JP4486746B2 - タングステンからなる部材の接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば電子管などに用いられる高温動作用カソード周辺の接合に用いられるような、高融点金属を高温で接合する方法に関する。ここに高温動作用カソードとは、含浸型カソードが動作不可能な温度である1400℃以上で、安定に電子放出特性が得られるカソードを意味する。
【0002】
【従来の技術】
タングステンは高融点、低蒸気圧を有し、一般に高温で用いることができる材料として知られている。また、このタングステンの高融点、低蒸気圧、低アーク性を利用して、各種の接点材、抵抗溶接用の電極棒として利用されている他、酸化トリウム(Th)などの電子放出材を数%入れたもの(トリタン)は、アーク溶接棒や各種カソードの材料として利用されている。また、最近では、宇宙工業に多く使用されるようになっている。このような状況下、タングステン同士の接合は、重要な技術の一つであり、多くの研究がなされている。
【0003】
タングステンをろう接する主なろう材としては、上述した電気接点で用いる比較的低温度のろう材として、BAg、BCuP、BCuなどがある。また、宇宙開発で用いられるような高温ろう材としては、ニッケルおよびマンガン基合金およびモリブデン合金がある。このような高温ろう材は、最高で1900℃程度の溶融温度を有している。そして、簡便で実用的なろう接としては、この程度のろう接温度が一般的である。しかし、2000℃を超える極めて高温度での使用を目的としたろう材としては、タンタルやニオブを用いる場合が知られている。これらのろう接温度は、それぞれ約3000℃と2400℃である。
【0004】
ここで、上述した何れのタングステンのろう接の場合においても、その雰囲気に酸素が混入しているとタングステン自体の酸化が激しくなるので、雰囲気ろう接や真空ろう接が好ましい。さらに、炭素との接触は、ろう接の機械的強度を脆くするので、避けられる傾向にある。ただし、カソードにおいては、たとえば酸化トリウム入りタングステンカソード(通称トリタンカソード)の表面を炭化すると電子放出特性が著しく向上するといったことに代表されるように、タングステンと炭素との接触は大きな利点がある。
【0005】
つぎに、カソード、とくに電子管などに用いられる高温動作用カソードについて記述する。この高温動作用カソードは、図10(a),(b)に示されるような構造が一般に用いられている。即ち、図10(a)は、電子ビームを得るためのカソードで、タングステン(W)線や酸化トリウム(ThO2)入りタングステン(トリタン)線をフィラメント14形状に成形し、つぎに両端部を電極5に接続したものである。特に、トリタンを用いた場合には、更にヘプタン等の炭化水素ガス雰囲気中で該フィラメントを通電加熱して表面に炭化タングステン層を形成し、電子放出特性と寿命を向上したものも一般に使用されている。また、図10(b)は大電力放電管用カソードの例で、棒状のトリタンの先端を鋭利にして放電しやすい形状に成形したものである。
【0006】
更に、これらカソードの電子放出特性について記述すると、タングステンカソードは真空度10-5Pa、2200℃で約0.1A/cm2の電子放出特性が得られるカソードである。
【0007】
つぎにトリタンカソードは、約1500〜2000℃の動作温度で、電子放出材の酸化トリウムがタングステンによって還元され、これにより遊離したトリウムが、カソードの電子放出面にTh-W原子層を形成する。そして、この単原子層の形成により、真空度10-5Pa、2000℃で約1A/cm2の電子放出特性が得られるカソードである。ここで、更にカソード電子放出面を炭化した場合には、炭素による還元効果等が加わり、真空度10-5Pa,1800℃で約10A/cm2の電子放出特性を得ることができる。
【0008】
このトリタンカソードの場合、タングステン中に酸化トリウムが混入された為に線引き等の加工性が著しく低下する。この為、混入できる酸化トリウム量は最高でも5Wt%程度(一般的には2wt%)に限定されてしまう。この限定は、カソード寿命から言えば酸化トリウムの含有量は多いほど長寿命化に優位であるので、改善が望まれる課題の一つである。
【0009】
一方で、このトリウム元素は放射性物質であるので必要最小量であることが望ましい。即ち、フィラメントにおいては、先端部を除く非電子放出部分にトリウムを含有させる必要はない。
【0010】
ここで、多孔質体なら焼結法により、この約5wt%の電子放出材の制限量に拘わることなく、最高約50wt%含有したペレットを得ることができる。
【0011】
