JP4018468B2 - 陰極およびその製造方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温動作が可能で、酸化トリウム入りタングステン(以下、トリタンという)、酸化ジルコニウム入りタングステン、酸化ハフニウム入りタングステンなどのエミッタ材入り高融点金属を用いた放電管用陰極や高輝度用あるいは高出力用陰極などの熱陰極およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、電子放出特性を改善し、高電流密度化、長寿命化を達成し得る陰極およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トリタン陰極は、酸化トリウム(ThO2)を1〜2重量%(以下、wt%という)含むタングステンのワイヤやチップをフィラメントや陰極ペレットとして用いたもので、約1500〜2000℃b(輝度温度、以下同じ)に加熱することにより、タングステン中の酸化トリウムがタングステンによって還元され、トリウム原子が生成され、これにより電子放出特性を改善し得る陰極である。すなわち、還元されたトリウム原子は、タングステン中を拡散して、陰極表面に吸着し、陰極表面にトリウム−タングステン(Th−W)単原子層を形成する。この単原子層形成により、仕事関数が下がり、約2.7eVが得られる。これにより、真空度10-5Pa、2000℃bで約1A/cm2の電子放出特性が得られる。
【0003】
ここで、トリタン陰極の電子放射面表面を炭化し、一炭化二タングステン(W2C)の層(以下、炭化層という)を最大50μm厚形成すると、炭素の還元力により、ThO2の還元がより低温で行われる。また同時に、この炭化層が有する柱状結晶のため、表面に対し垂直方向に微細な亀裂が生じ表面積増大にも寄与する。そのため、電子放出特性が飛躍的に向上する。すなわち、炭化しない場合に比べ、同じ動作温度なら電子放出特性を10倍以上改善でき、電子放出特性を同じにすれば、動作温度を約300℃b程度下げることができる。
【0004】
しかし、この炭化層の形成は直熱型陰極(フィラメント状陰極)の場合、機械的強度を非常に低下させるという欠点があり、直径0.1mm以下の細い線には、炭化層形成は困難であった。また、1500〜1800℃bから、脱炭が進行し、電子放出特性が低下してくる。その上、脱炭が進行すると、炭化層(W2C)の抵抗値がタングステンのそれよりも高いために、脱炭の進行につれて、フィラメントの抵抗が低くなり、同じフィラメント電圧では加熱電流が増加するため、フィラメントの温度が上昇し、陰極寿命が短くなる要因となる。
【0005】
また、この炭化層を放電管用陰極表面に形成した場合、炭化層が1800℃b以上の高温では脱炭が顕著になるために、放電管ランプの動作中に先端温度が常に3000℃bを越える陰極の先端付近では、一瞬にして脱炭し、電子放出特性が低下する。このために、ランプ輝度の不安定を招くので、放電管用陰極には炭化処理は適さなかった。
【0006】
さらに、炭化層の形成方法にもいくつかの問題がある。すなわち、炭化層の主な形成方法は、(1)真空中で、ヘプタン、ベンゼン、ナフタレンなどの炭素誘導体の蒸気を送り込んで2150℃以上に加熱する方法と、(2)水素雰囲気中で炭素誘導体の蒸気を送り込む、あるいは、水素炉でカーボン治具と接触させて1200℃以上に加熱する方法、が考えられるが、これらのいずれの方法で製造する場合でも、炭化層の厚さ制御が非常に難しいという問題がある。しかも、炭化層の組成は、WCではなくW2Cとすることが電子放出特性にとって望ましいので、組成制御に留意する必要があるという問題も有している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、トリタン陰極に炭化層を形成した場合、炭化層はトリタンの機械的強度を低下させるという問題がある。さらに、1800℃以上では、炭化層の脱炭が顕著になり、炭化層が減少することにより、電子放出能力が低下するという問題もある。さらに、炭化層の厚さとW2C生成の制御が難しく、安定したW2C層を形成することができないという問題もある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、トリタンなどエミッタ材を含有し、さらに炭素の還元力により電子放出特性を向上させる陰極において、電子放出特性および信頼性を向上させることができる陰極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明による陰極は、トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物をエミッタ材として含む高融点金属からなる陰極基体と、電子放射面近傍に配置された炭化タングステンとを有する陰極において、前記陰極基体の電子放射面表面に、少なくとも前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層に前記炭化タングステンから遊離し拡散した炭素の単原子層が結合した層、あるいは前記金属の単原子層に前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を具備することを特徴とする。
