JP4422982B2 - 生体物質結合用磁性担体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、黄色または黄緑色の色調を有する生体物質結合用磁性担体に関し、さらに詳しくは、磁性担体の色調による生体物質結合機能の識別化を可能にする磁性担体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
試料中から生親和性分子(たとえば核酸など)を単離するために、酸化鉄粒子の磁気応答性を利用した磁性担体が使用されている。たとえば、共有結合し得る重合性シラン被膜により覆われた超常磁性酸化鉄を有する磁気応答粒子を使用することが知られている(特許文献1参照)。
また、多磁区からなる金属または金属酸化物を用いた核酸結合用の磁性シリカ粒子が公知である(特許文献2参照)。この磁性シリカ粒子は、実施例より、磁性粒子としてフェライト(酸化鉄)が使用されている。
【0003】
また、核酸の精製、分離およびハイブリダイゼーションのために、支持体として、金属酸化物、ガラス、ポリアミドなどが例示され、ポリカチオン性磁気応答粒子が公知である(特許文献3参照)。磁気応答粒子としては、粒子サイズが約1μmの磁気アミンマイクロスフェア(磁性微小球)などが使用され、磁性体マトリックスとして磁気反応性酸化鉄が例示されている。
さらに、内部コアポリマー粒子とその粒子に均一に被覆している磁気的に応答する金属酸化物/ポリマーコーテイングとよりなる磁性応答粒子を使用した、純粋な生物材料の単離法も公知である(特許文献4参照)。この磁気応答粒子に使用される金属酸化物は、硫酸鉄から製造されることが実施例に記載されており、酸化鉄である。
【0004】
また、超常磁性金属酸化物を含む球状の磁性シリカ粒子が知られている(特許文献5,6参照)。この例では、磁性シリカ粒子として、超常磁性金属酸化物を微小なシリカ粒子で構成される無機多孔質壁物質で複合化している。磁性金属酸化物としては、四三酸化鉄(Fe3 4 )やγ−型三二酸化鉄(γ−Fe2 3 )が使用されることが記載されている。
【0005】
このように、従来の磁気応答粒子としての磁性担体は、磁界応答性を持たせるための磁性粒子として、すべて酸化鉄粒子が使用されている。酸化鉄粒子は、化学的に安定であり、かつ製造も容易であるため、この分野における磁性担体として汎用されている。この酸化鉄粒子の表面を各種の無機化合物や有機化合物で被覆して、各種の機能を付加することにより、DNAやRNAなどの核酸や、各種の蛋白質の抽出、精製が行われている。
【0006】
しかしながら、酸化鉄粒子は、その酸化状態により異なるが、色調は黒色または黒茶色である。この酸化鉄粒子の表面を各種の無機化合物や有機化合物で被覆しても、磁性担体としての色調は黒色または黒茶色であることには変わりない。すなわち、磁気応答粒子として酸化鉄粒子を用いる以上、磁性担体の色調による用途の識別化は、本質的に不可能である。また、たとえば酸化鉄粒子を各種の顔料で被覆することも考えられるが、酸化鉄粒子そのものが黒色または黒茶色であるため、着色することは本質的に極めて困難である。
【0007】
【特許文献1】
特開昭60−1564号公報(第20〜23頁)
【特許文献2】
特開2000−256388号公報(第3〜4頁)
【特許文献3】
特表平1−502319号公報(第7〜10頁)
【特許文献4】
特表平2−501753号公報(第4〜5頁)
【特許文献5】
特開平9−19292号公報(第3〜4頁)
【特許文献6】
特開2001−78761号公報(第3〜4頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、磁気応答粒子としては、従来では酸化鉄粒子の使用が当然のように考えられ、またその結果、磁性担体としての色調が黒色または黒茶色である状況においては、磁性担体に各種の色調を付与して、磁性担体の色調によりその機能を識別化するという発想は、これまで、存在しなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、色調によりその機能の識別を可能にする磁性担体を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、磁性粒子として希土類鉄ガーネット粒子を使用すると、従来の黒色または黒茶色の磁性粒子とは異なる黄色または黄緑色の色調を有する磁性担体が得られ、またこの黄色または黄緑色の色調を基本にして、各種の顔料で着色化することで、各種の色調を有する磁性担体が得られ、これにより磁性担体の色調による機能の識別化が可能となることを見いだした。
【0011】
ここで言う機能の識別化とは、磁性担体が有する各種の機能を、その磁性担体が有する色調により識別できることを意味している。
従来の酸化鉄粒子を用いた磁性担体では、DNAやRNAさらには酵素や抗体などの蛋白質の抽出・精製のため、磁性担体の表面に各種の物質を被着形成させ、この表面被着物質により、各種の用途に使い分けている。しかしながら、この場合、磁性担体としては、磁性担体そのものは黒色または黒茶色であり、見た目にはすべて同一色であり、磁性担体の色調による機能の識別化はほとんど不可能であった。
【0012】
これに対し、希土類鉄ガーネット粒子は、この粒子が持つ特異な色調である黄色または黄緑色を基本にして各種の色調に着色できるので、各色調に対応するように磁性粒子の表面に各種の物質を被着形成させると、この磁性担体が有する色調により、この磁性担体が有する各種の機能を識別できるようになる。
この希土類鉄ガーネット粒子は、本発明者らの一人が、先に、磁性顔料や光透過性の磁気記録媒体用として、開発している(特開2000−211924、特開2000−252120などの各公報)。
本発明者らは、このような希土類鉄ガーネット粒子が磁性体であるにもかかわらず、従来の酸化鉄のような黒色または黒茶色ではなく、黄色または黄緑色を有していることに着目し、この粒子を用いることにより、磁性担体に各種の色調を付与でき、その結果、磁性担体の色調による機能の識別化が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
この希土類鉄ガーネット粒子は、一般式R3 5 12で表される元素組成を有するが、ガーネット構造をとるものであれば、必ずしも厳密に上記元素組成を有している必要はとくにない。
一般式において、Rは、3価イオンになる希土類元素、たとえば、Y(イットリウム)、イッテルビウム、セシウム、ランタン、ネオジウムなどであり、これらの希土類元素の中でも、Yを使用したときに最も大きな飽和磁化が得られるため、とくに好ましい。
また、この希土類元素の一部を他の3価イオンとなる元素で置換した複合元素とすることもできる。中でも、Biは、希土類鉄ガーネット粒子を加熱反応で合成する際の反応温度を低くする効果があり、また色調のより明るい希土類鉄ガーネット粒子の生成を容易にするため、Biで置換するのが好ましい。たとえば、RとしてYとBiを使用する場合には、Biの置換量は、Bi/(Y+Bi)で表して、1〜50モル%が好ましい。Biの置換量がこの範囲より少ないと、反応温度低減の効果は少なく、またこの範囲より多いと、飽和磁化量が過度に低下するため、好ましくない。
【0014】
一般式において、Mは3価イオンになるFeを必須とする遷移金属元素であり、Fe単独のほか、Feに3価のCoやNiを加えたものが用いられる。また、これらの遷移金属元素の一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素とすることもできる。この他の3価イオンになる元素には、Al、Ga、Sc、Inの中から選ばれた元素か、あるいは、2価〜4価イオンまたは2価〜5価イオンの組み合わせにより3価イオンになる元素が挙げられる。
【0015】
この希土類鉄ガーネット粒子の平均粒子サイズとしては、0.05〜10μmが好適である。平均粒子サイズが0.05μmより小さいと、表面積が大きくなり、生体物質の結合効率は高いが、磁石による捕集性が低下する傾向にあり、操作上好ましくない。平均粒子サイズが10μmより大きくなると、表面積が小さくなり、生体物質の結合量が減少する傾向にある。希土類鉄ガーネット粒子の平均粒子サイズが0.05〜10μmの範囲のとき、生体物質の結合性/磁界による捕集性のバランスの取れた最適な磁性担体となる。
【0016】
また、希土類鉄ガーネット粒子の形状としては、針状、板状、球状、粒状、楕円状、立方状など各種の形状のものが使用できるが、粒子形状が球状ないし粒状のものが、磁石による捕集性が最も良好であり、好ましい。ここで言う球状とは、粒子の長軸方向と短軸方向の長さの比が2以下のものを指し、粒状とは、粒子の形状に異方性のないものを指す。粒子表面に凹凸があるものでも、粒子全体としてとくに形状に異方性のないものであれば、粒状と定義する。
【0017】
この希土類鉄ガーネット粒子の磁気特性としては、保磁力が2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)、飽和磁化が1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲にあるものが好適である。
保磁力は、生体物質を結合させた磁性担体からの懸濁液中での生体物質の溶離性に影響し、捕集するときに印加された磁界により磁性担体はある程度磁化されるため、保磁力が大きくなると磁性担体間の凝集力が大きくなり、磁性担体から生体物質を溶離するときの磁性担体の分散性が低下する。保磁力は、低くてもとくに問題となることはないが、上述した範囲以下にするためには、平均粒子サイズを極めて大きくする必要があり、粒子サイズの面から好ましくない。したがって、2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)の範囲の保磁力において、最もすぐれた生体物質の単離性が得られる。
