以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる真空処理装置100の模式的な構成を示す模式断面図を図1に示す。図1に示すように、真空処理装置100は、真空雰囲気とされた装置内部に非処理対象物である基板を搬送して配置し、当該基板に対して上記真空雰囲気中において、上記基板の表面改質処理を行なう装置である。具体的には、真空処理装置100は、例えば、積層化構造とされる基板に対して、上記表面改質処理の一例であるスパッタリング処理を施すことが可能となっている。さらに、上記処理が施される基板は、スパッタリング処理により形成される膜の密着性や品質的な制約により、真空雰囲気中での搬送や処理を行なう必要があり、基板周囲の雰囲気が真空化された状態で、真空処理装置100への基板の導入配置や、処理された基板の真空処理装置100からの排出等を行なうことが可能となっている。以下、このような特徴を有する真空処理装置100の具体的な構成について説明する。
図1に示すように、真空処理装置100は、真空化されたその内部空間に搬送配置された基板1に対するスパッタリング処理が行なわれる略円筒状の有底容器であり処理室ケーシングの一例である処理室ケーシング2を備えており、処理室ケーシング2は、その内部への基板1の搬入あるいは搬出のための遮蔽可能な開口部であって、大気圧雰囲気である処理室ケーシング2の外部と真空化雰囲気とされる処理室ケーシング2の内部空間との境界部であり、処理室ケーシング2の上部に配置されたロードロック部3と、搬入された基板1に対するスパッタリング処理が行なわれる処理室ケーシング2の内部空間上部に配置された基板処理室4とを備えている。
また、その周囲雰囲気が上記真空化された状態での基板1の搬入出を可能とするため、当該基板1の搬入出に際しては、基板1がその内部空間に収容配置され、当該内部空間が解除可能に密閉されるとともに、真空化された基板収容容器の一例である真空パック10が用いられる。なお、図1においては、基板1がその内部に収容配置された真空パック10が、処理室ケーシング2のロードロック部3に挿入配置されている状態を示している。
また、処理室ケーシング2の内部には、ロードロック部3との間で上記搬入出の際に基板1の受渡し、すなわち、ロードロック部3に上記挿入配置された真空パック10との間でが基板1の受渡しが行なわれる基板受渡し位置P1(遮蔽位置の一例である)と、基板処理室4において基板1に対する上記処理が行なわれる処理位置P2との間で、基板1の搬送を行なう基板搬送装置5(基板移動装置の一例である)が備えられている。
また、処理室ケーシング2の内部空間は、基板搬送装置5による基板1の搬送が行なわれかつ基板処理室4を含む第1空間S1(基板処理空間)と、ロードロック部3が配置されている第2空間S2(基板搬入出空間)とにより構成されており、第1空間S1は、第2空間S2を介して、処理室ケーシング2の外部、すなわち、真空処理装置100の外部と遮蔽可能に連通可能とされている。
さらに、真空処理装置100においては、処理室ケーシング2の内部空間である第1空間S1の圧力を調整する第1圧力調整装置6と、第2空間S2の圧力を調整する第2圧力調整装置7とを備えており、互いに遮蔽された状態において、第1空間S1と第2空間S2の圧力を、例えば、大気圧あるいは真空圧に個別に制御することが可能となっている。
また、このような上記非処理対象物である基板としては、例えば、PETやポリイミド等により形成される樹脂フィルム状の基板(例えば、厚さ75μm〜125μm)、PET、ポリイミド、アクリル、テフロン(登録商標)等により形成される樹脂基板、SiウェハやGaAsにより形成される半導体、SiO2、Al2O3、セラミックス等により形成される誘電体、Al、Cu、SUS(ステンレス材料)、Fe等の金属材料により形成される金属基板等がある。また、このような基板の形状は、略平板状の形状を有するような場合に限られず、立体的な形状等、その他様々な形態を有するような場合であってもよい。
また、このような基板に対して施される上記表面改質処理により、当該基板上に形成される膜(薄膜)は、様々な材料を用いて形成することができる。例えば、電極・配線等の用途に対しては、Au、Al、Cu等の導電性材料が用いられ、誘電体膜の用途に対しては、AlN、BN、Si3N4等が用いられ、絶縁膜の用途に対しては、Si3N4、Al2O3が用いられ、半導体膜の用途に対しては、Ge、Si等が用いられる。また、このような電子工業的な用途の膜形成が行なわれるような場合のみに限られず、光学的、その他装飾等の用途の膜形成が行なわれるような場合であってもよい。
このような概略構成を有する真空処理装置100における上記夫々の構成部の詳細な構成について、以下に順次説明する。
まず、基板1をその内部に収容配置する真空パック10の構造を示す断面図を図2に示し、図2に示す真空パック10の下方よりの平面図を図3に示す。
図2及び図3に示すように、真空パック10は、上記内部空間を形成する中空部分を有する略円盤状の形状を有しており、略円盤状の形状を有し、その上面において、略円盤状の形状を有する基板1を解除可能に保持する下側容器の一例であるトレー11と、このトレー11とともに上記内部空間を形成して、当該内部空間を解除可能に密閉する上側容器の一例である蓋部12とを備えている。
蓋部12は、その略円盤形状を有する部分の図示下面に、トレー11の上面におけるその円周状の外周端部全体と当接されることで、トレー11に保持された基板1及びその周囲空間を密閉可能な環状の当接部12aを備えている。また、蓋部12のその円盤形状を有する部分における略中央部分には、真空パック10の内部空間と連通される連通通路12bが形成されており、さらに、この連通通路12bの外部側端部近傍には、その閉止動作により上記連通を遮断する開閉弁12cが備えられている。このような開閉弁12c及び連通通路12bが設けられていることにより、真空パック10の内部空間を真空化して、当該真空化雰囲気を大気開放可能に保持することが可能となっている。なお、蓋部12の当接部12aには、トレー11との当接による上記内部空間の気密性を確保すべく、Oリング12dが備えられている。また、このように、真空パック10の内部空間を真空化することで、密閉化された上記内部空間とその外部空間との圧力差を利用して、蓋部12の当接部12aとトレー11との当接状態を保持して、トレー11と蓋部12とを一体的な状態を維持することが可能となっている。
