以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔濃度パターン法の説明〕
まず、濃度パターン法について概説する。図1は、入力画像と濃度パターン法によるドットパターンの関係を示す概念図である。ドット画像に変換される前の入力画像(多階調デジタル画像)IMGは、多数の画素12から構成され、各画素12に多段階の階調を表現する多値の画素値(階調値)が与えられている。なお、図1では、図示の便宜上、3(行)×5(列)の画素範囲をドットパターンに変換した例を示す。
濃度パターン法では、1つの画素位置の階調値を所定サイズの画素ブロックのドットパターン(濃度パターン)DPに変換する処理が行われる。例えば、1つの画素位置は、m行×n行のサブ画素20から成る画素ブロックのドットパターンに変換される(ただし、m,nは2以上の自然数)。
入力画像IMGの全ての画素12について、それぞれ各画素12の階調値に応じたドットパターンDPに変換することで、出力画像としてのドット画像が得られる。
図2に濃度パターン法の処理フローを示す。図示のように、ステップS10の画像入力工程によって処理対象となる画像データが入力される。当該入力画像について多値誤差拡散処理が行われ、所定の階調数に変換される(ステップS12)。なお、ステップS10の画像入力工程の段階から予め所定の階調数の画像が入力される場合には、ステップS12の処理は不要である。また、入力画像が所定の画像解像度でない場合は、多値誤差拡散処理(ステップS12)の前に解像度変換処理を行えばよい。
この所定の階調数を有する多値画像を入力画像Gと呼ぶことにする。入力画像Gの各画素に対して、画素値(階調値)に応じたドットパターン(濃度パターン)に変換される(ステップS14)。1つの画素に対して、どのようなサブ画素範囲のドットパターンを割り当てるかは、出力側の解像度(インクジェットプリンタの場合はプリンタ解像度)に依存して決定される。例えば、ステップS14で要求される所定の画像解像度を600dpi、プリンタ解像度を2400dpiとするときは、4(行)×4(列)のサブ画素範囲のドットパターンとする。
入力画像Gの全画素位置についてそれぞれドットパターンを当てはめることによって、ドット画像(出力画像)Oが得られる(ステップS16)。
図3は、濃度パターン法によって隣接するドットパターン間のつなぎ目の問題を示す模式図である。図3では、上下に隣接する画素位置に対応するドットパターンの例が示されている。同図中、黒塗りのサブ画素20-Aは、ドット有りの位置を示し、白抜きのサブ画素20-Bはドット無しの位置を示している。
同図のように、隣接画素間で同じドットパターンが繰り返して連続する場合、隣接するドットパターン間の境界部分(図中点線で囲んだ部分)にアーティファクトが発生する。かかる現象は左右に隣接するドットパターン間でも同様に発生する。このような、隣接ドットパターン間の境界部における画質上の問題を解消するために有効な手段となる本発明の実施形態を以下に説明する。
本実施形態では、入力画像Gの各画素をドットパターンに変換する処理を行うに当たり、後述するドットパターン隣接テーブルTを用いて、図4に示すように、画素の配列順に沿って画素の列方向に左から右に、また、行方向について上から下へと、1画素ずつ順次注目画素を処理(ラスター処理)していく。注目画素を処理した結果であるドットパターンは、出力画像(ドットパターン出力画像)上で、注目位置に対応する位置に前記ドットパターンが使用されることになる。
図5は入力画像に基づくドット画像への変換処理の概念を示す模式図であり、処理の途中の様子が示されている。図4で説明した処理順序で順次注目画素の処理を行うことによって、ドットパターンへの変換処理が終了した画素位置を図5上ではグレートーンで表し、未処理の画素を白抜きで示している。図5の例では、画像の左上から順次処理が進められ、位置01まで変換処理が終了している。次の処理位置(注目画素)は位置11である。
この位置11のドットパターンを決定するにあたり、その上位位置10のドットパターンD10の情報、左位置01のドットパターンD01の情報、及び当該位置11の入力値(階調値)Iiの情報を考慮する。
すなわち、注目位置11と、その上に位置する位置10、その左に位置する位置01について、それぞれの画素の入力値(階調値)I11,I10,I01を取得し、更に、処理済みの位置である位置10と位置01については、決定済みのドットパターンD10とD01の情報を取得する。
これら情報に基づいて、ドットパターン隣接テーブルTを参照し、注目画素位置11のドットパターンを決定する。
図6はドットパターン隣接テーブルの概念図である。同図ではN階調のドットパターンの隣接関係の例が示されている。
このドットパターン隣接テーブルTは、入力画像の階調値(すなわち、入力値)I0〜IN-1毎に少なくとも1つ(好ましくは複数)のドットパターンがあり、それらドットパターン間で上下位置関係として(又は左右位置関係として)隣接したときに、図3で説明したようなアーティファクトが発生しない組合せ間で、所定の順にドットパターンを辿ることができるように、各ドットパターン間で上下位置関係又は左右位置関係の配置が可能な位置関係の概念が関連付けられている。
したがって、注目位置の入力値と、その上位置(処理済み)の入力値及びドットパターン、並びに左位置(処理済み)の入力値及びドットパターンの情報を基に、ドットパターン隣接テーブルを検索することにより、注目位置のドットパターンを決定することができる。
図6中の細線矢印はアーティファクトが発生しない上位置関係を示しており、太線矢印はアーティファクトが発生しない左位置関係を示している。矢印の先にあるドットパターンを注目画素(下位置又は右位置)のパターンとして選択し得ることを表している。
このようなドットパターン隣接テーブルTを用い、図5で説明したように、順次注目画素を処理する際、処理済みの隣接画素(上位置に隣接する画素と左位置に隣接する画素)の各画素値とそのドットパターン、及び注目画素の画素値の情報を組み合わせて、注目画素のドットパターンを決める。
注目画素の上位置に隣接する画素の画素値(階調値)とそのドットパターンが決まっており、また、注目画素の左位置に隣接する画素の画素値とそのドットパターンが決まっており、更に、当該注目画素の画素値が与えられていれば、ドットパターン隣接テーブルT内の矢印とのつながりで、当該注目画素のドットパターン候補が選ばれる。なお、図6では、図示の便宜上、位置関係を表す矢印を実際よりも少なく描いているが、実際は、もっと複雑に多数の相関矢印が引かれることになる。
図6に示したドットパターン隣接テーブルを立体的に図式化すると図7のようになる。図示のように、入力値別にそれぞれドットパターンが複数用意されており、アーティファクトの発生しない隣接位置関係をとり得るドットパターン間に、関連付けの枝線(図6で説明した上下又は左右の位置関係を規定する矢印線)が引かれている。図7では、便宜上、入力値Ii-1 ,Ii , Ii+1の3階層のみを図示するが、N階調の場合、N−1階層の隣接関係として規定される。
