JP4625567B2 - コイガの幼虫用の防虫剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣料などの繊維製品をコイガの幼虫から保護するためのコイガの幼虫用の防虫剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、衣料などの繊維製品用の防虫剤には、パラジクロロベンゼンやピレスロイド系化合物(例:エムペントリン)などの合成化合物を有効成分とするものが使用されている。これらの合成化合物を有効成分とする防虫剤は、主要な繊維害虫であるコイガやイガ、及びヒメマルカツオブシムシやヒメカツオブシムシに対して殺虫作用がある。しかしながら、パラジクロロベンゼンは刺激臭を有しているために使用者に不快感を与えるばかりでなく、人体に対しても発癌性、生殖毒性があるといわれている。一方、ピレスロイド系化合物は無臭性ではあるが、人体に対する安全性についてはやや問題があるともいわれている。
【0003】
このような理由から、最近では人体に対して安全性の高い天然植物から抽出された天然精油やテルペン化合物を有効成分とする防虫剤が注目されている。天然精油やテルペン化合物を有効成分とする防虫剤としては、次に述べるような防虫剤が提案されている。
【0004】
特公昭57−48523号公報ではシネオールを有効成分とした防虫剤が提案されている。この公報によれば、シネオールは繊維害虫(幼虫)に対して殺虫効果があるとされている。なお、この公報には供試虫にはヒメカツオブシムシ又はヒメマルカツオブシムシを用いた評価結果が記載されている。
【0005】
特開平7−112907号公報では、リナロール、ゲラニオール、ボルネオール、ネロリドール、ネロール、α−テルビネオール、ペリラアルデヒド、シトラール、樟脳、α−ヨノン、シネオール、リナロールオキシド、及びシトラールジエチルアセタールなどのテルペン系化合物を有効成分とした防虫剤(繊維害虫忌避剤)が提案されている。この公報によれば、これらのテルペン系化合物は繊維害虫(成虫)に対して忌避効果があるとされている。そして、この公報では供試虫にコイガを用いた評価結果が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記公報に記載されている防虫効果に関する評価結果は、閉じられた系内において測定された結果であり、実用上の使用環境下においても同様の防虫効果が得られるかが不明確である。
そこで、本発明者は、ヒメカツオブシムシ及びコイガに対し防虫効果が期待できるシネオールに着目し、シネオールを含む天然精油であるユーカリ油をシリカゲルに担持させたものを用いて、実用上の使用状態に近い環境下(半開放系)で繊維害虫(コイガ、ヒメカツオブシムシ)に対する忌避効果を調査した結果、意外にもユーカリ油は、ヒメカツオブシムシについては忌避効果があるが、コイガに対しては忌避効果がほとんどないことが判明した。
【0007】
本発明の目的は、実用上の使用環境下において、人体に対し安全性の高い化学物質を用いながらも、コイガの幼虫から衣料などの繊維製品を効果的に保護することのできる防虫剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、ユーカリ油と、コイガの幼虫に対して喫食阻害効果あるいは殺虫効果を有する天然精油とを含む精油組成物を有効成分とすることにより、人体に対して安全性が高く、主要な繊維害虫に対して防虫効果の高い防虫剤を得ることができると考えて鋭意研究を重ねた。そして、その結果、ユーカリ油とメントン油とからなる精油混合物を60体積%以上含む精油組成物が、コイガの幼虫に対して優れた喫食阻害効果と殺虫効果とを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、粒状担体及び該粒状担体に担持された精油組成物からなり、該粒状担体が予めグリコールで表面処理されていて、該精油組成物が、ユーカリ油とメントン油との体積比が20:80乃至80:20の精油混合物を60体積%以上含む混合物であることを特徴とするコイガの幼虫用の防虫剤にある。
