JP2004338397A - 加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板 - Google Patents

加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】
加工性に優れた潤滑めっき鋼板を提供することを目的としている。
【解決手段】
鋼板の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を形成させ、その上にクロメート皮膜もしくはりん酸塩被膜、又は、水性樹脂を含む樹脂系皮膜による下地処理層を形成させ、更にその上に、水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2〜5g/mの付着量で形成されていることを特徴とする加工性に優れた潤滑めっき鋼板である。
【選択図】 図1

Description

本発明はプレス加工後、潤滑皮膜を除去することなく使用する家電、建材、自動車等の部品に利用する加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板に関するものである。
従来の部品はプレス油を塗布し、プレス成形後、油を除去して製造する工程であった。しかし、脱脂溶剤の使用規制や、コスト低減に伴い、プレス油を省略できる潤滑性能、及びプレス後の皮膜が優れた表面特性(外観、耐食性、塗料密着性等)を有する表面処理鋼板のニーズが強くなっている。特に強加工を行う部材では、有機皮膜やめっき皮膜が損傷し易く、この皮膜損傷を原因とする加工後の耐食性劣化が起こり易いため、良好な潤滑性能と加工後耐食性を併せ持つ表面処理鋼板のニーズが強い。
こうした問題を解決する手段の1つとして、亜鉛系あるいはアルミニウム系の合金めっき鋼板の表面にCr付着量200mg/m2以下のクロメート皮膜、その上に0.3〜3.0g/m2の樹脂皮膜を有するもので樹脂皮膜は水酸基及び/またはカルボキシル基を有する樹脂100質量部、シリカ10〜80質量部、平均粒径1〜7μmのポリオレフィンワックス20質量部以下である成形性に優れた潤滑樹脂処理鋼板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この潤滑鋼板は幅広い樹脂の種類の適用が可能であると開示されている。
しかし、実際の高速連続クランクプレス加工性や、加工後の皮膜劣化が少ない観点では満足するものではなく不十分であり、樹脂、シリカ及び潤滑剤で構成される皮膜を最適化することによってはじめて安定操業可能な潤滑鋼板が得られる。特に非脱膜型の潤滑鋼板では加工後の外観と性能が重要であり、潤滑皮膜の膜厚の均一性や延び、圧縮、摺動摩耗性を考慮しなければならない。
この問題を解決するために、めっき鋼板表面に化成処理を行い、エーテル・エステル型ウレタン樹脂とエポキシ樹脂、ポリオレフィンワックス、シリカを最適化した塗料を被覆することにより、優れた潤滑性を有するプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、上記の各潤滑めっき鋼板では、厳しいプレス加工後の加工部の耐食性が十分に確保されていない。
こうした潤滑めっき鋼板の耐食性を向上させることを目的として本発明者らは、優れた潤滑性と加工部の耐食性を有するプレス油省略可能非脱膜型潤滑めっき鋼板を提案した(例えば、特許文献3参照)。
また、溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板にTi、B、Siを添加することにより良好な表面外観が得られることが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
特開平3−16726号公報 特開平6−173037号公報 特開2002−302776号公報 特開2001−295015号公報
Zn−Mg−Alの三元系合金は3質量%Mg−4質量%Al−93質量%Znに三元共晶点を持ち、それよりAl濃度が高い場合、初晶としてAl相が晶出する。
溶融めっき時のめっき凝固速度が十分に確保されている場合、Al相が大きく成長しないうちにめっきが凝固するため表面平滑性は問題とならないが、めっき凝固速度が小さい場合、このAl相が先に大きく成長することによってめっき表面に凸凹が形成され、表面平滑性が劣化するという問題点を有している。
このため、このような表面平滑性が低い鋼板で潤滑めっき鋼板を製造した場合、0.2〜5μm程度の厚さの比較的薄い塗膜ではめっき表面の凸凹を完全には隠蔽できず、加工時に凸部だけが変形し、加工後の外観が劣化すると共に潤滑性が低下するという問題点を有している。
しかし、前記特許文献3に開示される技術では、加工後の外観が劣化し潤滑性が低下するという問題は考慮されていない。
また、前記特許文献4に開示される技術では、表面外観を劣化させるZn11Mg2相の生成・成長を抑制する目的としてTiとBを添加しているが、加工後の外観が劣化し潤滑性が低下するという問題は考慮されておらず、金属間化合物についても言及されていない。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、4質量%を超えるような高Al濃度の場合でも十分加工性が優れた潤滑めっき鋼板を提供することを目的としている。
本発明者らは、加工性の優れた潤滑めっき鋼板の開発について鋭意研究を重ねた結果、鋼板の表面に添加元素の添加量を最適化した亜鉛系めっきを形成した後に下地処理を施し、さらにその上に水性樹脂(a)、シリカ粒子(b)、固形潤滑剤(c)を最適化した塗料を被覆することにより、優れた加工性を有する潤滑めっき鋼板を製造しうることを見いだして本発明に至った。
即ち、本発明の趣旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 鋼板の片面または両面に、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下を含有し残部が亜鉛及び不可避的不純物よりなる亜鉛系めっき層を有し、その上に下地処理層を有し、さらにその上に水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2〜5g/m2の付着量で形成されていることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(2) 鋼板の片面または両面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部が亜鉛及び不可避的不純物よりなる亜鉛系めっき層を有し、その上に下地処理層を有し、さらにその上に水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2〜5g/m2の付着量で形成されていることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(3) 水性樹脂(a)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(4) 水性樹脂(a)がポリエステル骨格部分及びポリエーテル骨格とを有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(5) ポリエステル骨格部分及びポリエーテル骨格とを有するポリウレタン樹脂のポリエステル骨格に対するポリエーテル骨格の質量比率が10:90〜70:30であることを特徴とする前記(4)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(6) 水性樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)が70℃以上200℃以下であることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(7) 固形潤滑剤(c)が粒径0.1〜5μmのポリオレフィンワックスであることを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(8) 水性潤滑塗料が、更に、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、そのブロック体、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤(d)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜40質量%含有することを特徴とする前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(9) 下地処理層としてCr付着量5〜100mg/m2のクロメート皮膜を有することを特徴とする前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(10) 下地処理層として付着量0.2〜5.0g/m2のりん酸塩皮膜の化成皮膜を有することを特徴とする前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(11) 下地処理層として水性樹脂(e)を含有する下地処理液を塗布、乾燥することにより形成される樹脂系皮膜層を有し、その皮膜層の乾燥後の付着量が10〜3000mg/m2であることを特徴とする前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(12) 水性樹脂(e)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(11)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(13) 下地処理層に、更にシランカップリング剤(f)を水性樹脂(e)100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする前記(11)または(12)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板
