JP4478216B2 - 表示装置用フィルター,表示装置,表示装置用フィルターの製造方法,および、表面改質膜用コーティング組成物 - Google Patents

表示装置用フィルター,表示装置,表示装置用フィルターの製造方法,および、表面改質膜用コーティング組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐汚染性、耐擦傷性、耐加工性などに優れた反射防止性を有し、CRTの反射防止フィルターや前面板などとして使用される表示装置用フィルター及びそれを有する表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
透明材料を通して物を見る場合、反射光が強く、反射像が明瞭であることは煩わしく、例えば眼鏡用レンズではゴースト、フレアなどと呼ばれる反射像が生じて目に不快感を与えたりする。またルッキングガラスなどではガラス面上の反射した光のために内容物が判然としない問題が生ずる。更に、テレビなどの陰極線管や液晶などの平面ディスプレーのパネル面においても画像を鮮明にするため、パネル面の反射は少ない方が好ましい。
【0003】
従来より反射防止のために屈折率が基材と異なる物質を、真空蒸着法などにより基材上に被覆形成させる方法が行われていた。この場合反射防止効果を最も高いものとするためには、基材を被覆する物質の厚みの選択が重要であることが知られている。
【0004】
例えば単層被膜においては基材より低屈折率の物質を光学的膜厚を対象とする光波長の1/4ないしはその奇数倍に選択することが極小の反射率すなわち極大の透過率を与えることが知られている。
ここで、光学的膜厚とは、被膜形成材料の屈折率と該被膜の膜厚の積で与えられるものである。さらに複層の反射防止膜の形成が可能であり、この場合の膜厚の選択に関していくつかの提案がされている(光学技術コンタクト Vol.9, No.8,第17頁 (1971) )。
【0005】
一方、特開昭58−46301号公報、特開昭59−49501号公報、特開昭59−50401号公報には前記の光学的膜厚の条件を満足させる複層からなる反射防止膜を液状組成物を用いて形成する方法について記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
蒸着法により形成された反射防止膜は被膜形成材料が主として無機酸化物あるいは無機ハロゲン化物であり、反射防止膜は本質的には高い表面硬度を有する半面、手垢、指紋、汗、ヘアーリキッド、ヘアースプレーなどの汚れが目立ち易く、またこの汚れが除去しにくいという欠点があった。さらには表面のすべり性が悪いために傷が太くなるなどの問題点を有している。また水に対する濡れ性が大きいために雨滴、水の飛沫が付着すると大きく拡がり、眼鏡レンズなどにおいては大面積にわたって物体がゆがんで見えるなどの問題点があった。
【0007】
特開昭58−46301号公報、特開昭59−49501号公報、特開昭59−50401号公報に記載の反射防止膜においても硬い表面硬度を付与するためには最表層膜中にシリカ微粒子などに代表される無機物を30重量%以上含ませることが必要であるが、このような膜組成から得られる反射防止膜は、表面のすべりが悪く、布などの磨耗によって傷がつき易いなどの問題点を有している。
【0008】
これらの問題点を改良する目的で各種の表面処理剤が提案され、市販されているが、いずれも水や各種の溶剤によって溶解するために一時的に機能を付与するものであり、永続性がなく耐久性に乏しいものであった。また、特開平3−266801号公報には、撥水性を付与するために、フッ素系樹脂層を形成させる報告がある。しかしながらこれらのフッ素系樹脂では確かに撥水性は増すが、摩擦あるいは磨耗に対して満足する結果が得られていない。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みて成され、耐汚染性、耐擦傷性、耐加工性などに優れた反射防止性を有し、CRTなどの表示装置の前面板等として使用されて好適な表示装置用フィルター、およびそれを有する表示装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の問題点を解決するために鋭意検討した結果、以下に述べる本発明に到達したものである。
すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかる表示装置用フィルターは、ガラス基材上に設けられた単層又は多層の反射防止膜の表面が、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物を含有するコーティング組成物を用いた表面改質膜で被覆されていることを特徴とする。
【0011】
f {COR1 −R2 −Si(OR3 3 j …(1)
(但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
