JP4451084B2 - ポリオレフィン樹脂分散体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水系および溶剤系の各種バインダー、インキ、塗料、接着剤などの用途に好適な、特定量の不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂を特定比率の両親媒性有機溶剤と水との混合媒体中に微細かつ安定に分散してなるポリオレフィン樹脂分散体に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機溶剤中にポリオレフィン樹脂が分散化されている非水分散体は、溶剤系の塗料、インキ、接着剤用のバインダーとして非常に重要である。このようなポリオレフィン樹脂の有機溶剤分散体は、ポリオレフィン樹脂を加熱等の操作により、良溶媒と呼ばれる有機溶剤に一度溶解させた後、貧溶媒と呼ばれる有機溶剤を添加したり、冷却条件を工夫したりしてポリオレフィン樹脂粒子を析出させる方法(析出法)が検討されている。特許文献1〜3には、乳化剤や分散剤などの分散化助剤を用いる析出法が記載されている。しかしながら、乳化剤や分散剤といった不揮発性の化合物は、乾燥後も樹脂中に残存するために、樹脂が有する本来の特性を悪化させてしまうおそれがあり、特に塗膜の耐水性が著しく低下してしまうという問題がある。さらに、界面活性剤などを含む塗膜は、それらがブリードアウトするために物性的に経時変化してしまうばかりでなく環境的、衛生的にも好ましくない。さらに、乳化剤や分散剤などを使用すると、得られるポリマー微粒子の粒子径が1μm以上と大きくなるため、室温レベルの低温での造膜性は良くない。また、特許文献4および5には、分散化助剤を用いずに非水溶媒中にてポリオレフィン樹脂粒子を製造する方法が記載されている。しかしながら、前者はポリマー微粒子の析出条件が非常に複雑であり、また、後者はポリオレフィン樹脂の物性が大きく限定されている。さらに、これらの方法で得られるポリマー微粒子の平均粒子径は1μm以上と大きく、低温での造膜性は認められない。
【0003】
水系では、酸変性ポリオレフィン樹脂を分散体とすることは、特許文献6〜8等など、数多く検討されており、平均粒子径を1μm以下とすることは可能であり、中には低温での造膜性が優れるものもある。しかし、水系の樹脂分散体は、溶剤系の塗料やインキのビヒクルあるいは溶剤系の塗料やインキによく用いられているトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶剤との混合安定性は殆ど無いため、これらの中に微細で均一かつ安定に分散させることは非常に難しかった。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−86203号公報
【特許文献2】
特開平6−65387号公報
【特許文献3】
特開平6−57006号公報
【特許文献4】
特開平7−258423号公報
【特許文献5】
特開2001−207013号公報
【特許文献6】
特開2000−72879号公報
【特許文献7】
特開2000−119398号公報
【特許文献8】
国際公開02/055598号パンフレット
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような課題に対して、不揮発性分散化助剤を実質的に添加していないためポリオレフィン樹脂の特性を損なうことがなく、特に耐水性、耐アルカリ性に優れた塗膜を形成することが可能で、粒子径が微細(1μm未満)であるため低温での造膜性に優れ、しかも、水および各種有機溶剤の両者との混合安定性に優れているポリオレフィン樹脂分散体、およびこの分散体を簡便に製造する方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定量の不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂を特定比率の両親媒性有機溶剤と水との混合媒体中に微細かつ安定に分散できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01〜25質量%であるポリオレフィン樹脂(A)、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)、水(D)を含有する分散体であって、(C)と(D)との質量比(C)/(D)が98/2〜55/45であり、塩基性化合物(B)が、アンモニアまたは沸点が200℃以下の有機アミン化合物であり、両親媒性有機溶剤(C)が、20℃において(C)に対する水の溶解性が20質量%以上であり、分散体中に不揮発性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体。
(2)両親媒性有機溶剤(C)が、水酸基を有する炭素数6以下の化合物であることを特徴とする(1)記載のポリオレフィン樹脂分散体。
(3)ポリオレフィン樹脂(A)の数平均粒子径が0.8μm以下であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリオレフィン樹脂分散体。
(4)ポリオレフィン樹脂(A)がエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂分散体。
(5)ポリオレフィン樹脂(A)がプロピレンおよび/またはブテンを含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂分散体。
(6)不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01〜25質量%であるポリオレフィン樹脂(A)、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)、および水(D)を混合し、加熱、攪拌する工程を含むポリオレフィン樹脂分散体の製造方法であって、質量比(C)/(D)が98/2〜55/45の範囲であり、塩基性化合物(B)が、アンモニアまたは沸点が200℃以下の有機アミン化合物であり、両親媒性有機溶剤(C)が、20℃において(C)に対する水の溶解性が20質量%以上であり、分散体中に不揮発性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリオレフィン樹脂分散体は、不飽和カルボン酸単位を特定量含むポリオレフィン樹脂(A)が、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)および水(D)を含有する媒体中に分散もしくは溶解されたものである。
