JP3748757B2 - 衣類用害虫防除剤の揮散方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣類用害虫防除剤の揮散方法に関し、更に詳しくはイガ、コイガを防除するために効力持続時間を可変できるようにした衣類用害虫防除剤の揮散方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、衣類用害虫防除剤としてはパラジクロロベンゼン、ナフタリン、樟脳等の防除剤が広く用いられている。これらは衣料に併置し、その昇華性蒸気により衣料を害虫から守るものである。しかしながら、これらの衣類用害虫防除剤は本来害虫の忌避を主な効果とするものであり、特有の臭気を有する。そのため、この臭気が保存衣料への移臭や着用時の不快感等となり、衣料用害虫防除剤における課題となっていた。この様なことから最近無臭でしかも微量で効果を有する防除薬剤が探索されている。
【0003】
これらの条件を満たす防除薬剤として、現在までに知られているものは、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル クリサンテマート(以下エムペントリンという)のみであるが、このものは害虫に対する殺虫力は大きいものの長期間にわたる効力の持続が難しく、その利用に際しては各種の除放化方法(特開平2−196704号等)が示されている。
【0004】
一方、特開昭63−203649号には新しいピレスロイド系殺虫剤として(+)1R,3S−トランス−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)−シクロプロパンカルボン酸 2,3,5,6−テトラフルオロベンジルが示されており、この薬剤は家庭内で発生する又は衛生有害生物もしくは貯蔵製品の有害生物としての有害動物、特に昆虫の防除に適していることが示され、有害生物としてシミ類としてレピスマ・サッカリナ、直翅目としてコバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、レウコフェア・アデラエ、チャバネゴキブリ、アケータ・ドメスチクス、ハサミムシ類としてはホルフィクラ・アウリクラリス、シロアリ類としてはレチクリテルメス種、シラミ類ではヒトジラミ、半翅目ではナンキンムシ、ロドニウム・プロリクスス、トリアトマ・インフェスタンス、鱗翅目ではスジコナマダラメイガ、ハチミツガ、甲虫目ではアノビウム・ブンクタトゥム、コナナガシンクイムシ、ヒロトルペス・バジュルス、ノコギリヒラタムシ、コクゾウムシ、トゥロゴデルマ種、アントレヌス種、ヒラタキクイムシ種、ニプトゥス・ホロレウクス、セマルヒョウホンムシ、コクヌスストモドキ種、膜翅目ではイエヒメアリ、ラシウス・ニゲル、スズメバチ、双翅目ではアエデス・エギプテイ、ハマダラカ種、アカイエカ種、イエバエ種、ヒメエイバエ種、オオクロバエ種、キンバエ種、オビキンバエ種、サシバエ種およびアブ種、隠翅目ではネズミノミ、ナガノミ種が挙げられているが、衣類に食害を与えるヒロズコガ科のイガ、コイガに対する作用は全く知られていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
衣類用害虫防除剤としては、衣類害虫に対する防除効果、食害防止効果が強力である一方、その毒性が低い事、更に長期間にわたる前記効果の持続が要求される。しかし従来から知られている衣類用害虫防除剤としてのパラジクロルベンゼン、ナフタリン、樟脳等は薬剤単価が安い事より多量の薬剤を用いて長期間にわたる効力持続を行っている為、毒性が高くなるが、その効果も充分でなかった。
【0006】
一方、これまでハエ、カなどに対する一般的な家庭用殺虫剤として知られているピレスロイド化合物は低毒性であり、特にエムペントリンは既に衣類用害虫防除剤として使用されているが、長期間衣類用害虫防除剤として利用するには樹脂あるいはマイクロカプセルに封入する等の除放化の為の煩雑な処理を必要とすると同時に、高価な製剤となっている。
【0007】
このため衣類害虫に対して長期間有効でかつ毒性が低い化合物を見出し、有用な衣類用害虫防除剤を開発することが望まれていた。
【0008】
