JP4270791B2 - 合成紙用水性接着剤及び積層体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成紙との接着性に優れた水性接着剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機溶剤を大量に使用する接着剤業界では、近年、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善の立場から有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、様々な樹脂の水性接着剤の開発が行われている。
【0003】
ポリオレフィン系の合成紙用の接着剤としては、アクリル系エマルションやエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルションが多く使用されている。
【0004】
一般に、アクリル系エマルションやエチレン含有量が低いエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルションは、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物の存在下で、乳化重合あるいは懸濁重合して得られることが知られている。しかし、エチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチレン含有量が高くなるにつれて、重合時の反応圧力が高くなるため、装置面や安全面を考慮すると、安定なエマルション(水性分散体)を得ることが困難になる。エチレン含有量の高いエチレン−酢酸ビニル共重合体は、一般に高圧エチレンプラント等で高圧ラジカル重合して得られており、通常、水性分散体の状態では得られない。
【0005】
エチレン含有量の高いエチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体を得る方法としては、特開平9−296081号公報記載のように、系中に乳化剤を添加して高温下で樹脂を乳化する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、上記の方法で作製した水性分散体は、系中に親水性の高い乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物などの不揮発性水性化助剤を含んでおり、これらは乾燥後も被膜中に残存するために、形成される被膜の耐水性は著しく低下してしまうという問題がある。また、被膜中に親水性の高い乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物などの不揮発性水性化助剤を含んでいる場合は、疎水性基材との接着性が低下してしまう。さらに、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物を含む被膜は、それらがブリードアウトする恐れがあるために環境的、衛生的にも好ましくない。
【0007】
上記問題に対して、不飽和カルボン酸成分の共重合率を高くすることで、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物を添加することなくポリオレフィン樹脂水性分散体を得ることが知られている。例えば、不飽和カルボン酸の含有量が20質量%程度のエチレン−アクリル酸共重合樹脂やエチレン−メタクリル酸共重合樹脂等のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂の水性分散体は従来から知られており、特に、アルカリ金属化合物やアンモニアを用いると前記樹脂の水分散液は製造が容易であり、広く用いられている。しかしながら、不飽和カルボン酸の含有量が高い樹脂を用いた場合、ポリプロピレンのような極性の低い樹脂との接着性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような問題に対して、合成紙との接着性に優れ、低温で透明性、耐水性に優れた樹脂層を形成することが可能な水性接着剤を提供しようとするものである。
【0009】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成のポリオレフィン樹脂からなる水性分散体は、合成紙との接着性に優れることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、第一に、下記ポリオレフィン樹脂と沸点が30〜250℃の有機アミン化合物とを含有し、有機アミン化合物の含有量が、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であり、ポリオレフィン樹脂が数平均粒子径1μm以下で分散した水性分散体からなることを特徴とする合成紙用水性接着剤である。
ポリオレフィン樹脂:
(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される少なくとも1種の化合物とから構成される共重合体であって、各構成成分(A1)〜(A3)の質量比が下記式(1)、(2)をみたすポリオレフィン樹脂。
0.5 ≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}× 100 < 5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【化2】
また、第二に、少なくとも3層からなり、その3層が合成紙、上記記載の水性接着剤を塗布、乾燥してなる接着層、及び熱可塑性樹脂成形体若しくは合成紙であることを特徴とする積層体である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明における合成紙用水性接着剤は、特定のポリオレフィン樹脂を数平均粒子径1μm以下で水性媒体中に分散させたものである。特定のポリオレフィン樹脂を用いることで乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物のような不揮発性の水性化助剤を特に使用しなくても、数平均粒子径1μm以下のポリオレフィン樹脂水性分散体とすることができ、合成紙との接着性に優れた接着剤となる。
【0011】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂は不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)成分をこの樹脂全体〔(A1)+(A2)+(A3)〕に対して0.01質量%以上、5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以上、5質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%以上、5質量%未満含有している必要があり、1質量%以上、4質量%以下が最も好ましい。(A1)成分の含有量が0.01質量%未満の場合は、樹脂を水性化(液状化)することが困難になり、良好な水性接着剤を得ることが難しい。一方、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量が5質量%を超えた場合は、水性化はし易くなるが、疎水性の基材との接着性が低下したり、架橋剤との混合安定性が低下してしまう恐れがある。