【0010】
ここに陰極基体とは、電子放射面を有する陰極を構成する部分をいい、ワイヤ状でヒータと共通にされた、いわゆるフィラメント陰極、ヒータと直接接続されたり、ヒータ近傍に設けられる焼結体や多孔質体からなる陰極ペレットなどを含む。また、高融点金属とは、タングステンまたはモリブデンを意味する。さらに、炭化タングステンには、一炭化二タングステンW2Cのみならず、一炭化一タングステンWCも含む。
【0011】
この構成にすることにより、トリタンなどのトリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウム、ランタンなどのエミッタ材を含む陰極材料を、電子放射面近傍に設けられた炭化タングステンから供給される炭素によりエミッタ材を還元しているため、仕事関数を下げて電子放射特性を非常に向上させることができる。しかも、電子放射面に炭化タングステン層を形成していないため、陰極材料の機械的強度を弱めることがなく、また、脱炭による炭化タングステンの消滅もないため、常に炭素を供給し続けることができ、安定した電子放射特性を得ることができる。さらに、従来のように電子放射面に柱状結晶を形成するものではないため、一炭化二タングステン(W2C)にする必要がなく、材料組成の限定もなく、製造が容易になる。
【0013】
本発明による陰極の製造方法は、トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物をエミッタ材として含む高融点金属からなる陰極基体を有し、該陰極基体の電子放射面表面に、少なくとも前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層に電子放射面近傍に配置された炭化タングステンから遊離し拡散した炭素の単原子層が結合した層、あるいは前記金属の単原子層に前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を具備する陰極の製造方法であって、前記陰極基体の電子放射面以外の電子放射面近傍に、炭化タングステン粉末を固着あるいは炭化タングステン膜を具備する陰極基体を用意する工程と、該陰極基体を真空または不活性ガス雰囲気中で、加熱処理を行い、前記炭化タングステン粉末あるいは炭化タングステン膜から炭素原子を拡散させ、前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層と前記炭素の単原子層が結合した層、あるい前記金属の単原子層と前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を、前記電子放射面表面に形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明による陰極の製造方法の他の形態は、請求項記載の陰極の製造方法において、前記陰極基体を用意する工程が、トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物と炭化タングステンとが分散した、高融点金属の焼結体からなる陰極基体を形成することを特徴とする。
【0015】
すなわち、電子放射面の近傍に、炭化タングステン材料を粉末の固着もしくは膜として、または陰極基体内に分散させて設けておき、たとえば1200〜1400℃の熱処理をすることにより、温度上昇と共に炭化タングステンが分解して、炭素原子が陰極基体の電子放射面に拡散する。そして、たとえばトリタンからなる陰極基体から拡散してきたトリウム原子と共に、陰極基体の電子放射面に、トリウム単原子層に炭素の単原子層が結合した層またはトリウム単原子層に炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層が形成される。前述のように、炭化タングステン材料は、電子放射面の近傍に設けられているため、電子放射面ほど温度は上がらず、高温による脱炭で消滅することがなく、動作中もこの作用が続き、たとえばトリタンチップの電子放射面と反対側に炭化タングステン層を設けた陰極において1A/cm2を得るのに、従来の炭化層を設けた構造の陰極より約100℃程度の動作温度を下げることができ、1350℃程度で安定した1A/cm2の電流が得られた。
【0016】
【発明の実施の形態】
つぎに、図面を参照しながら本発明の陰極およびその製造方法について説明をする。本発明による陰極は、図1にその一実施形態である、X線管や電子顕微鏡用陰極などに用いられる直熱型陰極の構成例が示されるように、タングステン線フィラメント3の先端に、トリタンチップ(酸化トリウム入りタングステンからなる陰極基体)4が、W2Cによりロウ接されている。タングステンとW2Cとの共晶点は、2202℃で、この温度で、真空中にてロウ付を行うことによりロウ接される。
【0017】