【0008】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸単位(A1)を0.01〜25質量%含有している必要がある。不飽和カルボン酸単位(A1)の含有量が0.01質量%未満では、樹脂の分散化(液状化)が困難になり、25質量%を超えると耐水性、耐アルカリ性が低下したり、分散体の安定性が悪化する場合がある。これらの点から、不飽和カルボン酸単位(A1)の含有量は、0.05〜22質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%がさらに好ましく、1〜8質量%が特に好ましく、1〜7質量%が最も好ましい。不飽和カルボン酸単位(A1)は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入され、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸単位は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0009】
ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分(A2)としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のエチレン系炭化水素を挙げることができる。
【0010】
上記の(A1)、(A2)成分を含有するポリオレフィン樹脂の好ましい例として、第一に挙げられる樹脂の種類は、上記した不飽和カルボン酸単位(A1)、エチレン系炭化水素(A2)に加えて、さらに、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)を含有するものである。樹脂の分散化のし易さ、各種基材との密着性、塗膜の耐水性や耐アルカリ性などの点から、特に、(A2)と(A3)の質量比が(A2)/(A3)=65/35〜99/1の範囲とすることが性能のバランス上、好ましく、70/30〜97/3であることがさらに好ましく、75/25〜97/3であることが特に好ましい。〔(A2)+(A3)〕に対する(A3)成分の比率が1質量%未満では、ポリオレフィン樹脂の分散化は困難になり、良好な分散体を得ることが難しい。一方、化合物(A3)の含有比率が35質量%を超えると、(A2)成分によるポリオレフィン樹脂としての性質が失われ、各種基材との密着性、ヒートシール性、耐水性等の性能が低下する。
【0011】
アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)成分の具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等のアクリル酸またはメタクリル酸とアルコールとのエステル化物を挙げることができ、この中でもアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
【0012】
上記第一のポリオレフィン樹脂(A)としては、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体が最も好ましい。ここで、アクリル酸エステル単位は、後述する樹脂の分散化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、そのような場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
【0013】
また、(A1)、(A2)成分を含有する好ましい第二のポリオレフィン樹脂(A)の種類として、オレフィン成分(A2)がプロピレンおよび/またはブテンを主体とする樹脂が挙げられる。プロピレンおよび/またはブテンの含有量は50〜98質量%が好ましく、より好ましくは60〜98質量%、さらに好ましくは70〜98質量%、特に好ましくは80〜98質量%である。ブテン成分としては、1−ブテン、イソブテンが挙げられる。プロピレンおよび/またはブテンを含有するポリオレフィン樹脂には、さらにエチレン成分を2〜50質量%含有していることが好ましく、特に好ましい構成は、オレフィン成分(A2)として、プロピレン成分、ブテン成分、エチレン成分の3成分を含有するものであり、その構成比率は、この3成分の総和を100質量部としたとき、プロピレン成分8〜90質量部、ブテン成分8〜90質量部、エチレン成分2〜50質量部である。このようにエチレン成分を含有することで樹脂の分散性や塗膜性能が向上する。このポリオレフィン樹脂では、各成分の共重合形態は限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合等が挙げられるが、重合のし易さの点から、ランダム共重合されていることが好ましい。
【0014】
また、この第2のポリオレフィン樹脂(A)には、さらに他の成分をポリオレフィン樹脂全体の10質量%以下程度、含有していてもよく、このような成分としては、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン類等のアルケン類やジエン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0015】
なお、ポリオレフィン樹脂(A)を構成する無水マレイン酸単位等の不飽和カルボン酸無水物単位は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A)には、その他のモノマーが、少量、共重合されていても良い。例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A)の分子量は特に限定されないが、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートとしては、0.01〜10000g/10分が好ましく、より好ましくは0.5〜1000g/10分、さらに好ましくは1〜500g/10分、最も好ましくは1〜300g/10分のものを用いることができる。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の分散化は困難になる。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが10000g/10分を超えると、得られる塗膜がもろくなり、機械的強度が低下する。