【0012】
ポリオレフィン樹脂の(A1)成分として用いることのできる不飽和カルボン酸またはその無水物は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂は、下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される(A3)成分が構成成分として必要であり、この成分によって、ポリオレフィン樹脂に親水性が付与されるため、(A1)成分が5質量%未満であっても、乳化剤や保護コロイドなどの不揮発性水性化助剤の添加なしに水性化することができる。エチレン系炭化水素(A2)成分と(A3)成分との質量比(A2)/(A3)は、55/45〜99/1の範囲であることが必要であり、60/40〜98/2であることが好ましく、65/35〜97/3であることがより好ましく、70/30〜97/3であることがさらに好ましく、75/25〜97/3であることが特に好ましい。〔(A2)+(A3)〕に対する(A3)成分の比率が1質量%未満では、ポリオレフィン樹脂の水性化は困難になり、良好な水性接着剤を得ることが難しい。一方、化合物(A3)の含有比率が45質量%を超えると、(A2)成分によるポリオレフィン樹脂としての性質が失われ、耐水性や様々な基材との接着性などの性能が低下する恐れがある。
【0014】
【化3】
【0015】
本発明のポリオレフィン樹脂を構成するエチレン系炭化水素(A2)成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0016】
本発明のポリオレフィン樹脂を構成する上記式(I)〜(IV)のいずれかで示される(A3)成分としては、例えば、式(I)で代表される(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、式(II)で代表されるマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、式(III)で代表される(メタ)アクリル酸アミド類、式(IV)で代表されるメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、あるいは(メタ)アクリル酸エチルが特に好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂としては、エチレン、アクリル酸メチルあるいはアクリル酸エチル、無水マレイン酸からなる三元共重合体が最も好ましい。ここで、アクリル酸エステル単位は、後述する樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、そのような場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
【0018】
なお、本発明におけるポリオレフィン樹脂を構成する無水マレイン酸単位等の不飽和カルボン酸無水物単位は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する水性媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
また、本発明において、樹脂のカルボキシル基量を基準として量を規定する場合には、樹脂中の酸無水物基はすべて開環してカルボキシル基をなしていると仮定して算出する。
【0019】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂には、その他のモノマーが、少量、共重合されていても良い。例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二硫化硫黄等が挙げられる。
【0020】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1〜500g/10分、好ましくは0.1〜300g/10分、より好ましくは0.1〜250g/10分、さらに好ましくは0.5〜200g/10分、最も好ましくは1〜100g/10分のものを用いることができる。ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.1g/10分未満では、樹脂の水性化は困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが500g/10分を超えると、その水性分散体から得られる被膜は、硬くてもろくなり、接着性、機械的強度が低下する。
【0021】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂の合成法は特に限定されないが、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物を用いない方が好ましい。一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸、あるいはその無水物はグラフト共重合(グラフト変性)されていても良い。
【0022】
本発明の水性分散体は、上記のポリオレフィン樹脂が水性媒体に分散もしくは溶解されている。ここで、水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、後述する水溶性の有機溶剤を含有していてもよい。また、後述する塩基性化合物を含有していてもよい。
【0023】
また、本発明の水性接着剤であるポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は、1μm以下である必要があり、水性分散体の保存安定性が向上するという点、及び低温での造膜性の向上の点から、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.1μm未満が最も好ましい。
【0024】
本発明の水性接着剤における、ポリオレフィン樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂被膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、10〜45質量%が特に好ましい。
【0025】
