JP4505923B2 - 被覆プラスチック容器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蒸着炭素膜を備えたプラスチック容器及びその製法に関するもので、より詳細にはガスや芳香成分などに対するバリアー性に優れていると共に柔軟性や耐衝撃性にも優れている蒸着炭素膜を備えたプラスチック容器及びその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
蒸着炭素膜を備えた容器は既に知られている。
例えば、特開平2−70059号公報には、開口部に平行な断面の面積が前記開口部の面積と同等の内部空間および/またはそれ以上の内部空間を有すると共にダイヤモンド状炭素および/またはダイヤモンドの膜をその内表面に形成してなる器具が記載されている。
【0003】
特開平8−53116号公報には、プラスチック材により形成された容器の内壁面に、硬質炭素膜が形成されていることを特徴とする炭素膜コーティングプラスチック容器が記載されている。
【0004】
このような蒸着炭素膜は、前者の公報によると、反応室内に、陽極と、開口部に平行な断面の面積が前記開口部の面積と同等の内部空間および/またはそれ以上の内部空間を有する陰極とを、前記陰極の開口部と陽極とを相対向させて配置し、前記陰極内に陰極の内部空間と同様の形状を有する器具を収容し、この反応室内に導入した炭素源ガスを励起して得られるプラズマを前記器具の内表面に接触させることにより形成される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
蒸着炭素膜とは、一般にDLC(diamond like carbon)膜、iカーボン膜または水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H)と呼ばれるのものであり、SP結合を主体にしたアモルフアスな炭素膜から成っている。
この炭素膜は、非常に薄く、硬質のものであり、プラスチック容器の表面(内面)に形成された蒸着炭素膜は、プラスチック容器の欠点である酸素や炭酸ガスの透過を抑制し且つプラスチック容器に充填される内容物に含まれる芳香成分などのプラスチックへの収着を抑制するという点では優れたものである。
【0006】
この蒸着炭素膜は、容器の内面側に設けられているので、容器同士の擦れ合いにより傷が付くということはないにしても、プラスチック容器はガラス容器等に比して著しく軽量であり、またその器壁は一般に可撓性であり、剛性も低いため、充填ラインでの搬送、或いは充填後の輸送などに際して、容器同士の衝突、容器と他の部材との衝突、或いは落下による衝撃等で変形を受ける可能性を否定できない。
【0007】
従来、このような変形や衝撃に耐え、変形や衝撃を受けた後にもなお優れたガスバリアー性や、芳香成分乃至有臭成分等への耐収着性を示す蒸着炭素膜被覆プラスチック容器は未だ知られていない。
【0008】
従って、本発明の目的は、変形や衝撃に耐え、変形や衝撃を受けた後にもなお優れたガスバリアー性や、芳香成分乃至有臭成分等への耐収着性を示す蒸着炭素膜被覆プラスチック容器を提供するにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、蒸着炭素膜を備えたプラスチック容器において、蒸着炭素膜表面側が水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体へ向けて厚み方向の中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有することを特徴とする被覆プラスチック容器が提供される。
本発明では、前記蒸着炭素膜が厚み方向中心側からプラスチック基体へ向けて水素含有量が高くなる勾配を有することが好ましい。
また、本発明の被覆プラスチック容器においては、蒸着炭素膜が20乃至500nm、特に30乃至200nmの厚みを有することが好ましい。
また、蒸着炭素膜が表面側で0.7(Hカウント/Cカウント)以上、特に0.8乃至1.0(Hカウント/Cカウント)の水素濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.5(Hカウント/Cカウント)以下、特に0.2乃至0.5(Hカウント/Cカウント)の水素濃度を有することが好ましい。
更に、この蒸着炭素膜は表面側で0.25(CHカウント/Cカウント)以上、特に0.3乃至0.5(CHカウント/Cカウント)のCH濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.15(CHカウント/Cカウント)以下、特に0.05乃至0.15(CHカウント/Cカウント)のCH濃度を有することが好ましい。
また、本発明の被覆プラスチック容器においては、蒸着炭素膜の表面側の屈折率が低く、且つプラスチック基体方向へ向けて厚み方向中心側の屈折率が高い屈折率の勾配を有することが好ましい。
また、本発明のこの被覆プラスチック容器においては、蒸着炭素膜の厚み方向中心側からプラスチック基体へ向けて屈折率が低くなる勾配を有していることが好ましい。
また、本発明のこの被覆プラスチック容器においては、蒸着炭素膜が表面側で1.8以下の屈折率を有すると共に厚み方向中心側で2.0以上の屈折率を有することが好ましい。
また、本発明のこの被覆プラスチック容器においては、蒸着炭素膜がプラスチック容器の内面及び/又は外面に形成されていることが好ましい。
【0010】
【発明の実施形態】
[作用]
本発明の被覆プラスチック容器の断面構造の一例を示す図1において、この容器1は、プラスチック容器基体2と、基体2の内面に形成された蒸着炭素膜3とを備えている。この蒸着炭素膜3は表面側の水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体2へ向けて厚み方向中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有することが顕著な特徴である。
