本発明は,二重ロール対に刻設された一連の孔型を用いて圧延および曲げ加工を行うことにより,断面形状が左右両側に腕部を有する略U型(縁付き帽子の形状に似ていることから以下「ハット型」と呼称する。)であり,さらに該左右両側の腕部に附属して断面形状が相互に非対称な継手対(以下,「非対称な継手対」と呼称する。)を有する断面材を製造する方法,およびこれに用いられる圧延機に関する。
非対称ハット型断面材は80,例えば図7(a),(b)に示すように,非対称な継手対86,87を有するハット型断面材であり,より具体的には,中央のウェブ81,フランジ82,83及び腕部84,85からなるハット型断面のベース部と,このベース部の左右両側に形成された非対称な継手対86,87とからなる断面材である。なお,本明細書では,「対称」とは,ある図形と他の図形が鏡面対称軸を中心として折り返せば相互に重なり合うような「鏡面対称(線対称)」を意味するものとし,ある図形と他の図形をある点を中心に回転すれば相互に重なり合うような「回転対称」は「非対称」とする。
上記のような非対称ハット型断面材80は,例えば矢板(鋼矢板等)として利用される部材である。例えば図8に示すように,一端の継手86と他端の継手87とを嵌合することにより複数の非対称ハット型断面材80相互に連結し,土中に打設することによって,土留め機能を有するいわゆる鋼矢板壁が構築される。但し,類似の非対称断面材として,図9に示すように,ウェブ61,フランジ62,63からなるU型ベース部の両側に,非対称な継手対66,67を有するU型断面材60が知られているが,この種のU型断面材60は,フランジ62,63と継手対66,67とを連結する腕部(所定長以上の平坦部分)を有していないので,本発明技術の対象とするところではない。
さて,図7に示したような非対称ハット型断面材80の製造には,複数の孔型による圧延と曲げ加工(製造においては孔型による圧延と曲げ加工の両方が関連しているが,以下では説明の便宜上,曲げ加工も含めて「孔型圧延」と呼称する。)が適用されている。この孔型圧延は,大別すると,粗・中間孔型圧延と,仕上孔型圧延とに分類される。
まず,粗・中間孔型圧延について説明する。従来では,粗・中間孔型圧延を行うに際し,最終断面が図7のような非対称な継手対86,87を有するハット型であることに対応した特別な孔型圧延法が必要であるとは認識されておらず,図10に示すような対称な継手対56,57を有するU型断面材(以下「対称U型断面材」と呼称する。)50と同様の製造法が採用されていた。このことは,例えば非対称ハット型断面材の製造に関する特許文献1に記載されている。即ち,この特許文献1の[0012]段落には,「非対称U形鋼矢板の製造方法については,…,各継手部を複数の孔型ロールにより段階的に複数パスを行うことで従来の対称U形鋼板と同様にして製造していた。」と記載されており,さらに,上記特許文献1の[0020]段落には「非対称鋼矢板を熱間圧延法で製造する場合には,継手部の曲げ成形に至るまでは非対称形であっても熱間圧延によって(左右の継手部を)同時に圧延成形しても特に支障をきたさない。」と記載されている。このように,従来では,図7に示す非対称ハット型断面材80の製造に適用される粗・中間孔型圧延法は,図10の対称U型断面材50の製造に適用されていた図11に示すような製造方法と基本的には同一であった。
図11は,鋼製の対称U型断面材50を熱間圧延法で製造する方法を例示している。まず,加熱炉1により,鋼等からなる断面矩形状の被圧延材10(例えばスラブ)を熱間圧延可能な程度の高温に加熱する。次いで,1または2以上の粗圧延用孔型が刻設された二重ロール対(上ロール及び下ロール)を有する粗圧延機2によって,上記加熱された被圧延材10を粗圧延して,粗形断面材20を成型する。さらに,該粗形断面材20を,1または2以上の中間圧延用孔型が刻設された二重ロール対を有する中間圧延機3及び4により圧延して,継手対を形成しながら次第に板厚を減じることにより,中間断面材40を形成し,この時点で粗・中間孔型圧延が終了する。
最後に,仕上孔型と呼ばれる最終孔型が刻設された二重ロール対を有する仕上圧延機5により,上記中間断面材40の板厚をわずかに減じつつ,継手対46,47を曲げ加工することにより,対称U型断面材50が最終的に成型される。なお,仕上孔型は,製造対象となる断面材を最終的に成型する孔型である。また,以下にいう仕上直前孔型とは,仕上孔型の直前に配置され,仕上孔型に導入される中間断面材を最終的に成型する孔型である。この仕上直前孔型は,例えば,図11の例では,中間圧延機4に設けられている。
以上のような製造過程において,被圧延材10の断面形状が推移する状況を図12に示す。粗・中間孔型圧延に適用される一連の孔型群の形状は,被圧延材10の断面形状が次第に対称U型断面材50の断面形状に収斂するように設計されており,対称U型断面材50が対称形状であることに対応して,図12に示すように上記一連の孔型の形状も当然対称形状に設計される。
上記特許文献1で主張されているように,最終断面が図7に示したような非対称ハット型断面材80の製造においても,上記のような対称U型断面材50の粗・中間孔型圧延法に基づいて,一連の孔型の形状を非対称な継手対を有するハット型に設計しておけば,特に支障なく中間断面材を成型することができると考えられていた。
次に,仕上孔型圧延について説明する。非対称ハット型断面材80の仕上孔型圧延に関しては,非対称ハット型断面材80の断面形状が非対称な継手対を有するハット型であることに対応して,特別な孔型圧延法が必要である。
上記対称U型断面材50の仕上孔型圧延では,図12に示すように,仕上圧延機5の上ロール5−1及び下ロール5−2で構成される仕上孔型K1によって,主に,中間断面材40の継手対46,47を曲げ加工することによって,対称U型断面材50が成型される。この仕上孔型圧延において,継手対46,47を曲げる際に最も重要なことは,中間断面材40の姿勢を崩すことなく安定化させることであり,そのために,例えば,中間断面材40の板厚が数%の圧下率でごく軽く圧延される。
これに対し,上記非対称ハット型断面材80の仕上孔型圧延においては,その中間断面材の板厚をごく軽く圧延するだけでは,該中間断面材の姿勢を安定化させるには不十分である。非対称ハット型断面材80の仕上孔型圧延において中間断面材の姿勢を保持する手法については,特許文献2,上記特許文献1および特許文献3に次のように記載されている。
