JP4528149B2 - 加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材と塗装鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、めっき鋼板に係わり、更に詳しくは優れた加工部耐食性を有し、種々の用途、例えば家電用や自動車用、建材用鋼板として適用できるめっき鋼板に関するものである。
耐食性の良好なめっき鋼材として最も使用されるものに亜鉛系めっき鋼板がある。これらのめっき鋼板は自動車、家電、建材分野など種々の製造業において使用されている。
特にAlを添加しためっきは耐食性が高いため近年使用量が増加している。
こうした亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させることを目的として本発明者らは、特許文献1において溶融Zn−Al−Mg−Siめっき鋼板を提案した。
また、表面の平滑性を向上させることを目的として本発明者らは、特許文献2において高融点の金属間化合物を添加しためっき鋼板、特許文献3においてAl系金属間化合物を添加しためっき鋼板を提案した。
特許第3179446号公報 特開2003−293108号公報 特開2003−328100号公報
しかしながら、上記及びその他これまで開示されためっき鋼板及び塗装鋼板では、加工部耐食性が十分に確保されていない。
Mgを添加した亜鉛系めっき鋼板では、めっき中にMgZn2相が晶出する。このMgZn2相は硬くて脆いため、Mgを添加した亜鉛系めっき鋼板にT曲げのような厳しい加工を行った場合、めっきにクラックが生じ、これを原因とする加工後の耐食性劣化が起こりやすいという問題点を有している。
また、このような硬くて脆いMgZn2相を含有する鋼板で塗装鋼板を製造し、T曲げのような厳しい加工を行った場合、めっきに生じたクラックが塗膜まで伝わり、塗膜にクラックが生じる結果、加工後の耐食性劣化が起こりやすいという問題点を有している。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、めっき中にMgZn2相が晶出した亜鉛系めっき鋼材、及びめっき中にMgZn2相が晶出した亜鉛系めっき鋼板に塗装を施した塗装鋼板の加工部耐食性を向上させることを目的としている。
本発明者らは、加工部耐食性が優れためっき鋼材の開発について鋭意研究を重ねた結果、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2Si相〕と〔Al相〕及び〔MgZn2相〕、が混在しためっき層の〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有するめっき層を表面に有することにより加工部耐食性が向上するという新たな知見を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の趣旨とするところは、以下のとおりである。
(1)Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を表面に有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/Zn2 Mgの三元共晶組織〕の素地中に〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
(2)Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Si:0.5質量%以下、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を表面に有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2Si相〕と〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
(3)前記(1)又は(2)に記載の金属間化合物の結晶系が、立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、六方晶のいずれかであることを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の金属間化合物の含有量が、1質量%以下であることを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
(5)ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を結晶核とし、Al相のデンドライトの一次アームが[110]方向に成長していることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載された加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
(6)前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の溶融めっき鋼材の上に下地処理層を有し、上層として0.2〜100μm厚の有機皮膜層を有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(7)下地処理層としてCr付着量5〜100mg/m2のクロメート皮膜を有することを特徴とする前記(6)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(8)下地処理層として付着量0.2〜5.0g/m2のりん酸塩皮膜の化成皮膜を有することを特徴とする前記(6)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(9)下地処理層として水性樹脂(a)を含有する下地処理液を塗布、乾燥することにより形成される樹脂系皮膜層を有し、その皮膜層の乾燥後の付着量が10〜3000mg/m2であることを特徴とする前記(6)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(10)水性樹脂(a)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(9)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(11)前記(9)または(10)のいずれかに記載の下地処理液に、更にシランカップリング剤(b)を水性樹脂(a)100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(12)シランカップリング剤(b)が反応性官能基として、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(11)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(13)前記(9)乃至(12)のいずれかに記載の下地処理液に、更にポリフェノール化合物(c)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(14)前記(9)乃至(13)のいずれかに記載の下地処理液に、更にリン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(d)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(15)ヘキサフルオロ金属酸がTi、Si、Zr、Nbの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする前記14に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(16)前記(9)乃至(15)のいずれかに記載の下地処理液に、更にリン酸塩化合物(e)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(17)リン酸塩化合物(e)がカチオン成分としてMg、Mn、Al、Ca、Niの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする前記(16)に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(18)前記(9)乃至(17)のいずれかに記載の下地処理液に、更にSi、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(f)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(19)有機皮膜が、熱硬化型の樹脂塗膜であることを特徴とする前記(6)乃至(18)のいずれかに記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
