JP4429751B2 - 伸縮性を有する皮革様シート基体およびその製造方法 - Google Patents

伸縮性を有する皮革様シート基体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、伸縮性に優れた皮革様シート基体に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、繰り返し伸長変形を行っても実質的に構造変形を生じない伸縮性、柔軟性、ドレープ性、さらに充実感のある風合を有している皮革様シート基体に関するものである。
従来から、人工皮革は、衣料、インテリア、靴、鞄、手袋等様々な用途に利用されてきた。特に、衣料、靴、手袋等、着用する用途においては、着心地、履き心地といった感性が求められ、そのため人工皮革素材に対しては、伸縮性とドレープ性の要求が根強くあった。しかしながら、従来の人工皮革は、極細繊維不織布とその内部に湿式含浸された樹脂とのスポンジ構造からなるため、皮革特有の充実感と伸縮性、および、ドレープ性は相反する性能であり、充実感を高めるとドレープ性が失われる傾向があった。そのため、外観、伸縮性、充実感、ドレープ性の全てを満たす人工皮革の開発は、大きな課題であった。
更に詳しく説明すると、人工皮革は、基本的に、ポリアミド、ポリエステル等非弾性ポリマーからなる極細繊維の絡合不織布とその内部に存在するポリウレタンを代表とする高分子弾性体からなっている。従って、絡合不織布の伸長による構造変形範囲は僅かでしかなく、該範囲を超えて伸長変形させると元に戻らなくなるという傾向があった。また、不織布内部に存在する高分子弾性体は伸縮性があるものの、構造物としての人工皮革の最大伸長変形量は、上記した絡合不織布の最大変形量に拘束され、また、高分子弾性体の量が多くなるとその反発力から人工皮革に求められるドレープ性が失われる結果となっていた。
このような状況を踏まえ、不織布をポリウレタン等の弾性ポリマーからなる繊維で形成することにより、優れた伸縮性を付与する検討が過去に行われてきた。例えば、メルトブロー法により作成したポリウレタンフィラメントからなる不織布を用いた合成皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この場合、伸縮性は得られるものの、フィラメント自体の繊度を小さくするには限界があり、さらにポリウレタン自体が膠着性、すなわちフィラメント同士が融着する性質を本来有している。そるため、スエードのように繊維の細さが外観の品質に大きく影響するような用途に用いることはできない。一方、ポリウレタン自身の膠着性を抑える技術は、人工皮革以外の分野で種々の検討がなされている。例えば、ポリウレタン同士の膠着を、油剤によって防止する方法(例えば、特許文献2、3および4参照)や、コロイダルシリカによって防止する方法(例えば、特許文献5参照)、更には、ポリウレタン成分に他の成分をブレンドして膠着性自体を抑制する方法(例えば、特許文献6参照)が提案されている。油剤による膠着防止方法は、繊維自体の繊度が大きい場合には有効である。しかし、外観・風合を両立する人工皮革を製造するための0.5デシテックス以下の極細繊維に適用した場合には効果が不充分であり、極細繊維の膠着、太繊維化が起こり、起毛の際のバフィングでは元の極細繊維に戻すことができなくなる。また、コロイダルシリカを用いて物理的に繊維間に隙間を設ける方法においても、極細繊維に適用した場合、それだけではコロイダルシリカが極細繊維同志の間に挟まれた状態で繊維の膠着が起こる場合がある。コロイダルシリカの粒子径を大きくすると極細繊維間からの脱落が多くなり、結果的に膠着が起こるなどの問題があり、効果が不充分である。さらに、ポリウレタン成分に他の成分をブレンドする方法は、ポリウレタン自体の伸縮性を阻害するため、外観、伸縮性、充実感、ドレープ性の全てを満たすことができない。
特許第3255615号公報(第2頁) 特許第3230703号公報(第2−3頁) 特許第3230704号公報(第2頁) 特開昭48−19893号公報(第6−9頁) 特開昭60−239519号公報(第2頁) 特公昭47−36811号公報(第1−2頁)
本発明の目的は、縦、横の両方向への伸縮性を有し、ドレープ性、ソフトな風合いを有する皮革様シート基体とその製造方法を提供することである。
上記課題を解決するため、弾性ポリマーの特性、弾性ポリマーからなる極細繊維(弾性極細繊維)と非弾性ポリマーからなる極細繊維(非弾性極細繊維)のブレンド比率、皮革様シートの構造等について鋭意検討した結果、弾性ポリマーの硬度、極細繊維束を構成する弾性ポリマー単繊維の本数、さらに、弾性極細繊維からなる極細繊維束と非弾性極細繊維からなる極細繊維束とのブレンド比率を限定することによって、弾性極細繊維の膠着性をコントロールして皮革様シート基体の風合を調整し、特にスエードに用いた場合には、その外観を向上し、伸縮性と皮革様シートの力学強度を満足することを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、JIS A硬度が90〜97である弾性ポリマーからなり、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下の極細繊維が10〜100本の範囲で集合して形成された極細繊維束(A)と、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維から形成された極細繊維束(B)が、(A)/(B)=30/70〜70/30の質量比率で混綿されてなる絡合不織布と、その内部に含有された高分子弾性体からなる皮革様シート基体を提供する。皮革様シート基体内部に存在する極細繊維束(A)に含まれる極細繊維は部分的に膠着していることが好ましい。あるいは、少なくとも極細繊維束(A)に含まれる極細繊維の繊維間には、平均粒子径が0.1〜5μmのパウダーが存在していることが好ましい。
また、本発明は、該皮革様シート基体からなるスエード調皮革様シート、特に、極細繊維束(A)に含まれる極細繊維からなる立毛単繊維が互いに実質的に膠着していないスエード調皮革様シートを提供する。
さらに、本発明は、該皮革様シート基体からなる銀付調皮革様シートを提供する。
さらに、本発明は、少なくとも下記(1)〜(6)の工程:
(1)JIS A硬度が90〜97である弾性ポリマーからなり、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下である極細繊維が10〜100本集合して形成される極細繊維束(A)を発生させる極細繊維発生型繊維(A’)を製造する工程、
(2)平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維により形成される極細繊維束(B)を発生させる極細繊維発生型繊維(B’)を製造する工程、
(3)極細繊維発生型繊維(A’)と、極細繊維発生型繊維(B’)を、極細繊維化後の質量比が(A)/(B)=30/70〜70/30となるように混綿してウェブを形成し、三次元絡合させ、絡合不織布(A)を得る工程、
(4)絡合不織布(A)を85℃以上で加熱収縮させて絡合不織布(B)とする工程、
(5)絡合不織布(B)の内部に高分子弾性体を含有させる工程、および
(6)極細繊維発生型繊維(A’)と極細繊維発生型繊維(B’)を極細繊維化して極細繊維束(A)と極細繊維束(B)とする工程、
を含むことを特徴とする皮革様シート基体の製造方法を提供する。
本発明の皮革様シート基体は、縦、横の両方向への良好な伸縮性を有し、ドレープ性があって、ソフトな風合いを有するので、良好なライティング性と高級な外観を併せ持つスエード調皮革様シートに加工でき、また、天然皮革のような自然な風合を併せ持つ銀付調皮革様シートに加工できる。縦、横両方向への良好な伸縮性を有する該皮革様シート基体は、特に衣料用途に好適に応用されるものである。
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いられる弾性ポリマーからなる極細繊維(弾性極細繊維)、非弾性ポリマーからなる極細繊維(非弾性極細繊維)は、いずれも、相溶性の小さい少なくとも2種類のポリマーからなり、少なくとも1種類のポリマーが島成分、そしてそれ以外の少なくとも1種類のポリマーが海成分となっている断面構造を有する極細繊維発生型繊維から海成分ポリマーを溶解又は分解除去することによって得られた繊維のことである。本発明においては、極細繊維束(A)および極細繊維束(B)を発生する極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)の島成分にそれぞれ弾性ポリマーおよび非弾性ポリマーを用いる。
本発明の弾性極細繊維を形成する弾性ポリマーとは、該ポリマーから得られる繊維を25℃にて50%伸長した場合の1分後の伸長弾性回復率が50〜100%であるポリマーを意味する。伸長弾性回復率は、80〜100%であることが皮革様シート基体の伸縮性や形態保持性の点で好ましい。また非弾性極細繊維を形成する非弾性ポリマーとは、同様にして測定した伸長弾性回復率が50%未満であることを意味する。一般に、伸長弾性回復率が50%未満の非弾性ポリマーは、ポリマーの有する結晶性や凝集力の強さゆえに伸長弾性回復率が低いため、このような非弾性ポリマーを併用することにより皮革様シート基体の力学物性、特に破断強度や剥離強度を上げることができるという点で好ましい。また、非弾性ポリマーの限界伸長率は、25℃において、50%未満であるのが好ましい。
弾性ポリマーとしては、ポリウレタン類、ポリイソプレン類、ポリブタジエンなどの共役ジエン重合体、共役ジエン重合体ブロックを分子中に有するポリマー類、その他紡糸可能な上記した伸長弾性回復率のゴム弾性挙動を示すポリマー類が挙げられるが、耐熱性の点でポリウレタンが好ましく用いられる。耐熱性が低い場合、弾性極細繊維発生後の熱処理や、例えばスエード化時のバフィングによる摩擦熱により、弾性極細繊維が膠着一体化しやすい傾向がある。本発明で使用される熱可塑性ポリウレタンとしては、例えば、グリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られるポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られるポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコールおよびポリエーテルグリコール等から選ばれた少なくとも1種の平均分子量600〜3500の高分子ジオールをソフトセグメント成分として、活性水素を少なくとも2個有する低分子鎖伸長剤の存在下で、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネートなどの有機ジイソシアネートと反応させて得られるポリウレタンが好ましい。
弾性ポリマーは、いわゆる熱可塑性ポリマーであって、JIS A硬度が90〜97であり、93〜97であることが膠着防止、繊維強度改善の点で好ましい。硬度が90よりも低いと弾性ポリマー自身の膠着性が高くなり、特にスエード調皮革様シートに加工する場合に、表面に現れた弾性極細繊維同士が同一繊維束内または異なる繊維束間で膠着一体化し、タッチや立毛状態等の外観の品位を低下させる傾向がある。また皮革様シート基体の内部においても、弾性極細繊維の膠着度合いが大きくなると反発性が高くなる傾向があり、さらにドレープ性や風合の低下につながる傾向がある。特に、海成分に溶剤で溶解除去する成分を選択した場合、その溶剤により島成分である弾性ポリマーは膨潤、一部溶解等を起こし、弾性極細繊維同士の膠着一体化が促進されるため、好ましくない。逆にJIS A硬度が97を超えると得られる皮革様シート内部における弾性極細繊維同士の部分的膠着が生じ難いため、バインダー効果が低下して皮革様シート基体の破断強度等の力学強度が低下する傾向や皮革様シート基体自体の伸長弾性回復率が低下する傾向があるため好ましくない。
特にポリウレタンの場合、JIS A硬度は、ジオール成分の種類にも若干左右されるが、ハードセグメントを形成するイソシアネート化合物の割合を増やしていくと高くなる傾向がある。イソシアネート化合物の割合を公知の方法にてコントロールすることにより、JIS A硬度を90〜97の範囲に調整可能である。
