JP4505987B2 - 熱接着性複合繊維、その製造方法およびそれを用いた繊維成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、立体捲縮を有し、かつ潜在捲縮性を実質的に持たない、衛生用品用途に好適な嵩高性と柔軟性を保有し、リサイクル性にも優れた熱接着性複合繊維、その製造方法および該熱接着性複合繊維を用いた繊維成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
使い捨て衛生用品において、嵩高性、柔軟性といった基本的な機能は、衛生用品が人肌に触れるものであることから、その重要性は極めて高い。これまでにも嵩高性、柔軟性を改良した不織布等を得る手法は数多く提案されている。
【0003】
例えば、特開昭63−135549号公報には、高アイソタクティシティーのポリプロピレンを芯成分とし、主としてポリエチレンよりなる樹脂を鞘成分とした鞘芯型複合繊維を用いることで嵩高い不織布等を得る方法が開示されている。この方法は複合繊維の芯側に高剛性の樹脂を使用することで、得られる不織布等に嵩高性、抗熱収縮性を保持させるものであるが、鞘側にポリエチレンを使用しているために特有のぬめり感があり、またペーパーライクな感触を持つため衛生材料用途としては満足のできるものではなかった。
【0004】
また、特開昭58−126357号公報には、ポリエチレンと結晶性ポリプロピレンのように、伸張時の弾性回復率(以下、伸張弾性率という)が大きく異なる樹脂同士を組合わせて偏心鞘芯型もしくは並列型の未延伸糸を得た後、延伸することにより、得られる複合繊維にオーム状またはスパイラル状の立体捲縮を付与する方法が開示されている。立体捲縮を有する複合繊維からは、機械捲縮を施した複合繊維に比べて嵩高いウェブを得ることができるため、その不織布等も嵩高くなるという利点を有している。しかし、この方法では、例えばプロピレン共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せのように、伸張弾性率が近い同系統の樹脂同士の組合わせでは立体捲縮を発現させることができないため、伸張弾性率に差のある樹脂同士を組み合わせなければならず、その結果、得られる複合繊維はリサイクル性に欠けるという問題がある。また、該発明ではポリエチレンを使用しているため、不織布等は嵩高いものの触感はぬめり感のあるペーパーライクとなる欠点を有していた。
【0005】
特願平10−526468号公報には、リサイクル性に優れるプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維を用いて嵩高い不織布等を得るための検討もなされている。しかし、ここに開示の複合繊維は機械捲縮のみを有する複合繊維であり、該複合繊維を用いて不織布等にしても、満足できる嵩高性を有する不織布等は得られない。
【0006】
なお、前述した中で、伸張弾性率が近い同系統の樹脂同士、例えばプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組み合わせからなる複合繊維では立体捲縮を発現させることができないと述べたが、プロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維に立体捲縮を発現させる方法が過去に全く存在しなかった訳ではない。例えば特開平11−152669号公報には、加熱すると捲縮が発現する、いわゆる潜在捲縮性を有するプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維を含むウェブを特定条件下で立体捲縮を発現させることにより嵩高い不織布を得ている。しかし、このような潜在捲縮性繊維は極めて高い熱収縮性を有するため、該複合繊維のみを用いて低目付けの不織布等を製造する場合、均一な地合いの不織布等を得ることが難しく、また、充分な嵩高性を有する複合繊維を得ることが難しい、さらに、該複合繊維を含むウェブを不織布等に加工する際に熱風循環型不織布加工機の様な汎用機器が使用できないため、フローティングドライヤ等の特殊な加工機を必要とし、工程が複雑になる、余分な設備投資が必要になる、といった数多くの問題を有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来技術では十分な嵩高性、高い風合い、リサイクル性を備えた不織布等の繊維成形体の原料となる複合繊維を得ることは非常に困難であった。本発明の目的は、これらの課題を同時に解決できる熱接着性複合繊維とその製造方法および該熱接着性複合繊維を用いた不織布等の繊維成形体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、特定樹脂の組合せからなる偏心鞘芯型もしくは並列型の構造を有し、かつ、立体捲縮のみを有する複合繊維であって、加熱された際にも捲縮数が実質的に変化せず、強伸度曲線において求められる弾性領域が42%以上である熱接着性複合繊維が、リサイクル性、形態安定性、嵩高性および柔軟性に優れた不織布等の繊維成形体の原料として好適であり、特に使い捨て衛生用品として好適であることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の構成からなる。
(1).プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維の断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型の構造であり、立体捲縮のみを有するとともに、120℃で5分間加熱した時に捲縮数が実質的に増加しない複合繊維であって、強伸度曲線において求められる弾性領域が42%以上であることを特徴とする熱接着性複合繊維。
【0010】
(2).120℃で5分間加熱した時の捲縮数の増加が4個/2.54cm以下または捲縮数が減少することを特徴とする前記第1項記載の熱接着性複合繊維。
【0011】
