しかし、プーリにクラウンを形成する場合、平ベルトの走行安定性(蛇行や片寄りの防止)を重要視してクラウンの曲率半径を小さくすれば、ベルトの幅中央に応力が集中し、ベルト幅全体を伝動に有効に利用することができず、心線の早期疲労及び伝動能力の低下を招く。
また、プーリのクラウンを該プーリの回転中心を中心とする球状に形成した場合、仮にベルトの片寄り防止の効果が高まるとしても、プーリのクラウンによってベルトの幅中央に応力が集中するという問題は依然として残る。
また、平プーリに上述の如き溝加工をすると、該平プーリの製造コストが高くなり、しかも、溝加工だけでは平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することは難しい。
さらに、平ベルトの両側にガイドプーリ等を配置してその走行位置を規制する方式を採用すると、平ベルトの両側がそのような規制部材に常時接触することになるため、その側面のほころび、心線のほつれを生じ易くなる。従って、それらを防止するための平ベルトに特殊な加工を施すことが必要になり、平ベルトの製造コスト低減に不利になる。
以上のような理由から、平ベルト伝動装置は、Vベルトなど他のベルトに比べて、ベルトの曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高いにも拘わらず、十分に活用されていないのが実情である。このことは、ベルト伝動装置のみならず、ベルト搬送装置も含めて、平ベルトを用いたベルト駆動装置全般について言える。
そのような問題に対して、本願の発明者らは、平ベルトの片寄りを生じたときに、このベルトの張力によってローラの軸にかかる軸荷重の位置がずれることを利用して、この軸荷重によりローラ本体をベルトに対し斜交いになるように傾斜させ、これによりベルトの片寄りを戻すようにしたもの(以下、調心ローラともいう)を開発して、先に特許出願をしている(例えば特願2004−119122号等)。
上記先願に係る調心ローラは、上記の如くベルトの走行位置を自動で調整できるものであり、例えば図10に一例を示すように、このローラaは、ベルトbの巻き掛けられるローラ本体c(回転体)と、このローラ本体cに挿入されてベアリングなどにより回転自在に支持する軸部材dと、この軸部材dを、上記ローラ本体cの回転中心軸C1に沿って見て、軸荷重Lの方向に対し該ローラ本体cの回転方向前側に所定角度傾倒した枢軸C2の周りに揺動自在に支持する支持機構eと、を備えている。
そして、ベルトbの片寄りに伴い軸荷重Lの位置がローラ本体c上での幅方向にずれたときには、この軸荷重Lによりローラ本体c及び軸部材dに枢軸C2周りの回転モーメントが作用し、それらが回動変位(揺動)して軸荷重Lの方向に高低がつくように傾斜するとともに、ベルトbに対し斜交いに接触した状態になり、これにより当該ベルトbにその片寄りを戻す力を与えるようになっている。
ところが、上記先願に係るローラaでは、軸部材dを枢軸C2の周りに揺動自在に支持する支持機構eとして、コ字状のアームfにより軸部材dの両端部を保持し、そのアームfのシャフトをベアリングg(摺動部)によりベースに対して支持するという構造にしており、図示の如くベアリングgが枢軸C2の方向に軸部材dから離れているため、このベアリングgをこじるようにモーメント力が作用して、摺動摩擦による抵抗が大きくなってしまう。
特に、比較的負荷が低いベルト搬送装置やベルトの送り装置などの場合は、ベルトの張力が小さいことから、自ずと軸荷重も小さくなり、前記のように摺動部の摩擦抵抗が大きいと、プーリやローラ等の回転体の回動変位(揺動)が遅れたり、それがスムーズに回らなくなったりして、ベルトの片寄りを戻せなくなるケースもある。
また、上記先願に係る調心ローラをベルトの搬送装置や伝動装置に限らず、例えば糸や紐などの繊維製品、或いはテープ等をリールに巻き取る巻き取り装置に適用した場合、通常、それら糸やテープなどの張力はベルトに比べてかなり小さいので、この場合も上記の如き問題が生じることは避けられない。