【0011】
即ち、上記被覆プラスチック容器の内面における蒸着炭素膜3の化学的組織を模式的に示す図2において、この蒸着炭素膜は、プラスチック基体2側から厚み方向に向けて、プラスチック基体側の高水素含有量4、中間の低水素含有量層5及び表面側の高水素含有層6から成っている。
【0012】
また、本発明の被覆プラスチック容器1は、蒸着炭素膜3をプラスチック容器2の外面に形成しても良く、その断面構造を示す図3において、この容器1は、プラスチック容器基体2と、基体2の外面に形成された蒸着炭素膜3とを備えている。この蒸着炭素膜3は表面側の水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体2へ向けて厚み方向中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有する。
【0013】
即ち、上記被覆プラスチック容器の外面における蒸着炭素膜3の化学的組織を模式的に示す図4において、この蒸着炭素膜3は、プラスチック基体2側から厚み方向に向けて、プラスチック基体側の高水素含有層4、中間の低水素含有量層5及び表面側の高水素含有層6から成っている。
【0014】
更に、本発明の被覆プラスチック容器1は、蒸着炭素膜3をプラスチック容器2の内外面に形成しても良く、その断面構造を示す図5において、この容器1は、プラスチック容器基体2と、基体2の内外面に形成された蒸着炭素膜3、3とを備えている。この蒸着炭素膜3、3はいずれも表面側の水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体2へ向けて厚み方向中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有する。
【0015】
即ち、上記被覆プラスチック容器の蒸着炭素膜3、3の化学的組織を模式的に示す図6において、この蒸着炭素膜3、3はいずれもプラスチック基体2側から厚み方向に向けて、プラスチック基体側の高水素含有層4、4、中間の低水素含有量層5、5及び表面側の高水素含有層6、6から成っている。
【0016】
添付図面の図7は、後述する実施例1のプラスチック容器基体2の内面に蒸着炭素膜3を形成した被覆ポリエステル容器について、蒸着炭素膜の二次イオン質量分析計(SIMS)による膜中の水素(H)量と炭素−炭素(C2)量を質量から測定し、その強度を膜中の水素量を炭素−炭素の量で割って基準化して示したものである。横軸はエッチングのサイクル数であって、表面からの厚みに対応するものである。
なお、各強度は水素の質量が1.011の強度、そしてC2 は質量が23.979の強度を用いた。
また、エッチングの1サイクルはほぼ2nmの厚みに相当するものである。
【0017】
この図7から、本発明の被覆プラスチック容器における蒸着炭素膜は、表面側の水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体へ向けて厚み方向中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有すること、及び更に厚み方向中心側からプラスチック基体へ向けて水素含有量が高くなる勾配を有することが分かる。図7における表面側の勾配部分は、図2における高水素含有層6に相当するものであり、図7のプラスチック基体側の勾配部分は、図2におけるプラスチック基体側の高水素含有層4に相当するものであり、図7における中心側のフラットな部分は、図2における低水素含有層5に相当するものである。
【0018】
蒸着炭素膜の硬さや柔軟性は、水素含有量と密接な関係があり、この水素含有量を膜の厚み方向に制御することにより、これらの特性を調節できることが分かった。
本発明のプラスチック容器における蒸着炭素膜は、厚み方向に水素含有量の異なる分布構造を有することにより、膜の柔軟性、耐衝撃性、耐久性に関して極めて顕著な利点が奏されるものである。
即ち、水素含有量の少ない蒸着炭素の層は、ガスバリヤー性や低分子化合物の収着防止に役立つ反面、脆くて、屈曲や衝撃により、クラック、ピンホール、剥離などの被覆欠陥を発生しやすい。
これに対して、水素含有量の多い蒸着炭素の層は柔軟であり、上記の被覆欠陥の発生を防止するに役立っている。
【0019】
本発明の容器における好適な蒸着炭素膜では、水素含有量の少ない蒸着炭素層が、表面の水素含有量の高い柔軟な蒸着炭素層と、プラスチック基体側の水素含有量の高い柔軟な炭素層とでサンドイッチされた構造となっており、容器外面からの応力や変形に対しても、容器内面側からの応力や変形に対しても強い構造となっており、前述した被覆欠陥の発生が有効に防止される。
尚、容器外面からの応力や変形が発生することは誰しもが了解できることであるが、容器内面側からの応力が発生する例としては、内圧のかかる食品(炭酸飲料)容器や容器落下時のウオーターハンマーの影響などがある。
【0020】
本発明のプラスチック容器においては、蒸着炭素膜が20乃至500nm、特に30乃至200nmの厚みを有することが好ましい。蒸着炭素膜の厚みが上記範囲を下回るとガスバリアー性や収着防止性が上記範囲内にある場合に比して低下するので好ましくなく、一方この厚みが上記範囲を上回っても上記特性の点では格別の利点がなく、生産性や経済性の点ではかえって不利となるので、上記範囲内にあるのが望ましい。
【0021】