図6〜7で説明したドットパターン隣接テーブルTを予め作成しておき、図5における、注目位置11とその上に位置する位置10、その左に位置する位置01についてそれぞれの画素値(階調値)I11,I10,I01を取得し、更に、処理済みの位置である位置10と位置01については、決定済みのドットパターンD10とD01の情報を取得する。
そして、これら情報に基づいて、ドットパターン隣接テーブルTにおいて、階調値I11に属し、且つ上関係として階調値I10、且つドットパターンD10を有し、且つ、左関係として階調値I01、且つドットパターンD01を有するような、ドットパターンの集合DA11を抽出する。この集合DA11に属する要素が1つしかない場合は、そのドットパターンを位置11のドットパターンとして決定する。集合DA11に属する要素が複数ある場合は、これら複数の要素の中からランダムに1つを選択して位置11のドットパターンとして決定する。このように、本例ではドットパターン隣接テーブル内において、テーブル内要素のドットパターンそのものを検索のタグにつかっている。
なお、集合DA11に属する要素が存在しないという事態を避けるために、ドットパターン隣接テーブルの完全性を補償するフロー(後述の図14)をドットパターン隣接テーブル作成時に実施する。
図8は、ドット画像を作成する処理の手順を示すフローチャートである。処理が開示されると(ステップS20)、まず、初期処理の工程(ステップS22)として、ドットパターン隣接テーブルTを設定し、処理対象の元画像となる入力画像Gを設定する。また、注目位置を初期値に設定するとともに、出力画像Oを初期化する。
上記の初期処理後、ステップS24に進み、注目位置の存在の有無を判定する。未処理の画素位置が残っている場合には、注目位置が存在するため、ステップS26に進む。
ステップS26では、注目位置の上に位置する処理済み位置10に対応する出力画像O上のドットパターンD10を取得するとともに、注目画素の左に位置する処理済み位置01に対応する出力画像O上のドットパターンD01を取得する(図5参照)。
次いで、位置11の入力値(階調値)I11に対応するドットパターン隣接テーブルT内のドットパターンのうち、ドットパターンがドットパターンD10と上位置関係にあり、且つドットパターンD01と左位置関係にあるようなドットパターンの集合DAを求める(図8のステップS28)。集合DAの要素は、注目位置のドットパターン候補である。したがって、所定の選択基準に従い、集合DAの要素の一つ(D(I11,k))を選択し(ステップS30)、これを位置11に対応する出力画像Oの位置に設定する(ステップS32)。
なお、処理のスタート時において、注目画素に隣接する処理済みの画素が存在しない場合には、注目画素と同じ画素があるものとする、或いは、所定の固定値(初期値)を定めておくなど、適宜の処理テクニックを用いる。
ステップS32の後は、図4〜5で説明した処理順序に従って注目位置を次の位置へ移動させ(図8のステップS34)、ステップS24に戻る。
ステップS24〜S34の処理を繰り返しながら、全ての画素位置について処理(ドットパターンへの変換処理)が行われ、出力画像Oが完成すると、ステップS24において、次の注目位置が存在しないことなり、本処理シーケンスを終了する(ステップS36)。
本発明の実施形態に係る画像処理方法を用いてデジタルハーフトーニングを行うことにより、高速処理で高品質なドット画像を得ることができる。
〔ドットパターン隣接テーブルの作成方法の説明〕
次に、ドットパターン隣接テーブルの作成方法について説明する。図9は、ある濃度のベタ画像(入力画像)を良好な誤差拡散処理(又はブルーノイズマスク処理)によってドット画像に変換したものを濃度パターン法のメッシュ(ドットパターンの単位となる画素ブロックのサイズ)で区切った様子を示した概念図である。
良好な誤差拡散処理等によって得られるドット画像は、全体として良好な画質が再現されているため、所定サイズのメッシュで区切られた各エリアのドットパターンは、隣接するドットパターン間で良好なつながり(アーティファクトが発生しない関係)が達成されている。また、各エリアのドットパターンを個別に見ると、全て同一ではなく、パターンに適度な変動(ゆらぎ)が認められる。
したがって、このドット画像における各エリアのドットパターンとその隣接関係の情報を活用することで、画質上問題のない適切な隣接関係のドットパターンの組合せを得ることができる。すなわち、図示の細線矢印で示された上下位置の隣接関係と、太線矢印で示された左右位置の隣接関係と、各エリアのドットパターンの情報を取り込むことで、ドットパターン隣接テーブルの要素とすることができる。
上述の手法を用いて、濃度値の異なる複数種のベタ画像について、図9のようにドット画像を作成してメッシュで区画することにより、ブルーノイズ特性を有するドットパターンの情報を得ることができる。また、ベタ画像以外の画像、例えば、グラデーション画像や、自然画など、エッジや濃淡変化を含むサンプル画像(いろいろな周波数成分を含む画像)を入力画像として用い、これら多様なサンプル画像について所定の良好な誤差拡散処理等を行い、得られたドット画像を濃度パターン法のメッシュサイズで区切ることにより、入力値の異なる隣接画素の組合せについて、適切な隣接関係を有するドットパターンの組合せの情報を得ることができる。
図10はドットパターン隣接テーブルに情報を追加していく処理手順を示すフローチャートである。この処理フローが開始されると(ステップS40)、まず、ドットパターン隣接テーブルTに初期テーブルT0を設定し、入力画像G(上述のサンプル画像に相当)を複数種類設定する。
次いで、ステップS44に進み、処理対象となる入力画像Gの有無を判定する。未処理の入力画像Gが残っている場合には、ステップS46に進む。
ステップS46では、処理対象として1つの入力画像Gを選択し、この選択された1つの入力画像Gについて所定の倍率で拡大処理してから、誤差拡散処理(又はブルーノイズマスク処理)を行い、ドットパターンD(ドット画像)を作成する。
このドットパターンDを所定の画素サイズで区画することにより、入力画像Gの画素数と同数のエリア(画素ブロック)に分け、各区画エリアのドットパターンDijと入力画像Gの各画素位置(i,j)の対応付けが行われる。すなわち、ドットパターンDは、入力画像Gの各画素位置(i,j)に対応する位置のドットパターンDijの集合に相当する。
次に、ステップS48に進み、入力画像G上での処理対象画素(注目位置)の存在の有無を判定する。未処理の画素位置が残っている場合には、注目位置が存在するため、ステップS50に進む。
ステップS50では、入力画像上の注目位置を位置11とし、この位置11から見て相対的に上位置に隣接する位置10と、相対的に左位置に隣接する位置01について(図5参照)、位置11の入力値I11とこれに対応するドットパターンD11、位置10の入力値I10とこれに対応するドットパターンD10、位置01の入力値I01とこれに対応するドットパターンD01取得する。
次に、ステップS52に進み、ドットパターン隣接テーブルT上に、入力値I11に対応するドットパターンD11が存在しなければD11を登録する。また、入力値I10に対応するドットパターンD10が存在しなければD10を登録し、入力値I01に対応するドットパターンD01が存在しなければD01を登録する。更に、ドットパターンD11とD10の上位置関係が存在しなければ、上位置関係を登録し、ドットパターンD11とD01の左位置関係が存在しなければ、左位置関係を登録する。