更に、このペレットをフィラメント先端部分にろう接して直熱すればフィラメント自体はタングステン線で済み、非電子放出部分にトリウムを含有させなくて済む。しかし、これまでカソードの電子放出特性を活かせる適当なろう材がなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、ペレットをタングステンフィラメント先端部に接合するような2000℃を超える温度でろう接するには、タンタルとニオブのみしか知られていない。しかし、これらの溶融温度はそれぞれ3000℃と2400℃なので、このような高温に長時間晒すと電子放出材を劣化させてしまう。
【0013】
また、カソードへの接合としては、異種金属で接合するとカソードの電子放出面を汚染し、電子放出特性の劣化を招く恐れがある。更に、接合材としては、炭素の様になるべく電子放出特性の向上に有利な元素を含んでいる方が望ましい。ところが、これまで適当な接合材が無かったこともあり、タングステン線乃至はトリタン線といった一材料でフィラメントを構成する事が一般的であった。
【0014】
その結果、このフィラメント構造では、トリタンカソードの場合、加工性の点から酸化トリウム等の電子放出材を5wt%以上混入させることが困難となり、寿命の面で不利であった。また、電子放出に寄与していない部分(非電子放出面)であるフィラメント先端部を除く部分にもトリタンを使用しているので、コストアップになると共に、放射性物質であるトリウムを必要以上に使用しているという環境上の観点からも問題があった。更に、電子ビーム形状の面でも、例えば、円形断面収束形、シートビーム形、同心円形などの特殊な形の電子ビームを得ることが不向きとなる問題があった。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するためになされた高温動作用カソードの電子放出材を劣化させないで接合することができる高融点材料の接合方法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明の他の目的は、1400℃以上の高温で動作させるカソードで、電子放出材である希少金属酸化物および放射性物質を電子放出面として必要な部分のみに用いることができ、更にこの必要な部分には5wt%を超える電子放出材を含有させて長寿命をはかることもできると共に、所望の形状の電子ビームが得られるように、カソードペレットをタングステンフィラメントに接合したカソードを提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達するために、請求項1に係る発明は、タングステンからなる部材と別のタングステンからなる部材とを接合する方法であって、前記部材の少なくとも一方の接合部表面に、炭化タングステン層を形成し、該炭化タングステン層と別の前記部材とを接触させ、加熱処理することにより接合することを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1のタングステンからなる部材の接合方法において、前記接合形成した後、加熱処理することにより前記接合部から炭素を除くことを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載のタングステンからなる部材の接合方法において、前記タングステンからなる部材が、タングステンフィラメントであり、前記別のタングステンからなる部材がカソードペレットであり、前記炭化タングステン層がW 2 Cであることを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
つぎに、図面を参照しながら本発明によるタングステンからなる部材の接合方法について説明をする。
【0021】
本発明による高融点接合材を用いた高温動作用カソードは、その一実施形態の断面説明図が図1に示されるように、タングステンフィラメント4の一部に、電子放出材を含有する高融点金属からなるカソードペレット1が接合され、その接合部3が、炭化タングステンと高融点金属材料との共晶物からなることに特徴がある。
【0022】
カソードペレット1は、従来のトリタンカソードとして用いられている、酸化トリウム(ThO2)入りタングステン材料を、たとえばφ1.6mm×t0.6mm(厚さ)程度の円柱状のペレットにしたもので、0.9mmφ程度の線状のタングステンフィラメント4に接合されている。また、カソードペレット1表面の露出面(電子放出面)には、後述するように、接合後の炭化処理により炭化タングステンW2C層2bが形成されている。フィラメント4の両端部はモリブデンなどからなる電極5と接続されている。17はカソードスリーブである。
【0023】