また、トレー11は、その上面における蓋部12の当接部12aと当接されるその外周端部で囲まれた略平面領域を、基板1の配置面11a(保持面の一例である)として備えている。さらに、この配置面11aの下方におけるトレー11の内部には、磁性部材で形成された基板の固定部の一例である磁石11bを多数備えている。例えば、スパッタリング処理が施される基板1の表面(図示上面)を所定のパターンが開口されるように覆う金属材料により形成されたマスク(図示しない)が、基板1を介して夫々の磁石11bによる磁力にて吸着されることで、その間に配置された基板1を配置面11aに確実に保持することができる。
また、トレー11の外周面には凹部11cが形成されており、蓋部12の外周部には、当接部12aが当接状態において、この凹部11cと解除可能に係合される係合部材の一例である複数の係合爪12eが備えられている。このような係合爪12eと凹部11cとが互いに係合されることで、蓋部12とトレー11とを互いに機械的に一体的な状態とすることができる。このように真空パック10の内外空間の圧力差のみならず、機械的にも一体的な状態とさせていることで、例えば、真空パック10の真空化状態が長期間放置されるような場合等、上記真空化雰囲気が維持できなくなったときに、トレー11と蓋部12との当接が解除されて、トレー11や蓋部12が落下することを防止することができる。
さらに、蓋部12はその外周部分にフランジ部12fを有しており、このフランジ部12fは、処理室ケーシング2のロードロック部3に真空パック10が挿入配置された状態において、ロードロック部3の略円孔状の開口部3aの周部全体に当接することで、このロードロック室3を処理室ケーシング2の外部から遮蔽する機能を有している。また、このフランジ部12fには、上記当接による密閉性を担保するためのOリング12gが備えられている。なお、真空パック10における夫々の構成部材の接合部分には、上記内部空間等の密閉性を確保するための封止部材であるOリングが必要な箇所に備えられている。
また、図1に示すように、基板搬送装置5は、基板1をその上面において保持する略円盤状の保持部材であり、かつ、基板受渡し位置P1と処理位置P2との間で移動される移動部材の一例である真空ハンド13と、基板受渡し位置P1と処理位置P2との略中間位置である処理室ケーシング2の略中心位置をその回転中心として、真空ハンド13を回転移動させることで、当該回転移動の軌道上に配置される基板受渡し位置P1と処理位置P2との間の移動を行なう回転移動装置14と、基板受渡し位置P1と処理位置P2の下方に配置され、夫々の位置P1又はP2に位置された真空ハンド13を押上げるあるいは当該押上げられた真空ハンド13を下降させるという真空ハンド13の昇降移動を行なう2台の昇降移動装置15及び16とを備えている。基板搬送装置5がこのような構成を備えていることにより、基板受渡し位置P1及び処理位置P2での真空ハンド13の垂直方向の移動と、基板受渡し位置P1と処理位置P2との間での真空ハンド13の水平方向の移動とが可能となっている。
また、図1においてはその詳細を図示しないが、夫々の昇降移動装置15及び16による真空ハンド13の昇降移動の際には、真空ハンド13における昇降動作軸13aと、夫々の昇降移動装置15及び16の昇降動作軸15a、16aとが、解除可能に互いに一体的な状態とされることで、上記昇降移動が可能となっている。なお、回転移動装置14による真空ハンド13の回転移動が行なわれる際には、当該移動を阻害しないように、上記一体的な状態が解除された状態にて行なわれる。また、基板受渡し位置P1と処理位置P2との間の上記水平方向の移動を、回転移動装置14による回転移動にて行なうことが可能となっていることにより、当該移動における真空ハンド13の位置決めを容易なものとすることができるという効果がある。
また、回転移動装置14は、例えば、真空ハンド13を上記昇降可能に支持する支持部材14aと、この支持部材14aを上記回転中心回りに回転駆動させる回転駆動部14bとを備えており、この回転駆動部14bは、駆動モータとこの駆動モータによる駆動力を上記支持部材に伝達する駆動伝達機構により構成することができ、このような回転駆動部14bは、そのメンテナンス等における取扱性や処理室ケーシング2内での塵埃発生抑制等の観点より、処理室ケーシング2の外部に配置される。また、夫々の昇降移動装置15、16における昇降動作軸15a、16aの昇降駆動は、処理室ケーシング2の外部に設置されたシリンダ等により構成される昇降駆動部15b、16bにより行なわれる。なお、このように回転駆動部14bや昇降駆動部15b及び16bが、処理室ケーシング2の外部に設けられることにより、処理室ケーシング2には貫通箇所が設けられることとなるが、処理室ケーシング2内の密閉性を確保すべく、Oリング等の封止部材が必要箇所に設けられている。
また、真空ハンド13は、基板1を保持する機能の他に、処理室ケーシング2内の他の空間等を遮蔽(あるいは密閉)する機能をも併せ持っている。具体的には、基板受渡し位置P1に位置された状態の真空ハンド13を、昇降移動装置15により上昇させて、ロードロック部3内の第2空間S2を第1空間S1から遮蔽するように、ロードロック室3の下部周部3b全体と当接可能となっている。また、処理位置P2に位置された状態の真空ハンド13を、昇降移動装置16により上昇させて、基板処理室4内の空間を第1空間S1から遮蔽するように、基板処理室4の開口部の下部周部4a全体と当接可能となっている。
このような夫々の当接状態のうちの真空ハンド13によるロードロック室3の遮蔽状態(当接状態)を示すのが図2である。なお、図2においては、真空パック10と処理室ケーシング2若しくは真空ハンド13との関係を明確とするために、真空パック10のみを図示実線で示しており、処理室ケーシング2及び真空ハンド13を仮想線(2点鎖線)で示している。図2に示すように、基板受渡し位置P1において、上昇されてロードロック部3の下部周部3b全体とその外周端部13bにおいて当接された状態にある真空ハンド13は、その外周端部13b全体で囲まれた上面側の領域をトレー保持面13cとして、ロードロック部3に挿入配置状態にある真空パック10のトレー11の下面と略当接される(実際に当接される場合、及び実際には当接されていなくても、トレー11の下面の極近傍に配置される程度の状態をも含む)ように形成されている。また、真空ハンド13の外周端部13bにおける上記当接面には、封止部材の一例であるOリング13eが設けられており、確実に上記遮蔽を行なうことが可能となっている。
また、トレー保持面13cには、後述するような手段により、真空パック10の密閉を解除して、基板1をその図示上面である配置面11aにおいて保持するトレー11を、この基板1の保持状態のままで、配置して保持することが可能となっている。また、トレー保持面13cの外周部には、保持部材の一例である複数の磁石13dが設けられており、夫々の磁石13dによる磁力でもって、トレー保持面13cへのトレー11の配置位置を保持することが可能となっている。なお、このような上記略当接が行なわれるトレー保持面13cは、トレー11の下面に対して、略全面に設けられているような場合(すなわち、図2に示すような場合)のみに限られるものではなく、部分的に設けられているような場合であってもよい。トレー保持面13cに確実にトレー11を保持することができればよいからである。
