JP4495874B2 - 分割性中空ポリエステル繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的応力を作用させることにより容易に分割させることのできる、分割性中空ポリエステル繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、極細繊維は市場の要求が強く、その製造方法については数多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、互いに非相溶である2種類のポリマーを混合紡糸した後、一方の成分を溶出除去する方法(特公昭42−19518号公報)、互いに非相溶である2種類のポリマーを海島状又は放射状もしくは層状の交互積層構造に複合紡糸した後、一方の成分を溶出除去する方法(特公昭47−30723号公報、特開平4−153321号公報など)、2種以上のポリマーを放射状又は層状に交互積層した複合繊維を、熱膨張、収縮特性の差や、機械的衝撃力により分割させる方法(特開昭62−133164号公報)、ポリマー中に適当な添加剤を入れて中空繊維となした後、アルカリ減量処理などを施すことにより、中空部が形成されるときに接合したポリマー間で剥離させる方法(特開平8−325945号公報、特開平8−260343号公報)等が提案されている。
【0004】
しかし、従来提案されている上記の分割方式または一成分を溶出除去する方式で極細繊維を得る方法では、複数のポリマーを複雑な紡糸口金を用いて紡糸する必要があったり、分割性が低かったり、カード通過性が不十分であったり、さらには溶剤溶出やアルカリ減量処理が必要であったりするため、幅広い分野で使用するのには限界があり、極細繊維を効率よく製造するのが難しい。
【0005】
これに対して、特開2000−17519号公報には、スルホン酸塩基共重合エチレンテレフタレート系ポリエステルからなる中空ポリエステル繊維で、繊度が0.5〜8.0デニール、中空率が25%以上、結晶化度が20%以上、(010)面の結晶サイズが4nm以上あり、繊維軸方向に配列した複数の不連続孔を有する分割性中空ポリエステル繊維が提案されている。このポリエステル繊維は、複雑な口金を用いることなく製糸でき、機械的応力を作用させることで容易に分割できるため溶出処理なども不要であり、しかもカード通過性にも優れている。このため、かかる中空ポリエステル繊維からは従来に比べ極細繊維またはそれからなる繊維製品を容易にしかも効率良く製造することが可能である。
【0006】
しかしながら、上記のように繊維の微細構造までコントロールしようとすれば、製造工程が煩雑になり、実際の生産においては繊維物性の管理が大変となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、より簡単に製造でき、しかも上記分割性中空ポリエステル繊維と同様の効果が得られる分割性中空ポリエステル繊維を提供することを狙いとする。すなわち本発明は、結晶構造や結晶サイズといった繊維微細構造のコントロールを必要とせず、カード通過性に優れると共に、機械的応力によって容易に分割して極細繊維化することができる分割性中空ポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者の研究によれば、上記目的は、スルホン酸塩基を有する共重合成分が全酸成分に対して1〜10モル%共重合されたエチレンテレフタレート系ポリエステルに、乳酸系ポリエステルを0.1〜10重量%含有させたポリエステル組成物からなり、中空率が15%以上である分割性中空ポリエステル繊維により達成されることが見出だされた。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の中空ポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とし、スルホン酸塩基を有する共重合成分が全酸成分を基準として1〜10モル%、好ましくは2〜8モル%共重合されたエチレンテレフタレート系ポリエステルからなることが必要である。スルホン酸塩基を有する共重合成分の量が1モル%未満の場合には、機械的応力を作用させても中空壁の分割が起こりがたく、極細繊維化することができなくなる。一方、該共重合成分の量が10モル%を越える場合には、製糸時の工程安定性が低下するので好ましくない。
【0010】
好ましく用いられるスルホン酸塩基を有する共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸等をあげることができ、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲内で上記以外の共重合成分を共重合してもよく、通常その割合は全酸成分を基準として10モル%以下である。共重合し得る成分としては、例えば酸成分としてイソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族ジカルボン酸、パラヒドロキシ安息香酸、4−(β−ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸があげられ、またジオール成分としては、1,3−プロパンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族ジオール、ポリエチレチングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール等があげられる。なおこれらの成分は、単独で共重合させても2種以上を同時に共重合させてもよい。
【0012】
