JP4432161B2 - ガラスセラミック基板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を用いてガラスセラミック基板を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガラスセラミック基板は、1000℃以下で焼成できるため、基板と同時焼成する配線導体として導通抵抗の小さいAg系導体、Cu等の低融点金属を用いることが可能となると共に、アルミナ基板と比較して、基板の誘電率が低く、信号処理の高速化が可能であり、更に、基板の熱膨張係数もアルミナ基板よりも小さく、半導体チップ(シリコン)の熱膨張係数と整合させることも可能である等の利点があるため、近年の高速、高性能チップの搭載用基板として、ガラスセラミック基板の需要が益々増大しつつある。
【0003】
このガラスセラミック基板の代表的なものとして、硼珪酸系ガラスとアルミナとを含む硼珪酸系のガラスセラミック基板がある。この硼珪酸系のガラスセラミック基板は、焼成過程でガラスとアルミナの界面にアノーサイト等の結晶が析出し、基板が緻密化される。この結晶化温度(結晶析出による発熱ピーク温度)が低くなり過ぎると、ガラス相の軟化・流動による緻密化が起こる前に、結晶が析出するため、基板が緻密化せず、空孔の多いポーラスな基板となる欠点がある。その反対に、結晶化温度が高くなり過ぎると、ガラス相が流動しやすくなるため、基板の変形量が大きくなり、焼成寸法のコントロールが困難になる欠点がある。従って、硼珪酸系のガラスセラミック基板では、結晶化温度を適正範囲(940〜950℃)にコントロールすることが重要な技術的課題となっている。
【0004】
従来の硼珪酸系のガラスセラミックは、示差熱分析計(DSC:differentialscanning calorimeter )で測定される結晶化温度が970℃前後である。この結晶化温度は、適正温度(940〜950℃)よりもかなり高く、基板の変形量が大きくなる欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の硼珪酸系のガラスセラミックの原料は、結晶析出の駆動力となる結晶核が存在しないため、結晶化温度が高くなると考えられることから、近年、硼珪酸系のガラスセラミックの原料に、結晶核となるアノーサイト粉末を添加することで、結晶化温度を下げることが提案されている。本発明者らは、アノーサイト粉末の添加量と結晶化温度との関係を考察する試験を行ったので、その試験結果を次の表1及び図3に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
この試験に用いたガラスセラミック原料は、CaO−Al2O3−SiO2 −B2O3系ガラス粉末:60重量%とアルミナ粉末:40重量%との混合物である。
【0008】
この試験結果から明らかなように、アノーサイト粉末の添加量を0.005重量%にすると、結晶化温度が938〜946℃となり、適正温度(940〜950℃)付近にすることが可能であるが、結晶化温度の変動幅が8℃もあり、結晶化温度のばらつきが大きい。従って、アノーサイト粉末の添加量を0.005重量%にしても、結晶化温度が適正温度を下回ってしまうことがあり、品質を安定させることができない。この原因は、(1) 添加するアノーサイト粉末の結晶性が製造ロットにより変化することと、(2) アノーサイト粉末の添加量が微量であるため、セラミック原料中にアノーサイト粉末が十分に分散せず、焼成時の結晶成長が不均一になるためと考えられる。
【0009】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、セラミック原料の結晶化温度を適正温度に安定して調整することができ、品質の良いガラスセラミック基板を焼成することができるガラスセラミック基板の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1のガラスセラミック基板の製造方法は、硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を用いてガラスセラミック基板を焼成する際に、硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を800〜1000℃で仮焼成し、これを粉砕して得られた原料(以下「仮焼成原料」という)を、仮焼成しない元のセラミック原料に添加することで、元のセラミック原料よりも結晶化温度を低下させたセラミック原料を作り、このセラミック原料を、仮焼成原料を添加しない元のセラミック原料と混合し、その混合割合を調整するようにしたものである。つまり、本発明は、セラミック原料の結晶化温度を調整する際に、セラミック原料に微量のアノーサイト粉末を添加するのではなく、結晶化温度が異なる複数種類のセラミック原料を混合し、その混合割合を調整することで、混合原料の結晶化温度を調整するものである。
