JP4423463B2 - 濃度測定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、測定対象物質を含む反応系からの出力値と、検量線(測定対象物質の濃度と出力値との関係を示すもの)と、に基づいて、測定対象物質の濃度演算を行う濃度測定方法に関する。
【0002】
【背景技術】
尿などの検体中の抗原濃度を測定する方法としては、抗原抗体反応と光学的手法とを組み合わせたものがある。この方法では、たとえば検体と抗体とを混合して抗原抗体反応を起こさせ、この反応系に光を照射したときの吸光度に基づいて濃度演算が行われる。この方法では、反応系の抗原濃度が小さい範囲では、濃度が大きくなるにしたがって測定される吸光度が大きくなる。その一方で、反応系の抗原濃度が大きい範囲では、濃度が大きくなるにしたがって測定される吸光度が小さくなるといった現象が見受けられる(プロゾーン現象)。このような現象は、抗原抗体反応を利用する場合に限らず、生化学的分野全般において見受けられる(以下、当該現象を生化学的分野も含めて「プロゾーン様現象」と表現する)。
【0003】
プロゾーン様現象が生じる系においては、実際には測定対象成分の濃度が大きいにもかかわらず、測定される吸光度が小さいために演算された結果が実際のものよりも小さくなってしまうといった不具合が生じ得る。このような不具合を解消するためには、たとえば検体を希釈した上で、吸光度を再測定する必要が生じる。
【0004】
しかしながら、同一の検体について複数回の測定を行うのは、抗原が高価であることに鑑みれば好ましくなく、もちろん、作業性を考慮した場合には、測定回数が少ないほうが好ましい。また、尿中のグルコース濃度などの測定においては、プロゾーン様現象が生じないものの、高濃度において分解能が低下するという問題がある。そのため、プロゾーン様現象が生じない系においても、高濃度域において、測定精度が小さいといった問題が生じ得る。
【0005】
【発明の開示】
本発明は、プロゾーン様現象の影響や高濃度領域での分解能の低下による高濃度試料液の測定精度低下を、簡易かつ安価に抑制することを目的としている。
【0013】
本発明の第の側面においては、測定対象物質およびこの物質と反応し得る反応物質を含む反応系からの出力値と、上記測定対象物質の濃度と出力値との関係を示す検量線と、に基づいて、上記測定対象物質の濃度演算を行う濃度測定方法であって、上記検量線は、濃度が既知の標準試薬と上記反応物質とを含む標準反応系の出力値を、濃度の異なる複数の標準試薬のそれぞれについて特定時間範囲内において経時的に測定し、各濃度の標準試薬を用いた場合における出力値の最大値の集合に基づいて作成されていることを特徴とする、濃度測定方法が提供される。
【0014】
本発明の第の側面においては、測定対象物質およびこの物質と反応し得る反応物質を含む反応系に光を照射したときの出力値と、上記測定対象物質の濃度と出力値との関係を示す検量線と、に基づいて、上記測定対象物質の濃度演算を行う濃度測定方法であって、上記検量線は、濃度が既知の標準物質と上記反応物質との反応の初期段階において測定される出力値に基づいて作成された第1検量線と、上記第1検量線の作成の基礎となった出力値の測定時よりも後において測定される出力値に基づいて作成された第2検量線と、を複合したものとして作成されており、かつ、上記検量線は、上記第1検量線と上記第2検量線との交点に相当する交点濃度よりも大きい濃度領域については、上記第1検量線における上記交点濃度よりも大きい濃度領域の部分が採用され、上記交点濃度よりも小さい濃度領域については、上記第2検量線における上記交点濃度よりも小さい濃度領域の部分が採用されていることを特徴とする、濃度測定方法が提供される。
【0015】
本発明における出力値は、たとえば反応系に光を照射したときの応答値(光学的応答値)として得られる。もちろん、反応系に電圧を印加し、あるいは電流を流したときの電気的な応答値などであってもよい。ここで、「光学的応答値」とは、吸光度、濁度、透過度などを含む概念である。吸光度は、反応容器内に液相反応系が設定された場合において、液相反応系を透過した光の光量に基づいて決定されるものの他、多孔質体などの固相に反応系が保持形成された場合において、固相からの反射光の光量に基づいて決定されるものが含まれる。
【0016】
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