【0018】
また、飽和磁化は、核酸を結合した磁性担体の捕集性と密接に関係し、一般に飽和磁化が大きいほど、磁界に対する応答性が向上し、磁性担体を懸濁液中で捕集する際に、短時間で効率良く捕集できる。この飽和磁化の値は、使用する元素の種類や組成に依存するが、1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲が好適である。飽和磁化がこの範囲より小さい場合には、磁界に対する応答性が低下し、捕集性が劣化する。飽和磁化が上記範囲を超える希土類鉄ガーネット粒子を得ることは、本質的に困難である。したがって、1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲のとき、最もすぐれた生体物質の単離性が得られる。
【0019】
本発明の希土類鉄ガーネット粒子は、生体物質結合用磁性担体として、このままの状態でも使用できるが、各種の無機化合物や有機化合物で磁性担体の表面を被着または被覆することにより、各種の目的に適合した生体物質結合用磁性担体としての機能を発揮させることができる。
たとえば、生体物質としてDNAやRNAなどの核酸を結合させる目的においては、粒子表面にシリカを被着形成することが有効である。
このシリカ層の形成方法は、とくに限定されない。希土類鉄ガーネット粒子に直接シリカを被着形成してもよいし、希土類鉄ガーネット粒子の集合体をマイクロカプセル化してシリカの被膜を形成してもよい。シリカの被着量としては、希土類鉄ガーネット粒子に対して3〜300重量%が好ましい。シリカの被着量が3重量%より少ないと、核酸の結合効率が低く、抽出効率が低くなる。300重量%より多いと、磁性担体としての飽和磁化量が減少し、磁界による捕集性が低下するため、好ましくない。
【0020】
また、生体物質として抗体や酵素などの蛋白質を結合させる場合には、希土類鉄ガーネット粒子にこれらの蛋白質を直接結合させることもできる。また、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、官能基を有するシランカップリング剤の中から選ばれた1種、または2種以上組み合わせた複合体を、希土類鉄ガーネット粒子の粒子表面に結合させておくと、より効率良く蛋白質を結合させることができるので、望ましい。
【0021】
粒子表面に官能基を付与することは、特定の蛋白質を結合させる目的において、とくに有効な手段である。この官能基の付与方法は、とくに限定されないが、たとえば官能基を導入したシランカップリング剤を粒子表面に被着することにより、官能基を付与することができる。官能基の種類としては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基などが好ましく、中でもアミノ基は蛋白質に対する結合性がすぐれているため、とくに好ましい。
【0022】
さらに、希土類鉄ガーネット粒子を糖質層で被覆すると、融合蛋白質を結合するために適した磁性担体となる。この糖質には、グルコースを単位とするオリゴ糖または多糖が好適で、中でも糖質がアミロースを主成分とする多糖であるときに融合蛋白質を抽出、精製する目的において、最適な磁性担体となる。
【0023】
このような希土類鉄ガーネット粒子は、黄色または黄緑色のものが好ましく、上述したように、一般式R3 5 12で表される元素組成のときに黄色または黄緑色調のものを得やすく、またRとしてYを使用し、かつYの一部をBiで置換すると、より黄色または黄緑色のものを得やすい。このような黄色または黄緑色の色調をもつ粒子は、さらに各種の色調の顔料を被着または混合することにより、各種の色調を有する磁性担体を得ることができる。
【0024】
すなわち、従来の酸化鉄粒子を用いた磁性担体では、酸化鉄粒子が黒色または黒茶色であるため、各種の色調の顔料を被着または混合しても、色調は黒色または黒茶色であり、他の色調を付与することは極めて困難であった。本発明の黄色または黄緑色の希土類鉄ガーネット粒子を用いることにより、各種の色調を付与でき、色調による磁性担体の識別化が可能になる。
【0025】
このような希土類鉄ガーネット粒子は、たとえば、基本的な製造工程として、a)希土類元素と鉄イオンを含む酸性水溶液とアルカリ水溶液を混合して、希土類元素と鉄の共沈物をつくる工程、b)この共沈物に水の存在下で融剤を加えて懸濁液を得る工程、c)この懸濁液から水を除去して共沈物と融剤の混合物を得る工程、d)この混合物を600〜1,200℃で加熱処理して、希土類鉄ガーネット粒子を析出させる工程、およびe)この析出後に融剤を水洗除去して希土類鉄ガーネット粒子を取り出す工程により、得ることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の生体物質結合用磁性担体は、平均粒子サイズが0.05〜10μmで、保磁力が2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)、飽和磁化が1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲にある希土類鉄ガーネット粒子からなることを特徴としたものである。
この粒子は、前記した一般式R3 5 12で表される元素組成を有し、Rは3価イオンになる希土類元素またはその一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなり、とくにYまたはその一部をBiで置換した複合元素であるのが望ましい。また、Mは、3価イオンになるFeを必須とする遷移金属元素、あるいはその一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなり、上記の他の3価イオンになる元素には、Al、Ga、Sc、Inの中から選ばれた元素や、2価〜4価イオンまたは2価〜5価イオンの組み合わせにより3価イオンになる元素が用いられる。
【0027】
このような希土類鉄ガーネット粒子は、黄色または黄緑色の色調を有するため、この微粒子を各種の顔料で被覆したり、あるいは混合することにより、各種の色調を有する磁性担体とすることができる。その結果、色調による磁性担体の各種機能の識別化、たとえば核酸や蛋白質の抽出、精製、さらには分析などの各種機能の識別化が可能になる。
【0028】
また、この希土類鉄ガーネット粒子にシリカやアパタイトなどの無機酸化物を被着形成したり、有機化合物を被覆結合させることにより、核酸や蛋白質などの各種の生体物質の抽出、精製、分析に対応できるようになる。この有機化合物としては、たとえば、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、またアミノ基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基などの官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。また、これらの有機化合物を複合使用することも、上述の無機化合物を被着形成したのち、この上にこれらの有機化合物を結合させてもよい。
さらに、希土類鉄ガーネット粒子に、糖質層を被覆形成することも可能である。この糖質層としては、グルコースを単位とするオリゴ糖または多糖が挙げられ、とくにこの糖質がアミロースを主成分とする多糖であるときに、より良好な生体物質結合用磁性担体を得ることができる。
【0029】
<希土類鉄ガーネット粒子の製造方法>
つぎに、希土類鉄ガーネット粒子の製造方法について、説明する。
希土類鉄ガーネット粒子は、たとえば、a)希土類元素と鉄イオンを含む酸性水溶液とアルカリ水溶液を混合して、希土類元素と鉄の共沈物をつくる工程、b)この共沈物に水の存在下で融剤を加えて懸濁液を得る工程、c)この懸濁液から水を除去して共沈物と融剤の混合物を得る工程、d)この混合物を600〜1,200℃で加熱処理して、希土類鉄ガーネット粒子を析出させる工程、およびe)この析出後に融剤を水洗除去して希土類鉄ガーネット粒子を取り出す工程により、工業的に製造することができる。
以下に、一般式中のRがYであるものを例にとり、各工程を説明する。
【0030】
a工程においては、イットリウム(Y)と鉄を含む酸性水溶液とアルカリ水溶液を混合して、イットリウムと鉄の共沈物、つまりイットリウム鉄ガーネットを構成する基本元素の共沈物を得る。
上記の酸性水溶液は、イットリムと鉄とを基本成分とした金属の酸性塩の水溶液であり、酸性塩の種類はとくに限定されないが、水洗後に不純物が残留しにくい硝酸塩や塩化物などを使用するのが好ましい。
また、イットリウムの一部をBi(ビスマス)で置換すると、イットリウム鉄ガーネットを生成させるための熱処理温度が低くなり、また粒子の色調が明るいものが得られやすいため、イットリウムの一部をビスマスで置換することが好ましい。このときのイットリウムの置換量としては、Bi/(Y+Bi)で表して、1〜50モル%が好ましい。Biの置換量がこの範囲より少ないと反応温度低減の効果は少なく、またこの範囲より多いと、飽和磁化量が過度に低下するため、好ましくない。
【0031】
また、アルカリ水溶液としては、NaOH、KOH、アンモニアなどのアルカリ水溶液が用いられる。イットリウムおよび鉄イオンはともに3価であるため、共沈物を生成させるには、アルカリイオンは最低3倍モル等量以上必要である。しかしながら、最終的に飽和磁化の大きいイットリウム鉄ガーネット粒子を得るためには、4倍モル等量以上の過剰アルカリイオンの存在下で共沈物を生成させるのが好ましい。アルカリイオンの上限はとくにないが、濃度が高すぎると水洗時の効率が悪くなるため、12倍モル等量以下とするのが好ましい。
【0032】