カソード電子放出面を炭化処理したトリタンカソードは、イオン衝撃に強く、過酷な条件でも動作可能である。この炭化処理をする場合、炭化タングステンにはW2CとWCとが存在し、努めてW2Cを形成するようにしなければならない。何故なら、W2C層は、粒界が柱状を呈し、肥大化しない。これに対して、WC層は、粒界の肥大化を生じやすい。このことは、トリウムの拡散やカソード表面と密接に関係しており、ひいては電子放出特性が大きく異なってしまうからである。このようなWCではなく、W2Cを形成するためには、炭化処理の際に、雰囲気温度とヘプタン等の炭化水素ガスの分圧を制御して行う。
【0024】
例えば、本発明者らが用いた炭化炉では、温度2200℃、ヘプタン分圧133×5×10-4PaでW2C単一相が形成された。同温度,ヘプタン分圧133×10-3Pa以上ではWCとW2Cの2つが混在した相が形成された。
【0025】
このようにして形成されたW2C層は、炭素の還元力により、酸化トリウムを効果的に還元する。また、W2C粒界が柱状をなすことから、微細な亀裂が生じ、カソード内部のトリウム移動を容易にする。あるいは、この亀裂により、カソード表面積が増加する。このような現象が相俟って電子放出特性が向上する。
【0026】
前述のタングステンフィラメント4とカソードペレット1との接合は、前述のように本発明者らの鋭意検討の結果、タングステンフィラメント4を炭化させた炭化物層2aと、カソードペレット1のタングステンとを共晶化させた、高融点金属炭化物と高融点金属との共晶化物からなる接合部3により接合されている。タングステンフィラメント4表面に形成される炭化タングステンからなる炭化物層2aは、炭化処理により形成される場合は、タングステンフィラメント4の昇温度分布にしたがってフィラメントの先端を中心に形成されるが、マスクを付けて局所的に形成してもよく、また炭化処理によらなくても、炭化タングステン粉末をバインダーと混ぜてカソードペレット1の裏面またはフィラメント4表面のカソードペレット1との接触面に薄く塗布してもよい。図では炭化処理により形成する例であるが、接合部近傍のみに形成されたように図示されている。
【0027】
炭化処理により形成する場合、炭化タングステン層2aも、後工程のカソードペレットの炭化条件の安定性の点から、また共晶温度の点からW2C層であることが好ましいが、このW2C層の形成は、フィラメント径の約20%程度まで(実際の接合はφ0.9mmのW線表面に10〜20μm(1〜2%相当)程度の厚さでW2Cを形成している)とする必要がある。これは、それ以上の炭化を行うと、機械的強度を著しく低下させるからである。
【0028】
このように炭化物層2aとカソードペレット1のタングステンWとを共晶化させて接合したときの、フィラメント4の温度に対するカソードペレット1表面の温度の関係Aを、フィラメント4とカソードペレット1とを接触させただけの状態における同様の関係Bと対比して図2に示す。図2から、明らかなように、本発明の接合方法によれば、カソードペレット1の温度を活性化に必要な2400℃程度まで十分に上げることができ、またトリタン線による直熱式とほぼ同等の温度特性を示し、接触のみの場合に比べて、非常に熱伝導も良好であることが分る。また、この接合した状態の写真を図3に示す。図3から明らかに接合部3は、フィラメント4とカソードペレット1の両方に食い込んでおり、完全に溶融状態になって固着されていることが分る。なお、図3において、カソードペレット1およびフィラメント4に白黒のまだらな部分があるが、撮影時の陰影が現れているものである。また、フィラメント4の表面に灰色に見える部分が炭化物層2aであり、カソードペレット1の表面に灰色に見える部分が接合後の炭化処理により形成されたW2C層2bをそれぞれ示している。
【0029】
前述の例では、カソードペレットとして、トリウム入りタングステンを用いた例であるが、この例に限られず、多孔質体に電子放出材を充填する多孔質体カソードペレットでもよい。また、電子放出材としても、酸化トリウムに代えて、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウムなどを用いることもできる。
【0030】
本発明によれば、タングステンのような高融点金属の炭化物と、高融点金属との共晶化物を接合部としているため溶融温度が非常に高く、接合後は少なくとも2500℃以下で再溶融することは無い。しかも、高温動作用のカソードペレットなどは最大でも2400℃を超える温度で動作させることはないので、確実に接合することができる。また、本発明によるカソードによれば、カソードペレットをフィラメントなどに直接接合する構造で形成されているため、カソードペレットは電子放出に必要な部分のみに形成することができる。そのため、酸化トリウム、酸化ハフニウムなどの貴重な金属元素を不必要に多く使用する必要がなく、製造コストを大幅にダウンさせることができると共に、電子放出材を含有させた後に折曲げなどの加工をする必要がないため、所望の形状のカソードペレットを作製することができ、所望の電子ビームを得ることができる。