本発明は、衣類用害虫、特にイガ、コイガ等に対して優れた防除効力を示し、かつ効力持続時間を可変できるようにしたピレスロイド系衣類用害虫防除剤の揮散方法を提供する事を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、多数のピレスロイド化合物、特にピレスロイド系殺虫剤として知られた化合物を含めて、その衣類用害虫の代表であるイガ、コイガに対する防除効果を研究した結果、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、次の一般式(1)で表される化合物を含有する衣類用害虫防除剤を、前記化合物の効力持続時間を可変できるように担体、シート状若しくはマット状基材および収納家具部材のいずれか1つに適用し、揮散させることによって、上記目的を達成した。
一般式(1)
【化2】
(但し、X1 ,X2 は塩素及び/又はメチル基を表わす)
【0011】
本発明の衣類用害虫防除剤の有効成分である前記一般式(1)で表わされる化合物は、X1 ,X2 がいずれも塩素又はメチル基であるもの、あるいはいずれか一方が塩素で、他方がメチル基であるものがあるが、その一つの化合物についても多くの光学異性体、幾何異性体を有しているが、それらの中で特に好ましい化合物は、(+)1R,3S−トランス−2,2−ジメチル−3(2,2−ジクロロビニル)−シクロプロパンカルボン酸2,3,5,6−テトラフルオロベンジル(以下「化合物(1)」という)である。その外、(−)1R−シス/トランス−2,2−ジメチル−3(2,2−ジクロロビニル)−シクロプロパンカルボン酸2,3,5,6−テトラフルオロベンジルや、(±)1R,S−シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)−シクロプロパンカルボン酸 2,3,5,6−テトラフルオロベンジル(以下「化合物(2)」という)も使用できる。
【0012】
本発明の衣類用害虫防除剤は、イガ、コイガ等の衣類害虫に対して優れた防除効果を発揮でき、しかも前記一般式(1)で表される化合物が、適切な蒸気圧つまり従来高揮散ピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10-3mmHg/30℃のオーダー)と一般のピレスロイド化合物の蒸気圧(通常×10-5mmHg/30℃のオーダー)のほぼ中間である2.7×10-4mmHg/25℃(外挿値)を有するため、常温においてガス効果および持続効果が充分期待でき、更に実質的に無臭でかつ毒性も極めて低いという卓越した諸性能を具備する。特に前記一般式(1)で表される化合物の有効防除濃度は、後述する試験例に示す通り、既に利用されている衣類用ピレスロイド系防除剤であるエムペントリンとほぼ同等の含浸量でエムペントリンより有効である事より、エムペントリン以上にイガ、コイガ等の衣類害虫に低濃度で有効である。
【0013】
従って本発明における前記一般式(1)で表される化合物はエムペントリンより少量の使用量で充分な防除効果を発揮でき、しかも同程度の使用量では有効期間の延長を可能とすることを示唆している。
【0014】
本発明の衣類用害虫防除剤は、そのまま防除効果を要求される場所、例えば和ダンス、洋服ダンス、整理ダンス、衣裳箱等の衣類を収納する目的に用いられる各種の収納家具内に適用することもできるが、通常好ましくは適当な担体その他の賦形剤を用いて、例えば粉末、顆粒、錠剤、棒状、板状等の固剤形態又は乳剤、分散剤、懸濁剤、噴霧剤、エアゾール剤、油剤等の液剤形態に調製し、之等各形態に応じた方法により衣料害虫の防除に適用される。
【0015】
液剤の形態に調製するに当り用い得る担体(希釈剤)としては例えば水、エチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ケロシン、パラフィン、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等を例示できる。また液剤には通常の乳化剤乃至分散剤、展着剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤等を添加配合することができ、更に通常の塗膜形成剤を配合して塗料や接着剤等の形態とすることもできる。