そこで、本発明の目的は、ベルトを始めとして糸やテープ等も含めた長尺の可撓性部材を巻き掛けて走行させる回転機器(プーリ、ローラ等)において、上記先願に係るもののように軸荷重によって回転体を揺動させ、これにより可撓性部材の片寄りを戻すようにする場合に、軸荷重の小さなときでも回転体を遅れなくスムーズに回動変位(揺動)させて、可撓性部材の片寄りをより確実に戻せるようにすることにある。
上記の目的を達成するために本発明では、軸部材の支持機構において、その軸部材側の部材とこれを枢軸の周りに回動支持する部材との間の摺動部を、その枢軸の方向についてできるだけ軸荷重の作用点に近づけて、その摺動部をこじるモーメント力の発生を抑えるようにした。
具体的に、請求項1の発明は、可撓性部材の巻き掛けられる円筒状の回転体と、該回転体に挿入されて、これを回転自在に支持する軸部材と、この該軸部材を、上記回転体の回転中心軸に沿って見て、軸荷重の方向に対し該回転体の回転方向前側に所定角度傾倒した枢軸の周りに揺動自在に支持する支持機構と、を備えた回転機器であって、
上記支持機構は、上記軸部材側の被支持部材及びこれを支持する支持部材が相互に上記枢軸の周りに摺動する摺動部を有し、この摺動部が、上記回転体の回転中心軸に沿って見て、上記軸部材と重なるように配置されていることを特徴とする。
上記回転機器の基本的な動作は、上記先願に係るローラと同様である。すなわち、例えばベルトなどの可撓性部材がローラ本体などの回転体に巻き掛けられて、その回転に連れて走行するときに、この可撓性部材の走行位置が片寄って、軸荷重が枢軸の位置から回転体の回転中心軸の方向にずれて軸部材に作用するようになると、その軸荷重によって軸部材に枢軸を中心とする回転モーメントが働き、これにより軸部材が回転体と共に枢軸の周りに回動変位(揺動)する。
こうして回動変位した回転体は、可撓性部材の片寄った側が軸荷重の方向に移動するように、即ち、軸荷重の方向で高低をみれば、可撓性部材の片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜する。つまり、回転体は、その外周面が従来までのプーリにおけるクラウンと同様に傾斜した状態になるので、可撓性部材には上記片寄り方向とは反対の方向への戻し力が働くことになる。
また、上記のような回動変位の中心となる枢軸が、軸荷重の方向に対して回転体の回転方向前側に傾倒している(即ち傾倒角度が0度を越え且つ90度未満である)ことから、回転体の回動変位には、上記軸荷重の方向の成分だけでなく、軸荷重方向に直交する前後方向(可撓性部材が回転体に接触して走行している方向)の成分が含まれることになる。このため、回転体は上記の如く軸荷重の方向に傾斜するだけでなく、可撓性部材の片寄った側がその走行方向の前側に移動して、当該可撓性部材に対し斜交いになって接触するようになり、このことによっても可撓性部材には片寄りを戻す方向の力が与えられる。
つまり、上記回転体は、可撓性部材の走行中の片寄りによって軸荷重が枢軸の位置からずれると、これにより発生する回転モーメントによって枢軸の周りに回動変位し、軸荷重の方向に高低がつくように傾斜するとともに、可撓性部材に対し斜交いの状態になる。そして、その傾斜による戻し力と斜交い状態による戻し力との双方が可撓性部材に作用して、その走行位置が戻されることになる。
ここで、上記のように、回転体の中心軸に沿って見て、枢軸が軸荷重の方向に対し傾倒しているということは、軸荷重が枢軸に対し斜めに作用するということであるから、この枢軸の周りに軸部材を回動支持する支持機構において、その軸部材側の被支持部材とこれを支持する部材との摺動部には、軸荷重によってそれをこじるようにモーメント力が作用する虞れがあり、摺動摩擦抵抗の増大が懸念される。
