JP4502420B2 - 水性消去性マーキングペンインキ組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性消去性マーキングペンインキ組成物に関し、詳しくは、水性であると共に、非吸収性乃至非浸透性の筆記面、代表的には所謂白板と呼ばれる筆記面に筆記した筆跡が消去性であるマーキングペンインキ組成物において、所謂剥離剤としてインキ組成物に含まれる常温で難揮発性の油状物質のエマルジョンを安定化して、消去性が長期間にわたって安定に保持されると共に、ペン先を、例えば、上下のいずれの向きにして長期間にわたって放置しても、筆跡の濃度が安定して変わらないようにしたマーキングペンインキ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、非吸収性乃至非浸透性の筆記面に筆記した筆跡を柔らかい布帛からなるイレーザー(白板拭き)にて軽く擦過することによって、筆記面から拭い去って、筆跡を消去するようにした水性の消去性マーキングペンインキ組成物が種々知られている。このような従来の水性消去性マーキングペンインキ組成物は、一般に、溶剤としての水、着色剤、造膜性樹脂と共に、剥離剤といわれる添加剤を含有しており、例えば、特開平1−252681号公報に記載されているように、脂肪族カルボン酸エステル等のような常温で難揮発性の油状物質がエマルジョンとしてインキ組成物中に配合されて、剥離剤として用いられている。
【0003】
このように、従来の水性消去性マーキングペンインキ組成物においては、剥離剤がインキ組成物においてO/W型のエマルジョン、即ち、微細な粒子として、存在するために、必ずしも安定ではなく、凝集し、分離することがあり、このように、長期間にわたる貯蔵安定性に劣る問題がある。そして、このように、剥離剤がインキ組成物中で凝集し、分離浮上すれば、例えば、ペン先を下向きにして放置した場合には、筆跡が消去され難くなることは勿論、筆記自体、困難となることもある。他方、剥離剤を偏って多く含むこととなったインキ組成物は、筆跡の濃度が薄い等の問題も生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、従来の水性消去性マーキングペンインキ組成物における上述した問題を解決するために鋭意研究した結果、上記剥離剤として、常温で難揮発性であるのみならず、比重が0.9以上であるものを選択して用いることによって、インキ組成物中に上記油状物質のエマルジョンからなる剥離剤を安定に保持することができ、更に、このような油状物質と共に、シクロデキストリン又はその誘導体を配合することによって、上記エマルジョンの安定性を一層高めることができ、かくして、水性消去性マーキングペンインキ組成物の貯蔵安定性を高め、延いては、長期間にわたる放置の後にも、筆跡にすぐれた消去性を有せしめることができ、更に、ペン先の向きにかかわらず、長期間にわたって放置しても、筆跡の濃度が安定していて、変わらないようにすることができることを見出して、本発明に至ったものである。
【0005】
従って、本発明は、剥離剤として、常温で難揮発性の油状物質のエマルジョンを含む水性消去性マーキングペンインキ組成物において、そのエマルジョンの貯蔵安定性を高め、延いては、長期間にわたる放置の後にも、筆跡にすぐれた消去性を有せしめることができ、更に、ペン先をいずれの向きとして長期間にわたって放置しても、筆跡の濃度が安定していて、変わらないようにした水性消去性マーキングペンインキ組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物は、
(a) 溶剤としての水、
(b) 着色剤、
(c) 常温で難揮発性であり、比重が0.9以上である油状物質のエマルジョン、
及び
(d) 樹脂
を含有することを特徴とする。
【0007】
本発明によるより好ましい水性消去性マーキングペンインキ組成物は、
(a) 溶剤としての水、
(b) 着色剤としての顔料、
(c) 常温で難揮発性であり、比重が0.9以上である油状物質のエマルジョン、
及び
(d) シクロデキストリン又はその誘導体、及び
(e) 樹脂
