JP4469045B2 - 繊維害虫成虫忌避剤および繊維害虫成虫忌避方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な繊維害虫成虫忌避剤およびこれを用いる繊維害虫成虫忌避方法に関する。さらに詳しくは、実質的に無臭であり、かつ繊維害虫、例えばイガ、コイガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシなどの成虫が繊維製品に近づくのを防ぎ、それによって繊維製品の食害を防止することができる繊維害虫成虫忌避剤およびこれを用いる繊維害虫成虫忌避方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、衣類等の繊維製品の繊維害虫による食害を防ぐ方法としては、パラジクロルベンゼン、ナフタリン、しょうのう、ピレスロイド系化合物などが防虫剤として使用されている。これらの防虫剤は繊維害虫の幼虫に対して作用し、摂食阻害、忌避、殺虫等の効果を有するとされている。
【0003】
これに対して、本発明者らはさきに、繊維製品を食害するのは幼虫であるが、繊維害虫は成虫が繊維の保管場所に侵入して産卵し、それが孵化して幼虫となり、食害を与えるのであるから、繊維製品を繊維害虫の成虫が侵入しない状況下におけば、産卵も幼虫の発生も生じず、十分に食害防止効果が期待できるとの着想を得た。そして、この着想に基づき、繊維害虫が忌避する化合物を探索した結果、いくつかのテルペン系化合物やアルコール系化合物、フェノール系化合物、アルデヒド系化合物が、繊維害虫成虫忌避効果を有することを見いだし、これらの化合物によって成虫の侵入を防ぐ新規な繊維害虫成虫忌避剤(以下、「成虫忌避剤」という)およびこれを用いる防虫方法を提案した(特開平7−112907号公報および特開平7−126110号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの成虫忌避剤は、いずれも精油または香料の成分であり、一般に強い臭いをもっている。そのため、臭いを生かした製品とするには好都合であるが、臭いのない防虫剤とするには適当ではない。一方、最近では、ピレスロイド系化合物を用いた防虫剤のように、ほとんど臭いのないものが消費者に好まれており、消費者の嗜好に合う、実質的に臭いのない成虫忌避剤を提供することが本発明の課題である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
成虫が精油や香料の成分を忌避するのは、臭いを嫌って近寄らないためである、とこれまでは考えられていた。したがって、臭いのない化合物は成虫忌避効果もない、というのが一般的な見方であった。これに対して、本発明者らは、さらに広い範囲の化合物を鋭意探索した結果、驚くべきことに、2−フェノキシエタノールおよび2−ジヒドロターピニルオキシエタノールは、ほとんど臭いがないにも拘わらず、成虫に対する忌避効果をもつことを見いだし、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、2−フェノキシエタノールおよび/または2−ジヒドロターピニルオキシエタノールを有効成分として含有する成虫忌避剤を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、上記成虫忌避剤を繊維製品に適用することを特徴とする繊維害虫成虫忌避方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の成虫忌避剤の有効成分の一つである2−フェノキシエタノールは、高級緑茶である玉露の成分などとして天然に存在する化合物であり、工業的には、フェノールとエチレンオキサイドから合成されるものである。この化合物は、無色透明の液体であり、ほとんど臭いがないにも拘わらず、成虫忌避剤としての効果をもち、成虫が繊維の保管場所に侵入するのを防ぐことができる。
【0009】