ステップS52の登録処理が終わったら、注目位置を次の位置へ移動し(ステップS54)、ステップS48に戻る。
ステップS48〜S54の処理を繰り返し、入力画像上の全ての画素位置に対応するドットパターンの登録処理を完了すると、ステップS54において、次の注目位置が存在しないことになり、ステップS56へ進む。
ステップS56では、処理対象の入力画像を次の画像へ変更する処理を行い、ステップS44に戻る。
ステップS44〜S56の処理を繰り返し、設定された全種類の入力画像Gについて上述の処理を完了すると、ステップS44において、次の入力画像が存在しないことになり、本処理シーケンスを終了する(ステップS58)。
多種のサンプル画像(ベタ画像の他、いろいろな周波数成分を含む画像)を入力画像として設定し、図10で説明した方法でドットパターンと隣接関係の情報を取り込むことにより、図9で説明したブルーノイズ特性を有するベタ画像のドットパターンを含むことができ、また、良好に処理された非ベタ画像のドットパターンを含むことができる。
したがって、かかる手法で生成されたドットパターン隣接テーブルを利用した本実施形態の濃度パターン法によれば、誤差拡散処理やブルーノイズマスク処理並みの非常に高画質なドットパターンを生成することができる。
図10で説明した処理フローは、新しい隣接関係の情報を次々に追加してドットパターン隣接テーブルの情報量を増大させていくものである。多数のサンプル画像を用いてドットパターンの登録を行うことにより、ドットパターン隣接テーブルは拡充される。しかし、テーブルのデータ量も増大していくことになる。
そこで、実用上要求される高画質のドット画像生成を実現しつつ、ドットパターン隣接テーブルのデータ量もできる限り抑制する(より好ましくは、必要十分なデータ量とする)ことが望ましい。
このような観点から、本実施形態では、図11に示す処理フローを用いて、ドットパターン隣接テーブル内の類似データを統合してテーブルをスリム化する(冗長的なデータを削減する)。
図11は、ドットパターン隣接テーブル内のドットパターンの類似性(代替可能性)を判断して、実質的に冗長なデータを削減する処理フローである。
この処理フローが開始されると(ステップS60)、まず、ドットパターン隣接テーブルTを設定し、階調値Iを初期値I0に設定する(ステップS62)。
次いで、ステップS64に進み、未処理の階調値の有無を判定する。未処理の階調値が残っている場合には、ステップS66に進む。
ステップS66では、階調値Iに含まれるドットパターンを所定の順番に並べる処理を行い、ドットパターンDを初期値D0(並び順番の先頭のドットパターン)に設定する。
その後、ステップS68に進み、未処理のドットパターンの有無を判定する。未処理のドットパターンが残っている場合は、ステップS70に進む。
ステップS70では、現在設定されているドットパターンDよりも順番が後のドットパターンDxについて、ドットパターンDxと上位置関係及び左位置関係にある全てのドットパターンについて、DxをDに置き換えて、所定の総合評価関数(詳細は後述)に基づく計算を行い、その評価値(「総合評価値」という)をメモリ等の記憶手段に記憶する。そして、記憶手段に記憶された総合評価値のうち最大値SEmaxを求める。
次いで、この最大値SEmaxが所定値(予め定められた判定基準値)よりも大きいか否かを判定する(ステップS72)。SEmaxが所定値以下であれば、DxをDで置き換えることによる画質低下の影響がないものと判断し、ステップS74へ進む。
すなわち、ステップS74では、ドットパターンDxとDを同一として(実質的に同一のものと扱うことができる関係にある冗長的なデータとして)処理する。つまり、ドットパターン隣接テーブル上のDxの上位置関係と左位置関係をDに移し(ただし、既にDに存在する上位置関係と左位置関係の重複を除く)、テーブル上からDxを削除する(ステップS74)。
その後、ドットパターンDを次の(別の)ドットパターンに変更し(ステップS76)、ステップS68に戻る。なお、ステップS72の判定において、SEmaxが所定値よりも大きい場合は、DxをDで置き換えることが適切ではない(置き換えによる画質低下の影響が認められる)と判断して、そのままDxを残し(ステップS74の処理を省略し)、ステップS76に進む。
ステップS68〜S76の処理を繰り返し、階調値Iに含まれる全てのドットパターンについて処理を完了すると、ステップS68において、未処理のドットパターンが存在しないことになり、ステップS78へ進む。
ステップS78では、階調値Iを次の階調値に変更する処理を行い、ステップS64に戻る。
ステップS64〜S78の処理を繰り返し、全ての階調値について上述の処理を完了すると、ステップS64において、未処理の階調値が存在しないことになり、本処理シーケンスを終了する(ステップS79)。
ここで、総合評価関数の例について説明する。図12は、隣接するドットパターンの評価方法の例を示す説明図である。ここでは、上下に隣接するドットパターンの評価方法について説明するが、左右方向に隣接するドットパターンについても同様の手法で評価することができる。
図12において、上下に隣接する2つのドットパターンのうち、下に位置するドットパターンを「被評価ドットパターン」とする。この被評価ドットパターンの上位置関係にあるドットパターンを「隣接ドットパターン」と呼ぶことにする。
これら2つのドットパターンについて、評価領域1〜3を次のように定義する。「評価領域1」は隣接ドットパターンの全領域とする。「評価領域2」は被評価ドットパターンの全領域とする。「評価領域3」は隣接ドットパターンと被評価ドットパターンの両方にまたがる境界領域であって、隣接ドットパターンの一部(図12において下側半分)と被評価ドットパターンの一部(図12において上側半分)とを含む領域とする。
そして、各評価領域1〜3についてドットパターンの特性値を計算する。特性値の計算には、Robert,Ulichneyが提唱したドット明度分布の極座標パワースペクトラムの分散指標(Anisotropy)を含む特性値計算方法が用いられる。
デジタルハーフトーニングの結果として得られるドットパターン(ドット配置)の評価法としては、Robert,Ulichneyが提唱した方法が一般的に知られている(『Digital Halftoning』; The MIT Press出版)。
すなわち、ドット配置によって得られる画像の2次元パワースペクトラムを極座標に変換して、図13のように、極座標の半径に対応する空間周波数fr について全角度のスペクトラムの平均と分散に相当する指標を用いる。
極座標パワースペクトラムの平均指標を「R.A.P.S 」と呼び、次式で表す。
また、分散指標を「 Anisotropy 」と呼び、次式で表す。
R.A.P.S は、ドット配置の視認性に関する指標であり、Anisotropyは、ドット配置の異方性に関する指標である。
Robert Ulichney によると、Anisotropyが−10デシベル〔dB〕以下であれば、ドットの異方性は目立たないとされている。