【0031】
図1に示されるカソードの製造方法を図4のフローチャートを参照しながら説明する。まず、カソードペレット1をタングステンフィラメント4の先端に仮固定する(S1)。この仮固定は、たとえばタングステン線あるいはタンタルリボン15で結わえることにより行う。
【0032】
つぎに、カソードペレット1が仮固定されたタングステンフィラメント4を図5に示されるように、炭化炉10に装着する。そして、ロータリポンプ9およびターボ分子ポンプ8を作動させ、炭化炉10の真空度を一旦133×10-7Pa以下まで引き、酸素の背景分圧を下げる(S2)。図5で、7が真空計である。その後、炭化水素ガス、たとえばヘプタン(C7H16)6の蒸気を133×5×10-4Paになるように導入し、フィラメント4の温度を2200℃程度に昇温する。すると、フィラメント4の表面に炭化タングステンからなる炭化物層2aが形成され、約3分程度保持すると、カソードペレット1との溶接に必要な10〜20μm程度の膜厚の炭化物層2aが得られる(S3)。この際、カソードペレット1は、フィラメント4とはまだ接合されていないため、フィラメント4からの熱伝導は充分ではなく、1700℃程度までしか温度が上昇しないため、殆ど炭化されない。
【0033】
この後、ヘプタンの圧力はそのまま維持して、フィラメント4の温度を2500〜2700℃程度に昇温すると、フィラメント4表面の炭化タングステンからなる炭化物層2aとカソードペレット1のタングステンとが共晶化し溶融する(S4)。この溶融により、カソードペレット1の温度もフィラメントの温度(2500〜2700℃)に近づくので、カソードペレット1が劣化しない温度、たとえば2400℃程度以下にカソードペレットの温度が保持される様に、フィラメント温度を直ちに下げることが重要である。
【0034】
以上で、カソードペレット1をフィラメント4に接合する作業は終了するが、前述のように、電子放出特性および耐イオン衝撃性を改善させるため、カソード1表面にW2C層2bを形成する場合、引き続き、前述のフィラメントの炭化条件と同様の条件により、カソードペレット1の温度を2200℃にし、3分程度保持することにより、カソードペレット1の表面を炭化する(S5)。この際、WCではなく、W2Cが形成されるように、特に温度とヘプタン分圧に注意する。このように、カソード表面にW2C層2bを形成する場合でも、同一工程で、カソードペレット1の温度を2200℃程度に保持するだけで、W2C層2bを形成することができ、非常に簡単に形成することができる。
【0035】
この状態でも、接合部の再溶融温度は2500℃超であるため、カソード使用上全然問題ないが、さらに接合部を高温まで溶融しないようにするには、接合部の炭素を除去することにより、接合部の炭化物を完全な高融点金属のみとすればよく、この際、接合部の溶融温度をさらに500℃程度高くすることができる。この脱炭処理を行うには、水素雰囲気中、1300℃以上で処理することにより行うことができる。
【0036】
この製造方法によれば、タングステンフィラメントを炭化処理することにより炭化物層を形成し、その炭化物層と、カソードペレットなどの高融点金属とを共晶化させているため、炭化物層の厚さは、雰囲気温度、ヘプタン分圧、炭化時間により一義的に定まり、非常に安定な状態で溶融することができると共に、前述のように、カソード電子放出面にW2Cが形成されることにより、非常に電子放出特性が向上することから、W2C層をカソード電子放出面に形成する場合、その接合工程に続けて連続的に形成することができるため、工数的にも非常に容易に形成することができる。
【0037】
さらに、フィラメントと接合する場合、前述のように、フィラメントの温度を上昇させることにより接合することにより、接合されるまではカソードペレットの温度は余り上昇せず、接合された瞬間に、フィラメントの印加電圧を切り、温度を下げればよいため、カソードペレット内に含有される電子放出材を過度な高温に晒す必要がなく、この電子放出材を損傷することなく接合することができる。
【0038】
前述の例では、炭化炉で炭化しながら接合する方法であったが、雰囲気が真空の場合に限定されているときは、真空中で接合することもできる。この場合、予めタングステンフィラメント4だけに炭化処理をしたり、または炭化タングステン粉末をバインダーと混ぜ合わせてカソードペレット1の裏面またはタングステンフィラメントの接合部に塗布しておき、真空中でフィラメント4の温度を前述と同様に2500〜2700℃にまで一機に昇温することで接合することもできる。この場合も、前述と同様に、カソードペレット1の温度が2400℃を超えないように注意する必要がある。この真空中の2400℃は、たとえばトリタンカソードでは活性化として数秒間保持させることが一般的な工程であり、特性劣化の問題にはならない。