また、本発明成虫忌避剤の他の有効成分である2−ジヒドロターピニルオキシエタノールは、式(I)で示される化合物であり、2−(1−メチル−1−(4−メチルシクロヘキシル)エトキシ)−エタノールとも表記できるものである。このものは、テレビン油などの天然精油に含まれるα−ピネンと、エチレングリコールを反応させることにより得られる2−ターピニルオキシエタノールを、更に水添する方法などによって製造できる。
【0010】
【化1】
【0011】
この化合物も、無色透明の液体であり、ほとんど臭いがないにも拘わらず、繊維害虫の成虫忌避剤としての効果をもち、成虫が繊維の保管場所に侵入するのを防ぐことができる。
【0012】
なお、本発明者らはさきに、少なくとも1個の環と、該環の外に少なくとも1個の酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選ばれた原子をもち、かつ、炭素数が15以下である化合物が、繊維害虫卵孵化抑制剤として有効であることを見いだしている(特開平11−236302号公報)。そして、2−フェノキシエタノールは上記化合物の典型的な例であり、また、2−ジヒドロターピニルオキシエタノールも上記化合物の定義に含まれ、実際、このものが有効であることは後記するように実験的にも確認されている。
【0013】
しかし、成虫忌避剤と卵孵化抑制剤は、繊維害虫の異なるステージに作用するものであり、繊維製品の食害を防ぐという目的は同じで、ともに防虫剤と呼ばれるものであっても、機能的に異なるものであり、別の剤である。そして、成虫忌避剤と卵孵化抑制剤とでは、作用機構が違なっており、しかも一方の作用があっても、他の作用があるとはいえないのであるから、今回、上記化合物について卵の孵化抑制作用に加えて、成虫忌避作用が見いだされたのは、新しい発見であるといえる。
【0014】
上記の2−フェノキシエタノールおよび/または2−ジヒドロターピニルオキシエタノール(以下、「本発明有効成分」という)を用いた成虫忌避剤の調製は、有効量の本発明有効成分を常法に従って、例えば、液体製剤または固体製剤とすればよい。製剤化に当たっての本発明成分の使用量は、特に制約されるものではないが、一般的には、1製剤当り0.01gから500g程度、好ましくは、0.02gから100g程度である。
【0015】
具体的に液体製剤は、本発明有効成分をそのまま、あるいは適切な溶剤に溶解または可溶化することによって調製できる。溶剤としては、水、アルコール類、炭化水素類、グリコールエーテル類などを用いることができる。調製された液体製剤は、そのまま容器に入れた製剤としたり、スプレー製剤としたり、吸い上げ芯で吸い上げて揮散させる液芯型製剤としたり、浸透透過性フィルムを有する容器に入れフィルムを通して揮散させる製剤としたり、ゲル化剤を加えてゲル製剤とすることもできる。
【0016】
一方、固体製剤は、本発明有効成分を、適切な担体に担持することによって調製できる。担体としては、セルロース、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、羊毛、タルク、クレー、素焼き、陶磁器粉などからなる粉末、顆粒、錠剤、シート、マット、フェルト、スポンジ、板、紙、織布、不織布、フィルム状などの多孔性または非多孔性担体、トリイソプロピルトリオキサン、シクロドデカンなどの昇華性担体などを用いることができる。担体に対する担持の方法としては、滴下、散布、噴霧などによる含浸、塗布、印刷、練り混みなどを挙げることができる。固体製剤は、さらに、プラスチックケースや不織布袋などに入れた製剤としたり、衣類カバー状製剤とすることもできる。
【0017】
本発明の成虫忌避剤の調製に当たっては、必要に応じて、ピレスロイド系化合物など他の防虫剤とともに使用することができる。また、必要に応じて、防カビ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の任意成分を加えることもできる。さらに、香料を適宜加えれば、微香を有する防虫剤や快い香りをもつ防虫剤を得ることもできる。本発明有効成分は、いずれも溶剤としての優れた性質ももっているので、任意成分を溶解するのに適している。
【0018】