しかし、上記の構成では、上記支持機構において上記被支持部材及び支持部材の摺動部を、上記回転体の回転中心軸に沿って見て、上記軸部材と重なるように、即ち軸荷重の作用点の付近に位置付けたから、上記のように枢軸に対して斜めに軸荷重が作用しても、この軸荷重によって摺動部に作用するこじりモーメントは非常に小さくなる。
従って、上記被支持部材及び支持部材の間の摺動摩擦抵抗は小さくなり、軸荷重の小さなときであっても回転体の回動遅れを小さくして、それをスムーズに変位させることができる。これにより、片寄りの小さいうちに戻し力を与えて可撓性部材の走行位置を戻すことができ、その蛇行や片寄り走行を速やかに解消できる。この場合に特に好ましいのは、上記摺動部を、上記回転体の回転中心軸に沿って見て、この回転中心軸と上記枢軸との交点を含むように配置することである(請求項2の発明)。
また、上記回転機器のより具体的な構成として、好ましいのは、上記軸部材の両端部をそれぞれ上記回転体の回転中心軸方向の両端部よりも外側で、上記被支持部材に保持させることである(請求項3の発明)。このように軸部材の両端部を保持することで、仮にその一方の端部を片持ち状態で保持するのに比べて、軸部材の撓みを小さくすることができ、回転体の位置決めの精度が向上する。よって、この回転体上の可撓性部材の走行位置を正確に調整する上で有利になる。
その場合に、より好ましいのは、上記被支持部材及び支持部材をそれぞれ環状として、その内周側において直径方向に延びるように軸部材を配置するとともに、該被支持部材及び支持部材の間に転がり軸受を配設して、摺動部を構成することである(請求項4の発明)。こうすれば、一般的な円環状の転がり軸受によって容易に摺動部を構成でき、その摺動摩擦を確実に低減できる。
別の観点によれば、本発明は、上述の如き構成の回転機器であるプーリが、可撓性部材であるベルトを巻き掛けて走行させるように設けられているベルト駆動装置である。このベルト駆動装置では、上述の如くプーリの本体(回転体)の揺動によってベルトの蛇行や片寄り走行を速やかに解消することができ、ベルト伝動装置においてベルトの伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。
なお、ベルトとしては、平ベルト、歯付ベルト(タイミングベルト)等、その種類は問わない。平ベルトの場合は、その内周面及び外周面のいずれをプーリ本体に接触させるようにしてもよいが、歯付ベルトの場合は、その伝動面の背面をプーリ本体に接触させるようにする。
また別の観点によれば、本発明は、上述の如き回転機器であるプーリ、ローラ、リール等が、可撓性部材である糸、紐、ロープ、及びテープのいずれか1つを巻き掛けて走行させるように設けられている巻き取り装置である。この巻き取り装置では、上記ベルト駆動装置と同様に、回転体の揺動によって糸やテープ等の蛇行や片寄り走行を速やかに解消することができ、それらの走行位置を安定させることができる。
以上のように、本発明に係る回転機器によれば、ベルトなどの可撓性部材が巻き掛けられる回転体を軸部材により回転自在に支持するとともに、その軸部材を軸荷重の方向に対して所定方向に傾倒した枢軸の周りに揺動自在に支持したから、可撓性部材の走行位置が片寄ったときに回転体を軸荷重の方向において高低差を生ずるように傾斜させ、且つ、可撓性部材に対し斜交いの状態にして、その片寄りを戻す力を作用させることができる。こうして簡単な構造で可撓性部材の蛇行や片寄り走行を防止できる。
しかも、上記軸部材の支持機構において、該軸部材側の被支持部材と、これを支持する支持部材との摺動部を、上記回転体の回転中心軸に沿って見て、軸荷重の作用点の付近に位置するように配置したので、この軸荷重によって発生する摺動部のこじりモーメント力を非常に小さくして、摺動摩擦抵抗を低減することができる。よって、軸荷重の小さなときであっても可撓性部材の片寄りに対して回転体をスムーズに回動変位させて、片寄りの小さいうちに戻し力を与えることができ、これにより、可撓性部材の蛇行や片寄り走行を速やかに解消できる。
