JP2007204863A - ヌバック調人工皮革の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ヌバック調の毛羽感と天然皮革調の微細なシワ感を併せ持つヌバック調人工皮革の製造方法を提供する。
【解決手段】 平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexの極細繊維aからなるウェブと平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bからなるウェブが絡合一体化された不織布の内部に高分子弾性体が含有された基材の極細繊維aからなるウェブの表面を起毛処理した後、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックス処理を行うことを特徴とするヌバック調人工皮革の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】 平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexの極細繊維aからなるウェブと平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bからなるウェブが絡合一体化された不織布の内部に高分子弾性体が含有された基材の極細繊維aからなるウェブの表面を起毛処理した後、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックス処理を行うことを特徴とするヌバック調人工皮革の製造方法。
【選択図】 なし
Description
本発明は、緻密な毛羽感と微細なシワ感を有するヌバック調人工皮革の製造方法に関するものである。
ヌバック調の人工皮革の製造に際しては、表面に緻密な繊維層を存在させる必要性から、低繊度の極細繊維を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、低繊度の極細繊維を単独でシート状にした場合には、単繊維の弾性率が小さいことに起因して、厚み保持効果が小さく、人工皮革とした場合に風合いがペーパーライクとなってしまう傾向があった。
また、天然皮革に類似した風合いの人工皮革を製造する方法として、低繊度極細繊維よりなる人工皮革基材と、それよりも繊度は大きいものの風合いの良好な人工皮革基材とを貼り合わせ、グラデーション構造とする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法により風合いの良好なヌバック調人工皮革を得ることができるが、表面に、ヌバック調の毛羽感と天然皮革調の微細なシワ感を兼ね備えることは困難であった。
また、天然皮革に類似した風合いの人工皮革を製造する方法として、低繊度極細繊維よりなる人工皮革基材と、それよりも繊度は大きいものの風合いの良好な人工皮革基材とを貼り合わせ、グラデーション構造とする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法により風合いの良好なヌバック調人工皮革を得ることができるが、表面に、ヌバック調の毛羽感と天然皮革調の微細なシワ感を兼ね備えることは困難であった。
本発明の課題は、これまで製造が困難であったヌバック調の毛羽感と天然皮革調の微細なシワ感を併せ持つヌバック調人工皮革の製造方法を提供することにある。
上記課題を達成すべく本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexの極細繊維aからなるウェブと平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bからなるウェブが絡合一体化された不織布の内部に高分子弾性体が含有された基材の極細繊維aからなるウェブの表面を起毛処理した後、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックッス処理を行うことを特徴とするヌバック調人工皮革の製造方法である。
すなわち、本発明は、平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexの極細繊維aからなるウェブと平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bからなるウェブが絡合一体化された不織布の内部に高分子弾性体が含有された基材の極細繊維aからなるウェブの表面を起毛処理した後、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックッス処理を行うことを特徴とするヌバック調人工皮革の製造方法である。
