JP4407111B2 - 石英ガラス溶射部品及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明石英ガラスによる保護膜あるいはバリア膜を有する石英、金属又はセラミックの部品に関するものであり、特に半導体等の製造に用いられる酸化拡散処理装置、又はCVD処理装置に用いられる石英ガラス、金属、セラミックの部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造に用いられる酸化拡散処理装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)処理装置等はシリコンウエハ等をチャンバーやベルジャー内で加熱する構造を有しており、その構成部材として主に石英ガラスの部品が使用されている。これらの装置では容器内に発生する輻射熱によって容器端部のシール部材が熱劣化するため、従来、部品のフランジ部分や保熱板は熱伝導性の低い気泡のある不透明石英ガラスで作製されていた。ところが、気泡を有する不透明石英ガラスでは、気泡がシール面に露出し、パッキング材を使用してもフランジ部を完全にシールすることができないという問題があった。また、気泡を有する不透明石英ガラス部品では、使用した後に硝フッ酸等でクリーニングすると、不透明石英ガラス表面の荒れが大きくなり、短期間の内に使用不能になることが問題となっていた。
【0003】
そこで、不透明石英ガラスのフランジ部上に透明石英ガラスを溶着した石英ガラス部材が提案されている。(例えば、非特許文献1参照)しかし、不透明石英ガラス部品のフランジ部に透明ガラス板を溶着した部品では、部品が割れ易い、或いは溶着部が剥れ易いという問題があった。またその様な溶着には技術の熟練が要求されるという問題があった。
【0004】
不透明石英ガラスのフランジ部に表面が平滑なシール部を形成する方法として、加熱炉内に不透明石英ガラスの基材を置き、全体を1900℃以上に加熱し、石英ガラス原料粉末を当該基材上にふりかけながら酸水素炎等のバーナーで加熱し(通常ベルヌイ法と呼ばれる)て不透明石英ガラス基材上に透明石英ガラスを形成する方法も提案されている。(例えば特許文献1参照)この場合も同様に、不透明石英ガラス上に形成された透明石英ガラス層が割れ易いという問題を有していた。また突起部のある複雑形状の石英ガラス部品においては、突起部への被覆が精度良く出来ないという問題があった。さらにベルヌイ法では基材が1900℃以上の高温に長時間さらされるため、高純度の合成石英ガラスを通常の石英ガラス基材の上に成膜しても、石英ガラス基材から合成石英層へ不純物が拡散し、純度が下がるという問題があった。
【0005】
他の方法として、高速のプラズマCVDにより高純度石英ガラスの極めて薄い膜を被覆することが提案されている。(例えば、特許文献2参照)しかしプラズマCVDで部品上へ高純度石英ガラス膜を形成した場合、製造できる膜厚としては数十μmが限界であり、表面に凹凸のある不透明石英ガラスの表面平滑性改善によるシールとの密着性向上、及び不純物の拡散を防止という目的に対しては不十分であった。
【0006】
一方、半導体製造等に用いられるプラズマCVD処理装置、ドライエッチング装置等では金属部品に対してアルミナやイットリアの溶射膜を用いる方法が提案されている(例えば特許文献3、4参照)。しかしアルミナやイットリアの溶射膜を用いた部品では、アルミニウム、イットリウム自身が半導体の製造における不純物として問題であるため、部品の被覆材料としては不適当であった。
【0007】
【特許文献1】
特開平7−300327号公報
【特許文献2】
特開平6−112133号公報
【特許文献3】
特開平8−39895号公報
【特許文献4】
特開2001−226773号公報
【非特許文献1】
実公平1−43164号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来、酸化拡散処理装置、CVD処理装置等に用いる石英ガラス部品に気泡を有する不透明石英ガラスを用いた場合、他の部品との接合において十分な密着性、気密性が得られないという問題があった。またその様な問題を解決すべく、不透明石英ガラス部品の上に透明石英ガラスを溶着した部品では、割れ、剥れの問題があった。一方、CVD法によって石英ガラス層を被覆した不透明石英ガラス部品では、CVD法で達成し得る膜厚が薄過ぎるため、不透明石英ガラスの表面平滑性の向上、及び不純物の拡散防止には不十分であった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述のような現状に鑑み、鋭意検討を行った結果、基材の最表面にプラズマ溶射によって平滑な石英ガラス膜を形成した石英ガラス溶射部品では、上記の問題が解決されることを見出し本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の石英ガラス溶射部品は、基材上に表面粗さRaが0.001μm以上5μm未満の平滑な石英ガラス溶射膜が形成されているものである。