また、本発明にかかる表示装置は、ガラス基材と、該ガラス基材上に設けられた単層又は多層の反射防止膜と、該反射防止膜上に、上記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物を含有するコーティング組成物を用いた表面改質膜とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明者等は、上記したような従来技術における問題を解決するために、種々検討を行う過程において、ガラス基材上に形成された酸化珪素等の反射防止膜に対するパーフルオロポリエーテル化合物による表面処理によって、耐摩擦磨耗、あるいは耐汚染性が向上するという知見を得た。しかしながら、たしかにこの化合物による表面処理は非常に効果があるが、化学的な安定性、例えば溶剤処理等でその効果が著しく低減するとの結論に達した。これはとりもなおさず、表面のSiO2 との相互作用に係るものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明者らはさらに鋭意検討を行なった結果、一般式(1)で表されるようなパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物で被覆することによって反射防止性を有する表示装置等の表面の耐磨耗性あるいは耐汚染性の問題を解決しようとした。つまり、SiO2 表面との相互作用を持たせるためにアルコキシシラン構造部を分子構造中に含み、表面で強固な結合をなさせるものである。それゆえに、従来不満足であった、耐溶剤性等の問題を克服することができるものである。
【0014】
従って、上記式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物を含有するコーティング組成物は、反射防止膜表面に耐摩耗性、耐汚染性、耐溶剤性等の特性を有する表面改質膜を形成することができる。
この場合、基材との反応を促進する触媒として酸又は塩基、リン酸エステル、及びアセチルアセトン等のβ−ジケトン類から選ばれる1種又は2種以上をコーティング組成物に添加することにより、加熱温度を低くしても基材との強い結合を形成できる。そのため、製造プロセス的に有利になると共に、表面改質膜の加熱による変質を防止でき、良質の表面改質膜を形成することができる。
【0015】
なお、上記パーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物の溶液調整時に、触媒として酸あるいは塩基を用いることは一般に知られていることであるが、本発明のように、防汚膜を形成するような例えば10nm程度の薄膜の場合には、潤滑特性等のトライボロジー効果は知られていない。更に、燐酸エステル系の触媒、あるいはアセチルアセトンのようなβ−ジケトンを酸又は塩基と共に添加することによる効果も知られていない。反射防止フィルターのような薄膜材料においては、その膜厚から耐久性への要求は厳しいものがあり、その耐久性を向上させるためにこのような触媒を添加することを試みたものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施形態に基づきより詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る表示装置用フィルターにおける断面構造を示す。図1に示す表示装置用フィルター10は、ガラス基材1の一表面上に反射防止膜2が設けられており、この上面に表面改質膜3が形成されている。
【0017】
たとえば、表示装置用フィルター10を、図2に示すCRT100のパネル101に接着して用いることができる。フィルター10をパネル101に接着する接着剤としては、特に限定されず、各種の公知のものを用いることができるが、一般には紫外線硬化樹脂系接着剤が使用され、かつその硬化層の屈折率が上記パネルの屈折率と近似する、例えばその差が0.8%以内となるものであることが好ましい。具体的には、例えば、分子量550以上のビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート10重量%、ウレタン(メタ)アクリレート20重量%、水酸基含有モノ(メタ)アクリレート70重量%、光重合開始剤3%およびその他の添加剤数%程度を含有する組成物などが用いられ得る。
【0018】
また、本発明の表示装置用フィルター10は、パネル101の前面に取り外し自在に取り付けるタイプのフィルターであっても良い。取り外し自在に装着する場合には、本発明に係る表示装置用フィルターの外周部には、枠体が装着され、この枠体に対して本発明に係る表示装置用フィルターが張設されることになる。
【0019】
なお、フィルター10が接着又は取り付けられる対象となる表示装置のパネルとしては、CRTのような曲率を有するパネルに限らず、液晶ディスプレイ装置あるいはプラズマディスプレーのような平面表示装置のパネルの他、各種の表示装置のパネルが含まれる。
【0020】
一方、図2は、本発明の表示装置としての陰極線管100をも示す斜視図であり、この場合のパネル101の一実施態様にかかる断面構造を図3に示す。この場合における表示装置100は、ガラス基材としてのCRTのガラスパネル101の表面に直接反射防止膜2が設けられており、この反射防止膜2の表面に表面改質膜3が設けられている。
【0021】
本発明の表示装置としては、反射防止膜が形成されたガラス基材を有する表示装置すべてが対象となり、CRT以外に、例えば液晶ディスプレー、プラズマディスプレー等の平面表示装置なども含む。
本発明において、図1、図3に示すガラス基材1、101としては、特に限定されるものではなく、珪酸、ホウ酸、リン酸等を主成分として含む非結晶固体であれば良く、例えばソーダガラス、鉛ガラス、硬質ガラス、石英ガラス、液晶化ガラス等が挙げられる(例えば、化学便覧基礎編、P.T−537、日本化学会編)。CRTとしてはストロンチウムやバリウムを含む珪酸ガラスが好ましく用いられ、液晶表示素子装置では無アルカリガラスが好ましく用いられる。
【0022】
