JP4148552B2 - 衣類害虫の増殖行為阻害剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣類害虫の増殖阻害剤に関するものであり、さらに詳しくは衣類害虫の交尾、卵からのハッチなどの増殖行為、或いは繁殖行為を有効に阻害することができる増殖阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来害虫に対する殺虫剤或いは防虫剤としては種々の多数の物質が知られており、合成化学物質から天然物質にわたる極めて多くの物質が殺虫剤或いは防虫剤に使用され、強力なものから弱いものまで、その用途に適したものが選択されて用いられている。
屋外の広い範囲については少量ですむように強力なものが使用され、屋内には人体に影響を与えないように、弱いものが選択されているが、特にたんすや衣装箱などで衣類害虫用に使用されるものは、密閉空間で使用される関係で、それほど強力なものは必要とされず、むしろ少量でかつ長時間有効であるものが適していると考えられていた。
【0003】
衣類害虫に対しても様々な化合物が提案されており、特定の化合物を有効成分とした繊維害虫忌避剤を用い、繊維製品を害虫が侵入しない状況にすることで、食害防止効果を得ている。衣類については、少量でかつ長時間有効でなければならないので、特異な殺虫剤や防虫剤が選択使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来害虫に対する殺虫剤或いは防虫剤として知られた物質は、衣類害虫に対しても一般に有効であると考えられるが、有効であるからといって実用上使用できるものではない。それは、衣類が対象であるため、衣類に匂いを付けるものは適さず、また衣類の繊維や染料を変色させたり、脱色させるものであってはならない。
しかも、クローゼットや押入れ等で長期間に渡り使用される状況において、従来のものでは殺虫効果が行き届かなかった箇所では、その場所で交尾、産卵等の行為を行い、衣類に害を与えることがあり、不十分なものであった。
それというのも、クローゼットや衣装箱では、衣類は並べて吊り下げられ、また重ねて置かれるため、衣類相互が密接しているので、薬剤が揮散してもその密接部分の間にまでには入らず、害虫に作用しにくい状態となっている。
【0005】
さらに、相当量の薬剤が揮散するように、薬剤を配置しても、衣類の繊維自体が、多孔性の物質で吸着力の強いものであるため、衣類の密接部分の間にまで薬剤が拡散して回るまでに、衣類の繊維に吸着されてなくなってしまうので、どうしても害虫が生き残ることになる。
少しでも害虫が生き残ると、それが繁殖することになり、時間の経過に伴って薬剤量が減少すると、その領域全体に害虫が広がっていくことになる。この状態を防ごうとすると、そのクローゼットや衣装箱など全体にかなりな量の殺虫剤を入れることが必要となる。
そこで、そのような多量の薬剤を使用せずに、衣類害虫の害を防ぐことができることが望ましい。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、強力な殺虫剤を使用しないで、衣類害虫の害を防ぐ手段について検討し、衣類害虫が衣類の保管場所における生活においてどのようなときに衣類に害を与えることについては、衣類害虫の生態における「卵−孵化−幼虫−成虫−交尾−産卵」のサイクルにおいて、孵化した幼虫が衣類に食害を与えることが知られている。
それにより、衣類の食害を防ぐためには、成虫や卵までを完全に殺すことは必ずしも必要ではなく、最小限幼虫が孵らないようにすればよいことを着想した。そこで、幼虫が孵らないようにするには、成虫の交尾、産卵、さらには卵からのハッチのいずれかの段階が行われないようにすればよく、或いは卵自体を殺減すればよく、要するに衣類害虫の増殖行為を阻害すればよいわけである。
その衣類害虫の増殖行為を阻害する物質について検討したところ、いくつかのテルペン系化合物にこの増殖行為を阻害する特性があることを見いだして、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決することができた。
(1)カルボン、アネトール及びリナロールの3種の混合物を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の増殖行為阻害剤。
(2)ピレスロイド化合物を有効成分として併用したことを特徴とする請求項1記載の衣類害虫の増殖行為阻害剤。
すなわち、本発明は、カルボン、アネトール及びリナロールの3種の混合物を有効成分とし、衣類害虫に対して交尾阻害、卵からのハッチなどの増殖行為の阻害等に優れた衣類害虫の増殖行為阻害剤を提供するものである。ここで、増殖行為阻害とは、「害虫の行う交尾、産卵、卵からのハッチ等の増殖行為の阻害」のことを示す。
【0008】
従来、前記した天然精油や香料成分が、殺虫剤或いは防虫剤として有効であることは古くから知られており、色々と検討されている。
