JP4423682B2 - 輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルタミン含有栄養液用製剤に関し、より詳しくはグルタミンに加え、該グルタミンに対し特定の量の各種アミノ酸を含有しており、用時、水または電解質液などの生理的溶解液に溶解させて用いるのに適したグルタミン含有栄養液用製剤に関する。別の面では、本発明は、熱傷、外傷、手術などの後の外科的な侵襲あるいは細菌、ウイルスなどの微生物感染に起因する急性感染症における病的な状態において使用するに適したグルタミン含有栄養液用製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
栄養を食事等により経口的に摂取することができなかったり、困難になっている患者や、生体内の栄養素が欠乏しており、それを補充してやる必要が緊急的にあるような患者に、完全静脈栄養法によりそうした栄養を補給することにより栄養管理を行うことが可能になってきているし、これまでそれにより一定の効果をあげつつある。こうして経静脈用アミノ酸栄養輸液は、各種疾患時の栄養補給のため、あるいは術前、術後など適正なレベルのアミノ酸、蛋白質等を摂取する必要があるにもかかわらず、経口的に食事を摂取できないとか、あるいはその摂取量が不十分であるとか、緊急的に補給する必要がある場合などの栄養管理のため広く利用されており、治療上もその効果が認められてきている。近年においては、栄養輸液中のアミノ酸組成の検討が積極的になされてきており、単に栄養補給のみならず病状の緩和・改善や治療を目的とした各種疾患別のアミノ酸製剤等が開発されてきている。これまで日本で市販されているこれらアミノ酸栄養輸液においては、各種の必須アミノ酸はそこに含まれているものの、グルタミンを含有したものはないのが現状である。
【0003】
これはグルタミンは、必須アミノ酸の一つでなく、体外から摂取しなくとも他のアミノ酸から体内で容易に代謝により合成され、体内で豊富に存在する非必須アミノ酸であり、しかもグルタミンは難溶性で、おまけに非常に化学的にその安定性が悪いためグルタミンの製剤化ができないことが原因であると思われる。
グルタミンは、生体内では骨格筋におけるアミノ酸プールや血中遊離アミノ酸の中でもっとも豊富に存在するばかりでなく、それを投与すると筋蛋白の崩壊を抑制し、免疫機能を賦活化し、腸管を健全に保持し、維持することにより合併症を予防し患者の回復を促進する作用を有することが見出されてきており、最近その生体内での栄養学的な働きや、ユニークな生理活性が解明されつつあって、その輸液としての利用が注目されてきている。
【0004】
グルタミンは、通常の状態ではそのほとんどが体内で合成されるもので、食事で摂取される量は体内で消費される量に比べればごくわずかであるといわれており、通常、外因性のグルタミンを必要とすることはない。しかし、いったん生体に侵襲などが加わると、グルタミンの消費量が急激に増大し、相対的グルタミン欠乏状態が引き起こされるとされている。例えば、熱傷、外傷、手術などの後では、蛋白質合成の原材料として、また免疫細胞などの細胞のエネルギー源として、さらには創傷や破壊された組織・細胞を修復するための種々の材料としてそのグルタミンの利用が亢進すると考えられている。感染症などの種々の細菌性因子によって引き起こされる生体反応もグルタミンの需要を亢進させると考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記でも指摘したように、グルタミンは単体では難溶解性であり、また溶解しても不安定で、熱や酸、アルカリに弱く分解するという問題がある。特に、輸液として経静脈的に投与する場合にはこうしたアンモニアの発生は重大な欠陥として問題となる。こうした問題を避け、輸液として経静脈的に十分量のグルタミンを投与できるようにするためには種々の工夫を必要とする。最近製剤化するにあたりグルタミンに加え、グリシル−グルタミン (Gly-Gln)、アラニル−グルタミン (Ala-Gln)等のジペプチド誘導体を配合したものが開発されてきているが、こうした添加したペプチド誘導体は生体内に投与されるとただちにペプチダーゼにより加水分解されてそれぞれのアミノ酸にまで分解される。したがって、輸液として投与した場合、生体内で配合アミノ酸の間にインバランスが生じてしまい、最適な輸液組成を達成することが困難であり、必ずしも好ましいものとは言えないという問題を生じている。すなわち、グルタミンは全身の遊離アミノ酸総量の 30%〜50% とアミノ酸の中では最も多く存在するため、通常のアミノ酸10% 含有輸液製剤中に配合する場合には、グルタミンとして少なくとも3%程度 (すなわち、総アミノ酸量の少なくとも30% 程度) を配合しなければならないこととなるため、これをジペプチド誘導体を配合して達成しようとすると、必然的にグルタミンと対になっている該ジペプチド誘導体中の他のアミノ酸を過剰に投与する事態となり、結果アミノ酸全体のアンバランスな補充をきたすこととなる。これはさらに輸液中の窒素含有量という点でも大きな問題を引き起こすこととなる。
【0006】
上記説明したように、グルタミンを生体に補充するための輸液は、熱傷、外傷、手術などの後の外科的な侵襲あるいは細菌、ウイルスなどの微生物感染に起因する急性感染症等における病的な状態において使用することが考えられ、こうした場合には投与するアミノ酸全体はバランスがとれたものである必要がある。したがって、配合アミノ酸組成として十分なグルタミンを供給できると共に他のアミノ酸の配合量もこうした機能・用途の適したものの提供が強く望まれている。
一方、グルタミンを安全且つ安定的に輸液として使用することを可能とした技術としては、本件出願と同一の出願人によるグルタミン含有栄養液がある(特開平9−294565号公報)。この技術ではグルタミンを輸液の液体成分とは別にして凍結乾燥状態で製剤化されており、投与前に固体状成分と液体成分とを接触させて輸液を再構成するものである。こういった再構成する形態の輸液製剤においては、迅速かつ安全に完全な成分の溶解化を図る必要がある。これは成分の溶解にあまりにも時間がかかる場合などでは、不安定な成分の分解を招来したりするとか、緊急の使用に間に合わないという問題がある。また不完全な溶解状態で投与を始めてしまうと静脈注射などで投与された場合生体に対しショックを起こしたり、成分濃度などが投与の始めと終わりで異なってくるなどの問題を生ずる。また該溶解処理は、実際上加熱とか激しく攪拌するなどの処理を施すことは難しいことから、常温で互いを混合したのみで速やかに且つスムーズに行いうる必要がある。