このようなガラス基材1上部に形成される反射防止膜2は、単層または多層構造を有するものであって、各種の組み合わせが可能である。特に多層構造とする場合には、その表層膜より下層を形成する物質の膜構成は要求される性能、例えば耐熱性、反射防止性、反射光色、耐久性、表面硬度などに応じて適宜実験等に基づき決定することができる。
【0023】
これらの反射防止膜を形成する二酸化珪素を含めた各種無機物の皮膜化方法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングに代表される各種のPVD(Physical Vapor Deposition )法がある。
反射防止膜を得る上で、上記のPVD法に適した無機物としては、SiO2 以外に、例えば、Al2 3 、ZrO2 、TiO2 、Ta2 5 、TaHf2 、SiO、TiO、Ti2 3 、HfO2 、ZnO、In2 3 /SnO2 、Y2 3 、Yb2 3 、Sb2 3 、MgO、CeO2 などの無機酸化物が例示できる。
【0024】
なおこのようなPVD法によって形成される反射防止膜の最外表層膜は、主として二酸化珪素から構成されるものであることが好ましい。二酸化珪素以外の場合には十分な表面硬度が得られないばかりでなく、本発明の目的とする耐汚染性、耐擦傷性の向上、さらにはこれらの性能の耐久性が顕著に現れない虞があるためである。しかしながら、本発明は、主として、このような反射防止膜の表面を被覆する表面改質膜の構成に係るものであるゆえ、特に反射防止膜の最外表層膜の材質を限定するものではなく、二酸化珪素以外のもので構成されていてもよい。
【0025】
また、この反射防止膜の最外表層膜の膜厚は、反射防止効果以外の要求性能によってそれぞれ決定されるべきものであるが、特に反射防止効果を最大限に発揮させる目的には表層膜の光学的膜厚を対象とする光波長の1/4ないしはその奇数倍に選択することが極小の反射率すなわち極大の透過率を与えるという点から好ましい。
【0026】
一方、前記表層膜の下層部の構成等については特に限定されない。すなわち、前記表層膜を直接基材上に被膜形成させることも可能であるが、反射防止効果をより顕著なものとするためには、基材上に表層膜より屈折率の高い皮膜を一層以上被覆することが有効である。これらの複層の反射防止膜の膜厚および屈折率の選択に関してもいくつかの提案がなされている(例えば、光学技術コンタクト Vol.9 No.8 p.17 (1971) )。
【0027】
また下層部に、カーボンスパッタ膜、カーボンCVD膜などの無機光透過膜を設けることも可能である。
しかして本発明においては、上記したような単層または多層の反射防止膜2の表面を、下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物を含有するコーティング組成物から形成される表面改質膜3で被覆するものである。
【0028】
f {COR1 −R2 −Si(OR3 3 j …(1)
(但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
f としてのパーフルオロポリエーテル基の分子構造としては、特に限定されるものではなく、各種鎖長のパーフルオロポリエーテル基が含まれるが、好ましくはC1 〜C3 程度のパーフルオロアルキルオキシ基を繰り返し単位とする一価又は二価のパーフルオロポリエーテルである。一価のパーフルオロポリエーテルとしては、具体的には例えば、次に示すようなものがある。
【0029】
【化1】
Figure 0004478216
【0030】
また、二価のパーフルオロポリエーテル基としては、例えば次のようなものがある。
【0031】
【化2】
Figure 0004478216
【0032】
なお上記化学構造式中の、l、m、n、k、p及びqはそれぞれ1以上の整数を示す。しかしながら、前記したようにパーフルオロポリエーテルの分子構造はこれら例示したものに限定されるものではない。
一般式(1)におけるR1としての結合原子ないし結合原子団としては特に限定されるものではないが、通常は、例えばO、NH、S等の原子あるいは原子団である。
【0033】
また一般式(1)におけるR2は非置換又は置換の二価炭化水素基であり、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などのアルキレン基が例示され、炭素数は特に制限されない。
また、R3 は、アルコキシ基を構成する非置換又は置換の一価炭化水素基であり、炭素数は特に限定されるものではないが、例えば、C1 〜C5 程度、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基が例示される。なお、上記R1〜R3では、当該炭素原子鎖の柔軟性ないしゆらぎ性を損なわない限りにおいて、一部に不飽和結合、特性基、芳香環などの環状構造を有するものであってもよく、さらに、短鎖の分岐鎖ないし側鎖を有するものであってもよい。
【0034】
また、この一般式(1)で表されるアルコキシ化合物の分子量は特に限定されないが、安定性、取り扱い易さなどの点から数平均分子量で500〜10000、さらに好ましくは500〜2000程度のものが使用される。
さらにこのような化合物により形成される表面改質膜の膜厚についても、特に限定されるものではないが、反射防止性と水に対する静止接触角とのバランスおよび表面硬度との関係から、0.1nm〜100nm、さらに好ましくは10nm以下、具体的には0.5nm〜5nm程度であることが望ましい。
【0035】