また、上記ポリエステルの重合度(固有粘度)は、大きくなりすぎると紡糸時の工程安定性が低下して細繊度のものが得難くなる傾向にあり、一方小さくなりすぎると高中空のものが得難くなる傾向にあるので、オルソクロロフェノール中35℃で測定した固有粘度(IV)で0.35〜0.70、好ましくは0.40〜0.55の範囲が適当である。
【0013】
本発明においては、上記ポリエステルに乳酸系ポリエステルが含有されていることが肝要であり、これにより高い分割性と、良好なカード通過性を同時に有する分割性中空ポリエステル繊維を得ることができる。また、かかる乳酸系ポリエステルが含有されていることによって中空ポリエステル繊維の中空率を容易に高することができる。
【0014】
本発明において乳酸系ポリエステルとは、乳酸を主たる繰り返し単位とするポリエステルをいい、かかるポリエステルとしては、ポリL−乳酸ホモポリエステル、ポリD−乳酸ホモポリエステル、L−乳酸/D−乳酸共重合ポリエステルなどの乳酸単独からなるポリエステル、および、これらの乳酸に1種類以上の共重合成分が50%重量以下共重合されたポリエステルをあげることができる。好ましく用いられる共重合成分としては、例えばエチレングルコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールなどのジオール、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸、ヒドロキシアルキルカルボン酸、ピバロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、ポリエチレングリコール等があげられる。なお、上記成分を共重合する際には、同量のジオール成分と酸成分とが必要である。
【0015】
本発明においては、スルホン酸塩基を有する共重合体成分が共重合されたエチレンテレフタレート系ポリエステルに、乳酸系ポリエステルが0.1〜10重量%含有されている必要がある。この含有率が0.1重量%未満では、本発明の目的とする易分割性を得ることができず、一方、該含有率が10重量%を超えると曳糸性が悪くなり繊維を得ることができない。より好ましい含有率は、1.0〜8.0重量%の範囲である。
【0016】
また、前述のエチレンテレフタレート系ポリエステルに乳酸系ポリエステルを含有させたポリエステル組成物には、目的に応じて、離型剤、流動性改善剤、撥水剤、親水剤、安定剤、酸化防止剤、顔料、着色剤、各種無機粒子、その他の改良剤を添加することができる。
【0017】
次に繊維横断面における中空率は15%以上であることが必要である。中空率が15%未満では、機械的応力を作用させても極細繊維に分割できなくなるので好ましくない。一方、中空率が大きくなりすぎると中空壁面の厚さが薄くなり、中空破断が発生して製糸の工程安定性が低下したり、得られる繊維の機械的特性が低下したりするので、85%以下が望ましい。より好ましい中空率は20〜60%の範囲である。なお、ここでいう中空率とは、繊維横断面において該横断面の外周部で囲まれた面積に対する、中空部の面積の割合(%)をいう。
【0018】
さらに、分割性中空ポリエステル繊維の単繊維繊度は、あまり小さすぎると中空率を15%以上として製糸する際、製糸安定性が低下する傾向にあり、一方、あまり大きすぎると分割性が低くなる傾向にあるため、0.5〜11.0デシテックスの範囲とするのが好ましい。より好ましい単繊維繊度の範囲は1.0〜7.0デシテックスである。
【0019】
本発明の分割性中空ポリエステル繊維は、繊維軸方向の機械的特性は良好であるが、繊維軸に垂直な方向の特性は劣っているため、機械的応力を作用させることにより、繊維の90%以上が4個以上、好ましくは5〜20個に分割されて極細繊維化することができる。
【0020】
以上に述べた本発明の分割性中空ポリエステル繊維は、例えば以下の方法によって製造することができる。すなわち、スルホン酸塩基を有する共重合成分が全酸成分に対して1〜10モル%共重合されたエチレンテレフタレート系ポリエステルに、乳酸系ポリエステルを0.1〜10重量%溶融混合したポリエステル組成物を、複数のスリット孔からなる中空糸製造用紡糸孔を具備する紡糸口金から吐出する。この際、エチレンテレフタレート系ポリエステルと乳酸系ポリエステルとを溶融混合する方法は特に限定されることはなく、従来公知の方法により混合することができる。例えば、各々のポリエステルをペレットの状態として単軸または二軸のエクストルーダーに供給して溶融混合する方法や、予め溶融した各々のポリエステルをスタティックミキサーやダイナミックミキサーで混合する方法等があげられる。
【0021】
紡糸口金から吐出された糸条を、紡糸口金直下25mm以上の位置で15〜35℃、好ましくは20〜25℃の冷却風で冷却固化し、これを300〜2000m/分、好ましくは500〜1500m/分の紡糸速度で引取って、中空未延伸糸が得る。
【0022】
次に得られた中空未延伸糸を温度50〜70℃の温水中で、1.3〜6.0倍の延伸倍率で延伸し、その後必要に応じて加熱ローラーや熱プレートなどを用いて75〜200℃で熱処理して中空繊維が得られる。
【0023】
さらに、紡績、不織布用の短繊維とする場合は、例えば、上記の温水延伸に引続いて、紡績性または機能性付与のための油剤を付与し、クリンパーなどで機械捲縮を付与し、熱風などで乾燥・熱セットした後、所望の繊維長にカットする。
【0024】
このように得られた中空ポリエステル繊維の長繊維または短繊維は、機械的応力を作用させることによって容易に分割され極細繊維化できる。この際、分割の方法としては、上記の長繊維や短繊維を製造する工程で、これらの繊維に機械的応力を与えて分割してもよいし、これらの繊維を紡績糸、不織布、織物などの繊維製品に成形した後、機械的応力を与えて分割してもよい。特に後者のような方法を採用すれば、カード成形が通常不可能である0.5デシテックス以下の極細繊維からなる繊維製品であっても容易に製造することができる。
