従来から、DNAやたんぱく質などの生体物質(検体)を解析、照合、合成、増幅するための流路、溝、空孔等の付いた配線基板、所謂マイクロ化学チップとして、セラミックスから成る絶縁基体に配線導体や溝加工を施した配線基板が知られている。
このような配線基板は、セラミックグリーンシート(セラミック生シートで、以下、グリーンシートともいう)積層法によって以下のように製作される。まず、アルミナ等から成るセラミック原料粉末にガラス粉末,有機バインダー,溶剤,可塑剤等を添加混合して泥漿状となし、これをドクターブレード法やカレンダーロール法等によってシート状に成形してグリーンシートを得、流路や泳動路となる溝や穴をプレス打抜き加工法等によって形成する。さらに、セラミック層間を貫通する貫通導体の形成ための微細な穴をプレス打抜き加工法等によって形成し、その穴に、タングステン(W),モリブデン(Mo)等の金属粉末に所望のガラス粉末,有機バインダー,溶剤,可塑剤等を添加混合して得られる金属ペーストを埋込む。
その後、グリーンシート表面に、タングステン(W),モリブデン(Mo)等の金属粉末に所望のガラス粉末,有機バインダー,溶剤,可塑剤等を添加混合して得られる金属ペーストを、スクリーン印刷法により所定パターンに印刷塗布し熱電対を形成する。しかる後、このグリーンシートを複数枚積層して積層体となすとともに、この積層体を1650℃程度の温度で焼成することによって製作される。
また、このような、DNAの解析、照合用等に使用される配線基板は、DNAの2鎖を1鎖に分解する分鎖作業を行なうために加熱機能と測温機能が必要となる。加熱機能は、一般に、配線基板内部に高抵抗材料の白金−レニウム(Pt−Re)合金やタングステン−レニウム(W−Re)合金から成るヒーターによって形成される。また、測温機能としては、アルメル−クロメル熱電対、鉄(Fe)−コンスタンタン熱電対、クロメル−コンスタンタン熱電対、白金−白金ロジウム合金熱電対等の熱電対の素線を、配線基板の温度測定部近傍に穴を設け、その穴に線状の熱電対を挿入し温度測定を行なう構成、配線基板上に熱電対の取付け治具をロウ材や耐熱性接着剤等を用いて接合し、その取付け治具に線状の熱電対を固定し温度測定を行なう構成、または軟化点が350〜500℃程度の低軟化点ガラスや耐熱性接着剤等を用いて配線基板に直接固定し温度測定を行なう構成等が一般的に行なわれている。
しかしながら、これらの熱電対を配線基板に直接取付ける構成においては、配線基板上において熱電対を取付けるための面積を確保する必要があり、小型化、高密度化が進む配線基板においては熱電対を取付けるための面積が確保できないため、これらの方法を用いるのは困難な状況になりつつある。特に、DNA等の検体を照合、合成、増幅するための流路や溝の付いた配線基板においては、検体を液状の試薬中で泳動させるための溝の幅が小型化により年々細くなってきており、熱電対の素線を配線基板の表面に取付けるための面積は確保できなくなる傾向にある。
また、強酸性、強アルカリ性の化学薬品による処理が検体を照合、合成、増幅する過程において施されるために、金属のロウ材や取付け金具は化学薬品により侵食されるので使用に制限が生じる。
そこで、近年、配線基板内部に熱電対を形成する方法として、アルミナ等から成るグリーンシートに、配線導体としてタングステン(W),モリブデン(Mo)等の金属ペーストを、熱電対として白金と白金−ロジウム合金との金属ペーストを印刷形成してグリーンシートを積層し、1650℃程度で焼成する方法も実施されるようになってきている。
特開昭54−137141号公報
特開平11−214127号公報
しかしながら、上記従来の配線基板内部に熱電対を形成する構成においては、熱電対として白金−白金ロジウム合金熱電対を用いているので、DNA解析における検体の分解温度や、ICチップの自己発熱温度または使用環境温度である300℃以下の温度において発生する起電力が100〜2400μV程度と小さい。そのため、電圧計測機器の配線や接続線等により発生するノイズや使用雰囲気によるドリフトにより、測定精度が安定せず、測定起電力に補正を加えて使用することが必要であるという問題点があった。