本発明の水性分散体は、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことが特に好ましい。不揮発性水性化助剤は、被膜形成後にもポリオレフィン樹脂中に残存し、被膜を可塑化するため、ポリオレフィン樹脂の特性、例えば耐水性や接着性等を悪化させる。本発明は、不揮発性水性化助剤を特に添加する必要がなく、添加しない場合には特に耐水性、接着性等の特性が優れたものとなる。
【0026】
ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性化助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした不揮発性水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.1質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0027】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0029】
本発明の水性接着剤において、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物はカルボキシル基を中和できるものであれば良い。従って、このような目的で添加される塩基性化合物は、水性化助剤といえるが、本発明の効果を損なわないためには塩基性化合物は揮発性のものが用いられる。
【0030】
このような塩基性化合物として、沸点が 30 〜 250 ℃であり被膜形成時に揮発する有機アミン化合物が、被膜の耐水性の面から用いられる。中でも、沸点が50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0031】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると樹脂層の形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0032】
本発明においては、ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に有機溶剤を添加することが好ましい。使用する有機溶剤量は、水性媒体中の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤量が40質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、本発明の目的のひとつ(環境保護)を逸脱するだけでなく、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。
【0033】
一般に、水性接着剤に含有される有機溶剤は、その一部をストリッピングと呼ばれる操作で系外へ留去させることができるが、本発明の水性分散体においても、この操作によって、水性分散体中の有機溶剤量を上記の範囲内で適度に減量してもよく、10質量%以下とすることができ、3質量%以下であれば、環境上好ましい。ストリッピングによって有機溶剤を留去するには、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くするなどの生産プロセスにおける処置が必要となるため、こうした生産性を考慮した有機溶剤量の下限は0.01質量%程度(本発明の測定に使用した分析機器の検出限界)である。しかし、0.01質量%未満であっても水性分散体としての性能は特に問題とはならない。本発明の水性分散体は、ストリッピングによって有機溶剤量を低くしても、特に性能面での影響はなく、各種用途に良好に使用することができる。
【0034】
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性接着剤を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法を挙げることができる。有機溶剤の含有率はガスクロマトグラフィーで定量することができる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるために、例えば、粘度が上昇し作業性が悪くなるような場合には、予め水性分散体に水を添加しておくこともできる。
【0035】
有機溶剤としては、良好な水性分散体を得るという点から、ポーリング(Pauling)の電気陰性度が3.0以上の原子(具体的には酸素、窒素、フッ素、塩素)を分子内に1個以上有しているものを用いることが好ましい。さらにその中でも、20℃における水に対する溶解性が5g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは10g/L以上である。
【0036】
本発明において使用される有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用しても良い。なお、有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂被膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0037】
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0038】
本発明の方法で作製した水性接着剤は、25℃以下でも透明性の高い樹脂層を形成することができる。
ここでは、透明性の目安として、室温でポリオレフィン樹脂水性分散体をコートしたコートフィルムの「ヘーズ(曇価)」を用いる。基材としてヘーズ2.0〜5.0(%)のPETフィルムを用い、これにポリオレフィン樹脂水性分散体を25℃にて乾燥後コート膜厚2μmでコートし、25℃で乾燥する。こうして得られたコートフィルム全体のヘーズが10.0(%)以下となる。本発明では、同様の操作を5℃でおこなってもヘーズが10.0(%)以下となる。
【0039】
次に、ポリオレフィン樹脂を水性媒体中に分散した水性接着剤の製造方法について説明する。
本発明の水性接着剤を得るための方法は特に限定されないが、たとえば、既述の各成分、すなわち、特定組成のポリオレフィン樹脂、塩基性化合物、有機溶剤、及び水を好ましくは密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができ、この方法が最も好ましい。この方法によれば、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物などの不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも特定組成のポリオレフィン樹脂を良好に水性分散体とすることができる。
【0040】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0041】
水性化に用いられるポリオレフィン樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0042】