b工程においては、上記の共沈物を十分に水洗して、余剰のアルカリイオンなどを除去したのち、融剤が溶解できる程度に水を残留させた状態で融剤を加え、この融剤を攪拌溶解させて、融剤と共沈物の均一懸濁液を得る。攪拌溶解が十分でないと、次工程で共沈物と融剤との均一混合物を得にくい。融剤には、Na、K、Liなどのアルカリ金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物などが好ましく用いられる。融剤の使用量は、最終的に得られるイットリウム鉄ガーネット粒子に対し、100重量%以上、好ましくは200重量%以上であるのがよく、これにより上記磁性担体に最適な希土類鉄ガーネット粒子が得られる。
【0033】
c工程においては、上記の懸濁液から水を除去して共沈物と融剤との均一混合物を得るものである。水の除去方法としては、たとえば、空気中で直接加熱乾燥して水だけを蒸発除去する方法などがある。
d工程においては、上記の混合物を加熱処理して、融剤中にイットリウム鉄ガーネットの微粒子結晶を析出させる。加熱処理温度は、融剤の融点以上の温度として、600〜1,200℃の範囲において、融剤の種類に応じた適宜の温度を選択すればよい。加熱処理に先立ち、上記の混合物をあらかじめプレスなどにより成形しておくと、YとFeが融剤中で反応しやくなり、飽和磁化の増大およびより明るい色調の発現に寄与させることができる。
e工程においては、上記のイットリウム鉄ガーネット微粒子結晶の析出後、融剤を水洗除して、微粒子結晶を取り出すものである。
【0034】
上記の取り出し後、乾燥して得られる微粒子は、一般式:Y3 Fe5 12で表されるイットリウム鉄ガーネットを基本組成とし、平均粒子サイズが0.05〜10μmで、保磁力が2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)、飽和磁化が1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲にあり、かつ黄色または黄緑色の色調を有し、この粒子を使用することにより、色調による生体物質結合機能の識別化が可能な磁性担体を得ることができる。
なお、上記の製造工程において、たとえば、融剤を全く使用しなかったり、微粒子結晶を析出させるための加熱処理温度が適正範囲から逸脱したりすると、上記のような磁気特性や色調の希土類鉄ガーネット粒子を得にくくなる。
【0035】
このようにして得られる本発明の希土類鉄ガーネット粒子は、生体物質結合用磁性担体として、このままの状態でも使用できるが、シリカやアパタイトなどの各種の無機化合物を粒子表面に被着または被覆すると、生体物質結合用磁性担体として、その機能をより向上させることができる。
たとえば、生体物質としてDNAやRNAなどの核酸を結合させる場合には、粒子表面にシリカを被着形成することが有効であり、蛋白質を結合させるには、粒子表面にアパタイトを被着形成することが有効である。
これらの無機化合物を被着形成する方法については、とくに限定されるものではないが、たとえば、無機化合物としてシリカを被着形成する場合は、以下のようなふたつの方法を挙げることができる。
【0036】
<希土類鉄ガーネット粒子へのシリカの被着形成(I)>
上述のようにして得たイットリウム鉄ガーネット粒子を、水に対する粒子の含有量が1〜10重量%になるように、水と粒子の含有量割合を調整する。この水に対する粒子の含有量は、シリカを個々の粒子の表面近傍に被着形成するときの均一性に影響し、上記範囲内のときに最も均一にシリカが被着形成される。すなわち、水に対する粒子の含有量が1重量%未満の場合は、濃度が希薄すぎて、シリカが粒子の表面以外の場所で析出しやすくなる。一方、水に対する粒子の含有量が10重量%を超えると、濃度が高すぎて、粒子が凝集しやすくなり、個々の粒子の表面近傍に均一にシリカを被着形成することが困難になる。
【0037】
つぎに、この懸濁液に、SiO2 に換算して、イットリウム鉄ガーネット粒子に対して3〜50重量%になるように珪酸ナトリウム(水ガラス)を添加する。この添加量が3重量%より少ないと、粒子の表面近傍に被着形成されるシリカの量が不十分になるため、核酸の結合量が少なくなり、抽出効率が低下する。一方、添加量が50重量%より多いと、シリカを個々の粒子の表面近傍に均一に被着形成することが困難になり、核酸の結合量増加の効果が少なく、また磁性担体としての飽和磁化量が過度に減少し、磁界による捕集性が低下する。
また、珪酸ナトリウムの添加は、水に対してSiO2 に換算して0.5〜2重量%となるように調整するのが好ましい。珪酸ナトリウム水溶液から中和反応によりシリカを析出させると、液の粘度が高くなるが、この粘度が高すぎると、個々の粒子の表面近傍にシリカを均一に被着形成することが困難になり、一方低すぎると、シリカが析出しにくくなる。
【0038】
このように、イットリウム鉄ガーネット粒子に対してSiO2 に換算して3〜50重量%になるように珪酸ナトリウムを添加し、かつこのときの水に対する珪酸ナトリウムの添加量がSiO2 に換算して0.5〜2重量%になるように調整し、さらに水に対する粒子の含有量が1〜10重量%になるように、イットリウム鉄ガーネット粒子、珪酸ナトリウムおよび水の量を調整するのが好ましい。このように調整された液に対し希塩酸などの酸を加えて中和反応させると、粒子表面にシリカが被着形成される。この粒子を純水で十分水洗したのち、ろ過し、空気中、60℃で4時間乾燥させる。
【0039】
このような方法により、個々のイットリウム鉄ガーネット粒子の表面にシリカを被着形成した、核酸の抽出精製または核酸増幅産物の精製に最適な磁性担体が得られる。この方法は、シリカを被着形成したのちの平均粒子サイズとして、元のイットリウム鉄ガーネット粒子と同程度か若干大きい0.05〜1μmのものを得るのに適している。
【0040】
<希土類鉄ガーネット粒子へのシリカの被着形成(II)>
つぎに、イットリウム鉄ガーネット粒子の集合体をマイクロカプセル化してシリカの被膜を形成する方法について説明する。
イットリウム鉄ガーネット粒子の懸濁液に、珪酸ナトリウムを所定量添加し、溶解させる。珪酸ナトリウムの添加量は、SiO2 に換算して、イットリウム鉄ガーネット粒子に対して10〜300重量%が好ましく、より好ましくは15〜250重量%である。添加量が少ないと、大きな飽和磁化が得られやすい反面、粒子を均一に被覆することが困難になる。一方、添加量が多いと、飽和磁化が低下し、磁性担体としたときに、磁界に対する応答性が低下する。
【0041】
上記の珪酸ナトリウムを溶解したイットリウム鉄ガーネット粒子の懸濁液とは別に、有機溶媒に所定量の界面活性剤を溶解する。有機溶媒としては、水に対する溶解度が低いものが好ましく、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが好ましい有機溶媒として使用できる。
また、乳化剤として使用する界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル系の界面活性剤が好ましく、たとえば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルジタンモノパルミレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレートなどが好適なものとして使用できる。
【0042】
つぎに、上記の珪酸ナトリウムを溶解したイットリウム鉄ガーネット粒子懸濁液に、上記の界面活性剤溶解有機溶媒を混合し、ホモミキサー、ホモジナイザーなどの強力な攪拌機を用いて攪拌し、W/O型のエマルジョンを調製する。攪拌時間は、攪拌機の能力によるが、1〜30分程度が好ましい。
攪拌時間が短いと、均一なサイズのエマルジョン粒子を得にくくなり、長すぎると攪拌エネルギーにより強磁性粒子とシリカが反応して、目的とは異なる構造の粒子が生成しやすくなる。
【0043】
このように調製されるエマルジョン粒子は、有機溶媒中でイットリウム鉄ガーネット粒子と珪酸ナトリウム水溶液が界面活性剤により包み込まれた構造を有している。つぎに、このエマルジョン粒子の懸濁液を、アンモニウム塩を溶解した水溶液に滴下する。珪酸ナトリウムはアルカリ領域では水に溶解しているが、中性領域では不溶性となる。このため、アンモニウム塩を加えて中和させると、シリカとなって析出し、イットリウム鉄ガーネット粒子を含有するようにシリカの被膜で覆われた球状粒子が生成する。
【0044】
このシリカ析出工程において、エマルジョン粒子の懸濁液は、アンモニウム塩水溶液に滴下することにより、徐々に析出させるのが好ましい。滴下時間は、10分〜3時間が好ましい。短いと、シリカ被膜に欠陥が生じやすくなり、表面に凹凸が生じやすくなり、長いと、特性上とくに問題となることはないが、合成時間が長くなるだけで、意味がない。
アンモニウム塩としては、硫酸塩や炭酸塩が好ましいものとして使用できる。たとえば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウムなどが好適なものとして使用できる。
【0045】
このようにして得られる粒子は、純水で十分水洗したのち、ろ過し、空気中、60℃で4時間乾燥させる。これによりイットリウム鉄ガーネット粒子がシリカで被覆された構造の磁性担体が得られる。この方法は、シリカ被覆後の平均粒子サイズとして0.5〜10μmのものを得るのに適している。
【0046】
本発明において、上記ふたつのシリカの被覆方法を実施するにあたり、イットリウム鉄ガーネット粒子にさらに各種の顔料を添加してシリカで被覆するようにすることもできる。これにより、イットリウム鉄ガーネット粒子と顔料を包み込むようにシリカの被膜で覆われた、各種の色調を有する球状粒子を生成させることができる。
【0047】
本発明の希土類鉄ガーネット粒子は、生体物質として抗体や酵素などの蛋白質を結合させることを目的として使用する場合、上記イットリウム鉄ガーネット粒子により直接これらの蛋白質を結合させることも可能である。