またその塗布方法としては、通常のコーティング作業で用いられる各種の方法が適用可能であるが、反射防止効果の均一性、更には反射干渉色のコントロールという観点からスピン塗布、ディッピング塗布、カーテンフロー塗布などが好ましく用いられる。また作業性の点から紙、布などの材料に液を含浸させて塗布流延させる方法も好ましく使用される。
【0036】
このような塗布作業において、前記一般式(1)で表される化合物は、通常揮発性溶媒に希釈され、コーティング組成物として使用される。溶媒として用いられるものは、特に限定されないが、使用にあたっては組成物の安定性、被塗布面である反射防止膜の最表面層、代表的には二酸化珪素膜に対する濡れ性、揮発性などを考慮して決められるべきである。本発明においては、特にメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、sec−アミルアルコール等のアルコール系溶剤が好ましく、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、アルコール系溶剤に炭化水素系溶剤を混合して混合溶剤とすることも可能である。このような炭化水素系溶剤としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン等のパラフィン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等のシクロパラフィン等の沸点が50〜120℃の範囲の1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。その他、フッ化炭化水素系溶媒を用いることも可能であり、例えばパーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、アウトジモント社製の商品名SV−110,SV−135等のパーフルオロポリエーテル、住友3M社製のFCシリーズ等のパーフルオロアルカン等を例示することができる。これらのフッ化炭化水素系溶媒の中でも、沸点が70〜240℃の範囲のものを選択し、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
一般式(1)で表される化合物のコーティング組成物を調製するに際しての希釈溶剤による希釈度合としては特に限定されるものではないが、例えば、0.1〜5.0重量%濃度程度に調製することが適当である。
また、本発明においては、このコーティング溶液中に、必要に応じて反応触媒としての酸あるいは塩基を添加することが好ましい。酸触媒としては例えば,硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、酸性白土、酸化鉄、硼酸、トリフルオロ酢酸などを用いることができ、また塩基触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物などを用いることができる。これらの触媒の添加量は、0.001〜1mmol/L程度が好ましい。これらの酸、塩基に加えてリン酸ジラウリルエステル、リン酸のパーフルオロポリエーテルエステルなどの燐酸エステル系の触媒、あるいはアセチルアセトンのようなβ−ジケトンを添加してその触媒効果を高めることが可能である。このように触媒が添加されることによって一般式(1)で表される化合物のシラノ基と、反射防止膜表面のSiO2 との結合反応を伴う相互作用が、低温であるいは加熱を行なわずとも良好に進行する。このため、成膜した表面改質膜に変形などの悪影響を及ぼさずに反応させることができ、SiO2 上の薄膜材料においては、その膜厚から耐久性への要求が厳しいものであるにもかかわらず、良好な耐久性の向上が望めるものとなる。このようなリン酸エステルやカルボニル化合物の添加量は、0.1〜100mmol/L程度とすることができる。このような触媒を添加したコーティング組成物の乾燥温度は、20〜170℃程度とすることが好ましい。
【0038】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物を含有するコーティング組成物の塗布にあたっては、塗布されるべき反射防止膜の表面は清浄化されていることが好ましく、清浄化に際しては、界面活性剤による汚れ除去、さらには有機溶剤による脱脂、フッ素系ガスによる蒸気洗浄などが適用される。また密着性、耐久性の向上を目的として各種の前処理を施すことも有効な手段であり、特に好ましく用いられる方法としては活性化ガス処理、酸、アルカリなどによる薬品処理などが挙げられる。
【0039】
本発明の表面改質膜は、特に酸化シリコン表面に対して耐汚染性、耐擦傷性、耐加工性に加えて耐磨耗性等を付与できる。そのため、本発明の表面改質膜が成膜された表示装置用フィルターは、通常の反射防止膜よりも汚れにくく、かつ汚れが目立たない。さらには汚れが容易に除去できる、あるいは表面の滑りが良好なため傷がつきにくいなどの長所を有し、かつこれらの性能に加えて磨耗に関しても耐久性がある。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお実施例中において「部」は重量部を表すものである。
【0042】
実施例1
(1)反射防止膜の作製
陰極線管表面にスパッタリングによって厚さ130nmのITO(酸化錫ドープ酸化インジウム、Indiumu Tin Oxide)を形成し、その上にSiO2 を80nm厚に蒸着して2層からなる反射防止膜を形成した。
(2)パーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製
パーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物(1)(分子量約850、表1中の化合物1)4部に、メチルアルコール200部を添加混合し、さらに触媒としてアセチルアセトンを1ccと濃塩酸を0.01cc加え均一な溶液としたのち、さらにメンブランフィルターで瀘過を行ない、コーティング組成物を得た。
(3)塗布および乾燥
前記(1)で得た反射防止膜の表面に前記(2)で調製したコーティング組成物を5cm/minの引き上げ速度でディップコーティングした。塗布後、温度70℃で1時間乾燥させた。
(4)性能評価
得られた表面改質膜の性能は下記の方法に従い試験を行なうことにより評価した。下記(a)から(e)までの評価項目の試験結果を表2に示す。また耐溶剤性を見るため、エタノール洗浄を行なった後に再度同様の試験を行なった。得られた結果を同様に表2に示す。
【0043】
(a)耐汚染性試験
水道水5mlをフィルター面にしたたらせ、室温雰囲気(25℃±2℃)下で48時間放置後、布で拭いた後の水垢の残存状態を目視にて観察した。水垢が除去できた時を良好とし、除去できなかった場合を不良とした。
【0044】
(b)表面滑り性
シャープペンシル先に300gの荷重下で表面を引っ掻いた時の引っかかり具合を評価した。判定基準は以下の通りである。
○:まったく引っかからない。
【0045】
△:強くすると引っかかる。
×:弱くしても引っかかる。
(c)耐磨耗性試験
表面をスチールウール#0000、200g荷重下で30回擦った後傷が付いたかどうかで評価した。判定基準は以下の通りである。
【0046】
○:全く付かない。
△:細かい傷が付く。
×:傷が著しい。
(d)手垢の付きにくさ
手垢の付きにくさについて、目視にて評価した。判定基準は以下の通りである。
【0047】
○:付いても目立たない。
△:付くが簡単に除去できる。
×:付いた後が目立つ。
(e)接触角
水およびヨウ化メチレンの接触角を測定した。測定は、協和界面化学社製CA−Aを用いて行なった。なお測定された接触角の値は、表面改質膜の残存率ないし水あるいは油に対する汚染性に関しての目安となるものである。
実施例2
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、触媒としてアセチルアセトンを使用せずに塩酸のみを使用した以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
実施例3
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、触媒として、塩酸の代わりにアンモニア水を用い、アセチルアセトンとアンモニアを併用した以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
実施例4
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、触媒として、リン酸ジラウリルエステルを使用した以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
実施例5
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、パーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物1の代わりに化合物2(分子量約1000、両末端にアルコキシシラノ基を持つパーフルオロポリエーテル)を用い、触媒としてリン酸のパーフルオロポリエーテルエステルを使用した以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
比較例1
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、触媒を用いずにコーティング組成物の調製を行った以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
比較例2
実施例1のパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物含有コーティング組成物の調製において、パーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物1の代わりに化合物2(分子量約1000、両末端にアルコキシシラノ基を持つパーフルオロポリエーテル)を用いると共に、触媒を用いずにコーティング組成物の調製を行った以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
比較例3
コーティング組成物を塗布しない以外はすべて同様に行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
Figure 0004478216
【0049】
【表2】
Figure 0004478216
【0050】
表2の結果より、コーティング組成物に触媒を添加しない場合(比較例1、比較例2)、表面改質膜の特性、特に手垢の付きにくさに劣り、表面改質膜を成膜しない場合(比較例3)、明らかに耐磨耗性や表面滑り性などの特性に劣る。
実施例6〜10
実施例1において、コーティング組成物を塗布後の乾燥温度を表3に示す温度で行った以外はすべて同様に行った。結果を表3に併記する。このときの耐汚染性、表面すべり性、耐磨耗性試験、手垢の付きにくさについては同様の結果であったので記載は省略する。
【0051】
【表3】
Figure 0004478216
【0052】