また、図2に示すように、真空ハンド13の外周部近傍には、トレー保持面13cに保持されるトレー11の外周部に形成された凹部11cと解除可能に係合される複数の係合爪13fが備えられている。このような夫々の係合爪13fは、真空パック10から真空ハンド13にトレー11を受け渡す際に、夫々の係合爪13fと凹部11cとの係合動作及び当該係合状態で真空パック10が下降されることにより、蓋部12からトレー11を引き剥す役割を担っており、確実な受渡し動作が担保されている。
また、図2に示すように、真空ハンド13に備えられている夫々の係合爪13fは、真空ハンド13がロードロック部3の下部周部3bに当接された状態において、その一部が下部周部3bと当接することで、夫々の係合爪13fが回動されて、トレー11の凹部11cと係合可能に開いた状態となるように取り付けられている。また、真空ハンド13が下降されてロードロック部3との当接が解除されると、同様に夫々の係合爪13fの上記当接も解除され、これにより、夫々の係合爪13fが閉じた状態とされ、凹部11cと自動的に係合されるように構成されている。また、真空パック10の蓋部12に備えられている夫々の係合爪12eも同様な構成となっており、フランジ部12fがロードロック部3の開口部3aと当接状態において、夫々の係合爪12eが開いた状態とされ、当該当接状態が解除されると、夫々の係合爪12eが閉じて、トレー11の凹部11cと係合することが可能とされている。蓋部12の夫々の係合爪12eと真空ハンド13の夫々の係合爪13fとがこのような当接及び当接解除による開閉機能を有していることにより、トレー11の落下防止等の安全対策を図りながら、蓋部12と真空ハンド13との間で、基板1を保持したトレー11の受渡しを確実に行なうことが可能となっている。
また、図1に示すように、基板処理室4には、高周波電力を印加可能にその上部に配置された電極部の一例であるスパッタ電極20と、処理室ケーシング2の外部に配置され、このスパッタ電極20に高周波電力を印加する高周波電源21と、基板処理室4内に所定の反応ガスを供給するガス供給部22とが備えられている。なお、このガス供給部22は、例えば、上記反応ガスとしてArガスを供給する供給配管22a、マスフローコントローラ22b、及び、ガスバルブ22cとにより構成されており、所定の流量の反応ガスを供給することが可能となっている。
また、基板搬送装置5の真空ハンド13が処理位置P2に位置されて、基板処理室4の下部周部4aと当接された状態、すなわち、真空ハンド13により基板処理室4が密閉された状態において、真空ハンド13により保持状態にあるトレー11に載置された基板1が、基板処理室4内において、スパッタリング処理が可能な位置に配置されるように、基板処理室4が構成されている。このようにトレー11により保持された状態の基板1が上記位置に配置されることで、ガス供給部22より所定量の上記反応ガスを供給しながら、高周波電源21よりスパッタ電極20に高周波電力を印加することで、基板1に対するスパッタリング処理を施すことが可能となっている。
また、図1に示すように、第1空間S1の圧力を調整する第1圧力調整装置6と、第2空間S2の圧力を調整する第2圧力調整装置7は、例えば、共通の圧力源と、上記圧力源から夫々の空間S1、S2に個別に連通された導圧管路23、24により構成されている。上記共通の圧力源としては、例えば、真空化するための真空排気装置の一例であるロータリーポンプ25と、上記真空化を解除して大気圧化雰囲気とするための窒素ガス供給部26とが備えられている。また、ロータリーポンプ25と窒素ガス供給部26とに接続されて、真空排気と窒素ガスのパージ(供給)とを選択的に行なうことを可能とする導圧管路23は、第1空間S1にその一端が連通されている。同様に、ロータリーポンプ25と窒素ガス供給部26とに接続されて、真空排気と窒素ガスのパージとを選択的に行なうことを可能とする導圧管路24は、第2空間S2にその一端が連通されている。また、夫々の導圧管路23、24の途中には、上記選択的な圧力の伝達を可能とするため、複数の開閉弁(コントロール弁)27A〜27Fが設けられている。なお、導圧管路23におけるロータリーポンプ25との連通を行なう管路の途中には、第1空間S1における高精度な真空圧制御を担保すべく、クライオポンプ28がさらに備えられている。
このような構成を有する真空処理装置100における基板1の搬入出動作、及び基板1に対するスパッタリング処理動作を統括的に制御する制御装置9が、真空処理装置100には備えられている。具体的には、制御装置9は、基板搬送装置5による搬送動作、高周波電源21によるスパッタ電極20への高周波電力の印加動作、ガス供給部22による反応ガスの供給動作(供給量の制御動作も含む)、第1圧力調整装置6による第1空間S1の圧力調整動作、及び第2圧力調整装置7による第2空間S2の圧力調整動作の夫々の動作制御を、互いに関連付けながら統括的に行なうことが可能となっている。なお、図1においては図示しないが、第1空間S1及び第2空間S2における確実な圧力制御を可能とするため、第1空間S1内及び第2空間S2内には、圧力検出センサ等が設けられている。
次に、このような構成を有する真空処理装置100において、真空パック10内に収容配置された基板1が搬入されて、当該搬入された基板1に対してスパッタリング処理を行ない、その後、この処理が行われた基板1を再び真空パック10内に収容配置させて、真空処理装置100より搬出する一連の動作について説明する。なお、以下に説明する夫々の動作は、真空処理装置100が備える制御装置9により、互いの動作が関連付けられながら統括的に行なわれる。また、以下の説明においては、基本的には図1に示す真空処理装置100における上記夫々の動作の説明を行なうものとするが、各々の動作の説明の理解を容易なものとするために、図1に示す真空処理装置100をさらに簡略化した部分的な模式図を用いて、その動作の説明を行なうものとする。
まず、基板1が搬入される前における真空処理装置100の部分的な模式図を図4に示す。図4に示すように、真空処理装置100においては、基板搬送装置5の真空ハンド13が基板受渡し位置P1に位置されて、その外周端部13bがロードロック部3の下部周部3bに当接され、第1空間S1と第2空間S2との連通が遮蔽された状態、すなわち、第1空間S1が装置外部に対して密閉された状態とされている。また、ロードロック部3は装置外部に対して開放された状態とされており、第2空間S2が大気開放された状態とされている。さらに、第1空間S1は、導圧管路23を通して第1圧力調整装置6により(すなわち、ロータリーポンプ25及びクライオポンプ28により)真空排気されて、真空化雰囲気が保持された状態とされている。
