JP3836630B2 - 磁気ディスクの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大量の情報を迅速かつ正確に格納するための情報記録媒体にかかり、特に、高性能でかつ高信頼性を有する磁気ディスク用の円板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高度情報化社会の進展にはめざましいものがあり、各種形態の情報を統合したマルチメディアが急速に普及してきている。これを支える情報記録装置の1つに磁気ディスク装置がある。現在、磁気ディスク装置は、記録密度を向上させつつ小型化、低消費電力化、低価格化が図られている。
【0003】
ところで、磁気ディスクの高密度記録を実現するためには、1)ディスクと磁気ヘッドとの距離をつめること、2)媒体の保磁力を増大させること、3)信号処理方法を工夫すること、4)高精度なディスクやヘッドなどの位置決めを行うなどのサーボ技術、などが必須の技術である。
【0004】
中でも、磁気記録媒体においては、高密度記録を実現するために、保磁力の増大が必須である。これに加えて、40 Gbit/inch2超える記録密度を実現するためには、記録時の磁性膜における磁化反転が生じる単位を小さくしなければならない。そのためには、磁性粒子のサイズを微細化することが必要である。さらに、これと同時に、そのサイズの分布を低減することが、熱揺らぎの観点から重要となってきている。熱揺らぎは、記録した磁化の向きが安定に存在できなかったり、磁力が弱くなり、情報が消去される場合があった。これらを実現する方法として、磁性膜の下にシード薄膜を設けることが提案されている。その一例としてUSP-4652499をあげることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術では、金属のシード層を用いた情報記録用磁性膜の結晶粒子サイズを制御するには限界のある場合があった。これは、上記の従来技術に示されるような金属のシード層上に形成した磁性膜では、平均粒子サイズは小さくできるものの、その粒子サイズの分布を小さくすることは困難でな場合があった。結晶粒子サイズの分布が大きいと、平均粒子サイズより大きな粒子群では、磁化反転領域が大きいために再生時にノイズの増大につながる。逆に、平均粒子サイズより小さな粒子群では、熱揺らぎを生じるなど安定した記録‐再生を行うことができない場合があった。このように、40Gbit/inch2を超えるような超高密度な記録を行う場合、ディスクノイズや熱揺らぎが障害になるので、この点が高密度記録を実現するのに重要な課題であった。また、その背景には、情報記録用磁性膜を形成する表面の凹凸や磁性膜の保護方法の確立、生産性の高い製造方法の確立なども高信頼性を有する磁気ディスクを得るのに解決しなければならない重要課題であった。
【0006】
そこで、本発明の第1の目的は、磁性膜における結晶粒子サイズを所望の大きさに制御することにより、ノイズの発生が小さい高性能な磁気記録媒体を提供することにある。本発明の第2の目的は、結晶粒子サイズの分散(分布)を制御することにより、低ノイズ、低熱揺らぎ、ならびに低熱減磁の磁気記録媒体を提供することにある。本発明の第3の目的は、磁性膜の結晶配向性を制御することにより、高密度記録に適した配向を有する磁気記録媒体を提供することにある。本発明の第4の目的は、磁性粒子間の磁気的相互作用を低減することにより、記録や消去時の磁化反転単位を低減し、高密度な磁気記録媒体を提供することにある。本発明の第5の目的は、環境や磁気ヘッドによるクラッシュから磁気記録媒体を保護する能力の高い保護方法を提供することにある。さらに、本発明の第6の目的は、生産性の高い製造方法を提供することにある。
【0007】
以上により、40Gbit/inch2を超える超高密度磁気記録媒体およびそれを用いた磁気ディスク装置を、安価にかつ大量に提供することができる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、酸化コバルト、酸化クロム、酸化鉄あるいは酸化ニッケルの内より選ばれる少なくとも1種類の酸化物を結晶粒子として析出させ、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタルあるいは酸化亜鉛の内より選ばれる少なくとも1種類の酸化物が析出した結晶粒子の周囲を取り囲むように結晶粒界相として存在させた構造を有する無機化合物である。
【0009】
その構造は、析出結晶粒子の形状が六角形であり、それが平面方向(二次元的)に規則的に配列したハニカム構造を有する。その配列に着目すると、1つの結晶粒子の周囲に析出している結晶粒子の数に着目すると、5.7以上、6.3以下である。この範囲外では、ハニカム構造が崩れたり、六角形状でなくなり好ましくない。また、その配列は数学的にはフラクタルや群論で近似される。結晶粒子が集まってできた集合体の形態が、基板と平行方向の形態が幾何学的に自己相似図形を形成することにより、その結晶粒子の集合体がフラクタル性を有していることが好ましい。そして、フラクタル性を表現するのに、位相次元:dimTとHausdrorff次元(実数の次元関数):dimHの関係が、dimT<dimHで表される。無機化合物薄膜において、結晶粒子の集合体がフラクタル性を有するために、その結晶粒子を取り囲むように存在する非晶質物質において、結晶粒子間の距離が一定である。しかも、その距離が0.1nm以上、2nm以下であることがもっとも好ましい。0.1nm以下および2nm以上では、この無機化合物薄膜の構造および組織のフラクタル性が失われるので好ましくない。先の無機化合物薄膜の構造ならびに組織のフラクタル性を表す次元の中で、位相次元:dimTにおいて、その値が2であることが好ましい。
【0010】