そして、トリタンチップ4とタングステン線フィラメント3の隙間にW2C粉末5が塗布されて設けられている。この場合、塗布する前に、予め酢酸ブチルにニトロセルロースを溶かしたバインダー(接着剤)にW2C粉末5を浸漬し、これを塗布するとW2Cがよく接着される。バインダーは、タングステン線フィラメント3を加熱すると蒸発する。
【0018】
そして、この陰極を真空内などに組み込み、タングステンフィラメント3に通電し、動作温度である1200〜1400℃に設定して加熱することにより、W2C粉末の炭素原子が拡散し、トリタンチップ4の表面4a(電子放射面)でトリウム単原子層に炭素の単原子層が結合した層(以下、Th+C単原子層という)あるいは、トリウム単原子層に炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層(以下、Th+C+O単原子層という)を形成し、陽極との間に電圧が印加されることにより電子を放出する。最初から陰極を動作させるために、動作温度1200〜1400℃にすると、動作の初期において、W2Cの炭素原子が拡散して電子放出面に到達するのに時間がかかり、電子放出が行われない。そこで、炭素原子をすばやく表面に拡散させるため、動作温度より高く、1500℃以下の温度で活性化を行うとよい。予め陰極表面をTh+C単原子層、あるいはTh+C+O単原子層で被覆することにより、動作温度に下げたときに、電子放出がスムーズに行われる。
【0019】
この陰極の電子放射面(トリタンチップ4の表面4a)は、図2に示されるように、トリタンからなる陰極基体20の表面に拡散してきた炭素原子21がほぼ単原子層を形成するように析出する。この析出した炭素原子は、図示されていないが、前述のように陰極基体から同様に析出するトリウムの単原子層と結合して、Th+C単原子層またはTh+C+O単原子層となって、電子放射面を被覆する。このTh+C単原子層またはTh+C+O単原子層は、数Å厚、厚くても数十Å以下であり、従来の陰極表面に炭化タングステン層を50μm以下の厚さに形成するものとは異なっている。従来の製造方法により形成される陰極は、図3に示されるように、トリタンからなる陰極基体1の表面にW2Cが柱状結晶の層22として設けられ、その厚さおよび結晶構造からも明らかに本発明とは異なっている。
【0020】
本発明によるトリタン陰極の電子放出特性を、陰極温度を変化させて陰極電流密度の変化を測定することにより調べた。従来構造のトリタン陰極の電子放出特性と対比して図4に示す。図4は、本発明によるトリタン陰極表面に炭素の単原子層を形成したものAと、従来構造のトリタン陰極表面に炭化層(W2C層)を50μm程度の厚さ、柱状結晶をなすように形成したものBと、従来構造の炭化層を設けないトリタンのみからなるものCとを、それぞれ対比して陰極温度に対する陰極電流密度の関係で表したものである。図4から明らかなように、トリタンだけの陰極Cでは、動作温度も高く、電流密度も低いが、その表面に炭化層を設けた構造Bにすることにより、動作温度も下がり、電流密度も格段に向上している。しかし、動作温度1300℃で、電流密度は約0.1A/cm2であるのに対し、本発明による陰極の裏面にW2C粉末を設けて分解し拡散したC+Th(+O)単原子層を形成したものAは、1300℃で、約0.5A/cm2の電流密度が得られ、電子放射面に炭化層を形成した場合Bに比べて、約5倍の電子放出特性が得られた。
【0021】
図4から明らかなように、1A/cm2の電流密度を得るのに、本発明の陰極によれば、従来の炭化層を設ける構造よりも約100℃、陰極の動作温度を下げることができる。しかし、1400℃以上になると、炭素原子Cの拡散速度より蒸発速度の方が大きくなるので、電子放出は減少し、電流密度が低下する。したがって、動作温度は、1200〜1400℃にする必要がある。すなわち、本発明による陰極によれば、低温動作で大きな電流密度が得られ、低温動作であるため、フィラメントの負担が軽減され、トリアの蒸発量も低減するので、陰極の寿命を長くすることができる。
【0022】
図5は、陰極基体をトリタンチップではなく、フィラメント自体をトリタンで形成してフィラメント兼陰極としたもので、この場合には、トリタン線6を図5のように折り曲げ、両端を電極7に溶接などにより固定する。W2C粉末5は、電子放出面8以外の周辺部分に塗布する。そして、上例と同様に、フィラメントに通電し、動作温度を1200〜1400℃に設定することにより、電子が放出する。本実施例においても、予め動作温度より高い温度で活性化を行うと、電子放出がスムーズに行われる。
【0023】
この例においても、電子放射面に炭化層を形成するのに比べて、同じ電子放出を得るのに、単原子層を形成させた方が約100℃動作温度を低くすることができ、それだけフィラメントの負担が軽減され、トリアの蒸発量も低減するので、陰極の長寿命化になる。また、炭化層を形成しないので、炭化層形成に伴うタングステン線の機械的強度の劣化もなく、線形0.1mm以下の細線にも適用できる。さらに、脱炭による電子放出の低下がなく、フィラメントの抵抗値が変化しないので、フィラメント電流も終始安定している。