を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明による特に好ましい水性消去性マーキングペンインキ組成物は、上記インキ組成物において、顔料として、着色した樹脂粒子を用いてなるものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において、マーキングペンとは、第1には、フェルトペンともいわれる筆記具であって、フェルト、繊維束、筒状の本体の先端にプラスチツク成形物等からなるペン先を備えると共に、本体内にフェルト、繊維束等にインキを含浸させてなるインキ貯蔵手段を備え、このようなインキ貯蔵手段からペン先に毛細管現象を利用してインキを供給し、筆記を可能とする筆記具、所謂中芯式マーキングペンをいい、第2には、筒状の本体内にインキをそのまま、直接に貯蔵し、このインキをペン先に供給するようにした非中芯式又は所謂フリー・インキ型マーキングペンをいい、本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物は、このような筆記具に好適に用いることができる。
【0010】
本発明によるマーキングペンインキ組成物においては、溶剤として、水が用いられる。インキ組成物における水の量は、通常、50〜90重量%、好ましくは60〜80重量%の範囲である。
【0011】
本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物において、着色剤として、好ましくは、顔料が用いられる。顔料としては、カーボンブラック、銅フタロシアニンブルー等のフタロシアニン系、スレン系、アゾ系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、インドレノン系、アゾ−アゾメチン系等、任意のものが用いられる。また、蛍光顔料も用いられる。既に、種々の顔料を水に分散させてなる分散体が市販されており、本発明においても、かかる市販品を好ましく用いることができる。上記顔料分散体には、顔料の分散剤として、種々の樹脂分散剤や界面活性剤等が配合されていることがあるので、本発明によるインキ組成物においても、かかる樹脂、界面活性剤等が含有されていてもよい。顔料分散剤は、それ自体、公知であって、通常、顔料1重量部に対して、固形分にて0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜5重量部の範囲で用いられる。
【0012】
また、本発明においては、着色剤として、染料も用いられる。染料は、特に限定されるものではないが、例えば、塩基性染料、分散染料、酸性染料、直接染料等が適宜に用いられる。
【0013】
しかしながら、本発明によれば、着色剤として、特に、着色した樹脂粒子が好ましく用いられる。この着色した樹脂粒子は、樹脂粒子中に顔料や染料が包含されているもの、樹脂粒子の表面層に顔料が吸着されているもの、樹脂粒子が染料にて染色されたもの等を含むものとする。樹脂粒子の大きさは、平均粒子径が0.05〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0014】
このような着色した樹脂粒子を構成するポリマーとしては、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ベンゾグアナミン樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、アクリル−ウレタン共重合体、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸−アクリロニトリル共重合体等を挙げることができる。
【0015】
このような樹脂粒子を着色するための顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料、アゾ系、アンスラキノン系、縮合ポリアゾ系、チオインジゴ系、フタロシアニン系、金属錯塩系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、キナクリドン系等の有機顔料等が適宜に用いられる。また、樹脂粒子を着色するための染料としては、例えば、塩基性染料、分散染料、ソルベント染料、酸性染料等が適宜に用いられる。
【0016】
このような着色した樹脂粒子は、市販品を用いることができる。そのような市販品としては、例えば、日本蛍光化学(株)製のNKW−3002、NKW−3003、NKW−3007、NKW−3008、NKW−2102、NKW−2103、NKW−2104、NKW−2107、NKW−2108、NKW−6203、NKW−S−2、NKW−S−3、NKW−S−4、NKW−S−7、シンロイヒ(株)製のSP−13、SP−14、SP−17、SW−18、日本触媒化学(株)製のエポカラーFP−10、FP−20、FP−40、FP−1007、FP−300、FP−112、FP−113、FP−116、FP−117、スターリング(株)製のフレアー210レッド3、フレアー210オレンジ5、フレアー210ピンク1、積水化成品(株)製のテクポリマーMBX−5等を挙げることができる。