本発明は、反応系に光を照射したときの光学的応答値と、検量線と、に基づいて、測定対象物質の濃度演算を行う方法に関するものである。ここで、検量線とは、測定対象物質の濃度と光学的応答値との関係を示すものをいい、少なくとも関数として表現されたもの、およびテーブルとして表現されたものを含んでいる。
【0018】
反応系は、測定対象物質およびこの物質と反応し得る反応物質を含むものである。この反応系は、測定対象物質と反応物質との反応により生じた反応生成物質の量に応じて、色調や濁度などが変化するものである。その結果、反応の進行具合や測定対象物質の量に応じて、反応系での光学的応答状態が変化する。この反応系は、図1Aに示したように容器10内に反応液11を保持することにより構成される場合の他、図1Bに示したように固相20に反応液を保持させることにより構成される場合もある。固相20は、たとえば紙やフェルト様部材のような吸水性に優れる材料により構成される。
【0019】
測定対象物質としては、アルブミン、グルコース、アミラーゼ、クレアチニンなどが挙げられる。もちろん、特定の物質の濃度を測定する場合に限らず、たんぱく質やコレステロールの総量を測定する場合のように、複数種の類似物質の合計量を測定する場合にも、本発明を適用することができる。これに対して反応物質としては、発色指示薬が用いられるが、その種類は測定対象物質に応じて選択される。
【0020】
光学的応答値は、たとえば吸光度、濁度、あるいは透過度として得られる。図1Aに示した反応系では、発光素子12からの光を反応系に照射したときの透過光が受光素子13において受光される。この反応系では、受光素子13での受光量と反応系への入射光量(たとえば発光素子12での発光量)に基づいて、光学的応答値が演算される。一方、図1Bに示した反応系では、発光素子21からの光を反応系に照射したときの反射光が、受光素子22において受光される。この反応系では、受光素子22での受光量と反応系への入射光量(たとえば発光素子21での発光量)に基づいて、光学的応答値が演算される。ただし、図1Bに示した反応系では、透過度や濁度を測定することができず、吸光度として光学的応答値が測定される。
【0021】
本発明の第1の実施の形態に係る濃度測定方法は、比較的高濃度な試料に用いる検量線と比較的低濃度な試料に用いる検量線を使い分けて濃度演算を行うものである。2種類の検量線(1),(2)を使い分ける濃度演算の具体的手法については後述することとして、それに先んじて、先に説明した2種類の検量線(1),(2)を用いる理由について説明する。
【0022】
図2には、測定対象物質がたんぱく質(ヒト血清アルブミン)である場合について、2種類の検量線(1),(2)を示してある。これらの検量線(1),(2)は、たとえば人尿中のたんぱく質濃度を測定する際に使用されるものである。
【0023】
検量線(1)は、高濃度たんぱく質反応液(1000mg/dL)を用い、かつ反応の初期段階において測定された吸光度に基づいて作成されたものである。ここで、反応の初期段階とは、高濃度反応液における吸光度の経時的変化において、吸光度が最大もしくはそれに近い状態となる反応段階をさしている。
【0024】
一方、検量線(2)は、低濃度たんぱく質反応液(100mg/dL)を用い、かつ反応液において反応平衡に到達し、あるいは略反応平衡に達した反応平衡段階において測定された吸光度に基づいて作成されたものである。ここで、反応平衡段階とは、低濃度反応液における吸光度の経時的変化において、吸光度が一定値に漸近し、もしくはそれに近い状態となる反応段階をさしている。
【0025】
図3には、たんぱく質濃度が0〜1000mg/dLの範囲にある11種類のたんぱく質標準液のそれぞれについて、反応物質と反応させたときの吸光度の経時的変化を示した。図3においては、吸光度を反応開始から21.5秒毎に測定した場合について、各測定点を測定ポイント1、測定ポイント2といったように表した。たとえば測定ポイント10は、反応時間が215秒(21.5秒×10)に対応している。測定ポイントという用語は、以下の説明において、あるいは他の図面においても使用されているが、これらの場合においても、先に説明したのと同様の意味で使用されている。
【0026】
吸光度の経時変化の測定に当たっては、測定対象物質と反応物質との反応原理として色素金属結合法を採用した。すなわち、反応物質としては、ブロモピロガロールレッド(色素)とインジウム(金属)とが結合した錯体化合物を使用した。一方、たんぱく質標準液としては、健常者プール尿にヒト血清アルブミン(HAS)を添加して、たんぱく質濃度を調製したものを使用した。吸光度は、全自動尿成分定量分析装置(オーションマスター UM3410:アークレイ(株)製)を用い、測定波長を600nmとして測定した。