室温に近い温度でも特性の良好な表面改質膜が得られることが認められる。加熱温度が100℃を超えると特性的には満足するが、パネルガラスの熱容量が大きいために温度が高くなるほど加熱が大変になる上に、反射防止膜に熱ストレスを加えることになり、膜クラック発生の原因となるので好ましくない。
比較例4〜8
実施例1において、触媒を用いずにコーティング組成物を調製し、コーティング組成物を塗布後の乾燥温度を表4に示す温度で行った以外はすべて同様に行った。結果を表4に併記する。
【0053】
【表4】
Figure 0004478216
【0054】
触媒を添加していないと、150℃においても特性の良好な皮膜が得られず、加熱温度が低いほど触媒効果が顕著に現れることが認められる。
【0055】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明に係るフィルターは、ガラス基材上に設けられた単層または多層の反射防止膜の表面が、一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物から成る表面改質膜で被覆してある表示装置用フィルターである。このため、本発明に係るフィルターおよびそれを有する表示装置は、次の効果を有する。
(1)指紋、手垢などによる汚れが付きにくく、また目立ちにくい。これらの効果が永続的に保持される。
(2)水垢などが付着し、乾燥されても容易に除去することが可能である。
(3)表面滑り性が良好である。
(4)ほこりなどの汚れが付きにくく、使用性が良い。
(5)磨耗に対する耐久性がある。
(6)塗布後の乾燥温度を50℃以下の低温にすることも可能である。
【0056】
従って、パーフロオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物を反射防止フィルターの表面に被覆させた後、加熱乾燥させることにより、手垢、水垢等の汚染防止効果があり、かつ上記潤滑剤の効果により、滑り性、耐磨耗性に優れた反射防止フィルターを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる表示装置用反射防止フィルターの一形態を示す断面図である。
【図2】陰極線管の斜視図である。
【図3】本発明にかかる表示装置のフィルター部分の一形態を示す断面図である。
【符号の説明】
1…ガラス基材、2…反射防止膜、3…表面改質膜、10…フィルター、100…陰極線管、101…パネル

Claims (15)

  1. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜が形成されている表示装置用フィルターであって、
    前記表面改質膜は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、酸の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて形成されており、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置用フィルター。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  2. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜が形成されている表示装置用フィルターを有する表示装置であって、
    前記表面改質膜は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、酸の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて形成されており、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  3. 陰極線管
    を含み、
    前記表示装置用フィルターが前記陰極線管に配置されている、
    請求項に記載の表示装置。
  4. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜を形成することによって表示装置用フィルターを製造する、表示装置用フィルターの製造方法であって、
    前記表面改質膜を酸化シリコン表面に形成する工程においては、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、酸の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて前記表面改質膜を成膜し、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置用フィルターの製造方法。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  5. 前記表面改質膜用コーティング組成物を塗布した後に、20℃から170℃の温度で乾燥する、
    請求項4に記載の表示装置用フィルターの製造方法。
  6. 前記アルコキシシラン化合物にメタノールを混合した後、塩酸とアセチルアセトンとを前記触媒として加えることによって、前記表面改質膜用コーティング組成物を調製し、
    当該調製した表面改質膜用コーティング組成物を塗布した後に、30℃から100℃の温度で乾燥することによって、前記表面改質膜を形成する、
    請求項5に記載の表示装置用フィルターの製造方法。
  7. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜を形成する際に用いる表面改質膜用コーティング組成物であって、