【0012】
表面粗さRaが5μm以上では、他の部品(シール材等)と接合した場合、密着性、気密性が不十分である。一方、本発明の表面粗さRaの下限は、プラズマ溶射法を用いるため、0.001μm程度が下限である。石英ガラス溶射膜の表面粗さRaは、一般的な表面粗さ計で測定することが出来る。
【0013】
本発明の部品の上記の溶射膜は、気泡を有しないものであることが好ましい。ここで言う気泡とは、石英ガラス溶射膜中に残存する泡状の空洞を言い、球状のもの、断層状のもの等、あらゆる形状の空隙を指す。溶射膜中に気泡があると、それが表面に露出して平滑性を悪くする。気泡は全くないことが理想であるが、気泡を全く含まない溶射膜を形成することは難しいため、少なくと径が100μm以上の大きな気泡がないことが好ましい。また、溶射膜中の10〜100μmの小さな気泡は、1万個/cm3以内であることが好ましい。
【0014】
気泡の存在は、目視によるチェック、或いは顕微鏡観察によって確認できる。また溶射膜の表面に露出した気泡は表面粗さ計で検知することが出来る。
【0015】
本発明の石英ガラス溶射膜の純度は高純度であることが好ましく、99.9%以上、特に99.99%以上であることが好ましい。特に半導体等の製造に部品として用いる場合、純度を99.9999%以上とした超高純度の石英ガラス溶射膜を被覆した部品では、合成石英からなる高純度部品に匹敵する優れた部品となる。ここでいう純度における不純物は、主に金属不純物(アルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属等)であり、発泡のために使用する窒素は勘案しないものである。
【0016】
本発明の石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射膜の膜厚は、厚くすることによって硝フッ酸洗浄等のクリーニングを施して再利用回数を増やすことができるため、0.1mm以上の膜厚であることが好ましい。一方膜厚を余り厚くすると部品の寸法精度が低下するため5mm以下、特に2mm以下が好ましい。従来のCVD薄膜の膜厚は厚くても20μm程度(0.02mm)までであり、本発明の石英ガラス溶射膜とは異なるものである。
【0017】
本発明で用いる石英ガラス溶射部品の基材は特に石英ガラスであることが好ましいが、金属またはセラミックを用いることが出来る。石英ガラスが好ましい理由は高純度であることである。一方、本発明では、表面に高純度な石英ガラスを被覆しているので、基材の純度を問題にしなくて良いというメリットがあり、金属やセラミックの基材を用いることもできる。
【0018】
基材に石英ガラスを用いる場合、透明石英ガラス、不透明石英ガラスの何れも用いることが出来る。不透明石英ガラス基材に透明石英ガラス溶射膜を被覆した部品では、被覆しない場合に比べて部品の硝フッ酸耐性が向上する。不透明石英ガラスとしては、石英ガラス内に気泡を有することによって不透明になっているもの、異種元素を添加して着色したものいずれも使用することが出来る。また石英ガラス基材としては、天然水晶を精製し酸水素溶融炉やプラズマ溶融炉で溶融して形成された石英ガラス材料や、高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して得られた合成石英ガラス材料などの高純度の石英ガラス材を用いることが好ましい。
【0019】
基材に金属を用いる場合、金属種は特に限定されないが、ステンレス、インコネル、チタン等の耐熱性が高い材料やインバー合金等熱膨張率が低い材料を用いることが好ましい。アルミニウム等の低融点の金属の場合は、耐熱性の高い金属やセラミックの溶射膜を介して石英ガラス溶射膜を形成することが好ましい。
【0020】
基材にセラミックを用いる場合、熱衝撃に強いセラミックが好ましい。例えば、コージエライト、炭化珪素、窒化珪素、ムライト等が例示出来る。
【0021】
次に本発明の石英ガラス溶射部品は、基材の上に平滑な石英ガラス溶射層だけを溶射されたものでも良いが、基材と平滑な石英ガラス溶射膜の間に気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜を積層していることが好ましい。なぜならば、金属またはセラミック基材上に緻密で平滑な石英ガラス溶射膜だけを形成した場合、基材と石英ガラスの熱膨張率の違いによって石英ガラス溶射膜に割れが入ったり、剥れたり、曲がったりすることがあるからである。それに対して、石英ガラス溶射膜と基材の間に気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層を形成することにより、熱膨張の違いによる割れ、剥れ、曲がりを防止することができる。一方、平滑な石英ガラス溶射膜だけの溶射部品においても、例えば溶射時に成膜する基板を適当な台で固定することによってその様な問題を防止することは可能である。