例えば、住居内のダニ類に対して、すぎ、ヒノキ、マツ科等の植物体の有機溶媒抽出物等が駆除能力、忌避効果を持つこと、また精油中の揮散性のテルペン系の化合物などが致死効力、忌避効力を持つことが知られている。
他にもベンズアルデヒド、ペリラアルデヒド、1−カルボン等を有効成分とした殺ダニ、殺虫、忌避剤が知られている。
しかし、これらは、主としてダニに対して優れた殺虫効力を示すであり、殺虫剤或いは忌避剤という作用での薬剤として使用しているものである。そのため、その使用量或いは有効量は殺虫剤或いは忌避剤としてのもので、本発明における新規用途はこれまで無かったのである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるテルペン系化合物としては、有効なものは例えば、アルコール、アルデヒド、エーテル、ケトン、ピランである。
具体的には、次に挙げる。
アルコール類:リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、α−テルピネオール、イソプレゴール、チモール、オイゲノール
アルデヒド類:デシルアルデヒド、シトラール、ペリラアルデヒド
エーテル類 :アネトール、1,8−シネオール
ピラン類 :ローズオキサイド
ケトン類 :カルボン(d体、l体、dl体)、メントン
など。これらについては、各種異性体を含み、1種以上を併用することができる。
これらの化合物は、イガやコイガなどの衣類害虫に対して、交尾阻害、侵入阻害、羽化抑制等の作用がある。なかでもカルボンは殺卵作用にも優れている。
【0010】
その使用量は、使用する場所により異なり、例えばクローゼットであれば、1m3 当たり2〜1000mg、好ましくは10〜200mgである。衣装ケースの場合1m3 当たり0.5〜500mg、好ましくは5〜100mgである。
その薬剤の使用形態、つまり剤型としては、マット状、シート状、フィルム、ゲル、粉状、粒状、打錠形、ハニカム状、吸液芯など任意であるが、多孔性担体に含浸させるのが好適である。担体としては、成分が安定に保持できれば良く、任意である。
薬剤の供給する手段としては、薬剤を担持した担体に風を当てるファン式(例えば、特開平7−111850号公報、国際公開公報WO96/04786)を採用することもでき、上記担体を加熱させても良い。また薬液を吸液芯で吸い上げ、吸液芯の上端を加熱して薬剤を揮散させる吸液芯方式を採用することもできる。後者としては、例えば特開昭60−161902号公報に記載の吸液芯方式を使用することができる。
薬剤の適用箇所としては、クローゼット、押入れ、衣装ケース等の衣類の保存場所に使用できる。
【0011】
本発明では、以下の実施例でも示すとおり、各種の防虫成分をいっしょに用いることができる。その中でもピレスロイド系化合物との併用は、衣類害虫の防除効果をより高めることができる。
ピレスロイド系化合物としては、例えば、エンペントリン(以下、商品名の「ベーパースリン」でいう)、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラメトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、シフェノトリン、トランスフルスリン、イミプロトリン、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル−3−(2,2−ジクロロエチニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートなどが挙げられる。本発明において好ましい態様としては、例えば、ベーパースリンとカルボン、ベーパースリンとアネトール、さらにはベーパースリン、カルボン、アネトール及びリナロールの組合せが挙げられる。 この他にも、有機リン系化合物やカーバメイト系化合物、さらには忌避剤や共力剤、、必要に応じて、各種の香料、色素などを併用したり、インジケータ機能を付加してもよい。
【0012】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
(イガの卵に対する孵化阻害作用)
内容積が18リットルの容器の中に有効成分100mgを含浸させたマットを吊るし、羊毛布とともにイガの卵を入れて2週間飼育した。2週間後における孵化数を測定した。
試験に用いた化合物名及び測定結果を第1表に示す。
第1表によれば、これらの化合物はいずれもイガの卵に対してほとんどのものが100%、悪いもので83%孵化を阻害していることがわかった。
【0013】
【表1】
【0014】
実施例2
(交尾阻害評価)
1.試験方法
イガのさなぎを試験管に入れて飼育する。
羽化した成虫をシャーレに入れ、ここに薬剤を含浸させたコースター紙(含浸量10mg)を入れて観察した。
薬剤として下記に示すカルボン、アネトール、リナロール、6B13142/Nの4種を用いた。なお、これらの中、
6B13142/N:カルボン、アネトール、リナロールを主成分とするものである。
