JP4520765B2 - 孔版印刷用エマルションインキ - Google Patents

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Description

本発明は、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、インキの臭気を緩和することができる孔版印刷用エマルションインキに関する。
孔版印刷方法は、周知のように穿孔部を有する孔版印刷原紙(孔版)を用い、この孔版の穿孔部を介して孔版の一方の側より他方の側にインキを移動させることにより、紙などの被印刷物面に印刷を行う方法である。この孔版印刷方法には、従来より揮発性溶剤、不揮発性溶剤、樹脂、着色剤、界面活性剤、水、凍結防止剤、電解質、及び防腐剤などを含有する油中水型(W/O型)のエマルションインキが用いられている。
近年、環境に配慮して天然植物系材料(例えば、植物油)を含有するエマルションインキが使用されている。しかし、前記植物系材料は、エマルジョンインキを構成する他の材料との相溶性が悪く、このため、インキの分離や変質が生じて保存安定性に欠けるという問題がある。前記問題を解決するための方法として、例えば、植物油に対し酸化防止剤を添加する方法(特許文献1参照)、ヨウ素価と凝固点を規定した植物油を用いる方法(特許文献2参照)、などが提案されている。
しかし、これらの提案では、高温での保存安定性は比較的良好であるものの、過酷な環境変化を伴うインキ輸送や長期保存において十分なインキの安定性が得られないという問題がある。
したがって環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、長期間に亘って安定である孔版印刷用エマルションインキは未だ得られておらず、その速やかな開発が望まれているのが現状である。
特開2002−220560号公報 特開平10−245516号公報
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、インキの臭気を緩和することができる孔版印刷用エマルションインキを提供することを目的とする。
前記課題を解決するため本発明者が鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、油相10〜90質量%及び水相90〜10質量%によって構成される孔版印刷用エマルションインキにおいて、該油相中に天然植物系材料である植物油及びリモネンを含有することにより、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、インキの臭気を緩和することができ、前記従来からの課題を効果的に解決できるという知見である。
本発明は、本発明者の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 油相10〜90質量%及び水相90〜10質量%を含み、該油相中に少なくとも植物油及びリモネンを含有することを特徴とする孔版印刷用エマルションインキである。該<1>に記載の孔版印刷用エマルションインキにおいては、前記油相中に天然植物系材料である植物油及びリモネンを含有する。リモネンを添加することにより植物油を含めた油溶性の材料を複数混合した場合であっても相溶性を向上させることができ、長期間に亘って安定なインキが得られる。また、インキ中に含まれるオイル成分による不快な臭気が存在するが、リモネンの柑橘臭によりオイルによるインキ臭気を緩和することができる。
<2> 植物油及びリモネンの合計含有量が、油相の総質量に対し40質量%以上である前記<1>に記載の孔版印刷用エマルションインキである。該<3>に記載の孔版印刷用エマルションインキにおいては、天然植物系材料である植物油及びリモネンが油相成分の総質量の40質量%以上を占めるので、安全でありかつ環境性に優れたものである。
<3> 油相中に更に鉱物油を含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の孔版印刷用エマルションインキである。該<3>に記載の孔版印刷用エマルションインキにおいては、更に鉱物油を添加することによって、印刷直後の手こすれ汚れの発生を防止できる。即ち、インキの成分中に植物油を含有させることは、環境対策の側面から重要なことであるが、植物油のみでインクを製造すると、顔料の分散性が悪くなり、印刷直後の手こすれ汚れが発生する。これに対し、鉱物油は顔料の分散性に優れており、鉱物油を添加することで印刷直後の手こすれ汚れの発生を防止することができる。しかし、植物油と鉱物油はオイルとしての組成が異なるため、両者を混合してもあまり相溶性は良くならない。そこで、本発明のように、植物油及び鉱物油にリモネンを添加することにより、相溶性が向上し、エマルションインキとして植物油と鉱物油のそれぞれの特性を生かしつつ、長期に亘って安定なインキを提供することができる。
<4> 油相中に更に重量平均分子量が10000以上の樹脂を含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の孔版印刷用エマルションインキである。該<4>に記載の孔版印刷用エマルションインキにおいては、更に重量平均分子量が10000以上の樹脂を添加することによって、印刷翌日の手こすれ汚れの発生を防止できる。即ち、インキの成分中に植物油を含有させることは、環境対策の側面から重要なことであるが、翌日(ある程度時間をおいた後)の手こすれ汚れに対しては更に重量平均分子量が10000以上の樹脂を添加することにより、その発生を防止することができる。更に、リモネンを併用することによって、植物油中に樹脂を安定に分散させることができ、長期に亘って安定なエマルションインキを提供することができる。
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、インキの臭気を緩和することができる孔版印刷用エマルションインキ
を提供する。
本発明の孔版印刷用エマルションインキは、油相10〜90質量%及び水相90〜10質量%によって構成され、前記油相は植物油及びリモネンを含有してなり、鉱物油、重量平均分子量が10000以上の樹脂、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