【0022】
また表面が平滑な石英ガラス溶射膜と基材に間に気泡を有する不透明な石英ガラス層を形成すると、当該不透明石英ガラス層が気泡を有して断熱性に優れるため、部品の遮熱効果が向上する。当該効果は、石英ガラス溶射部品と接する部品(シール材等)の熱劣化の抑制につながる。
【0023】
気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層は基材と平滑な石英ガラス溶射膜層の間に一層でも良いが、平滑な石英ガラス溶射膜層が最表面になっていれば、平滑な石英ガラス溶射層と気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層が、複数に交互に積層していても構わない。
【0024】
不透明な石英ガラス中の気泡は、基材が透明な石英ガラスの場合、目視によって確認することが出来る。また不透明石英ガラス溶射膜の断面を電子顕微鏡等で観察することによっても確認することができる。気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜中の気泡含有率は体積率で5〜50%、特に10〜30%であることが好ましい。5%未満では、応力の吸収による割れ、剥れの防止、並びに断熱の効果が十分でなく、50%を超えると溶射膜自身の強度が低くなるため好ましくない。
【0025】
不透明石英ガラス層の厚みは特に限定されないが、応力吸収及び断熱効果を持たせるために0.1mmから3mm、特に0.3mmから1mmの範囲であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明の石英ガラス溶射部品の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の石英ガラス溶射部品は、プラズマ溶射法を用いて基材上に石英ガラス溶射膜を形成した後に、溶射原料を含まないプラズマジェットを当該形成溶射膜表面に照射することにより、石英ガラス溶射膜の表面を溶融し、平滑性を高めることによって製造することができる。
【0028】
本発明で用いるプラズマ溶射法について図1の装置図を用いて説明する。プラズマ溶射法はプラズマジェット18により基材15あるいは既に形成された溶射膜16の表面を溶融しながら成膜することが好ましい。そうすることによって密着性の高い溶射膜が得られる。また溶射原料粉末を溶射する過程で溶融し、基材表面に衝突後さらにプラズマジェットで溶融して基材に密着させると、溶融粒子どうしが融合し、最終的に表面粗さRaが5μm未満の平滑な溶射膜が形成され易い。
【0029】
本発明の方法で、最終的に表面粗さRaが5μm未満の平滑な石英ガラス溶射膜を形成するには、プラズマ溶射における溶射距離14は、図1の様な装置の場合、60mm未満、特に50mmから20mm程度まで短くすることが好ましい。
【0030】
一方、減圧プラズマ溶射法を用いれば、プラズマジェットの形状が長くなる為、基材と溶射ガンの距離が60mm以上であっても石英ガラス基材表面を溶融して本発明の平滑な石英ガラス溶射膜を最終的に得ることができる。
【0031】
また、プラズマ溶射装置の一種である複トーチ型プラズマ溶射装置(特公平6−22719、溶射技術 Vol.11,No.1,p.1〜8(1991年))を用い、層流のプラズマジェットで溶射成膜すれば、60〜140mmの範囲でも本発明の平滑な石英ガラス溶射膜を最終的に得ることが出来る。複トーチ型プラズマ溶射装置では、ガス流量が小さい条件で長さが数百mmの層流炎プラズマとなり(通常は乱流状態で50mm程度)、溶射距離24が60mm以上でも本発明の石英ガラス溶射膜を最終的に形成することが出来る。
【0032】
プラスマ溶射におけるプラズマガス12には、不活性ガスと水素の混合ガスとすることが好ましい。不活性ガスに水素を添加する場合、水素の添加量は10〜50%、特に10〜30%添加することが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンあるいは窒素等があるが、工業的には特にアルゴンあるいは窒素を用いることが好ましい。水素ガスを添加することによって、表面平滑性が高く、気泡を含まない溶射膜が得られ易い。
【0033】
プラズマジェット18は、上記ガスの気体放電で生じたプラズマによる数千〜数万℃の高温のガス気流である。この様なプラズマジェットは直流電源17から電力を投入し、投入する電力を例えば25〜35kW、或いはそれ以上とするような条件とすることが好ましい。
【0034】