なお、これらの指標を用いてドット配置を評価したときに、R.A.P.S が低周波域で小さく、中周波でピークを持ち、高周波で一定になるような特性を備え、且つAnisotropyが−10デシベル〔dB〕以下であるようなドット配置が「ブルーノイズ特性」であり、閾値マトリクスによって決定されたドット配置がブルーノイズ特性を有するときに、当該閾値マトリクスをブルーノイズマスクという。
本実施形態では、上述したAnisotropyを含む特性値計算方法に基づいて、各評価領域1〜3(図12参照)の特性値が計算される。
評価領域1の特性値(すなわち、隣接ドットパターンの特性値)をED1、被評価ドットパターンにドットパターンDを適用したときの評価領域2の特性値をED2、被評価ドットパターンにドットパターンDxを適用したときの評価領域2の特性値をEDx2、被評価ドットパターンにドットパターンDを適用したときの評価領域3の特性値をED3、被評価ドットパターンにドットパターンDxを適用したときの評価領域3の特性値をEDx3とするとき、特性値1〜3を次のように定義する。
(特性値1)=EDx3−ED3 …(式1)
(特性値2)=ABS(ED1−EDx3)−ABS(ED1−ED3) …(式2)
(特性値3)=ABS(ED2−EDx3)−ABS(ED2−ED3) …(式3)
なお、式中のABS(**)は、(**)の絶対値を表す。
上記(式1)で定義される特性値1は、ドットパターンD(又はDx)から隣接ドットパターンへ変化するときの境界領域ドットパターンの差異を表す。また、(式2)で定義される特性値2と、(式3)で定義される特性値3は、隣接するドットパターンD(又はDx)と隣接ドットパターン間の差異を表す。
特性値1〜3の値が小さいほど、ドットパターンDとDxの差異が小さいことを意味しており、置き換えによる画質への影響も小さい(代替可能性が高い)。
図11のステップS70でいう総合評価関数は、特性値1,特性値2,特性値3のうち少なくとも1つを含むものとする。好ましくは、特性値1〜3を全て含むものとする。例えば、特性値1〜3の線形結合を総合評価関数として用いる。
次に、ドットパターン隣接テーブルの完全性を補償するフローについて説明する。図5で説明したように、注目位置のドットパターンを決定するにあたり、ドットパターン隣接テーブル内に条件を満たす要素(ドットパターン候補)が存在しないという事態を回避するために、図14に示す処理フローをドットパターン隣接テーブル作成時に実施する。
図14の処理が開始されると(ステップS80)、まず、ドットパターン隣接テーブルTにおいて、上位置関係(図5の位置10参照)と、左位置関係(位置01)の組合せとして取り得る全ての組合せCAを列挙する(ステップS82)。そして、この集合CAに含まれる要素を順次選択して、以後の処理で調べる。
ステップS84では、未選択のCAの要素が存在しているか否かの判定を行う。未選択の要素が残っている場合はステップS86に進み、選択したCAの要素CAiについて、階調値Iの値別に順次、以後の処理で調べる。
ステップS88では、未処理の階調値の有無を判定し、未処理の階調値が残っている場合は、ステップS90に進む。
ステップS90では、処理対象の階調値Iに属するドットパターンであって、CAiの組合せ時に選択可能なドットパターンがドットパターン隣接テーブル内にあるか否かを調べる。その結果、選択可能なドットパターンが存在しているか否かを判定する(ステップS92)。
ステップS92の判定において、選択可能なドットパターンが存在しないと判定された場合は、当該階調値Iに属するドットパターンの中で、組合せCAiに関して、所定の総合評価関数に基づく計算を行い、その評価値の最小値となるドットパターンを決定する。こうして決定したドットパターンを、CAiの組合せのときに選択可能なように、上位置関係と左位置関係の情報を付加してドットパターン隣接テーブルTの要素に追加する(ステップS94)。
このステップS94で用いられる総合評価関数の例を以下に示す。
図12で説明した評価領域3において、CAiの組合せのドットパターンの一方を上位置関係(又は左位置関係)ドットパターンとし、他方を被評価ドットパターンとして適用した場合の特性値1’〜3’を次のように定義する。
(特性値1’)=ED3 …(式4)
(特性値2’)=ABS(ED1−ED3) …(式5)
(特性値3’)=ABS(ED2−ED3) …(式6)
上記(式4)〜(式6)中の「ED1」,「ED2」,「ED3」は、図12で説明した評価領域1の特性値、評価領域2の特性値、評価領域3の特性値をそれぞれ表している。なお、これら各評価領域1〜3の特性値ED1,ED2,ED3 は、図11のステップS70で説明した例と同様に、ドット配置の異方性に関する指標となるAnisotropyを含む特性値計算方法に基づいて計算される。
図14のステップS94でいう所定の総合評価関数は、上記(式4)〜(式6)で表される特性値1’,特性値2’,特性値3’のうち少なくとも1つを含むものとする。好ましくは特性値1’〜3’の全てを含むものとする。例えば、特性値1’〜3’の線形結合を総合評価関数として用いる。
ステップS94の処理の後、階調値Iを次の階調値に変更する処理を行い(ステップS96)、ステップS88に戻る。なお、ステップS92の判定において、選択可能なドットパターンが存在している場合は、新たな要素の追加は不要であるため、ステップS94の処理を省略して、ステップS96に進む。
ステップS88〜S96の処理を繰り返し、全ての階調値について上述の処理を完了すると、ステップS88において、未処理の階調値が存在しないことになり、ステップS98へ進む。
ステップS98では、集合CAの要素を次の要素に変更する処理を行い、ステップS84に戻る。
ステップS84〜S98の処理を繰り返し、集合CA内の全ての要素について上述の処理を完了すると、ステップS84において、未選択のCAの要素が存在しないことになり、本処理シーケンスを終了する(ステップS99)。
かかる処理フローを実施することにより、ドットパターン隣接テーブルTの完全性が補償される。
ドットパターン隣接テーブルを作成する際には、図10で説明したドットパターン隣接テーブル追加フローと、図11で説明したドットパターン隣接テーブル削減フローと、図14で説明したドットパターン隣接テーブルの完全性補償フローと、を組み合わせて実施する。各フローの実施順番は、図15(a)の例に示すように、「追加フロー」(ステップS112)→「削減フロー」(ステップS114)→「完全性補償フロー」(ステップS116)の順に行ってもよいし、図15(b)の例に示すように、「追加フロー」(ステップS122)→「完全性補償フロー」(ステップS124)→「削減フロー」(ステップS126)の順に行ってもよい。
上述したドットパターン隣接テーブルの作成方法、並びにドットパターン隣接テーブルを利用してドット画像に変換する画像処理方法は、コンピュータを用いて実現することができる。すなわち、図8,図10〜11,図14,図15(a),図15(b)で説明したアルゴリズムをコンピュータに実行させるプログラムを作成し、このプログラムによってコンピュータを動作させることにより、当該コンピュータをドットパターン隣接テーブルの作成装置、或いは、画像処理装置として機能させることができる。
