにもそれぞれ電圧V32A,V32Bが発生する。このようにVP3が緩やかに上昇していき、VP3=VinおよびVP3-P2=Vin(図18(I),(K))となったときが、タイミングt19に相当する。
また、本実施の形態のスイッチング電源装置では、このタイミングt18〜t19までの期間において、第2共振回路の共振時間と整流ダイオード4A,4Bのリカバリ時間とが前述の条件式(1)を満たすように設定されているので、装置の構成によらず、これら整流ダイオード4A,4Bでのリカバリ電流の発生が抑制される。したがって、コンデンサC5,C6とインダクタLrとによる第2共振動作は継続されようとするが、VP3=Vin(図18(I))であることから、コンデンサC5およびダイオードD5の両端の電圧は0Vとなり、コンデンサC5を流れる電流IC5=0Aになると共に、ダイオードD5が導通する。
よって、タイミングt19〜t20までの期間では、ダイオードD5が導通すること、およびスイッチング素子S4がオン状態(図18(D))であることから、トランス3の1次側巻線31の両端の電圧V31(およびVP3-P2の絶対値(図18(K)))がVinにクランプされ、これによりトランスの2次側巻線32Aの両端の電圧V32Aが、Vin/n(n;トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比)にクランプされる。このため、整流ダイオード4Bに加わる逆電圧V4Bは、整流回路4がセンタタップ型の構成であることから、2×Vin/nよりも大きくなることはない(図18(R))。言い換えると、この整流ダイオード4Bに加わる逆電圧V4Bは、最大でも2×Vin/n以下となり、サージ電圧の上昇が抑制される。
また、このタイミングt19〜t20までの期間では、上記のようにダイオードD5が導通することから、Irは一定となる(図18(L))。また、トランス3の2次側巻線32Aの両端の電圧V32Aによってチョークコイル51が励磁されるのに伴い、このチョークコイル51を流れる電流I51が増加し、I31も増加していく(図18(M))。さらに、Ir=I31+ID5、およびIrが一定であることから、I31の増加によりID5が減少する。ID5=I5=0Vとなったとき(図18(N))が、タイミングt20に相当する。以上で後半の半周期分の動作が終了し、図5のタイミングt0と等価な状態となる。
次に、図19〜図21を参照して、本実施の形態のスイッチング電源装置において整流ダイオードに加わるサージ電圧の波形と、従来のスイッチング電源装置(比較例1,2)において整流ダイオードに加わるサージ電圧の波形とについて、比較しつつ説明する。
ここで、図19(A)〜(C)はそれぞれ、本実施の形態および比較例1,2に係るスイッチング電源装置において、整流ダイオードに加わる逆電圧のタイミング波形を表したものである。また、図20,図21はそれぞれ、これら比較例1,2に係るスイッチング電源装置の構成を表したものである。具体的には、比較例1は、本実施の形態のサージ電圧抑止回路2の代わりに、このサージ電圧抑止回路2からコンデンサC5,C6が除かれたサージ電圧抑止用の回路102を設けたものであり、比較例2は、サージ電圧抑止回路2の代わりに、トランス3の2次側に、インダクタL7、コンデンサC7およびダイオードD7から構成されるサージ電圧抑止用のスナバ回路202を設けたものである。このスナバ回路202は、具体的には、インダクタL7の一端が出力ラインLO上のチョークコイル51とセンタタップCTとの間に接続され、他端がダイオードD7のカソードとコンデンサC7の一端とに接続されている。また、ダイオードD7のアノードはやはり出力ラインLO上のチョークコイル51とセンタタップCTとの間に接続され、コンデンサC5の他端は接地ラインLGに接続されている。なお、図19(A)〜(C)にそれぞれ示した逆電圧波形は、トランス3の2次側のセンタタップCTにおける電圧波形であり、実際に整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧は、この2倍の値となる。
まず、図19(C)に示した比較例2に係る逆電圧波形では、サージ電圧の最大値(ピーク値)が83Vとなっている。これは、スナバ回路202によってサージ電圧がある程度抑制された結果によるものであり、直流入力電圧Vin/n(n;トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比)の約2倍(2.02倍)に相当するものである。一方、図19(B)に示した比較例1に係る逆電圧波形では、サージ電圧の最大値が52Vとなっており、Vin/nの1.26倍に相当するものである。また、この比較例1に係る逆電圧波形では、この最大値までの立ち上がり時間が約20nsとなっており、サージ電圧抑止用の回路102にコンデンサが含まれていないことに起因して、急峻に立ち上がっていることが分かる。