【0039】
図6は、本発明によるカソードの他の実施形態を示す図1と同様の説明図である。この例は、カソードペレット11が、酸化トリウムが空隙部に充填された多孔質タングステンからなっており、その電子放出面側に、一旦溶融してから固化したバルク状W2C層12が形成されていることに特徴がある。他の構造は前述の図1に示される例と同じで、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0040】
バルク状W2C層12を形成するには、たとえば酸化トリウムなどの電子放出材が充填された多孔質体のカソードペレット11の電子放出面側にタングステン片を接触させ、前述の方法と同様に、タングステン片に通電して炭化させ、その表面に炭化層を形成し、さらに温度を上昇させてカソードペレット11のタングステンとを共晶化させることにより、溶融状態とした後に、タングステン片の通電をオフにし、温度を下げて固化させることにより形成することができる。なお、固化した後に、その表面を研磨することにより、表面が平坦なバルク状W2C層12が得られる。この断面図を図7に示す。カソードペレット11はタングステン粉末が焼結された多孔質体で、白く見える部分はタングステン粉末であり、黒く見えるところがタングステン粉末の隙間に充填された酸化トリウムである。
【0041】
バルクW2C層12は、カソードペレット11のタングステン粉末以外の酸化トリウム上にも形成されているため、見た目では隙間なく覆われている。しかし、このW2C層12は、前述のように、柱状結晶であるため、縦方向には隙間が形成されており、電子放出材の酸化トリウムはその隙間を通って電子放出面に染み出し、電子放出に寄与する。
【0042】
この構造にすることにより、多孔質体の隙間に電子放出材が充填されているため、最大で50重量%程度含有させることができ、しかもその電子放出面はバルク状W2C層により被覆されているため、電子放出特性の向上にも寄与すると共に、電子衝撃などによる電子放出材の消耗もなく、非常に長寿命化を図ることができる。また、第1の実施形態の発明により、フィラメントなどに容易に接合することができるため、小さなカソードペレットにより非常に高特性のカソードが得られる。
【0043】
つぎに、このカソードの製造方法を図8のフローチャートを参照しながら説明する。まず、電子放出材が充填された多孔質体からなるカソードペレット11の電子放出面に、たとえば厚さが0.3mm程度のタングステン片13を接触させる(S11)。
【0044】
つぎに、図9に示されるように、炭化炉10に入れ、ロータリポンプ9およびターボ分子ポンプ8を作動させ、一旦真空度を133×10-7Pa以下まで引き、酸素の背景分圧を下げておく。図8および9で、7が真空計、16はカソードペレット11を保持する支持棒である。その後、炭化水素ガス、たとえばヘプタン(C7H16)6の蒸気を133×5×10-4 Paになるように導入し、タングステン片13に通電することにより2200℃程度に昇温する。すると、タングステン片13の表面に炭化タングステンからなる炭化物層2aが形成され、約5分程度保持すると、20μm程度以上の膜厚の炭化物層2aが得られる(S13)。この際、カソードペレット1は、タングステン片13とはまだ接合されていないため、タングステン片13からの熱伝導は充分ではなく、1700℃程度までしか温度が上昇しないため、殆ど炭化されない。
【0045】
この後、タングステン片13の温度を2500〜2700℃に昇温すると、カソードペレット11の表面とタングステン片13との接触部分が溶融し、溶融後直ちに通電を止め冷却すると固化し、バルク状W2C層12がカソードペレット11の表面に形成される(S14)。この後、表面を研磨して整形することによりタングステン片13の部分は除去され、表面にバルク状W2C層12が形成されたカソードペレット11が得られる(S15)。ついで、前述と同様にタングステンフィラメント4にカソードペレット11を接合する(S16)ことにより、電子放出材が充填された多孔質体からなるカソードペレット11の表面にバルク状W2C層12が形成されたカソードが得られる。さらに、アニールをすると、W2Cの粒界が顕著に現れるため、好ましい(S17)。
【0046】
なお、上記の各例では、炭化タングステンとタングステンとを共晶化させて溶融したが、炭化タングステンと炭化タンタルまたはタンタルとを接触させて温度を上昇しても溶融させることができる。また、カソードペレットの形状も、円柱形状に限らず、錐状など種々の形状にできることはいうまでもない。