また、この無機化合物の結晶構造に着目すると、無機化合物あるいはその薄膜は、無機化合物中に析出している結晶粒子がX線的に結晶質であり、その結晶粒子の周囲を取り囲む(粒界)ように存在している物質がX線的に非晶質である。結晶粒子のサイズに着目すると、無機化合物およびその薄膜では、その結晶粒子のサイズ分布が、統計学的な標準偏差:σで表現すると、平均粒子サイズの12%以下の値であり、しかも、粒子サイズの分布が正規分布にしたがっている。
【0011】
この無機化合物の製造方法は、薄膜ではスパッタ法を用いる。バルク材の場合は高周波溶解法が一般的である。さらに、結晶粒子の配列や結晶配向性などの制御性を高めるには、この無機化合物あるいはその薄膜の合成をマイクロ波により励起を行うことが最も好ましい。特に、マイクロ波を用いるのは、通常の高周波に比べてエネルギーが高く、かつ、エネルギーの制御による分子に与えられるエネルギーが一定であり、成膜プロセスの制御性を飛躍的に高められるからである。特に、薄膜の製造過程において、マイクロ波を用いたECRスパッタ法は、得られた無機化合物およびその薄膜は、結晶粒子の六角形の形状、その集合体であるハニカム構造を高精度で制御が可能である。このように、配列が2次元的に規則的である無機化合物を形成するのに最も好適な手法である。その配列に着目すると、1つの結晶粒子の周囲に析出している結晶粒子の数に着目すると、5.8以上、6.2以下であり、先の高周波法にり作製した場合より、規則性が高まっていることがわかる。
【0012】
さらに、粒子サイズの分布に注目すると、ECRスパッタ法により作製した無機化合物およびその薄膜の構造は、結晶粒子のサイズ分布が、統計学的な標準偏差:σが、平均粒子サイズの10%以下の値であり、しかも、粒子サイズの分布が正規分布であるなどその構造の規則性は先の高周波法より高い。このように、ECR法やECRスパッタ法を用いることにより、得られる無機化合物材料の構造における規則性の制御を高精度で行えることが特徴である。そして、ECR法により励起して作製した無機化合物を、ECRスパッタ法により作製した薄膜においても、その構造や形態を保持したまま薄膜化できる。しかも、薄膜の膜厚方向の組織が柱状組織であることが特に好ましい。
【0013】
さらに、Si(あるいはAl,Ti,Ta,Zn)とCo(あるいはFe,Ni,Cr)の混合物をターゲットに用い、酸素を含むアルゴンに代表される不活性ガスを雰囲気ガスに用いた反応性のECRスパッタ法を用いると、上述のECR法のメリットに加えて、反応速度(薄膜の場合は成膜速度)を向上させることができ、量産に好適な手法である。
【0014】
この無機化合物の第1の応用は、ディスク基板として用いることである。すなわち、六角形の結晶粒子が二次元的に規則的に配列したハニカム構造を有し、板厚方向には柱状構造を有する基板を用いる。このようなバルクの無機化合物の基板を作製には、マイクロ波で励起する方法が最も好ましい製造方法である。この作製法により形成した基板は、結晶粒子の成長の制御を特に精密に行うことができる。これにより、この基板を用いた磁気ディスクでは、直接に磁性膜を基板上に形成でき、ディスク構造を簡素化できる。
【0015】
さらに、この無機化合物を薄膜化し、磁気ディスク用の磁性膜を作製する場合の結晶配向、結晶粒子サイズ、粒子サイズの分布を制御するための下地膜として用いることが好ましい。その場合、膜厚が、10nm以上、100nm以下であることが最も好ましい。この膜厚は、製造法に由来する値ではなく、単に製造上の都合により決まる値である。特に、ECRスパッタ法を用いると、膜厚の薄い領域でも高い精度で規則性を有するなど無機化合物薄膜の組織の制御精度を高めることができる。さらに、無機化合物およびその薄膜中に析出している結晶粒子の所望の方位に結晶配向した薄膜を得ることができる。
【0016】
この結晶粒子上から磁性薄膜などをエピタキシャル的に成長するように、この無機化合物薄膜の結晶配向性ならびに結晶粒子の格子面間隔を制御することもできる。これにより、この無機化合物薄膜上に形成する薄膜の結晶構造、粒子サイズおよびその分布を高精度に制御することが可能になる。また、Co,Fe,Niの酸化物においては、無機化合物薄膜を成膜後に、還元することにより強磁性を発現させ、磁気記録用の磁性膜として用いてもよい。さらに、Co-Crからなる複酸化物を結晶粒子として、析出させた後、還元することにより垂直磁気記録膜が得られる。この場合、膜の組織はハニカム構造であることは言うまでもない。また、Fe酸化物にBaなどのアルカリ土類金属を加えて析出させると垂直磁化膜が得られる。この手法を用いると、配向性を制御するための薄膜を用いなくても結晶配向性、結晶粒子サイズならびに粒子サイズの分布を容易に制御することが可能である。
【0017】
ところで、この無機化合物ならびにその薄膜における結晶粒子間の距離(粒界距離)が0.5nm以上、2nm以下で、任意に制御することが可能である。粒界距離が0.5nm以下の場合は結晶粒子サイズの分布が大きくなり、2nm以上になると結晶粒子の集合体がハニカム構造でなくなるとともに、結晶粒子の形状も六角形ではなくなった。ところで、この無機化合物およびその薄膜の構造、配向性、結晶粒子サイズのうちから選ばれる少なくとも1つのパラメータを制御するためには、結晶粒子を形成する物質の濃度(組成)の選択、化合物を構成する材料の選択、作製方法の選択、作製条件の選択などにより行うことができる。勿論、この材料を薄膜以外に板状に成形して基板として用いても良いことは言うまでもない。ここで、薄膜でも板状でも構造などを支配するパラメータに違いはない。無機化合物における析出した結晶粒子が板の厚さ方向に柱状の組織を有し、かつ、結晶粒子の形状が六角形を有しており、しかも、その結晶粒子が二次元的に規則的に配列したハニカム構造を有していることは言うまでもない。
【0018】