この場合、前記孔版印刷用エマルションインキは、油相10〜90質量%及び水相90〜10質量%を含み、油相20〜50質量%及び水相50〜80質量%が好ましい。
前記油相の混合割合が10質量%未満であると、W/Oエマルジョンとしての状態を保つことが困難になることがあり、90質量%を超えると、印刷機に対する粘度特性とコスト面でのW/Oエマルションのメリットが失われることがある。
<油相>
−リモネン−
前記リモネンは、下記構造式で表されるモノテルペン炭化水素の一つであり、柑橘類などの皮に含まれる天然の植物材料である。前記リモネンには、d−リモネン、l−リモネン、及びdl−リモネンの異性体が存在するが、本発明においては、これらのいずれも用いることができる。
前記リモネンは、ミカン果皮様の快香のある無色の液体であり、食品香料や芳香性の食品添加物、家庭用の洗浄剤、香料等に用いられている。
Figure 0004520765
前記リモネンは、適宜天然物から抽出したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、ヤスハラケミカル株式会社製の商品名D−リモネン、などが挙げられる。
前記リモネンの孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、1〜10質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましい。
前記リモネンの添加量が1質量%未満であると、本発明の目的及び作用効果を達成できないことがあり、10質量%を超えて添加しても効果に差異はなく、却ってコスト高を招いてしまうことがある。
−植物油−
前記植物油としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、なたね油、サフラワー油、ごま油、ひまし油、脱水ひまし油、つばき油、オリーブ油、やし油、米油、綿実油、パーム油、あまに油、パーム核油、桐油、カメリアオイル、グレープシード油、スイートアルモンド油、ピスタチオナッツ油、ホホバ油、マカデミアンナッツ油、メドウホーム油、などが挙げられ、これらの中でも、ひまし油、大豆油が特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記植物油の孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
前記植物油の添加量が1質量%未満であると、安全性及び環境面でのメリットに乏しくなることがあり、40質量%を超えると、他の成分により物性等をコントロールすることが困難となることがある。
本発明においては、前記植物油及び前記リモネンの合計含有量は、前記油相成分の総質量に対し40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましい。天然の植物系材料である植物油及びリモネンが油相の総質量の40質量%以上であるので、安全性及び環境性に優れたエマルションインキが得られる。
前記油相には、上記リモネン及び植物油以外にも、鉱物油、重量平均分子量が10000以上の樹脂を含有してなり、更に必要に応じて着色剤、着色剤分散剤、体質顔料、乳化剤などのその他の成分を含有してなる。
−鉱物油−
前記鉱物油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、石油系溶剤、スピンドル油、流動パラフィン、軽油、灯油、マシン油、ギヤー油、潤滑油、モーター油、等が挙げられ、これらの中でも、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、石油系溶剤が特に好ましい。
前記パラフィン系オイルとしては、市販品を用いることができ、例えば、モービル石油社製のガーゴオイルアークティックシリーズ、日本石油株式会社製の日石スーパーオイルシリーズ、出光興産株式会社製のダイアナプロセスオイル、ダイアナフレシアシリーズ等が挙げられる。
前記ナフテン系オイルとしては、環分析によるナフテン成分の炭素含有量(CN)が30%以上であり、芳香族成分の炭素の含有量(CA)が20%以下であり、かつパラフィン成分の炭素含有量(CP)が55%以下であるものが好適であり、例えば、モービル石油社製のガーゴオイルアークティックオイル155及び300ID、ガーゴオイルアークティックオイルライト、ガーゴオイルアークティックオイルCヘビー;出光興産株式会社製のダイアナプロセスオイル、ダイアナフレシアシリーズ;日本サン石油株式会社製のサンセンオイルシリーズなどが挙げられる。
前記石油系溶剤としては、市販品を用いることができ、例えば、エクソン化学社製のアイソパーシリーズ及びエクソール;日本石油株式会社製のAFソルベントシリーズなどが挙げられる。
これらの鉱物油は、インキの安定性等を考慮した場合、3環以上の縮合芳香族環を含む芳香族炭化水素である多環芳香族成分が3質量%未満のものを使用することが好ましい。また、変異原性指数MIが1.0未満、アロマ分(%C)が20〜55%、アニリン点が100℃以下であって、かつオイル全質量基準でベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、ジベンゾ[a,j]アクリジン等の多環芳香族の含有量がそれぞれ10ppm以下であり、かつ合計含有量が50ppm以下である。
なお、必要に応じて安全性の高いアロマ系オイル(例えば、特開平11−80640号公報)を使用することもできる。
前記鉱物油の孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
前記鉱物油の添加量が1質量%未満であると、印刷直後のこすれ汚れ性が多少悪くなることがあり、40質量%を超えると、他の成分により物性等をコントロールすることが困難となることがある。
−樹脂−