【0018】
なお、ポリオレフィン樹脂(A)の合成法は特に限定されない。一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸単位はグラフト共重合(グラフト変性)されていてもよい。
【0019】
また、本発明の分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径(以下、mn)は、分散体の保存安定性が向上するという観点から、0.8μm以下である必要があり、低温での造膜性の点から0.005〜0.5μmが好ましく、0.005〜0.4μmがより好ましく、0.005〜0.3μmがさらに好ましく、0.005〜0.2が最も好ましい。さらに、体積平均粒子径(以下、mv)に関しても、1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.01〜0.5μmがさらに好ましく0.01〜0.3μmが最も好ましい。
【0020】
本発明の分散体は、塩基性化合物(B)を必要とし、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が塗膜の耐水性、耐アルカリ性などの面から好ましく、中でもアンモニアまたは沸点が200℃以下の有機アミン化合物がより好ましい。沸点が200℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性、耐アルカリ性などが悪化する場合がある。
【0021】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.7〜2.5倍当量がより好ましく、0.8〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、分散体が着色する場合がある。
【0022】
本発明における両親媒性有機溶剤(C)とは、20℃における有機溶剤(C)に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう〔20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている〕。中でも、分散安定性の点から溶解性が20質量%以上のものが好ましく、30質量%以上のものがより好ましく、50質量%以上のものがさらに好ましく、無限大(任意の割合で水と混ざる)のものが特に好ましい。有機溶剤(C)に対する水の溶解性が5質量%未満のものは、樹脂の分散化は可能であるが得られる分散体の安定性が著しく低下する。
【0023】
両親媒性有機溶剤(C)の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用しても良い。なお、有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の分散化時に揮発する割合が多くなり、樹脂の分散化が困難になる場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性などが悪化する場合がある。
【0024】
上記の両親媒性有機溶剤(C)の中でも、樹脂の分散化に効果が高く、得られる分散体の安定性が良好である点から、水酸基を有する炭素数6以下の化合物が好ましく、水酸基を有する炭素数4以下の化合物がより好ましい。そのような具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0025】
本発明に用いる水(D)はどのようなものであっても差し支えなく、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水、水道水、軟水、硬水などが挙げられる。
【0026】
本発明においては、ポリオレフィン樹脂を両親媒性有機溶剤(C)中に分散する際に水(D)を添加することが非常に重要であり、この際、両親媒性有機溶剤(C)と水(D)との質量比(C)/(D)を98/2〜55/45の範囲とする必要がある。(C)と(D)との混合媒体中の水の含有量が2質量%未満の場合は、ポリオレフィン樹脂を分散化することは可能であるが、分散体の安定性(保存安定性)が著しく低下してしまう。また、水の含有量が45質量%を超えると、各種の有機溶剤との混合安定性が悪化してしまうため溶剤系の用途には使用できない。両者のバランスをとる上で、(C)/(D)は97/3〜60/40であることが好ましく、95/5〜65/35であることがより好ましく、93/7〜65/35であることがさらに好ましく、92/8〜70/30であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の分散体は、不揮発性分散化助剤を添加しても安定な分散体とすることはできる。しかし、本発明の分散体は、これを用いなくても、ポリオレフィン樹脂を数平均粒子径0.8μm以下で媒体中に安定に維持することができ、一方、不揮発性分散化助剤は、もし添加した場合、塗膜形成後にもポリオレフィン樹脂中に残存し、塗膜を可塑化することにより、ポリオレフィン樹脂の特性、例えば耐水性や基材との密着性などを悪化させるので、不揮発性分散化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。しかしながら、耐水性などの性能を必要としない用途にはポリオレフィン樹脂に対して0.01〜20質量%程度含まれていても差し支えない。
ここで、「分散化助剤」とは、分散体の製造において、分散化促進や分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0028】
本発明でいう不揮発性分散化助剤としては、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0029】
保護コロイド作用を有する化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸単位の含有量が26質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0030】
本発明の分散体における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、7〜35質量%が特に好ましい。
【0031】