【0007】
したがって、迅速かつ完全な成分の再構成を達成できる、そして所望のアミノ酸組成を有する輸液を提供することが求められている。特に熱傷、外傷、手術などの後の外科的な侵襲あるいは細菌、ウイルスなどの微生物感染に起因する急性感染症等における病的な状態にある生体に対して用時に安定な形で十分な量のグルタミンを供給できるとともに、グルタミン以外のアミノ酸もそうした生体に必要とされるに十分な量を供給でき、さらに安全、確実に、そして簡便に使用できる輸液製剤を提供することが求められている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の配合比率並びに量で、栄養効果に優れたアミノ酸を含有せしめると共に十分量のグルミンを配合することにより、さらにグルタミンその他を投与前に液体成分に溶解して再構成する形態の製剤の、例えば、凍結乾燥して得られる固体状態の水易溶性成分とすることにより、簡便かつ迅速で、さらに所要の作用・効果の期待できる、また長時間安定して使用でき、調製後も均一で安心して使用できる輸液を得られることを見出し、こうしたものが上記目的に合致するものであるとの認識を得て、本発明を完成した。本発明は、水又は電解質、糖類等を含有する水溶液に、グルタミン、必要に応じその他のアミノ酸からなり、且つそれぞれ所要の目的・用途に適合しうるところの所要量を含有する固状アミノ酸組成物を溶解せしめる形態の製剤を提供するものであり、該溶解操作は無菌的に用時行われる。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕 固状グルタミンを含有しており、該固状グルタミンがグルタミンをグルタミン以外の医薬として許容される物質の共存下に固体状態にせしめて調製されたものであることを特徴とするアミノ酸組成物;
〔2〕 固状グルタミンが凍結乾燥グルタミンであり、該凍結乾燥グルタミンが、グルタミンをグルタミン以外の医薬として許容される物質の共存下に凍結乾燥させて調製したものであることを特徴とする上記〔1〕記載のアミノ酸組成物;
〔3〕 凍結乾燥グルタミンが、グルタミンと共にグルタミン以外の医薬として許容される物質をグルタミンに対するモル比で0.2 以上共存させて凍結乾燥したものであることを特徴とする上記〔2〕記載のアミノ酸組成物;
【0010】
〔4〕 凍結乾燥グルタミンが、グルタミンと共にグルタミン以外の医薬として許容される物質をグルタミンに対するモル比で0.8以上共存させて凍結乾燥したものであることを特徴とする上記〔2〕記載のアミノ酸組成物;
〔5〕 凍結乾燥グルタミンが、グルタミンと共にグルタミン以外の医薬として許容される物質をグルタミンに対するモル比で1.0 以上共存させて凍結乾燥したものであることを特徴とする上記〔2〕記載のアミノ酸組成物;
〔6〕 凍結乾燥グルタミンが、グルタミンと共にグルタミン以外の医薬として許容される物質をグルタミンに対するモル比で1.2 以上共存させて凍結乾燥したものであることを特徴とする上記〔2〕記載のアミノ酸組成物;
〔7〕 該グルタミン以外の医薬として許容される物質が、水溶性物質であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
【0011】
〔8〕 該グルタミン以外の医薬として許容される物質が、糖類、無機塩類及びアミノ酸類からなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔9〕 該グルタミン以外の医薬として許容される物質が、グルコース、シュクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩及びアミノ酸からなる群から選ばれたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔10〕 投与時の輸液組成物中でグルタミン10〜60 g/lを与える量で、固状グルタミンを含有することを特徴とする上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
【0012】
〔11〕 グルタミンに加えて、イソロイシン 2〜16 g/l, ロイシン 2〜20 g/l, バリン 4〜25 g/l, リジン 1〜25 g/l, メチオニン 1〜8 g/l, フェニルアラニン 1〜11 g/l, トレオニン 1〜18 g/l, トリプトファン 1〜8 g/l, ヒスチジン 1〜10 g/l, システイン 0〜10 g/l, チロシン 0.1〜10 g/l, アラニン 0〜50 g/l, アルギニン 1〜25 g/l, アスパラギン酸 0〜6 g/l, グルタミン酸0 〜10 g/l, グリシン 0〜25 g/l, プロリン 0〜25 g/l及びセリン 0〜15 g/lを投与時の輸液組成物中で与える量で、各アミノ酸を含有することを特徴とする上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔12〕 システイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選ばれたアミノ酸並びにグルタミンが凍結乾燥品であることを特徴とする上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物;
〔13〕 上記〔1〕〜〔12〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物であって、▲1▼固状成分と▲2▼水または電解質、糖類、アミノ酸等からなる群から選ばれたものを含有する水溶液とからなり、該▲1▼と該▲2▼とが一つのセットとなっていることを特徴とする組合せ輸液製剤;
【0013】
〔14〕 (a) グルタミンと、(b) グルタミン以外のアミノ酸、糖類及び電解質からなる群から選ばれたものとのモル比が、0.8 〜3 であることを特徴とする上記〔13〕記載の輸液製剤;及び
〔15〕 上記〔1〕〜〔12〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物であって、▲1▼固状成分を、▲2▼水または電解質、糖類、アミノ酸等からなる群から選ばれたものを含有する水溶液に溶解することを特徴とするアミノ酸含有製剤の製造法を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、さらに
を投与時の輸液組成物中で与える量で、各アミノ酸を含有することを特徴とする上記〔11〕記載のアミノ酸組成物;
を投与時の輸液組成物中で与える量で、各アミノ酸を含有することを特徴とする上記〔11〕記載のアミノ酸組成物;