【0024】
図6は、本実施形態のさらに別の例を示す放電管陰極の断面説明図である。この陰極を製造するには、タングステン粉末と最大20wt%程度の酸化トリウムを混合し、図6の陰極基体9の形状に金型で加圧成形する。つぎに、この陰極基体9の凹部にW2C粉末10を入れ、押し固める。その陰極基体9を、リード11の凸部に嵌め込み、この状態で、水素雰囲気中2400℃で焼結させると、陰極基体9が焼結により収縮し、リードを締め付けることにより固定される。
【0025】
この場合、陰極基体は、金型でプレスした多孔質焼結体以外に、図7に示されるように、熱間転打したトリタン棒12でも構わない。トリタン棒12の場合には、図7のように、陰極基体となるトリタン棒12とリード11との間に、ロウ材(モリブデン−ルテニウムなど)13を入れ、ロウ付する。
【0026】
その後、図6または図7に示されるような構造の陰極を放電管ランプに組み込む。放電管ランプは、キセノンガス中など不活性ガス中で放電トリガーとして高圧パルスを印加してグロー放電させ、直ちにアーク放電に移行させる。この移行は、雰囲気ガスや陰極にかかる電界の強さなどに由来するプラズマ密度により決まり、放電ランプでは自動的に移行するよう設計されている。アーク放電時の陰極は、放電により陰極の温度が徐々に上昇する。通常、トリタンを使った放電管では、この温度上昇により、ThO2がThに還元され、Thが表面に拡散し単原子層を形成し電子放出を行う。トリタンでは、先端部分の温度上昇が3000℃以上に達するため、先端付近のThの拡散は活発に行われるが、先端以外の部分では、温度が下がるため、Thの拡散が低下してくる。そのため、長時間放電動作を行うと、先端付近のThが枯渇し、電子放出能力が低下するにつれ、放電電圧が上昇し、先端温度も上昇し、ついに先端が溶融変形してしまい、ランプの輝度が低下してくる。
【0027】
放電管陰極の表面に炭化層を形成した場合は、形成しない場合に比べて、炭素の還元性により、ThO2の還元がより低温で行われ、Th原子の拡散がより活発に行われる。しかし、先端温度が、3000℃以上と高温であるため、非常に短時間で脱炭し、炭化層の減少に伴って、電子放出能力が低下してくる。それに対して、本発明では、先端の温度は3000℃以上であるが、1200〜1400℃となる部分に炭化タングステンを配置すると、炭素原子が炭化タングステン層から常に、表面に供給される。そして、放電動作中、Th+C単原子層あるいはTh+C+O単原子層は維持され、電子放出能力も維持される。したがって、陰極先端の溶融変形もなくランプ輝度も安定する。
【0028】
この放電管陰極の例においても、図1に示される例と同様に、動作初期は、炭化タングステン層から、陰極基体の表面に炭素原子が拡散し、安定に供給されるまでに時間がかかるので、放電ランプの動作条件で、数時間活性化を行う必要がある。放電ランプの場合、陰極温度を制御することは困難であるので、通常の動作条件下で活性化を行う。しかし、現在一般的に流通しているトリタンや含浸型陰極を使用した放電ランプにおいても、ランプ製作工程において、活性化工程は必要であることから、本発明における活性化工程も同様であり、製造における支障はない。
【0029】
図8は、本発明による陰極の他の実施形態を示す図であり、この例は、炭化タングステン層を設けるのではなく、多孔質焼結体の陰極基体9に直接W2C14を分散させたものである。この場合、タングステン粉末と、最大20wt%の酸化トリウム粉末と、最大30wt%のW2C粉末14を混合し、図6に示される例のように、陰極基体9の形状に加圧成形後、リード11に嵌め込み焼結して、陰極基体9とリード11を固定する。後の動作は、図6に示される例と同様である。ここで、酸化トリウム粉末とW2C粉末の混合割合は、酸化トリウムの量が多すぎると導電性が悪くなり、酸化トリウムおよびW2Cの量が多すぎると焼結が困難となることから、設定されたものである。
【0030】
図9に示されるように、この実施形態においても、焼結ではなく、トリタン棒12に予めW2C14を分散させたものを用いても構わない。トリタン棒12とリード11は図7の例と同様のロウ材13により接合される。
【0031】
上記各例においては、トリタンについて述べたが、本発明は、トリタンの代りに、酸化ジルコニウム入りタングステン、酸化ハフニウム入りタングステン、酸化イットリウム入りタングステン、酸化スカンジウム入りタングステン、酸化セリウム入りタングステン、酸化ランタン入りタングステンなどを用いることもできる。また、これらを組み合せたものでも構わない。さらに、タングステンの代りに、モリブデンなど他の高融点金属を用いることもできる。
【0032】