しかし、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、アミノ基などの各種の官能基を有するシランカップリング剤などの有機化合物、さらにはこれらの有機化合物を複数組み合わせた複合体を、粒子表面に結合させておくと、より効率良く蛋白質を結合させることができるので、望ましい。

以下に、イットリウム鉄ガーネット粒子に、有機化合物の例として官能基を有するシランカップリング剤を結合させ、これにより粒子表面に官能基を導入する方法について、説明する。
【0048】
<希土類鉄ガーネット粒子への官能基の導入>
イットリウム鉄ガーネット粒子を、水に対して1〜40重量%になるように水中に分散し、この分散液にシランカップリング剤溶液を添加する。このシランカップリング剤溶液は、そのままでもよいし、水やアルコール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはこれらの混合溶媒などで希釈して使用してもよい。
【0049】
シランカップリング剤としては、生理活性物質に対して親和性のある官能基、たとえば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、メタクリル基を有したものが使用できる。これらの官能基を含有するシランカップリング剤としては、たとえば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0050】
シランカップリング剤の添加量としては、イットリウム鉄ガーネット粒子に対して、0.01〜20重量%の範囲とするのが好ましい。この添加量が上記範囲より少ないと、固定化できる生理活性物質の量が減少し、一方、上記範囲より多いと、シランカップリング剤が粒子表面に均一に結合しにくくなり、生理活性物質の固定化効率が逆に劣る傾向にある。
【0051】
シランカップリング処理の時間は、1〜4時間程度が好ましい。処理時間が短すぎると、シランカップリング剤の結合が不十分になる。一方、長すぎると、反応時に生成するアルコールなどが悪影響を及ぼすためか、イットリウム鉄ガーネット粒子表面のシランカップリング剤には未反応のアルコキシ基が残存することになるため、好ましくない。このようにしてシランカップリング処理したのち、反応混合物を水洗し、ろ過、乾燥する。
【0052】
このような方法により、イットリウム鉄ガーネット粒子表面に官能基を有するシランカップリング剤を結合させることができ、これにより粒子表面に所望の官能基を導入することができる。
また、上記シランカップリング剤による官能基の導入は、イットリウム鉄ガーネットの粒子表面にシリカの層を被着形成したのちに、行ってもよい。シリカの層を形成しておく方が、シランカップリング剤とシリカが結合しやすいため、より効率良く官能基を導入できる。
【0053】
本発明のイットリウム鉄ガーネット粒子は、これを糖質層で被覆形成すると、融合蛋白質を結合するのに適した磁性担体とすることができる。この糖質としては、グルコースを単位とするオリゴ糖または多糖が好適であり、中でも糖質がアミロースを主成分とする多糖であるときに、融合蛋白質を抽出、精製する目的において、最適な磁性担体とすることができる。
以下に、イットリウム鉄ガーネット粒子に、糖質としてアミロースを結合させる方法について説明する。
【0054】
<希土類鉄ガーネット粒子への糖質結合>
常温(20℃)で、イットリウム鉄ガーネット粒子を分散媒中に分散させる。分散媒としてはとくに制限はなく、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが挙げられるが、製造コストを低くできる理由から、水を用いるのが好ましい。分散媒に添加するイットリウム鉄ガーネット粒子の量にもとくに制限はないが、均一な分散液が得られやすいため、1〜50重量%の濃度になるように添加するのが好ましい。
【0055】
つぎに、常温で攪拌しながら分散媒にアミロースを添加し、90℃程度まで加熱する。アミロースのイットリウム鉄ガーネット粒子に対する添加量は、0.1〜30重量%とするのが好ましい。アミロースの水に対する溶解量は通常数重量%程度であるため、この濃度以下になるようにイットリウム鉄ガーネット粒子を分散させる水の量を選択するのが好ましい。たとえば、イットリウム鉄ガーネット粒子10gを水500gに分散させ、0.1〜3g程度のアミロースを添加すればよい。
【0056】
アミロースの添加後、10分間〜1時間程度常温で攪拌したのち、上記温度に加熱し、さらに加熱した状態で10分間〜1時間攪拌を行うと、アミロースが均一に分散され、均一な糖質層を形成しやすくなるため、好ましい。続いて、アミロースの溶解分散液を攪拌しながら、常温まで冷却する。これにより、溶解していたアミロースが徐々に析出してきて、イットリウム鉄ガーネット粒子の表面に被着結合する。
【0057】
上記アミロースの結合方法は、有機化合物としてグルタルアルデヒドやアルブミンなど結合させる場合にも、適用できる。すなわち、これらの有機化合物を、上記と同様の手法により、被着結合させることができる。
これらの有機化合物を複数組み合わせた複合体をイットリウム鉄ガーネット粒子表面に結合させると、より効率良く蛋白質を結合させることができるので、複数組み合わせて使用するのが好ましい。また、シリカなどの無機化合物と有機化合物とを複数組み合わせた複合体をイットリウム鉄ガーネット粒子表面に結合させる方法も、用途に応じて好ましい方法となる。
【0058】
つぎに、本発明のイットリウム鉄ガーネット粒子単体またはこの粒子に上記のようにシリカなどの無機化合物を被着形成したり、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、官能基を有するシランカップリング剤、糖質などの有機化合物を結合させたり、さらには上記の無機化合物を被着形成したのちに上記の有機化合物を結合させた磁性担体を用いて、核酸や蛋白質などの生体物質の抽出および/または精製、さらには検出(分析)を行う方法について、説明する。
【0059】
この方法は、たとえば、抽出/および精製では、▲1▼DNAやRNAなどの核酸、酵素や抗体などの蛋白質などの生体物質を含有する生物試料から、上記生体物質を磁性担体に結合させる工程と、▲2▼磁性担体に結合させた生体物質を、生物試料から単離させる工程と、▲3▼−a 生物試料から単離された磁性担体に結合した生体物質を、磁性担体から分離させる工程とからなっており、また検出(分析)では、上記▲3▼−aに代え、▲3▼−bとして、生物試料から単離された生体物質を、この生体物質が核酸の場合は必要により増幅させたのち、検出する工程を含むものである。
【0060】
▲1▼の工程では、生体物質を含有する生物試料と、磁性担体とを混合し、生体物質を磁性担体に結合させる。この結合の方法は、適宜のバッファー中で生体物質と磁性担体が互いに接触し得る程度に混合させる方法であれば、とくに制限はない。混合は、チューブを軽く転倒攪拌または振盪する程度で十分であり、たとえば、市販のボルテックスミキサーなどを用いて行うことができる。
【0061】
▲1▼の工程を行うに際し、磁性担体を適宜の分散媒中に分散させて、生体物質の抽出・精製用試薬キットまたは検出用試薬キットなどからなる生体物質抽出用液として調製しておくのが望ましい。磁性担体を分散させる分散媒としては、とくに制限はない。たとえば、核酸の精製には、カオトロピック物質、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、トリス塩酸などの緩衝液が、またタンパク質の精製には、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、トリス塩酸、PIPES、ホウ酸などの緩衝液が、それぞれ好ましく使用される。
【0062】
生体物質抽出用液の調製に際し、磁性担体は、分散液中の濃度が0.02〜1.0g/mlとなるように、添加するのが望ましい。0.02g/ml未満では、生体物質を多く保持させることができず、集磁性も悪くなる傾向にある。1.0g/mlを超えると、分散液の分散性も保存安定性も悪くなる傾向にある。
また、生体物質を含有する生物試料の水溶液に対する磁性担体の混合割合としては、磁性担体と生物試料の水溶液との体積比が1:100〜1:10となるような割合とするのが望ましい。
【0063】
▲2▼の工程では、上記▲1▼の工程で磁性担体と結合させた生体物質を、生物試料中から磁性担体ごと単離する。この単離は、遠心分離やフィルター分離によって行ってもよいが、操作が容易でかつ短時間で特異的な単離が可能であり、また精製装置全体の小型化や連続的な処理、自動化処理が容易であることから、磁場、すなわち磁石を使用して行うのが望ましい。磁石としては、たとえば、磁束密度が0.3T(3,000ガウス)程度の磁石が好適に使用される。具体的には、上記▲1▼の工程を適宜のチューブ中で行い、磁性担体と生体物質との結合後、チューブの側壁に磁石を近づけて生体物質が結合した磁性担体をチューブ側壁近傍に集め、この状態でチューブ内から残りの液を排出することにより、磁性体を単離すればよい。
【0064】
▲3▼−aの工程では、上述のようにして生物試料より単離した生体物質を、磁性担体より分離する。この工程では、たとえば、生体物質を溶離させうる溶出用液を、▲2▼の工程後のチューブ内に注入し、生体物質を磁性担体より溶離させる。その後、磁性担体を再び磁石で捕集して、チューブ内から除去することにより、生体物質が磁性担体より分離される。また、▲3▼−bの工程では、上述のように生物試料より単離した生体物質を、この生体物質が核酸の場合は必要により増幅させたのち、検出する。もちろん、この検出工程を、上述の分離工程を行ったのちに、実施してもよい。
【0065】
生体物質を結合した磁性担体から生体物質を溶離する工程は、たとえば、生体物質が核酸である場合、核酸が結合した磁性担体を約70%エタノールにて数回洗浄したのち、磁性担体を乾燥し、その後、減菌水やTE緩衝液などの低イオン濃度の溶液を添加することにより、磁性担体に結合した核酸を低イオン濃度の溶液に溶離させる。生体物質が蛋白質である場合は、蛋白質が結合した磁性担体をリン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液などで数回洗浄したのち、さらにタンパク質のリガンドを含む緩衝液を添加することにより、溶離させる。
【0066】
本発明においては、上記した生体物質の抽出および/または精製方法、さらには検出方法において、磁性担体として上記本発明の磁性担体を用いることにより、それぞれ、磁性担体の色調による上記用途の識別化方法を提供できるものである。