【0025】
上記の分割はカード成形工程でも起こるが、その際は、先ず繊維軸方向に亀裂が発生し、さらに不連続な分割が発現し、徐々に分割が進行して極細繊維化していく。このため、本発明の分割性中空ポリエステル繊維は、直接極細繊維をカードに通すのとは異なり、カード通過性が非常に良好である。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。なお、実施例中における各特性値の測定は、以下の方法にしたがった。
(a)固有粘度
オルトクロロフェノールを溶媒として、35℃で測定した。
(b)分割前繊度
JIS−L1015 7−5−1A法により測定した。
(c)中空率
画像解析システム、ピアス−2(ピアス(株)製)を用いて単繊維のセクション断面画像を500倍に拡大し、単繊維の断面積(中空部を含む)と中空部面積を測定してその面積比より求めた。
(d)繊維の分割割合
中空ポリエステル繊維を1対の金属ローラーで線圧98N/cm(10kg/cm)でニップして通過させた後の繊維断面写真を撮り、写真から単糸を50本ランダムに選択し、中空壁が4か所以上で分割している割合を求めた。
(e)中空繊維の平均中空分割数
上記の断面写真から単糸を10本ランダムに選択し、各中空繊維が分割している個数を測定し、平均値を求めた。
(f)中空繊維の平均分割後繊度
分割前繊維の繊度を上記の平均中空分割数で割った計算値で示した。
(g)カード通過性
原綿2kgをフラットカードに、カード速度50m/分で通過させ、下記基準で評価した。
良好 :カード詰まり、ウェブ切れ、ネップが発生せず、カード通過性が良好やや良好:カード詰まり、ウェブ切れはないが、若干のネップ発生が認められるやや不良:カード詰まりはないが、ウェブ切れ、ネップ発生が若干認められる
不良 :カード詰まり、ウェブ切れ、ネップ等の発生が認められる
【0027】
[実施例1]
酸化チタン含有量が0.5重量%で、固有粘度が0.45、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分(SIP)の共重合量が4.5モル%であるポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステル(帝人(株)製:融点254℃)チップと、ポリL−乳酸(島津製作所(株)製 ラクティ:融点175℃、重量平均分子量200,000)チップとを、重量比97:3の割合で2軸のエクストルーダーに供給し溶融混合して中空型ノズルを900孔有する紡糸口金から、ポリマー温度280℃、吐出量500g/分で押出し、紡糸速度500m/分で引取って単繊維繊度が11.1デシテックス、中空率が40%の未延伸糸を得た。
【0028】
この際、中空型ノズル(3個のスリット孔)の直下35mmの位置で温度25℃、風速1.5m/秒の冷却風を長さ200mmにわたって吹付けた。
【0029】
得られた中空未延伸糸を、温度70℃、延伸倍率3.0倍で温水1段延伸し、紡績用油剤付与し、さらにクリンパーを通して12個/25mmの機械捲縮を付与し、120℃の熱風で熱セットした後、51mmの長さに切断して短繊維とした。得られた中空ポリエステル短繊維は繊度が4.2デシテックス、中空率が38%であり、繊維表面には不連続分割孔は見られなかった。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0030】
[実施例2、比較例1〜3]
ポリ乳酸の含有率を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして短繊維を得た。これらの評価結果を表1に合わせて示す。
【0031】
[実施例3、比較例4〜5]
SIPの共重合率を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にして短繊維を得た。これらの評価結果を表1に合わせて示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、結晶化度や結晶サイズといった繊維の微細構造までコントロールすることを要せずに、カード通過性が良好であり、機械的応力により繊維軸方向に容易に分割されて極細繊維化できる分割性中空ポリエステル繊維が提供される。かかる分割性中空ポリエステル繊維からは、通常カード成形が極めて困難な極細繊維からなる織編物、乾式不織布、人工皮革などの繊維製品が容易に製造できるだけでなく、例えばカード工程を必要としない湿式不織布なども効率よく製造することができる。このため、例えば、保液性に優れた化粧液担持体や吸液マット、遮音性に優れた繊維構造体、人工皮革用不織布、選択性の高いフィルター、解像度に優れた高品質印刷紙などの用途に好適に用いることができる。
【0034】
しかも、このような分割性中空ポリエステル繊維は、複雑な紡糸口金を用いることなく、従来のポリエステル繊維の製造方法、装置を使用して容易に製造することができ、さらに極細繊維化のための溶剤抽出処理やアルカリ減量処理も不要であるといったメリットも有している。
Claims (1)
- スルホン酸塩基を有する共重合成分が全酸成分に対して1〜10モル%共重合されたエチレンテレフタレート系ポリエステルに、乳酸系ポリエステルを0.1〜10重量%含有させたポリエステル組成物からなり、中空率が15%以上である分割性中空ポリエステル繊維。
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