(3).熱接着性複合繊維が、該繊維を用いてウェブとしたときに、熱収縮率が145℃で5分間の加熱条件で10%以下のウェブが得られる複合繊維である前記第1項もしくは第2項のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維。
【0012】
(4). プロピレン系共重合体が、融点Tm(℃)が120℃≦Tm≦147℃を有する共重合体である前記第1項記載の熱接着性複合繊維。
【0013】
(5).プロピレン系共重合体が、エチレン4〜10重量%、プロピレン90〜96重量%からなるエチレン−プロピレン二元共重合体である前記第1項もしくは前記第4項のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維。
【0014】
(6).プロピレン系共重合体が、エチレン1〜7重量%、プロピレン90〜98重量%、1−ブテン1〜5重量%からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体である前記第1項もしくは前記第4項のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維。
【0015】
(7).プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維の断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型となるように、偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金を備えた紡糸装置によって両成分を紡糸して得た未延伸糸に熱処理を施した後、少なくとも1つの延伸セクションにおいて1.2倍〜1.7倍の延伸倍率で延伸し、その延伸セクションにおける工程の上流側の延伸ロールの温度を80℃以下、下流側の延伸ロールの温度を30〜110℃とし、なおかつ該延伸装置における最上流の延伸ロールと最下流の延伸ロールの速度比が1.2〜2倍であることを特徴とする熱接着性複合繊維の製造方法。
【0016】
(8).前記第1項〜第6項のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維を用いた繊維成形体。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維であり、その断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型の構造を有し、立体捲縮のみを有するとともに、120℃で5分間加熱した時に捲縮数が実質的に増加しない複合繊維であって、強伸度曲線において求められる弾性領域が42%以上であることを特徴とする熱接着性複合繊維とその製造方法および該熱接着性繊維を用いた不織布等で代表される繊維成形体である。
【0018】
本発明の熱接着性複合繊維において、第1成分として用いるプロピレン系共重合体は、プロピレンを主成分(最も多い成分)とし、該プロピレンとエチレンもしくは該プロピレンとエチレンおよび他のα−オレフィンとを共重合させることにより得ることができる。該α−オレフィンとしては、例えば、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1等を例示でき、またこれらのα−オレフィンのうち2種以上を併用することもできる。
【0019】
プロピレン系共重合体の具体例としてはエチレン−プロピレン二元共重合体、プロピレン−ブテン−1二元共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体、プロピレン−ヘキセン−1二元共重合体、プロピレン−オクテン−1二元共重合体等、およびこれらの混合物等を例示することができる。これらの共重合体は通常ランダム共重合体であるが、ブロック共重合体であってもよい。
【0020】
中でも、不織布等の加工時における低温加工性、カード加工性が良いことから、融点Tm(℃)が120℃≦Tm≦147℃の範囲にあるプロピレン系共重合体が好ましい。融点Tm(℃)が120℃未満であるプロピレン系共重合体はゴム弾性を示し、また高い表面摩擦抵抗を持つため、得られる複合繊維のカード加工性に悪影響を与えることがある。他方、融点Tm(℃)が147℃を超えると、得られた複合繊維を不織布等の繊維成形体に加工する際の低温加工性が悪化する。
【0021】
また、該プロピレン系共重合体は、低温加工性、コスト面から、エチレン4〜10重量%、プロピレン90〜96重量%からなるエチレン−プロピレン二元共重合体か、もしくはエチレン1〜7重量%、プロピレン90〜98重量%および1−ブテン1〜5重量%からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体が特に好ましい。
【0022】
なお、本発明にあっては、必要に応じて2種類以上のプロピレン系共重合体を混合したものを用いてもよい。また、プロピレン系共重合体に対し他の熱可塑性樹脂や、二酸化チタン,炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム等の無機物や、難燃剤、顔料等を添加しても差し支えない。
【0023】
本発明の熱接着性複合繊維において、第2成分として用いる結晶性ポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体もしくはプロピレンと少量の、通常は2重量%以下のエチレンおよび/もしくはα−オレフィンとの共重合体である。かかる結晶性ポリプロピレンとしては、汎用のチーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒から得られる結晶性ポリプロピレンを例示でき、本発明においては、これらの中でも結晶性が比較的高い、例えば、特開昭63−135549号公報や特公平7−35607号公報において開示されているようなポリプロピレンを好適に用いることができる。また、本発明の効果を著しく損なわなければ、前記結晶性ポリプロピレン同士を混合したものや、異なる分子量分布、メルトフローレート等の物性が異なる結晶性ポリプロピレン同士を混合したものを用いてもよい。また必要に応じて他の熱可塑性樹脂や二酸化チタン、炭酸カルシウムおよび水酸化マグネシウム等の無機物や、難燃剤、顔料及びその他のポリマーを添加してもよい。
