JP4498824B2 - 皮革様シートおよびその製造方法 - Google Patents
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例えば、伸縮性があり且つ風合いの優れた立毛調人工皮革を得るために、弾性ポリマーからなる繊維(弾性繊維)と非弾性ポリマーからなる繊維(非弾性繊維)を絡合して得られる不織布を、面積割合で10〜80%収縮させた、伸縮性に優れた絡合不織布が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、提案された弾性繊維と非弾性繊維から得られる人工皮革は、弾性繊維が全てが繊維状態のままで存在しておりフレキシブルであるためにドレープ性には優れているが、非弾性繊維を保持するバインダー効果が少ないのでバフィング等による起毛工程の通過性が悪く、毛羽感がラフでスエードあるいはヌバックの外観にはほど遠いものであった。
また、非弾性極細繊維を発生する海島型繊維のみからなる不織布にポリウレタンを含浸させ、溶剤抽出などで海成分を除去して非弾性極細繊維を発生させた後、染色処理することによって外観の優れた人工皮革が得られることが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかしながら、該不織布中に弾性繊維が含まれていないため、繰り返し伸長変形を行うと構造変化を生じる。また、含浸されたポリウレタン樹脂が不織布内部に発泡シート状に存在しているため、柔軟な手触り、風合いおよびドレープ性に優れた人工皮革は得られなかった。
すなわち本発明は、弾性ポリマーからなる繊維と平均単繊維繊度0.1デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維が混在した絡合不織布を有する皮革様シートにおいて、該弾性ポリマーからなる繊維が部分的に多孔質状態であり、さらに、該弾性ポリマーからなる繊維同士が部分的に融着していることを特徴とする皮革様シートに関する。
該弾性ポリマーからなる繊維同士は、部分的に融着して部分的に網目構造を形成していることが好ましく、非弾性ポリマーからなる極細繊維と弾性ポリマーからなる繊維が部分的に密着した構造を有することが好ましい。
さらに、本発明は、上記皮革様シートの少なくとも片面に、非弾性ポリマーからなる極細繊維を主体とする立毛が形成されている立毛調皮革様シートに関する。
I.弾性ポリマーからなる繊維形成成分の一部が少なくとも表面の一部に露出している、弾性ポリマーからなる繊維を発生し得る繊維(A)と平均単繊維繊度が0.1dtex以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維を発生し得る繊維(B)からなる絡合不織布を製造する工程、
II.該絡合不織布に、該弾性ポリマーに対する良溶剤を少なくとも含む液を含浸させ、該繊維(A)中の弾性ポリマーを部分的に溶解させる工程、
III.該絡合不織布に、該弾性ポリマーに対する貧溶剤を少なくとも含む液を含浸させ、部分的に溶解した弾性ポリマーを部分的に多孔質状態の弾性ポリマーにする工程、及び
IV.該繊維(A)および該繊維(B)を、それぞれ、弾性ポリマーからなる繊維および平均単繊維繊度が0.1デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維に変換する工程。
弾性ポリマーからなる繊維(弾性繊維)は、弾性ポリマー単独で溶融紡糸するか、または、弾性ポリマーと該弾性ポリマーとは化学的または物理的性質の異なる少なくとも1種類の可紡性ポリマーを組み合わせて溶融紡糸した多成分系繊維を分割するか、あるいは、該多成分系繊維から少なくとも1種類のポリマーを抽出除去することにより得られる。該多成分系繊維は、少なくともその表面の一部に弾性繊維形成成分が存在しており、分割、抽出操作などにより弾性繊維を発生し得る繊維(以下、単に繊維(A)と称する)である。繊維(A)としては、表面の一部に弾性ポリマーが存在するような構造を有する複合繊維であれば特に限定されないが、海島型繊維、分割型繊維等が好ましく挙げられる。中でも海島型繊維がより好ましく、海島型混合紡糸繊維が、該繊維の表面の一部に弾性ポリマーが島成分としてランダムに存在しやすい点でさらに好ましい。繊維(A)の表面において、弾性ポリマーが占める面積割合は、0.1〜95%が好ましく、より好ましくは、1〜70%である。0.1%以上であると、弾性繊維を部分的に多孔質状態にし易くなり、弾性繊維同士の部分的融着状態が得られ易い。また、95%以下であると、弾性ポリマーの性質に起因するカード通過性等の工程通過性の低下を防止することができる。