ところで、ECRスパッタ法により作製した無機化合物の薄膜は、ディスク基板上に形成すると、得られた薄膜における結晶粒子が形成した基板に対して垂直な方向に粒子成長(柱状組織)し、しかも、一定方向に結晶配向していることが好ましい。
【0019】
この無機化合物およびその薄膜を磁気ディスクへ応用することが最も好適である。磁気ディスクは、少なくとも円形のディスク基板と情報を記録するための磁性膜、そして、それを保護するための保護膜を有している。ここで、円形のディスク基板に酸化コバルト、酸化クロム、酸化鉄あるいは酸化ニッケルの内より選ばれる少なくとも1種類の酸化物を結晶粒子として存在させ、この結晶粒子を取囲むように酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタルあるいは酸化亜鉛の内より選ばれる少なくとも1種類の酸化物を結晶粒界に析出させた構造を有する無機化合物を用いる。あるいは、通常のガラス基板やAl合金の基板を用いてもよい。この場合は、基板上に上述の無機化合物の薄膜を形成した後に、磁性膜を作製する。
【0020】
ここで、この無機化合物を用いた基板、あるいは、ガラス基板やAl合金の基板上に無機化合物の薄膜を形成したディスク基体の表面は、結晶粒子の配列に起因した凹凸が存在している。その高さは、ある凸部とその最も近傍にある凹部の高低差ならびに、ある凸部からその最も近傍にある凸部までの距離が、磁気ヘッドの浮上量の制御範囲内にある。このように、表面の凹凸は、磁気ディスクにおけるテクスチャとして作用することになる。また、ガラス基板やAl合金の基板上に無機化合物の薄膜を形成することにより、基板表面の凹凸に依存しないで、安定して磁気ディスク表面に凹凸が形成できるので、テクスチャとして用いるのに好適である。また、基板の加工精度は一定レベル以上であればよい。この場合、基板表面の凹凸のレベル(加工精度)により、形成する無機化合物薄膜の膜厚が決定されるが、100nmもあれば十分である。
【0021】
次に、この無機化合物を用いた基板あるいはガラスあるいはAl合金基板上に無機化合物薄膜を形成したディスク基体における六角形の二次元的に規則配列したハニカム構造を有する無機化合物あるいはその薄膜の結晶粒子から情報記録用の磁性膜をエピタキシャル成長させる。その結果、無機化合物およびその薄膜の結晶粒子により磁性膜の結晶成長が制御されると同時に、無機化合物薄膜の結晶粒子とそれを取囲むように存在する非晶質粒子とにより、磁性膜の構造および組織を制御することができる。それは、結晶粒子上と非晶質粒子上とで薄膜の成長メカニズムが異なるためである。
【0022】
ここで、磁気ディスクの記録に用いる磁性膜として、Coを主体とし、これにCr,Pt,Ta,Nb,Ti,Siの内より選ばれる少なくとも2種類の元素を含む合金の強磁性薄膜を用いることが好ましい。この強磁性薄膜はX線的に結晶質で、結晶粒子はCo合金である。ここで、Co合金の結晶配向性は、この無機化合物あるいはその薄膜の結晶配向性により決定される。特に、好ましくは、Coの(11.0)が配向していることである。この中で、Cr,Ta,Nb,Ti,Siの内より選ばれる少なくとも1種類の元素が、Co結晶粒子の粒界近傍あるいは粒界に偏析した構造である。無機化合物あるいはその薄膜の結晶粒子からエピタキシャル成長するのは、磁性膜のCoを主体とする合金粒子である。無機化合物あるいはその薄膜の粒界の非晶質部分に対応させて、Cr,Ta,Nb,Ti,Siの内より選ばれる少なくとも1種類の元素を偏析させてもよい。磁性材料の一例として、Co-Cr-Pt-Taがあり、Co-Ptが主なる結晶粒子として存在し、その粒界にCrが偏析し、その偏析を促進しているのがTaである。このような作用は、下地膜あるいは基板の無機化合物あるいはその薄膜により促進される。
【0023】
磁性膜の作製法としてECRスパッタ法を用いることにより、さらに加速できる。Co-Cr-Ta系のCr濃度の高い領域(30at%程度以上)では、垂直磁気異方性が誘起され、垂直磁気記録用に磁性膜になる。この膜についても、上記の効果は得られることは言うまでもない。この他の磁性膜材料として、磁気記録媒体が結晶質相と非晶質相の二相から構成される磁性膜を用いてもよい。結晶相がCoを主体とし、これにNd,Pr,Y,La,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Pt,Pdの内より選ばれる少なくとも1種類の元素を含んた相であり、非晶質相として酸化シリコン、酸化亜鉛、酸化タンタル、酸化アルミニウムの内より選ばれる少なくとも1種類の化合物相が結晶粒子を取囲むように存在した構造の磁性膜を用いても良い。
【0024】
この磁性膜を成膜するのにあたり、先のECR法により作製した無機化合物あるいはその薄膜の結晶質層にCo粒子が、非晶質相に対応して酸化物が析出、成長させる。その結果、無機化合物の結晶粒子サイズと磁性膜のサイズともに等しくできる。逆に言えば、上記の2種類の磁性材料ともに、結晶粒子サイズやサイズ分布を支配するのは無機化合物あるいはその薄膜の構造や組織に依存しているからである。その無機化合物薄膜をECRスパッタ法により作製することで、結晶粒子サイズやその分布を一定値以下に高精度に制御することが可能になる。
【0025】
この他に磁性膜として、結晶相がCoを主体とし、これにNd,Pr,Y,La,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Pt,Pdの内より選ばれる少なくとも1種類の元素を含んたCo合金を用いてもよい。また、磁性膜として、CoとPt,Pdの内より選ばれる少なくとも1種類の元素を交互に積層した人工格子多層膜を用いてもよい。そして、この人工格子多層構造の磁性薄膜を先の無機化合物薄膜上に形成するのに、第1層目の層がCoであることが好ましい。人工格子多層構造を有する磁性薄膜をこの無機化合物薄膜上に形成するのに、人工格子多層膜の第1層目のCoを無機化合物薄膜の結晶粒子からエピタキシャル成長させ、粒界相に形成されるCoは多結晶もしくは非晶質とした構造であることが好ましい。