(20)有機皮膜層が防錆顔料を含む下塗り層と着色された上塗り層からなる前記(6)乃至(19)のいずれかに記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
本発明により、めっき中にMgZn2相が晶出した亜鉛系めっき鋼材において、加工部耐食性が優れた溶融めっき鋼材と塗装鋼板を製造することが可能となり、工業上極めて優れた効果を奏することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の溶融めっき鋼材は、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層、或いは、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Si:0.5質量%以下、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZnおよび不可避不純物からなるめっき層のいずれかを有するめっき鋼板のめっき層が〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2Si相〕、〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とするめっき鋼材である。
Zn−Al−Mg系めっき層においてAlの含有量を4〜10質量%に限定した理由は、Alの含有量が10質量%を超えるとめっき密着性の低下が見られるため、Siを添加していないめっき層中のAlの含有量は10質量%以下にする必要があるためである。また、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、Al層による加工部耐食性向上効果が見られないためである。
従って、本発明における溶融めっき鋼材においては、特にAl濃度が10質量%を超えるような高濃度の場合には、めっき密着性を確保するために、めっき層中にSiを添加することが必須である。
一方、Zn−Al−Mg−Si系めっき層において、Alの含有量を4〜22質量%に限定した理由は、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、Al層による加工部耐食性向上効果が見られないためであり、22質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和するためである。
Siの含有量を0.5質量%以下(但し、0質量%を除く)に限定した理由は、Siは密着性を向上させる効果があるが、0.5質量%を超えると密着性を向上させる効果が飽和するからである。望ましくは0.00001〜0.5質量%である、さらに望ましくは0.0001〜0.5質量%である。
Siの添加はAlの含有量が10質量%を超えるめっき層には必須であるが、Alの含有量が10%以下のめっき層においてもめっき密着性向上に効果が大きいため、加工が厳しい部材に使用する等、高いめっき密着性を必要とする場合にはSiを添加することが有効である。また、Si添加によりめっき層の凝固組織中に〔Mg2Si相〕が晶出する。この〔Mg2Si相〕は耐食性向上に効果があるため、Siの添加量を多くし、めっき層の凝固組織中に〔Mg2Si相〕が混在した金属組織を作製することがより望ましい。
Mgの含有量を1〜5質量%に限定した理由は、1質量%未満では耐食性を向上させる効果が不十分であるためであり、5質量%を超えるとめっき層が脆くなって密着性が低下するためである。前述の〔Mg2Si相〕はMgの添加量が多いほど晶出しやすいため、さらなる耐食性向上を目的とした場合、Mgの含有量を2〜5質量%とすることが望ましい。
本めっき層は、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Zn相〕、〔Al相〕、〔MgZn2相〕、〔Mg2Si相〕、金属間化合物の1つ以上を含む金属組織ができる。
ここで、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕とは、Al相と、Zn相と金属間化合物MgZn2相との三元共晶組織であり、この三元共晶組織を形成しているAl相は例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。また、該三元共晶組織中のZn相は少量のAlを固溶し、場合によってはさらに少量のMgを固溶したZn固溶体である。該三元共晶組織中のMgZn2相は、Zn−Mgの二元系平衡状態図のZn:約84質量%の付近に存在する金属間化合物相である。状態図で見る限りそれぞれの相にはSi、その他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるがその量は通常の分析では明確に区別できないため、この3つの相からなる三元共晶組織を本明細書では〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕と表す。
また、〔Al相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、これは例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相はめっき浴のAlやMg濃度に応じて固溶するZn量やMg量が相違する。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離するが、常温で見られる島状の形状は高温でのAl″相の形骸を留めたものであると見てよい。状態図で見る限りこの相にはSi、その他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるが通常の分析では明確に区別できないため、この高温でのAl″相に由来し且つ形状的にはAl″相の形骸を留めている相を本明細書では〔Al相〕と呼ぶ。この〔Al相〕は前記の三元共晶組織を形成しているAl相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Zn相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlさらには少量のMgを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi、その他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Zn相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。本発明のめっき層には、製造条件により〔Zn相〕が含まれる場合も有るが、実験では加工部耐食性向上に与える影響はほとんど見られなかったため、めっき層に〔Zn相〕が含まれても特に問題はない。
