JP5910308B2 - フラーレン類の製造方法 - Google Patents

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本発明は、置換基を有するフラーレン誘導体を用いたフラーレン又はフラーレン誘導体の新規な製造方法に関する。
1985年に発見されたフラーレンは、60個あるいはそれ以上の炭素原子が球状に結合した、第三の炭素同素体である。C60、C70に代表されるフラーレン類は、その特異な分子形状から、電子材料部品、医薬、化粧品などの新規機能材料として注目されている。
フラーレン類の合成方法としては、アーク放電法、抵抗加熱法、レーザー蒸発法、燃焼法、熱分解法などが知られており、いずれの製造方法においてもフラーレン類を含有する煤が生成する。有機溶媒に可溶なC60、C70、C76、C78、C82、C84などのフラーレン類は、この煤を有機溶媒で抽出することによって得られる。さらにこれらのフラーレン類を化学修飾することにより、有機溶媒あるいは水への溶解性を向上させることが可能である。
フラーレン誘導体は置換基の付加数によって、溶解性および電子受容性を制御することが可能であり、これらの特徴は特に、太陽電池用途などにおいて重要である。
フラーレン誘導体の製造方法は、一般に逐次反応であり、特定の置換基数の誘導体を優先的に合成しようとしても、生成物の置換基数には分布が生じてしまい、所望の置換基数のフラーレン誘導体を選択的に得ることは困難である。この場合、フラーレン誘導体の置換基数を減らすレトロ反応により、所望の置換基数のフラーレン誘導体を再生する方法が有用である。
非特許文献1には、ディールス・アルダー・フラーレン誘導体を加熱することでレトロ反応が進行する例が報告されている。
また、非特許文献2には、ビンゲル(Bingel)・フラーレン誘導体の電気化学的レトロ反応例が報告されており、非特許文献3にはアマルガムを利用したビンゲル誘導体のレトロ反応例が報告されている。
また、非特許文献4には、プラトー(Prato)付加フラーレン誘導体の各種レトロ反応の例が報告されている。
例えば、非特許文献5に報告されているように、インデン2付加体は太陽電池のn型半導体として有用であるが、逐次反応である付加反応のみを用いてフラーレンの置換基数を2に制御することは難しく、副生成物として置換基数3以上のインデン付加体が生成し、「2付加体」の収率が低下する。このような場合に、レトロ反応を活用すれば、置換基数のコントロールが容易となり、目的生成物の収率の向上および精製の簡易化が期待できる。
J.Phys.Chem.,1993年,97巻,8560〜8561頁 Angew.Chem.Int.Ed.,1998年,37巻,1919〜1922頁 Chem.Commun.,2000年,335〜336頁 Angew.Chem.Int.Ed.,2006年,45巻,110〜114頁 J.Am.Chem.Soc.,2010年,132巻,1377〜1382頁
しかし、従来知られているフラーレン誘導体のレトロ反応条件は比較的高い温度での加熱が必要であったり、特殊な反応系で実施されたりする例が多く、また特定の置換基に対するレトロ反応が多く、汎用的なフラーレン誘導体に対して、室温かつ溶液系で進行する実用的なレトロ反応例は報告されていない。
本発明は、温和な条件で速やかに、様々なフラーレン誘導体から置換基の付加数を低減させたフラーレン誘導体又は未修飾のフラーレン(置換基を有さないフラーレン)を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは鋭意検討した結果、1以上の置換基を有するフラーレン誘導体を鉄含有化合物と接触させることにより、フラーレン環に結合する置換基の数を低減させるレトロ反応の開発に成功した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 置換基を有するフラーレン誘導体(以下「原料FLN誘導体」と記す)を、鉄含有化合物と接触させることにより、該原料FLN誘導体よりも置換基数が減少したフラーレン又はフラーレン誘導体を得るフラーレン類の製造方法であって、前記鉄含有化合物が塩化第2鉄であり、前記原料FLN誘導体が、ディールス・アルダー・フラーレン誘導体及び/又はメタノフラーレン誘導体を含むことを特徴とするフラーレン類の製造方法。
] 前記原料FLN誘導体と鉄含有化合物との接触の際の温度が−20℃〜40℃であることを特徴とする[1]に記載のフラーレン類の製造方法。
] 原料FLN誘導体中のフラーレン環が、炭素原子数60及び70のフラーレン環のいずれかを含むことを特徴とする[1]又は2]に記載のフラーレン類の製造方法。
本発明によれば、少なくとも1つの置換基を有するフラーレン誘導体に対し、特定の鉄含有化合物を作用させることにより、温和な条件にて、置換基の付加数を低減させたフラーレン誘導体又は未修飾のフラーレンを簡便かつ安価に得ることができる。
本発明によれば、汎用的なフラーレン誘導体に対して、室温かつ溶液系で進行する実用的なレトロ反応を実現することができ、その工業的有用性は極めて大きい。
(a)図は実施例1における反応前のHPLC分析チャートであり、(b)図は同1時間反応後のHPLC分析チャートである。
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明のフラーレン類の製造方法は、置換基を有するフラーレン誘導体(以下「原料FLN誘導体」と記す)を、鉄含有化合物と接触させることにより、該原料FLN誘導体よりも置換基数が減少したフラーレン又はフラーレン誘導体(以下、「目的物」と称す場合がある。)を得ることを特徴とする。
1.原料FLN誘導体