この問題点を解決する手段として、300℃での起電力が12209μVであり、白金(Pt)−白金ロジウム合金(Pt−Rh)熱電対の約5倍の大きな起電力を得ることが可能であり、電圧計測機器の配線や接続線等により発生するノイズに起電力値が埋もれることが無く補正を加えなくても安定した測定精度が得られる、アルメル−クロメル熱電対や鉄(Fe)−コンスタンタン熱電対、クロメル−コンスタンタン熱電対等の比較的低融点金属からなる熱電対を使用することが考えられる。
しかしながら、これらの比較的低融点の金属からなる熱電対は、それを構成する金属の融点が900〜1700℃程度であることから、使用限界温度が800〜1000℃程度である。その結果、従来のアルミナ等から成るグリーンシートに、配線導体としてタングステン(W),モリブデン(Mo)等の金属ペーストを、熱電対として白金と白金ロジウム合金の金属ペーストを印刷形成してグリーンシートを積層し、1650℃程度で焼成する方法においては、熱電対の金属接点において金属の相互拡散が進み、熱電対としての機能を失うという問題点があった。
また、熱電対素線を直接配線基板内に内蔵化する手法を例にとると、通常DNAやたんぱく質などの検体の泳動解析を行う際に、モニターされる温度および設定温度は、流路(チャネルやキャピラリーともいう)を流れる検体の温度であるために、アルメル−クロメル熱電対素線の測温部をできるだけ流路に近づけて設置する必要がある。このため、セラミック配線基板においては、流路の下側のセラミック層の層厚みを可能なかぎり薄くして、流路に熱電対を近く設置する方法が取られている。
なお、流路の形成方法として、グリーンシート単層にて形成する場合、金型上に成形された凸状の流路パターンをグリーンシートに加圧し押し付けて凹状の溝を形成する方法がある。しかしながら、この方法によれば、凸状の流路パターンがグリーンシートに加圧され食込んでいく際に、グリーンシートに加わる圧力が流路部とその周辺部では異なるために、グリーンシートに割れやクラックが発生したり、グリーンシート内の比重に部分的に差が生じ、これが原因となって配線基板の焼成時に焼結収縮量に差が生じ、配線基板に割れやクラックが発生する場合がある。
そこで、第1層目のグリーンシートに流路となる貫通したパターン形状を金型で打抜き加工して形成し、この流路加工を施した第1層目のグリーンシートの下層に、別の第2層目のグリーンシートをプレス機等で積層加圧して流路の底を形成して流路と成す方法がある。しかしながら、この方法においては、熱電対素線の載置された第3層目のグリーンシートを、打抜き加工された第1のグリーンシートを積層した第2層目のグリーンシートの下面に位置決めしプレス等で加圧積層するが、その後の焼成の際のガラスセラミックスの厚み収縮により、流路は空孔であるために第2層目のグリーンシートや熱電対素線が、それらが載置された第3層目のグリーンシートよりも密度が低くなり、そのため、流路の底部が流路内へ押し出され凸形状となる。その結果、流路に検体を泳動させ解析する際に、流路底部の凸部が検体の泳動を妨げ、正しい検出ができないという問題点がある。
そこで、流路底部が流路内側へ押し出されて凸形状になることを防止する方法として、第1層目のグリーンシートに流路となる貫通したパターン形状を金型で打抜き加工して形成した後に、この打ち抜き穴にアルミナ粉末等の単独では焼結しない密度の高い難焼結性粉末を入れることによって、流路底部が流路内側へ押し出されて凸形状に変形することを防止する手法が考えられる。しかしながら、この手法においては、配線基板の焼成時に流路底部とアルミナ粉末等の変形防止用の難焼結性粉末とが押し合った結果、流路底部に難焼結性粉末の圧痕が付く。