JP4469434B2 - スパッタリングターゲットとそれを用いた保護膜および光記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ビームを用いて情報の記録、消去を行う相変化記録媒体の保護膜形成などに用いられるスパッタリングターゲット、およびそれを用いた保護膜と光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度、大容量の記録媒体として、光ディスクなどの相変化記録媒体の研究が進んでいる。相変化記録媒体は、アモルファス状態と結晶状態との間で相変化する材料を記録層として用い、光ビームによる熱エネルギーにより再生、消去を行うものである。一般に、アモルファス化は記録層を融点以上に加熱した後、ある程度以上の冷却速度で冷却することにより行われ、結晶化は記録層を結晶化温度以上、融点以下の温度に加熱することにより行われる。
【0003】
相変化記録媒体の記録層としては、Ge−Sb−Te、Ag−In−Sb−Teなどが用いられている。このような記録層はガラスやポリカーボネイトなどからなる透明基板上に、例えばZnS−SiO2 、Ta2 O5 、Si3 N4 、AlNなどからなる透光性の誘電体膜を介して形成されている。記録層上には同様な誘電体からなる保護膜が形成され、これらによって光ディスクなどの相変化記録媒体が構成されている。光ディスクでは用いる波長に近い直径のスポットに絞ることができるため、記録ビットの占める大きさはそのスポットと同程度にでき、高密度記録が可能となっている。
【0004】
上述した誘電体膜や保護膜には、十分な耐熱性、大きな屈折率、適当な熱伝導率などを有することが求められており、このような条件を満たすものとして、特にZnSにSiO2 などの酸化物、あるいは窒化物、炭化物などを1種または2種以上分散させた複合材料が使用されている。このような複合材料を保護膜などとして用いることによって、相変化記録媒体の信頼性、オーバーライト特性などを向上させることができるようになってきている。
【0005】
また、ZnSと酸化物、窒化物、炭化物などとの複合材料は、相変化記録媒体の誘電体膜や保護膜に限らず、各種装置の光学薄膜、保護膜、絶縁膜などとして利用されている。例えば、光ディスク以外のハードディスクなどの磁気記録装置、さらには半導体素子、液晶表示装置などにおいても、上述したような複合材料が誘電体膜や保護膜として利用されている。
【0006】
ZnSに酸化物、窒化物、炭化物などを分散させた複合材料からなる保護膜などの形成には、一般的にスパッタ法が適用されている。スパッタ法は原子、分子レベルの粒子が高いエネルギーで固体を衝撃する際に、固体を形成する原子が外部に飛び出す現象を利用し、飛び出した原子を基板上に堆積させて薄膜を形成するものである。スパッタリングは高融点材料や合金などの真空蒸着しがたい物質でも薄膜化できる特徴があるので利用範囲が広く、薄膜形成時に一般的に用いられている方法である。
【0007】
通常、固体を衝撃する粒子としてはイオンが用いられ、イオンとしては化学的に不活性で経済的なアルゴンイオンが使用されている。イオン衝撃の対象としての固体はターゲットと呼ばれており、例えばZnSに酸化物、窒化物、炭化物などを分散させた複合材料をスパッタ法で形成する場合には、ZnS粉末と酸化物、窒化物、炭化物などの化合物粉末との混合粉末を焼結したものがターゲットとして使用されている。
【0008】
これまでに、上述したようなZnSと酸化物、窒化物、炭化物などとの複合材料からなる保護膜の膜質改善、ダストの抑制などを目的として、ターゲットを作製する際の原料粉末の純度や粒径を制御したり、あるいはターゲット中のZnSの粒径や結晶形などを制御することが提案されている(特開平 6-65725号公報、特開平10-46328号公報、特開平10-81954号公報など参照)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば相変化記録媒体にはさらなる高密度化、大容量化などが求められており、そのために信頼性やオーバーライト特性などに対する要求特性はますます厳しくなってきている。このようなことから、保護膜などの形成にあたってはより一層の高品質化が望まれているが、従来のターゲットではそのような特性を十分に満足するまでには至っていない。
【0010】
例えば、SiO2 を含むZnSスパッタリングターゲットの場合、スパッタリング中にパーティクルが発生しやすいという問題がある。この問題を解決するために、ZnSにSiO2 とAl2 O3 とを混合し、さらにスパッタリングターゲット中に存在するZnSの2種類の結晶形の存在比率を制御することにより、パーティクル発生を防止する技術が提案されている。しかし、高品質の保護膜を作製するには、スパッタリングターゲットの相対密度を上げる必要があり、そのためには高純度でかつ微細な粉末を用いなければならず、さらにスパッタリングターゲットの焼結では高い圧力をかけなければならないなどの問題があった。