【0017】
このような着色剤は、本発明によるインキ組成物において、通常、0.1〜40重量%の範囲で含有され、好ましくは、1〜30重量%の範囲で含有される。着色剤を過多に含有させるときは、インキ組成物の粘度が高すぎるために、筆記性に劣ると共に、消去性も低下する。他方、着色剤の含量が少なすぎるときは、筆跡の濃度が薄く、実用的ではない。
【0018】
本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物において、筆跡の剥離剤として、常温(25℃)で難揮発性であり、比重が0.9以上である油状物質がエマルジョンの形態にてインキ組成物に配合されている。本発明によれば、そのような常温で難揮発性の油状物質としては、単独で常温で比重が0.9以上であるものや、また、混合物として常温で比重が0.9以上であるものが用いられる。
【0019】
即ち、本発明によれば、そのような油状物質は、常温で比重が0.9以上であれば、単一の物質でもよく、また、2種以上の混合物であってもよい。従って、単独では常温で比重が0.9よりも小さい油状物質であっても、常温で比重が0.9よりも大きい油状物質との混合物とした場合に、その混合物の比重が0.9以上であれば、常温で比重が0.9よりも小さい油状物質も、そのような混合物として用いることができる。
【0020】
上記油状物質の常温での比重の上限は、通常、1.1である。特に、本発明においては、油状物質は常温で0.90〜1.05の範囲の比重を有することが好ましい。
【0021】
本発明においては、このように、常温で難揮発性の油状物質としては、脂肪族カルボン酸エステル、高級炭化水素又は高級アルコールが好ましく用いられる。
【0022】
上記脂肪族カルボン酸エステルとしては、エステルが一塩基酸エステル、二塩基酸ジエステル、二価アルコールのモノ若しくはジエステル、三価アルコールのモノ、ジ若しくはトリエステル(特に、天然又は合成の脂肪酸トリグリセリド)、ポリグリセリンエステル等が好ましく用いられる。好ましい具体例としては、例えば、セバシン酸ジエチル(比重0.958〜0.968)、デカオレイン酸デカグリセリル(比重0.948)、トリ(カプリル酸カプリン酸)グリセリル(比重0.95)等を挙げることができる。
【0023】
上述したように、本発明によれば、単独では、常温での比重が0.9より小さい油状物質であっても、常温での比重が0.9以上のものとの混合物が0.9以上の比重を有すれば、そのような混合物として用いることができる。例えば、イソオクタン酸セチルは、常温での比重が0.85であるが、例えば、上記デカオレイン酸デカグリセリルとの混合物とすれば、比重を0.9以上とすることができ、また、流動パラフィンも、常温での比重が0.86であるが、例えば、上記セバシン酸ジエチルとの混合物とすれば、比重を0.9以上とすることができる。
【0024】
限定されるものではないが、本発明において用いることができる油状物質の更なる具体例として、例えば、ホホバ油(0.859〜0.869)、アボカド油(0.905〜0.923)、オリーブ油(0.910〜0.916)、杏仁油(0.910〜0.918)、グレープシード油(0.915〜0.920)、サザンカ油(0.911〜0.919)、サフラワー油(0.922〜0.927)、スイートアーモンド油(0.911〜0.918)、トウモロコシ胚芽油(0.915〜0.921)、ヒマワリ油(0.922〜0.926)、アカデミアンナッツ油(0.914)等の植物油、ラウリン酸ヘキシル(0.850〜0.870)、ミリスチン酸イソプロピル(0.850〜0.860)、パルミチン酸イソプロピル(0.850〜0.869)、イソステアリン酸イソプロピル(0.860〜0.880)、ステアリン酸ブチル(0.851〜0.861)、オリーブオレイン酸エチル(0.866〜0.874)、ミリスチン酸イソセチル(0.853〜0.857)、ミリスチン酸オクチルドデシル(0.850〜0.860)、イソオクタン酸セチル(0.845〜0.865)、パルミチン酸イソステアリル(0.849〜0.859)、ミリスチン酸オクチルドデシル(0.850〜0.860)、イソステアリン酸イソセチル(0.840〜0.880)、イソステアリン酸ヘキシルデシル(0.840〜0.880)、オレイン酸デシル(0.860〜0.870)、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル(0.856