JP4420424B2 - 物質変換方法及び記録方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応を用いた物質変換方法、それを用いた記録方法に関する。具体的には、逆ディールス−アルダー反応を用いてエチレン基を脱離させる工程を含む物質変換方法において、逆ディールス−アルダー反応を誘起させるために必要とされる当該物質へ印加する外部エネルギーの量を低下させることができ、特には外部エネルギーの印加を実質的に不要とすることのできる新規な物質変換方法、並びにそれを用いた記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
化合物の、溶媒に対する溶解性を、局面に応じてコントロールすることは、様々な技術分野において、切望されている技術である。
【0003】
例えば、インクジェット記録を例にとってみると、インクジェット用インクの安定性に関しては、当該インク中に色材が溶解状態で存在していること、即ち単分子レベルで溶媒中に存在していることが好ましい。その一方で、通常の記録においては、当該インクが記録媒体上に付与された後には、色材を速やかに溶媒と分離させて記録媒体表面若しくは表面近傍に留めることが、高品位な画像を形成する上では好ましいとされている。一般的に、前者の性能は、所謂染料インクによって達成でき、一方、後者の性能は所謂顔料インクによって達成できるものの、それらの両方を同時に達成することは通常は困難である。近年、顔料を微細化したり、顔料表面に水分散性の官能基を導入したりすることで、顔料に染料的な性質を付与する様々な技術が提案されているが、未だ改良の余地が残されている場合が多いのが実情である。また、近年のインクジェットプリンタの性能の大幅な向上に伴って、インクジェットプリンタを単なる文字や画像の形成手段としてではなく、微細なパターンを有するデバイス、例えばDNAチップなどの製造装置として用いることが提案されてきている。
【0004】
一方、逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応をインクジェット記録システムに利用した技術としては、特開平11−349877号公報(特許文献1)に、インクジェットインク・キャリアーの粘度温度制御に逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応を利用した発明が開示されている。
【0005】
また、光・熱可逆性化合物を使用して極性(溶解性、凝集性)の制御をしている例としては、特開平10−31275号公報(特許文献2)に、トリアリルメタン系の化合物の紫外線・熱による分解反応や、フォトクロミック化合物のような光・熱可逆性化合物を使用して極性(溶解性、凝集性)の制御をしている例が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−349877号公報
【特許文献2】
特開平10−31275号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、このような技術的背景に鑑み検討を重ねた結果、インク中では溶媒に対して溶解状態を維持して安定なインクを与え、ひとたび記録媒体に付与された後には、該溶媒に対する溶解性を失って、記録媒体の表面や表面とその近傍にとどまるような記録方法、例えば、インクジェット記録において、インク中の色材に対して染料の性質と顔料の性質とをその局面に応じて変化させることのできる性質を有する記録方法の開発が、インクジェット技術のより一層の発展に有効であるとの認識を得るに至った。また、本発明者らはこれまでインクジェット記録方法等に用い得る種々の特性を有する化合物の検討を行ってきた中で、インク中では溶解している化合物を該インクが記録媒体に付与された後には、該インクに対して不溶或いは難溶性に変化させる(以降「顔料化」と称する)技術について着目したところ、顔料化のために高エネルギーを印加する必要がある場合があることを見出した。そしてこの点を解決することによって、このような顔料化の技術をよりエネルギー効率の良い記録方法として応用できるとの結論を得た。
【0008】
そこで本発明の目的は、逆ディールス−アルダー反応を用いた物質変換をより効率良く行う方法を提供する点にある。また本発明の他の目的は、高品位な記録物を効率的に得ることのできる記録方法を提供する点にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様は、水酸基を有することにより水もしくは水と親水性有機溶媒からなる水系媒体に可溶であり、逆ディールス−アルダー反応によって該水酸基が脱離して該水系媒体に対する溶解度が不可逆的に低下可能である第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせて、該水系媒体に対する溶解度が不可逆的に低下した第2の化合物を得る工程を有する物質変換方法であって、
該第1の化合物が下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される構造を有しており、
逆ディールス−アルダー反応を、該第1の化合物とアルミナ水和物との共存下、20〜25℃の環境で生じさせることを特徴とする物質変換方法を提供する。
【0010】
【化7】
Figure 0004420424
【0011】
【化8】
Figure 0004420424
【0012】
【化9】
Figure 0004420424
【0013】
【化10】
Figure 0004420424
【0014】
(式中、R 1 〜R 8 は水酸基を示し、M 1 及びM 2 は2価〜4価の配位金属原子、Y 1 及びY 2 はハロゲン原子、酸素原子または水酸基、nは0〜2の整数を示す。)
第1の化合物が下記式(A)又は(B)の構造のいずれかを有することが好ましい。
【0015】
【化11】
Figure 0004420424
【0016】
(式中、Mは銅原子を示す。)
【0017】
【化12】
Figure 0004420424
【0018】