【0011】
このようにすれば、従来のような製造ロットによるアノーサイト粉末の結晶性のばらつきの影響を受けず、しかも、添加物(結晶化温度を下げるためのセラミック原料)の添加量を多くすることができるため、混合原料中に添加物を十分に分散させて焼成時の結晶成長を均一化することができ、混合原料の結晶化温度を適正温度に調整しながら、結晶化温度のばらつきを小さくすることができる。
【0012】
つまり、硼珪酸系のガラスセラミック原料を800〜1000℃で仮焼成すると、ガラスとアルミナの界面にアノーサイトの結晶が析出するため、これを粉砕して得られた仮焼成原料には、アノーサイトが確実に含まれる。従って、仮焼成原料を添加したセラミック原料と、仮焼成原料を添加しない元のセラミック原料とを混合し、その混合割合を調整すれば、混合原料中のアノーサイトの量を調整することができ、混合原料の結晶化温度を調整することができる。しかも、元のセラミック原料と仮焼成原料とは、焼成後の組成が同じであるため、混合原料の混合割合を変化させても、混合原料の焼成後の組成は元のセラミック原料の焼成後の組成と同じになる。これにより、ガラスセラミック基板の電気的、機械的特性を変えることなく、結晶化温度を調整することが可能となる。
【0013】
更に、請求項2のように、セラミック原料は、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3 系ガラス粉末とアルミナ粉末との混合物を用い、混合原料の結晶化温度を940〜950℃の範囲に調整すると良い。つまり、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3 系ガラスは、それ自体熱処理しても、結晶化が全く起こらないが、アルミナを混合することで、比較的短時間の仮焼成でガラスとアルミナの界面にアノーサイトの結晶を多量に析出させることができる。しかも、混合原料(CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系のガラスセラミックの原料)の結晶化温度を940〜950℃の範囲に調整すれば、混合原料の結晶化温度が適正温度となり、焼成するガラスセラミック基板を緻密化できると共に、ガラス相の流動性を適度に保つことができ、焼成寸法のコントロールを比較的容易に行うことができる。
【0014】
この場合、請求項3のように、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末とアルミナ粉末との混合物(セラミック原料)を875〜925℃で仮焼成し、これを粉砕して仮焼成原料を作るようにすると良い。つまり、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3 系のガラスセラミックの原料は、900℃前後でアノーサイトの結晶が多量に析出する特性があるので、875〜925℃で仮焼成すれば、比較的短時間の仮焼成で結晶核となるアノーサイトの結晶を多量に含む仮焼成原料を作ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をCaO−Al2O3−SiO2−B2O3系のガラスセラミック基板の製造方法に適用した一実施形態を説明する。本実施形態では、図1に示すように、次の(1)〜(8)の工程を経てガラスセラミック基板を製造する。以下、各工程を説明する。
【0016】
(1)ベース原料となるセラミック原料Aの作製まず、CaO:10〜55重量%、SiO2 :45〜70重量%、Al2O3:0〜30重量%、B2O3:5〜20重量%を含む混合物を例えば1450℃で溶融してガラス化した後、水中で急冷し、これを粉砕して、平均粒径が例えば3〜4μmのCaO−Al2O3−SiO2−B2O3 系ガラス粉末を作製する。このガラス粉末:50〜65重量%(好ましくは60重量%)と、平均粒径が例えば1〜2μmのアルミナ粉末:50〜35重量%(好ましくは40重量%)とを混合して、ベース原料となるセラミック原料Aを作製する。
【0017】
(2)セラミック原料Aのグリーンシートの作製セラミック原料Aに溶剤(例えばトルエン、キシレン)、有機バインダー(例えばアクリル樹脂)及び可塑剤(例えばDOA)を加え、充分混練してスラリーを作製し、通常のドクターブレード法を用いて例えば厚み0.3mmのグリーンシートを作製する。
【0018】
(3)仮焼成セラミック原料Aのグリーンシートを切断し、これを800〜1000℃、好ましくは875〜925℃で仮焼成して、セラミック原料Aの仮焼成物を作製する。この仮焼成過程で、仮焼成物中のガラスとアルミナの界面にアノーサイトの結晶が析出する。CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系のガラスセラミックの原料Aは、900℃前後でアノーサイトの結晶が多量に析出する特性があるため、セラミック原料Aのグリーンシートを875〜925℃で仮焼成すれば、比較的短時間の仮焼成で結晶核となるアノーサイトの結晶を多量に析出させることができる。