〜0.866)、リシノール酸プロピル(0.9079)等の一塩基酸脂肪酸エステル、セバシン酸ジイソプロピル(0.930〜0.945)、アジピン酸ジイソプロピル(0.950〜0.962)、フタル酸ジエチル(1.118〜1.125)等の二塩基酸脂肪酸エステル、ジデカン酸プロピレングリコール(0.910〜0.920)等の二価アルコール脂肪酸ジエステル、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル(0.945〜0.950)、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン(0.940〜0.945)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(0.910〜0.919)等の三価アルコール脂肪酸トリエステル、デカイソステアリン酸デカグリセリル(0.956)等のポリグリセリン脂肪酸エステル、スクアラン(0.807〜0.815)、α−オレフィンオリゴマー(0.810〜0.830)等の高級炭化水素、ヘキサノール(0.819)、オクタノール(0.825)等の高級アルコールを挙げることができる。
【0025】
ここに、比重が0.9よりも小さい油状物質の具体例は、比重が0.9よりも大きい油状物質との混合物として用いることができるものの例であり、括弧内は常温での比重を示す。
【0026】
このような常温で難揮発性の油状物質の水性エマルジョンは、通常の乳化方法によって調製することができる。また、市販品も用いることができる。
【0027】
本発明によるインキ組成物には、剥離剤としての常温で難揮発性の油状物質が、通常、それ自体の重量にて、1〜50重量%の範囲で含有され、好ましくは2〜20重量%の範囲で含有される。インキ組成物において、このような剥離剤が1重量%よりも少ないときは、十分な筆跡の消去性を得ることができず、他方、50重量%を越えて過多に配合しても、筆跡が伸びて、筆記面を汚すほか、却って筆跡の消去性の低下を招く。
【0028】
本発明によれば、このように、剥離剤として、常温で難揮発性で比重が0.9以上の油状物質をエマルジョンとしてインキ組成物に配合することによって、インキ組成物中において剥離剤が凝集したり、分離したりすのを有効に防止することができ、かくして、インキ組成物中に上記油状物質のエマルジョンからなる剥離剤を安定に保持することができ、かくして、水性消去性マーキングペンインキ組成物の貯蔵安定性を高め、延いては、長期間にわたる放置の後にも、すぐれた消去性を保持せしめることができると共に、ペン先の向きにかわらず、長期間にわたる放置の後にも、筆跡の濃度が変わらないようにすることができる。
【0029】
特に、本発明によれば、このように、常温で比重が0.9以上の油状物質のエマルジョンと共に、着色剤として、前記着色した樹脂粒子を用いることによって、水性マーキングペンインキ組成物を長期間にわたって放置した場合にも、その筆跡にすぐれた消去性と安定した濃度を有せしめることができる。即ち、本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物によれば、ペン先を上下のいずれに向けて長期間放置した場合であっても、その筆跡は、すぐれた消去性を有し、容易に消去することができ、また、筆跡の濃度も変わらない。
【0030】
更に、本発明によれば、上記エマルジョンの安定化剤として、シクロデキストリン又はその誘導体(以下、これらを総称して、シクロデキストリン類ということがある。)をインキ組成物に配合することができる。シクロデキストリンは、6乃至10のD−グルコピラノース基がα−(1,4)グルコシド結合によって環状に結合してなる糖オリゴマーであって、重合度がそれぞれ6、7及び8であるα−、β−及びγ−シクロデキストリンがよく知られている。
【0031】
本発明においては、このようなα−、β−又はγ−シクロデキストリンのほか、それらの種々のメチル誘導体、例えば、2,6−ジメチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリメチル−β−シクロデキストリン、部分メチル化β−シクロデキストリンや、マルトシルシクロデキストリン、グリコシルシクロデキストリン等も有効に用いられる。これらシクロデキストリン類は、いずれも、程度の差はあるが、水溶性である。
【0032】