(式中、Mはマグネシウム原子を示す。)
【0019】
前記金属化合物としては、前記第1の化合物が有している親溶媒性の基と吸着する部位を有しているものは、該第1の化合物単体に逆ディールス−アルダー反応を生じさせる為のエネルギーをE1としたときに、該第1の化合物を該金属化合物と共存させることによって逆ディールス−アルダー反応を生じさせる為のエネルギーE2を、E1よりも特に低くすることができる点で好ましい。そして、前記金属化合物の具体例としては、アルミナ水和物である。
かかる構成の採用によって、上記構造式(I)〜(IV)で示される化合物の逆ディールス−アルダー反応の開始温度を、単独で存在している状態の該第1の化合物の逆ディールス−アルダー反応の開示温度よりも大幅に低下させることができる。なお、この反応開始温度は、示差走査熱量分析装置を用いることによって観測できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体例を挙げて更に詳細に説明する。
【0021】
本発明の一態様は、所定の溶媒に対する親溶媒性の基を有することにより該溶媒に可溶であり、逆ディールス−アルダー反応によって該親溶媒性の基が脱離して該溶媒に対する溶解度が不可逆的に低下可能である第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせて、該溶媒に対する溶解度が不可逆的に低下した第2の化合物を得る工程を有する物質変換方法であって、該逆ディールス−アルダー反応を、該第1の化合物と金属化合物との共存下で生じさせることを特徴とする物質変換方法を提供する。
【0022】
以降の実施態様の説明において、第1の化合物が、親水性基を有し、それによって水に対して可溶な化合物であり、第2の化合物が、該第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせることによってエチレン基と共に該親水性基が脱離して、水に対して難溶もしくは不溶となる化合物である場合においては、第1の化合物を「顔料前駆体」、第2の化合物を『顔料』、また第1の化合物から第2の化合物への変換を、「顔料化」と称することとする。
【0023】
〔顔料前駆体について〕
顔料前駆体は、逆ディールス−アルダー反応によって親水性基、例えば水酸基が離脱して顔料化される化合物であり、金属化合物に対して相互作用するための水酸基を有し、この相互作用により特性、例えば顔料化反応の開始温度が変化するものである。更に、この顔料前駆体は水酸基を有することで水などの極性溶媒に可溶であり、且つ水酸基の逆ディールス−アルダー反応による顔料前駆体分子からの脱離によって極性溶媒に対する溶解度が低下した顔料を生じさせる構造を有するものが好ましい。
【0024】
例えば、所定の溶媒が水もしくは水と親水性有機溶媒からなる水系媒体である場合においては、水に対する溶解度(25℃)が少なくとも1質量%以上となるように親溶媒性基、つまり親水性基として、水酸基を導入しておき、この水酸基を逆ディールス−アルダー反応により顔料前駆体から脱離させることにより、溶解度を殆どゼロにすることができる。また、本発明ではこの水酸基が特定の金属化合物と相互作用し吸着した状態において脱離温度を顔料前駆体に固有の反応開始温度よりも低温化することができる。なお、親水性有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、グリセリン等を挙げることができ、顔料前駆体を含有させてインクジェット用の液体組成物として用いる場合には、この分野で使用されている親水性有機溶媒を用いることができる。また、インクジェット用の液体組成物に用いる水性液体中の水の割合は、通常30質量%以上とされる。
【0025】
以下にこの化合物について、具体例を用いてより詳細に説明する。
【0026】
上記したように逆ディールス−アルダー反応により親溶媒性基を脱離させることで、所定の溶媒に対する溶解度を有効に制御することのできる第1の化合物の例として、例えば先に挙げた式(I)あるいは(II)で示されるようなテトラアザポルフィリン化合物や先に挙げた式(III)あるいは(IV)で示されるようなポルフィリン化合物が挙げられる。
【0027】
〔水酸基具備のポルフィリン骨格を有する化合物〕
次に、上記式(IV)にかかり、水に対する溶解性を変化させることのできるポルフィリン化合物の具体例について説明する。
【0028】
下記構造式(V)で示されるポルフィリン系化合物は、親水性の基として水酸基を有し、該水酸基によって水系溶媒に可溶であり(25℃における水に対する溶解度1質量%以上)、該水酸基は逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応によって該化合物の分子からエチレンブリッジとともに脱離して、その結果として水系溶媒への溶解性が低下するものである。
【0029】
【化9】
Figure 0004420424
【0030】
ポルフィリン系化合物は一般にポルフィリン骨格部分の平面性が高く、パイ−パイスタッキングにより溶媒に難溶(例えば、25℃における水に対する溶解度1質量%未満)であるものが多いが、上記構造式(V)で示される水酸基が結合しているビシクロ[2,2,2]オクタジエン骨格が縮環したポルフィリンは、嵩高いビシクロ[2,2,2]オクタジエン骨格並びに水酸基の存在によって水系溶媒に対して可溶化されている。そして上記構造式(V)の化合物を逆ディールス−アルダー反応させて架橋部分のエチレンブリッジともに水酸基を脱離させると、水酸基の脱離並びに嵩高さの減少による分子のスタッキングとが相まって、水系溶媒に対する溶解性が低下し、例えば25℃の水に対して溶解しない、或いは殆ど溶解しない化合物となる。前記構造式(V)の化合物は、本発明にかかるポルフィリン系化合物(IV)の一例を示したものであり、中心金属(配位金属)として亜鉛、溶媒親和性基として水酸基を用いているものを挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、中心金属については亜鉛の他に銅、マグネシウム、アルミニウム等が挙げられるが、必要とされる化合物の電子状態、構造に由来する因子(吸収スペクトル等)を目的のものに調整する目的で合成のし易さ等を考慮して適宜選択されてよい。