(14) シランカップリング剤(f)が反応性官能基として、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(13)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(15) 下地処理層に、更にポリフェノール化合物(g)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする前記(11)乃至(14)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(16) 下地処理層に、更にリン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(h)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする前記(11)乃至(15)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(17) ヘキサフルオロ金属酸がTi、Si、Zr、Nbの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする前記(16)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(18) 下地処理層に、更にリン酸塩化合物(i)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする前記(11)乃至(18)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(19) リン酸塩化合物(i)がカチオン成分としてMg、Mn、Al、Ca、Niの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする前記(18)に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(20) 下地処理層に、更にSi、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(j)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする前記(11)乃至(19)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(21) 表面の動摩擦係数が0.09以下であることを特徴とする前記(1)乃至(20)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(22) 亜鉛系めっき層が〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2 Si相〕、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕及び〔Zn相〕の1種または2種以上が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕及び〔Zn相〕の1種または2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする前記(1)乃至(21)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(23) 前記(1)乃至(22)のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、TiAl3であることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(24) 前記(1)乃至(22)のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、Ti(Al1-XSiX3(但し、X=0〜0.5である)であることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(25) めっき層中の〔Al相〕の中に含有されるTi−Al系金属間化合物が、Zn相の濃化したZn−Alの共析反応組織中に存在することを特徴とする前記(1)乃至(24)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
(26) めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさが500μm以下であることを特徴とする前記(1)乃至(25)のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
本発明により、プレス油を塗布することなく厳しいプレス加工が可能で、加工部の耐食性も十分に確保された潤滑めっき鋼板を製造することが可能となり、工業上極めて優れた効果を奏することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、潤滑めっき鋼板とは、鋼板上に亜鉛系めっき層と下地処理層、及び潤滑皮膜からなる層を順次付与したものである。本発明の下地鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、鋼種もAlキルド鋼、Ti、Nb等を添加した極低炭素鋼板、及び、これらにP、Si、Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、ステンレス鋼等種々のものが適用できる。
本発明における下層の亜鉛系めっき層は、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層か、あるいは、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下、残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層である。
Zn−Al−Mg−Ti系めっき層において、Alの含有量を4〜10質量%に限定した理由は、Alの含有量が10質量%を超えるとめっき密着性の低下が見られるため、Siを添加していないめっき中のAlの含有量は4〜10質量%にする必要があるためである。また、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、平滑性の問題がないためである。
従って、本発明における潤滑めっき鋼板において、特にAl濃度が10質量%を超えるような高濃度の場合には、めっき密着性を確保するために、めっき中にSiを添加することが必須である。
一方、Zn−Al−Mg−Ti−Si系めっき層において、Alの含有量を4〜22質量%に限定した理由は、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、平滑性低下の問題がないためであり、22質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和するためである。
Siの含有量を0.5質量%以下(0質量%を除く)に限定した理由は、Siは密着性を向上させる効果があるが、0.5質量%を超えると密着性を向上させる効果が飽和するためである。望ましくは0.00001〜0.5質量%であり、更に望ましくは0.0001〜0.5質量%である。Siの添加はAlの含有量が10質量%を超えるめっき層には必須であるが、Alの含有量が10%以下のめっき層においてもめっき密着性向上に効果が大きいため、加工が厳しい部材に使用する等、高いめっき密着性を必要とする場合にはSiを添加することが有効である。また、Si添加によりめっき層の凝固組織中に〔Mg2Si相〕が晶出する。この〔Mg2Si相〕は加工部耐食性向上に効果があるため、Siの添加量を多くし、めっき層の凝固組織中に〔Mg2Si相〕が混在した金属組織を作製することが望ましい。
Mgの含有量を1〜5質量%に限定した理由は、1質量%未満では耐食性を向上させる効果が不十分であるためであり、5質量%を超えるとめっき層が脆くなって密着性が低下するためである。〔Mg2Si相〕はMgの添加量が多いほど晶出し易いため、加工部耐食性向上を目的とした場合、Mgの含有量を2〜5質量%とすることが望ましい。
Tiの含有量を0.1質量%以下(但し、0質量%は除く)に限定した理由は、TiはTi−Al系金属間化合物を晶出させ、表面平滑性を向上させる効果があるが、0.1質量%を超えるとめっき後の外観が粗雑になり、外観不良が発生するためである。また、Ti−Al系金属間化合物はTi含有量で0.1質量%を超えるとめっき表面に濃化し表面平滑性を低下させる。望ましくは0.00001〜0.1質量%であり、更に望ましくは0.00001〜0.01質量%未満である。
本めっき層は、〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕の素地中に〔Zn相〕、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Mg2Si相〕の1種または2種以上を含む金属組織と〔Zn相〕、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕の1種または2種以上の中に含有されたTi−Al系金属間化合物ができる。
ここで、〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕とは、Al相とZn相と金属間化合物Zn2Mg相との三元共晶組織であり、この三元共晶組織を形成しているAl相は例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。また、該三元共晶組織中のZn相は少量のAlを固溶し、場合によっては更に少量のMgを固溶したZn固溶体である。該三元共晶組織中のZn2Mg相は,Zn−Mgの二元系平衡状態図のZn:約84質量%の付近に存在する金属間化合物相である。状態図で見る限りそれぞれの相にはSi,Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるがその量は通常の分析では明確に区別できないため、この3つの相からなる三元共晶組織を本明細書では〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕と表す。
また、〔Al相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、これは例えばAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相はめっき浴のAlやMg濃度に応じて固溶するZn量やMg量が相違する。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離するが、常温で見られる島状の形状は高温でのAl″相の形骸を留めたものであると見てよい。状態図で見る限りこの相にはSi、Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるが通常の分析では明確に区別できないため、この高温でのAl″相に由来し、かつ、形状的にはAl″相の形骸を留めている相を本明細書では〔Al相〕と呼ぶ。この〔Al相〕は前記の三元共晶組織を形成しているAl相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Zn相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlさらには少量のMgを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi、Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Zn相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Zn2Mg相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi、Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Zn2Mg相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn2Mg相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Mg2Si相〕とは、めっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りZn、Al、Tiは固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Mg2Si相〕はめっき中では顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、Ti−Al系金属間化合物とは、めっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りTiAl3であると考えられる。但し、Siを添加しためっき中のTi−Al系金属間化合物を分析するとSiが観察されることから、こうしためっき層中のTi−Al系金属間化合物はSiを固溶したTiAl3またはAlの一部がSiに置き換わったTi(Al1-XSiX3(但し、X=0〜0.5である)であると考えられる。