これらシクロデキストリン類は、本発明によるインキ組成物において、0.1〜20重量%の範囲で用いられる。シクロデキストリン類のインキ組成物への配合量が0.1重量%よりも少ないときは、エマルジョンの安定化の効果に乏しく、他方、20重量%を越えて過多に配合するときは、得られるインキ組成物が増粘して、筆記性に劣ることとなるほか、筆跡の筆記面への接着力が過度に強くなって、消去性にも劣ることとなる。本発明によれば、シクロデキストリン類のインキ組成物への配合量は、好ましくは、0.5〜10重量%の範囲であり、最も好ましくは、1〜5重量%の範囲である。
【0033】
更に、本発明によるインキ組成物は、非吸収面上に筆記し、水が揮散した後に、筆跡が前記着色剤を含む樹脂からなる被膜又は層を有し、且つ、この樹脂被膜又は層が前述した剥離剤の層と分離し得るように、常温で造膜性を有する水不溶性樹脂のエマルジョン若しくはヒドロゾル、又は、本来、水不溶性であるが、塩基による造塩によって水可溶化された樹脂か、又は水溶性樹脂(以下、これらの樹脂を常温造膜性樹脂ということがある。)を含有する。
【0034】
本発明において、このような常温造膜性樹脂としては、好ましくは、
(1) ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂若しくはウレタン樹脂のエマルジョン又はヒドロゾル、
(2) 水可溶化された酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂又はウレタン樹脂、又は
(3) 水溶性樹脂、又は
(4) これらの任意の組合わせ
が用いられる。
【0035】
上記エマルジョン若しくはヒドロゾル又は水可溶化された酢酸ビニル共重合体における共単量体としては、酢酸ビニル以外のビニルエステル化合物、例えばプロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等、不飽和カルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸等、或いはビニル炭化水素、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、α−メチルスチレン等を挙げることができる。これらは混合して共単量体として用いられてもよい。更に、上記に加えて、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル等の前記不飽和カルボン酸のエステル類も共単量体として用いることができる。また、酢酸ビニル共重合体は、ポリ酢酸ビニルへのグラフト共重合体であってもよい。
【0036】
特に、好ましい酢酸ビニル共重合体の具体例として、例えば、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−メタクリル酸共重合体、酢酸ビニル−スチレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−スチレン−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸−アクリル酸メチル共重合体、酢酸ビニル−メタクリル酸−アクリル酸メチル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、酢酸ビニル−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。ポリ酢酸ビニルや、上記したような酢酸ビニル共重合体のエマルジョン及びヒドロゾルは、容易に市販品として入手することができる。
【0037】
また、水可溶化された酢酸ビニル共重合体とは、上記したような酢酸ビニル共重合体を無機又は有機塩基によって造塩させて水可溶化したものであって、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属塩、アンモニウム塩や有機アミン塩のような有機塩を挙げることができる。このような水可溶化された酢酸ビニル共重合体も、市販品として入手することができる。
【0038】
同様に、水可溶化されたアルキド樹脂も、過剰量の多塩基酸と多価アルコールとから得られる遊離カルボキシル基を有するアルキド樹脂をアルカリ金属塩基、アンモニウム塩基、有機アミン等にて中和造塩させて、水可溶化してなるもので、これらも市販品として入手することができる。
【0039】
また、水可溶化されたウレタン樹脂も、例えば、重合体主鎖にカルボキシル基を有せしめ、このカルボキシル基をアルカリ金属塩基、アンモニウム塩基、有機アミン等にて中和造塩させて、水可溶化してなるもので、これらも市販品として入手することができる。更に、アルキド樹脂やウレタン樹脂のエマルジョンやヒドロゾルも市販品として入手することができる。