【0010】
本発明の防虫剤の好ましい態様は下記の通りである。
(1)精油組成物が、樟脳油を40体積%未満の量にて含むこと。
(2)精油組成物が、下記の一般式(I);
【0011】
【化2】
(式中、Rは炭素数が1〜6のアルキル基を示す)
で表されるバニリンと低級アルコールとのエーテル化合物を10体積%未満の量にて含むこと。
【0012】
(3)粒状担体が、シリカゲルであること。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の防虫剤に用いる精油組成物は、ユーカリ油とメントン油との体積比が20:80乃至80:20(好ましくは30:70乃至70:30、特に好ましくは40:60乃至60:40)の精油混合物を60体積%以上含む混合物である。精油組成物の含有量が60体積%未満になると、コイガの幼虫に対する防虫効果が低くなる。また、精油混合物中のメントン油の体積比が20未満になると、コイガの幼虫に対する喫食阻害効果や殺虫効果が低下する。
【0014】
本発明の防虫剤に用いるユーカリ油は、Eucalyptus属に分類される植物から得られる精油であれば利用可能であり、シネオールの含有量が70質量%以上のシネオール系ユーカリ油であることが好ましい。
【0015】
本発明の防虫剤に用いるメントン油はMentha属に分類される植物から得られる精油であれば利用可能である。Mentha属に分類される植物を常法により水蒸気蒸留処理して得られた精油を脱脳油と粗脳に分離し、脱脳油からメントン油を得を得ることができる。メントン油に含まれるメントン量は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明の防虫剤に用いる精油組成物に適宜加えられる樟脳油は、楠を水蒸気蒸留して得られる油状物から、析出する樟脳をろ別して得た天然精油であれば利用可能である。
樟脳油を精油組成物に加える場合には、樟脳油の含有量は40体積%未満、通常は10〜30体積%の範囲内である。
【0017】
本発明の防虫剤に用いる精油組成物に適宜加えられる前記一般式(I)で表されるバニリンと低級アルコールとのエーテル化合物の具体的な例としては、バニリルメチルエーテル、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリルイソプロピルエーテル、バニリルブチルエーテル、バニリルイソブチルエーテル、バニリルアミルエーテル、バニリルイソアミルエーテル、バニリルアミルエーテル、バニリルヘキシルエーテルなどを挙げることができる。これらのバニリンと低級アルコールとのエーテル化合物は、特開昭57−82308号公報に記載されている方法により製造することができる。
バニリンと低級アルコールとのエーテル化合物を精油組成物に加える場合には、このエーテル化合物の含有量は10体積%未満、通常は2〜6体積%である。
【0018】
さらに、精油組成物には、この他の天然精油あるいはテルペン化合物及びその誘導体を添加することができる。
精油組成物に好適に添加することができる天然精油の例としては、アルモンドビター油、キャラーウエ油、芳油、ベイ油、クローブ油、カシア油、イランイラン油、ゼラニウム油、ウイキョウ油、ローズマリー油、セイジ油、スペアミント油、ペパーピント油、ベリラ油、ボアドローズ油を挙げることができる。
精油組成物に好適に添加することができるテルペン化合物あるいはその誘導体の例としては、リナロール、アネトール、カルボン、ベンツアルデヒド、ベンジルアルコール、オイゲノール、ジヒドロミルセノール、シネオール、カンファ、メチルアンスラニレート、ゲラニオール、リモネン、チモール、パライソプロピルアニソール、シトラール、ボルネオール及びその誘導体を挙げることができる。
【0019】
本発明の防虫剤に用いる粒状担体としては、シリカゲル、セルロースビーズなどの公知の材料を挙げることができる。特に、調湿効果のあるシリカゲルを用いることが好ましい。
【0020】