【0026】
このように、無機化合物薄膜の構造を反映した磁性膜中の結晶構造の異なる部分を設けることにより、先の磁性膜中に磁気特性の分布を形成することができる。このように、磁気特性の分布を形成することにより、情報を記録する場合に、磁性膜に形成される磁区における磁壁の移動速度を制御することができるので、形成される磁区のサイズあるいは形成位置の精度を向上させることができる。ここで、この磁性膜中に磁気特性の分布が形成されるのは、磁性膜に形成される結晶構造を変化させると、無機化合物膜の結晶粒界に相当する位置の非晶質あるいは多結晶領域の磁性が、エピタキシャル成長させた領域の磁気特性のうち、磁気異方性、保磁力、飽和磁化の内の少なくとも1つの磁気特性が異なり、それにより、非晶質あるいは多結晶の領域で磁壁移動のピンニングサイトとすることにより、磁壁移動速度が制御できる。
【0027】
最後に、保護膜について述べる。保護膜としては、C保護膜が用いられ、スパッタ法により形成される。しかし、超高密度磁気記録においては、保護膜の厚さは5nm以下にする必要があると同時に、より信頼性の高い膜が望まれる。そこで、これらの保護膜の作製法に加えて、ECRスパッタ法により作製したC保護膜を用いることが好ましい。磁気記録用磁性膜を外気から遮断したり、磁気ヘッドからうける衝撃から磁性膜を保護するために、磁性膜表面の磁気ヘッドと接する側に設ける薄膜をECRスパッタ法により形成することにより、上記の目的を実現することができる。
【0028】
この薄膜が、ECRスパッタ法により作製した炭素薄膜であり、その薄膜の膜厚が1nm以上、5nm以下であることが最も好ましい。これは、安定して保護膜が形成できる下限が1nmであり、高密度記録の観点からヘッド−ディスクインターフェイスの関係から上限の膜厚が決まってくる。また、ECRスパッタ法により作製した炭素薄膜の密度は、理論密度の60%以上であることが要求される。
【0029】
この磁性膜の保護用のECRスパッタ法により作製した炭素薄膜では、その薄膜が磁気記録用磁性膜の界面の磁気ヘッドと接触する側に形成され、しかも、該薄膜が磁性膜表面を覆うように形成される。さらに、ECRスパッタ法により作製した炭素薄膜が磁気記録用磁性膜の界面の磁気ヘッドと接触する側に形成され、しかも、その薄膜が磁性膜表面の凹凸を反映した形態になるように形成しなければならない。このECRスパッタ法による炭素薄膜の作製をArを主体とする放電ガス雰囲気で行い、これに少なくとも窒素、水素の内より選ばれる少なくとも1種類のガスを含有させた雰囲気で作製することが好ましい。ここで、ECRスパッタ法による炭素薄膜の作製において、用いたArを主体とする放電ガスで作製すると、得られた薄膜中に窒素、水素の内より選ばれる少なくとも1種類のガスが混合物あるいは/および化合物として含有している。この保護膜は、緻密で、カバレージが高くかつ硬度が高いので、5nm以下の薄膜であっても高い保護性能が得られる。
【0030】
以上、述べてきた無機化合物あるいはその薄膜を基板あるいは下地膜として用い、この上に磁性膜、そして、保護膜を形成して磁気ディスクを作製した。この磁気ディスク円板を用いて、これに磁気ヘッド、ディスクの回転系、磁気ヘッドの機構系、さらには信号処理などを含む電気回路からなる磁気ディスク装置を構成した。そして、この磁気ディスク装置を用いて、各種の形態の情報を記録、再生あるいは消去を行う。記録する情報は、画像やコードデータ、オーディオなどの各種の情報であり、得られる効果は、その形態には依存していない。記録密度は、40Gbit/inch2以上である。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明を実施例により詳細に説明する。
【0032】
《実施の形態1》
ガラス基板上に、無機化合物の薄膜をRFマグネトロンスパッタ法により作製した。CoOとSiO2を2:1に混合して焼結したものをターゲットに、放電ガスには純Arをそれぞれ使用した。スパッタ時の圧力は3mTorr、投入高周波電力は1kW/5in径である。作製した薄膜の膜厚は30nmである。
【0033】
得られた無機化合物薄膜の表面をTEMにより平面観察した結果の略図を図1に示す。この図より、この薄膜は、10nmサイズの正六角形のハニカム構造を有する結晶粒子が二次元に規則的に配列した結晶粒子の集合体であることがわかる。結晶粒子間の距離(粒界距離)は、0.5〜1.0nmであった。この値は、ターゲットの組成(CoOとSiO2の比など)を変化させることにより所望の値を容易かつ任意に選択することができる。ところで、粒界距離として最大で2nm以上とすることは困難である。
【0034】
また、結晶粒子はコバルトの酸化物で、結晶粒界に存在しているのが酸化シリコンである。この無機化合物薄膜の格子像観察から、コバルト酸化物は結晶質であり、酸化シリコンは非晶質であることがわかった。格子定数を求めたところ、Coの値にほぼ等しい値であった。格子定数は、成膜条件、さらには、CoOにイオン半径の異なる金属(例えば、クロム、鉄、あるいはニッケルなど)を添加することで制御できる。あるいは、これらの金属の酸化物を添加しても同様である。
【0035】
また、この薄膜の断面を観察したところ、図1に示すように、基板に対して垂直方向に柱状の組織が観察された。柱状組織は、途中で結晶粒子が大きくなるなど異常成長することなく成長してた。
【0036】
次に、無機化合物薄膜表面のTEM観察結果を用いて、ある1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子の数を解析した。まず、結晶粒子サイズを求めたところ、平均粒径で10nmであった。粒子サイズの分布は、正規分布をしており、標準偏差を求めるとσで1.2nmであった。
