JP4411223B2 - 車載用gmr角度センサ - Google Patents

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Description

本発明は、外部磁界変化に応じて大きな抵抗変化を示す巨大磁気抵抗効果素子を用いた車載用GMR角度センサに関する。
GMR角度センサは、外部磁界変化に応じて抵抗値が大きく変化する巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を用いた角度センサである。GMR素子は、周知のようにフリー磁性層/非磁性導電層/固定磁性層/反強磁性層の積層構造をもち、固定磁性層の磁化方向は反強磁性層との間に生じる交換結合磁界により一方向に固定され、この固定磁性層に非磁性導電層を介して対向するフリー磁性層の磁化方向が外部磁界に応じて回転し、固定磁性層の磁化方向とフリー磁性層の磁化方向とのなす角度によって抵抗値が変化する。このGMR角度センサは、GMR素子の両端に接続した電極層を有し、この電極層を介して一定の電流をGMR素子に与えることにより、GMR素子の抵抗変化を電圧変化として検出する。GMR素子及び電極層(電極パッドは除く)は保護層によって封止されており、この保護層は従来一般にSiO2で形成されている。
上記GMR角度センサは、可動部(回転部)との接触なしに角度検出可能であるから、摺動抵抗を用いた接触式の角度センサよりも信頼性及び耐久性が非常に高く、例えばステアリングホイールの操舵角検出用など車載用角度センサとしての活用が期待されている。
特開平8−70148号公報 特開平8−264861号公報 特開平11−287669号公報 特開2002−107433号公報 特開2000−213957号公報 特開2000−180524号公報 特開平7−63505号公報
車載用GMR角度センサは、少なくとも摂氏−40度から摂氏160度程度の広域温度環境下での使用が想定されており、使用環境温度によってGMR素子の出力特性が変動しないこと、すなわち、GMR素子の素子抵抗値が使用環境温度によらず安定していることが要求される。しかしながら、一定の温度環境下に長時間おいて時間経過に対する素子抵抗値の変化を測定する耐熱試験を実施したところ、従来構造のGMR角度センサでは、使用環境温度が約摂氏85度以上に設定すると、試験時間経過とともにGMR素子の抵抗値が増大してしまうことが判明した。
本発明は、使用環境温度による出力特性変動を低減し、耐熱性に優れた車載用GMR角度センサを得ることを目的としている。
本発明は、高温になると、GMR素子を封止する保護層(SiO2膜)から進入した酸素によりGMR素子の表面が酸化し、これが素子抵抗を増大させる要因ではないかとの推測に基づいてなされたもので、GMR素子と酸素の接触を防ぐことにより、使用環境温度による素子抵抗変動の低減を実現する。
すなわち、本発明は、外部磁界に応じて素子抵抗が変化する巨大磁気抵抗効果素子と、該巨大磁気抵抗効果素子の両端に接続したリード導体と、巨大磁気抵抗効果素子及びリード導体を封止する保護層とを備えた車載用GMR角度センサにおいて、保護層は、非磁性の絶縁多層膜であって、巨大磁気抵抗効果素子及びリード導体の絶縁性を確保するSiO2膜と、このSiO2膜の上及び下の少なくとも一方に積層した非磁性且つ絶縁性の酸化防止層とにより形成されていることを特徴としている。
上記態様によれば、GMR素子とSiO2膜の間に介在する酸化防止層によってGMR素子の表面酸化が防止されるので、高温環境におけるGMR素子の素子抵抗を安定に維持することができ、GMR角度センサの耐熱性が向上する。また酸化防止層は、非磁性であるから、GMR角度センサの外部磁界が大きくても磁化されることがなく、GMR角度センサの出力特性を劣化させない。