本発明の溶融めっき鋼材において、このTi−Al系金属間化合物は、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の中に存在することを特徴とする。Ti−Al系金属間化合物の含有形態を〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の中に限定した理由は、それ以外の位置に存在するTi−Al系金属間化合物では、加工性を向上させることができないためである。〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の中に存在するTi−Al系金属間化合物が加工性を向上させる理由は、Ti−Al系金属間化合物が〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の核となることでこれらの結晶の晶出を促進させ、微細で多数の組織とするためであると考えられる。即ち、結晶が微細になるとめっき層表面の凹凸が抑制され、めっき表面が平滑になり、加工時に金型がめっき表面に均一に接することによって局部的に面圧が高くなる部位が発生せず、潤滑めっき鋼板の加工性が向上すると考えられる。
この効果は、特に〔Al相〕において顕著である。〔Al相〕の樹枝状晶の大きさを500μm以下に制御することにより、表面が平滑になり、摩擦係数が低下する。望ましくは400μm以下である。更に望ましくは300μm以下である。
本発明者等が多数のめっき中の金属組織を調査した結果、大部分の金属組織の中から大きさ数μmの金属間化合物が観察された。〔Al相〕中に存在する金属間化合物の一例を図1に示す。図1の上段の図(a)は、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真(倍率1000倍)であり、該写真中の各組織の分布状態を図示したものが下段の図(b)である。この図からも判るように、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真によって明確に各組織を特定することができる。
図1ではAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」に相当するものの中にTi−Al系金属間化合物が観察される。この高温でのAl″相は、Al−Znの二元系平衡状態図における277℃で起こる共析反応により、常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。ここで亜共析反応の場合、高温で晶出したAl″相はAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における三元共晶温度からZn相の析出を開始し、Al−Znの二元系平衡状態図における共析反応に相当する温度で残ったAl″相が微細なAl相と微細なZn相の共析組織となる。
図2の上段の図(a)は、図1のAl″相を拡大した顕微鏡写真(倍率3500倍)であり、該写真中の各組織の分布状態を図示したものが下段の図(b)である。Al″相を詳細に観察すると、Zn相の濃化したZn−Alの共析反応組織が、Al″相の外側とTi−Al系金属間化合物の周りに存在することが観察される。
本発明において金属間化合物の大きさは特に限定しないが、発明者らが観察したものは、大きさ10μm以下であった。また、めっき組織中の金属間化合物の存在割合も特に限定しないが、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕のどれかに1割以上存在することが望ましい。
本発明において、めっき鋼板の製造方法については特に限定するところはなく、通常の無酸化炉方式の溶融めっき法が適用できる。
金属間化合物の添加方法については特に限定するところはなく、金属間化合物の微粉末を浴中に混濁させる方法や金属間化合物を浴に溶解させる方法等が適用できるが、無酸化炉方式の溶融めっき法を使用した連続ライン等で製造する場合、めっき浴中にTiを溶解させる方法が適当である、めっき浴中にTiを溶解させる方法としては、Ti−Zn系金属間化合物を添加する方法が低温、短時間で溶解可能なため効率的である。添加するTi−Zn系金属間化合物としては、Zn15Ti、Zn10Ti、Zn5Ti、Zn3Ti、Zn2Ti、ZnTi等がある。こうした金属間化合物を単独、あるいは、Zn、Zn−Al、Zn−Al−Mg合金中に混合させてめっき浴に添加すると溶解したTiがめっき中にTi−Al系金属間化合物として晶出し、表面平滑性と加工性を向上させる。
めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から10g/m2以上、加工性の観点から350g/m2以下であることが望ましい。
亜鉛めっき層中には、これ以外にFe、Sb、Pb、Snを単独あるいは複合で0.5質量%以内含有してもよい。また、Ca、Be、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、P、B、Nb、Bi、V、Nbやランタノイド系のような3族元素を合計で0.5質量%以下含有しても本発明の効果を損なわず、その量によっては更に耐食性が改善される等好ましい場合もある。
下地処理層としては、クロメート皮膜、りん酸塩皮膜、または、水性樹脂を含有する処理液をめっき表面に塗布した後に乾燥して形成する樹脂系皮膜を用いる。下地処理層はめっき面と潤滑皮膜の間に位置し加工時の密着性、耐食性向上に寄与する。
下地処理に用いられるクロメート皮膜としては特に限定されず、公知の処理剤、処理方法から形成されるクロメート皮膜を用いることができる。例えば3価クロム水和酸化物を主成分とする後水洗型の電解還元型クロメート皮膜、反応型クロメート皮膜、3価クロムと6価クロム水和酸化物を主成分とするクロメート液を塗布し乾燥する無水洗型の塗布クロメート皮膜等を採用できる。更にクロメート皮膜はリン酸、エッチング性フッ化物、微粒シリカ等を含む複合クロメート皮膜であっても良い。付着量はCr換算で5〜100mg/m2である。5mg/m2未満では耐食性が得られないので好ましくない。100mg/m2超ではクロメート皮膜自身の凝集破壊が生じ易く密着性が得られない。クロメート皮膜は3価クロム/6価クロム比率の高い、水系潤滑塗料に溶解し難いものが望ましい。
下地処理に用いられるりん酸塩皮膜は亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、カルシウム、マグネシウム等のリン酸塩で構成されるものである。処理剤及び処理方法としては特に限定されず、公知の処理剤、処理方法を用いることができる。例えば、処理方法としては反応型処理、塗布型処理、電解型処理等のいずれの処理を用いてもよい。処理工程としては特に限定されないが、鋼板に本発明の亜鉛系めっき等を施した後に、リン酸塩前処理(表面調整)、リン酸塩処理、水洗、乾燥の各工程を経て処理されるのが一般的である。上記リン酸塩前処理(表面調整)方法に特別な制限はなく、例えば、リン酸亜鉛水溶液やTiコロイド溶液が使用されるのが一般的であり、リン酸塩結晶の析出サイトとなる作用を有し、緻密な皮膜を形成させるために行われる。付着量は、0.2〜5g/m2の範囲が耐食性及び密着性の理由で望ましい。0.2g/m2 未満では耐食性が得られない。5g/m2超ではりん酸塩皮膜の凝集破壊により、厳しい加工で密着性が得られない。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜の水性樹脂(e)としては、水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)を含めて言う。水性樹脂(e)の種類としては、特に限定されず、例えば、水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。
上記水性エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物と反応させ、有機酸又は無機酸で中和して得られるものや上記エポキシ樹脂の存在下で、高酸価アクリル樹脂をラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性フェノール樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族類とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和することによって得られるもの等を挙げることができる。
上記水性ポリエステル樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水ハイミック酸等の多塩基酸とを脱水縮合させ、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性ウレタン樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類とヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とを反応させ、さらにジアミン等で鎖延長し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシシラン(メタ)アクリレート類等の不飽和単量体を、水溶液中で重合開始剤を用いてラジカル重合することによって得られるものを挙げることができる。上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