本発明のヌバック調人工皮革の製造方法によれば、ヌバック調の毛羽感と天然皮革調のシワ感を併せ持つヌバック調人工皮革を得ることができる。得られたヌバック調人工皮革は、天然皮革調の緻密性と充実感のある風合いを有し、機械的性能に優れ、更に柔軟特性及び審美性に優れたものである。
本発明を達成するための具体的な手段を以下に示す。
先ず平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexを満足する極細繊維aを形成しうる極細繊維発生型繊維(a0)および平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bを形成しうる極細繊維発生型繊維(b0)の2種の繊維を製造し、これらをそれぞれステープル化した後原綿とし、シート状に配列したウェブを製造する。さらに、極細繊維発生型繊維(a0)よりなるウェブと、極細繊維発生型繊維(b0)よりなるウェブを一定の比率で積層し、絡合一体化して不織布とする。
次いで、得られた不織布に高分子弾性体を付与し、その後不織布を構成する極細繊維発生型繊維(a0)および極細繊維発生型繊維(b0)を極細繊維化して、それぞれを極細繊維aおよび極細繊維bからなる人工皮革基材とする。
さらに、得られた基材の極細繊維aからなるウェブ側の表面を好ましくは公知の方法により平滑化後、起毛処理する。その後以下の特定条件にてリラックス処理を行いヌバック調人工皮革とする。なお、リラックス処理は、染色処理をかねても良い。リラックス処理に関しては、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックッス処理することが重要であり、該リラックス処理を行うことによってヌバック調人工皮革の表面に微細なシワの付与を行うことが可能となる。
先ず平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexを満足する極細繊維aを形成しうる極細繊維発生型繊維(a0)および平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bを形成しうる極細繊維発生型繊維(b0)の2種の繊維を製造し、これらをそれぞれステープル化した後原綿とし、シート状に配列したウェブを製造する。さらに、極細繊維発生型繊維(a0)よりなるウェブと、極細繊維発生型繊維(b0)よりなるウェブを一定の比率で積層し、絡合一体化して不織布とする。
次いで、得られた不織布に高分子弾性体を付与し、その後不織布を構成する極細繊維発生型繊維(a0)および極細繊維発生型繊維(b0)を極細繊維化して、それぞれを極細繊維aおよび極細繊維bからなる人工皮革基材とする。
さらに、得られた基材の極細繊維aからなるウェブ側の表面を好ましくは公知の方法により平滑化後、起毛処理する。その後以下の特定条件にてリラックス処理を行いヌバック調人工皮革とする。なお、リラックス処理は、染色処理をかねても良い。リラックス処理に関しては、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックッス処理することが重要であり、該リラックス処理を行うことによってヌバック調人工皮革の表面に微細なシワの付与を行うことが可能となる。
以下、本発明について詳述する。本発明で製造するヌバック調人工皮革の表面側に位置する極細繊維aは、0.0001dtex以上0.004dtex以下であることが必要である。0.0001dtex未満では、繊維の破断強力が低下し、層の剥離強力や破断強力が低下する傾向があり、さらに染色後の発色性が劣る問題がある。また、0.004dtexを越えると、起毛処理による繊維が切れ難く素抜けやすいことから長毛の立毛面となり、ヌバック調の短毛外観が得られない。更に立毛面の触感がざらつくとともに、きめの細かい光沢が得られず、外観が低下する。