【0037】
次に、1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子数を求めた。250個の結晶粒子について調べたところ、平均で6.10個であった。このことは、サイズのそろった六角形を有する結晶粒子が、二次元的に規則的に配列している(ハニカム構造)ことを示している。1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子数は、結晶粒子間隔に依存して変化する。すなわち、溶媒のSiO2濃度を低くすると、粒子間隔は狭くなる(結晶粒子どうしが接近する)。それと同時に、粒子形状に乱れが観測された。1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子数は、7個台の粒子があったり、逆に、4〜5個台の粒子が存在しており、ばらつきが大きくなった。また、二次元の配列に乱れが生じ、ハニカム構造が崩れた。
【0038】
このように、結晶粒子間に存在する溶媒物質は、構造に規則性を持たせる重要な役割を有している。最後に、この無機化合物薄膜の結晶構造をX線回折法により解析した。得られたプロファイルを図2に示す。これによると、2θ=62.5°付近にCoOの(220)の回折ピークが観測された。この他のピークは観測されなかった。この構造は、成膜条件や組成を制御することにより、所望の構造を有する無機化合物膜が得られる。すなわち、配向性の制御が可能である。さらに、μ-EDXにより結晶粒子とその粒界を分析したところ、結晶粒子はCoの酸化物であり、その粒界に存在しているのはSiO2であった。
【0039】
次に、この無機化合物薄膜をECRスパッタ法により作製した。用いたECRスパッタ装置の模式図を図3に示す。CoOとSiO2を2:1に混合して焼結したものをターゲットに、放電ガスには純Arをそれぞれ使用した。スパッタ時の圧力は3mTorr、投入マイクロ波電力は1kWである。また、ターゲットには500WのRFバイアスを印加した。得られた無機化合物の薄膜の構造を解析したところ、平均粒子径は10nmで、先の膜と同じであるが、粒子サイズの分布を求めたところ、標準偏差:σで0.6nmと著しく小さく、粒子サイズの分布がECRスパッタ法を用いることにより小さくできることがわかる。
【0040】
また、1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子数を求めた。250個の結晶粒子について調べたところ、平均で6.03個であった。このことは、サイズのそろった六角形を有する結晶粒子が、二次元的に規則的に配列している(ハニカム構造)ことを示しており、その規則性がECRスパッタ法を用いることにより高まることがわかる。上述の実験では、ターゲットとして、CoOとSiO2との混合したものを焼結して用いた。これらの各化合物を単体で焼結したものをターゲットに用い、二元同時スパッタにより成膜してもよく、成膜法やターゲットの種類には依存しない。ここで重要なことは、マイクロ波を用いたECRスパッタ法を用い、スパッタ粒子のエネルギーを精密に制御することである。また、膜厚を5nm程度としても、逆に、100nmと厚くしても得られる膜の表面および断面の組織や構造、粒子サイズおよびサイズ分布などに、膜厚に依存した変化は見られなかった。さらに、成膜初期に、初期成長層なども観察されなかった。5nm以下の膜厚では、成膜装置の都合上、安定して作製することが困難であり、また、100nm以上では成膜に時間がかかるので製造上の制限がある。また、雰囲気ガスに酸素を含むAr-O2混合ガスを用い、Co-Siの混合ターゲットを用いた反応性のECRスパッタ法を用いると、先の効果に加えて成膜速度を2〜3倍以上にすることができた。
【0041】
次に、無機化合物薄膜を磁気ディスクに応用した場合について述べる。作製した磁気ディスクの断面構造を図4に示す。
【0042】
磁気ディスクの作製に用いた基板(1)として、マイクロ波により励起(ECR法)して作製した2.5゛直径の無機化合物の基板を用いた(図4の左図)。あるいは、2.5゛直径のガラスまたはAl合金の基板(1)上に上述の無機化合物薄膜(2)を30nmの膜厚に形成した基板を用いてもよい(図4の右図)。
【0043】
ここで用いた無機化合物あるいはその薄膜の形態は、いずれもCoO-SiO2系である。結晶粒子はコバルトの酸化物で、その結晶粒界に存在しているのが酸化シリコンである。また、格子像観察から、格子定数を求めたところ、金属のCoの値にほぼ等しかった。逆に、格子定数が10%以上異なっている場合は、無機化合物(1)あるいはその薄膜(2)と磁性膜(3)と中間の格子定数を有する材料層を設ければよい。その一例として、Cr85Ti15合金薄膜がある。この合金膜は、Ti濃度を制御することにより、Crの格子定数から格子定数を任意に選択できるので、無機化合物薄膜(2)と磁性膜(3)との格子定数の差を10%以内に抑制することができる。
【0044】
無機化合物あるいはその薄膜の構造は、いずれも、平均粒子径は10nm、粒子サイズの分布は標準偏差:σで0.6nmであり、1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子数は平均で6.03個(250の粒子について観察)であった。幾何学的には、図5に示すような自己相似図形を構成していることがわかる。
【0045】
この形態をフラクタル的視点から概観する。フラクタル性を位相次元:dimTと、Hausdrorff次元(実数の次元関数):dimHを用いると、その数値の関係はdimT<dimHで表される。ここで、dimTは二次元の平面であるので2となり、dimHはdimH≦n(ここではn=2)であり、dimT<dimHであることがわかる。このように、無機化合物薄膜が結晶粒子の集合体がフラクタル性を有するために、その結晶粒子を取り囲むように存在する非晶質物質においても、結晶粒子間の距離は1.5nmで一定になっているので、この無機化合物薄膜の構造および組織のフラクタル性が失われていない。