図16はコンピュータのシステム構成例を示すブロック図である。コンピュータ40は、本体42と、ディスプレイ(表示手段)44及びキーボードやマウスなど入力装置(各種の指示を入力するための入力手段)46から構成される。本体42内には中央処理装置(CPU)50、RAM52、ROM54、入力装置46からの信号入力を制御する入力制御部56、ディスプレイ44に対して表示用の信号を出力する表示制御部58、ハードディスク装置60、通信インターフェース62、及びメディアインターフェース64などを有し、これら各回路はバス66を介して相互に接続されている。
CPU50は、全体の制御装置及び演算装置(演算手段)として機能する。RAM52は、データの一時記憶領域やCPU50によるプログラム実行時の作業用領域として利用される。ROM54は、CPU50を動作させるブートプログラムや各種設定値・ネットワーク接続情報などを記憶する書き換え可能な不揮発性の記憶手段である。ハードディスク装置60には、オペレーティングシステム(OS)や各種のアプリケーションソフト(プログラム)やデータ等が格納される。
通信インターフェース62は、USBやLAN、Bluetooth など所定の通信方式に従って外部機器や通信ネットワークに接続するための手段である。メディアインターフェース64は、メモリカードや磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスクに代表される外部記憶装置68の読み書き制御を行う手段である。
本発明の実施形態に係るドットパターン隣接テーブルの作成プログラムは、ハードディスク装置60、或いは外部記憶装置68に格納されており、必要に応じて当該プログラムが読み出され、RAM52に展開されて実行される。或いは、通信インターフェース62を介して接続される不図示のネットワーク上に設置されたサーバによってプログラムが提供される態様も可能であるし、インターネット上のサーバによって本プログラムによる演算処理サービスを提供するという態様も考えられる。
オペレータは、ディスプレイ44上に表示される不図示のアプリケーションウインドウを見ながら入力装置46を操作して、計算に必要な各種値を入力することができるとともに、演算結果をディスプレイ44上で確認することができる。
図16では、コンピュータ40に画像処理装置としての機能やドットパターン隣接テーブルの作成装置としての機能を実現させる例を述べたが、本発明による画像処理機能やドットパターン隣接テーブルの作成機能を備えた専用の装置を構成する態様も可能である。
次に、上述した方法によって作成されたドットパターン隣接テーブルを用いて多値画像をドット画像に変換する画像処理装置の例について説明する。
〔画像処理装置の構成〕
図17は本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。図示のように、本実施形態に係る画像処理装置70は、画像入力部72と、ドットパターン変換部74と、ドット画像出力部76とを備えるとともに、ドットパターン隣接テーブル80のデータを記憶しておく記憶部(ドットパターン隣接テーブル記憶部)82と、注目位置に隣接する処理済み位置の隣接ドットパターンを一時的に記憶する記憶部(隣接ドットパターン隣接一時記憶部)84と、注目位置に隣接する処理済み位置の画素値(階調値)を一時的に記憶する記憶部(隣接画素値一時記憶部)86と、各記憶部(82,84,86)のデータを参照して入力画像における注目位置のドットパターンを決定するドットパターン演算部88と、を備えている。
画像入力部72は、ハーフトーニング処理(量子化処理)する前の原画像のデータ(多値のデジタル画像データ)を受入するインターフェース部である。具体的には、通信インターフェースであってもよいし、リムーバブルメディア等のメディアインターフェースであってもよく、或いは、メモリ等からデータを取り込むメモリコントローラなどがこれに該当する。
画像入力部72から入力された多値画像は、ドットパターン変換部74によって、2値のドット画像に変換される。このとき、ドットパターン隣接テーブル80を利用した変換処理が行われる。すなわち、ドットパターン変換部74とドットパターン演算部88とが協働して、多値画像の各画素を順次、その階調値に応じた適切なドットパターンに変換する。具体的な処理手順は、図8で説明したとおりである。
図17のドットパターン隣接テーブル記憶部82には、EEPROMなどの不揮発性のメモリ、或いはハードディスク装置などの記憶装置が好適に用いられる。隣接ドットパターン一時記憶部84及び隣接画素値一時記憶部86には、揮発性メモリ(RAMなど)が好適に用いられる。隣接ドットパターン一時記憶部84及び隣接画素値一時記憶部86についてそれぞれ別々のメモリ(或いは記憶装置)を用いても良いし、1つのメモリ(或いは記憶装置)において記憶領域を分けることによって各記憶部(84,86)を構成してもよい。
隣接ドットパターン一時記憶部84には、図8のステップS26で説明した処理済み位置10に対応するドットパターンD10や、処理済み位置01に対応するドットパターンD01が記憶され、これら各位置10,位置01の画素値の情報は、図17の隣接画素値一時記憶部86に記憶される。
ドットパターン演算部88は、ドットパターン変換部74を介して取得される入力画像における注目位置の画素値の情報と、隣接ドットパターン一時記憶部84内の隣接ドットパターンの情報、及び隣接画素値一時記憶部86内の隣接画素値の情報から、所定のアルゴリズムでドットパターン隣接テーブル80を検索して、注目位置に適したドットパターンを決定する。
ドットパターン変換部74は、ドットパターン演算部88で決定されたドットパターンを出力画像の対応位置に組み込む処理を順次実行する。全ての画素についてドットパターンへの変換が終了すると、ドット画像が完成する。
ドット画像出力部76は、出力インターフェースに相当する。また、画像形成装置に適用した場合には、実際にドット画像の記録を行う記録部(画像形成手段)がこのドット画像出力部76に相当し得る。
なお、ドットパターン変換部74、ドットパターン演算部88等における処理機能は、ソフトウエアによって実現することができる。
本実施形態に係る画像処理装置によれば、高速処理が可能であるとともに、高画質なドット画像を得ることができる。
〔本発明による画像処理機能を備えたインクジェット記録装置の説明〕
次に、上述した画像処理機能を搭載したインクジェット記録装置の例を説明する。