この装置の槽内に水、塩基性化合物及び有機溶剤とからなる水性媒体、並びに粒状ないしは粉末状のポリオレフィン樹脂を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を80〜200℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜200℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることによりポリオレフィン樹脂を十分に水性化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が80℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の水性化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。槽内の加熱方法としては槽外部からの加熱が好ましく、例えば、オイルや水を用いて槽を加熱する、あるいはヒーターを槽に取り付けて加熱を行うことができる。
槽内の冷却方法としては、例えば、室温で自然放冷する方法や0〜40℃のオイルまたは水を使用して冷却する方法を挙げることができる。
【0043】
なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ここでいうジェット粉砕処理とは、ポリオレフィン樹脂水性分散体のような流体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士や樹脂粒子と衝突板等とを衝突させて、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することであり、そのための装置の具体例としては、A.P.V.GAULIN社製ホモジナイザー、みずほ工業社製マイクロフルイタイザーM-110E/H等が挙げられる。
【0044】
このようにして得られた水性分散体の固形分濃度の調整方法としては、例えば、所望の固形分濃度となるように水性媒体を留去したり、水により希釈したりする方法が挙げられる。
【0045】
上記のようにして、本発明の水性分散体は、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に分散又は溶解され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0046】
また、水性接着剤製造における水性化収率は、得られた水性接着剤に残存する粗大粒子の量によって知ることができる。具体的には、水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、フィルター上に残存する樹脂量を測定する。
なお、残存樹脂が多く収率が低い場合でも、製造工程中で上記の濾過を行って、こうした粗大粒子を除去すれば、以降の工程で水性分散体としての使用は可能である。
本発明における水性化収率は、条件によってやや低下する場合もあるが、概ねきわめて良好であり、粗大粒子はほとんど残存することなく水性化が達成される。
【0047】
本発明の水性接着剤は、不飽和カルボン酸の含有量が低いため、様々な添加剤との混合安定性に優れる。例えば、他の重合体の水性分散体、金属イオン、無機粒子、あるいは架橋剤等を添加することができる。
【0048】
他の重合体の水性分散体としては、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0049】
耐ブロッキング性、耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を水性接着剤中の樹脂100質量部に対して0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜60質量部添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
【0050】
さらに、本発明の水性接着剤に、必要に応じて粘着付与剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加して、本発明の水性分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。また、水性接着剤の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を水性分散体に添加することも可能である。
【0051】
上記に示した他の重合体の水性分散体、架橋剤、粘着付与剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、顔料あるいは染料などの添加剤は2種類以上、組み合わせて用いても良い。
【0052】
本発明の水性接着剤は、合成紙、特にポリオレフィン系合成紙用の接着剤として用いることが好適である。ここで、ポリオレフィン系とは、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を主体とすることを意味する。これらの樹脂は、単独で用いもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中では、ポリプロピレンを用いることが、耐薬品性、耐熱性、コストの面などから最も好ましい。
【0053】
ポリプロピレンの立体構造は特に限定されないが、例えば、アイソタクチック又はシンジオタクチック、及び種々の程度の立体規則性を有するプロピレン単独重合体や、主成分であるプロピレンと、エチレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のαオレフィンとの共重合体を挙げることができる。これらの共重合体は、2元以上の多元共重合体であってもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。
【0054】
合成紙は、フィラーを含有するものであっても(一般には75質量%以下)、好適に本水性接着剤の被着体とすることができる。合成紙に使用するフィラーとしては、無機系では、炭酸カルシウム、クレイ、シリカ、けいそう土、タルク、酸化チタン、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナ等を挙げることができる。フィラーの平均粒子径は0.01〜15μmのものが好ましい。有機系では、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン、環状ポリオレフィン等の重合体であって、ポリオレフィン樹脂の融点より高い融点ないしガラス転移温度を有するものを使用することができる。
【0055】