本発明の特徴は、上述のプラズマ溶射法で形成した石英ガラス溶射膜の表面に溶射原料を供給しないでプラズマジェットを照射することにより、溶射膜の表面を十分に溶融して高い平滑性を達成することにある。溶射膜の成膜後のプラズマジェットの照射移動速度を速くしたり、照射パワーを小さくすれば、溶射膜表面の付着物のみを溶融除去し、表面粗さ自体はそのまま維持することもできるが、本発明の特徴は、溶射膜の表面の溶融を付着物の溶融除去だけに留めず、表面を十分に溶融することによって表面粗さRaを5μm未満にまで高めることにある。
【0035】
プラズマジェットの照射条件は、溶射距離、投入パワー、プラズマガスいずれも基本的には溶射原料を供給して溶射膜を堆積する場合と同様で良い。
【0036】
プラズマジェットの照射回数は、溶射膜表面が溶融すれば1回の照射で十分であり、特に高い表面平滑性を得るためには複数回照射を繰り返しても良い。
【0037】
溶射用の原料は特に限定しないが、粉末原料を用いる場合は水晶粉末、石英ガラス粉末あるいは高純度の合成石英ガラス粉末等を用いることが出来る。特に溶射粉末の大きさとし平均粒径20μm以上100μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒径20μm未満では原料粉の流動性が悪いために、プラズマ中に均一に原料が供給できず、得られる溶射膜の形状が不均一になり易い。一方、原料粉末の粒径が100μmを越えると溶射粉末の溶融が不十分となり易く、石英ガラス溶射膜の表面が粗いものとなり、プラスマジェット再溶射による平滑化が難しい。
【0038】
高純度の石英ガラス溶射膜を形成する場合には、用いる原料としては高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加熱分解して合成した合成石英ガラス粉末を用いることが好ましい。高純度な四塩化珪素を酸水素炎中で加熱分解して合成した合成石英ガラス粉末を原料に用いた場合には、99.9999%以上の純度の石英ガラス溶射膜を形成することができ、高純度が要求される部品の場合に好適である。
【0039】
次に平滑な石英ガラス溶射膜と基材の間に形成する気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層を有する石英ガラス溶射部品の製造法を説明する。
【0040】
石英ガラス溶射膜と基材の間に積層する不透明石英ガラス溶射膜層の気泡は、プラズマ溶射法において、プラズマジェットによる基材表面の単位面積当りに与える熱量を小さくすることによって増やすことが出来る。プラズマジェットによる基材表面の単位面積当りに与える熱量を小さくすると、溶射粒子の溶融が不十分となり、石英ガラス溶射膜の中に気泡(隙間)が生じて不透明な石英ガラス溶射膜となる。プラズマジェットによる基材表面の単位面積当りに与える熱量を小さくするには、溶射パワーを下げる、溶射距離を大きくする、溶射ガンの移動速度を大きくするなどの方法が適用できる。気泡を有する不透明石英ガラス溶射膜層の溶射条件は、例えば図1に示すような溶射装置の場合、溶射距離が40〜60mm、プラズマガスには水素ガスを添加しないアルゴンガスを用いる方法等が例示できる。アルゴンガスに水素を添加すると、プラズマジェットの温度が高くなり、気泡が出来にくくなる。
【0041】
本発明における気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜の成膜方法としては、上述の基材に対する単位時間当りの投入熱量を変化させる方法以外に、溶射原料粉末に窒化珪素微粉末を混合したものを溶射粉末として用い、溶射中に分解ガスを発生させて発泡させることでも可能である。この様な原料を用いれば、溶射条件を変えなくても溶射膜中に気泡を含有させることが出来る。
【0042】
ここで、溶射原料となる石英粉末に窒化珪素微粉末を添加する場合は、窒化珪素微粉末の平均粒径として0.5〜5μmであることが好ましく、添加量としては0.03〜3重量%であることが好ましい。窒化珪素微粉末の平均粒径が0.5μm未満であれば、石英粉末に均一に窒化珪素微粉末を混合させることが難しくなり、5μmを越えると気泡の直径が500μm以上となり溶射膜の機械強度が低下する。窒化珪素微粉末の添加量が0.03重量%未満では気泡の生成が不十分で、3重量%を越えると気泡同士が結合して大きな気泡となる上、気泡の分散が不均一となるため好ましくない。
【0043】
【実施例】
本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
厚み6mmで50mm角の天然水晶粉を原料として製造された透明石英ガラス基材の上に、図2に示すような複トーチ型プラズマ溶射装置を用いて透明石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンガスを用い流量を10SLMとして、25kWの電力を投入することで長さ約300mmの層流のプラズマジェットを生成した。溶射距離を100mmとして溶射ガンを100mm/sの速度で移動させながら4mmピッチで送り、基材の全面を加熱した。加熱を基材全面に渡って2回行うことで基材温度を900℃まで予熱した。