図18は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態を示すインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示すように、このインクジェット記録装置110は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェット記録ヘッド(以下、ヘッドという。)112K,112C,112M,112Yを有する印字部112と、各ヘッド112K,112C,112M,112Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録媒体たる記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、前記印字部112のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送するベルト搬送部122と、印字部112による印字結果を読み取る印字検出部124と、記録済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とを備えている。
インク貯蔵/装填部114は、各ヘッド112K,112C,112M,112Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有し、各タンクは所要の管路を介してヘッド112K,112C,112M,112Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部114は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
図18では、給紙部118の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録媒体(メディア)を利用可能な構成にした場合、メディアの種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部118から送り出される記録紙116はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部120においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム130で記録紙116に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図18のように、裁断用のカッター(第1のカッター)128が設けられており、該カッター128によってロール紙は所望のサイズにカットされる。なお、カット紙を使用する場合には、カッター128は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙116は、ベルト搬送部122へと送られる。ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部112のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図18に示したとおり、ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部112のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによって記録紙116がベルト133上に吸着保持される。なお、吸引吸着方式に代えて、静電吸着方式を採用してもよい。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図25中符号188)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図18上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図18の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。ベルト清掃部136の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組合せなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、ベルト搬送部122に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部112の上流側には、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部112の各ヘッド112K,112C,112M,112Yは、当該インクジェット記録装置110が対象とする記録紙116の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図19参照)。
ヘッド112K,112C,112M,112Yは、記録紙116の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド112K,112C,112M,112Yが記録紙116の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
ベルト搬送部122により記録紙116を搬送しつつ各ヘッド112K,112C,112M,112Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙116上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド112K,112C,112M,112Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録紙116と印字部112を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙116の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
図18に示した印字検出部124は、印字部112の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ又はエリアセンサ)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からドット相互の依存関係やドット変位量を測定する手段として機能するとともに、ノズルの目詰まりや着弾位置ずれなどの吐出不良をチェックする手段として機能する。各色のヘッド112K,112C,112M,112Yにより印字されたテストパターン又は実技画像が印字検出部124により読み取られ、各ヘッドの依存関係の測定や吐出判定が行われる。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部124の後段には後乾燥部142が設けられている。後乾燥部142は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部142の後段には、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置110では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)148によってテスト印字の部分を切り離す。また、図18には示さないが、本画像の排出部126Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド112K,112C,112M,112Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号150によってヘッドを示すものとする。