また、この容器における蒸着炭素膜は、表面側の水素含有量が高く、中心側の水素含有量が低いという水素含有量の勾配を有するが、本発明の目的、即ちガスバリアー性や収着防止性を十分高いレベルに維持しながらこの膜に柔軟性及び耐衝撃性を付与するという見地からは、表面側で0.7(Hカウント/Cカウント)以上、特に0.8乃至1.0(Hカウント/Cカウント)の水素濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.5(Hカウント/Cカウント)以下、特に0.2乃至0.5(Hカウント/Cカウント)の水素濃度を有することが好ましい。
【0022】
更に、この蒸着炭素膜は、表面側で0.25(CHカウント/Cカウント)以上、特に0.3乃至0.5(CHカウント/Cカウント)のCH濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.15(CHカウント/Cカウント)以下、特に0.05乃至0.15(CHカウント/Cカウント)のCH濃度を有することが好ましい。
添付図面の図8は、後述する実施例1のプラスチック容器基体2の内面に蒸着炭素膜3を形成した被覆ポリエステル容器について、蒸着炭素膜の二次イオン質量分析計(SIMS)により膜中のCHの濃度を膜中の炭素−炭素結合(C)の濃度で割って基準化して示したものであり、図3と同様の傾向が認められる。なお、CHは質量13の強度を用いた。
【0023】
本発明の容器における蒸着炭素膜では、水素濃度が0.7以上の濃度部分が膜表面から1nm以上、特に2乃至4nmの厚みで存在するのが望ましい。
一方、プラスチック基体側の高い水素含有層の層は5nm以上、特に10乃至20nmの厚みで存在するのが望ましい。
【0024】
本発明の被覆プラスチック容器においては、容器表面に形成された蒸着炭素膜が表面側の屈折率が低く、且つプラスチック基体方向へ向けて厚み方向中心側が屈折率が高い屈折率の勾配を有するという特徴をも有している。
【0025】
添付図面の図9は、ポリエステル容器の内面に一定の膜厚(200nm)の蒸着炭素膜を形成させたものについて、ドライアイスブラストを行って、蒸着炭素膜を表面から削り取り、残留膜厚(単位nm)と屈折率との関係をプロットしたものである。
なお、屈折率および膜厚はエリプソメーター(株式会社 溝尻光学工業所製、DVA−36L)を用い、プラスチック容器の測定個所を10×10mmに切断し、エリプソメーターの試料として室温で測定した。
【0026】
この結果によると、次の興味のある事実が明白となる。即ち、残留膜厚が約120nmと薄いものでは、表面が約2.7の高い屈折率を示すのに対して、残留膜厚が約150nm以上と厚くなると、表面が約2.1以下と低い屈折率を示すのである。
即ち、ドライアイスブラストによる蒸着炭素膜の表面からの削り取りの程度が大きいものでは屈折率が高く、蒸着炭素膜の表面からの削り取りの程度が小さいものでは屈折率が低いという事実は、蒸着炭素膜の表面では屈折率が低く、蒸着膜の厚み方向中心側では屈折率が高いという屈折率の勾配が形成されているという事実を示すものである。
【0027】
即ち、本発明の被覆プラスチック容器1における蒸着炭素膜3の光学的組織を模式的に示す図10において、この蒸着炭素膜は、プラスチック基体2側から厚み方向に向けて、中間の高屈折率層7及び表面側の低屈折率層8から成っている。
この図10において、中間の高屈折率層7は、図7における中間の低水素含有量層5に、また表面側の低屈折率層8は、図7における表面側の高水素含有層6にそれぞれ対応するものと認められる。
【0028】
本発明の被覆プラスチック容器における蒸着炭素膜は、厚み方向にこのような屈折率の異なる分布構造を有することにより、膜の柔軟性、耐衝撃性、耐久性に関して極めて顕著な利点が奏されるものである。
即ち、高屈折率の蒸着炭素の層は、緻密であり、ガスバリヤー性や低分子化合物の収着防止に役立つ反面、脆くて、屈曲や衝撃により、クラック、ピンホール、剥離などの被覆欠陥を発生しやすい。
これに対して、低屈折率の蒸着炭素の層は柔軟であり、上記の被覆欠陥の発生を防止するに役立っている。
本発明の被覆プラスチック容器における好適な蒸着炭素膜では、高屈折率の蒸着炭素層が、表面の低屈折率の柔軟な蒸着炭素層と、プラスチック基体側の低屈折率の柔軟な炭素層とでサンドイッチされた構造となっており、容器外面側からの応力や変形に対しても、容器内面側からの応力や変形に対しても強い構造となっており、前述した被覆欠陥の発生が有効に防止される。
【0029】
本発明の被覆プラスチック容器では、蒸着炭素膜が表面側で1.8以下、特に1.7乃至1.78の屈折率を有すると共に、厚み方向中心側で2.0以上、特に2.1乃至2.7の屈折率を有することが、本発明の目的に関して好ましい。
【0030】
本発明の被覆プラスチック容器の製法では、プラスチック容器内部及び/又は外部を炭素源ガスを含有する減圧雰囲気に維持し、容器内部及び/又は外部でマイクロ波放電を生じさせることにより、容器内面及び/又は外面に蒸着炭素膜を形成させることが特徴である。この方法によれば、前述した水素含有量の濃度勾配を有する蒸着炭素膜の形成が容易に行われるのみならず、用いる装置の構成の簡単さ、操作の簡単さ及び生産性の点でも顕著な利点が達成される。
【0031】
前述した従来技術による被覆プラスチック容器の製法では、高周波グロー放電を利用して蒸着炭素膜を形成させるものであり、そのためには、容器の内部に容器の形状に相似した内部電極及び容器の外部近傍に容器の形状に相似した外部電極を配置した、いわゆる容量結合型CVD装置を用いる必要があり、被覆できる容器の寸法、形状に制約があり、容器の構成が複雑となり、操作も複雑となるという問題がある。
【0032】
これに対して、本発明の方法では、プラスチック容器内部及び/又は外部でのマイクロ波放電を利用するため、外部電極や内部電極の配置は不必要であり、装置の構成を極めて簡略化されたものとすることができる。また、本発明の方法では、装置の減圧時も、被覆する側の真空度を3乃至750Paでよく、特に10乃至200Paに維持するのが好ましく、装置内全体を高真空に維持する必要がなく、製膜時間も数秒であることから、操作の簡便さ、及び生産性の点からも優れている。