上記水性オレフィン樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸とを高温高圧下でラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物、KOH、NaOH、LiOH等の金属化合物あるいは上記金属化合物を含有するアンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性樹脂(e)は、1種又は2種以上用いてもよい。また、少なくとも1種の水性樹脂存在下で、少なくとも1種のその他の水性樹脂を変性することによって得られる水性複合樹脂を1種又は2種以上用いてもよい。更に、必要に応じて上記水性樹脂に架橋剤を添加しても良いし、樹脂骨格中に架橋剤を導入しても良い。上記架橋剤としては特に限定されず、例えば、メラミン、エポキシ、カルボジイミド、ブロックイソシアネート、オキサゾリン等を挙げることができる。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、シランカップリング剤(f)を含有することが好ましい。シランカップリング剤は金属と有機物との両者に化学結合することが知られている。このようなシランカップリング剤を配合することにより、樹脂系皮膜のめっきとの密着性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部の耐食性を向上させる。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、信越化学工業、日本ユニカー、チッソ、東芝シリコーン等から販売されているビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。樹脂系皮膜との密着性の観点から、反応性官能基として、エポキシ基及び/又はアミノ基を含有するシランカップリング剤を用いるのがより好ましい。上記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、処理液の安定性を考慮して酢酸等の有機酸を添加することもできる。
シランカップリング剤は水性樹脂100質量%に対して1〜300質量%含有することが望ましい。1質量%未満ではシランカップリング剤の量が不十分であるため、加工時に十分な密着性が得られず耐食性が劣る。300質量%を超えると密着性向上効果が飽和し不経済であったり、処理液の安定性を低下させることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、ポリフェノール化合物(g)を含有することが好ましい。ポリフェノール化合物は金属へのキレート作用及び水性樹脂の親水基との水素結合を生じる。このようなポリフェノール化合物を配合することにより、めっきと樹脂系皮膜、樹脂系皮膜と潤滑皮膜との密着性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部の耐食性を向上させる。
ポリフェノール化合物は、ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物又はその縮合物である。上記ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。タンニン酸は、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。上記タンニン酸は、加水分解性タンニン酸でも縮合型タンニン酸でもよい。上記タンニン酸としては特に限定されず、例えば、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等を挙げることができる。上記タンニン酸としては、市販のもの、例えば、「タンニン酸エキスA」、「Bタンニン酸」、「Nタンニン酸」、「工用タンニン酸」、「精製タンニン酸」、「Hiタンニン酸」、「Fタンニン酸」、「局タンニン酸」(いずれも大日本製薬株式会社製)、「タンニン酸:AL」(富士化学工業株式会社製)等を使用することもできる。上記ポリフェノール化合物は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
ポリフェノール化合物は水性樹脂100質量%に対して1〜300質量%含有することが望ましい。1質量%未満ではポリフェノール化合物の量が不十分であるため、加工時に十分な密着性が得られず耐食性が劣る。300質量%を超えると逆に密着性や耐食性が低下したり、処理液の安定性を低下させることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(h)を含有することが望ましい。このリン酸とヘキサフルオロ金属酸はそれぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの酸はめっき表面をエッチングにより活性化し、シランカップリング剤やポリフェノール化合物のめっきへの作用を促進させる。
リン酸としては特に制限はされず、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げることができる。リン酸は上記作用の他に、めっき表面にリン酸塩層を形成して不働態化させる作用を有するため、耐食性を向上させる。上記リン酸は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
ヘキサフルオロ金属酸としては特に制限されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロニオブ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸やそれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。ヘキサフルオロ金属酸は上記作用の他に、めっき表面にヘキサフルオロ金属酸から供給される金属により安定な金属酸化皮膜層を形成するため、耐食性を向上させる。特に金属としてTi、Zr、Si、Nbを含むものが好ましい。上記ヘキサフルオロ金属酸は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(h)は水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することが望ましい。0.1質量%未満ではこれらの酸の量が不十分であるため、耐食性が低下することがある。100質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、リン酸塩化合物(i)を含有することが望ましい。このリン酸塩化合物を配合することにより、樹脂系皮膜形成時にめっき表面に難溶性のリン酸塩皮膜を形成する。すなわち、リン酸塩のリン酸イオンによるめっきの溶解に伴い、めっき表面でpHが上昇し、その結果、リン酸塩の沈殿皮膜が形成され、耐食性が向上する。
リン酸塩化合物としては、特に制限されず、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸などの金属塩、フィチン酸、ホスホン酸などの有機金属塩が挙げられる。カチオン種としては特に制限されず、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni及びZn等が挙げられる。カチオン種としてはMn、Mg、Al、Ca、Niを用いるのがより好ましい。上記リン酸塩化合物は、1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
リン酸塩化合物は水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することが好ましい。0.1質量%未満ではリン酸塩化合物の量が不十分であるため、耐食性が低下することがある。100質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
下地処理に用いられる樹脂系皮膜には、更に、Si、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(j)を含有することが好ましい。この金属酸化物粒子を配合することにより耐食性をより高めることができる。
上記金属酸化物粒子としては特に限定されず、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子等を挙げることができる。上記金属酸化物粒子としては、平均粒子径が1〜300nm程度のものが好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記金属酸化物粒子は水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して1〜300重量部含有することが好ましい。1質量%未満では金属酸化物粒子の量が不十分であるため、耐食性を高める効果が得られないことがある。300質量%を超えると樹脂系皮膜が脆くなり、皮膜凝集破壊により密着性低下が生じることがある。
また、樹脂系皮膜を形成するのに用いる水性樹脂を含有する処理液には必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、消泡剤などを添加してもよい。下地処理層の乾燥後の付着量は10〜3000mg/m2が好適である。10mg/m2未満では密着性が劣り加工部の耐食性が不十分である。一方、3000mg/m2を超えると不経済であるばかりか加工性も低下して耐食性も劣るようになる。
下地処理層の塗布方法は特別限定するものではなく、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などが適用できる。塗布後の乾燥・焼き付けは、樹脂の重合反応や硬化反応を考慮して、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉等公知の方法あるいはこれらを組み合わせた方法で行えばよい。
次に、本発明の潤滑皮膜について以下説明する。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜を用いることで潤滑性、加工性、密着性、耐食性等の性能を同時に満足させることが可能であることを見いだした。また、上述した本発明の亜鉛系めっき層が硬質で、且つ耐食性が優れることや本発明の下地処理層がめっきと潤滑皮膜との高度な接着に寄与していることの複合効果で潤滑めっき鋼板としての最高の潤滑性、加工性、密着性、耐食性等の性能を同時に満足させることが可能であることを見いだした。
潤滑皮膜の水性樹脂(a)としては、水溶性樹脂のほか、本来水不溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように水中に微分散された状態になりうる樹脂(水分散性樹脂)を含めて言う。水性樹脂(a)の種類としては、特に限定されず、例えば、水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。上記水性樹脂(a)は、1種又は2種以上用いてもよい。また、少なくとも1種の水性樹脂存在下で、少なくとも1種のその他の水性樹脂を変性することによって得られる水性複合樹脂を1種又は2種以上用いてもよい。上記水性樹脂(a)の中で特に、密着性、伸び、せん断強度、耐食性、耐摩耗性、耐薬品性のバランスを重視する場合は、ポリエステル骨格部分及びポリエーテル骨格部分とを有するポリウレタン樹脂を選択することが好ましい。