【0031】
〔ポルフィリン系化合物の合成方法〕
上記式(V)で示されるポルフィリン化合物の合成方法について説明する。この化合物は例えば図1に示すスキームに従って合成することができる。図中、化学式に付された符号は、その化学式が示す化合物の番号を表し、矢印に付された符号は工程の番号を表す。
【0032】
まず、3,5−シクロヘキサジエン−1,2−ジオールをアセトン、ジメトキシプロパン、p−トルエンスルホン酸の存在下で反応させ、水酸基を保護した化合物2を得る(i)。化合物2と、ジエノフィルとしての2−ニトロ−1−(フェニルスルホニル)エチレンをトルエンの存在下でディールス−アルダー反応させて化合物3a、3bを得る(ii)。こうして得た化合物3a、3bを窒素置換した環境下で、乾燥THF(テトラヒドロフラン)に溶解させ、氷冷下、乾燥エチルイソシアノアセテートを加えた後、ドライ−1,8−ジアザビシクロー[5,4,0]ウンデセン−7(以降「DBU」と称す。)を加えて改良バートン−ザード(Barton−Zard)法により反応させることによってポルフィリン前駆体としての化合物4を得る(iii)。
【0033】
ここでいう改良バートン−ザード法とは、N.Ono、H.Hironaga、K.Ono、S.Kaneko、T.Murashima、T.Ueda、C.Tsukamura and T.Ogawaらの執筆にかかるJ.Chem.Soc.Perkin Trans.1、1996、417に開示されているようなニトロアルケンと芳香族ニトロ化合物とイソシアノ酢酸エチルからのピロール骨格の構築法を改良し、より多様な芳香環構築法として確立したものである。バートン−ザード法はこれまでアルキル基が置換したピロール骨格の構築法として知られていたものであるが、本発明では、これを改良しアリール基が置換したピロール骨格の構築を可能とした改良バートン−ザード法を用いている。具体的にはディールス−アルダー反応で親溶媒性基、或いは親溶媒性基に変換可能な基が置換したスルホニル化合物やニトロスルホニル化合物をイソシアノ酢酸エチルと反応させることによってアリール基が置換したピロール環を構築する為の反応として用いている。
【0034】
次に、化合物4を窒素雰囲気下、ドライTHFに溶解し、氷冷下で水素化リチウムアルミニウムを加え反応させて、化合物4の4量体であるところの、ポルフィリン骨格を有する化合物5を得る(iv)。化合物5を、金属塩例えば酢酸亜鉛と共にクロロホルムーメタノール等に溶かし、反応させることによって、金属元素をフタロシアニン骨格中に配位させて化合物6を得る(v)。次いで、化合物6に対して水酸基の脱保護反応を行なうことで式(V)にかかる化合物7を得る(vi)。こうして得られた化合物7の、25℃におけるメタノール1gに対する溶解度は1.4g、イソプロピルアルコール1gに対する溶解度は2.55g、水/イソプロピルアルコール混合溶媒(混合割合:1:1)1gに対する溶解度0.8g程度である。
【0035】
そして化合物7を逆ディールス−アルダー反応させて得られる、水酸基が脱離した化合物8は、25℃における上記と同様の組成の水系溶媒に対する溶解度が殆どなく、ピリジン等の特殊有機溶剤のみに溶解するものである。
【0036】
〔ディールス−アルダー反応および逆ディールス−アルダー反応について〕
ディールス−アルダー反応は、例えば図1に示したように、共役二重結合の1,4位に二重結合又は三重結合を持った化合物が付加して6員環のヒドロ芳香環を生成する反応をいう。逆ディールス−アルダー反応とは、ディールス−アルダー反応の逆反応のことを指す。例えば、ビシクロ[2,2,2]オクタジエン骨格の縮環部分を有する化合物を逆ディールス−アルダー反応させることで、架橋部分のエチレンを脱離させることができる。そして当該エチレン部分に、当該化合物が溶媒に対する溶解性を増すような基を結合させておくことによって、溶解度のコントロールが可能となる。また、本発明にかかる逆ディールス−アルダー反応によるエチレンの脱離の結果、パイ共役系が構築される化合物の場合、更にはパイ共役系の構築の結果として分子の立体構造が嵩高い構造から、平坦な構造に変化するように分子構造を構築しておくことによって、当該化合物を逆ディールス−アルダー反応させた結果として得られる化合物の凝集性や会合性をも制御することができ、好ましい態様である。
【0037】
上記好ましい態様を実現するために逆ディールス−アルダー反応後に分子間で水素結合や、ファンデルワールス力、静電相互作用、極性による相互作用が大きくなる系を設計することがより好ましい。従来であれば会合状態が大きくなっているため制御が困難であった系においても、反応前後の化合物の性質を設計することによって効果的に凝集性や会合性を制御することが可能となる。
【0038】
本発明にかかる化合物によれば、溶媒可溶化基を必要に応じて有する架橋部分が逆ディールス−アルダー反応によって脱離した後の各化合物を、安定で安全性の高いものにすることが可能であり、系に悪影響を与えるような可逆的な反応や副次的な反応は起こさないように反応を制御することが好ましい。一般的にジエン化合物とジエノフィル化合物間でのディールス−アルダー反応系は、発熱反応(ディールス−アルダー反応)と吸熱反応(逆ディールス−アルダー反応)との平衡反応であることから可逆性反応であることが知られている。この点を利用した技術としては、先に挙げたように、特開平11−349877号公報(特許文献1)に、インクジェットインク・キャリアーの粘度温度制御にディールス−アルダー反応系が利用されている発明が開示されている。しかし、該発明に使用されているディールス−アルダー反応系は可逆反応であるため、溶解性が減少した状態で、冷却をされると再度、環化反応(ディールス−アルダー環化反応)を誘発し、溶解性が再び増加することが考えられる。また、同公報においては、化合物が逆ディールス−アルダー反応した状態では、反応生成物が、不安定なジエン化合物とジエノフィル化合物で存在するため、副反応として酸化反応を誘発することが懸念され、本発明のような用途には不適であると考えられる。さらに、特開平10−31275号公報(特許文献2)ではトリアリルメタン系の化合物の紫外線・熱による分解反応や、フォトクロミック化合物のような光・熱可逆性化合物を使用して極性(溶解性、凝集性)の制御をしている例が開示されている。しかし、該発明に利用されている極性制御部はラジカルイオン開裂的に分解する系であるため、非可逆的な状態を形成することは可能であるものの、副生成物が極めて活性なラジカルである為、予期し得ない副反応を誘発してしまうことが考えられる。また、フォトクロミック反応は可視・紫外光線、および熱に対する可逆反応であるため、1つの状態を維持することが極めて困難であり、本発明のような用途には不適当であると考えられる。