また、〔MgZn2相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi、その他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔MgZn2相〕は前記の三元共晶組織を形成しているMgZn2相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Mg2Si相〕とは、Siを添加しためっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りZn、Al、その他の添加元素は固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Mg2Si相〕はめっき中では顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
本発明の溶融めっき鋼材は、めっき中に硬くて脆いMgZn2相が晶出するため、T曲げのような厳しい加工を行った場合、めっきにクラックが生じ、これを原因とする加工後の耐食性劣化が起こりやすい。
この加工後耐食性を向上させるためには、〔Al相〕中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を添加することが有効である。
ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物をめっき層に添加することにより加工後耐食性が向上する理由は、以下の2つの理由が考えられる。
1.この金属間化合物の添加によりAl相の結晶が微細で均一な等軸晶となり、軟らかいAl相が三元共晶組織、MgZn2相の間に均等に存在し、MgZn2相を伝播するクラックの終点となるため、クラックの成長が抑制される。
2.この金属間化合物の添加によりAl相の結晶が微細で均一な等軸晶となり、等軸晶となったAl相のデンドライトアームが太くなった結果、デンドライトの表面積が減少することによって、腐食が進行し易いAl相と三元共晶組織の界面の面積が減少し、腐食速度が小さくなる。
また、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物をめっき層に添加することにより、Al相の結晶が微細で均一な等軸晶となる理由は、この格子面がAlの{110}面と整合性が良いためであると考えられる。Alは結晶構造がFCCであるため、{110}面が最も成長し易い。このAlの{110}面と整合性が良い格子面をもつ金属間化合物を添加することにより、この成長し易いAlの{110}面の核生成サイトとして働き、凝固開始時にAl相のデンドライトが[110]方向に多数成長すると考えられる。
ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔を2.57Å以上3.15Å以下に限定した理由は、2.57Å未満、又は3.15Åを超えるとAlの{110}面と整合性が悪くなり、加工部耐食性が低下するためであり、他方の面間隔を3.64Å以上4.46Å以下に限定した理由は、3.64Å未満、又は4.46Åを超えるとAlの{110}面と整合性が悪くなり、加工部耐食性が低下するためである。
また、Alの結晶系は立方晶であるため、金属間化合物の結晶系は、軸角に直角を持つ立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、六方晶のいずれかであることが望ましい。
金属間化合物は少量の添加で効果を発揮するため、金属間化合物がAl相のデンドライト中に存在できれば、添加量は1ppmでも十分である。また、加量が多くなるとめっき後の外観が粗雑になる等の外観不良が発生するため、上限は1質量%が望ましい。更に望ましくは0.1質量%以下である。
本発明者等が多数のめっき中のAl相を調査した結果、大部分のAl相のデンドライトの中心から大きさ数μmの金属間化合物が観察された。さらにEBSP法を用いて金属間化合物とAl相の結晶方位を同定したところ、金属間化合物の格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面とAl相の{110}面が平行であり、Al相のデンドライトが[110]方向に成長していることが確認された。
Al相中に存在する金属間化合物の一例として、Al−Zn−Mg−Si系めっき中のAl相中に存在するTiAl3を図1に示す。このTiAl3は、実際にはSiを固溶しているか化合物中のAlの一部がSiの置き換わっていると考えられるが、電子線回折や菊池パターン等で得られる結晶構造はTiAl3と同一であるため、ここではTiAl3と表す。図1の上段の図は、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真(倍率3000倍)であり、該写真中の各組織の分布状態を図示したものが下段の図である。この図からも解るように、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真によって明確にAl相を特定することができる。
また、図1の金属間化合物とAl相の電子線回折結果を図2の極点図に示す。極点図より、図1に示したAl相のデンドライトは{110}面が[110]方向に成長していることが解る。また、図2の極点図の位置が良く一致することからAl相の{110}面は、TiAl3の{110}面、{102}面と同じ方位であることが解る。
EBSP法によりAl相とTiAl3の結晶方位を決定した結果、図1のAl相の{110}面は、TiAl3の{110}面、{102}面全てと平行であることが明らかになった。これは、TiAl3の{110}面、{102}面をAl相の核生成サイトとしてAl相のデンドライトが成長した結果であると考えられる。
このようにEBSP法を使用することにより、金属間化合物の特定の格子面とAl相の格子面との整合性を解析することが可能となる。
本発明において金属間化合物の大きさは特に限定しないが、発明者らが観察したものは、大きさ10μm以下であった。また、Al相中の金属間化合物の存在割合も特に限定しないが、過半数を超えるAl相に存在することが望ましい。
金属間化合物の添加方法については特に限定するところはなく、金属間化合物の微粉末を浴中に混濁させる方法や、金属間化合物を浴に溶解させる方法等が適用できる。
本発明の下地鋼材としては、鋼板のみならず、線材、形鋼、条鋼、鋼管など種々の鋼材が使用できる。鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、鋼種もAlキルド鋼、Ti、Nb等を添加した極低炭素鋼板、およびこれらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、ステンレス鋼等種々のものが適用できる。本発明品の製造方法については、特に限定することなく鋼板の連続めっき、鋼材や線材のどぶづけめっき法など種々の方法が適用できる。下層としてNiプレめっきを施す場合も通常行われているプレめっき方法を適用すれば良い。
めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から10g/m2以上、加工性の観点から350g/m2以下で有ることが望ましい。
次に、本発明において、塗装鋼板とは、鋼板上に亜鉛系めっき層と下地処理層、及び有機皮膜からなる層を順次付与したものである。本発明の下地鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、鋼種もAlキルド鋼、Ti、Nb等を添加した極低炭素鋼板、およびこれらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、ステンレス鋼等種々のものが適用できる。
また、亜鉛系めっき層としては、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層、或いは、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Si:0.5質量%以下、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZnおよび不可避不純物からなるめっき層のいずれかを有するめっき鋼板のめっき層が〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2 Si相〕、〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とするめっき層が加工後耐食性向上に有効である。