酸化防止層は、SiO2膜の下に積層形成され、巨大磁気抵抗効果素子及びリード導体を覆うAl23膜であることが好ましい。このAl23膜からなる酸化防止層が存在することにより、使用環境温度によるGMR素子の素子抵抗値の変化は低減する。これは、Al23膜が化学結合的に安定していて酸素の透過性がほとんどなく、また、GMR素子との界面で拡散しづらいことから、酸素がGMR素子に触れずに済み、GMR素子の表面酸化を防止できるためだと推測される。
酸化防止層は、別の態様によれば、SiO2膜の下に積層形成した、巨大磁気抵抗効果素子及びリード導体を覆うAl23膜と、SiO2膜の上に順に積層形成したシリコン膜及び絶縁性カーボン膜の積層膜とであることが好ましい。シリコン膜と絶縁性カーボン膜による積層膜は、Al23膜と同様に酸素の透過性がほとんどなく、素子外の酸素からGMR素子を保護することができる。この積層膜とAl23膜の両方により、さらに効果的にGMR素子の使用環境温度による素子抵抗値の変化を低減することができる。
酸化防止層は、さらに別の態様によれば、SiO2膜の上に順に積層形成したシリコン膜及び絶縁性カーボン膜の積層膜であることが好ましい。この積層膜が存在することにより、GMR素子に触れる酸素が減るので、GMR素子の使用環境温度による素子抵抗値の変化を低減可能である。
酸化防止層は、SiO2膜よりも薄く形成されていることが実際的である。保護層全体としての絶縁性はSiO2膜で確保し、酸化防止層は必要最小限の膜厚であればよい。酸化防止層がAl23膜である場合には、Al23膜の膜厚は約1000Å、SiO2膜の膜厚は約3000〜4000Åとすることが好ましい。
本発明によれば、使用環境温度による出力特性変動を低減し、耐熱性に優れた車載用GMR角度センサを得ることができる。
以下、図面に基づき、本発明の車載用GMR角度センサをステアリングホイールの操舵角を検出する角度センサとして具体化した実施形態について説明する。
図1に示すように一対のGMR角度センサ1は、回転軸2を介してステアリングシャフトと一体に回転する円筒状の回転磁石3と互いに平行に対向し、且つ、回転磁石3による磁場方向と該GMR角度センサ1内の磁場方向とが反平行状態となる位置関係で、自動車のステアリングコラム内に固定されている。この一対のGMR角度センサ1は、回転磁石3に対する回転位置を互いに90度ずらして配置されている。回転磁石3は、N極とS極が分極されて着磁されており、N極とS極を結ぶ方向が径方向である。ステアリングホイールが回転操作されると、該操作に応じてステアリングシャフトが回転し、ステアリングシャフトの回転に応じて回転軸2及び回転磁石3が回転する。このとき、一対のGMR角度センサ1の位置は変化しないため、回転磁石3とGMR角度センサ1との相対位置が変化し、GMR角度センサ1にかかる外部磁界の大きさが変わる。GMR角度センサ1は、外部磁界変化に応じて素子抵抗が変化するGMR素子10を有しており、このGMR素子10に一定の電流を与えることにより、外部磁界変化を電圧変化として読み出す。この一対のGMR角度センサ1からの出力(電圧変化信号)に基づいて所定の演算を行なうことにより、ステアリングホイールの操舵角が一義的に検出される。
図2及び図3は、GMR角度センサ1の概略構成を示す平面図及び断面図である。GMR角度センサ1は、巨大磁気抵抗効果を発揮する一対のGMR素子10と、各GMR素子10の両端に接続したリード導体30と、リード導体30の素子接続側とは反対側の端部に形成したAu電極パッド31と、GMR素子10とリード導体30を覆って封止し、同時にAu電極パッド31を露出させる保護層40とを備えている。GMR素子10は、素子出力(磁気抵抗変化量)をできるだけ大きく確保するため、図2に示されるように蛇行形状をなして細長く形成されている。本GMR角度センサ1はGMR素子10を2つ備えているが、備えるGMR素子10の数は任意である。
GMR素子10は、図3に示されるように、基板11側から順に反強磁性層12、固定磁性層13、非磁性導電層14、フリー磁性層15及びキャップ層16を有し、膜面に対して平行に電流が流れるCIP(Current In Plane)構造をなしている。