特許文献2には,図13に示すように,仕上孔型K1により中間断面材70の継手対76,77の曲げを始める前(図13(b),(c)参照)に,フランジ72,73の下部を最初に圧下して固定(図13(a)参照)できるように,仕上孔型K1の形状を設計することにより,継手対76,77を曲げる際に中間断面材70の姿勢を崩さないようにする方法が開示されている。
また,特許文献1には,図14に示すように,仕上孔型を第1の仕上孔型K1−1(図14(b)参照)と第2の仕上孔型K1−2(図14(c)参照)の二つに分け,第1の仕上孔型K1−1は,仕上直前孔型K2(図14(a)参照)出しの中間断面材70の左継手76のみを曲げ,第2の仕上孔型K1−2は右継手77のみを曲げる方法が開示されている。このように継手対76,77を片側ずつ曲げることにより,該継手対76,77を一つの仕上孔型で同時に曲げる場合よりも,姿勢の崩れを緩和できるとされている。
さらに,特許文献3には,図15に示すように,中間断面材70の全幅Wm,左右フランジ72,73の交叉角αm及び継手76,77の外側面角θmと,これら寸法諸元に対応する仕上孔型K1の寸法諸元Wg,αg,θgの間の適正範囲を数式で規定し,該数式に従って仕上孔型K1を設計することにより,仕上孔型圧延において中間断面材70の姿勢が崩れないようにする方法が開示されている。この場合についても図15に示しているように,継手対76,77を曲げる際には,上記特許文献2の技術と同様に,中間断面材70のフランジ72,73を仕上孔型K1によって拘束することがポイントである。
特許第3173389号公報
特許第2861829号公報
特開2001−105002号公報
上記従来の技術を非対称ハット型断面材80の製造に適用すれば,被圧延材の断面形状次第では,粗・中間孔型圧延では特に支障を来すことはなく,また仕上孔型圧延では中間断面材70の姿勢を崩さずに継手対76,77を安定して曲げ加工することができる場合がある。ところが,本発明者らが鋭意研究したところ,上記従来の技術を適用するにあたって,新たに以下の(1),(2)及び(3)の三つの問題が発生することがわかった。
(1)粗・中間孔型圧延の出側において,非対称な継手対について左継手76と右継手77の高低差が大きい場合には,低い方の継手を内側にして被圧延材に左右方向の曲がり(以下,単に「曲がり」という。)が発生する。この曲がりの曲率は,上記高低差が大きいほど,また被圧延材断面の幅が小さいほど大きくなる。
本発明技術の対象とする非対称ハット型断面材について,該継手対の断面形状には様々なものが想定される。ここでは左右継手間の高低差を問題にしている関係上,また説明の便宜上,図16に示すように,ウェブ91,フランジ92,93,腕部94,95から構成されるハット型の両側に,断面形状が同一で高さが異なる継手相当部96,97が形成された非対称ハット型被圧延材90の圧延を考える。
図16に示す非対称ハット型被圧延材90おいては,左継手相当部96よりも右継手相当部97は高い位置にある。Zはピッチラインと呼ばれ,上ロール軸Z1と下ロール軸Z2のちょうど中間に位置する線である。一般に形材の孔型圧延は,異径(上ロールと下ロールの直径が異なる)かつ異周速度のロール対の間で行われる圧延であるが,唯一ピッチラインZの上にある部分は,上ロール軸Z1及び下ロール軸Z2から等距離DP/2(DPは,上ロール軸Z1と下ロール軸Z2との距離であり,ピッチ径と呼ばれる。)に位置しており,等径かつ等周速度となっている。
ところで,図17のように異径ロール対4−1,4−2で板状の被圧延材90の圧延を行うとき,投影接触弧長ldは近似的に次の数式(1)で求められることが知られている。
ただし,D1は上ロール4−1の直径,D2は,下ロール4−2の直径,Δh(=h1−h2)は板厚圧下量である。この数式(1)によると,板厚圧下量Δhが同じであれば,投影接触弧長ldが最大になるのは,上下のロール径が等しい(D1=D2)ときである。即ち,同じ圧下量Δhであれば,投影接触弧長ldは,ピッチラインZ(D1=D2)上で最大となり,ピッチラインZから遠くなればなるほど小さくなる。
さて,図16において継手対相当部96,97は同じ形状であるから,圧下量Δhは等しいが,右継手相当部97は左継手相当部96よりもピッチラインZから遠い位置にあるので,投影接触弧長ldは右継手相当部97の方が短い。従って,右継手相当部97の圧下開始は左継手相当部96の圧下開始よりも遅くなる。圧下量Δhは左右の継手対相当部96,97で等しいので,右継手相当部97では圧下開始の遅れを取り戻すために,接触弧の出口O(ロール軸直下)に近いところで相対的に強く圧下される。その結果,(継手対相当部96,97以外の部位は対称であっても)右継手相当部97の伸びが左継手相当部96の伸びよりもわずかに大きくなり,圧延後の被圧延材90には左継手相当部96を内側にした曲がり,即ち図16において左方向への曲がりが生じる。かかる被圧延材90の曲がりが大きくなると,後続の孔型圧延において被圧延材90が孔型の位置からずれて導入され,該孔型への噛み込みができなかったり,目的とする形状が得られない等の問題が生じる。左継手相当部96と右継手相当部97の高低差,即ちピッチラインZからの距離差が大きいほど,また,左継手相当部96と右継手相当部97との水平距離が短いほど,即ち被圧延材のZ軸方向の幅が狭いほど,被圧延材90の曲がりの程度(曲がり曲率k)は大きくなる。
(2)次に上記特許文献2及び特許文献3により公知となっている技術についての問題点を論じる。当該技術のポイントは,仕上孔型圧延において,継手に対する曲げ加工を仕上孔型K1によるフランジの拘束状態のもとで行うことにある。後ほど述べる理由により,一般に図16に示すような孔型圧延において,非対称ハット型被圧延材90のフランジ92,93とピッチラインZとの交叉角(以下,傾斜角と呼称する)θFが小さいほど,フランジ92,93を仕上孔型K1で拘束できる位置が接触弧の出口Oに近づく。その結果,例えば図15において(厳密には継手対76,77の曲げ量にも依存するが)継手対76,77の曲げ開始が相対的に早くなり,フランジ72,73が十分拘束されないうちに継手対76,77の曲げが開始されることになり,中間断面材70の姿勢が不安定となってしまうという問題があった。
上記のように,中間断面材70のフランジ72,73を仕上孔型K1で拘束できる位置はフランジ傾斜角θFが小さいほど接触弧の出口Oに近づくが,その理由を以下に説明する。図18は,中間断面材70のフランジ傾斜角θFの大小が仕上孔型K1によるフランジ72,73の拘束状態にどのように影響するかを説明するための説明図である。図18には,仕上孔型K1により拘束される直前の中間断面材70の左フランジ72と,仕上圧延機5の上下ロール対5−1,5−2とを示す。なお,右フランジ73についても同様であるので,ここでは左フランジ72についてのみ説明する。