【0027】
図3から分かるように、低濃度たんぱく質標準液(100mg/dL)については、測定ポイント14,15で吸光度が一定値に漸近し、吸光度が一定値化している。つまり、低濃度たんぱく質標準液(100mg/dL)を用いた場合には、測定ポイント14,15で反応平衡に近い状態となっている。これに対して、たんぱく質標準液のたんぱく質濃度が大きくなれば、反応時間が長くなるほど吸光度が小さくなる傾向にある。つまり、たんぱく質標準液のたんぱく質濃度が400mg/dL以上であると、プロゾーン様現象が生じている。この現象が生じる測定ポイントは、たんぱく質標準液のたんぱく質濃度が大きくなるにつれて小さくなっている。たとえば、中濃度たんぱく質標準液(400mg/dL)では測定ポイント7で吸光度がピーク値に達しているのに対して、高濃度たんぱく質標準液(1000mg/dL)では測定ポイントが1,2で吸光度がピーク値に達している。
【0028】
図3の結果からは、反応液における測定対象物(たとえばたんぱく質)の濃度が大きい場合には、吸光度がピークとなる前後の時間範囲で測定した吸光度に基づいて作成した検量線(1)(図2参照)を用いるのが好ましいのが分かる。これに対して、反応液における測定対象物(たとえばたんぱく質)の濃度が小さい場合には、反応が平衡に達し、あるいは平衡に達する直前の時間範囲で測定した吸光度に基づいて作成した検量線(2)(図2参照)を用いるのが好ましいのが分かる。
【0029】
図3を参照して説明した理由から、図2に示した2つの検量線(1),(2)を使い分ける理由については十分理解できる。しかしながら、わざわざ2つの検量線(1),(2)を使い分けなくとも、全ての濃度範囲において検量線(1)を使用すればよいのではないかとの疑問も生じる。すなわち、比較的低濃度の試料用の検量線として、検量線(2)を使用する意義について疑問が生じうる。この疑問は、以下に説明するダイナミックレンジおよび再現性の検討結果によって解決することとなるだろう。
【0030】
ダイナミックレンジは、HSAの濃度が0または100mg/dLであるたんぱく質標準液を用いて、測定ポイント1,2および測定ポイント14,15において、先に説明したのと同様にして吸光度を測定し、測定ポイント1,2の平均値および測定ポイント14,15の平均値として検討した。その結果を、下記表1および図4に示したが、ダイナミックレンジは、検量線(1)を用いた場合よりも、検量線(2)を用いた場合のほうが大きくなっている。
【0031】
【表1】
Figure 0004423463
【0032】
一方、再現性は、濃度の異なる3つの患者尿A,B,Cを用いて吸光度を測定し、その吸光度に基づいて検量線(1)を用いて演算した場合、検量線(2)を用いて演算した場合のそれぞれについて検討した。再現性は、濃度平均値、濃度の標準偏差(S.D.)および濃度の相対標準偏差(C.V.)の3つの項目によって検討した。再現性の検討に当たっては、各患者尿A,B,Cのサンプル数を10とし、濃度演算の基礎となる吸光度は、先に説明したのと同様にして測定した。
【0033】
下記表2には、上記3つの項目についての演算結果を示した。
【0034】
【表2】
Figure 0004423463
【0035】
患者尿A,B,Cは、相当に低濃度であるが、このような低濃度試料における標準偏差(S.D.)および相対標準偏差(C.V.)は、検量線(1)を用いた場合に比べて、検量線(2)を用いた場合のほうが小さくなっている。つまり、低濃度領域では、検量線(2)を用いた場合のほうが、再現性が良い(測定誤差が小さい)と言える。
【0036】
したがって、ダイナミックレンジおよび再現性の検討結果からは、低濃度領域では、検量線(1)よりも検量線(2)を用いたほうが良いことが分かる。
【0037】
以上の事実から、本実施の形態では、相対的に高濃度の反応液については測定ポイント1,2での吸光度の平均値に基づいて作成した検量線(1)を用い、相対的に低濃度の反応液については測定ポイント14,15での吸光度の平均値に基づいて作成した検量線(2)を用いることとしている。なお、2つの測定ポイントの平均値により検量線を作成するのは、測定誤差による影響を少なくするためである。
【0038】
次に、本実施の形態の濃度演算手順を、図2を参照しつつ、図5に示したフローに則して説明する。まず、測定ポイント1,2での吸光度(A),(B)を測定するとともに(S1)、測定ポイント14,15での吸光度(a),(b)を測定する(S2)。もちろん、一定時間毎(たとえば21.5秒毎)に吸光度を測定し、その測定値群から測定ポイント1,2および測定ポイント14,15に相当する測定値(吸光度)をピックアップしてもよい。