【0046】
TEMによる平面観察によれば、二次元に規則的に配列したハニカム構造であった。また、断面を観察したところ、柱状構造を有していた。また、表面の平坦性は、1つの結晶粒子の凸部からその近傍にある凸部までの距離を測定(250個の粒子について測定)したところ、平均で2μmであり、かつ、1つの結晶粒子の凸部からその近傍にある凹部との高低差は10nmであった。これは、現在、磁気ヘッドの浮上量を制御できる限界値以下であり、磁気ディスク装置を構成した場合、安定して磁気ヘッドを浮上させることができる。また、この凹凸は、規則的に配列しており、テクスチャとして用いるのに好適である。ここでは、2.5゛直径のディスク基板について述べたが、上述の効果はディスクのサイズに依存したものではない。
【0047】
また、CoOにFe2O3を3:1に混合して焼結したものとSiO2の二元のターゲットを用いたECR同時スパッタ法により、無機化合物薄膜(2)を形成(スパッタ時の圧力は3mTorr、放電ガスは純Ar)すると、10nmの正六角形のハニカム構造の結晶粒子が規則的に配列した集合体で、結晶粒子どうしの間隔は、0.5〜1.0nmであった。結晶粒子はコバルトの酸化物であり、格子の隙間に鉄が存在していた。これにより、結晶粒子層の格子定数を制御することが可能になる。また、結晶粒界に存在しているのが酸化シリコンであった。
【0048】
次に、無機化合物薄膜中の非晶質相の材料および組成を制御することにより、結晶粒子間隔を制御した場合について述べる。例えば、CoOを焼結したターゲットと、SiO2のターゲットの2つを用いた。無機化合物膜の組成は、二元のターゲットに投入する電力により制御できる。放電ガスには純Arを使用し、スパッタ時の圧力は3mTorrとした。投入RF電力は、CoOとSiO2の比が2:1になるように調整した。得られた薄膜は、10nmの六角形の結晶粒子(ハニカム構造)が二次元的に規則配列して。また、結晶粒子の周囲には1nm程度の粒界相が存在していた。結晶粒子間の距離(粒界距離)は、非晶質材料の濃度(相対的に結晶質材料の濃度を変化させても良い)を制御することにより変化させることができる。例えば、Co酸化物の濃度を薄くしていくと、結晶粒界の距離は短くなった。溶媒:溶質=1:5の場合が0.5nmであった。そして、これより溶質濃度を薄くすると、粒界がはっきりしなくなった。それと同時に、ハニカム構造が崩れてしまった。
【0049】
このことから、ハニカム構造を維持するいためには、少なくとも15%程度以上の非晶質物質が必要であることがわかる。また、逆に、非晶質物質濃度を増大させていくと、溶媒:溶質=5:1の場合が3.0nmになった。これより溶媒濃度を高くすると、溶媒物質は結晶粒子間に存在するのではなく、円形に近い形状で析出するようになる。この場合も、ハニカム構造が崩れてくる。また、溶媒物質の組成を変化させて結晶粒子間距離を制御する場合は、混合している材料間のスパッタ速度の違いを用いたり、イオン半径の異なる原子を侵入させることによる体積変化を用いる。そのメカニズムは異なるが、結果として得られる効果は同じである。
【0050】
ところで、結晶粒間の距離を制御することは、この無機化合物膜上に磁性膜をエピタキシャル成長させて磁気記録媒体を形成する場合、磁性結晶粒子相互の磁気的相互作用を低減することが重要である。結晶粒子間の距離を制御できると、磁気的相互作用を変化させることができる。特に、結晶粒子上と粒界相とでは、形成される磁性粒子の組織や構造が異なるので、有する磁性がまったく異なる。結晶粒子上の磁性粒子は無機化合物層の結晶粒子の構造を反映し、良好な結晶性を有しているのに対して、粒界部分ではランダム配向でしかも非晶質に近い状態であった。このように、磁性膜や磁気記録媒体の磁気特性がは磁性膜の膜構造を反映しることがわかった。結晶粒子上では通常のハードな磁性を示し、粒界相では非磁性に近くなる。これにより、簡易な手法を用いて、磁気的相互作用を容易に制御できた。相互作用の程度というのは、この粒界間距離に依存して変化しているので、粒間距離を制御することが重要である。
【0051】
ここでは、結晶粒子として酸化コバルトを用いた例を述べたが、この効果は酸化コバルト以外に、酸化鉄あるいは酸化ニッケルを用いても同様の効果が得られた。さらに、結晶粒子を取囲むように存在させた酸化物として酸化シリコンを用いたが、これ以外に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタルあるいは酸化亜鉛を用いても同様の効果が得られた。
【0052】
上記の基板上に、磁性膜(3)として、Co69Cr19Pt12膜を15nmの膜厚にDCスパッタ法により形成した。磁性膜の作製中は、基板を300℃に加熱した。ターゲットにはCo-Cr-Pt合金を、放電ガスには純Arをそれぞれ使用した。スパッタ時の圧力は、3mTorrである。投入DC電力は1kW/150mmφである。磁性膜の作製をECRスパッタ法により行ってもよいことは言うまでもない。その場合、得られる磁性膜の形態の制御性がDCスパッタ法より高いことは言うまでもない。
【0053】
この磁性膜の構造をTEM観察により調べたところ、無機化合物あるいはその薄膜の構造ならびに形状を反映して、ハニカム構造を有していた。電子顕微鏡による平面の観察から求めた粒子の平均粒子径は10nmであり、粒子径分布を求めたところ、標準偏差:σで0.7nm以下であった。このように、磁性膜の粒子は微細化して、かつ、サイズの分布が小さく、無機化合物薄膜と同一の形態であることがわかる。次に、1つの結晶粒子の周囲に存在している結晶粒子の数を求めた。250個の結晶粒子について調べたところ、6.04個で、先の無機化合物あるいはその薄膜における値と良く一致していた。このことは、サイズのそろった六角形を有する磁性結晶粒子が、無機化合物(1)あるいはその薄膜層(2)から連続して二次元的に規則的に配列している(ハニカム構造)ことを示している。