【0024】
本発明の熱接着性複合繊維は、前述したような、プロピレン系共重合体、結晶性ポリプロピレンをそれぞれ第1成分、第2成分として構成される複合繊維であり、該複合繊維の断面形状は、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型構造であるか、第1成分と第2成分との並列型構造のいずれかである(ここで、偏心鞘芯型とは、該複合繊維の繊維軸方向と直交する方向に切断した断面において、該複合繊維における鞘成分の外周の中心と、芯成分の外周の中心が一致しないものをいう)。これ以外の断面形状であると、得られる熱接着性複合繊維に充分な立体捲縮を付与することができないため、得られた不織布等の繊維成形体は嵩高性の乏しいものになってしまう。
【0025】
また、本発明の熱接着性複合繊維に良好な熱接着性と立体捲縮を付与するためには、該複合繊維の第1成分と第2成分との体積比(該複合繊維を繊維軸方向と直交する方向に切った切断面における両成分の面積比)が、70/30〜30/70の範囲であることが好ましく、本発明にあっては特に、鞘芯の体積比が55/45〜45/55の範囲であることが好ましい。第1成分と第2成分の体積比が50/50から大きく離れていると、生産性の低下を招いたり、得られる複合繊維に十分な立体捲縮や熱接着性を付与できなくなることがある。
【0026】
本発明の熱接着性複合繊維は、立体捲縮のみを有し、実質的に潜在捲縮性を有しないため、120℃で5分間加熱処理しても捲縮数が実質的に増加しないか、減少するという特徴を有している。本発明でいう立体捲縮とは、一般に自然捲縮、螺旋捲縮、3次元捲縮、スパイラル捲縮などとも呼ばれ、クリンパーを用いて付与するジグザグ状の機械捲縮ではなく、複合繊維を構成する第1、第2成分間の伸張弾性率の差を利用して得られるスパイラル状や丸みをおびたオーム状の捲縮をいう。
【0027】
なお、冒頭で、従来技術においても、本発明とほぼ同じ樹脂同士を用い、かつ、その断面形状も類似した複合繊維に立体捲縮を付与する方法が存在する旨記述したが、本発明の熱接着性複合繊維は、プロピレン系共重合体の熱収縮性を利用して立体的な潜在捲縮を発現させた該複合繊維とは根本的に異なるものである。例えば特開平2−191720号公報に開示されている複合繊維は、偏心鞘芯型または並列型の繊維断面を持つプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる潜在捲縮性複合繊維が有する高い潜在捲縮性を利用した複合繊維であり、該複合繊維をパップ材、フローリングワイパーなどに好適な潜在捲縮性繊維として用いている。しかしながら、本発明の熱接着性複合繊維は、上述したように、かかる通常のプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレン熱接着性複合繊維とは全く異なり、潜在捲縮性を実質的に有しない特徴をもつものであるため、加熱処理後も捲縮数は実質的に増加せず、逆に捲縮数が減少することもある。
【0028】
従来技術により得られる偏心鞘芯型または並列型の断面形状を有するプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維では加熱した際、非常に高い潜在捲縮性を示す。このような繊維では通常120℃で1分程度加熱しただけでも30個/2.54cm(1インチ)以上の潜在捲縮が発現するが、本発明の繊維においては潜在捲縮が発現した場合においても捲縮数の増加はせいぜい4個/2.54cm以下、ほとんどの場合2個/2.54cm以下である。捲縮数の増加が4個/2.54cmを大きく超える場合は不織布等の加工時に地合が乱れる原因となる。なお、本発明において捲縮数の増加とは、後述する方法により測定した熱処理前後の捲縮数の差を指す。
【0029】
本発明の熱接着性複合繊維は、上述のごとく、実質的に潜在捲縮性を有していないため、該複合繊維を用いてウェブにすると、得られるウェブの熱収縮率は145℃で5分間の加熱条件で10%以下であり、ほとんどの場合5%以下である。ウェブの状態で測定された熱収縮率は不織布加工時の加工性、形態安定性の目安となり、熱収縮率が10%以下であると、フローティングドライヤ等の特別な装置を使用しなくても良好な地合の不織布等の繊維成形体が得られる。逆に、熱収縮率が10%を大きく超えると不織布等の加工時に不織布等の地合いが乱れたり、また嵩が低下することがあり好ましくない。
【0030】
本発明の熱接着性複合繊維は、プロピレン系共重合体、結晶性ポリプロピレンをそれぞれ第1成分、第2成分とし、第1成分を鞘成分とする偏心鞘芯型または第1成分と第2成分の並列型の繊維断面および立体捲縮のみを有する熱接着性複合繊維であって、強伸度曲線から求められる弾性領域が42%以上であるため、強い立体捲縮が発現しており、また、該複合繊維は従来技術では抑制できなかった潜在捲縮性が実質的に無いため、該複合繊維を用いて得られる不織布等の繊維成形体は柔軟性、風合い、嵩高性に極めて優れたものとなる。なお、ここでいう弾性領域が42%以上であるプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維を得る方法および弾性領域が42%以上でなければならない理由を次に述べる。
【0031】
結晶性ポリプロピレンを特定条件下で紡糸、熱処理すると、長周期の増大、福屈折の増加とともに、結晶構造の変化により、100%伸張時に100%近い伸長弾性率を示すようになることが報告されている。つまり、繊維を2倍に伸ばしても、その張力を解放すると、その繊維は元の状態に戻る程の形態安定性を有することを意味する。このような特性を有する繊維は、一般にハードエラスティック繊維と呼ばれている。
【0032】