本発明のポリオレフィン樹脂分散体は低温での造膜性に優れ、分散している樹脂の融点よりも低い温度(さらに具体的には室温またはそれ以下の温度)でも透明性の高い塗膜を形成することができる。
【0032】
次に、ポリオレフィン樹脂分散体の製造方法について説明する。
本発明のポリオレフィン樹脂分散体を得るための方法は特に限定されないが、たとえば、既述の各成分、すなわち、特定組成のポリオレフィン樹脂(A)、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)と水(D)との特定割合の混合媒体を、好ましくは密閉可能な容器中で原料を加熱、攪拌する方法を採用することができ、この方法が最も好ましい。この際、水(D)を添加することが非常に重要であり、(C)と(D)との質量比(C)/(D)が98/2〜55/45とする必要がある。この方法によれば、不揮発性分散化助剤を実質的に添加しなくとも特定組成のポリオレフィン樹脂を良好に分散体とすることができる。
また、本発明では、分散体を得た後で(C)/(D)を98/2〜55/45の範囲内になるように、有機溶媒および/または水を添加しても差し支えない。
【0033】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された媒体と樹脂粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分分散化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも分散体の製造が可能である。
【0034】
この装置の槽内に上記原料を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を60〜200℃、好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは100〜180℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることによりポリオレフィン樹脂を十分に分散化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、分散体を得ることができる。槽内の温度が60℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の分散化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。槽内の加熱方法としては槽外部からの加熱が好ましく、例えば、オイルや水を用いて槽を加熱する、あるいはヒーターを槽に取り付けて加熱を行うことができる。槽内の冷却方法としては、例えば、室温で自然放冷する方法や0〜40℃のオイルまたは水を使用して冷却する方法を挙げることができる。
【0035】
なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ここでいうジェット粉砕処理とは、ポリオレフィン樹脂分散体のような流体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士や樹脂粒子と衝突板等とを衝突させて、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することであり、そのための装置の具体例としA.P.V.GAULIN社製ホモジナイザー、みずほ工業社製マイクロフルイタイザーM-110E/H等が挙げられる。
【0036】
上記のようにして、本発明の分散体は、ポリオレフィン樹脂が媒体中に分散または溶解され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0037】
また、得られた分散体中に未分散の樹脂が残存した場合でも、製造工程中でフィルター等のろ過を行って、こうした樹脂を除去すれば、以降の工程で分散体としての使用は可能である。
本発明における分散化は、条件によってやや低下する場合もあるが、概ねきわめて良好であり、樹脂はほとんど残存することなく分散化が達成される。
【0038】
本発明の分散体には、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を分散体中の樹脂100質量部に対して0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜60質量部添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
さらに、本発明の分散体に、必要に応じて無機粒子、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、顔料あるいは染料を添加して、本発明の分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。この際、乾燥条件の調整のために一般に使用されている高沸点溶剤を添加することもできる。また、分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を分散体に添加することも可能である。
【0040】
本発明の分散体から得られる樹脂組成物は、様々な基材との密着性に優れるため、接着剤として使用することができる。例えば、金属、ガラス、プラスチックの成形体、フィルム、紙等に使用することができる。
【0041】
次に、本発明の分散体の使用方法について説明する。
本発明の分散体は、塗膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の特性や後述する硬化剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン中のカルボキシル基と架橋剤との反応あるいは架橋剤の自己反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0042】
また、本発明の分散体を用いて形成される樹脂塗膜の厚さとしては、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜100μmが好ましく、0.01〜50μmがより好ましく、0.01〜30μmが特に好ましい。樹脂塗膜の厚さが上記範囲となるように成膜すれば、均一性に優れた樹脂塗膜が得られる。
【0043】
【作用】