本発明で製造するヌバック調人工皮革の裏面側を構成する極細繊維bの平均短繊維繊度Dbは、0.0001<Da/Db<1を満たすことが必要である。Da/Dbが1以上では、シート全体が低繊度繊維で構成されるようになるため、厚み方向に繊度の勾配が顕著にならず、微細な表面シワが得られない。また、工程通過時におけるシートの厚み保持性が劣るため、製品の風合いがペーパーライクとなってしまう問題がある。また、Da/Dbが0.0001以下では、単繊維が剛直となる影響でシート全体の風合いがしなやかさに欠けるものとなり、また、表層に繊維bが突き出した際、大きな欠点となる問題がある。そして、0.001<Da/Db<0.5であることが好ましく、0.01<Da/Db<0.5であることが一体感のある風合が得られる点でより好ましい。
さらに、極細繊維aと極細繊維bはウェブの段階で絡合一体化されることが必要である。原綿段階で極細繊維aと極細繊維bを混合したウェブを経由した場合、あるいはそれぞれのウェブを別々に絡合することによって不織布とし、高分子弾性体を含浸後にそれぞれの不織布を貼り合せた場合には、本発明の方法にてリラックス処理を行っても本発明の目的である天然皮革調の微細なシワが発現しない。
本発明者らは、この理由として、積層するそれぞれのウェブを構成する繊維の繊度が特定の比率となるよう明確に差をつけたことと、それぞれのウェブの積層面においてそれぞれのウェブを構成する繊維同士が絡み合うことでリラックス処理時に微細なシワが発現しやすい構造になっていると推定している。
本発明者らは、この理由として、積層するそれぞれのウェブを構成する繊維の繊度が特定の比率となるよう明確に差をつけたことと、それぞれのウェブの積層面においてそれぞれのウェブを構成する繊維同士が絡み合うことでリラックス処理時に微細なシワが発現しやすい構造になっていると推定している。
本発明の極細繊維の製造方法としては、公知の方法を用いることが可能である。例えば、相溶性を有しておらず、溶解性または分解性の異なる2種類以上のポリマーを使用して混合紡糸法や複合紡糸法等の紡糸方法により、断面形状が海島構造や分割可能な貼合せ構造となっている極細繊維発生型繊維を得て、そしてその繊維の一部(例えば海成分)を抽出または分解除去して極細繊維とする方法、あるいは貼合せ部を剥離して極細繊維とする方法や、立毛構造を有するシートを形成した後に繊維の一部(たとえば海成分)を抽出または分解除去して極細繊維とする方法や、溶融紡糸ノズルから繊維形成性ポリマーを吐出した直後に高速気体で吹き飛ばし繊維を細くする、いわゆるメルトブロー法を用いることができるが、好ましくは繊維太さの管理や極細繊維の安定性から、上記極細繊維発生型繊維を経由する方法を用いる。
極細繊維を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、さらにこれらを主体とする共重合ポリエステル等の芳香族ポリエステル類や、ナイロン−6,ナイロン−66,ナイロン−610等のポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類など公知の樹脂から選ばれたポリマーが挙げられる。なかでも、上記芳香族ポリエステル類や、ポリアミド類が天然皮革調の人工皮革が得られ、染色性も優れていることなどの点で好ましい。また、これらの樹脂には、紡糸の際の安定性を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤を添加してもよい。
また極細繊維発生型繊維を構成する抽出除去または分解除去される樹脂成分の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレン−アクリル系モノマー共重合体、スチレン−エチレン共重合体、共重合ポリエステル等のポリマーおよびポリビニルアルコールから選ばれた少なくとも1種のポリマーが挙げられる。なかでも、ポリエチレンやポリスチレンまたはこれらを主体とする共重合体等が抽出の容易さの点で好ましい。
次に上記極細繊維または極細繊維発生型繊維を用いて基材を形成する方法について説明する。例えば極細繊維発生型繊維からなる不織布を製造する工程、その不織布に高分子弾性体溶液を含浸・凝固する工程、極細繊維発生型繊維を極細繊維に変性する工程を順次行うことにより達成できる。もちろん極細繊維に変性する工程と高分子弾性体を含浸・凝固させる工程を逆転させてもよい。
極細繊維発生型繊維を用いて不織布を製造する方法としては、極細繊維発生型繊維を、従来公知の方法により、紡糸、延伸、熱処理、捲縮、カット等の処理を行って、同繊維の原綿を作製し、かかる原綿を、カードで解繊し、ウェーバーでランダムウェブまたはクロスラップウェブに形成する。得られたウェブを必要に応じて積層し、所望の目付けのウェブにする。