【0040】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等の合成樹脂が好ましく用いられる。また、アラビアゴム、セラック等の天然の水溶性樹脂も用いることができる。これらのなかでは、特に、ポリビニルアルコール樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
このような常温造膜性樹脂は、本発明によるインキ組成物において、固形分として、0.1〜20重量%、好ましくは、0.3〜15重量%の範囲で含有される。樹脂を過多に含有させるときは、インキ組成物の粘度が高すぎるために、筆記性に劣ると共に、消去性も低下する。他方、樹脂の含量が過少にすぎるときは、筆跡が延びて、筆記面を汚すほか、筆跡の消去性が劣る。
【0042】
特に、本発明においては、常温造膜性樹脂として、上述したような水溶性樹脂、なかでも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるとき、その保護コロイド作用によって、前記シクロデキストリン類と共同して、インキ組成物の一層の安定化を図ることができる。
【0043】
即ち、本発明によれば、このような水溶性樹脂をインキ組成物に樹脂成分として配合することによって、インキ組成物中の種々の粒子、即ち、エマルジョン粒子や顔料粒子を前記シクロデキストリン類が安定化し、更に、水溶性樹脂がその保護コロイドによって、上記粒子を安定化するので、インキ組成物を一層安定化することができる。
【0044】
更に、本発明によるインキ組成物においては、前記剥離剤の効果を高めるために、剥離助剤として、水溶性の多価アルコールを配合してもよい。かかる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量約200〜600のポリエチレングリコール、分子量1000〜3000のポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。このような多価アルコールは、インキ組成物において、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で配合される。インキ組成物において20重量%を越えて過度に配合するときは、インキ組成物の粘度を過多に高くし、筆記性を低下させるので好ましくない。
【0045】
本発明によるインキ組成物は、好ましくは、別の剥離助剤又は筆記面への濡れ剤として、種々の界面活性剤を含有してもよい。また、界面活性剤は、前述したシクロデキストリン類との共同作用によって、インキ組成物中の粒子を安定化し、インキ組成物を安定化するのに有用である。このような界面活性剤として、アニオン、カチオン、ノニオン、両性のいずれでも用いることができるが、特に、アニオン、ノニオン又はフッ素系界面活性剤が好ましく用いられる。
【0046】
アニオン界面活性剤としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のようなスルホ脂肪酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等を挙げることができる。また、ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のようなポリオキシエチレンエーテル型ノニオン界面活性剤、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルのポリオキシエチレンエーテル等を挙げることができる。
【0047】
本発明によるインキ組成物は、筆跡の乾燥性を高める乾燥促進剤として、インキ組成物に含まれる前記エマルジョンを破壊しない程度において、通常、インキ組成物に基づいて15重量%以下、好ましくは1〜10重量%の範囲で低級脂肪族アルコールを含有していてもよい。特に、エタノール、プロパノール又はブタノールが好ましく用いられる。
【0048】
また、インキ組成物は、上記以外に、必要に応じて、通常、水性インキ組成物に配合される任意のpH調整剤や防腐剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0049】
非吸収性乃至非浸透性筆記面上の本発明によるインキ組成物による筆跡は、これから水が蒸発したときは、即ち、筆跡が乾燥したときは、前記樹脂が着色剤を含有しつつ、造膜し、他方、前記剥離剤としての常温で難揮発性の油状物質のエマルジョンが破壊されて、前述した油状層が非吸収性筆記面と上記樹脂膜との間に介在して形成されるので、筆跡が消去性を有する。