本発明者らは、このハードエラスティック繊維について検討を続けた結果、ポリプロピレン系樹脂の中でも結晶性が高いものほど伸長弾性率が向上しやすく、結晶性が低いものほど伸張弾性率が向上しにくいとの知見を得た。この知見をもとに、従来技術においては、伸張弾性率が非常に近いプロピレン共重合体と結晶性ポリプロピレンを複合紡糸しているため立体捲縮を付与できないばかりか、高い潜在捲縮性を抑制することができなかった偏心鞘芯型もしくは並列型の複合形態を有するプロピレン共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維であっても、その特定の製造条件下で、結晶性ポリプロピレンのハードエラスティック結晶化を選択的に促進させ、鞘芯間の伸張弾性率差を大きくすることで、広い温度範囲で立体捲縮を発現させることができることを見出したものである。
【0033】
結晶性ポリプロピレン単独からなるハードエラスティック繊維は、強伸度曲線において、後述する図1に示すような明瞭な一次降伏点と二次降伏点が観察されることが知られており、これはハードエラスティック結晶が生成しているかどうかを示す有効な指標となる。ただし、本発明の熱接着性複合繊維では、ハードエラスティック結晶化しやすい高結晶性のポリプロピレンとハードエラスティック結晶化しにくい比較的結晶性の低いプロピレン系共重合体を複合紡糸しており、強伸度曲線において、ハードエラスティック結晶化した結晶性ポリプロピレンとハードエラスティック結晶化していないプロピレン系共重合体の応力、伸びの挙動が合成されて出現するため、後述する図2のように、ハードエラスティック結晶化した結晶性ポリプロピレン繊維で観察される一次降伏点は観察されず、前記二次降伏点に相当する通常の降伏点のみが観察される。
【0034】
本発明では、清水らによって提案されている方法(繊維学会誌 Vol.36, No.4, T-169, (1980))を用いて、ハードエラスティック結晶が生成しているかどうかを、強伸度曲線から求める弾性領域の大きさにより評価した。弾性領域は紡糸速度に依存して大きく変化することが知られているが、本発明者らの検討では、熱処理工程、延伸工程を調節することにより、最終的に得られる複合繊維の弾性領域を42%以上にすると、鞘芯両成分間に十分な伸張弾性率の差が生じるため、強い立体捲縮を付与することができ、不織布等の加工時に第1成分の融点以上の温度で加熱処理を施しても、ウェブの嵩が低下しにくくなり、不織布等の嵩高性が向上するとともに柔軟性も大きく向上する。この弾性領域が42%を下回ると、不織布等の嵩が低下し、また感触も硬くなってしまう。
【0035】
なお、本発明における弾性領域とは、後述する図2に示した、強伸度曲線上における原点から降伏点に達するまでの伸びから、次式を用いて決定する値である。
弾性領域(%)=降伏点までの伸び(mm)/試料長(mm)×100
なお、本発明でいう降伏点とは、ひずみ=−1に相当する点、すなわち伸度−100%の点から強伸度曲線へ引いた接線が強伸度曲線と接する点と定義する。
【0036】
以上のような特徴を本発明の熱接着性繊維が有していることは、本発明の熱接着性複合繊維が従来技術により製造される複合繊維と比べて、優れた不織布加工性、形態安定性を保有していると同時に、本発明の熱接着性複合繊維からは立体捲縮により得られる嵩高いウェブが持つ特性をそのまま生かした不織布、繊維成形体が得られることを意味している。
【0037】
かかる本発明の熱接着性複合繊維の製造方法および製造条件に限定はないが、公知の方法では得ることはできない。公知の立体捲縮繊維製造方法の一例として、特開昭58−126357号公報で開示されている内容を挙げることができる。該公報には、偏心鞘芯型または並列型の複合形態を有するポリエチレン/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる熱接着性複合繊維の未延伸糸を、2組の延伸ロールからなる延伸装置によって延伸する際、生産ラインの流れにおける最初の延伸ロール(以下、No.1延伸ロールという)を80℃以上、その次の延伸ロール(以下、No.2延伸ロールという)を50℃以下に温度設定した上で、No.1延伸ロールとNo.2延伸ロールの速度比を、該未延伸糸の延伸倍率が3倍以上となるように調節し、該複合繊維に立体捲縮を与える方法が開示されている。しかし、ポリエチレン/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維に立体捲縮を与えるための一般的な条件を、近似した伸張弾性率を有する樹脂を組合わせているプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維に応用しても、全く立体捲縮が発現しないばかりか、120℃程度で1分程度加熱しただけでも30個/2.54cm以上の捲縮が発現するような高潜在捲縮性繊維となってしまう。仮にこの方法で立体捲縮が得られたとしても、高倍率で延伸することによりプロピレン系共重合体の分子配向が進み、融点が上昇してしまうため、熱接着性に劣る複合繊維しか得られない。このため、従来の方法では、プロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維においては低温加工性に優れ、なおかつ熱に対して安定な立体捲縮を得ることは極めて困難であった。
【0038】
しかし、本発明の製造方法によれば、かかる熱接着性複合繊維を実用的に効率よく生産できる。すなわち、プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維であって、その断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型となるように、偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金を備えた紡糸装置によって両成分を紡糸して得た複合未延伸糸に熱処理を施して第2成分のみを選択的にハ−ドエラステイック結晶化したのち、少なくとも1つの延伸セクションにおいて1.2倍〜1.7倍の延伸倍率で延伸し、その延伸セクションにおける工程の上流側の延伸ロールの温度を80℃以下、下流側の延伸ロールの温度を30〜110℃とし、かつ、該延伸装置における最上流の延伸ロールと最下流の延伸ロールの速度比が1.2〜2倍にすることを特徴とする熱接着性複合繊維の製造方法により、製造することができる。