本発明では、極細繊維aを形成しうる極細繊維発生型繊維(a0)からなるウェブおよび極細繊維bを形成しうる極細繊維発生型繊維(b0)からなるウェブを、極細繊維aが最終的にヌバック調人工皮革の表面側になるように積層する。具体的には、極細繊維発生型繊維(a0)からなるウェブを表面側に、極細繊維発生型繊維(b0)からなるウェブを裏面側になるように配置するか、後工程で厚さ方向に分割することを考慮して、極細繊維発生型繊維(b0)のウェブを極細繊維発生型繊維(a0)のウェブで挟みこむように配置する方法が挙げられる。ウェブの積層比率は、所望の最終構成比率、後工程での研削厚み等から逆算して任意に決定することが出来るが、微細なシワを発現させるためには最終製品における極細繊維aと極細繊維bの質量比が5/95〜70/30の範囲にあることが好ましく、10/90〜60/40の範囲がより好ましい。極細繊維aが5%未満では微細なシワが発現しにくく、極細繊維bが表面に突き抜けやすく外観が損なわれる場合がある。70%を超えると極細繊維bからなるウェブの影響が弱くなり微細なシワが発現し難い。
ウェブの目付けの総計は、目的とする最終的な用途分野に応じて適宜選択されるが、工程通過性の面からは100〜3000g/m2の範囲が好ましい。ウェブの積層に次いで公知の手段、たとえばニードルパンチング法や高圧水流噴射法等を用いて絡合処理を施して、不織布を形成する。この際、裏面側にあたる極細繊維発生型繊維(b0)の繊維が多く表面に露出するとヌバック調外観を損なうことになるため、絡合度合いとの兼ね合いより、例えば、ニードルのバーブが極細繊維発生型繊維(b0)の繊維が極細繊維発生型繊維(a0)からなるウェブを貫通しないようにニードルの突き刺し深さ等の条件を適宜調整することが好ましい。
不織布は、高分子弾性体の含有処理に先立って、必要に応じて熱プレスなどの公知の方法により表面の平滑化処理を行うこともできる。不織布を構成する繊維が、たとえばポリエチレンを海成分とし、ポリエステルやポリアミドを極細の島成分とする海島型極細繊維発生型繊維である場合には、熱プレスにより海成分のポリエチレンを溶融させ、繊維同士を接着させることにより極めて表面平滑性に優れた不織布とすることが出来るので特に好ましい。また不織布を構成する繊維が一成分を溶解除去して極細繊維に変性することのできる多成分繊維でない場合には、含有させる高分子弾性体が繊維に固着して風合いが硬くなることを防止するために、含浸処理に先立ってポリビニルアルコールなどの仮充填物質で繊維表面を覆っておき、高分子弾性体を付与した後に仮充填物質を除去することが好ましい。また極細化工程を高分子弾性体の含浸・凝固工程の後に行う場合にも、不織布の段階で仮充填物質を付与することにより、より柔軟なシートとすることができる。
次に不織布に含有させる高分子弾性体としては、公知のものが使用できるが、風合いの点からポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。好ましいポリウレタン樹脂としては、ソフトセグメントとして、ジオールとジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とを反応させて得られるポリエステル系ジオール、ポリラクトン系ジオール、ポリカーボネート系ジオール、ポリエーテル系ジオール等からなる群から選ばれた数平均分子量が500〜5000の少なくとも1種類のポリマージオールを使用し、これとジイソシアネート化合物と低分子鎖伸長剤とを反応させて得られる、いわゆるセグメント化ポリウレタンが挙げられる。
ソフトセグメントを構成する上記ジオール化合物としては、耐久性あるいは皮革様の風合いの点で炭素数6以上10以下の化合物が好ましく、たとえば、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどが挙げられる。ジカルボン酸の代表例としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
ポリマージオールの数平均分子量が500未満の場合には、柔軟性に欠け、天然皮革様の風合いが得られないため好ましくない。またポリマージオールの数平均分子量が5000を越える場合には、ウレタン基濃度が減少するため柔軟性及び耐久性、耐熱性、耐加水分解性においてバランスのとれたものが得られにくい。