前記樹脂としては、重量平均分子量が10000以上であれば特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロジン;重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;マレイン酸樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;環化ゴム等のゴム誘導体樹脂;テルペン樹脂;アルキド樹脂;重合ひまし油、などが挙げられ、これらの中でも、アルキド樹脂、ロジン変性樹脂が特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記樹脂の添加量は、インキのコスト及び印刷適正の観点からインキの総質量の10質量%以下が好ましく、1〜7質量%がより好ましい。
前記樹脂の重量平均分子量は10000以上が好ましく、2万〜8万がより好ましい。前記重量平均分子量が10000未満であると、インキ定着性が低下することがある。一方、重量平均分子量が大きすぎると、インキの塑性粘度が高くなり、ドラム後端からのインキ漏れなどが生じ、印刷適正に問題が生じることがある。
前記アルキド樹脂は、通常、油脂、多塩基酸、及び多価アルコールを含有してなる。前記油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、米糠油、綿実油等の脂肪酸が挙げられ、更に、大豆油、アマニ油、キリ油などの乾性油を使用することもできる。前記多塩基酸としては、飽和多塩基酸及び不飽和多塩基酸のいずれかを用いることができる。前記飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸等が挙げられる。前記不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリット、ジペンタエリスリット、マンニット、ソルビットなどが挙げられる。
前記アルキド樹脂の油長は、前記油脂中の脂肪酸がトリグリセライドで存在したときの樹脂中の質量%で表され、通常60〜90質量%程度である。
前記アルキド樹脂は、分散安定性及び皮膜形成による版銅スクリーンの目詰まり等の問題から、ヨウ素価80以下であることが好ましい。
−その他の成分−
前記着色剤としては、各種色調の公知の顔料、分散染料などを用いることができ、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック類;アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉;弁柄、黄鉛、群青、酸化クロム、酸化チタン等の無機顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料;無金属フタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料等のフタロシアニン系顔料;アントラキノン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、イソインドリン系色素、ジオキサンジン系色素、スレン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジゴ系色素、キノフタロン系色素、金属錯体等の縮合多環系顔料;酸性又は塩基性染料のレーキ等の有機顔料;ジアゾ染料、アントラキノン系染料等の油溶性染料;蛍光顔料、などが挙げられ、これらの中でも、カーボンブラック、アゾレーキ顔料、フタロシアニン系顔料などが特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記蛍光顔料としては、合成樹脂を塊状重合する際又は重合した後に様々な色相を発色する蛍光染料を溶解又は染着し、得られた着色塊状樹脂を粉砕して微細化した、所謂合成樹脂固溶体タイプのもので、染料を担持する合成樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、等が挙げられる。
前記着色剤としてのカーボンブラックを油相に添加する場合には、pH5未満の酸性のカーボンブラックとしては、市販品を用いることができ、例えば、MA−100、MA−7、MA−77、MA−11、#40、#44(いずれも三菱化学株式会社製)、Raven1100、Raven1080、Raven1255、Raven760、Raven410(いずれもコロンビヤンカーボン社製)、などが挙げられる。
前記着色剤の平均粒径は、0.01〜1μmが好ましく、0.02〜0.5μmがより好ましい。
前記着色剤の孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常2〜15質量%が好ましい。
前記乳化剤としては、油中水型のエマルションを形成することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エマルション安定化の目的で、水相に電解質等を添加する場合には、電気的な副作用をさけることができる点で非イオン系界面活性剤が好適である。該非イオン系界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、などが挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記乳化剤の孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1〜8質量%が好ましく、2〜5.5質量%がより好ましい。
前記着色剤分散剤としては、エマルションの形成を阻害しないものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳化剤用非イオン界面活性剤、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート系化合物、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、脂肪族多価カルボン酸、ポリエーテル、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩、ポリアミド系化合物、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ポリエチレンイミン、アルキロールアミン塩、アルキド樹脂等の不溶性着色剤分散能を有する樹脂、インキの保存安定性を阻害しない範囲であればイオン性界面活性剤、両性界面活性剤なども使用可能である。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記着色剤分散剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、着色剤の総質量の40質量%以下が好ましく、2〜35質量%がより好ましい。