また、上記各例では、X線管や電子顕微鏡などに用いる直熱型陰極と放電管用陰極について述べたが、これらに限らず、電子管用陰極、陰極線管用陰極などでも同様に本発明の陰極を用いることができる。また、前述の各例では、炭化タングステンとして、一炭化二タングステンW2Cを用いたが、一炭化一タングステンWCを用いても構わない。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、陰極表面に炭素原子を供給し、Th+CもしくはTh+C+Oの単原子層を形成しているため、電子放出能力が向上する。すなわち、従来の炭化層を形成した陰極と比較して、約5倍に電子放出量が増え、同じ電子放出を得るのに、約100℃動作温度を下げることができる。したがって、フィラメントおよび陰極の寿命を向上させることができる。
【0034】
さらに、炭化層を形成しないことにより、炭化層形成による機械的強度の低下、脱炭による電子放出の低下、脱炭による抵抗変化に基づきフィラメント電流が増加し、フィラメント温度が上昇することによる陰極の寿命短縮、などの問題を解消することができると共に、炭化層の厚さと組成制御の必要がないことにより製造が非常に簡単であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の直熱型陰極で、タングステン線フィラメント先端にトリタンチップ(陰極基体)を溶接した例の説明図である。
【図2】電子放射面表面に本発明による単原子層を形成したときの断面説明図である。
【図3】電子放射面表面に従来の炭化層を形成したときの断面説明図である。
【図4】本発明によるTh+C単原子層が形成されたトリタン陰極A、電子放射面に炭化層が形成された従来のトリタン陰極B、および従来の炭化層も形成しないトリタン陰極Cの各温度での、電子放出量を比較して示した図である。
【図5】本発明の一実施形態の直熱型陰極で、陰極基体としてトリタンフィラメントを用いた例の説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態である焼結体を用いた放電管陰極に適用した例の断面説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態であるトリタン棒を用いた放電管陰極に適用した例の断面説明図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態である放電管陰極で、多孔質焼結体にW2Cを分散させた例の断面説明図である。
【図9】本発明によるさらに他の実施形態である放電管陰極で、トリタン棒にW2Cを分散させた例の断面説明図である。
【符号の説明】
3 タングステン線フィラメント
4 トリタンチップ
4a 電子放射面
5 W2C粉末
6 トリタン棒
8 電子放射面
9 陰極基体
10 W2C層
11 リード
12 トリタン棒

Claims (3)

  1. トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物をエミッタ材として含む高融点金属からなる陰極基体と、電子放射面近傍に配置された炭化タングステンとを有する陰極において、前記陰極基体の電子放射面表面に、少なくとも前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層に前記炭化タングステンから遊離し拡散した炭素の単原子層が結合した層、あるいは前記金属の単原子層に前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を具備することを特徴とする陰極。
  2. トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物をエミッタ材として含む高融点金属からなる陰極基体を有し、該陰極基体の電子放射面表面に、少なくとも前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層に電子放射面近傍に配置された炭化タングステンから遊離し拡散した炭素の単原子層が結合した層、あるいは前記金属の単原子層に前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を具備する陰極の製造方法であって、
    前記陰極基体の電子放射面以外の電子放射面近傍に、炭化タングステン粉末を固着あるいは炭化タングステン膜を具備する陰極基体を用意する工程と、
    該陰極基体を真空または不活性ガス雰囲気中で、加熱処理を行い、前記炭化タングステン粉末あるいは炭化タングステン膜から炭素原子を拡散させ、前記エミッタ材から遊離した金属の単原子層と前記炭素の単原子層が結合した層、あるいは前記金属の単原子層と前記炭素の単原子層が結合した層に酸素が結合した層を、前記電子放射面表面に形成する工程とを含むことを特徴とする陰極の製造方法。
  3. 請求項2記載の陰極の製造方法において、前記陰極基体を用意する工程は、トリウム、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、スカンジウム、セリウムおよびランタンよりなる群れから選ばれる少なくとも1種類の金属の酸化物と炭化タングステンとが分散した、高融点金属の焼結体からなる陰極基体を形成することを特徴とする陰極の製造方法。
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