次に、真空パック10の模式図を図5に示す。図5に示すように、真空処理装置100の外部においては、スパッタリング処理が施される基板1が、トレー11の配置面11a上に配置されるとともに、蓋部12の当接部12aがトレー11の上面における外周端部全体と当接されるように、蓋部12がトレー11の上面に配置されて、真空パック10の内部に基板1が収容配置された状態にて、真空パック10が密閉される。さらに、蓋部12の連通通路12b及び開閉弁12cは、排気手段30を接続して、上記密閉状態において、開閉弁12cを開動作させるとともに、排気手段30にて真空パック10の内部空間の空気を排気することで、当該内部空間を真空化する。これにより、真空パック10の内外において圧力差を生じさせることができ、この圧力差を利用して、真空パック10の内部空間を真空化雰囲気に保ちながら、当該内部空間を確実に密閉することができる。なお、真空パック10の内部空間が所定の真空圧力に保たれた後は、開閉弁12cを閉止するとともに排気手段30を停止させて、開閉弁12cと排気手段30との接続を解除する。
次に、図6の真空処理装置100の部分的な模式図に示すように、その内部空間に基板1が収容配置されるとともに、当該内部空間が真空化された状態の真空パック10を、図4に示した状態にある真空処理装置100のロードロック部3に挿入配置させる。この挿入配置により、真空パック10における蓋部12のフランジ部12fが、ロードロック部3の開口部3aと当接され、この当接により、ロードロック部3内の第2空間S2と、装置外部との連通が遮蔽され、第2空間S2が密閉されることとなる。さらに、蓋部12に吸着保持されている状態にある真空パック10のトレー11は、真空ハンド13のトレー保持面13cに略当接された状態とされる。なお、この状態においては、第1空間S1は真空雰囲気の状態にあり、第2空間S2、すなわち、ロードロック部3内における真空パック10の外部空間は、密閉されているものの大気圧雰囲気の状態にある。また、真空パック10の内部空間S3は、真空雰囲気の状態が保たれており、第2空間S2と内部空間S3との圧力差により、基板1を保持するトレー11が、蓋部12に吸着保持された状態とされている。
その後、図7の真空処理装置100の部分的な模式図に示すように、第1空間S1及び第2空間S2が個別に密閉された状態において、導圧管路24を通じて第2圧力調整装置7により第2空間S2内を真空排気して、第2空間S2を真空化雰囲気とさせる。これにより、真空パック10の内部空間S3の圧力と第2空間S2の圧力との間に、圧力差がなくなり、上記圧力差により生じていたトレー11の蓋部12への吸着が解除、すなわち、真空パック10の密閉が解除されることとなる。従って、基板1を保持した状態において、トレー11はその自重等により、その下方において略当接状態にある真空ハンド13のトレー保持面13cへ受け渡されることとなる。なお、このようにトレー11の自重により、蓋部12から真空ハンド13へのトレー11の受渡しが行なわれるような場合に代えて、メカニカルクランプ機構や磁力等の外力を用いて、あるいは、上記自重と外力とが組み合わされて、上記トレー11の受渡しが行なわれるような場合であってもよい。
なお、このような真空パック10の密閉解除のための第2空間S2と内部空間S3との圧力の関係は、第2空間S2の圧力を、内部空間S3の圧力と略同じにするか、あるいは、内部空間S3の圧力よりも低くすることが必要である。
その後、図8に示すように、基板1を保持するトレー11が受け渡された真空ハンド13が、基板搬送装置5の昇降移動装置15により下降されて、蓋部12よりトレー11が物理的にも完全に真空ハンド13へ受け渡されたこととなる。また、この真空ハンド13の下降移動により、第1空間S1と第2空間S2との間の遮蔽が解除されて、互いの空間が連通状態とされる。真空パック10の蓋部12は、ロードロック部3の開口部3aと当接された状態が保持されており、第2空間S2と連通された第1空間S1を、処理室ケーシング2の外部に対して密閉している。このような第1空間S1と第2空間S2との連通を考慮すれば、第1空間S1と第2空間S2の夫々の圧力は、略同じ保持された状態で、上記連通が行なわれることが望ましい。なお、この連通の際には、第1圧力調整装置6及び第2圧力調整装置7とにより、第1空間S1及び第2空間S2の圧力が調整される。ただし、このような場合に代えて、第2空間S2の容積が第1空間S1の容積と比して十分に小さいような場合にあっては、第1圧力調整装置6のみにより第1空間S1及び第2空間S2の圧力が調整されるような場合であってもよい。いずれか一方の圧力調整装置により上記圧力調整を行なう場合の方が、その制御性が良い場合もあるからである。
その後、図9に示す真空処理装置100の部分的な模式図のように、基板搬送装置5の回転移動装置14により真空ハンド13が回転移動されて、基板受渡し位置P1から処理位置P2へと移動される。処理位置P2に回転移動された真空ハンド13は、昇降移動装置16により上昇されて、真空ハンド13の外周端部13bが基板処理室4の下部周部4aと当接されて、基板処理室4が第1空間S1に対して密閉される。この当接により、昇降移動装置16による真空ハンド13の上昇移動が停止される。
また、この当接により、真空ハンド13のトレー保持面13cに保持されたトレー11及び基板1が基板処理室4の内部に位置された状態とされる。この状態において、ガス供給部22より反応ガスを基板処理室4内に導入するとともに、高周波電源21により高周波電力をスパッタ電極20に印加し、基板1に対するスパッタリング処理を行なう。当該スパッタリング処理が完了すると、高周波電源21による高周波電力の印加動作及びガス供給部22よりの反応ガスの供給動作が停止される。
その後、昇降移動装置16により真空ハンド13が下降されて、基板処理室4の密閉が解除され、回転移動装置14により真空ハンド13が回転移動されて、処理位置P2から基板受渡し位置P1にまで移動され、先に説明した図8に示す状態とされる。さらに、昇降移動装置15により真空ハンド13が上昇されて、図10に示すように、真空ハンド13の外周端部13bとロードロック部3の下部周部3bとが当接されるとともに、真空ハンド13に保持されているトレー11の上面における外周端部と、蓋部12の当接部12aとが互いに当接される。これにより、真空パック10の内部空間S3、第2空間S2、及び第1空間S1の夫々の空間が、互いに密閉された状態とされる。なお、この状態においては、夫々の空間S1〜S3は、略同じ圧力、すなわち、真空化雰囲気とされている。
