JP4461210B2 - 抗体発現系とその構築法 - Google Patents
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Description
本発明は一般に分子生物学及びタンパク質技術の分野に関する。より詳細には、本発明は組換え生産された抗体とその用途に関する。
近年、様々な疾患及び疾病の診断及び治療薬として抗体の使用が益々有望視されている。多くの研究及び臨床への応用には多量の機能性抗体又は抗体断片が必要であり、抗体を生産するためのスケールアップされているが経済的な系が求められている。特に有用なものは、大腸菌又は枯草菌のような原核生物から酵母、植物、昆虫細胞及び哺乳動物細胞までの範囲にわたる様々な発現宿主を使用する抗体の組換え生産である。Kipriyanov及びLittle (1999) Mol. Biotech. 12:173-201。
Opper等の米国特許第6008023号は、標的とされる腫瘍治療で使用される酵素と抗体断片(例えばFabs)が融合している大腸菌細胞質発現系を記述している。Zemel-Dreasen等 (1984) Gene 27:315-322は大腸菌中での抗体軽鎖の分泌とプロセシングを報告している。Lo等のPCT公報WO93/07896はその重鎖にCH2領域を欠いている四量体抗体の大腸菌生産を報告している。軽鎖とCH2欠失重鎖をコードしている遺伝子が、一つの単一プロモーターの調節下で同じ発現ベクター中に構築されている。
多くの生物学的アッセイ(例えばX線構造結晶解析)及び臨床への応用(例えばタンパク質療法)には多量の抗体を必要とする。従って、適切に組み合わされた可溶性で機能的な抗体を製造するための高収量であるが単純な系に対する必要性が存在している。
本発明は、原核生物又は真核生物宿主細胞のような宿主細胞中で機能的な抗体又は抗体断片を組換え的に製造するための新規な方法と組成物を提供する。一実施態様では、本発明は、原核生物細胞のような宿主細胞中で抗体の軽鎖と重鎖の発現を時間的に分け、それによって組み合わされる機能的な抗体分子の収量を増大させる方法を提供する。特に、本方法は、宿主細胞を、軽鎖及び重鎖をそれぞれコードしている二つの別個の翻訳単位で形質転換し;軽鎖と重鎖が逐次的な形で発現される好適な条件下で細胞を培養して、軽鎖と重鎖の生産を時間的に分け;軽鎖と重鎖を集めて機能的抗体又はその断片にすることを含む。好適な一側面では、軽鎖と重鎖の時間的に分けた発現は、軽鎖と重鎖を別個に調節する二つの異なったプロモーターを用いて達成され、ここで異なったプロモーターは異なった条件下で活性化される。例えば、軽鎖と重鎖をコードしているDNAsを、一つのプラスミドベクター中ではあるが、それぞれが異なったプロモーターで調節される二つの翻訳単位中に導入することができる。一方のプロモーター(例えば第一のプロモーター)は構成的であるか誘導性であり得、他方のプロモーター(例えば第二のプロモーター)は誘導性である。従って、そのようなベクターで形質転換した宿主細胞を、一方のプロモーター(例えば第一のプロモーター)を活性化させるのに適した条件下で培養すると、一方の鎖のみ(例えば軽鎖)が発現される。ついで、第一の鎖(例えば軽鎖)の発現の所望期間後に、培養条件を、他方のプロモーター(例えば第二のプロモーター)の活性化に適したものに変え、それによって第二の鎖(例えば重鎖)の発現を誘導する。好適な一実施態様では、軽鎖が最初に発現され、重鎖が続く。他の実施態様では、重鎖が最初に発現され、軽鎖が続く。
多くの原核生物及び真核生物種を、本発明に係る抗体発現のための宿主として使用することができる。好ましくは、原核生物宿主はグラム陰性菌である。より好ましくは、宿主は大腸菌である。一側面では、宿主細胞は異種タンパク質を多量に生産するのに適した遺伝子改変大腸菌株である。例えば、宿主細胞は、プロテアーゼのための突然変異遺伝子、及びdsb遺伝子の余分なコピーを含む大腸菌株でありうる。多くの既知のプロモーターは、構成的であれ誘導性であれ、それらが他のプロモーターと組み合わせて効率的に使用できる限り、本発明での使用に適している。
また考えられるのはここに記載された方法によって作成された抗体の様々な診断及び治療的使用である。一治療的応用では、組換え的に作成された抗体又はその断片が治療において他の治療剤と組み合わせて使用される。
本発明の主要な実施態様は、大腸菌発酵系のような宿主細胞系での適切に構築された可溶型抗体の収量が、軽鎖の発現と重鎖の発現の誘導を時間的に分けることによって劇的に増大させることができるという驚くべき発見に基づいている。一方の鎖(例えば軽鎖)が、第二の鎖(例えば重鎖)の誘導前に発現された新規な組換え系を用いて、軽鎖と重鎖が同時に発現された比較系に対して構築抗体力価の約2倍の改善が達成された。
抗体は、軽鎖と重鎖をコードしている遺伝子が単一プロモーターの調節下にあるジシストロン性ベクターを使用して、大腸菌のような宿主細胞中で常套的に生産した。プロモーターの活性化に適した培養条件下で、軽鎖遺伝子と重鎖遺伝子の両方が同時に発現される。例えば、Carter等 (1992) Bio/Technology 10:163-167は、ホスフェート飢餓によって誘導可能である単一大腸菌phoAプロモーターの調節下での軽鎖及び重鎖断片のジシストロン性オペロンを記述している。各抗体鎖の前には、分泌を細胞膜周辺腔へ指令する大腸菌熱安定エンテロトキシンII(stII)シグナル配列がある。このベクターを用いて所定の抗体の生産を実施すると、特に軽鎖と重鎖の両方の発現レベルが高い場合、有意な量の個々の鎖分子は凝集し、可溶性で機能的な抗体には構築できなかった。(軽鎖と重鎖の両方の発現に対して単一のプロモーターを有する)ジシストロン性ベクターにおける凝集の問題は以下に記載する実施例で更に例証する。
本発明の時間的に分離した発現系は主として抗体とその断片の生産によって例証するが、ここに記載されたアプローチ法は、複数のタンパク質単位/鎖を製造し、中間体又は最終タンパク質複合体が機能的であるために個々の単位/鎖の適切な組立てを必要とする任意の系に適用可能である。このアプローチ法は免疫グロブリン様ドメインを含むタンパク質複合体、例えば抗体、T細胞レセプター、クラスI及びクラスII MHC分子、インテグリン、CD8及びCD28分子、並びにその関連断片、誘導体、変異体及び融合タンパク質の生産に特に有用である。
「抗体」という用語は最も広義で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)、およびそれらが所望の生物学的活性を示す限り抗体断片を含む。天然に生じる抗体は、2つの同一の重(H)鎖とジスルヒド結合によって相互連結された2つの同一の軽(L)鎖である4つのポリペプチド鎖を含む。各重鎖は重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域からなり、これはその天然型ではCH1、CH2、CH3の3つのドメインからなっている。各軽鎖は軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域はCLの一つのドメインからなる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる高頻度可変領域に更に細かく分類できる。各VH及びVLは、次の順序でアミノ末端からカルボキシ末端までに配された3つのCDRsと4つのFRsからなる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
任意の脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つの明確に区別されるタイプの一つに割り当てることができる。
抗体は、一又は他のタンパク質又はペプチドと抗体又は抗体断片の共有又は非共有結合により形成されたより大きな融合分子の一部であってもよい。そのような融合タンパク質の例には、四量体scFv分子の作製のためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov等, (1995) Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)及び二価でビオチン標識されたscFv分子の作製のためのシステイン残基、マーカーペプチド及びC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov,S.M.等 (1994) Mol. Immunol. 31:1047-1058)が含まれる。
ここで、モノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から誘導された又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同であるが、鎖の残りが他の種から誘導された又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同である抗体、並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限りにおいてそれらの抗体の断片である「キメラ」抗体を含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 (1984))。