従って、上記の回転機器を利用したベルト伝動装置やベルト搬送装置では、上述の如くベルトの蛇行や片寄り走行を速やかに解消して、ベルトの伝動能力や搬送能力を十分に発揮させることができる。
また、上記の回転機器を、糸やテープなどの巻き取り装置に利用すれば、上述の如く、その糸やテープなどの走行位置を安定させることができるので、それの巻き取りをより確実に行う上で有利になる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1及び図2は、本発明を例えばテープの巻き取り装置に適用した場合について示す。両図において符号1は、本発明に係る回転機器としての調心ローラであり、符号2,2は、それぞれ、調心ローラ1へのテープ3の巻き付き角度を調整するためのガイドローラである。この例ではテープ3は、図外の巻き取りローラなどに巻き取られて、全体として図の左側から右側に向かって走行するようになっている(例えば図8を参照)。ガイドローラ2は、図2に断面で示すように、巻き取り装置の縦壁部4に固定されるベース部材21に取り付けられた軸部材22と、この軸部材22にベアリング23,23によって回転自在に支持されたローラ部材24とを備え、上記テープ3の走行に連れて図の反時計回りに回転される。
一方、上記調心ローラ1には、テープ3が略180°の接触角で巻き掛けられており、そのテープ3の走行に連れて調心ローラ1が図の時計回りに回転するようになっている。また、テープ3の走行位置が調心ローラ3の幅方向(回転中心軸C1の方向)に片寄ったときには、これに伴い中心から幅方向にずれて作用する軸荷重によってローラ本体5が傾斜し、これによりテープ3の片寄りを戻すようになっている。
具体的には、上記調心ローラ1は、図3にも示すように、テープ3が巻き掛けられる円筒状のローラ本体5(回転体)と、このローラ本体5内に挿入されて同軸に位置し、該ローラ本体5の両端側をそれぞれベアリング6,6によって回転中心軸C1の周りに回転自在に支持する軸部材7と、それらローラ本体5及び軸部材7の周りを囲んで、該軸部材7の両端部をそれぞれ保持する円環状の保持部材8と、この保持部材8の外周フランジ部8bをベアリング9によって回転自在に支持する支持板部材10と、を備え、この支持板部材10の端部が上記ガイドローラ2と同じ縦壁部4に取り付けられている。
上記保持部材8は、深皿の底部全体に丸穴8aが開口したような形状とされ、その周壁部の上端から径方向外方に向かって延びるように外周フランジ部8bが形成されていて、全体として円環状をなしている。そして、その周壁部において直径方向に対向する2カ所にはそれぞれ上端から切り欠いて下端部を円弧状とした開口部8c、8cが形成されており、この開口部8c、8cにそれぞれ軸部材7の両端部が上方から嵌合されて、保持されるようになっている。
すなわち、上記ローラ本体5及び軸部材7は、円環状保持部材8の内周側においてその直径方向に延びるように配置され、そのローラ本体5の幅方向(回転中心軸C1の方向)の両端部からさらに外側に延びる軸部材7の両端部が、それぞれ上記保持部材8の開口部8c,8cによって保持されている。このように軸部材7の両端部を保持することで、その一方の端部のみを片持ち状態で保持するのに比べて撓みが小さくなるので、ローラ本体5の位置決めの精度を向上でき、ひいては、後述の如くテープ3の走行位置を調整する際の位置精度も向上する。
そうしてローラ本体5及び軸部材7を保持した上記保持部材8が、上記支持板部材10にその上方から組み付けられている。すなわち、支持板部材10は、平面視で異形の6角形状をなし、その厚み方向に貫通するようにして、上記保持部材8の周壁部よりも大径で且つその外周フランジ部8bよりも小径の丸穴10aが形成されており、全体として環状をなしている。その丸穴10aの下端部内周から内方に延びるように内周フランジ部10bが形成されていて、その内周端の描く円の直径が保持部材8の底部外周と略同じになっている。