その後、図10に示すように、第1圧力調整装置6により第1空間S1の圧力を調整して真空雰囲気に保持したまま、第2圧力調整装置7により第2空間S2内に、窒素ガスをパージして、真空雰囲気から大気圧雰囲気となるように、第2空間S2の圧力を調整する。これに対して、真空パック10の内部空間S3は、第2空間S2に対して遮蔽された状態にあるため、真空雰囲気が保たれた状態にある。これにより、真空パック10の内部空間S3と第2空間S2との間に、真空圧力と大気圧力というよう圧力差が生じることとなり、この圧力差により、真空ハンド13のトレー保持面13cに保持されていたトレー11が、真空パック10の蓋部12に吸着保持されることとなり、スパッタリング処理が施された基板1を保持するトレー11が、真空ハンド13から蓋部12に受け渡されることとなる。
その後、スパッタリング処理が施された基板1をその内部に収容配置する真空パック10を、ロードロック部3より取り出すことにより、窒素ガスのパージにより大気圧雰囲気とされた第2空間S2と装置外部との遮蔽が解除される。
取り出された真空パック10は、必要に応じて他の処理が行なわれる他の真空処理装置に挿入配置されることで、上述のような処理を同様な手法で行なうことができる。このような処理が繰り返し行われた基板1をその内部に収容配置する真空パック10より、基板1を取り出す場合には、図11の模式図に示すように、蓋部12の連通通路12bに取り付けられて閉止状態にある開閉弁12eを開放することで、真空パック10の内部空間S3に外部の大気をパージすることができ、内部空間S3を大気圧雰囲気とすることができる。これにより、基板1を保持するトレー11を蓋部12から容易に取り外すことができ、トレー11に保持された基板1を取り出すことができる。
ここで、ここで本明細書において用いられている「真空」(あるいは真空化雰囲気)とは、大気圧力に対して減圧された状態(雰囲気)を含むものである。具体的には、真空パック10の内部空間S3の真空化とは、(1)この真空パック10を形成するトレー11と蓋部12との互いの当接状態(あるいは密着状態)を維持することができるような内部空間S3の減圧化状態(減圧化雰囲気)を含むものである。このような減圧化圧力は、例えば、この内部空間S3の表面積と当該減圧化圧力とに基づいて算出される力が、トレー11の自重による力よりも大きくなるように決定される。(2)また、ロードロック部3内に挿入配置された真空パック10は、第2空間S2の圧力調整、及び第1空間S1と第2空間S2とを遮蔽する真空ハンド13の下降により、トレー11と蓋部12とが分離されて、その内部空間S3が開放され、第1空間S1及び第2空間S2と一体的な空間とされることとなる。従って、このような観点からは、真空パック10の内部空間S3の上記減圧化圧力は、真空パック10の開放により、基板1に対する処理が行なわれる第1空間S1の圧力に影響を与えないような圧力とすることが望ましい。このような圧力としては、例えば、1×10−3Pa以下程度の圧力とすることが望ましい。
次に、このような真空化雰囲気にて基板1を収容配置し、当該雰囲気を保持したままで真空処理装置100に基板1を搬入して、処理後の基板1に対して真空化雰囲気を保持したままで、再びその内部に収容配置させて真空処理装置100より搬出させるというような動作を可能とための真空パック10に求められる種々の条件について説明する。
まず、真空パック10においては、その内部空間を真空雰囲気に保つ必要があることより、この内部空間の真空圧力、すなわち真空パック10の外部の大気圧力に十分に耐えうる構造を有していることが求められる。そのため、真空パック10を構成するトレー11と蓋部12は、上記圧力に対して機械的に十分に耐えることができる構造を有していなければならない。
さらに、真空パック10内に収容配置された基板1は、真空処理装置100内において、トレー11の配置面11aに配置保持された状態にて取り扱われることとなり、基板処理室4においても、トレー11に保持された状態にてスパッタリング処理が行われることとなる。また、このスパッタリング処理の際には、基板1に対する熱的ダメージの発生を防止するために、基板1の冷却を行なう必要があり、そのため、基板1を保持するトレー11を冷却することで、トレー11を介して基板1の冷却を行なう必要がある。このトレー11は、真空パック10として真空処理装置100の外部より、基板1と共に搬入されるため、上記冷却にあたっては常温からの冷却開始となる。従って、基板1に対して、確実かつ迅速な(処理時間短縮のため)冷却を行なうためには、トレー11の熱容量が小さいことが求められる。
なお、このようなトレー11及び基板1に対する冷却は、例えば、トレー11と直接的に接触する真空ハンド13に冷却機能を備えさせることにより行なうことができる。例えば、真空ハンド13の内部に冷媒、例えば温度制御された冷却水を循環させて、真空ハンド13のトレー保持面13cに接触されているトレー11を冷却することができる。また、真空ハンド13のトレー保持面13cとトレー11の下面との間に、冷媒、例えばArガスを直接的に供給することで、トレー11の冷却を行なうこともできる。
従って、真空パック10において、蓋部12に対しては、大気圧(あるいは真空圧)に耐え得る構造を持たせる必要があり、一方、トレー11に対しては、上記大気圧に耐え得る構造を有し、かつ、その熱容量が小さいことが求められる。このような条件を考慮して、トレー11の形状を決定し、かつ、上記冷却に必要な時間等を求める方法を、一例として以下に説明する。
まず、例えば、スパッタリング処理等の処理における冷却工程において、必要なトレー11の大きさ、及び、許容されるたわみ量を、基板1に対して施される処理の内容や基板1の材質や性質、トレー11に対する冷却方法、真空処理装置100の構造等の諸条件に基づいて総合的に判断して決定する。例えば、トレー11に対して、輻射及びガス冷却の手段を用いて基板1の冷却を行なう場合、トレー11の大きさ(直径)をφ260mmとし、許容されるたわみ量を0.2mm以下とする。
次に、トレー11と蓋部12により真空パック10を形成し、その内部空間を真空雰囲気とした時の内外圧力差により生じるたわみ量τmaxが、上記許容たわみ量τo以下となるトレー11の板厚を、数1に示す関係式を用いて求める。
τo≧τmax=0.174 × (Pa4)/(Eh3)・・・(数1)
なお、ここで、τmaxは中央たわみ、Pは圧力、aはトレー11の半径、Eはヤング率、hはトレー11の板厚である。数1によれば、トレー11の板厚hは6mmと求めることができる。なお、この板厚hの決定にあたっては、トレー11の熱容量を小さくするために、できる限り板厚を小さく決定する必要がある。