【0033】
本発明の方法では、プラスチック容器を真空チャンバー内に保持すると共に、プラスチック容器の外部とプラスチック容器の内部とを気密状態に維持し、プラスチック容器の内部及び/又は外部を炭素源ガスが導入された状態においてマイクロ波放電が生じる減圧状態に維持し、真空チャンバーにマイクロ波を導入するのが好ましい。
【0034】
本発明の被覆プラスチック容器の製法においては、プラスチックの内面に炭素蒸着膜を形成する場合は、プラスチック容器の外部をマイクロ波放電が生じない程度の減圧状態に維持する。
また、本発明の被覆プラスチック容器の製法においては、プラスチックの外面に炭素蒸着膜を形成する場合は、プラスチック容器の内部をマイクロ波放電が生じない程度の減圧状態に維持する。
更に、本発明の被覆プラスチック容器の製法においては、プラスチックの内外面に炭素蒸着膜を形成する場合は、プラスチック容器の内外部をマイクロ波放電が生じる減圧状態に維持する。
【0035】
そして、プラスチック容器の内面、或いは外面に蒸着炭素膜を形成する場合、プラスチック容器の内外における減圧の程度を変化させることにより、蒸着炭素膜の形成が必要な容器内部、或いは外部にのみグロー放電を集中させ、これにより蒸着炭素膜の生成効率を高め、更に減圧操作に必要なエネルギーコスト及び運転時間を節減することが可能となる。
更に、容器の外部或いは内部をある程度の減圧雰囲気に保つことにより、容器壁の減圧による変形を小さくすることが可能となり、蒸着炭素膜の被覆を形成させた後、常圧に戻した際に蒸着炭素膜に発生する歪みやそれに伴う残留応力を小さいレベルに抑制することが可能となる。
【0036】
上述した本発明の製法では、真空チャンバー内にマイクロ波の反射板、もしくは蒸着部と真空チャンバーとの距離をマイクロ波の約1/4波長の奇数の整数倍である距離に配置することが特に好ましい。即ち、本発明の製法では、既に指摘したとおり、プラスチック容器内部でのマイクロ波放電を選択的且つ集中的に行うものであるが、前記反射板を配置すると、プラスチック容器内部及び/又は外部でのマイクロ波放電が一層選択的且つ集中的にしかも一層有効に行われるので好ましい。
【0037】
[蒸着炭素膜の形成方法]
本発明における蒸着炭素膜の形成は、マイクロ波放電を利用する化学蒸着法(CVD)により行われる。
プラズマCVDとは、プラズマを利用して薄膜成長を行うものであり、基本的には、減圧下において原料ガスを含むガスを高電界による電気的エネルギーで放電させ、分解させ、生成する物質を気相中或いは基板上での化学反応を経て、基板上に堆積させるプロセスから成る。
プラズマ状態は、グロー放電によって実現されるものであり、このグロー放電の方式によって、直流グロー放電を利用する方法、高周波グロー放電を利用する方法、マイクロ波放電を利用する方法などが知られているが、本発明はプラスチック容器内部及び/又は外部での選択的マイクロ波放電を利用するものである。
【0038】
プラズマCVDは、▲1▼高速電子によるガス分子の直接分解を利用しているため、生成エネルギーの大きな原料ガスを容易に解離できる、▲2▼電子温度とガス分子温度が異なる熱的非平衡状態にあり、低温プロセスが可能となる、▲3▼基板温度が低くても比較的均一なアモルファス膜を形成できる、という利点を有するものであり、プラスチック容器基体にも容易に適用できるものである。
【0039】
本発明では、既に述べたとおり、プラスチック容器内部及び又は外部を炭素源ガスを含有する減圧雰囲気に維持し、容器内部及び/又は外部でマイクロ波放電を生じさせることにより容器内面及び/又は外面に蒸着炭素膜を形成させるものである。
より具体的には、プラスチック容器を真空チャンバー内に保持すると共に、プラスチック容器の外部とプラスチック容器の内部とを気密状態に維持し、プラスチック容器の内部及び/又は外部を炭素源ガスが導入された状態においてマイクロ波放電が生じる減圧状態に維持し、真空チャンバーにマイクロ波を導入する。
また、真空チャンバー内にマイクロ波の反射板を配置するのがよい。
【0040】
[装置]
本発明の被覆プラスチック容器の製造に用いる装置は、大まかにいって、真空反応系(真空チャンバー)、反応系を真空に保つための排気系、原料ガスを反応系に導入するための原料ガス導入系及びプラズマを発生させるためのマイクロ波導入系(導波管)から成る。
【0041】
本発明の炭素膜被覆形成に用いる装置の一例を示す図11において、この装置は、プラスチック容器の内面に炭素蒸着膜を形成する場合に用いられる装置であって、処理すべきプラスチック容器2を収容する真空チャンバー10、真空チャンバー内にプラスチック容器をその口部で保持するための容器ホルダー12、真空チャンバー10内を真空状態に維持するための排気手段13、マイクロ波発振器14に接続され且つ発生するマイクロ波を真空チャンバー10内に導入するための導波管15、容器ホルダーに保持されたプラスチック容器2内部を真空状態に保持するための排気手段16、前記プラスチック容器2内部に原料ガスを供給するための原料ガス供給機構17及び真空チャンバー10内に容器の底部と対向して設けられた反射板18から成っている。
【0042】
蒸着炭素膜の形成処理に際しては、先ず処理すべきプラスチック容器2を容器ホルダー12に取り付け、容器ホルダー12と容器2、容器ホルダー12と真空チャンバー10とを気密状態に維持し、排気手段13及び排気手段16を駆動して真空チャンバー内及び容器内部を真空状態に維持する。
【0043】