「抗体アゴニスト」はレセプターのような抗原に結合しこれを活性化させる抗体である。一般に、アゴニスト抗体のレセプター活性化能はレセプターの天然アゴニストリガンドと少なくとも定性的に類似している(また本質的に定量的に類似している)。
本発明は任意の適切な抗原結合特異性を有する抗体又は抗体断片に適用できる。好ましくは、本発明の抗体は、生物学的に重要なポリペプチドである抗原に特異的である。より好ましくは、本発明の抗体は哺乳動物の疾病又は疾患の治療又は診断に有用である。本発明によって得られる抗体又は抗体断片は、阻止抗体、抗体アゴニスト又は抗体抱合体のような治療剤として特に有用である。治療用抗体の非限定的な例には、抗VEGF、抗IgE、抗CD11、抗CD18、抗組織因子及び抗TrkC抗体が含まれる。非ポリペプチド抗原(例えば腫瘍関連糖脂質抗原)に対する抗体もまた考えられる。
本発明の抗体は、単一特異的、二重特異的、三重特異的又は更に高次の多重特異的なものでありうる。多重特異的抗体は単一の分子の異なったエピトープに特異的であるか又は異なった分子のエピトープに特異的でありうる。多重特異的抗体を設計し作製する方法は当該分野において知られている。例えば、Millstein等 (1983) Nature 305:537-539; Kostelny等 (1992) J. Immunol. 148:1547-1553;国際公開93/17715を参照のこと。
本発明は抗体又は抗体断片の原核生物又は真核生物での生産を考慮している。多くの形態の抗体断片が従来から知られ、ここに包含される。「抗体断片」は、一般には無傷の抗体の抗原結合部位を含み、よって抗原に結合する能力を保持している無傷の抗体の一部のみを含む。本定義に包含される抗体断片の例には、(i)VL、CL、VH及びCH1ドメインを持つFab断片;(ii)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基を持つFab断片であるFab'断片;(iii)VH及びCH1ドメインを持つFd断片;(iv)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基とVH及びCH1ドメインを持つFd'断片;(v)抗体の単一アームのVL及びVHドメインを持つFv断片;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Ward等, Nature 341, 544-546 (1989));(vii)単離されたCDR領域;(viii)ヒンジ領域がジスルフィド架橋によって結合された2つのFab'断片を含む二価断片であるF(ab')2断片;(ix)単鎖抗体分子(例えば単鎖Fv;scFv)(Bird等, Science 242:423-426 (1988);及びHuston等, PNAS (USA) 85:5879-5883 (1988));(x)同一のポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を持つ「ダイアボディ(diabodies)」(例えば、EP404097;国際公開93/11161;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);(xi)相補的軽鎖ポリペプチドと共に抗原結合領域対を形成するタンデムFdセグメント対(VH-CH1-VH-CH1)を含む「線形抗体」(Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995);及び米国特許第5641870号)が含まれる。
「ロイシンジッパー」は、それが二つのDNA結合ドメインを、転写エンハンサー配列への結合のために適切な近位に配するように作用する、多くの真核生物転写因子中に見出されるタンパク質二量体化モチーフである。ロイシンジッパーの二量体化は、高次螺旋ねじれに互いに巻かれた一対のαヘリックスを持つ、短い平行なコイルドコイルの形成を介して生じる。Zhu等, (2000) J. Mol. Biol. 300:1377-1387。7番目の位置毎にロイシンが優先しているために「ロイシンジッパー」と呼ばれるこれらのコイルドコイル構造は、抗体を含む他のタンパク質において二量体化装置としても使用されている。Hu等 (1990) Science 250:1400-1403;Blondel及びBedouelle (1991) Protein Eng. 4:457。ロイシンジッパーの幾つかの種は二量体及び四量体抗体コンストラクトに特に有用であるものとして特定されている。Pluckthun及びPack (1997) Immunotech. 3:83-105;Kostelny等 (1992) J. Immunol. 148:1547-1553。
抗体又はその断片のアミノ酸配列修飾(群)が考えられる。例えば、結合親和性及び/又は抗体の他の生物学的活性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体の核酸中に適切なヌクレオチド変化を導入するか又はペプチド合成によって調製される。そのような修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列からの残基の欠失、及び/又はアミノ酸配列中への残基の挿入、及び/又は残基の置換が含まれる。欠失、挿入及び置換の任意の組合せを施して、最終コンストラクトが所望の特性を有すると仮定して、最終コンストラクトが得られる。アミノ酸変更は配列が作製されるときに主題の抗体アミノ酸配列に導入されうる。
突然変異誘発に適した好ましい位置にある抗体の所定の残基又は領域の同定のために有用な方法は、Cunningham及びWells (1989) Science 244: 1081-1085に記載されているように「アラニンスキャンニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、残基又は標的残基の群は、同定され(例えば、arg, asp, his, lys,及びglu等の荷電残基)、中性又は負に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラリン)によって置き換えられ、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を及ぼす。ついで置換に対する機能的感受性を証明するこれらのアミノ酸の位置は、置換部位において又は置換部位に対して更なる又は他の変異を導入することにより精密にされる。しかして、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決める必要はない。例えば、与えられた部位における突然変異の性能を分析するために、alaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を標的コドン又は領域で実施し、発現された抗体を所望の活性についてスクリーニングする。
他の型の変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体分子中の少なくとも一つのアミノ酸残基が異なる残基で置き換えられる。置換突然変異誘発に対して最も関心ある部位は高頻度可変領域を含むが、FR変化もまた考慮される。保存的置換は、「好適な置換」と題して表1に示す。かかる置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、表1に「置換例」と名前を付けられ、又はアミノ酸クラスを参照して以下に更に記載される、多くの実質的な変化を導入し、生成物をスクリーニングしてよい。
(1)疎水性:ノルロイシン, met, ala, val, leu, ile;
(2)中性親水性:cys, ser, thr;
(3)酸性:asp, glu;
(4)塩基性:asn, gln, his, lys, arg;
(5)鎖配向に影響する残基:gly, pro; 及び
(6)芳香族:trp, tyr, phe。
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類のものに交換することが必要であろう。
抗体の適切な立体配置の維持に関与しない任意のシステイン残基は、一般にセリンで、置換し、分子の酸化的安定性を向上させて異常な架橋を防止する。逆に、抗体にシステイン結合を付加して、その安定性を向上させてもよい。
本発明の抗体のFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を導入し、よってFc領域変異体を産生するのが望ましい場合がある。Fc領域変異体は一又は複数のアミノ酸位置においてアミノ酸修飾(例えば置換)を有するヒトFc領域配列(例えばヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4Fc領域)を持ちうる。
例えば、Fc領域変異体はFcγRIへの減少した結合性を示し得、Fc領域のアミノ酸位置238、265、269、270、327又は329の任意の一又は複数においてアミノ酸修飾を含み、ここでFc領域の残基の番号付けはKabatにおけるEUインデックスのものである。