本発明のポリオレフィン樹脂分散体は、分散の安定化のために、ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物および有機溶剤に対して、少量の水分の添加を必要とする。水分を必要とする理由は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基が、塩基性化合物によって水の存在下で中和され電離し、その結果生じるカルボキシルアニオンが、その電気的反発力によって両親媒性有機溶剤中での樹脂微粒子の凝集を抑制し、結果的に分散体を安定化させるためであると推測される。
【0044】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR、13C-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。13C-NMR分析では定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。また、不飽和カルボン酸単位の含有量は下記に示す方法〔(1−A)または(1−B)〕を用いて求めた。
(1−A)ポリオレフィン樹脂の酸価をJIS K5407に準じて測定し、その値から不飽和カルボン酸の含有量(グラフト率)を次式から求めた。
含有量(質量%)=(グラフトした不飽和カルボン酸の質量)/(原料ポリオレフィン樹脂の質量)×100
(1−B)赤外吸収スペクトル分析(Perkin Elmer System-2000 フーリエ変換赤外分光光度計、分解能4cm-1)を行い求めた。
(2)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した値である。
(3)ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製DSC−7)を用いて昇温速度10℃/分で測定した値である。
(4)分散化後のエステル基の残存量
分散化後のポリオレフィン樹脂分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、分散化前のアクリル酸エステルのエステル基量を100としてエステル基の残存率(%)を求めた。
(5)ポリオレフィン樹脂分散体の固形分濃度
ポリオレフィン分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、ポリオレフィン樹脂固形分濃度を求めた。
(6)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径(以下、mn)および体積平均粒子径(以下、mv)を求めた。
(7)分散体の外観
分散体の色調を目視観察により評価した。
(8)分散体の保存安定性
ポリオレフィン樹脂分散体を調製した直後、および分散体を室温で30日放置したときの外観を、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘または少量の凝集や沈殿物の発生が見られる。
×:固化または大量の凝集や沈殿物の発生が見られる。
(9)塗膜の耐水性
分散体を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、200℃で2分間乾燥した。このようにして作製したコートフィルムを室温で水道水に1日、浸漬した後、塗膜の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
○:外観に変化なし。
×:塗膜が溶解、あるいは剥離する。
(10)塗膜の耐アルカリ性
分散体を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、200℃で2分間乾燥した。このようにして作製したコートフィルムをNaOH水溶液(20℃においてpH12.0に調整)に50℃で3分間浸漬した後、塗膜の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
○:外観に変化なし。
×:塗膜が溶解、あるいは剥離する。
(11)ポリオレフィン樹脂分散体と水および有機溶剤との混合安定性
ポリオレフィン樹脂分散体10gに水、イソプロパノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンを各5gとを混合した後、室温で放置した場合に、混合液の外観(増粘、固化、凝集や沈殿物の発生)が変化するまでの日数を示す。
(12)ヘーズ(曇価)
JIS K7105に準じて、日本電色工業社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いて「ヘーズ(%)」を測定した。ヘーズが2.8%のPETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)に、5℃あるいは25℃の雰囲気中で乾燥後のコート膜厚が2μmになるようにポリオレフィン樹脂分散体をマイヤーバーでコートした後、コート温度と同じ温度で3日放置して乾燥させてコートフィルムを作製した。このようにして作製したコートフィルム全体のヘーズを測定した。ヘーズは基材フィルムのヘーズに近いほど、透明性が高いことを示し、ヘーズが10.0(%)以下の場合には、視覚的にコートフィルムの透明性は良好であり、このとき分散体は5℃または25℃において造膜可能であると判定した。
(13)塗膜の密着性評価
本発明の分散体を延伸ポリプロピレン(PP)フィルム(東セロ社製、OP U-1、厚み20μm)、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)、2軸延伸ナイロン6(Ny6)フィルム(ユニチカ社製エンブレム、厚み15μm)のコロナ処理面上に乾燥後の塗膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、PPフィルムを用いた場合は100℃で20分間、PETとNy6フィルムの場合は150℃で10分間乾燥した後、塗膜面に粘着テープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付けた後、勢いよくテープを剥離した。塗膜面の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:全く剥がれがなかった。
△:一部に剥がれが生じた。
×:全て剥がれた。
【0045】
実施例、比較例にて使用した樹脂の組成を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、ポリオレフィン樹脂(オ)は次のようにして得た。