【0045】
次に溶射原料粉末に高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して作製した合成石英ガラス材を粉砕して粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分けたもの、天然水晶を粉砕して粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分けたものの2種類で、いずれも使用前に10%フッ酸に3時間浸漬後、超純水で洗浄して乾燥したものを用いて、石英ガラス溶射膜を形成した。
【0046】
プラズマ溶射条件は、石英粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして10g/分の速度で供給し、溶射距離を100mmとして溶射ガンを100mm/sの速度で移動させ、4mmピッチで、基材全面にわたって5回溶射した。当該溶射後に膜厚1mmの透明石英ガラス溶射膜が得られ、溶射直後の基材温度は1000℃であった。
【0047】
次に溶射直後に溶射原料粉末を供給することなく、続けて溶射膜表面の全面に、溶射原料を供給しない以外は溶射成膜時と同様の条件でプラズマジェットを1回照射した。照射によって溶射膜表面は十分に溶融し、表面が平滑な透明石英ガラス溶射部品が得られた。
【0048】
プラズマジェット照射後に石英ガラス溶射膜の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で2μmであり、平滑性の高いものであった。ちなみに同様の条件で、プラズマジェットによる照射を施さない場合における石英ガラス溶射膜の表面粗さRaは8μmであった。
【0049】
また石英ガラス溶射膜部品を5%フッ酸及び超純水で洗浄して乾燥した後、石英ガラス溶射膜側、基材側を夫々フッ酸に溶解し、ICP Massで分析した。基材側はAl8.0ppm、Na0.8ppm、K0.6ppm、Cu0.1ppmであった。合成石英ガラス材を原料として用いた場合の石英ガラス溶射膜はAl0.01ppm、Na0.01ppm、K0.01ppm、Cu0.01ppmで99.9999%を越える純度であり、基材からの不純物の汚染はなかった。一方、天然石英粉末を原料に用いた石英ガラス溶射膜では、Al9ppm、Na0.7ppm、K0.5ppm、Cu0.1ppmであった。
【0050】
実施例2
直径300mmφ厚み2mmの不透明石英ガラス円板(東ソークオーツ社製OP−3ガラス)を基材に用い、図2に示すような複トーチ型プラズマ溶射装置を用いて基材上に石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンを用い、流量を10SLMとして、25kWの電力を投入することで長さ約300mmの層流のプラズマジェットを生成した。溶射距離を80mmとして溶射ガンを130mm/sの速度で、400mmの幅にわたって振幅させながら4mmピッチで移動させ、基材の全面を加熱した。加熱を全面にわたって2回行うことで基材温度を800℃に予熱した。
【0051】
次に溶射用原料粉末は、天然石英ガラス材を粉砕し、粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分け、10%フッ酸に1時間浸漬後、純水で洗浄して乾燥したものを用いて溶射した。
【0052】
プラズマ溶射条件は、溶射粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして10g/分の速度で供給し、溶射距離を80mmとして溶射ガンを130mm/sの速度で400mmの幅にわたって振幅させながら4mmピッチで移動し、基材の全面に石英ガラス溶射膜を形成した。溶射は基材全面に渡って6回行い、膜厚1mmの石英ガラス溶射膜が得られた。
【0053】
次に溶射粉末を供給することなく溶射ガンを80mm/sの速度で400mmの幅に渡って振幅させながら、4mmピッチで移動させ、溶射膜表面の全面をプラズマジェットを照射することで、表面が平滑な石英ガラス溶射膜を得た。透明石英ガラス溶射直後の基材温度は950℃であった。
【0054】
さらに不透明石英ガラス円板を裏返し、反対側にも同様の方法で膜厚1mmの透明石英ガラス溶射膜の形成、並びにプラズマジェットによる表面平滑化の処理を施した。
【0055】
得られた石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射面の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で3.5μmと4.0μmであった。ちなみに同様の条件で、プラズマジェットによる照射を施さない場合の石英ガラス溶射膜の表面粗さRaは12μmであった。