最後に、本発明の生体物質結合用磁性担体について、その特徴などを箇条書きにすると、下記(1)〜(13)のとおりである。

(1)平均粒子サイズが0.05〜10μmで、保磁力が2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)、飽和磁化が1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲にある希土類鉄ガーネット粒子からなる生体物質結合用磁性担体であって、

(2)上記の希土類鉄ガーネット粒子は、一般式R3 5
12(ただし、Rは3価イオンになる希土類元素またはその一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなり、Mは3価イオンになるFeを必須とする遷移金属元素またはその一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなる。)で表される元素組成を有し、

(3)とくに、上記一般式中のRは、Yまたはその一部を置換した複合元素からなり、また上記一般式中のMにおいて、遷移金属元素の一部を置換する他の3価イオンになる元素は、Al、Ga、Sc、Inの中から選ばれた元素であるか、あるいは2価〜4価イオンまたは2価〜5価イオンの組み合わせにより3価イオンになる元素であって、

(4)このような希土類鉄ガーネット粒子は、黄色または黄緑色の色調を有することを特徴としたものである。

(5)また、上記希土類鉄ガーネット粒子は、無機化合物を被着形成しているのが好ましく、

(6)この無機酸化物としては、とくにシリカが好ましく、

(7)さらに、この希土類鉄ガーネット粒子に各種の顔料を添加してから、シリカなどの無機化合物で被覆すると、各種の色調を有するものとなる。

(8)また、この希土類鉄ガーネット粒子は、有機化合物を結合させているのが好ましく、
(9)この有機化合物としては、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、官能基を有するシランカップリング剤の中から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましく、