上記めっき層が加工後耐食性向上に有効な理由は、以下の2つが考えられる。
1.ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物の添加によりAl相の結晶が微細で均一な等軸晶となり、軟らかいAl相が三元共晶組織、MgZn2相の間に均等に存在し、MgZn2相を伝播するクラックの終点となるため、クラックの成長が抑制され、塗膜にクラックが生じ難くなる。
2.ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物の添加によりAl相の結晶が微細で均一な等軸晶となり、等軸晶となったAl相のデンドライトアームが太くなった結果、デンドライトの表面積が減少することによって、腐食が進行し易いAl相と三元共晶組織の界面の面積が減少し、腐食速度が小さくなる。その結果、塗膜にクラックが生じても、その後の腐食の進行が抑制される。
次に、下地処理層としては、クロメート皮膜、りん酸塩皮膜、または、水性樹脂を含有する処理液をめっき表面に塗布した後に乾燥して形成する樹脂系皮膜を用いる。下地処理層はめっき面と皮膜の間に位置し加工時の密着性、耐食性向上に寄与する。
下地処理に用いられるクロメート皮膜としては特に限定されず、公知の処理剤、処理方法から形成されるクロメート皮膜を用いることができる。例えば3価クロム水和酸化物を主成分とする後水洗型の電解還元型クロメート皮膜、反応型クロメート皮膜、3価クロムと6価クロム水和酸化物を主成分とするクロメート液を塗布し乾燥する無水洗型の塗布クロメート皮膜等を採用できる。更にクロメート皮膜はリン酸、エッチング性フッ化物、微粒シリカ等を含む複合クロメート皮膜であっても良い。付着量はCr換算で5〜100mg/m2である。5mg/m2未満では耐食性が得られないので好ましくない。100mg/m2超ではクロメート皮膜自身の凝集破壊が生じ易く密着性が得られない。クロメート皮膜は3価クロム/6価クロム比率の高い、水系塗料に溶解し難いものが望ましい。
下地処理に用いられるりん酸塩皮膜は亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、カルシウム、マグネシウム等のリン酸塩で構成されるものである。処理剤及び処理方法としては特に限定されず、公知の処理剤、処理方法を用いることができる。例えば、処理方法としては反応型処理、塗布型処理、電解型処理等のいずれの処理を用いてもよい。処理工程としては特に限定されないが、鋼板に本発明の亜鉛系めっき等を施した後に、リン酸塩前処理(表面調整)、リン酸塩処理、水洗、乾燥の各工程を経て処理されるのが一般的である。上記リン酸塩前処理(表面調整)方法に特別な制限はなく、例えば、リン酸亜鉛水溶液やTiコロイド溶液が使用されるのが一般的であり、リン酸塩結晶の析出サイトとなる作用を有し、緻密な皮膜を形成させるために行われる。付着量は、0.2〜5g/m2の範囲が耐食性及び密着性の理由で望ましい。0.2g/m2未満では耐食性が得られない。5g/m2超ではりん酸塩皮膜の凝集破壊により、厳しい加工で密着性が得られない。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜の水性樹脂(a)としては、水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)を含めて言う。水性樹脂(a)の種類としては、特に限定されず、例えば、水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。
上記水性エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物と反応させ、有機酸又は無機酸で中和して得られるものや上記エポキシ樹脂の存在下で、高酸価アクリル樹脂をラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性フェノール樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族類とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和することによって得られるもの等を挙げることができる。
上記水性ポリエステル樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水ハイミック酸等の多塩基酸とを脱水縮合させ、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性ウレタン樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類とヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とを反応させ、さらにジアミン等で鎖延長し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシシラン(メタ)アクリレート類等の不飽和単量体を、水溶液中で重合開始剤を用いてラジカル重合することによって得られるものを挙げることができる。上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
上記水性オレフィン樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸とを高温高圧下でラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物、KOH、NaOH、LiOH等の金属化合物あるいは上記金属化合物を含有するアンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性樹脂(a)は、1種又は2種以上用いてもよい。また、少なくとも1種の水性樹脂存在下で、少なくとも1種のその他の水性樹脂を変性することによって得られる水性複合樹脂を1種又は2種以上用いてもよい。更に、必要に応じて上記水性樹脂に架橋剤を添加しても良いし、樹脂骨格中に架橋剤を導入しても良い。上記架橋剤としては特に限定されず、例えば、メラミン、エポキシ、カルボジイミド、ブロックイソシアネート、オキサゾリン等を挙げることができる。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、シランカップリング剤(b)を含有することが好ましい。シランカップリング剤は金属と有機物との両者に化学結合することが知られている。このようなシランカップリング剤を配合することにより、樹脂系皮膜のめっきとの密着性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部の耐食性を向上させる。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、信越化学工業、日本ユニカー、チッソ、東芝シリコーン等から販売されているビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。樹脂系皮膜との密着性の観点から、反応性官能基として、エポキシ基及び/又はアミノ基を含有するシランカップリング剤を用いるのがより好ましい。上記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、処理液の安定性を考慮して酢酸等の有機酸を添加することもできる。