排気手段13により達成される真空チャンバー10内の減圧の程度は、マイクロ波が導入されてもグロー放電が発生しないような減圧の程度が低いものであり、一方排気手段16により達成されるプラスチック容器2内部の減圧の程度は、原料ガスが導入され且つマイクロ波が導入されてグロー放電が発生するような減圧の程度が高いものである。
【0044】
この減圧状態に達した後、原料ガス供給機構17によりプラスチック容器2内部に蒸着炭素膜形成用の原料ガスを導入し、導波管14を通して真空チャンバー10内にマイクロ波を導入し、プラズマを発生させる。
このプラズマ中での電子温度は数万Kであるのに比して、ガス粒子の温度は数100Kであり、約2桁ほど低く、熱的に非平衡の状態であり、低温のプラスチック容器基体に対しても有効に蒸着炭素膜の形成が行われる。
【0045】
所定の蒸着炭素膜が形成された後、原料ガスの導入及びマイクロ波の導入を停止すると共に、排気手段13及び16を通して空気を徐々に導入して、容器の内外を常圧に復帰させ、被覆処理されたプラスチック容器を真空チャンバー外に取り出す。
【0046】
図12は、プラスチック容器の外面に炭素蒸着膜を形成する場合に用いられる装置であって、上述した図11の装置と相違する点は、容器ホルダーの保持されたプラスチック容器2の外部を真空状態に保持するための排気手段13、前記プラスチック容器2の外部に原料ガスを供給するための原料ガス供給機構17及び真空チャンバー10内に容器の底部と対向して設けられた反射板18から成っている。
【0047】
蒸着炭素膜の形成処理に際しては、先ず処理すべきプラスチック容器2を容器ホルダー12に取り付け、容器ホルダー12と容器2、容器ホルダー12と真空チャンバー10とを気密状態に維持し、排気手段13及び排気手段16を駆動して容器内部を除く真空チャンバー内、即ち、容器外部を真空状態に維持する。
この時、容器2の内部は、マイクロ波が導入されてもグロー放電が発生しない減圧の程度が低いもの、もしくは常圧に維持され、一方排気手段13により達成されるプラスチック容器2の外部の減圧は、原料ガスが導入され且つマイクロ波が導入されてグロー放電が発生するような減圧の程度が高いものである。
【0048】
そして、真空チャンバー10内の容器外部が減圧状態に達した後、原料ガス供給機構17によりプラスチック容器2の外部に蒸着炭素膜形成用の原料ガスを導入し、導波管14を通して真空チャンバー10内にマイクロ波を導入し、プラズマを発生させる。
【0049】
所定の蒸着炭素膜が形成された後、原料ガスの導入及びマイクロ波の導入を停止すると共に、排気手段16を通して空気を徐々に導入して、容器2の内外を常圧に復帰させ、被覆処理されたプラスチック容器を真空チャンバー外に取り出す。
【0050】
図13は、プラスチック容器の内外面に炭素蒸着膜を形成する場合に用いられる装置であって、容器ホルダー12に保持されたプラスチック容器2の内外部を真空状態に保持するための排気手段13、16,前記プラスチック容器2内外部に原料ガスを供給するための原料ガス供給機構17及び真空チャンバー10内に容器の底部と対向して設けられた反射板18から成っている。
【0051】
蒸着炭素膜の形成処理に際しては、先ず処理すべきプラスチック容器2を容器ホルダー12に取り付け、容器ホルダー12と容器2、容器ホルダー12と真空チャンバー10とを気密状態に維持し、排気手段13及び排気手段16を駆動して真空チャンバー10内の容器内外部を減圧状態に維持する。
【0052】
排気手段13により達成される真空チャンバー10内の減圧の程度は、マイクロ波が導入されてもグロー放電が発生しないような減圧の程度が低いものであり、一方排気手段16により達成されるプラスチック容器2内部の減圧の程度は、原料ガスが導入され且つマイクロ波が導入されてグロー放電が発生するような減圧の程度が高いものである。そして、原料ガス供給機構17によりプラスチック容器2内部に蒸着炭素膜形成用の原料ガスを導入し、導波管14を通して真空チャンバー10内にマイクロ波を導入し、プラズマを発生させる。それから排気手段13及び排気手段16を駆動して容器内部をマイクロ波が導入されてもグロー放電が発生しないような減圧の程度が低いもの、もしくは常圧とし、容器外部を原料ガスが導入され且つマイクロ波が導入されてグロー放電が発生するような減圧の程度に維持する。そして、導波管14を通して真空チャンバー10内にマイクロ波を導入し、プラズマを発生させる。
【0053】
所定の蒸着炭素膜が形成された後、原料ガスの導入及びマイクロ波の導入を停止すると共に、排気手段13、16を通して空気を徐々に導入して、容器の内外を常圧に復帰させ、被覆処理されたプラスチック容器を真空チャンバー外に取り出す。
なお、図11乃至図13に示した装置では、真空チャンバー10内に1個のプラスチック容器が収容されているが、多数個のプラスチック容器を収容させて、多数個のプラスチック容器に同時に蒸着炭素膜の形成を行うことも可能である。
【0054】
[原料]
膜形成用の原料ガスとしては、従来この種の蒸着炭素膜の形成に使用されている炭素含有ガスは全て用いることができ、例えばメタン、エタン、プロパン、ペンタン、ヘキサンなどのアルカン類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ブタジエン等のアルケン類;アセチレンなどのアルキン類;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素類;シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサン等のシクロアルカン類;シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、エチリデンノルボルネンなどのシクロオレフィン類が挙げられる。