本発明の弾性極細繊維の平均単繊維繊度は、風合並びに外観上の理由から、0.5デシテックス以下である。さらに、各極細繊維束(A)は、10〜100本の弾性極細単繊維が集合して形成されている。平均単繊維繊度が0.5デシテックスを超えると、得られる皮革様シートの風合が低下したり、特にスエード調皮革様シートに加工した場合に毛羽感が粗くなったり、ライティング効果が劣る傾向がある。また、平均単繊維繊度の下限値は特に限定されないが、繊度が小さくなると繊維の表面積は増えるために極細繊維束内で弾性極細単繊維同士の膠着性が高くなる傾向があるため、0.005デシテックス以上が好ましい。より好ましい平均単繊維繊度は0.01〜0.1デシテックスである。
極細繊維束(A)を形成する単繊維(弾性極細繊維)が10本より少ないと、スエード調皮革様シートにした場合の外観が粗くなる傾向があり、さらに単繊維の総表面積が小さくなり皮革様シート基体内部の単繊維同士が部分的に膠着性し難い傾向があるため、バインダー効果が低下し、皮革様シート基体の力学強度が低下し、また伸長弾性回復率が低下する傾向がある。また、極細繊維発生型繊維(A’)の繊度が必然的に小さくなるため、製造工程において断糸の原因となり、カード性にも悪影響を及ぼすといった問題点もある。また、単繊維数が少な過ぎる場合、JIS A硬度が90〜97の弾性ポリマーを用いても単繊維同士が部分的に膠着し難い傾向がある。部分的に膠着させようとするために硬度が90未満の弾性ポリマーを用いた場合には皮革様シート基体の力学物性が低くなる傾向がある。逆に100本を越えると、単繊維の総表面積が大きくなるため、全体的に単繊維同士が必要以上に膠着しやすく、皮革様の風合やドレープ性に劣る傾向がある。特にスエード調皮革様シートとした場合にスエードのタッチや外観を低下させるため好ましくない。また、単繊維数が多過ぎる場合、JIS A硬度が90〜97の弾性ポリマーを用いても単繊維同士が膠着し易い傾向がある。膠着を抑制しようと硬度が97を超える弾性ポリマーを用いた場合には、紡糸の安定性が低下したり、皮革様シート基体の風合が硬くなる傾向がある。
極細繊維発生型繊維(A’)を得る方法としては、公知の海島型複合紡糸が用いられる。複合紡糸は混合紡糸と異なり、島形状、太さを比較的一定にすることができ、その結果として弾性極細繊維同士の接点を小さく、かつ少なく抑えやすいため、弾性極細繊維の膠着を必要最小限に抑えることができるという点で好ましい。
さらに、皮革様シート基体断面を電子顕微鏡で2000倍に拡大して撮影した極細繊維束(A)の断面において、10〜100個の単繊維直径のうち最も太い単繊維径D1と最も細い単繊維径D2の比率が、D1/D2≦2を満たすことが、部分的な膠着、ドレープ性、風合、機械的物性さらにはスエード調皮革様シートとしたときの立毛繊維の外観に優れる点で好ましい。
非弾性ポリマーとしては、例えばナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−12で代表されるナイロン類;その他の可紡性ポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート系共重合体、脂肪族ポリエスエル、脂肪族ポリエスエテル系共重合体等の可紡性ポリエステル類;アクリロニトリル系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物等が挙げられる。
本発明の非弾性極細繊維の平均単繊維繊度は0.5デシテックス以下である。0.5デシテックスを超えると、得られる皮革様シート基体の風合いが劣る傾向にあり、特にスエード調皮革様シートとした場合にスエードの毛羽感が粗くなり、ライティング効果が劣る傾向がある。平均単繊維繊度の下限値は特に限定されないが、繊度が小さくなると得られる皮革様シートの破断強力や引裂き強力が低下し、染色後の発色性が低下する傾向があるため、通常、0.0001デシテックス以上が好ましい。より好ましい平均単繊維繊度は0.001〜0.1デシテックスの範囲である。なお、各極細繊維束(B)は、好ましくは100〜10000本、より好ましくは100〜4000本、特に好ましくは100〜1000本の非弾性極細単繊維から構成される。
極細繊維発生型繊維(B’)を得る方法としては、公知の海島型複合紡糸や海島型混合紡糸が好適に用いられる。海成分を構成する成分は、極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)とも同じ観点で選択される。海成分としては、島成分を溶解しない溶剤に可溶なポリマー、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン類、オレフィン共重合体、ポリスチレン、スチレン共重合体などが挙げられる。また、環境保護の観点から熱水で抽出が可能な熱可塑性ポリビニルアルコールなども挙げることができる。極細繊維発生型繊維(A’)に用いられる海成分と、極細繊維発生型繊維(B’)に用いられる海成分とは、同じであっても良いし、異なっていても良いが、該極細繊維発生型繊維(A’)と(B’)を混綿した後に海成分を除去するため、同一溶剤に溶解可能な海成分の組合せが好ましい。なお、該溶剤は、極細繊維束(A)および極細繊維束(B)を構成する単繊維をともに溶解しないことが望ましい。ここでいう溶解とは、実質的に繊維が溶解して繊維形状を保てなくなる状態を意味しており、繊維成分の極一部が溶解または膨潤しても、実質的に繊維形状を保持できている状態は含まない。
海成分には、特に極細繊維発生型繊維(A’)の海成分には、平均粒子径が0.1〜5μmのパウダーを添加することが好ましい。該パウダーは、極細繊維発生型繊維(A’)から海成分を抽出除去した後も島成分である弾性極細繊維間に一部残存し、物理的に弾性極細繊維間の隙間を空ける。これによって、本発明の皮革様シート基体内部の弾性極細繊維同士の必要以上の膠着が抑制され、特にスエード調皮革様シートに加工する場合にも、極細繊維束(A)が起毛処理時に1本づつ弾性極細繊維にフィブリル化し易くなり、立毛密度やライティング効果に優れるといった外観の向上が達成される。
パウダーの種類については特に限定されず、シリコーンパウダー、硫酸バリウム、タルク、酸化マグネシウム、酸化チタン、ガラスパウダーなどが用いられる。粒子の平均粒子径は0.1〜5μmが好ましく、更に好ましくは0.5〜2μmである。平均粒子径が上記範囲であると、弾性極細繊維同士の膠着抑制効果が改善され、また、弾性極細繊維間からパウダーが脱落して膠着抑制効果が低下したり、紡糸性が低下するのを避けることができる。