原料FLN誘導体中のフラーレン環(フラーレン骨格)としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96などが挙げられ、原料FLN誘導体には、特定の分子量を持つフラーレン単体、2つ以上の成分を有するフラーレン混合物、フラーレンを有する煤などが含まれる。また、金属原子や水素分子などを内包した内包フラーレン、単層及び多層カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどのフラーレン類似の炭素クラスター、及びそれらとフラーレンとの混合物を用いることもできる。
好ましくは、本発明で用いる原料FLN誘導体は、C60(炭素原子数60のフラーレン環)及び/又はC70(炭素原子数70のフラーレン環)を含むものであり、C60、C70、C60とC70の混合物、或いはC60とC70とC60及びC70以外の高次フラーレンとの混合物であってもよい。
原料FLN誘導体が有する置換基としては、炭素原子数1〜24の炭化水素基等、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、チオエポキシ基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアルコキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアルコキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアリールオキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアリールオキシ基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいオキシカルボニル基、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいシリル基などが挙げられ、またこれらの置換基はフラーレン骨格と、或いは置換基同士で環状構造を形成していてもよい。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)アルキル基と、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。また、アルケニル基としては、具体的には、ビニル基、アリル基などが挙げられ、また、アルキニル基としては、具体的には、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。また、アリール基としては、具体的にはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。その他、ヘテロ原子を含むアリール基としてピリジル基、チオフェニル基、フリル基なども用いることができ、本明細書では、炭素原子数1〜24の炭化水素基とこれらのヘテロアリール基をまとめて「炭素原子数1〜24の炭化水素基等」と称す。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよい、カルボニル構造を含有する基(本明細書では、これらをまとめて「カルボニル基」と称する。)としては、アセチル基、エチルカルボニル基等のアルキルカルボニル基、フェニルカルボニル基、トリルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、アズレニル基等のアリールカルボニル基、アミド基、エステル基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよい、チオカルボニル構造を含有する基(本明細書では、これらをまとめて「チオカルボニル基」と称す。)としては、アルキルチオカルボニル基、アリールチオカルボニル基、チオアミド基、チオエステル基等が挙げられる。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアルコキシ基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基等が挙げられる。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。また、炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいチオアリールオキシ基としては、チオフェノキシ基、チオナフトキシ基等が挙げられる。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいオキシカルボニル基としては、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
上記の炭素原子数1〜24の炭化水素基等で置換されていてもよいシリル基としては、トリメチルシリル基等のトリアルキルシリル基、トリメトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、又はジアルキルアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
上記のような置換基を少なくとも1つ有する原料FLN誘導体の好ましい例としては、ディールス・アルダー・フラーレン誘導体、例えばPCBM誘導体のようなメタノフラーレン誘導体、プラトー付加フラーレン誘導体、ビンゲル・フラーレン誘導体、ジアゾリン・フラーレン誘導体、アザフレロイド・フラーレン誘導体などが挙げられ、より好ましい例としては、ディールス・アルダー・フラーレン誘導体及びメタノフラーレン誘導体が挙げられる。
以下に代表的なフラーレン誘導体の構造式の例を示すが、本発明で用いる原料FLN誘導体は何ら以下のものに限定されるものではない。
Figure 0005910308