また、炭素源としての原料ガスとしては、上記の炭化水素の代わりに、一酸化炭素、二酸化炭素などの無機炭素源や、メチルアルコール、エチルアルコールなどの含酸素炭素化合物、メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどの含窒素炭素化合物も使用できる。
【0055】
好適な原料ガスは、H/Cの原子比が1乃至2の範囲内にある水素含有量の少ない炭化水素であり、アセチレン、ベンゼン、エチレン等が好適なものである。H/Cの原子比が上記範囲を下回るものでは揮発性が低く、一方この原子比が上記範囲を上回るものでは炭素膜の蒸着効率が低下する傾向が認められる。
【0056】
本発明においては、上記原料ガスは単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができ、更に、上記原料をキャリアーガスとの組合せで用いることができる。特に常温で液体の原料ガスに対しては、このようなキャリアーガスの使用が推奨される。
キャリアーガスとしては、常温で気体の炭化水素類や、アルゴン、ネオン、ヘリウム、キセノン、窒素、炭酸ガス、水素などが適している。
【0057】
[処理条件]
本発明の製法において、プラスチック容器の内面、外面或いは内外面に蒸着炭素膜を形成する場合は、マイクロ波放電を行うプラスチック容器内部、外部、或いは内外部の圧力は、一般的にいって3乃至750Paでよく、特に好適には10〜200Paの範囲に維持して、マイクロ波放電を行うのが蒸着炭素膜の形成効率の点でよい。
【0058】
一方、プラスチック容器の内面或いは外面に蒸着炭素膜を形成する場合は、マイクロ波放電を行わないプラスチック容器の外部或いは内部の圧力は、一般的にいって3Pa以下、もしくは750Pa以上に維持して、マイクロ波放電を行うのが容器内部或いは外部でのマイクロ波放電を選択的に行わせる。
プラスチック容器外部或いは内部の圧力が上記範囲以外であると、マイクロ波放電が発生するようになり好ましくない。
【0059】
原料ガスの導入量は、勿論プラスチック容器の容積(内表面積・外表面積・内外表面積)や、原料ガスの種類によっても相違するが、一般的にいって、プラスチック容器1個当たり、0.1〜1000sccm、特に10〜500sccmの流量で供給するのが望ましい。
【0060】
グロー放電を生じさせるマイクロ波としては、一般に周波数が300MHz〜1000GHzのマイクロ波を用いることができるが、工業的に使用が許可されている周波数が2.45GHz、5.8GHz、22.125GHzのものを用いることが好ましい。
マイクロ波の出力は、プラスチック容器の容積(内表面積・外表面積・内外表面積)や、原料ガスの種類によっても相違するが、一般的にいって、プラスチック容器1個当たり、0.01〜15kW、特に0.1〜3kWの電力となるように供給するのが望ましい。
【0061】
炭素膜と成形体との密着性をさらに向上させるために、炭素膜を形成するに先だって、アルゴンや酸素などの無機ガスによってプラズマ処理を行い、成形体表面を活性化させることもできる。
【0062】
[プラスチック容器]
プラスチック容器としては、熱成形可能な熱可塑性樹脂から、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いは絞り成形等の手段で製造された、ボトル状、カップ状、トレイ状、カン形状等の任意の容器が挙げられる。
容器を構成する樹脂の適当な例は、低−、中−或いは高−密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−共重合体、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート等である。
【0063】
これらの熱可塑性樹脂は単独で使用しても或いは2種以上のブレンド物の形で存在していてもよい、またプラスチック容器は単層の構成でも、或いは例えば同時溶融押出しによる2層以上の積層構成であってもよい。
【0064】
勿論、前記の溶融成形可能な熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤などの添加剤の1種或いは2種類以上を樹脂100重量部当りに合計量として0.001 部乃至5.0 部の範囲内で添加することもできる。
また例えば、この容器を補強するために、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、カーボン繊維、パルプ、コットン・リンター等の繊維補強材、或いはカーボンブラック、ホワイトカーボン等の粉末補強材、或いはガラスフレーク、アルミフレーク等のフレーク状補強材の1種類或いは2種類以上を、前記熱可塑性樹脂100重量部当り合計量として2乃至150重量部の量で配合でき、更に増量の目的で、重質乃至軟質の炭酸カルシウム、雲母、滑石、カオリン、石膏、クレイ、硫酸バリウム、アルミナ粉、シリカ粉、炭酸マグネシウム等の1種類或いは2種類以上を前記熱可塑性樹脂100重量部当り合計量として5乃至150重量部の量でそれ自体公知の処方に従って配合しても何ら差支えない。
【0065】
【実施例】
本発明を次の実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らかの制限を受けるものではない。
【0066】
[実施例1]
(プラスチック容器内面に蒸着炭素膜)
図11に示される真空チャンバー内にマイクロ波反射板を設置したマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、被覆プラスチック容器の作製をおこなった。まず、真空チャンバー内の容器のホルダーにプラスチック容器を設置した。プラスチック容器には、容量500mlのポリエチレンテレフタレート樹脂製のボトルを用いた。次に、表1に示した条件で真空チャンバー内の減圧、プラスチック容器内の減圧、ガスの注入をおこない、周波数2.45GHzのマイクロ波を出力し、プラスチック容器の内面側に蒸着炭素膜を得た。