仕上孔型K1の入口から出口に向かって上ロール5−1と下ロール5−2との隙間gが減少していき,左フランジ72の板厚圧下が図18のy方向(圧下方向)に行われる。一方,上記従来技術(図13,15)において,継手対76,77に曲げを与える方向はz方向であるから,継手対76,77の曲げを開始する時点で既にz方向にフランジ72,73が拘束されていなければ,中間断面材70の姿勢は崩れてしまう。図18(a)はフランジ傾斜角θFが大きい場合であり,図18(b)はフランジ傾斜角θFが小さい場合である。左フランジ72と上ロール5−1または下ロール5−2とのy方向間隙g1またはg2が等しくても,θFが小さいほど(0度に近いほど),z方向間隙f1=g1/tanθFまたはf2=g2/tanθFが大きくなり,左フランジ72をz方向に拘束することが難しくなる。その最も極端な条件はフランジ傾斜角θF=0の場合(平板の圧延がこれに相当する。)であり,この場合にはf1=∞,f2=∞となり,左フランジ72をz方向に拘束することは全くできない。
このような理由により,中間断面材70のフランジ傾斜角θFが小さい場合には,仕上孔型圧延時に,仕上孔型K1によってフランジ72,73を安定的に拘束できないので,中間断面材70の姿勢が不安定となり,継手76,77を好適に曲げ加工できないという問題があった。
(3)最後に特許文献1に関する問題点を述べる。図14のように中間断面材70の左右の継手対76,77に対する曲げを,片側ずつそれぞれ異なる仕上孔型K1−1,K1−2を用いて行う方法は,上記(2)の問題を抱えているのに加え,中間断面材70の幅が大きくなると各仕上孔型の幅も大きくなるので,ロール胴長と圧延スタンドの数に制約がある場合に必要な孔型を配置できないという問題もある。このことは,既に上記特許文献3の[0010]段落においても指摘されており,「1本のロールに刻設する仕上げ孔型が2個必要となるため,・・・ロール胴長に制約がある場合には大きな問題」と記載されている。
本発明技術は,上記(1),(2)及び(3)のような問題点を解決しようとするものであって,非対称ハット型断面材の製造において,以下の二点を可能にすることをその目的とする。
1)被圧延材の左継手と右継手間の高低差が大きい場合でも,粗・中間孔型圧延の出側で被圧延材に曲がりを発生させることなく,まっすぐな状態で蹴出すことができ,
2)フランジ傾斜角が小さい中間断面材に対しても,仕上孔型圧延において該中間断面材の姿勢を崩すことなく,一つの仕上孔型で継手対を安定的に曲げ加工することができる。
本発明者らは,上記目的1)を達成するために,鋭意研究して,粗・中間孔型圧延の出側における曲がりの原因が,非対称断面に起因して被圧延材に発生するひずみが非対称になっていることにあることを見いだした。そこで,これを解決するために,孔型の腕圧下部を非対称ハット型断面材の腕部の方向とは異なる方向へ傾斜させることによって,非対称な継手対の高低差を縮小することが有効であるとの結論に達した。そして,さらに研究を進めた結果,粗・中間孔型の出口断面の二本の慣性主軸(広義の対称軸ということもでき,二本の慣性主軸は互いに直交している,詳細は後述する。)のうちの一方がピッチラインZに垂直な方向(即ち圧下方向y)に対して3度以内の角度になるように,言い換えれば,他方の慣性主軸がピッチラインZに対して3度以内の角度になるように,上記粗・中間孔型の腕部を傾斜させることにより,各孔型の出側において曲がりをほとんど生じさせずに被圧延材を圧延可能であるという結論に辿り着いた。
また,上記目的2)に関しては,仕上孔型によって継手に曲げ加工を加える際に,被圧延材の姿勢を崩さないようにするためには,仕上孔型に導入される被圧延材である中間断面材の腕部の傾斜角,即ち,該中間断面材を最終的に成型する仕上直前孔型の腕圧下部の傾斜角を調整することによって,該中間断面材が仕上孔型に導入されたときに,該中間断面材の継手に曲げを施す上ロール部位及び下ロール部位が,該継手に対して略同時に接触して曲げを開始するようにすればよいことを見いだした。
そこで,本発明者らは,かかる研究成果を基に,以下のような非対称ハット型断面材の製造方法に相当するに至った。
まず,上記課題を解決するために,本発明の第1の観点によれば,1又は2以上のロール対に刻設された一連の孔型を用いて,被圧延材を圧延および曲げ加工することにより,両側の腕部に非対称断面形状の継手対を有する非対称ハット型断面材を製造する方法が提供される。この非対称ハット型断面材の製造方法に用いられる上記一連の孔型のうち,上記非対称ハット型断面材を最終的に成型する仕上孔型を除く一部または全部の孔型(少なくとも仕上直前孔型を含む。)は,少なくとも片側の腕圧下部が上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向(即ち,最終的に成型される非対称ハット型断面材の腕部の方向とは異なる方向)に傾斜している。上記非対称ハット型断面材の製造方法では,まず,上記一連の孔型のうち仕上孔型を除く孔型によって上記被圧延材を圧延して中間断面材を成型し,次いで,上記仕上孔型によって上記中間断面材の継手対を曲げ加工して上記非対称ハット型断面材を成型することを特徴とする。
かかる非対称ハット型断面材の製造方法によれば,上記一連の孔型のうち仕上孔型を除く一部または全部の孔型の腕圧下部が傾斜しているため,当該一部または全部の孔型による粗・中間孔型圧延において,圧延される被圧延材の片側若しくは両側の腕部は,最終的な非対称ハット型断面材の腕部の方向とは異なる方向に傾斜した状態で圧延されることになる。このため,かかる被圧延材の腕部の端にそれぞれ設けられた一対の継手相当部(最終的には非対称な継手対となる部分)に高低差がある場合であっても,高い方の継手相当部が低くなるように,及び/又は,低い方の継手相当部が高くなるように腕部を傾斜させることによって,両継手相当部の高低差を緩和できる。従って,片側の継手相当部の圧下開始タイミングと,他側の継手相当部の圧下開始タイミングとを近づける(好ましくは略同一のタイミングとする)ことができる。よって,上記両側の継手相当部を略均等に圧下して,上記各孔型の出口断面付近における各々の伸びを同程度にできるため,被圧延材に生じるひずみ分布を被圧延材の幅方向両側で略対称にすることができる。これにより,上記各孔型の出口側における被圧延材の左右方向の曲がりの発生を抑制して,まっすぐに蹴出すことができる。