パウダーは、紡糸をする段階で添加される。パウダーの効果は、該パウダーが弾性極細繊維間に存在することによって発揮されるため、海成分を形成するポリマーにブレンドされる。ブレンド方法にはマスターバッチ法やドライブレンド法があり、好ましくはマスターバッチ法が用いられる。ここで言うマスターバッチ法とは、パウダーを高濃度に添加したポリマーチップを事前に作成しておき、紡糸する段階でパウダー未添加の海成分ポリマーチップにブレンドする方法である。マスターバッチのベースポリマーは一般に海成分と同じポリマーを選ぶことが好ましいが、紡糸性や得られる繊維物性を損なわない範囲で異なるポリマーが選ばれることもある。また、ドライブレンド法とは、紡糸する段階で海成分ポリマーチップに所定量のパウダーを直接添加してブレンドする方法である。
極細繊維束(A)および極細繊維束(B)は、必要に応じてカーボンブラック、顔料等の着色剤をそれぞれのポリマー成分に練りこんで着色することが可能である。その目的は、以下のとおりである。スエード調皮革皮革様シートに加工した場合には濃色感のある外観を達成するためであり、銀付調皮革様シートに加工した場合には、断面の色が天然皮革と同様に、表皮とシート基体を同系統色にし、自然な外観を達成するためである。添加するカーボンブラック等の着色剤の含有量は、紡糸性、得られる糸の強伸度物性の点から、それぞれのポリマー成分に対して8質量部以下であることが好ましい。
極細繊維発生型繊維(A’)と極細繊維発生型繊維(B’)は混綿した後に、それぞれ極細繊維束(A)と極細繊維束(B)に極細化される。ブレンド比率(質量比)は、極細繊維化後に極細繊維束(A)/極細繊維束(B)=30/70〜70/30となるようにすることが必須である。外観、伸縮性、ドレープ性および柔軟性の点から好ましくは40/60〜60/40の範囲である。極細繊維束(A)の割合が30未満になると、得られる皮革様シート基体の伸長弾性回復率が低下し、伸縮性、ドレープ性および柔軟性が低下する傾向にあり、逆に70を超えると、強度物性等で代表される力学物性が低下する傾向がある。
また、極細繊維束(A)および極細繊維束(B)を混綿する手段としては、極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)を所望の割合で集束し、延伸、捲縮、カットして混合原綿を得る方法や、それぞれの極細繊維発生型繊維を別々に延伸、捲縮、カットして原綿とした後にブレンダー等で混綿する方法などがある。それ以外には、一つの極細繊維発生型繊維の内部に弾性極細繊維および非弾性極細繊維となる島成分を存在させるいわゆる複合混合紡糸があるが、この場合必然的に極細繊維(A)を構成する弾性極細繊維と極細繊維(B)を構成する非弾性極細繊維の距離が近くなるため、海成分除去の際、弾性極細繊維が非弾性極細繊維と接着し、弾性極細繊維の伸縮性を損なう場合があるため好ましくない。
以上のように本発明においては、目的とする皮革様シート基体における伸縮性、ドレープ性等の風合と強度等で代表される力学物性を向上するために、皮革様シート基体の内部を構成する極細繊維束(A)内の弾性極細繊維は、部分的に膠着した構造であることが好ましい。ここで部分的に膠着した構造とは、極細繊維束(A)中の弾性極細繊維同士が、元の繊維形状を保持した状態で側面同士接着した状態を意味しており、繊維の長さ方向に垂直な断面において、接着部分の長さが繊維直径の2/3以下の状態のことを言う。スエード調皮革様シートに加工した場合の良好な立毛外観を達成するためには、弾性極細繊維からなる立毛単繊維が互いに実質的に膠着していないことが好ましい。そのためには、弾性ポリマーの硬度、弾性極細繊維の繊度と極細繊維束(A)を構成する単繊維の本数を上述した範囲に限定して、弾性極細繊維の膠着性を高すぎず、弱すぎず、適度な膠着状態にコントロールすることが重要である。また、パウダーを単繊維間に存在させることも好ましい。
極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)からなる絡合不織布に含浸される高分子弾性体としては、従来から皮革様シートの製造に使用されている公知の樹脂でよく、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの樹脂の混合物が挙げられる。これらの樹脂は共重合体であってもよい。得られる皮革様シート基体の風合いや物性のバランスがよいので、ポリウレタン樹脂を主体とする高分子弾性体が最も好ましく使用される。これらの高分子弾性体は、水系エマルジョンまたは有機溶剤溶液として前記絡合不織布に含浸した後、凝固されるが、近年の環境保護に対する関心の高まりから、より好ましくは水系エマルジョンを用いる。
本発明においては、上記の通り高分子弾性体は、水系エマルジョンの形態をとるものを好ましく用いる。通常は、ポリウレタン単独のエマルジョンが用いられるが、コスト、物性の観点でエマルジョン粒子の最外層がポリウレタンであって、内部が比較的安価な例えば(メタ)アクリル樹脂である、コアシェルタイプのエマルジョンを用いることも有効である。ポリウレタンからなる水系エマルジョンは公知の方法により得ることが出来る。例えば、ポリウレタンの溶剤溶液と水を乳化剤の存在下で機械的に強制攪拌した後に溶剤を除去して得る方法、いわゆる強制乳化方法や、ポリウレタンの共重合成分の一部に親水基を導入し、乳化剤なしで水に乳化させる自己乳化方法がある。
含浸させるポリウレタンとしては、従来公知のものは何れも適用することができる。たとえば、ポリエステルジオ―ル、ポリエ―テルジオ―ル、ポリカ―ボネ―トジオ―ルなどから選ばれた少なくとも1種の平均分子量500〜3000のポリマ―ジオ―ルと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ―ト、イソホロンジイソシアネ―ト、ヘキサメチレンジイソシアネ―トなどの、芳香族系、脂環族系、脂肪族系のジイソシアネ―トなどから選ばれた少なくとも1種のジイソシアネ―トと、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のジオール類、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド類から選ばれた少なくとも1種の2個以上の活性水素原子を有する分子量300以下の化合物とを、所定のモル比で反応させて得たポリウレタンが使用できる。ポリウレタンは必要に応じて、合成ゴム、ポリエステルエラストマ―などの重合体を添加した重合体組成物としてもよい。