原料FLN誘導体が有する置換基の数は1個以上であればよく特に制限はない。
なお、本発明において、原料FLN誘導体の置換基の数とは、原料FLN誘導体中のフラーレン環に対する平均付加数であり、必ずしも整数ではない。また、原料FLN誘導体が2個以上の置換基を有する場合、2個以上の置換基は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
本発明で用いる原料FLN誘導体には、置換基数や種類の異なる2種以上のフラーレン誘導体が含まれていてもよく、また、前述の通り、異なるフラーレン環(フラーレン骨格)のフラーレン誘導体が含まれていてもよい。
2.鉄含有化合物
本発明のフラーレン類の製造方法において使用する鉄含有化合物は、鉄原子を少なくとも1つ含むものであるが、鉄含有化合物に含まれる鉄原子は、求電子性を有し、温和な条件下(例えば、常温、常圧下又はそれに近い状態)で、より効率的にレトロ反応を進行させる効果を有することから、3価の鉄原子であることが好ましく、また、本発明で用いる鉄含有化合物は、入手の容易さとコスト面で、鉄ハロゲン化合物であることが好ましい。従って、本発明の鉄含有化合物は、3価の鉄ハロゲン化合物であるハロゲン化第2鉄を含むことが好ましい。ハロゲン化第2鉄としては、具体的には、塩化第2鉄、臭化第2鉄などが挙げられる。
なお、鉄含有化合物として、塩化第1鉄、臭化第1鉄など3価鉄以外の鉄含有化合物を使用することもできる。
また、鉄含有化合物は、鉄原子とハロゲン原子からなるものに何ら限定されるものではなく、例えば、酸化第2鉄、過塩素酸第2鉄などを用いることもできる。また、鉄含有化合物はアルキル基やアリール基等の置換基を1つあるいは複数有していてもよいし、価数の異なる2種類以上の鉄原子を含む錯体であってもよい。
これらの鉄含有化合物のうち、好ましくは少なくとも一つのハロゲン原子を含むもの、より好ましくは入手のし易さとコスト面から鉄ハロゲン化合物、特に好ましくは塩化第2鉄、臭化第2鉄を用いるのがよい。
これらの鉄含有化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
鉄含有化合物の使用量は、原料FLN誘導体と反応するのに必要かつ十分な量であることが重要であり、具体的には、原料FLN誘導体に対し、0.01〜1000モル倍の鉄含有化合物を用いるのが好ましい。鉄含有化合物の使用量は、より好ましくは、原料FLN誘導体に対して0.5〜500モル倍であり、特に好ましくは1〜200モル倍である。鉄含有化合物の使用量が多い程レトロ反応が進行する傾向にあるが、原料FLN誘導体に対して過度に多く用いてもレトロ反応の進行促進効果は頭打ちとなり、コストの面で好ましくない。
3.溶媒
本発明のフラーレン類の製造方法において、原料FLN誘導体と、鉄含有化合物との接触方法については、両者を効果的に接触させることができれば特に限定されないが、原料FLN誘導体を有機溶媒に溶解あるいは懸濁させると、鉄含有化合物と効果的に接触させることが可能になるため、有機溶媒を用いて反応を行うことが好ましい。
反応に用いる有機溶媒としては、原料FLN誘導体が可溶である溶媒、例えば芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩素化炭化水素類等が適しており、それらは環式、非環式のいずれでもよい。
ここで、溶媒として使用する芳香族炭化水素類としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン(メシチレン)、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。
また、脂肪族炭化水素類としては、環式、非環式のいずれも使用することができる。環式脂肪族炭化水素類としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素類、また、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、多環式脂肪族炭化水素類としては、デカリン等が挙げられる。非環式脂肪族炭化水素類としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等が挙げられる。
更に、塩素化炭化水素類としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられる。
また、有機溶媒として、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、及び二硫化炭素等を使用してもよい。
工業的観点から、これらの有機溶媒の中でも、常温で液体で、沸点が30〜300℃、中でも40〜250℃のものが好適に使用できる。このような有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、1−メチルナフタレン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン等のアルキルベンゼン、テトラリン等のナフタレン誘導体等の芳香族炭化水素類や、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等の塩素化炭化水素類を用いることが好ましい。特に、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等の塩素化炭化水素類を用いると、反応が進行しやすく好適である。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒として使用することもできる。