ジイソシアネート化合物としては、例えばジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート等で代表されるの芳香族系、脂肪族、脂環族系のジイソシアネート化合物が挙げられる。また低分子鎖伸長剤としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、N−メチルジエタノールアミン、エチレンジアミンなどの分子量が300以下の活性水素原子を2個有する低分子化合物が挙げられる。また必要に応じて、高分子弾性体には、凝固調節剤、安定剤などを添加してもよく、更に2種以上のポリマーを併用しても構わない。さらに、カーボンブラックなどの着色剤を添加してもよい。
不織布に高分子弾性体を含有させる方法については特に限定されるものではないが、風合いのバランスの点から不織布に高分子弾性体溶液を直接含浸させ、必要によりマングルで絞る方法や、高分子弾性体溶液をコーターでコーティングしながらしみ込ませる方法などが好ましい。また天然皮革様の柔軟な風合いの点から、不織布を構成する繊維(極細繊維発生型繊維の場合には極細繊維化処理後の繊維)と高分子弾性体との質量比率は、20/80〜95/5の範囲が好ましく、更に好ましくは25/75〜90/10の範囲内である。繊維の比率が低くなりすぎると、人工皮革がゴムライクな風合いとなり好ましくなく、繊維の比率が高くなりすぎるとペーパーライクな風合いになるため、目標とする天然皮革様の風合いが得られない。
不織布に高分子弾性体を含有させた後に、高分子弾性体及び極細繊維発生型繊維の島成分に対しては非溶剤で、かつ海成分に対しては溶剤または分解剤として働く液体で処理することにより極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変換し、極細繊維不織布と高分子弾性体からなるシートとする。もちろん、高分子弾性体を含有させるのに先立って、極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変性する方法を用いてシートとすることもできる。
得られた極細繊維の不織布と高分子弾性体からなる基材表面の起毛処理は、バフィング、整毛等の公知の方法により行うことができる。起毛する毛羽長は、触感や光沢等の外観に影響するため、バフィングや整毛の条件、例えばバフィングに用いるサンドペーパーの番手や、削る速度、押し当てる圧力等を調整することにより、好みの毛羽長を得ることができる。ヌバック調の外観を得るためには、本発明の極細繊維aの繊度範囲で、且つバフィングを通常スエード調仕上げに適用する条件よりも高回転速で行う等の条件を採用することが、出来るだけ短毛にしやすい点で好ましい。
このようにして得られたヌバック調人工皮革を、リラックス処理する必要があるが、リラックスの処理機としては特に限定することはなく、公知の染色機が好ましく用いられる。例えば、ウインス染色機やサーキュラー染色機等を用いることで、リラックスと染色処理を同時に行う点、リラックス処理時の熱及び物理的接触によって表面に微細なシワが発現しやすい点でより好ましく用いられる。また、ヌバック調外観を得るための最終的な毛羽長調整工程は、染色工程後に行ってもよい。
次にリラックッスの処理条件に関しては、得られたヌバック調人工皮革を40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上の温度に昇温し、処理温度60℃以上、好ましくは、80℃以上の温度で60分以上、好ましくは120分以下の処理時間でリラックッス処理を行うことにより微細なシワの付与を行うことができる。いきなり40℃以上の浴中に投入した場合、あるいは昇温速度が2℃/分より大きい場合には、微細なシワの出方に斑が発生し、粗いシワになりやすく、また染色処理を同時に行った場合、染色斑が発生するおそれがある。また、60℃未満の温度で60分未満のリラックッス処理では、微細なシワが発現し難い。本発明の条件でリラックスを行うことによって、厚み方向に存在するそれぞれのウェブを構成する繊維の繊度の違いによる適度な収縮差等で代表される繊維の動きの差が充分に起こらないため微細なシワが発現しないと推定している。
また、前述したような極細繊維aから構成された不織布からなる基材と、別に極細繊維bから構成されたウェブからなる基材を別々に製造したのちに、接着によりそれら基材を貼り合わせて類似の構成とした場合には、微細なシワの発現は見られないことから、高分子弾性体相が厚さ方向に一様の硬さで連続していることと本発明の特定の繊度からなる極細繊維aのウェブと本発明の特定の繊度からなる極細繊維bのウェブが絡合一体化されていることが必要である。