シランカップリング剤は水性樹脂100質量%に対して1〜300質量%含有することが望ましい。1質量%未満ではシランカップリング剤の量が不十分であるため、加工時に十分な密着性が得られず耐食性が劣る。300質量%を超えると密着性向上効果が飽和し不経済であったり、処理液の安定性を低下させることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、ポリフェノール化合物(c)を含有することが好ましい。ポリフェノール化合物は金属へのキレート作用及び水性樹脂の親水基との水素結合を生じる。このようなポリフェノール化合物を配合することにより、めっきと樹脂系皮膜、樹脂系皮膜と上層皮膜との密着性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部の耐食性を向上させる。
ポリフェノール化合物は、ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物又はその縮合物である。上記ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。タンニン酸は、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。上記タンニン酸は、加水分解性タンニン酸でも縮合型タンニン酸でもよい。上記タンニン酸としては特に限定されず、例えば、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等を挙げることができる。上記タンニン酸としては、市販のもの、例えば、「タンニン酸エキスA」、「Bタンニン酸」、「Nタンニン酸」、「工用タンニン酸」、「精製タンニン酸」、「Hiタンニン酸」、「Fタンニン酸」、「局タンニン酸」(いずれも大日本製薬株式会社製)、「タンニン酸:AL」(富士化学工業株式会社製)等を使用することもできる。上記ポリフェノール化合物は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
ポリフェノール化合物は水性樹脂100質量%に対して1〜300質量%含有することが望ましい。1質量%未満ではポリフェノール化合物の量が不十分であるため、加工時に十分な密着性が得られず耐食性が劣る。300質量%を超えると逆に密着性や耐食性が低下したり、処理液の安定性を低下させることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(d)を含有することが望ましい。このリン酸とヘキサフルオロ金属酸はそれぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの酸はめっき表面をエッチングにより活性化し、シランカップリング剤やポリフェノール化合物のめっきへの作用を促進させる。
リン酸としては特に制限はされず、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げることができる。リン酸は上記作用の他に、めっき表面にリン酸塩層を形成して不働態化させる作用を有するため、耐食性を向上させる。上記リン酸は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
ヘキサフルオロ金属酸としては特に制限されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロニオブ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸やそれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。ヘキサフルオロ金属酸は上記作用の他に、めっき表面にヘキサフルオロ金属酸から供給される金属により安定な金属酸化皮膜層を形成するため、耐食性を向上させる。特に金属としてTi、Zr、Si、Nbを含むものが好ましい。上記ヘキサフルオロ金属酸は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(d)は水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することが望ましい。0.1質量%未満ではこれらの酸の量が不十分であるため、耐食性が低下することがある。100質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、リン酸塩化合物(e)を含有することが望ましい。このリン酸塩化合物を配合することにより、樹脂系皮膜形成時にめっき表面に難溶性のリン酸塩皮膜を形成する。すなわち、リン酸塩のリン酸イオンによるめっきの溶解に伴い、めっき表面でpHが上昇し、その結果、リン酸塩の沈殿皮膜が形成され、耐食性が向上する。
リン酸塩化合物としては、特に制限されず、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸などの金属塩、フィチン酸、ホスホン酸などの有機金属塩が挙げられる。カチオン種としては特に制限されず、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni及びZn等が挙げられる。カチオン種としてはMn、Mg、Al、Ca、Niを用いるのがより好ましい。上記リン酸塩化合物は、1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
リン酸塩化合物は水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することが好ましい。0.1質量%未満ではリン酸塩化合物の量が不十分であるため、耐食性が低下することがある。100質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、Si、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(f)を含有することが好ましい。この金属酸化物粒子を配合することにより耐食性をより高めることができる。
上記金属酸化物粒子としては特に限定されず、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子等を挙げることができる。上記金属酸化物粒子としては、平均粒子径が1〜300nm程度のものが好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記金属酸化物粒子は水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することが好ましい。1質量%未満では金属酸化物粒子の量が不十分であるため、耐食性を高める効果が得られないことがある。300質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
また、樹脂系皮膜を形成するのに用いる水性樹脂を含有する処理液には必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。下地処理層の乾燥後の付着量は10〜3000mg/m2が好適である。10mg/m2未満では密着性が劣り加工部の耐食性が不十分である。一方、3000mg/m2を超えると不経済であるばかりか加工性も低下して耐食性も劣るようになる。
下地処理層の塗布方法は特別限定するものではなく、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などが適用できる。塗布後の乾燥・焼き付けは、樹脂の重合反応や硬化反応を考慮して、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉等公知の方法あるいはこれらを組み合わせた方法で行えばよい。
次に塗装鋼板の上層の有機皮膜としては、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等が例として挙げられ、特に限定されるものではないが、特に加工が厳しい製品に使用する場合、熱硬化型の樹脂塗膜が最も好ましい。熱硬化型の樹脂塗膜としては、エポキシポリエステル塗料、ポリエステル塗料、メラミンポリエステル塗料、ウレタンポリエステル塗料等のポリエステル系塗料や、アクリル塗料が挙げられる。