Fc領域変異体はFcγRIIへの減少した結合性を示し得、Fc領域のアミノ酸位置238、265、269、270、292、294、295、298、303、324、327、329、333、335、338、373、376、414、416、419、435、438又は439の一又は複数においてアミノ酸修飾を含み得、ここでFc領域の残基の番号付けはKabatにおけるEUインデックスのものである。
改変された(すなわち改善されたか減少させられた)C1q結合性及び/又は補体依存性細胞障害性(CDC)を持つFc領域変異体は国際公開第99/51642号に記載されている。そのような変異体はFc領域のアミノ酸位置270、322、326、327、329、331、333又は334の一又は複数においてのアミノ酸置換を含みうる。Fc領域変異体については、Duncan及びWinter Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5648260号;米国特許第5624821号;及び国際公開第94/29351号をまた参照のこと。
「ヒト抗体」は、ヒトにより作られた抗体のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列を有するもの及び/又はここで記載されるヒト抗体を作製する技術の任意のものを使用して、作製されたものである。このヒト抗体の定義は、特に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除く。
本発明はヒト抗体及びヒト化抗体の両方を包含する。非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大部分において、ヒト化抗体は、そのレシピエントの高頻度可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種の高頻度可変領域(ドナー抗体)に由来する所望の特異性、親和性及び能力を持つ残基で置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合は、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基で置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は、抗体の性能を更に精密にするために施される。一般に、ヒト化抗体は、高頻度可変ループの全て又は実質上全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FRsの全て又は実質上全てがヒト免疫グロブリン配列のものである少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全部を含有するであろう。また場合によっては、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含むであろう。更なる詳細については、Jones等, Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。また次の総説文献とそこで引用されている文献を参照のこと:Vaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994)。
非ヒト抗体のヒト化方法は、この分野で周知である。例えばヒト化は、本質的にはWinter及び共同研究者等の方法(Jones等 (1986) Nature 321:522-525; Riechmann等 (1988) Nature 332:323-327; Verhoeyen等 (1988) Science 239: 1534-1536)に従って、高頻度可変領域配列をヒト抗体の対応する配列に置換することにより行われ得る。従って、そのような「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4816567号)、そこでは実質的に無傷のヒト可変領域未満の部分が非ヒト種に由来する対応する配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾つかの高頻度可変領域残基と場合によっては幾つかのFR残基が、齧歯類抗体の類似部位に由来する残基によって置換されたヒト抗体である。
抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持させた状態でヒト化することが更に重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが購入可能である。これらのディスプレイを見ると、候補免疫グロブリン配列の機能化における残基の可能な役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性の増大のような、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般に、高頻度可変領域残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
本発明の抗体及び抗体変異体は当該分野において知られ直ぐに利用できる更なる非タンパク質性部分を含むように更に修飾することができる。誘導体化は抗体又はその断片の生物学的性質を改善し又は回復させるのに特に有用である。例えば、抗体断片のPEG修飾は安定性、インビボでの循環半減期、結合親和性、溶解度及びタンパク質分解に対する耐性を改変しうる。
好ましくは、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーかランダムコポリマー)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは水中におけるその安定性のために製造の際に有利であろう。ポリマーは任意の分子量であってよく、分枝状でも非分枝状でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、一を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じでも異なった分子でもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されるものではないが、定まった条件下での治療に使用されるかどうか、改善される抗体の特定の性質又は機能を含む考慮事項に基づいて決定することができる。
ベクター構築
ここで使用される「ベクター」という用語は、それが結合している他の核酸を輸送することのできる核酸分子を意味するものである。一つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは付加的なDNAセグメントが結合されうる円形の二重鎖DNAループを意味する。他の型のベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノムへ結合させうる。所定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内において自己複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクターとエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製する。更に、所定のベクターは、それらが作用可能に結合している遺伝子の発現を指令し得る。このようなベクターはここでは「組換え発現ベクター」(又は単に「組換えベクター」)と呼ぶ。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターはしばしばプラスミドの形をとる。本明細書では、プラスミドが最も広く使用されているベクターの形態であるので、「プラスミド」と「ベクター」を相互交換可能に使用する場合が多い。
ここで使用されるところの「翻訳開始領域」又はTIRは対象の遺伝子の翻訳開始の効率をもたらす核酸領域を意味する。一般に、特定の翻訳単位内のTIRはリボソーム結合部位(RBS)及びRBSの5'及び3'配列を包含する。RBSは、最低限、シャインダルガーノ領域と開始コドン(AUG)を含むものと定義される。従って、TIRは翻訳される核酸配列の少なくとも一部をまた含む。好ましくは、TIRは、翻訳単位内に軽鎖又は重鎖をコードしている配列に先行する分泌シグナルペプチドをコードしている配列を含む。TIR変異体は、後でここに定義されるその翻訳強さのような、TIRの効率を改変させる配列変異体(特に置換)をTIR領域内に含む。好ましくは、本発明のTIR変異体は、翻訳単位内の軽鎖又は重鎖をコードしている配列に先行する最初の2から約14、好ましくは約4から12、より好ましくは約6のコドンのシグナル配列を含む。