【0015】
〔18〕 用時溶解可能な固状の成分と、該固状の成分を用時溶解するための液体とを、用時接触せしめて投与前に輸液製剤を構成する形態の製剤であって、投与時の輸液組成物中の量では、各アミノ酸の量比が、上記〔11〕、〔16〕及び〔17〕のいずれか一記載のアミノ酸含有量となるもので、そのうち少なくともグルタミンは上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一記載の固状グルタミンであり且つ該用時溶解可能な固状の成分として提供されるものであることを特徴とするアミノ酸組成物;
〔19〕 システイン、トリプトファン及びグルタミンが凍結乾燥品であり且つ該用時溶解可能な固状の成分として含有されるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔18〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔20〕 グルタミン, システイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸が凍結乾燥品であることを特徴とする上記〔1〕〜〔19〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物;
〔21〕 該用時溶解可能な固状の成分として、さらに糖類及び無機塩類からなる群から選ばれたものが含有されるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔20〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物;
【0016】
〔22〕 該固状の成分を用時溶解するための液体が、水または電解質、糖類、アミノ酸等からなる群から選ばれたものを含有する水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔21〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔23〕 該固状の成分を用時溶解するための液体が、イソロイシン, ロイシン, バリン, リジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, トリプトファン, ヒスチジン, システイン, チロシン, アラニン, アルギニン, アスパラギン酸, グルタミン酸, グリシン, プロリン及びセリンからなる群から選ばれたアミノ酸を含有する水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔22〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔24〕 該固状の成分を用時溶解するための液体が、イソロイシン, ロイシン, バリン, リジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, ヒスチジン, チロシン, アラニン, アルギニン, アスパラギン酸, グルタミン酸, グリシン, プロリン及びセリンからなる群から選ばれたアミノ酸を含有する水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔23〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
【0017】
〔25〕 該固状の成分を用時溶解するための液体が、イソロイシン, ロイシン, バリン, リジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, ヒスチジン, アラニン, アルギニン, グリシン, プロリン及びセリンからなる群から選ばれたアミノ酸を含有する水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔24〕のいずれか一記載のアミノ酸組成物;
〔26〕 上記〔1〕〜〔12〕及び〔16〕〜〔25〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物であって、▲1▼少なくとも固状グルタミンを含有している固状アミノ酸成分を無菌的に収容している容器と、▲2▼水または電解質、糖類、アミノ酸等からなる群から選ばれたものを含有する水溶液を無菌的に収容している容器とを、無菌的に連結せしめて、両容器を用時連通せしめ、それにより投与前に輸液製剤を構成することを特徴とする上記〔15〕記載のアミノ酸含有製剤の製造法;及び
〔27〕 上記〔1〕〜〔12〕及び〔16〕〜〔25〕のいずれか一に記載のアミノ酸組成物であって、▲1▼少なくとも固状グルタミンを含有している固状アミノ酸成分を無菌的に収容している容器と、▲2▼水または電解質、糖類、アミノ酸等からなる群から選ばれたものを含有する水溶液を無菌的に収容している容器に、さらに▲3▼脂肪乳剤を無菌的に収容する容器を、無菌的に連結せしめて、両容器を用時連通せしめることを特徴とするアミノ酸含有製剤の製造法を提供する。
【0018】
本発明では、さらに
〔28〕 熱傷、外傷、手術などの後の外科的な侵襲あるいは細菌、ウイルスなどの微生物感染に起因する急性感染症等における病的な状態に使用されるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔12〕及び〔16〕〜〔25〕のいずれか一に記載の組成物;
〔29〕 筋蛋白崩壊の抑制、蛋白合成の促進、免疫細胞における核酸合成の促進、免疫細胞の賦活化、好中球の殺菌作用の増強、腸管粘膜萎縮抑制、腸管粘膜構造の維持、腸管粘膜透過性の亢進抑制、ナトリウム並びに水分の吸収の促進、栄養吸収の改善、肝再生の促進、脂肪肝の抑制、グルタチオン産生の促進、生体内過酸化反応の抑制、窒素平衡の改善、創傷治癒の促進、膵萎縮の抑制および腎のアルギニン産生の促進からなる群から選ばれた投与効果を得る目的で使用されるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔12〕及び〔16〕〜〔25〕のいずれか一に記載の組成物;および