ポリエステル樹脂の酸成分の一部を脂肪酸に置き換えたアルキッド樹脂や、油で変性しないオイルフリーアルキッド樹脂に、メラミン樹脂やポリイソシアネート樹脂を硬化剤として併用したポリエステル系の塗料、及び各種架橋剤と組み合わせたアクリル塗料は、他の塗料に比べて加工性が良いため、厳しい加工の後にも塗膜に亀裂などが発生しないためである。
塗料は溶剤系、水系のどちらでも使用可能である。
膜厚は、0.2〜100μmが適正である。膜厚を0.2μm以上とした理由は、膜厚が0.2μm未満では耐食性が確保できないためである。また、膜厚を100μm以下とした理由は、膜厚が100μmをこえるとコスト面から不利になるためである。望ましくは、50μm以下である。有機皮膜層は、単層でも複層でもかまわない。
なお、本発明の方法に使用される有機皮膜には、必要に応じ、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、無機粒子、顔料、有機潤滑などの添加剤を配合される。
有機皮膜層は公知の方法で下地処理層の上に塗装される。例えば、ロールコーター、カーテンコーター、静電塗装、スプレー塗装、浸漬塗装などである。その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外、などの加熱によって乾燥・硬化される。有機皮膜層の樹脂が電子線や紫外線で硬化するものであればこれらの照射によって硬化される。これらの併用であってもよい。
本発明の塗装鋼板で下地処理層と着色された有機層の間に、必要に応じて防錆顔料を添加した皮膜層を下塗り層として有することができる。この下塗り層は主に耐食性の向上を目的とするが、その他に成形加工性、耐薬品性なども考慮して設計される。下塗り層を構成する樹脂としては、一般に公知の樹脂、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などをそのままあるいは組み合わせて使用できる。防錆顔料としては一般に公知のもの、例えば、(a)リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、等のリン酸系防錆顔料、(b)モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、等のモリブデン酸系防錆顔料、(c)酸化バナジウムなどのバナジウム系防錆顔料、(d)カルシウムシリケートなどのシリケート系顔料、(e)ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメートなどのクロメート系防錆顔料、(f)水分散シリカ、ヒュームドシリカ、等の微粒シリカなどを用いることができる。
防錆顔料の添加量は皮膜の固形分基準に1〜40質量%がよい。1質量%より少ないと耐食性の改良が十分でなく、40質量%を越えると加工性が低下して、加工時に有機皮膜層の脱落が起こり、耐食性も劣るようになる。
防錆顔料を含む下塗り層の塗布は一般に公知の方法でできる。例えば、ロールコート、カーテンコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、刷毛塗り、バーコートなどである。その後、熱風、誘導加熱、近赤外、遠赤外、などの加熱によって乾燥・硬化される。有機皮膜層の樹脂が電子線や紫外線で硬化するものであればこれらの照射によって硬化される。これらの併用であってもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
まず、厚さ1mmの冷延鋼板を準備し、これに各種金属又は金属間間化合物を添加した450℃のZn−Mg−Alめっき浴、Zn−Mg−Al−Siめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面80g/m2に調整した。得られためっき鋼板のめっき組成とAl相中に存在した金属間化合物を表1に示す。金属間化合物はEDXを使用して元素と組成を分析した。また、表1に各金属間化合物のAlの{110}面と近い面の面指数とその面を構成する格子方向の方向指数、及び面間隔を示す。
Al系金属間化合物の中にはめっき浴中に溶解し、再晶出した際にAlの一部がSiに置換されたと考えられるものも存在したが、結晶方位と面間隔に大きな変化が見られなかったため、実施例ではSiに置換されていないAl系金属間化合物として表記した。
Al相と金属間化合物の結晶方位は、研磨しためっき面からEBSP法を用いて決定し、Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面の整合性を調査した。結果を表1に示す。Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面が平行であったものを○、Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面に関連性が見られなかったものを×とした。
加工部耐食性は、作製しためっき鋼板を180℃折り曲げ、折り曲げ部の耐食性をJIS Z−2371に準ずる塩水噴霧試験を使用して評価した。評価は、折り曲げ部で赤錆が発生するまでの試験時間を調査し、以下の評価で○を合格とした。
○:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより長い
△:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものと同等
×:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより短い
結果を表1に示す。番号5、11は金属間化合物のAlの{110}面と近い面を構成する格子面の格子方向の面間隔が、本発明の範囲外であるため加工部耐食性が不合格となった。番号20、26、32、38は耐食性の比較のためにいれた金属間化合物を添加していないめっき鋼板である。
これら以外の本発明品は、加工部耐食性が優れためっき鋼板であった。
Figure 0004528149
(実施例2)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに各種金属間化合物を添加した450℃のZn−Mg−Alめっき浴、Zn−Mg−Al−Siめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面80g/m2に調整した。得られためっき鋼板のめっき組成とAl相中に存在した金属間化合物を表2に示す。金属間化合物はEDXを使用して元素と組成を分析した。また、表2に各金属間化合物のAlの{110}面と近い面の面指数とその面を構成する格子方向の方向指数、及び面間隔を示す。
Al系金属間化合物の中にはめっき浴中に溶解し、再晶出した際にAlの一部がSiに置換されたと考えられるものも存在したが、結晶方位と面間隔に大きな変化が見られなかったため、実施例ではSiに置換されていないAl系金属間化合物として表記した。
Al相と金属間化合物の結晶方位は、研磨しためっき面からEBSP法を用いて決定し、Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面の整合性を調査した。結果を表2に示す。Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面が平行であったものを○、Al相の{110}面と金属間化合物の各格子面に関連性が見られなかったものを×とした。
次に、このめっきを行った鋼板に表2に示す下地処理を行い、その上に、プライマーとしてエポキシポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を5μmに調整した。トップコートは、ポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を20μmに調整した。クロメート処理は塗布型のクロメート処理液に浸漬した。クロメート皮膜の付着量はCr換算量で50mg/m2とした。りん酸塩処理は浸漬型のりん酸亜鉛処理を行った。りん酸亜鉛皮膜の付着量は1.5g/m2とした。