【0039】
次いで、測定ポイント1,2での吸光度(A),(B)の平均値(C)を演算し(S3)、この平均値(C)と検量線(1)とに基づいて第1濃度(D)を演算する(S4)。その一方、測定ポイント14,15での吸光度(a),(b)の平均値(c)を演算し(S5)、この平均値(c)と検量線(2)とに基づいて第2濃度(d)を演算する(S6)。
【0040】
続いて、第2濃度(d)が濃度演算用閾値よりも大きいか否かを判断する(S7)。つまり、測定対象物質の濃度が相対的に大きなものであるか、あるいは相対的に小さなものであるかを予想する。ここで、濃度演算用閾値は、たとえば2つの検量線(1),(2)ともに直線性が高い濃度範囲(200〜300mg/dLの範囲)内、あるいは検量線(1)と検量線(2)との交点に相当する濃度(約400mg/dL)として設定される。測定対象物質の濃度が濃度演算用閾値よりも大きいか小さいかの予想は、第2濃度(d)を演算することなく、光学的応答値(たとえば吸光度)が予め定められた光学的応答値用閾値よりも大きいか否かに基づいて行ってもよい。
【0041】
第2濃度(d)が濃度演算用閾値よりも大きいと判断された場合には(S7:YES)、第1濃度(D)と第2濃度(d)との大小を比較し(S8)、値の大きな演算値を採用する(S9,S10)。つまり、第2濃度(d)よりも第1濃度(D)のほうが大きければ(S8:YES)、最終的な演算結果として第1濃度(D)を採用し(S10)、第1濃度(D)よりも第2濃度(d)のほうが大きければ(S8:NO)、最終的な演算結果として第2濃度(d)を採用する(S9)。
【0042】
図2から分かるように、検量線(2)はプロゾーン様現象が生じているときの吸光度に基づいて作成されたものであるのに対して、検量線(1)はプロゾーン様現象が生じていないときの吸光度に基づいて作成されたものである。そのため、検量線(1)での演算結果と検量線(2)での演算結果を比較して値の大きなものを採用すれば、プロゾーン様現象によって検量線(2)を使用すれば実際の濃度よりも低値な演算結果がでる濃度領域では、検量線(1)での演算値が採用される。これにより、プロゾーン様現象の影響を回避した演算が可能となる。
【0043】
一方、第2濃度(d)が濃度演算用閾値よりも小さいと判断された場合には(S7:NO)、プロゾーン様現象が生じているために第2濃度(d)が小さいのか、あるいは単に濃度が小さいのかを判断する(S11)。プロゾーン様現象が生じているために第2濃度(d)が小さいのであれば(S11:YES)、最終的な演算結果としては、検量線(1)での演算値である第1濃度(D)を採用する(S10)。一方、プロゾーン様現象が生じておらず、単に第2濃度(d)が小さいのであれば(S11:NO)、最終的な演算結果として第2濃度(d)をそのまま採用する(S9)。
【0044】
以上に説明した手順では、検量線(2)を用いた場合に、プロゾーン様現象の影響を受ける相対的に高濃度な濃度範囲については、検量線(1)での演算結果が採用される。そのため、検量線(1),(2)の使い分けという簡易な手法によりプロゾーン様現象の影響を極力回避して、再測定することなく高濃度領域での演算を適切に行えるようになる。一方、低濃度領域については、検量線(2)を用いて演算された第2濃度(d)が採用されるため、先の再現性の検討結果からも分かるように、低濃度領域での再現性が高くなる。
【0045】
このような効果は、図6に示した手順に則して濃度演算を行った場合にも享受することができる。この濃度演算手順では、まず図5に示したフローのS1〜S6と同様にして、第1濃度(D)および第2濃度(d)を演算する(S20〜S25)。次いで、第1濃度(D)が濃度演算用閾値よりも大きいか否かを判断する(S26)。つまり、第1濃度(D)を基準として、これを濃度演算用閾値と比較して、測定対象物質の相対的に大きなものであるか、あるいは相対的に小さなものであるかが判断される。この点において、検量線(2)を用いて演算した第2濃度(d)が濃度演算用閾値よりも大きいか否かを判断する図5に示した濃度演算手順とは異なっている。
【0046】
S26における判断の結果、第1濃度(D)が濃度演算用閾値よりも大きければ(S26:YES)、つまり相対的に高濃度であると判断された場合には、最終的な演算結果として、検量線(1)での演算結果である第1濃度(D)を採用する(S27)。一方、第1濃度(D)が濃度演算用閾値よりも小さければ(S26:NO)、つまり相対的に低濃度であると判断された場合には、最終的な演算結果として、再現性の高い検量線(2)での演算結果である第2濃度(d)を採用する(S28)。この濃度演算手順では、プロゾーン様現象の検知が不要であるという利点がある。