そして、上記支持板部材10の丸穴10aに収容されるようにして、上記保持部材8が略同軸に配置される。このときに保持部材8の底部は、支持板部材10の内周フランジ部10bと略同じ高さに位置付けられ、また、保持部材8の外周フランジ部8bは、支持板部材10の上面よりも上方にやや離れて位置付けられる。こうして互いに上下に向かい合う保持部材8の外周フランジ部8bと支持板部材10の内周フランジ部10bとの間に、ベアリング9が配設されている。
このベアリング9は、この実施形態では一例として単列のボールベアリングであって、図4にのみ符号を付すが、内外輪91,92間に周方向に一定のピッチで配置された複数個のボール93,93,…が図示省略の保持器により保持されていて、それらのボール93,93,…が内外輪91,92の各溝部内を周方向に転動することによって、それら内外輪91,92が相対回転するようになっている。このベアリング9の外輪92は、上記支持板部材10の丸穴10aの内周に圧入されて、回転一体に嵌合されている一方、内輪91の内周には上記保持部材8の周壁部が圧入されており、これにより、保持部材8は、支持板部材10に対してベアリング9の中心軸C2周りに回動自在に連結されている。
そのように保持部材8の回動中心となる軸C2は、この実施形態では、鉛直方向を基準として所定角度範囲内で傾倒させることができるようになっている。すなわち、上記の如く保持部材8を支持する支持板部材10の端部は、巻き取り装置の縦壁部4の表面に重ね合わされたベース板部材11に略直交するように固定されている。このベース板部材11には、上記の如く保持部材8を介して支持板部材10に取り付けられた軸部材7の軸心、即ちローラ本体5の回転中心軸C1と同軸になるように裏面から丸孔11aが穿孔されており、この丸孔11aには、縦壁部4に埋め込まれたピン41の先端部が内側から嵌合していて、これにより、ベース板部材11が支持板部材10とともにピン41の周りに回動可能となっている。
また、上記ベース板部材11には、その丸孔11aを中心とする円周上の上下2カ所に円弧状の長穴11b、11bが形成されていて、この2つの長穴11b、11bにそれぞれ挿通されるボルト12,12が、上記ピン41の上下両側で縦壁部4にそれぞれ形成されたねじ穴4a,4aに螺合されている。従って、これらのボルト12,12を緩めて、ベース板部材11を支持板部材10とともにピン41の周りに回動させれば、その支持板部材10に直交する上記ベアリング9の中心軸C2、即ち、保持部材8の支持板部材10に対する回動中心軸を、鉛直方向から図1(b)において左右両側にそれぞれ傾倒させることができる。
そして、上記図1に示す調心ローラ1の使用状態では、図4に模式的に示すように、ローラ本体5に巻き掛けられたテープ3の張力による軸荷重Lが該ローラ本体5を介して軸部材7に略鉛直方向下向きに作用するようになるが、この軸荷重Lの方向を基準として、上記ベアリング9の中心軸C2は、ローラ本体5の回転方向前側(図の時計回りの側)に、即ち、図4に矢印Rで示すテープ3の走行方向前側に、角度αだけ傾倒している。
換言すれば、この実施形態では、上述の如く軸部材7の両端部を保持する保持部材8と、ベアリング9と、支持板部材10と、ベース板部材11とによって、上記軸部材7をローラ本体5と共に、このローラ本体5の回転中心軸C1に沿って見て、その回転方向前側に所定角度α傾倒した枢軸C2の周りに揺動自在に支持する支持機構が構成されている。
この支持機構において被支持部材である保持部材8と、これを支持する支持板部材10との間には、この両部材8,10が相互に上記枢軸C2の周りに摺動する摺動部として、ベアリング9が配設されており、図4の如くローラ本体5の回転中心軸C1に沿って見ると、ベアリング9は、同図に仮想線で示す部位が、上記回転中心軸C1と上記枢軸C2との交点を含むように配置されている。