シランカップリング剤処理は、アクリルオレフィン樹脂100質量部に対しシランカップリング剤10質量部、シリカ30質量部、エッチング性フッ化物10質量部含有させた下地処理材を塗布し、熱風乾燥炉で乾燥して付着量200mg/m2とした。
タンニン酸処理は、アクリルオレフィン樹脂100質量部に対しタンニン酸2.5質量部、シリカ30質量部含有させた下地処理材を塗布し、熱風乾燥炉で乾燥して付着量200mg/m2とした。
加工部耐食性は、塗装後の板を20℃で、厚み0.8mmのスペーサを挟んで180℃折り曲げ、折り曲げ部の耐食性をCCTで評価した。CCTは、SST6hr→乾燥4hr→湿潤4hr→冷凍4hrを1サイクルとした。評価は、折り曲げ部で赤錆が発生するまでの試験時間を調査し、以下の評価で○を合格とした。
○:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより長い
△:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものと同等
×:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより短い
結果を表2に示す。番号5、11は金属間化合物のAlの{110}面と近い面を構成する格子面の格子方向の面間隔が、本発明の範囲外であるため加工部耐食性が不合格となった。番号20、26、32、38、44、50、56は耐食性の比較のためにいれた金属間化合物を添加していないめっき鋼板である。
これら以外の本発明品は、加工部耐食性が優れた塗装鋼板であった。
Figure 0004528149
(実施例3)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これにTiを添加した450℃のZn−Mg−Alめっき浴、Zn−Mg−Al−Siめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面80g/m2に調整した。得られためっき鋼板のめっき組成とAl相中に存在した金属間化合物を表3に示す。Al相中に存在した金属間化合物はTiAl3及びTiAl3のAlの一部がSiに置換されたと考えられるTi(Al1-XSiX3であった。いずれも{110}面を構成する格子方向、[110]方向と[002]方向の面間隔が、それぞれ2.725Å、4.29Å、{102}面を構成する格子方向、[102]方向と[100]方向の面間隔が、それぞれ2.8682Å、3.8537Åであった。番号AのAl系金属間化合物はめっき浴中に溶解し、再晶出した際にAlの一部がSiに置換されたと考えられるが、結晶方位と面間隔に大きな変化が見られなかったため、実施例ではSiに置換されていないAl系金属間化合物として表記した。
また、Al相と上記金属間化合物の結晶方位は、研磨しためっき面からEBSP法を用いて決定し、TiAl3及びTiAl3のAlの一部がSiに置換されたと考えられるTi(Al1-XSiX3の{110}面、{102}面がAl相の{110}面と平行であることを確認した。
次に、これらのめっき鋼板を脱脂した後、表4に示す付着量の塗布クロメート処理、または、りん酸亜鉛処理を行い、その上に、プライマーとしてエポキシポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を5μmに調整した。更にその上に、トップコートとしてポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を20μmに調整し、塗装鋼板を作製した。
皮膜密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、皮膜が剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
耐食性は、塗装後のサンプルに地鉄まで達するクロスカットを施し、SSTに120hr供した後テープ剥離試験を行い、カット部からの塗膜剥離幅を以下に示す評点づけで判定した。評点は2以上を合格とした。
5:剥離幅1mm未満
4:剥離幅1mm以上3mm未満
3:剥離幅3mm以上5mm未満
2:剥離幅5mm以上10mm未満
1:剥離幅10mm以上
評価結果を表4に示す。表4は下地処理層として、クロメート皮膜、リン酸亜鉛皮膜を適応した結果を示したものである。番号14、15は下地処理層がないため皮膜密着性、加工部耐食性が不合格となった。これら以外のクロメート皮膜、リン酸亜鉛皮膜を下地としたものはいずれも皮膜密着性、耐食性が良好な結果となった。
Figure 0004528149
Figure 0004528149
(実施例4)
まず、表3に示すめっき鋼板を準備し、これらのめっき鋼板を脱脂した後、表5に示す薬剤を用いて表6〜8に示す組成の下地処理剤を塗布し熱風乾燥炉で乾燥した。乾燥時の到達板温は150℃とした。
この下地処理の上に、プライマーとしてエポキシポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を5μmに調整した。更にその上に、トップコートとしてポリエステル塗料をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて膜厚を20μmに調整し、塗装鋼板を作製した。
皮膜密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、皮膜が剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
耐食性は、塗装後のサンプルに地鉄まで達するクロスカットを施し、SSTに120hr供した後テープ剥離試験を行い、カット部からの塗膜剥離幅を以下に示す評点づけで判定した。評点は2以上を合格とした。
5:剥離幅1mm未満
4:剥離幅1mm以上3mm未満
3:剥離幅3mm以上5mm未満
2:剥離幅5mm以上10mm未満
1:剥離幅10mm以上
評価結果を表6〜8に示す。表6〜表8は下地処理層として樹脂系皮膜を適応し、樹脂系皮膜組成の影響を調査したものである。表8の番号15は下地処理層がないことが本発明の範囲外であるため皮膜密着性、加工部耐食性が不合格となった。これら以外はいずれも皮膜密着性、加工部耐食性が良好な結果となった。なお、シランカップリング剤(b)の種類としては、表6の番号4〜7の中でエポキシ基を有するb1、アミノ基を有するb2を単独で使用もしくは併用した番号4、5、7が比較的良好な加工部耐食性を示した。
Figure 0004528149
Figure 0004528149
Figure 0004528149
Figure 0004528149
(実施例5)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに450℃のZn−Mg−Al−Tiめっき浴、Zn−Mg−Al−Si−Tiめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面80g/m2に調整した。得られためっき鋼板のめっき組成とAl相中に存在した金属間化合物の含有量を表9に示す。Al相中に存在した金属間化合物はTiAl3及びTiAl3のAlの一部がSiに置換されたと考えられるTi(Al1-XSiX3であった。いずれも{110}面を構成する格子方向、[110]方向と[002]方向の面間隔が、それぞれ2.725Å、4.29Å、{102}面を構成する格子方向、[102]方向と[100]方向の面間隔が、それぞれ2.8682Å、3.8537Åであった。
また、Al相と上記金属間化合物の結晶方位は、研磨しためっき面からEBSP法を用いて決定し、TiAl3及びTiAl3のAlの一部がSiに置換されたと考えられるTi(Al1-XSiX3の{110}面、{102}面がAl相の{110}面と平行であることを確認した。
次に、このめっき鋼板を塗布型のクロメート処理液に浸漬して、クロメート処理を行った。クロメート皮膜の付着量はCr換算量で50mg/m2とした。