本発明の接着剤の被着体とするポリオレフィン系合成紙の構造は、特に限定されない。したがって、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば基材層と表面層の2層構造、基材層と表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。また、各層は無機や有機のフィラーを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
【0056】
また、ポリオレフィン系合成紙としては、微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙を使用することができる。中でも空孔率が5〜60%、好ましくは8〜40%のものを用いることが好ましい。
【0057】
本発明に用いるポリプロピレン系合成紙としては、例えば、王子油化合成紙株式会社製のユポFPG、ユポFGS、ユポGFG、ユポKPK等を挙げることができる。
【0058】
ポリオレフィン系合成紙の厚みは特に限定されない。なお、こうした合成紙の厚みは20〜400μm程度である。
【0059】
本発明の水性接着剤は、合成紙だけでなく、熱可塑性樹脂への接着性も優れているため、その使用法としては、合成紙と合成紙とをの貼り合わせのみならず、合成紙と熱可塑性樹脂フィルムとの貼り合せにも好適に使用できる。
【0060】
合成紙に貼り合わせる熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6(以下、Ny6)、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン(以下、PP)、ポリエチレン(以下、PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルム、またはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。中でも、PPまたはPEからなるフィルムを用いることが良く、特にPPフィルムを用いることが良い。ポリオレフィン樹脂は、少量のエチレン性不飽和化合物が共重合されていても良く、無水マレイン酸等で酸変性されていても良い。熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも良く、製法も特に限定されない。熱可塑性樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常1〜1000μmであれば良い。また、フィルム表面はコロナ処理、プラズマ処理、あるいは酸化処理等の表面処理を施した方が接着性は良くなる傾向がある。
【0061】
次に、本発明の水性接着剤の使用方法について説明する。
本発明の水性接着剤は、樹脂層の形成能に優れているので、公知の塗布方法、例えばグラビアロールコーティング、枚葉グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、樹脂層を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の特性により適宜選択されるものであるが、経済性、及び合成紙の耐熱性を考慮した場合、加熱温度としては、10〜165℃が好ましく、30〜160℃がより好ましく、50〜150℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜10分が好ましく、5秒〜5分がより好ましく、10秒〜5分が特に好ましい。
【0062】
また、本発明の水性接着剤は、数平均粒子径が小さく、また液状であるため、基材表面に薄く塗ることが可能であり、塗布量はその用途によって適宜選択されるものであるが、例えば乾燥後の塗布量として0.1〜50g/m2とすることが好ましい。接着性、透明性等の性能を考慮すると、0.3〜30g/m2がより好ましく、0.5〜20g/m2がさらに好ましく、1〜10g/m2が特に好ましい。塗布量が0.1g/m2未満の場合は、接着性が不十分となる。
【0063】
なお、樹脂被膜の厚さを調節するためには、コーティングに用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする樹脂被膜の厚さに適した濃度の水性分散体を使用することが好ましい。このときの濃度は、調製時の仕込み組成により調節することができる。また、一旦調製した水性接着剤を適宜希釈、あるいは濃縮して調節してもよい。
【0064】
本発明の水性接着剤を用いて合成紙と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合せる場合には、水性接着剤を合成紙または熱可塑性樹脂フィルムおいずれの表面に塗布してもよいが、両者の接着性を向上させる点から合成紙表面に塗布する方が好ましい。
次いで、このようにして作製した接着層を有する基材と各種基材とを加圧下で接着させる。このとき接着性を確保するために加熱下で加圧することが好ましく、その温度としては、60〜165℃が好ましく、80〜150℃がより好ましく、90〜140℃が特に好ましい。60℃未満では、十分な接着性を得ることができず、165℃を超えると合成紙の耐熱性以上であるので好ましくない。この際に用いる装置としては特に限定されないが、例えば、熱プレス機、2本のロールバーで両基材を挟み込み加圧しながら両基材を供給するロールラミネ-ターなどが挙げられる。その際の圧力は、十分な接着性を確保でき、基材の特性を損なわない範囲であることが好ましく、0.01〜5MPaが好ましく、0.05〜3MPaがより好ましい。
【0065】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定又は評価した。
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
(2)水性化後のエステル基の残存量
水性化後のポリオレフィン樹脂の水性分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、水性化前のアクリル酸エステルのエステル基量を100としてエステル基の残存率(%)を求めた。
(3)水性接着剤の固形分濃度
水性接着剤を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、不揮発成分の濃度を求めた。
(4)水性接着剤の粘度
トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、温度20℃における水性分散体の回転粘度を測定した。
(5)水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径を求めた。
(6)水性化収率
水性化後の水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)した際に、フィルター上に残存する樹脂質量を測定し、仕込み樹脂質量より収率を算出した。
(7)水性接着剤の外観
水性接着剤の色調を目視観察により評価した。
(8)塗膜の耐水性