〔30〕 熱傷、外傷、手術、急性感染症、慢性感染症、骨髄移植などの重症異化疾患、進行性悪性疾患、腸管不全(炎症性腸疾患、感染性腸炎、短腸症候群、化学療法後または放射線療法後を含む)および免疫不全症候群からなる群から選ばれた適応に使用されるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔12〕及び〔16〕〜〔25〕のいずれか一に記載の組成物を提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に従えば、用時溶解可能な固状の成分と、該固状の成分を用時溶解するための液体とを、用時接触せしめて投与前に輸液製剤を構成する形態の製剤であって、投与時の輸液組成物中の量でみた場合、グルタミンが生体に必要とされるに十分な且つ特定の好ましい量含まれており、その含有されるグルタミンは用時迅速で且つ均一に溶解可能な固状の成分として提供されるものとすることができる。そしてそうしたことにより、医薬品として安心して長期間使用することができ、さらに迅速に安全に投与可能な輸液を構成することができるような形態のものとすることができる。したがって、本発明はこうした輸液アミノ酸組成物並びに該組成物を構成できる輸液セット、さらにはそれらの製造法並びにそれらの用途を提供している。
【0020】
本発明において、用時溶解させるグルタミンとしては、グルタミン以外の医薬として許容される物質の共存下に固体状態にせしめて調製されたもので、例えば固形状のグルタミン、スプレードライしたグルタミン、顆粒状のグルタミン、凍結乾燥したグルタミン等が挙げられるが、なかでも凍結乾燥されたグルタミンがとりわけ好ましい。
かくして好ましくは固状グルタミンとしては、凍結乾燥グルタミンが挙げられ、該凍結乾燥グルタミンは、グルタミンをグルタミン以外の医薬として許容される物質の共存下に凍結乾燥させて調製したものである。該凍結乾燥グルタミンをグルタミンと共にグルタミン以外の医薬として許容される物質共存下に調製する場合、例えば、グルタミンに対するモル比で0.2 以上該グルタミン以外の医薬として許容される物質を共存させて凍結乾燥することにより行うことができる。また凍結乾燥処理する場合グルタミンと共に共存させる医薬として許容される物質は、グルタミンに対するモル比で、より好ましくは0.8 以上、さらに好ましくは1.0 以上、最も好ましくは1.2 以上共存させることができる。該共存させるグルタミン以外の医薬として許容される物質は単独でも、あるいは2種以上のものを組み合わせて使用することができ、該共存させるグルタミンに対するモル比も合計で上記したような量比とすることもできる。
【0021】
該凍結乾燥処理する場合グルタミンと共に共存させる医薬として許容される物質としては、特に好ましくは注射剤に使用しうる成分として当業者に知られているもののうちから選ぶことができ、こうしたものとしては等張化剤、分散剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤などが挙げられるが、輸液中には極力不必要なものを添加しないほうが望ましいことは良く知られており、こうした点は考慮されなければならない。該物質としては、中でも等張化剤は好ましいものとして挙げられる。該凍結乾燥処理する場合グルタミンと共に共存させる医薬として許容される物質としては、例えば、水溶性の化合物などが挙げられ、例えば、糖類、無機塩類及びアミノ酸類からなる群から選ばれたものであることができる。
【0022】
ここで糖類としては、例えば、グルコース(ブドウ糖)、シュクロース(蔗糖)、ラクトース(乳糖)、マンニトール、ソルビトール、マルチトールなどを挙げることができるが、医薬として許容されるものであれば制限なく使用することができよう。それらは単独でも、あるいは2種以上のものを組み合わせて使用することができ、例えば、グルコースを用いた場合、グルタミンに対するモル比で0.40以上、より好ましくは1.0 以上、もっと好ましくは1.2 以上共存させて凍結乾燥処理することにより、グルタミン凍結乾燥物の溶解性を優れて改善する。
該無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩などを挙げることができ、該塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩を挙げることができ、それらは単独でも、あるいは2種以上のものを組み合わせて使用することができる。例えば、塩化ナトリウムを用いた場合、グルタミンに対するモル比で0.25以上、より好ましくは0.8 以上、更に好ましくは3.0 以上、最も好ましくは3.7 以上共存させて凍結乾燥処理することにより、グルタミン凍結乾燥物の溶解性を優れて改善する。また、例えば、グルコースと塩化ナトリウムとを組み合わせて使用し、それぞれの使用量を比較的少なくおさえることも可能である。
【0023】
該アミノ酸としては、好ましくは水に対する溶解性に優れた (易溶性の) アミノ酸の中から選んで使用することができ、例えば、リジン、システイン、プロリン、セリン、グリシン、アラニン、アルギニンなどが挙げられ、それらは単独でも、あるいは2種以上のものを組み合わせて使用することができ、さらに体内アミノ酸のバランスを維持あるいは保持する観点からその凍結乾燥処理時の配合量を決定することができる。したがって、上記糖類や無機塩類と組み合わせて使用することができるし、好ましい場合もある。さらに、トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選ばれたアミノ酸と共にグルタミンを凍結乾燥物とすることが好ましい場合がある。
かくして、グルタミンを水に易溶性のアミノ酸の共存下に凍結乾燥処理して得られた固状物質、好ましくは微粉末状態にしたものは、水に対し優れた溶解特性を示し、本発明の構成成分として優れていると期待されている。こうした凍結乾燥処理においては、配合すべき当該アミノ酸のすべてあるいはその一部をグルタミンの凍結乾燥処理の際に存在させておくことができるのである。
【0024】
本発明に従えば、特定量で各アミノ酸を含有する輸液製剤が提供される。該製剤はグルタミンをある種の状態で生体が要求する量を十分に満たす量だけ供給することを可能にしているが、不必要に過剰のアミノ酸を投与してしまうという危険を避けることが可能なものである。とくに病的な状態では、代謝機能が衰えていたり、抵抗力が失われているなどのため、十分な量の各アミノ酸を供給することは意味がある反面、過剰に特定のアミノ酸のみを摂取してしまうことは重大な問題を引き起こすことにもなりかねない。要は、必要な量の各アミノ酸をバランス良く生体に投与できるようなものである必要があるのであり、本発明の輸液製剤はこうした目的に合致している。本発明で生体が要求する量を十分に満たす量とは、本発明の輸液を点滴投与あるいは静脈内投与した場合、健常体のヒト血液あるいはヒト乳で観測される程度のアミノ酸濃度により近づけるあるいは該濃度にまで回復及び/又は該濃度を維持することができるような量を意味することができる。更に本発明で生体が要求する量を十分に満たす量とは、ターゲット(標的)部位のアミノ酸濃度を健常体のヒトのそれにまで回復及び/又はそれを維持することができるような量を意味することもできる。同様に、本発明でバランスの良い各アミノ酸量とは、健常体のヒト血液中で観察される程度の各アミノ酸濃度バランスを示す量あるいはそれに近似した各アミノ酸濃度バランスを示す量であることができ、例えば、健常体のヒト血液中で観察される各アミノ酸濃度バランスの±100%程度の範囲内の量であることができる。