(10)とくに、上記のシランカップリング剤の官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、メルカプト基の中から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。

(11)また、上記の有機化合物には糖質層が挙げられ、この糖質層を形成する糖質が、グルコースを単位とするオリゴ糖または多糖であるのが好ましく、

(12)とくに、上記糖質層を形成する糖質が、アミロースを主成分とする多糖であるのが好ましい。

(13)さらに、上記の希土類鉄ガーネット粒子は、無機化合物を被着形成したのち、この上に有機化合物を結合させたものであるのが好ましい。
【0067】
【実施例】
つぎに、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下の実施例では、希土類鉄ガーネット粒子における希土類元素としてイットリウムを使用した例で示しているが、本発明はこの実施例にのみ限定されない。
【0068】
実施例1
<希土類鉄ガーネット粒子の製造>
硝酸イットリウム0.1モルと硝酸鉄0.1785モルとを、2,000ccの水に溶解したのち、硝酸ビスマス0.007モルを溶解した12Nの硝酸溶液100ccと混合した。この硝酸塩水溶液を、3.415モルの水酸化ナトリウムを2,000ccの水に溶解した水溶液に、攪拌しながら約30分かけて滴下し、イットリウムとビスマス、鉄の共沈物を生成させた。この共沈物を中性付付近になるまで水洗したのち、ろ過して共沈物を取り出した。
【0069】
この共沈物を別の容器に入れ、これに融剤として臭化カリウム0.857モルと水500ccを加え、臭化カリウムが水に溶解するまで攪拌混合し、共沈物が臭化カリウム水溶液中に均一に分散した懸濁液を得た。つぎに、この懸濁液をバットに取り出し、90℃で乾燥させて水を除去し、共沈物と臭化カリウムの均一混合物を得た。この混合物を乳鉢で軽く解砕したのち、プレス成形した。この成形物をルツボに入れ、850℃で2時間加熱処理することにより、臭化カリウム中にイットリウム鉄ガーネット粒子を析出させた。最後に、この加熱修理物を水洗して、臭化カリウムを溶解除去して取り出した。
【0070】
このようにして得られたイットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが0.32μmの球状ないし楕円状で、保磁力は5.17kA/m (65エルステッド)、飽和磁化は24.3A・m2 /kg(24.3emu/g)であり、黄緑色の色調を有していた。
【0071】
実施例2
<希土類鉄ガーネット粒子へのシリカ被覆処理(I)>
実施例1で得たイットリウム鉄ガーネット粒子10gに純水を200g加え、分散させた。この分散液に、2gの珪酸ナトリウムを溶解した。この珪酸ナトリウム溶解イットリウム鉄ガーネット粒子分散液を攪拌しながら、約1時間かけて、希塩酸を滴下し、中性付近まで中和した。滴下終了後、さらに1時間、攪拌を継続した。この工程により、個々のイットリウム鉄ガーネット粒子の表面近傍にシリカを被覆形成させた。つぎに、攪拌を停止して、自然沈降させた。上澄み液を除去し、水洗したのち、ろ過し、60℃で4時間乾燥して、シリカを被覆形成したイットリウム鉄ガーネット粒子を得た。
【0072】
このようにして得られたシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが0.35μmの球状ないし楕円状で、保磁力は5.57kA/m (70エルステッド)、飽和磁化は21.8A・m2 /kg(21.8emu/g)であり、黄緑色の色調を有していた。走査電子顕微鏡写真から、個々のイットリウム鉄ガーネット粒子の表面にシリカが被覆形成していることが認められた。
このシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子を用いて、以下の方法により、核酸の結合および溶離性を調べた。
【0073】
<核酸の結合および溶離処理>
シリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子を、0.2mg/mlになるように滅菌水に分散させた。核酸を単離するための生物試料としては、大腸菌〔Escherichia coli JM109(東洋紡績,宝酒造,インビトロジェンなどより販売されている)〕を3ml、TB培地/試験管にて37℃,20時間培養した菌体を用いた。
核酸抽出用溶液としては、カオトロピック物質を含む緩衝液としてバッファーA〔7Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)、50mM Tris−HCI(シグマ社)、pH7.5〕を用いた。洗浄液も、カオトロピック物質を含む緩衝液としてバッファーA〔7Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)、50mM Tris−HCI(シグマ社)、pH7.5〕を使用した。
また、高濃度の塩を除去するために70%エタノール溶液およびアセトン溶液を使用し、シリカ被覆マグネタイト粒子に結合した核酸を回収するための溶離液として滅菌水を使用した。
【0074】
具体的な操作としては、
(1)菌体濁度(OD660)を測定し、1.5cc用エッペンドルフチューブにてOD660;1.0の菌体を遠心分離により調製した。つぎに、核酸抽出用溶液1,000μlを注入し、混合した。
(2)その後、シリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子の分散液20μlを加えた。
(3)約2分毎に混合しながら、室温で10分間放置した。
(4)1.5cc用エッペンドルフチューブの形状に合った磁石スタンドに、上記チューブを設置することにより、シリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子を磁石側のチューブ側に集めた。
(5)フィルターチップで溶液を吸引し、排出した。
(6)チューブを磁石スタンドより取りはずし、グアニジン塩酸塩を含む洗浄液を1cc注入した。
(7)シリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子と十分混合したのち、再度、磁石スタンドに設置し、上記と同様にして溶液を廃棄した。
(8)洗浄操作を再度繰り返した。
(9)1ccの70%エタノールで上記と同様の方法により、核酸を結合したシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子を洗浄し、高濃度のグアニジン塩酸塩を取り除いた。
(10)再度、1ccの70%エタノールと、1ccのアセトンで洗浄した。
(11)約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、約10分間放置してチューブ内、およびシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子のアセトンを完全に蒸発させて除去した。
【0075】
<核酸の回収>
上記の方法で核酸を結合させたシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子に、100μlの滅菌水を加え、約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、2分毎に混合操作しながら10分間放置した。つぎに、磁石スタンドに設置し、回収する溶液をフィルターチップで吸引し、別の新しいチューブに移した。通常、回収量は70μl程度である。保存する場合は、−70℃で行った。
【0076】
<核酸の回収量測定>
上記の方法で回収された核酸は、吸光度計により、その吸光度(OD 260nm)を測定して、核酸の濃度を求めた。
その結果、従来の酸化鉄磁性粒子にシリカを被覆形成した磁性担体と遜色のない回収量であることが確認された。
すなわち、従来、酸化鉄粒子に各種の無機化合物や有機化合物を被膜形成した磁性担体が各種用途に使用されているが、この磁性担体は、酸化鉄の色調である黒色または黒茶色になり、色調による磁性担体の機能の識別は不可能であった。これに対し、上記本発明のイットリウム鉄ガーネット粒子は、上記従来の酸化鉄系磁性担体とは全く異なる黄緑色の色調を有するため、色調による機能の識別化が可能になり、本実施例のようにシリカを被覆形成したものでは、核酸の抽出精製用としての機能があることを色調による識別できるようになる。
【0077】
実施例3
<希土類鉄ガーネット粒子へのシリカ被覆処理(II)>
実施例1で得たイットリウム鉄ガーネット粒子10gを純水130g中に分散させた。この分散液に、21.9gのケイ酸ナトリウムを溶解した。
これとは別に、470ccのヘキサンに、界面活性剤として7.0gのソルビタンモノラウレートを溶解し、これと上記のケイ酸ナトリウムを溶解したイットリウム鉄ガーネット粒子の分散液を混合した。この混合液をホモミキサーを使用して、10分間攪拌分散し、エマルジョン分散液を調製した。
つぎに、300gの硫酸アンモニウムを1,500ccの純水に溶解した。この硫酸アンモニウム溶解液を攪拌しながら、上記のエマルジョン分散液を、約30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌を行った。この硫酸アンモニウムによる中和反応により、イットリウム鉄ガーネット粒子を包含するようにシリカが析出して、被膜が形成された。
【0078】
このようにして得られたシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状であり、保磁力は5.17kA/m(65エルステッド)、飽和磁化は14.0A・m2 /kg(14.0emu/g)であり、白色がかった黄緑色の色調を有していた。このものは、走査電子顕微鏡写真から、イットリウム鉄ガーネット粒子の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。
このシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子についても、実施例2と同様の方法で核酸の結合および溶離性を調べた結果、従来の酸化鉄粒子を用いた磁性担体と遜色のない性能を示すことが確認された。
【0079】
実施例4
<希土類鉄ガーネット粒子の色調調整とこの粒子へのシリカ被覆処理>
実施例1で得たイットリウム鉄ガーネット粒子は、黄緑色の色調を有するが、この色調をベースにして、各種色調の磁性担体を得ることができる。従来の酸化鉄粒子を用いた磁性担体では、基本となる色調が黒色または黒茶色であるため、顔料などで処理しても色調はほとんど変化しない。
本実施例では、青色顔料である銅フタロシアニンを用いて、青色の色調を有する磁性担体を得る例について、説明する。
【0080】
実施例1で得たイットリウム鉄ガーネット粒子10gを純水130g中に分散させた。この分散液に、21.9gのケイ酸ナトリウムを溶解した。さらにこの分散液に、青色銅フタロシアニンC.I.Pigment Blue 15:3〔大日本インキ(株)製の「Fastogen Blue TGR」〕を4g添加し、分散させた。
この顔料とケイ酸ナトリウムを含むイットリウム鉄ガーネット粒子分散液とは別に、470ccのヘキサンに、界面活性剤として7.0gのソルビタンモノラウレートを溶解し、これと上記の分散液を混合した。この混合液をホモミキサーを使用して、10分間攪拌分散し、エマルジョン分散液を作製した。