これに対して、図19(A)に示した本実施の形態に係る逆電圧波形では、サージ電圧抑止回路2にコンデンサC5,C6が含まれ、これらコンデンサC5,C6とインダクタLrとから構成される第2共振回路の共振時間と、整流ダイオード4A,4Bのリカバリ時間とが、前述の条件式(1)を満たすように設定されていることから、装置構成によらず、前述のように整流ダイオード4A,4Bでのリカバリ電流の発生が抑制されると共に、第2共振回路の共振動作によって緩やかに立ち上がっていることが分かる。具体的には、サージ電圧の最大値が45.5Vであり、Vin/nの約1倍(1.08倍)に相当するものであると共に、このこの最大値までの立ち上がり時間が約100nsとなっている。すなわち、図19(B),(C)に示した比較例1,2と比べて逆電圧の立ち上がりが緩やかになり、その結果、サージ電圧の上昇がより効果的に抑制されていることが分かる。
このようにして、ブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)が選択的にスイッチング動作する場合には、ブリッジ回路1内のコンデンサC1〜C4とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第1共振回路)として機能することで、スイッチング素子S1〜S4での短絡損失が抑制され、装置の効率が向上する。また、サージ電圧抑止回路2内のコンデンサC5,C6とインダクタLrとが協働してLC直列共振回路(第2共振回路)として機能すると共にサージ電圧抑止回路2の作用により、装置構成によらず、整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりが緩やかになる。
<第2ブリッジ回路による動作>
次に、図22〜図24を参照して、前述の第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合の回路動作について、詳細に説明する。
ここで、図22および図23は、それぞれ、第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合における電圧波形または電流波形をタイミング波形図(タイミングt0〜t10およびタイミングt10〜t20(0))で表したものであり、図中の(A)〜(F)は駆動信号SG1〜SG6の電圧波形をそれぞれ表している。
まず、このように第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合には、前述のように、制御部63によって、スイッチング素子S1,S2が全期間においてオフ状態となっている(図22および図23(A),(B))。また、その代わりに第2ブリッジ回路を構成するスイッチング素子S5,S6が、図5および図18に示した第1ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合におけるスイッチング素子S1,S2と同様の同様のオン・オフ動作をするようになっている(図22および図23(E),(F))。なお、スイッチング素子S3,S4は、図5および図18に示した第1ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合と同様に、オン・オフ動作をするようになっている。
このようにスイッチング素子S1〜S6の動作が設定された場合、図22および図23から分かるように、第2ブリッジ回路を構成するスイッチング素子S3〜S6によって、一般的な位相シフト方式によるスイッチング動作がなされ、これにより直流入力電圧Vinから入力交流電圧が生成される。すると、共振用のインダクタLrの両端にはほとんど電圧が印加されなくなるため、このインダクタLrがバイパスされ、そのインダクタンス成分が見かけ上、見えなくなる。言い換えると、第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させた場合には、電流ループにおけるインダクタンス成分が、ほぼ0となる。
