JP4500596B2 - ステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物及びステンレス鋼表面の処理方法 - Google Patents

ステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物及びステンレス鋼表面の処理方法 Download PDF

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本発明は、電気分解を利用したステンレス鋼表面の溶接焼けやさび等の汚れを除去する電解研磨において、従来問題とされた交流電解時の不動態被膜の破壊、並びに直流電解時の有害な6価クロムの生成を抑えることを可能にした交流直流兼用のステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物及びステンレス鋼表面の処理方法に関する。
従来より、電気分解を利用したステンレス鋼表面の溶接焼けやさび等の汚れを除去する電解研磨において、硫酸のナトリウム塩を使用した中性電解液が知られているが、直流電解時には6価クロムを生成するという欠点を有していた。この6価クロムは、皮膚に長時間接触すると、クロムアレルギーや潰瘍の原因となるだけでなく、発ガン性の疑いがあることが報告されており、近年規制の対象となっている。
また、交流電解においては仕上りが悪いため、さらには不動態被膜を破壊し、修復作用がないため、使用できないという欠点を有していた。
交流電解でのこれら問題点を解決するため、硫酸のナトリウム塩又は有機酸塩とフッ素化合物(フッ化ナトリウム)を組合わせて解決しようとする方法が提案されている(例えば特許文献1など)。
しかし、フッ素化合物はその高い毒性のため、排水としての規制も従来の15mg/Lから8mg/Lへと強化され、廃液処理の問題や使用時に発生するガス中に含まれるフッ素化合物の吸引による健康阻害の問題を抱えている。
また、6価クロムの生成を抑えるためにアスコルビン酸などの還元剤を添加する方法も提案されている(例えば特許文献2など)。
しかし、これら還元剤は経時的に分解し、電解液の着色を生じ、この着色が処理対象面の着色の原因になっている。また自己分解するため、経時的に還元力が弱くなり、6価クロムが生成している恐れもある。
さらに、電解液にクエン酸やグルコン酸等のキレート剤を添加して鉄イオンとキレートを形成させる方法が提案されている(例えば特許文献3など)が、この方法はそもそもFe−Oメッキ層を選択溶解することを目的とするものであって、不動態被膜の破壊抑制と6価クロムの生成抑制の効果はない。
特許第3484525号公報 特許第2649625号公報 特開平6−2200号公報
そこで、本発明は、上記従来技術の欠点である有害なフッ素化合物を使用せず、また経時的に変色、効果減少を来たす還元剤を使用せずに、6価クロム生成の抑制、不動態被膜の破壊の抑制並びに不動態被膜の修復を行うことができる交流直流兼用のステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物を提供することを目的とする。
本発明は、上記に鑑み鋭意研究の末得られたものであり、硫酸又はピロ硫酸、亜硫酸、チオ硫酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩或いはアンモニウム塩の1種又は2種以上と、アミノポリカルボン酸系キレート剤の1種又は2種以上とを必須成分とすることを特徴とするステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物に関するものである。
前記組成物において、アミノポリカルボン酸系キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジエチレントリアミンの群から選ばれる1種又は2種以上であることが望ましい。
また、前記組成物においてpHが6〜8であることが望ましい。
さらに、本発明は、前記組成物を使用してステンレス鋼表面の脱スケール、不動態皮膜形成を行うことを特徴とするステンレス鋼表面の処理方法(電解研磨方法)をも提案するものである。
本発明のステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物及びステンレス鋼表面の処理方法は、交流電源、直流電源の電源設備の制限が無く、後処理としての不動態化処理も不要になり、6価クロムの生成もなく、6価クロム生成の抑制、不動態被膜の破壊の抑制並びに不動態被膜の修復を行うことができる。
また、本発明では、従来の方法などのように、危険且つ有害なフッ素化合物を使用していないので、廃液処理の問題も発生せず、吸引による健康障害の問題も発生しないため、利用が簡便となり、作業効率のアップにもなる。