高分子弾性体の水系エマルジョンを用いると、有機溶剤を用いないことから、環境負荷が小さいことはもちろん、溶剤溶液中に含浸して湿式凝固する場合と異なり、高分子弾性体がスポンジ構造をとりにくいため、得られる皮革様シート基体の反発性が少なく、ドレープ性が発現しやすいので好ましい。
皮革様シート基体中の高分子弾性体と極細繊維(弾性極細繊維+非弾性極細繊維)の質量比率は、高分子弾性体水系エマルジョンを用いる場合は、好ましくは5/95〜50/50、さらに好ましくは7/93〜35/65であり、高分子弾性体溶剤系溶液を用いる場合は、好ましくは3/97〜30/70、さらに好ましくは5/95〜20/80である。質量比率は、柔軟な風合いと良好なドレープ性、伸縮性、破断強度を得る上で、上記範囲内であるのが好ましい。
次に、本発明の製造方法について説明する。
極細繊維発生型繊維(A’)は、島成分にはJIS A硬度が90〜97の弾性ポリマーを用い、海成分には先述したようなポリマー群から選ばれるポリマーを用い、島数が10〜100となるように複合紡糸ノズルで紡糸する。好ましくは、島形状の安定性、紡糸の運転安定性の観点から、海成分の中に配置されたニードルパイプを通して島成分が吐出される構造を有するノズルを用いる。特に、熱水で抽出が可能な熱可塑性ポリビニルアルコール、例えば特開2000−234214号公報や特開2000−234215号公報に記載されるようなものを海成分として用いる場合には、ポリマーの耐熱安定性を考慮し、ノズル中での滞留時間を短くするため、例えば特開平7−3529号公報や特開平7−26420号公報に記載されるような薄板にポリマー流路をエッチング処理によって設けたエッチングプレート方式ノズルエレメントを利用したノズルが好適に用いられる。島成分と海成分との質量比率は特に限定されないが、島成分/海成分=90/10〜30/70が好ましく、80/20〜50/50がより好ましい。
極細繊維発生型繊維(B’)は、島成分には非弾性ポリマーを用い、海成分には好ましくは極細繊維発生型繊維(A’)と同じ海成分を用いて、公知の方法により紡糸する。極細繊維発生型繊維(B’)は、複合紡糸繊維であっても混合紡糸繊維であっても構わない。また、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下であれば、島数や、島成分/海成分の比率についても限定されないが、島数は10〜10000が好ましく、島成分/海成分は、90/10〜30/70が好ましく、80/20〜50/50がより好ましい。
また、カーボンブラック等の着色剤を用いて繊維を原着する場合には、紡糸原料である樹脂ペレットにドライブレンドしても良いし、原料樹脂あるいは紡糸性を損なわない範囲の他樹脂をベースとするマスターバッチを作製し、それをブレンドする方法が一般的である。
紡糸後、延伸、捲縮、カット等の工程を経て、繊維ステープル(好ましくは、10〜100mm)を製造する。延伸は、公知の方法によって行なうが、特に弾性ポリマーを含有する極細繊維発生型繊維(A’)は、延伸時の熱処理雰囲気下(好ましくは、20〜200℃)での破断伸度の0.6〜0.9倍の倍率で延伸することが好ましい。そうすることによって、得られる弾性極細繊維の90℃での熱水収縮率は15%以上となり、後に行なう不織布の加熱収縮処理によって収縮し、得られる皮革様シート基体に伸縮性を発現させることになる。極細繊維発生型繊維(B’)も同様に延伸することによって、得られる皮革様シート基体は充分な力学物性を得ることが出来る。
次に、極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)を前記した手法によって混綿する。繊維ステープルの繊度は、1.0〜10.0デシテックスが良好なカード通過性を確保する点で好ましく、さらに好ましくは3.0〜6.0デシテックスである。極細繊維発生型繊維(A’)および極細繊維発生型繊維(B’)の繊度は、同一であっても異なっていても良いが、カード通過性の観点からは、同一である方がより好ましい。
次に該繊維ステープルをカードで解繊し、ウェッバーを通してウェッブを形成し、所望の重さ及び厚さに重ね合わせる。次いで、公知の方法、例えばニードルパンチ方法や高圧水流絡合処理方法等で絡合処理を行って3次元絡合不織布(A)とするか、あるいは繊維ステープルを重ね合わせた編織布を水流等を使用して絡合処理し3次元絡合不織布(A)布帛とする。
該絡合不織布(A)は、人工皮革とした際の厚さ等を考慮して目的に応じた形態にすることが好ましいが、目付けとしては200〜1500g/m2、厚みとしては1〜10mmの範囲が工程中での取り扱いの容易さの観点から好ましい。
上記方法により製造された絡合不織布(A)は、85〜130℃で加熱収縮させることが重要である。加熱の方法は熱水、乾熱、湿熱等いずれの方法でもよいが、極細繊維発生型繊維(A’)及び/又は(B’)の海成分に熱可塑性ポリビニルアルコールを用いた場合には海成分が熱水に溶解するため、乾熱での収縮を採用するのが好ましい。加熱により、絡合不織布(A)を構成する極細繊維発生型繊維(A’)及び(B’)が収縮するが、これによって、得られる皮革様シート基体に充分な伸縮性が付与される。また、皮革様シート基体の不織布構造の密度が向上して緻密になり、天然皮革に似た風合いが得られ、スエード調皮革様シートに加工した場合の外観が向上する。85℃未満の加熱では収縮が充分でなく、得られる皮革様シート基体の伸縮性、伸長弾性回復性が不足し、特にスエード調皮革様シートの外観が低下する傾向があるので好ましくない。
熱収縮後の絡合不織布(B)は、必要に応じて熱プレス等により、表面の平滑化が施される。面の平滑化によって、銀付調皮革様シートの平滑性が向上し、またスエード調皮革様シートの外観が向上する。
絡合不織布(B)に高分子弾性体を含有させる方法は、高分子弾性体を含む水系エマルジョン、有機溶剤溶液等に該絡合不織布(B)を浸漬した後絞る方法や、リップコーター等のコーターで絡合不織布(B)内部まで浸透させる方法等の公知の方法が用いられる。