以上のように、極細繊維aからなるウェブと極細繊維bからなるウェブの積層、絡合一体化により構成される人工皮革において、それぞれのウェブの厚さに関しては、互いの繊維が互いのウェブに入り込むこともあって明確に区分できないが、衣料用途には、極細繊維aを主体とするウェブ層(A)が0.1〜0.6mm、極細繊維bを主体とするウェブ層(B)が0.3〜0.85mm、積層したスエード調人工皮革が0.4〜1mm程度の厚さが好適に用いられる。また、極細繊維aを主体とするウェブ層(A)/極細繊維bを主体とするウェブ層(B)の厚さ比が(A)/(B)=25/75〜60/40が好ましい。
また、微細なシワの発現は、起毛処理の前後で、最表面への水系エマルジョン塗布や、最表面の高分子弾性体を一旦溶解させるための溶剤塗布によって、シート最表面を僅かに硬化させることで強調することが出来る。
水系エマルジョン塗布の具体例としては、例えば、スーパーフレックスE−2000(第一工業製薬)を固形分15%に調整した液をグラビア塗布すること、溶剤塗布の具体例としては、例えばDMF/シクロヘキサノン=5質量%/95質量%の混合溶剤をグラビア塗布することが挙げられる。但し、過剰に塗布するとヌバック調の立毛外観や表面タッチが損なわれるため、ウェットで10g/m2以下が好ましく、5g/m2以下がより好ましい。
水系エマルジョン塗布の具体例としては、例えば、スーパーフレックスE−2000(第一工業製薬)を固形分15%に調整した液をグラビア塗布すること、溶剤塗布の具体例としては、例えばDMF/シクロヘキサノン=5質量%/95質量%の混合溶剤をグラビア塗布することが挙げられる。但し、過剰に塗布するとヌバック調の立毛外観や表面タッチが損なわれるため、ウェットで10g/m2以下が好ましく、5g/m2以下がより好ましい。
このようにして得られたヌバック調人工皮革は、衣料、小物、インテリア等の素材として好適に用いることができる。
実施例
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の部はことわりのない限り、質量に関するものである。また極細繊維の平均単繊維繊度は抽出後に得られる繊維束の断面を顕微鏡写真で撮影し、繊維束中の極細繊維を任意に20本を選び実測し、最大と最小を除く18本の平均により求めたものである。
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の部はことわりのない限り、質量に関するものである。また極細繊維の平均単繊維繊度は抽出後に得られる繊維束の断面を顕微鏡写真で撮影し、繊維束中の極細繊維を任意に20本を選び実測し、最大と最小を除く18本の平均により求めたものである。
溶融温度270℃でのMFRが30g/10分のナイロン−6と31g/10分のポリエチレンをチップの状態で50:50の質量比で混合して押出機により溶融紡糸を行い、ポリエチレンが海成分でナイロンー6が島成分である海島断面を有する混合紡糸繊維を紡糸し、延伸、捲縮、カットして4dtex、51mm長の極細繊維発生型繊維(a0)からなる短繊維(a0)を作製した。
また、溶融温度270℃でのMFRが3.0g/10分のナイロン−6と3.2g/10分のポリエチレンをチップの状態で50:50の質量比で混合して押出機により溶融紡糸を行い、ポリエチレンが海成分でナイロンー6が島成分である海島断面を有する混合紡糸繊維を紡糸し、延伸、捲縮、カットして4dtex、51mm長の極細繊維発生型繊維(b0)からなる短繊維(b0)を作製した。
また、溶融温度270℃でのMFRが3.0g/10分のナイロン−6と3.2g/10分のポリエチレンをチップの状態で50:50の質量比で混合して押出機により溶融紡糸を行い、ポリエチレンが海成分でナイロンー6が島成分である海島断面を有する混合紡糸繊維を紡糸し、延伸、捲縮、カットして4dtex、51mm長の極細繊維発生型繊維(b0)からなる短繊維(b0)を作製した。
上記2種の短繊維を用いて、ウェーバーでそれぞれクロスラップウェブとし、短繊維(a0)からなるウェブと、短繊維(b0)からなるウェブを極細繊維aと極細繊維bの目付比で1/2となるように積層した後、ニードルパンチング機を用いて700パンチ/cm2のニードルパンチングを施して目付407g/m2の不織布を得た。この不織布にポリ3メチルペンタンアジペート/ポリエチレングリコール共重合系ポリウレタン樹脂のジメチルホルムアミド溶液を含浸し、湿式凝固させた後、繊維の海成分であるポリエチレンを85℃のトルエンで抽出し、目付299g/m2、厚み0.7mm、ポリウレタン樹脂と繊維の比率が61/39の基材を得た。