ここで、スイッチング電源装置におけるスイッチング素子の最大デューティD(max)は、以下の(3)式により算出される。この(3)式によると、寄生容量C、巻数比n、直流入力電圧Vin、TrおよびTfは固定の値であり、また、出力電流Ioutも最大出力電流値で固定されることから、最大デューティD(max)は、共振用のインダクタLrにおけるインダクタンス成分Lの関数となることが分かる。また、このインダクタンス成分Lが減少すると、最大デューティD(max)は増加することも分かる。したがって、上記のように、第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させた場合には、電流ループにおけるインダクタンス成分Lがほぼ0となることから、上記(3)式によりスイッチング素子の最大デューティD(max)が増加し、直流出力電圧Voutへ電力伝送する時間が長くなる。
D(max)=1−{(共振動作によるデッドタイム)
+(スイッチング素子によるデッドタイム)}
=1−[{2π×(L×C×2)1/2+L×Iout/n/Vin}+(Tr+Tf)]…(3)
但し、Lは共振用のインダクタLrにおけるインダクタンス成分であり、Cはスイッチング素子S3〜S6の寄生容量(コンデンサC3〜C6の容量)であり、Ioutは出力電流であり、nはトランス3の1次側巻線31と2次側巻線32A,32Bとの巻数比であり、Vinは直流入力電圧であり、Trはスイッチング素子S3〜S6の上昇時間であり、Tfはスイッチング素子S3〜S6の降下時間である。
よって、例えば図24の矢印X3で示したように、一定の出力電圧Voutを維持することが可能な入力電圧範囲の下限値が、グラフG1HからグラフG1Lのように小さくなり、図中のA4領域の分だけ、入力電圧範囲が広くなる。
このようにして、第2ブリッジ回路が選択的にスイッチング動作する場合には、この第2ブリッジ回路のスイッチング動作によって直流入力電圧Vinから入力交流電圧が生成されるため、共振用のインダクタLrがバイパスされ、そのインダクタンス成分Lが考慮されなくなることから、一定の出力電圧Voutを維持可能な入力電圧範囲が、従来と比べて広くなる。
なお、このようにして第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させる場合には、サージ電圧抑止回路2内のスイッチング素子S5,S6をオン・オフ動作させるため、前述したブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)を選択的にスイッチング動作させる場合とは異なり、整流回路4内の整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりを緩やかにすることはできない。しかしながら、例えば図2に示したように、この第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させる場合(A3(A0)領域)は、第1ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させる場合(A1,A2領域)と比べて、直流入力電圧Vinが低くなっている。したがって、もともと整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧が小さいため、サージ電圧を抑止する動作がなされなくとも、問題とはならない。
また、この場合、上記のように電流ループにおけるインダクタンス成分Lがほぼ0となるため、前述したブリッジ回路1(第1ブリッジ回路)を選択的にスイッチング動作させる場合とは異なり、第1共振回路による共振動作により、スイッチング素子S3〜S6におけるスイッチング損失を抑制することもほとんどできない。しかしながら、この場合も第1ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させる場合と比べ、直流入力電圧Vinが低く、出力電流Ioutが大きくなっていることから、ZVSを行いやすい状況にあるため、やはり問題とはならない。
以上のように、本実施の形態では、直流入力電圧Vinが入力される一対の入力端子T1,T2間に3つの素子対群(第1〜第3素子対群)をそれぞれ並列して配置するようにしたので、直流入力電圧Vinから入力交流電圧を生成するブリッジ回路を複数種類構成(第1および第2ブリッジ回路)することができ、入力側から出力側への電圧変換方法を多様化することが可能となる。