高分子弾性体の有機溶剤溶液を使用する場合には、含浸後水をベースとする凝固浴に浸漬して高分子弾性体を凝固させ、多孔質状の高分子弾性体を形成させる。一方、高分子弾性体の水系エマルジョンを使用する場合には、熱風乾燥機で高分子弾性体を乾燥凝固させるが、乾燥時にマイグレーションが起こる傾向があるため、アクリル系やシリコーン系の公知の感熱ゲル化剤をエマルジョンにブレンドして用いたり、湿熱凝固や赤外線放射による凝固など、マイグレーションを抑制する手法をとるのが好ましい。
高分子弾性体にはその要求性能によって、本発明の目的効果を損なわない限り、柔軟剤、難燃剤、染料や顔料などの着色剤等が添加されていてもよい。
絡合不織布(B)の極細繊維発生型繊維(A’)及び(B’)は、先述のとおり、島成分ポリマーに対して非溶剤であって、かつ、高分子弾性体がすでに含有されている場合には高分子弾性体に対しても非溶剤であり、さらに海成分ポリマーに対して溶剤または分解剤である薬剤を用いて処理することでそれぞれ弾性極細繊維および非弾性極細繊維からなる極細繊維束(A)及び(B)に変換される。このような薬剤の例としては、海成分に熱可塑性ポリビニルアルコールを用いた場合には、水、熱水等が、海成分にポリオレフィン、オレフィン共重合体、ポリスチレン、スチレン共重合体を用いた場合には、トルエン、キシレン、トリクレン等が挙げられる。極細繊維化処理は、絡合不織布(B)を前記薬剤中に60〜130℃で5〜30分間浸漬して海成分を抽出及び/又は分解除去することにより行うのが好ましい。極細繊維化処理後の乾燥は、皮革様シート基体内に残存する溶剤を除去するばかりではなく、弾性極細繊維同士または弾性極細繊維と隣接する非弾性極細繊維とを適度に膠着させるために、80〜130℃の雰囲気下で行なうことが好ましい。このようにして得られる本発明の皮革様シート基体の目付は100〜800g/m2、見掛け比重は0.2〜0.8g/cm3、厚さは0.5〜2.0mmであるのが好ましい。
なお、高分子弾性体を含有させる工程と極細繊維化の工程は、上記の順であっても良いし、逆であっても構わない。
本発明の皮革様シート基体は、サンドペーパーによるバフィングを行なって、その表面を毛羽立てて立毛を形成することによりスエード調皮革様シートを得ることができる。その際、サンドペーパーの高速摩擦により、極細繊維束(A)はフィブリル化し、1本1本の独立した弾性極細繊維からなる立毛になる。また、皮革様シート基体の表面を溶剤や熱により溶融する工程を立毛形成工程の前または後で施すことによって、毛羽の短いヌバック調外観や、スエード調と銀付調の中間的な外観を有する皮革様シートを得ることができる。
一方、本発明の皮革様シート基体は、その基体表面に樹脂の皮膜を形成する(以下、造面と称す)ことによって銀付調皮革様シートにすることができる。造面方法は、公知の湿式法、乾式法の他に、溶剤等で皮革様シート基体表面を溶解した後に、エンボス等で表面を平滑化あるいは表面に凹凸模様を付与する方法や、ポリウレタン等からなる不織布を皮革様シート基体表面に付与した後エンボス等で皮膜化する方法等公知の銀面層形成方法を用いることが可能であり、特に限定されるものではない。
造面に用いられる樹脂は、特に限定されるものではないが、該皮革様シート基体を構成する高分子弾性体樹脂と同種類の樹脂であることが好ましく、例えば高分子弾性体にポリウレタン樹脂を用いた場合には、ポリウレタン樹脂が用いられる。さらに造面する樹脂層の厚さは、10〜300μm程度であるのが風合や外観の点で好ましい。
このようにして得られたスエード調皮革様シートや銀付調皮革様シートは、特に衣料用素材として好適に用いられ、伸縮性に起因する着心地の良さと、良好なドレープ性によって、自然で優雅なシルエットを得ることができる。用途は、もちろん上記用途のみに限定されるものではない。
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。また、各物性は以下の方法により求めた。
[平均単繊維繊度]
複合紡糸繊維については、皮革様シート基体断面の電子顕微鏡写真(2000倍)から読み取った繊維束中の単繊維の径を平均し、その平均値から平均単繊維繊度(デシテックス)を計算した。また、混合紡糸繊維については、同様の写真から、確認できる島成分の数を数え、島成分組成量を島数で除して得た数値から平均単繊維繊度を計算した。
[繊維直径比(D1/D2)]
平均単繊維繊度の測定に用いた電子顕微鏡写真中の極細繊維束(A)断面において、一番太い繊維の直径をD1、一番細い繊維の直径をD2とし、D1/D2を求めた。
[破断強力、破断伸度、引裂強力]
JIS L−1079の5.12法により定められた方法にて測定した。
[弾性極細繊維の膠着性]
皮革様シート基体の断面を電子顕微鏡にて2000倍の倍率で写真撮影し、膠着の様子を観察した。また、応用例におけるスエード調皮革様シートについては表面、断面を同様に写真撮影して膠着の様子を観察した。
[外観、風合、ドレープ性、伸縮性]
人工皮革の製造に係る10名によって以下の判定基準により評価した。各特性の評価は、最も多い判定基準で表した。
A:良好
B:どちらともいえない
C:悪い
[30%伸長弾性回復率]
シートを元長さから30%伸長した後1分間静置し、その後応力を取り除き、3分後に伸ばした長さの回復率を測定した。縦、横方向の平均値を30%伸長弾性回復率とした。
紡糸例1
ポリウレタン(クラミロンU―3195:JIS A硬度=95、株式会社クラレ製)を島成分、ポリエチレン(FL60:三井化学株式会社製)を海成分とし、ニードルパイプ方式のノズルを用いた海島型複合紡糸によって、極細繊維発生型繊維(海成分/島成分=50/50(質量比),島数25)を得た。
これを70℃の温水中で2.5倍(最大延伸倍率の0.8倍)に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.0デシテックスのステープルとした。90℃熱水中での収縮率は45%であった。また、得られたステープルを90℃のトルエンに浸漬した後ハンドローラーで圧搾操作を数回繰り返して海成分を抽出除去し、極細繊維化した。極細繊維の平均単繊維繊度は0.08デシテックスであり、繊維直径比は1.2であった。
紡糸例2