図20はヘッド150の構造例を示す平面透視図であり、図21はその一部の拡大図である。また、図22はヘッド150の他の構造例を示す平面透視図、図23は1つの液滴吐出素子(1つのノズル151に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図20中の23−23線に沿う断面図)である。
記録紙116上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド150におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド150は、図20及び図21に示したように、インク吐出口であるノズル151と、各ノズル151に対応する圧力室152等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)153を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
記録紙116の送り方向と略直交する方向に記録紙116の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図20の構成に代えて、図22に示すように、複数のノズル151が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール150’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙116の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル151に対応して設けられている圧力室152は、その平面形状が概略正方形となっており(図20,図21参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル151への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)154が設けられている。なお、圧力室152の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図23に示したように、各圧力室152は供給口154を介して共通流路155と連通されている。共通流路155はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路155を介して各圧力室152に分配供給される。
圧力室152の一部の面(図23において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)156には個別電極157を備えたアクチュエータ158が接合されている。個別電極157と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ158が変形して圧力室152の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル151からインクが吐出される。なお、アクチュエータ158には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ158の変位が元に戻る際に、共通流路155から供給口154を通って新しいインクが圧力室152に充填される。
上述した構造を有するインク室ユニット153を図24に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット153を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル151が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図24に示すようなマトリクス状に配置されたノズル151を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル151-11 、151-12 、151-13 、151-14 、151-15 、151-16 を1つのブロックとし(他にはノズル151-21 、…、151-26 を1つのブロック、ノズル151-31 、…、151-36 を1つのブロック、…として)、記録紙116の搬送速度に応じてノズル151-11 、151-12 、…、151-16 を順次駆動することで記録紙116の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。すなわち、本実施形態では、記録紙116の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ158の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔制御系の説明〕
図25は、インクジェット記録装置110のシステム構成を示すブロック図である。同図に示したように、インクジェット記録装置110は、通信インターフェース170、システムコントローラ172、画像メモリ174、ROM175、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184等を備えている。
通信インターフェース(画像入力手段に相当)170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース170にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置110に取り込まれ、一旦画像メモリ174に記憶される。画像メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ174は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ172は、中央処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置110の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、画像メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、画像メモリ174及びROM175の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ188やヒータ189を制御する制御信号を生成する。
ROM175には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。また、ハーフトーニング処理に用いられるドットパターン隣接テーブルもこのROM175に格納されている。ROM175は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示に従って搬送系のモータ188を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示に従って後乾燥部142等のヒータ189を駆動するドライバである。