反強磁性層12は、IrMn系合金やPtMn系合金からなり、熱処理されることで固定磁性層13との間に大きな交換結合磁界を発生させ、固定磁性層13の磁化方向を図示Y方向に固定する。固定磁性層13は、Co、NiFe合金、CoNi合金、CoFe合金、CoFeNi合金等からなる第1固定磁性層13Aと第2固定磁性層13Bの間に、Ru、Rh、Cr、Re、Cu等からなる非磁性層13Cを介在させた積層フェリ構造で形成されている。第1固定磁性層13Aは、反強磁性層12との界面に生じた交換結合磁界により磁化が図示Y方向に固定され、この第1固定磁性層13Aに非磁性層13Cを介して磁気的に結合している第2固定磁性層Bは、第1固定磁性層13Aの磁化方向と反平行状態をなす方向に磁化が固定されている。このように人工的なフェリ磁性状態にある磁化は、外部磁界や高い環境温度によっても変動することがなく熱的により安定し、固定磁性層13の磁化方向は変動する虞がない。固定磁性層13は、Co、NiFe合金、CoNi合金、CoFe合金、CoFeNi合金等の強磁性材料からなる単層構造あるいは多層構造の磁性膜で形成してもよい。非磁性導電層14は、例えばCu等の良導電材料で形成され、固定磁性層13とフリー磁性層15を磁気的に分離する役割を果たしている。フリー磁性層15は、NiFe合金やCoNiFe合金からなる第1軟磁性層15Aと第2軟磁性層15BがRu、Rh、Os、Cr等からなる非磁性層15Cを介して対向した積層フェリ構造で形成されている。この積層フェリ構造のフリー磁性層15によれば、外部磁界によって磁化が回転し易くなり、センサ検出精度をより向上させることができる。フリー磁性層15は、NiFe等からなる単層構造の軟磁性膜であってもよい。あるいは、FeNi合金またはCoFeNi合金からなる軟磁性層と、この軟磁性層と非磁性導電層14の間に介在して軟磁性層のNi原子が非磁性導電層14に相互拡散することを防止する、CoやCoFe合金からなる拡散防止層との二層構造で形成してもよい。ただし、拡散防止層は、軟磁性層の磁気特性を阻害しないように薄く形成する。キャップ層16は、GMR素子10の最上層であり、Ta等により形成されている。
上記構成のGMR角度センサ1は、GMR素子10及びリード導体30を封止する保護層40に特徴を有している。以下では、図4〜図10を参照し、保護層40について説明する。
図4は、第1実施形態による保護層40の構成を示す拡大断面図である。保護層40は、非磁性の絶縁多層膜であり、GMR素子10のキャップ層16及びリード導体30を覆うAl23膜41と、このAl23膜41の上に積層したSiO2膜42とにより構成されている。Al23膜41は、GMR素子10とSiO2膜42とを物理的に離し、GMR素子10の表面酸化を防止する酸化防止層として機能する。SiO2膜42は、GMR素子10及びリード導体30の絶縁性を確保する役割を果たす。
図5〜図8は、一定温度の使用環境下にGMR角度センサをおき、時間経過に対するGMR角度センサの抵抗値変化率及び磁気抵抗変化量ΔMRの変化率を測定した耐熱試験結果を示すグラフである。使用環境温度は摂氏200度であり、外部磁界をゼロとしてGMR角度センサに一定電流を与えたときの電圧変化から抵抗変化率(%)を算出してある。また、GMR角度センサに一定電流を与え、外部磁界をゼロとしたときの電圧変化と所定強さの外部磁界を加えたときの電圧変化から磁気抵抗変化量ΔMR変化率(%)を算出してある。GMR角度センサには、この耐熱試験において抵抗変化率が±0.2%未満、ΔMR変化率が±5%未満であることが望ましい。
この耐熱試験では、GMR角度センサのGMR素子、リード導体およびAu電極パッドは同一構成であって保護層のみ構成が異なる、サンプルS1〜S6を用いた。各サンプルS1〜S6における保護層の具体的構成を表1に示す。各サンプルS1、S3〜S6において、GMR素子の最上層は50Åで形成されたTa膜からなるキャップ層である。サンプルS2(表1では*を付した)は、GMR素子と最上層Ta膜50Åとの間にTa−O膜を有している。このTa―O膜は磁気抵抗変化に寄与するアップスピン電子を鏡面反射させ、アップスピン電子の平均自由行程とダウンスピン電子の平均自由行程の差が増大することによりGMR素子10の磁気抵抗変化率(感度)を上げる、いわゆるスペキュラー層として機能する。