前記ゲル化剤は、油相に含まれる樹脂をゲル化してインキの保存安定性、定着性、及び流動性等を向上させる役割を有し、油相中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。該ゲル化剤としては、例えば、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zr等の金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマー等が挙げられる。具体的には、オクチル酸アルミニウム等のオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート等の有機キレート化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ゲル化剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、油相中の樹脂の総量に対し15質量%以下が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
前記体質顔料は、インキ中には滲み防止、粘度調整のために油相、水相、又は両相に添加することができ、無機微粒子及び有機微粒子のいずれかが好ましい。前記無機微粒子としては、例えば、白土、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、ケイソウ土、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム等が挙げられる。前記有機微粒子としては、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリシロキサン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの共重合体、などが挙げられる。
前記体質顔料の孔版印刷用エマルションインキにおける添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.1〜50質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記酸化防止剤の添加によって油相中のバインダー樹脂等の酸化を防ぎ、これによってインキ粘度の上昇等が防止される。
前記酸化防止剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、インキ中の油相の総量に対し2質量%以下が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。
<水相>
前記水相は、エマルションの形成を妨害しない範囲で、水、電解質、水溶性高分子化合物、O/W樹脂エマルション、防腐・防かび剤、水の蒸発抑制剤又は凍結防止剤、pH調整剤などを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記水としては、清浄であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水等を使用することができる。
前記電解質は、エマルションの安定性を高めるために添加され、エマルションの安定度向上に有効な離液順列が高いイオンで構成された電解質を添加するのが好ましい。離液順列が高い陰イオンとしては、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等であり、離液順列が高い陽イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンである。ここで添加される電解質としては少なくとも陰イオンか陽イオンの一方が前記イオンよりなる塩が好ましい。従って、前記電解質としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、等が好適である。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記電解質の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水相の0.1〜2質量%が好ましく、0.5〜1.5質量%がより好ましい。
前記水溶性高分子化合物は、補湿や増粘のために添加され、例えば、天然高分子化合物、半合成高分子化合物、合成高分子化合物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記天然高分子化合物としては、例えば、デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、プルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、等が挙げられる。
前記半合成高分子化合物としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン等が挙げられる。
前記合成高分子化合物としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン等のアクリル酸樹脂誘導体;ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル等の合成高分子などが挙げられる。
前記水溶性高分子化合物の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、インキに含まれる水の25質量%以下が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましい。