ポリウレタン(クラミロンU―3193:JIS A硬度=93、株式会社クラレ製)を島成分、平均粒子径2μmのシリコーンパウダー(KMP−590:信越化学工業(株)製)とポリエチレン(FL60:三井化学株式会社製)のドライブレンド(シリコーンパウダー:ポリエチレン=1:100(質量比))を海成分とし、ニードルパイプ方式のノズルを用いた海島型複合紡糸によって、極細繊維発生型繊維(海成分/島成分=50/50(質量比),島数25)を得た。
これを70℃の温水中で2.5倍(最大延伸倍率の0.8倍)に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.0デシテックスのステープルとした。90℃熱水中での収縮率は43%であった。得られたステープルを紡糸例1と同様の操作にて極細繊維化した。極細繊維の平均単繊維繊度は0.08デシテックスであり、繊維直径比は1.2であった。
紡糸例3
ポリウレタン(クラミロンU−3185:JIS A硬度=85、株式会社クラレ製)を島成分として用いた以外は紡糸例1と同様にして、4.0デシテックスのステープルを得た。90℃熱水中での収縮率は42%であった。得られたステープルを紡糸例1と同様の操作にて極細繊維化した。極細繊維の平均単繊維繊度は0.08デシテックスであり、繊維直径比は1.1であった。
紡糸例4
ポリウレタン(クラミロンU―3197:JIS A硬度=97、株式会社クラレ製)とポリエチレン(FL60)のドライブレンド(50/50(質量比))を用いて混合紡糸を行い、ポリエチレンが海成分の極細繊維発生型繊維を得た。島数は約300程度であった。その後紡糸例1と同様にして、4.0デシテックスのステープルを得た。90℃熱水中での収縮率は27%であった。得られたステープルを紡糸例1と同様の操作にて極細繊維化した。極細繊維の平均単繊維繊度は0.007デシテックスであり、繊維直径比は10を超えていた。
紡糸例5
ナイロン−6とポリエチレンのドライブレンド(50/50(質量比))を用いて混合紡糸を行い、ポリエチレンが海成分の極細繊維発生型繊維を得た。ナイロンの島数は約600であった。これを70℃の温水中で2.5倍(最大延伸倍率の0.8倍)に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.0デシテックスのステープルを得た。90℃熱水中での収縮率は3%であった。得られたステープルを紡糸例1と同様の操作にて極細繊維化した。極細繊維の平均単繊維繊度は平均0.004デシテックスであった。
実施例1
紡糸例1、紡糸例5で得られたステープルをブレンダーにて質量比で50/50となるように混綿ブレンドした後、クロスラップ法で260g/m2のウェッブを形成した。ついで両面から交互に合わせて約2500パンチ/cm2ニードルパンチングした。その後、90℃の熱水中で収縮させ、さらに130℃での加熱乾燥直後にカレンダーロールでプレスすることで表面の平滑な絡合不織布を作製した。この絡合不織布の目付は535g/m2、見かけ比重は、0.48g/cm3であった。この絡合不織布に、ポリウレタンエマルジョン(ボンディック1310NSA:大日本インキ化学工業製)を含浸・乾燥凝固させたのち、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去し、高分子弾性体/繊維の質量比が10/90、目付498g/m2、見かけ比重0.45g/cm3、厚さ1.1mmの皮革様シート基体を得た。紡糸例1の極細繊維発生型繊維に由来する極細繊維束は、その内部に含まれるポリウレタン極細繊維同士が部分的に膠着した構造であり、皮革様シート基体は充分な力学強度を有していて、縦・横2方向への伸縮性も良好であった。
実施例2
紡糸例2、紡糸例5で得られたステープルを用いた以外は実施例1と同様にして絡合不織布を得た。絡合不織布の目付は550g/m2、見かけ比重は0.46g/cm3であった。この絡合不織布に実施例1と同様の処理を行い、高分子弾性体/繊維の質量比が10/90、目付504g/m2、見かけ比重が0.46g/cm3、厚さ1.1mmの皮革様シート基体を得た。紡糸例2の極細繊維発生型繊維に由来する極細繊維束に含まれる極細繊維間の所々にパウダーが存在し、膠着を妨げている様子が観察できたが、パウダーの存在しない部分では極細繊維同士が部分的に膠着していた。皮革様シート基体は充分な力学強度を有していて、縦・横2方向への伸縮性も良好であった。
比較例1
紡糸例3、紡糸例5で得られたステープルを用いた以外は、実施例1と同様にして表面の平滑な絡合不織布を作製した。この絡合不織布の目付は510g/m2、見かけ比重は、0.46g/cm3であった。この絡合不織布に、ウレタンエマルジョン(ボンディック1310NSA:大日本インキ化学工業製)を含浸・乾燥凝固させたのち、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去し、高分子弾性体/繊維の質量比が10/90、目付525g/m2、見かけ比重0.48g/cm3、厚さ1.1mmの皮革様シート基体を得た。紡糸例3の極細繊維発生型繊維に由来する極細繊維束内では、極細繊維間の膠着が激しく、一体化して太い1本の繊維のようになっている様子が観察された。一体化した繊維は、これと交差する他の繊維束とも部分的に膠着している様子も観察された。得られた皮革様シート基体の縦・横2方向への伸縮性は充分だったが、引裂強力が劣っていた。
比較例2
紡糸例4、紡糸例5で得られたステープルを用いた以外は、実施例1と同様にして表面の平滑な絡合不織布を作製した。この絡合不織布の目付は440g/m2、見かけ比重は、0.39g/cm3であった。この絡合不織布に、ウレタンエマルジョン(ボンディック1310NSA:大日本インキ化学工業製)を含浸・乾燥凝固させたのち、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去し、高分子弾性体/繊維の質量比が20/80、目付449g/m2、見かけ比重0.41g/cm3、厚さ1.1mmの皮革様シート基体を得た。紡糸例4の極細繊維発生型繊維に由来する極細繊維束内では、極細繊維間の膠着が激しく、一体化して太い1本の繊維のようになっている様子が観察できた。一体化した繊維とこれに交差する他の繊維束との膠着は見られなかった。得られた皮革様シート基体は充分な力学物性を有しているが、縦・横2方向への伸縮性が劣っていた。
比較例3