【0025】
本発明に従えば、用時溶解可能な固状の成分と、該固状の成分を用時溶解するための液体とを、用時接触せしめて投与前に輸液製剤を構成する形態の製剤であって、投与時の輸液組成物中の量でみた場合、各アミノ酸の量比が特定の好ましい量含まれており、その含有されるアミノ酸のうち少なくともグルタミンは優れた溶解性状を有する凍結乾燥品であり且つ該用時溶解可能な固状の成分として提供されるものであるようにすることで、医薬品として安心して長期間使用することができ、さらに迅速に安全に投与可能な輸液を構成することができるような形態のものである。
本発明において該用時溶解可能な固状の成分中、好ましくは、システイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選ばれたアミノ酸並びにグルタミンが凍結乾燥品として含有されるものが挙げられ、特に好ましくは、システイン及びトリプトファンからなる群から選ばれたアミノ酸並びにグルタミンが凍結乾燥品として含有されるものが挙げられる。
【0026】
より好ましい形態では、該用時溶解可能な固状の成分中、グルタミン並びにシステイン及び/またはトリプトファンが凍結乾燥品として含有されるものが挙げられ、さらに好ましい形態ではグルタミン並びにシステイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及び/またはアスパラギン酸が凍結乾燥品として含有されるものが挙げられる。また本発明において該用時溶解可能な固状の成分として、イソロイシン, ロイシン, バリン, リジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, トリプトファン, ヒスチジン, システイン, チロシン, アラニン, アルギニン, アスパラギン酸, グルタミン酸, グリシン, プロリン, セリン及びグルタミンが凍結乾燥品として含有されるものが挙げられる。
イソロイシン, ロイシン, バリンなどは分枝鎖アミノ酸に分類されるものであり、全部で本発明では投与時の輸液組成物中で 6〜61 g/lとなる量、好ましくは18〜46 g/l、より好ましくは22〜32 g/lとなる量配合せしめられてよい。リジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, トリプトファンなどは必須アミノ酸に分類されるものであり、全部で本発明では投与時の輸液組成物中で 5〜70 g/lとなる量、好ましくは15〜47 g/l、より好ましくは21〜34 g/lとなる量配合せしめられてよい。ヒスチジン, システイン, チロシンなどは小児必須アミノ酸に分類されるものであり、全部で本発明では投与時の輸液組成物中で 1.1〜30 g/lとなる量、好ましくは 2.3〜17 g/l、より好ましくは 2.3〜10 g/lとなる量配合せしめられてよい。
【0027】
グルタミンと同様に、用時溶解させるグルタミン以外のそれぞれのアミノ酸としては、固形状のもの、スプレードライされたもの、顆粒状のもの、凍結乾燥されたもの等が挙げられるが、なかでも凍結乾燥されたものが特に好ましい。水に対する溶解性が劣るアミノ酸をこうした凍結乾燥したものとして利用すると、優れた溶解性状などを得ることができる。さらに、本発明者らの検討した結果では、グルタミンと共にシステイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選ばれたアミノ酸を凍結乾燥し微粉末状態にした場合には、他に比較してその溶解速度が極めて良好であり、また凍結乾燥品でありながらその貯蔵安定性も優れていることが確認された。また、比較的安定性に乏しいシステイン及びトリプトファンからなる群から選ばれたアミノ酸をグルタミンと共に凍結乾燥し微粉末状態にすると、得られたものはその貯蔵安定性においても優れているし、なお且つ、優れた溶解速度を示していることが認められる。より好ましい態様では、グルタミンと共にシステイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸を凍結乾燥し微粉末状態にした場合には、その貯蔵安定性も優れているし、なお且つ、優れた溶解速度を示していることが認識できる。別の好ましい態様では、グルタミンと共にイソロイシン, ロイシン, バリンなどの分枝鎖アミノ酸、及び/またはリジン, メチオニン, フェニルアラニン, トレオニン, トリプトファンなどの必須アミノ酸、及び/またはヒスチジン, システイン, チロシンなどの小児必須アミノ酸、加えて任意にアラニン, アルギニン, アスパラギン酸, グルタミン酸, グリシン, プロリン, セリンなどのその他のアミノ酸を凍結乾燥し微粉末状態にして用時溶解可能な組成物とされており、それはその貯蔵安定性が優れており、なお且つ、優れた溶解速度を示す。
【0028】
こうして、かかる凍結乾燥グルタミン、さらにはその他アミノ酸を別の容器に収納させ、投与時に(用時に)水又は電解質、糖類、ビタミン、場合によってはアミノ酸等を含有する栄養液等の水溶液中に溶解してやれば、グルタミンその他のアミノ酸が速やかに溶解し、良好なグルタミン含有アミノ酸栄養液となることが見いだされた。固形状のアミノ酸、例えば、固形状のグルタミンなどを溶解させる場合には調製に長時間かかり、また完全に溶解しないうちに静脈内投与を行うことになる危険性もあり、もしそのようなことになれば事故につながるという問題もある。したがって、本発明の他の物質の共存下に調製された凍結乾燥グルタミンや他の凍結乾燥アミノ酸を用いれば、その溶解速度が極めて速いことから、かかる危険性を未然に防げる利点がある。特に、グルタミンをグルコースあるいは/塩化ナトリウムのような水易溶性の物質と一緒に凍結乾燥して、微粉末状態にした場合及び/又はこうして他の特定のアミノ酸をグルタミンなどと一緒に凍結乾燥して、微粉末状態にした場合には、その溶解速度が極めて優れているばかりでなく、その貯蔵安定性においても大変利点があるが、このようなことはこれまでに知られていない全く新規なことである。