(表1)
No. 保護層
S1 SiO2 (4000Å)
S2 *SiO2 (4000Å)
S3 Al23(1000Å)+SiO2(4000Å)
S4 Al23(2000Å)+SiO2(2000Å)
S5 Al23(1000Å)+SiO2(1500Å)
S6 Al23(1500Å)+SiO2(1500Å)
図5は、時間経過に対するGMR角度センサの抵抗値変化率の推移を示すグラフである。図5を見ると、保護層がSiO2膜からなるサンプルS1は、時間経過とともに抵抗値の変化率が増大しており、試験開始後24時間で0.1%を超えている。これは、SiO2膜が熱せられて該SiO2膜中の酸素原子がGMR素子との界面で拡散を起こしたことによって、あるいは、外部から入り込んだ酸素原子がSiO2膜を透過してGMR素子10まで達したことによって、GMR素子の最上面であるTa膜を酸化させたためだと推測される。SiO2膜は、製造条件によっては該SiO2膜中の酸素原子が拡散しやすい状態に形成されることがあり、高温環境下ではGMR素子との界面で相互拡散を起こしやすいことが経験的にわかっている。
サンプルS1と同様に保護層はSiO2膜からなるが、GMR素子と最上面Ta膜との間にスペキュラー膜を有するサンプルS2では、時間経過とともに素子抵抗が大幅に減少していき、試験開始後24時間で抵抗値の変化率は−0.5%を超えてしまう。そして試験開始後192時間経過すると、試験開始後92時間のときよりも素子抵抗が増大し、抵抗値の変化率が試験開始後24時間のときとほぼ同等まで回復している。これは、アニール効果により素子抵抗が一旦は減少するが、時間経過と共に酸化が進み、スペキュラー膜の下のフリー磁性層まで酸化され、素子抵抗が増加したためだと推測される。
保護層がAl23膜とSiO2膜の積層構造をなすサンプルS3〜S6では、時間経過とともに素子抵抗が若干減少しているものの、その抵抗値の変化率はすべて−0.1%未満におさまっている。これは、GMR素子とSiO2膜との間にAl23膜が存在することにより、SiO2膜とAl23膜の界面で該SiO2膜中の酸素原子が熱拡散を起こしてもGMR素子まで達せず、あるいは、外部から入り込んだ酸素原子がSiO2膜は透過してもAl23膜を透過できずに、GMR素子の酸化が抑制されたためだと推測される。Al23膜は、酸素原子の透過性がほとんどなく、製造条件によらずAl原子と酸素原子の結合状態がSiO2膜よりも安定していて形成しやすく、さらにGMR素子との界面における酸素原子の拡散が少ないことが経験的にわかっている。
この耐熱試験結果によれば、Al23膜とSiO2膜の積層構造で形成された保護層を有するGMR角度センサは、高温環境下でもGMR素子の素子抵抗を安定に維持できることが明らかである。
さらに図5を一部拡大した図6を用いて、サンプルS4〜S6を比較検討してみると、Al23膜がSiO2膜よりも薄く、その膜厚をSiO2膜の膜厚の(1/3)倍にしたサンプルS3では、抵抗値の変化率が試験開始後48時間までは単調減少し、試験開始後48時間に約−0.06%となった以降は時間が経過しても変化せず、約−0.06%でほぼ安定していることがわかる。また、Al23膜がSiO2膜よりも薄く、その膜厚をSiO2膜の膜厚の(1/2)倍にしたサンプルS5では、抵抗値の変化率は時間経過とともに単調減少しているが、試験開始後144時間まではサンプルS1〜S6の中で最も小さく、試験開始後192時間経過しても−0.07%以内におさまっている。一方、SiO2膜とAl23膜の膜厚を同一としたサンプルS4、S6では、時間経過とともに抵抗値の変化率が単調減少していて、試験開始後192時間では−0.08%程度となっている。
図7及び図8は、時間経過に対するGMR角度センサのΔMR変化率の推移を示すグラフである。図7及び図8を見ると、ΔMR変化率は時間経過とともに減少しているが、全サンプルS1〜S6において−1.5%以内におさまっており、問題ない。