「分泌シグナル配列」又は「分泌シグナルペプチド」は、対象の新たに合成されたタンパク質を細胞膜、例えば原核生物の内膜又は内膜と外膜の両方を通過するようにするために使用することができる短いアミノ酸配列を意味する。よって、例えば原核細胞においては、軽鎖又は重鎖ポリペプチドのような対象のタンパク質は原核生物宿主細胞の細胞膜周辺中又は培養培地中に分泌される。分泌シグナル配列は宿主細胞に内因性でありうるか、又はそれらは外因性であり得、発現されるポリペプチドに対して未変性のシグナル配列を含む。分泌シグナル配列は典型的にはポリペプチドのN末端部分にあり、典型的には生合成と細胞質からのポリペプチドの分泌の間に酵素的に除去される。よって、分泌シグナル配列は通常は最終のタンパク質産物中には存在しない。
本発明の抗体分子の軽鎖及び重鎖をコードしているDNA配列は標準的な組換えDNA技術を使用して得ることができる。所望のDNA配列はハイブリドーマ細胞のような抗体産生細胞から単離し配列決定することができる。あるいは、DNAはヌクレオチド合成機又はPCR法を使用して合成することができる。ひとたび得られると、軽鎖及び重鎖をコードしているDNAsは原核生物又は真核生物宿主中で異種ポリヌクレオチドを複製し、発現し、分泌することが可能な組換えベクター中に挿入される。当該分野において入手でき知られている多くのベクターを本発明の目的のために使用することができる。適切なベクターの選択は、主として、挿入される核酸のサイズとそのベクターで形質転換される特定の宿主に依存する。
発現及びクローニングベクターは選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含みうる。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシリに対するD-アラニンラセマーゼコード遺伝子のような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。選択スキームの一例は薬物を利用して宿主細胞の成長を抑止することである。異種遺伝子で成功裏に形質転換された細胞は薬物耐性を示すタンパク質を生産し、よって選択計画において生存する。大腸菌の形質転換に適したプラスミドベクターの例はpBR322である。pBR322はアンピシリン(Amp)及びテトラサイクリン(Tet)耐性のコード遺伝子を含んでおり、よって形質転換細胞を同定するための簡単な手段を提供する。pBR322又は他の微生物プラスミド又はバクテリオファージの誘導体も親ベクターとして使用することができる。特定の抗体の発現に使用されるpBR322誘導体の例はCarter等の米国特許第5648237号に詳細に記載されている。
一実施態様によれば、本発明の組換えベクターは、一方は軽鎖の発現のためで、他方は重鎖の発現のための、少なくとも二つの翻訳単位を含む。更に、軽鎖と重鎖のための二つの翻訳単位は異なったプロモーターの調節下にある。プロモーターはその発現を調節するコード配列(一般に約100から1000bp内)の開始点の上流(5')に位置している未翻訳配列である。このようなプロモーターは典型的には誘導性と構成的との二つのクラスのものがある。誘導性プロモーターは、例えば栄養分の有無又は温度もしくはpHの変化のような、培養条件のある変化に応答してその調節下でDNAからの増大したレベルの転写を開始させるプロモーターである。
本発明の組換えベクターの各翻訳単位は挿入された遺伝子の十分な発現に必要な更なる未翻訳配列を含んでいる。組換えベクターのそのような本質的な配列は当該分野で知られており、例えば、開始コドンに5'末端が位置したシャイン-ダルガーノ領域及び翻訳単位の3'末端に位置している転写終結因子(例えばλto)が含まれる。
上に列挙した成分の一又は複数を含む適切なベクターの構築には標準的なライゲーション技術及び/又は当該分野で既知の他の分子クローニング法が用いられる。単離されたプラスミド又はDNA断片は切断され、目的に合わせて最適化され、必要とされるプラスミドを産生するために望ましい形態に再結合される。
多くの大腸菌株がここでの発現宿主として又は改変発現宿主をつくり出すことができる親宿主として好適である。当該分野で知られており入手可能な大腸菌株には、限定されるものではないが、大腸菌W3110(ATCC27325)、大腸菌294(ATCC31446)、大腸菌B、大腸菌1776(ATCC31537)及び大腸菌RV308(ATCC31608)が含まれる。上述の細菌の何れかの変異体細胞もまた用いることができる。勿論、細菌細胞中でのレプリコンの複製能を考慮して適した細菌を選択することが必要である。pBR322、pBR325、pACYC177、又はpKN410のようなよく知られたプラスミドを使用してレプリコンを供給する場合、例えば、大腸菌、セラシア属、又はサルモネラ種を宿主として好適に用いることができる。好ましくは、宿主細胞は最小量のタンパク質分解酵素を分泌しなければならず、望ましくは更なるプロテアーゼインヒビターを細胞培養中に導入することができる。
好適な真核生物宿主細胞もまた当該分野で知られている。例えば宿主細胞には、酵母、VERO、HeLa、CHO、W138、BHK、COS-7及びMDCK細胞が含まれうる。
上述した組換えベクターで宿主細胞を形質転換又は形質移入し(「形質転換」と「形質移入」という用語はここでは交換可能に使用される)、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適するように修飾された通常の栄養培地中で培養する。
形質転換とは、DNAを原核生物宿主中に導入し、そのDNAを染色体外要素として、又は染色体組込みによって複製可能にすることを意味する。使用される宿主細胞に応じて、形質転換はそのような細胞に適した標準的技術を使用してなされる。塩化カルシウムを用いるカルシウム処理は実質的な細胞壁障害を含む細菌細胞のために一般に使用される。形質転換のための他の方法はポリエチレングリコール/DMSOを用いる。さらに別の方法はエレクトロポレーションである。形質移入とは、何れかのコード化配列が実際に発現されるか否かによらず、宿主細胞によって発現ベクターが取り込まれることを意味する。形質移入の多くの方法が、当業者に知られており、例えばCaPO4沈殿及びエレクトロポレーションである。このベクターの操作の何れかの徴候が宿主細胞内で生じたときに、形質移入の成功が一般に認められる。
原核生物宿主細胞は適切な温度で培養される。例えば、大腸菌の増殖に対しては、好適な温度は約20℃から約39℃、より好ましくは約25℃から約37℃の範囲、更により好ましくは約30℃である。培地のpHは、主として宿主生物に応じて、約5から約9の範囲の任意のpHでありうる。大腸菌に対しては、pHは好ましくは約6.8から約7.4、より好ましくは約7.0である。
ひとたび宿主細胞がある密度まで増殖させられると、培養条件はタンパク質(群)の合成を促進するように変更される。本発明によれば、軽鎖と重鎖は合成段階の間の異なったときに誘導される。一側面では、軽鎖と重鎖の時間的に分離した発現は、上述した二重プロモーターベクターを使用して実現される。誘導性プロモーター(群)が本発明の二重プロモーターベクターに使用される場合、タンパク質の発現はプロモーターの活性化に適した条件下で誘導される。好適な実施態様では、両方のプロモーターが誘導性である。より好ましくは、二重プロモーターはそれぞれphoA及びTacIIである。例えば、軽鎖の転写を調節するためにphoAプロモーターが使用されるベクターを構築することができ、重鎖の転写を調節するためにTacIIプロモーターを使用する。誘導の最初の段階の間、そのようなphoA/TacII二重プロモーターベクターで形質転換された原核生物宿主細胞はphoAプロモーターの誘導と軽鎖の発現のためのリン酸塩制限培地中で培養される。軽鎖の発現に対して所望の時間の後に、十分な量のIPTGを、TacIIプロモーターの誘導と重鎖の生産のために培養に添加する。
本発明のベクターに分泌シグナル配列が用いられる場合、発現された軽鎖及び重鎖ポリペプチドは宿主細胞の細胞膜周辺中に分泌され、そこから回収される。タンパク質の回収は、一般的には浸透圧ショック、超音波処理又は溶解のような手段によって典型的には微生物を破壊することを含む。ひとたび細胞が破壊されると、細胞片又は全細胞を遠心分離又は濾過によって除去することができる。タンパク質は、例えばアフィニティー樹脂クロマトグラフィーによって更に精製することができる。あるいは、タンパク質は培養培地に輸送しそこで分離することができる。細胞を培養物から除去することができ、培養上清は濾過され、生成したタンパク質の更なる精製のために濃縮される。発現されたポリペプチドを更に単離し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)及びウェスタンブロットアッセイ法のような一般的に知られている方法を使用して同定することができる。
発酵法では、タンパク質の発現の誘導は、典型的には、細胞が適切な条件下で所望の密度、例えば約180−270のOD550まで増殖したところで開始される。当該分野で知られ上述されているように、用いられるベクターコンストラクトに応じて、様々なインデューサーを用いることができる。細胞を誘導前の短い時間の間、増殖させてもよい。細胞は通常約12−50時間の間、誘導されるが、更に長い又は短い誘導時間としてもよい。