上述の如く、軸部材7の揺動中心である枢軸C2を、軸荷重Lの方向を基準として当該ローラ本体5の回転方向前側に傾倒させたことにより、そのローラ本体5に巻き掛けられて走行するテープ3が幅方向に片寄って、軸荷重Lの位置がずれたときには、これにより発生する回転モーメントによって、ローラ本体5が軸荷重Lの方向に傾斜するとともに、テープ3に対し斜交いになって、ベルトの片寄りを戻す力を発生するようになる。
より詳しくは、図5に実線で示すようにテープ3がローラ本体5の幅の中央付近に掛かっているときには、軸荷重のベクトルLは枢軸C2と交差し、その分力L0が枢軸C2に沿って作用するとともに、分力L1は枢軸C2と直角に作用する。このとき、分力L1は枢軸C2の回りに回転モーメントを生じることはない。
一方、同図に仮想線で示すように、テープ3がローラ本体5の幅方向に片寄ると、その片寄った側にずれて軸荷重Lが作用することから、この軸荷重Lの分力L1が枢軸C2周りに作用して、軸部材7に回転モーメントを生じさせる。すなわち、仮に上記軸荷重Lの方向が枢軸C2と平行であれば、このときにはL=L0、L1=0となり、枢軸C2周りの回転モーメントは発生しないが、この実施形態のように軸荷重Lに対し枢軸C2を傾ければ、その軸荷重の分力L1によって枢軸C2周りの回転モーメントが発生するのである。ここで、上記角度αは、軸荷重Lの方向を基準とする枢軸C2の傾倒角に相当する。
そして、この実施形態では、上記図4等に示すように枢軸C2をローラ本体5の回転方向前側に傾倒させているから、上記の如くローラ本体5及び軸部材7が枢軸C2の周りに回動すると、該ローラ本体5は、軸荷重Lに直交する方向に見て図6(図4のVI矢視図)に示すように、その軸荷重Lの方向について、テープ3の片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜するのと同時に、その軸荷重Lの方向に見て図7(図4のVII矢視図)に示すように、テープ3の片寄ってきた側がベルト走行方向の前側になるように、該テープ3に対して斜交いの状態になる。なお、上記図5〜7においては、ローラ本体5が回動変位した状態を仮想線(二点鎖線)で示している。
そのようなローラ本体5の回動変位によって、テープ3には、該ローラ本体5が傾斜することによる戻し力(片寄りを戻す力)と、ローラ本体5が斜交いになることによる戻し力とが働き、これによりテープ3の走行位置が修正される。すなわち、テープ3には、主に巻き取り装置の特性によって作用する片寄り力と上記ローラ本体5からの戻し力とが作用し、両者がつり合う位置でテープ3が走行することになる。テープ3は、仮に外乱によって大きく片寄ることがあっても、上記戻し力と片寄り力とがつり合う位置に戻される。
ここで、上記斜交いによる戻し力は傾斜による戻し力に比べて、テープ3の位置を戻す効果が高いので、その斜交いによる戻し力を有効に利用するために、上記枢軸C2の傾倒角αは0度を越え45度以下の範囲に設定するのが好ましく、30度以下とするのがさらに好ましい。この実施形態では、一例として図4などに示すように、傾倒角αは約10〜20°くらいに設定している。
但し、そのように枢軸C2の傾倒角αを小さめに設定すると、幾何学的に軸荷重Lが枢軸C2の方向に大きく作用するようになるから、枢軸C2方向の軸荷重成分L0が大きくなるとともに、ローラ本体5及び軸部材7に回転モーメントを生ぜしめる枢軸C2周りの軸荷重成分L1は小さくなるので、特にこの実施形態のように比較的張力の小さなテープの巻き取り装置では、ローラ本体5の回動変位が遅れたり、或いはスムーズに回動しなくなる虞れがある。
この点について、この実施形態では、軸部材7等を保持する保持部材8(被支持部材)と、これを支持する支持板部材10との間の摺動部をボールベアリング9により構成して、その摩擦係数を小さくするとともに、このベアリング9を、できるだけ軸荷重Lの作用点に近づけることによって、そのベアリングに作用するこじりモーメントを抑えるようにしている。