なお、本発明の効果を損なわない範囲にて、非弾性ポリマーにはカーボンブラック等で代表される顔料や樹脂の熱安定性向上剤等の添加剤を添加することができる。
溶融紡糸安定性の点から、非弾性ポリマー、繊維(A)および繊維(B)の海成分を構成するポリマーは、弾性ポリマーの溶融紡糸可能温度に適した融点を持つポリマーを選択することが好ましい。例えば、弾性ポリマーとしてポリウレタン類を用いる場合には、非弾性ポリマーおよび海成分を構成するポリマーの融点は230℃程度以下、弾性ポリマーにポリエステルエラストマー類やポリアミドエラストマー類を使用する場合には、非弾性ポリマーおよび海成分を構成するポリマーの融点は260℃程度以下のものを選択するのが好ましい。
得られた絡合不織布の厚みは、皮革様シートの用途等によって任意に選択でき、特に制限されるものではないが、1層の場合には、0.2〜10mm程度であることが好ましく、0.4〜5mm程度であることがより好ましい。密度は0.20〜0.65g/cm3が好ましく、0.25〜0.55g/cm3がより好ましい。0.20g/cm3以上であると、繊維の立毛感が不足し、さらに機械物性が低下するのを避けることができる。0.65g/cm3以下であると得られる皮革様シートの風合いが硬くなるのを避けることができる。
弾性ポリマーに対する溶剤としては、例えば、弾性ポリマーがポリウレタンの場合には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキサン、アルコール類等のポリウレタンに対する良溶剤が挙げられ、中でもDMFが好ましい。処理液Aは、弾性ポリマーに対する良溶剤と貧溶剤の組み合わせであってもよく、弾性ポリマーを低濃度で含んでいてもよい。弾性ポリマーの濃度は、固形分で1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。30質量%以下であると、含浸量にも左右されるが、弾性繊維及び/又は非弾性極細繊維が弾性ポリマーによって固定され自由度を失い、得られる皮革様シートのドレープ性や伸縮性が低下するのを防ぐことができる。
処理液Aが弾性ポリマーを含む場合、含浸させた処理液A中の弾性ポリマーと絡合不織布に含まれる弾性ポリマー総量との質量比は0.2/100〜30/100が好ましく、0.5/100〜10/100であることがより好ましい。該質量比が30質量%以下であると、得られる皮革様シートの伸縮性、風合い、ドレープ性が低下するのを防止することができる。
ここで多孔質状態とは、弾性ポリマーを湿式凝固させたときに形成される微細なスポンジ状態をいう。繊維(A)から発生する弾性繊維が部分的に多孔質状態であると、得られる皮革様シートの風合いやドレープ性が優れる。
処理液Aを含浸させる方法としては、浸漬法、グラビア法、スプレー法等の公知の方法が挙げられる。中でも絡合不織布内部まで十分に含浸させることが可能であり、さらに、繊維(A)の表面に充分に付着させ易い点で浸漬法が好ましく用いられる。
図1は、非弾性極細繊維のみを除去した後の本発明の皮革様シート断面を示す図面代用電子顕微鏡写真である。図1中、参照符号2は弾性繊維を表し、参照符号1は弾性繊維の部分的多孔質状態を示す。参照符号3は弾性繊維の融着箇所を示す。図2は、非弾性極細繊維のみを除去した後の本発明の皮革様シート表面を示す図面代用電子顕微鏡写真である。図2の参照符号1〜3は、図1と同じ内容を表す。図1及び図2から、本発明の皮革様シートでは、弾性繊維が絡合不織布構造を構成していること、弾性繊維が部分的に多孔質状態であること、弾性繊維同士が部分的に融着していること、および、該部分的融着により網目構造が部分的に形成されていることが確認できる。