【0011】
また、スパッタリングターゲットの原料となるZnSの結晶形比率が膜厚分布の均一性に影響を与えるという観点から、ZnSの結晶形比率を制御することも検討されているが、製造条件の微妙な変化により結晶形が大きく変動したり、また冷却速度の制御が必要であるなどの課題があった。
【0012】
さらに、従来のスパッタリングターゲットにおいては、パーティクルの発生防止や膜質の安定化に目的がおかれていたため、記録層と保護膜との適合性についてはあまり研究がなされていない。そのため、従来のスパッタリングターゲットを用いて作製した保護膜では、初期化やオーバーライトの繰り返しによって、剥離やクラックなどが発生しやすいという問題があった。
【0013】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、ダストの発生を防止すると共に、膜質の均一性などを高めることを可能とすることによって、例えば保護膜の剥離やクラックの発生を防止し得るスパッタリングターゲットを提供することを目的としており、またそのようなスパッタリングターゲットを使用することによって、オーバーライト特性や耐久性を向上させた保護膜および光記録媒体を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明のスパッタリングターゲットは、請求項1に記載したように、ZnSと、前記ZnSと互いに固溶し合わない金属化合物から選ばれる少なくとも1種とを含むスパッタリングターゲットにおいて、前記スパッタリングターゲットは、平均粒径が10μm以上100μm以下の出発原料粉末を混合した後、粒径100μm以下の粉末に篩い分けして得られる混合粉末を焼結してなるものであり、前記金属化合物は前記ZnS中に均一に分散配置され、前記ターゲット全体における前記金属化合物の平均粒径が100μm以下、前記ターゲットの各部位における前記金属化合物の平均粒径が100μm以下、かつ前記ターゲット全体における金属化合物の平均粒径に対する前記各部位における金属化合物の平均粒径のばらつきが±20%以内であることを特徴としている。
【0015】
前記金属化合物は、請求項2に記載したように、金属酸化物、金属炭化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。また、前記金属化合物は、請求項3に記載したように、SiO 2 、Ta 2 O 5 、AlN、およびSi 3 N 4 の中から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0016】
さらに、請求項4に記載したように、前記ターゲット全体における金属化合物の平均粒径は10μm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の保護膜は、請求項5に記載したように、上記した本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜してなることを特徴としている。また、本発明の光記録媒体は、請求項6に記載したように、基板と、前記基板の主表面上に形成された透光性膜と、前記透光性膜上に形成された記録層と、前記記録層上に形成された保護膜とを具備する光記録媒体において、前記保護膜として上記した本発明の保護膜を用いたことを特徴としている。
【0018】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、ZnSと互いに固溶し合わない1種または2種以上の金属化合物、例えばSiO2 、Ta2 O5 などの酸化物、SiCなどの炭化物、Si3 N4 、AlNなどの窒化物を、ZnS中に均一に分散配置している。このように、金属化合物をスパッタリングターゲット全体に均等に分布させることによって、イオン照射によるスパッタ効果をターゲット全体として均等化することができる。従って、このようなスパッタリングターゲットを用いて作製した薄膜は、膜面内の組成の均一性に優れ、全体的に同一の特性を有することになる。
【0019】
例えば、近年の記録媒体は膨大なデータ量を記録するため、記録単位が非常に小さくなっており、正確に記録されなければならない。保護膜の各部分ごとに膜質が異なると正確な記録が妨げられ、また記録層との密着性が低下してしまい、記録媒体としての信頼性が低下してしまう。よって、膜全体の特性が同じであることは記録媒体には必要不可欠な要素となっている。
【0020】