水性接着剤を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製 エンブレットPET12,厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが約2μmになるようにメイヤーバーでコートし、200℃で1分間乾燥した。このようにして作製したコートフィルムを水道水に1日、浸漬した後、コート層の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
○:外観に変化なし。
×:コート層が溶解、あるいは剥離する。
(9)ポットライフ
水性接着剤を室温で90日放置したときの外観を、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘がみられる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
(10)水性接着剤中の有機溶剤の含有率
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC-8A〔FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG-HT(5%)-Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール〕を用い、水性接着剤または水性接着剤を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤であるイソプロパノールの含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(11)ヘーズ(曇価)
JIS K7105に準じて、日本電色工業社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いて「ヘーズ(%)」を測定した。ヘーズが2.8%のPETフィルム(ユニチカ社製 エンブレットPET12,厚み12μm)に水性接着剤を乾燥後のコート膜厚が2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、25℃の雰囲気中で3日放置して乾燥させてコートフィルムを作製した。このようにして作製したコートフィルム全体のヘーズを測定した。
(12)樹脂被膜の耐ブロッキング性
ポリプロピレン系合成紙であるユポ紙(ユポ社製FGS-95)に水性接着剤を乾燥後の塗布量が4g/m2になるように塗布した後、100℃で1分間、乾燥させ、樹脂被膜を形成させた。室温で1日放置後、塗布面にPPフィルム(出光ユニテック社製ピュアソフティH-R111、両面コロナ品、厚み300μm)を重ね合わせた状態で、200g/cm2の負荷をかけ、25℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その耐ブロッキング性を次の3段階で評価した。
○:フィルムを軽く持ち上げる程度で剥離する。
△:フィルムを引っ張ることで剥離する。
×:フィルムを引っ張っても剥離しない。
(13)接着性評価方法
実施例中に記載した方法で作製したサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張り試験機(インテスコ株式会社製のインテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張り速度200mm/分、引張り角度180度で接着層の剥離強度(N/15mm)を測定した。なお、5回測定の平均値とした。
【0066】
使用した樹脂の組成を表1に示す。なお、表1に記載されている樹脂の融点はDSCで測定した値であり(測定装置:パーキン・エルマー社製DSC−7)、メルトフローレートはJIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した値である。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX-8290(A)、住友化学社製〕、60.0gのイソプロパノール(以下、IPA)、4.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.8倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)及び175.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140〜145℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体を得た。水性分散体の各種特性、及び被膜特性を表2に示した。
数平均粒子径は0.071μmであり、その分布は1山であり、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。さらに、水性分散体のポットライフは90日以上であった。なお、水性化後の樹脂のエステル基残存率は100%であり、アクリル酸エチルは加水分解されていなかった。このエステル基残存率は室温で90日、放置後でも変化せず100%であった。この水性分散体を前記した方法でコートしたコートフィルムのヘーズは2.8%であり、透明性は良好であった。また、耐水性、耐ブロッキング性も良好であった。
ここで得られた水性分散体を水性接着剤E-1とし、ポリプロピレン系合成紙であるユポ紙(ユポ社製FGS-95)に乾燥後の塗布量が4g/m2となるようにマイヤーバーで塗布し、100℃で1分間、乾燥させた。その塗布面に熱可塑性フィルム〔2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製 エンブレットPET12、厚み12μm)、2軸延伸Ny6フィルム(ユニチカ社製 エンブレム、厚み15μm)、PPフィルム(出光ユニテック社製 ピュアソフティH-R111、両面コロナ品、厚み300μm)、PEフィルム(タマポリ社製 V-50、厚み40μm)〕を重ね、熱プレスを用いて、PEの場合は100℃、PPの場合は110℃、PET、Ny6の場合は120℃で0.2MPaで1秒間、プレスすることで引張り試験用サンプルを作製した。接着性を測定した結果を表2に示す。
【0069】
実施例2
ポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX-8210(B)、住友化学社製〕を用い、添加するTEAの量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体を得て、これを水性接着剤E-2とした。水性分散体の各種特性、被膜特性、及び接着性を表2に示した。
【0070】
実施例3
ポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX-8140(C)、住友化学社製〕を用い、添加するIPAの量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体を得て、これを水性接着剤E-3とした。水性分散体の各種特性、被膜特性、及び接着性を表2に示した。
【0071】
実施例4
ポリオレフィン樹脂〔ボンダインTX-8030(D)、住友化学社製〕を用い、添加するTEAとIPAの量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体を得て、これを水性接着剤E-4とした。水性分散体の各種特性、被膜特性、及び接着性を表2に示した。
【0072】
実施例5
E-1 250g、蒸留水10gを1Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約100gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、31.3質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が30.0質量%になるように調整し、水性分散体を得た。水性分散体の各種特性、及び被膜特性を表2に示した。
ここで得られた水性分散体を水性接着剤E-5とし、実施例1と同様の方法で引張り試験用サンプルを作製した。接着性を測定した結果を表2に示す。
【0073】
実施例6〜8
実施例1で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体である水性接着剤E-1と架橋剤とを混合した。架橋剤としては、メラミン化合物(サイメル327、三井サイテック社製、実施例6)、カルボジイミド化合物(カルボジライトE-01、日清紡社製、実施例7)、オキサゾリン基含有化合物(エポクロスK-2010、日本触媒社製、実施例8)を用いた。E-1を撹拌しておき、E-1の固形分100質量部に対して上記架橋剤を固形分換算で10質量部、添加し、室温で30分間、撹拌した。得られた液をそれぞれ、水性接着剤E-6〜E-8とした。水性接着剤の各種特性、及び被膜特性を表2に示した。
水性接着剤E-6〜E-8を用いて実施例1と同様の方法で引張り試験用サンプルを作製した。接着性を測定した結果を表2に示す。
【0074】
比較例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのエチレン−アクリル酸共重合体樹脂〔プリマコール5980I、アクリル酸20質量%共重合体、ダウ・ケミカル社製、以下P(E-AA)〕、16.8g(樹脂中のアクリル酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のTEA、及び223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を100〜105℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体を得た。水性分散体の各種特性、及び被膜特性を表2に示した。
ここで得られた水性分散体を水性接着剤H-1とし、実施例1と同様の方法で引張り試験用サンプルを作製した。接着性を測定した結果を表2に示す。不飽和カルボン酸であるアクリル酸の含有量が20質量%と多いポリオレフィン樹脂水性分散体を接着剤に用いた場合は、実施例と比べポリプロピレン樹脂フィルムやPETフィルムとの接着性は著しく低下した。
【0075】
【表2】
【0076】
【発明の効果】
本発明の水性接着剤は、合成紙及び熱可塑性樹脂フィルムとの接着性に優れ、これらを貼り合せた積層体を得ることができる。
Claims (12)
- 下記ポリオレフィン樹脂と沸点が30〜250℃の有機アミン化合物とを含有し、有機アミン化合物の含有量が、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であり、ポリオレフィン樹脂が数平均粒子径1μm以下で分散した水性分散体からなる合成紙用水性接着剤。
ポリオレフィン樹脂:
(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される少なくとも1種の化合物とから構成される共重合体であって、各構成成分(A1)〜(A3)の質量比が下記式(1)、(2)をみたすポリオレフィン樹脂。
0.5 ≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}× 100 < 5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
- 上記水性分散体中に不揮発性水性化助剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の合成紙用水性接着剤。
- ポリオレフィン樹脂の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜500g/10分であることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成紙用水性接着剤。
- ポリオレフィン樹脂がエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の合成紙用水性接着剤。
- 水性接着剤中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して、架橋剤を0.01〜100質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の合成紙用水性接着剤。
- 合成紙がポリオレフィン系合成紙であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の合成紙用水性接着剤。
- ポリオレフィン系合成紙がポリプロピレン系合成紙であることを特徴とする請求項6に記載の合成紙用水性接着剤。
- 少なくとも3層からなる積層体であり、その3層が合成紙、請求項1〜7のいずれかに記載の水性接着剤を塗布、乾燥してなる接着層、及び熱可塑性樹脂成形体をこの順に積層化した積層体。
- 熱可塑性樹脂成形体が熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とする請求項8記載の積層体。
- 熱可塑性樹脂成形体がポリプロピレン又はポリエチレンからなる成形体であることを特徴とする請求項8記載の積層体。
- 少なくとも3層からなる積層体であり、その3層が合成紙、請求項1〜7のいずれかに記載の水性接着剤を塗布、乾燥してなる接着層、及び合成紙をこの順に積層化した積層体。
- 合成紙用水性接着剤の乾燥後の塗布量が0.1〜50g/m2であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の積層体。
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