得られた基材のうち主に極細繊維aから構成された面をサンドペーパーにて起毛処理を行い極細繊維aからなる立毛表面を有したヌバック調人工皮革を得た。さらにウインス染色機を用いて20℃の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で昇温することで温度60℃とし、含金染料で適宜色目を調整しながら60℃以上で100分間リラックス処理と同時に染色し、ヌバック調人工皮革を得た。評価を表1に示す。
比較例1
実施例1において、極細繊維bの平均単繊維繊度が0.0003dtexとなるように紡糸条件を調整するほかは、同様の方法によりヌバック調人工皮革を製造した。得られたヌバック調人工皮革は、良好なヌバック感を有していたが、微細なシワ感に乏しいものであった。また、極細繊維化の際の厚さ保持が充分でなく、結果としてペーパーライクな風合いのものであった。
実施例1において、極細繊維bの平均単繊維繊度が0.0003dtexとなるように紡糸条件を調整するほかは、同様の方法によりヌバック調人工皮革を製造した。得られたヌバック調人工皮革は、良好なヌバック感を有していたが、微細なシワ感に乏しいものであった。また、極細繊維化の際の厚さ保持が充分でなく、結果としてペーパーライクな風合いのものであった。
比較例2
実施例1において、極細繊維aの平均単繊維繊度が0.06dtex、極細繊維bの平均単繊維繊度が0.1dtexとなるように紡糸条件を調整するほかは、同様の方法によりヌバック調人工皮革を製造した。得られたヌバック調人工皮革は、良好な風合いおよびシワ感を有していたが、表面の立毛繊維の繊度が大きいため粗い面感のものであり、また立毛繊維が素抜けた状態の繊維を含みヌバック調とはいえないものであった。
実施例1において、極細繊維aの平均単繊維繊度が0.06dtex、極細繊維bの平均単繊維繊度が0.1dtexとなるように紡糸条件を調整するほかは、同様の方法によりヌバック調人工皮革を製造した。得られたヌバック調人工皮革は、良好な風合いおよびシワ感を有していたが、表面の立毛繊維の繊度が大きいため粗い面感のものであり、また立毛繊維が素抜けた状態の繊維を含みヌバック調とはいえないものであった。
比較例3
実施例1の2種の短繊維を用いて、別々に基材を作成し、それぞれ0.4mmに厚さ調整したのちに、ポリウレタン接着剤を用いて貼り合せた。これを染色して得られたものは、ヌバック感と風合いは良好であったが、自然で微細なシワ感には欠けるものであった。
実施例1の2種の短繊維を用いて、別々に基材を作成し、それぞれ0.4mmに厚さ調整したのちに、ポリウレタン接着剤を用いて貼り合せた。これを染色して得られたものは、ヌバック感と風合いは良好であったが、自然で微細なシワ感には欠けるものであった。
本発明の人工皮革は、ヌバック調の高級な外観を有し、かつ天然皮革に類似した柔らかな風合い、タッチ感、さらに天然皮革調の自然な表面シワ感を兼ね備えた表面立毛を有する人工皮革であり、衣料、小物、インテリア等の素材として好適に用いることができる。
Claims (1)
- 平均単繊維繊度Daが0.0001〜0.004dtexの極細繊維aからなるウェブと平均単繊維繊度Dbが0.0001<Da/Db<1を満足する極細繊維bからなるウェブが絡合一体化された不織布の内部に高分子弾性体が含有された基材の極細繊維aからなるウェブの表面を起毛処理した後、40℃以下の水浴中に一旦投入し、次いで2℃/分以下の速度で60℃以上に昇温し、60℃以上の温度で60分以上リラックス処理を行うことを特徴とするヌバック調人工皮革の製造方法。
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WO2023120584A1 (ja) | 2021-12-24 | 2023-06-29 | 旭化成株式会社 | 人工皮革及びその製法 |
-
2006
- 2006-01-31 JP JP2006022719A patent/JP2007204863A/ja not_active Withdrawn
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