【0054】
この膜の断面構造をTEMにより観察したところ、無機化合物(1)あるいはその薄膜(2)と磁性膜層(3)との間には、結晶の格子のつながりが見られ、磁性膜は無機化合物(1)あるいはその薄膜(2)からエピタキシャル成長していることがわかった。また、結晶相と粒界相とでは、磁性膜の成長機構が異なり、異なる金属組織を有していた。特に、無機化合物の結晶粒子からは良好な柱状組織が成長していたが、粒界相からは、明確な組織は見られず、多結晶体の集合体であった。このような組織は、非磁性的な磁気的な挙動を示す。X線的には、2θ=62.5°付近のピークに加えて、2θ=72.5°付近にピークが観測され、TEM観察結果と合わせて考えると、このピークはCoの(11.0)が配向していることがわかる。この磁性膜の磁気特性を測定した。得られた磁気特性は、保磁力が3.5 kOe、Isvが2.5×10-16emu、M-Hループにおけるヒステリシスの角型性の指標であるSが0.8、S†が0.86であり、良好な磁気特性を有していた。このように、角型性を示す指標が大きい(角型に近い)のは、無機化合物薄膜の結晶粒界層を反映して磁性膜の成長機構が異なったために、磁性結晶粒子間の相互作用が低減されたためである。
【0055】
この他の磁性膜として、磁性膜(3)として、グラニュラ構造を有するCo-SiO2系磁性膜をECRスパッタ法により作製してもよい。ターゲットにはCo-SiO2系混合(混合比:Co:SiO2=1:1)ターゲットを、放電ガスにはArをそれぞれ使用した。スパッタ時の放電ガス圧力は3mTorr、投入マイクロ波電力は1kWであり、マイクロ波を引き込むためにRFバイアスを印加し、その値は500Wである。成膜中は、基板を300℃に加熱した。形成した磁性膜の膜厚は10nmである。
【0056】
この膜を高分解能透過型電子顕微鏡にて平面および断面を観察した。その結果、無機化合物(1)あるいはその薄膜(2)の結晶相から磁性膜のCoがエピタキシャル成長しており、結晶相を取囲む非晶質相(粒界相)からはSiO2がそれぞれ成長していた。断面は柱状組織であり、CoはSiO2に囲まれ、粒子どうしが分離されており、磁気的相互作用が大きく低減されていることがわかる。これは、高密度磁気記録にとって有効な構造である。また、磁気記録媒体の表面の凹凸は、水平方向が6μm、垂直方向が10nm以下(AFMの測定下限以下)であった。
【0057】
この凹凸は、無機化合物層の凹凸を反映している。ここでは、磁気記録媒体としてCo-SiO2を用いたが、CoにPt,Pd,Gd,Sm,Pr,Nd,Tb,Dy,Ho,Y,Laなどの元素を添加して磁気異方性を向上させると、さらに性能が向上することは言うまでもない。
【0058】
さらに、この他の磁性膜(3)として、CoとPtの超構造多層膜を2源同時スパッタ法により作製した。ここで、第1層目がCo層になるように、時間差を設けてスパッタ装置のシャッタを開放した。作製には、ここではDCスパッタを用いたが、RFスパッタでも、また、イオンビームスパッタでもよく、スパッタの方式により磁気特性や膜構造が左右されることはない。投入したDC電力は1kW/150mmφである。形成した磁性膜の構造を断面TEMにより観察した。それによると、磁性膜の膜厚は、Co層が0.6nm、Pt層が1.8nmであった。また、全体の膜厚は50nmであった。ここで、各層の厚さは、比でPt(Pd):Co=2:1〜5:1で、しかも、Coの膜厚が1nm以下であることが最も好ましい。この範囲にあると、良好な磁気特性を有する垂直磁化膜が得られる。
【0059】
また、磁性膜と無機化合物を結晶学的な観点から観察したところ、無機化合物膜の結晶相上に形成したCo膜はエピタキシャル成長しているのに対して、結晶粒界上に形成したCo膜は微結晶の集合体かあるいは多結晶体であった。このディスクを一定方向に着磁した後に、その表面を偏光顕微鏡で観察したところ、無機化合物層の結晶相に相当する部分は良好な垂直磁化膜になっていたが、粒界に相当する部分は垂直磁化膜ではないことがわかった。これは、偏光板を回転させると、明暗の反転が生じることよりわかる。粒界部は、グレイとなったままで明るさの変化は見られなかった。
【0060】
最後に、保護膜(4)として、ECRスパッタ法によりC膜を3nmの膜厚に形成した。ターゲットには、リング状のカーボンターゲットを用いた。また、放電ガスにはArを用い、スパッタ時の圧力は3mTorr、投入マイクロ波電力は1kW(周波数は2.93GHz)、基板温度は150℃である。マイクロ波により励起されたプラズマを引き込むためのRFバイアスをターゲットに印加した。その値は500Wである。ここで、カーボンは導電体であるのでDC電圧を印加して引き込んでも同様の効果が得られることは言うまでもない。ここでは、スパッタガスにArを使用したが、窒素を含むガス、あるいは窒素と水素を含むガスを用いてもよいことは言うまでもない。これは、粒子が微細化するために、得られる膜が緻密化し、保護性能を向上させることができる。この膜の膜質は、このようなスパッタの方法に加えて、得られる膜の性質が装置に大きく依存しているので、この条件や手法は絶対的なものではない。
【0061】
保護膜形成後の磁気ディスクの表面および断面をTEMにより観察したところ、磁性膜(3)の表面が良好にカーボン保護膜で覆われており、アイランド状になっていなかった。また、保護膜の表面形状は、下の磁性膜の表面形状を反映していた。DCマグネトロンスパッタ法で作製した3nmのC膜は、アイランド状であり、磁性膜を十分に被覆していなかった。