一般的にポリウレタン樹脂の物性の制御は、ハードセグメントとソフトセグメントのバランス及び架橋密度によって行われているため、構成される骨格及びイソシアネートの種類によって広範な特性が制御できる。本発明に使用されるポリウレタン樹脂の伸びと抗張力の調整は、可とう性を示すポリエステル骨格と強靭性を示すポリエーテル骨格及びウレタン結合部の含有量で制御され、後者の含有量が増えれば、伸びは小さいが抗張力の高い強靭な特性が得られる。
ポリエステル骨格はポリエステルポリオール化合物、ポリエーテル骨格はポリエーテルポリオール化合物からそれぞれ得ることができる。
ポリエステルポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、3−メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、およびグリセリン等の低分子量ポリオールと、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、およびヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸との反応によって得られるものであって、その末端にヒドロキシル基を有するものから選ばれる。
ポリエーテルポリオール化合物としては、ビスフェノール骨格含有グリコール、例えば、メチレンビスフェノール、エチリデンビスフェノール、ブチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノールなどのビスフェノールに、炭素原子数2〜4のアルキレンオキサイド(例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)を付加したものが好ましく、アルキレンオキサイドの付加モル数が1〜10のものが好ましい。
ポリエーテル骨格とポリエステル骨格の質量比率は、10:90〜70:30の範囲がより好ましい。ポリエーテルの比率が上記範囲より多い場合、強靭であるが伸びが小さいため高度の成形加工性に劣る。
ポリウレタン樹脂のエステル骨格とエーテル骨格を結合させるイソシアネート基としては、トリレジイソシアネート、ジフェニルメタジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートの単量体、2量体、3量体、及び、それらとポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールなどとの反応物、及びそれらの水素添加誘導体である脂環族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂環族、及び、脂肪族イソシアネートの単量体、2量体、3量体とポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールなどとの反応物、及び、それらの混合物も使用できる。配合量は、使用するポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールによるが、NCO換算でポリウレタン樹脂の5〜20質量%が樹脂物性として最適の加工特性を得られる。
上記水性エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物と反応させ、有機酸又は無機酸で中和して得られるものや上記エポキシ樹脂の存在下で、高酸価アクリル樹脂をラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性フェノール樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族類とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和することによって得られるもの等を挙げることができる。
上記水性ポリエステル樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水ハイミック酸等の多塩基酸とを脱水縮合させ、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシシラン(メタ)アクリレート類等の不飽和単量体を、水溶液中で重合開始剤を用いてラジカル重合することによって得られるものを挙げることができる。上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
上記水性オレフィン樹脂としては特に限定されず、例えば、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸とを高温高圧下でラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物、KOH、NaOH、LiOH等の金属化合物あるいは上記金属化合物を含有するアンモニアやアミン化合物等で中和し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。
上記水性樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)は70℃以上200℃以下であることがより好ましい。70℃未満であると、加工時に素材の変形熱や素材と金型との摩擦熱により昇温され高温環境になった時に、十分な潤滑特性が得られない場合があり、200℃を超える場合は潤滑皮膜の成膜性が低下し、耐食性が得られない場合がある。
微粒シリカ(b)は耐食性の向上及び皮膜の強靱化のために添加する。微粒シリカ(b)としては特に制限なく、潤滑皮膜が薄膜であることから、一次粒子径が3〜50nmのコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等のシリカ微粒子であることが好ましい。市販品としては、例えば、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスC、スノーテックスIPA−ST(日産化学工業)、アデライトAT−20N、AT−20A(旭電化工業)、アエロジル200(日本アエロジル)等を挙げることができる。
微粒シリカ(b)の量は水性樹脂(a)100質量%に対して5〜50質量%を添加する。5%未満の場合、耐食性及び加工性の向上効果が小さく、50%を超える量では樹脂のバインダー効果が小さくなり、耐食性が低下すると共に樹脂の伸びと強度が低下するため加工性が低下する。
固形潤滑剤(c)としては特に制限なく、公知のフッ素系、炭化水素系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石鹸系及び無機系等の滑剤が挙げられる。加工性向上のための潤滑添加物の選択基準としては、添加した潤滑剤が成膜した樹脂膜に分散して存在するよりも樹脂膜表面に存在するような物質を選択するのが、成型加工物の表面と金型の摩擦を低減させ潤滑効果を最大限発揮させる点から必要である。即ち、潤滑剤が成膜した樹脂膜に分散して存在する場合、表面摩擦係数が高く樹脂膜が破壊され易く粉状物質が剥離堆積してパウダリング現象と言われる外観不良及び加工性低下を生じる。樹脂膜表面に存在するような物質としては、樹脂に相溶せずかつ表面エネルギーの小さいものが選ばれる。
表面の動摩擦係数としては0.09以下になるような固形潤滑剤を選定することがより望ましい。
本発明者らが検討した結果、ポリオレフィンワックスを使用すると表面の動摩擦係数が低下し、加工性が大きく向上し、加工後の耐食性及び耐薬品性等の性能も良好にするためより好ましいことが判った。このワックスとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンまたはポリエチレン等の炭化水素系のワックスが上げられる。加工時には、素材の変形熱と摩擦熱によって皮膜温度が上昇するため、ワックスの融点は70〜160℃がより好ましい。70℃未満では加工時に軟化溶融して固体潤滑剤としての優れた特性が発揮されない場合がある。また、160℃を超える融点のものは、硬い粒子が表面に存在することとなり摩擦特性を低下させるので高度の成形加工性は得られない場合がある。
これらのワックスの粒子径は、0.1〜5μmがより好ましい。5μmを超えるものは固体化したワックスの分布が不均一となったり、潤滑皮膜からの脱落が生じる可能性がある。また、0.1μm未満の場合は、加工性が不十分である場合がある。
固形潤滑剤(c)の量は水性樹脂(a)100質量%に対して1〜40質量%を添加する。1%未満の場合、加工性向上効果が小さく、40%を超える量では加工性及び耐食性が低下する。
潤滑皮膜には、更に、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、そのブロック体、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種(d)の架橋剤を含有することが好ましい。これらの架橋剤を配合することで、潤滑皮膜の架橋密度を上げることができ、耐食性、加工性が向上する。これらの架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アミノ樹脂としては特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、グリコールウリル樹脂等を挙げることができる。
上記ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、そのブロック化物は、上記ポリイソシアネート化合物のブロック化物である。
上記エポキシ化合物は、オキシラン環を複数個有する化合物であれば特に限定されず、例えば、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ソルビタンポリグルシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
上記カルボジイミド化合物としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成した後、更にイソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ親水性セグメントを付加した化合物等を挙げることができる。
これらの硬化剤の量は水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜40質量%が好ましい。1%未満の場合、量が不十分で添加効果が得られない場合があり、40%を超える量では過剰硬化で潤滑皮膜が脆くなり加工性及び耐食性が低下する。
また、本発明の潤滑皮膜には、溶接性の向上のために導電性物、または、意匠性向上のため着色顔料物を添加することもある。また、沈降防止剤、レベリング剤、増粘剤等の各種添加剤を添加しても本発明の効果は損なわない。