【0047】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、高融点金属の炭化物と高融点金属とを共晶化させることにより接合しているため、2500℃程度で溶融する接合部を得ることができる。その結果、電子放出材を劣化させることなく、高温動作用カソードのカソードペレットでも、接合することができる。しかも、炭素は、酸化トリウムや酸化ハフニウムなどの電子放出材の還元を促進し、電子放出特性の向上に寄与するため、カソードの接合にはとくに優れている。また、カソードペレットとして用いられることにより、高温動作用カソードの電子放出材として用いられる酸化トリウムや酸化ハフニウムなどのトリウムやハフニウムなどの貴重な元素を電子放出に必要な部分のみに用いることができ、その使用量を大幅に削減することができると共に、特殊な電子ビーム形状も容易に得ることができる。
【0048】
さらに、多孔質体からなるカソード表面にバルク状W2C層が設けられることにより、電子放出材を透過させながら表面を被覆して保護することができるため、電子放出材を大量に含有しながらその蒸発を抑制することができ、非常に長寿命のカソードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるカソードの一実施形態の構成説明図である。
【図2】図1に示される構造のカソードのフィラメント温度とカソードペレット温度との関係を示す図である。
【図3】図1に示される構造のカソードの接合部の断面を示す写真である。
【図4】図1に示される構造のカソードを製造する工程図である。
【図5】図4の炭化処理工程を行う装置の概略説明図である。
【図6】本発明によるカソードの他の実施形態を示す構成説明図である
【図7】図6に示されるカソードのカソードペレット表面とバルク状W2C層部分の断面図である。
【図8】図6に示されるカソードの製造工程を示す図である。
【図9】図6に示される炭化処理工程を行う装置の概略説明図である。
【図10】従来の電子管および放電管に用いるトリタンカソードの一例を示す図である。
【符号の説明】
1 カソードペレット
2a 炭化物層
2b W2C層
4 タングステンフィラメント
11 多孔質体ペレット
12 バルク状W 2 C層
Claims (3)
- タングステンからなる部材と別のタングステンからなる部材とを接合する方法であって、前記部材の少なくとも一方の接合部表面に、炭化タングステン層を形成し、該炭化タングステン層と別の前記部材とを接触させ、加熱処理することにより接合するタングステンからなる部材の接合方法。
- 前記接合形成した後、加熱処理することにより前記接合部から炭素を除くことを特徴とする請求項1記載のタングステンからなる部材の接合方法。
- 前記タングステンからなる部材が、タングステンフィラメントであり、前記別のタングステンからなる部材がカソードペレットであり、前記炭化タングステン層がW 2 Cであることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のタングステンからなる部材の接合方法。
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Citations (5)
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---|---|---|---|---|
JPS4871309A (ja) * | 1971-12-28 | 1973-09-27 | ||
JPS60187463A (ja) * | 1984-03-06 | 1985-09-24 | Toshiba Corp | 高融点金属−黒鉛接合部材及びその接合方法 |
JPH04286838A (ja) * | 1991-03-15 | 1992-10-12 | Hitachi Ltd | 電子管およびその製造方法 |
JPH0668788A (ja) * | 1992-08-24 | 1994-03-11 | Sony Corp | 含浸形陰極構体の製造方法 |
JPH08222119A (ja) * | 1994-12-07 | 1996-08-30 | Samsung Display Devices Co Ltd | 直熱形陰極構造体 |
-
2000
- 2000-12-22 JP JP2000389977A patent/JP4486746B2/ja not_active Expired - Fee Related
Patent Citations (5)
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JP2002192381A (ja) | 2002-07-10 |
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