また、スパッタリング処理における基板1の熱的ダメージを考慮した必要な冷却温度を設定する。それとともに、トレー11に対する冷却実験を行ない、冷却に必要な時間(タクト)を求める。例えば、トレー11を、常温(例えば、25℃)から10℃にまで冷却するような場合にあっては、図12の上記冷却実験結果に示すようにトレー11の温度と真空ハンド13の温度との関係より、冷却時間が処理時間(成膜時間)より長くならないように、冷却時間S’決定するとともに、真空ハンド13の冷却のための水温や水量等を調整する。なお、図12においては、縦軸にトレー11及び真空ハンド13の温度Tを示し、横軸に時間Sを示している。
また、上記説明においては、トレー11が基板1を保持する機能のみを有している場合について説明したが、本第1実施形態はこのような場合にのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、図13に示すように、基板処理室54における処理の際に、トレー51が電極としての機能をもさらに備えているような場合であってもよい。
図13に示すように、具体的には、真空ハンド13によりトレー51が基板処理室54内に配置された状態、すなわち、真空ハンド13による基板処理室54が密閉された状態で、トレー51の表面と当接される(例えば、メタルタッチさせる)端子部52が基板処理室54には備えられている。この端子部52には、処理室ケーシング2の外部に備えられたさらに別の高周波電源53に接続されている。これにより、高周波電源53により端子部52を通してトレー51に高周波電力を印加することが可能となっている。
このようにトレー51を基板電極として高周波電力が印加可能とされていることにより、基板1に対する様々な処理を可能とすることができる。また、一枚の基板1に対して、一枚のトレー51が対応するということを利用すれば、個々の基板1の特性に応じた電極機能をトレー51に備えさせることが可能となり、多様化された基板1の処理に対して柔軟に対応することが可能となる。なお、上記においては、トレー51が、高周波電力が印加される電極として用いられる場合について説明したが、このような場合に代えて、トレー51が単にアース電極として用いられるような場合であってもよい。このような場合にあっては、さらに多様化した処理内容に対応することが可能となる。
また、上記においては、真空パック10が、略円筒状の形状を有しているような場合について説明したが、本実施形態はこのような場合のみに限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、角筒等他の形状を有するような場合であっても可能である。ただし、真空パック10を略円筒状の形状とするような場合にあっては、上記円筒の中心周りの回転方向の位置合わせを容易なものとすることができるという利点がある。
上記第1実施形態によれば、以下のような種々の効果を得ることができる。
まず、真空処理装置100が、非処理対象物である基板1の処理室ケーシング2内への搬入出が行なわれるロードロック部3の内部空間である第2空間S2と、この第2空間S2を介してのみ装置外部と連通される基板処理室4が配置されている第1空間S1とを備え、第2空間S2と装置外部との連通がロードロック部3に挿入配置された真空パック10の蓋部12により遮蔽可能とされ、第1空間S1と第2空間S2との連通が真空ハンド13により遮蔽可能とされていることにより、真空化雰囲気とされた真空パック10の内部空間に収容された基板1を、第2空間S2を通して第1空間S1内に当該真空化雰囲気を保持したままの状態で搬入して処理可能とさせることができ、かつ、当該処理済みの基板1を真空化雰囲気を保持したままの状態で、第2空間S2から第1空間S1を介して再び真空パック10内へ収容配置させて、装置外部に搬出可能とすることができる。
従って、真空化雰囲気中において、保管あるいは搬送等を行なうことが求められる基板1に対して、真空処理装置100内への基板1の搬入から、処理の実施、搬出まで、上記真空化雰囲気を確実に保持することができ、このような環境条件が求められる基板の処理に確実に対応することができる。
具体的には、真空パック10がロードロック部3に挿入配置された状態において、真空パック10を形成する蓋部12のフランジ部12fが、ロードロック部3の開口部3aと当接されることで、第2空間S2と装置外部空間とが遮蔽されるように、蓋部12及びロードロック部3が形成されていることにより、上記遮蔽のための特別な機構を設けることなく、ロードロック部3への真空パック10の挿入配置動作のみで、上記遮蔽を行なうことができ、真空処理装置100の構成を簡単なものとすることができる。
さらに、処理室ケーシング2内において、基板受渡し位置P1と処理位置P2との間の基板1の搬送を行なう基板搬送装置5が備える真空ハンド13が、基板受渡し位置P1に位置されて、かつ、上昇されることにより、その外周端部13bがロードロック部3の下部周部3b全体と当接可能と構成されていることにより、第1空間S1と第2空間S2との連通を遮蔽することができる。
また、このように真空ハンド13が遮蔽位置に位置された状態において、真空ハンド13のトレー保持面13cと、ロードロック部3に挿入配置された状態の真空パック10のトレー11の下面とが、略当接された状態とさせることができることにより、真空パック10を形成する蓋部12と真空ハンド13との間で、基板1が保持されたトレー11の受渡しを円滑に行なうことが可能となる。
真空パック10の内部空間S3の真空圧力により蓋部12に吸着保持されている状態のトレー11を、真空ハンド13に受け渡すような場合にあっては、上記密閉された状態でありかつ大気圧雰囲気にある第2空間S2を、第2圧力調整装置7により真空化雰囲気として、内部空間S3と第2空間S2との圧力差を無くすことにより、例えば、トレー11の自重等を利用して、トレー11を真空ハンド13に受け渡すことができる。
逆に、真空ハンド13のトレー保持面13cに保持された状態のトレー11を、蓋部12に受け渡すような場合にあっては、真空ハンド13により第2空間S2を密閉するとともに、真空ハンド13に保持された状態にあるトレー11の外周端部全体を、蓋部12の当接部12aに当接させた状態、すなわち、第2空間S2と真空パック10の内部空間S3とを互いに遮蔽した状態において、第2圧力調整装置7により第2空間S2を大気圧雰囲気とさせることにより、真空パック10の内外の圧力差を利用して、トレー11を蓋部12に吸着保持させて受け渡すことができる。