溶媒の使用量については、特に制限はなく、反応系を過度に大容量とすることなく、原料FLN誘導体を溶解させることができる程度であればよく、用いた溶媒に対する原料FLN誘導体の溶解度によっても異なるが、通常、原料FLN誘導体の重量に対して1〜200重量倍程度とすることが好ましい。
4.反応条件
本発明のフラーレン類の製造方法における反応温度(原料FLN誘導体と鉄含有化合物を接触させる際の温度)は特に限定されないが、制御が容易であることから、−20℃〜40℃の範囲で実施することが好ましく、より好ましくは0℃〜30℃の範囲である。反応圧力(原料FLN誘導体と鉄含有化合物を接触させる際の圧力)は、通常常圧でよいが、若干の加圧下又は減圧下で行うこともできる。
また、反応時間についても特に制限されないが、反応時間が短すぎると、レトロ反応の進行が不完全であり、また反応時間が長すぎると、レトロ反応が進行しすぎてしまい、目的の置換基数より少ない置換基数のフラーレン類が得られることが考えられるため、通常5分〜12時間程度で実施することが好ましく、より好ましくは15分〜3時間の範囲で実施することが好ましい。
なお、反応時の雰囲気は特に限定されないが、酸素により原料FLN誘導体が酸化される副反応を抑制するため、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施するのが好適である。
5.反応後の処理
本発明のフラーレン類の製造方法では、鉄含有化合物を原料FLN誘導体と接触させた後、鉄含有化合物そのものあるいは鉄含有化合物に由来する物質(以下、両者を併せて「鉄含有化合物等」という)、およびレトロ反応に伴う副生成物を系内から除去する必要がある。鉄含有化合物等及び副生成物が反応に使用する有機溶媒に不溶で、目的物が可溶である場合、濾過、デカンテーションなどにより、有機溶媒に溶解している目的物と不溶な鉄含有化合物等および副生成物とに分離することが好ましい。より好ましくは、シリカショートパスやアルミナショートパス、あるいは分液操作を用いて、不溶な鉄含有化合物等および副生成物を除去する。
一方、鉄含有化合物等および副生成物が反応に使用する有機溶媒に可溶で目的物も可溶である場合、晶析などにより目的物を固体として析出させ、濾過、デカンテーションなどにより、固体の目的物と有機溶媒に溶解している鉄含有化合物等および副生成物に分離するのが好適である。また、沸点が低い副生成物は、蒸留などによって分離除去することが好適である。
6.目的物の精製
本発明のフラーレン類の製造方法では、少なくとも1つの置換基を有する原料FLN誘導体を鉄含有化合物と接触させて、置換基数が減少したフラーレン(置換基を有さないフラーレン)又はフラーレン誘導体(置換基を有するフラーレン)を目的物として得る。
前述の如く、原料FLN誘導体の置換基数は平均付加数であり、原料FLN誘導体中には置換基数の異なる2種以上のフラーレン誘導体が含まれていてもよい。また、本発明に係るレトロ反応では、反応により減少する置換基数は必ずしも一定ではなく、置換基数の減少数の異なる目的物が生成する場合もある。即ち、本発明では、平均付加数nの原料FLN誘導体から平均付加数mのフラーレン誘導体又はフラーレンを製造するが(ここで、0≦m<nを満たす数である。)、n,mは必ずしも整数とは限らない。
従って、反応生成物中には、置換基数の異なるフラーレン誘導体や置換基を有さないフラーレンが混在する場合があり、このようなフラーレンとフラーレン誘導体又はフラーレン誘導体の混合物から、所望の置換基数のフラーレン誘導体又はフラーレンを分離精製することが、目的物を各種用途に適用する上で好ましい。
この目的物の精製手段としては特に制限はないが、カラムクロマトグラフィーによる精製が好適である。
本発明によれば、所望の置換基数のフラーレン誘導体又は置換基を有さないフラーレンを高い選択率で得ることができることから、分離精製されたフラーレン又はフラーレン誘導体を各種用途に好適に用いることができる。
7.用途
本発明のフラーレン類の製造方法により製造されたフラーレン又はフラーレン誘導体は、エッチング耐性、絶縁性、有機n型半導体としての優れた特性を生かして、各種ダイオード、フォトレジスト、ナノインプリンティング用の薄膜、層間絶縁膜、有機太陽電池、有機半導体薄膜、光導電性薄膜等の作成に有用である。
また、本発明のフラーレン類の製造方法により製造されたフラーレン又はフラーレン誘導体は加水分解反応等により、更なる修飾(置換基の導入)が可能であるため、任意の機能を付加することや、各種溶媒に対する溶解度を調整することができることから、各種の反応中間体としても様々な用途に利用できる。
以下、本発明の作用効果を確認するために、反応に用いる原料FLN誘導体と鉄含有化合物を適宜選択し、窒素雰囲気中、常温、常圧で反応を行った実施例について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。即ち、以下の実施例は、原料FLN誘導体としてフラーレン環がC60であるものを用い、鉄含有化合物として塩化第2鉄を用いているが、本発明で用いる原料FLN誘導体のフラーレン環はC60以外であってもよく、また、鉄含有化合物は塩化第2鉄以外の鉄含有化合物であってもよい。
[実施例1:塩化第2鉄を用いたインデン1付加体のレトロ反応]
Figure 0005910308
500mgのインデン1付加体(化合物1)を10mL(15.86g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄1.9g(化合物1に対して20モル倍)を添加した。1時間後、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により反応がほぼ完了したことを確認した(反応率99%、化合物2選択率94%)。ここで、反応率はHPLC分析での化合物1の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析での化合物2の面積%により求めた。