このため、流路底部が平坦面にならず、流路底部の凹凸が検体の泳動を妨げ、正しい検出ができないという問題点がある。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決すべく完成されたものであり、その目的は、熱電対を内蔵した配線基板において、配線基板の使用温度域である300℃以下での温度測定を行なった場合、計測機器の配線や接続線等により発生するノイズや使用雰囲気によるドリフトによって測定精度低下が発生せず、測定起電力に補正を加えることもなく安定した測定が可能となる配線基板とすることである。また、配線基板に搭載されるICチップの熱による誤動作や動作停止を容易に防止し、さらに流路を流れる検体の処理に対しても安定した特性を維持することが可能な熱電対を内蔵した配線基板を得ることにある。
本発明の配線基板は、ガラスセラミックスから成る複数の絶縁層が積層されて成る絶縁基板と、前記絶縁層の層間および該絶縁層の表面に形成された配線導体と、前記絶縁層を貫通して形成された貫通導体と、前記絶縁層に形成された被処理流体を流通させる流路と、前記配線導体または前記貫通導体に電気的に接続される熱電対とを具備しており、前記流路と前記熱電対との間に前記流路と平面視で重なるように、前記絶縁層の焼結温度よりも焼結温度が低い金属から成る、前記流路の底部に変形が生じることを防ぐ金属層が形成され、前記熱電対の測温部と前記流路とは、前記金属層を挟んで対向するように設けられ
ていることを特徴とする。
本発明の配線基板は好ましくは、前記被処理流体は、生体物質を含むものであることを特徴とする。
また、本発明の配線基板は好ましくは、前記配線導体および前記貫通導体は、銀、銅、パラジウムおよび白金のうちの少なくとも一種から成ることを特徴とする。
また、本発明の配線基板は好ましくは、前記熱電対は、アルメル−クロメル熱電対、鉄−コンスタンタン熱電対またはクロメル−コンスタンタン熱電対等から成り、前記配線導体は、前記熱電対との接続部に銀、パラジウム、白金および金のうちの少なくとも一種から成る接続配線部が形成されていることを特徴とする。
本発明の配線基板によれば、ガラスセラミックスから成る絶縁層としたことから、1000℃以上の焼成では溶融し配線導体を形成しない低融点でかつ低抵抗の金属を配線導体として形成することができるとともに、アルメル−クロメル熱電対や鉄−コンスタンタン熱電対、クロメル−コンスタンタン熱電対等の比較的低融点の金属からなる起電力が大きい熱電対を使用することができる。その結果、ICチップが搭載される配線基板における使用温度域である300℃以下で熱電対の起電力が小さいことに起因する、計測機器の配線や接続線等により発生するノイズや使用雰囲気によるドリフトによって測定精度が安定しないという問題を効果的に解消することができ、測定起電力に補正を加え使用する必要性を回避することができる。
また、流路と熱電対との間に絶縁層より焼結温度の低い金属から成る金属層が形成されていることから、配線基板の焼成時に、まず金属層が焼結し硬くなり、その後絶縁層が焼結収縮するため、熱電対が金属層に食い込もうとしても、金属層は焼結収縮が進み密度が高くなっているので熱電対が食い込まず、金属層は流路側に凸となることがない。その結果、流路底部が流路内側へ押し出されて凸形状になることが防止され、平坦な流路底部を得ることができる。
また、流路の底に熱電対を近づけて配置することができることから、流路を流れる被処理流体の温度の測定を正確に行うことが可能である。
また、ガラスセラミックスの焼結温度は、それに含まれる主成分のガラス粉末やアルミナ粉末の平均粒径に依存するが、金属層の焼結温度は、それに含まれる主成分の金属粉末の融点に依存し、一般的には金属の固相焼結の開始温度は融点(K:ケルビン)の45〜65%である。このことから、ガラスセラミックスに含まれるガラス粉末やアルミナ粉末の平均粒径を調整し所望の焼結温度とし、その後、金属層に含まれる金属粉末の融点が適当な金属組成を選択することで、金属層の焼結温度を絶縁層よりも低くすることができる。その結果、流路底面の表面の粗さを小さくでき、スムーズに被処理流体を泳動させることができる。