つぎに、300gの硫酸アンモニウムを1,500ccの純水に溶解した。この硫酸アンモニウム溶解液を攪拌しながら、上記のエマルジョン分散液を、約30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌を行った。この硫酸アンモニウムによる中和反応により、青色顔料が付着したイットリウム鉄ガーネット粒子を包含するようにシリカが析出して、被膜が形成された。このシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子を、上澄液が透明になるまで、十分に水洗した。
【0081】
このようにして得られたシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状であり、保磁力は5.17kA/m(65エルステッド)、飽和磁化は13.8A・m2 /kg(13.8emu/g)であり、やや黄色がかった、ほぼ青色に近い色調を有していた。また、走査電子顕微鏡写真から、顔料を付着したイットリウム鉄ガーネット粒子の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。
このシリカ被覆イットリウム鉄ガーネット粒子についても、実施例2と同様の方法で核酸の結合および溶離性を調べた結果、従来の酸化鉄粒子を用いた磁性担体と遜色のない性能を示すことが確認された。このように、本実施例の磁性担体は青色の色調を有するため、青色の色調により、この磁性担体が核酸の抽出精製用としての機能を有することを識別できる。
なお、本実施例では、上述のとおり、青色の顔料を被着させることにより、やや黄色がかった青色の色調を有する磁性担体を得る方法について説明したが、この他にも、たとえば、白色顔料として二酸化チタン(TiO2 )、赤色顔料としてアルファーヘマタイト(αーFe2 3 )など、各種の色調の無機、有機顔料を被着または添加することにより、各種の色調を有する磁性担体を得ることができることは言うまでもない。
【0082】
実施例5
<希土類鉄ガーネット粒子への有機化合物の被着処理(I)>
実施例1で得たイットリウム鉄ガーネット粒子10gを50ccの純水中に分散させた。この分散液中に、アミロースを0.2g添加して、30分間攪拌したのち、攪拌しながら、分散液を90℃まで加熱した。さらに90℃で1時間保持したのち、攪拌しながら室温まで徐冷した。アミロースは、加熱すると溶解しやすくなり、冷却すると溶解しにくくなるため、この冷却過程において、アミロースがマグネタイト粒子の表面に析出した。
【0083】
このアミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが0.32μmの球状ないし楕円状であり、保磁力は5.17kA/m(65エルステッド)、飽和磁化は23.9A・m2 /kg(23.9emu/g)であり、黄緑色の色調を有していた。
このアミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子を用いて、以下の手順で、生物試料中からタンパク質を抽出・精製した。
【0084】
タンパク質を単離するための生物試料としては、プラスミドpMALc2E〔β―ガラクトシダーゼα鎖のアミノ末端にマルトース結合タンパク質が結合している融合タンパク質MBP−LacZαを発現するプラスミド(New England Biolab社より販売されている)〕を保持する大腸菌〔Escherichia coli JM109(東洋紡、宝酒造、インビトロジェンなどより販売されている)〕を50ml、TB培地/500mLフラスコにて37℃、20時間培養した菌体を用いた。
菌体を菌体濁度(OD660nm)が20となるように50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)に懸濁し、超音波にて9分間、間欠破砕後、上清を遠心分離して調整し、これをタンパク質精製用の生物試料として用いた。
【0085】
上記のアミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子を0.2g/mlになるように50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)中に分散させた。アミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子分散液100μlを、生物試料1mlに混合し、混合液とした。固液分離後、洗浄液(50mMリン酸カリウムバッファー、pH7.5)にて洗浄し、アミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子に結合したタンパク質を回収するための溶離液として、10mMマルトースを含む50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)を加え、約5分間混合した。つぎに、実施例2の核酸の抽出・精製において説明した方法と同様に、磁石スタンドに設置し、回収する溶液をフィルターチップで吸引し、別の新しいチューブに移した。回収量は40μlとした。
【0086】
この方法により回収したタンパク質について、吸光度計により吸光度(OD:280nm)を測定して、濃度を求めた。タンパク質の回収量は、上記の濃度と回収容積の積から求めた。
その結果、本実施例のアミロース被着イットリウム鉄ガーネット粒子が、タンパク質を効率良く抽出・精製できる磁性担体であることが確認された。
本実施例のように、イットリウム鉄ガーネット粒子に糖質であるアミロース被着したものは、黄緑色の色調を有するため、この色調により、この磁性担体がタンパク質の抽出精製用としての機能を有することを識別できる。
【0087】
実施例6
<希土類鉄ガーネット粒子への有機化合物の被着処理(II)>
実施例2で得たシリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子10gを純水25g中に分散した。この分散液を撹拌しながら、末端にアミノ基を有するN−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.2gを添加した。添加後、さらに3時間撹拌した。水洗後、ろ過し、110℃で4時間乾燥し、アミノ基を導入したイットリウム鉄ガーネット粒子を得た。
【0088】
このアミノ基を導入したシリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子は、酵素、抗体、補酵素などの機能を持つタンパク質、糖タンパク質、糖類などの生理活性物質を固定化するための磁性担体として適しており、その中でも、酵素を固定化するための磁性担体として最適である。
また、本実施例では、官能基としてシランカップリング剤が有するアミノ基を導入する例を示したが、シランカップリング剤の選択により、生理活性物質に対して親和性のあるエポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基、ビニル基、メタクリル基などの官能基を導入することも可能である。
このように、シリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子は、シランカップリング剤のシラノール基と粒子表面のシリカとの間に化学結合を形成し、上記官能基が磁性粒子の外側に向くように効率良く官能基を導入できる。
【0089】
つぎに、本発明の磁性担体においては、黄緑色の色調を有することによる物理的現象の利点のひとつとして、蛍光体でラベル化したときの高い発生強度が得られることが挙げられる。この点について、以下の実施例7と比較例1とを対比して、説明する。
【0090】
実施例7
<希土類鉄ガーネット粒子への蛍光色素処理>
実施例6で得たアミノ基を導入したシリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子を、蛍光ラベル化剤で処理した。ラベル化剤としては、同仁化学社製の「NBD−F」を用い、このラベル化剤に添付されている調整方法にしたがって調整した。すなわち、アミノ基を導入したシリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子をEDTA−2Naを含むホウ酸緩衝液に分散させ、この分散液の一部にNBD−F溶液を添加し、攪拌した。加熱放置したのち、冷却することにより、アミノ基導入シリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子を、蛍光ラベルでラベル化した。
このようにラベル化した粒子を分散液から取り出し、乾燥したのち、一定重量の粒子に470nmの波長で励起し、530nmの波長での蛍光強度を分光光度計の積分球を使って測定した。
【0091】
比較例1
実施例2において、イットリウム鉄ガーネット粒子に代えて、平均粒子サイズが0.28μmの球状のマグネタイト粒子を使用した。このマグネタイト粒子は、以下の方法で製造したものである。
100gの硫酸第一鉄(FeSO4 ・7H2 O)を1,000ccの純水に溶解した。また、この硫酸第一鉄と等倍モルになるように、28.8gの水酸化ナトリウムを500ccの純水に溶解した。硫酸第一鉄水溶液を攪拌しながら、1時間かけて水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水酸化第一鉄の沈殿物を生成させた。滴下終了後、攪拌しながら、水酸化第一鉄の沈殿物を含む懸濁液の温度を85℃まで昇温した。懸濁液の温度が85℃に達したのち、200リットル/時間の速度で、エアーポンプを使用して空気を吹き込みながら、8時間酸化して、マグネタイ粒子を生成させた。
【0092】
このマグネタイト粒子はほぼ球形であり、平均粒子サイズは約0.28μmであった。粒子サイズは、透過型電子顕微鏡写真上、約300個の粒子サイズを測定し、その平均粒子サイズから求めた。
つぎに、このマグネタイト粒子に対し、実施例2と同様の方法でシリカを被覆し、さらに実施例6と同様の方法でシランカップリング剤を用いてアミノ基を導入した。このアミノ基導入シリカ被覆マグネタイト粒子の色調は黒色であった。さらに、このアミノ基導入シリカ被覆マグネタイト粒子に、実施例7と同様の方法で蛍光試薬でラベル化し、励起蛍光強度を測定した。
【0093】
上記の実施例7と比較例1の測定結果は、実施例7のアミノ基導入シリカ被覆処理イットリウム鉄ガーネット粒子の蛍光強度が、比較例1のアミノ基導入シリカ被覆マグネタイト粒子の蛍光強度の約3倍となった。これは、実施例7の磁性担体では、黄緑色の色調を有するため、蛍光試薬から発した蛍光が、この試薬を固定している粒子に吸収されにくく、その結果、効率良く散乱するためである。これに対し、比較例1のマグネタイト粒子を用いた磁性担体では、色調が黒色のため、ラベル化剤からの蛍光が粒子に吸収されやすいため、蛍光強度が低くなったものと思われる。
このように、磁性担体を黒色または黒茶色以外の色調にすることにより、色調による磁性担体の機能の識別化だけでなく、発光強度も大きくなり、高感度で発光分析できる利点が得られる。
【0094】
【発明の効果】
以上のように、従来の磁性担体が酸化鉄粒子を用いた、色調が黒色または黒茶色であったのに対し、本発明では、黄色または黄緑色の色調を有する希土類鉄ガーネット粒子を用いるようにしたことにより、各種の色調を有する磁性担体を得ることを可能としたものである。したがって、本発明により、磁性担体の色調による生体物質結合機能の識別化が可能となり、また蛍光体でラベル化する場合には、大きな発光強度が得られるなどの利点もある。