本発明は水系の塗料であるため、溶剤系に比較して表面張力が高く表面濡れ性が劣り、被塗面に所定量塗布を行う場合均一な塗布性が得られないことがある。しかし、高度の加工性及び耐食性等の性能を確保するためには、被塗表面に均一な塗布が行われることが不可欠である。このため、濡れ剤または増粘剤を配合添加することが公知である。濡れ剤としては表面張力を低下させるフッ素系、シリコン系等の公知の表面張力を低下させる界面活性剤が挙げられる。特にこれらの化合物の中で付加エチレンオキサイドのモル数が0〜20のアセチレングリコール・アルコール型界面活性剤を水系潤滑塗料組成物に対し0.05〜0.5%含有すると好ましい。尚、アセチレングリコール・アルコール型界面活性剤は、濡れ速度が大きくかつ消泡効果を同時に有することが特徴である。一方、フッ素系及びシリコン系の界面活性剤は表面張力低下能力は優れているが、濡れ速度は小さく消泡性に劣り、更には、上塗り塗装密着性も劣るため適切でない。
また、増粘剤は被塗面のはじき箇所に対して濡れ剤だけでは十分な表面被覆性が確保できない場合、または、ロールコーターに代表される塗布方法で塗膜厚が確保されない場合の対策として添加することがある。本発明の塗料は、通常、高速で被塗物に塗装されるため、セルロース系に代表されるチクソタイプの増粘剤では、高速ずり応力を受ける塗工条件では効果が小さい。この様な塗工条件では、ニュートニアタイプの増粘剤が適切であることは公知である。本発明に使用する増粘剤としては、分子量が1000〜20000のエーテル・ウレタン骨格を有する増粘剤が特に好ましい。
通常、塗料に添加剤を配合する場合、本来の性能を低下させることが多いが、この増粘剤は加水分解が起こりにくい骨格のため塗膜中に残存した場合の影響が非常に小さいことが特徴である。添加量は水系潤滑性塗料組成物の樹脂固形分に対し0.01〜0.2%であり、通常、塗工条件により決定される。0.01%未満では増粘効果が小さく、0.2%を超える量では粘度が大きくなりすぎるため、塗工性に支障が生じること及び高度の加工性と優れた耐食性が低下するため好ましくない。
以上述べた化合物で構成される本発明の塗料は用途、塗装条件によって異なるが一般的には不揮発分濃度15〜30%、粘度10〜50cps、表面張力を80dyne/cm以下に調整することが望ましい。その理由は、狙い膜厚を制御し易く外観むらや塗料はじきのない均一な膜厚を得るためである。塗布の方法はロールコート法、浸漬法、エアーナイフ絞り、グルーブロール法、カーテン塗布法等の既存の方法を採用できるが、膜厚制御及び膜厚精度、むらのない外観が得られ易いリバースロールコート塗布が最も望ましい。塗布量は乾燥膜厚として0.2〜5g/m2塗布後ただちに熱風、遠赤外線炉、電気炉、燃焼炉、誘導加熱で板温80〜200℃、好ましくは、120〜160℃に焼き付けたのち水冷等の方法により強制冷却し乾燥して成膜させる。
膜厚0.2〜5g/m2の範囲を限定した理由は0.2g/m2未満では本発明が目的とする潤滑性、加工性、耐食性が不十分である。5g/m2μm超では溶接ができず、ブロッキング等の問題が生じ易くなる。焼付板温の限定理由は80℃未満では樹脂のリフローと架橋反応が不十分のため粗面の欠陥の多い皮膜となり、200℃超では樹脂、固形潤滑剤が熱分解、加熱酸化を受け性能が劣化する。最も望ましい樹脂の融解と架橋による均一で平滑な無欠陥皮膜及び潤滑剤の適度な表面濃化と皮膜中分散は120〜160℃の範囲で得られる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに400〜600℃で浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき組成を表1に示す。また、めっき鋼板を断面からSEMで観察し、めっき層の金属組織を観察した結果を同じく表1に示す。
Ti−Al系金属間化合物は、めっき鋼板を10度傾斜で研磨した後、EPMAで観察し、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の中に存在するものを観察した。
めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさは、めっき鋼板の表面をCMAでマッピングし、得られたAlのマッピングを使用して樹脂状晶の長径を測定した。測定は、5×5cmの範囲を行い、大きいものから順に5つの樹脂状晶の長径を測定し、その平均値を〔Al相〕の樹枝状晶の大きさとして使用した。
次に、このめっき鋼板を脱脂した後、Cr付着量50mg/m2の塗布型クロメート処理を行い、その上に、製造例1により製造されたポリウレタン樹脂100質量%に微粒シリカ(スノーテックス−N:日産化学工業社製)を30%、粒子径1.0μmのポリエチレンワックス(ケミパールWF640:三井化学社製)を15%配合した潤滑塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、付着量1.0g/m2の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
ポリウレタン樹脂製造例1
末端にヒドロキシル基を有するアジピン酸と1,4−ブチレングリコールから合成された平均分子量900のポリエステルポリオール80部、平均分子量700のビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物120部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸12部をN−メチル−2−ピロリドン100部に加え、80℃に加温して溶解させる。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100部を加え、110℃に加温して2時間反応させ、トリエチルアミンを11部加えて中和する。この溶液をエチレンジアミン5部と脱イオン水570部を混合した水溶液に強撹拌下において滴下して水系ウレタン樹脂を得た。この樹脂のTgは85℃、ポリエステル骨格とポリエーテル骨格の重量比は、ポリエステル骨格:ポリエーテル骨格=40:60である。
加工性は、肩Rが1mmRの角ビード(凸部は4×4mm)を使用して引き抜き試験を行い、その時の見かけの摩擦係数を使用して評価した。引き抜き試験は、幅30mm長さ300mmのサンプルをビード金型で挟んだ後、1000〜1500kgfで押し付け加重を変化させて引き抜き、その時の引き抜き荷重を測定した。測定した押し付け加重と引き抜き荷重をそれぞれ横軸と縦軸にとったときの一次関数の比(Δ引き抜き荷重/Δ押し付け加重)を見かけの摩擦係数とし、見かけの摩擦係数が0.09以下のものを合格とした。
加工後耐食性は、深絞り試験後の耐食性を評価した。115mmφの直径のブランク板を使用し、ポンチ径=50mmφ、しわ押さえ圧=3t、深絞り速度=30m/minの条件で円筒深絞り試験を行った。耐食性は深絞り後の側面部についてSST120hr後の白錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
10:白錆発生なし
9:1%未満
8:1%以上3%未満
7:3%以上5%未満
6:5%以上7%未満
5:7%以上10%未満
4:10%以上15%未満
3:15%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
評価結果を表1に示す。表1はめっき組成の影響を調査した結果である。番号16はTi−Al系金属間化合物を含有しないため加工後の外観が劣化し、加工性、加工後耐食性が不合格となった。これ以外はいずれも良好な加工性、加工後耐食性を示した。
Figure 2004338397
(実施例2)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに470℃のZn−Mg−Al−Si−Tiめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき層中組成は、Mg3%、Al11%、Si0.2%、Ti0.009%であった。また、得られためっき鋼板を10度傾斜で研磨した後EPMAで観察すると、〔Al相〕の中にTi−Al系金属間化合物が観察された。
次に、これらのめっき鋼板を脱脂した後、表2に示す付着量の塗布クロメート処理、または、りん酸亜鉛処理を行い、その上に、製造例1により製造されたポリウレタン樹脂100質量%に微粒シリカ(スノーテックス−N:日産化学工業社製)を30%、粒子径1.0μmのポリエチレンワックス(ケミパールWF640:三井化学社製)を15%配合した潤滑塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、付着量1.0g/m2の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
加工後耐食性は深絞り試験後の耐食性を評価した。115mmφの直径のブランク板を使用し、ポンチ径=50mmφ、しわ押さえ圧=3t、深絞り速度=30m/minの条件で円筒深絞り試験を行った。耐食性は深絞り後の側面部についてSST120hr後の白錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
10:白錆発生なし
9:1%未満
8:1%以上3%未満
7:3%以上5%未満
6:5%以上7%未満
5:7%以上10%未満
4:10%以上15%未満
3:15%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
評価結果を表2に示す。表2は下地処理層として、クロメート皮膜、リン酸亜鉛皮膜を適応した結果を示したものである。番号28は下地処理層がないことが本発明の範囲外であるため密着性、加工後耐食性が不合格となった。これら以外はいずれも密着性、加工後耐食性が良好な結果となった。
Figure 2004338397
(実施例3)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに470℃のZn−Mg−Al−Si−Tiめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき層中組成は、Mg3%、Al11%、Si0.2%、Ti0.009%であった。また、得られためっき鋼板を10度傾斜で研磨した後EPMAで観察すると、〔Al相〕の中にTi−Al系金属間化合物が観察された。
次に、これらのめっき鋼板を脱脂した後、表3に示す薬剤を用いて表4〜6に示す組成の下地処理剤を塗布し熱風乾燥炉で乾燥した。乾燥時の到達板温は150℃とした。
この下地処理の上に製造例1により製造されたポリウレタン樹脂100質量%に微粒シリカ(スノーテックス−N:日産化学工業社製)を30%、粒子径1.0μmのポリエチレンワックス(ケミパールWF640:三井化学社製)を15%配合した潤滑塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、付着量1.5g/m2の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
加工後耐食性は深絞り試験後の耐食性を評価した。115mmφの直径のブランク板を使用し、ポンチ径=50mmφ、しわ押さえ圧=3t、深絞り速度=30m/minの条件で円筒深絞り試験を行った。耐食性は深絞り後の側面部についてSST120hr後の白錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
10:白錆発生なし
9:1%未満
8:1%以上3%未満
7:3%以上5%未満
6:5%以上7%未満
5:7%以上10%未満
4:10%以上15%未満