【0039】
従って、本発明においては、逆ディールス−アルダー反応によって第1の化合物から脱離した化合物と第2の化合物とが再びディールス−アルダー反応と起こすジエンとジエノフィルの関係にならないように化合物を設計することが好ましい。図1に示した反応系においては、逆ディールス−アルダー反応によって脱離した化合(1,2−エチレンジオール)は、ジエノフィルとなることはない。また、1,2−エチレンジオールは,ヒドロキシアセトアルデヒドに変化してしまうと考えられるため、反応系内には、非水溶化した化合物8と再び反応するような化合物は存在せず、その結果として逆ディールス−アルダー反応は非可逆的に進行する。この様に逆ディールス−アルダー反応により脱離した化合物が酸化、還元、異性化などによって反応性2重結合を持たない、ディールス−アルダー反応が不可能な物質に変換されるように反応系を設計することは、逆ディールス−アルダー反応を非可逆的に進行させるうえで好ましい。
【0040】
〔逆ディールス−アルダー反応のさせ方〕
本発明にかかる物質変換方法において、第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせる具体的な方法としては、第1の化合物を金属化合物との共存下で、例えば、加熱、光、電磁波や放射線の照射等から選ばれる少なくとも1つの手段によるエネルギーの付与などが挙げられる。なお、本発明によれば、第1の化合物と金属化合物とを共存させることにより、第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせるのに必要なエネルギー量を著しく低減することができる。その結果として、第1の化合物に対する外部からのエネルギーの印加を実質的に不要とすることもできる。具体的には実施例にて後述するが、例えば特定の構造を有するポルフィリン化合物を第1の化合物として用い、これを金属化合物(アルミナ水和物)と共存させた場合には、室温(20〜25℃)程度でも該第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応が生じさせることができ、その結果として水に不溶な第2の化合物を得ることができる。この場合、外部からのエネルギー印加は実質的に不要ともいうことができる。
【0041】
[金属化合物]
第1の化合物と共存させる金属化合物としては、第1の化合物が有する親溶媒性の基が吸着する部位を有するようなものが好ましいと考えられる。そしてこのような金属化合物の例としては,例えばAl、Mn、Co、Ni、Fe、Ag、Cr、Se、Mg、V、Cu及びMoから選択された金属の酸化物や水酸化物が包含される。より具体的には、第1の化合物が水酸基を有している化合物、例えば前記一般式(I)〜(IV)で示され、且つR1〜R8のいずれもが水酸基であるような化合物である場合、金属化合物としてAlの酸化物や水酸化物は、物質変換の為のエネルギーを極めて低くすることができる。
【0042】
〔水酸基具備のテトラアザポルフィリン骨格を有する化合物〕
次に前記式(II)にかかり、水に対する溶解性を変化させることのできるテトラアザポルフィリン化合物の具体例として、下記構造式(VI)で示されるテトラアザポルフィリン化合物を挙げることができる。
【0043】
【化10】
Figure 0004420424
【0044】
当該化合物は、やはり前記式(V)で示した化合物と同様に、ビシクロ[2,2,2]オクタジエン骨格に結合してなる水酸基によって水系溶媒に対する溶解性を保持しており、逆ディールス−アルダー反応によってエチレンブリッジを脱離させることによって、当該化合物の分子から脱離する結果、水系溶媒に対する良好な溶解性を失うことになる。
【0045】
〔テトラアザポルフィリン系化合物の合成方法〕
上記式(VI)で示されるテトラアザポルフィリン系化合物の合成方法について説明する。この化合物は例えば図2に示すスキームに従って合成することができる。まず、3,5−シクロヘキサジエン−1,2−ジオールをアセトン、ジメトキシプロパン、p−トルエンスルホン酸存在下で反応させ、水酸基を保護した化合物2'を得る(i')。化合物2'とジシアノアセチレンをトルエンの存在下でディールス−アルダー反応させて、フタロシアニン前駆体としてのジシアノ化合物3'を得る(ii')。こうして得た化合物3'を窒素置換した環境下で、例えばジ−n―ブトキシマグネシウムとともに、n―ブタノール等に溶かし、反応させることによって、4量体化してフタロシアニン骨格を形成させると共に、金属元素をフタロシアニン骨格中に配位させて化合物4'を得る(iii')。次いで化合物4'に対して水酸基の脱保護反応を行なうことで上記式(VI)にかかる化合物5'を得る(iv')。こうして得られた化合物5'の、25℃における水に対する溶解度は50質量%程度である。
【0046】
そしてステップ(v')に示すように、化合物5'を逆ディールス−アルダー反応させて得られる水酸基が脱離した化合物6'は、25℃における水に対する溶解性を持たない(溶解度ゼロ)化合物となる。
【0047】
〔本発明に係る記録方法について〕
・インクジェット記録方法への適用