このような点に対して、本発明のスパッタリングターゲットを使用することによって、膜面内の組成や特性の均一性に優れる、ZnSとそれと互いに固溶し合わない金属化合物との複合材料からなる薄膜を再現性よく作製することが可能となる。また、これまでは上記のような特性を達成するために、スパッタリングにおける反応条件の緻密な管理などが要求されたが、本発明のスパッタリングターゲットを用いた場合は、従来のものと比べて比較的容易に均一な薄膜を作製することができる。
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、ZnS中に金属化合物を均一分散させる上で、ターゲット全体の金属化合物の平均粒径を100μm以下とすると共に、ターゲット中の各部位における金属化合物の平均粒径を100μm以下としている。通常、スパッタリングターゲットは粉末を混合、焼結して製造するが、混合時の粒子の凝集、焼結時の粒成長などにより、スパッタリングターゲット中に粗大粒子が存在する。このような粒子はスパッタリングに悪影響を及ぼし、薄膜の特性に重大な影響を及ぼす可能性がある。また、多数の微細粒子が存在する場合にも、ターゲットの各部位ごとのスパッタ効果に差が生じ、結果として膜質が異なることになる。
【0022】
本発明では上記したような粗大粒子や微細粒子を減らすことによって、ターゲット中の各部位における金属化合物の平均粒径を100μm以下とすると共に、ターゲット全体の平均粒径と比べてそのばらつきを±20%以内としている。このような金属化合物の均一分散状態を実現することによって、各部位ごとにスパッタ効果に差が生じることを抑制することができる。すなわち、膜面内の組成や膜質の均一性に優れ、かつ全体的に特性が均質な薄膜を得ることができる。
【0023】
以上のように、金属化合物を均一に分散させ、各部位での平均粒径を100μm以下とし、さらに各部位での金属化合物の平均粒径のばらつきを全体の平均粒径の±20%以内にすることで、スパッタリングターゲットの各部位における組成を均一にすることができる。このようなスパッタリングターゲットを用いて作製される薄膜は膜質が均一となり、膜質の不均一などに起因する保護膜の剥がれ、クラックの発生などを防止することができる。従って、このような本発明の保護膜を用いた光記録媒体によれば、信頼性やオーバーライト特性を高めることが可能となる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
本発明のスパッタリングターゲットは、ZnSと、それと互いに固溶し合わない金属化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有するものである。なお、本発明で言う「互いに固溶し合わない」とは、ある結晶相に他物質が溶け込まないことであり、ここではZnS結晶中に金属化合物が溶け込まないこと、金属化合物中にZnSが溶け込まないことを意味する。
【0026】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、ZnS中に分散させる金属化合物としては、例えばSiO2 、Ta2 O5 などの酸化物、SiCなどの炭化物、Si3 N4 、AlNなどの窒化物が用いられる。これら金属化合物のZnSに対する比率は、使用する金属化合物によっても異なるが、おおよそ10〜40mol%の範囲とすることが好ましい。金属化合物量が前記範囲外となると、記録媒体内の熱分解等の影響により、記録繰り返し特性、ならびにオーバーライト特性が低下するため、前記範囲が好ましい。
【0027】
上述したような金属化合物の粒子は、マトリックスとしてのZnS中に均一に分散配置されている。ここで、従来のZnSとSiO2 などとを含むスパッタリングターゲットでは、それを用いて形成した膜に剥離などが生じやすいという問題があった。このような問題について検討した結果、膜の組成、組織、膜厚などの不均一性やダストがこれらの発生原因となっていることが判明した。
【0028】
このような膜の不均一を抑制し得るスパッタリングターゲットについて研究を進めた結果、スパッタリングターゲット中に金属化合物を均一に分散配置することによって、膜組成などを均一化することができることが判明した。すなわち、スパッタリングターゲット中に金属化合物を均一に分散配置することによって、スパッタリングにおける原子などの放出特性を一定にすることができ、膜の組成、組織、膜厚などを均一化することが可能となる。さらに、ダストの発生を抑制することができる。
【0029】
本発明のスパッタリングターゲットでは、ZnS中における金属化合物の均一分散を実現するために、ターゲット全体の金属化合物の平均粒径を100μm以下とすると共に、ターゲットの各部位における金属化合物の平均粒径を100μm以下としている。さらに、ターゲットの各部位における金属化合物の平均粒径は、ターゲット全体の平均粒径と比較した際のばらつきを±20%以内に制御することが好ましい。