なお,上記一連の孔型のうち仕上孔型を除く一部または全部の孔型に関し,片側のみではなく両側の腕圧下部を傾斜させた方が,両継手相当部をより均等に圧下できるので,より好ましい。
また,上記一連の孔型のうち上記仕上孔型を除く一部または全部の孔型は,当該孔型の出口断面の慣性主軸の一方が圧下方向に対して3度以内の角度(−3度以上3度以下,より好ましくは約0度)をなすように,当該孔型の少なくとも片側の腕圧下部が上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜しているようにしてもよい。これにより,当該孔型の出側における被圧延材の曲がりをより好適に防止することができる。
さらに,上記中間断面材の継手を曲げ加工する上記仕上孔型の継手押圧部の上ロール部位と下ロール部位が,上記仕上孔型の入側において,上記中間断面材の少なくとも片側の継手に対して略同時に接触開始するように,上記中間断面材を最終的に成型する仕上直前孔型の少なくとも片側の腕圧下部が上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜しているようにしてもよい。
これにより,上記仕上直前孔型によって最終的に成型された中間断面材の腕部が好適に傾斜しているので,かかる中間断面材が仕上孔型に導入されるときには,各継手に対して,仕上孔型の継手押圧部の上ロールと下ロールが略同時に接触可能となる。よって,仕上孔型圧延時において,上記中間断面材の姿勢を崩すことなく,安定的に継手を曲げ加工することができる。
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,被圧延材を圧延および曲げ加工して,両側の腕部に非対称断面形状の継手対を有する非対称ハット型断面材を製造するための一連の孔型が刻設されたロール対を備えた圧延機が提供される。この圧延機において,上記一連の孔型のうち上記非対称ハット型断面材を最終的に成型する仕上孔型を除く一部または全部の孔型は,被圧延材の両側の腕部をそれぞれ圧延する一対の腕圧下部を有し,当該孔型の少なくとも片側の腕圧下部は,上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜していることを特徴とする。
また,上記仕上孔型を除く一部または全部の孔型の出口断面の慣性主軸の一方が圧下方向に対して3度以内の角度をなすように,当該孔型の少なくとも片側の腕圧下部が上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜していてもよい。
また,上記仕上孔型を除く一部または全部の孔型は,仕上孔型に導入される中間断面材を最終的に成型する仕上直前孔型であり,中間断面材の継手を曲げ加工する仕上孔型の継手押圧部の上ロール部位と下ロール部位が,仕上孔型の入側において,中間断面材の少なくとも片側の継手に対して略同時に接触開始するように,仕上直前孔型の少なくとも片側の腕圧下部が上記仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜していてもよい。
このような構成の圧延機によって,上述したような非対称ハット型断面材の製造方法を好適に実現することができる。
以上説明したように本発明によれば,非対称ハット型断面材を孔型圧延により製造するに際し,粗・中間孔型圧延の出側における被圧延材の曲がりを抑制し,まっすぐな状態で蹴出すことができる。さらに,1つの仕上孔型によって,中間断面材の姿勢を崩さずに安定的に継手の曲げ加工を行うことができる。従って,上記非対称ハット型断面材の製造能率並びに歩留を向上させることができる。
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下に,本発明の第1の実施形態にかかる非対称ハット型断面材の製造方法,およびこれに用いられる非対称ハット型断面材の製造装置について説明する。本実施形態にかかる非対称ハット型断面材の製造方法は,図7に示したような非対称ハット型断面材80を製造するために被圧延材を圧延および曲げ加工する一連の孔型のうち,粗・中間孔型圧延に用いられる一部の孔型の腕圧下部を,仕上孔型の腕圧下部とは異なる方向に傾斜させる点に特徴を有する。これにより,粗・中間孔型圧延において仕上孔型に供する中間断面材を成型する過程で被圧延材の曲がりの発生を防止し,さらに,仕上孔型圧延において中間断面材の姿勢を崩さずに継手の曲げ加工を安定的に実行できるようにして,非対称ハット型断面材80の製造作業や品質を安定化しようとするものである。
最初に,本実施形態にかかる非対称ハット型断面材80の製造装置の概略構成について説明する。本実施形態にかかる非対称ハット型断面材80の製造装置は,例えば,上記図11の例と同様に,被圧延材10を熱間圧延可能な程度の高温に加熱する加熱炉1と,例えば3つの粗圧延用孔型(第1〜第3の孔型)が刻設された二重ロール対を有する粗圧延機2と,仕上直前孔型K2を含む例えば3つの中間圧延用孔型(第4〜第6の孔型)が刻設された二重ロール対を有する中間圧延機3及び4と,例えば1つの仕上孔型K1(第7の孔型)が刻設された二重ロール対を有する仕上圧延機5と,から構成される。この第1〜第7の孔型は,上述した被圧延材を圧延および曲げ加工する一連の孔型の一例である。このうち,例えば第3〜第6の孔型(即ち,1つの粗圧延用孔型と,仕上直前孔型K2を含む3つの中間圧延用孔型)の腕圧下部が,仕上孔型K1の腕圧下部の方向(例えば水平方向)とは異なる方向に傾斜されている点が特徴である。以下では,このような腕圧下部が傾斜された孔型(以下では,「腕傾斜孔型K3」という。)および仕上孔型K1等を用いて,非対称ハット型断面材80を製造する方法について詳細に説明する。
まず,図1に基づいて,例えば図7(b)に示したような断面形状の非対称ハット型断面材80を製造する際における,粗・中間孔型圧延の態様について説明する。図1は,本実施形態にかかる腕傾斜孔型K3(例えば仕上直前孔型K2)を用いて被圧延材30を粗・中間孔型圧延する態様を示す断面図である。なお,図1では,腕傾斜孔型K3の出口断面における,該腕傾斜孔型K3及び被圧延材30の断面形状が示されている。