〔ポリオレフィン樹脂(オ)の製造〕
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂(オ)を得た。得られた樹脂の組成は、プロピレン/ブテン/エチレン/無水マレイン酸(質量%)=60.7/22.4/10.6/6.3であり、GPC分析(東ソー社製HLC-8020、カラムはTSK-GEL、試料をテトラヒドロフランに溶解して40℃で測定、ポリスチレン換算分子量)から求めた重量平均分子量は40000であった。
【0048】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(ア)(ボンダインHX-8210、住友化学社製)、208.3gの無水エタノール(以下、EA)、3.3g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)及び28.4gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに40分間撹拌した。その後、空冷して、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
数平均粒子径、体積平均粒子径はそれぞれ0.10μm、0.28μmであり、その分布は1山であり、ポリオレフィン樹脂が媒体中に良好な状態で分散していた。さらに分散体の保存安定性は30日以上であった。なお、分散化後の樹脂のエステル基残存率は100%であり、アクリル酸エチルは加水分解されていなかった。このエステル基残存率は室温で30日、放置後でも変化せず100%であった。得られた分散体と水および各種有機溶剤との混合安定性は良好であり、水系および溶剤系の各種用途に応用が可能である。また、分散体から得られる塗膜の耐水性、耐アルカリ性は良好であった。分散体を5℃、25℃雰囲気中で乾燥したコートフィルムのヘーズはいずれも3.3%であり、透明性は良好であった。各種基材に対する密着性も良好であった。
【0049】
実施例2
添加するアミンの種類をトリエチルアミン(以下、TEA)とし、さらに有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。なお、分散化後の樹脂のエステル基残存率は98%であり、アクリル酸エチルの2%が加水分解されていた。このエステル基残存率は室温で30日、放置後でも変化せず98%であった。
【0050】
実施例3
添加するアミンの種類をアンモニア(以下、NH3、25%NH3水を用いた)とし、さらに有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0051】
実施例4
添加するアミンの量、および有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。この場合、30日後に少量の沈殿が認められた。
【0052】
実施例5
ポリオレフィン樹脂(イ)(ボンダインHX-8290、住友化学社製)を用い、有機溶剤の種類をn−プロパノール(以下、NPA)とし、さらに有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0053】
実施例6
ポリオレフィン樹脂(ウ)(ボンダインLX-4110、住友化学社製)を用い、有機溶剤の種類をNPAとし、さらに有機溶剤と水との混合比および固形分濃度を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0054】
実施例7
ポリオレフィン樹脂(エ)(プリマコール5980I、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、アクリル酸20質量%共重合、ダウ・ケミカル社製)を用い、有機溶剤と水との混合比および固形分濃度を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0055】
実施例8
ポリオレフィン樹脂(イ)を用い、有機溶剤の種類をイソプロパノール(以下、IPA)とし、さらに有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0056】
実施例9
ポリオレフィン樹脂(イ)を用い、有機溶剤の種類を1−ブタノール(以下、1-BA)とした以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0057】
実施例10
ポリオレフィン樹脂(イ)を用い、有機溶剤の種類を2−ブタノール(以下、2-BA)とした以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0058】
実施例11
ポリオレフィン樹脂(オ)を用い、有機溶剤の種類をNPAとした以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0059】
実施例12
ポリオレフィン樹脂(オ)を用い、有機溶剤の種類をエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、EG-Bu)とし、さらに有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表2に示した。
【0060】
実施例1〜12の結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
比較例1
有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体を得た。分散体およびこれから得られる塗膜の各種特性を表3に示した。得られた分散体とメチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンとを混合すると即座に増粘、固化してしまい混合安定性はなかった。この分散体は溶剤系の用途には不適であると判断される。
【0063】
比較例2
有機溶剤と水との混合比を表3記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で検討を行ったが、多量の樹脂の存在が目視で観察された。実質的に樹脂の分散体は得られなかった。
【0064】
比較例3
ポリオレフィン樹脂(イ)を用い、有機溶剤の種類を2−エチル−1−ブタノール(以下、E-BA)とした以外は実施例1と同様の方法で分散体の調製を試みた。120℃での分散化の状態は問題なかったが、冷却していく過程で著しく増粘し、室温では固化した。従って、各種の特性評価は行うことができなかった。