本発明の防虫剤において粒状担体に担持させる精油組成物量は、粒状担体の材料によって異なる。例えば、粒状担体にシリカゲルを用いる場合には、シリカゲル60質量部に対して、精油組成物を10〜30質量部の範囲内の量にて担持させることが好ましい。また、粒状担体にセルロースビーズを用いる場合には、セルロースビーズ50質量部に対して、精油組成物を30〜50質量部の範囲内の量にて担持させることが好ましい。
【0021】
粒状担体にシリカゲルを用いる場合には、精油混合物を担持させる前に、シリカゲルとグリコール(特に、プロピレングリコール)とを混合撹拌して、シリカゲルの表面を処理しておくことが好ましい。通常は、シリカゲル60質量部に対して、5〜10質量部のグリコールを加えて混合する。
【0022】
【実施例】
[参考例1]
ユーカリ油をシリカゲルに担持させたユーカリ油担持シリカゲルを製造し、ユーカリ油担持シリカゲルのヒメカツオブシムシ及びコイガに対する忌避効果を評価した。
【0023】
[1]ユーカリ油担持シリカゲルの製造
シリカゲル60質量部に、プロピレングリコール8.5質量部を加えて混合してシリカゲルを表面処理し、次いで、ユーカリ油17.5質量部を加えて混合して、ユーカリ油担持シリカゲルを製造した。
【0024】
[2]忌避効果の評価
(1)供試虫にヒメカツオブシムシ(幼虫)を用いた忌避試験
底面に供試虫が逃げない程度の大きさの空気穴が設けられている蓋付きポリプロピレン製容器(容量約2.3リットル)を三個(それぞれA、B、Cとする)用意し、これらの容器をABCの順に並べ、側面に穴を開け、容器Aと容器B、及び容器Bと容器Cを、それぞれ透明プラスチック製連結菅(内径1.7cm×長さ30cm)で連結した。
容器Aと容器Cとに毛糸編物約18gを入れ、容器Aに入れた毛糸編物の上にユーカリ油担持シリカゲル5.7gを置き、容器Bに供試虫として10個体のヒメマルカツオブシムシの幼虫を放した。試験開始72時間経過後に容器Aに侵入していたヒメマルカツオブシムシの個体数を計測した。なお、試験は暗室にて室温25℃で行った。その結果を第1表に示す。
【0025】
(2)供試虫にヒメカツオブシムシ(成虫)を用いた忌避試験
前記(1)の忌避試験において、供試虫をヒメカツオブシムシの幼虫の代わりに5個体のヒメマルカツオブシムシの成虫とした以外は同様の操作を行って、忌避試験を行った。その結果を第1表に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
(3)供試虫にコイガを用いた忌避試験
前記(1)の忌避試験において、供試虫をヒメマルカツオブシムシの代わりに10個体のコイガの幼虫とした以外は同様の操作を行って、忌避試験を行った。
なお、試験は2回行った。その結果を、第2表に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
以上の結果から、ユーカリ油担持シリカゲルは、ヒメカツオブシムシに対して優れた忌避効果を有しているが、コイガの幼虫に対しては忌避効果がないことがわかる。
【0030】
[実施例1]
ユーカリ油とメントン油の精油混合物を含む精油組成物を担持させた精油組成物担持シリカゲルを製造し、精油組成物担持シリカゲルのコイガ幼虫に対する羊毛布の喫食阻害効果及び殺虫効果を評価した。
【0031】
[1]精油組成物担持シリカゲルの製造
(1)ユーカリ油とメントン油の精油混合物のみからなる精油組成物を担持したシリカゲルの製造
シリカゲル60質量部に、プロピレングリコール8.5質量部を加えて混合しシリカゲルを表面処理し、次いで、表面処理したシリカゲルにユーカリ油とメントン油とを体積比で50:50の割合で含む精油混合物100体積%の精油組成物17.5質量部を加えて混合して、精油組成物担持シリカゲル(A)を製造した。
【0032】
(2)ユーカリ油とメントン油の精油混合物、及び樟脳油からなる精油組成物を担持したシリカゲルの製造
ユーカリ油とメントン油の精油混合物のみからなる精油組成物の代わりに、ユーカリ油とメントン油とを体積比で50:50の割合で含む精油混合物80体積%、樟脳油20体積%の精油組成物を同量加えた以外は、前記精油組成物担持シリカゲル(A)と同様の操作を行って、精油組成物担持シリカゲル(B)を製造した。
【0033】