本発明のステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物は、前述のように硫酸又はピロ硫酸、亜硫酸、チオ硫酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩或いはアンモニウム塩の1種又は2種以上(以下、第1の必須成分という)と、アミノポリカルボン酸系キレート剤の1種又は2種以上(以下、第2の必須成分という)とを必須成分として含有する。
本発明における第1の必須成分である硫酸又はピロ硫酸、亜硫酸、チオ硫酸のアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩或いはアンモニウム塩の1種又は2種以上は、水溶性の電解質である。
本発明における第2の必須成分であるアミノポリカルボン酸系キレート剤は、具体的にはエチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン、もしくはこれらの水溶性塩であって、これらの1種又は2種以上を適宜に使用することができる。
前記第1の必須成分に代えて、その他の電解質、例えばリン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩或いはアンモニウム塩などを用いた場合には不動態化されなかった。
また、前記第2の必須成分に代えて、その他のキレート剤、例えばクエン酸、酒石酸、サリチル酸、グルコン酸などを用いた場合には6価クロムの生成を完全に抑える能力はなかった。不動態被膜の破壊も観察された。
このように本発明における第1の必須成分も第2の必須成分も、単なる電解質やキレート剤と代用できるものではない。
本発明における第1の必須成分と第2の必須成分との作用機構は、明確にはされていないが、アミノポリカルボン酸系キレート剤の添加によりクロムが3価のまま配位した状態で固定化され、6価への酸化が防がれるためと考えられる。
また、不動態被膜の破壊に関しても同様に不動態被膜(おそらく酸化クロムと言われている)にアミノポリカルボン酸系キレート剤が作用して破壊を守る働きをするものと推察される。
但し、アミノポリカルボン酸系キレート剤以外のキレート剤では、上述のような作用が果たされない理由は不明である。
また、本発明の電解研磨用組成物をpHを概ね7に調整して使用することにより、直流電解時においても6価クロムの生成を完全に抑えることが見出された。
さらに、本発明の電解研磨用組成物は、前記従来の特許文献2に記載の還元剤(アスコルビン酸)のように経時的に分解して変色したり、効果が弱くなったりすることもなかった。
同時に、本発明の電解研磨用組成物は、交流電解時においても、その仕上り状態を損なうことなく、しかも不動態被膜を破壊することなく、不動態被膜を修復する能力のあることも見出された。
電解液として硫酸ナトリウム10%に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを1%加え、水酸化ナトリウムでpHを7にした水溶液をステンレス容器に入れ、錆びたSUS304ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼を直流電源のプラス極に接続し、容器をマイナス極に接続した。
10Vの電圧を30秒間掛けた結果、錆は完全に除去された。
このSUS304鋼の表面のフラーデ電位を測定したところ550mVであった。
一般的なステンレス鋼のフラーデ電位は400〜500mVであることから充分な不動態被膜が形成されていることが判る。
また、電解後の電解液について全クロム量を測定したところ、820mg/Lあったが、6価クロムは全く検出されなかった。
電解液としてチオ硫酸アンモニウム10%に、ニトリロ三酢酸二ナトリウムを0.1%を加え、硫酸にてpHを7にした水溶液をステンレス容器に入れ、溶接焼けの有るSUS304ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼を直流電源のプラス側に接続し、ステンレス容器をマイナス側に接続し、15Vの電圧を60秒間掛けた。
取出した後、水洗した結果、溶接焼けは完全に除去されていた。
このステンレス鋼の表面のフラーデ電位は600mVあり、充分な不動態被膜の存在が確認された。
全クロムは1100mg/Lあったが、6価クロムは検出されなかった。
電解液として硫酸マグネシウム10%に、グリコールエーテルジアミン四酢酸を1%加え、水酸化ナトリウムでpHを7にした水溶液をステンレス容器に入れ、溶接焼けのあるSUS316ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼を直流電源のプラス極に接続し、容器をマイナス極に接続した。
15Vの電圧を60秒間掛けた結果、溶接焼けは完全に除去された。
このSUS316鋼の表面のフラーデ電位を測定した結果、650mVあった。
また、電解後の電解液について全クロム量を測定したところ、730mg/Lあったが、6価クロムは全く検出されなかった。