    下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、酸の触媒とを含有すると共に、
    リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒
    をさらに含む
    表面改質膜用コーティング組成物
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  8. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜が形成されている表示装置用フィルターであって、
    前記表面改質膜は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、塩基の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて形成されており、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置用フィルター
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  9. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜が形成されている表示装置用フィルターを有する表示装置であって、
    前記表面改質膜は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、塩基の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて形成されており、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  10. 陰極線管
    を含み、
    前記表示装置用フィルターが前記陰極線管に配置されている、
    請求項9に記載の表示装置。
  11. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜を形成することによって表示装置用フィルターを製造する、表示装置用フィルターの製造方法であって、
    前記表面改質膜を酸化シリコン表面に形成する工程においては、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、塩基の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて前記表面改質膜を成膜し、
    前記表面改質膜用コーティング組成物が、リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒をさらに含む、
    表示装置用フィルターの製造方法。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  12. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜を形成する際に用いる表面改質膜用コーティング組成物であって、
    下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、塩基の触媒とを含有すると共に、
    リン酸エステル、及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒
    をさらに含む、
    表面改質膜用コーティング組成物
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  13. 前記表面改質膜用コーティング組成物を塗布した後に、20℃から170℃の温度で乾燥する、
    請求項12記載の表示装置用フィルターの製造方法。
  14. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜が形成されている表示装置用フィルターであって、
    前記表面改質膜は、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、リン酸エステル及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて形成されている
    表示装置用フィルター。
    f {COR1 −R2 −Si(OR33j …(1)
    (但し、式中Rfはパーフロオロポリエーテル基、R1は二価の原子又は原子団、R2は非置換又は置換の二価炭化水素基、R3は非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、jは1又は2である。)
  15. 酸化シリコン膜表面に表面改質膜を形成することによって表示装置用フィルターを製造する、表示装置用フィルターの製造方法であって、
    前記表面改質膜を酸化シリコン表面に形成する工程においては、下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物と、リン酸エステル及びβ−ジケトンから選ばれる1種又は2種以上の触媒とを含有する表面改質膜用コーティング組成物を用いて前記表面改質膜を成膜する、
    表示装置用フィルターの製造方法。
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