【0039】
本発明では、公知の溶融複合紡糸装置を用いることができるが、本発明の製造方法では、得られた複合繊維の第2成分を選択的にハードエラスティック結晶化させることが重要であり、このためには第2成分として用いる原料樹脂の結晶性に加え、紡糸条件も大きな要因となる。
【0040】
本発明においては、プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として用いるが、第1成分として用いるプロピレン系共重合体のメルトフローレートは特に制限はなく、一般的に溶融紡糸法において使用できる範囲、例えば0.1〜80g/10minのものを用いることができるが、可紡性、工程安定性等の点から3〜40g/10minのものがより好ましい。
【0041】
また、第2成分として用いる結晶性ポリプロピレンはメルトフローレートが0.1〜40g/10minのものを用いることができ、3〜20g/10minのものがより好ましい。該結晶性ポリプロピレンのメルトフローレートが低すぎると可紡性、加工性に影響を及ぼすことがあり、逆にメルトフローレートが高すぎると、該結晶性ポリプロピレンの結晶性が低下するため熱処理によるハードエラスティック結晶化が進みにくくなり、鞘芯両成分間に立体捲縮を発現させるために必要な伸長弾性率差を付与できなくなる。
【0042】
本発明の熱接着性複合繊維製造のためには、まず第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型となるように、偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金を備えた押出機によって両成分を紡糸して複合繊維の未延伸糸を得るが、この際、第2成分がハードエラスティック結晶化しやすくするために第2成分の分子配向を抑制しておく必要があり、このため紡糸速度をできる限り低くすることが好ましい。また、立体捲縮の発現性は繊度の影響を受けるので、細繊化のためには第1成分、第2成分の押出前後のメルトフローレートをそれぞれできるだけ低くし、かつ、第1成分の押出後のメルトフローレートと第2成分の押出後のメルトフローレートの差を小さくすることが好ましい。
【0043】
本発明においては、得られた未延伸糸に用いられている第2成分である結晶性ポリプロピレンをハードエラスティック結晶化させるために、延伸前に熱処理を施す必要がある。熱処理には、トウを乾燥するための汎用型のサクションドライヤなどの公知の熱処理装置、乾燥装置などを用いることができる。熱処理の温度と時間は未延伸糸の繊度に依存し、繊度が大きいほどハードエラスティック結晶化が進みやすい。熱処理時間、熱処理温度の目安として、特公平7−35607号公報に記載されているような熱処理条件(例えば、110℃で熱処理した場合には4分程度、100℃で10分程度)を採用できる。この熱処理により、第1成分と第2成分との間に、立体捲縮を発現させるだけの十分な伸張弾性率差を生じさせることができる。
【0044】
本発明の製造方法では、熱処理された未延伸糸は、公知の延伸装置を用いて延伸することができる。公知の延伸装置とは、複数の加熱ロールを有する通常2〜3組程度の延伸ロールからなる延伸装置を指す。また、延伸装置には延伸ロール間にスチーム、電気などによる予熱装置や、延伸後のトウを引き取るためのロール、圧縮空気による開繊機などが設置されているものもあるが、これらは必要に応じて使用することができる。
【0045】
本発明の熱接着性複合繊維の製造方法では、2組以上の延伸ロールを有する延伸装置を用いて延伸する際に、少なくとも1つの延伸セクションにおいて1.2〜1.7倍の延伸倍率で延伸し、該延伸セクションにおける工程の上流側の延伸ロールの温度を80℃以下、下流側の延伸ロールの温度を30〜110℃とし、なおかつ該延伸装置における最上流の延伸ロールと最下流の延伸ロールの速度比が1.2〜2倍である必要がある。ここでいう延伸セクションとは、例えば3組の延伸ロールを有する延伸装置であれば、No.1延伸ロールとNo.2延伸ロール、No.2延伸ロールとNo.3延伸ロールのように、隣接する延伸ロールの対を指す。
【0046】
なお、No.1延伸ロールの設定温度を80℃を超える温度にまで上げると、弾性領域の減少が認められるとともに、捲縮発現性が低下する。捲縮発現性の低下を延伸倍率を上げることによって補おうとすると、得られる複合繊維の潜在捲縮性が高くなり、不織布加工時における形態安定性が低下してしまう。また、No.2延伸ロールの設定温度は30〜110℃の範囲であれば安定して捲縮を発現させることができるが、65〜95℃の範囲であることが好ましい。なお、該延伸セクションの上流側延伸ロールの設定温度の下限値については特に制限はなく、延伸ロールの温度制御装置を切った状態で本発明の熱接着性複合繊維を製造しても一向に問題がなく、また該延伸ロールを冷却してもよい。しかし、延伸ロールの冷却はコストが嵩むため現実的ではなく、また、延伸ロールの温度制御装置を切った状態では季節間の温度差により、品質に季節間変動が見られることもあるので、品質管理の点から40℃程度を下限とすることが好ましく、より好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃である。
【0047】
また、延伸倍率を低く設定することにより、熱処理によって生成した結晶性ポリプロピレン内部の積層ラメラ構造を、延伸によって破壊せずに済み、芯成分に高い弾性を持たせたまま、強い立体捲縮を得ることができるので、1つの延伸セクションにおける延伸倍率は1.2〜1.7倍とし、延伸工程全体としての延伸倍率は1.2〜2倍の範囲とする必要がある。1.2倍未満の延伸倍率では、該未延伸糸は実質的にほとんど延伸されない状態であるため捲縮が発現し難く、逆に、1つの延伸セクションにおいて1.7倍を大きく上回るような倍率で、または全体として2倍を超える延伸倍率で延伸してしまうと第1成分の分子配向が進むとともに、第1成分の融点が上昇し、両成分間の融点差が小さくなるため、得られる複合繊維の低温加工性が悪化する、不織布加工時に潜在捲縮が発現し形態安定性が悪化する、クリンプが細かくなりすぎてしまいカード性に悪影響を与えるなどの問題が発生する。