宿主細胞から調製された抗体組成物は好ましくは少なくとも一の精製工程にかけられる。適切な精製工程の例には、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーが含まれ、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしての特定のタンパク質の適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFc領域のアイソタイプ及び種に依存する。例えば、プロテインAを、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる。Lindmark等, (1983) J. Immunol. Meth. 62:1-13。プロテインGが、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨される。Guss等, (1986) EMBO J. 5:15671575 。アフィニティーリガンドが結合するマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他のマトリクスも使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースによって達成できるものより速い流速と短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、ベーカーボンド(Bakerbond)ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術もまた回収される抗体に応じて利用可能である。
好適な実施態様では、ここで生産される抗体は、更なるアッセイと使用のためにより実質的に均一である調製物を得るために更に精製される。例えば、疎水的相互作用クロマトグラフィー(HIC)、特に米国特許第5641870号に記載されているような低pHのHIC(LPHIC)を更なる精製のために使用することができる。特に、LPHICは不必要な汚染物(例えば、不正確に結合された軽鎖重鎖断片)から正しく折り畳まれジスルフィド結合した抗体を取り除く方法を提供する。
本発明の抗体は当該分野で知られている様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び生物学的機能について特徴付けることができる。本発明の一側面では、本発明の二重プロモーター系において作成された抗体を、異なった発現ベクター設計又は異なった宿主細胞系のような他の発現系において作成された類似の抗体と比較することが重要である。特に、本発明の二重プロモーターベクターによって発現される組み立て抗体複合体の量を、様々な多シストロン性ベクターによって発現されるものと比較することができる。タンパク質の定量法は当該分野においてよく知られている。例えば、発現されたタンパク質の試料を、クーマシー染色SDS-PAGEでのその定量強度について比較することができる。あるいは、対象の特定のバンド(例えば組み合わせられたバンド)を、例えばウェスタンブロットゲル分析によって検出することができる。
本発明の所定の実施態様では、ここで生産された抗体はその生物学的活性について分析される。好ましくは、本発明の抗体はその抗原結合活性について試験される。当該分野で知られ、ここで使用することができる抗原結合アッセイには、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、エライザ(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドウィッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光イムノアッセイ、及びプロテインAイムノアッセイのような技術を使用する任意の直接的又は競合的結合アッセイが制限なく含まれる。抗原結合アッセイの例は実施例の欄に後記される。
本発明の抗体は、様々な疾患又は疾病のためのインビトロとインビボの双方の診断、予防又は治療法を含む、それが認識する特異的ポリペプチドを、例えば精製し、検出し、標的とするために使用できる。
「疾患」は抗体で治療することで恩恵を得るあらゆる症状のことである。これには、問題の疾患に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態を含む、慢性及び急性の疾患又は疾病が含まれる。ここで治療される疾患の非限定的例には、悪性及び良性の腫瘍;非白血病及びリンパ悪性腫瘍;ニューロン、神経膠、星状細胞、視床下部及び他の腺、マクロファージ、上皮、間質性及び割腔の疾患;及び炎症、血管形成及び免疫性疾患が含まれる。
ここで使用されるところの「治療」とは、治療されている個人又は細胞の自然の過程を改変するための臨床的処置を意味し、予防のため又は臨床病理の過程の何れかで実施することができる。治療の所望される効果には、疾病の発症又は再発の防止、徴候の緩和、疾病のあらゆる直接的又は間接的な病的結果の消失、転移の防止、疾病の進行速さの低減、疾病状態の改善又は緩和、及び沈静化又は予後の改善が含まれる。
一側面では、本発明の抗体は生物学的試料中の特異的抗原を定性的かつ定量的に測定するためのイムノアッセイにおいて使用することができる。抗原-抗体結合を検出する一般的な方法には、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(エライザ)、ラジオイムノアッセイ(RIA)又は組織免疫組織化学法が含まれる。多くの方法は、検出目的のために抗体に結合した標識を使用しうる。抗体に使用される標識は抗体へのその結合に干渉しない任意の検出可能な官能性である。放射性同位体32P、32S、14C、125I、3H及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン(umbelliferone)、ルセリフェラーゼ(luceriferases)、例えばホタルルシフェラーゼ及びバクテリアルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定フリーラジカル、イメージング放射性核種(テクネチウム)等々を含む多くの標識が知られている。
抗体の標識の代わりに、未標識抗体と検出可能な物質で標識した競合抗原標準物質を利用する競合イムノアッセイによって生物学的流体中の抗原をアッセイすることができる。このアッセイでは、生物学的試料と標識抗原標準物質と抗体が組み合わされ、未標識抗体に結合した標識抗原標準物質の量が決定される。生物学的試料中の試験抗原の量は抗体に結合した標識抗原標準物質の量に反比例する。
本発明の抗体はインビトロとインビボの双方で特異的抗原活性を部分的又は完全に阻止するアンタゴニストとして使用することができる。更に、本発明の抗体の少なくとも幾つかは他の種からの抗原活性を中和することができる。従って、本発明の抗体は、例えば抗原を含む細胞培養物中において、ヒトの患者において、又は本発明の抗体が交差反応する抗原を有する他の哺乳動物被検体(例えば、チンパンジー、ヒヒ、マーモセット、カニクイザル及びアカゲザル、ブタ又はマウス)において、特異的抗原活性を阻害するために使用することができる。
ある実施態様では、細胞毒性剤と結合させた抗体を含む免疫複合体が作成され使用される。好ましくは免疫複合体及び/又はそれが結合する抗原は細胞によって内部移行させられ、それが結合する標的細胞を殺す免疫複合体の治療効果を増大させる。好適な実施態様では、細胞毒性剤は標的細胞中の核酸を標的とし又はそれを妨害する。
ここで使用されるところの「細胞毒性剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位元素)、化学治療薬、及び細菌、真菌、植物又は動物起源の酵素活性毒素又は小分子毒素等の毒素で、それらの断片及び/又は変異体を含むことを意図する。
本発明の好適な一実施態様では、抗体は一又は複数のメイタンシン分子(例えば、抗体1分子当たり、メイタンシン約1〜約10分子)とコンジュゲートされる。例えば、メイタンシンはMay-SH3に還元され、修飾された抗体と反応するMay-SS-Meに転化され(Chari等, Cancer Research, 52:127-131(1992))、メイタンシノイド-抗体免疫コンジュゲートを生産する。
興味のある他の免疫複合体は一又は複数のカリケアマイシン分子にコンジュゲートされた抗体を含む。カリケアマイシンファミリーの抗生物質はサブピコモル濃度で二本鎖DNA破損体を生産することができる。使用されるカリケアマイシンの構造類似体には、限定するものではないが、γ1 I、α2 I、α3 I、N-アセチル-γ1 I、PSAG及びθI 1が含まれる(Hinman等, Cancer Research, 53:3336-3342(1993)及びLode等, Cancer Research, 58:2925-2928(1998))。また米国特許第5714586号;同第5712374号;同第5264586号;及び同第5773001号を参照のこと。
本発明では、ヌクレオチド鎖切断活性を有する化合物(例えばリボヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼ、例えばデオキシリボヌクレアーゼ;DNアーゼ)と抗体とからなる免疫複合体を更に考慮する。