電解液としてピロ硫酸カリウム8%に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを1%加え、水酸化ナトリウムでpHを7にした水溶液をステンレス容器に入れ、錆びたSUS304ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼と容器をそれぞれ交流電源に接続した。
10Vの電圧を30秒間掛けた結果、錆は完全に除去された。
このSUS304鋼の表面のフラーデ電位を測定したところ、500mVであった。
また、電解後の電解液について全クロム量を測定したところ、950mg/Lあったが、6価クロムは全く検出されなかった。
電解液として亜硫酸アンモニウム10%に、エチルエーテルジアミン四酢酸を0.1%加え、水酸化ナトリウムでpHを7にした水溶液をステンレス容器に入れ、溶接焼けのあるSUS316ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼と容器をそれぞれ交流電源に接続した。
10Vの電圧を40秒間掛けた結果、錆は完全に除去された。
このSUS316鋼の表面のフラーデ電位を測定した結果、580mVあった。
また、電解後の電解液について全クロム量を測定したところ、910mg/Lあったが、6価クロムは全く検出されなかった。
[比較例1]
電解液として硫酸ナトリウム10%に、クエン酸を0.5%添加した後、水酸化カリウムでpHを7に調整し、ステンレス容器に入れる。
この溶液に溶接焼けのあるSUS304ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼を直流電源のプラス極に接続した。
ステンレス容器をマイナス極に接続し、15Vの電圧を60秒間掛けた。
その結果、溶接焼けは完全に除去された。
このSUS304鋼のフラーデ電位を測定したところ、500mVであった。
この電解終了後に電解液について全クロムを測定した結果、880mg/Lあった。
また6価クロムも190mg/L検出された。
[比較例2]
電解液として硫酸カリウム8%に、グルコン酸ナトリウム1%を加えた水溶液をステンレス容器に入れ、溶接焼けのあるSUS316ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
このステンレス鋼とステンレス容器をそれぞれ交流電源に接続し、15Vの電圧を30秒間掛けた。
その結果、ステンレス鋼の溶接焼けは完全に除去された。
このステンレス鋼表面のフラーデ電位を測定したところ、電位差はなく不動態被膜は破壊されていた。
一方、電解液について全クロムを測定したところ640mg/Lあり、6価クロムも0.5mg/L検出された。
[比較例3]
電解液としてリン酸ナトリウム15%にグリコールエーテルジアミン四酢酸を加えた後、硫酸にてpHを7に調整した水溶液をステンレス容器に入れる。
この容器に溶接焼けしたSUS304ステンレス鋼を容器に触れないように懸垂浸漬した。
ステンレス容器とステンレス鋼を交流電源に接続し、15Vの電圧を60秒間掛ける。その結果、溶接焼けは完全に除去された。
このステンレス鋼表面のフラーデ電位を調べたところ、30mVで不動態被膜は殆どないことが判った。
また電解液について全クロムを測定したところ、740mg/Lで6価クロムは検出されなかった。
以上本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した構成を変更しない限りどのようにでも実施することができる。
電気分解を利用したステンレス鋼表面の溶接焼けやさび等の汚れを除去する電解研磨に利用できる。

Claims (4)

  1. 硫酸又はピロ硫酸、亜硫酸、チオ硫酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩或いはアンモニウム塩の1種又は2種以上とアミノポリカルボン酸系キレート剤の1種又は2種以上とを必須成分とすることを特徴とするステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物。
  2. アミノポリカルボン酸系キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジエチレントリアミンの群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物。
  3. 請求項1又は2記載の組成物がpHが6〜8であることを特徴とするステンレス鋼表面の脱スケール用中性電解研磨液組成物。
  4. 請求項1〜3の何れか一項に記載の組成物を使用してステンレス鋼表面の脱スケール、不動態皮膜形成を行うことを特徴とするステンレス鋼表面の処理方法。
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