【0048】
以上のような製造方法で得られた熱接着性複合繊維は、強伸度曲線から求められる弾性領域が42%以上となり、かかる複合繊維を用いると得られる不織布等は柔軟性、風合い、嵩高性に極めて優れたものとなる。
【0049】
本発明の熱接着性複合繊維は、公知の溶融紡糸法等を用い、マルチフィラメント、モノフィラメント、ステープルファイバー、チョップ、トウとして適宜得ることができる。
本発明の熱接着性複合繊維をカード工程を必要とするステープルファイバーとして使用する場合には、該複合繊維に良好なカード通過性を付与するために、捲縮数を適切な範囲とすることが望ましい。最適捲縮数は該複合繊維の繊度によって変わってくるが、通常は、4〜12山/2.54cmであることが好ましい。捲縮数は延伸倍率を変えることで調整できる。捲縮数が4山/2.54cmを大きく下回る場合には、カード加工時に該複合繊維がシリンダーやドッファに巻き付いたり、ウェブが切れてしまったりといった問題が生じやすくなり、逆に12山/2.54cmを大きく超える場合には、カード加工時にネップが発生したり、均一なウェブを得ることが難しくなるといった問題が生じる。
【0050】
本発明の熱接着性複合繊維の繊度は特に限定されるものではない。第1成分として使用するプロピレン系共重合体の物性や、該複合繊維の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、使い捨てオムツ、生理用ナプキンの表面材等の吸収性物品等に代表される衛生材料に用いる場合には1〜10dtexの範囲、ニードルパンチカーペットやタフテッドカーペット等に用いる場合には、8〜80dtexの範囲、モノフィラメント等の土木材料に用いる場合には、50〜7000dtexの範囲がそれぞれ好ましい。
【0051】
本発明の熱接着性複合繊維の繊度は特に限定されるものではない。該複合繊維の加工法、用途に応じて適宜選択すればよい。ローラーカード機またはランダムウエバー等により、ランダムウェブ、パラレルウェブやクロスラップウェブ等の繊維ウェブを作製する場合にはカット長は20〜125mmとすることが好ましく、またカード通過性、地合いの良い不織布等を得るためには、25〜75mmのカット長がより好ましい。また、エアーレイド法、抄紙法により繊維ウェブを作製する場合には、カット長は20mm未満とすることが好ましい。
【0052】
本発明の熱接着性複合繊維を用いて不織布等に代表される繊維成形体を得るためには、主として該複合繊維からなるウェブに熱処理を施こす必要がある。不織布等の加工には、汎用の熱風循環型不織布加工機が使用できる。
【0053】
また、本発明の熱接着性複合繊維で不織布等の繊維成形体を得る場合には、該不織布等の繊維成形体の目付は、使用目的によって適宜選ぶことができる。例えば、吸収性物品の表面材等に使用する場合には、5〜100g/m2の範囲、ドレーン材等の土木資材に用いる場合には、50〜2000g/m2の範囲がそれぞれ好ましい。
【0054】
また、不織布等の繊維成形体は目的に応じて積層することができ、スパンボンド不織布/ポリプロピレン系熱接着性複合繊維からなる不織布等の組み合わせ、スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/潜在捲縮性複合繊維からなる不織布等の組み合わせ等を例示できる。
【0055】
【実施例】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、明細書、実施例、比較例において用いられている用語の定義及び測定方法は以下の通りである。
【0056】
(1)MFR:(単位 g/10分)
樹脂のメルトフローレートはJIS K 7210 条件14(230℃、21.18N)に準じて測定した。なお、表中に示したメルトフローレートは紡糸前のプロピレン系重合体を試料とし測定した値である。
【0057】
(2)融点:(単位 ℃)
DuPont社製示差走査熱量計DSC−10により、原料樹脂または繊維を10℃/minで昇温した時に得られた融解吸収曲線上のピークに対応する温度をその樹脂または繊維の融点とした。
【0058】
(3)Q値:(重量平均分子量/数平均分子量)
Q値は、ゲルパーミエイションクロマトグラフ法により求めた樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)である。なお、ここでは紡糸前の樹脂の値を示した。
【0059】
(4)強度(単位cN/dtex)および伸度(単位 %)
繊度が880〜1320dtexとなるように繊維束を採取し、これを試料として島津製作所製AG−500Dを用いて、試料長50mm、引っ張り速度50mm/min(100%/min)の条件で試料の強度、伸度を測定した。なお、ここでいう強度とは試料が示した最大の強度を試料の繊度で除したものであり、伸度は試料の破断伸度を指す。
【0060】
(5)繊度:(単位 dtex)
繊維を走査型電子顕微鏡によって観察し、得られた画像から100本の繊維の直径を測定し、その平均値から繊度を算出した。
【0061】
(6)熱処理前後の捲縮数:(単位 山/2.54cm)
まず、試料原綿についてJIS L1015 7.12.1の条件に準じ、20本の繊維についてデニール当たり2mgの荷重をかけたときの2.54cm(1インチ)当たりの捲縮数を数え、平均した値を捲縮数(熱処理前)とした。さらに、この試料原綿をクラフト紙上に拡げ、120℃に維持した熱風循環型乾燥機内で直接熱風が当たらないようにして状態で5分間加熱処理した。この熱処理を施した原綿について、同様にして捲縮数を数え、熱処理後の捲縮数から熱処理前の捲縮数を差し引いたものを捲縮の増加分とした。
【0062】
(7)熱収縮率:(単位 %)