このようにロードロック部3に挿入配置された真空パック10に対して、その内外空間における圧力差を調整することで、真空パック10の開放動作及び閉止動作を行なうことができ、真空パック10の開閉動作を簡単な構成で確実かつ円滑に実現することができる。
また、このように真空パック10を用いて処理室ケーシング2内に搬入して、真空ハンド13に受け渡された基板1は、基板搬送装置5における回転移動装置14により真空ハンド13が回転移動されることにより、その回転移動の軌跡上に配置された基板受渡し位置P1と処理位置P2との間での移動を行なうことができる。特に、上記軌跡上に基板受渡し置P1と処理位置P2とが配置されていることは、真空ハンド13の位置決めを容易なものとすることができるという点において効果的なものとなる。
また、処理位置P2において、真空ハンド13が上昇されて、真空ハンド13の外周端部13b全体が基板処理室4の下部周部4aと当接されることで、真空ハンド13により基板処理室4を第1空間S1から遮蔽するように密閉することができる。また、この密閉とともに真空ハンド13により保持されたトレー11及びトレー11に保持された基板1を、基板処理室4内における処理可能な位置に配置することができることにより、基板1に対する処理開始までに要する時間を、必要最小限の時間とすることができる。従って、真空処理装置100における基板1に対する処理に要する時間、すなわち、処理タクトを短縮化することができ、効率的な処理を行なうことが可能となる。
さらに、真空処理装置100において取り扱われる基板1は、常に、トレー11の配置面11aに保持された状態で取り扱われることとなり、真空パック10から真空ハンド13への基板1の受渡し、基板搬送装置5による基板受渡し位置P1と処理位置P2との間での基板1の移動動作、基板処理室4における基板1に対する処理動作、及び真空ハンド13から真空パック10への基板1の受渡し動作の際においても、基板1に対して直接的に触れることなく、トレー11に基板1が配置された状態で上記夫々の動作を行なうことができる。
従って、上記搬送動作等において、基板1を損傷させる恐れを確実に防止することができ、多様化され様々な形状を有する基板1の搬送に対応することができる。このような効果は、特に、そのもの自体ではその形態を保持することが困難であるという特徴を有する薄いシート状あるいはフィルム状の基板の搬送や、その表面が軟らかい材料(膜等)で形成されているような傷付けられやすいような基板の搬送に効果的なものとなる。
また、トレー11に、例えば、複数の磁石11bを内蔵させることで、その配置面11aに配置された基板1を直接的あるいはマスク等を介して、その配置位置を固定することができ、さらに、この固定位置は、真空処理装置100への基板1の搬入から、処理実施、搬出まで維持されているため、トレー11を介して搬送される基板1の位置決め精度を低下させることはない。
また、トレー11は、真空パック10の内部空間の真空圧に耐え得る構造を有していること、及び、基板1の処理に際して、この基板1を確実に冷却できるようにその熱容量が小さいことという2つの条件を共に満たすように、処理が施される個々の基板1の特性に応じて形成することができるため(すなわち、基板1とトレー11とは、一対一に対応しているため)、多様化される基板1の種類に応じて、上記夫々の条件を満たす範囲内で設計の自由度を高めることができ、様々な種類の基板処理に対応することが可能となる。
(第2実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、本発明の第2の実施形態にかかる真空処理システムについて以下に説明する。このような真空処理システムは、例えば、互いに異なる複数種類の真空処理を1枚の基板に対して施すような処理システムであり、上記各々の真空処理を施す複数台の真空処理装置と、上記夫々の真空処理装置間において、基板を収容配置する真空パックの搬送を行なう搬送装置とにより構成されるものである。以下の夫々の真空処理システムの説明においては、各々の真空処理装置自体は、基本的には、その外観形状や細部を除いては、上記第1実施形態の真空処理装置100と同じ構成となっているため、上記各々の真空処理装置自体の構成の説明は省略するものとし、真空処理システム全体としての構成の説明を中心に説明するものとする。
まず、複数の真空処理装置が放射状に配置されたクラスター型の真空処理システム200の模式的な構成(平面的な構成)を示す模式図を図14に示す。図14に示すように、真空処理システム200は、上記第1実施形態の真空処理装置100と同様な構成を有する真空処理装置250を複数台、例えば6台を、放射状に均等配置させて備えている。これらの真空処理装置250は、上記放射状の配置中心Qの内側に夫々のロードロック部203が位置され、かつ、配置中心Qの外側に夫々の基板処理室204が位置されるように,配置されている。
また、夫々の真空処理装置250の間には、基板1が収容配置される真空パック10を一時的に配置可能な真空パック置き台260が配置されている。これらの真空パック置き台260は、真空パック10を一時的に配置させることで、配置された真空パック10に対する必要な処置、例えば、真空パック10への基板1の収容配置及びその内部空間の真空化作業、あるいは、処理済みの基板1が収容配置されている真空パック10の内部空間を大気開放して、基板1を取り出す作業等を行なうことが可能となっている。
さらに、図14に示すように、真空処理システム200においては、夫々の真空パック置き台260に配置された夫々の真空パック10を、大気雰囲気中にて解除可能に保持しながら、配置中心Q回りに所定の角度だけ回転移動させることで、夫々の真空処理装置250のロードロック部203に真空パック10を挿入配置させる、あるいは、夫々のロードロック部203に挿入配置されている真空パック10を保持して取り出し、配置中心Q回りに所定の角度だけ回転移動させることで、夫々真空パック置き台260に夫々の真空パック10を配置させることを可能とする大気移送ハンド装置270が備えられている。この大気移送ハンド装置270は、夫々の真空処理装置250のロードロック部203の配置に合致するように形成され、真空パック10を解除可能に保持する6本の保持ハンド271と、夫々の保持ハンド271を互いの配置関係を保持しながら配置中心Q周りに回転移動させる回転移動装置(図示しない)とを備えている。
このような真空処理システム200においては、一の真空パック置き台260に配置され、基板1を収容配置する真空パック10を、保持ハンド271にて保持して上記回転移動装置により所定の角度だけ回転移動させることで、上記一の真空パック置き台260に隣接配置されている真空処理装置250のロードロック部203に、真空パック10を挿入配置することができる。この挿入配置により、当該真空処理装置250にて基板1に対する処理(例えばスパッタリング処理)を行なうことができる。