(3)ユーカリ油とメントン油の精油混合物、及びバニリルブチルエーテルからなる精油組成物を担持したシリカゲルの製造
ユーカリ油とメントン油の精油混合物のみからなる精油組成物の代わりに、ユーカリ油とメントン油とを体積比で50:50の割合で含む精油混合物96体積%、バニリルブチルエーテル4体積%の精油組成物を同量加えた以外は、前記精油組成物担持シリカゲル(A)と同様の操作を行って、精油組成物担持シリカゲル(C)を製造した。
【0034】
[2]供試虫にコイガ幼虫(産卵後約3週間の幼虫)を用いた羊毛布の喫食阻害試験
内径が約4.1mm、深さが1.6cmのガラスシャーレに、供試虫(コイガ幼虫)25個体と直径約4.1cmに切った羊毛布(JIS染色堅牢度試験用添付白布)を入れ、金網で蓋をしたものを試験容器とした。
市販の蓋付きポリプロピレン製容器(容量約45リットル)に、調湿のための飽和食塩水約500ミリリットルを入れ、精油組成物担持シリカゲル16gを入れて12時間経過した後、供試虫と羊毛布を入れた試験容器を入れ、蓋をして室温下で静置し、3週間後に羊毛布の喫食量の測定と供試虫の生死の確認を行った。なお、試験は4回行い、それぞれ試験毎に、試験開始時と終了時の環境湿度の違いによる羊毛布の重量変化を補正するために、供試虫を入れない基準布を準備した。第3表に羊毛布の喫食量及び喫食阻害率の結果を、第4表に供試虫の死亡率の結果を示す。また、第5表に供試虫を入れない基準布の重量変化及び重量変化率を示す。
【0035】
参考例2として、精油組成物担持シリカゲルの代わりに市販の防虫剤を適量入れて、同様の試験を行った。その結果を、第3表及び第4表に示す。
【0036】
無処理区として、精油組成物担持シリカゲルを入れずに同様の試験を行った。
その結果を、第3表及び第4表に示す。
【0037】
第3表に示した喫食量及び喫食阻害率は下記の式により算出した。
【0038】
喫食量=開始時重量×基準布の重量変化率−終了時重量
但し、基準布の重量変化率は第5表に示されている値である。
【0039】
喫食阻害率=[1−(処理区の平均喫食量/無処理区の平均喫食量)]×100
【0040】
第4表に示した補正死亡率は下記の式により算出した。
【0041】
補正死亡率=[1−(処理区の生存率/無処理区の生存率)]×100
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
以上の結果から、ユーカリ油とメントン油の精油混合物を含む精油組成物を担持したシリカゲル[精油組成物担持シリカゲル(A)〜(C)]は、コイガの幼虫に対して優れた喫食阻害効果と殺虫効果を発揮することが分かる。特に、樟脳油を含む精油組成物を担持したシリカゲル[精油組成物担持シリカゲル(B)]及びバニリルブチルエーテルを含む精油組成物を担持したシリカゲル[精油組成物担持シリカゲル(C)]は、コイガの幼虫に対する喫食阻害効果と殺虫効果とが高くなることが分かる。
【0046】
【発明の効果】
本発明の防虫剤は、コイガの幼虫に対して優れた喫食阻害効果と殺虫効果を発揮する。従って、本発明の防虫剤を用いることにより、実用上の使用環境下においても、コイガの幼虫から衣料などの繊維製品を効果的に保護することができる。また、本発明の防虫剤は、天然精油を有効成分とするものであるから、人体に対し安全性が高い。
Claims (5)
- 粒状担体及び該粒状担体に担持された精油組成物からなり、該粒状担体が予めグリコールで表面処理されていて、該精油組成物が、ユーカリ油とメントン油との体積比が20:80乃至80:20の精油混合物を60体積%以上含む混合物であることを特徴とするコイガの幼虫用の防虫剤。
- さらに、精油組成物が、樟脳油を40体積%未満の量にて含むことを特徴とする請求項1に記載の防虫剤。
- 粒状担体が、シリカゲルであることを特徴とする請求項1に記載の防虫剤。
- 粒状担体が、粒状担体60質量部に対して、5〜10質量部のグリコールで表面処理されていることを特徴とする請求項1もしくは4に記載の防虫剤。
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