種々の放射活性同位体も放射コンジュゲート抗体の製造に利用できる。例にはAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体が含まれる。
別法として、抗体及び細胞障害剤を含有する融合タンパク質は、例えば組換え技術又はペプチド合成により作製される。
他の実施態様において、腫瘍の事前ターゲティングに利用するために、「レセプター」(例えばストレプトアビジン)に抗体をコンジュゲートし、ここで抗体-レセプターコンジュゲートを患者に投与し、続いてキレート剤を使用し、循環から未結合コンジュゲートを除去し、細胞障害剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートする「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
本発明の抗体組成物は、良好な医療実務に合致した形で製剤され、用量決定され、投与される。この点で考慮される要因には、治療されている特定の疾患、治療されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療実務家に既知の他の要因が含まれる。抗体は、必要ではないが、場合によっては、問題の疾患を防止又は治療するために現在使用されている一又は複数の薬剤と共に製剤される。そのような他の薬剤の有効量は製剤中に存在する抗体の量、疾患又は治療のタイプ、及び上で検討した他の因子に依存する。これらは一般に又上述のものと同じ用量及び投与経路で、あるいはこれまで用いられた用量の約1ないし99%で使用される。
抗体の治療用製剤は、所望の純度を持つ抗体と、場合によっては生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington's Pharmaceutical Sciences 16版, Osol, A. 編 (1980))、水溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態に調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量と濃度でレシピエントに非毒性であり、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
また活性成分は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉させてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16版, Osol, A.編 (1980)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
本発明の他の実施態様では、上記の疾患の治療に有用な物質を含む製造品が提供される。該製造品は容器と該容器の又は該容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を具備する。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等々が含まれる。容器は、様々な材料、例えばガラス又はプラスチックから形成されうる。容器は、症状を治療するのに有効な組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有しうる(例えば、容器は皮下注射針が貫通可能なストッパーを有するバイアル又は静脈内投与溶液バッグでありうる)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は本発明の抗体である。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が癌のような選択した症状の治療に使用されることを示す。更に、製造品は、(a)組成物を中に収容し、その組成物が抗体を含む第一の容器と;(b)組成物を中に収容し、その組成物が更なる細胞毒性剤を含む第二の容器とを含みうる。本発明のこの実施態様における製造品は、第一及び第二抗体組成物を癌の治療に使用することができることを示しているパッケージ挿入物を更に含む。あるいは、もしくは付加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液を含む第二の(又は第三の)容器を更に具備してもよい。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジを含む、商業上及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
次の実施例は本発明の実施を単に例証するためのもので限定するものではない。ここで引用した全ての特許と科学文献の開示は出典明示によりその全体が取り込まれる。
材料と方法
プラスミドの構築
コントロールプラスミドpS1130を、抗CD18F(ab')2のジシストロン性発現のために設計したが、これはCarter等 (1992) Bio/Technology 10:163-167によって記載されているベクターに基づいている。この設計は、単一のphoAプロモーターの調節下でC末端ロイシンジッパーを持つ重鎖断片及び軽鎖断片双方の遺伝子の転写を行う。転写は、重鎖-ロイシンジッパーに対してコード配列の下流に位置するλt0転写終結因子で終了する(Scholtissek及びGrosse (1987) Nucleic Acids Res. 15(7): 3185)。熱安定エンテロトキシンIIシグナル配列(STII)は各鎖のコード化配列の前にあり、細胞膜周辺中へのポリペプチドの分泌を指令する(Lee等(1983) Infect. Immun. 42: 264-268; Picken等 (1983) Infect. Immun. 42: 269-275)。ロイシンジッパーは重鎖断片のC末端に結合して二つのFab'アームの二量体化を促進する。
単一のプロモーターコントロールプラスミドと二重プロモータープラスミドの概略的比較を図1に示す。pxCD18-7T3の発現カセット配列は図2(配列番号:3)に提供され、二つの翻訳単位のアミノ酸配列は図3(配列番号:4)に示す。
発酵に使用される宿主株は59A7と命名された大腸菌W3110の誘導体であった。59A7の完全な遺伝子型はW3110ΔfhuA phoAΔE15 Δ(argF-lac)169deoC2degP41(ΔpstI-Kanr)IN(rrnD-rrnE)1ilvG2096(Valr)Δprc prc-サプレッサーである。59A7宿主細胞をpS1130又はpxCD18-7T3プラスミドの何れかで形質転換させ、成功した形質転換体を選択し培養で成長させた。二重プロモータープラスミドの場合、更なるプラスミドpMS421をpxCD18-7T3と共に同時形質転換させた。この更なるプラスミドpMS421は、TacIIプロモーターの調節を改善するためにlacIqを提供し、スペクチノマイシン及びストレプトマイシン耐性をまた付与するpSC101系プラスミドである。
各10リットルの発酵に対して、10−15%DMSO中1.5mlの培養物を含む単一のバイアルを解凍させて、0.5mlのテトラサイクリン溶液(5mg/ml)と2.5mlの1Mリン酸ナトリウム溶液を補填した500mlのLB培地を含む1Lの振盪フラスコ中に入れた。この種培養を30℃で約16時間成長させ、ついで10リットルの発酵槽に播種するのに使用した。
質量分析計を用いて、発酵からのオフガス組成物をモニターし、発酵中の酸素取り込みと二酸化炭素放出速度の計算が可能になった。
培養物がおよそ220OD550の細胞密度に達したところで、撹拌をおよそ12時間かけて1000rpmの初期速度からおよそ725rpmまで減少させた。(重鎖の発現の調節にTacIIプロモーターを使用した)pxCD18-7T3系の発酵に対して、培養物が220OD550の細胞密度に達した後約12時間経ったところで、50mlの200mM IPTGを添加して、重鎖合成を誘導した。
発酵において製造された抗体断片の量を評価するために多くのタンパク質アッセイ法を使用した。構築された抗CD18F(ab')2-ロイシンジッパー複合体の量を決定するために、プロテインGアッセイを使用した。Derrich及びWigley (1992)Nature 359:752-4。このアッセイのための試料を調製するために、全発酵ブロスを最初に超音波処理し50mMの硫酸マグネシウムで2.4Xに希釈した。ポリエチレンイミン(PEI)を0.1%の最終濃度まで添加した。20分のインキュベーション後に、試料を微量遠心管で約14000xgにて約20分間、遠心分離した。ついで、上清をリン酸緩衝生理食塩水で2Xに希釈し、HP1090又はHP1100HPLC系を使用してプロテインGカラム(Poros G/Mカラム)に充填した。カラムを10mMのPO4/300mMのNaCl(pH8)で最初に平衡化した7分のアッセイを使用した。試料の注入に続いて、約5.5分の間(2.1x30mmのカラム中、約3mlのバッファーを使用して)平衡バッファーですすいだ後、30mMのPO4/150mMのNaCl/0.01%TFA(pH1.9)を使用して段階溶出を行った。