25×25cm、目付約200g/m2のウェブを、クラフト紙にのせて145℃に維持した対流型熱風乾燥機に入れ、5分間加熱処理した。熱処理前後のウェブのMD、CDのそれぞれの長さから、熱収縮率を次式により算出した。
熱収縮率(%)=(1−a/25)×100
なお、式中のaは熱処理後のウェブの機械方向の長さである。
【0063】
(8)弾性領域:(単位 %)
(4)で得られた強伸度曲線から降伏点を求め、原点から降伏点に達するまでの伸びから、次式を用いて算出した。
弾性領域(%)=降伏点までの伸び(mm)/試料長(mm)×100
なお、本発明でいう降伏点とは、ひずみ=−1に相当する点、すなわち伸度−100%の点から強伸度曲線へ引いた接線が強伸度曲線と接する点を指す。
【0064】
(9)比容積:(単位 cm3/g)
それぞれの試料を不織布化し、東洋精機製デジシックネステスタを用い、2g/cm2の荷重が不織布に加えられた時の厚みを測定し、比容積を算出した。
【0065】
(10)ウェブの地合い
試料原綿約50gをミニチュアカード機に投入し、約25g/m2のウェブを得た。このウェブの地合いを以下の基準で目視判定した。
○:均一に開繊され全く乱れがないもの
×:未開繊の繊維が若干混じっているかまたはネップが発生しているもの
【0066】
(11)不織布の風合い
目付25g/m2のスルーエア不織布を作製し、その不織布の触感を10人のパネラーによる官能試験によって、以下の基準で風合いを4段階で採点した。
◎:柔軟な感触を有し、嵩高いもの
○:嵩高性または柔軟性のいずれかが若干欠けるが、実用上全く問題ないもの
△:若干収縮が認められ、嵩が減少しているか、または嵩が低いもの
×:収縮により地合いが乱れ、実用上使用できないと考えられるもの
【0067】
実施例1〜6
後述の表1に示される第1成分(Co.-PPはプロピレン系共重合体を意味する)と第2成分(結晶性ポリプロピレン)とを、押出機、孔径0.8mmの偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金、巻取り装置等を備えた紡糸装置ならびに2組の延伸ロールと引き取りロールを備えた延伸装置から構成される紡糸装置において、表1に示される条件で紡糸し、実施例1〜6の各々の複合繊維を得た。
得られた各複合繊維の繊維物性を(4)〜(7)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表1の糸質の項目に示した。また、各複合繊維のカード性、不織布物性を(8)〜(11)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表1の不織布物性の項目に示した。
これらの結果より、いずれの実施例においても、従来、偏心鞘芯型または並列型のプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維において最大の問題であった熱収縮率は極めて低く抑制されており、またこれらの複合繊維からは嵩高性、風合いに優れた不織布が得られた。
【0068】
実施例7〜12
後述の表2に示される第1成分(Co.-PPはプロピレン系共重合体を意味する)と第2成分(結晶性ポリプロピレン)とを、押出機、孔径0.8mmの偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金、巻取り装置等を備えた紡糸装置ならびに2組の延伸ロールと引き取りロールを備えた延伸装置から構成される紡糸装置において、表2に示される条件で紡糸し、実施例7〜12の各々の複合繊維を得た。
得られた各複合繊維の繊維物性を(4)〜(7)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表1の糸質の項目に示した。また、各複合繊維のカード性、不織布物性を(8)〜(11)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表2の不織布物性の項目に示した。
これらの結果より、いずれの実施例においても、従来、偏心鞘芯型または並列型のプロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維において最大の問題であった熱収縮率は極めて低く抑制されており、またこれらの複合繊維からは嵩高性、風合いに優れた不織布が得られた。
【0069】
比較例1〜6
後述の表3に示される第1成分(Co.-PPはプロピレン系共重合体を意味する)と第2成分(結晶性ポリプロピレン)とを、押出機、孔径0.8mmの偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金、巻取り装置等を備えた紡糸装置ならびに2組の延伸ロールと引き取りロールを備えた延伸装置から構成される紡糸装置において、表3に示される条件で紡糸し、比較例1〜6の各々の複合繊維を得た。
得られた各複合繊維の繊維物性を(4)〜(7)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表3の糸質の項目に示した。また、各複合繊維のカード性、不織布物性を(8)〜(11)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表3の不織布物性の項目に示した。
比較例1〜6は延伸前に熱処理をせずに立体捲縮を発現させた繊維である。これらの繊維はカード性、不織布物性は問題なかったものの、嵩高性が若干不十分であった。
【0070】
比較例7〜10
後述の表4に示される第1成分(Co.-PPはプロピレン系共重合体を意味する)と第2成分(結晶性ポリプロピレン)とを、押出機、孔径0.8mmの偏心鞘芯型紡糸口金または並列型紡糸口金、巻取り装置等を備えた紡糸装置において、2組の延伸ロールとクリンパーを備えた延伸装置を用いて比較例7、8の複合繊維を、2組の延伸ロールと引き取りロールを備えた延伸装置を用いて比較例9、10の複合繊維をそれぞれ製造した。
得られた各複合繊維の繊維物性を(4)〜(7)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表4の糸質の項目に示した。また、各複合繊維のカード性、不織布物性を(8)〜(11)の測定方法に準拠して測定した。得られた結果は表4の不織布物性の項目に示した。