すなわち、上述の如く、ローラ本体5の回転中心軸C1に沿って見て、枢軸C2が軸荷重Lの方向に対し傾倒しているということは、その軸荷重Lが枢軸C2に対し斜めに作用するということであるから、この枢軸C2の周りに保持部材8を回動支持するベアリング9が、仮に軸荷重Lの作用点から枢軸C2の方向に離れていると、その軸荷重Lによってベアリング9にこじりモーメントが作用し、摺動摩擦抵抗が増大する虞れがある。
しかし、この実施形態では、上述したように、ローラ本体5の回転中心軸C1に沿って見て、ベアリング9を回転中心軸C1及び枢軸C2の交点(=軸荷重Lの作用点)を含むように、即ち枢軸C2の方向には軸荷重Lの作用点と略同じ位置に配置したから(図4参照)、このベアリング9には軸荷重Lによるこじりモーメントは殆ど作用せず、こじりモーメントによって摺動摩擦抵抗の増大する虞れはない。
したがって、この実施形態に係る調心ローラ1によれば、ローラ本体5に巻き掛けられて走行するテープ3が、何らかの理由で該ローラ本体5の幅方向(回転中心軸C1の方向)に片寄り、軸荷重Lが枢軸C2に対応する位置からずれて作用するようになると、この軸荷重Lにより枢軸C2周りの回転モーメントが発生して、ローラ本体5及び軸部材7が回動変位し、これによりテープ3の走行位置が中央寄りに戻されるようになる。
しかも、そのようにローラ本体5及び軸部材7を枢軸C2の周りに回動支持する支持機構において、被支持側である保持部材8と支持側である支持板部材10との間にボールベアリング9を配設して両者間の摺動摩擦を低減し、その上さらに、そのベアリング9を内周側に軸荷重Lの作用点を含むように配置して、ベアリング9にこじりモーメントが殆ど作用しないようにしたから、上記ローラ本体5などの回動変位に対する摺動摩擦抵抗を極めて小さくすることができる。
そのため、テープ3の巻き取りのように張力が低くて、これにより調心ローラ1に作用する軸荷重Lが小さなときであっても、そのテープ3の片寄りに対してローラ本体5を遅れなくスムーズに回動変位(揺動)させて、必要十分な戻し力を直ちに与えることができる。つまり、片寄りの小さいうちに戻し力を与えてテープ3の走行位置を修正することができるから、その蛇行や片寄り走行を速やかに解消できる。
そうしてテープ3の蛇行や片寄り走行がなくなれば、ローラ本体5上のテープ3の走行位置を精度良く且つ安定的に制御することが可能になるので、この実施形態の巻き取り装置ではテープ3の巻き取りをより確実に行うことができる。この点については、上述の如く軸部材7の両端部を保持してその撓みが小さくなるようにし、これによりローラ本体5の位置決め精度を向上できることも有利に働く。
−テープ処理装置の一例−
図8には、上述したテープの巻き取り装置を含むテープ処理装置Aの構成例を示し、このテープ処理装置Aは、未処理のテープ3を、それが心材に積層状態で巻き付けられた巻出ロールR1から引き出す引出し部A1と、そのテープ3に所定の処理を行う処理部A2と、そうして処理されたテープ3を巻き取る巻取り部A3とからなる。この巻取り部A3が上述したテープ巻き取り装置である。
上記引出し部A1には、テープ3の走行する順にガイドローラR2、調心ローラR3、ガイドローラR4及び駆動ローラR5が配置されており、この駆動ローラR5が図示しない原動機によって図の反時計回りに回転されることで、上記巻出ロールR1からテープを引き出すようになっている。また、上記処理部A2は、テンションローラR6とガイドローラR7,R8,R9とに巻き掛けられて走行するテープ3を、そのガイドローラR7,R8の間に配設された処理装置Sによって処理するように構成されている。