なお、実施例中の部および%は、ことわりのない限り質量に関するものである。また、平均単繊維繊度の測定および各評価は次のように行った。
皮革様シートの表面又は断面を、電子顕微鏡にて500〜2000倍程度の倍率で観察して繊維径を実測し、その実測値から単繊維繊度(デシテックス)を求めた。
人工皮革の製造販売に携わる者(10人)が、下記の実施例または比較例で得られた染色した立毛調皮革様シートの立毛面を目視し、手で触れてみて評価した。天然皮革スエード調の滑らかな外観、タッチおよび風合いである場合をA、天然皮革スエードには若干劣るものの実用上問題ない場合をB、天然皮革スエードより劣り商品価値に乏しい場合をCとして評価した。
平均分子量2000のポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペートグリコール、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリエチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールをイソシアネートに基づく窒素%が4.3%になるように溶融重合してポリエステル系ポリウレタンを得た。溶融粘度は5000ポイズであった。水分率50ppm以下に乾燥した上記ポリエステル系ポリウレタンペレット50部(島成分弾性ポリマー)と低密度ポリエチレンペレット50部(海成分)を、スクリュー混練機で溶融混練し、230℃で溶融紡糸し繊度が14dtexの、ポリウレタンが一部表面に存在する海島型混合紡糸繊維(A0)を得た。また、ナイロン−6ペレット50部(島成分非弾性ポリマー)とポリエチレンペレット50部(海成分)を、スクリュー混練機で溶融混練し、280℃で溶融紡糸し、繊度が10dtexの海島型混合紡糸繊維(B0)を得た。繊維(A0)と繊維(B0)を、極細化後のポリエステル系ポリウレタン繊維とナイロン繊維の質量比率が40:60になるよう混糸(混合)して、2.5倍に共延伸し、捲縮し、切断して、繊維長がそれぞれ51mmである7dtexの繊維(A1)と4dtexの繊維(B1)が混綿(混合)したステープル繊維を得た。
得られた皮革様シート(I)のナイロン極細繊維の平均単繊維繊度は0.01dtexであり、また表面および断面を電子顕微鏡により観察した結果、ポリウレタン繊維(弾性繊維)が部分的に多孔質状態であり、さらにポリウレタン繊維同士が部分的に融着して一部網目構造を形成していた。さらに、ポリウレタン繊維が一部のナイロン極細繊維(非弾性極細繊維)と密着した状態であった。
染料 イルガランブラウン2RL(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)owf 4%
イルガランイエロー2GL(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製) owf 1%
助剤 レベランNK−D(丸菱油化工業(株)製) 2g/L
浴比 1:20
染色時間 90℃で60分
絡合不織布(III)を多孔質化処理しなかった以外は実施例1と同様の方法で厚さ約1.3mmの皮革様シート(I)を得た。得られた皮革様シート(I)の表面および断面を電子顕微鏡にて観察した結果、弾性繊維は無孔の状態であり、さらに該弾性繊維同士が融着しておらず、網目構造が形成されていなっかった。
皮革様シート(I)を主表面に沿って2分割して、分割面をバフ機にて研削して厚さ0.52mmの皮革様シート(II)を得た。該皮革様シート(II)の分割面の反対側の面を砥粒番手#400のサンドペーパーで起毛処理し、未染色の立毛調皮革様シートを得た。得られた立毛調皮革様シートは立毛状態が不安定で工程通過性も低いものであった。得られた立毛調皮革様シートを、実施例1と同じ条件で染色したところ、茶色に染色された、立毛感に乏しく外観がラフであり、立毛の不均一なベロアな立毛調皮革様シートを得た。得られた立毛調皮革様シートは、ドレープ性や伸縮性に優れるが、30%伸長を約10回繰り変えすと構造変化し、柔軟ではあるが充実感に欠けた風合いになった。その他の評価結果を表1に示す。