【0047】
なお、図6に示した濃度測定手順においても、濃度演算用閾値は、2つの検量線(1),(2)ともに直線性が高い濃度範囲(200〜300mg/dLの範囲)内、あるいは検量線(1)と検量線(2)との交点に相当する濃度(400mg/dL強)として設定される。後者のように濃度演算用閾値を定める場合には、結局、S27およびS28において、検量線(1),(2)での演算結果のうち、値の大きなほうが最終的な演算結果として採用されることとなる。言い換えれば、第1濃度(D)と第2濃度(d)との大小を比較して、値の大きなほうを最終的な演算結果として採用したのと同様な結果となる。これに類似する演算手法として、以下に説明する検量線を使用する方法が挙げられる。この場合の検量線は、検量線(1)と検量線(2)との交点を境界として、これよりも高濃度領域については検量線(1)における対応部分を採用し、低濃度領域については検量線(2)における対応部分を採用したものである。この場合には、第1濃度(D)や第2濃度(d)を濃度演算用閾値と比較し、あるいは第1濃度(D)と第2濃度(d)とを比較する必要はないといった利点が得られる。
【0048】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る濃度測定方法を説明する。この濃度測定方法では、図7に示した複数の検量線(A)〜(H)を使い分けて濃度演算が行われる。これらの検量線(A)〜(H)は、図3のグラフを作成する際に測定した複数の吸光度測定値に基づいて作成されたものである。具体的には、複数の検量線(A)〜(H)は、複数の吸光度測定値を同一の測定ポイント毎にグループ化し、個々のグループ毎(測定ポイント毎)に作成したものである。換言すれば、複数の検量線(A)〜(H)は、異なる反応時間(複数の測定ポイント)毎に、個別に作成されたものである。
【0049】
これらの検量線(A)〜(H)を用いて濃度演算を行う場合には、図8に示したように、まず上記した各測定ポイントにおいて吸光度を測定する(S30)。次いで、測定ポイント1での吸光度に基づいて、複数の検量線(A)〜(H)の中から濃度演算に最適な検量線を選択する(S31)。ここで、図3を参照すれば分かるように、測定対象物質の濃度が大きいほど、初期吸光度(測定ポイント1での吸光度)が大きくなっている。そのため、初期測定値に基づけば、測定対象物質の濃度を適切に予想することができる。したがって、S31においては、その予想値に基づいて最適検量線が選択される。より具体的には、予想値が大きいほど、測定ポイントの小さい(反応時間の短い)ときの吸光度に基づく検量線が選択される。たとえば測定ポイント1での吸光度が大きく、予想濃度が900mg/dL以上の場合には検量線(A)が選択され、測定ポイント1での吸光度が小さく、予想濃度が150mg/dL以下の場合には検量線(H)が選択される。
【0050】
最後に、最適検量線と、この最適検量線に対応する測定ポイントでの実測吸光度と、に基づいて濃度演算を行う(S32)。
【0051】
S31のような手法により最適検量線を選択する場合には、この最適検量線に対応する測定ポイントでの吸光度は、図3から予想されるように、吸光度の経時変化における最大値またはそれに近い値となる。したがって、本実施の形態の演算方法では、プロゾーン様現象の影響を抑制して、適切な濃度演算が可能となる。
【0052】
本実施の形態では、複数の検量線を作成しておく必要がある反面、プロゾーン様現象の検知が不要であり、また濃度演算用閾値を設定し、これとの比較を行った上で検量線を選択する必要もないため、濃度測定手順が簡略化されるといった利点がある。また、相対的に低濃度なものについては、測定ポイントの大きい(反応時間が長い)ときの吸光度に基づいて作成された検量線が選択されるため、低濃度物質を測定する際の再現性が良好なものとなる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、8つの測定ポイントについて作成された検量線(A)〜(H)を用いて濃度演算を行う場合について説明したが、検量線の数は8つよりも多くてもよいし、8つよりも少なくてもよい。また、第1の実施の形態に係る濃度測定方法のように、2つの測定ポイントの平均値として複数の検量線を作成し、これらを用いて同様な手順により濃度演算を行うようにしてもよい。