【0030】
ここで、本発明で言うターゲットの各部位における金属化合物の平均粒径とは、スパッタリングターゲットを少なくとも図1に示す部位に分割し、これら分割した各部位で測定した金属化合物の平均粒径を指すものとする。
【0031】
スパッタリングターゲット中に凝集粒子や粗大粒子などが存在していると、仮に全体での平均粒径が100μm以下であったとしても、各部位の平均粒径は全体での平均粒径より極端に大きくなることがある。ターゲット全体の平均粒径のみならず、各部位での平均粒径を100μm以下にすることによって、スパッタリングターゲット全体の組織を均一化することができる。平均粒径が100μmを超えると、スパッタリングにおける各結晶粒からの原子の放出特性の違いが顕著になり、膜組成や膜厚分布などに悪影響を及ぼすことになる。
【0032】
ターゲット全体の金属化合物の平均粒径、およびターゲットの各部位における金属化合物の平均粒径は、いずれも50μm以下とすることがさらに好ましい。これによって、スパッタリングにおける原子などの放出特性をさらに均一にすることができ、またダストの抑制効果も向上する。
【0033】
さらに、スパッタリングターゲットの各部位での金属化合物の平均粒径は、ターゲット全体の平均粒径と比べてそのばらつきを±20%以内に制御することが好ましく、これによりスパッタリングにおける各結晶粒からの原子の放出特性などがさらに均一化され、得られる膜の組成、組織、膜厚などの均一性を高めることが可能となる。
【0034】
通常、粉末には粒径の大きな粒子が存在する一方で、粒径の小さい粒子も存在する。このような微細な粒子が多く存在していると、粒子が均一に分散されていても粒径の違いによりスパッタリングの効果が大きく異なるおそれがある。すなわち、ターゲット全体の金属化合物の平均粒径に対する各部位の平均粒径のばらつきが±20%の範囲を超えると、スパッタリングにおける原子の放出特性に違いが生じて、膜の組成、組織、膜厚などに悪影響を及ぼすことになる。ターゲット全体の金属化合物の平均粒径に対する各部位の平均粒径のばらつきは±10%以内とすることがさらに好ましい。
【0035】
上述したように、ZnSとそれと互いに固溶し合わない金属化合物とを含有するスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット全体の金属化合物の平均粒径を100μm以下とすると共に、ターゲットの各部位における平均粒径を100μm以下とし、さらには各部位における平均粒径をターゲット全体のそれと比較した際のばらつきを±20%以内に制御し、スパッタリングターゲット中に金属化合物を均一に分散配置することによって、ターゲット全体のスパッタリング特性を一定にすることができる。従って、得られる膜の組成、組織、膜厚などを均一化することが可能となる。
【0036】
本発明のスパッタリングターゲットは、例えば以下のようにして作製することができる。
【0037】
すなわち、まず出発原料としてZnS粉末とそれと互いに固溶し合わない化合物粉末、例えば前述したようなSiO2 、Ta2 O5 などの酸化物粉末、SiCなどの炭化物粉末、Si3 N4 、AlNなどの窒化物粉末の1種または2種以上を用いる。これら各出発原料粉末の平均粒径は10〜100μmの範囲とすることが好ましい。
【0038】
本発明においては、スパッタリングターゲット中に上述したような化合物を均一に分散させるために、ZnSと調合して例えばボールミルで混合した後、篩い分けを実施することが好ましい。酸化物、炭化物、窒化物などの化合物粉末は、当初の粒径が小さくても混合工程などで凝集しやすく、これにより粗大粒子が生じやすい。このような粗大粒子を存在したままで焼結工程を実施すると、ターゲット中の各部位における金属化合物の平均粒径が増大したり、また各部位における平均粒径にばらつきが生じ、結果としてスパッタリングターゲット中に金属化合物を均一に分散配置することができない。
【0039】
これに対して、混合工程後に篩い分けを実施し、混合中に生じた凝集粒子(粗大粒子)や微細な粒子を取り除くことによって、ZnSと金属化合物との混合粉末の粒径のばらつきを抑えることができる。特に、混合粉末中の金属化合物の粒径を揃えることができる。このような混合粉末を成形および焼結することによって、スパッタリングターゲット中に金属化合物を再現性よく均一に分散させることが可能となる。篩い分けの際に用いる篩のメッシュは200程度であることが好ましい。
【0040】
焼結工程はホットプレス法やHIP法などの公知の方法により実施する。ホットプレス時の雰囲気はAr雰囲気が好ましく、保持温度は1000〜1200℃程度、保持時間は3〜5時間程度とすることが好ましい。また、ホットプレス時の圧力は400〜500Torr程度とするみことが好ましい。焼結体の直径は180〜250mm程度とする。焼結時においても、金属化合物の粒成長などによる粒子の粗大化を抑制し得るような条件を選択することが好ましい。