【0056】
当該石英ガラス溶射部品と、石英ガラス溶射膜を形成しない元の基材を夫々25%フッ酸に5時間浸漬し、表面平滑性の変化を観察した。石英ガラス溶射部品の表面は浸漬後も平滑であったが、溶射膜を形成していない不透明石英ガラス基材では、内部気泡が曝露し、表面の粗さが大きくなり、平滑性が著しく悪くなった。
【0057】
実施例3
直径300mmφ厚み1.5mmの透明石英ガラス円板を基材に用い、図2に示すような複トーチ型プラズマ溶射装置を用いて石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンを用い流量を10SLMとして、25kWの電力を投入することで長さ約300mmの層流のプラズマジェットを生成させ、溶射距離を80mmとして溶射ガンを130mm/sの速度で400mmの幅で振幅しながら4mmピッチで移動させ、基材の全面を加熱した。加熱を基材全面に渡って2回行うことで基材温度を800℃まで予熱した。
【0058】
次に溶射粉末に天然石英ガラス材を粉砕し、粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分け、10%フッ酸に1時間浸漬後、純水で洗浄して乾燥したものを用いて、プラスマ溶射した。
【0059】
プラズマ溶射の条件は、溶射用原料粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして10g/分の速度で供給して、溶射距離を80mmとし、溶射ガンを200mm/sの速度で400mmの幅で振幅しながら4mmピッチで移動し、基材の全面に溶射した。溶射を全面に渡って10回行うことで空孔率が20%で膜厚2mmの不透明石英ガラス溶射膜を得た。
【0060】
次に、溶射ガンを100mm/sの速度で400mmの幅に渡って振幅させる以外は同様の条件で、溶射を全面に渡って10回行うことで膜厚1.5mmの石英ガラス溶射膜を積層した。
【0061】
最後に、溶射粉末を供給することなく溶射ガンを80mm/sの速度で400mmの幅に渡って振幅させながら4mmピッチで移動させて溶射膜上にプラズマジェットを照射し、表面が平滑な石英ガラス溶射膜を得た。透明石英ガラス溶射直後の基材温度は950℃であった。
【0062】
得られた石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射面の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で2.5μmであった。ちなみに同様の条件で、プラズマジェットによる照射を施さない場合の石英ガラス溶射膜の表面粗さRaは9μmであった。
【0063】
当該石英ガラス部品を25%フッ酸に5時間浸漬したところ、部品の表面の平滑性は維持されていた。当該石英ガラス部品と、石英ガラス溶射前の基材担体夫々の裏面をバーナーで加熱し、断熱性を評価した。反対側に接触させた熱電対の温度が300℃に達するのに、もとの基材だけでは1分であったが、石英ガラス溶射後の部品では2分となり、断熱性が向上した。
【0064】
実施例4
厚み2mm100mm角のステンレス板を基材に用い、図1に示すようなプラズマ溶射装置を用いて透明石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンガスと水素ガスを用い、各々流量を35SLM、15SLMとし、35kWの電力を投入することで長さ約60mmのプラズマジェットを生成した。溶射距離を40mmとして溶射ガンを200mm/sの速度で移動し、4mmピッチで送ることで基材の全面を加熱した。加熱を全面に渡って2回行うことで基材温度を700℃に予熱した。
【0065】
次に高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して作製した合成石英材を粉砕して粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分けた石英溶射粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして20g/分の速度で供給して、溶射距離を50mmとし、溶射ガンを300mm/sの速度で振幅させ、4mmピッチで基材全面に1回溶射した。この時点でできた溶射膜は膜厚0.3mmで空孔率が15%の不透明石英ガラス膜であった。溶射直後の基材温度は650℃であった。
【0066】
続いて溶射距離を40mmとし、溶射ガンを200mm/sの速度で移動させ、4mmピッチで基材全面に2回溶射し、膜厚0.4mmの表石英ガラス溶射膜を形成した。溶射直後の基材温度は750℃であった。