水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過して不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、メタノール300mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、158mgの黒色固体を得た(収率37%)。
HPLC分析により、この生成物は化合物2であることが確認された。
図1(a)に反応前のHPLC分析チャートを、図1(b)に1時間反応後のHPLC分析チャートをそれぞれ示す。
図1(a)における溶離時間15分の成分はインデン1付加体(化合物1)である。また、図1(b)における溶離時間18分の成分はC60フラーレン(化合物2)である。
[実施例2:塩化第2鉄を用いたPCBM付加体のレトロ反応]
Figure 0005910308
450mgのPCBM付加体(化合物3)を9mL(14.27g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄1.8g(化合物3に対して20モル倍)を添加した。3時間後、HPLC分析により化合物3がほぼ完全に反応したことを確認した(反応率100%、化合物2選択率43%)。ここで、反応率はHPLC分析での化合物3の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析での化合物2の面積%により求めた。
水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過して不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、メタノール300mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、36mgの黒色固体を得た(収率10%)。
HPLC分析により、この生成物は化合物2であることが確認された。
[実施例3:塩化第2鉄を用いたビス−インデン付加体のレトロ反応]
Figure 0005910308
200mgのビス−インデン付加体(化合物4)を4mL(6.34g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄0.68g(化合物4に対して20モル倍)を添加した。1時間後、HPLC分析により化合物4がほぼ完全に反応したことを確認した(反応率99%、化合物2選択率73%、化合物1選択率11%)。ここで、反応率はHPLC分析での化合物4の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析での化合物2および化合物1の面積%により求めた。
水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過して不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、メタノール100mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、18mgの黒色固体を得た(収率12%)。
HPLC分析により、この反応により化合物2および化合物1が生成し、カラム精製後に得られた主成分の黒色固体は化合物2であることが確認された。
[実施例4:塩化第2鉄を用いたビス−PCBM付加体のレトロ反応]
Figure 0005910308
200mgのビス−PCBM付加体(化合物5)を4mL(6.34g)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、窒素雰囲気中、25℃で攪拌しながら、塩化第2鉄0.59g(化合物5に対して20モル倍)を添加した。1時間後、HPLC分析により化合物5がほぼ完全に反応したことを確認した(反応率100%、化合物2選択率36%、化合物3選択率5%)。ここで、反応率はHPLC分析での化合物4の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析での化合物2および化合物3の面積%により求めた。
水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過して不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、メタノール100mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、10mgの黒色固体を得た(収率8%)。
HPLC分析により、この反応により化合物2および化合物3が生成し、カラム精製後に得られた主成分の黒色固体は化合物2であることが確認された。

Claims (3)

  1. 置換基を有するフラーレン誘導体(以下「原料FLN誘導体」と記す)を、鉄含有化合物と接触させることにより、該原料FLN誘導体よりも置換基数が減少したフラーレン又はフラーレン誘導体を得るフラーレン類の製造方法であって、前記鉄含有化合物が塩化第2鉄であり、前記原料FLN誘導体が、ディールス・アルダー・フラーレン誘導体及び/又はメタノフラーレン誘導体を含むことを特徴とするフラーレン類の製造方法。
  2. 前記原料FLN誘導体と鉄含有化合物との接触の際の温度が−20℃〜40℃であることを特徴とする1に記載のフラーレン類の製造方法。
  3. 前記原料FLN誘導体中のフラーレン環が、炭素原子数60及び70のフラーレン環のいずれかを含むことを特徴とする1又は2に記載のフラーレン類の製造方法。
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