紡糸例5で得られたステープルのみを用いた以外は、実施例1と同様にして表面の平滑な絡合不織布を作製した。この絡合不織布の目付は384g/m2、見かけ比重は、0.32g/cm3であった。この絡合不織布に、ウレタンエマルジョン(ボンディック1310NSA:大日本インキ化学工業製)を含浸・乾燥凝固させたのち、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去し、高分子弾性体/繊維の質量比が30/70、目付450g/m2、見かけ比重0.41g/cm3、厚さ1.1mmの皮革様シート基体を得た。極細繊維束に含まれる極細繊維間に膠着がほとんどない様子が観察できた。得られた皮革様シート基体の力学物性は充分であるが、縦・横2方向への伸縮性はほとんどなかった。
実施例3
実施例1で得られた皮革様シート基体を表面と平行にスライスして、0.5mmの厚さの皮革様シート薄体を得た。スライス面とは反対の表面を400番手のペーパーにてバフィングして立毛した後、以下に示す染色条件にて染色を施した。表面の立毛部を構成するポリウレタン極細繊維の膠着は見られず高級感のある緻密な外観を有するスエード調皮革様シートが得られた。縦・横2方向への伸縮性とドレープ性も良好であった。
染色条件
染色:ウインス染色機、90℃×40分、
染料:Irgalan Brown 2GL(チバガイギー製)1%owf
比較例4
比較例1で得られた皮革様シート基体を実施例3と同様の操作を行いスエード調皮革様シートを得た。表面の立毛部を構成するポリウレタン極細繊維は膠着一体化して太い繊維となり、タッチがざらざらとした感触となり、外観上も色ムラがあり、高級感にかけるものであった。また、縦・横2方向への伸縮性はあったが、若干の反発感があり、ドレープ性に劣るものであった。
実施例4
実施例2で得られた皮革様シート基体を用い、以下の処方によって作成した銀面層を貼り合わせる乾式法によって銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートは柔軟で、伸縮性に富む表情豊かな皮革様シートとなった。
トップ層
ハイドランWLS−210(大日本インキ化学工業製) 100質量部
ハイドランアシスターW1(同上) 0.2質量部
ダイラック HS−9510(同上) 10質量部
ハイドランアシスターT3(同上) 0.6質量部
ハイドランアシスターC6(同上) 4質量部
接着層
ハイドランWLA−311(同上) 100質量部
ハイドランアシスターW1(同上) 0.2質量部
ハイドランアシスターT3(同上) 1.3質量部
ハイドランアシスターC5(同上) 10質量部
トップ層は、粘度6000mPa・sの配合液を離型紙上にウエット基準で80g/m2塗布して100℃で5分間の乾燥させて得た。さらに粘度4000mPa・sの配合液をトップ層上にウエット基準で150g/m2塗布し、70℃で4分間熱風乾燥して接着層を形成した。前記トップ層を接着層を介して皮革様シート基体にドライラミネートした後、120℃で2分間のキュアリングを行い銀付調皮革様シートを得た。
実施例および比較例の結果を下記第1及び2表に示した。
Figure 0004429751
Figure 0004429751

Claims (7)

  1. JIS A硬度が90〜97である弾性ポリマーからなり、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下である極細繊維が10〜100本の範囲で集合して形成された極細繊維束(A)と、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維から形成された極細繊維束(B)が、(A)/(B)=30/70〜70/30の質量比率で混綿されてなる絡合不織布と、その内部に含有された高分子弾性体からなることを特徴とする皮革様シート基体。
  2. 皮革様シート基体内部の極細繊維束(A)に含まれる極細繊維が部分的に膠着していることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート基体。
  3. 少なくとも極細繊維束(A)に含まれる極細繊維の繊維間に、平均粒子径が0.1〜5μmのパウダーが存在していることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート基体。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シート基体からなることを特徴とするスエード調皮革様シート。
  5. 極細繊維束(A)に含まれる極細繊維からなる立毛単繊維が互いに実質的に膠着していないことを特徴とする請求項4に記載のスエード調皮革様シート。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シート基体からなることを特徴とする銀付調皮革様シート。
  7. 少なくとも下記(1)〜(6)の工程:
    (1)JIS A硬度が90〜97である弾性ポリマーからなり、平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下である極細繊維が10〜100本集合して形成される極細繊維束(A)を発生させる極細繊維発生型繊維(A’)を製造する工程、
    (2)平均単繊維繊度が0.5デシテックス以下の非弾性ポリマーからなる極細繊維により形成される極細繊維束(B)を発生させる極細繊維発生型繊維(B’)を製造する工程、
    (3)極細繊維発生型繊維(A’)と、極細繊維発生型繊維(B’)を、極細繊維化後の質量比が(A)/(B)=30/70〜70/30となるように混綿してウェブを形成し、三次元絡合させ、絡合不織布(A)を得る工程、
    (4)絡合不織布(A)を85℃以上で加熱収縮させて絡合不織布(B)とする工程、
    (5)絡合不織布(B)の内部に高分子弾性体を含有させる工程、および
    (6)極細繊維発生型繊維(A’)と極細繊維発生型繊維(B’)を極細繊維化して極細繊維束(A)と極細繊維束(B)とする工程、
    を含むことを特徴とする皮革様シート基体の製造方法。

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