【0019】
(4)セラミック原料Aの仮焼成物の粉砕セラミック原料Aの仮焼成物を粉砕機で粉砕し、平均粒径が1〜5μm、好ましくは2〜3μmの仮焼成原料を作製する。このようにして作られた仮焼成原料には、アノーサイトの結晶が多量に含まれている。
【0020】
(5)セラミック原料Bの作製仮焼成原料を、仮焼成しない元のセラミック原料Aに添加して混合することでセラミック原料Bを作製する。この際、仮焼成原料の添加量は、例えば0.04〜0.06重量%とすることが好ましい。仮焼成原料を添加したセラミック原料Bは、添加した仮焼成原料に含まれるアノーサイトが結晶析出の駆動力となる結晶核となり、元のセラミック原料Aよりも結晶化温度が低くなる。
【0021】
(6)混合原料の作製仮焼成原料を添加したセラミック原料Bと、仮焼成原料を添加しない元のセラミック原料Aとを混合して混合原料を作製する。この混合原料は、仮焼成原料を添加したセラミック原料Bを混合することで、結晶核となるアノーサイトが含まれるようになるため、混合原料の結晶化温度は、元のセラミック原料Aよりも低くなる。この際、仮焼成原料を添加したセラミック原料Bの混合割合を多くするほど、混合原料中のアノーサイトの量が増えて、結晶化温度が低下する。
【0022】
本発明者らは、仮焼成原料を0.05重量%添加したセラミック原料Bの混合割合と混合原料の結晶化温度との関係を考察する試験を行ったので、その試験結果を次の表2及び図2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
この試験に用いたセラミック原料A,Bの組成(焼成後)を次の表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
仮焼成原料を0.05重量%添加したセラミック原料Bの結晶化温度(結晶析出による発熱ピーク温度)を示差熱分析計(DSC,DTA)で測定したところ、セラミック原料Bの結晶化温度は921℃±1℃と安定していた。
【0027】
一方、元のセラミック原料Aの結晶化温度の測定値は969℃±5℃であり、適正温度範囲である940〜950℃よりも高い。このセラミック原料Aに、仮焼成原料を添加したセラミック原料Bを混合すると、このセラミック原料Bの混合割合が多くなるほど、混合原料中のアノーサイトの量が増えて、混合原料の結晶化温度が低くなり、その結果、セラミック原料Bの混合割合が2〜8重量%で結晶化温度が適正温度範囲である940〜950℃となる。
【0028】
尚、結晶化温度を適正温度範囲に調整するためのセラミック原料Bの混合割合の適正範囲は、セラミック原料Bに対する仮焼成原料の添加量によって変化し、セラミック原料Bに対する仮焼成原料の添加量(アノーサイトの量)が増えるほど、セラミック原料Aに対するセラミック原料Bの混合割合を少なくする必要がある。
【0029】
(7)混合原料のグリーンシートの作製混合原料に溶剤(例えばトルエン、キシレン)、有機バインダー(例えばアクリル樹脂)及び可塑剤(例えばDOA)を加え、充分混練してスラリーを作製し、通常のドクターブレード法を用いて例えば厚み0.3mmのグリーンシートを作製する。尚、グリーンシートの作製後は、グリーンシートを所定寸法に切断し、ビアホールの形成、導体パターンの印刷、グリーンシートの積層等の工程を経て生基板を作製する。
【0030】
(8)基板焼成生基板を800〜1000℃(好ましくは900℃前後)で焼成する。この場合、生基板には、仮焼成原料が含まれているので、仮焼成原料に含まれるアノーサイトが結晶析出の駆動力となる結晶核となり、元のセラミック原料Aよりも結晶化温度が低くなる。前述したように、仮焼成原料を添加したセラミック原料Bの混合割合を調整することで、生基板の結晶化温度を適正温度範囲内にコントロールすることができ、焼成するガラスセラミック基板を緻密化できると共に、ガラス相の流動性を適度に保つことができ、焼成寸法のコントロールが比較的容易である。
【0031】
以上説明した本実施形態では、結晶化温度を調整する際に、セラミック原料に微量のアノーサイト粉末を添加するのではなく、アノーサイトを析出させた仮焼成原料を添加したセラミック原料Bと元のセラミック原料Aとを混合し、その混合割合を調整することで、結晶化温度を調整するため、従来のような製造ロットによるアノーサイト粉末の結晶性のばらつきの影響を受けずに済む。しかも、セラミック原料Aに対する添加物(結晶化温度を下げるためのセラミック原料B)の添加量を多くすることができるため、添加物(セラミック原料B)に含まれるアノーサイトを混合原料中に十分に分散させて焼成時の結晶成長を均一化することができ、結晶化温度を適正温度に調整しながら、結晶化温度のばらつきを小さくして結晶化温度を安定させることができて、焼成したガラスセラミック基板の品質を安定させることができる。