さらに、この処理された基板1を収容配置する真空パック10を保持して、上記回転移動装置により所定の角度だけ回転移動させることで、この真空パック10を隣接する別の真空パック置き台260に配置させるとともに、上記一の真空パック置き台260に配置された別の真空パック10を別の保持ハンド271にて保持する。その後、さらに夫々の保持ハンド271を所定の角度だけ回転移動させることで、夫々の真空パック10を、夫々の真空処理装置250のロードロック部203に同時的に挿入配置させて、夫々の真空処理装置250において夫々の基板1に対する所定の処理を同時的に行なうことができる。このような動作を順次繰り返して行なうことで、夫々の真空パック10に収容配置されている基板1に対して、複数の真空処理装置250にて順次所定の処理を行なうことができる。
このような真空処理システム200によれば、複数の真空処理装置250にて異なる種類の処理を施す必要がある基板1、例えば、多層構造の基板に対して、上記夫々の処理を施すような場合であっても、従来の装置のように、基板1の真空移載ユニットや真空コンベア等を設けることなく、大気移送ハンド装置270を用いることで対応することができる。従って、このような真空処理システム200の設備コストを抑えることが可能となる。
また、夫々の真空処理装置250と大気移送ハンド装置270とは、互いに機械的に連結された構造とはなっていないため、非処理対象物である基板1に対する処理内容に応じて、真空処理装置250の交換等を容易に行なうことができ、真空処理システムの工程変更や生産品種の変更に柔軟かつ容易に対応することができる。
また、夫々の保持ハンド271と真空処理装置250との配置が合致されていることにより、一の真空パック271を保持ハンド271にて保持して、一の真空処理装置250のロードロック部203に挿入配置させることで、他の真空パック271を他の保持ハンド271にて保持して、他の真空処理装置250のロードロック部203に挿入配置させることができる。従って、複数の真空パック10の移動を効率的に行なうことができ、基板に対する効率的な処理を行なうことが可能となる。
なお、上記においては夫々の保持ハンド271が真空パック10の蓋部12を保持するような場合について説明したが、このような場合に代えて、夫々の保持ハンド271と蓋部12とが一体的に構成されているような場合であってもよい。このような場合いあっては、蓋部12の保持動作を不要とすることができ、工程に要する時間を短縮化することが可能となる。
次に、このような真空処理システムのいくつかの変形例について以下に説明する。
まず、図15に示す真空処理システム300は、複数の真空処理装置が一の円周上に配置されて一体的な構成とされたクラスター型の真空処理システムである。図15に示すように、真空処理システム300においては、複数のロードロック部303と基板処理室304とが、上記一の円周上に配置されている。また、各々のロードロック部303の近傍には、隣接する一のロードロック部303に挿入配置された真空パック10を解除可能に保持して、大気雰囲気中にて各々のロードロック部303に移動させて挿入配置させる大気移送ハンド装置370が夫々備えられている。
真空処理システム300がこのような構成を採ることにより、一の基板処理室304にて処理された基板1が収容配置された真空パック10を、大気移送ハンド装置370を用いて、隣接するロードロック部303に移送して挿入配置させることができる。従って、真空処理システム300においても、上記真空処理システム200と同様な効果を得ることができる。
次に、図16に示す真空処理システム400は、複数の基板処理室404と一のロードロック部403とが、一の円周上に配置された一体的なロータリー型の真空処理システムである。この真空処理システム400においては、ロードロック部403に挿入配置された真空パック10より、基板1を保持するトレー11を取り出して、基板搬送装置(図示しないが基板搬送装置5と類似した構成の装置)により、夫々の基板処理室404のうちの一の基板処理室404に当該トレー11を移動させて基板1に対する所定の処理を行なうことができる。また、他の基板処理室404に既に供給された基板1を保持するトレー11を上記基板搬送装置にて移動させて、ロードロック部403に配置されている蓋部12と合わせて真空パック10を形成させることにより、この真空パック10を真空処理システム400から取り出すことができる。なお、このような上記基板搬送装置と併せて、夫々の基板処理室404を、その配置中心Q回りに回転移動させるように(ターンテーブル状に)構成することで、上記トレー11の移動性や夫々の基板処理室404のメンテナンス性を良好なものとすることができる。
このような構成の真空処理システム400によれば、ロードロック部403に挿入配置された真空パック10のトレー11と、ロードロック部403より取り出される真空パック10のトレー11とが、異なるものとすることにより、基板1に対する処理に要する時間と、基板1の搬送に要する時間とを重ねることができ、効率的な処理を実現することができる。
また、このような真空処理システム400の構成は、装置が略円形状の形状を有し、夫々の基板処理室が回転移動されるような場合だけでなく、図17に示すマルチ型の真空処理システム500にように、一のロードロック室503に挿入配置された真空パック10より、トレー11が基板搬送装置を用いて夫々の基板処理室504のうちの一の基板処理室504に搬送されるような場合であってもよい。
なお、上記夫々の実施形態においては、基板1を在庫保管する際に、真空パック10内に収容配置させた状態で保管することができる。従来のこのような真空処理システムにおいては、夫々の基板1を保管する場合に、大気中雰囲気あるいは窒素ガスにてその雰囲気が置換された状態の保管庫を用いて上記保管を行なう必要があるのに対して、上記夫々の実施形態においては、真空パック10内で基板1の保管を行なうことができる。このような保管を行なうことで、基板1の収容雰囲気を容易に真空化雰囲気に保つことができ、基板1の酸化防止に効果的であり、さらに、アニール処理も、真空パック10のままで行なうことができ、このような点からも酸化防止に効果的である。また、長期間の保管が要求されるような場合にあっては、真空パック10の開閉弁12cに排気手段を接続することで、当該排気手段により連通通路12bを通して真空パック10の内部空間の真空化雰囲気を保持することができ、確実かつ安定した保管を可能とすることができる。
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。