本発明に係る物質変換方法を利用した新規な記録方法としては、例えばインクジェット記録を挙げることができる。例えば、第1の化合物が色材である場合には、第1の化合物(色材)が溶解している水性のインクジェット用インクを液滴吐出手段(インクジェットヘッド)を用いて液滴として、金属化合物を含んでいる記録媒体上に付与し、インク中の第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせて、第1の化合物を水に不溶な第2の化合物に変換せしめる方法が挙げられる。このとき、逆ディールス−アルダー反応の誘起のため、若しくは促進のために、少なくともインクが付与された部分にエネルギーを印加してもよい。
【0048】
上記の記録方法において、金属化合物を含んでいる記録媒体を用いる代わりに、金属化合物を溶解または分散、或いは溶解及び分散させた液体を調製し、この液体を記録媒体上の、少なくともインクジェット用インクが付与される領域に、記録媒体上において該インクと該液体とが混合されるように液滴吐出手段を用いて付与してもよい。このとき、液体の付与順は、インクを付与した後でもよく、インクを付与する前でもよい。さらに液滴吐出手段を用いて吐出したインクの滴と、液滴吐出手段を用いて吐出した液体の滴とを、双方の滴が記録媒体に着弾する前に混合させ、その混合物を記録媒体に着弾させる方法も本発明の記録方法の一形態として挙げることができる。更には、上記の液体を、液滴吐出手段を用いずに、記録媒体にローラー等を用いて塗布してもよい。第1の化合物が色材でない場合には、インクジェット用インク中に第1の化合物と色材とを含有させればよい。或いは、色材を含むインクジェット用インクと、金属化合物を含む液体(第1の液体)に加え、第1の化合物を含む液体(第2の液体)を用意し、インクジェット用インク、第1の液体並びに第2の液体が記録媒体上で混合されるように各々を記録媒体に付与する態様も本発明の範疇である。
【0049】
第1の化合物としては、前記式(I)〜(VI)で示される化合物の少なくとも1種以上を用いることができ、所望に応じて同一のインクまたは液体中に2種以上の第1の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、本発明では水系溶媒を用いることが環境的観点から好ましいが、本発明では脂溶性有機溶媒を使用して記録することももちろん可能である。
【0051】
顔料前駆体の金属化合物の存在下での特性変化、例えば、顔料化反応のために必要なエネルギーの低減は、顔料前駆体と金属化合物との接触や金属化合物への顔料前駆体の吸着によるこれらの反応によって達成することができる。インクジェット記録の場合は、記録媒体に金属化合物を含有させておき、そこに顔料前駆体を含むインクを付与する方法や、記録媒体に対して、顔料前駆体と、金属化合物を含む液体と、を別々にこれら記録媒体上やその内部で接触できるよう付与する、また複合的な方法として金属化合物に前駆体を吸着させた状態の化合物で記録することができる。金属化合物によって顔料前駆体の特性を変化させた状態を記録媒体に得た段階で、熱などのエネルギーを付与して顔料前駆体を顔料化して画像を定着させることができる。
【0052】
ここで、液滴吐出手段を用いて滴として吐出させるための第1の化合物を含むインク、或いは液体について説明する。インク又は液体中の第1の化合物の含有量としては、0.1質量%〜10質量%とすることが、高品位な記録物を安定して得るうえで好ましい。またこのようなインク、液体の溶媒としては、例えば水或いは水及び水溶性有機溶媒の混合物が好ましく使用される。
【0053】
ここで水溶性有機溶媒の例は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の1価アルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類;チオジグリコール;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類等が挙げられる。上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般的にはインクの全重量に対して質量基準で1〜40%、好ましくは2〜30%の範囲である。上記の如き媒体を併用する場合は単独でも混合物としても使用できるが、好ましい水溶性有機溶剤は、1価アルコール類、ケトン類、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、チオジグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びその誘導体(中でもそのアルキルエーテル類)である。更に必要に応じて、従来公知の保湿剤、界面活性剤、粘度調整剤、酸化防止剤、等の添加材料を用いることも可能である。保湿剤の添加量は1から30質量%の範囲が好ましく、更に好適には3から20質量%の範囲が望ましい。界面活性剤の添加量は0.01から10質量%の範囲が好ましく、更に好適には0.05から3質量%の範囲が望ましい。第1の化合物を含むインク、或いは液体の好ましい物性は、粘度、表面張力、pH(いずれも25℃)について下記の通りである。粘度は1.5から10cpsの範囲が好ましく、1.8から5cpsの範囲であれば更に好ましい。表面張力は25から45dyn/cmの範囲が好ましい。pHの好ましい範囲は含有する顔料前駆体により異なってくると考えられるが、4から10、さらに好適には6から9の範囲が好ましいと考えられる。
・他の記録方法
インクジェット記録以外に、本発明にかかる物質変換方法の記録への応用例としては、熱昇華型記録方式のように記録媒体に金属化合物を添加した状態で、第1の化合物を含むインクリボンを用いて該記録媒体に記録する例や、またその逆方法として溶媒に金属化合物を溶解した形で、バーコーター、ロールコーター、刷毛塗りのような塗布手段で、画像情報に応じて第1の化合物が付与されている記録媒体に塗布する例が考えられる。
【0054】
更に複合的な記録方法として、金属化合物に第1の化合物を吸着させた化合物をインクリボンなどの手段により記録媒体に付着せしめる方法も考えられる。
【0055】
なお、本発明の記録方法は、染料を色材とするインクを用いたインクジェット記録方法などの他の記録方法と併用してもよい。