2.試験結果
試験結果を下記に示す。
【0015】
実施例3
(交尾阻害作用)
1.試験方法
内容積約50リットルの衣装ケース(大きさ50×35×30mm)の底にイガのサナギを約200ケ入れたシャーレ、産卵用培地を入れたシャーレ、水及び餌を入れたシャーレをそれぞれ設置し、蓋から300mgの薬剤を含浸させたマットを3枚吊るし、25℃で2週間保持した。
比較のために、薬剤を含浸したマットを使用しない場合も試験した。
イガは交尾をしなくても産卵することから、効果の判定法として、産卵した卵を別の容器に入れて飼育し、卵がハッチするものを効果なし、卵がハッチしないものを交尾していないと認定した。
2.試験結果
試験結果を第2表に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
実施例4
(拡散性試験及び即効試験)
1.拡散性試験
長さが1m、直径が80mmの円筒パイプ内に20cmおきに、ポリアミドメッシュの袋の中に入れたイガ幼虫30日令10頭を入れ、端の蓋の内部に薬剤300mgを含浸した5×7cmのコースター紙を吊るし、パイプを密封し、1週間放置した(25℃)。1週間後に各ポイントのイガ幼虫の致死率を測定した。含浸する薬剤としては、本発明の薬剤6B13142/Nと比較のためベーパースリンを用いた。
試験結果は第3表に示す。
【0018】
【表3】
【0019】
2.即効試験
1斗缶型の18リットルの容器内に薬剤100mgを含浸したマットを吊るし、この容器の底部にイガ幼虫30日令10頭を入れ、蓋をし、25℃に放置した。
含浸する薬剤としては、本発明の薬剤6B13142/Nと比較のためベーパースリンを用いた。
1週間後、ベーパースリンのイガ致死率が30%であったのに対し、本発明の薬剤では100%の致死率が得られた。ベーパースリンの場合、100%の致死率を得るのには2週間を要した。
試験結果は第4表に示す。
【0020】
【表4】
【0021】
実施例5
(拡散性試験その2)
1.試験方法
内容積約50リットルの衣装ケース(大きさ50×35×30mm)の底に衣装ケースの半分の高さまでセーターを詰め、その上に有効成分含浸体を設置し、その上方の蓋の裏側、セーターが入っていない部分の左右、セーターの下の底部にそれぞれイガ幼虫30日令10頭を入れ、セーターの上に有効成分10gを含浸した粒状パルプを置いた(不織布入り)。
含浸する薬剤としては、本発明の薬剤と比較のためベーパースリンを用いた。2.試験結果
2週間後に致死率を調べたところ、本発明の薬剤はどこの部分も100%致死率が得られたが、比較のベーパースリンはセーター下部のみ100%であった。ベーパースリンは衣類を伝わっていくのに対し、本発明の薬剤は空間へも揮散、拡散し、効力を発揮するものとみられる。
試験結果は第5表に示す。
【0022】
【表5】
【0023】
実施例6
(クローゼット効力試験)
1.試験方法
内容積500リットルの洋服ダンスにスーツ13着を吊るし、また有効成分含浸体を吊るし、1ケ月後に防虫効果を調べた。スーツの肩、内ポケット、背中、すその部分を調べた。
薬剤としては、本発明の薬剤として6B13142/Nとベーパースリンとの混合物、比較のためベーパースリン単独のものを用いた。
2.試験結果
試験結果は第6表に示す。
この他にも、ベーパースリンとカルボンとの組合せについても、同様に優れた致死効果が確認された。
【0024】
【表6】
【0025】
実施例7
(侵入阻害試験)
1.試験方法
内容積50リットルの衣装ケースについて、内容積3リットルのポリ塩化ビニル製容器の中に水、餌及び羊毛布を入れ、薬剤含浸体を吊るした薬剤試験区、及び同様な内容積3リットルのポリ塩化ビニル製容器の中に水、餌及び羊毛布だけを入れ無処理区をそれぞれ両側に接続し、衣装ケース内にイガ成虫300頭を入れ、各試験区に侵入する虫の数を経過時間の関係で測定する。
2.試験結果
試験結果は第7表に示す。
【0026】
【表7】
【0027】
【発明の効果】
本発明の増殖行為阻害剤は、衣類の保存場所で、イガ等の衣類害虫の交尾や卵からのハッチ等の増殖行為を有効に阻害するという優れた効果を有する。衣類害虫に対してその増殖を阻害する結果、衣類が衣類害虫による食害を受けることがない。カルボン、アネトール及びリナロールの3種の混合物を用いて十分な作用を行わせることができる。さらに、ピレスロイド系化合物等との併用により、さらに優れた防虫効果を得ることができる。本発明は、これらの増殖行為阻害剤を用いることにより、衣類害虫に対して優れた防虫作用を与えることができる。また、長期に渡って有効に衣類を保護することができる。
Claims (2)
- カルボン、アネトール及びリナロールの3種の混合物を有効成分としたことを特徴とする衣類害虫の増殖行為阻害剤。
- ピレスロイド化合物を有効成分として併用したことを特徴とする請求項1記載の衣類害虫の増殖行為阻害剤。
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