【0065】
比較例4
ポリオレフィン樹脂(イ)を用い、有機溶剤の種類を酢酸イソブチル(以下、IBAc)とし、有機溶剤と水との混合比を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で分散体の調製を試みた。120℃での分散化の状態は問題なかったが、冷却していく過程で著しく増粘し、室温では固化した。従って、各種の特性評価は行うことができなかった。
【0066】
比較例5
ポリオレフィン樹脂として不飽和カルボン酸単位を含有しない樹脂を用いた。樹脂としてポリエチレン(住友化学社製、スミカセンL211、メルトフローレートは12g/10分)(表3中ではL211と略す)を用いた以外は実施例1と同様の方法で検討を行ったが、多量の樹脂の存在が目視で観察された。実質的に樹脂の分散体は得られなかった。
【0067】
比較例6
塩基性化合物であるDMEAを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で検討を行ったが、多量の樹脂の存在が目視で観察された。実質的に樹脂の分散体は得られなかった。
【0068】
比較例1〜6の結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1〜6、8、11、12では、両親媒性の有機溶剤として水の溶解性が無限大であるアルコール(水酸基含有化合物)を用いて、有機溶剤と水との混合比〔(C)/(D)〕を本発明の請求項の範囲にすることで微細かつ良好なポリオレフィン樹脂分散体を得ることができた。分散体は水および各種有機溶剤との混合安定性も良好であった。この分散体から得られる塗膜の耐水性、耐アルカリ性、各種基材との密着性は良好であった。ただし、水の含有量が少なくなるにつれて分散粒子径が大きくなり、保存安定性が低下する傾向が見られた(実施例4)。水の含有量が多くなってくるとトルエンとの混合安定性が低下する傾向が認められた(実施例3)。実施例7では不飽和カルボン酸単位含有量の多いポリオレフィン樹脂を用いた。この場合、分散体は得られるものの、塗膜の耐アルカリ性や各種基材との密着性はやや低下した。実施例9、10では水の溶解性がやや低いアルコールを用いた。この場合、水の溶解性が低くなるにつれて分散体の安定性は低下する傾向が認められた。
【0071】
一方、各比較例では以下のような問題があった。
比較例1では、有機溶剤と水との混合比を本発明の請求項の範囲外(水の比率が多い)とした。この場合、良好な分散体は得られたが、疎水性の有機溶剤(メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン)との混合安定性はなかった。比較例2では、有機溶剤と水との混合比を本発明の請求項の範囲外(水の比率が少ない)とした。この場合、多量の樹脂が残存してしまい実質的に樹脂の分散体は得られなかった。比較例3、4では、有機溶剤として本発明でいう両親媒性有機溶剤以外のものを用いた。この場合、製造工程において、室温まで冷却すると分散体は固化してしまい実用的な分散体は得られなかった。比較例5では不飽和カルボン酸単位を含有しないポリオレフィン樹脂を用いた。この場合、多量の樹脂が残存してしまい実質的に樹脂の分散体は得られなかった。比較例6では塩基性化合物(B)を添加しなかった。この場合、多量の樹脂が残存してしまい実質的に樹脂の分散体は得られなかった。
【0072】
【発明の効果】
本発明のポリオレフィン樹脂分散体は、低温で容易に造膜でき、得られる膜の透明性にも優れており、分散体中に不揮発性分散化助剤を含んでいないためポリオレフィン樹脂の性能を全く損なうことのない塗膜を形成することができる。しかも水および各種有機溶剤の両者との混合安定性に優れているため水系および溶剤系の各種バインダー、インキ、塗料、接着剤などの用途に好適である。さらに、本発明の分散体は簡便な方法で製造することができる。
Claims (6)
- 不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01〜25質量%であるポリオレフィン樹脂(A)、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)、水(D)を含有する分散体であって、(C)と(D)との質量比(C)/(D)が98/2〜55/45であり、塩基性化合物(B)が、アンモニアまたは沸点が200℃以下の有機アミン化合物であり、両親媒性有機溶剤(C)が、20℃において(C)に対する水の溶解性が20質量%以上であり、分散体中に不揮発性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体。
- 両親媒性有機溶剤(C)が、水酸基を有する炭素数6以下の化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂分散体。
- ポリオレフィン樹脂(A)の数平均粒子径が0.8μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリオレフィン樹脂分散体。
- ポリオレフィン樹脂(A)がエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂分散体。
- ポリオレフィン樹脂(A)がプロピレンおよび/またはブテンを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂分散体。
- 不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01〜25質量%であるポリオレフィン樹脂(A)、塩基性化合物(B)、両親媒性有機溶剤(C)、および水(D)を混合し、加熱、攪拌する工程を含むポリオレフィン樹脂分散体の製造方法であって、質量比(C)/(D)が98/2〜55/45の範囲であり、塩基性化合物(B)が、アンモニアまたは沸点が200℃以下の有機アミン化合物であり、両親媒性有機溶剤(C)が、20℃において(C)に対する水の溶解性が20質量%以上であり、分散体中に不揮発性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体の製造方法。
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