【0041】
本発明の保護膜は、上述したようなスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜することにより得られ、例えば光記録媒体の保護膜として用いられる。このような保護膜を有する本発明の光記録媒体は、基板と、この基板の主表面上に形成された透光性膜と、透光性膜上に形成された記録層と、記録層上に形成された保護膜とを具備するものである。なお、透光性膜についても、本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成することができる。
【0042】
従来の保護膜は、膜組織や膜厚分布などの不均一、あるいはダスト発生などのために、初期化やオーバーライトの繰り返しにより膜の剥がれが起こり、長期信頼性が不足していた。これに対して、本発明のスパッタリングターゲットを用いて作製される、膜組織や膜厚分布などが均一で、密着性の高い保護膜を使用することによって、初期化やオーバーライトの繰り返しに強く、長期信頼性に優れる光記録媒体を提供することが可能となる。
【0043】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0044】
実施例1
まず、ZnSと、それと固溶しない化合物としてSiO2 、Ta2 O5 、AlN、Si3 N4 をそれぞれ用いて、ターゲット原料粉末を調合した。ターゲット原料粉末は、それぞれZnS−20at%SiO2 、ZnS−25at%Ta2 O5 、ZnS−20at%AlN、ZnS−30at%Si3 N4 の割合となるように4種類調合し、これらをボールミルを用いて混合した。
【0045】
混合後の粉末を篩を用いて、粒径100μm以下のものと100μm以上のものに分離し、計8種類の混合粉末を得た。混合粉末の篩分けは、まず120メッシュの篩にかけて篩上に残ったものを粒径100μm以上の粉末とし、さらに200メッシュの篩にかけて篩を通過したものを粒径100μm以下の粉末とした。各粉末については平均粒径を調べた。
【0046】
次いで、上記した8種類の混合粉末を用い、ホットプレスにより保護膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。ホットプレスは1200℃、Ar雰囲気下で2450Paの加重をかけて4時間保持することにより行い、直径127mm、厚さ5mmの寸法を有するスパッタリングターゲットをそれぞれ作製した。
【0047】
これらスパッタリングターゲットについて、図1に示す5ヶ所よりサンプリングを行い、各々について上記化合物の平均粒径を計測した。その結果を表1に示す。また、各スパッタリングターゲットにおける化合物の各部位での平均粒径とスパッタリングターゲット全体の平均粒径とを比較したときのばらつきを算出し、その結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【表2】
次に、上記した各スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行った。保護膜を作製するための記録層には、結晶化が早く、単一のレーザー光強度を変調させるだけでアモルファス化および結晶化ができるGeSbTe膜を採用した。スパッタリングは、温度20℃、Arガス雰囲気、圧力0.25Pa、RF出力2.5kWの条件で実施した。
【0049】
各スパッタリングターゲットを用いて作製した保護膜と記録層との密着性は、スクラッチテスタによる剥離試験によって評価を行った。これはダイヤモンド圧子針を振動させながら試料表面をスクラッチして、圧子針に生じる不規則な振動から薄膜の付着損傷の発生を検知する方法である。付着力は臨界損傷加重で表示する。膜構成は、ポリカーボネイト基板(厚さ0.6mm) /GeSbTe(厚さ15nm)/ZnS−SiO2 (厚さ50nm) とした。これにより測定した密着力を表3に示す。
【0050】
また、上記した各スパッタリングターゲットを用いて、ポリカーボネイト基板(厚さ0.6mm)/GeSbTe(厚さ15nm) /ZnS−SiO2 (厚さ25nm)/AlMo(厚さ100nm)の構成で光ディスクをそれそれ作製し、耐久性をオーバーライト特性試験により評価した。オーバーライト特性試験は、これらの光ディスクを回転させて線速度6m/s、波長640nmのレーザー光を用い、周波数1.3MHzと4.8MHzの信号を交互に繰り返してオーバーライトした際の4.8MHz信号のCNRが50db以上であるものをオーバーライト回数としてカウントした。それらの結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