4デシテックスの繊維(B0)のみからなる原綿をカードで解繊した後、クロスラップウェバーでウェブとし、次に1バーブのニードル針で1500パンチ/cm2処理することにより、目付800g/m2の絡合不織布(I)を得た。乾燥機で熱処理し、海成分のポリエチレンを軟化させて繊維間を部分接着させて厚み2.65mm、目付850g/m2、密度0.32g/cm3の絡合不織布(III)を得た。該絡合不織布(III)の内部にポリエーテル系ポリウレタンの13%DMF溶液を含浸し、DMF30%水溶液で凝固した後、DMFを水洗除去して乾燥するとナイロン6の極細繊維とポリウレタンの発泡シートからなる皮革様シート(I)を得た。得られた極細繊維の平均単繊維繊度は0.01デシテックスであり、また表面および断面を電子顕微鏡にて観察した結果、繊維には多孔質構造が無く、該繊維同士は部分的に融着しておらず、網目構造は認められなかった。
この皮革様シート(I)を主表面に沿って2分割し、分割面をバフ機を用いて研削して厚さ0.50mmの皮革様シート(II)を得た。該皮革様シート(II)の分割面の反対側の面を砥粒番手#400のサンドペーパー起毛処理し、未染色の立毛調皮革様シートを得た。該立毛調皮革様シートを実施例1と同じ条件で染色し、茶色の立毛調皮革様シートを得た。得られた立毛調皮革様シートは外観に優れるものの、伸縮性に劣り30%伸長を10回繰り変えした結果構造変化を生じた。その他の評価結果を表1に示す。
厚さ 目付 密度 立毛感 立毛の均一性 色斑 風合い
mm g/m 2 g/cm 3
実施例1 0.50 218 0.43 A A A A
比較例1 0.52 218 0.42 C C A A
比較例2 0.50 190 0.38 A A B B
2 弾性繊維
3 弾性繊維同士の融着部分
Claims (5)
- 弾性ポリマーからなる繊維と平均単繊維繊度0.1デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維が混在した絡合不織布を有する皮革様シートにおいて、該弾性ポリマーからなる繊維が部分的に多孔質状態であり、さらに、該弾性ポリマーからなる繊維同士が部分的に融着していることを特徴とする皮革様シート。
- 弾性ポリマーからなる繊維同士が部分的に融着して部分的に網目構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート。
- 非弾性ポリマーからなる極細繊維と弾性ポリマーからなる繊維が部分的に融着していることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革様シート。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シートの少なくとも片面に、非弾性ポリマーからなる極細繊維を主体とする立毛が形成されていることを特徴とする立毛調皮革様シート。
- 下記I〜IVの工程を順次行うことを特徴とする皮革様シートの製造方法。
I.弾性ポリマーからなる繊維形成成分の一部が少なくとも表面の一部に露出している、弾性ポリマーからなる繊維を発生し得る繊維(A)と平均単繊維繊度が0.1dtex以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維を発生し得る繊維(B)からなる絡合不織布を製造する工程、
II.該絡合不織布に、該弾性ポリマーに対する良溶剤を少なくとも含む液を含浸させ、該繊維(A)中の弾性ポリマーを部分的に溶解させる工程、
III.該絡合不織布に、該弾性ポリマーに対する貧溶剤を少なくとも含む液を含浸させ、部分的に溶解した弾性ポリマーを部分的に多孔質状態の弾性ポリマーにする工程、及び
IV.該繊維(A)および該繊維(B)を、それぞれ、弾性ポリマーからなる繊維および平均単繊維繊度が0.1デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維に変換する工程。
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