発酵で生産した軽鎖及び重鎖の断片の全量を評価するために、別の逆相HPLCアッセイを用いた。このアッセイに使用される試料をプロテインGアッセイについて上述したようにして調製した。可溶型溶解物試料を6Mのグアニジン-HCl、50mMのTRIS、pH9に希釈した(典型的には100μlの試料を650μlのグアニジン溶液で希釈した)。50μlの2Mジチオトレイトール(新たに解凍)をついで加えた。HPLCに充填する前に、200μlのアセトニトリルを加え、0.2μmのフィルターで濾過した。
また、不溶性溶解液試料を、950μlの6Mグアニジン/HCl、50mMのTRIS、pH9+50μlの2Mジチオトレイトール中に細胞溶解液から得られた不溶性ペレットを懸濁させることによって同様に分析した。ペレットを再溶解させるのを支援するために超音波処理(5ないし10パルス)を典型的に実施し、ついで650μlのグアニジン溶液+50μlの2Mジチオトレイトール+200mMのアセトニトリルに100μlの再懸濁ペレットを希釈した。ついで試料を濾過し、可溶性溶解液試料についてと同じ方法を使用して分析した。
一連の抗CD18F(ab')2発酵実験を、pS1130単一プロモーター系又はpxCD18-7T3二重プロモーター系の何れかを使用して実施した。構築された抗CD18F(ab')2複合体の収量を、方法と材料の欄に記載したタンパク質アッセイを使用して測定し計算した。発酵収量(g/L)を表す棒グラフである図4に示されているように、株59A7でのphoA-tac二重プロモーターベクターの使用は、構築されたF(ab')2の収量を、同定された最善のpS1130/59A7形質転換体に対して約2.5g/Lから約4.6±0.5g/Lまで約2倍増加させた。
二重プロモーター系の改善された性質を更に例証するために、全重鎖、可溶型軽鎖及び構築F(ab')2複合体の発現プロフィールを、単一プロモーター系(pS1130/59A7)及び二重プロモーター系(pxCD18-7T3/59A7)に対して樹立し、結果を図5及び6にそれぞれ示す。顕著なことに、軽鎖が最初に発現されて細胞膜周辺に分泌され、続いて重鎖の生産の長い期間が続く二重プロモーター系では、重鎖の発現の誘導のほぼ直後にF(ab')2組立て体が生じた(図6);一方、単一プロモーター系では、軽鎖と重鎖の双方の誘導後の最初のF(ab')2組立て体は比較的少量であった(図5)。特定の一理論に拘束されることは意図しないが、これらの結果は、F(ab')2組立て体は、有意な量の可溶性軽鎖が細胞膜周辺に蓄積するまで、十分ではないことを示唆している。
従って、結果は、軽鎖と重鎖の合成を時間的に分離することによって、構築抗CD18F(ab')2の収量が有意に増加するようになることを示している。この新規な系と知見は複数のタンパク質単位が発現されて組み合わされる他の系において広く応用できる。
この実施例は、大腸菌系中で完全長抗体を生産する更なる努力を例証する。強いTIRを使用して軽鎖と完全長重鎖の両方を同時に共発現させると、有意な量の発現前駆体ポリペプチドが蓄積し、少量の成熟軽鎖と重鎖並びに適切に組み合わされた完全長抗体が得られる。この実施例は、前駆体の蓄積が軽鎖及び重鎖の発現を時間的に分離させることによって解消することができることを示している。異なったプロモーターの調節下に各鎖を配することは各鎖を別個の時間に発現させることによって分泌ブロックを避ける。このアプローチ法は同時の発現に使用することができるよりも強いTIRの使用を可能にしており、潜在的に各鎖に対してより高い分泌レベルを生じる。個々の鎖のより高い発現レベルを伴うそのような発現構造は完全長の適切に組み合わされた抗体の収量を改善するには有利である。
プラスミドの構築
コントロールプラスミドpaTF130に対する発現カセットは、5'から3'の、(1)phoAプロモーター(Kikuchi等, Nucleic Acids Res.9(21):5671-5678(1981));(2)trpシャイン-ダルガーノ(Yanofsky等, Nucleic Acids Res.9:6647-6668(1981));(3)STIIシグナル配列のTIR変異体(TIR相対強さ〜7)(Simmons及びYansura, Nature Biotechnology 14:629-634 (1996));(4)抗組織因子軽鎖のコード配列;(5)λt0終結因子(Scholtissek及びGrosse, Nucleic Acids Res. 15:3185 (1987));(6)第二phoAプロモーター;(7)第二trpシャイン-ダルガーノ;(8)STIIシグナル配列の第二サイレントコドン変異体(TIR相対強さ〜3);(9)抗組織因子完全長重鎖のコード配列;及び(10)第二λt0終結因子を含む。この発現カセットを大腸菌プラスミドpBR322のフレームワーク中にクローニングした。Sutcliffe (1978) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 43:77-90。このようにして、このプラスミドにおいて重鎖から軽鎖の独立した転写が、各遺伝子をそれ自身のphoAプロモーターの調節下に配することによって達成された;しかし、両方のphoAプロモーターは同一条件下で誘導性であり、両方の鎖は同時に発現される。
各コンストラクトの小規模発現に対しては、遺伝子型(W3110kanR ΔfhuA (ΔtonA)ptr3 phoAΔE15 lacIq lacL8 ompT Δ(nmpc-fepE)degP)を持つ大腸菌株33D3を宿主細胞として使用した。形質転換に続いて、選択された形質転換体ピック(picks)をカルベニシリン(50ug/ml)を補填した5mlのルリア-ベルターニ培地中に播種し、培養ホイールで30℃にて一晩成長させた。ついで、各培養物を希釈(1:50)して、C.R.A.P.ホスフェート制限培地(3.57g(NH4)2SO4、0.71gクエン酸ナトリウム-2H2O、1.07gKCl、5.36g酵母エキス(真性)、5.36gHycaseSF-Sheffield、KOHでpH7.3に調節、SQ H2Oで872mlにしてオートクレーブ処理;55℃まで冷却し、110mlの1M MOPS pH7.3、11mlの50%グルコース、7mlの1M MgSO4を補填)にした。ついでカルベニシリンを50ug/mlの濃度で誘導培養物に加え、特記しない限り、全ての振盪フラスコでの誘導を2ml容積で実施した。
調製後に、5ulの各試料を、10ウェルの1.0mmのNOVEX製の12%トリス-グリシンSDS-PAGに充填し、1.5−2時間の間、〜120ボルトで電気泳動させた。生じたゲルをイムノブロット分析に使用した。
抗組織因子IgG1の産生用のプラスミドpaTF130及びpxTF-7T3FLを構築し、株33D3中に形質転換しこれまで記載されているようにして誘導させた。ついで非還元及び還元全細胞溶解液試料を調製し、イムノブロットによって分析した。結果を図11A及び図11Bに示す。軽鎖に対して7、重鎖に対して3のTIRを使用して、これらの遺伝子を制御するプロモーターを同時に誘導させると、paTF130の還元試料によって示されているような(図11A)、分泌の阻害が生じる。重鎖と軽鎖の両方の前駆体の蓄積がこのレーンにはっきりと確認される。成熟軽鎖と成熟重鎖はほんの少ししか検出されず、タンパク質の大部分は前駆体として蓄積する。しかし、pxTF-7T3FLの場合のように、重鎖と軽鎖の発現が時間的に分離されると、有意な量の成熟軽鎖が蓄積する(図11A)。少量の軽鎖前駆体がこの試料中に尚も検出されるが、このレベルは軽鎖の分泌に対しても重鎖の分泌に対しても、問題を生じるようには思われない。また、時間的な発現により、paTF130で得られるよりも有意に大なるレベルまで成熟重鎖の効率的な分泌が達成され、前駆体の蓄積の証拠はない。
完全長抗体の組立て体との効率的な分泌の相関は非還元試料によって示されている(図11B)。完全長抗体は双方の試料で検出されるが、量は劇的に変化する。矢印が示すように、paTF130試料にはほんのかすかな完全長バンドが検出されるに過ぎない。このバンドはpxTF-7T3FL試料では更により顕著になる。
この実施例では、単一のプロモータープラスミドpCYC56をコントロールとして用いた。pCYC56はpS1130と構造的に類似しているが、挿入配列が抗組織因子抗体の軽鎖及び重鎖断片をコードしている点は異なる。二重プロモータープラスミドpxTF-7T3を、実施例1の二重プロモータープラスミドpxCD18-7T3と同様にして作成し、抗組織因子軽鎖及び重鎖の発現の時間的分離を可能にするために使用した。プラスミドpMS421由来のlacI配列をまたpxTF-7T3に導入して、二重プロモーターpJVG3ILを作った。lacIの付加はpMS421での同時発現の必要性を排除する。
これらの発酵に用いられた宿主株は60H4と命名された大腸菌W3110の誘導体であった。60H4の完全な遺伝子型は、W3110 ΔfhuAΔmanA phoAΔE15 Δ(argF-lac)169deoC2degP41(ΔpstI-Kanr)IN(rrnD-rrnE)1 ilvG2096(Valr)Δprc prc-サプレッサーである。60H4宿主細胞は、pCYC56、pJVG3IL又はpxTF-7T3とpMS421の組合せの何れかで形質転換し、成功した形質転換体を選択して培養で増殖させた。