図1に示すように,粗圧延機2や中間圧延機3,4等の上ロール3−1と下ロール3−2に形成された腕傾斜孔型K3は,被圧延材30の中央のウェブ31を圧下するウェブ圧下部101(上側ウェブ圧下部101aと下側ウェブ圧下部101bとからなる。)と,被圧延材30の左右両側のフランジ32,33をそれぞれ圧下するフランジ圧下部102,103(上側フランジ圧下部102a,103aと下側フランジ圧下部102b,103bとからなる。)と,被圧延材30の左右両側の腕部34,35をそれぞれ圧下する腕圧下部104,105(上側腕圧下部104a,105aと下側腕圧下部104b,105bとからなる。)と,被圧延材30の左右両側の継手相当部36,37をそれぞれ圧下する継手圧下部106,107(上側継手圧下部106a,107aと下側継手圧下部106b,107bとからなる。)と,から構成されている。かかる腕傾斜孔型K3(上記第3〜第6の孔型に相当する。)は,被圧延材30を多段階にわたり徐々に圧延して,最終的には,粗・中間孔型圧延の最下流に配置される第6の孔型である仕上直前孔型K2によって,中間断面材70(図5参照)が成型される。
上記図7(b)に示したように,最終断面である非対称ハット型断面材80の左右の腕部84,85は,いずれも水平である。これに対して,図1に示すように,粗・中間孔型圧延に用いられる腕傾斜孔型K3の左右の腕圧下部104,105は,水平方向(ピッチラインZ方向,ロール軸方向)に対して所定の傾斜角θA1及びθA2だけ傾斜されている。これにより,該腕傾斜孔型K3によって圧延された被圧延材30の左右の腕部34,35も,水平方向(Z方向)に対して所定の傾斜角θA1及びθA2だけ傾斜する。
もし仮に,図2に示すように,両側の腕圧下部104’,105’が水平な従来の孔型K4を用いて,被圧延材30の腕部34,35を水平姿勢(θA1=0,θA2=0)で粗・中間孔型圧延した場合には,左継手相当部36は右継手相当部37よりもピッチラインZから遠い位置で圧延されることになる。このため,上記数式(1)で求められる投影接触弧長ldは,左継手相当部36の方が右継手相当部37よりも短くなり,上述した理由により,孔型K4の出側では右方向の曲がりが発生する。
この問題は,左右の継手相当部36,37の高低差を緩和することによって解決することができる。かかる観点から,上記高低差を緩和する手段として,本実施形態では,図1のように,相対的に高い位置にある左継手相当部36に連結された左腕部34を反時計回りにθA1だけ傾斜させて,左継手相当部36の位置を低くするとともに,相対的に低い位置にある右継手相当部37に連結された右腕部35を反時計回りにθA2だけ傾斜させて,右継手相当部37の位置を高くする。
この発明に至った経緯を含め,以下にさらに詳しく説明する。例えば,図7に示す非対称ハット型断面材80とは異なり,継手対86,87がなくウェブ81,フランジ82,83及び腕部84,85から構成される対称断面材を製造する際には,図3に示すように,粗・中間孔型圧延における被圧延材30の断面は,対称軸Yを中心として対称であり,この場合,対称軸Yを圧下方向y(例えば鉛直方向)に一致させるのが当然である。なぜなら,被圧延材30の対称軸Yを圧下方向yに一致させなければ,被圧延材30のひずみ分布が対称軸Yに関して非対称になり,孔型K5の出側で曲がりが発生するからである。
ところが非対称ハット型断面材80を製造するための粗・中間孔型圧延では,被圧延材30に上記のような対称軸Yがないため,どのような条件で圧延すれば曲がりを抑制できるのかが問題であった。本発明者らは,この問題について実験と解析を通じて,被圧延材30の出側断面(即ち孔型の出口断面)について,当該断面の慣性主軸のいずれか一方を圧下方向yに一致させるように設計すれば,圧延の出側で曲がりがほとんどなくなることを見いだした。慣性主軸は,被圧延材30が対称であればその対称軸Yに一致するものであり,具体的には以下のようなものである。
図2に示すように,孔型K4の出口断面の重心Gを通り,圧下方向yと角度α(以下「方向角」と呼称する。)で交わる軸ξについての慣性能率Iαは,次の数式(2)で表される。
ただし,数式(2)において,積分領域Sは孔型の出口断面全体であり,ηは積分領域S内の微小面積dSから軸ξまでの距離である(図2参照)。方向角αが変わると慣性能率Iαは変化し,圧下方向yに対してα=α1の角度をなす軸ξ1についてIαが最大値I1をとり,圧下方向yに対してα=α2=α1+90度の角度をなす軸ξ2についてIαが最小値I2をとるような軸ξ1,ξ2が存在する。孔型の出口断面の形状が変われば当然にα1,α2,I1及びI2の値も変化する。このような軸ξ1,ξ2は慣性主軸と呼ばれており,双方の慣性主軸ξ1,ξ2は互いに直交する。
本発明者らは,図1における腕傾斜孔型K3の出口断面の腕部傾斜角θA1及びθA2を変えることによって,上記方向角α1を変化させて孔型圧延の実験を行い,方向角α1と,腕傾斜孔型K3の出側における被圧延材30の曲がり曲率kとの関係を調べた。この時の実験条件を表1に示す。
表1に示すように,実験は12条件でおこない,被圧延材30の板厚が小さいAグループ,被圧延材30の板厚が大きいBグループに分けた。各々のグループにおいて,ウェブ31,フランジ32,33及び腕部34,35のロール隙gW,gF及びgA,ウェブ31及びフランジ32,33の傾斜角θW及びθFを固定し,腕部34,35の腕傾斜角θAを変えることによって,方向角α1を変化させて実験を行い,出側における被圧延材30の曲がり曲率kを測定した。ただし,上記のいずれについても,左腕部34の左腕傾斜角θA1と右腕部35の右腕傾斜角θA2とを同一にし(θA=θA1=θA2),左右の腕部34,35(即ち,孔型K3の腕圧下部104,105)はともに反時計回りに傾斜角θAだけ回転するように傾斜させた。上記12条件のいずれについても圧下率は約13%とした。
かかる実験結果を図4のグラフに示す。図4の縦軸の正負の符号は,図1の状態で被圧延材30の右方向への曲がりを正,左方向への曲がりを負と定義する。図4の実験結果から分かるように,方向角α1の値が大きいほど曲がり曲率kが大きく,方向角α1が3度を越えると曲がり曲率kが急激に大きくなることが分かる。腕部34,35を反時計回りに回転させて方向角α1を0に近づけると被圧延材30の曲がり曲率kが減少する理由は,左継手相当部36と右継手相当部37との高低差(即ち,ピッチラインZからの距離差)が縮まり,両者における投影接触弧長ldがほぼ等しくなり,その結果,ピッチラインZ方向のひずみ分布が,y軸に関して対称に近づくからである。
このようにして,ほとんど曲がりの発生しない状態(例えば,曲がり曲率kが10−3m−1以下,即ち,被圧延材30の長さ10mに対して曲がり量が12mm以下)で圧延するためには,方向角α1は3度以内の角度でなければならないことが判明した。なお,ここでいう「3度以内の角度」とは,方向角α1の絶対値|α1|≦3度である(即ち,方向角α1が−3度以上3度以下である)ことを意味する。