以上の結果に基づき、図4に示すGMR角度センサ1の保護層40は、Al23膜41をSiO2膜42よりも薄く形成し、さらにSiO2膜42の膜厚は3000〜4000Å程度、Al23膜41の膜厚は1000Å程度とすることが望ましい。
次に、図2〜図4に示される、第1実施形態の保護層40を備えたGMR角度センサ1の製造方法について説明する。
先ず、基板上に巨大磁気抵抗効果を発揮する多層膜を全面成膜し、この多層膜を図2に示すような蛇行形状にパターニングして、GMR素子10を得る。多層膜は、基板側から順に反強磁性層12、固定磁性層13、非磁性導電層14、フリー磁性層15及びキャップ層16を形成してなる。
次に、GMR素子1の長手方向の両端に、例えばCuのような良導電材料からリード導体30をそれぞれ形成する。
続いて、GMR素子10及びリード導体30を含む基板表面上に全面的にAl23膜41とSiO2膜42とを順に積層形成し、これにより保護層40を得る。このとき、Al23膜41は1000Å程度の膜厚で薄く形成し、SiO2膜42は、GMR素子10及びリード導体30の絶縁性を確実に確保できるように3000〜4000Å程度の膜厚で形成する。
続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて保護層40に開口部を形成し、この開口部からリード導体30の素子接続側とは反対側の端部を露出させる。具体的には、SiO2膜42の上に、リード導体30の素子接続側とは反対側の端部の上方に位置する領域以外を覆うレジストを形成し、このレジストに覆われていないSiO2膜42及びAl23膜41を例えばエッチングにより除去することで、リード導体30の端部表面を露出させる。SiO2膜42はレジストとの密着性に優れているため、上記開放部を位置精度良く形成することができる。また上述したように、硬質なAl23膜41は1000Å程度の薄い膜厚で形成され、比較的軟らかいSiO2膜42が3000〜4000Å程度の厚い膜で形成されているので、Al23膜のみを保護層として用いる場合よりも上記開口部の形成が容易である。
続いて、露出しているリード導体30の端部の上にAu膜を部分メッキ法により形成し、Au電極パッド31を得る。これにより、図2〜図4に示すGMR角度センサ1が完成する。
以上のように第1実施形態では、GMR素子10及びリード導体30を覆うAl23膜41と、このAl23膜41の上に積層したSiO2膜42との積層構造により保護層40が形成されているので、GMR素子10とSiO2膜42の間に介在するAl23膜41がGMR素子10の酸化防止層として機能し、摂氏200度程度の高温環境下であってもGMR素子10の素子抵抗値を安定に、つまり使用環境温度による素子抵抗値の変化率を規定範囲内に抑えることができる。これにより、GMR角度センサ1の出力特性の使用環境温度による変動は低減し、耐熱性が向上する。
図9は第2実施形態による保護層240の構成を示す断面図である。第2実施形態による保護層240は、非磁性の絶縁多層膜であり、GMR素子10のキャップ層16及びリード導体30を覆うSiO2膜42と、このSiO2膜42の上に積層したシリコン膜43と、このシリコン膜43の上に積層した絶縁性カーボン膜44とにより構成されている。別言すれば、第1実施形態のAl23膜41に替えて、SiO2膜42の上に、シリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45を形成したものである。
シリコン膜43は、例えばスパッタ法により形成され、SiO2膜上にカーボン膜を密着させるために備えられる密着層である。絶縁性カーボン膜44は、いわゆるダイヤモンドライクカーボン膜(DLC)である。このシリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45は、酸素原子の透過性がほとんどなく、高温環境下であっても外部から酸素原子を進入させないことから、GMR素子10の表面酸化を防止する酸化防止層として機能する。この積層膜45はSiO2膜40よりも薄く形成され、シリコン膜43の膜厚は20Å程度、絶縁性カーボン膜44の膜厚は30Å程度で形成する。