本発明で用いられるアミノ酸としては、通常用いられる遊離アミノ酸のみならず、その有機酸塩、無機酸塩、金属塩、ジ−又はトリペプチドのいずれの形態のものも挙げられる。
【0029】
一方、本発明において、グルタミンなどのアミノ酸を溶解させる水溶液としては、一般に水分補給、エネルギー補給あるいは栄養補給として静脈内に投与されるいわゆる輸液であり、水、注射用蒸留水、輸液用電解質液、アミノ酸輸液等が挙げられる。これらの輸液等は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル及びリン酸等々の細胞内外に存在する主な電解質;ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、マルトース、ソルビトール、キシリトール等のエネルギー源を含有するものであり、経口摂取不能又は不充分な場合の水分・電解質の補給・維持、アミノ酸補給、エネルギーの補給に使用される輸液が好ましい。該溶解用水溶液は、更にはアルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、プロリン等々のアミノ酸など、単糖類の他、種々のオリゴ糖や多糖類等々の糖類など、場合によっては、例えば、ビオチン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、葉酸等々のビタミン等を配合してあるものであってもよい。
【0030】
なお本発明において、電解質、糖類、場合によってはアミノ酸等を含有する水溶液を収納する容器としては、これら電解質、糖類等の成分を一つの容器内に収納するシングルバッグタイプのものであってもよく、更に電解質、糖類等の成分をそれぞれ個別に収納し、用時に混合されるダブルバッグタイプあるいはマルチバッグタイプのものであってもよい。この場合の本発明にあっては、これら輸液等の水溶液に加えて、カロリー補給を高めるために、脂肪分を補給すべく、脂肪乳剤を別個に収納する容器をマルチバッグタイプとして連通させておくことも可能である。要は、グルタミンなどのアミノ酸(好ましくは、グルタミン, システイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸, アスパラギン酸などのアミノ酸)がこれら水溶液と別個に収納され、投与時に(用時に)水又は電解質、糖類等を含有する栄養液等の水溶液中に溶解してやれるよう無菌的に連通されうるものであればよく、かかる種々の変形例も本発明の主題中に包含されることは言うまでもない。例えば、シングルバッグタイプにおいて糖類を多く含有させようとする場合には安定性のために溶液のpHを下げなければならず、臨床的に血管痛、静脈炎等の好ましからざる副作用が発生するが、セパレートタイプとする変形例により、かかる欠点を防止することができるのである。すなわち、本発明のグルタミン含有栄養液は、その使用目的、例えば経腸成分栄養液としての経腸経管栄養法、高カロリー栄養液として中心静脈栄養法、中カロリー栄養液としての末梢静脈栄養法等の手段に応じた各種成分を配合させ、それぞれを一緒あるいは別個の容器に収納させておくような変形が可能である。
本発明において脂肪乳剤としては、通常輸液として知られていたりあるいは用いられているものの他、大豆油、エゴマ油、サフラワー油等の脂肪を含有しており、高カロリー補充のためのものなどが挙げられる。
【0031】
本発明で、いわゆる輸液等の水溶液中に用時溶解させるグルタミンは、前記した如き他の物質の共存下凍結乾燥されたグルタミンである。かかる凍結乾燥グルタミンは、溶解性が著しく向上し、他の固形状のグルタミンに比較して水溶液中に短時間で溶解されるので、使用に際しての安全性が確保される。特に、グルコースなどの糖類、塩化ナトリウムなどの無機塩類の共存下凍結乾燥したグルタミンに加えて、その他の不安定なアミノ酸、例えば、システインや、トリプトファン等、あるいは溶解性の低いアミノ酸、例えば、チロシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等を、それぞれ単独、あるいはそのいくつかを同時に配合しておくと、より好ましい溶解性状並びに製剤の貯蔵安定性が得られることが見出されている。この場合、グルタミンと同時配合するアミノ酸も凍結乾燥品であることが好ましい。なかでもグルタミンと一緒に凍結乾燥されたシステインや、トリプトファンを含有させることは好ましいもの、さらにグルタミンと一緒に凍結乾燥されたシステイン, トリプトファン, チロシン, グルタミン酸及びアスパラギン酸を含有させることは特に好ましいものである。
【0032】
かくして、従来のアミノ酸輸液では成し得なかったアミノ酸バランスを調整することが可能であり、且つより効果の高い栄養輸液として有用なグルタミンと共にその他のアミノ酸を同時配合してある、投与時の輸液組成物中の量では、各アミノ酸の量比が、下記の組成:
となるアミノ酸組成物、あるいは輸液セットを調製することができる。該アミノ酸組成物中では、高いグルタミン含有量が達成されており(グルタミンは安定した状態で保存・輸送が可能となっているが、安全な輸液を提供することができるものである)、イソロイシン, ロイシン, バリンなどの分枝鎖アミノ酸の含有量にも特徴を有している。また該輸液のE/N 比も特徴を有しており、例えば、E/N 比が 1.0に近いものは好ましい。グルタミン酸、アラニンの含有量も特徴を有している。さらに同時に高いアルギニン含有量が達成されている。
更にグルタミンなどの固状アミノ酸を含有する組成物(配合物)を収納する容器中には、凍結乾燥グルタミンなどの固状アミノ酸に加えて、グルコース、果糖、キシリトール、マルトース、ソルビトール等の糖類を配合しておくことも可能である。更にまた、グルタミンなどの固状アミノ酸に影響を与えないアミノ酸以外の他の成分、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質成分;塩酸チアミン、リン酸リボフラビンナトリウム、塩酸ピリドキシン、アスコルビン酸等のビタミンをも同時に含有させることも可能である。
【0033】