この蒸着炭素膜中の水素濃度、CH濃度を二次イオン質量分析計(SIMS)で測定し、その結果を表2、3に示した。次に、膜の表面側の屈折率としてエリプソメーターにより蒸着炭素膜の全厚みの屈折率を測定し、厚み方向中心部の屈折率としてドライアイスプラストを用い蒸着炭素膜の表面1/4部分を削除し、測定した屈折率を表4に示した。結果、この蒸着炭素膜の水素濃度、CH濃度、屈折率は、膜の表面側でそれぞれ0.7以上、0.25以上、1.8以下であり、厚み方向中心部でそれぞれ0.5以下、0.15以下、2.0以上であった。
この蒸着炭素膜を被覆したプラスチック容器にドライアイスを3.0g入れ、キャップで密封(4ガスVol.)した。このプラスチック容器の重量を測定し、温度22℃、湿度60%RHの環境で12週間保存後、再び重量を測定し、その重量差から炭酸ガス透過量を求め表5に示した。その結果、この被覆プラスチック容器の炭酸ガス透過量は、1.0cc/day/bottle以下であった。
【0067】
[比較例1]
マイクロ波反射板を使用しないこと以外は、実施例1と同じ条件でプラスチック容器の内面側に蒸着炭素膜を被覆した。
この蒸着炭素膜中の水素濃度,CH濃度、屈折率と蒸着炭素膜被覆プラスチック容器の炭酸ガス透過量を実施例1と同様に測定し、それぞれの結果を表6、7、8、9に示した。この蒸着炭素膜の水素濃度、CH濃度、屈折率は、膜の表面側でそれぞれ0.7以下、0.25以下、1.8以上であり、厚み方向中心部でそれぞれ0.5以上、0.15以上、2.0以下であった。この被覆プラスチック容器の炭酸ガス透過量は、2.0cc/day/bottle以上であった。
【0068】
[実施例2](プラスチック容器外面に蒸着炭素膜)
図12に示されるマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、ガスの注入をプラスチック容器の外部へおこなうこと以外は、実施例1と同じ手法で表10に示した条件にて被覆プラスチック容器の作製をおこないプラスチック容器の外面側に蒸着炭素膜を被覆した。
この蒸着炭素膜の膜厚をエリプソメーターで測定したものと、この蒸着炭素膜を被覆したプラスチック容器の炭酸ガス透過量を実施例1と同様に測定し、その結果を表11に示した。膜厚は、20nmと500nmであり、炭酸ガス透過量は、ともに1cc/day/bottle以下だった。
この蒸着炭素膜中の水素濃度、CH濃度、屈折率とこの蒸着炭素膜を被覆したプラスチック容器の炭酸ガス透過量を実施例1と同様に測定し、その結果を表12に示した。蒸着炭素膜の水素濃度、CH濃度、屈折率は、膜の表面側でそれぞれ0.7以上、0.25以上、1.8以下であり、厚み方向中心部でそれぞれ0.5以下、0.15以下、2.0以上であった。この被覆プラスチック容器の炭酸ガス透過量は、0.81cc/day/bottleであった。
【0069】
[比較例2]
マイクロ波反射板を使用しないこと以外は、実施例2と同じ条件で表13に示した条件にて被覆プラスチック容器の作製を行いプラスチック容器の外面側に蒸着炭素膜を被覆した。
この蒸着炭素膜の膜厚とこの蒸着炭素膜を被覆したプラスチック容器の炭酸ガス透過量を実施例2と同様に測定し、それぞれの結果を表14に示した。膜厚は、16nm、514nmであり、炭酸ガス透過量は、ともに、2cc/day/bottle以上だった。
【0070】
[実施例3](プラスチック容器内外面に蒸着炭素膜)
図13に示されているようなマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、実施例1と同じ手法で表12に示した条件にて被覆プラスチック容器の作製をおこないプラスチック容器の内面側に蒸着炭素膜を得た。それから、実施例2と同じ手法で表12に示した条件にてプラスチック容器の外面側にも蒸着炭素膜を得た。
この内外面の蒸着炭素膜中の水素濃度、CH濃度、屈折率とこの蒸着炭素膜を被覆したプラスチック容器の炭酸ガス透過量を実施例1と同様に測定しその結果を表13に示した。この蒸着炭素膜の水素濃度、CH濃度、屈折率は、膜の表面側でそれぞれ0.7以上、0.25以上、1.8以下であり、厚み方向中心部でそれぞれ0.5以下、0.15以下、2.0以上であった。この被覆プラスチック容器の炭酸ガス透過量は、0.39cc/day/bottleであった。
【0071】
【表1】
プラスチック容器内側への蒸着炭素膜の形成条件を示す表である。
Figure 0004505923
【0072】
【表2】
表1の条件により形成された蒸着炭素膜の水素濃度を示す表である。
Figure 0004505923
【0073】
【表3】
表1の条件により形成された蒸着炭素膜のCH濃度を示す表である。
Figure 0004505923
【0074】
【表4】
表1の条件により形成された蒸着炭素膜の屈折率を示す表である。
Figure 0004505923
【0075】
【表5】
表1の条件により形成された蒸着炭素膜の炭酸ガス透過量を示す表である。
Figure 0004505923
【0076】
【表6】
反射板を使用しない事以外は、表1と同じ条件により形成された蒸着炭素膜の水素濃度を示す表である。
Figure 0004505923
【0077】
【表7】
反射板を使用しない事以外は、表1と同じ条件により形成された蒸着炭素膜のCH濃度を示す表である。
Figure 0004505923
【0078】
【表8】
反射板を使用しない事以外は、表1と同じ条件により形成された蒸着炭素膜の屈折率を示す表である。
Figure 0004505923
【0079】
【表9】
反射板を使用しない事以外は、表1と同じ条件により形成された蒸着炭素膜の炭酸ガス透過量を示す表である。
Figure 0004505923