【0054】
本実施の形態では、測定ポイント毎に複数の検量線を作成して、吸光度の経時変化における最大値またはそれに近い値に基づいて濃度が演算されるようになされていた。これに類似する演算手法として、図9に実線で示した検量線(α)を使用する方法が挙げられる。この検量線(α)は、図3における同一濃度の複数のフロップ点の最大吸光度を集めて作成したものである。図9には、本発明の第1の実施の形態で用いた検量線(1)および検量線(2)を同時に示している。
【0055】
図9から分かるように、検量線(α)は、相対的に高濃度領域ではプロゾーン様現象の生じていない検量線(1)に相関している一方、相対的に低濃度領域では再現性の高い検量線(2)に相関している。したがって、検量線(α)を用いれば、本発明の第1の実施の形態と同様な効果を享受することができる。さらには、プロゾーン様現象の検知が不要であり、また検量線を選択するといった手順も不要となる。
【0056】
上述の実施の形態では、光学的応答値に基づいて濃度を演算する場合を例にとって説明したが、本発明は、反応系の種類によっては、反応系に電圧を印加し、あるいは電流を流したときの電気的な応答値、反応の進行に伴う振動数の変化、反応系に光や振動を与えたときの熱的な応答などに基づいて濃度を演算する場合にも適用することができる。
【0057】
第1および第2の実施の形態においては、プロゾーン様現象が生じる場合を例にとって説明したが、本発明は高濃度領域において分解能が低下する場合にも適用することができる。すなわち、高濃度領域において吸光度が一定値に漸近するような反応系を用いて濃度測定を行う場合において、高濃度領域での濃度測定を適切に行うために適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1Aおよび図1Bは、光学的応答値の測定方法を説明するための概略図である。
【図2】 図2は、本発明の第1の実施の形態に係る濃度演算で用いる第1および第2検量線(1),(2)を示すグラフである。
【図3】 図3は、吸光度の経時的変化について、濃度の異なる複数の標準反応液について示したグラフである。
【図4】 図4は、標準反応液のダイナミックレンジを示すグラフである。
【図5】 図5は、濃度演算手順の一例を説明するためのフロー図である。
【図6】 図6は、濃度演算手順の他の例を説明するためのフロー図である。
【図7】 図7は、本発明の第2の実施の形態に係る濃度演算で用いる複数の検量線(A)〜(H)を示すグラフである。
【図8】 図8は、濃度演算手順の一例を説明するためのグラフである。
【図9】 図9は、検量線(α)を説明するためのグラフである。

Claims (4)

  1. 測定対象物質およびこの物質と反応し得る反応物質を含む反応系からの出力値と、上記測定対象物質の濃度と出力値との関係を示す検量線と、に基づいて、上記測定対象物質の濃度演算を行う濃度測定方法であって、
    上記検量線は、濃度が既知の標準試薬と上記反応物質とを含む標準反応系の出力値を、濃度の異なる複数の標準試薬のそれぞれについて特定時間範囲内において経時的に測定し、各濃度の標準試薬を用いた場合における出力値の最大値の集合に基づいて作成されていることを特徴とする、濃度測定方法。
  2. 上記出力値は、上記反応系に光を照射したときの光学的応答値である、請求項に記載の濃度測定方法。
  3. 測定対象物質およびこの物質と反応し得る反応物質を含む反応系からの出力値と、上記測定対象物質の濃度と出力値との関係を示す検量線と、に基づいて、上記測定対象物質の濃度演算を行う濃度測定方法であって、
    上記検量線は、濃度が既知の標準物質と上記反応物質との反応の初期段階において測定される出力値に基づいて作成された第1検量線と、上記第1検量線の作成の基礎となった出力値の測定時よりも後において測定される出力値に基づいて作成された第2検量線と、を複合したものとして作成されており、かつ、
    上記検量線は、上記第1検量線と上記第2検量線との交点に相当する交点濃度よりも大きい濃度領域については、上記第1検量線における上記交点濃度よりも大きい濃度領域の部分が採用され、上記交点濃度よりも小さい濃度領域については、上記第2検量線における上記交点濃度よりも小さい濃度領域の部分が採用されていることを特徴とする、濃度測定方法。
  4. 上記出力値は、上記反応系に光を照射したときの光学的応答値である、請求項に記載の濃度測定方法。
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