【0067】
次に溶射直後に溶射粉末を供給することなく、後は上記と同様の条件でさらに1回溶射膜表面の全面をプラズマジェットで照射し、溶射膜表面の平滑性を向上させた。
【0068】
さらに基材を裏返し、反対側にも同様の方法で膜厚0.3mmの不透明石英ガラス溶射膜及び膜厚0.4mmの透明石英ガラス溶射膜を積層した。
【0069】
得られた石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射面の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で1.5μmであった。また出来上がった石英ガラス溶射部品は、応力による歪み(そり、ひわり)は観察されなかった。
【0070】
実施例5
厚み5mm100mm角のムライト板を基材に用い、図2に示すような複トーチ型プラズマ溶射装置を用いて透明石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンガスと水素ガスを用い、各々流量を35SLM、15SLM、として、35kWの電力を投入することで長さ約300mmのプラズマジェットを生成し、溶射距離を50mmとして溶射ガンを200mm/sの速度で移動しながら4mmピッチで送ることで基材の全面を加熱した。加熱を全面に渡って2回行うことで基材温度を700℃に予熱した。
【0071】
次に、高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して作製した合成石英材を粉砕して粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分けた石英溶射粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして20g/分の速度で供給し、溶射距離を55mmと長くし、溶射ガンを300mm/sの速度で振幅させ、4mmピッチで基材全面に1回溶射した。この時点では溶射膜の膜厚は0.3mmで、空孔率が15%の不透明石英ガラス溶射膜であった。溶射直後の基材温度は650℃であった。
【0072】
次に、溶射距離を40mmと短くし、溶射ガンを200mm/sの速度で移動させ、4mmピッチでムライト基材全面に2回溶射して膜厚0.4mmの石英ガラス溶射膜を形成した。溶射直後の基材温度は750℃であった。
【0073】
最後に溶射直後に溶射原料粉末を供給することなく、後は上述と同様の条件でさらに1回溶射膜表面の全面をプラズマジェットで照射し、表面が平滑で気泡がない石英ガラス溶射膜を形成した。
【0074】
得られた石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射面の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で1.5μmであった。
実施例6
直径300mmφ厚み1.5mmの透明石英ガラス円板を基材に用い、図2に示すような複トーチ型プラズマ溶射装置を用いて石英ガラス溶射膜を形成した。プラズマガスとしてアルゴンを用い流量を10SLMとして、25kWの電力を投入することで長さ約300mmの層流のプラズマジェットを生成させ、溶射距離を80mmとして溶射ガンを130mm/sの速度で400mmの幅で振幅しながら4mmピッチで移動させ、基材の全面を加熱した。加熱を基材全面に渡って2回行うことで基材温度を800℃に予熱した。
【0075】
次に、溶射用原料粉末をアルゴンガスをキャリアガスとして10g/分の速度で供給して、溶射距離を80mmとして溶射ガンを130mm/sの速度で400mmの幅で振幅しながら4mmピッチで移動し、基材の全面に溶射した。溶射粉末は、天然石英ガラス材を粉砕し、粒径が30μm以上65μm以下となるように篩い分け、10%フッ酸に1時間浸漬後、純水で洗浄して乾燥した後、平均粒径が1μmの窒化珪素粉末を0.3重量%添加して石英ガラス容器中で乾式混合したものを用いた。溶射を全面に渡って10回行うことで空孔率が15%で平均的な泡の大きさが80μmで膜厚2mmの不透明石英ガラス溶射膜を得た。
【0076】
次に、窒化珪素粉末を添加しない溶射粉末を用いた以外は同様の条件で、溶射を全面に渡って10回行うことで膜厚1.5mmの透明石英ガラス溶射膜を積層した。最後に、溶射粉末を供給することなく溶射ガンを80mm/sの速度で400mmの幅に渡って振幅させながら4mmピッチで移動させた。
【0077】
最後に石英ガラス溶射膜表面をプラズマジェットで照射し、表面が平滑な石英ガラス溶射膜を得た。透明石英ガラス溶射直後の基材温度は950℃であった。
【0078】
得られた石英ガラス溶射部品の石英ガラス溶射面の表面粗さは、触針式の表面粗さ計で3μmであった。
【0079】