比較例7、8は、実施例1、2、3、4、6等と同じ原料樹脂を用い、常法により製造した複合繊維であるが、表から明らかなように、高潜在捲縮性の繊維となり、得られた不織布は収縮による引きつりが見られ劣悪であった。また比較例9ではNo.1延伸ロールの温度を90℃としたが、立体捲縮を発現させるためには延伸倍率を1.8倍まで上げなければならなかったため、比較例7、8と同様な高潜在捲縮性繊維となり、高い収縮を示した。このため、この繊維から得られた不織布は引きつりがみられ形態安定性、嵩高性にかけるものであった。比較例10は延伸倍率が本発明の製造方法と異なるものであるが、捲縮が細かくなりすぎてしまったため、ウェブの地合いは悪く、また高い潜在捲縮性を示すようになった。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【発明の効果】
プロピレン系共重合体を第1成分とし、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成され、偏心鞘芯型または並列型の繊維断面および42%以上の弾性領域を有する本発明の熱接着性複合繊維は、従来のかかる樹脂の組み合わせからなる複合繊維にはなかった、熱に対して安定な立体捲縮のみを有し、潜在捲縮性を有さず、かつ、高い立体捲縮発現性を有しているために、120℃で5分間加熱処理しても捲縮数が実質的に増加しない。このため、本発明の複合繊維からは、プロピレン系共重合体/結晶性ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維では従来得られなかった嵩高性、柔軟性を有する不織布等の繊維成形体を得ることが可能となった。さらに本発明の繊維は第1成分、第2成分に同種系統の樹脂を使用しているため、リサイクル性にも優れている。さらに、本発明の複合繊維の製造方法によれば、第1成分を鞘成分、第2成分を芯成分とした偏芯鞘芯型または第1成分と第2成分が並列型になるように紡糸された未延伸糸を熱処理し、第2成分のみを選択的にハードエラスティック結晶化させた後、2組以上の延伸ロールを有する延伸装置を用いて延伸する際に、少なくとも一つの延伸セクションにおいて1.2〜1.7倍で延伸し、該延伸セクションにおける上流側延伸ロールを80℃以下、下流側延伸ロールを60〜110℃とし、さらに該延伸装置における最上流延伸ロールと最下流の延伸ロールとの速度比を1.2〜2倍に設定することにより、良好な立体捲縮が発現するとともに、実質的に潜在捲縮性を有しない複合繊維を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハードエラスティック結晶化したポリプロピレン単繊維の強伸度曲線の模式図
【図2】本発明により得られる熱接着性複合繊維の強伸度曲線の模式図
【符号の説明】
A:ハードエラスティック結晶化したポリプロピレン単繊維の強伸度曲線において観察される一次降伏点を示す。
B: ハードエラスティック結晶化したポリプロピレン単繊維の強伸度曲線において観察される二次降伏点を示す。
C:ハードエラスティック結晶化したポリプロピレン単繊維の弾性領域を示す。
D:本発明により得られる熱接着性複合繊維の降伏点(ひずみ=−1に相当する点、すなわち伸度−100%の点から強伸度曲線へ引いた接線が強伸度曲線と接する点)を示す。
E:本発明の熱接着性複合繊維における弾性領域(伸度0%の点から降伏点までの伸度)を示す。
Claims (6)
- プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維の断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型の構造を有し、立体捲縮のみを有するとともに、120℃で5分間加熱した時に捲縮数が実質的に増加しない複合繊維であって、プロピレン系共重合体が、エチレン4〜10重量%、プロピレン90〜96重量%からなるエチレン−プロピレン二元共重合体、または、エチレン1〜7重量%、プロピレン90〜98重量%、1−ブテン1〜5重量%からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体であり、強伸度曲線において求められる弾性領域が42%以上であることを特徴とする熱接着性複合繊維。
- 120℃で5分間加熱した時の捲縮数の増加が4個/2.54cm以下もしくは捲縮数が減少することを特徴とする請求項1記載の熱接着性複合繊維。
- 熱接着性複合繊維が、該繊維を用いてウェブとしたときに、熱収縮率が145℃で5分間の加熱条件で10%以下のウェブが得られる複合繊維である請求項1もしくは請求項2のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維。
- プロピレン系共重合体が融点Tm(℃)が120℃≦Tm≦147℃を有する共重合体である請求項1記載の熱接着性複合繊維。
- 請求項1記載の熱接着性複合繊維の製造方法であって、プロピレン系共重合体を第1成分、結晶性ポリプロピレンを第2成分として構成される複合繊維の断面形状が、第1成分を鞘側、第2成分を芯側とする偏心鞘芯型もしくは第1成分と第2成分との並列型となるように、偏心鞘芯型紡糸口金もしくは並列型紡糸口金を備えた紡糸装置によって両成分を紡糸して得た未延伸糸に熱処理を施した後、少なくとも1つの延伸セクションにおいて1.2倍〜1.7倍で延伸し、その延伸セクションにおける工程の上流側の延伸ロールの温度を80℃以下、下流側の延伸ロールの温度を30〜110℃とし、なおかつ該延伸装置における最上流の延伸ロールと最下流の延伸ロールの速度比が1.2〜2倍であることを特徴とする熱接着性複合繊維の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維を用いた繊維成形体。
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