3:15%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
Figure 2004338397
評価結果を表4〜6に示す。表4〜表6は下地処理層として樹脂系皮膜を適応し、樹脂系皮膜組成の影響を調査したものである。番号85は下地処理層がないことが本発明の範囲外であるため密着性、加工後耐食性が不合格となった。これら以外はいずれも密着性、加工後耐食性が良好な結果となった。なお、シランカップリング剤(f)の種類としては、番号32〜35の中でエポキシ基を有するf1、アミノ基を有するf2を単独で使用もしくは併用した番号32、33、35が比較的良好な加工後耐食性を示した。
Figure 2004338397
Figure 2004338397
Figure 2004338397
(実施例4)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに470℃のZn−Mg−Al−Si−Tiめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき層中組成は、Mg3%、Al11%、Si0.2%、Ti0.009%であった。また、得られためっき鋼板を10度傾斜で研磨した後EPMAで観察すると、〔Al相〕の中にTi−Al系金属間化合物が観察された。
次に、これらのめっき鋼板を脱脂した後、Cr付着量50mg/m2の塗布クロメート処理、または実施例3の番号32の組成(表4)、番号51の組成(表5)、番号73の組成(表5)と同じ下地処理を付着量200mg/m2で行い、表7に示す薬剤を用いて表8〜11に示す組成の潤滑処理塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、表8〜11に示す付着量の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
ポリウレタン樹脂製造例2
末端にヒドロキシル基を有するアジピン酸と1,4−ブチレングリコールから合成された平均分子量900のポリエステルポリオール40部、平均分子量700のビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物160部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸10部をN−メチル−2−ピロリドン100部に加え、80℃に加温して溶解させる。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート120部を加え、110℃に加温して2時間反応させ、トリエチルアミンを10部加えて中和する。この溶液をエチレンジアミン5部と脱イオン水570部を混合した水溶液に強撹拌下において滴下して水系ウレタン樹脂を得た。この樹脂のポリエステル骨格とポリエーテル骨格の重量比は、ポリエステル骨格:ポリエーテル骨格=20:80である。
ポリウレタン樹脂製造例3
末端にヒドロキシル基を有するアジピン酸と1,4−ブチレングリコールから合成された平均分子量900のポリエステルポリオール230部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸15部をN−メチル−2−ピロリドン100部に加え、80℃に加温して溶解させる。その後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100部を加え、110℃に加温して2時間反応させ、トリエチルアミンを11部加えて中和する。この溶液をエチレンジアミン5部と脱イオン水570部を混合した水溶液に強撹拌下において滴下して水系ウレタン樹脂を得た。この樹脂のポリエステル骨格とポリエーテル骨格の重量比は、ポリエステル骨格:ポリエーテル骨格=100:0である。
Figure 2004338397
密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
加工性の評価は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行い、サンプルとダイスの金属接触によるかじりの発生状況を以下に示す評点づけで判定した。
3:かじり発生無し
2:僅かにかじりが認められるが許容されるレベル
1:かじりの激しいもの
加工後耐食性の評価は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行ったサンプルのコーナー側面部について、CCT10サイクル後の白錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。CCTは、SST6hr→乾燥4hr→湿潤4hr→冷凍4hrを1サイクルとした。評点は3以上を合格とした。
10:白錆発生なし
9:1%未満
8:1%以上3%未満
7:3%以上5%未満
6:5%以上7%未満
5:7%以上10%未満
4:10%以上15%未満
3:15%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
溶接性の評価は、下記のスポット溶接条件で行った。
加圧力:200kgf
電極:Cu−Cr系合金,CF型,先端径6mmφ
通電時間:10サイクル
連続溶接条件:ナゲット形成電流I0(板厚をtとした時、ナゲット径が4√t
以上になる最小電流値)の1.4倍の電流値(Ia)、1打点/3
秒の速度、20打点毎に30秒休止の条件で連続溶接
連続溶接終了:100打点毎にナゲット径測定用のサンプルを0.85×Ia
電流値で溶接し、ナゲット径が4√tより小さくなった時点を終
了と判定
評価は、溶接点数500点以上を合格とした。
評価結果を表8〜11に示す。表8〜表11は潤滑皮膜の組成の影響を調査したものである。番号140〜142、146〜148は微粒シリカの添加量が添加量が本発明の範囲外であるため加工後耐食性が不合格となった。番号143〜145、149〜151は固形潤滑剤の添加量が添加量が本発明の範囲外であるため加工性、加工後耐食性が不合格となった。番号152、154は潤滑皮膜の付着量が本発明の下限未満であるため加工性、加工後耐食性が不合格となった。番号153、155は潤滑皮膜の付着量が本発明の上限を超えるため溶接性が不合格となった。これら以外はいずれも、密着性、加工性、加工後耐食性、溶接性が良好な結果となった。なお、水性樹脂(a)の種類としては、番号86〜93の中で、ポリエステル骨格及びポリエーテル骨格を有するポリウレタン樹脂a1(Tg=85℃)、ポリウレタン樹脂a2(Tg=105℃)を使用した番号86及び87が比較的良好な加工後耐食性を示した。
Figure 2004338397
Figure 2004338397
Figure 2004338397
Figure 2004338397
(実施例5)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに520℃で浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき組成を表11に示す。また、めっき鋼板を断面からSEMで観察し、めっき層の金属組織を観察した結果を同じく表11に示す。
Ti−Al系金属間化合物は、めっき鋼板を10度傾斜で研磨した後、EPMAで観察し、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕、〔Zn相〕の中に存在するものを観察した。また、〔Al相〕の中に存在するTi−Al系金属間化合物については、EPMAで観察し、Zn−Alの共析反応によって析出したZn相中への存在有無を観察した。更に、Ti−Al系金属間化合物のEPMA観察を行い、Ti−Al系金属間化合物のSi含有有無を観察した。
次に、このめっき鋼板を脱脂した後、Cr付着量50mg/m2の塗布クロメート処理を行い、その上に製造例1により製造されたポリウレタン樹脂100質量%に微粒シリカ(スノーテックス−N:日産化学工業社製)を30%、粒子径1.0μmのポリエチレンワックス(ケミパールWF640:三井化学社製)を15%配合した潤滑塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、付着量1.5g/m2の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
密着性は、デュポン衝撃試験後の溶融めっき鋼板にセロハンテープを貼り、その後引き剥がし、めっきが剥離しなかった場合を○、めっきの剥離が10%未満の場合を△、めっきが10%以上剥離した場合を×とした。デュポン試験は先端に1/2インチの丸みを持つ撃ち型を使用し、1kgの重りを1mの高さから落下させて行った。
加工性は、肩Rが1mmRの角ビード(凸部は4×4mm)を使用して引き抜き試験を行い、その時の見かけの摩擦係数を使用して評価した。引き抜き試験は、幅30mm長さ300mmのサンプルをビード金型で挟んだ後、1000〜1500kgfで押し付け加重を変化させて引き抜き、その時の引き抜き荷重を測定した。測定した押し付け加重と引き抜き荷重をそれぞれ横軸と縦軸にとったときの一次関数の比(Δ引き抜き荷重/Δ押し付け加重)を見かけの摩擦係数とし、見かけの摩擦係数が0.09以下のものを合格とした。
加工後耐食性の評価は、1T折り曲げ加工(原板を1枚はさんだ状態で180°の折り曲げ加工)を施したサンプルの折り曲げ部について、SST500hr後の赤錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
5:5%未満
4:5%以上10%未満
3:10%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
評価結果を表12に示す。表12はめっき層中のSiの影響を調査したものである。番号157はAlの添加量に対してSiの添加量が本発明の範囲外であるため密着性が不合格となった。これら以外はいずれも、密着性、加工後耐食性が良好な結果となった。特にSiを添加しためっき鋼板は良好な密着性と加工後耐食性を示した。
Figure 2004338397
(実施例6)
まず、厚さ0.8mmの冷延鋼板を準備し、これに470℃のZn−Mg−Al−Tiめっき浴で3秒溶融めっきを行い、N2ワイピングでめっき付着量を片面70g/m2に調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき層中組成は、Mg3%、Al7%、Ti0.007%であった。また、得られためっき鋼板を10度傾斜で研磨した後EPMAで観察すると、〔Al相〕の中にTi−Al系金属間化合物が観察された。
次に、これらのめっき鋼板を脱脂した後、実施例3の番号32の組成(表4)、番号51の組成(表5)、番号73の組成(表5)と同じ下地処理を付着量200mg/m2で行い、表7に示す薬剤を用いて表13に示す組成の潤滑処理塗料を塗布し、到達板温が150℃になるよう焼き付けて、表13に示す付着量の潤滑皮膜を有する潤滑めっき鋼板を作製した。
密着性の評価は、エリクセン試験機で7mm絞り、凸部をテープ剥離し、剥離しなかったものを合格、剥離したものを不合格とした。