発酵は、実施例1に記載した抗CD18F(ab')2のものと同様な条件で実施したが、実施強さが約72時間と114時間の間で変わり、OD550が220の培養の達成に続いておよそ4から12時間IPTGを使用して重鎖を誘導した点は原理的に異なる。
一連の抗組織因子F(ab')2の発酵実験を、上述のプロモーター系を使用して実施した。組立てた抗組織因子F(ab')2複合体の収量は、単一プロモーター系での1g/Lから、pJVG3ILでの二重プロモーター系を使用して、2.6±0.3g/L(n=13)まで増大した。
従って、この結果は、軽鎖と重鎖の合成を時間的に分離することによって、組立てられた抗組織因子F(ab')2の収量の有意な増加が達成されることを実証している。
Claims (57)
- 機能的抗体又はその断片を、該抗体又はその断片の軽鎖及び重鎖をそれぞれコードしている二つの別個の翻訳単位で形質転換した宿主細胞中で産生させる方法であって、a)宿主細胞を、二つの別個の翻訳単位が異なったプロモーターによって調節されており軽鎖と重鎖が逐次的な形で発現される好適な条件下で培養して、軽鎖と重鎖の生産を時間的に分ける工程と;b)軽鎖と重鎖を集めて機能的抗体又はその断片を形成する工程を具備する方法。
- 宿主細胞が原核生物であり、各翻訳単位が、原核生物分泌シグナルをコードしているヌクレオチド配列又は軽鎖もしくは重鎖のN'末端に作用可能に結合したその変異体を更に含んでなる、請求項1に記載の方法。
- 二つの翻訳単位が、単一の組換えベクター上に位置せしめられている、請求項1に記載の方法。
- 分泌シグナルが、STII、OmpA、PhoE、LamB、MBP及びPhoAからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
- 分泌シグナルがSTIIである、請求項4に記載の方法。
- 各翻訳単位が異なった誘導性プロモーターに作用可能に結合している、請求項1に記載の方法。
- 誘導性プロモーターが、phoA、TacI、TacII、lpp、lac−lpp、lac、ara、trp、trc及びT7プロモーターからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
- 一方のプロモーターがphoAプロモーターであり、他方のプロモーターがTacIIプロモーターである、請求項7に記載の方法。
- 抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、F(ab')2−ロイシンジッパー、Fv及びdsFvからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
- 抗体が、VEGF、IgE、CD11、CD18及び組織因子(TF)からなる群から選択される抗原に特異的である、請求項1に記載の方法。
- 抗体が抗CD18抗体又は抗TF抗体である、請求項10に記載の方法。
- 抗体がキメラ抗体である、請求項1に記載の方法。
- 抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の方法。
- 抗体がヒト抗体である、請求項1に記載の方法。
- 宿主細胞が、大腸菌株由来の原核細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
- 大腸菌株が、DsbA、DsbC、DsbG及びFkpAからなる群から選択される少なくとも一のシャペロンタンパク質を過剰発現するように遺伝子操作されている、請求項15に記載の方法。
- 大腸菌株が内因性プロテアーゼ活性を欠く、請求項15に記載の方法。
- 大腸菌株の遺伝子型がΔprcprcサプレッサーを含む、請求項15に記載の方法。
- 抗体の重鎖が完全長である、請求項1に記載の方法。
- 軽鎖が最初に発現され、完全長重鎖が次に発現される、請求項19に記載の方法。
- 組換えベクターで形質転換された宿主細胞を含んでなる、抗体又はその断片の軽鎖及び重鎖の逐次的発現系であって、上記ベクターが、軽鎖及び重鎖をそれぞれコードしている二つの別個の翻訳単位を含み、各翻訳単位が異なるプロモーターに作用可能に結合し、適切な条件下で、二つの翻訳単位の活性化が時間的に分けられて、軽鎖と重鎖の逐次的な発現が生じる系。
- 宿主細胞が原核生物であり、各翻訳単位が、軽鎖もしくは重鎖をコードしている核酸の5'末端に作用可能に結合した原核生物分泌シグナルをコードしているヌクレオチド配列を更に含む、請求項21に記載の系。
- 分泌シグナルが、STII、OmpA、PhoE、LamB、MBP及びPhoAからなる群から選択される、請求項22に記載の系。
- 分泌シグナルがSTIIである、請求項23に記載の系。
- 二つのSTII変異体が二つの翻訳単位にそれぞれ使用され、翻訳強さの組合せが軽鎖:重鎖に対し7:3をもたらす、請求項24に記載の系。
- 各翻訳単位が異なった誘導性プロモーターに作用可能に結合している、請求項21に記載の系。
- 誘導性プロモーターが、phoA、TacI、TacII、lpp、lac−lpp、lac、ara、trp、trc及びT7プロモーターからなる群から選択される、請求項26に記載の系。
- 一方のプロモーターがphoAプロモーターであり、他方のプロモーターがTacIIプロモーターである、請求項27に記載の系。
- 抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、F(ab')2−ロイシンジッパー、Fv及びdsFvからなる群から選択される、請求項21に記載の系。
- 抗体が、VEGF、IgE、CD11、CD18及び組織因子(TF)からなる群から選択される抗原に特異的である、請求項21に記載の系。
- 抗体が抗CD18抗体又は抗組織因子抗体である、請求項30に記載の系。
- 抗体がキメラ抗体である、請求項21に記載の系。
- 抗体がヒト化抗体である、請求項21に記載の系。
- 抗体がヒト抗体である、請求項21に記載の系。
- 宿主細胞が、大腸菌株由来の原核細胞である、請求項21又は22に記載の系。
- 大腸菌株が、DsbA、DsbC、DsbG及びFkpAからなる群から選択される少なくとも一のシャペロンタンパク質を過剰発現するように遺伝子操作されている、請求項35に記載の系。
- 大腸菌株が内因性プロテアーゼ活性を欠く、請求項35に記載の系。
- 大腸菌株の遺伝子型がΔprcprcサプレッサーを含む、請求項37に記載の系。
- 抗体の重鎖が完全長である、請求項21に記載の系。
- 軽鎖が最初に発現され、完全長重鎖が次に発現される、請求項39に記載の系。
- 宿主細胞中において機能的抗体又はその断片を生産させるための組換えベクターにおいて、a)軽鎖に作用可能に結合した分泌シグナルをコードしている第一翻訳単位に先行する第一プロモーターと、b)重鎖に作用可能に結合した分泌シグナルをコードしている第二翻訳単位に先行する第二プロモーターを含むベクターであって、上記第一及び第二プロモーターが異なった条件下で誘導性である組換えベクター。
- 第一及び第二プロモーターが、phoA、TacI、TacII、lpp、lac−lpp、lac、ara、trp、trc及びT7プロモーターからなる群から選択される、請求項41に記載の組換えベクター。
- 第一プロモーターがphoAプロモーターであり、第二プロモーターがTacIIプロモーターである、請求項42に記載の組換えベクター。
- 分泌シグナルが、STII、OmpA、PhoE、LamB、MBP及びPhoAからなる群から選択される、請求項41に記載の組換えベクター。
- 分泌シグナルがSTIIである、請求項44に記載の組換えベクター。
- 抗体断片が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv及びdsFvからなる群から選択される、請求項41に記載の組換えベクター。
- 抗体断片が二量体化ドメインに融合している、請求項46に記載の組換えベクター。
- 抗体が、VEGF、IgE、CD11、CD18及び組織因子(TF)からなる群から選択される抗原に特異的である、請求項41に記載の組換えベクター。
- 抗体が抗CD18抗体である、請求項48に記載の組換えベクター。
- 抗体が、抗CD18 F(ab')2−ロイシンジッパー融合体である、請求項49に記載の組換えベクター。
- 上記抗体が配列番号:1の軽鎖を含む、請求項50に記載の組換えベクター。
- 上記抗体が配列番号:2の重鎖を含む、請求項50に記載の組換えベクター。
- 配列番号:3の核酸配列を含んでなるベクターである、請求項50に記載の組換えベクター。
- 抗体が抗TF抗体である、請求項48に記載の組換えベクター。
- 上記抗体が配列番号:4の軽鎖を含む、請求項54に記載の組換えベクター。
- 上記抗体が配列番号:5の重鎖を含む、請求項54に記載の組換えベクター。
- 配列番号:6の核酸配列を含んでなるベクターである、請求項54に記載の組換えベクター。
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