しかし,板厚の大きいBグループについては,被圧延材30の剛性が大きいので,同程度の方向角α1に対してAグループよりも曲がり小さく,従って方向角α1が±4度くらいでも問題にならない。このことは,粗・中間孔型圧延に用いられる全ての孔型について,腕部34,35の傾斜角θA1,θA2を調整して方向角α1を3度以下にする必要はなく,圧延工程の初期段階で板厚が大きい場合には,孔型(例えば,上記第1〜第2の孔型)の腕圧下部を傾斜させる必要がない(即ち,被圧延材30の腕部34,35を傾斜させる必要がない)場合もあることを示唆している。もっとも,次の図5に示す仕上孔型K1は,腕部84,85が水平な非対称ハット型断面材80を最終的に成型する孔型であるので,この仕上孔型K1の腕圧下部114,115の傾斜角は,非対称ハット型断面材80の腕部84,85の傾斜角と同一(例えば0度)にしなければならない。
このような理由に基づき,本実施形態では「一連の孔型のうち仕上孔型K1を除く一部の孔型(例えば,仕上直前孔型K2を含む上記第3〜第6の孔型)について,腕圧下部104,105を傾斜させる」構成を採用している。しかし,本発明は,かかる例に限定されず,少なくとも仕上直前孔型K2の腕圧下部104,105を傾斜させるという条件を満たせば,例えば,粗・中間孔型圧延に用いられる全ての孔型(つまり,一連の孔型のうち仕上孔型K1を除く全ての孔型)の腕圧下部104,105を同一若しくは異なる傾斜角θAで傾斜させてもよいし,或いは,粗・中間孔型圧延に用いられる上記仕上孔型K1以外の一部の孔型(仕上直前孔型K2を含む。)の腕圧下部104,105を,同一若しくは異なる傾斜角θAで傾斜させてもよい。
次に,図5に基づいて,本実施形態にかかる仕上孔型圧延の態様について説明する。図5は,本実施形態にかかる仕上孔型K1を用いて,中間断面材70(即ち,上記仕上直前孔型K2により被圧延材30を圧延して成型された断面材)を仕上孔型圧延する態様を示す断面図である。なお,図5では,仕上孔型K1を構成する上下ロール対5−1,5−2によって,中間断面材70の継手対76,77に対する曲げが始まる瞬間を示している。
図5に示すように,例えば仕上圧延機5の上ロール5−1と下ロール5−2に形成された仕上孔型K1は,中間断面材70の中央のウェブ71を圧下するウェブ圧下部111(上側ウェブ圧下部111aと下側ウェブ圧下部111bとからなる。)と,中間断面材70の左右両側のフランジ72,73をそれぞれ圧下するフランジ圧下部112,113(上側フランジ圧下部112a,113aと下側フランジ圧下部112b,113bとからなる。)と,中間断面材70の左右両側の腕部74,75をそれぞれ圧下する腕圧下部114,115(上側腕圧下部114a,115aと下側腕圧下部114b,115bとからなる。)と,中間断面材70の左右両側の継手76,77をそれぞれ曲げ加工する継手押圧部116,117(上側継手押圧部116a,117aと下側継手押圧部116b,117bとからなる。)と,から構成されている。
この仕上孔型K1の腕圧下部114,115は,上記腕傾斜孔型K3の腕圧下部104,105が傾斜されているのとは異なり,最終断面である非対称ハット型断面材80の水平な腕部84,85に合わせて,ピッチラインZに対して平行となっている。また,この仕上孔型K1の継手押圧部116,117は,仕上孔型K1の入側から出側にかけてロール隙が狭まるにつれ,中間断面材70の継手76,77を押圧して曲げ加工できるような湾曲断面形状を有している。かかる仕上孔型K1は,中間断面材70の継手76,77を曲げ加工して,非対称ハット型断面材80を最終的に成型する。なお,この仕上孔型圧延時には,曲げ加工だけでなく,上記ウェブ圧下部111,フランジ圧下部112,113,及び腕圧下部114,115によって,中間断面材80の板厚が数%の圧下率でごく軽く圧延される。
かかる仕上孔型K1に導入される中間断面材70の腕部74,75は,上述した仕上直前孔型K2等を含む腕傾斜孔型K3の腕圧下部104,105が傾斜しているために,ピッチラインZに対してそれぞれθA1,θA2だけ傾斜した形状となっている。
詳細には,上述した粗・中間孔型圧延に用いられる腕傾斜孔型K3のうち少なくとも仕上直前孔型K2に関しては,仕上孔型圧延時に,仕上孔型K1の入側において仕上孔型K1の継手押圧部116または117の上ロール部位(上側継手押圧部116aまたは117a)と下ロール部位(下側継手押圧部116bまたは117b)とが,中間断面材70の継手76または77に対して略同時に接触開始するように,仕上直前孔型K2の腕圧下部104,105が傾斜している。このため,かかる仕上直前孔型K2によって成型された中間断面材70の腕部74,75も同様に傾斜している。この結果,仕上孔型K1の入側において仕上孔型K1の継手押圧部116または117の上ロール部位と下ロール部位とが,中間断面材70の継手76または77に対して略同時に接触開始できるようになる。
なお,ここでいう「略同時」とは,時間的に厳密な一時点を意味するものではなく,中間断面材70が姿勢を崩さない程度の微細な時間ずれ幅ならば,「略同時」である。例えば図5において,中間断面材70の左継手76に対して,上側継手押圧部116aが該左継手76の上端部76aに接触するよりも先に,下側継手押圧部116bが下端部76bに対して接触開始する場合を想定する。この場合において,上記左継手76は下ロール5−2によって持ち上げられて中間断面材70の姿勢は崩れ始めるが,このとき該中間断面材70が右方向に滑らないうちに,上側継手押圧部116aが上端部76aに接触開始すればよく,この場合を想定して「略同時」という。
この同時接触について,より具体的に説明する。図5に示すように,仕上孔型圧延時には,中間断面材70の左継手76に関しては,仕上孔型K1の上ロール5−1に形成された上側継手押圧部116aが左継手76の上端部76aに対して接触すると同時に,下ロール5−2に形成された下側継手押圧部116bが左継手76の下端部76bに対して接触し,曲げ加工が開始する。また,右継手77に関しても同様に,上ロール5−1に形成された上側継手押圧部117aが,右継手77の上端部77aに対して接触すると同時に,下ロール5−2に形成された下側継手押圧部117bが右継手77の下端部77bに対して接触し,曲げ加工が開始する。