そうして所定の処理が施されたテープ3は巻取り部A3へ進み、図示しない原動機により図の時計回りに回転される巻き取りローラR10に巻き取られて、上述のガイドローラ2、調心ローラ1、ガイドローラ2の順に走行する。この際、調心ローラ1の作動によってテープ3の走行位置が常に中央寄りに修正され、その蛇行や片寄り走行が防止される。
そして、この例では、上記のように巻取り部A3においてテープ3の蛇行や片寄り走行を防止する調心プーリ1の他に、上記引出し部A1においてもテープ3の蛇行や片寄り走行を防止すべく、上記調心ローラR3を配置している。この調心ローラR3は、例えば図9に示すような構造とされ、上記調心ローラ1と同様に、ローラ本体30が軸部材31によってその中心軸の周りに回転自在に支持されるとともに、この軸部材31と一体に枢軸の周りに揺動するように構成されている。
より詳しくは、図示の如く、調心ローラR3は、ローラ本体30をベアリング32によって支持する筒状の軸部材31と、この軸部材31に先端側33aが内挿された支持ロッド33と、枢軸を構成するピン34とを備えている。そして、図示は省略するが、上記支持ロッド33の他端側33bが引出し部A1の縦壁部などに取り付けられており、この際、上記ピン34の軸心が軸荷重の方向と一致するように配置されている。
すなわち、上記調心ローラR3は、調心ローラ1のようにベルト3の位置ずれに応じて自ら揺動するようにはなっておらず、その調心ローラ1のローラ本体5の回動変位(触れ角)が例えばワイヤー、シャフト、ギヤ等を介して機械的にフィードバックされるようになっている。こうして調心ローラ1から触れ角をフィードバックして、調心ローラR3のローラ本体30を同期して回動変位させることにより、上記引出し部A1においてもテープ3の蛇行や片寄り走行を防止することができる。
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記した実施形態のものに限定されず、その他の種々の構成をも包含する。すなわち、上記実施形態では、保持部材8と支持板部材10との摺動部であるボールベアリング9を、図4の如くローラ本体5の回転中心軸C1に沿って見て、この回転中心軸C1と上記枢軸C2との交点を含むように配置しているが、ベアリング9を軸荷重Lの作用点に近づけるという観点からは、これを軸部材7と重なるように配置するだけでもよい。
また、摺動部は上記ボールベアリング9でなく、例えばころ軸受など、それ以外の転がり軸受により構成してもよいし、或いは摺動材を用いることもできる。その場合に、摺動部は、ローラ本体5及び軸部材7を取り囲む円環状とする必要はなく、例えば、軸部材7の両端部に各々形成した円弧状の凸部を、それぞれ枢軸C2の周りに回動するように摺動自在に保持する円弧状の凹部によって構成してもよい。
また、上記実施形態では、巻き取り装置の縦壁部4に支持板部材10を取り付けるベース板部材11が、ピン41の周りに回動可能になっていて、ローラ本体5及び軸部材7の揺動中心である枢軸C2の角度が調整できるようになっているが、この角度は予め設定した値に固定するような構造であってもよい。
さらに、上記実施形態では、本発明の回転機器である調心ローラ1をテープ3の巻き取り装置に適用しているが、テープ3に限らず、それ以外の例えば糸、紐、ロープ等の巻き取り装置にも適用可能であることは勿論、本発明の回転機器を例えばプーリとして、これをベルト搬送、ベルト伝動などのためのベルト駆動装置にも適用できる。ベルト伝動装置に適用すれば、ベルトの伝動能力を十分に発揮させる上で有利になるし、ベルトコンベア等の搬送装置に適用すれば、物品の搬送能力を安定的に確保する上で有利になる。
さらにまた、図1や図8に示す調心ローラ1の使用状態はあくまで一例に過ぎず、上記のように糸や紐などの巻き取り装置に適用する場合、或いはベルト駆動装置に適用する場合に、それぞれ必要に応じて種々のレイアウトを採用することができる。例えば図1に示すように調心ローラ1へのテープ3の巻き付き角(接触角)は略180°とするのが好ましいが、これに限るものではない。