塗装は、エポキシポリエステル塗料、ポリエステル塗料、メラミンポリエステル塗料、ウレタンポリエステル塗料、アクリル塗料をそれぞれバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼き付けて表9に示す膜厚に調整した。
比較例として、Zn−Mg−Alめっき鋼板、Zn−Mg−Al−Siめっき鋼板に同様の塗装を施して使用した。
加工部耐食性は、塗装後の板を20℃で、厚み0.8mmのスペーサを挟んで180℃折り曲げ、折り曲げ部の耐食性をCCTで評価した。CCTは、SST6hr→乾燥4hr→湿潤4hr→冷凍4hrを1サイクルとした。評価は、折り曲げ部で赤錆が発生するまでの試験時間を調査し、以下の評価で○を合格とした。
○:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより長い
△:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものと同等
×:赤錆が発生するまでの試験時間が金属間化合物を添加しないものより短い
結果を表9に示す。番号1、2、8、9、15、16、22、23、29、30、36、37、43、44、50、51、57、58は耐食性の比較のためにいれた金属間化合物を添加していないめっき鋼板である。
これら以外の本発明品は、加工部耐食性が優れた塗装鋼板であった。
Figure 0004528149
以上述べてきたように、本発明により、Zn−Al−Mg系めっき鋼板において、加工部耐食性が優れためっき鋼材と塗装鋼板を製造することが可能となった。これまで加工部耐食性低下のために使用できなかった部材に高耐食性鋼板の使用が広がることによって、これら加工品の耐久性向上に大いに貢献可能となる。
Al相中に存在する金属間化合物の一例を示す図で、(a)はめっき鋼板のめっき層の顕微鏡写真(3000倍)で、(b)は写真中の各組織の分布状態を示した図である。 図1のAl相と金属間化合物の極点図で、(a)はAl相の(110)極点図、(b)は金属間化合物の(110)極点図、(c)は金属間化合物の(102)極点図である。

Claims (20)

  1. Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を表面に有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
  2. Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Si:0.5質量%以下、ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を表面に有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2Si相〕と〔Al相〕及び〔MgZn2相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の金属間化合物の結晶系が、立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、六方晶のいずれかであることを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属間化合物の含有量が、1質量%以下であることを特徴とする加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
  5. ブラベー格子の格子面を構成する格子方向の一方の面間隔が2.57Å以上3.15Å以下、他方の面間隔が3.64Å以上4.46Å以下である格子面を持つ金属間化合物を結晶核とし、Al相のデンドライトの一次アームが[110]方向に成長していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された加工部耐食性に優れる溶融めっき鋼材。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の溶融めっき鋼材の上に下地処理層を有し、上層として0.2〜100μm厚の有機皮膜層を有することを特徴とする加工部耐食性に優る高耐食性塗装鋼板。
  7. 下地処理層としてCr付着量5〜100mg/m2のクロメート皮膜を有することを特徴とする請求項6に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  8. 下地処理層として付着量0.2〜5.0g/m2のりん酸塩皮膜の化成皮膜を有することを特徴とする請求項6に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  9. 下地処理層として水性樹脂(a)を含有する下地処理液を塗布、乾燥することにより形成される樹脂系皮膜層を有し、その皮膜層の乾燥後の付着量が10〜3000mg/m2であることを特徴とする請求項6に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  10. 水性樹脂(a)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  11. 請求項9または10のいずれかに記載の下地処理液に、更にシランカップリング剤(b)を水性樹脂(a)100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  12. シランカップリング剤(b)が反応性官能基として、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項11に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  13. 請求項9乃至12のいずれかに記載の下地処理液に、更にポリフェノール化合物(c)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  14. 請求項9乃至13のいずれかに記載の下地処理液に、更にリン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(d)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  15. ヘキサフルオロ金属酸がTi、Si、Zr、Nbの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項14に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  16. 請求項9乃至15のいずれかに記載の下地処理液に、更にリン酸塩化合物(e)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  17. リン酸塩化合物(e)がカチオン成分としてMg、Mn、Al、Ca、Niの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項16に記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  18. 請求項9乃至17のいずれかに記載の下地処理液に、更にSi、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(f)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  19. 有機皮膜が、熱硬化型の樹脂塗膜であることを特徴とする請求項6乃至請求項18のいずれかに記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
  20. 有機皮膜層が防錆顔料を含む下塗り層と着色された上塗り層からなる請求項6乃至請求項19のいずれかに記載の加工部耐食性に優れる高耐食性塗装鋼板。
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