【0062】
上記の磁気ディスクの表面に潤滑剤を塗布してディスクの記録再生特性を評価した。磁気ディスク装置の概略を図6に示す。磁気ディスク円板は、磁気ヘッド(53)として、記録には、2.1Tの高飽和磁束密度を有する軟磁性膜を用いた磁気ヘッドを記録ヘッドとして用いた。また、巨大磁気抵抗効果を有するヘッドにより再生した。磁気ヘッドは駆動系(54)により制御される。ヘッド面と磁性膜との距離は15nmである。このディスクに40Gbit/inch2に相当する信号を記録してディスクのS/Nを評価したところ、32dBの再生出力が得られた。ここで、磁気力顕微鏡(MFM)により磁化反転単位を測定したところ、粒子2から3個分程度であり、通常の磁気ディスクと比較して、十分に小さいことがわかった。これと合わせて、磁化遷移領域に存在するジグザグパターンも従来の媒体より著しく小さかった。また、熱揺らぎや熱による減磁も発生しなかった。これは、磁性膜の結晶粒子サイズの分布が小さいことに起因している。また、このディスクのエラーレートを測定したところ、信号処理を行わない場合の値で1×10-10以下であった。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、結晶粒子サイズの分布が著しく小さい無機化合物基板あるいは無機化合物の薄膜上に磁気記録媒体をエピタキシャル成長させることにより、磁気記録媒体の結晶粒子の微細化、配向性の制御、結晶粒子サイズの分布の低減、結晶粒子の規則的な配列が可能になる。特に、このような無機化合物を用いることにより、粒子サイズのそろった六角形を有する磁性結晶粒子の二次元的な配列性を決定できるからである。磁性膜の結晶粒子サイズおよびその分布を小さくすることにより、ディスクを形成したときのノイズの低減、熱揺らぎや熱減磁の低減に効果がある。また、磁性膜の配向性の制御により、高密度記録に適した配向を有する磁性膜を得ることができる。さらに、磁性膜の結晶粒子間の距離を制御できるので、磁性結晶粒子間の相互作用を低減することができる。これにより、媒体ノイズの低減、形成される磁区サイズの微細化により高密度記録が可能になる。特に、製造法として、ECRスパッタ法を用いることにより、制御性を高めることができ、さらに、反応性のECRスパッタ法を用いることで、生産性を高めることができる。また、ECRスパッタ法により形成した保護膜は、5nm以下の極薄膜であるにもかかわらず緻密でしかもカバレージの良い磁性膜を得ることができる。その結果、高信頼性を有する磁気記録媒体を提供することができる。
【0064】
以上の技術を総合することにより、40Gbit/inch2を超える超高密度磁気記録を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】無機化合物薄膜のTEM観察結果を示す模式図。
【図2】無機化合物薄膜のX線回折プロファイル。
【図3】 ECRスパッタ装置を示す模式図。
【図4】磁気ディスクの断面構造を示す模式図。
【図5】磁気記録媒体のX線回折プロファイル。
【図6】磁気ディスク装置の構成図。
【図7】磁気ディスク装置の構成図。
【符号の説明】
1 基板
2 無機化合物膜
3 磁性膜
4 保護膜
51 磁気ディスク
52 スピンドル
53 磁気ヘッド
54 磁気ヘッド駆動系
Claims (5)
- 少なくとも基板と、下地膜と、磁性膜と、保護膜とを有する磁気ディスクの製造方法において、
前記下地膜が、酸化コバルト、酸化クロム、酸化鉄および酸化ニッケルの内より選ばれる少なくとも 1 種類の酸化物の結晶粒子と、該結晶粒子の周囲を取り囲むように結晶粒界相として、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化亜鉛の内より選ばれる少なくとも 1 種類の酸化物を存在させた構造を有する無機化合物であり、
前記下地膜は、少なくともマイクロ波によりソース源の励起を行い、かつ、ソース源とマイクロ波による励起により反応活性となるガスを含む雰囲気ガスを用い、ターゲットと雰囲気ガスとの反応をECR法により促進させる反応性のECRスパッタ法を用いて成膜したことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。 - 請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法において、前記反応活性となるガスが酸素であることを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
- 請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法において、前記ソース源としてコバルト、ニッケルあるいは鉄の内より選ばれる少なくとも1種類の金属元素と、シリコン、アルミニウム、チタン、タンタルの内より選ばれる少なくとも1種類の元素との混合物を用いたことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
- 請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法において、前記下地膜がハニカム構造を有していることを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
- 請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法において、前記磁性膜を前記下地膜における結晶粒子部分からエピタキシャル成長させたことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
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