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御に従い、画像メモリ174内の画像データ(多値の入力画像のデータ) から印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理手段として機能するとともに、生成したインク吐出データをヘッドドライバ184に供給してヘッド150の吐出駆動を制御する駆動制御手段(記録制御手段)として機能する。
すなわち、プリント制御部180は、入力画像のデータからインク色別の濃度データを生成する信号処理(UCR処理や色変換を含む濃度変換処理、並びに必要な場合には解像度変換処理)を行う手段を含むとともに、得られた色別の濃度データから2値のインク(色材)ドットデータに変換するハーフトーニング処理手段を含む。プリント制御部180で生成されたインク吐出データはヘッドドライバ184に与えられ、ヘッド150のインク吐出動作が制御される。
プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ182に一時的に格納される。なお、図25において画像バッファメモリ182はプリント制御部180に付随する態様で示されているが、画像メモリ174と兼用することも可能である。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース170を介して外部から入力され、画像メモリ174に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データが画像メモリ174に記憶される。
インクジェット記録装置110では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリ174に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ172を介してプリント制御部180に送られ、該プリント制御部180において上述のハーフトーン化処理によってインク色ごとのドットデータに変換される。
すなわち、プリント制御部180は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。本例の場合、図8で説明した処理フローによって色別にドット画像に変換される。こうして、プリント制御部180で生成されたドット画像のデータは、画像バッファメモリ182に蓄えられる。
ヘッド150のノズルからインクを吐出するためのCMYK打滴データに変換され、印字されるインク吐出データが確定する。
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられるインク吐出データ及び駆動波形の信号に基づき、印字内容に応じてヘッド150の各ノズル151に対応するアクチュエータ158を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ184にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
こうして、ヘッドドライバ184から出力された駆動信号がヘッド150に加えられることによって、該当するノズル151からインクが吐出される。記録紙116の搬送速度に同期してヘッド150からのインク吐出を制御することにより、記録紙116上に画像が形成される。
上記のように、プリント制御部180における所要の信号処理を経て生成されたインク吐出データ及び駆動信号波形に基づき、ヘッドドライバ184を介して各ノズルからのインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、記録紙116上に所望の画像を記録することができる。
印字検出部124は、図18で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録紙116に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をプリント制御部180に提供する。なお、この印字検出部124に代えて、又はこれと組み合わせて他の吐出検出手段(吐出異常検出手段に相当)を設けてもよい。
他の吐出検出手段としては、例えば、ヘッド150の各圧力室152内又はその近傍に圧力センサを設け、インク吐出時或いは圧力測定用のアクチュエータ駆動時などに、この圧力センサから得られる検出信号から吐出異常を検出する態様(内部検出方法)、或いは、レーザ発光素子などの光源と受光素子から成る光学検出系を用い、ノズルから吐出された液滴にレーザ光等の光を照射し、その透過光量(受光量)によって飛翔液滴を検出する態様(外部検出方法)などがあり得る。
図25に示したプリント制御部180は、必要に応じて印字検出部124或いは図示しない他の吐出検出手段から得られる情報に基づいてヘッド150に対する各種補正を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
本例の場合、システムコントローラ172又はプリント制御部180、若しくはシステムコントローラ172とプリント制御部180の組合せが本発明における「ドットパターン変換処理手段」及び「ドットパターン決定手段」として機能するとともに、ハーフトーニング処理の結果に基づいて打滴制御を行う「記録制御手段」として機能する。
上記構成のインクジェット記録装置110によれば、高速且つ高画質の画像形成が可能である。
上記説明では、インクジェット記録装置110内でドット画像への変換処理を行う例を述べたが、上述したプリント制御部180が担うドット画像の生成処理機能の全て又は一部をホストコンピュータ186側に搭載する態様も可能である。
また、上記の実施形態では、フルライン型のヘッドを用いたインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、シャトルスキャン方式のように、記録媒体(記録紙116その他の印字媒体)の幅寸法に満たない長さのヘッドを用いて、複数回走査して画像形成する場合にも本発明は適用可能である。
上記実施の形態では画像記録装置の一例としてインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。インクジェット方式以外では、サーマル素子を記録素子とする熱転写記録装置、LED素子を記録素子とする装置(例えば、LED電子写真プリンタ、LEDライン露光ヘッドを有する銀塩写真方式プリンタ)など、各種方式の画像形成装置についても本発明を適用することが可能である。
12…画素、20…サブ画素、40…コンピュータ、42…本体、70…画像処理装置、80…ドットパターン隣接テーブル、84…隣接ドットパターン一時記憶部、86…隣接画素値一時記憶部、110…インクジェット記録装置(画像形成装置)、112K,112C,112M,112Y…ヘッド(記録ヘッド)、21…印字部、16…記録紙(記録媒体)、22…ベルト搬送部(搬送手段)、150…ヘッド、151…ノズル、152…圧力室、153…インク室ユニット、158…アクチュエータ、172…システムコントローラ、180…プリント制御部