図10は、一定温度の使用環境下にGMR角度センサをおき、時間経過に対するGMR角度センサの抵抗値変化率を測定した耐熱試験結果を示すグラフである。使用環境温度は摂氏200度であり、外部磁界をゼロとしてGMR角度センサに一定電流を与えたときの電圧変化から抵抗変化率(%)を算出してある。上述したようにGMR角度センサは、この耐熱試験において抵抗変化率が±0.2%未満であることが望ましい。
この耐熱試験では、保護層及び該保護層に接するGMR素子の最上層(キャップ層)の構成が異なる、サンプルS7〜S12を用いた。各サンプルS7〜S12における保護層及びキャップ層の具体的構成を表2に示す。
(表2)
No. キャップ層/保護層
S7 Ta(50Å)/SiO2(4000Å)
S8 Ta(50Å)/SiO2(4000Å)+Si(20Å)+C(30Å)
S9 Ta(100Å)/SiO2(4000Å)
S10 Ta(100Å)/SiO2(4000Å)+Si(20Å)+C(30Å)
S11 Ta(50Å)+Ru(50Å)/SiO2(4000Å)
S12 Ta(50Å)+Ru(50Å)/
SiO2(4000Å)+Si(20Å)+C(30Å)
図10を見ると、保護層がSiO2膜からなるサンプルS7、S9、S11では、時間経過とともに抵抗値の変化率が増大し、試験開始後24時間で0.2%を超えている。この抵抗値の変化率の変動は、キャップ層(キャップ層を構成するTa膜)の膜厚が大きいほど大きくなっており、キャップ層中のTa膜の膜厚が同じであれば、キャップ層の構成(Ta単層膜(S7)かTa膜とRu膜の積層膜(S11)か)にかかわらずほぼ同じになっている。一方、保護層がSiO2膜とシリコン膜と絶縁性カーボン膜の積層構造をなすサンプルS8、S10、S12では、時間経過とともに素子抵抗が若干増えてはいるものの、その抵抗値の変化率はすべて0.1%未満におさまっており、GMR素子の素子抵抗は安定していることがわかる。
以上の結果から明らかなように、本第2実施形態によれば、シリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45がGMR素子10の表面酸化を防止する酸化防止層として機能し、摂氏200度程度の高温環境下におけるGMR素子10の素子抵抗変化が低減する。特に、GMR素子のキャップ層がスペキュラー層として機能する場合であっても、高温環境下におけるGMR素子10の素子抵抗変化は低減する。これにより、GMR角度センサ1の耐熱性を向上させることができる。
図11は第3実施形態による保護層340の構成を示す断面図である。この第3実施形態による保護層340は、GMR素子10のキャップ層16及びリード導体30を覆うAl23膜41と、このAl23膜41の上に積層したSiO2膜42と、このSiO2膜42の上に積層したシリコン膜43と、このシリコン膜43の上に積層した絶縁性カーボン膜44とにより構成されている。別言すれば、第1実施形態のAl23膜41とSiO2膜42の上にさらに、第2実施形態のシリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45を形成したものである。
この第3実施形態によれば、Al23膜41とシリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45の両方によって酸素原子のGMR素子10への進入が防止されるので、摂氏200度程度の高温環境におけるGMR素子10の素子抵抗変化を第1実施形態及び第2実施形態よりもさらに低減し、GMR角度センサ1の耐熱性が更に向上する。
