JP4502553B2 - 弾性表面波デバイス用基板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、C面サファイア基板本体と、この基板本体の上に、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとを反応させる有機金属化学気相堆積(Metal Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法によって成膜したAlN膜とを具える弾性表面波デバイス用基板およびこのような弾性表面波用基板を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Journal of Crystal Growth 115(1991),643〜647には、C面サファイア基板本体の上に、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとを反応させ、低圧MOCVD法によってAlN膜を成膜した基板が記載されている。このような基板のAlN膜はバッファ層として作用するものであるが、そのバンド巾が6.2 eVと広いこと、弾性表面波の速度が速いこと、熱伝導率が高いこと、熱膨張係数がSiやGaAsに近いことなどの特長を有しており、弾性表面波デバイス用基板として有利に使用できるものである。
【0003】
上述した文献に記載されている製造方法の一例では、C面サファイア基板本体を反応管内においてサセプタ上に載置して1200℃の温度に加熱し、トリメチルアルミニウムガス、アンモニアガスおよび水素を含むキャリアガスを反応管内に導入し、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとの反応によって窒化アルミニウムを生成し、これを基板表面に堆積させてC面AlN膜をエピタキシャル成長させている。ここで、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとのモル比は、2×10としている。
【0004】
【発明が解決すべき課題】
上述した従来のMOCVD法によってC面サファイア基板本体の上にエピタキシャル成長させたAlN膜は、上述したように弾性表面波デバイス用基板としては優れた特性を有しているが、表面平坦性が悪く、そのままでは弾性表面波デバイス用基板として使用することができないことを確かめた。したがって、このような基板を弾性表面波デバイス用基板として利用するためには、表面の研磨処理が必要である。そのため、製造工程が複雑になると共に製造コストも上昇するという問題がある。
【0005】
さらに、上述したようにトリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとのモル比を、2×10としているため、製造条件のコントロールが難しく、良好な膜特性を有するAlN膜を安定して成膜することができないという問題もある。例えば、AlN膜の結晶性の良否を表すX線ロッキングカーブ半値巾が100arcsecを大きく越えてしまい、弾性表面波デバイス用基板として適切なものではない。
【0006】
本発明の目的は、上述した従来の問題点を解決し、表面平坦性に優れていると共に結晶性の良好な弾性表面波デバイス用基板、このような弾性表面波デバイス用基板を表面研磨処理を行うことなく、安定して製造することができる方法を提供しようとするものである。
【0008】
本発明による弾性表面波デバイス用基板の製造方法は、C面サファイア基板本体と、この基板本体の上に、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとを反応させるMOCVD法によって成膜したAlN膜とを具える弾性表面波デバイス用基板を製造するに当たり、前記AlN膜を成膜する際の基板本体の表面温度をほぼ1100℃以上とし、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vをほぼ450〜800とし、成膜圧力をほぼ7〜17Torrとすることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明においては、C面サファイア基板本体の、前記AlN膜を形成すべき主面に対して窒化処理を施し、この主面において表面窒化層を形成し、前記AlN膜を前記表面窒化層上に形成することが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、C面のサファイア基板本体上にAlN膜を成膜して本発明による弾性表面波デバイス用基板を製造する装置の一例の構成を示す線図的な断面図である。本例においては、反応管11の中央下部には、C面のサファイア基板本体12を水平に保持するサセプタ13と、このサセプタを介してサファイア基板を所定の温度に加熱する加熱装置14とを配置する。このようにして、本例では、サファイア基板本体12を水平方向上向きに保持しているが、水平方向下向きに保持しても良い。
【0014】