用いられる各添加剤としては、例えばニトロセルロース、アセチルセルロース、メチルセルロース、アセチルブチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂、アルキッド系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ゴム等のゴム、ポリビニルアルコール等の各種の塗膜形成剤;石けん類、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアルキルアリルスルホン酸塩等の界面活性剤;液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、フルオロカーボン等の噴射剤;カゼイン、ゼラチン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を例示できる。
【0016】
また固剤の形態に調製するに当り用いられる担体としては、代表的には例えばケイ酸、カオリン、活性炭、タルク、炭酸カルシウム、陶磁器粉等の各種鉱物質粉末や、木粉、豆粉、小麦粉、でんぷん等の各種植物質粉末やシクロデキストリン等の包接化合物を例示できる。更に固剤の形態に調製するに当っては、例えばトリシクロデカン、シクロドデカン、2,4,6−トリイソプロピル−1,3,5−トリオキサン、トリオキサン、トリメチレンノルボルネン、パラジクロルベンゼン、ナフタリンおよび樟脳から選ばれる昇華性担体を用いて、之等担体と前記一般式(1)で表される化合物を溶融混合又は擂潰混合後成型して昇華性固剤とすることもできる。また上記固剤には、有効成分化合物をプラスチックスに練り込んだ樹脂成型物の形態も包含される。
【0017】
また本発明の衣類用害虫防除剤は、例えばポリビニルアルコールやCMC等を用いたスプレードライ缶、ゼラチン、ポリビニルアルコール、アルギン酸等を用いた液中硬化法、コアセルベーション法等に従いマイクロカプセル化した形態に調製したり、サイクロデキストリンで包接したり、ベンジリデン−D−ソルベトール、カラギーナン等のゲル化剤を用いてゲルの形態に調製することもできる。
【0018】
かくして調製される各種形態を有する本発明の衣類用害虫防除剤は、特に制限はなくまた各形態に応じて適宜に決定できるが、通常前記一般式(1)で表される化合物を約80%(重量、以下同じ)までの範囲、より好ましくは0.1〜65%の範囲で含有しているのが好ましい。また本発明の防除剤は、必要に応じて各種の共力剤や安定性向上のための酸化防止剤やその他の添加剤を添加することができる。ここで好ましい共力剤としては例えばピペロニルブトキサイド、イソボルニルチオシアネート、リーセン、S−421等を、酸化防止剤としてはブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ−オリザノール等を、夫々例示できる。之等の添加量は限定的ではないが有効成分化合物の10倍量まで、通常1/50〜10倍量とするのが適当である。またその他の添加剤としては、例えばパラクロロメタキシレート(PCMX)、BCA、サリチル酸、安息香酸、ソルビン酸、1−オキシ−3−メチル−4−イソプロピルベンゼン,O.P.P.、ヒノキチオール等の揮散性防菌・防黴剤や着色・着香料等を例示できる。その他の添加剤としての上記揮散性防菌・防黴剤は通常製剤に対し70%まで、好ましくは0.1〜50%とするのが適当である。更に本発明防除剤は、公知の衣類用害虫防除剤と混合して用いることも可能である。
【0019】
本発明防除剤は、その使用に当っては、防除効果を要求される場所、例えば衣類収納家具内に、適当な包装剤例えば公知の各種の起毛状、クレープ状、網状、層状の紙、不織布、布等で包装するか又は包装することなく、投入したり、噴霧、塗布、貼り付け等により適用することができる。殊に本発明における前記一般式(1)で表される化合物は実質的に無臭であるため、これが直接衣類に接触される如く適用することも可能である。
【0020】
また本発明の衣類用害虫防除剤、例えばこれを予め適当なシート状基材に塗布、含浸、噴霧、滴下、混練等により保持させて、該基材に保持された形態で、目的とする場所に適用することもできる。この際用いられるシート状基材としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル等の合成樹脂シート、動植物質又は無機質繊維体シート(紙、布、不織布、皮革等)、之等合成樹脂と無機質繊維または粉体との混合シートまたは混紡布、上記合成樹脂と動植物繊維との混紡布または不織布及び上記各種シートの積層シートを例示できる。