また、流路と熱電対との間に、例えばガラスセラミックスから成る絶縁層よりも熱伝導率の高い銀、銅、パラジウムおよび白金から成る金属層を形成できることから、流路を流れる被処理流体の温度を測定する場合、より正確に温度を熱電対に伝えることが可能となる。なお、一般的にガラスセラミックスの熱伝導率は1.5〜10.0W/m・Kであるのに対し、銀、銅、パラジウムおよび白金の熱伝導率はそれぞれ427、398、75.5、71.4W/m・Kである。
さらに、金属層はガラスセラミックスから成る絶縁層よりも熱伝導が高いことから、ヒーターで流路を流れる被処理流体を加熱する場合、ヒーターの熱が金属層で拡散されることなく流路下部に伝わるため、より均一に熱を被処理流体に伝えることが可能となる。
本発明の配線基板は好ましくは、被処理流体は、生体物質を含むものであることから、配線基板をDNAやたんぱく質等の生体物質を分析するマイクロ化学チップ等に適用する際に、流路に変形がないため高い精度で生体物質を分析できるマイクロ化学チップを得ることができる。
また、熱電対の測温部は、金属層を挟んで対向するように設けられていることから、流路と熱電対とは金属層を介して対向する位置関係となり、焼成時の焼結収縮による熱電対の流路側への押し出しが確実になくなる。その結果、流路底部を確実に平坦と成すことができる。
また、金属層はガラスセラミックスから成る絶縁層よりも熱伝導が高いことから、流路を流れる被処理流体の温度を測定する場合、被処理流体の熱が金属層で拡散されることなく熱電対に伝わるため、より安定して正確な温度測定が可能となる。
また、本発明の配線基板は好ましくは、配線導体および貫通導体は、銀、銅、パラジウムおよび白金のうちの少なくとも一種から成ることから、配線導体および貫通導体は抵抗率が1.59〜1.67μΩcmと低くなり、熱電対の起電力を損失させることなく計測機器へ伝達することができ、精度の高い測定をすることができる。
また、本発明の配線基板は好ましくは、配線導体は、熱電対との接続部に銀、パラジウム、白金および金のうちの少なくとも一種から成る接続配線部が形成されていることから、熱電対の基本的組成を成す金属であるニッケルと配線導体や貫通導体との間に酸化ニッケルが形成されず、配線導体と熱電対とを良好に電気的に接続できる。
本発明の配線基板を以下に説明する。図1,図2は本発明の配線基板の実施の形態の一例を示し、図1(a)は配線基板の内層の構成を一部示す部分切欠斜視図、(b)は配線基板の斜視図である。図2は配線基板の断面図である。図1,図2において、1は絶縁層、2は金属層、3は配線導体、4は貫通導体、5は線状の熱電対である。また、6は熱電対に接合され、熱電対5の起電力を外部へ引き出す内層の配線導体(以下、引き出し配線ともいう)、7は熱電対5と引き出し配線6との間の接続配線部、8は耐薬品性の保護膜を有するICチップ、9はDNAやたんぱく質等の生体物質を含む被処理流体を流通、泳動させる溝状の流路、10は流路9を流通する被処理流体を加熱するためのヒーターである。
絶縁層1が複数積層されて絶縁基板が形成される。図2は、第1層目の絶縁層11、第2層目の絶縁層12、第3層目の絶縁層13、第4層目の絶縁層14で絶縁基板を形成した例を示す。
本発明において、絶縁層1はガラスセラミックス、所謂ガラスセラミックス質焼結体から成る。ガラスセラミックス質焼結体は、ガラス成分とフィラー成分とから成るが、ガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す)、SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は同じまたは異なっており、Ca,Sr,Mg,BaまたはZnを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は上記と同じである)、SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi,NaまたはKを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである)、Pb系ガラス、Bi系ガラス等が挙げられる。