反応管11の右端には、反応管内に原料ガスおよびキャリアガスを導入するための複数のガス導入管を設ける。すなわち、トリメチルアルミニウムガスを水素ガスと共に導入する第1の導入管15と、アンモニアガスを導入する第2の導入管16と、水素および窒素を含むキャリアガスを導入する第3の導入管17とを設ける。第1および第2の導入管15および16によって導入されたトリメチルアルミニウムガスと、アンモニアガスとはそれぞれ別個のガイド管18および19によって反応管11の中央付近まで案内され、サファイア基板本体12から離れた場所でこれらのガスが反応しないようにしている。反応管11の左端には排気ダクト20が設けられ、これを経て排気系へ連通されている。
【0015】
本発明においては、サファイア基板本体12を加熱装置14によってほぼ1100℃以上の温度に加熱すると共に反応管11の内部の成膜圧力をほぼ7〜17 Torrに維持する。また、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vをほぼ800以下とする。このような条件下でMOCVDを行うことにより、図2に示すように、C面サファイア基板本体12の表面にAlN膜23を0.5μm以上、さらには1μm〜3μmの膜厚に形成した弾性表面波デバイス用基板24が得られる。このようにして得られる本発明による弾性表面波デバイス用基板24において、AlN膜23は圧電体として作用するものである。
【0016】
一般に、膜厚が大きくなるほど結晶性は向上する。但し、膜厚が大きくなり過ぎると、クラックが発生したり剥離が生じたりするため、本発明のAlN膜においては、上記範囲内までその膜厚を増大させることにより、90arcsec以下の結晶性を簡易に得ることができる。
【0017】
なお、AlN膜23は、必要に応じてGe、Si、Mg、Zn、Be、P及びBなどの添加元素を含むことができる。また、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれるO、H、Cなどの不純物や、原料及び反応管材質に含まれる微量不純物を含むことができる。
【0018】
次に本発明による方法によって製造した本発明による弾性表面波デバイス用基板と、従来の方法によって製造した従来の弾性表面波デバイス用基板との特性を対比して説明する。
【0019】
図3は、横軸にトリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vを取り、縦軸にX線ロッキングカーブの半値巾FWHM(arcsec)を取って弾性表面波デバイス用基板の結晶性の良否を示すものである。弾性表面波デバイス用の基板としては、X線ロッキングカーブの半値巾がほぼ90arcsec以下となるような良好な結晶性を有するものであれば、弾性表面波デバイス用の基板として有効に使用できるが、X線ロッキングカーブの半値巾がほぼ90arcsecを越えると、所望の特性を有する弾性表面波デバイスを得ることができなくなる。そこで、本発明においては、X線ロッキングカーブの半値巾がほぼ90arcsec以上であることを規定する。したがって、本発明においては、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vをほぼ800以下とする。
【0020】
図4は、横軸にサファイア基板本体の温度を取り、縦軸にX線ロッキングカーブの半値巾FWHM(arcsec)を取って弾性表面波デバイス用基板の結晶性がMOCVDプロセス中の基板本体の温度とどのような関係にあるのかを示すものである。このグラフからわかるように、基板本体の温度を高くすると、その上に成膜されるAlN膜の結晶性は良好となる。ここで、弾性表面波デバイス用基板としてはX線ロッキングカーブの半値巾FWHMがほぼ90arcsec以下となるような結晶性が必要であるので、基板本体の加熱温度はほぼ1100℃以上とすれば良いことがわかる。
【0021】
また、成膜圧力をほぼ7〜17 Torrとすることが好ましい。この範囲の圧力においては、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vが大きく変動した場合においても、目的とする90arcsec以下の高結晶性AlN膜を簡易に得ることができる。
【0022】
は、横軸にAlN膜の表面平坦性Ra(Å)を取り、縦軸に弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれΔv(m/sec)を取って示すものであるが、AlN膜の表面平坦性Raが20Åを越えると弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれΔvが急激に大きくなることがわかる。したがって、本発明においては、AlN膜の表面平坦性Raをほぼ20Å以下とする。このような範囲に設定すると、弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれΔvをほぼ1.5m/sec以下に抑えることができ、したがって弾性表面波デバイス用の基板として良好に使用することができる。
【0023】