【0050】
剥離助剤としての界面活性剤は、筆記に際して、筆跡における上記油状層と顔料を含む樹脂膜との分離を助ける効果を有する。しかし、界面活性剤はまた、筆記時のレベリング性を高めると共に、筆記面上での乾燥前の筆跡における剥離剤エマルジョンの偏在をなくして、筆跡の乾燥後に一様な消去性を付与する効果も有する。特に、これらの効果は、フッ素系界面活性剤又はスルホ脂肪酸エステル塩を用いるとき、顕著である。
【0051】
本発明によるインキ組成物は、その製造方法において、特に限定されるものではないが、例えば、溶剤としての水に界面活性剤を加え、これに顔料を加えた後、シクロデキストリン類を加え、次いで、油状物質のエマルジョンを加え、最後に樹脂を加えることによって、安定な組成物としてのインキ組成物を得ることができる。
【0052】
【発明の効果】
本発明による水性消去性マーキングペンインキ組成物は、溶剤を水とし、これに常温で造膜性を有する樹脂と、剥離剤として、常温で難揮発性であり、比重が0.9以上である油状物質を水性エマルジョンとして分散させて配合してなるものであるので、インキ組成物中に上記油状物質のエマルジョンからなる剥離剤を安定に保持することができ、更に、これに着色剤として、着色した樹脂粒子を配合することによって、水性マーキングペンインキ組成物を長期間にわたって放置した場合にも、その筆跡にすぐれた消去性を有せしめることができると共に、ペン先を、例えば、上下のいずれの向きとして長期間放置した後にも、筆跡の濃度を変わらないものとすることができ、また、シクロデキストリン又はその誘導体を配合することによって、上記エマルジョンの安定性を一層高めることができ、かくして、本発明によるマーキングペンインキ組成物によれば、貯蔵安定性が高く、長期間にわたる放置の後にも、筆跡について、すぐれた消去性と変わらぬ安定した濃度を保持している。
【0053】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、成分量は重量%にて示されており、残部は水である。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
以上の実施例1〜4に対応して、剥離剤を変えた以外は、同じ組成を有する比較例1〜4のインキ組成物を調製した。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
以上のインキ組成物をそれぞれ中芯式マーキングペンに充填し、温度40℃において、そのペン先を上又は下に向けた状態で30日間放置した後、温度23℃、相対湿度50%の条件下で琺瑯板又は樹脂塗装板上にマークを描き、1時間後にイレーザー(白板拭き)に荷重を加えながら、上記マークを擦って、インキ組成物(筆跡)の消去性を調べた。荷重200gを加えたイレーザーでマークを5往復擦って完全に消去できたときを◎、荷重400gで5往復で完全に消去できたときを○、荷重1kgで5往復で完全に消去できたときを△、荷重1kgで5往復で消去できないときを×で示す。
【0065】
また、筆跡の濃淡差は、ペン先を上に向けて、マーキングペンを上記のように放置した後に描いたマークとペン先を下に向けて放置した後に描いたマークの濃度を目視にて観察し、2つの筆跡の濃度が殆ど同じときを◎、2つの筆跡の間に濃度差が僅かに認められるときを○とし、著しいときを×とし、これらの中間であって、濃度差が明らかであるときを△とした。
【0066】
【表1】
Claims (5)
- (a) 溶剤としての水、
(b) 着色剤、
(c) 常温で難揮発性であり、比重が0.9以上である油状物質のエマルジョン、及び
(d) 樹脂
を含有する水性消去性マーキングペンインキ組成物において、上記エマルジョンが
(1)デカイソステアリン酸デカグリセリル、
(2)デカオレイン酸デカグリセリルとイソオクタン酸セチルの混合物、又は
(3)トリ(カプリル酸カプリン酸)グリセリル
のエマルジョンであるインキ組成物。 - 着色剤が顔料である請求項1に記載の水性消去性マーキングペンインキ組成物。
- 着色剤が着色した樹脂粒子からなる請求項1に記載の水性消去性マーキングペンインキ組成物。
- 着色した樹脂粒子が0.05〜10μmの範囲の平均粒子径を有する請求項3に記載の水性消去性マーキングペンインキ組成物。
- 更に、シクロデキストリン又はその誘導体を含有する請求項1に記載の水性消去性マーキングペンインキ組成物。
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