また、フィラー成分としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等が挙げられる。
また、金属層2は、例えば銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd),白金(Pt)等の金属の粉末を主成分とするメタライズ層からなる。このメタライズ層は、上記金属の粉末を含む導体ペーストを焼結させることにより得られ、絶縁層1に溝を形成するときに溝の底面に凹凸の変形が生じることを防ぐ防止層として機能する。
また、金属層2の材料を選ぶには、絶縁層1より金属層2を早く焼結収縮させることが必要であるので、まず絶縁層1となるグリーンシートを焼成炉で焼成してTg(ガラス転移点)や収縮挙動曲線のデータを得て、これより、絶縁層1となるガラスセラミックスの焼結温度を確認することができるので、金属層2の材料は所望のガラスセラミックスの焼結温度より低い焼結温度であるものを選ぶことができる。
また、金属層2の厚みは5μm以上が好ましい。金属層2の厚みが5μm未満になると、熱電対5が流路9側へ凸になる力の方が強くなるために、溝底面に凹凸の変形が生じることを防ぐ防止層として機能が不十分となる傾向があり、流路9の底部に熱電対5の出っ張りによる凸部を生じやすくなるおそれがある。なお、本実施例ではスクリーン印刷法を用いて金属層2の厚みを12μmとして形成した。
また、金属層2と流路9は平面視で重なるものである。流路9の途中に下層で形成されている金属層2の端部がある場合、金属層2が形成されている部分と形成されていない部分で金属層2の厚み分の厚み差が生じる。このため、流路9底部に段差が生じるおそれがある。
なお、金属層2を平面視した場合の形状は四角でも楕円形状でも両者を複合した形状でも良い。
また、金属層2は流路9の底部に現れないように形成する。金属層2が流路9の底部に現れている場合、流路9を流れる薬液により金属層2の表面が侵され、金属成分が薬液内に混入するために、正確な分析ができなくなる可能性がある。
また、金属層2は熱電対5と電気的に絶縁して形成する。金属層2が熱電対5と電気的に導通した場合、熱電対5の起電圧が金属層2に印加され、金属層2と熱電対5の材料間でゼーベック効果が起こるため、熱電対5の起電圧が見かけ上低くなり正確な温度測定ができなくなる可能性がある。
配線導体3、貫通導体4および引き出し配線6は、例えば銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd),白金(Pt)等の金属の粉末を主成分とするメタライズ層からなる。このメタライズ層は、上記金属の粉末を含む導体ペーストを焼結させることにより得られるが、導体ペーストの焼成収縮とガラスセラミックスの焼成収縮とを合わせたり、絶縁層1との接合強度を確保したりするために、導体ペースト中にガラス粉末やセラミック粉末を添加してもよい。また、配線導体3および引き出し配線6は、それぞれ添加するガラス粉末やセラミック粉末の種類および添加量が異なっていてもよい。
線状の熱電対5の素線は、例えばアルメル−クロメル熱電対や鉄−コンスタンタン熱電対,クロメル−コンスタンタン熱電対等から成るが、特に工業用として最も多く使用されているアルメル−クロメル熱電対が最良の結果が得られた。