斯くして得られる本発明の成虫忌避剤は、ほとんど臭いがなく、使用に当たって臭気が気になることのないもの、すなわち実質的に臭いのないものである。この成虫忌避剤は保管してある繊維製品に適用し、繊維害虫成虫が近づかないように使用すればよい。具体的な使用方法としては、液体製剤または固体製剤を、タンス、引き出し、衣装ケースなどの密閉容器内で用いるほか、繊維製品のそばに置く方法、クローゼットなどの入り口に置く方法、忌避剤を含浸したカーテン等を設け、クローゼット内に繊維害虫成虫が侵入することを防ぐ方法、繊維製品に液状またはスプレー状の成虫忌避剤を散布する方法等が挙げられる。
【0019】
【発明の効果】
本発明の成虫忌避剤は、実質的に臭いがないにも拘わらず、優れた繊維害虫の成虫忌避の効果がある。従って、これを用いることによって、成虫を忌避し、結果的に繊維製品に対する成虫の産卵、幼虫の食害を防ぐことができるものであり、しかも実質的に臭いのないものであるため、繊維製品に対する臭気の付着をも防ぐことができる。
【0020】
【実施例】
次に実施例を挙げ本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0021】
実 施 例 1
2−フェノルキシエタノールの成虫忌避効果:
2−フェノキシエタノール250mgを、縦55mm、横60mmのセルロース製多孔質担体に含浸させ成虫忌避剤を得た。この防虫剤について、臭気の有無を調べたところ、ほとんど臭いがないものであった。
【0022】
次に、この成虫忌避剤について、その害虫忌避効果を下記の方法で調べた。この結果、成虫忌避剤を使用しない場合は、衣装ケース中に12匹の成虫の侵入が認められたのに対し、2個の成虫忌避剤を衣類の上に置いた場合は、全く侵入が認められなかった。
【0023】
( 試 験 方 法 )
各稜の長さが1mの立方体の囲いの中に、市販のプラスチック製引き出しタイプの衣装ケースを設置した。囲いは、鉄製パイプで枠を組み、それにプラスチックフィルムを張って作った。一方、設置した衣装ケースの外寸は、巾43cm、奥行き64cm、高さ23cmであり、正面引き出し上部と外枠の間に5mmの隙間がある。この衣装ケースの中に、黒色のフェルトで覆った羊毛製の衣類を入れ、25℃の恒温室に10日間保った後、囲いの中に、羽化後1日のイガ成虫の雌雄各50匹を入れた。さらに7日間同温度に保持し、衣装ケース中に侵入した成虫の数を調べた。
【0024】
実 施 例 2
2−ジヒドロターピニルオキシエタノールの成虫忌避効果:
実施例1と同様の実験において、2−フェノキシエタノールに変えて、2−ジヒドロターピニルオキシエタノール(日本テルペン化学株式会社製、参考例も同じ)を用い、縦60mm、横70mmのセルロース製多孔質担体に含浸して成虫忌避剤とした。この成虫忌避剤も、ほとんど臭いがなかった。実施例1と同様にして試験した結果、成虫忌避剤を置かないときの成虫の侵入数は10匹であったのに対し、成虫忌避剤を置いたときには、成虫は1匹も侵入していなかった。
【0025】
参 考 例
2−ジヒドロターピニルオキシエタノールの卵孵化抑制効果:
直径40mmの金属製のかごの中に、2−ジヒドロターピニルオキシエタノール5mgを含浸させた濾紙を入れた。これを内容積500mlのガラス製ふた付き容器のほぼ中央に置き、その底部に産卵後1日のイガの卵20個をのせた1辺2.5cmの正方形のサージを置いた。温度25℃、湿度60%RHの条件下に12日間保存した後、容器のふたを開け、孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。この結果、孵化率は0%であった。一方、2−ジヒドロターピニルオキシエタノールを含浸させた濾紙を入れずに、同様の実験をした結果、孵化率は100%であった。
以 上
Claims (4)
- 2−ジヒドロターピニルオキシエタノールを有効成分として含有する繊維害虫成虫忌避剤。
- さらに2−フェノキシエタノールを含有する請求項1記載の繊維害虫成虫忌避剤。
- 実質的に無臭なものである請求項第1項または第2項記載の繊維害虫成虫忌避剤。
- 繊維製品に請求項第1項ないし第3項のいずれかの項記載の繊維害虫成虫忌避剤を適用することを特徴とする繊維害虫成虫忌避方法。
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