なお、上述したように、本発明においては、C面サファイア基板本体21のAlN膜23を形成すべき主面に対して窒化処理を施して表面窒化層を形成し、この表面窒化層上にAlN膜23を形成することが好ましい。これによって、AlN膜23の結晶性を簡易に向上させることができるとともに、成膜条件などによらず、その厚さを例えば上記範囲内の上限である3μmまで大きくしてもクラックや剥離などが生じにくくなる。したがって、AlN膜23自体の結晶性の向上と、AlN膜23を厚く形成することによる結晶性の向上との相乗効果によって、その結晶性を90arcsec以下、特には60arcsec以下にまで簡易に向上させることができる。
【0024】
前記表面窒化処理は、サファイア基板本体21をアンモニアなどの窒素含有雰囲気中に配置し、所定時間加熱することによって実施する。そして、窒素濃度や窒化温度、窒化時間などを適宜に制御することによって、得られる表面窒化層の厚さを制御する。
【0025】
前記表面窒化層は、比較的薄く、例えば1nm以下に形成する、又は比較的厚く、例えば、サファイア基板本体21の主面から1nmの深さにおける窒素含有量が2原子%以上となるように厚く形成することが好ましい。
【0026】
は、本発明は上述した本発明による基板を用いた弾性表面波デバイスの一実施例の構成を示す平面図である。本発明による弾性表面波デバイス用基板を用いた本発明による弾性表面波デバイスは種々の形態のものとすることができるが、ここでは最も基本的な構成を有する弾性表面波デバイスを例として挙げる。上述したようにして形成した弾性表面波デバイス用基板31のAlN膜32の上に、送信側の電気音響変換器を構成するインターディジタル型電極33を配置すると共に受信側の電気音響変換器を構成するインターディジタル型電極34を所定の間隔をおいて配置する。本例では、これらのインターディジタル型電極33および34の各々は、電極指の巾および電極指間隔が共にλ/4の、いわゆる正規型の構成を有している。本例の弾性表面波デバイスにおいては、弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれはほぼ1.5m/sec以下である。
【0027】
上述したように、本発明による弾性表面波デバイス用基板によれば、AlN膜の結晶性を、X線ロッキングカーブの半値巾がほぼ90arcsec以下で、表面平坦性Raがほぼ20Å以下の優れた基板を提供することができる。また、本発明による弾性表面波デバイス用基板の製造方法によれば、AlN膜を成膜する際の基板本体の表面温度をほぼ1100℃以上とし、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vをほぼ800以下とし、さらに成膜圧力をほぼ7〜17 Torr以下とすることによって結晶性が良好で、表面平坦性が高く、したがって研磨処理を必要とせずに弾性表面波デバイス用基板を提供することができる。さらに、本発明による弾性表面波デバイスにおいては、X線ロッキングカーブの半値巾でほぼ90 arcsec以下の優れた結晶性を有すると共に表面平坦性Raが20Å以下の優れた平坦性を有するものであるので、弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれがほぼ1.5 m/sec以下と小さくすることができ、したがって設計値通りの特性を有する弾性表面波デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による弾性表面波デバイス用基板を製造する装置の一例の構成を示す線図的断面図である。
【図2】本発明による弾性表面波デバイス用基板の構成を示す断面図である。
【図3】V/III比とX線ロッキングカーブの半値巾との関係を示すグラフである。
【図4】基板本体の加熱温度とX線ロッキングカーブの半値巾との関係を示すグラフである。
【図5】表面平坦性と弾性表面波の伝搬速度の理論値からのずれとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明による弾性表面波デバイスの一例の構成を示す線図的な斜視図である。
【符号の説明】
11 反応管、 12 サファイア基板本体、 13 サセプタ、 14 加熱装置、 15、16、17 ガス導入管、 18、19 ガイド管、 20 排気ダクト、 23 AlN膜、 24 弾性表面波デバイス用基板、 31 弾性表面波デバイス用基板、 32 AlN膜、 33 送信側インターディジタル型電極、34 受信側インターディジタル型電極

Claims (2)

  1. C面サファイア基板本体と、この基板本体の上に、トリメチルアルミニウムガスとアンモニアガスとを反応させるMOCVD法によって成膜したAlN膜を具える弾性表面波デバイス用基板を製造するに当たり、前記AlN膜を成膜する際の基板本体の表面温度をほぼ1100℃以上とし、トリメチルアルミニウムとアンモニアとのモル比III/Vを450〜800とし、成膜圧力をほぼ7〜17Torrとすることを特徴とする、弾性表面波デバイス用基板の製造方法。
  2. 前記C面サファイア基板本体の、前記AlN膜を形成すべき主面に対して窒化処理を施し、前記主面において表面窒化層を形成するとともに、前記AlN膜を前記C面サファイア基板本体上に前記表面窒化層を介して形成することを特徴とする、請求項に記載の弾性表面波デバイス用基板の製造方法。
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