【0032】
しかも、元のセラミック原料Aと仮焼成原料とは、焼成後の組成が同じであるため、混合原料の混合割合を変化させても、混合原料の焼成後の組成は元のセラミック原料Aの焼成後の組成と同じになる。これにより、ガラスセラミック基板の電気的、機械的特性を変えることなく、結晶化温度を調整することができる利点もある。
【0033】
尚、上記実施形態では、セラミック原料Aの製造に用いる硼珪酸系ガラス粉末として、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末を用いたが、例えば、MgO−Al2O3−SiO2−B2O3 系ガラス粉末、SiO2−B2O3系ガラス粉末、PbO−SiO2−B2O3系ガラス粉末等のいずれかを用いても良い。
【0034】
また、上記実施形態では、仮焼成原料を、仮焼成しない元のセラミック原料Aに添加することで、結晶化温度を低下させたセラミック原料Bを作製したが、セラミック原料の組成を変えることで、結晶化温度を低下させるようにしても良い。また、結晶化温度が異なる3種類以上のセラミック原料を混合し、その混合割合を調整することで、混合原料の結晶化温度を調整するようにしても良い。
【0035】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の請求項1によれば、硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を仮焼成し、これを粉砕して得られた仮焼成原料を、仮焼成しない元のセラミック原料に添加するようにしたので、アノーサイトを確実に含むセラミック原料を作ることができる。しかも、元のセラミック原料と仮焼成原料とは、焼成後の組成が同じであるため、仮焼成原料を添加したセラミック原料と、仮焼成原料を添加しない元のセラミック原料とをどの様な混合割合で混合しても、混合原料の焼成後の組成は元のセラミック原料の焼成後の組成と同じになり、ガラスセラミック基板の電気的、機械的特性を変えることなく、結晶化温度を調整することができる。
【0036】
また、請求項2では、セラミック原料として、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末とアルミナ粉末との混合物を用いたので、比較的短時間の仮焼成でアノーサイトの結晶を多量に析出させることができる。しかも、混合原料の結晶化温度を適正温度範囲である940〜950℃の範囲に調整するようにしたので、緻密なガラスセラミック基板を焼成できると共に、ガラス相の流動性を適度に保つことができ、焼成寸法のコントロールを比較的容易に行うことができる。
【0037】
また、請求項3では、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3系のセラミック原料を875〜925℃で仮焼成するようにしたので、比較的短時間の仮焼成でアノーサイトの結晶を多量に析出させることができて、仮焼成工程を能率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態のガラスセラミック基板の製造方法の概要を説明する工程フローチャート
【図2】焼成原料を添加したセラミック原料Bの添加量と結晶化温度との関係を測定したデータをグラフ化した図
【図3】アノーサイト粉末の添加量と結晶化温度との関係を測定したデータをグラフ化した図
Claims (3)
- 硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を用いてガラスセラミック基板を製造する方法において、
硼珪酸系ガラス粉末とアルミナ粉末とを含むセラミック原料を800〜1000℃で仮焼成し、これを粉砕して得られた原料(以下「仮焼成原料」という)を、仮焼成しない元のセラミック原料に添加することで、元のセラミック原料よりも結晶化温度を低下させたセラミック原料を作り、このセラミック原料を、仮焼成原料を添加しない元のセラミック原料と混合し、その混合割合を調整することで、混合原料の結晶化温度を調整してガラスセラミック基板を焼成することを特徴とするガラスセラミック基板の製造方法。 - 前記セラミック原料は、CaO−Al2O3−SiO2−B2O3 系ガラス粉末とアルミナ粉末との混合物を用い、前記混合原料の結晶化温度を940〜950℃の範囲に調整することを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミック基板の製造方法。
- 前記セラミック原料を875〜925℃で仮焼成し、これを粉砕して仮焼成原料を作ることを特徴とする請求項2に記載のガラスセラミック基板の製造方法。
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