このように曲げ加工が開始される瞬間においては,中間断面材70のウェブ71,フランジ72,73及び腕部74,75が上下ロール対5−1,5−2によって拘束されている必要はない。その後,仕上孔型K1の出口に向かって次第にロール隙が閉じていき,中間断面材70の姿勢を崩すことなく,継手押圧部116,117によって継手76,77を図5の矢印の方向に回転させて好適に曲げることができる。
これに対し,図6は,比較例として,腕部74,75が水平な中間断面材70の継手76,77を曲げ加工する際に,中間断面材70の姿勢を崩してしまう場合を示す断面図である。即ち,中間断面材70の腕74,75を傾斜させない場合(θA1=θA2=0)には,該中間断面材70を仕上孔型K1へ導入すると,図6(a)に示すように,中間断面材70の左継手76に対して,上ロール5−1の上側継手押圧部116aの方が下ロール5−2の下側継手押圧部116bよりも早く接触してしまう。或いは,右継手77に対して,下ロール5−2の下側継手押圧部117bの方が上ロール5−1の上側継手押圧部117aよりも早く接触してしまう。この結果,上ロール5−1の上側継手押圧部116aが左継手76の上端部76aを先に押し下げることによって,或いは,下ロール5−2の下側継手押圧部117bが右継手77の下端部77bを先に押し上げることによって,中間断面材70は反時計回りに回転し,その姿勢が崩れてしまう。そして次の瞬間には,図6(b)に示すように,C及びDと表した箇所で左フランジ72および右フランジ73が押し下げられて中間断面材70はますます姿勢を崩しながら,継手対76,77の曲げ加工が行われる。このため,継手76,77の曲げが安定な状態で行われず,目的とする非対称ハット型断面材80の断面形状が得られない恐れがある。
これに対し,本実施形態における仕上圧延では,上記図5のように,左継手76に対して,仕上孔型K1の上側継手押圧部116aと下側継手押圧部116bとが略同時に接触し,かつ,右継手77に対して,仕上孔型K1の上側継手押圧部117aと,下側継手押圧部117bとが略同時に接触するため,仕上孔型K1の入側で中間断面材70が姿勢を崩すことがない。従って,安定して各継手76,77を曲げ加工して,目的とする断面形状の非対称ハット型断面材80を高精度で成型することができる。
なお,継手対76,77を曲げる際に中間断面材70の姿勢を崩さないためには,(1)左継手76に対して上ロール5−1の上側継手押圧部116aと下ロール5−2の下側継手押圧部116bとが略同時に接触して曲げを開始し,(2)右継手77に対して上ロール5−1の上側継手押圧部117aと下ロール5−2の下側継手押圧部117bとが略同時に接触して曲げを開始すれば十分であり,この(1)と(2)は必ずしも同時に起こらなくても構わない。このような条件になるように,仕上直前孔型K2の形状を設計し,中間断面材70の腕部74,75を傾斜させる。
次に,本発明のより具体的な実施例について説明する。上述したような本発明技術を適用して,図7に示す幅W=940mmの非対称ハット型断面材80を粗・中間孔型圧延及び仕上孔型圧延を経由して製造した。図11に示したような製造工程において,スラブである被圧延材10の断面形状は,幅1000mm×板厚250mmの矩形であり,製造に用いた粗圧延機2,中間圧延機3及び4,仕上圧延機5は全て二重逆転式圧延機である。
まず,粗圧延機2の上下ロール対に配設された3つの粗圧延用孔型(最後の孔型は本発明の特徴である腕傾斜孔型K3である。)によって,被圧延材10を圧延して粗形断面材20を成型した。続いて,中間圧延機3,4に配設された計3つの中間圧延用孔型(いずれの中間圧延用孔型も腕傾斜孔型K3であり,最後の中間圧延用孔型は仕上直前孔型K2である。)によって,上記粗形断面材20をさらに圧延して中間断面材70を成型した。さらに,仕上圧延機5に配置された仕上孔型K1によって,中間断面材70を曲げ加工などして,最終断面である非対称ハット型断面材80を成型した。このように製造された非対称ハット型断面材80の板厚については,ウェブ81の厚さtW=11.0mm,フランジ82,83の厚さtF=7.5mm,腕部84,85の厚さtA=11.0mmであった。
非対称ハット型断面材80の腕部84,85は傾斜しておらず水平であるが,中間圧延機3,4に配置した三つの中間圧延用孔型についてはいずれも,腕圧下部104,105を傾斜させ,その腕傾斜角θA=7度とした。このうち仕上直前孔型K2についてその他寸法諸元を述べると,ロール隙についてはウェブ部gW=11.2mm,フランジ部gF=7.7mm,腕部gA=11.2mm,また傾斜角はウェブ部θW=1度,フランジ部θF=48度であった。粗圧延機2の1つの粗圧延用孔型,および中間圧延機3,4の3つの中間圧延用孔型を上記腕傾斜孔型K3として,被圧延材30の腕部34,35をθA=7度傾斜させた結果,慣性主軸ξ1の方向角はα1=0〜0.5度の範囲にあり,この4つのいずれの孔型についても,被圧延材30は圧延の出側で曲がることなく蹴出された。
また,上記実施例における仕上直前孔型K2で圧延された中間断面材70が仕上孔型K1に導入されるときには,図5に示したように,左継手76に対して上下ロール5−1,5−2が同時に接触,かつ右継手77に対しても上下ロール5−1,5−2が同時に接触するような条件下で行われた。仕上孔型K1のロール隙は,ウェブ部gW=11.1mm,フランジ部gF=7.6mm,腕部gA=11.1mm,また傾斜角はウェブ部θW=0度,フランジ部θF=48度,腕部θA=0度であった。
上記のように仕上直前孔型K2および仕上孔型K1を構成することにより,中間断面材70の継手対76,77の曲げ開始の瞬間は,フランジ72,73が仕上孔型K1により拘束されない条件であるにもかかわらず,該中間断面材70が姿勢を崩さず,該継手対76,77の曲げ加工が安定的に行われ,最終断面である非対称ハット型断面材80を高精度で製造できた。
さらに,本実施形態では,上記特許文献1に記載のように複数の仕上孔型K1−1,K1−2を設ける必要がなく,1つの仕上孔型K1のみで中間断面材70の継手76,77を安定して曲げ加工することができる。よって,ロール胴長と圧延スタンドの数に制約がある場合であっても,上記1つの仕上孔型K1のみを配設すれば済むので,当該制約に対応可能である。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,上記実施形態では,各腕傾斜孔型K3の左右両側の腕圧下部104及び105を,同一の傾斜角θA(θA1=θA2)で傾斜させた。これにより,被圧延材30の両側の腕部34,35に関し圧下率及び板厚を略同一にできるので好ましい。しかし,本発明は,かかる例に限定されず,例えば,腕傾斜孔型K3のいずれか一方の腕圧下部104または105のみを傾斜させてもよい(例えば,θA1=7度,θA2=0度)。また,一方の腕圧下部104と他方の腕圧下部105とを,相互に異なる傾斜角θAで傾斜させてもよい(例えば,θA1=7度,θA2=5度)。