また、直流入力電圧Vinまたは出力電流Ioutの少なくとも一方に応じて、第1ブリッジ回路または第2ブリッジ回路の一方を選択的にスイッチング動作させるようにしたので、前者を選択的に動作させる場合には、第1共振回路の共振動作によってスイッチング素子S1〜S3での短絡損失を抑制し装置の効率を向上させると共に、第2共振回路およびサージ電圧抑止回路2によって整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりを緩やかにすることができる一方、後者を選択的に動作させる場合には、共振用のインダクタLrをバイパスすることによって一定の出力電圧を維持可能な入力電圧範囲を広くすることができることから、直流入力電圧Vinや負荷(出力電流Iout)が変動するような状況下であっても、総合的な装置性能を向上させることが可能となる。
また、サージ電圧を抑制することができることにより、整流素子での損失を低減し、装置の効率を向上させることが可能となる。また、整流素子での損失を低減することにより、素子での発熱を抑制することも可能となる。
また、サージ電圧の上昇を抑制することにより、耐圧の低い整流素子(整流ダイオード)を使用することでき、部品コストを低減することが可能となる。
また、装置構成に依存せずにサージ電圧の抑制が可能であることから、装置設計の際の自由度を向上させることが可能となる。
さらに、上記のように第2ブリッジ回路を選択的にスイッチング動作させた場合には一定の出力電圧を維持可能な入力電圧範囲を広げることができるので、例えば入力側が図1に示したような高圧バッテリの場合には、放電深度が深くなるように設定することにより、使用可能なエネルギー量を増加させることが可能となる。また、例えば入力側に発電機が設置されると共にこのスイッチング電源装置がハイブリッドカーなどの車載用として用いられたような場合にも、使用状況等に応じて発電機の出力電圧の変動幅が大きくなることが多いことから、スイッチング電源装置の入力電圧範囲が広がることにより、そのような場合にも対応することができ、安定した出力電圧を維持することが可能となる。
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施の形態では、前述した第2ブリッジ回路を選択的に動作させる際に、図22および図23にそれぞれ示したように、スイッチング素子S1,S2をオフ状態に設定する場合について説明したが、例えば図25および図26にそれぞれ示したように、これらスイッチング素子S1,S2をそれぞれ、スイッチング素子S5,S6と同期してオン・オフ動作させるようにしてもよい。このように構成した場合でも、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、上記実施の形態では、図2や図5に示したように、制御部63が、検出された直流入力電圧Vinに加え、検出された出力電流Ioutを考慮してスイッチング素子S1〜S6の動作制御を行う場合について説明したが、例えば検出された直流入力電圧Vinだけに基づいて動作制御を行ったり、検出された出力電流Ioutだけに基づいて動作制御を行うようにしてもよい。具体的には、スイッチング電源装置における入力電圧範囲の下限値が、例えば図27(A)に示したグラフG2のようになっている場合には、上記のように検出された直流入力電圧Vinだけに基づいてスイッチング素子S1〜S6の動作制御を行うことが可能である。また、例えば図27(B)に示したグラフG3のように、使用する入力電圧Vinに上限Vmaxが設定されており、この上限Vmaxと下限値のグラフG3とが交差するような場合には、上記のように検出された出力電流Ioutだけに基づいてスイッチング素子S1〜S6の動作制御を行うことが可能である。このように構成した場合、動作制御の判断指標が1つのパラメータとなるので、上記実施の形態における効果に加え、動作制御がより簡単にできるという効果を奏する。
また、上記実施の形態で説明した条件式(1)に加え、さらに、第2共振回路の共振時間と、サージ電圧抑止回路2内のダイオードD5,D6のリカバリ時間Trr2とが、以下の条件式(4)を満たすように設定するのが好ましい。なお、CはコンデンサC5,C6の並列合成容量値(C=(C5+C6))である。このように構成した場合、上記した整流ダイオード4A,4Bに加え、これらダイオードD5,D5に加わる逆電圧の立ち上がりも緩やかになり、ダイオードD5,D6におけるサージ電圧の上昇も抑制される。よって、これらダイオードD5,D6に加わる逆電圧においてリンギングの発生を抑えることができ、これによりノイズの発生を抑えることも可能となる。