前記水中油型樹脂エマルションとしては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、合成高分子化合物でも天然高分子化合物でもよい。前記合成高分子化合物としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂等が挙げられる。前記天然高分子化合物としては、孔版印刷用エマルションインキに普通に用いられる油相に添加できる高分子化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記水中油型樹脂エマルションの分散方法についても特に制限はなく、分散剤、保護コロイド、界面活性剤を添加していてもよく、またソープフリー乳化重合によって合成したものでもよい。前記水中油型樹脂エマルションの最低造膜温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、40℃以下が好ましい。
前記防腐・防かび剤は、エマルション内で細菌やかびが繁殖するのを防ぐために添加され、エマルションを長期間保存する場合に有効である。該防腐・防かび剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、例えば、サリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチル等の芳香族ヒドロキシ化合物又はその塩素化合物、ソルビン酸、デヒドロ酢酸等が挙げられ、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記防腐・防かび剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、インキ中に含まれる水の総質量に対し3質量%以下が好ましく、0.1〜1.2質量%がより好ましい。
前記水の蒸発抑制剤又は凍結防止剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、例えば、低級飽和一価アルコール、グリコール、多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記低級飽和一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。前記グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。前記多価アルコールとしては、例えば、ソルビトール等が挙げられる。
前記水の蒸発抑制剤又は凍結防止剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、インキ中の水の総質量に対し15質量%以下が好ましく、4〜12質量%がより好ましい。
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、例えば、トリエタノールアミン、酢酸ナトリウム、トリアミルアミン等が好適に挙げられる。必要に応じてこれらのpH調整剤を添加して水相のpHを6〜8に保つことができる。水相のpHが前記範囲からはずれると、増粘剤用水溶性高分子が添加されている場合にその効果が損なわれてしまうことがある。
なお、本発明の孔版印刷用エマルションインキには、印刷時に印刷用紙と印刷ドラムとの分離をよくするため、或いは印刷用紙の巻き上がり防止等のために油相にワックスを添加することができる。また、水相には、トリエタノールアミンや水酸化ナトリウム等を添加して、水溶性高分子添加による高粘度化を更に増進させることができる。さらに、水相に防錆剤や消泡剤を添加して印刷の際に印刷機がインキによって錆びたり、インキが泡立つことを防止することができる。これらの添加剤は、孔版印刷用インキに添加されている公知品を必要に応じて添加すればよく、その添加量は従来品の場合と同程度でよい。
本発明の孔版印刷用エマルションインキの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、常法により油相及び水相液を予め別々に調製し、前記油相中に水相を添加して、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の公知の乳化機内で乳化させることにより製造することができる。具体的には、着色剤、乳化剤及び必要に応じて添加される樹脂等の添加物を三本ロールミルでよく分散させた油を常法で調製し、これに防腐・防かび剤や水溶性高分子等が必要に応じて添加されている水溶液を徐々に添加して乳化させればよい。
本発明の孔版印刷用エマルジョンインキは、ずり速度20sec−1の時の粘度が3〜40Pa・sが好ましく、10〜30Pa・sがより好ましい。
以上説明したように、本発明の孔版印刷用エマルジョンインキは、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、長期にわたって安定なインキを提供できる。更にインキの臭気を緩和することができる。本発明の孔版印刷用エマルジョンインキは、輪転孔版印刷機による孔版印刷に好適に用いられる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
カーボンブラック(コロンビヤンカーボン社製、RAVEN1080)5.0質量%、顔料分散剤(味の素株式会社製、プレーンアクトAL−M)0.5質量%、乳化剤としてのソルビタンセスキオレート(日光ケミカルズ株式会社製、SO−15)4.5質量%及び植物油としての精製ひまし油(日光ケミカルズ株式会社製)5質量%を3本ロールで練肉することで顔料分散体を調製した。この顔料分散体にd−リモネン(ヤスハラケミカル株式会社製)4.0質量%、及び植物油としての精製ひまし油(日光ケミカルズ株式会社製)11.0質量%を加えて混合し、油相を調製した。
一方、エチレングリコール10.0質量%、硫酸マグネシウム1.0質量%、及び水道水59.0質量%を混合して水相を調製した。
次に、前記油相に前記水相を徐々に添加し、ディスパーミキサーで乳化させて、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