【0056】
【実施例】
次に、本発明に基づく実施例を示し、本発明の効果をより明らかにするが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0057】
なお、次の略語を使用する。
THF:テトラヒドロフラン
DBU:1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]ウンデセン−7
〔実施例1ポルフィリン前駆体(V)の合成〕
図1に記載のスキームに従って、逆ディールス−アルダー反応で脱離可能な水酸基を有する本発明のポルフィリン前駆体(V)を合成した。
【0058】
1.1 化合物2の合成
まず原料として3,5−シクロヘキサジエン−1,2−ジオール(化合物1)の20%酢酸エチル溶液(25ml)を用意し、溶媒を減圧下濃縮し、そこにアセトン(30ml)、2,2−ジメトキシプロパン(69ml)、痕跡量のp−トルエンスルホン酸を加え、室温で4時間攪拌した。10質量%水酸化ナトリウム水溶液(30ml)、飽和食塩水(30ml)を加えて攪拌し、反応を停止し、ジエチルエーテル(3×30ml)で抽出、有機層を飽和食塩水(3×30ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮することで化合物1の水酸基を保護した化合物2が8.33gの収量で得られた。
【0059】
1.2.化合物3の合成
反応容器に 化合物2(158mg、1.04mmol)と2−ニトロ−1−(フェニルスルホニル)エチレン(230mg、1.08mmol)を入れ、トルエン(2.00ml)を加えて、90℃で3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィ(20−30容量% 酢酸エチル/ヘキサン)で分離し、Rf0.24(20容量% 酢酸エチル/ヘキサン)とRf0.18(20容量% 酢酸エチル/ヘキサン)のフラクションを濃縮した。これらをそれぞれ再結晶することにより、化合物3aと3bが124mg(0.339mmol、収率:32.6質量%)、62mg(0.17mmol、収率16.3質量%)の収量で得られた。
mp:151.9−152.6℃
1HNMR(溶媒:CDCl3 、単位:δppm) 7.87(m、2H)、7.71(m、1H)、7.59(m、2H)、6.16(m、2H)、4.81(dd、J=5.6、2.4Hz、1H)、4.33(dd、J=6.8、2.9Hz、1H)、4.19(dd、J=6.8、2.9Hz、1H)、4.04(dd、J=5.6、1.5Hz、1H)、3.70(m、1H)、3.48(m、1H)1.28(s、3H)、1.22(s、3H)
IR(KBr)/cm-1:2981w、1552s、1313s、1151s、1056s、727.0m、601.7m。
【0060】
1.3.化合物4の合成
反応容器に化合物3a、3b(2、2−ジメチル−8−ニトロ−9−フェニルスルホニル−3a、4、7、7a−テトラヒドロ−4、7−エタノ−1、3−ベンゾジオキソール)を365mg(1mmol)を入れ窒素置換し、ドライTHF(5.00ml)に溶解させ、反応容器を氷浴に浸した。ドライ−エチルイソシアノアセテート(0.110ml、1.00mmol)を加えた後、水素化カルシウムにより蒸留したDBU(0.370ml、2.50mmol)を5分かけて滴下し、氷浴を取り除き、室温で17時間攪拌した。反応終了後、2質量%塩酸(10.0ml)を加え、酢酸エチル(3×20.0ml)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(5容量%酢酸エチル/クロロホルム)で分離し、Rf0.41(5容量%酢酸エチル/クロロホルム)のフラクションを濃縮し、再結晶することにより化合物4を283mg(97.8mmol、収率:97.8質量%)の収量で得た。
mp:114.9−146.3℃
1HNMR(溶媒:CDCl3、単位:δppm) 8.58(Br、1H)、6.68(d、J=2.4Hz、1H)、6.50(m、2H)、4.56(m、1H)4.34(m、2H)、4.32(q、J=7.0Hz、2H)、4.06(m、1H)、1.42(s、3H)、1.38(t、J=7.0Hz、3H)、1.30(s、3H)
IR(KBr)/cm-1:3345s、2892w、1681s、1297m、1141s、1039s。
【0061】
1.4.化合物5の合成
反応容器に化合物4(289mg、1.00mmol)を入れ窒素置換し、ドライTHF(5.00ml)に溶解させ、反応容器を氷浴に浸した。水素化リチウムアルミニウム(114mg、3.00mmol)を加えて氷浴を取り除き、室温で1時間攪拌した。還元終了後、飽和食塩水(20.0ml)を加え、不溶物をセライト濾過し、クロロホルム(3×100ml)で抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液にp−トルエンスルホン酸(80.0mg)を加え、1日攪拌した。さらにクロラニル(223mg、0.907mmol)を加えさらに1日撹拌した。反応終了後、反応溶液を1質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液(50.0ml)、飽和食塩水(50.0ml)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィで精製し再結晶することで、化合物5(収率39.8質量%)を得た。
【0062】
1.5.化合物6の合成
反応容器に化合物5と酢酸銅をクロロホルム(30ml)−メタノール(3ml)に溶かし、室温で3時間撹拌した。反応終了後、水(100ml×2)、飽和食塩水(40ml)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮し、クロロホルム−メタノールから再結晶することによって赤紫色結晶(化合物6)を得た。
【0063】
1.6.化合物7の合成
得られた化合物6の酸存在化における加水分解反応により脱保護基反応を行い、目的とする水溶性化合物7(中心金属M:Cu)を得た。