熱電対5素線と接合され、熱電対5の起電力を外部へ引き出すための引き出し配線6は、例えば、銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd),白金(Pt)等の金属の粉末を主成分とするメタライズ層からなる。このメタライズ層は、上記金属の粉末を含有する導体ペーストを焼結させることにより得られるが、導体ペーストの焼成収縮とガラスセラミックスの焼成収縮とを合わせたり、絶縁層1との接合強度を確保したりするために、導体ペースト中にガラス粉末やセラミック粉末を添加してもよい。
熱電対5素線と引き出し配線6との間の接続配線部7は、例えば、銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt)および金(Au)のうちの少なくとも1種からなる。この接続配線部7は、熱電対5の周囲にめっき法や蒸着法、印刷法等より形成される。接続配線部7は、熱電対5の測温部、すなわちアルメルとクロメルとの接合部には形成してはならない。これは、例えばアルメルとクロメルにまたがって導電性物質が接触すると、アルメルとクロメルとの電位差がなくなり、起電力が発生せず、熱電対5として機能しなくなるためである。
ヒーター10は、例えば、白金−レニウム(Pt−Re)やタングステン−レニウム(W−Re)等の金属の粉末を主成分とするメタライズ層からなる。このメタライズ層は、上記金属の粉末を含む導体ペーストを焼結させることにより得られる。
ここで、下記表1および図3のグラフは、本発明の配線基板においてアルメル−クロメル熱電対を用いた場合の−40℃〜300℃での起電力曲線を測定した結果を示しており、起電力の理論値とほぼ一致した特性を得ることができた。
なお、絶縁層1に含まれるガラス粉末として、SiO2−B2O3系の、平均粒径(D50)が1.2〜5.0μmのものを使用した。その結果、焼結開始温度が700℃、焼結終了温度が850℃となったため、金属層2の材料として融点が962℃の銀(Ag)を選定した。これにより、金属層2の焼結温度を絶縁層1よりも低くすることとした。併せて流路9を流れる被処理流体の温度を測定する場合、より正確に熱電対5に熱を伝えるために熱伝導率が427W/m・Kである銀(Ag)を選定した。
なお、D50とは、粉末の粒径分布を表す指標であり、分布中の粒径の小さい粉末から積算して50%の位置にある粒径という意味である。
そして、本発明の配線基板は以下のようにして作製される。本発明の配線基板の絶縁層1はガラスセラミックスから成るので、まずセラミック粉末,ガラス粉末等の原料粉末に所望の有機バインダー,可塑剤,有機溶剤等を添加混合して泥漿状となし、これを従来周知のドクターブレード法やカレンダーロール法によりシート状に成形してガラスセラミックグリーンシート(以下、グリーンシートともいう)を作製する。また、銅,銀等の低融点金属の粉末に所望の有機溶剤,溶媒を添加混合して導体ペーストを作製する。ここで、絶縁層1となるグリーンシートに含まれるガラス粉末およびアルミナ粉末の平均粒径(D50)を所望の大きさとして、各々のグリーンシートを製作する。
次に、第1層目の絶縁層11となるグリーンシートにDNAやたんぱく質を泳動させる溝状の流路9を形成するために、溝パターンが凸状に形成された金型等を用いて、50〜150℃の温度、3〜200MPaの圧力でグリーンシートを加圧打抜きし、グリーンシートの表面に所定パターンの溝を形成する。
次に、溝を形成した第1層目の絶縁層11となるグリーンシートに、例えば打抜き法により貫通導体4を形成するための貫通孔を形成し、例えばスクリーン印刷法によりその貫通孔に導体ペーストを充填する。続いて、配線導体3や引き出し配線6となる導体ペーストを、各グリーンシート表面に所定パターンで印刷塗布する。
次に、溝を形成した第1層目の絶縁層11となるグリーンシートの下層にあたる第2層目の絶縁層12となるグリーンシートに、例えば打抜き法により貫通導体4を形成するための貫通孔を形成し、例えばスクリーン印刷法によりその貫通孔に導体ペーストを充填する。続いて、配線導体3となる導体ペーストを第2層目の絶縁層12となるグリーンシートの表面に所定パターンで印刷塗布する。