1/4×{2π×(L×C)1/2}>Trr2 ……(4)
また、逆に上記実施の形態で説明した条件式(1)を考慮しないように構成してもよい。このように構成した場合、装置構成によっては(例えばトランス3の2次側の配線が長い場合など、配線の寄生インダクタンスや寄生容量が大きい場合)、整流ダイオード4A,4Bに加わる逆電圧の立ち上がりを緩やかにする効果が小さくなる場合も生ずるが、それでも従来よりサージ電圧を抑制することは可能である。
また、例えば図28に示したように、上記実施の形態のスイッチング電源装置(図2)において、インダクタLrと、トランス3およびその2次側の回路(整流回路4および平滑回路5)の構成とを、サージ電圧抑止回路2に対して左右逆となるように配置してもよい。具体的には、インダクタLrを接続点P2,P3間に配置すると共に、トランス3を接続点P1,P3間に配置するようにしてもよい。このように構成した場合でも、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、例えば図29に示したように、センタタップ型の整流回路4を、フルブリッジ型の整流回路41とするようにしてもよい。具体的には、図1のトランス3の代わりに、1次側巻線331および1つの2次側巻線332を有するトランス33を設け、このトランス33の2次側に、4つの整流ダイオード41A〜41Dを含むフルブリッジ型の整流回路41を設けるようにする。このように構成した場合、上記実施の形態と同様の作用により、整流ダイオード41A〜41Dに加わるサージ電圧の最大値(ピーク値)を1×Vin/n(n;トランス3の1次側巻線と2次側巻線との巻数比)に抑えることができ、最大値が2×Vin/n程度である従来のフルブリッジ型のものと比べて、やはり低くすることが可能となる。なお、これら整流ダイオード41A〜41Dも、整流ダイオード4A,4Bの場合と同様に、それぞれMOS―FETの寄生ダイオードから構成することも可能である。
また、上記実施の形態では、トランス3とインダクタLrとが互いに磁気的に独立して設けられている場合で説明したが、例えば図30および図31にそれぞれ示したように、これらトランス3およびインダクタLrが、図中の符号M1,M2でそれぞれ示したように、互いに磁気的に結合されているようにしてもよい。具体的には、インダクタLrを接続点P2,P3間(図30)または接続点P1,P3間(図31)に配置すると共に、トランス3の追加巻線31Bを、接続点P1,P3間(図30)または接続点P2,P3間(図31)に接続するようにする。このように構成した場合でも、図30,図31に示した構成はそれぞれ、図1または図28に示した構成と等価なものであることから、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。なお、これらの場合において、インダクタLrの代わりに、もしくはインダクタLrに加えて、トランス3における1次側巻線31Aのリーケージインダクタンス(図示せず)を用いるようにしてもよい。
さらに、もちろん、これら変形例を組み合わせて構成するようにしてもよい。
10…高圧バッテリ、1…ブリッジ回路、11…入力平滑コンデンサ、2…サージ電圧抑止回路、3,33…トランス、31,31A,331…1次側巻線、32,332…2次側巻線、31B…追加巻線、4,41…整流回路、4A,4B,41A〜41D…整流ダイオード、5…平滑回路、51…チョークコイル、52…出力平滑コンデンサ、6…駆動回路、61…入力電圧検出回路、62…入力電流検出回路、63…制御部、7…負荷、S1〜S6…スイッチング素子、D1〜D6…ダイオード、C1〜C6…コンデンサ、Lr…インダクタ、T1,T2…入力端子、T3,T4…出力端子、L1H…1次側高圧ライン、L1L…1次側低圧ライン、LO…出力ライン、LG…接地ライン、P0〜P3…接続点、CT…センタタップ、Vin…直流入力電圧(入力電圧)、Vout…直流出力電圧、、Iin…入力電流、Iout…出力電流、Vth…しきい値電圧、Ith…しきい値電流、Vmax…最大入力電圧、VP1〜VP3…電位、VP1-P3,VP3-P2…電位差、V4A,V4B…逆電圧(サージ電圧)、Ir,I31,ID5,ID6,IC5,IC6,I5,I6,I4A,I4B,I51,Ia〜Iq,Ixa〜Ixb…電流、SG1〜SG6…スイッチング信号、A0〜A4…領域、t0〜t20…タイミング、Td…デッドタイム、φ…位相差。