【0064】
〔実施例2テトラアザポルフィリン前駆体(VI)の合成〕
図2に記載のスキームに従ってテトラアザポルフィリン骨格を有する本発明にかかる前駆体(VI)を合成した。
【0065】
2.1 化合物2'の合成
まず原料として3,5−シクロヘキサジエン−1,2−ジオール(化合物1')の20質量%酢酸エチル溶液(25ml)を用意し、溶媒を減圧下濃縮し、そこにアセトン(30ml)、2,2−ジメトキシプロパン(69ml)、痕跡量のp−トルエンスルホン酸を加え、室温で4時間攪拌した。10質量%水酸化ナトリウム水溶液(30ml)、飽和食塩水(30ml)を加えて攪拌し、反応を停止し、ジエチルエーテル(3×30ml)で抽出、有機層を飽和食塩水(3×30ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮することで化合物1'の水酸基を保護した化合物2が8.33g得られた。
【0066】
2.2.化合物3'の合成
反応容器に化合物2'(158mg)とジシアノアセチレン(230mg)を入れ、トルエン(2.00ml)を加えて、90℃で3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィ(20−30容量% 酢酸エチル/ヘキサン)で分離し、Rf0.24(20容量% 酢酸エチル/ヘキサン)とRf0.18(20容量% 酢酸エチル/ヘキサン)のフラクションを濃縮した。これらをそれぞれ再結晶することにより、化合物3'が184mg得られた。
mp:151.9−152.6℃
1HNMR(溶媒:CDCl3 、単位:δppm) 7.87(m、2H)、7.71(m、1H)、7.59(m、2H)、6.16(m、2H)、4.81(dd、J=5.6、2.4Hz、1H)、4.33(dd、J=6.8、2.9Hz、1H)、4.19(dd、J=6.8、2.9Hz、1H)、4.04(dd、J=5.6、1.5Hz、1H)、3.70(m、1H)、3.48(m、1H)1.28(s、3H)、1.22(s、3H)
IR(KBr)/cm-1:2981w、1552s、1313s、1151s、1056s、727.0m、601.7m
2.3.化合物4'の合成
反応容器に化合物3(365mg)を入れ窒素置換し、ドライTHF(5.00ml)に溶解させた。そこにn−ブトシキマグネシウムのn−ブタノール溶液を加え、150℃の温度で加熱撹拌し、4量環化、金属錯体化を行った。反応終了後、酢酸エチル(3×20.0ml)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(5容量%酢酸エチル/クロロホルム)で分離し、Rf0.41(5容量%酢酸エチル/クロロホルム)のフラクションを濃縮し、再結晶することにより化合物4'が283mgの収量で得られた。
mp:114.9−146.3℃
1HNMR(溶媒:CDCl3、単位:δppm) 8.58(Br、1H)、6.68(d、J=2.4Hz、1H)、6.50(m、2H)、4.56(m、1H)4.34(m、2H)、4.32(q、J=7.0Hz、2H)、4.06(m、1H)、1.42(s、3H)、1.38(t、J=7.0Hz、3H)、1.30(s、3H)
IR(KBr)/cm-1:3345s、2892w、1681s、1297m、1141s、1039s。
【0067】
2.4.化合物5'の合成
反応容器に化合物4'(289mg)を入れ窒素置換し、THF(5.00ml)に溶解させた。1N塩酸(114mg)を加えて室温で1時間攪拌した。反応終了後、飽和食塩水(20反応終了後、反応溶液を1質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液(50.0ml)、飽和食塩水(50.0ml)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィで精製し再結晶することで、水酸基が脱保護された水溶性フタロシアニン化合物5'(中心金属M:Mg)(収率39.8質量%)を得た。
【0068】
実施例3
金属化合物への吸着処理および、示差走査熱量分析による反応開始温度測定
本発明にかかる、第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせるに必要なエネルギーの低減効果を確かめるために、上記実施例1、2で合成した第1の化合物としての、水酸基を有するポルフィリン系化合物およびテトラアザポルフィリン化合物を、各々第2の化合物に変換するのに必要な温度について示差走査熱量分析(DSC)により検討した。その結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
Figure 0004420424
【0070】
第1の化合物単独ではDSC測定結果に逆ディールス−アルダー反応に伴う吸熱ピークが観測されたが、アルミナ存在下では吸着により測定サンプルを調製中に反応が室温において進行してしまい、調整したサンプルをDSCにより測定しても逆ディールス−アルダー反応に由来する吸熱ピークを観測することができなかった。一方、測定後のサンプル表面には第2の化合物が吸着していることがNMR測定等により確認された。なお、ポルフィリン系化合物(化合物V)のアルミナ共存下及び単独のDSCチャートを図3および図4、アルミナ吸着過程での室温による逆ディールス−アルダー反応をUV−Visスペクトルにより追跡した結果を図5にそれぞれ示す。
【0071】
実施例4及び参照例
インクジェット記録への応用検討
実施例1および2で得られた第1の化合物を限界濾過膜を用いて脱塩処理したもの、および参照例としてフタロシアニン染料(C.I.ダイレクトブルー199:DBL−199)を用いて以下の組成でインクジェット用液体組成物を調製した。
1)第1の化合物またはC.I.ダイレクトブルー199:5.0質量部
2)グリセリン:5.0質量部
3)尿素:5.0質量部
4)エチレングリコール:5.0質量部
5)水:80.0質量部
(計100.0質量部)
第1の化合物としては、先に示した式(V)の化合物及び式(VI)の化合物をそれぞれ個々に用いた。