一方、グルタミンなどの固状アミノ酸を含有する組成物(配合物)を溶解させる相手方の水又は電解質、糖類等を含有する水溶液としては、前記した如く従来から水分補給、エネルギー補給あるいは栄養補給として静脈内に投与するに使用されているいわゆる輸液である。したがって、より具体的には、注射用蒸留水、輸液用電解質液、アミノ酸輸液等が挙げられ、これらの輸液はすでに臨床的に市販、使用されている輸液を組み合わせ使用することができる。この市販輸液等にあっても、投与対象患者の疾患状態、栄養状態に合わせて更に種々の電解質、糖類、場合によってはアミノ酸、脂肪乳剤、ビタミン、繊維成分、微量元素等が選択され、配合できることは言うまでもない。また、安定化剤、pH調節剤などを必要に応じて適宜配合したりすることもできる。本発明の凍結乾燥グルタミンその他のアミノ酸が溶解された後の富グルタミン含有で所定量のアミノ酸含有栄養液は、静脈内に点滴投与されるのが多く、したがって調製後の栄養液にあっては、そのpHが4ないし8、好ましくは 5.5ないし7.5 であり、浸透圧比は一概には限定し得ないが、7以下であるのが良く、末梢静脈から投与する場合には3以下の浸透圧比が好ましい。
【0034】
本発明のグルタミン含有栄養液は上記した如く、水又は電解質、糖類、場合によってはアミノ酸等を含有する水溶液を収納する容器と、グルタミンその他の固状アミノ酸を収納する容器を無菌的に連結し、両容器を用時連通させ、それによりグルタミンなどの固状アミノ酸を、水又は電解質、糖類、場合によりアミノ酸等を含有する水溶液中に溶解させることにより製造される。しかして当該グルタミン含有栄養液の製造に適用できる各収納容器、並びに両容器を連通させる手段としては、従来から提案且つ使用されている粉末〜凍結乾燥医薬品を用時溶解液に溶解させ、点滴投与あるいは静脈内投与させるべく構成されたキットをそのまま使用することができる。このようなキットとしては、例えば、点滴用セファロスポリンキットとして実際の臨床治療に使用されているセフチゾキシムナトリウム(エポセリン)キット又はセファゾリンナトリウム(セファメジン)キット、あるいは特許出願により種々提案されているキット例えば、特開昭63−13955号公報、特開平4−282159号公報、特開平5−56998号公報、特公平5−72830号公報等に開示されている輸液容器キットをそのまま使用することができる。
【0035】
具体的には、例えばこれらのキットにおける薬剤収納容器中に本発明の凍結乾燥グルタミンその他を収納させ、溶解液を収納する可撓性容器中に水又は電解質、糖類、場合によってはアミノ酸等を含有する水溶液、より具体的には、注射用蒸留水、輸液用電解質液、アミノ酸輸液を収納させ、両容器を両頭針により無菌的連通を行い混合溶解させることができる。なお、両容器の連通手段としては、両頭針によるものが好ましいが、何もこれに限定されず、一方の容器の針ないし刃による切断あるいは破断、バルブによる連通等を採用することが可能である。本発明において輸液製剤セットを構成する固状成分及び/又は液状成分は、いずれも公知の方法に準拠して無菌的に製造することができる。該各成分は、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下で製造したり、滅菌及び/又は保存することができる。さらに該滅菌は、例えば、高圧蒸気滅菌、ガス滅菌、照射(例えば、紫外線、電磁波、γ線などの放射線、高周波など)滅菌、ろ過滅菌(無菌ろ過)など、必要に応じて好適な方法を選択して行うことができるが、熱などに不安定な構成成分では、ろ過による滅菌が好ましい。該構成成分は、それぞれ別々に滅菌されたものを配合することもできるし、それぞれ異なった滅菌方法で処理されることもできる。
【0036】
次に本発明においての凍結乾燥処理は、同様にいずれも公知の方法に準拠して無菌的に行うことができ、通常当該分野で使用されている凍結乾燥機 (例えば、ステンレス製の乾燥庫に充填したバイアル、アンプルなどの容器を乗せる棚、凝縮機 (コールドトラップ) 、冷凍装置、加熱装置、真空装置及びこれらの制御装置などを備えたもの) などを使用して行うことができる。本発明では、アミノ酸は、それぞれ単独でもあるいは互いに任意のものとの共存下でもその凍結乾燥を行うことができ、目的などに応じて適宜選択して行なわれる。またそれぞれのアミノ酸は、他の物質 (好ましくは水溶性化合物など、例えば、グルコースなどの糖類、塩化ナトリウムなどの無機塩類など)の共存下並びに/又は緩衝剤、pH調整剤及び溶解補助剤からなる群から選ばれたものの共存下でもその凍結乾燥を行うことができ、同様に目的などに応じて適宜選択して行なわれる。
【0037】
本発明の上記組成のアミノ酸を含有する輸液は、熱傷、外傷、手術などの後の外科的な侵襲あるいは細菌、ウイルスなどの微生物感染に起因する急性感染症等における病的な状態に使用されて、有意な作用・効果を期待できる。さらに、該輸液は、筋蛋白崩壊の抑制、蛋白合成の促進、免疫細胞における核酸合成の促進、免疫細胞の賦活化、好中球の殺菌作用の増強、腸管粘膜萎縮抑制、腸管粘膜構造の維持、腸管粘膜透過性の亢進抑制、ナトリウム並びに水分の吸収の促進、栄養吸収の改善、肝再生の促進、脂肪肝の抑制、グルタチオン産生の促進、生体内過酸化反応の抑制、窒素平衡の改善、創傷治癒の促進、膵萎縮の抑制および腎のアルギニン産生の促進からなる群から選ばれた投与効果を得る目的で使用されうる。また、該輸液は、熱傷、外傷、手術、急性感染症、慢性感染症、骨髄移植などの重症異化疾患、進行性悪性疾患、腸管不全(炎症性腸疾患、感染性腸炎、短腸症候群、化学療法後または放射線療法後を含む)および免疫不全症候群からなる群から選ばれた適応症に使用されることができる。こうした作用・効果は適当な手段で確認することができよう。本発明の上記組成のアミノ酸を含有する輸液は、適切な量のアミノ酸を含んでいるので、アミノ酸の補充特性に優れており、上記した用途・目的に好ましく且つ便利に使用できる。本発明の上記組成のアミノ酸を含有する輸液は、上記した用途・目的に好ましく点滴投与あるいは静脈内投与されうる。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されず様々な実施形態が可能であり、本発明は本明細書に開示の思想に従ったものであるかぎり、すべての実施形態を包含することは理解されるべきである。
実施例1:
3 w/v % グルタミン溶液 10 ml をガラスバイアル (50φ×100 mm) に充填し、凍結乾燥する。凍結乾燥条件は、予備凍結 −40℃, 5 時間, 一次乾燥 −10℃, 72時間, 二次乾燥 20℃, 24時間とした。凍結乾燥グルタミンの溶解性の評価は次のようにして行った。凍結乾燥物に蒸留水 10 mlを接触せしめ、5 秒間振とうした後 5分間放置し、次に 1回転倒混和してその溶解の程度を観察した。
評価方法
++ : 5分未満に溶解
+ : 5分で溶解
− : 5分で難溶性部分の存在が認められた