また,一連の腕傾斜孔型K3相互の間で,それぞれの腕圧下部104,105の傾斜角θAを異ならせてもよい。例えば,粗圧延から中間圧延にかけて圧延が進行し,被圧延材30の板厚が薄くなるにつれて,各腕傾斜孔型K3の腕圧下部104,105の傾斜角θAを徐々に増加させるようにしてもよい。
また,腕傾斜孔型K3の腕圧下部104,105を傾斜させるに際しては,上記実施形態のように,直線的な断面形状で傾斜させる例に限定されず,例えば,湾曲した断面形状,若しくは凹凸のある断面形状など任意の形状で傾斜させてもよい。
また,上記実施形態では,仕上直前孔型K2は,中間圧延機4のロール対4−1,4−2に設けられたが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,仕上直前孔型K2は,仕上圧延用孔型の1つとして,仕上圧延機5のロール対5−1,5−2に設けられてもよい。さらに,この場合,仕上直前孔型K2と仕上孔型K1とは,仕上圧延機5の同一のロール対5−1,5−2に並列して形成されてもよい。
また,非対称ハット型断面材80の製造装置において,圧延機の設置数や機能分担は,上記実施形態のような圧延機2,3,4,5の例に限定されず,多様に設計変更可能である。また,各圧延機の各ロール対には,1つの孔型のみを設けてもよいし,或いは,複数の孔型を設けてもよい。
また,上記非対称ハット型断面材80は,矢板として利用されるものだけでなく,建材など,他のあらゆる部材に利用されるものであってもよい。また,上記非対称ハット型断面材80の材質は,鋼のみならず他の金属などであってもよい。さらに,非対称ハット型断面材80の断面形状は,図7に示した形状の例に限定されず,両側の腕部84,85に非対称な継手対86,87を有するものであれば,任意の形状であってよく,例えば,ウェブ81及びフランジ82,83が円滑に湾曲した略U字形断面形状などであってもよい。
また,上記実施形態では,慣性能率Iαが最大となるような慣性主軸ξ1が圧下方向yに対して3度以内となるように腕傾斜孔型K3を設計したが,本発明はかかる例に限定されない。被圧延材の断面形状によっては,例えば,圧延が可能であるならば,慣性能率Iαが最小となるような慣性主軸ξ2が圧下方向yに対して3度以内となるように腕傾斜孔型K3を設計してもよい。
本発明は,鋼矢板等として利用される非対称ハット型断面材の製造方法,およびこれに用いられる圧延機に適用可能である。
本発明の第1の実施形態にかかる腕傾斜孔型を用いて,被圧延材を粗・中間孔型圧延する態様を示す断面図である。
腕圧下部が水平な従来の孔型を用いて,被圧延材を粗・中間孔型圧延する態様を示す断面図である。
対称断面材を粗・中間孔型圧延する態様を示す断面図である。
被圧延材の慣性主軸の一つと圧下方向のなす方向角α1と,圧延出側での被圧延材の曲がり曲率kとの関係を求める実験結果を示すグラフである。
本発明の第1の実施形態にかかる仕上孔型を用いて,中間断面材を仕上孔型圧延する態様を示す断面図である。
中間断面材の腕部が傾斜していない場合に,仕上孔型の入口で中間断面材の姿勢が崩れる態様を示す断面図である。(a)は仕上孔型が最初に継手に接触する瞬間を示し,(b)はその後中間断面材の姿勢が崩れた状態を示す。
本発明の第1の実施形態の製造対象である非対称ハット型断面材を例示した説明図である。
図7(a)及び(b)の非対称ハット型断面材を用いて構成された鋼矢板壁を例示した説明図である。
非対称U型断面材を例示した説明図である。
対称U型断面材を例示した説明図である。
鋼製の対称U型断面材を例にあげて,その熱間圧延工程を例示した説明図である。
鋼製の対称U型断面材を例にあげて,その熱間圧延工程における被圧延材の断面形状の推移を示した説明図である。
非対称ハット型断面材の従来の仕上孔型圧延において,中間断面材の継手対に対して曲げを施す直前にフランジを拘束する方法(特許文献2)を示した説明図である。(a)は仕上孔型によるフランジ部の拘束の瞬間,(b)は左継手の曲げ開始の瞬間,(c)は右継手の曲げ開始の瞬間を示す。
非対称ハット型断面材の従来の仕上孔型圧延において,仕上孔型圧延を二つの仕上孔型によって行う方法(特許文献1)を示した説明図である。
非対称ハット型断面材の従来の仕上孔型圧延において,中間断面材と仕上孔型の両者の全幅,左右フランジの交叉角及び継手外側面角を適正範囲にする方法(特許文献3)を示した説明図である。
継手の形状が簡略化された非対称ハット型断面材を孔型圧延する態様を示す説明図である。
被圧延材を異径ロール圧延する態様を示す側面図である。
フランジ傾斜角の大小に応じて,孔型によるフランジの拘束状態が異なることを説明するための説明図である。
符号の説明
1:加熱炉
2:粗圧延機
3,4:中間圧延機
5:仕上圧延機
3−1,3−2:粗・中間圧延機の上下ロール対
5−1,5−2:仕上圧延機の上下ロール対
10:素材である被圧延材
20:粗形断面材
30:粗・中間孔型圧延における被圧延材
31:粗・中間孔型圧延における被圧延材のウェブ
32,33:粗・中間孔型圧延における被圧延材のフランジ
34,35:粗・中間孔型圧延における被圧延材の腕部
36,37:粗・中間孔型圧延における被圧延材の継手相当部
70:中間断面材
71:中間断面材のウェブ
72,73:中間断面材のフランジ
74,75:中間断面材の腕部
76,77:中間断面材の継手対
80:非対称ハット型断面材
81:非対称ハット型断面材のウェブ
82,83:非対称ハット型断面材のフランジ
84,85:非対称ハット型断面材の腕部
86,87:非対称ハット型断面材の継手対
101:腕傾斜孔型のウェブ圧下部
102,103:腕傾斜孔型のフランジ圧下部
104,105:腕傾斜孔型の腕圧下部
106,107:腕傾斜孔型の継手圧下部
111:仕上孔型のウェブ圧下部
112,113:仕上孔型のフランジ圧下部
114,115:仕上孔型の腕圧下部
116,117:仕上孔型の継手押圧部
K1:仕上孔型
K2:仕上直前孔型
K3:腕傾斜孔型
θA:腕傾斜孔型の腕圧下部の傾斜角
ξ1,ξ2:慣性主軸
α1:慣性主軸ξ1と圧下方向とのなす角(方向角)