【0021】
更に本発明にかかる前記一般式(1)で表される化合物は、これを収納家具部材とする木材、例えばキリ、ペンシルシダ、クス、イチイ、モミ、トドマツ、ツガ、ジョンコン、ジェルトン、アガチス、スギ、オニグルミ、ブナ、ミズナラ、ケヤキ、ハルニレ、ミズメ等、プラスチックス例えば塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、及び段ボール等に予め塗布、含浸、噴霧、滴下、混練等により保持させて利用することができる。上記において好適な保持手段としては、収納家具部材に、前記一般式(1)で表される化合物及び常温でゲル化又は結晶化乃至固化する液体を別々に又は予め混合後常圧下、減圧下又は加圧下に含浸させる方法が挙げられる。
【0022】
用いられる常温でゲル化する液体としては通常のゲル化剤例えばジベンジリデン−D−ソルビトールを、また常温で結晶化乃至固化する液体としては、例えばアセトアニリド、イソフタル酸ジメチル、酢酸マグネシウム、テレフタル酸ジメチル、無水マレイン酸、ラウリン酸、ステアリルアルコール、石油系固形パラフィン、動植物系固体ロウ、四ホウ酸ナトリウム(10水塩)、硫酸アルミニウムナトリウム、硫酸マグネシウム(6水塩)、リン酸水素二ナトリウム(5水塩)等を夫々例示できる。
【0023】
かくして適用される本発明の衣類用害虫防除剤は強力な効力、適度な揮散性を有し、効力持続期間を必要に応じ可変出来ると共に、安定性の良さと相まって収納家具材等では数十年の効力持続も容易になし得、また粉、粒体、昇華製剤等の剤型とする時には短期用として少量有効に揮散させ得る。更に臭いもほとんど感じられず、無臭または好みの付香も出来、且つ長い間タンス内に入れていた洋服もタンスから出して直ちに着用出来る等、数々の利点を有しており、工業的に利用価値の高いものである。
【0024】
【作用】
本発明で用いる前記の一般式(1)で表わされる化合物は、衣類用害虫に対するきわめて優れた防除効果を発揮する。また、この化合物は従来のピレスロイド系化合物に比して長時間にわたるガス化作用とピレスロイド系化合物に共通な低毒性を併せ持つものである。
【0025】
【実施例】
以下、参考例及び試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの参考例に限定されるものではない。
【0026】
参考例1
化合物No. 1を100mmψ×3mmパルプ製厚紙に3mg/cm2 となるよう塗布し、マット状防除シートを製造した。
参考例2
化合物No. 2を20mmψ×0.5mmパルプ製厚紙に1mg/cm2 となるよう含浸し、マット状防除シートを製造した。
参考例3
化合物No. 2化合物No. 1を等重量部づつ配合したアセトン溶液を用いて、20mmψ×0.5mmパルプ製厚紙に有効成分量が1mg/cm2 となるよう含浸し、マット状防除シートを製造した。
【0027】
試験例1
有効成分である化合物No. 1を表1記載の各含有量となるように、直径20mmのNo. 2の濾紙(東洋濾紙社製)にアセトン溶液として含浸させ風乾後、約450ml容量のマヨネーズ瓶(ガラス製)中に底面より約8cmの所に吊り下げた。次にイガ30日令幼虫10頭と2×2cmのウール布を1枚入れた90メッシュのナイロンゴウズ袋(4×4cm)を容器底部に設置し、密封後25℃下暗所に放置する。2週間後容器を開封し、イガの死虫数を測定した。上記試験を2回行い、表1中には平均死虫率として示す。尚、表1中には比較としてほぼ同じ濃度のエムペントリンを用いて同一試験を行った結果を併記する。
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、前記一般式(1)で表される化合物を含有する衣類用害虫防除剤を、前記化合物の効力持続時間を可変できるように担体、シート状若しくはマット状基材および収納家具部材のいずれか1つに適用し、揮散させることにより、イガ、コイガ等の衣類害虫に対して優れた防除効果を示し、しかも効力持続時間を可変できるようにしたので、適切な蒸気圧で長期間有効に揮散させ得るほか、短期用としても少量有効に揮散させ得、家庭内で手軽に適用できるという効果がある。
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