【0080】
【表10】
プラスチック容器の外側への蒸着炭素膜の形成条件を示す表である。
Figure 0004505923
【0081】
【表11】
表10の条件により形成された蒸着炭素膜の評価結果を示す表である。
Figure 0004505923
【0082】
【表12】
表10の条件により形成された蒸着炭素膜の評価結果を示す表である。
Figure 0004505923
【0083】
【表13】
プラスチック容器の外側への蒸着炭素膜の形成条件を示す表である。
Figure 0004505923
【0084】
【表14】
表13の条件により形成された蒸着炭素膜の評価結果を示す表である。
Figure 0004505923
【0085】
【表15】
プラスチック容器の内側、外側両方への蒸着炭素膜の形成条件を示す表である。
Figure 0004505923
【0086】
【表16】
表15の条件により形成された蒸着炭素膜の評価結果を示す表である。
Figure 0004505923
【0087】
【発明の効果】
本発明によれば、蒸着炭素膜を備えたプラスチック容器において、蒸着炭素膜の表面側の水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体へ向けて厚み方向の中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有するという新規な被覆構造を有するプラスチック容器が提供される。
この被覆プラスチック容器は、変形や衝撃に耐え、変形や衝撃を受けた後にもなお優れたガスバリアー性や、芳香成分乃至有臭成分等への耐収着性を示すという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蒸着炭素膜を内面に形成した被覆プラスチック容器の断面構造を示す断面図である。
【図2】 本発明の蒸着炭素膜を内面に形成した被覆プラスチック容器における蒸着炭素膜の化学的組織を模式的に示す拡大断面図である。
【図3】本発明の蒸着炭素膜を外面に形成した被覆プラスチック容器の断面構造を示す断面図である。
【図4】本発明の蒸着炭素膜を外面に形成した被覆プラスチック容器における蒸着炭素膜の化学的組織を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】本発明の蒸着炭素膜を内外面に形成した被覆プラスチック容器の断面構造を示す断面図である。
【図6】本発明の蒸着炭素膜を内外面に形成した被覆プラスチック容器における蒸着炭素膜の化学的組織を模式的に示す拡大断面図である。
【図7】実施例1の蒸着炭素膜被覆ポリエステル容器について、蒸着炭素膜の二次イオン質量分析計(SIMS)による水素量と炭素−炭素量を質量から測定し、その水素量を炭素−炭素の量で割って基準化して示したグラフである。
【図8】実施例1の蒸着炭素膜被覆ポリエステル容器について、蒸着炭素膜の二次イオン質量分析計(SIMS)によるCH量と炭素−炭素量を質量から測定し、そのCH量を炭素−炭素の量で割って基準化して示したグラフである。
【図9】蒸着炭素膜をドライアイスブラストに付したときの残留膜厚と表面の屈折率との関係を示すグラフである。
【図10】本発明のプラスチック容器における蒸着炭素膜の光学的組織を模式的に示す拡大断面図である。
【図11】本発明の内面蒸着炭素膜被覆形成に用いる装置の一例を示す配置図である。
【図12】本発明の外面蒸着炭素膜被覆形成に用いる装置の一例を示す配置図である。
【図13】本発明の内外面蒸着炭素膜被覆形成に用いる装置の一例を示す配置図である。

Claims (9)

  1. 蒸着炭素膜を備えたプラスチック容器において、蒸着炭素膜の表面側が水素含有量が高く、且つ表面側からプラスチック基体へ向けて厚み方向中心側の水素含有量が低い水素含有量の勾配を有することを特徴とする被覆プラスチック容器。
  2. 前記蒸着炭素膜が厚み方向中心側からプラスチック基体へ向けて水素含有量が高くなる勾配を有することを特徴とする請求項1に記載の被覆プラスチック容器。
  3. 蒸着炭素膜が20乃至500nmの厚みを有することを特徴とする請求項1または2に記載の被覆プラスチック容器。
  4. 蒸着炭素膜が表面側で0.7(Hカウント/Cカウント)以上の水素濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.5(Hカウント/Cカウント)以下の水素濃度を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の被覆プラスチック容器。
  5. 蒸着炭素膜が表面側で0.25(CHカウント/Cカウント)以上のCH濃度、及び厚み方向中心部乃至その近傍で0.15(CHカウント/Cカウント)以下のCH濃度を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の被覆プラスチック容器。
  6. 蒸着炭素膜の表面側の屈折率が低く、且つプラスチック基体方向へ向けて厚み方向中心側の屈折率が高い屈折率の勾配を有することを特徴とする被覆プラスチック容器。
  7. 前記蒸着炭素膜が厚み方向中心側からプラスチック基体へ向けて屈折率が低くなる勾配を有する事を特徴とする請求項6記載の被覆プラスチック容器。
  8. 蒸着炭素膜が表面側で1.8以下の屈折率を有すると共に、厚み方向中心側で2.0以上の屈折率を有することを特徴とする請求項6記載の被覆プラスチック容器。
  9. 蒸着炭素膜がプラスチック容器の内面及び/又は外面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の被覆プラスチック容器。
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