(a) 3 w/v % グルタミン溶液に塩化ナトリウムを、それぞれ 0.3 及び 4.5 w/v % となるように添加した場合、得られたグルタミンと塩化ナトリウムからなる凍結乾燥物は、0.3 w/v % 塩化ナトリウム添加のものでは、その溶解性の評価は幾分改善の傾向はあるものの、−であったが、4.5 w/v % 塩化ナトリウム添加のものでは、その溶解性はかなりの程度改善され、その評価は+であった。
(b) グルタミンに対して、以下の添加剤を以下の量用いた。
グルコース : 0.43 及び 1.22
塩化ナトリウム: 0.25 及び 3.75
マンニトール : 0.08, 0.16 及び 1.2
グリシン : 0.32, 0.71 及び 2.92
アルギニン : 0.03 及び 0.06
(上記各数値はグルタミンに対するモル比である)
【0039】
グルコースでは、グルタミンに対するモル比で 0.43 の添加により、得られた凍結乾燥物の溶解性はかなりの程度改善され、その評価は+であったが、モル比で 1.22 添加するとその溶解性の改善は顕著でありその評価は++であった。次に、塩化ナトリウムではグルタミンに対するモル比で 0.25 の添加により、得られた凍結乾燥物の溶解性はかなりの程度改善され、その評価は+で、さらに 3.75 の添加で、その評価は+であるが、その溶解性はより改善されていることが認められた。マンニトールの場合グルタミンに対するモル比で 0.08 の添加では、あまり改善が認められず、その評価は−であったが、0.16の添加により、得られた凍結乾燥物の溶解性はかなりの程度改善され、その評価は+で、さらに 1.2添加するとその溶解性の改善は明瞭でありその評価は++であった。
グリシンについては、グルタミンに対するモル比で 0.32 及び0.71の添加では溶解性の幾分の改善の傾向はあるものの、その評価は−であった。一方グリシンをモル比で 2.92 添加すると、得られた凍結乾燥物の溶解性はかなりの程度改善され、その評価は+であった。またアルギニンでは、グルタミンに対するモル比で 0.03 及び 0.06 の添加で溶解性の幾分の改善の傾向はあるものの、その評価は−であった。
【0040】
実施例2:
アミノ酸製剤として「 L-Ile; 119.25g 、L-Leu; 155.25g、L-Val; 91.50g 、酢酸 L-Lys; 177.75g 、L-Met; 55.50g 、L-Phe; 89.25g 、L-Thr; 72.00g 、L-Trp; 26.25g 、L-His; 39.75g 、L-CysSH; 7.50g、L-Tyr; 3.75g、L-Ala; 48.75g 、L-Arg; 112.50g、L-Asp; 7.50g、L-Glu; 3.00g、Gly; 24.75g 、L-Pro; 41.25g 、L-Ser; 26.25g 、L-Gln; 50.00g 、亜硫酸水素Na; 2.250g 」を秤量し、注射用蒸留水に溶解して10Lにメスアップし、0.22umのメンブランフィルターで濾過滅菌した後、300mL 宛バイアル瓶に充填し、凍結乾燥を行った。
得られたグルタミン含有アミノ酸製剤を、所定の操作によって注射用水300mL に溶解した結果、得られた凍結乾燥物の溶解性はかなりの程度改善され、その評価は++であった。このグルタミン含有アミノ酸輸液製剤は、溶液300mL 中、総遊離アミノ酸30.00g、総窒素量4.91g 、E/N 比 0.96 であり、グルタミンに対する他のアミノ酸のモル比は1.64であった。
【0041】
【発明の効果】
本発明は、グルタミンを安定して含有し且つより高い含有量で使用することを可能にし、尚且つ迅速で安全に投与可能な輸液を得ることが可能となる。
さらに、本発明によれば、バランスよく各アミノ酸を補充することのできる輸液を提供している。本発明で提供される輸液セットを用いて調製されたアミノ酸含有輸液は、各種の状態の生体に投与されて優れたアミノ酸補充性能を得ることが期待できる。
Claims (9)
- 固体状態にせしめてある輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法であり、グルタミンと共に、グルコース、マンニトール、塩化ナトリウム、グリシン及びアルギニンからなる群から選択されたものを、グルタミンに対するモル比で、グルコースでは0.40以上、マンニトールでは0.16以上、塩化ナトリウムでは0.25以上、グリシンでは0.7以上、そして、アルギニンでは少なくとも0.06共存させて輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥して、固体状態にせしめてある輸液用グルタミン凍結乾燥物を得ることを特徴とする輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、グルコース又はマンニトールを、グルタミンに対するモル比で、1.2以上共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、塩化ナトリウムを、グルタミンに対するモル比で、3.0以上共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、塩化ナトリウムを、グルタミンに対するモル比で、3.7以上共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1又は3に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、グリシンを、グルタミンに対するモル比で、少なくとも2.9共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、グルコースを、グルタミンに対するモル比で、0.43以上共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、グルコースを、グルタミンに対するモル比で、少なくとも1.22共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、マンニトールを、グルタミンに対するモル比で、少なくとも1.2共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
- 輸液用グルタミン水溶液を凍結乾燥するにあたり、塩化ナトリウムを、グルタミンに対するモル比で、少なくとも3.75共存させて凍結乾燥せしめることを特徴とする請求項1に記載の輸液用グルタミン凍結乾燥物の調製法。
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