以上の各実施形態では、保護層40(240、340)の一部を構成する酸化防止層として、Al23膜41またはシリコン膜43と絶縁性カーボン膜44による積層膜45を用いたが、このAl23膜41及び積層膜45だけに限らず、酸素透過性がほとんどない非磁性絶縁膜であれば用いることができる。ただし、Si−N等の窒化物系の非磁性絶縁膜は、上記酸化防止層の要件を満たしているが、製造が困難である。なお、酸化防止層の要件に非磁性であることが含まれるのは、GMR角度センサ1では外部磁界が大きいほど高出力が得られることから一般にGMRヘッドの外部磁界よりも強大な外部磁界が使用されており、保護層が磁性であると外部磁界によって磁化され、センサとして機能しなくなってしまうからである。上記理由から、従来のGMR角度センサではSiO2膜のみで保護層を形成するしかなく、高温環境下でのダメージが大きかった。
以上、説明したように本発明はGMR角度センサ1の保護層に特徴を有するものであり、CIP型のGMR素子10自体の構造は問わない。GMR素子10は、本実施形態のようにシングルスピンバルブ構造であってもデュアルスピンバルブ構造であってもよく、また、トップスピンバルブでもボトムスピンバルブでもよい。スペキュラー層を備えるGMR素子には、図5〜図8及び図10の耐熱試験結果からも分かるように、本発明の第2実施形態または第3実施形態の態様で適用することが好ましい。
本発明の車載用GMR角度センサによる角度検出を説明する模式図である。 図1のGMR角度センサの概略構成を示す平面図である。 図1のGMR角度センサの概略構成を示す断面図である。 本発明の第1実施形態による保護層の構成を示す断面図である。 一定温度環境下で、時間経過に対するGMR角度センサの抵抗値変化率を測定した耐熱試験結果を示すグラフである。 図5の一部を拡大して示すグラフである。 一定温度環境下で、時間経過に対するGMR角度センサのΔMR変化率を測定した耐熱試験結果を示すグラフである。 図7の一部を拡大して示すグラフである。 本発明の第2実施形態による保護層の構成を示す断面図である。 一定温度環境下で、第2実施形態によるGMR角度センサの抵抗値変化率を測定した耐熱試験結果を示すグラフである。 本発明の第3実施形態による保護層の構成を示す断面図である。
符号の説明
1 GMR角度センサ
2 回転軸
3 回転磁石
10 GMR素子
11 基板
12 反強磁性層
13 固定磁性層
14 非磁性導電層
15 フリー磁性層
16 キャップ層
30 リード導体
31 Au電極パッド
40、240、340 保護層
41 Al23
42 SiO2
43 シリコン膜
44 絶縁性カーボン膜
45 積層膜

Claims (5)

  1. 外部磁界に応じて素子抵抗が変化する巨大磁気抵抗効果素子と、該巨大磁気抵抗効果素子の両端に接続したリード導体と、前記巨大磁気抵抗効果素子及び前記リード導体を封止する保護層とを備えた車載用GMR角度センサにおいて、
    前記保護層は、非磁性の絶縁多層膜であって、前記巨大磁気抵抗効果素子及び前記リード導体の絶縁性を確保するSiO2膜と、このSiO2膜の上及び下の少なくとも一方に積層した非磁性且つ絶縁性の酸化防止層とにより形成されていることを特徴とする車載用GMR角度センサ。
  2. 請求項1記載の車載用GMR角度センサにおいて、前記酸化防止層は、前記SiO2膜の下に積層形成され、前記巨大磁気抵抗効果素子及び前記リード導体を覆うAl23膜である車載用GMR角度センサ。
  3. 請求項1記載の車載用GMR角度センサにおいて、前記酸化防止層は、前記SiO2膜の下に積層形成した、前記巨大磁気抵抗効果素子及び前記リード導体を覆うAl23膜と、前記SiO2膜の上に順に積層形成したシリコン膜及び絶縁性カーボン膜の積層膜とである車載用GMR角度センサ。
  4. 請求項1記載の車載用GMR角度センサにおいて、前記酸化防止層は、前記SiO2膜の上に順に積層形成したシリコン膜及び絶縁性カーボン膜の積層膜である車載用GMR角度センサ。
  5. 請求項1ないし4のいずれか一項に記載の車載用GMR角度センサにおいて、前記酸化防止層は、前記SiO2膜よりも薄く形成されている車載用GMR角度センサ。
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