加工性の評価は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行い、サンプルとダイスの金属接触によるかじりの発生状況を以下に示す評点づけで判定した。
3:かじり発生無し
2:僅かにかじりが認められるが許容されるレベル
1:かじりの激しいもの
加工後耐食性の評価は、60mm深さの角筒高速クランクプレスを行ったサンプルのコーナー側面部について、CCT10サイクル後の白錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。CCTは、SST6hr→乾燥4hr→湿潤4hr→冷凍4hrを1サイクルとした。評点は3以上を合格とした。
10:白錆発生なし
9:1%未満
8:1%以上3%未満
7:3%以上5%未満
6:5%以上7%未満
5:7%以上10%未満
4:10%以上15%未満
3:15%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
溶接性の評価は、下記のスポット溶接条件で行った。
加圧力:200kgf
電極:Cu−Cr系合金,CF型,先端径6mmφ
通電時間:10サイクル
連続溶接条件:ナゲット形成電流I0(板厚をtとした時、ナゲット径が4√t
以上になる最小電流値)の1.4倍の電流値(Ia)、1打点/3
秒の速度、20打点毎に30秒休止の条件で連続溶接
連続溶接終了:100打点毎にナゲット径測定用のサンプルを0.85×Ia
電流値で溶接し、ナゲット径が4√tより小さくなった時点を終
了と判定
評価は、溶接点数500点以上を合格とした。
評価結果を表13に示す。表13は潤滑皮膜の組成の影響を調査したものである。本発明品はいずれも、密着性、加工性、加工後耐食性、溶接性が良好な結果となった。
Figure 2004338397
(a)は、本発明のめっき鋼材のめっき層についての図面代用顕微鏡写真(倍率1000倍)であり、(b)は写真中の各組織の分布状態を示す図である。 (a)は、図1の「Al″相」を拡大した図面代用顕微鏡写真(倍率3500倍)であり、(b)は写真中の各組織の分布状態を示す図である。

Claims (26)

  1. 鋼板の片面または両面に、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下を含有し残部が亜鉛及び不可避的不純物よりなる亜鉛系めっき層を有し、その上に下地処理層を有し、さらにその上に水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2〜5g/m2の付着量で形成されていることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  2. 鋼板の片面または両面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部が亜鉛及び不可避的不純物よりなる亜鉛系めっき層を有し、その上に下地処理層を有し、さらにその上に水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5〜50質量%、固形潤滑剤(c)を1〜40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2〜5g/m2の付着量で形成されていることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  3. 水性樹脂(a)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板
  4. 水性樹脂(a)がポリエステル骨格部分及びポリエーテル骨格とを有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  5. ポリエステル骨格部分及びポリエーテル骨格とを有するポリウレタン樹脂のポリエステル骨格に対するポリエーテル骨格の質量比率が10:90〜70:30であることを特徴とする請求項4に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板
  6. 水性樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)が70℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  7. 固形潤滑剤(c)が粒径0.1〜5μmのポリオレフィンワックスであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  8. 水性潤滑塗料が、更に、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、そのブロック体、エポキシ化合物及びカルボジイミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤(d)を水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して1〜40質量%含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  9. 下地処理層としてCr付着量5〜100mg/m2のクロメート皮膜を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  10. 下地処理層として付着量0.2〜5.0g/m2のりん酸塩皮膜の化成皮膜を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  11. 下地処理層として水性樹脂(e)を含有する下地処理液を塗布、乾燥することにより形成される皮膜層を有し、その皮膜層の乾燥後の付着量が10〜3000mg/m2であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  12. 水性樹脂(e)が水性エポキシ樹脂、水性フェノール樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂及び水性ポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  13. 下地処理層に、更にシランカップリング剤(f)を水性樹脂(e)100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする請求項11または12に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  14. シランカップリング剤(f)が反応性官能基として、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項13に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  15. 下地処理層に、更にポリフェノール化合物(g)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする請求項11乃至14のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  16. 下地処理層に、更にリン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される少なくとも1種(h)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする請求項11乃至15のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  17. ヘキサフルオロ金属酸がTi、Si、Zr、Nbの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項16に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  18. 下地処理層に、更にリン酸塩化合物(i)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して0.1〜100質量%含有することを特徴とする請求項11乃至18のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  19. リン酸塩化合物(i)がカチオン成分としてMg、Mn、Al、Ca、Niの中からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項18に記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  20. 下地処理層に、更にSi、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物粒子(j)を水性樹脂(e)の固形分100質量%に対して1〜300質量%含有することを特徴とする請求項11乃至19のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  21. 表面の動摩擦係数が0.09以下であることを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  22. 亜鉛系めっき層が〔Al/Zn/Zn2Mgの三元共晶組織〕の素地中に〔Mg2Si相〕、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕及び〔Zn相〕の1種または2種以上が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕、〔Zn2Mg相〕及び〔Zn相〕の1種または2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  23. 請求項1乃至22のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、TiAl3であることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  24. 請求項1乃至22のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、Ti(Al1-XSiX3(但し、X=0〜0.5である)であることを特徴とする加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  25. めっき層中の〔Al相〕の中に含有されるTi−Al系金属間化合物が、Zn相の濃化したZn−Alの共析反応組織中に存在することを特徴とする請求項1乃至24のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
  26. めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさが500μm以下であることを特徴とする請求項1乃至25のいずれかに記載の加工性に優れた非脱膜型潤滑めっき鋼板。
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