出来上がった石英ガラス溶射部品を25%フッ酸に5時間浸漬したところ、部品の表面の平滑性は維持されていた。当該石英ガラス溶射部品と用いた基材単体の夫々裏面をバーナーで加熱し、断熱性を評価した。反対側に接触させた熱電対の温度が300℃に達するのに、もとの基材だけでは1分であったが、石英ガラス溶射後の部品では2分となり、断熱性が向上した。
【0080】
比較例1
天然水晶粉を原料として用いた厚み6mmで50mm角の透明石英ガラス基材の上にベルヌイ法によって高純度石英ガラスを被覆した。当該基材を耐火煉瓦製炉中に設置し、酸水素炎バーナーと基材の距離を100mmとしてバーナーに酸素80SLM、水素160SLMを流しながら透明石英ガラス基材を10mm/sの速度で回転しながら加熱し、温度を1900℃とした。
【0081】
次に、石英ガラス粉末を10g/分の速度で供給し、酸水素炎バーナーと基材の距離を100mmとして透明石英ガラス基材を10mm/sの速度で回転しながら透明石英ガラス基材上に透明石英ガラス層を形成した。石英ガラス粉末は、高純度の四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して作製した合成石英材を粉砕して粒径が100μm以上250μm以下となるように篩い分けたもので、使用前に10%フッ酸に3時間浸漬後、超純水で洗浄して乾燥したものを用いた。
【0082】
膜厚1mmの透明石英ガラス層を形成後、5%フッ酸で洗浄し、超純水で洗浄して乾燥した。透明石英ガラス層及び基材の一部から10μmの厚みをフッ酸に溶かし、ICP Massで分析した。基材ではAl8ppm、Na0.8ppm、K0.6ppm、Cu0.1ppmが主な不純物であった。一方、基材の上に積層した石英ガラス層では、Al1ppm、Na0.2ppm、K0.1ppm、Cu0.05ppmであり、高純度の四塩化珪素の加水分解原料を用いたにもかかわらず、実施例1に比べて純度が一桁が低いものとなった。
【0083】
【発明の効果】
本発明の石英ガラス溶射部品は、以下の効果を有する。
(1)基材上に平滑な石英ガラス溶射膜を形成した部品では、他の部品との接合における密着性、気密性に優れる。
(2)基材上に形成された石英ガラス溶射膜は、基材からの不純物の拡散を防止する。
(3)基材と最表面に形成された平滑な石英ガラス溶射膜の間に、気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層を積層した部品では、基材と石英ガラス溶射膜の応力の違いによる割れ、剥離を防止できる。
(4)石英ガラス、金属あるいはセラミックの基材とその表面に形成された平滑な石英ガラス溶射膜の間に、気泡を有する不透明な石英ガラス溶射膜層を積層した部品は断熱性に優れる。
(5)高純度な石英ガラス溶射膜を被覆した部品では、基材が石英ガラスだけでなく、金属やセラミックの基材でも高純度が要求されるプロセスに用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の石英ガラス溶射膜を形成するためのプラズマ溶射装置の一例である。
【図2】本発明の石英ガラス溶射膜を形成するためのプラズマ溶射装置の別の一例である。
【符号の説明】
10、20: カソード
11、21: アノード
12、22: プラズマガス
13、23: 粉末供給口
14、24: 溶射距離
15、25: 基材
16、26: 溶射膜
17、28: 直流電源
18、29: プラズマジェット
27:カソード保護用アルゴンガス
Claims (5)
- 基材上に表面粗さRaが0.001μm以上5μm未満である石英ガラス溶射膜が形成され、該溶射膜の純度が99.9999%以上であり、該溶射膜と基材の間に気泡を有する石英ガラス溶射膜層が積層されていることを特徴とする石英ガラス溶射部品。
- 前記基材が、石英ガラス、金属又はセラミックであることを特徴とする請求項1に記載の石英ガラス溶射部品。
- プラズマ溶射法を用いて基材上に石英ガラス溶射膜を形成する方法において、基材上に気泡を有する石英ガラス溶射膜を形成し、当該溶射膜の上にさらに石英ガラス溶射膜を形成した後に、プラズマジェットで当該石英ガラス溶射膜表面を溶融し、表面粗さRaを0.001μm以上5μm未満に平滑にすることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の石英ガラス溶射部品の製造方法。
- 気泡を有する石英ガラス溶射膜を、プラズマジェットにより基材表面の単位面積当りに与える熱量を小さくして形成することを特徴とする請求項3に記載の石英ガラス溶射部品の製造方法。
- 気泡を有する石英ガラス溶射膜を、窒化珪素微粉末を混合した溶射原料粉末を用いたプラズマ溶射法によることを特徴とする請求項3に記載の石英ガラス溶射部品の製造方法。
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