【0072】
これら3種のインクジェット用液体組成物をインクジェットプリンタ (商品名:BJ−F870;キヤノン株式会社製)を用いて、基紙上にアルミナ水和物を含有しているインク受容層を具備した記録媒体(商品名:PR−101;キヤノン株式会社製)に縦−横1cm四方のカラーパッチを印刷した。カラーパッチは、室温放置することによって、式(V)の化合物および式(VI)の化合物を逆ディールス−アルダー反応させて、シアン色のカラーパッチに変換した。こうして得た実施例4(式(V)の化合物及び式(VI)の化合物をそれぞれ個々に使用)並びに参照例1(C.I.ダイレクトブルー199を使用)のパッチに関して耐光堅牢性、耐ガス堅牢性、耐水堅牢性、耐湿堅牢性の試験を行った。
【0073】
〔耐光堅牢性〕
以下の試験条件に従って、キセノンフェードメーターを用いて、耐光暴露試験を行った。本試験は室内における窓越し太陽光を考慮した画像堅牢性試験である。
試験条件:
照射強度:70Klx
試験時間:520時間
試験槽内温湿度条件:24℃・60%RH
フィルタ:ソーダライム(アウター)、ボロシリケート(インナー)
耐光堅牢性を以下の様に評価した。
A:濃度残存率90%以上
B:濃度残存率80%以上90%未満
C:濃度残存率80%未満。
【0074】
〔耐ガス堅牢性〕
以下の試験条件(ANSI/ISA−S71.04−1985)に従って、ガス腐食試験機を用いて、ガス暴露試験を行った。本試験は室内における各種のガスの影響を考慮した画像堅牢性試験である。
【0075】
試験条件:
暴露ガス組成:H2S:50ppb、SO2:300ppb、NO2:1250ppb、Cl2:10ppb、O3:1200ppb
試験時間:72時間、試験槽内温湿度条件:24℃・60%RH
耐ガス堅牢性を以下の様に評価した。
A:濃度残存率90%以上
B:濃度残存率80%以上90%未満
C:濃度残存率80%未満。
【0076】
〔耐水堅牢性〕
得られた記録物を水道水に5分間浸漬した後、引き上げ乾燥し、試験前との濃度変化を測定した。
A:濃度残存率1%以下
B:濃度残存率1%を超えて5%未満
C:濃度残存率5%以上。
【0077】
〔耐湿堅牢性〕
得られた記録物を30℃・80%RHの恒温恒湿槽に1週間保管し、取り出し乾燥し、試験前との濃度変化を測定した。
A:濃度残存率1%以下
B:濃度残存率1%を超えて5%未満
C:濃度残存率5%以上。
【0078】
以上の試験を実施例4の変換前と変換後および参照例1のカラーパッチについてまとめた結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
Figure 0004420424
【0080】
以上のように、本発明にかかる記録方法を用いることによって、溶剤に対し優れた溶解性を有する色材を記録媒体上で、極めて低エネルギーで溶媒に対して難溶解性或いは非溶解性の化合物へと変換することができる。記録媒体上で、溶解特性を変化(低下)させることによって、色材の自己凝集を誘起し、優れた画像堅牢性を達成することが可能となった。一方、インクに対しては、従来の顔料インクのように高分子分散剤等をインクに添加する必要がない。即ち、本発明は、従来の染料インクと、顔料インクとの双方の効果を極めて低エネルギーで享受することができるものである。
【0081】
【発明の効果】
本発明によれば、逆ディールス−アルダー反応を用いた物質変換を、金属化合物の共存下で行うことにより、該物質変換のためのエネルギー量の低減を図ることができた。これにより、該物質変換方法を記録技術に応用したときのエネルギー効率のより一層の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるポルフィリン前駆体の合成方法を示すスキームである。
【図2】本発明にかかるテトラアザポルフィリン前駆体の合成方法を示すスキームである。
【図3】本発明にかかるポルフィリン化合物(式(V)の化合物)のアルミナ存在下のDSCチャートである。
【図4】本発明にかかるポルフィリン化合物(式(V)の化合物)単独のDSCチャートである。
【図5】本発明にかかるポルフィリン化合物(式(V)の化合物)の吸着過程のUV−Visスペクトルによる逆ディールス−アルダー反応追跡した結果である。

Claims (3)

  1. 水酸基を有することにより水もしくは水と親水性有機溶媒からなる水系媒体に可溶であり、逆ディールス−アルダー反応によって該水酸基が脱離して該水系媒体に対する溶解度が不可逆的に低下可能である第1の化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせて、該水系媒体に対する溶解度が不可逆的に低下した第2の化合物を得る工程を有する物質変換方法であって、
    該第1の化合物が下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される構造を有しており、
    逆ディールス−アルダー反応を、該第1の化合物とアルミナ水和物との共存下、20〜25℃の環境で生じさせることを特徴とする物質変換方法。
    Figure 0004420424
    Figure 0004420424
    Figure 0004420424
    Figure 0004420424
    (式中、R 1 〜R 8 は水酸基を示し、M 1 及びM 2 は2価〜4価の配位金属原子、Y 1 及びY 2 はハロゲン原子、酸素原子または水酸基、nは0〜2の整数を示す。)
  2. 前記第1の化合物が下記式(A)又は(B)の構造のいずれかを有する請求項1に記載の物質変換方法。
    Figure 0004420424
    (式中、Mは銅原子を示す。)
    Figure 0004420424
    (式中、Mはマグネシウム原子を示す。)
  3. 請求項1または2に記載の物質変換方法を用いて第2の化合物を含む記録部を記録媒体上に形成する工程を有することを特徴とする記録方法。
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