Claims (20)

  1. 一般式R 3 5 12 (ただし、Rは3価イオンになる希土類元素の一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなり、Mは3価イオンになるFeを必須とする遷移金属元素またはその一部を他の3価イオンになる元素で置換した複合元素からなる。)で表される元素組成を有する、平均粒子サイズが0.05〜10μmで、保磁力が2.39〜15.93kA/m(30〜200エルステッド)、飽和磁化が1〜30A・m2 /kg(1〜30emu/g)の範囲にある希土類鉄ガーネット粒子からなることを特徴とする生体物質結合用磁性担体。
  2. 一般式中のRが、Y一部をBiで置換した複合元素からなる請求項に記載の生体物質結合用磁性担体
  3. 一般式中のMにおいて、遷移金属元素の一部を置換する他の3価イオンになる元素が、Al、Ga、Sc、Inの中から選ばれた元素であるか、あるいは2価〜4価イオンまたは2価〜5価イオンの組み合わせにより3価イオンになる元素である請求項またはに記載の生体物質結合用磁性担体。
  4. 希土類鉄ガーネット粒子は、黄色または黄緑色の色調を有する請求項1〜のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体。
  5. 希土類鉄ガーネット粒子に無機化合物を被着形成した請求項1〜のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体。
  6. 無機化合物がシリカである請求項に記載の生体物質結合用磁性担体。
  7. 希土類鉄ガーネット粒子に有機化合物を結合させた請求項1〜のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体。
  8. 有機化合物が、グルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、官能基を有するシランカップリング剤の中から選ばれた少なくとも1種である請求項に記載の生体物質結合用磁性担体。
  9. 官能基を有するシランカップリング剤が、官能基としてカルボキシル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基の中から選ばれた少なくとも1種を有する請求項8に記載の生体物質結合用磁性担体。
  10. 有機化合物が糖質層である請求項に記載の生体物質結合磁性担体。
  11. 糖質層を形成する糖質が、グルコースを単位とするオリゴ糖または多糖である請求項10に記載の生体物質結合用磁性担体。
  12. 糖質層を形成する糖質が、アミロースを主成分とする多糖である請求項10に記載の生体物質結合用磁性担体。
  13. 希土類鉄ガーネット粒子に無機化合物を被着形成し、この上にさらにグルタルアルデヒド、アルブミン、ストレプトアビジン、ビオチン、官能基を有するシランカップリング剤の中から選ばれた少なくとも1種の有機化合物を結合させた請求項1〜のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体。
  14. 無機化合物がシリカであり、この上にさらに結合させた有機化合物が官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤である請求項13に記載の生体物質結合用磁性担体。
  15. 下記(1)〜(3)−aの工程を含む生体物質の抽出および/または精製方法において、磁性担体として請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を用いることを特徴とする生体物質の抽出・精製方法。
    (1) 生体物質を含有する試料と磁性担体とを混合して、生体物質を磁性担体に結合させる工程
    (2) 磁性担体に結合させた生体物質を、試料から単離させる工程
    (3)−a 試料から単離された生体物質を、磁性担体から分離する工程
  16. 請求項15に記載の生体物質の抽出および/または精製方法において、磁性担体として請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を用いることを特徴とする磁性担体の色調による用途の識別化方法。
  17. 下記(1)〜(3)−bの工程を含む生体物質の検出方法において、磁性担体として請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を用いることを特徴とする生体物質の検出方法。
    (1) 生体物質を含有する試料と磁性担体とを混合して、生体物質を磁性担体に結合させる工程
    (2) 磁性担体に結合させた生体物質を、試料から単離させる工程
    (3)−b 試料から単離された生体物質を、この生体物質が核酸の場合は必要により増幅させたのち、検出する工程
  18. 請求項17に記載の生体物質の検出方法において、磁性担体として請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を用いることを特徴とする磁性担体の色調による用途の識別化方法。
  19. 請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を含む生体物質の抽出・精製用試薬キット。
  20. 請求項1〜14のいずれかに記載の生体物質結合用磁性担体を含む生体物質の検出用試薬キット。
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