次に、第2層目の絶縁層12となるグリーンシートの下層にあたる第3層目の絶縁層13となるグリーンシートに、例えば打抜き法により貫通導体4を形成するための貫通孔を形成し、例えばスクリーン印刷法によりその貫通孔に導体ペーストを充填する。続いて、金属層2および配線導体3となる導体ペーストを第3層目の絶縁層13となるグリーンシートの表面に所定パターンで印刷塗布する。
次に、第3層目の絶縁層13となるグリーンシートの下層にあたる第4層目の絶縁層14となるグリーンシートに、例えば打抜き法により貫通導体4を形成するための貫通孔を形成し、例えばスクリーン印刷法によりその貫通孔に導体ペーストを充填する。続いて、配線導体3や引き出し配線6、ヒーター10となる導体ペーストを、第4層目の絶縁層14となるグリーンシートの表面に所定パターンで印刷塗布する。
次に、熱電対5素線の所定位置に接続配線部7を形成するために、めっき法やプリント法等によってパラジウム膜を形成する。しかる後、第4層目の絶縁層14となるグリーンシート上の引き出し配線6の所定位置に、パラジウム膜が形成された熱電対5素線を位置決めして載置し、その後、溝を形成した第1層目の絶縁層11となるグリーンシートから第4層目の絶縁層14となるグリーンシートを重ね、3〜200MPaの圧力で加圧し、熱電対5をグリーンシート内に固定する。
なお、パラジウム膜に限らず、銀,パラジウム,白金および金のうちの少なくとも一種から成る金属膜を用いてもよい。
次に、溝を形成した第1層目の絶縁層11となるグリーンシートから第4層目の絶縁層14となるグリーンシートまでの積層体に、所望のグリーンシートとを重ねて積層し、必要に応じて50〜100℃の温度で3〜200MPaの圧力で圧着し、約800〜950℃の温度で焼成する。
その後、配線基板主面に露出する配線導体3や引き出し配線6の表面に、腐食防止等のために、ニッケルめっき、パラジウムめっきおよび金めっき等を被着させるとよい。
上記のようにして製造された本発明の配線基板は、ガラスセラミックスから成る複数の絶縁層1が積層されて成る絶縁基板と、絶縁層1の層間および絶縁層1の表面に形成された配線導体3と、絶縁層1を貫通して形成された貫通導体4と、絶縁層1に形成された被処理流体を流通させる流路9と、配線導体3または貫通導体4に電気的に接続される熱電対5とを具備しており、流路9と熱電対5との間に流路9と平面視で重なるように、絶縁層1よりも焼結温度が低い金属から成る、流路9の底部に変形が生じることを防ぐ金属層2が形成され、熱電対5の測温部と流路9とは、金属層2を挟んで対向するように設けられている。即ち、流路9と熱電対5との間に、絶縁層1より焼結温度の低い金属層2から成る変形防止層が形成されている。
これにより、流路9と熱電対5との間に金属層2が形成されることから、金属層2の一方の主面に形成された熱電対5が金属層2に食い込もうとしても、金属層2は焼結収縮が進み密度が高くなっているので熱電対5が食い込まず、金属層2は流路9側に凸となることがない。その結果、流路9底部が流路9内側へ押し出されて凸形状になることが防止され、平坦な流路9底部を得ることができる。そのため、DNAなどを含む被処理流体を照合、合成、増幅するための流路9付きの配線基板において、流路9底部が熱電対5により凸形状に変形することがなく、流路9を被処理流体がスムーズに流通、泳動するので、配線基板上での諸反応温度を正確に安定して計測できる。その結果、被処理流体の照合不良や合成不良、増幅率低下が発生するという問題を防止できるので、DNA解析の信頼性を向上でき、照合時間を短縮させることが可能となる。
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更は可能である。例えば、上記実施の形態では、図2のように金属層2が配線基板端部まで形成されている例を示したが、金属層2が絶縁層1の内部に形成される構成でもよい。