ここで、表1〜表3において、試料No.1〜No.4の各スパッタリングターゲットおよび保護膜は、ターゲット中の各部位での化合物の平均粒径が100μm以下で、さらに各部位での化合物の平均粒径がターゲット全体の平均粒径と比べてそのばらつきが±20%以内となるように作製されたスパッタリングターゲット、およびそれを用いて形成した保護膜であり、本発明の実施例に相当するものである。一方、試料No.5〜No.8の各スパッタリングターゲットおよび保護膜は、平均粒径が100μm以上のものであり、本発明との比較例に相当するものである。
【0052】
以上の結果より、ZnSと互いに固溶し合わない化合物の粒径を、本発明の範囲内に調節した試料No.1〜No.4のスパッタリングターゲットと、粒径調節をしなかった試料No.5〜No.8のスパッタリングターゲットとを比較してみると、試料No.1〜No.4については30gf以上の密着力を示した。一方、試料No.5〜No.8の中にも一部本発明のばらつき条件を満たす部位が存在することが確認できたものの、密着力は10gf前後であり、前者と比べて密着力に差が生じた。
【0053】
このことは、組織の均一さの度合いが膜に影響をもたらしているといえる。また、これらのスパッタリングターゲットを用いて作製したディスクのオーバーライト特性を見ても、No.1〜No.4のスパッタリングターゲットを使用したものについては400〜500万回という結果を得られたが、試料No.5〜No.8についてはそれらの約半分以下の値を得るにとどまった。
【0054】
このように、酸化物、炭化物、窒化物などの化合物は、スパッタリングターゲット全体に対して均一に分散させる必要があり、これによって膜組織の均一性や密着力に優れる保護膜が得られる。そして、このような保護膜を使用することによって、光記録媒体の特性や信頼性を向上させることが可能となる。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のスパッタリングターゲットによれば、密着力などに優れる保護膜や誘電体膜を再現性よく作製することができ、例えば光記録媒体のオーバーライト特性などを向上させることが可能となる。従って、このようなスパッタリングターゲットを用いて作製した保護膜を光記録媒体に適用することによって、光記録媒体の信頼性、安定性などを大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のスパッタリングターゲットにおいて金属化合物の平均粒径を測定した各部位を示す図である。
Claims (6)
- ZnSと、前記ZnSと互いに固溶し合わない金属化合物から選ばれる少なくとも1種とを含むスパッタリングターゲットにおいて、
前記スパッタリングターゲットは、平均粒径が10μm以上100μm以下の出発原料粉末を混合した後、粒径100μm以下の粉末に篩い分けして得られる混合粉末を焼結してなるものであり、前記金属化合物は前記ZnS中に均一に分散配置され、前記ターゲット全体における前記金属化合物の平均粒径が100μm以下、前記ターゲットの各部位における前記金属化合物の平均粒径が100μm以下、かつ前記ターゲット全体における金属化合物の平均粒径に対する前記各部位における金属化合物の平均粒径のばらつきが±20%以内であることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項1記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物および金属窒化物から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項2記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記金属化合物は、SiO2、Ta2O5、AlN、およびSi3N4の中から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記ターゲット全体における金属化合物の平均粒径が10μm以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のスパッタリングターゲットを用いて成膜してなることを特徴とする保護膜。
- 基板と、前記基板の主表面上に形成された透光性膜と、前記透光性膜上に形成された記録層と、前記記録層上に形成された保護膜とを具備する光記録媒体において、
前記保護膜は、請求項5記載の保護膜からなることを特徴とする光記録媒体。
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1999
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