(実施例2)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
実施例1において、油相における精製ひまし油16.0質量%を8.0質量%に変更し、鉱物油としてのガーゴイルアークティックライト(エクソンモービル社製)8.0質量%を添加した以外は、実施例1と同様にして、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
(実施例3)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
実施例1において、油相における精製ひまし油16.0質量%を8.0質量%に変更し、鉱物油としてのAFソルベント5号(日石三菱株式会社製)4.0質量%、重量平均分子量10000以上の樹脂としてロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、T−361、重量平均分子量=約3万)4.0質量%を添加した以外は、実施例1と同様にして、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
(比較例1)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
実施例1において、d−リモネン4.0質量%を添加せず、精製ひまし油16.0質量%を20.0質量%に変えた以外は、実施例1と同様にして、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
(比較例2)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
実施例1において、d−リモネン4.0質量%を添加せず、精製ひまし油16.0質量%を10.0質量%に変え、鉱物油としてのガーゴイルアークティックライト(エクソンモービル社製)10.0質量%を添加した以外は、実施例1と同様にして、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
(比較例3)
−孔版印刷用エマルションインキの調製−
実施例1において、d−リモネン4.0質量%を添加せず、精製ひまし油16.0質量%を10.0質量%に変え、鉱物油としてのAFソルベント5号(日石三菱株式会社製)5.0質量%、重量平均分子量10000以上の樹脂としてロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、T−361、重量平均分子量=約3万)5.0質量%を添加した以外は、実施例1と同様にして、孔版印刷用エマルションインキを調製した。
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3の孔版印刷用エマルションインキについて、以下のようにして、性能評価を行った。結果を表1に示す。
<評価1:インキ安定性>
各孔版印刷用エマルションインキを密閉したパックに充填し、1週間のサイクルで60℃と−10℃を交互に繰り返して保存した。該試験を2ヶ月間継続して実施し、インキの分離状態を目視観察により以下の基準に基づき評価した。
〔評価基準〕
○:2ヶ月間でインキに分離なし。
△:部分的にインキに分離が見られる。
×:全体的にインキが分離した状態である。
<評価2:印刷直後の手こすれ汚れ>
孔版印刷機(東北リコー株式会社製、プリポートN−500)のドラム内に、各孔版印刷用エマルションインキを十分に行き渡らせた後、印刷を行い、印刷直後の画像表面を指で擦り、下記基準に基づき評価した。
〔評価基準〕
◎:汚れがごくわずか生じた。
○:汚れが少し生じた。
△:汚れがやや多く生じた。
×:汚れが多く生じた。
<評価3:1日放置後の手こすれ汚れ>
孔版印刷機(東北リコー株式会社製、プリポートN−500)のドラム内に、各孔版印刷用エマルションインキを十分に行き渡らせた後、印刷を行い、印刷後1日放置後の画像表面を指で擦り、下記基準に基づき評価した。
〔評価基準〕
◎:汚れがごくわずか生じた。
○:汚れが少し生じた。
△:汚れがやや多く生じた。
×:汚れが多く生じた。
<評価4:インキ臭気>
孔版印刷機(東北リコー株式会社製、プリポートN−500)のドラム内に、各孔版印刷用エマルションインキを十分に行き渡らせた後、印刷を行い、印刷物の臭気を官能評価した。
Figure 0004520765
表1の結果から、実施例1〜3の孔版印刷用エマルションインキは、いずれもオイル成分の40%以上が天然植物系材料であり、安全性及び環境性に優れたものであることが認められる。
実施例1〜3と比較例1〜3を対比した結果から、インキの分離に対する安定性に優れ、リモネンの独特の柑橘臭によりインキの臭気を緩和できることが認められる。
実施例1及び2と比較例1及び2を対比した結果から、リモネンと植物油と鉱物油を添加することにより、インキの分離に対する安定性に優れ、印刷直後の手こすれ汚れの防止が図れることが認められる。
実施例1及び3と比較例1及び3を対比した結果から、リモネンと植物油と分子量10000以上の樹脂を添加することにより、インキの分離に対する安定性に優れ、印刷1日後の手こすれ汚れの防止が図れることが認められる。
本発明の孔版印刷用エマルションインキは、環境性に優れ、インキの分離に対する安定性が向上し、長期にわたって安定なインキを提供できる。更にインキの臭気を緩和することができ、輪転孔版印刷機による孔版印刷に好適に用いられる。

Claims (4)

  1. 油相10〜90質量%及び水相90〜10質量%を含み、該油相中に少なくとも植物油及びリモネンを含有することを特徴とする孔版印刷用エマルションインキ。
  2. 植物油及びリモネンの合計含有量が、油相成分の総質量に対し40質量%以上である請求項1に記載の孔版印刷用エマルションインキ。
  3. 油相中に更に鉱物油を含有する請求項1から2のいずれかに記載の孔版印刷用エマルションインキ。
  4. 油相中に更に重量平均分子量が10,000以上の樹脂を含有する請求項1から3のいずれかに記載の孔版印刷用エマルションインキ。
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